説明

鉛蓄電池用ストラップの形成法及び鉛蓄電池

【課題】 櫛歯状治具と当て金治具とを用い、該櫛歯状治具に差し込んだ極板群の同極性同士の耳列を足し鉛を溶融し乍ら溶接し、ストラップを形成する作業において、溶融鉛が各耳の外端と当て金治具の先端との間及び該耳の内端と櫛歯状治具の櫛歯間の根元との間から溶融鉛が下方へ垂れ落ちることを確実に未然に防止することが出来る鉛蓄電池用ストラップ形成法を提供する。
【解決手段】 極板群の上方に突出する同極性同士の耳列の各耳3を櫛歯状治具1の各櫛歯1a,1a間に差し込んだ状態で、当て金治具2を該櫛歯状治具1に当接するに当たり、該櫛歯状治具1と該当て金治具2とで各耳3の両端3a,3bを挟圧し、該耳3の外端3bに該当て金治具2の先端2aを食い込ませると共に該耳3の内端3aに該櫛歯状治具1の櫛歯1a間の根元1a1を食い込ませ、この状態で足し鉛を溶融注入し、該耳列を溶接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池用ストラップの形成法、更に詳細には鉛蓄電池の極板群の耳列を溶接するストラップ形成法及び鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、正極板及び負極板をセパレータを介して交互に所望枚数積層して極板群を組み立てた後、該極板群の上面の1側に配置された夫々の正極板から上方に突出した耳が一列に並ぶ正極耳列とその他側に配置された夫々の負極板から上方に突出した耳が一列に並ぶ負極耳列とを櫛歯状治具と当て金治具と足し鉛を用いて正極耳列を溶接した正極ストラップと負極耳列を溶接した負極ストラップを夫々形成することは周知であるが、そのストラップ形成法では、該櫛歯状治具の櫛歯間に耳列の各耳を差し込んだ後、該櫛歯状治具の先端に当て金治具を当接した状態とし、次いで足し鉛を溶融して耳列に注入し、耳列を溶接したストラップを形成する過程において、各耳の内端と櫛歯状治具の櫛歯間の根元との間及び該耳の外端と当て金治具の先端との間に生ずる隙間から溶融鉛がこれら治具の下方へ漏れ出て極板群を汚し、内部短絡の原因を招来するなどの不都合をもたらすことがしばしば見られた。
かかる不都合を解消するため、特開2002-170545号公報に記載の発明では、櫛歯状治具及び当て金治具が極板耳列の各耳の両端と接する部分を該各耳と同形状の切欠き部にし、実施例では、くの字状の切欠き部に形成することにより、溶融鉛の漏出をなくすようにしたストラップ形成法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-170545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし乍ら、上記特許文献1に提案の発明に係るストラップ形成法でも、鋳造により夫々鋳造される極柱の耳の両端のくの字状を全て精密に同じように鋳造することは困難である。一方、鋳造された各耳の両端のくの字状に合わせて櫛歯状治具の各櫛歯間の根元をくの字状に加工し、また、当て金治具の先端に各耳に対応するくの字状の切欠き部に加工することも困難である。従って、実際上、耳列の全ての耳の各両端とこれらの耳に対応する各櫛歯間の根元と当て金治具のくの字状の切欠き部との間に隙間なく当接せしめることは困難であり、そのうちの1つ又はそれ以上の耳の両端に夫々当接する夫々の治具に形成されたくの字状の切欠き部との間に溶融鉛が漏出する間隙が生ずることは回避できない。従って、溶融鉛がこの隙間を通し下方へ垂れ下がり、落下し、極板群を汚染し、内部短絡が発生する嫌いがある。
また、特許文献1のストラップ形成法では、櫛歯状治具及び当て金治具を耳の両端の形状と同一形状にしたものを使用しなければならない不便がある。
本発明は、かかる課題を解消し、所望の形状の櫛歯状治具及び当て金治具が使用でき、耳列溶接時における溶融鉛の垂れ下がりや落下を確実に防止し得られ、円滑良好にストラップを形成する方法を提供することに在る。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、請求項1に記載の通り、極板群の上方に突出する同極性同士の耳列の各耳を櫛歯状治具の各櫛歯間に差し込んだ状態で、当て金治具を該櫛歯状治具に当接するに当たり、該櫛歯状治具と該当て金治具とで各耳の両端を挟圧し、該耳の外端に該当て金治具の先端を食い込ませると共に該耳の内端に該櫛歯状治具の櫛歯間の根元を食い込ませ、この状態で足し鉛を溶融し、該耳列を溶接することを特徴とする鉛蓄電池用ストラップの形成法に存する。
更に本発明は、請求項2に記載の通り、上記の方法で正極板の耳列及び負極板の耳列に夫々ストラップを形成した極板群を具備して成る鉛蓄電池に存する。
【発明の効果】
【0006】
請求項1に記載の発明によれば、耳列の各耳の外端面と金治具の先端との間及び該耳の内端面と櫛歯状治具の櫛歯間の根元との間に隙間が生ずることが完全に防止されるので、溶融鉛がこれら治具から下方へ漏れることを完全に防止でき、極板群を汚染することなく円滑良好に耳列を溶接し、所定のストラップを形成することができる。尚、耳の両端が挟圧により押し潰された耳の部分は、耳の両端部の両側面とその各側面と対向する櫛歯との間隙に押し込まれ、該間隙を封口し、耳の両端部近傍からの溶融鉛の下方への漏出防止効果を向上する。
請求項2に係る発明によれば、短絡のない極板群を具備した安定良好な鉛蓄電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の鉛蓄電池用ストラップの形成法の実施形態の1例を説明する図を示し、図1(a)は、極板群の同極性極板の耳列を櫛歯間に差し込んだ状態の櫛歯状治具に、当て金治具を当接する前の工程を示す上面図、図1(b)は、該櫛歯状治具に、当て金治具を当接する工程を示す上面図。
【図2】図1(b)のA-A線裁断面図。
【図3】上記のストラップ形成法で形成されたストラップの上面図。
【図4】本発明の他の実施形態例を説明する図を示し、図4(a)は図1(a)と同様の工程の上面図、図4(b)は図1(b)と同様の工程の上面図。
【図5】本発明の更に他の実施形態例を説明する図を示し、図5(a)は図1(a)と同様の工程の上面図、図5(b)は図1(b)と同様の工程の上面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のストラップ形成法の実施形態例を添付図面に基づき説明する。
図1(a)及び図1(b)は、実施形態の1例を説明する図である。符号1は櫛歯状治具、2は当て金治具を示す。これらの治具1,2を用い常法により組み立てた極板群の1側上方に突出した正極板の耳列及びその他側上方に突出した負極板の耳列の夫々に対し、本発明のストラップ形成法を行うが、いずれにしろ、同極性同士の耳列を溶接しストラップを形成するものであるから、図1(a)は、極板群の1側上方に突出した9枚の正極板の耳3が9個並んだ耳列に本発明のストラップ形成法を適用した場合のみにつき以下説明し、他側上方に突出した10枚の耳(図示しない)についてのストラップ形成法は同様に行うのであるから説明を省略する。
図に示す該正極板の各耳3は、鋳造により形成されたものであるため、その両端はV字状に形成されている。本発明に用いる櫛歯状治具1は、その各櫛歯1aの基端から先端までの長さは、正極板の耳列の各耳3の幅よりは僅かに短いものとすると共に、耳3を差し込む各櫛歯1a,1a間の根元1a1の形状を各耳3の形状と同じV字状の切欠きに形成したもので、かくして、図1(a)に示すように、該櫛歯状治具1の9つの櫛歯1a,1a間に対応する9つの各耳3を櫛歯1a,1aと摺接状態で差し込む。このとき、該耳3のV字状の内端3aは該各櫛歯間のV字状の根元1a1に当接する一方、該耳3のV字状の外端3bは、その両側の該櫛歯1aの先端よりは僅か外方へ突出した突出端部3b1を生ずる差し込み状態が得られるようにした。
【0009】
この差し込み状態において、該当て金治具2の直線状の先端2aを該櫛歯状治具1の先端に当接するに当たり、該各耳3の外端3bに所要の圧力で押し当て、各耳3の両端3a,3bを該櫛歯状治具1と該か当て金治具2とで挟圧し、該当て金治具2の先端2aを各該耳3の外端3bの突出端部3b1に食い込ませると共に、該櫛歯状治具1の各櫛歯1a,1a間のV字状根元1a1を各該耳3の内端3aに食い込ませた図1(b)及び図2に示すような食い込み圧接状態が得られる。4a,4aは、該耳3の両端面3a,3bに形成された食い込み凹面、Pは、該耳3を突出した正極板を示す。
上記の食い込み圧接状態としたとき、これら治具1,2と各耳3の両端面との気密圧着状態が得られると同時に、食い込みにより押し潰された部分は、該耳3の押し潰されたV字状両端部の両側面とその両側の各櫛歯1aの内端部及び先端部の側面三角状の間隙に押し入り該間隙を充填する。かくして、耳3の両端3a,3bへの治具1,2の食い込み圧接により耳の両端部からの後記する溶接工程の溶融鉛の垂れ下がりや落下を未然に防止することができる。このように、本発明のストラップ形成法の上記の実施形態例によれば、各耳3において、その両端3a,3bを上記のように該櫛歯状治具1及び該当て金治具2により押し潰し食い込み状態に当接するので、各耳3の両端部の外周に隙間が生ずることが確実に防止される。
【0010】
上記の状態を形成した後、火焔により各耳3の表面を加熱すると共に、該耳列に常法により足し鉛(図示しない)を溶融し、夫々の治具1,2に予め形成した耳列外周を囲繞する所定形状の凹部1c,2c内に注入した後、冷却凝固することにより図3に示すように、耳列が溶接されたストラップSが得られる。図示の例では、該櫛歯状治具1の凹部1cは、座付き極柱5を設置する広さを有し、溶接に当たり、該座付き極柱5を該凹部1cの上面に図1(b)に示す位置に設置した後、ストラップSと一体に溶接したもので、極柱付きストラップSに形成したものである。
【0011】
上記の図1に示す実施形態における更に具体的な実施例を次に説明する。
耳列の各耳3の幅は17mm、このうち、そのV字状の両端部の幅は夫々0.4mm、厚み3.2mm、該櫛歯状治具1の櫛歯1aの基端から先端までの長さは16.9mm、櫛歯1a,1a間の根元1a1は、耳3の内端と同形のV字状とし、各該櫛歯1a,1a間に耳3を差し込み、その内端3aを該根元1a1に当接した状態としたとき、該耳3の外端3bが該櫛歯1aの先端より0.1mm突出するようにした。また、該櫛歯1a,1a間の先端が開口した耳3を差し込む間隙は3.6mmとし、耳3を差し込んだとき、その両側の各櫛歯との間に0.2mmの隙間を生ずるようにした。その隙間は0.2mm以下であれば、溶接時に、溶融鉛がこの隙間から下方へ漏出することがない。
【0012】
上記から明らかなように、本発明のストラップ形成法によれば、上記の該櫛歯状治具1と該当て金治具2を用い、耳列の各耳3の両端を押し潰し、食い込ませた状態とした後、この押圧当接状態で、常法により耳列の溶接を行うので、上記従来のストラップ形成法の上記課題を解消し得られる一方、溶接時の溶融鉛がこれら治具1,2と耳3との間から下方へ漏出する惧れが全くなく、円滑良好にストラップ形成を行うことができると共に、溶融鉛に汚染されないストラップの形成された極板群を具備した良質の鉛蓄電池を確実に提供することができる。
【0013】
図4は、本発明の他の実施形態例を示し、先の実施形態と相異する点は、図4(a)に示すように、上記の当て金治具として、そのストレート状の先端2aに、各耳3のV字状の外端3bに対応する位置に、V字状の外端3bと同じV字状の、但し、谷の深さ0.05mmの切欠き2bを形成した当て金治具2′を用いたことである。かくして、図4(b)のように、該櫛歯状治具1と該当て金治具2′により、耳列の各耳3を挟圧するときは、該当て金治具2′の先端は、該耳3の外端に食い込んだ状態で該耳3の内端に該櫛歯状治具1の各櫛歯1a,1a間のV字状の根元1a1が食い込んだ状態で両治具1,2の当接状態が得られ、先の実施形態と同様に耳列の溶接時に溶融鉛が下方へ落下漏出なく、安定良好なストラップ形成を行うことができ、極板群内部に溶融鉛のない良好な極板群が得られる。
【0014】
図5は、本発明の更に他の実施形態例を示し、先の第1実施形態で用いた極板群の各正極板の各耳の両端がV字状の耳3に代え、正極板の各耳が両端が平面から成る矩形状の耳3′から成る耳列を溶接する場合を示し、櫛歯状治具としては、その櫛歯1a,1a間の根元は該耳3′の内端3a′の平坦面と同じ平坦面1a1′に形成した櫛歯状治具1′に各耳3′を差し込み、その内端3a′をその櫛歯1a,1a間の根元1a1′に当接したとき、その耳3′の外端3b′が、各櫛歯1aの先端より外方へ所定量突出する突出部3b1′が生ずる櫛歯状治具1′に形成したものを用いる一方、当て金治具としては、第1実施形態で用いたと同じ直線状の先端2aを有する当て金治具2を用いた。
かくして、これら治具1,2を用いて、先の実施形態例と同様に、耳列の各耳の両端を挟圧当接することにより、各耳3′の両端3a,3bが押し潰され、且つ該両端3a,3bに食い込んだ状態の相互当接状態とするが、この場合、該当て金治具2の先端が、該耳3′の外端の突出部3b1′の突出分に対応する深さまで押し潰し食い込ませるようにした。このように、両治具1,2と各耳3′の両端部との間は完全に封口されるので、耳列の溶接工程における溶融鉛の極板群内への落下漏出を確実に防止し得られ円滑良好な耳列のストラップを形成することができる。
【0015】
比較試験:
前記の第1実施形態例によるストラップ形成法を1000回行ったが、溶融鉛の落下漏れは1回も発生しなかった。
これに対し、特許文献1の発明に従った櫛歯状治具と当て金治具を用い、上記の極板群の耳列にストラップ形成法を1000回行ったところ、溶融鉛の落下漏れは28回発生した。
【0016】
耐食性試験:
前記の第1実施形態例によるストラップ形成法により作成したストラップの各耳の両端が食い込みにより押し潰された結果、その押し潰しによる耐食性を試験するため、その押し潰された耳をストラップから切り取り、これを比重1.28の希硫酸水溶液に浸漬した後、該水溶液を60℃に加熱し1350V(vs.Hg/H2SO4)の電位で720時間陽極酸化させた試験を行った後取り出し、その重量を測定したところ、31mg/cm2であり、前記特許文献1の形成法に従いストラップ形成法で作成したストラップの耳の重量31mg/cm2と変わりがなかった。
【0017】
上記に例示した第1乃至第3の実施形態では、櫛歯状治具の各櫛歯1aの長さを耳の幅より短いものを用い、該治具に耳列の各耳を差し込んだとき、耳の外端が該治具の各櫛歯の先端より突出させた場合を示したが、更に、他の実施形態例として、図示しないが、櫛歯状治具の各櫛歯の長さを耳の幅と等しいかそれより僅かに長くしたものを用い、該治具に耳列の各耳を差し込んだとき、該耳の外端が該治具の各櫛歯の先端と同じ位置かそれより僅かに内方に位置するようにする一方、当て金治具としてその先端に各耳の位置に対応してV字状或いはコ字状に突出した突出部を配設して成るものを用い、該当て金治具を該櫛歯状治具に当接したとき、両治具で各耳の両端を挟圧し、該当て金治具の先端の各突出部で各耳の外端を押し潰し食い込ませるようにした押圧当接状態とした後、上記と同様に耳列を溶接し、ストラップを形成するようにしても良い。
【0018】
本発明のストラップ形成法は、上記の実施形態例では、産業据置用の単電池における極柱と一体のストラップの形成に適用した例を示したが、モノブロック式鉛蓄電池のセル間接続用のストラップの形成に適用できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0019】
1,1′ 櫛歯状治具
1a,1a′ 櫛歯
1a1,1a1′ 櫛歯用の根元
2,2′ 当て金治具
3,3′ 耳
3a,3a′ 耳の内部
3b,3b′ 耳の外端
3b1,3b1′ 耳の突出部
4a 組み込み凹面
4b 組み込み凹面
P 極板
S ストラップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極板群の上方に突出する同極性同士の耳列の各耳を櫛歯状治具の各櫛歯間に差し込んだ状態で、当て金治具を該櫛歯状治具に当接するに当たり、該櫛歯状治具と該当て金治具とで各耳の両端を挟圧し、該耳の外端に該当て金治具の先端を食い込ませると共に該耳の内端に該櫛歯状治具の櫛歯間の根元を食い込ませ、この状態で足し鉛を溶融し、該耳列を溶接することを特徴とする鉛蓄電池用ストラップの形成法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法で正極板の耳列及び負極板の耳列に夫々ストラップを形成した極板群を具備して成る鉛蓄電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−14473(P2011−14473A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−159417(P2009−159417)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【出願人】(000005382)古河電池株式会社 (314)
【Fターム(参考)】