説明

関節構造、及びその関節構造を備えたロボット

【課題】第1の部材に対する第2の部材の相対的な角度に応じて、伝動ベルトのテンションが増減する技術を提供する。
【解決手段】第1実施形態に係る関節構造Jは、関節軸Cを有する体幹部2と、体幹部2の関節軸C回りに回転可能となるように体幹部2によって支持される上腕部5と、体幹部2に回転可能に設けられ、肩関節駆動モータ34(駆動源)によって回転駆動される駆動プーリ11と、上腕部5に回転不能に設けられる従動プーリ12と、駆動プーリ11と従動プーリ12の間に掛けられる平ベルト13(伝動ベルト)と、を備えている。従動プーリ12の外周12aは略円形である。従動プーリ12の中心軸Dは、関節軸Cからずれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、関節構造、及びその関節構造を備えたロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術として、特許文献1は、旋回台や垂直アーム、水平アーム、ハンド部、把持部を主たる構成として備え、複数の回動軸関節を有する産業用マニプレータを開示している。この産業用マニプレータの回動軸関節には、所定以上の外力を伝達しないトルクリミッタが内蔵されている。このトルクリミッタは、例えば、駆動プーリと従動プーリとの間にタイミングベルトを掛け回した構成において、従動プーリと従動軸との間に装着される。この場合、トルクリミッタは、従動軸に固定された押え板と、従動プーリに固定された回転板と、押え板及び回転板を所定の押圧力によって互いに圧接状態とする板ばねと、によって構成される。以上の構成によれば、通常時、駆動力は、駆動プーリ、タイミングベルト、従動プーリ、トルクリミッタ(回転板、板ばね、押え板)を順に介して従動軸へと伝達される。一方で、垂直アームに外力が作用してその外力が所定以上の衝撃力であった場合は、その外力による回転力は従動軸には伝達されるが、その回転力はトルクリミッタの回転板と押え板との間ですべりが発生することでトルクリミッタによって吸収され、その回転力は従動プーリには伝達されないとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平7-686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1のトルクリミッタは、過負荷保護の観点から有益なものであるが、一層の技術改良が望まれていた。
【0005】
本願発明の目的は、全く新規な関節構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明の第1の観点によれば、関節構造は、関節軸を有する第1の部材と、前記第1の部材の前記関節軸回りに回転可能となるように前記第1の部材によって支持される第2の部材と、前記第1の部材に回転可能に設けられ、駆動源によって回転駆動される駆動プーリと、前記第2の部材に回転不能に設けられる従動プーリと、前記駆動プーリと前記従動プーリの間に掛けられる伝動ベルトと、を備え、前記従動プーリの外周は略円形であり、前記従動プーリの中心軸は、前記関節軸からずれている。以上の構成で、前記第1の部材に対する前記第2の部材の相対的な角度が変化すると、前記駆動プーリの回転軸と、前記従動プーリの前記中心軸と、の軸間距離が増減する。軸間距離が増減すると、前記伝動ベルトのテンションが増減する。従って、以上の構成によれば、前記第1の部材に対する前記第2の部材の相対的な角度に応じて、前記伝動ベルトのテンションが増減する構成が実現される。
【0007】
好ましくは、前記第2の部材を回転させる際に必要となるトルクが大きいときは前記駆動プーリの回転軸と、前記従動プーリの前記中心軸と、の軸間距離が大きくなり、前記第2の部材を回転させる際に必要となるトルクが小さいときは前記軸間距離が小さくなるように、前記従動プーリの前記中心軸は、前記関節軸からずれている。
【0008】
以上の構成で、前記第2の部材を回転させる際に必要となるトルクが大きいときは前記伝動ベルトのテンションが大きくなる。前記伝動ベルトのテンションが大きくなると、前記伝動ベルトが前記駆動プーリや前記従動プーリ上で滑り難くなる。従って、以上の構成によれば、前記第2の部材を回転させる際に必要となるトルクが大きいときは、大きなトルクを問題なく伝動することができる。
【0009】
一方で、前記第2の部材を回転させる際に必要となるトルクが小さいときは前記伝動ベルトのテンションが小さくなる。前記伝動ベルトのテンションが小さくなると、前記伝動ベルトが前記駆動プーリや前記従動プーリ上で滑り易くなる。従って、以上の構成によれば、前記第2の部材を回転させる際に必要となるトルクが小さいときは、小さなトルクしか伝動できなくさせることができる。
【0010】
要するに、以上の構成によれば、大きなトルクを伝動する必要のあるときはその大きなトルクを確実に伝動しつつ、一方で、大きなトルクを伝動する必要のないときは小さなトルクしか伝動させない、メリハリの効いた構成が実現される。
【0011】
本願発明の第2の観点によれば、関節構造は、関節軸を有する第1の部材と、前記第1の部材の前記関節軸回りに回転可能となるように前記第1の部材によって支持される第2の部材と、前記第1の部材に回転可能に設けられ、駆動源によって回転駆動される駆動プーリと、前記第2の部材に回転不能に設けられる従動プーリと、前記駆動プーリと前記従動プーリの間に掛けられる伝動ベルトと、を備え、前記従動プーリは、前記関節軸から前記従動プーリの外周までの距離が第1の距離である第1の部分と、前記関節軸から前記従動プーリの外周までの距離が第1の距離よりも短い距離である第2の距離である第2の部分と、を周方向において異なる位置に有する。要するに、前記従動プーリは、前記関節軸から前記従動プーリの外周までの距離が周方向において一様ではない。以上の構成で、前記第1の部材に対する前記第2の部材の相対的な角度が変化すると、前記伝動ベルトのテンションが増減する。従って、以上の構成によれば、前記第1の部材に対する前記第2の部材の相対的な角度に応じて、前記伝動ベルトのテンションが増減する構成が実現される。
【0012】
好ましくは、前記第2の部材を回転させる際に必要となるトルクが大きいときは前記伝動ベルトに対して前記第1の部分が接触し、前記第2の部材を回転させる際に必要となるトルクが小さいときは前記伝動ベルトに対して前記第1の部分は接触しないが前記第2の部分は接触するように、前記従動プーリの前記第1の部分と前記第2の部分が配置されている。
【0013】
以上の構成で、前記第2の部材を回転させる際に必要となるトルクが大きときは前記伝動ベルトのテンションが大きくなる。前記伝動ベルトのテンションが大きくなると、前記伝動ベルトが前記駆動プーリや前記従動プーリ上で滑り難くなる。従って、以上の構成によれば、前記第2の部材を回転させる際に必要となるトルクが大きいときは、大きなトルクを問題なく伝動することができる。
【0014】
一方で、前記第2の部材を回転させる際に必要となるトルクが小さいときは前記伝動ベルトのテンションが小さくなる。前記伝動ベルトのテンションが小さくなると、前記伝動ベルトが前記駆動プーリや前記従動プーリ上で滑り易くなる。従って、以上の構成によれば、前記第2の部材を回転させる際に必要となるトルクが小さいときは、小さなトルクしか伝動できなくさせることができる。
【0015】
要するに、以上の構成によれば、大きなトルクを伝動する必要のあるときはその大きなトルクを確実に伝動しつつ、一方で、大きなトルクを伝動する必要のないときは小さなトルクしか伝動させない、メリハリの効いた構成が実現される。
【0016】
好ましくは、前記動力源は、前記第1の部材に設けたモータである。
【0017】
好ましくは、前記伝動ベルトは、平ベルト、Vベルト、歯付ベルト、ワイヤベルト、ステンレスベルトのうち何れかである。
【0018】
本願発明の第3の観点によれば、ロボットは、体幹部と、前記体幹部に対して回転可能に連結される腕部と、を備える。前記体幹部を前記第1の部材とし、前記腕部を前記第2の部材として、上記の関節構造が適用された。このように前記の関節構造は、前記体幹部と前記腕部との間に技術的矛盾なくそのまま適用することができる。
【0019】
本願発明の第4の観点によれば、体幹部と、前記体幹部に対して回転可能に連結される腕部と、を備える。前記腕部を下ろしていくと、前記体幹部と前記腕部との間の隙間が狭まる。前記体幹部を前記第1の部材とし、前記腕部を前記第2の部材として、上記の関節構造が適用された。即ち、前記腕部を下ろしていくと、前記腕部を回転させる際に必要となるトルクは小さくなる。また、前記腕部を回転させる際に必要となるトルクは小さくなると、前記伝動ベルトのテンションが小さくなる構成が採用されている。従って、以上の構成によれば、前記体幹部と前記腕部との間の隙間が狭まったとき、小さなトルクしか伝動させない構成が実現される。
【発明の効果】
【0020】
本願発明によれば、前記第1の部材に対する前記第2の部材の相対的な角度に応じて、前記伝動ベルトのテンションが増減する構成が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、ロボットの正面図である(第1実施形態)。
【図2】図2は、ロボットの正面図である(第1実施形態)。
【図3】図3は、関節構造の斜視図である(第1実施形態)。
【図4】図4は、関節構造の一部切り欠き斜視図である(第1実施形態)。
【図5】図5は、ロボットの制御装置の機能ブロック図である(第1実施形態)。
【図6】図6は、関節構造の正面拡大図である(第1実施形態)。
【図7】図7は、関節構造の正面拡大図である(第1実施形態)。
【図8】図8は、関節構造の正面拡大図である(第2実施形態)。
【図9】図9は、関節構造の正面拡大図である(第2実施形態)。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図1〜7を参照しつつ、本願発明の第1実施形態を説明する。
【0023】
図1に示すようにロボット1は、体幹部2(第1の部材)と、この体幹部2に対して回転可能に連結された上肢部3と、体幹部2に支持される頭部4と、を主たる構成として備えている。ロボット1の体幹部2と上肢部3、頭部4は、ヒトの体幹、上肢、頭に夫々相当している。
【0024】
上肢部3は、上腕部5(第2の部材、腕部)と、前腕部6と、把持部7と、によって構成されている。上腕部5と前腕部6、把持部7は、ヒトの上腕、前腕、手に夫々相当している。
【0025】
上腕部5は、肩関節部8を介して体幹部2に支持されている。この肩関節部8の存在により、図1及び図2に示すように、上腕部5は、体幹部2に対して姿勢を変えられるようになっている。図1には、上肢部3全体が略水平な姿勢となっている様子を示している。図2には、上肢部3全体が下ろされた姿勢となっている様子を示している。本実施形態において肩関節部8は、1自由度の関節である。
【0026】
前腕部6は、肘関節部9を介して上腕部5に支持されている。この肘関節部9の存在により、前腕部6は、上腕部5に対して姿勢を変えられるようになっている。本実施形態において肘関節部9は、1自由度の関節である。
【0027】
把持部7は、手首関節部10を介して前腕部6に支持されている。この手首関節部10の存在により、把持部7は、前腕部6に対して姿勢を変えられるようになっている。本実施形態において手首関節部10は、2自由度の関節である。
【0028】
次に、肩関節部8に対する上肢部3のモーメントアームMAについて説明する。図1及び図2には、上腕部5と前腕部6、把持部7から成る上肢部3の真っ直ぐに伸ばされた状態における重心3gを示している。図1及び図2に示すように、上肢部3全体の姿勢の如何によりモーメントアームMAは増減する。詳しくは、図1に示すように上肢部3全体が略水平な姿勢となっているときモーメントアームMAは大きく、図2に示すように上肢部3全体が下ろされた姿勢となっているときモーメントアームMAは小さくなる。そして、図1のようにモーメントアームMAが大きいということは、上肢部3を肩関節部8回りに回転させる際に必要となるトルクが大きいということである。一方、図2のようにモーメントアームMAが小さいということは、上肢部3を肩関節部8回りに回転させる際に必要となるトルクが小さいということである。
【0029】
次に、図3及び図4に基づいて、ロボット1に適用された関節構造Jについて説明する。本実施形態において関節構造Jは、ロボット1の肩関節部8に適用されている。
【0030】
図3及び図4に示すように、関節構造Jは、体幹部2と、上腕部5と、駆動プーリ11と、従動プーリ12と、平ベルト13(伝動ベルト)と、を備えて構成されている。図3及び図4では、説明の都合上、体幹部2は一部のみを示し、その一部は略円柱状に描いている。上腕部5についても同様に一部のみを示している。
【0031】
体幹部2は、関節軸Cを伴った関節部14を有している。関節部14は、体幹部2から突出して形成されている。図4に示すように関節部14には、関節軸Cに対して同軸となる軸受15が設けられている。
【0032】
上腕部5は、体幹部2の関節部14の関節軸C回りに回転可能となるように体幹部2によって支持されている。
【0033】
駆動プーリ11は、体幹部2に回転可能に設けられている。図4に示すように体幹部2には、駆動プーリ11を回転駆動するための肩関節駆動モータ34が設けられている。肩関節駆動モータ34と駆動プーリ11との間には減速機16が介在している。この構成で、肩関節駆動モータ34で生成されたトルクは、減速機16によって増幅された後、駆動プーリ11に伝動される。駆動プーリ11の外周は略円形である。
【0034】
従動プーリ12は、上腕部5に回転不能に設けられている。図4に示すように従動プーリ12は、円筒状に形成された連結筒部17を介して上腕部5に対して回転不能に固定されている。連結筒部17は、軸受15によって支持される。換言すれば、従動プーリ12は、上腕部5と関節部14を挟んで反対側に位置する。連結筒部17と軸受15の存在により、上腕部5は、体幹部2に対して所定の回転角度範囲内で自在に回転できるようになっている。本実施形態において従動プーリ12の外周12aは図6に示すように略円形である。
【0035】
平ベルト13は、駆動プーリ11と従動プーリ12の間に掛けられている。
【0036】
次に、図5を参照しつつ、ロボット1が備える制御装置100について簡単に説明する。制御装置100は、中央演算処理器としてのCPU30(Central Processing Unit)、読み書き自在のRAM31(Random Access Memory)、読み取り専用のROM32(Read Only Memory)を備えて構成されている。ROM32には、制御プログラムが記憶されている。CPU30がROM32から上記制御プログラムを読み込み、CPU30上で実行することで、制御プログラムは、CPU30等のハードウェアを、肩関節駆動モータ制御手段33として機能させる。肩関節駆動モータ制御手段33は、肩関節駆動モータ34の動作を制御するものである。
【0037】
次に、図6及び図7に基づいて、関節構造Jについて更に詳細に説明する。図6は、図1に対応しており、上腕部5が略水平となっている状態をイメージしている。図7は、図2に対応しており、上腕部5が下ろされた状態をイメージしている。
【0038】
本実施形態において、従動プーリ12の中心軸Dは、関節部14の関節軸Cに沿ってみた図6及び図7の側面視において、関節部14の関節軸Cからずれている。詳しくは、従動プーリ12の中心軸Dは、関節部14の関節軸Cから肘関節部9側(図1を併せて参照)にずれている。別の言い方をすれば、従動プーリ12の中心軸Dは、関節部14の関節軸Cから上腕部5の長手方向にずれている。
【0039】
ここで、図6及び図7に示すように、駆動プーリ11の回転軸Pと、関節部14の関節軸Cと、の間の距離を軸間距離L1と定義する。同様に、駆動プーリ11の回転軸Pと、従動プーリ12の中心軸Dと、の間の距離を軸間距離L2と定義する。同様に、関節部14の関節軸Cと、従動プーリ12の中心軸Dと、の間の距離を軸間距離L3と定義する。これら軸間距離L1〜L3のうち、軸間距離L1と軸間距離L3は一定値となる。一方、軸間距離L2は、体幹部2に対する上腕部5の相対的な角度に応じて増減する。
【0040】
具体的には、図6に示すように上腕部5が略水平の状態となったとき、従動プーリ12の中心軸Dは、駆動プーリ11の回転軸Pと関節部14の関節軸Cを挟んで反対側に位置することになるので、L2=L1+L3の関係が成立し、軸間距離L2は最大となる。一方で、図7に示すように上腕部5が下ろされた状態となったとき、軸間距離L2は、図6の場合と比較して小さくなる。図7に示す状態では軸間距離L2≒軸間距離L1となっている。
【0041】
ところで、平ベルト13のテンションは、図6及び図7に示す軸間距離L2との間で正の相関関係がある。即ち、図6に示すように軸間距離L2が大きくなると平ベルト13のテンションは大きくなり、図7に示すように軸間距離L2が小さくなると平ベルト13のテンションは小さくなる。従って、図6に示すように上腕部5が略水平の状態となったときの平ベルト13のテンションは、図7に示すように上腕部5が下ろされた状態となったときの平ベルト13のテンションよりも大きい。
【0042】
また、平ベルト13のテンションが大きいと、平ベルト13が駆動プーリ11や従動プーリ12上で滑りにくくなり、伝動可能なトルクの上限が大きくなる。即ち、平ベルト13のテンションが大きいと、大きなトルクも問題なく伝動することができる。一方で、平ベルト13のテンションが小さいと、平ベルト13が駆動プーリ11や従動プーリ12上で滑りやすくなり、伝動可能なトルクの上限が小さくなる。即ち、平ベルト13のテンションが小さいと、小さなトルクしか伝動しなくなる。
【0043】
以上に、関節構造J特有のメカニズムを説明した。次に、この関節構造Jが、図1及び図2に示すロボット1の中でどのような技術的意義を発揮し得るか詳しく説明する。
【0044】
上述したように、図1に示すように上肢部3全体が略水平な姿勢となっているとき、上腕部5を回転させる際に必要となるトルクは大きくなる。また、図6に示すように上腕部5が略水平な姿勢となっているとき、大きなトルクも問題なく伝動できるようになっている。従って、図1や図6に示すように、上腕部5を回転させる際に必要となるトルクが大きいとき、大きなトルクも問題なく伝動することができる。
【0045】
同様に、上述したように、図2に示すように上肢部3全体が下ろされた状態となっているとき、上腕部5を回転させる際に必要となるトルクは小さくなる。また、図7に示すように上腕部5が下ろされた状態となっているとき、小さなトルクしか伝動しないようになっている。従って、図2や図7に示すように、上腕部5を回転させる際に必要となるトルクが小さいときは、積極的に、小さなトルクしか伝動しないようになる。
【0046】
ここで、図2を参照されたい。図2に示すように、上肢部3全体を下ろした状態では、体幹部2と上肢部3(上腕部5を含む。)との間の隙間Gが狭まる。従って、上肢部3全体が下ろされると、体幹部2と上肢部3との間の隙間Gにヒトや物が挟まれ、圧迫を与える虞がある。そこで、上記の関節構造Jによれば、図2の状態では、平ベルト13は、小さなトルクしか駆動プーリから従動プーリに伝動しないようになっている。従って、上肢部3全体が下ろされた際、仮に体幹部2と上肢部3との間の隙間Gにヒトや物が挟まれたとしても、ヒトや物に過度の圧迫を与えることがない。
【0047】
一方で、上記の関節構造Jによれば、前述の通り、上腕部5を回転させる際に必要となるトルクが大きいとき、大きなトルクを問題なく伝動することができる。
【0048】
(まとめ)
以上に本願発明の好適な第1実施形態を説明したが、上記の第1実施形態は、要するに以下の特長を有している。
【0049】
第1実施形態に係る関節構造Jは、関節軸Cを有する体幹部2と、体幹部2の関節軸C回りに回転可能となるように体幹部2によって支持される上腕部5と、体幹部2に回転可能に設けられ、肩関節駆動モータ34(駆動源)によって回転駆動される駆動プーリ11と、上腕部5に回転不能に設けられる従動プーリ12と、駆動プーリ11と従動プーリ12の間に掛けられる平ベルト13(伝動ベルト)と、を備えている。従動プーリ12の外周12aは略円形である。従動プーリ12の中心軸Dは、関節軸Cからずれている。以上の構成で、体幹部2に対する上腕部5の相対的な角度が変化すると、駆動プーリ11の回転軸Pと、従動プーリ12の中心軸Dと、の軸間距離L2が増減する。軸間距離L2が増減すると、平ベルト13のテンションが増減する。従って、以上の構成によれば、体幹部2に対する上腕部5の相対的な角度に応じて、平ベルト13のテンションが増減する構成が実現される。
【0050】
なお、上記第1実施形態において伝動ベルトは平ベルト13であるとしたが、これに代えて、Vベルト、歯付ベルト、ワイヤベルト、ステンレスベルトのうち何れかであってもよい。
【0051】
また、上記第1実施形態において動力源は体幹部2に設けた肩関節駆動モータ34であるとしたが、これに限定されるものではない。
【0052】
また、上腕部5を回転させる際に必要となるトルクが大きいときは駆動プーリ11の回転軸Pと、従動プーリ12の中心軸Dと、の軸間距離L2が大きくなり、上腕部5を回転させる際に必要となるトルクが小さいときは軸間距離L2が小さくなるように、従動プーリ12の中心軸Dは、関節軸Cからずれている。
【0053】
以上の構成で、上腕部5を回転させる際に必要となるトルクが大きときは平ベルト13のテンションが大きくなる。平ベルト13のテンションが大きくなると、平ベルト13が駆動プーリ11や従動プーリ12上で滑り難くなる。従って、以上の構成によれば、上腕部5を回転させる際に必要となるトルクが大きいときは、大きなトルクを問題なく伝動することができる。
【0054】
一方で、上腕部5を回転させる際に必要となるトルクが小さいときは平ベルト13のテンションが小さくなる。平ベルト13のテンションが小さくなると、平ベルト13が駆動プーリ11や従動プーリ12上で滑り易くなる。従って、以上の構成によれば、上腕部5を回転させる際に必要となるトルクが小さいときは、小さなトルクしか伝動できなくさせることができる。
【0055】
要するに、以上の構成によれば、大きなトルクを伝動する必要のあるときはその大きなトルクを確実に伝動しつつ、一方で、大きなトルクを伝動する必要のないときは小さなトルクしか伝動させない、メリハリの効いた構成が実現される。
【0056】
また、ロボット1は、体幹部2と、体幹部2に対して回転可能に連結される上腕部5(腕部)と、を備える。ロボット1には、体幹部2と上腕部5を含めたかたちの関節構造Jが適用されている。このように関節構造Jは、体幹部2と上腕部5との間に技術的矛盾なくそのまま適用することができる。
【0057】
また、ロボット1は、体幹部2と、体幹部2に対して回転可能に連結される上腕部5と、を備える。上腕部5を下ろしていくと、体幹部2と上腕部5との間の隙間Gが狭まる。ロボット1には、体幹部2と上腕部5を含めたかたちの関節構造Jが適用されている。即ち、上腕部5を下ろしていくと、上腕部5を回転させる際に必要となるトルクは小さくなる。また、上腕部5を回転させる際に必要となるトルクは小さくなると、平ベルト13のテンションが小さくなる構成が採用されている。従って、以上の構成によれば、体幹部2と上腕部5との間の隙間Gが狭まったとき、小さなトルクしか伝動させない構成が実現される。
【0058】
以上に本実施形態に係る関節構造Jの主たる特長を説明したが、関節構造Jは、この他にも、シンプルな構造であり、軽量に実現でき、所謂挟み込み検知センサを省略できるので低コスト化を図れる、といったアドバンテージもある。また、平ベルト13のテンションが大きくなると、平ベルト13はそれ以上の伸びが強力に規制される。従って、図1の状態で上肢部3は外力によって殆ど揺れなくなる。
【0059】
更に言えば、出力側である上腕部5に従動プーリ12を設けるため、図4に示すように、所謂関節軸の中空化を図ることが可能となっている。
【0060】
(第2実施形態)
次に、図8〜9を参照しつつ、本願発明の第2実施形態を説明する。ここでは、本実施形態が上記第1実施形態と異なる点を中心に説明し、重複する説明は適宜省略する。また、上記第1実施形態の各構成要素に対応する構成要素には原則として同一の符号を付すこととする。
【0061】
上記実施形態において従動プーリ12は、外周12aが略円形に形成されており、図6に示すように、関節部14の関節軸Cと、従動プーリ12の中心軸Dと、をずらしている。これに対し、本実施形態に係る従動プーリ12は、関節部14の関節軸Cから従動プーリ12の外周12aまでの距離が周方向において一様ではない。詳しくは、従動プーリ12は、関節部14の関節軸Cから従動プーリ12の外周12aまでの距離が第1距離B1(第1の距離)である突出部分12b(第1の部分)と、関節部14の関節軸Cから従動プーリ12の外周12aまでの距離が第1距離B1よりも短い距離である第2距離B2(第2の距離)である円弧部分12c(第2の部分)と、を周方向において異なる位置に有している。本実施形態において、円弧部分12cは、関節軸Cを中心として突出部分12bから反時計回りに90度異なる位置に形成されている。
【0062】
そして、図8に示すように上腕部5を回転させる際に必要となるトルクが大きいときは平ベルト13に対して突出部分12bが接触し、図9に示すように上腕部5を回転させる際に必要となるトルクが小さいときは平ベルト13に対して突出部分12bは接触しないが、円弧部分12cは接触するように、従動プーリ12の突出部分12bと円弧部分12cが配置されている。
【0063】
(まとめ)
以上に本願発明の好適な第2実施形態を説明したが、上記の第2実施形態は、要するに以下の特長を有している。
【0064】
従動プーリ12は、関節軸Cから従動プーリ12の外周12aまでの距離が第1距離B1である突出部分12bと、関節軸Cから従動プーリ12の外周12aまでの距離が第1距離B1よりも短い距離である第2距離B2である円弧部分12cと、を周方向において異なる位置に有する。要するに、従動プーリ12は、関節軸Cから従動プーリ12の外周12aまでの距離が周方向において一様ではない。以上の構成で、体幹部2に対する上腕部5の相対的な角度が変化すると、平ベルト13のテンションが増減する。従って、以上の構成によれば、体幹部2に対する上腕部5の相対的な角度に応じて、平ベルト13のテンションが増減する構成が実現される。
【0065】
また、図8に示すように上腕部5を回転させる際に必要となるトルクが大きいときは平ベルト13に対して突出部分12bが接触し、図9に示すように上腕部5を回転させる際に必要となるトルクが小さいときは平ベルト13に対して突出部分12bは接触しないが円弧部分12cは接触するように、従動プーリ12の突出部分12bと円弧部分12cが配置されている。
【0066】
以上の構成で、上腕部5を回転させる際に必要となるトルクが大きときは平ベルト13のテンションが大きくなる。平ベルト13のテンションが大きくなると、平ベルト13が駆動プーリ11や従動プーリ12上で滑り難くなる。従って、以上の構成によれば、上腕部5を回転させる際に必要となるトルクが大きいときは、大きなトルクを問題なく伝動することができる。
【0067】
一方で、上腕部5を回転させる際に必要となるトルクが小さいときは平ベルト13のテンションが小さくなる。平ベルト13のテンションが小さくなると、平ベルト13が駆動プーリ11や従動プーリ12上で滑り易くなる。従って、以上の構成によれば、上腕部5を回転させる際に必要となるトルクが小さいときは、小さなトルクしか伝動できなくさせることができる。
【0068】
要するに、以上の構成によれば、大きなトルクを伝動する必要のあるときはその大きなトルクを確実に伝動しつつ、一方で、大きなトルクを伝動する必要のないときは小さなトルクしか伝動させない、メリハリの効いた構成が実現される。
【符号の説明】
【0069】
1 ロボット
2 体幹部(第1の部材)
3 上肢部(腕部)
5 上腕部(腕部)
11 駆動プーリ
12 従動プーリ
13 平ベルト(伝動ベルト)
C 関節軸
D 従動プーリの中心軸
P 駆動プーリの回転軸
100 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
関節軸を有する第1の部材と、
前記第1の部材の前記関節軸回りに回転可能となるように前記第1の部材によって支持される第2の部材と、
前記第1の部材に回転可能に設けられ、駆動源によって回転駆動される駆動プーリと、
前記第2の部材に回転不能に設けられる従動プーリと、
前記駆動プーリと前記従動プーリの間に掛けられる伝動ベルトと、
を備え、
前記従動プーリの外周は略円形であり、
前記従動プーリの中心軸は、前記関節軸からずれている、
関節構造。
【請求項2】
請求項1に記載の関節構造であって、
前記第2の部材を回転させる際に必要となるトルクが大きいときは前記駆動プーリの回転軸と、前記従動プーリの前記中心軸と、の軸間距離が大きくなり、
前記第2の部材を回転させる際に必要となるトルクが小さいときは前記軸間距離が小さくなるように、
前記従動プーリの前記中心軸は、前記関節軸からずれている、
関節構造。
【請求項3】
関節軸を有する第1の部材と、
前記第1の部材の前記関節軸回りに回転可能となるように前記第1の部材によって支持される第2の部材と、
前記第1の部材に回転可能に設けられ、駆動源によって回転駆動される駆動プーリと、
前記第2の部材に回転不能に設けられる従動プーリと、
前記駆動プーリと前記従動プーリの間に掛けられる伝動ベルトと、
を備え、
前記従動プーリは、前記関節軸から前記従動プーリの外周までの距離が第1の距離である第1の部分と、前記関節軸から前記従動プーリの外周までの距離が第1の距離よりも短い距離である第2の距離である第2の部分と、を周方向において異なる位置に有する、
関節構造。
【請求項4】
請求項3に記載の関節構造であって、
前記第2の部材を回転させる際に必要となるトルクが大きいときは前記伝動ベルトに対して前記第1の部分が接触し、
前記第2の部材を回転させる際に必要となるトルクが小さいときは前記伝動ベルトに対して前記第1の部分は接触しないが前記第2の部分は接触するように、
前記従動プーリの前記第1の部分と前記第2の部分が配置されている、
関節構造。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の関節構造であって、
前記動力源は、前記第1の部材に設けたモータである、
関節構造。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の関節構造であって、
前記伝動ベルトは、平ベルト、Vベルト、歯付ベルト、ワイヤベルト、ステンレスベルトのうち何れかである、
関節構造。
【請求項7】
体幹部と、
前記体幹部に対して回転可能に連結される腕部と、
を備えるロボットであって、
前記体幹部を前記第1の部材とし、前記腕部を前記第2の部材として、請求項1〜6のうち何れかに記載の関節構造が適用された、
ロボット。
【請求項8】
体幹部と、
前記体幹部に対して回転可能に連結される腕部と、
を備え、
前記腕部を下ろしていくと、前記体幹部と前記腕部との間の隙間が狭まる、
ロボットであって、
前記体幹部を前記第1の部材とし、前記腕部を前記第2の部材として、請求項2、請求項4〜6の何れかに記載の関節構造が適用された、
ロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−51074(P2012−51074A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195743(P2010−195743)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】