説明

閉鎖循環型連鎖栽培方法

【課題】炭酸ガス排出の問題に対する環境保全を目途とする環境にやさしい閉鎖循環方式を有する食料品または薬用品(Mu及びVe)の連鎖栽培方法を提供する。
【解決手段】閉鎖循環型連鎖栽培方法Aは、Muの呼吸により排出される炭酸ガスの量と、Veの光合成に消費される炭酸ガスの量と、を所定の条件を調整することにより最適化して、所定量以上の量のMu及びVeを収穫することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として食用または薬用菌類(以下、Muという)、及び光合成を行う植物または藻類(以下、Veという)による、環境にやさしい閉鎖循環(外部との完全密閉型を含む。以下、閉鎖循環という)型連鎖栽培方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、植物、生物、及び菌類間の生態学的な循環システムについては多く知られている(たとえば、非特許文献1参照)。これらの循環システムは、通常、植物、生物、及び菌類間における主として炭素や酸素、水素、窒素、燐、硫黄、ハロゲン等を含んだ有機化合物を中心とする地球上の循環システムに関するものである。そして、植物としては、主として森林等を形成する樹木を対象として光合成による炭素の固定化を中心に研究がされている。
【0003】
また一方、キノコ類や野菜類の栽培方法についても、過去多くの研究、実践が見受けられる(たとえば、特許文献1、2参照)。しかしながら、これらの文献に記載されているような栽培方法は、単一のキノコ類や野菜類を単一的な栽培方法として提示するものであり、キノコ類や野菜類を連鎖的に栽培する方法で、しかも閉鎖循環方式による環境保全を目的として栽培する方法及び装置を提示するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−129563号公報(第1頁等)
【特許文献2】特開平09−023744号公報(第1頁等)
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】甲山隆司他9名共著「植物生態学」朝倉書店出版、2006年3月30日発行、p.330〜334
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、炭酸ガス(二酸化炭素)による大気汚染、地球温暖化の問題は、グローバルに検討されている。また一方で、将来起こる可能性がある地球規模の天候不順や災害により発生すると思われる世界規模の食糧不足が懸念されている。これらのことを考慮すると、炭酸ガスの大気への排出を如何に少なくするか、また如何に食糧を確保するかという命題については、早急な対策を要しているということが求められていると言えよう。
【0007】
後者の命題に対しては、天候依存による従来型農業から、効率が良く、且つ、環境保全に適した人工栽培システムによる近代的農業への転換が図られつつある。しかしながら、従来行われている人工栽培システムは、その対象を穀物とか、野菜とかに限定した形で施工されており、これらを効率よく、栽培生産するために大量の光エネルギーと炭酸ガスを供給する必要があり、これらは現在各種の手段により充当されている。
【0008】
たとえば、炭酸ガスについて言えば、ボンベ詰めの炭酸ガスを製造メーカーより購入し、これを栽培地に供給するような手段が用いられている。このことは、単にボンベ詰め炭酸ガスの購入により栽培コストがかかるばかりでなく、炭酸ガスを生産し、ボンベ詰めをするための別途のエネルギーが消費されていることに外ならない。
【0009】
本発明は、上記に鑑み、炭酸ガス排出の問題に対する環境保全を目途とする環境にやさしい閉鎖循環方式を有する食料品または薬用品(Mu及びVe)の連鎖栽培方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の閉鎖循環型連鎖栽培方法は、第1の空間で栽培される食用または薬用菌類(以下、Muという)の呼吸により排出される炭酸ガスを、前記第1の空間に連結され、前記第1の空間とは異なる別個の第2の空間で栽培される光合成を行う植物または藻類(以下、Veという)の光合成に消費する炭酸ガス量に充当させる炭酸ガスの閉鎖循環型連鎖栽培方法であって、前記Muの呼吸により排出される炭酸ガスの量と、前記Veの光合成に消費される炭酸ガスの量と、を所定の条件で調整して、前記Mu及び前記Veを連鎖栽培することを特徴としている。
【0011】
本発明の閉鎖循環型連鎖栽培方法は、前記所定の条件が、温度条件、光量条件、湿度条件、炭酸ガス濃度条件、土壌条件及び養液条件のうちの少なくとも1つであることを特徴としている。
【0012】
本発明の閉鎖循環型連鎖栽培方法は、1日を複数分nに分割し、この複数数nに相当する数Nvの前記第2の空間を配設し、この数Nvのうち所定個数の第2の空間に対して光合成期間を設け、この光合成期間にある前記第2の空間に前記Muから発生する炭酸ガスを供給することを特徴としている。
【0013】
本発明の閉鎖循環型連鎖栽培方法は、前記第2の空間に供給される炭酸ガスの量が、前記第1の空間において前記Muから発生する炭酸ガスの各生育サイクル段階における量の平均値を基準供給量として調整することを特徴としている。
【0014】
本発明の閉鎖循環型連鎖栽培方法は、前記第2の空間には、前記Muの栽培において、出荷最少単位量のMuの栽培に必要な栽培用領域を充当された容器を1単位として、且つその複数を集合して1ステージとし、その複数のステージごとに生育時期をずらして生育し、前記複数のステージによる消費炭酸ガス量の平均値としての量を前記基準供給量として供給されることを特徴としている。
【0015】
本発明の閉鎖循環型連鎖栽培方法は、前記Muの栽培量Qmと前記Veの栽培量Qvの比K=Qv/Qmが1〜100であり、前記数Nvが1〜5であることを特徴としている。
【0016】
本発明の閉鎖循環型連鎖栽培方法は、前記Muの栽培量Qmと前記Veの栽培量Qvの比K=Qv/Qmが1〜5であり、前記数Nvが1〜3であることを特徴としている。
【0017】
本発明の閉鎖循環型連鎖栽培方法は、前記比Kをもって、前記第1の空間の数Nmを基準とした、前記第2の空間の数Nvに充当されることを特徴としている。つまり、栽培量Qm及び栽培量Qvは、基本的に各全栽培株数で与えられ、これをベースとしてCO2 量バランスが図られる。このCO2 量バランスは、基本的には下記式をベースとして与えられる(下段で詳細に説明する)。
(式) n・Σ|Cvi|=X・Y・m・Σ|Cmi|
【0018】
本発明の閉鎖循環型連鎖栽培方法は、前記Muが、人工栽培可能な食用きのこ類または薬用きのこ類より選ばれた1種類であることを特徴としている。
【0019】
本発明の閉鎖循環型連鎖栽培方法は、前記Veのうち光合成を行う植物が、人工栽培可能な野菜類または薬用植物より選ばれた1種類であることを特徴としている。
【0020】
本発明の閉鎖循環型連鎖栽培方法は、前記Veのうち光合成を行う藻類が、人工栽培可能な食用または薬用藻類より選ばれた1種類であることを特徴としている。
【0021】
本発明の閉鎖循環型連鎖栽培方法は、前記Mu及び前記Veの栽培に利用する温度、光量、湿度、炭酸ガス濃度の供給を、地熱エネルギー、ソーラーエネルギー、風力エネルギー、水力及び原子力、化石エネルギーの少なくとも1種を直接または間接に利用して行われることを特徴としている。
【0022】
本発明の閉鎖循環型連鎖栽培方法は、前記Mu及び前記Veの栽培に利用する光量を、蛍光灯もしくは放電灯、発光ダイオード、有効波長を有する有機ELにより供給することを特徴としている。
【発明の効果】
【0023】
本発明の閉鎖循環型連鎖栽培方法によれば、炭酸ガス排出の問題に対する環境保全を目途とする環境にやさしい、且つ効率が良く、経済的な人工栽培システムによる近代的な食品または薬品の供給を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態に係る閉鎖循環型連鎖栽培方法の概念を概略的に示す概略概念図である。
【図2】Veが野菜類の場合の生育サイクル過程における消費炭酸ガス量の変化の一例を示すグラフである。
【図3】Muの生育サイクル過程における発生炭酸ガス量の変化の一例を示すグラフである。
【図4】Veが藻類の場合における閉鎖循環型連鎖栽培方法の概念を概略的に示す概略概念図である。
【図5】Veが藻類の場合の生育サイクル過程における消費炭酸ガス量の変化の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る閉鎖循環型連鎖栽培方法(以下、方法Aという)の概念を概略的に示す概略概念図である。図2は、Veが野菜類の場合の生育サイクル過程における消費炭酸ガス量の変化の一例を示すグラフである。図3は、Muの生育サイクル過程における発生炭酸ガス量の変化の一例を示すグラフである。図4は、Veが藻類の場合における方法Aの概念を概略的に示す概略概念図である。図5は、Veが藻類の場合の生育サイクル過程における消費炭酸ガス量の変化の一例を示すグラフである。図1〜図5に基づいて、方法Aについて説明する。なお、図1を含め、以下の図面では各構成部材の大きさの関係が実際のものとは異なる場合がある。また、図1ではVeが植物の場合を、図4ではVeが藻類の場合を、それぞれ想定している。
【0026】
この方法Aの基本的な要旨は、別個の空間(ハウスまたはチャンバー)の間の閉鎖循環方式にあり、また、その必須条件として、炭酸ガスの閉鎖回路外への排出、取り入れを行わないためのVe、Muの生産体系のバランスを採るところにある。
【0027】
図1に示すように、方法Aは、第1の空間1、第2の空間2−1、第2の空間2−2、送気ポンプ付き切り替えバルブ3、環流用切り替えバルブ4、送気用連結管5、送気用連結管6、環流用連結管7、及び、環流用連結管8を用いて実行されるようになっている。なお、以下の説明において、第2の空間2−1、第2の空間2−2をまとめて第2の空間2と称する場合があるものとする。
【0028】
第1の空間1は、Mu栽培用の単一のハウスまたはチャンバーである。第2の空間2−1及び第2の空間2−2は、Ve栽培用のハウスまたはチャンバーである。送気ポンプ付き切り替えバルブ3は、第1の空間1より、第2の空間2−1または第2の空間2−2へ流体を送気するものである。環流用切り替えバルブ4は、送気ポンプ付き切り替えバルブ3から送気された流体を第2の空間2−1または第2の空間2−2より、第1の空間1へ還流させるものである。
【0029】
送気用連結管5は、第1の空間1と第2の空間2−1とを送気ポンプ付き切り替えバルブ3を介して連結するものである。送気用連結管6は、第1の空間1と第2の空間2−2とを送気ポンプ付き切り替えバルブ3を介して連結するものである。環流用連結管7は、第2の空間2−1と第1の空間1とを環流用切り替えバルブ4を介して連結するものである。環流用連結管8は、第2の空間2−2と第1の空間1とを環流用切り替えバルブ4を介して連結するものである。
【0030】
第1の空間1及び第2の空間2を、送気用連結管(送気用連結管5及び送気用連結管6)及び環流用連結管(環流用連結管7及び環流用連結管8)で連結し、少なくとも炭酸ガスに関して閉鎖循環回路を形成している。また、第1の空間1及び第2の空間は、平面的または階層的に配置されている。ただし、第1の空間1及び第2の空間2は、同一ハウス内における別個のチャンバーであってもよい。
【0031】
図4に示す方法Aは、Veが藻類の場合を想定しているものとする。この方法Aの基本的な要旨は、図1に示す方法Aと同様であり、ハウスまたはチャンバー間の閉鎖循環方式にあり、また、その必須条件として、炭酸ガスの閉鎖回路外への排出、取り入れを行わないためのVe、Muの生産体系のバランスを採るところにある。なお、図4では、図1における記号と同一の記号の部材名は図1に準じる。
【0032】
図4に示すように、方法Aは、基本的に図1と同様であるが、圧縮機P1、循環用ポンプP2、バブル発生用フィルターF、生育用水槽T、水温制御調整用コントローラ機器C1、光量制御調整用コントローラ機器C2を設けた点で図1とは相違している。
【0033】
圧縮機P1は、送気ポンプ付きバルブ3から送気された流体を加圧して第2の空間2−1に向けて吐出するものである。循環用ポンプP2は、生育用水槽Tに貯留されている水を循環させるものである。バブル発生用フィルターFは、生育用水槽Tに設けられ、圧縮機P1により吐出された流体をバブルとして生育用水槽Tに貯留されている水に供給するものである。生育用水槽Tは、水が貯留され、藻類が生育されるものである。水温制御調整用コントローラ機器C1は、循環用ポンプP2から送られる水温を検知し、生育用水槽Tに貯留される水温を所定の範囲に制御するものである。光量制御調整用コントローラ機器C2は、第2の空間2−1の天井などに設置され、第2の空間2−1内の光量を調整するものである。
【0034】
すなわち、方法Aは、閉鎖循環方式の対象を少なくとも炭酸ガスとし、Muの呼吸により排出される炭酸ガスを用いて、Veの光合成に必要な消費炭酸ガス量に充当させ、Mu及びVeの各々の高効率的栽培に必要な所定の条件(たとえば、適正温度、光量、湿度、炭酸ガス濃度等)を適宜調整して、十分な生態バランスを図り、MuとVeの各々の連鎖栽培における栽培量を所望量確保しようとするものである。
【0035】
また、方法Aは、Muの栽培とVeの栽培とが、少なくとも炭酸ガスに関して閉鎖循環回路で連結された各別個の空間(同一ハウス内における別個のチャンバーも含む)で行われる。そして、方法Aでは、1日をたとえば整数分nに分割し、この整数分nに相当するVeの栽培用の数Nvの第2の空間2を配設する。また、方法Aでは、数Nvの第2の空間2のうち所定数の第2の空間2に対して漸次限定された光合成期間(明期)を設け、この光合成期間(明期)にある空間にMuの栽培用の第1の空間1においてMuより発生する炭酸ガスを含む空気を、切り替え口(送気ポンプ付き切り替えバルブ3)により漸次充当供給する。
【0036】
さらに、方法Aでは、Muの栽培とVeの栽培が行われる各別個の空間(第1の空間1、第2の空間2)の間において交換される炭酸ガスの量(つまり、第2の空間2に供給される炭酸ガスの量)は、第1の空間1において発生する各生育サイクル段階における量の平均値を基準供給量として調整されている。すなわち、方法Aでは、Muの栽培において出荷最少単位量のMuの栽培に必要な栽培用領域を充当された容器を1単位とし、且つ、その複数を集合して1ステージとし、その複数のステージごとに生育時期をずらして生育し、複数のステージによる消費炭酸ガス量の平均値としての量を基準供給量として第2の空間2に制御供給するようにしている。
【0037】
加えて、方法Aでは、Muの栽培による栽培量QmとVeの栽培による栽培量Qvの比K=Qv/Qmが1〜100、好ましくは1〜5であり、第2の空間2の数Nvが1〜5、好ましくは1〜3であるものとしている。つまり、方法Aでは、栽培量Qmと栽培量Qvの比Kをもって、Muの栽培用の第1の空間1の数Nmを基準としたVeの栽培用の第2の空間2の数Nvに充当しているのである。
【0038】
栽培量Qm及び栽培量Qvは、基本的に各全栽培株数で与えられ、これをベースとしてCO2 量バランスが図られる。CO2 量バランスは、基本的には下記式をベースとして与えられる。このCO2 量バランスとは、Veの光合成に必要な消費炭酸ガス量=Muの呼吸により排出される炭酸ガス量をベースとしたものである。
【0039】
(式) n・Σ|Cvi|=X・Y・m・Σ|Cmi|
n:1ステージ内のVeの株数
m:1ステージ内のMuの株数
Σ?Cvi?:1ステージ内のVeの平均吸収CO2 量のステージ数合計量
Σ?Cmi?:1ステージ内のMuの平均発生CO2 量のステージ数合計量
X:第2の空間2におけるCO2 の希釈率に対する修正項(たとえば、Xは体積比(≒栽培面積比≒空間の数の比)≒Av/Am≒Hv/Hm等として使用するとよい)
Y:Ve及びMuの種類に対する修正項(Ve及びMuの種類によって条件が変化することによる修正項)
【0040】
なお、ステージとは、栽培開始単位の栽培ブロックの意味、すなわち発生期の3日目とか、5日目という(細かな)生育の区分である。また、AvがVeの栽培エリアを、AmがMuの栽培エリアを、それぞれ表している。さらに、HvがVeの栽培空間の個数を、HmがMuの栽培空間の個数を、それぞれ表している。
【0041】
また、方法Aでは、高効率的栽培に必要な所定の条件、たとえば適正温度、光量、湿度、炭酸ガス濃度または溶解度等が地熱エネルギー、ソーラーエネルギー、風力エネルギー、水力もしくは原子力、化石エネルギーの少なくとも1種を利用して得ている。さらに、方法Aでは、高効率的栽培に必要な光量を、蛍光灯、放電灯、発光ダイオード、有効波長を有する有機ELの単独もしくは共用により供給するようにしている。
【0042】
方法Aは、次の各ステップにより検討され、構成される。
ステップ1:標準生育条件における所要Veの種類の生育サイクル過程の各段階において光合成作用により吸収されるべき炭酸ガスの量Cvの測定と収穫量の確認。
ステップ2:標準生育条件における所要Muの種類の生育サイクル過程の各段階において排出される炭酸ガスの量Cmの測定と収穫量の確認。
ステップ3:高効率生育条件(たとえば、光照射条件、温度条件、湿度条件、炭酸ガス濃度条件、土壌条件あるいは養液条件)における所要Ve、Muの種類の生育サイクル過程の各段階においてCv、Cmの測定と収穫量の確認。
【0043】
ステップ4:空間(第1の空間1、第2の空間2)内におけるVe、Muの最適分割ステージ数の決定(出荷量、炭酸ガスの平均値とバラツキ)。
ステップ5:Cmの供給分割数(Mu栽培の第1の空間1の数Nmに対する、複数のVe栽培の第2の空間2(または生育用水槽T)の数Nv)の決定。
ステップ6:Cmの供給分割に要する制御方式の設定。
ステップ7:第1の空間1又は第2の空間2の構造、各種設備、装置の設定(たとえば、気密方式、雰囲気の均一化、作業性、適正バブル発生、光量制御、温度制御、送気制御等の設定)。
【0044】
ステップ1〜4は、ステップ5におけるVe栽培の第2の空間2の数Nvの決定に必要な、基本データの採取ステップである。ステップ6、7は、ステップ5に適応するための設備的要素であり、設備費、償却内容を含めて検討される。
【0045】
ステップ1において、標準生育条件として、光量、温度、湿度、土壌条件あるいは養液条件を固定している。また、所要Veの種類としては、光合成を行う植物の種類(たとえば、レタス、小松菜、グリーンリーフ、ホウレン草、チンゲン菜、カイワレ、エンダイブ等)、または光合成を行う人工栽培可能な食用または薬用藻類の種類(たとえば、アオノリ、わかめ、昆布、ひじき、もずく、クロレラ等)等を利用する。そして、所要Veの種類の生育サイクル過程の各段階において光合成作用により吸収されるべき炭酸ガスの量Cvを測定する。Cvの測定は、たとえば透明試験チャンバーまたは水槽内における生育状態(上面または側面よりの正射影面積)に対する消費炭酸ガス量を測定することにより行うとよい。
【0046】
図2は、Veのうち野菜類の種類をパラメーターとして、横軸に生育経過日数、縦軸に炭酸ガス測定量の変化を示す曲線の一例を示したものである。また、図2に示すVe1がレタス、Ve2がコマツナ、Ve3がホウレン草を表している。図2から、レタス(Ve1)、コマツナ(Ve2)、ホウレン草(Ve3)等の種類により、該曲線に差異が認められるということがわかる。
【0047】
ステップ2においては、標準生育条件として、光量、温度、湿度、炭酸ガス濃度、土壌条件あるいは養液条件を固定している。また、所要Muの種類としては、たとえば、まいたけ、ぶなしめじ、しいたけ、エリンギ、エノキタケ等を利用する。そして、所要Muの種類の生育サイクル過程の各段階において発生する炭酸ガス量Cmを測定する。Cmの測定も、Cvの測定と同様に行えばよい。
【0048】
図3は、Muのうち食用きのこ類の種類をパラメーターとして、横軸に生育経過日数、縦軸に発生する炭酸ガス測定量の変化を示す曲線の一例を示したものである。また、図3に示すMu1がまいたけ、Mu2がぶなしめじ、Mu3がしいたけ、Mu4がエリンギ、Mu5がエノキタケを表している。図3から、まいたけ(Mu1)、ぶなしめじ(Mu2)、しいたけ(Mu3)、エリンギ(Mu4)、エノキタケ(Mu5)等の種類により、該曲線に差異が認められるということがわかる。
【0049】
ステップ3においては、ステップ1及びステップ2をベースに、所要Ve、所要Muの種類ごとに高収穫量が期待できる高効率生育条件(光照射条件、温度条件、湿度条件、炭酸ガス濃度、土壌条件あるいは養液条件)を設定し、各生育サイクル過程の各段階におけるCv、Cmの測定と最終収穫量を確認するものである。あるレベル以上の最終収穫量を確保でき、且つ各生育サイクル過程の各段階におけるCv、Cmの変化の平均値に対してバラツキが比較的少ない条件が好ましい。
【0050】
ステップ4においては、Ve、Muの栽培のための第2の空間2または第1の空間1内において、対象Ve、Muの生育サイクル過程の各段階別に最適分割ステージ数に分けて栽培するステージ数を決定するものである。この分割ステージ数は、Cv、Cmの変化の平均値が、通年において連続的に安定した出荷量が期待できるような比較的安定した値をとるように選択される。この平均値が以下の各ステップの基準値として取り扱われる。
【0051】
ステップ5においては、Ve、Muの栽培のための第2の空間2または第1の空間1の数は、Cm、Cvの前記平均値のバランスがとれる形により決定する。基本的には、Mu側の発生炭酸ガスの量Cmの前記平均値を基準として、Veの栽培のための吸収炭酸ガスの量より第2の空間2の数Nvを決定する。この場合、Ve側の吸収炭酸ガス量は、Veの栽培のための第2の空間2内の平均値によって数Nvが決定される。
【0052】
ただし、Mu側の発生炭酸ガスの量Cmは、昼夜連続して発生されるのに対し、Veの栽培のためのサイクルは光合成を行う明期と光合成が休止される暗期とが交互に必要であり、この明期の時にのみ適正量の発生炭酸ガスの量Cmを供給することが必要である。したがって、供給分割数、すなわちMu栽培用の第1の空間1に対する、Ve栽培用の第2の空間2の数Nvは、Ve側の明期/暗期のインターバルをも考慮して決定することになる。
【0053】
ステップ6及びステップ7においては、前記各ステップに基づく方法Aを実行するための設備設定のためのステップである。すなわち、ステップ6及びステップ7においては、ステップ5により決定されたVeの栽培用の第2の空間2または水槽の数Nvに対し、Mu栽培用の第1の空間1から発生する炭酸ガスの量Cmの供給分割に要する制御方式を設定するものである。
【0054】
図1において、第2の空間2−1、第2の空間2−2の明期/暗期に対応して制御される生育条件(主として光量条件等)をベースとした電子制御により、または機械式又は手動により、第1の空間1から、第2の空間2−1、第2の空間2−2に対して送気する送気ポンプ付き切り替えバルブ3、及び還流用切り替えバルブ4を切り替える。送気ポンプ付き切り替えバルブ3及び還流用切り替えバルブ4の種類を特に限定するものではないが、たとえば単純な蝶形弁のようなものを使用するとよい。
【0055】
第1の空間1、第2の空間2の構造の設定にあたっては、閉鎖循環方式を前提としているため、ある程度の気密性が必要である。また、第1の空間1、第2の空間2においては、第1の空間1、第2の空間2内の少なくとも栽培領域における炭酸ガスを平均化するためのブロアー等による制御が必要である。さらに、第1の空間1、第2の空間2内の各ステージより順次収穫、出荷作業を容易に行うための作業性に優れた装置を用意しておくとよい。なお、第1の空間1におけるVeの栽培は、土壌栽培方式に限らず、水耕栽培方式を用いることもできる。
【0056】
また、Veが水槽にて生育される藻類、特に食用海藻類の場合は、図4に示されるごとくMuにより発生された炭酸ガスを含む空気を圧縮機P1により加圧し、生育用水槽に微細バブルを発生させるためのバブル用フィルターにより炭酸ガスを効率的に溶解させる。溶解度は約0.8m3 /ton(H2 O)を限度として生育に合わせて制御される。また、食用または薬用海藻類の生育は、水温、光量により大きく左右されるため水温制御付きの循環用ポンプP2及び光量制御調整用コントローラ機器C2を設ける。さらに、必要により養殖栄養剤の添加、塩分濃度調整を行うことができる。
【0057】
食用海藻類の場合には、生育サイクルは基本的には胞子発芽/集塊化期(以下、生育前期という)および藻体生育期(以下、生育後期という)の2サイクル期間とし、生育前期と生育後期とは別個の水槽にて調整生育されることが好ましい。また、水温は15℃以上25℃以下に調整されることが望ましい。
【0058】
以下、本発明の実施例について説明する。
方法Aを下記要領(実施例1〜実施例3)により実施、検証した。
【実施例1】
【0059】
<Mu側条件>
Muの種類 まいたけ
サイクル数 3(このうちの発生期分のまいたけを使用)
栽培単位 10株/ステージ
・栽培条件
光量 白色蛍光灯(500〜1000Lux)
温度 18℃前後
湿度 95%前後
炭酸ガス濃度 1000ppm以下
ハウス容量(第1の空間1の容量) 2.8×7.8×4.55(単位:m)
ハウス数 1
【0060】
<Ve側条件>
Veの種類 レタス(1)
サイクル数 3
栽培単位 180株/ステージ
・栽培条件
光量 Hf蛍光灯三波長昼白色(2400〜8000Lux)
温度 20.5〜28.0℃
湿度 60〜90%
炭酸ガス濃度 1000ppm以下
明期/暗期インターバル 12時間/12時間
ハウス容量(第2の空間2の容量) 2.8×7.8×4.55(単位:m)
ハウス数 2
切り替えバルブ シャッター付き換気扇
送気容量 13.9m3 /min.
【0061】
上記条件により、まいたけのサイクル数3(培養期分、芽出し期分、発生期分)とし、培養初期より50日、10日、10日のインターバルをもって順次ステージ順に生育終了とし、71日目からまいたけブロック10株ずつを順次商品出荷した。
【0062】
また、レタス(1)については、サイクル数3(発芽期分、第1成長期分、第2成長期分)とし、初期より15日毎のインターバルをもって順次ステージ順に生育終了とし、46日目からレタス(1)約360株ずつを順次商品出荷した。
【0063】
なお、Veハウス(第2の空間2)内における炭酸ガス濃度の平均化に若干の難があったが、まいたけ、レタス(1)共にいずれも出荷商品として十分な品質のものであった。
【実施例2】
【0064】
<Mu側条件>
Muの種類 ぶなしめじ
サイクル数 3(このうちの発生期分のぶなしめじを使用)
栽培単位 160株/ステージ
・栽培条件
光量 白色蛍光灯(200〜500Lux)
温度 13℃前後
湿度 90%前後
炭酸ガス濃度 2000〜3000ppm
【0065】
<Ve側条件>
Veの種類 レタス(2)
サイクル数 3
栽培単位 180株/ステージ
・栽培条件
光量 Hf蛍光灯三色波長昼白色(2400〜8000Lux)
温度 20.5〜28.0℃
湿度 60〜90%
炭酸ガス濃度 2000〜3000ppm
明期/暗期インターバル 12時間/12時間
*ハウス数、容量、送気容量、切り替えバルブの仕様は実施例1に準じた。なお、レタス(2)は、実施例1のレタス(1)とは異なる種類のものである。
【0066】
上記条件により、ぶなしめじのサイクル数3(培養期分、芽出し期分、発生期分)とし、培養初期より90日、10日、10日のインターバルをもって順次ステージ順に生育終了とし、111日目からぶなしめじ約160株ずつを順次商品出荷した。
【0067】
また、レタス(2)については、サイクル数3(発芽期分、第1成長期分、第2成長期分)とし、初期より15日毎のインターバルをもって順次ステージ順に生育終了とし、46日目よりレタス(2)約360株ずつを順次商品出荷した。
【0068】
なお、レタス(2)については、ハウス内の位置により成長に若干ムラがあり、ハウス内の株数、配置方法に若干配慮の余地があることが分かったが、ぶなしめじ、レタス(2)共にいずれも出荷商品としては十分な品質のものであった。
【実施例3】
【0069】
<Mu側条件>
実施例1に準じる。
【0070】
<Ve側条件>
Veの種類 わかめ
サイクル数 1(生育後期)
栽培単位 100g
・栽培条件
光量 Hf蛍光灯三色波長昼白色(5000Lux)
水温 15〜18℃
炭酸ガス溶解度 約0.5m3 ton(H2 O)
明期/暗期インターバル 12時間/12時間
水槽(生育用水槽T) 2.0×1.0×水深0.5(単位:m)
着床ネット
水槽数 2
【0071】
別途育成された生育前期の胞子発芽した糸状体100gを上記条件により着床ネット上にて育成した。育成期間30日後約10倍の「わかめ」が収穫された。収穫品は濃い褐色でつやがあり、商品価値として十分なものであった。
【0072】
まいたけは、培養初期より50日、10日、10日のインターバルをもって順次ステージ順に生育終了とし、71日目よりまいたけブロック10株ずつを順次商品出荷した。まいたけも、実施例1と同様に出荷商品としては十分な品質のものであった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、閉鎖循環型連鎖栽培方法のVeの対象を食用植物としての野菜類(レタス、小松菜、グリーンリーフ、ホウレン草、チンゲン菜、カイワレ、エンダイブ等)につき説明しているが、果菜、根菜類の野菜や果樹の場合にも利用可能である。
【符号の説明】
【0074】
1 第1の空間、2 第2の空間、2−1 第2の空間、2−2 第2の空間、3 送気ポンプ付き切り替えバルブ、4 環流用切り替えバルブ、5 送気用連結管、6 送気用連結管、7 環流用連結管、8 環流用連結管、A 閉鎖循環型連鎖栽培方法、P1 圧縮機、P2 循環用ポンプ、F バブル発生用フィルター、T 生育用水槽、C1 水温制御調整用コントローラ機器、C2 光量制御調整用コントローラ機器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の空間で栽培される食用または薬用菌類(以下、Muという)の呼吸により排出される炭酸ガスを、前記第1の空間に連結され、前記第1の空間とは異なる別個の第2の空間で栽培される光合成を行う植物または藻類(以下、Veという)の光合成に消費する炭酸ガス量に充当させる炭酸ガスの閉鎖循環型連鎖栽培方法であって、
前記Muの呼吸により排出される炭酸ガスの量と、前記Veの光合成に消費される炭酸ガスの量と、を所定の条件で調整して、前記Mu及び前記Veを連鎖栽培する
ことを特徴とする閉鎖循環型連鎖栽培方法。
【請求項2】
前記所定の条件は、
温度条件、光量条件、湿度条件、炭酸ガス濃度条件、土壌条件及び養液条件のうちの少なくとも1つである
ことを特徴とする請求項1に記載の閉鎖循環型連鎖栽培方法。
【請求項3】
1日を複数分nに分割し、この複数数nに相当する数Nvの前記第2の空間を配設し、この数Nvのうち所定個数の第2の空間に対して光合成期間を設け、この光合成期間にある前記第2の空間に前記Muから発生する炭酸ガスを供給する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の閉鎖循環型連鎖栽培方法。
【請求項4】
前記第2の空間に供給される炭酸ガスの量は、
前記第1の空間において前記Muから発生する炭酸ガスの各生育サイクル段階における量の平均値を基準供給量として調整する
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の閉鎖循環型連鎖栽培方法。
【請求項5】
前記第2の空間には、
前記Muの栽培において、出荷最少単位量のMuの栽培に必要な栽培用領域を充当された容器を1単位として、且つその複数を集合して1ステージとし、その複数のステージごとに生育時期をずらして生育し、前記複数のステージによる消費炭酸ガス量の平均値としての量を前記基準供給量として供給される
ことを特徴とする請求項4に記載の閉鎖循環型連鎖栽培方法。
【請求項6】
前記Muの栽培量Qmと前記Veの栽培量Qvの比K=Qv/Qmが1〜100であり、前記数Nvが1〜5である
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の閉鎖循環型連鎖栽培方法。
【請求項7】
前記Muの栽培量Qmと前記Veの栽培量Qvの比K=Qv/Qmが1〜5であり、前記数Nvが1〜3である
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の閉鎖循環型連鎖栽培方法。
【請求項8】
前記比Kをもって、前記第1の空間の数Nmを基準とした、前記第2の空間の数Nvに充当される
ことを特徴とする請求項6または7に記載の閉鎖循環型連鎖栽培方法。
【請求項9】
前記Muは、
人工栽培可能な食用きのこ類または薬用きのこ類より選ばれた1種類である
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の閉鎖循環型連鎖栽培方法。
【請求項10】
前記Veのうち光合成を行う植物は、
人工栽培可能な野菜類または薬用植物より選ばれた1種類である
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の閉鎖循環型連鎖栽培方法。
【請求項11】
前記Veのうち光合成を行う藻類は、
人工栽培可能な食用または薬用藻類より選ばれた1種類である
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の閉鎖循環型連鎖栽培方法。
【請求項12】
前記Mu及び前記Veの栽培に利用する温度、光量、湿度、炭酸ガス濃度の供給を、地熱エネルギー、ソーラーエネルギー、風力エネルギー、水力及び原子力、化石エネルギーの少なくとも1種を直接または間接に利用して行われる
ことを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の閉鎖循環型連鎖栽培方法。
【請求項13】
前記Mu及び前記Veの栽培に利用する光量を、蛍光灯もしくは放電灯、発光ダイオード、有効波長を有する有機ELにより供給する
ことを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の閉鎖循環型連鎖栽培方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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