説明

鉄道車両用ブレーキディスク付車輪

【課題】両ブレーキディスク2a、2aと鉄道車両用車輪3とを結合固定する為のボルト10の軸力の低下を抑える。更に、このボルト10の軸力を確保できなくても、前記両ブレーキディスク2a、2aと前記鉄道車両用車輪3との支持強度を確保可能にする。
【解決手段】これら両ブレーキディスク2a、2aを軸方向両側から挟む位置に一対の環状座板16、16を、補強筒17、17と第二ボルト21とナット22とにより固定する。そして、前記ボルト10の両端部を、前記両環状座板16、16に形成した通孔19、19に、変位を阻止した状態で挿通する。この構成により、前記ボルト10の姿勢を安定させると共に、前記両ブレーキディスク2a、2aの固定に寄与する摩擦面積を広くして、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば新幹線の様な高速鉄道車両の制動装置を構成する鉄道車両用ブレーキディスク付車輪の改良に関する。具体的には、制動及び制動解除に伴うブレーキディスクの熱膨張・熱収縮の繰り返しに拘らず、このブレーキディスクと車輪とを結合固定しているボルトに無理な力が加わる事を防止できる構造の実現を意図している。更には、必要に応じて、前記ブレーキディスクを、降伏応力の小さな材料により造った場合でも、このブレーキディスクと車輪との結合強度を向上させられる構造の実現も可能とするものである。
【背景技術】
【0002】
新幹線等の高速鉄道車両のディスクブレーキを構成する、鉄道車両用ブレーキディスク付車輪として従来から、例えば特許文献1〜9に記載された構造が知られている。これら特許文献1〜9に記載される等により従来から知られている鉄道車両用ブレーキディスク付車輪は、鉄道車両用車輪の両側に一対のブレーキディスクを、ボルト等の締結部材により結合して成る。図32〜33は、前記各特許文献に記載された鉄道車両用ブレーキディスク付車輪のうち、特許文献7に記載された従来構造従来構造の第1例を示している。
【0003】
鉄道車両用ブレーキディスク付車輪1は、一対のブレーキディスク2、2により、鉄道車両用車輪3をサンドイッチ状に挟持している。そして、これら両ブレーキディスク2、2の円周方向複数箇所に形成した第一取付孔4、4と、前記鉄道車両用車輪3の一部でこれら各第一取付孔4、4に整合する複数箇所に形成した第二取付孔5、5とに、軸方向全長に亙りスリットを有する、欠円筒状のスプリングピン6、6を挿通している。又、前記両ブレーキディスク2、2の両側面のうちの外側面(前記鉄道車両用車輪3と反対側の片面。本明細書及び特許請求の範囲全体で同じ。)の外径側半部は、制動時に摩擦材を押し付ける為の摩擦面7、7としている。
【0004】
そして、前記両ブレーキディスク2、2の外側面で前記各スプリングピン6、6の軸方向両端部に整合する位置に、それぞれワッシャ8、8と皿板ばね9、9とを配置した状態で、これら各部材6、8、9の内側にボルト10、10を挿通し、これら各ボルト10、10の先端部にナット11、11を螺合し更に締め付けている。そして、これら各ボルト10、10の頭部とこれらナット11、11との間で、前記各部材2、3、6、8、9を挟持する事により、前記両ブレーキディスク2、2を前記鉄道車両用車輪3の両側面に結合固定している。尚、制動時にこの鉄道車両用車輪3と前記両ブレーキディスク2、2との間に加わるブレーキトルクのうちで、これら両ブレーキディスク2、2と前記鉄道車両用車輪3の側面との当接部の摩擦力により支承し切れない部分は、前記各スプリングピン6、6が支承する。従って、制動時に前記各ボルト10、10に剪断方向の力が加わる事はない。
【0005】
又、特許文献9には、図34〜37に示す様な鉄道車両用ブレーキディスク付車輪が開示されている。この従来構造の第2例の構造は、鉄道車両用車輪を強度及び剛性を確保し易い鉄系合金により、ブレーキディスクを軽量なアルミニウム系合金により、それぞれ造る事に伴って、制動時にブレーキディスクが鉄道車両用車輪よりも大きく熱膨張した場合でも、ボルトに作用する引っ張り方向の力(ボルト軸力)を軽減し、強度の低いアルミニウム合金製の取付座の陥没等の損傷を抑えて、このボルトの軸力低下を抑える事を意図したものである。
【0006】
この従来構造の第2例の場合、一対のブレーキディスク2a、2aとして、アルミニウム合金製の本体部12、12の外側面外径寄り部分に、アルミニウム合金基複合材料製の表層部13、13を設けたものを使用している。そして、前記両ブレーキディスク2a、2aを、それぞれボルト10a、10aとナット11a、11aとにより、鉄道車両用車輪3の両側面に、互いに独立して結合固定している。この為に、前記両ブレーキディスク2a、2aの内周縁部に、切り欠き部14、14と取付部15、15とを、円周方向に関して交互に設けている。そして、これら各取付部15、15の中央部に、それぞれ第一取付孔4、4を形成している。
【0007】
それぞれが上述の様な構成を有する、前記両ブレーキディスク2a、2aは、それぞれの表層部13、13を反対側に向けた状態で、且つ、円周方向に関する位相を前記各切り欠き14、14及び前記各取付部15、15のピッチの1/2だけずらせた状態で、前記鉄道車両用車輪3の両側面に突き合わせている。そして、前記両ブレーキディスク2a、2aをこの鉄道車両用車輪3に対して、それぞれの取付部15、15に形成した第一取付孔4、4と、この鉄道車両用車輪3に形成した第二取付孔5、5とを挿通した前記各ボルト10a、10aと前記各ナット11a、11aとにより、結合固定している。スプリングピン6a、6aに関しては、図32〜33に記載した従来構造に比べて短くしている。又、ワッシャ8、8及び皿板ばね9、9に関しては、前記各ナット11a、11aと前記鉄道車両用車輪3の側面との間に設けている。前記各ボルト10a、10aの頭部と前記各取付部15、15との間には、ワッシャ8のみを設けている。
【0008】
上述の様に構成する従来構造の第2例の鉄道車両用ブレーキディスク付車輪1aの場合、制動に伴って前記両ブレーキディスク2a、2aが熱膨張した場合でも、前記各ボルト10a、10aに作用する引っ張り方向の力を軽減できる。即ち、これら各ボルト10a、10a及び前記鉄道車両用車輪3を構成する鉄系合金に比べて線膨張係数が大きい、アルミニウム合金製の前記両ブレーキディスク2a、2aのうち、各ボルト10a、10aが挿通される部分の枚数を少なくする(1枚だけに抑える)事により、熱膨張に伴って、これら各ボルト10a、10aに加わる引っ張り応力を抑えている。この為、これら各ボルト10a、10aのへたり(伸長方向への塑性変形)を抑えて、前記鉄道車両用車輪3に対する前記両ブレーキディスク2a、2aの支持強度が低下する事を抑えられる。又、前記各皿板ばね9、9及び前記各ナット11a、11a等を前記各切り欠き14、14内に納めて前記両ブレーキディスク2a、2aの側面から突出しない様にできる。この結果、前記鉄道車両ブレーキディスク付車輪1aを車両に組み付けた状態で、前記各皿板ばね9、9及び前記各ナット11a、11a等と、キャリパ等の他の部材とが干渉しにくい構造を実現できる。
【0009】
前述の図32〜33に示した従来構造の第1例にしても、上述の図34〜37に示した従来構造の第2例にしても、前記鉄道車両用車輪3の熱膨張量と、前記各ブレーキディスク2、2aの熱膨張量との差に基づいて、前記各ボルト10、10aの軸力が低下する事を抑える面から、改良の余地がある。即ち、制動に伴って前記各ブレーキディスク2、2aが温度上昇した場合には、これら各ブレーキディスク2、2aは、厚さ方向だけでなく、径方向にも熱膨張する。そして、これら各ブレーキディスク2、2aの外側面と前記各ボルト10、10aの頭部又は前記各ナット11、11aとの間に挟持された前記各ワッシャ8、8及び前記各皿板ばね9、9が、前記各ブレーキディスク2、2aの外側面との間に作用する大きな摩擦力により、径方向に関して外側に変位する(これら各ブレーキディスク2、2aにより外径側に引っ張られる)。この結果、前記従来構造の第1〜2例は、次の様な機構により、前記各ボルト10、10aの軸力が低下する可能性がある。
【0010】
先ず、図32〜33に示した従来構造の第1例の場合には、前記各ワッシャ8、8及び前記各皿板ばね9、9が前記鉄道車両用車輪3に対し、前記両ブレーキディスク2、2の熱膨張に伴って径方向外側に変位し、冷却に伴って径方向内側に変位する事を繰り返す。この様にして行われる、前記各ワッシャ8、8及び前記各皿板ばね9、9の径方向移動は、前記各ボルト10、10毎に互いに独立して行われる。そして、この様な繰り返しに伴って、互いに重ね合わされた各皿板ばね9、9がずれる等により、これら各皿板ばね9、9の弾力が変化(低下)し、前記各ボルト10、10の軸力が低下して、前記鉄道車両用車輪3に対する前記両ブレーキディスク2、2の支持強度が低下する可能性がある。
【0011】
又、図34〜37に示した従来構造の第2例の場合には、制動に伴う温度上昇時に、前記各ボルト10a、10aの両端部のうち、頭部側(図37の左側)部分のみが、前記鉄道車両用車輪3に対し外径側に変位する。ナット11a、11aを螺着した先端側(図37の右側)部分は、そのままの位置に止まる。この結果、前記各ボルト10a、10aの中心軸と前記鉄道車両用車輪3の中心軸とが非平行になり、これら各ボルト10a、10aに曲げ方向の力が加わる。そして、この力によってこれら各ボルト10a、10aにへたり(曲げ方向の塑性変形)が発生し、これら各ボルト10a、10aの軸力が低下して、前記鉄道車両用車輪3に対する前記両ブレーキディスク2a、2aの支持強度が低下する可能性がある。更に、前記各ボルト10a、10aに曲げ方向に力が加わる事に伴って、これら各ボルト10a、10aに、中心軸が傾斜する動きが発生する。この様な動きは、前記各ナット11a、11aの回転緩みを誘発し、前記各ボルト10a、10aの軸力の低下を誘発する可能性もある。
【0012】
更に、前記従来構造1〜2の何れも、前記各ブレーキディスク2、2aをアルミニウム合金製とした場合には、上述した理由に加え、次の様な理由によっても、前記鉄道車両用車輪3に対する前記両ブレーキディスク2、2aの支持強度を確保する事が難しくなる。即ち、アルミニウム合金は、前記鉄道車両用車輪3や前記各ボルト10、10aを構成する鉄系合金に比べて、軽量である代わりに強度が弱い。具体的には、降伏応力が低く、大きな圧縮応力を受けた場合に塑性変形し易い。従って、前記鉄道車両用車輪3に前記両ブレーキディスク2、2aを支持固定する為の前記各ボルト10、10aと前記各ナット11、11aとの締め付け力をあまり大きくできない。
【0013】
この為、前記鉄道車両用車輪3に前記両ブレーキディスク2、2aを支持固定する力となる、前記各ボルト10、10aの軸力をあまり大きくできない。具体的には、鉄系合金製のブレーキディスクを鉄系合金製の鉄道車両用車輪3に支持固定する場合には、前記各ボルト10、10aの軸力を100kN以上にする事も可能であるのに対して、アルミニウム合金製のブレーキディスクを鉄系合金製の鉄道車両用車輪3に支持固定する場合には、前記各ボルト10、10aの軸力を100kNよりも相当に低く抑えざるを得ない。この為、制動時に前記鉄道車両用車輪3と前記両ブレーキディスク2、2aとの間に加わるブレーキトルクのうちで、これら両ブレーキディスク2、2aと前記鉄道車両用車輪3の側面との当接部の摩擦力により支承し切れない割合が増える。この結果、前記各スプリングピン6、6aの負担が大きくなって、これら各スプリングピン6、6aがへたる可能性を生じる。そして、これら各スプリングピン6、6aがへたった場合には、制動作業に伴って、前記各ボルト10、10aに剪断方向の力が加わる可能性を生じ、これら各ボルト10、10aの耐久性確保の面から不利になる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、一対のブレーキディスクと鉄道車両用車輪とを結合固定する為の複数本のボルトの軸力の低下を抑えて、これら両ブレーキディスクと鉄道車両用車輪との結合強度を長期間に亙って十分に確保できる構造を実現すべく発明したものである。更に、必要に応じて、アルミニウム合金製のブレーキディスクと鉄系合金製の鉄道車両用車輪との支持強度を十分に確保できる構造の実現も意図している。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の鉄道車両用ブレーキディスク付車輪は、前述した従来の鉄道車両用ブレーキディスク付車輪と同様に、鉄道車両用車輪と、一対のブレーキディスクと、複数組のボルト及びナットとを備える。
このうちの鉄道車両用車輪は、鉄系合金製である。
又、前記両ブレーキディスクは、アルミニウム合金等、線膨張係数が鉄系合金と異なる材料により造られて、前記鉄道車両用車輪の両側に配置されたもので、それぞれの外側面を制動用摩擦面としている。
そして、前記両ブレーキディスクと前記鉄道車両用車輪との互いに整合する複数箇所位置に形成した第一、第二各取付孔を挿通した前記各ボルトと前記各ナットとを螺合し更に締め付ける事により、前記両ブレーキディスクを前記鉄道車両用車輪の両側面に結合固定して成る。
【0016】
特に、本発明の鉄道車両用ブレーキディスク付車輪に於いては、それぞれが前記鉄道車両用車輪の周方向に連続する閉鎖環状であって、前記各ボルトの設置位置に対応する部分にこれら各ボルトを挿通する為の通孔を形成した、それぞれが鉄系合金製である一対の環状座板を備える。そして、これら両環状座板を、前記各ボルトの頭部又は前記ナットと前記両ブレーキディスクの側面との間に挟持している。
この様な本発明を実施する場合に、例えば請求項10に記載した発明の様に、前記各ボルトの頭部及び前記各ナットと前記両環状座板との間に皿板ばねを挟持する。
【0017】
又、上述の様な本発明の鉄道車両用ブレーキディスク付車輪を実施する場合に好ましくは、請求項2に記載した発明の様に、前記両ブレーキディスクの内周縁部に、複数の切り欠きと、それぞれに前記各ボルトを挿通する為の第一取付孔を形成した複数の取付部とを、円周方向に関して交互に設ける。又、前記各切り欠きの内側部分(円周方向に隣り合う取付部同士の間部分)で、前記両環状座板と前記鉄道車両用車輪の側面との間に補強筒を挟持する。この補強筒は、鉄系合金の様に、降伏応力が十分に大きな金属材料製とする。更に、前記両環状座板に、前記各取付部に整合する部分に加えて前記各切り欠きに整合する部分にも通孔を形成する。そして、これら各通孔と前記各補強筒とを挿通した第二ボルトと第二ナットとを螺合し、更に締め付ける。
この様な請求項2に記載した発明を実施する場合に更に好ましくは、請求項3に記載した発明の様に、前記両ブレーキディスクの内周縁部に設けた各取付部の厚さ方向中間部に形成されたスリットに、前記各補強筒の外周面から前記鉄道車両用車輪の周方向に延びた板部を挟持する。
【0018】
又、前述の様な本発明の鉄道車両用ブレーキディスク付車輪を実施する場合に、例えば請求項4に記載した発明の様に、前述の図32〜33に記載した従来構造と同様に、前記両ブレーキディスクに形成した第一取付孔と前記鉄道車両用車輪に形成した第二取付孔とを挿通した、前記各ボルトの頭部と前記各ナットとにより、この鉄道車両用車輪と前記両ブレーキディスクとを軸方向両側から挟持する。
この様な請求項4に記載した発明を実施する場合に好ましくは、請求項5に記載した発明の様に、前記両環状座板の内側面の円周方向複数箇所に、位置決めピンの軸方向端部を結合固定する。そして、これら各位置決めピンの他の部分を、前記鉄道車両用車輪に形成した位置決め孔に内嵌する。
【0019】
或は、前述の様な本発明の鉄道車両用ブレーキディスク付車輪を実施する場合に、請求項6に記載した発明の様に、前述の図34〜37に示した従来構造の第2例と同様に、前記各ボルトのうち、複数の第一ボルトにより、前記両ブレーキディスクのうちの第一ブレーキディスクと前記鉄道車両用車輪とを結合する。又、残りの複数の第二ボルトにより、第二ブレーキディスクとこの鉄道車両用車輪とを結合する。そして、これら第一、第二各ボルトを、前記鉄道車両用車輪の円周方向に関して交互に配置する。
この様な請求項6に記載した発明を実施する場合に好ましくは、請求項7に記載した発明の様に、前記両ブレーキディスクの内周縁部に、複数の切り欠きと、それぞれに前記各ボルトを挿通する為の第一取付孔を形成した複数の取付部とを、円周方向に関して交互に設ける。そして、前記両環状座板を、前記第一、第二両ブレーキディスクの取付部の軸方向両側面のうちで前記鉄道車両用車輪と反対側の面に添設する。
この様な請求項7に記載した発明を実施する場合に、例えば請求項8に記載した発明の様に、前記両環状座板を全周に亙って平坦とする。そして、これら両環状座板のうちで前記第一、第二両ブレーキディスクの切り欠きに整合する部分に、前記各ボルトと前記各ナットとを締め付ける為の工具を挿通可能な第二通孔を設ける。
或は、上述の様な請求項7に記載した発明を実施する場合に、例えば請求項9に記載した発明の様に、前記両環状座板を、前記第一、第二両ブレーキディスクに設けた複数の取付部の外側面に当接する複数の第一平板部と、前記鉄道車両用車輪の側面に当接する複数の第二平板部と、これら第一、第二各平板部同士を連結する連結板部とを備えた波形とする。そして、これら第一、第二各平板部毎に、前記各ボルトを挿通する為の通孔を形成する。
【発明の効果】
【0020】
上述の様に構成する本発明の鉄道車両用ブレーキディスク付車輪によれば、一対のブレーキディスクと鉄道車両用車輪とを結合固定する為の複数本のボルトの軸力の低下を抑えて、これら両ブレーキディスクと鉄道車両用車輪との結合強度を長期間に亙って十分に確保できる。更に、必要に応じて、アルミニウム合金製のブレーキディスクと鉄系合金製の鉄道車両用車輪との支持強度を十分に確保できる構造も実現できる。
【0021】
先ず、本発明の鉄道車両用ブレーキディスク付車輪の場合には、前記各ボルトの両端部を、それぞれが鉄系合金製である一対の環状座板により束ねている。これら両環状座板の線膨張係数は鉄道車両用車輪の線膨張係数とほぼ同じであるから、制動及び解除に伴って、前記両ブレーキディスクが熱膨張と熱収縮とを繰り返しても、前記両環状座板が前記鉄道車両用車輪に対し径方向に変位する事はない。この為、これら両環状座板にそれぞれの両端部を支持された前記各ボルトの姿勢を安定させて、これら各ボルトの中心軸と前記鉄道車両用車輪の中心軸とを平行のままに保持できる。
この為、請求項10に記載した発明の様に、皿板ばねを設けた場合にも、この皿板ばねがずれ動きにくくなり、前記各ボルトの軸力の低下を抑えて、前記両ブレーキディスクと鉄道車両用車輪との結合強度を長期間に亙って十分に確保できる。
【0022】
又、請求項2に記載した発明の構造によれば、第二ボルトと第二ナットとにより、前記両環状座板と各補強筒と前記鉄道車両用車輪とを軸方向両側から強く挟持する事により、この鉄道車両用車輪に対する前記両環状座板の支持強度を確保できる。そして、これら両環状座板にそれぞれの両端部を挿通した前記各ボルトにより前記鉄道車両用車輪に支持された、前記両ブレーキディスクの支持強度を向上させられる。又、前記鉄道車両用車輪に対して前記両環状座板が径方向にずれ動く事をより確実に防止できて、前記各ボルトの軸力低下をより確実に抑えられる。
更に、請求項3に記載した発明の構造によれば、前記各補強筒と前記両ブレーキディスクとを直接結合する状態となるので、これら両ブレーキディスクの支持強度を、より一層向上させられる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態の第1例の全体構成を、鉄道車両の幅方向外側から見た状態で示す斜視図。
【図2】同じく鉄道車両の幅方向外側から見た正投影図。
【図3】図2のA−A断面図。
【図4】同B−B断面図。
【図5】同拡大C−C断面図。
【図6】補強筒の斜視図。
【図7】図2のD−D線で切断した状態で示す斜視図。
【図8】同E−E線で切断した状態で示す斜視図。
【図9】本発明の実施の形態の第2例を示す、図5と同様の図。
【図10】同じく補強筒の斜視図。
【図11】同じく図7と同様の図。
【図12】同じく図8と同様の図。
【図13】本発明の実施の形態の第3例を示す、図5と同様の図。
【図14】同じく補強筒の斜視図。
【図15】同じく図7と同様の図。
【図16】同じく図8と同様の図。
【図17】本発明の実施の形態の第4例を示す、図1と同様の図。
【図18】同じく図2と同様の図。
【図19】図18のF−F断面図。
【図20】同拡大G−G断面図。
【図21】環状座板の斜視図。
【図22】本発明の実施の形態の第5例を示す、図1と同様の図。
【図23】同じく図2と同様の図。
【図24】図23のH−H断面図。
【図25】同拡大I−I断面図。
【図26】環状座板の斜視図。
【図27】本発明の実施の形態の第6例を示す、図2と同様の図。
【図28】図27のJ−J断面図。
【図29】図28の上部拡大図。
【図30】同下部拡大図。
【図31】環状座板の斜視図。
【図32】従来構造の第1例を示す、図3と同様の図。
【図33】図32のK部拡大図。
【図34】従来構造の第2例を示す、図1と同様の図。
【図35】同じく図2と同様の図。
【図36】図35の拡大L−L断面図。
【図37】図36の上部拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[実施の形態の第1例]
図1〜8は、請求項1、2、4、10に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例の鉄道車両用ブレーキディスク付車輪1bの特徴は、一対のブレーキディスク2a、2aをアルミニウム合金製とし、更に、一対の環状座板16、16と複数個の補強筒17、17とを設けた点にある。これら両環状座板16、16は、前記両ブレーキディスク2a、2aを軸方向両側から挟む位置に、前記各補強筒17、17は、鉄道車両用車輪3の両側面と前記両環状座板16、16の内側面との間部分に、それぞれ配置している。そして、これら各補強筒17、17及び両環状座板16、16を設ける事により、前記両ブレーキディスク2a、2aを鉄道車両用車輪3に結合固定する為の各ボルト10、10の姿勢の安定化と、これら両ブレーキディスク2a、2aと鉄道車両用車輪3との結合強度の向上とを図っている。以下、本例の構造に就いて、詳細に説明する。
【0025】
本例の鉄道車両用ブレーキディスク付車輪1bを構成する前記両ブレーキディスク2a、2aの内周縁部には、前述の図34〜37に示した従来構造の第2例を構成するブレーキディスク2a、2aと同様に、切り欠き部14、14と取付部15、15とを、円周方向に関して交互に設けている。そして、これら各取付部15、15の中央部に、それぞれ第一取付孔4、4を形成している。本例の構造では、前記従来構造の第2例とは異なり、上述の様なブレーキディスク2a、2aを前記鉄道車両用車輪3の両側に、前記切り欠き部14、14及び取付部15、15の位相を互いに一致させた状態で配置している。この状態で前記各第一取付孔4、4に整合する、前記鉄道車両用車輪3の一部に、それぞれ第二取付孔5、5(図4、5、7参照)を形成している。又、この鉄道車両用車輪3の残部で、前記状態で前記各切り欠き部14、14の中央部に整合する部分に、それぞれ第三取付孔18、18(図3、5、8参照)を形成している。本例の場合、これら各第三取付孔18、18と前記各第二取付孔5、5とは、円周方向に関して等間隔に配置されている。
【0026】
又、前記両環状座板16、16はそれぞれ、例えばステンレス鋼板等の鉄系合金製の素材に打ち抜き加工或は削り加工を施す等により、平坦な閉鎖環状(円輪状)に造られたもので、円周方向等間隔複数箇所に、それぞれ通孔19、19を形成している。これら各通孔19、19の数は、前記両環状座板16、16毎に、前記各第三取付孔18、18と前記各第二取付孔5、5とを合計した数(図示の例では12個)としている。更に、前記各補強筒17、17は、それぞれステンレス鋼等の鉄系合金製の素材に、鍛造加工等の塑性加工、或は旋削等の削り加工を施す事により全体を円筒状に形成して成る。この様な前記各補強筒17、17の軸方向長さL(図5、6参照)は、前記各取付部15、15の厚さT(図5参照)と同じ(L=T)としている。
【0027】
上述の様な各部材2a、3、16、17を組み合わせるには、図示の様に、前記鉄道車両用車輪3の両側面に前記両ブレーキディスク2a、2aを配置すると共に、これら両ブレーキディスク2a、2aの内周縁部の切り欠き部14、14の内側に前記各補強筒17、17を配置する。更に、これら鉄道車両用車輪3と、両ブレーキディスク2a、2aと、各補強筒17、17とを、前記両環状座板16、16により、軸方向両側から挟持した状態に組み合わせる。又、この様に前記各部材2a、3、16、17を組み合わせた状態で、前記両環状座板16、16に形成した各通孔19、19のうちの半分の通孔19、19と、前記各第一、第二取付孔4、5とを、図5に示す様に整合させる。又、残り半分の通孔19、19と、前記各補強筒17、17の中心孔及び前記各第三取付孔18とを、同じく図5に示す様に整合させる。尚、前記各第一、第二取付孔4、5同士の間、及び、前記各補強筒17、17の中心孔と前記各第三取付孔18との間に、それぞれスプリングピン6、6を掛け渡しておく。
【0028】
そして、前記半分の通孔19、19と前記各第一、第二取付孔4、5と(に掛け渡したスプリングピン6の内側)に挿通したボルト10、10とナット11、11とを螺合し、更に締め付ける。これら各ボルト10、10の杆部20、20の外径は、前記各通孔19、19の内径と同じか、この内径よりも僅かに小さい。従って、前記各ボルト10、10は、前記両環状座板16、16に対し面方向(径方向及び周方向)に変位する事はない。尚、前記各ボルト10、10の頭部及び前記各ナット11、11と前記両環状座板16、16の外側面との間には、それぞれ皿板ばね9、9を挟持しておく。前記各ナット11、11は、これら各皿板ばね9、9を十分に大きなスラスト力で、但し、完全には押し潰さない程度に圧縮変形させるまで締め付ける。この状態で前記各ボルト10、10には、前記各皿板ばね9、9の弾力に応じた軸力が加わり、この軸力に伴って前記両ブレーキディスク2a、2aの内周縁部に形成した各取付部15、15に応力が生じる。この状態での応力が、これら両ブレーキディスク2a、2aを構成するアルミニウム合金の降伏応力よりも小さくなる様に、前記各ナット9、9の締め付けトルクを規制する。
【0029】
一方、前記残り半分の通孔19、19と前記各補強筒17、17の中心孔及び前記各第三取付孔18と(に掛け渡したスプリングピン6の内側)に挿通した第二ボルト21、21とナット22、22とを螺合し更に締め付ける。これら各第二ボルト21、21の杆部20aの外径に関しても、前記各通孔19、19の内径と同じか、この内径よりも僅かに小さい。従って、前記両環状座板16、16は、前記各第二ボルト21、21に対し面方向に変位する事はない。又、これら各第二ボルト21、21の頭部及び前記各ナット22、22は、直接(皿板ばね9、9を介する事なく)、前記両環状座板16、16の外側面に突き当てている。そして、前記各ナット22、22を、十分に大きなトルクで締め付ける。前記各第二ボルト21、21の頭部と前記各ナット22、22との間で挟持される部材3、16、17は、何れも、降伏応力が大きな鉄系合金製である。従って、前記各ナット22、22を十分に大きなトルクで締め付ける事ができ、前記各第二ボルト21、21の軸力を十分に大きく(100kN以上に)できる。この為、前記両環状座板16、16が前記鉄道車両用車輪3に対して面方向に変位する事を、十分に大きな力で阻止できる。
【0030】
以上に述べた様に構成し組み立てる、本例の鉄道車両用ブレーキディスク付車輪1bによれば、前記鉄道車両用車輪3に対する前記両ブレーキディスク2a、2aの結合強度を十分に大きくでき、しかも、この結合強度を長期間に亙り安定して保持できる。これらの理由に就いて、以下に説明する。
【0031】
先ず、前記鉄系合金製の鉄道車両用車輪3に対する、前記アルミニウム合金製の両ブレーキディスク2a、2aの結合強度を十分に大きくできる理由は、前記両環状座板16、16と、前記各補強筒17、17と、前記各第二ボルト21及び前記ナット22とを設けた事による。即ち、前記両環状座板16、16は前記鉄道車両用車輪3に対して、前記各補強筒17、17と、前記各第二ボルト21、21及び前記ナット22、22とにより結合固定される。これら各補強筒17、17は、大きな降伏応力を有する鉄系合金製である為、前記各第二ボルト21、21及び前記ナット22、22との締め付けトルク、延いてはこれら各第二ボルト21、21の軸力を十分に大きくできる。従って、前記両環状座板16、16は前記鉄道車両用車輪3に対し、十分に大きな結合力により結合固定される。
【0032】
そして、前記両ブレーキディスク2a、2aは前記鉄道車両用車輪3に対して、この鉄道車両用車輪3の側面と前記各取付部15、15の内側面との当接部に作用する摩擦力に加えて、これら各取付部15、15の外側面と前記両環状座板16、16の内側面との当接部に作用する摩擦力によっても固定される。この様に、前記両ブレーキディスク2a、2aの位置決め固定に寄与する摩擦面の数が多くなる(合計摩擦面積が広くなる)分、前記鉄道車両用車輪3に対するこれら両ブレーキディスク2a、2aの結合強度が向上する。この為、アルミニウム合金製である、前記各取付部15、15を抑え付ける、前記各ボルト10、10の軸力(これら各ボルト10、10と前記各ナット11、11との締め付けトルク)を特に大きくしなくても、前記両ブレーキディスク2a、2aの結合強度を確保できる。
【0033】
又、前記各ボルト10、10の両端部は、それぞれ前記両環状座板16、16に形成した通孔19、19内に、これら各通孔19、19の径方向に関する変位を阻止された状態で挿通されており、前記両環状座板16、16は、上述の様に、前記各補強筒17、17を介して、前記鉄道車両用車輪3に対し、面方向への移動を阻止された状態で固定されている。又、この鉄道車両用車輪3と前記両環状座板16、16とは、何れも鉄系合金である為、温度変化に伴う寸法変化は、ほぼ同じである。この為、制動及び解除に伴って前記両ブレーキディスク2a、2aが熱膨張・熱収縮しても、前記各ボルト10、10の姿勢は安定したまま、これら各ボルト10、10の中心軸と前記鉄道車両用車輪3の中心軸とが平行なままに維持される。この結果、これら各ボルト10、10に曲げ方向に力が作用してこれら各ボルト10、10が曲げ方向に塑性変形する事がなくなる。又、これら各ボルト10、10の頭部及び前記各ナット11、11と前記両環状座板16、16の外側面との間に配置した皿板ばね9、9の積層状態が不正規になる事もない。この結果、制動と解除との繰り返しにより、前記両ブレーキディスク2a、2aの熱膨張・熱収縮が繰り返されても、前記各ボルト10、10の軸力が低下する事がなく、前述の様にして得られる大きな結合強度を、長期間に亙って安定して保持できる。尚、前記両ブレーキディスク2a、2aの熱膨張・熱収縮に伴って、前記各ボルト10、21が前記鉄道車両用車輪3に対し変位する際、これら各ボルト10、21の杆部20、20aは、第二、第三各取付孔5、18の内側で径方向に変位する。
【0034】
[実施の形態の第2例]
図9〜12は、請求項1〜4、10に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合には、一対のブレーキディスク2a、2aの内周縁部に形成した各取付部15、15の厚さ方向中間部、好ましくは厚さ方向中央部に、それぞれスリット23、23を形成している。これら各スリット23、23は、前記各取付部15、15のうちで、前記両ブレーキディスク2a、2aの円周方向両側と径方向内側とに開口している。本例の場合も、前記両ブレーキディスク2a、2aはアルミニウム合金製であり、鉄道車両用車輪3は鉄系合金製である。
【0035】
一方、鉄系合金製の補強筒17a、17aの外周面に板部24、24を、前記鉄道車両用車輪3の周方向に延出する状態で、これら各補強筒17a、17aと一体に設けている。前記各板部24、24は、これら各補強筒17a、17aの中心軸に対し直角方向に存在する平板状である。又、前記各板部24、24の先端部に、ボルト10、10を挿通自在な透孔25を形成している。又、これら各板部24、24の厚さと前記各スリット23、23の幅とは同じとして、これら各スリット23、23内に前記各板部24、24の先半部を、隙間なく差し込み可能としている。
【0036】
本例の構造を組み立てるには、これら各板部24、24の先半部を前記各取付部15、15のスリット23、23に挿入し、前記各透孔25と各第一取付孔4、4と各第二取付孔5、5と各通孔19、19とを整合させた状態で、これら各孔25、4、5、19にボルト10を挿通する。そして、これら各ボルト10の先端部にナット11を螺合し更に締め付ける。これらボルト10の頭部及びナット11と両環状座板16、16との間には、前述した実施の形態の第1例と同様に、皿板ばね9、9を挟持する。前記ボルト10と前記ナット11との締め付けに伴って、前記各板部24、24の両面と前記各スリット23、23の内面とが強く摩擦係合する。
【0037】
従って、前記各取付部15、15は、これら各面同士の間に作用する摩擦力によっても、前記各補強筒17a、17aに対し結合固定される。又、これら各補強筒17a、17aは、前述した実施の形態の第1例の場合と同様、第二ボルト21、21とナット22、22とを強く締め付ける事により、前記鉄道車両用車輪3に対し強固に支持固定されている。この結果、本例の構造によれば、この鉄道車両用車輪3に対する前記両ブレーキディスク2a、2aの支持強度を、前記各板部24、24の両面と前記各スリット23、23の内面との間に作用する摩擦力分だけ、大きくできる。
その他の部分の構造及び作用は、前述した実施の形態の第1例と同様であるから、重複する説明は省略する。
【0038】
[実施の形態の第3例]
図13〜16も、請求項1〜4、10に対応する、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例の場合も、一対のブレーキディスク2a、2aの内周縁部に形成した各取付部15、15の厚さ方向中間部(中央部)に、それぞれスリット23、23を形成している。一方、鉄系合金製の補強筒17b、17bの外周面に、これら各補強筒17b、17b毎に一対ずつの板部24a、24aを、前記鉄道車両用車輪3の周方向に延出する状態で、一体に設けている。又、これら各板部24a、24aの先端部に、ボルト10、10の杆部20との干渉を防止する為の、半円形の切り欠き26、26を形成している。
【0039】
この様な本例の構造を組み立てるには、前記各取付部15、15のスリット23、23に、それぞれ円周方向に関して両側に存在する補強筒17b、17bに付属の前記各板部24a、24aの先半部を挿入した状態で、ボルト10とナット11とを螺合し更に締め付ける。この様な本例の構造によれば、前記各板部24a、24aの両面と前記各スリット23、23の内面との摩擦面積を広くできる分、前記鉄道車両用車輪3に対する前記両ブレーキディスク2a、2aの支持強度を大きくできる。又、円周方向に関して対称な構造である為、支持構造の安定化も図れる。
その他の部分の構造及び作用は、各部の寸法関係等を含めて、前述した実施の形態の第2例と同様であるから、重複する説明は省略する。
【0040】
[実施の形態の第4例]
図17〜21は、請求項1、6〜8、10に対応する、本発明の実施の形態の第4例を示している。本例の場合も、一対のブレーキディスク2a、2aの内周縁部に、切り欠き部14、14と取付部15、15(図19、20参照)とを、円周方向に関して交互に設けている。又、これら各取付部15、15の中央部に、それぞれ第一取付孔4、4を形成している。本例の場合には、先に述べた第1〜3例の場合とは異なり、前記両ブレーキディスク2a、2aは、円周方向に関する位相を前記各切り欠き部14、14及び前記各取付部15、15のピッチの1/2だけずらせた状態で、鉄道車両用車輪3の両側面に突き合わせている。そして、前記両ブレーキディスク2a、2aをこの鉄道車両用車輪3に対して、前記各第一取付孔4、4と、この鉄道車両用車輪3に形成した第二取付孔5、5とを挿通した各ボルト10a、10aと各ナット11a、11aとにより、結合固定している。この点に関しては、前述の図34〜37に示した従来構造の第2例と同様である。
【0041】
特に本例の構造の場合には、それぞれが鉄系合金製である一対の環状座板16a、16aを、前記両ブレーキディスク2a、2aの取付部15、15の軸方向両側面のうちで前記鉄道車両用車輪3と反対側の面(外側面)側に添設している。前記両環状座板16a、16aは、全周に亙って平坦であり、それぞれ複数個ずつ(1枚のブレーキディスク2aに形成された前記各切り欠き部14、14の数、又は前記各取付部15、15と同じで、図示の例では6個ずつ、合計12個)の通孔19、19と第二通孔27、27とを、円周方向に亙って交互に且つ等間隔に形成している。このうち、小径の通孔19、19の内径は、前記両ブレーキディスク2a、2aと前記鉄道車両用車輪3とを結合固定する為のボルト10a、10aの杆部20b、20bの外径と同じかこの外径よりも僅かに大きい。これに対して前記各第二通孔27、27の内径は、ボックスレンチの先端部等、前記各ボルト10a、10aと前記各ナット11a、11aとを締め付ける為の工具を挿通可能な大きさとしている。
【0042】
本例の構造は、前記両環状座板16a、16aを設けた点以外は、前記従来構造の第2例と同様に組み立てる。これら両環状座板16a、16aは、それぞれがアルミニウム合
金製である前記両ブレーキディスク2a、2aの取付部15、15の外側面に添設するので、前記各ボルト10a、10aの頭部と前記各ナット11a、11aとは、何れも鉄系合金製で全周に亙って連続した部材に対向する状態となる。本例の場合には、前記各ボルト10a、10aの頭部が前記両環状座板16a、16aに、皿板ばね9、9を介して対向し、前記各ナット11a、11aが前記鉄道車両用車輪3に、ワッシャ8、8と皿板ばね9、9とを介して対向する。
【0043】
この様な本例の構造によれば、制動及びその解除に伴って、前記両ブレーキディスク2a、2aが熱膨張・熱収縮を繰り返した場合でも、前記各ボルト10a、10aの頭部と前記各ナット11a、11aとのうちで、前記各取付部15、15に対向する部分(図示の例では前記各ボルト10a、10aの頭部)が、前記鉄道車両用車輪3に対し、径方向に変位する事はない。即ち、これら各ボルト10a、10aの頭部が対向した前記両ブレーキディスク2a、2aの取付部15、15が前記鉄道車両用車輪3に対し径方向に変位しても、前記各ボルト10a、10aの頭部は、前記両環状座板16a、16aの存在により、前記鉄道車両用車輪3に対する変位を抑えられる。従って、前記各ボルト10a、10aの姿勢は安定したまま、これら各ボルト10a、10aの中心軸と前記鉄道車両用車輪3の中心軸とが平行なままに維持される。この為、これら各ボルト10a、10aが塑性変形したり、前記各皿板ばね9、9の積層状態が不正規になる事もない。この結果、制動と解除との繰り返しにより、前記両ブレーキディスク2a、2aの熱膨張・熱収縮が繰り返されても、前記各ボルト10a、10aの軸力が低下する事がなく、初期に付与した結合強度を、長期間に亙って安定して保持できる。
【0044】
[実施の形態の第5例]
図22〜26は、請求項1、6、7、9、10に対応する、本発明の実施の形態の第5例を示している。本例の場合には、一対の環状座板16b、16bとして、それぞれ複数個ずつの第一平板部28、28と第二平板部29、29とを連結板部30、30により連結した、波形に形成している。このうちの第一平板部28、28は、一対のブレーキディスク2a、2aの内周縁部に設けた複数の取付部15、15の外側面に当接するもので、それぞれが扇形である。又、前記各第二平板部29、29は、鉄道車両用車輪3の側面に当接するもので、それぞれが矩形である。更に、前記各連結板部30、30は、前記第一、第二各平板部28、29の円周方向端部同士を連結するもので、軸方向に向いて存在する。そして、これら第一、第二各平板部28、29毎、それぞれの中央部に、前記両ブレーキディスク2a、2aと前記鉄道車両用車輪3とを結合する為のボルト10a、10aを挿通する為の通孔19、19を形成している。
【0045】
本例の構造では、上述の様な、それぞれが波形環状である一対の環状座板16b、16bを、前記鉄道車両用車輪3と前記両ブレーキディスク2a、2aを軸方向両側から挟む位置に配置する。又、これら両ブレーキディスク2a、2aは、円周方向に関する位相を各切り欠き部14、14及び前記各取付部15、15のピッチの1/2だけずらせた状態で、前記鉄道車両用車輪3の両側面に突き合わせる。又、前記両環状座板16b、16bのうちの前記各第一平板部28、28を前記各取付部15、15の外側面に突き合わせると共に、前記各第二平板部29、29を前記鉄道車両用車輪3の側面に、前記各切り欠き部14、14の内側部分で突き合わせる。そして、前記各第一、第二平板部28、29に形成した通孔19、19と、前記各取付部15、15に形成した第一取付孔4、4と、前記鉄道車両用車輪3に形成した第二取付孔5、5とを挿通したボルト10a、10aとナット11a、11aとを螺合し更に締め付ける事により、前記両ブレーキディスク2a、2aを前記鉄道車両用車輪3に対し結合固定する。
この様な本例の構造の場合も、前述した実施の形態の第4例と同様に、初期に付与した結合強度を、長期間に亙って安定して保持できる。
【0046】
[実施の形態の第6例]
図27〜31は、請求項1、4、5、10に対応する、本発明の実施の形態の第6例を示している。本例の構造は、前述の図1〜8に示した実施の形態の第1例から補強筒17、17及び第二ボルト21、21を省略し、代わりに、一対の環状座板16c、16cに位置決めピン31、31を固設すると共に、鉄道車両用車輪3に位置決め孔32を形成している。本例の場合には、前記各位置決めピン31、31を、前記両環状座板16c、16cの内側面(前記鉄道車両用車輪3に対向する面)の複数箇所で、各ボルト10、10を挿通する為の通孔19、19の間部分に、ねじ33、33により、軸方向に固定している。又、前記鉄道車両用車輪3のうちで前記各ボルト10、10を挿通する為の第二取付孔5、5の間部分に、前記各位置決め孔32を形成している。これら各位置決め孔32の内径は、前記各位置決めピン31、31の外径と同じか、この外径よりも僅かに大きい。従って、これら各位置決めピン31、31の先端部を前記各位置決め孔32内に挿入した状態では、前記鉄道車両用車輪3に対する前記両環状座板16c、16cの位置決めが図られる。
【0047】
この様な本例の場合には、前記両環状座板16c、16cが前記各位置決めピン31、31により、前記鉄道車両用車輪3に対する位置決めを図られている為、前記実施の形態の第1例から補強筒17、17及び第二ボルト21、21を省略しても、制動と解除との繰り返しに伴う、前記両ブレーキディスク2a、2aの熱膨張・熱収縮の繰り返しに拘らず、前記各ボルト10、10の軸力低下を防止して、初期に付与した結合強度を、長期間に亙って安定して保持できる。
【0048】
尚、組立作業は多少面倒になるが、一対の環状座板16c、16cを共通の位置決めピンの両端部に結合固定すれば、前記鉄道車両用車輪3に対するこれら両環状座板16c、16cの支持強度及び支持剛性を高められる。即ち、図示の例よりも軸方向寸法が長い位置決めピンの軸方向中間部を前記鉄道車両用車輪3に形成した位置決め孔32に内嵌し、この鉄道車両用車輪3の両側面部分に一対のブレーキディスク2、2を組み付けた後、前記両環状座板16c、16cを前記軸方向寸法が長い位置決めピンの両端部にねじ止め固定すれば、この位置決めピンの支持剛性を高くして、上述した作用効果をより顕著に得られる。
その他の部分の構造及び作用は、前述の図32〜33に記載した従来構造と同様である為、重複する説明は省略する。
【産業上の利用可能性】
【0049】
鉄系合金製の鉄道車両用車輪に対するアルミニウム合金製のブレーキディスクの結合強度の向上のみを意図するのであれば、図9〜12に示した実施の形態の第2例、或は、図13〜16に示した実施の形態の第3例の構造を簡略化する事もできる。即ち、図9〜16に示した、本発明の実施の形態の第2〜3例の構造から、一対の環状座板を省略しても、或る程度は、鉄道車両用車輪に対するブレーキディスクの結合強度の向上を図れる。この様に前記両環状座板を省略しても、図1〜8に示した実施の形態の第1例に比べて前記第2〜3例の構造が結合強度向上の面から優れている分だけは、前述の図32〜37に示した従来構造に比べて、結合強度の向上を図れる。更には、図1〜16に示した実施の形態の第1〜3例の構造は、ブレーキディスクがアルミニウム合金製の場合に限らず、鍛造鋼製や燒結金属製の場合でも、ボルトの軸力を低く抑えつつ必要且つ十分な支持力を確保できる面から有効である。
【符号の説明】
【0050】
1、1a、1b 鉄道車両用ブレーキディスク付車輪
2、2a ブレーキディスク
3 鉄道車両用車輪
4 第一取付孔
5 第二取付孔
6、6a スプリングピン
7 摩擦面
8 ワッシャ
9 皿板ばね
10、10a ボルト
11、11a ナット
12 本体部
13 表層部
14 切り欠き部
15 取付部
16、16a、16b、16c 環状座板
17、17a、17b 補強筒
18 第三取付孔
19 通孔
20、20a、20b 杆部
21 第二ボルト
22 ナット
23 スリット
24、24a 板部
25 透孔
26 切り欠き
27 第二通孔
28 第一平板部
29 第二平板部
30 連結板部
31 位置決めピン
32 位置決め孔
33 ねじ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0051】
【特許文献1】特開平9−100852号公報
【特許文献2】特開平10−129480号公報
【特許文献3】特開平10−129481号公報
【特許文献4】特開平10−167066号公報
【特許文献5】特開2000−309271号公報
【特許文献6】特開2004−138189号公報
【特許文献7】特開2006−329315号公報
【特許文献8】特開2008−261443号公報
【特許文献9】特開2009−2375号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄系合金製の鉄道車両用車輪と、線膨張係数が鉄系合金と異なる材料製で、この鉄道車両用車輪の両側に配置された、それぞれの外側面を制動用摩擦面とした一対のブレーキディスクと、複数組のボルト及びナットとを備え、これら両ブレーキディスクと前記鉄道車両用車輪との互いに整合する複数箇所位置に形成した第一、第二各取付孔を挿通した前記各ボルトと前記各ナットとを螺合し更に締め付ける事により、前記両ブレーキディスクを前記鉄道車両用車輪の両側面に結合固定して成る鉄道車両用ブレーキディスク付車輪に於いて、それぞれが前記鉄道車両用車輪の周方向に連続する閉鎖環状であって、前記各ボルトの設置位置に対応する部分にこれら各ボルトを挿通する為の通孔を形成した、それぞれが鉄系合金製である一対の環状座板を備え、これら両環状座板を、前記各ボルトの頭部又は前記ナットと前記両ブレーキディスクの側面との間に挟持している事を特徴とする鉄道車両用ブレーキディスク付車輪。
【請求項2】
前記両ブレーキディスクの内周縁部に、複数の切り欠きと、それぞれに前記各ボルトを挿通する為の前記第一取付孔を形成した複数の取付部とを、円周方向に関して交互に設けており、前記各切り欠きの内側部分で、前記両環状座板と前記鉄道車両用車輪の側面との間に補強筒を挟持すると共に、これら両環状座板に、前記各取付部に整合する部分に加えて前記各切り欠きに整合する部分にも通孔を形成しており、これら各通孔と前記各補強筒とを挿通した第二ボルトと第二ナットとを螺合し更に締め付けている、請求項1に記載した鉄道車両用ブレーキディスク付車輪。
【請求項3】
前記両ブレーキディスクの内周縁部に設けた各取付部の厚さ方向中間部に形成されたスリットに、前記各補強筒の外周面から前記鉄道車両用車輪の周方向に延びた板部を挟持している、請求項2に記載した鉄道車両用ブレーキディスク付車輪。
【請求項4】
前記両ブレーキディスクに形成した第一取付孔と前記鉄道車両用車輪に形成した第二取付孔とを挿通した、前記各ボルトの頭部と前記各ナットとにより、この鉄道車両用車輪と前記両ブレーキディスクとを軸方向両側から挟持している、請求項1〜3のうちの何れか1項に記載した鉄道車両用ブレーキディスク付車輪。
【請求項5】
前記両環状座板の内側面の円周方向複数箇所に位置決めピンの端部を結合固定し、これら各位置決めピンの他の部分を、前記鉄道車両用車輪に形成した位置決め孔に内嵌している、請求項4に記載した鉄道車両用ブレーキディスク付車輪。
【請求項6】
前記各ボルトのうち、複数の第一ボルトにより前記両ブレーキディスクのうちの第一ブレーキディスクと前記鉄道車両用車輪とを結合し、残りの複数の第二ボルトにより第二ブレーキディスクとこの鉄道車両用車輪とを結合しており、これら第一、第二各ボルトを、前記鉄道車両用車輪の円周方向に関して交互に配置している、請求項1〜3のうちの何れか1項に記載した鉄道車両用ブレーキディスク付車輪。
【請求項7】
前記両ブレーキディスクの内周縁部に、複数の切り欠きと、それぞれに前記各ボルトを挿通する為の第一取付孔を形成した複数の取付部とを、円周方向に関して交互に設けており、前記両環状座板を、前記第一、第二両ブレーキディスクの取付部の軸方向両側面のうちで前記鉄道車両用車輪と反対側の面に添設している、請求項6に記載した鉄道車両用ブレーキディスク付車輪。
【請求項8】
前記両環状座板が全周に亙って平坦であり、これら両環状座板のうちで前記第一、第二両ブレーキディスクの切り欠きに整合する部分に、前記各ボルトと前記各ナットとを締め付ける為の工具を挿通可能な第二通孔を設けている、請求項7に記載した鉄道車両用ブレーキディスク付車輪。
【請求項9】
前記両環状座板が、前記第一、第二両ブレーキディスクに設けた複数の取付部の外側面に当接する複数の第一平板部と、前記鉄道車両用車輪の側面に当接する複数の第二平板部と、これら第一、第二各平板部同士を連結する連結板部とを備えた波形であり、これら第一、第二各平板部毎に、前記各ボルトを挿通する為の通孔を形成している、請求項7に記載した鉄道車両用ブレーキディスク付車輪。
【請求項10】
前記各ボルトの頭部及び前記各ナットと前記両環状座板との間に皿板ばねを挟持している、請求項1〜9のうちの何れか1項に記載した鉄道車両用ブレーキディスク付車輪。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【公開番号】特開2010−270803(P2010−270803A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−121561(P2009−121561)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】