説明

鉱山用電力管理システム

【課題】鉱山における電力消費を抑制すること。
【解決手段】鉱山用電力管理システム100は、上り坂RUに設けられるとともに、上り坂RUを走行する上り車両6Uとの間で電力をやり取りする第1架線1と、下り坂RDに設けられるとともに、下り坂RDを走行する下り車両6Dとの間で電力をやり取りする第2架線2と、少なくとも第1架線1及び第2架線2との間で電力のやり取りをする電力供給・蓄電装置3と、を含む。鉱山用電力管理システム100の管理装置10は、機械7、上り車両6U及び下り車両6Dが消費する総電力が、機械7、上り車両6U及び下り車両6Dが発生する総電力以下になるように、少なくとも機械7と上り車両6Uと下り車両6Dとの間における電力配分を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉱山において搬送、掘削を行う機械が消費する電力を管理する鉱山用電力管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉱山では、油圧ショベル等の作業機械が掘削を行い、掘削した鉱石を運搬車両であるダンプトラックに積載し、ダンプトラックは生産物である鉱石を処理設備のホッパまで運び投入している。例えば、特許文献1には、鉱山の生産量を上げることを目的とした鉱山運搬システム及び方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−102322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、鉱山で用いられるダンプトラック及びパワーショベル等の機器類は、電力の供給を受けて動作するものがある。鉱山では、多数かつ大型の機器類が使用されるので、このような電力を用いた機器類が消費する電力は多大なものとなる。鉱山における消費電力を抑制することは、環境負荷の観点からも好ましいものであるが、特許文献1には、鉱山における電力管理については言及がなく、改善の余地がある。本発明は、鉱山における消費電力を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上り坂に設けられるとともに、前記上り坂を走行する上り車両との間で電力をやり取りする第1架線と、下り坂に設けられるとともに、前記下り坂を走行する下り車両との間で電力をやり取りする第2架線と、少なくとも前記第1架線及び前記第2架線との間で電力のやり取りをする電力供給・蓄電装置と、を含むことを特徴とする鉱山用電力管理システムである。
【0006】
本発明において、前記電力供給・蓄電装置と電力のやり取りをする機械、前記上り車両及び前記下り車両が消費する総電力が、前記機械、前記上り車両及び前記下り車両が発生する総電力以下になるように、少なくとも前記機械と前記上り車両と前記下り車両との間における電力配分を制御する電力制御部を有することが好ましい。
【0007】
本発明において、前記電力制御部は、前記上り車両の数と、前記下り車両の数との配分を調整することにより、前記電力配分を制御することが好ましい。
【0008】
本発明において、前記電力制御部は、前記機械、前記上り車両及び前記下り車両が発生する総電力よりも前記機械、前記上り車両及び前記下り車両が消費する総電力の方が大きい場合に、少なくとも一部の前記上り車両と、少なくとも一部の前記下り車両と、少なくとも一部の前記機械と、の少なくとも一つの消費電力を低減させることが好ましい。
【0009】
本発明において、前記電力制御部は、前記機械と、前記上り車両と、前記下り車両とのうち、優先度の低い順に前記消費電力を低減させることが好ましい。
【0010】
本発明において、前記電力制御部は、前記機械、前記上り車両及び前記下り車両が発生する総電力よりも前記機械、前記上り車両及び前記下り車両が消費する総電力の方が大きい場合に、前記電力供給・蓄電装置から不足する電力を供給させることが好ましい。
【0011】
本発明において、前記下り車両が発電機を有している場合、前記電力制御部は、前記機械、前記上り車両及び前記下り車両が発生する総電力よりも前記機械、前記上り車両及び前記下り車両が消費する総電力の方が大きい場合に、前記下り車両の発電機から不足する電力を供給させることが好ましい。
【0012】
本発明において、前記第1架線が設けられている上り坂の高さの総和と、前記第2架線が設けられている下り坂の高さの総和とは、両者の平均値に対して±10%以内であることが好ましい。
【0013】
本発明において、前記第2架線が設けられている下り坂の高さの総和は、前記第1架線が設けられている上り坂の高さの総和よりも大きいことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、鉱山における消費電力を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本実施形態に係る鉱山用電力管理システムの構成図である。
【図2】図2は、車両の構成例を示す模式図である。
【図3】図3は、機械の構成例を示す模式図である。
【図4】図4は、本実施形態に係る鉱山用電力管理システムの機能を説明するための機能ブロック図である。
【図5】図5は、電力配分の制御の一例を示すフローチャートである。
【図6】図6は、優先度を考慮した電力配分の制御の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
【0017】
<鉱山用電力管理システム>
図1は、本実施形態に係る鉱山用電力管理システムの構成図である。鉱山用電力管理システム100は、第1架線1と、第2架線2と、電力供給・蓄電装置3と、を含む。第1架線1は、上り坂RUに設けられるとともに、上り坂RUを走行する上り車両6Uとの間で電力をやり取りする。第2架線2は、下り坂RDに設けられるとともに、下り坂RDを走行する下り車両6Dとの間で電力をやり取りする。電力供給・蓄電装置3は、少なくとも第1架線1及び第2架線2との間で電力のやり取りをする。以下において、上り車両6Uは上り坂RUを走行している車両であり、下り車両6Dは下り坂RDを走行している車両である。上り車両6Uと下り車両6Dとを区別しない場合には、単に車両6という。
【0018】
車両6は、例えば、運搬車両の1つであるダンプトラックであり、採掘された鉱石又は鉱石の採掘時に発生した土砂若しくは岩石等を荷物Lとしてベッセル6Vに積み込んで搬送する。ベッセル6Vは、荷物Lが積み込まれる容器(荷台)である。なお、車両6はダンプトラックに限定されるものではなく、外部からの電力と、自身が有する内燃機関等によって得られる電力との両方で走行する車両である。車両6は、鉱山で使用される機械(鉱山機械)であるので、主として未舗装路を走行する。車両6の構造は後述するが、車両6は、内燃機関により発電機を駆動して得られた電力により電動機を駆動して走行できるとともに、電力供給・蓄電装置3から電力の供給を受けて、同様に電動機を駆動して走行することもできる。電力供給・蓄電装置3から電力の供給を受けるため、車両6は、集電装置6Pを有している。
【0019】
鉱山では、車両6の他にも機械7a、7b等が稼働している。本実施形態において、機械(鉱山機械)7a、7bは、鉱石等をダンプトラックに積み込む積込機械である電気駆動式ショベルである。機械7は、外部からの電力により動作する機械である。本実施形態においては、機械7a、7bも電力供給・蓄電装置3から電力の供給を受けて、電力により動作する。機械7a、7bは、電源中継車両8a、8bが有する電源ケーブル20a、20bを介して電力供給・蓄電装置3から電力の供給を受ける。なお、本実施形態において、電源中継車両8a、8bは用いなくてもよい。以下において、機械7a、7b、電源中継車両8a、8b又は電源ケーブル20a、20bを区別する必要がない場合には、単に機械7、電源中継車両8又は電源ケーブル20という。
【0020】
電力供給・蓄電装置3は、電力供給装置3Dと、蓄電装置3Bとを有する。電力供給装置3Dは、発電所4から送られてきた交流電力を変圧したり、整流したりして、複数の遮断機5U、5D、5Sa、5Sbに分配する。車両6及び機械7等が直流電力を利用する場合、電力供給装置3Dは変圧器及び整流器を有している。車両6及び機械7等が交流電力を利用する場合、電力供給装置3Dは変圧器を有していれば、整流器を有さなくてもよい。
【0021】
鉱山用電力管理システム100においては、車両6及び機械7が消費する電力よりも、車両6又は機械7の回生によって生み出された電力と、発電所4から送電された電力との和が大きくなることがある。このような場合、余剰の電力が発生するが、蓄電装置3Bは、この余剰の電力を蓄える。また、車両6及び機械7が消費する電力が、車両6又は機械7の回生によって生み出された電力と、発電所4から送電された電力との和よりも大きくなることもある。このような場合、電力不足が発生するが、蓄電装置3Bは、放電することにより不足する電力を補う。このようにして、鉱山用電力管理システム100は、変動する電力需要に対して柔軟に対応することができる。また、発電所4は、急激な負荷変動に追従することが困難であるが、鉱山用電力管理システム100は、蓄電装置3Bを有することにより、鉱山の電力需要が急激に変化した場合でも対応することができる。蓄電装置3Bは、例えば、二次電池、電気二重層キャパシタ等を用いることができる。なお、蓄電装置3Bの他に、車両6、機械7も電力を蓄える装置(例えば、二次電池、電気二重層キャパシタ等)を有していてもよい。そして、前記電力を蓄える装置は、第1架線1又は第2架線2から、余剰の電力の供給を受けて、電力を蓄えるようにしてもよい。このようにすれば、蓄電装置3Bのサイズ(寸法あるいは容量)を小さくできるので、鉱山用電力管理システム100の製造コストを抑制したり、蓄電装置3Bの設置スペースの自由度が向上したりするという利点がある。
【0022】
本実施形態において、鉱山用電力管理システム100、より具体的には、電力供給・蓄電装置3は、発電所4を有している。すなわち、鉱山に発電所4が建設されている。しかし、電力供給・蓄電装置3は、鉱山とは離れた場所の発電所4から送電線を介して電力の供給を受けてもよい。すなわち、鉱山用電力管理システム100は、発電所4を有していなくてもよい。
【0023】
遮断機5U、5D、5Sa、5Sbは、電力回路及び電力機器の正常動作時における負荷電流を開閉するとともに、保護継電器と連携して短絡電流等の事故電流を遮断する開閉器である。遮断機5Uは、第1架線1と送電線21を介して接続されており、遮断機5Dは、第2架線2と送電線22を介して接続されている。遮断機5Saは、電源中継車両8aの電源ケーブル20aと接続され、遮断機5Sbは、電源中継車両8bの電源ケーブル20bと接続されている。このような構造により、第1架線1、第2架線2及び電源中継車両8a、8bは、電力供給・蓄電装置3との間で電力のやり取りをすることができる。また、第1架線1と第2架線2と機械7a、7bとは、電力供給・蓄電装置3を介して接続される。
【0024】
鉱山用電力管理システム100は、管理装置10を有している。管理装置10は、鉱山の電力管理の他、作業スケジュールの管理、車両6及び機械7の稼働状況等の管理及び生産管理等を行う。管理装置10は、例えば、コンピュータであり、各種の管理プログラムを実行して前述した管理を行うとともに、通信装置と連携して、車両6、機械7及び電力供給・蓄電装置3等から情報を収集したり、これらを制御したりする。鉱山用電力管理システム100が発電所4を有する場合、管理装置10は、発電所4の稼働状況を管理したり、発電所4を制御したりする。なお、管理装置10は、発電所4の稼働状況を管理したり、発電所4を制御したりしないこともある(例えば、鉱山の運営組織と発電所4の運営組織とが異なるような場合)。すなわち、本実施形態において、管理装置10は、発電所4の稼働状況の管理及び発電所4の制御をしなくてもよい。
【0025】
車両6及び機械7は、GPS(Global Positioning System:全方位測位システム)衛星9a、9bからの電波を受信し、自己位置を把握する機能を有している。車両6及び機械7が把握した自己位置は、管理装置10に送られて、これらを制御したり管理したりするために用いられる。なお、本実施形態において、車両6及び機械7は無人の装置であり、管理装置10によって動作が制御されるものである。しかし、鉱山用電力管理システム100は、車両6及び機械7が無人で動作するものだけでなく、作業者の操作により動作する車両6及び機械7に対しても適用することができる。また、本実施形態において、鉱山用電力管理システム100は、無人で動作する車両6及び機械7と、作業者の操作により動作する車両6及び機械7とを組み合わせた場合にも適用できる。次に、車両6及び機械7について説明する。
【0026】
<車両>
図2は、車両の構成例を示す模式図である。上述したように、車両6はダンプトラックである。車両6は、車両制御装置60と、複数(本実施形態では4個)の車輪61と、それぞれの車輪61を駆動する電動機62と、内燃機関63と、発電機64と、電動機制御装置65と、無線通信用アンテナ66と、GPS用アンテナ67と、集電装置6Pと、図1に示すベッセル6Vとを含む。
【0027】
車両6の駆動形式は、車輪61の内周側に電動機62が配置される、いわゆるインホイールモータ形式であるが、これに限定されるものではない。また、車両6は、すべての車輪61に電動機62を備えているが、例えば、後輪2輪又は前輪2輪のみに電動機62を備えていてもよい。車両6は、4個の車輪61のうち、少なくとも2輪が操舵輪となるが、すべての車輪61が操舵輪となってもよい。それぞれの電動機62は、内燃機関63によって駆動される発電機64が生み出した電力によって駆動される。
【0028】
発電機64が生み出した電力(交流電力)は、インバータを有する電動機制御装置65に入力されてから、複数の電動機62に供給されてこれらを駆動する。車両制御装置60は、電動機制御装置65を制御して、それぞれの電動機62の駆動又は回生を制御する。電動機制御装置65は、集電装置6Pとも接続されている。電動機制御装置65は、集電装置6Pを介して第1架線1又は第2架線2から電力の供給を受けて、電動機62を駆動することもできる。また、車両6が制動する場合に電動機62を発電機として用いることにより、電動機62は車両6を制動しつつ、電力を発生させる(回生)ことができる。このときに発生した電力は、電動機制御装置65及び集電装置6Pを介して第2架線2又は第1架線1に戻される。第2架線2に戻された電力は、例えば、電力供給・蓄電装置3を介して第1架線1又は第2架線2に供給される。上述したように、第1架線1は上り坂RUに設けられており、第2架線2は下り坂RDに設けられているので、車両6は、第1架線1及び第2架線2と同時に電力のやり取りをする訳ではない。
【0029】
第1架線1は、上り坂RUに設けられて、主として上り車両6Uに電力を供給するが、上り車両6Uが回生によって発生した電力の供給を受けることもある。また、第2架線2は、下り坂RDに設けられて、主として下り車両6Dが回生によって発生した電力の供給を受けるが、下り車両6Dに電力を供給することもある。このように、第1架線1及び第2架線2は、いずれも車両6へ電力供給することが可能であるとともに、車両6から電力の供給を受けることも可能である。
【0030】
車両制御装置60は、第1架線1からの電力によって電動機62を駆動したり、内燃機関63が発電機64を駆動することによって得られた電力によって電動機62を駆動したりする。また、車両制御装置60は、無線通信用アンテナ66を介して、図1に示す管理装置10と情報のやり取りをする。
【0031】
電動機62を制御するにあたって、例えば、車両制御装置60は、GPS用アンテナ67から得られたGPS衛星9a、9bからの電波によって自己位置を求め、上り坂RDの第1架線1の位置に車両6が到達したら、集電装置6Pを上昇させる。そして、車両制御装置60は、集電装置6Pを第1架線1に接触させて電力の供給を受けることにより電動機62を駆動し、内燃機関63を停止させる。
【0032】
<機械>
図3は、機械の構成例を示す模式図である。上述したように、機械7は電気駆動式パワーショベルである。機械7は、機械制御装置70と、電動機制御装置71と、一対の履帯72と、2つの走行用電動機73と、旋回用電動機74と、油圧生成用電動機75と、油圧ポンプ76と、無線通信用アンテナ66と、GPS用アンテナ67とを含む。
【0033】
機械7は、2つの走行用電動機73によってそれぞれの履帯72を駆動することにより走行する。また、旋回用電動機74は、機械7の上部旋回体を旋回させる。油圧生成用電動機75は、油圧ポンプ76を駆動して、機械7が有する作業機(ブーム、アーム及びバケットを含む装置)の駆動に必要な油圧を生成する。電動機制御装置71は、電源中継車両8を介して図1に示す電力供給・蓄電装置3から電力の供給を受ける。そして、電動機制御装置71は、機械制御装置70からの指令により、走行用電動機73と、旋回用電動機74と、油圧生成用電動機75とに電力を供給してこれらを駆動する。
【0034】
機械制御装置70は、電動機制御装置71を制御して、走行用電動機73、旋回用電動機74及び油圧生成用電動機75の駆動又は回生を制御する。機械7の制動及び機械7が有する上部旋回体の停止によって、走行用電動機73及び旋回用電動機74は電力を発生する(回生)。機械制御装置70は、電動機制御装置65を制御して、走行用電動機73及び旋回用電動機74が発生した電力を、電源中継車両8を介して電力供給・蓄電装置3へ戻す。また、機械制御装置70は、無線通信用アンテナ77を介して、図1に示す管理装置10と情報のやり取りをしたり、GPS用アンテナ67から得られたGPS衛星9a、9bからの電波によって自己位置を求めて管理装置10へ送信したりする。
【0035】
本実施形態において、電動機で駆動される機械7の要素は、上述したものに限定されるものではない。例えば、機械7は、履帯72の駆動のみに電動機を用いてもよいし、作業機の駆動のみに電動機を用いてもよいし、上部旋回体の旋回のみに電動機を用いてもよい。また、機械7は、履帯72と、作業機と、上部旋回体との少なくとも1つの駆動に電動機を用いてもよい。例えば、作業機の駆動に電動機を用いた場合、ブームが下がるときに電動機を駆動して、電力を発生させることができる。
【0036】
<車両及び機械の動作>
一般に、鉱山において、採掘現場は、鉱石を採掘するために掘削してできた穴の底にあることが多い。このため、車両6は、前記穴の底で、鉱石又は土砂等の荷物Lがベッセル6Vに積み込まれることが多い。そして、ベッセル6Vに荷物Lを積み込んだ車両6は、穴の出口に向かって上り坂RUを走行する。すなわち、通常、上り車両6Uは、ベッセル6Vに荷物を積み込んだ状態である。上り車両6Uは、上り坂RUの上方にあるホッパPまで走行すると、ベッセル6Vの一方を上昇させて、ベッセル6Vに積み込まれた荷物LをホッパP内へ投入する。
【0037】
荷物Lを搬送している車両6は、坂RUを走行するときに最も負荷が大きくなる。すなわち、荷物Lが積み込まれた上り車両6Uは、走行する際に使用するエネルギーが最も大きくなる。このため、上り車両6Uは、上り坂RUを走行するときには、集電装置6Pを上昇させて上り坂RUに設けられた第1架線1に接触させ、第1架線1を介して電力供給・蓄電装置3から電力の供給を受ける。このようにすることで、上り車両6Uは、電力供給・蓄電装置3から十分な量の電力の供給を受けることができるので、上り車両6Uは、荷物Lが積み込まれた状態でも確実に上り坂RUを登坂することができる。なお、上り車両6Uが上り坂RDを走行しているときには、内燃機関63及び発電機64による発電を併用してもよいし、内燃機関63を停止してもよい。
【0038】
なお、本実施形態において、上り車両6Uは、集電装置6Pを前方、すなわち、進行方向側にして上り坂RUを走行する。ベッセル6Vから荷物Lが落下した場合、後方、すなわち進行方向反対側に荷物Lは落下する。集電装置6Pを使用するときに、上述のようにすることで、ベッセル6Vから落下した荷物Lが集電装置6Pに衝突する事態を回避できる。その結果、集電装置6Pに発生する不具合を抑制することができる。
【0039】
ホッパPに荷物Lを投入した車両6は、ベッセル6Vが空荷となるので、下り坂RDを走行して、鉱石の採掘現場に向かう。下り坂RDを走行する車両6、すなわち下り車両6Dは、集電装置6Pを第2架線2に接触させた状態で走行する。下り車両6Dが下り坂RUを走行するときには、下り車両6Dの位置エネルギーが運動エネルギーに変換される。鉱山用電力管理システム100において、下り車両6Dは、電動機62を発電機として用い、位置エネルギーが変換された運動エネルギーを用いて電力を発生させる(回生)。このようにすることで、下り車両6Dの電動機62は、電力を発生するとともに、下り車両6Uを制動する。電動機62が発生した電力は、第2架線2に戻り、電力供給・蓄電装置3を介して第1架線1から上り車両6Uに供給されたり、電力供給・蓄電装置3に蓄えられたりする。このように、鉱山用電力管理システム100は、第2架線2を下り坂RDに設けて、下り車両6Dが走行するときの運動エネルギーを利用して電動機62に回生させることにより、鉱山で作業する車両6及び機械7全体でみた場合、これらが消費する電力を大幅に低減することができる。その結果、鉱山用電力管理システム100は、鉱山における消費電力を抑制することができる。
【0040】
また、機械7も、走行用電動機73及び旋回用電動機74が電力を発生させる。この電力は、電源中継車両8を介して電力供給・蓄電装置3へ戻されて、蓄電装置3Bに蓄えられたり、第1架線1に供給されたりする。このため、鉱山用電力管理システム100は、機械7によって生み出された電力も有効に利用できるので、鉱山で作業する車両6及び機械7全体の電力消費を大幅に低減することができる。
【0041】
鉱山用電力管理システム100において、上り坂RU高さの総和H1sと、下り坂RDの高さの総和H2sとは、両者の平均値Hav=((H1s+H2s)/2)に対して±10%以内が好ましく、±5%以内がより好ましく、さらには等しいことが好ましい。上り坂RUの高さの総和とは、第1架線1が設けられる上り坂の数n(自然数)と高さH1との積(n×H1)である。下り坂RDの高さの総和とは、第2架線1が設けられる下り坂の数m(自然数)と高さH1との積(m×H2)である。すなわち、H1s/Hav及びH2s/Havは0.9以上1.1以下が好ましく、0.95以上1.05以下がより好ましく、さらには1であることが好ましい。H1s/Hav及びH2s/Havを上記のような範囲とすることにより、下り車両6Dからの電力を、バランスよく第1架線1に配分することができる。このため、後述する電力配分のための車両6の配分が容易になる。
【0042】
なお、下り坂RDの高さの総和H2sは、上り坂RU高さの総和H1sより大きくてもよい。下り車両6Dは、荷物Lを積み込んでいないので、同じ高さの上り車両6Uと比較して位置エネルギーが小さい。このため、下り坂RDの高さの総和H2sを上り坂RU高さの総和H1sよりも大きくすることにより、下り坂RDを走行する下り車両6Dの数を、上り坂RUを走行する上り車両6Uの数よりも多くすることができる。その結果、鉱山用電力管理システム100は、下り車両6Uが発生する電力をより大きくすることができるので、上り車両6Uが必要とする電力を供給しやすくなる。
【0043】
特に、鉱山においては、稼働している車両6の総数は大きく変化せず、また、予め立案された生産計画に従って車両6及び機械7が稼働する。このため、鉱山においては、電力の需要を予測しやすい。また、鉱山用電力管理システム100は、管理装置10が車両6の稼働状況及び配車を管理していることから、荷物Lを積み込んで上り坂RUを走行する上り車両6Uと、下り坂RDを走行する下り車両6Dとの割合を調整することによって、車両6の電力消費と電力供給とのバランスを調整しやすくなる。次に、鉱山用電力管理システム100の機能及び本実施形態に係る電力配分の制御の一例を説明する。
【0044】
<鉱山用電力管理システムの機能>
図4は、本実施形態に係る鉱山用電力管理システムの機能を説明するための機能ブロック図である。鉱山用電力管理システム100の処理は、管理装置10と、図1、図2に示す車両6が有する車両制御装置60と、図1、図3に示す機械7が有する機械制御装置70とが実現する。管理装置10は、電力制御部10Aと、電力収支計算部10Bと、作業管理部10Cと、通信制御部10Dとを含む。これらの機能は、コンピュータである管理装置10が電力制御部10A等の機能を実現するためのコンピュータプログラムを実行することにより実現される。なお、電力制御部10A等は、ハードウェアで構成されてもよい。
【0045】
電力制御部10Aは、電力供給・蓄電装置3と電力のやり取りをする機械7、上り車両6U及び下り車両6Dが消費する総電力が、機械7、上り車両6U及び下り車両6Dが発生する総電力以下になるように、少なくとも機械7と上り車両6Uと下り車両6Dとの間における電力配分を制御する。電力収支計算部10Bは、鉱山用電力管理システム100における電力収支を計算する。例えば、電力収支計算部10Bは、電力供給・蓄電装置3と電力のやり取りをする機械7、上り車両6U及び下り車両6Dが消費する総電力と、機械7、上り車両6U及び下り車両6Dが発生する総電力との電力収支(鉱山機械電力収支)を計算する。
【0046】
また、電力収支計算部10Bは、電力供給・蓄電装置3から供給される電力と、機械7及び下り車両6D等が発生する電力とを供給電力とし、電力を発生していない機械7及び上り車両6U等が消費する電力を消費電力として、両者の収支を電力収支として計算する。供給電力の方が消費電力よりも大きい場合、余剰の電力が発生するので、電力制御部10Aは、これを蓄電装置3に蓄えたり、発電所4からの電力供給を低減したり、第1架線1からの電力供給を増加させたりする。第1架線1からの電力供給を増加させる場合、電力制御部10Aは、例えば、内燃機関63による発電も用いている上り車両6Uがある場合には、内燃機関63を停止させ、走行に必要な全エネルギーを第1架線1から供給される電力とする。
【0047】
車両6が作業者によって操作される場合、すなわち、車両6が有人車両である場合、内燃機関63を停止させるにあたって、電力制御部10Aは、例えば、車両6内の操作パネルに設けられた表示装置に、内燃機関63を停止させる旨を表示して、車両6の作業者に内燃機関63を停止させてもよい。また、有人車両の内燃機関63を停止させるにあたって、電力制御部10Aは、内燃機関63を自動的に停止させるとともに、内燃機関63を停止させたことを前記表示装置に表示させるようにしてもよい。
【0048】
消費電力の方が供給電力よりも大きい場合、電力を必要とするので、電力制御部10Aは、不足分を蓄電装置3から供給させたり、発電所4からの電力供給を増加したり、第2架線2からの電力供給を増加させたりする。第2架線2からの電力供給を増加させる場合、電力制御部10Aは、例えば、下り坂RDにより多くの車両6を走行させるように車両6を配車する。また、下り坂RDを走行している下り車両6Dは、通常内燃機関63を停止しているが、例えば、電力制御部10Aは、そのような下り車両6Dの内燃機関63を運転させて発電機64を駆動することで電力を発生させ、電動機62の回生によって得られた電力とともに第2架線2へ供給させてもよい。
【0049】
有人車両において、内燃機関63の運転を再開させる場合、電力制御部10Aは、例えば、車両6内の操作パネルに設けられた表示装置に、内燃機関63を運転して発電し、得られた電力を第2架線2へ供給する旨を表示して、車両6の作業者に内燃機関63による発電を行わせてもよい。また、有人車両の内燃機関63による発電を行わせるにあたって、電力制御部10Aは、内燃機関63を自動的に運転して発電を開始するとともに、内燃機関63の運転を開始して第2架線2への電力供給を開始したことを前記表示装置に表示させるようにしてもよい。
【0050】
鉱山で必要な電力が不足する場合、電力制御部10Aは、上り坂RUを走行する上り車両6Uの数を低減するように車両6を配車したり、走行中の上り車両6Uの速度を低下させたりして、電量消費を抑制する。この場合、電力制御部10Aは、内燃機関63を停止した状態で上り坂RUを走行中の上り車両6Uに対して、内燃機関63を運転することにより発電機64を駆動して、発電機64からの電力も用いて走行するようにさせてもよい。
【0051】
作業管理部10Cは、鉱山の生産計画を管理したり、車両6及び機械7の稼働状況及び保守・点検の時期を管理したり、車両6の給油時期を管理したり、作業者の作業状況を管理したりする。通信制御部10Dは、通信装置11を介して車両6の車両制御装置60及び機械7の機械制御装置70と通信して、相互に情報のやり取りをする。通信制御部10Dが車両制御装置60へ送る情報としては、例えば、車両6の集電装置6Pの昇降指令、内燃機関63の運転又は停止指令等があり、機械7の機械制御装置70へ送る情報としては、例えば、運転開始又は運転停止指令等がある。車両6の車両制御装置60又は機械7の機械制御装置70が通信制御部10Dへ送る情報としては、例えば、車両6の位置情報又は機械7の位置情報、電力消費情報、回生によって得られた電力の情報等がある。
【0052】
車両制御装置60は、例えば、コンピュータであり、車両駆動制御部60Aと、車両電力制御部60Bと、車両状態管理部60Cと、車両位置情報生成部60Dと、車両側通信制御部60Eとを含む。これらの機能は、車両制御装置60が車両駆動制御部60A等の機能を実現するためのコンピュータプログラムを実行することにより実現される。なお、車両駆動制御部60A等は、ハードウェアで構成されてもよい。
【0053】
車両駆動制御部60Aは、車両6の電動機62、内燃機関63等の出力を制御する。車両電力制御部60Bは、車両6が消費する電力と、車両6が発生する電力、すなわち、電動機62の回生によって得られる電力とを計算したり、管理装置10の電力制御部10Aからの指令により、内燃機関63を運転又は停止させたり、集電装置6Pを昇降させたりする。車両状態管理部60Cは、車両6に設けられた各種センサ類から車両6の状態を取得し、管理装置10へ送信する。車両位置情報生成部60Dは、GPS用アンテナ67が受信したGPS衛星9a、9bからの電波により、自己位置を把握して管理装置10へ送信する。なお、車両6の走行経路に信号発信器等を設置し、車両位置情報生成部60Dは、前記信号発信器が発する信号を取得して位置情報を生成してもよい(以下同様)。車両側通信制御部60Eは、無線通信用アンテナ66、管理装置10の通信装置11が有する無線通信用アンテナ12及び通信装置11を介して、管理装置10の通信制御部11Dと通信する。
【0054】
機械制御装置70は、例えば、コンピュータであり、機械駆動制御部70Aと、機械電力制御部70Bと、機械状態管理部70Cと、機械位置情報生成部70Dと、機械側通信制御部70Eとを含む。これらの機能は、機械制御装置70が機械駆動制御部70A等の機能を実現するためのコンピュータプログラムを実行することにより実現される。なお、機械駆動制御部70A等は、ハードウェアで構成されてもよい。
【0055】
機械駆動制御部70Aは、機械7の走行用電動機73、旋回用電動機74及び油圧生成用電動機75等の出力を制御する。機械電力制御部70Bは、機械7が消費する電力と、機械7が発生する電力、すなわち、走行用電動機73及び旋回用電動機74の回生によって得られる電力を計算したり、管理装置10の電力制御部10Aからの指令により、機械7の運転又は停止させたりする。機械状態管理部70Cは、機械7に設けられた各種センサ類から機械7の状態を取得し、管理装置10へ送信する。機械位置情報生成部70Dは、GPS用アンテナ78が受信したGPS衛星9a、9bからの電波により、自己位置を把握して管理装置10へ送信する。機械側通信制御部70Eは、無線通信用アンテナ77、管理装置10の通信装置11が有する無線通信用アンテナ12及び通信装置11を介して、管理装置10の通信制御部11Dと通信する。
【0056】
本実施形態において、管理装置10と車両制御装置60及び機械制御装置70とは、直接無線通信することによって情報をやり取りする。しかし、管理装置10と車両制御装置60及び機械制御装置70との通信はこのようなものに限定されるものではない。次に、鉱山用電力管理システム100が実行する電力配分の制御の一例を説明する。
【0057】
<電力配分の制御>
図5は、電力配分の制御の一例を示すフローチャートである。まず、ステップS101において、管理装置10の電力収支計算部10Bは、上述した鉱山機械電力収支を計算する。すなわち、ステップS101においては、機械7、上り車両6U及び下り車両6Dが消費する総電力(総消費電力)Pcと、機械7、上り車両6U及び下り車両6Dが発生する総電力(総発生電力)Psとの電力収支が計算される。
【0058】
次に、管理装置10は、処理をステップS102へ進める。ステップS102において、ステップS101において電力収支を計算した結果、総発生電力Psが総消費電力Pc以上である場合(ステップS102、Yes)、管理装置10は、処理をステップS103に進める。ステップS103において、管理装置10が有する電力制御部10Aは、車両6の使用状態、配車の状態及び機械7の使用状態については、現状を維持する。機械7、上り車両6Uが消費する電力は、機械7及び下り車両6Dが発生する電力の範囲内にあるからである。総発生電力Psが総消費電力Pcよりも大きい場合、鉱山においては余剰の電力が発生しているので、電力制御部10Aは、余剰の電力を蓄電装置3Bに蓄えたり、発電所4の出力を低下させたりしてもよい。
【0059】
ステップS102において、総発生電力Psが総消費電力Pcよりも小さい場合(ステップS102、No)、機械7、上り車両6Uが消費する電力は、機械7及び下り車両6Dが発生する電力の範囲を超えている。このため、管理装置10は、処理をステップS104に進め、電力制御部10Aは、総発生電力Psが総消費電力Pc以上になるように、電力配分を調整する。この場合、例えば、電力制御部10Aは、少なくとも機械7と上り車両6Uと下り車両6Dとの間における電力配分を制御することにより、Pc≦Psとする。鉱山において、機械7と上り車両6Uとが電力消費の大半を占める。また、発電所4以外に鉱山で得られる電力は、下り車両6D及び機械7の発生する電力が大きな割合を占める。また、発電所4は、急激な負荷変動に追従することが困難である。このため、電力制御部10Aは、少なくとも機械7と上り車両6Uと下り車両6Dとの間における電力配分を調整することにより、迅速かつ比較的容易にPc≦Psとすることができる。
【0060】
機械7と上り車両6Uと下り車両6Dとの間における電力配分を制御する手法としては、例えば、上り車両6Uの数と、下り車両6Dの数との配分を調整する手法がある。より具体的には、電力制御部10Aは、下り車両6Dの数を上り車両6Uの数よりも多くすることにより、下り車両6Dが発生する電力を増加させて(すなわち、総発生電力Psを増加させて)、Pc≦Psとする。このようにすれば、比較的簡単に、Pc≦Psとすることができる。下り車両6Dの数を上り車両6Uの数よりも多くする場合、有人の車両6の場合、電力制御部10Aは、操作パネルに下り坂RDに向かう指示を表示させる。
【0061】
また、電力制御部10Aは、少なくとも一部の上り車両6Uと、少なくとも一部の下り車両6Dと、少なくとも一部の機械7と、の少なくとも一つの消費電力を低減させることにより、Pc≦Psとすることもできる。これらの消費電力を低減させる手法は、例えば、上り車両6Uの速度を低下させたり、優先順位の低い作業を行っている機械7を停止させたりする手法がある。有人の車両6の場合、電力制御部10Aは、操作パネルにこれらの指令を表示させる。
【0062】
また、下り車両6Dは、電動機62が電力を発生させているが、補機類を駆動したりエアーコンディショナーを駆動したりするため、電動機62が発生した電力のすべてが第2架線2へ供給されるわけではない。このため、電力制御部10Aは、下り車両6Dについて、不要な補機類の運転を停止したり、設定温度の変更によりエアーコンディショナーの消費電力を低減したり、音響機器を停止させたりすることによって、電動機62が発生した電力のうち、第2架線2へ供給できる分を増加させることもできる。有人の車両6の場合、電力制御部10Aは、操作パネルにこれらの指令を表示させる。このようにして、電力制御部10Aは、Pc≦Psとする。
【0063】
Pc>Psである場合、電力供給・蓄電装置3の蓄電装置3Bから不足する電力を供給させてもよい。また、下り車両6Dが発電機64を有している場合、電力制御部10Aは、下り車両6Uの内燃機関63を始動させて発電機64を駆動することにより、発電機64から不足する電力を供給させてもよい。発電所4は、急な出力増加の要求に対応することは困難であるが、鉱山用電力管理システム100は、自己のシステム内の電力供給・蓄電装置3又は発電機64を有する車両6Dを用いて不足する電力を補うことができる。このため、鉱山用電力管理システム100は、発電所4では対応できない急激な消費電力の増加にも容易に対応することができる。
【0064】
ステップS104において、Pc≦Psとするように電力配分を制御する場合、電力制御部10Aは、機械7と、上り車両6Uと、下り車両6Dとのうち、優先度の低い順に消費電力を低減させてもよい。このようにすれば、優先度の高い作業を行っているもの、例えば、荷物を積み込んで上り坂RUを走行している上り車両6U又は採掘中の機械7等の作業を中断したり、これらの作業速度が低下したりすることを回避できるので好ましい。次に、優先度の低い順に消費電力を低減させる電力配分の制御の一例を説明する。
【0065】
図6は、優先度を考慮した電力配分の制御の一例を示すフローチャートである。次の説明は、上り坂RU及び下り坂RD以外の平地にも、架線が設けられている場所がある場合の例である。この制御においては、稼働している車両6の中で優先度を考慮して、電力配分を制御する。このため、稼働しているすべての車両6について、優先度を決定する。
【0066】
まず、ステップS201において、管理装置10の電力制御部10Aは、稼働している車両6のうち、ある車両6に着目した上で、着目した車両6が荷物Lを積み込んでいるか否かを判定する。例えば、電力制御部10Aは、着目した車両6に荷物Lの積載を完了したという情報を機械7から得た場合、着目した車両6が荷物Lを積み込んでいるとして(ステップS201、Yes)、ステップS202へ処理を進める。電力制御部10Aは、着目した車両6に荷物Lの積載を完了したという情報を得ていない場合、着目した車両6が荷物Lを積み込んでいないとする(ステップS201、No)。
【0067】
ステップS202において、電力制御部10Aは、着目した車両6が上り坂RUを走行しているか否かを判定する。例えば、電力制御部10Aは、着目した車両6の位置情報を取得し、上り坂RUに相当する位置で、上り坂RUを上る方向に着目した車両6が移動していることを検出した場合、着目した車両6が上り坂RUを走行しているとして(ステップS202、Yes)、処理をステップS203に進める。電力制御部10Aは、例えば、着目した車両6が上り坂RUに相当する位置にいない場合には、着目した車両6が上り坂RUを走行していないとする(ステップS202、No)。
【0068】
ステップS203において、電力制御部10Aは、着目した車両6の前方に渋滞がないかを判定する。例えば、電力制御部10Aは、管理装置10の作業管理部10Cから、着目した車両6の情報と、着目した車両6が走行している上り坂RUを走行している他の車両6の情報(速度情報及び位置情報)とから、着目した車両6の前方の状態を把握する。例えば、着目した車両6の進行方向前方を走行する複数の車両6の速度が所定の閾値(例えば、4km/h)以下であるような場合、例えば、ホッパPへの投入待ちのために渋滞が発生している可能性が高い。このような場合、本実施形態においては、着目した車両6の前方に渋滞があるとみなす。ステップS203において、電力制御部10Aは、着目した車両6の進行方向前方に渋滞がない場合(ステップS203、Yes)、ステップS204に進み、着目した車両6の優先度を1(最も高い優先度)とする。着目した車両6は、荷物Lと積み込んで上り坂RUを走行しており、渋滞の影響を受けずにホッパPの位置まで到達できる。このため、このような車両6を優先してホッパPに荷物Lを投入させることで、車両6の稼働率を向上させ、鉱山の生産性を向上させることができる。
【0069】
次に、ステップS203に戻り、電力制御部10Aは、着目した車両6の進行方向前方に渋滞がある場合(ステップS203、No)、ステップS205に進む。ステップS205において、電力制御部10Aは、着目した車両6の優先度を2(2番目に高い優先度)とする。この場合、着目した車両6は、前方に渋滞があるものの、荷物Lを積み込んで上り坂RUを走行しているので、ある程度の電力を確保する必要があるからである。
【0070】
次に、ステップS202に戻り、電力制御部10Aは、着目した車両6が上り坂RUを走行していない場合(ステップS202、No)、ステップS206に進む。ステップS206において、電力制御部10Aは、着目した車両6の優先度を3(3番目に高い優先度)とする。この場合、着目した車両6は、上り坂RUを走行していないものの、荷物Lを積み込んで走行しているからである。
【0071】
次に、ステップS201に戻り、電力制御部10Aは、着目した車両6が荷物Lを積み込んでいない場合(ステップS201、No)、ステップS207に進む。ステップS207において、電力制御部10Aは、着目した車両6の優先度を4(4番目に高い優先度)とする。この場合、着目した車両6は、荷物Lも積み込んでいないので、下り坂RDを走行している可能性が高いからである。
【0072】
上述したステップS201からステップS207によって、着目した車両6の優先度が決定されたら、ステップS208に進み、電力制御部10Aは、稼働しているすべての車両6について優先度が決定されたか否かを判定する。稼働しているすべての車両6の優先度が決定されていない場合(ステップS208、No)、電力制御部10Aは、稼働しているすべての車両6の優先度が決定されるまで、ステップS201からステップS207を繰り返す。稼働しているすべての車両6の優先度が決定されている場合(ステップS208、Yes)、ステップS209に進む。そして、電力制御部10Aは、決定した優先度に基づいて、稼働しているそれぞれの車両6の電力配分を制御する。すなわち、電力制御部10Aは、優先度の低いもの、すなわち優先度が4のものから順に消費電力を低減させる。有人の車両6の場合、電力制御部10Aは、優先度に応じて、消費電力を低減させる指示を操作パネルに表示させる。なお、本実施形態では、車両6について優先度を決定し、電力を制御したが、機械7についても同様である。
【0073】
優先度を決定する手法は、上述した手法に限定されるものではない。例えば、稼働している機械7又は車両6の中で消費電力の大きい順に優先度を決定してもよいし、作業の重要度に応じて優先度を決定してもよい。また、車両6の燃料残量、車両6と給油場所との距離と情報も加味して、優先度を決定してもよい。さらに、本実施形態における電力配分の制御は、上述した1から4すべての優先度を決定する必要はなく、これらのうちの少なくとも1つを決定してもよいし、これらのうちの2以上を組み合わせて決定するようにしてもよい。
【0074】
以上、本実施形態は、下り坂に第2架線を設け、電動機で駆動される車両が下り坂を走行する場合に、前記電動機を発電機として電力を発生させて、第2架線を介して回収する。そして、回収した前記電力を、上り坂に設けた第1架線を介して上り坂を走行する電動機で駆動される車両へ供給する。このようにすることで、これまでは利用していなかった下り坂を走行するときの運動エネルギーを電気エネルギーに変換して利用できるので、その分、鉱山で使用される機械及び車両全体でみた場合における電力消費を抑制できる。その結果、本実施形態は、鉱山における電力消費を抑制できる。特に、鉱山で用いられる機械は、車両が走行する経路がほぼ決まっていること、一度上った車両はほぼ同じ距離だけ下ることから、消費する電力と得られる電力とを把握しやすい。このため、鉱山は、下る車両の位置エネルギーを電気エネルギーに変換して利用しやすい環境であるといえる。
【符号の説明】
【0075】
1 第1架線
2 第2架線
3 電力供給・蓄電装置
4 発電所
6 車両
6D 下り車両
6U 上り車両
6V ベッセル
6P 集電装置
7、7a、7b 機械
8、8a、8b 電源中継車両
10 管理装置
10A 電力制御部
10B 電力収支計算部
10C 作業管理部
10D 通信制御部
11 通信装置
12 無線通信用アンテナ
20、20a、20b 電源ケーブル
21、22 送電線
60 車両制御装置
60A 車両駆動制御部
60B 車両電力制御部
60C 車両状態管理部
60D 車両位置情報生成部
60E 車両側通信制御部
61 車輪
62 電動機
63 内燃機関
64 発電機
65 電動機制御装置
70 機械制御装置
70A 機械駆動制御部
70B 機械電力制御部
70C 機械状態管理部
70D 機械位置情報生成部
70E 機械側通信制御部
71 電動機制御装置
72 履帯
73 走行用電動機
74 旋回用電動機
75 油圧生成用電動機
76 油圧ポンプ
100 鉱山用電力管理システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上り坂に設けられるとともに、前記上り坂を走行する上り車両との間で電力をやり取りする第1架線と、
下り坂に設けられるとともに、前記下り坂を走行する下り車両との間で電力をやり取りする第2架線と、
少なくとも前記第1架線及び前記第2架線との間で電力のやり取りをする電力供給・蓄電装置と、
を含むことを特徴とする鉱山用電力管理システム。
【請求項2】
前記電力供給・蓄電装置と電力のやり取りをする機械、前記上り車両及び前記下り車両が消費する総電力が、前記機械、前記上り車両及び前記下り車両が発生する総電力以下になるように、少なくとも前記機械と前記上り車両と前記下り車両との間における電力配分を制御する電力制御部を有する請求項1に記載の鉱山用電力管理システム。
【請求項3】
前記電力制御部は、
前記上り車両の数と、前記下り車両の数との配分を調整することにより、前記電力配分を制御する請求項2に記載の鉱山用電力管理システム。
【請求項4】
前記電力制御部は、
前記機械、前記上り車両及び前記下り車両が発生する総電力よりも前記機械、前記上り車両及び前記下り車両が消費する総電力の方が大きい場合に、少なくとも一部の前記上り車両と、少なくとも一部の前記下り車両と、少なくとも一部の前記機械と、の少なくとも一つの消費電力を低減させる請求項2に記載の鉱山用電力管理システム。
【請求項5】
前記電力制御部は、
前記機械と、前記上り車両と、前記下り車両とのうち、優先度の低い順に前記消費電力を低減させる請求項4に記載の鉱山用電力管理システム。
【請求項6】
前記電力制御部は、
前記機械、前記上り車両及び前記下り車両が発生する総電力よりも前記機械、前記上り車両及び前記下り車両が消費する総電力の方が大きい場合に、前記電力供給・蓄電装置から不足する電力を供給させる請求項2に記載の鉱山用電力管理システム。
【請求項7】
前記下り車両が発電機を有している場合、
前記電力制御部は、
前記機械、前記上り車両及び前記下り車両が発生する総電力よりも前記機械、前記上り車両及び前記下り車両が消費する総電力の方が大きい場合に、前記下り車両の発電機から不足する電力を供給させる請求項2に記載の鉱山用電力管理システム。
【請求項8】
前記第1架線が設けられている上り坂の高さの総和と、前記第2架線が設けられている下り坂の高さの総和とは、両者の平均値に対して±10%以内である請求項1から7のいずれか1項に記載の鉱山用電力管理システム。
【請求項9】
前記第2架線が設けられている下り坂の高さの総和は、前記第1架線が設けられている上り坂の高さの総和よりも大きい請求項1から7のいずれか1項に記載の鉱山用電力管理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−236436(P2012−236436A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104938(P2011−104938)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】