電動旋回装置
【課題】 電動モータの駆動時に減速機内における潤滑油の動的な油面状態が、すり鉢形状となることを許容し、しかも、エネルギーの消費を抑えて旋回装置を停止した後に再起動を行うときにすり鉢形状の油面状態に立ち上がり易くできる電動旋回装置を提供する。
【解決手段】 電動モータ5の下部側には、モータ駆動軸5aの回転を減速する減速機10が設けられ、電動旋回装置4の外部に設けたバッファタンク25には、第2連通路22と第1連通路21とが接続している。第1連通路21には絞り34が配設され、第2連通路22にはチェック弁33が配設されている。電動モータ5の駆動時には、空気室29内ですり鉢形状の油面を形成するため、潤滑油の一部を連通路30、第2連通路22を介してバッファタンク25内に排出できる。また、電動モータ5の停止時には、バッファタンク25に排出した潤滑油は、第1連通路21を介して減速機10内に徐々に戻される。
【解決手段】 電動モータ5の下部側には、モータ駆動軸5aの回転を減速する減速機10が設けられ、電動旋回装置4の外部に設けたバッファタンク25には、第2連通路22と第1連通路21とが接続している。第1連通路21には絞り34が配設され、第2連通路22にはチェック弁33が配設されている。電動モータ5の駆動時には、空気室29内ですり鉢形状の油面を形成するため、潤滑油の一部を連通路30、第2連通路22を介してバッファタンク25内に排出できる。また、電動モータ5の停止時には、バッファタンク25に排出した潤滑油は、第1連通路21を介して減速機10内に徐々に戻される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータを駆動源として旋回式作業機械の上部旋回体を旋回させる電動旋回装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、油圧ショベル等の自走式作業機械では、上部旋回体を下部走向体に対して旋回させるため、駆動源として減速機付き油圧モータを供えた旋回装置が用いられている。この種の旋回装置としては、旋回用の減速機付き油圧モータ装置(特許文献1参照。)などが提案されている。特許文献1に記載された減速機付き油圧モータ装置を本発明における従来例1として、図10にはその全体図を示している。
【0003】
図10に示すように、旋回用の減速機付き油圧モータ装置50は、斜板式油圧モータ55を有する油圧モータ部51と、二段階の遊星歯車減速機構53、54を有する減速機部52と、メカニカルブレーキ58とを備えた構成となっている。油圧モータ部55内に収められた油圧モータ55の回転は、二段階の遊星歯車減速機構53、54によって減速され、その減速された回転が最終的には出力ピニオン59に伝達される。出力ピニオン59は、図示せぬ下部走向体側に固定された内輪のリング歯車60と噛合している。
【0004】
二段階の遊星歯車減速機構53、54を備える減速機部52は、ハウジング56とリング歯車用筒体61とで外郭が構成されている。減速機部52のハウジング56は上部旋回体62上に固定されており、旋回用の減速機付き油圧モータ装置50も上部旋回体62側に固定されている。
下部走向体は接地しており、接地面に対する回転が規制されているので、出力ピニオン59が回転することによって上部旋回体62は、図示せぬ下部走向体に対して相対的に回動して旋回することができる。
【0005】
減速機部52における歯車の潤滑を行うため、ハウジング56内には潤滑油が溜められている。ハウジング56内に溜められている潤滑油の油量としては、低温始動時にも最上段の歯車まで浸せる初期油面レベルに設定されている。その一方で定常使用時には油温の上昇による潤滑油の体積膨張によって、油面レベルの上昇が引き起こされる。油面レベルの上昇に伴って、吹きこぼれが生じないようにするため、油圧モータ部51のハウジング64と減速機部52のハウジング56との連結部において、十分な空気室63が設けられている。
【0006】
空気室63には図示せぬブリーザが設置されており、空気室63内の内圧は大気圧相当に管理されている。この構成によって、油温の上昇に伴って油面レベルの上昇が起きても、吹きこぼれ等によって潤滑油がハウジング56の外部に排出されない構造となっている。また、空気室のもう一つの機能としては、駆動時の油逃げを防止する機能もある。
【0007】
即ち、油圧モータ55が駆動されて減速機部52の各歯車が回転すると、油圧モータ55の出力軸55aに取付けられた太陽歯車57が油圧モータ55の出力回転数で回転することになる。太陽歯車57の回転によって、太陽歯車57を浸していた潤滑油は、遠心力によってハウジング56の内壁側に偏り、結果として油面はハウジング56内部においてすり鉢形状となる。潤滑油の油面がすり鉢形状となってハウジング56の内壁側に偏ることを許容する空間として、空気室63が利用されている。
【0008】
このように油圧ショベルやクレーン等の旋回式作業機械では、旋回駆動源として特許文献1に示されるような油圧モータを用い、この油圧モータを油圧ポンプからの吐出圧油によって駆動する油圧モータ駆動方式が多用されてきた。ところが最近では、上部旋回体の旋回制動時において絞り捨てられていた油圧エネルギーを効率良く回収するため、旋回駆動源として電動モータを用いる電動モータ駆動方式が提案され始めてきている。
【0009】
上部旋回体を下部走向体に対して旋回させる旋回装置の駆動源として、電動モータを用いたものとしては、作業機の旋回制御装置(特許文献2参照。)等が提案されている。特許文献2に記載された作業機を本発明における従来例2として、図11にはその全体構成図を示している。
【0010】
図11に示すように、クローラ式の下部走行体71に対して旋回自在に搭載された上部旋回体72には、エンジン76と、このエンジン76によって駆動される油圧ポンプ77及び発電機78と、バッテリ79と、旋回用電動モータ73及び旋回用減速機構74を備えている。電動モータ73は、図示せぬメカニカルブレーキを介して減速機構74に連結しており、減速機構74は旋回駆動機構75に連結されている。そして、メカニカルブレーキが解除された状態で電動モータ73の回転力が、減速機構74経由で上部旋回体72に伝えられ、上部旋回体72全体を下部走行体71に対して旋回動させることができる。
【0011】
特許文献2における減速機構74の構成及び電動モータの構成については詳述されていないので、それらの構成については想像するしかないが、減速機構74としては従来例1に示したような減速機部を有しており、電動モータ73としては従来からの油圧モータと同じ回転数とトルクとの動力特性を有する電動モータを用いているものと考えることができる。
【0012】
また、電動モータを用いるに当たって、減速機構74として従来例1に示したような減速機部に対して更に追加の減速手段を組み合わせた構成とすることで、従来からの油圧モータの回転数よりも高速回転する電動モータを用いていることも考えられる。そして、減速手段を追加した構成としたことで、従来の油圧モータを用いた場合に得られる出力トルク・回転数を出力ピニオンに与えている構成も考えられる。
【特許文献1】特開2002−357260号公報
【特許文献2】特開2004−36304号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来例1に記載したような油圧モータを用いた場合には、油温の上昇や減速歯車の回転に伴う油面レベルの上昇を十分に吸収することのできる空気室63を設けておくことができる。しかし、上部旋回体62の旋回制動時においては、油圧エネルギーは絞り捨てられていたため、油圧エネルギーが無駄に消費されていた。
【0014】
これに対して特許文献2に記載されているような電動モータ73と減速機構74とを備えた電動旋回装置では、上部旋回体72の旋回制動時に捨てられていたエネルギーを、旋回制動時には発電機として機能させた電動モータ73で回生電力として取り出し、回生した電力を蓄圧等にして利用することができる。これにより、旋回制動時に捨てられていたエネルギーを有効に利用することができる。
【0015】
しかし、電動モータ73の構成としては、モータ回転を行うためステータ巻線とロータとの間で電磁反力を発生させる構成をとることになる。このため、ステータ巻線とロータとの配置構成としては、ステータ巻線をロータの外側に配列した構成やステータ巻線の外側にロータを配列した構成が用いられることになる。
【0016】
従って、電動モータ73の出力軸及びその軸受けの外側周囲のスペースには、巻線端部が張出す構造となる。その結果、電動モータ73を用いた場合には、油圧モータを用いていたときのような十分なスペースを有する空気室を、減速機構74の上部に形成しておくことが難しくなる。
【0017】
また、高速回転する電動モータ73を用いた場合には、電動モータ73の回転に伴って生じる潤滑油の油面は、すり鉢形状の急峻な形状となる。
即ち、油圧モータ73が駆動されて図示せぬ遊星歯車減速機構の各歯車が回転すると、油圧モータ73の出力軸に取付けられた図示せぬ太陽歯車を浸していた潤滑油や同太陽歯車に噛合して自転及び公転運動を行う図示せぬ遊星歯車を浸していた潤滑油は、太陽歯車や遊星歯車からの遠心力の作用を受けて、減速機構74におけるハウジングの内壁側に偏ることになる。これにより、潤滑油の油面は減速機構74のハウジング内部においてすり鉢形状となる。特に、電動モータ73が高速回転する場合には、ハウジング内部に形成されるすり鉢形状の油面は、急峻な形状となる。
【0018】
油面がすり鉢形状となっている状態では、潤滑油の油圧が上昇し、空気室側は圧力が低下する。このことにより、すり鉢形状の中心部は負圧となる。電動モータ73のシャフトにはオイルシールが設けられており、中心部が負圧となるとこのオイルシールが空気室側に吸引され、オイルシールを痛めることになり、電動モータ73側においてオイル漏れが生じてしまう。
【0019】
この現象を防ぐためには、電動モータ73の出力軸の長さを伸ばして、伸ばして形成した空気室のスペースを大きく構成して、すり鉢形状となったときの圧力差が低減できるスペースを空気室に確保しておくことが考えられる。しかし、このように空気室のスペースを大きく構成すると、無駄に大きなハウジングを有する結果となり、電動旋回装置によって大きな場積が占有されてしまうことになる。
【0020】
更に、旋回装置の電動モータ化に当たっては、一般に減速機構に追加の減速手段を組み合わせた構成としたり、減速機構における減速比を大きくとった構成とすることで、高速回転する電動モータを用いることが望ましい構成となっている。
【0021】
しかし、高速回転する電動モータを用いるために、追加の減速手段を組み合わせたりした構成を採用すると、減速機構の軸方向へのサイズアップが避けられなくなる。減速機構の軸方向への更なる大型化は、旋回装置の電動モータ化に当たって、旋回装置を搭載する上での大きな制約となっていた。
【0022】
本願発明では、上述したような従来の問題点を解決し、空気室を形成するために減速機構の軸方向へのサイズアップを行わず、潤滑油の動的な油面状態がすり鉢形状となった状態での潤滑油と空気室との圧力差を許容し、しかも、エネルギーの消費を抑えて旋回装置を停止した後に再起動を行うときにすり鉢形状の油面状態に立ち戻り易くできる電動旋回装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本願発明の課題は請求項1〜5に記載された各発明により達成することができる。
即ち、本願発明では、電動モータを駆動源として旋回式作業機械の上部旋回体を旋回させる電動旋回装置において、上部に配した前記電動モータからの回転を減速する減速機と、前記減速機内の潤滑油室に潤滑油を供給する第1連通路と、前記潤滑油室上部と連通する第2連通路と、を備え、
前記第1連通路が、前記第2連通路の配設位置よりも下方に配設され、前記第1連通路と前記第2連通路とが、前記電動旋回装置の外部に配設したバッファタンクに接続されてなり、前記バッファタンクから前記第1連通路を流通して前記潤滑油室内に戻る潤滑油の流量が、流量規制されてなることを最も主要な特徴となしている。
【0024】
また、本願発明では上述した発明において、第1連通路に絞り部が配設された構成及び第2連通路を流通してバッファタンクから潤滑油室内に戻る潤滑油の流量が、流量規制されている構成を特定したことを主要な特徴となしている。
更に、本願発明では上述した発明において、絞り部の配設部位及び第2連通路にバッファタンク側への流通を許容する方向制御弁を配設した構成を特定したことを主要な特徴となしている。
【0025】
更にまた、本願発明では上述した発明において、絞り部の配設部位及び絞り部を配設した連通路と第2連通路との配置関係を特定したことを主要な特徴となしている。
また、本願発明では上述した発明において、絞り部の配設部位及び第2連通路とバッファタンクとの接続構成を特定したことを主要な特徴となしている。
【発明の効果】
【0026】
本願発明では、減速機の潤滑油室内における上部部位に空気室のスペースを大きく構成することなしに、潤滑油室内の上部部位を電動旋回装置の外部に配設したバッファタンクと連通させた構成とすることで、バッファタンクを空気室として使用することができる。
【0027】
しかも、第1連通路の配設位置を第2連通路の配設位置よりも下方に配設するとともに、バッファタンクから第1連通路を流通して潤滑油室内に戻る潤滑油の流量を、流量規制している。
【0028】
この構成によって、電動モータによる減速歯車の回転に伴って油面がすり鉢状に変化しても、すり鉢状の頂部側における潤滑油は適宜、第2連通路を介してバッファタンク内に逃がすことにより、すり鉢形状となった状態での潤滑油と空気室との圧力差を低減することができる。しかも、減速歯車が安定的に定速回転しているときには、減速機上部の空気室に形成される油面の形状としては、一定形状のすり鉢状に保っておくことができる。
【0029】
そして、すり鉢状となった油圧の状態を一定に保つため、減速機の潤滑油室上部における空気室から排出しておかなければならない潤滑油は、第2連通路を通ってバッファタンク内に逃がしておくことができる。
【0030】
電動旋回装置によって旋回動作を行わせているときにバッファタンク内に逃がした潤滑油は、旋回動作の停止時には絞り部を介して流量が規制されている第1連通路から潤滑油室内へ徐々に戻すことができる。
【0031】
第2連通路の構成としては、旋回動作の停止時にバッファタンク内に逃がした潤滑油が、第2連通路を流通して減速機の潤滑油室内に戻ってしまうのを禁止する構成としておくことや、第2連通路を流通して減速機の潤滑油室内に戻らせることができる構成であったとても、第2連通路を流通する流量を規制できるように構成しておくことができる。
【0032】
これによって、電動旋回装置による旋回動作を停止させた直後に、旋回動作を再開させる場合であっても、減速機の潤滑油室内に溜まっている潤滑油の容量としては、減速歯車の回転によって形成される油面の動的変化形状を略一定に維持しておくのに必要な容量にしておくことができる。旋回動作を停止させている間では、第1連通路や第2連通路を通って、バッファタンク内から潤滑油は減速機の潤滑油室内に戻されることになるが、第1連通路や第2連通路を流通する流量は規制されているので、減速機の潤滑油室内での潤滑油の油面上昇はゆっくりとしたものになる。
【0033】
このように、旋回動作を停止させた直後に旋回動作が行われて減速歯車が回転し始めたとしても、潤滑油による減速歯車の回転に対する攪拌抵抗は低減され、減速歯車の回転が所望の回転数にまで上昇する時間を短縮することができる。しかも、減速歯車の回転を所望の回転数にまで上昇させるのに要する電動モータの消費エネルギーも低減させることができる。このように、電動旋回装置におけるエネルギー効率を大いに高めておくことできる。
【0034】
更に、バッファタンクを電動旋回装置の外部に配設しておくことができ、しかも、減速機の上部には大容量の空気室を形成しておかなくてすむので、旋回式作業機械への電動旋回装置の搭載性を向上させ、しかも、簡単な構成によって、潤滑油の油面における動的変化を許容しておくことができる。また、ハウジングの内壁側に偏ってすり鉢状となった潤滑油の油面内を減速歯車が通過することができるので、常に減速歯車に対して潤滑油を供給しておくことができ、電動旋回装置としての耐久性を向上させることができる。
【0035】
第1連通路を流通する潤滑油の流量規制を行う絞り部は、第1連通路に配設しておくことも、あるいは、第1連通路及び第2連通路をバッファタンクに接続する第3連通路における第2連通路との接続部よりも上方部位に配設しておくこともできる。
【0036】
絞り部を第1連通路に配設しておいた場合には、前記第2連通路にバッファタンク側への潤滑油の流通を許容する方向制御弁を配設しておいた構成にしたり、第2連通路をバッファタンク内の上部空気層と接続させた構成としておくことができる。
この構成では、バッファタンク内に逃がした潤滑油は旋回動作の停止時には、第2連通路を通らずに第1連通路から減速機の潤滑油室内に戻されることになる。
【0037】
また、絞り部を第2連通路との接続部よりも上位にある第3連通路の部位に設けた場合には、旋回動作の停止時にバッファタンク内に逃がしておいた潤滑油を、第1連通路及び第2連通路を通って潤滑油室内に戻すことができる。しかし、第3連通路に配設した絞り部によって第1連通路及び第2連通路を通る潤滑油の流量を規制しておくことができるので、減速機内における潤滑油の油面上昇速度はゆるやかなものになることができる。
【0038】
バッファタンクの容量としては、所望の容量となるように構成しておくことができ、少なくとも潤滑油の油面における動的変化を許容できる容量として構成しておくことができる。しかも、バッファタンクを電動旋回装置の外部に配設しておくことができるので、上部旋回体内での配置構成に対する設計の自由度を大幅に向上させることができる。また、バッファタンクとしては、潤滑油の注油管、潤滑油の油面レベルを検出する検油管としての機能を兼用させておくこともできる。
【0039】
また、バッファタンクは必ずしもタンク形状のものでなくとも、所望の容量を確保することが出来るものであれば、パイプ状部材のような簡便なものでも同様の機能を果たすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本発明の好適な実施の形態について、添付図面に基づいて以下において具体的に説明する。本願発明の電動旋回装置の構成としては、以下で説明する形状、配置構成以外にも本願発明の課題を解決することができる形状、配置構成であれば、それらの形状、配置構成を採用することができるものである。
【0041】
また、以下の説明では、上部旋回体を下部走向体に搭載した例を用いて説明を行うが、上部旋回体は固定された下部フレーム等に対して旋回動を行う構成としておくこともできる。このため、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではなく、多様な変更が可能である。
【実施例1】
【0042】
図1は、本発明の実施形態に係わる電動旋回装置の縦断面図である。図1に示すように、電動モータ5は、図示せぬ旋回制御装置からの制御によって、所定の電力が供給されて回転駆動する。電動モータ5は、従来の油圧モータとほぼ同じ大きさのものを用いているが、従来の油圧モータとは異なる大きさのものを用いることもできる。従来の油圧モータよりも大きな場積を占める電動モータを用いた場合には、電動旋回装置4を配設するのに必要な場積が大きくなってしまい、逆に従来の油圧モータよりも小さな場積を占める電動モータを用いた場合には、電動モータの出力トルクが小さくなってしまう問題が発生する。このため、電動モータ5としては、従来の油圧モータとほぼ同じ大きさのものを用いておくことが望ましい構成となる。
【0043】
また、電動モータ5は、従来の油圧モータに相当する出力トルクを生じさせるために、油圧モータに比べて高速回転型の電動モータを用いている。電動モータ5の下部側には、モータ駆動軸5aの回転を減速する減速機10が設けられている。減速機10は、三段階の減速機として構成されている。三段階の減速機としては、電動モータ5からの回転を最初に減速する第一減速機11、第一減速機11で減速した回転を更に減速する第二減速機12、及び第二減速機12で減速した回転を更にもう一度減速して出力ピニオン14を回転させる第三減速機13から構成されている。そして、第一減速機11と第二減速機12との間には、メカニカルブレーキ15が配設されている。
【0044】
電動旋回装置4は上部旋回体2に固定され、スイングサークル3は下部走向体1に固定されている。また、上部旋回体2にはスイングサークル3に対して外接して相対回転できるように同芯円状の外輪8(左側断面の図示は省略)が固定されている。外輪8とスイングサークル3との間で相対回転が行えるように、外輪8とスイングサークル3との間にはベアリング8aが介在されている。
【0045】
そして、第三減速機13からの出力で回転される出力ピニオン14は、下部走向体1に設けたスイングサークル3に形成された内歯に噛合しており、出力ピニオン14が回転することによって、上部旋回体2は下部走向体1に対して旋回動することができる。
【0046】
次に減速機10の構成及びメカニカルブレーキ15の構成について説明するが、減速機10としては三段階の減速機に限定されるものではなく、一段階の減速機を含む適宜の段数を備えた減速機を用いることができる。また、遊星歯車機構以外の減速機を用いることもできる。メカニカルブレーキ15の構成としては、以下で説明するブレーキ機構に限定されるものではなく、周知のブレーキ機構を用いることができる。また、ブレーキ機構を配設する部位としては、第一減速機11と第二減速機12との間の部位に限定されるものではない。
【0047】
減速機10及びメカニカルブレーキ15は、上武旋回体2に固定された円筒状のケーシング7内に収納されている。ケーシング7は、上方から順に、内部に第一減速機11が配設される第1ケーシング7aと、内部にメカニカルブレーキ15が配設されるブレーキケーシング7bと、内部に第二減速機12及び第三減速機13の一部が配設される第2ケーシング7cと、内部に第三減速機13の残りの部分が配設される第3ケーシング7dとから構成されている。各ケーシング7a〜7dは、例えばボルト等の固定手段により隣接するケーシング同士が固定されている。
【0048】
第1ケーシング7aの上端部には、電動モータ5が固定されており、第3ケーシング7dの下端部は、上部旋回体2に固定されている。図示例では、電動モータ5は、水冷ジャケット19内に配設されている。
【0049】
第一減速機11は、モータ駆動軸5aに設けた第一太陽歯車11aの回転を減速して、駆動トルクを増大させて第一駆動軸11fから出力させる構成となっている。第一太陽歯車11aの回転は、第一太陽歯車11aと第1ケーシング7aの内周面に形成した第一リング歯車11eとに噛合している第一遊星歯車11bに伝えられる。第一太陽歯車11aからの回転によって、第一遊星歯車11bは自転するとともに第一太陽歯車11aの外周を公転する。
【0050】
第一遊星歯車11bの公転運動は、第一遊星歯車11bを回転自在に支障している第一キャリア11dの回転として取り出すことができる。第一キャリア11dの回転速度は、第一太陽歯車11aの外周を公転する第一遊星歯車11bの公転速度となり、第一太陽歯車11aの回転速度よりも減速される。そして、第一キャリア11dの回転は、第一キャリア11dとスプライン結合している第一駆動軸11fに伝えられる。
【0051】
第二減速機12は、第一駆動軸11fに設けた第二太陽歯車12aの回転を減速して、駆動トルクを増大させ、第二駆動軸12fから出力させる構成となっている。第二太陽歯車12aの回転は、第二太陽歯車12aと第2ケーシング7cの内周面に形成した第二リング歯車12eとに噛合している第二遊星歯車12bに伝えられる。第二太陽歯車12aからの回転によって、第二遊星歯車12bは自転するとともに第二太陽歯車12aの外周を公転する。
【0052】
第二遊星歯車12bの公転運動は、第二遊星歯車12bを回転自在に支障している第二キャリア12dの回転として取り出すことができる。第二キャリア12dの回転速度は、第二太陽歯車12aの外周を公転する第二遊星歯車12bの公転速度となり、第二太陽歯車12aの回転速度よりも減速される。そして、第二キャリア12dの回転は、第二キャリア12dにスプライン結合している第二駆動軸12fに伝えられる。
【0053】
第三減速機13は、第二駆動軸12fに設けた第三太陽歯車13aの回転を減速して、駆動トルクを増大させて第三駆動軸13fから出力させる構成となっている。第三太陽歯車13aの回転は、第三太陽歯車13aと第2ケーシング7cの内周面に形成した第三リング歯車13eとに噛合している第三遊星歯車13bに伝えられる。第三太陽歯車13aからの回転によって、第三遊星歯車13bは自転するとともに第三太陽歯車13aの外周を公転する。
【0054】
第三遊星歯車13bの公転運動は、第三遊星歯車13bを回転自在に支障している第三キャリア13dの回転として取り出すことができる。第三キャリア13dの回転速度は、第三太陽歯車13aの外周を公転する第三遊星歯車13bの公転速度となり、第三太陽歯車13aの回転速度よりも減速される。そして、第三キャリア13dの回転は、第三キャリア13dにスプライン結合している第三駆動軸13fに伝えられる。第三駆動軸13fの回転は、出力ピニオン14を回転させる駆動力として用いられることになる。
【0055】
このように高速回転していた電動モータ5の回転は、減速機10によって減速されて、高出力トルクの状態となって出力ピニオン14を回転させることができる。また、第一太陽歯車11a〜第三太陽歯車13aの構成及び出力ピニオン14の構成としては、それぞれモータ駆動軸5aの先端部、第一駆動軸11fの先端部、第二駆動軸12fの先端部、第三駆動軸13fの先端部を歯車形状に加工して、それぞれの軸5a、11f、12f、13fと一体に形成しておくこともできる。また、それぞれの軸5a、11f、12f、13fに対して回転不可の状態で嵌合させた構成としておくこともできる。
【0056】
メカニカルブレーキ15は、第一減速機11と第二減速機12との間に配設され、第一減速機11の出力軸である第一駆動軸11fの回転を制動する構成となっている。即ち、メカニカルブレーキ15は、第一駆動軸11fに接合されたブレーキディスク15bを、ブレーキパッド15を介して昇降動制御されるブレーキピストン16で挟圧保持したり挟圧保持を解除したりすることができる構成となっている。この構成により、第一駆動軸11fの回転に対して制動を加えたり、制動の解除を行うことができる。
【0057】
ブレーキディスク15bは、第一駆動軸11fにスプライン接合やセレーション接合などによって接合されたブレーキ連結部15aの外周部に設けられている。ブレーキパッド15cは、ブレーキディスク15bの上下両面に対向する位置に一対設けられている。一対のブレーキパッド15cのうちでブレーキディスク15bの下方側の面に対向して設けられるブレーキパッド15cは、ブレーキケーシング7bのパッド固定部に固定されており、ブレーキディスク15bの上方側の面に対向して設けられるブレーキパッド15cは、ブレーキピストン16の下端部に取り付けられている。
【0058】
ブレーキピストン16は、略環状に形成され、ブレーキケーシング7bの段差部分に対向した形状の段差部分を備えている。そして、ブレーキケーシング7bの段差部分とブレーキピストン16の段差部分とによって油圧室17が形成されている。また、ブレーキピストン16は、上部に設けたバネ18によって下方への付勢力が与えられている。尚、図2〜図5には、油圧室17を拡大した概略図を示している。
【0059】
油圧室17に対して圧油の給排を行うことで、ブレーキピストン16の上下方向への摺動を制御することができる。油圧室17への圧油の給排は、ブレーキケーシング7bに形成した油圧ポート17aから行うことができる。油圧室17に圧油が供給されると、ブレーキピストン16はバネ18を圧縮しながら上方側に押し上げられる。これにより、ブレーキピストン16によるブレーキディスク15bの挟圧保持状態が解除され、第一駆動軸11fの回転は制動されない状態となる。
【0060】
油圧室17から圧油が排出されると、ブレーキピストン16はバネ18の付勢力によって下方側に押し下げられる。これにより、ブレーキディスク15bはブレーキピストン16によって挟圧保持され、第一駆動軸11fの回転は制動されることになる。
【0061】
尚、本実施例において、1枚のブレーキディスク15bを用いた例を説明したが、この構成に限定されるものではなく、複数枚のブレーキディスクを用いた構成や他の周知の構成によるブレーキ機構を採用しても良い。また、ブレーキディスク15bを用いる場合に、ブレーキパッド15cをブレーキディスク15b側に設けた構成とすることもできる。
【0062】
第一減速機11と電動モータ5との間には、即ち、潤滑油室24内の上部には上部空間29が形成されている。上部空間29は空気室として利用することができるものであるが、第一太陽歯車11aや第一遊星歯車11bの回転によって引き起こされる遠心力で、後述にて説明する図4に示すように潤滑油が第1ケーシング7aの内周面側に偏ってすり鉢形状の形成を許容しておくのには、上部空間29のスペースは小さなものとなっている。上部空間29のスペースを大きく構成することができないのは、電動モータ5の上端部の高さ位置を高くしないで、電動モータ5のステータ巻線における巻線端部を第一減速機11と電動モータ5との間に収納させているためであって、上部空間29のスペースは小さく構成せざるを得なくなっている。
【0063】
本実施例では、前記遠心力によるすり鉢形状の油面形状の成形を許容するため、第一減速機11と電動モータ5との間に連通路30が形成されている。即ち、潤滑油室24内の上部空間29(以下では、空気室29という。)は、連通路30と連通している。連通路30は、後述する第2連通路22の一部として構成されており、第2連通路22は電動旋回装置4の外部に配設したバッファタンク25に連通している。尚、図1では、第2連通路22は紙面に対して垂直方向に形成されている。
【0064】
本発明に係わるバッファタンク25、第2連通路22等の構成については、電動旋回装置4の要部縦断面図を示す図2〜図6を用いて説明する。図2、図4、図6は、電動旋回装置の要部縦断面図を示しており、図3、図5は図2におけるA−A断面図である。
【0065】
図2には、電動モータ5が停止しているときの潤滑油の油面レベルの状態、あるいは、メカニカルブレーキ15が第一駆動軸11fを制動しているときの潤滑油の油面レベルの状態を示している。図2〜図6においては、潤滑油を破線状の横線で示している。
【0066】
図2に示すように、バッファタンク25は第3連通路23を介して第2連通路22と第1連通路21とに接続している。第1連通路21は減速機10に対して潤滑油を供給する管として構成されており、第1連通路21の配設位置は、第2連通路22よりも下方の位置に配設している。
また、第1連通路21を介して減速機10の潤滑油室24に対して潤滑油を供給するときの空気抜きとして、連通路30に連通した連通路32が形成されており、連通路32は空気抜きプラグによって閉塞させておくことができる。
【0067】
図3に示すように連通路30は、空気室29側に連通する内側環状路30a、第1ケーシング7aに形成した第2連通路22に連通する外側環状路30c、及び内側環状路30aと外側環状路30cとを連通させる放射方向の連結路30bを備えた構成となっている。また、連結路30bは、空気抜き用の連通路32とも連通している。
【0068】
内側環状路30aと外側環状路30cの構成としては、環状の流路に限定されるものではなく、例えば、独立した半円弧状の流路として構成しておくこともできる。この場合、内側の2つの半円弧状の流路は、それぞれ空気室29を介して連通した構成とし、内側の2つの半円弧状の流路にそれぞれ連通している外側の2つの半円弧状の流路は、それぞれ第2連通路22、連通路32と連通した構成としておくこともできる。
【0069】
第2連通路22には、チェック弁33が設けられている。チェック弁33は、空気室29側からバッファタンク25側への潤滑油の流れを許容し、バッファタンク25側から空気室29側への潤滑油の流れを遮断する機能を備えている。また、第3連通路23と第2連通路22との接続部よりも下方側にある第3連通路23の部位には、絞り34が設けられている。絞り34は、第1連通路21に設けておくこともできる。絞り34の絞り量としては、予め実験等によって設定しておくことができる。
【0070】
この構成により、潤滑油室24の上部空間である空気室29を拡大したと同様の機能を奏することができる。図示例では、第3連通路23は、第1ケーシング7a及びブレーキケーシング7bに外付けされた部材内に形成されている。しかし、連通路23としては、第1ケーシング7aやブレーキケーシング7bに外付けされる部材内に形成しておく代わりに、直接、第1連通路21、第2連通路22と接続した油路管として構成しておくこともできる。
【0071】
図2に示す構成例では、説明を行い易くするためにバッファタンク25の上部を開口させた構成を示しているが、バッファタンク25内に塵埃、雨水等が入り込まないように、図1に示すようにバッファタンク25の上部開口を塞いだ構成としておくことが望ましい。バッファタンク25を潤滑油の供給用のタンクとして兼用させる構成とする場合には、図1に示すように注油口を兼ねたブリーザキャップ27をバッファタンク25の天井側に設けておくことができる。ブリーザキャップ27を設けておくことによって、バッファタンク25内の内圧は大気圧相当に管理しておくことができる。
【0072】
バッファタンク25は電動旋回装置4の外部に配設されているので、所望の容積を有するバッファタンク25の形状を任意の形状として構成しておくことができる。バッファタンク25の底面位置としては、第2連通路22の配設高さ位置以上の高さ位置としておくことが望ましい。
【0073】
また、図示せぬ検油棒をバッファタンク25に設けておくこともできる。バッファタンク25に検油棒を設けておく場合には、第3連通路23を検油管として利用し、検油棒の先端部位が少なくとも第3連通路23内で後述する初期油面レベルLs位置よりも下方まで到達できるように構成しておくことが必要である。
【0074】
電動旋回装置4の停止時等における初期油面レベルLsとなるように、バッファタンク25に設けた注油口から潤滑油を供給し、バッファタンク25、第3連通路23を介して第1連通路21から減速機10の潤滑油室24内に供給することができる。このとき、図1に示した空気抜きプラグ31を外して、潤滑油室24内に潤滑油が入り易くしておくことができる。注油口をバッファタンク25に設けた例を説明したが、注油口をバッファタンク25とは別体に構成しておくこともできる。
【0075】
そして、減速機10内に溜めておく潤滑油の油面レベルとしては、第一遊星歯車11bの底面に浸かっている油面レベルを下限油面レベルLoとし、第一遊星歯車11bの上面に浸かっている油面レベルを上限油面レベルLmとして、初期油面レベルLsを上限油面レベルLmと下限油面レベルLoとの間における油面レベルとして、各種電動旋回装置に対応させて予め設定しておくことができる。
【0076】
図4は、第一太陽歯車11aの回転、第一遊星歯車11bの公転に伴って、潤滑油が供回り回転を誘起され潤滑油が第1ケーシング7aの内周面側に偏って、油面がすり鉢形状に形成された状態を示している。すり鉢形状が急峻な形状となったときに、空気室29の高さ位置を越えた潤滑油は、連通路30、第2連通路22、第3連通路23を通ってバッファタンク25内に導入されて、退避させておくことができる。
【0077】
図5に示すように、第1ケーシング7aの内周面側に偏ってすり鉢形状に形成された潤滑油は、内側環状路30aから連通路30内に流入し、連結路30b及び外側環状路30cを通って、第1ケーシング7aに形成した第2連通路22内に流入することになる。図5では、潤滑油の流れを矢印で示している。内側環状路30a及び外側環状路30cにおける潤滑油の流れが、反時計回り方向となっている例を示しているが、潤滑油の流れ方向は、第一太陽歯車11a及び第一遊星歯車の回転方向、公転方向によって決まるものであって、潤滑油の流れとしては、反時計回り方向の流れに限定されるものではない。
【0078】
第2連通路22内に流入した潤滑油は、図4に示すようにチェック弁33を通り、第3連通路23からバッファタンク25内に排出される。このとき、第一遊星歯車11bはすり鉢形状となった潤滑油中を通ることができるので、第一遊星歯車11bの歯面には潤滑油膜を常に形成しておくことができる。これによって、潤滑油膜を形成した第一遊星歯車11bに噛合している第一太陽歯車11aの歯面に対しても、潤滑油を供給しておくことができる。
【0079】
電動旋回装置4による旋回動作が停止して、第一太陽歯車11aの回転が停止した場合には、図6で示すようにバッファタンク25内に排出された潤滑油は、第3連通路23に設けた絞り34によって流量が規制されながら、第1流通路21から減速機10内に戻っていくことになる。このとき、減速機10内に戻っていく潤滑油の流量は、絞り34によって規制されているので、減速機10内における油面の上昇速度はゆっくりとしたものになる。
【0080】
また、連通路30とチェック弁33との間には、取り残された潤滑油が残ることになるが、第3連通路23内における油面レベルが第2連通路22よりも低い位置になると、連通路30とチェック弁33との間に取り残されていた潤滑油も、チェック弁33を通って第3連通路23内に流入することができる。
【0081】
この状態から、電動旋回装置4による旋回動作が再開されれば、減速機10の潤滑油室24内における油面状態としては、直ちにすり鉢形状の状態に戻すことができ、電動旋回装置4による旋回動作を迅速に所望の速度で行わせることができる。電動旋回装置4による旋回動作が開始されなければ、バッファタンク25内に逃げていた潤滑油は、絞り34で流量が調整されながら徐々に減速機10内に戻されていくことになる。
【実施例2】
【0082】
図7を用いて本発明に係わる他の電動旋回装置について説明する。図7は、他の電動旋回装置の要部を示した概略縦断面図である。図7で示す実施例2では、絞り34を第3連通路23における第2連通路22との接続部よりも上方に配設した構成に特徴を有している。また、絞り34を第3連通路23に配設したことに伴って、実施例1では第2連通路22に配設していたチェック弁33を、第2実施例では設けていない。他の構成は、実施例1における構成と同様の構成を備えることができる。そのため、実施例1と同様の構成については、実施例1において用いた部材符号と同じ部材符号を用いることでその説明を省略する。
【0083】
図7は、電動旋回装置4による旋回動作が停止して、連通路30にあった潤滑油が空気室29側に戻っている状態を示している。このとき、減速機10内の潤滑油の一部は、電動旋回装置4による旋回動作中に伴って油面がすり鉢状の形状となっていたため、バッファタンク25内に排出されたままの状態である。このため、減速機10内における潤滑油の油面レベルとしては、初期油面レベルLsよりも低い位置にある。
【0084】
この状態から、電動旋回装置4による旋回動作が開始されれば、減速機10の潤滑油室24内における油面状態としては、直ちにすり鉢形状の状態に戻ることができ、電動旋回装置4による旋回動作を迅速に所望の速度で行わせることができる。電動旋回装置4による旋回動作が開始されなければ、バッファタンク25内に逃げていた潤滑油は、絞り34で流量が調整されながら徐々に潤滑油室24内に戻されることになる。
【0085】
連通路30の高さ位置は、潤滑油室24内における潤滑油の油面レベルよりも高い位置に構成されているので、最初のうちはバッファタンク25から戻される潤滑油の一部によって、図7のように第2連通路22内に充満している状態となる。しかし、第3連通路23内における油面レベルが、第2連通路22の配設位置よりも下がると、第2連通路22内に充満していた潤滑油は、第3連通路23内に流れ込むことになる。
【0086】
このとき、第3連通路23内における油面レベルが、第2連通路22の配設位置よりも下がると、第2連通路22を空気通路として使用することができるようになり、減速機10の潤滑油室24内における潤滑油の油面レベルを初期油面レベルLsに戻す速度を速めることができる。
【実施例3】
【0087】
図8、図9を用いて本発明に係わる別の電動旋回装置について説明する。図8は、別の電動旋回装置の要部を示した概略縦断面図であり、図9は、電動旋回装置4の外部におけるバッファタンク25及び第2連通路22の配置構成を示した図である。図8、図9で示す実施例3では、第2連通路22をバッファタンク25における上部空気層と連通するように配設した構成となっている。また、第3連通路23には第2連通路22は接続されずに第1連通路21が接続した構成となっている。
【0088】
他の構成は、実施例1における構成と同様の構成を備えることができる。そのため、実施例1と同様の構成については、実施例1において用いた部材符号と同じ部材符号を用いることでその説明を省略する。
【0089】
図8に示すように、潤滑油室24内の上部における空気室29は、第2連通路22を介してバッファタンク25内における上部空気層に連通させておくことができる。このことは、図9に示すように、第2連通路22を電動旋回装置4の外部に配設した管路のように配置しておくことができる。尚、図8は、減速機10内の潤滑油の油面レベルが初期油面レベルLs状態のときの様子を示している。
【0090】
このように、第2連通路22は、バッファタンク25内における上部空気層に連通した構成となっているので、電動旋回装置4による旋回動作に伴って、空気室29で潤滑油の油面がすり鉢形状に形成されていったとしても、すり鉢形状が急峻な形状となったときに、空気室29の高さ位置を越えた潤滑油は、第2連通路22を通ってバッファタンク25の上部からバッファタンク25内に排出することができる。
【0091】
電動旋回装置4による旋回動作が停止すると、バッファタンク25内に排出されていた潤滑油は、第3連通路23に配設した絞り34を介して、第1連通油路21から減速機10内に戻されることになる。しかも、第1連通油路21を通って減速機10内に戻される潤滑油は、絞り34によって流量が調整されているので、減速機10内における油面レベルを徐々に上昇させながら戻されることになる。
【0092】
このように本発明では、バッファタンク25内に排出されていた潤滑油は、第1連通油路21を通って減速機10の潤滑油室24内に徐々に戻されていくので、減速機10内に溜まっている潤滑油の容量としては、減速歯車の回転によってすり鉢状に油面を形成しやすい容量から徐々に増量されていくことになる。このため、電動旋回装置4による旋回動作が直ぐに再開された場合には、油面形状を減速歯車の回転によってすり鉢状に形成しやすくなっているので、減速歯車の回転が所望の回転数にまで上昇する時間を短縮することができる。しかも、減速歯車の回転を所望の回転数にまで上昇させるのに要する電動モータの消費エネルギーも低減させることができるので、電動旋回装置におけるエネルギー効率を大いに高めておくことできる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本願発明は、本願発明の技術思想を適用することができる装置等に対しては、本願発明の技術思想を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】電動旋回装置の全体構成図である。(実施例1)
【図2】電動旋回装置の要部を拡大して示した概略図である。(実施例1)
【図3】図2のA−A断面図である。(実施例1)
【図4】潤滑油の油面状態を説明する図である。(実施例1)
【図5】図2のA−A断面図における潤滑油の流動方向を説明する図である。(実施例1)
【図6】バッファタンク内に潤滑油が導入された状態を説明する図である。(実施例1)
【図7】連通路に係わる他の構成を拡大して示した概略図である。(実施例2)
【図8】連通路に係わる別の構成を拡大して示した概略図である。(実施例3)
【図9】電動旋回装置の外部における連通路の配置を示した側面図である。(実施例3)
【図10】減速機付き油圧モータ装置の全体図である。(従来例1)
【図11】電動モータを用いた作業機の全体構成図である。(従来例2)
【符号の説明】
【0095】
1・・・下部走向体、
2・・・上部旋回体、
3・・・スイングサークル、
4・・・電動旋回装置、
5・・・電動モータ、
7・・・ケーシング、
10・・・減速機、
11・・・第一減速機、
12・・・第2減速機、
13・・・第三減速機、
14・・・出力ピニオン、
15・・・メカニカルブレーキ、
21・・・第1連通路、
22・・・第2連通路、
23・・・第3連通路、
24・・・潤滑油室、
25・・・バッファタンク、
29・・・空気室、
30・・・連通路、
30a・・・内側環状路、
30b・・・連結路、
30c・・・外側環状路、
33・・・チェック弁、
34・・・絞り、
50・・・油圧モータ装置、
51・・・油圧モータ部、
52・・・減速機部、
53、54・・・遊星歯車減速機構、
58・・・メカニカルブレーキ、
59・・・出力ピニオン、
60・・・リング歯車、
62・・・上部旋回体、
63・・・空気室、
71・・・下部走向体、
72・・・上部旋回体、
73・・・電動モータ、
74・・・減速機構、
75・・・旋回駆動機構、
Lm・・・上限油面レベル、
Ls・・・初期油面レベル、
Lo・・・下限油面レベル。
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータを駆動源として旋回式作業機械の上部旋回体を旋回させる電動旋回装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、油圧ショベル等の自走式作業機械では、上部旋回体を下部走向体に対して旋回させるため、駆動源として減速機付き油圧モータを供えた旋回装置が用いられている。この種の旋回装置としては、旋回用の減速機付き油圧モータ装置(特許文献1参照。)などが提案されている。特許文献1に記載された減速機付き油圧モータ装置を本発明における従来例1として、図10にはその全体図を示している。
【0003】
図10に示すように、旋回用の減速機付き油圧モータ装置50は、斜板式油圧モータ55を有する油圧モータ部51と、二段階の遊星歯車減速機構53、54を有する減速機部52と、メカニカルブレーキ58とを備えた構成となっている。油圧モータ部55内に収められた油圧モータ55の回転は、二段階の遊星歯車減速機構53、54によって減速され、その減速された回転が最終的には出力ピニオン59に伝達される。出力ピニオン59は、図示せぬ下部走向体側に固定された内輪のリング歯車60と噛合している。
【0004】
二段階の遊星歯車減速機構53、54を備える減速機部52は、ハウジング56とリング歯車用筒体61とで外郭が構成されている。減速機部52のハウジング56は上部旋回体62上に固定されており、旋回用の減速機付き油圧モータ装置50も上部旋回体62側に固定されている。
下部走向体は接地しており、接地面に対する回転が規制されているので、出力ピニオン59が回転することによって上部旋回体62は、図示せぬ下部走向体に対して相対的に回動して旋回することができる。
【0005】
減速機部52における歯車の潤滑を行うため、ハウジング56内には潤滑油が溜められている。ハウジング56内に溜められている潤滑油の油量としては、低温始動時にも最上段の歯車まで浸せる初期油面レベルに設定されている。その一方で定常使用時には油温の上昇による潤滑油の体積膨張によって、油面レベルの上昇が引き起こされる。油面レベルの上昇に伴って、吹きこぼれが生じないようにするため、油圧モータ部51のハウジング64と減速機部52のハウジング56との連結部において、十分な空気室63が設けられている。
【0006】
空気室63には図示せぬブリーザが設置されており、空気室63内の内圧は大気圧相当に管理されている。この構成によって、油温の上昇に伴って油面レベルの上昇が起きても、吹きこぼれ等によって潤滑油がハウジング56の外部に排出されない構造となっている。また、空気室のもう一つの機能としては、駆動時の油逃げを防止する機能もある。
【0007】
即ち、油圧モータ55が駆動されて減速機部52の各歯車が回転すると、油圧モータ55の出力軸55aに取付けられた太陽歯車57が油圧モータ55の出力回転数で回転することになる。太陽歯車57の回転によって、太陽歯車57を浸していた潤滑油は、遠心力によってハウジング56の内壁側に偏り、結果として油面はハウジング56内部においてすり鉢形状となる。潤滑油の油面がすり鉢形状となってハウジング56の内壁側に偏ることを許容する空間として、空気室63が利用されている。
【0008】
このように油圧ショベルやクレーン等の旋回式作業機械では、旋回駆動源として特許文献1に示されるような油圧モータを用い、この油圧モータを油圧ポンプからの吐出圧油によって駆動する油圧モータ駆動方式が多用されてきた。ところが最近では、上部旋回体の旋回制動時において絞り捨てられていた油圧エネルギーを効率良く回収するため、旋回駆動源として電動モータを用いる電動モータ駆動方式が提案され始めてきている。
【0009】
上部旋回体を下部走向体に対して旋回させる旋回装置の駆動源として、電動モータを用いたものとしては、作業機の旋回制御装置(特許文献2参照。)等が提案されている。特許文献2に記載された作業機を本発明における従来例2として、図11にはその全体構成図を示している。
【0010】
図11に示すように、クローラ式の下部走行体71に対して旋回自在に搭載された上部旋回体72には、エンジン76と、このエンジン76によって駆動される油圧ポンプ77及び発電機78と、バッテリ79と、旋回用電動モータ73及び旋回用減速機構74を備えている。電動モータ73は、図示せぬメカニカルブレーキを介して減速機構74に連結しており、減速機構74は旋回駆動機構75に連結されている。そして、メカニカルブレーキが解除された状態で電動モータ73の回転力が、減速機構74経由で上部旋回体72に伝えられ、上部旋回体72全体を下部走行体71に対して旋回動させることができる。
【0011】
特許文献2における減速機構74の構成及び電動モータの構成については詳述されていないので、それらの構成については想像するしかないが、減速機構74としては従来例1に示したような減速機部を有しており、電動モータ73としては従来からの油圧モータと同じ回転数とトルクとの動力特性を有する電動モータを用いているものと考えることができる。
【0012】
また、電動モータを用いるに当たって、減速機構74として従来例1に示したような減速機部に対して更に追加の減速手段を組み合わせた構成とすることで、従来からの油圧モータの回転数よりも高速回転する電動モータを用いていることも考えられる。そして、減速手段を追加した構成としたことで、従来の油圧モータを用いた場合に得られる出力トルク・回転数を出力ピニオンに与えている構成も考えられる。
【特許文献1】特開2002−357260号公報
【特許文献2】特開2004−36304号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来例1に記載したような油圧モータを用いた場合には、油温の上昇や減速歯車の回転に伴う油面レベルの上昇を十分に吸収することのできる空気室63を設けておくことができる。しかし、上部旋回体62の旋回制動時においては、油圧エネルギーは絞り捨てられていたため、油圧エネルギーが無駄に消費されていた。
【0014】
これに対して特許文献2に記載されているような電動モータ73と減速機構74とを備えた電動旋回装置では、上部旋回体72の旋回制動時に捨てられていたエネルギーを、旋回制動時には発電機として機能させた電動モータ73で回生電力として取り出し、回生した電力を蓄圧等にして利用することができる。これにより、旋回制動時に捨てられていたエネルギーを有効に利用することができる。
【0015】
しかし、電動モータ73の構成としては、モータ回転を行うためステータ巻線とロータとの間で電磁反力を発生させる構成をとることになる。このため、ステータ巻線とロータとの配置構成としては、ステータ巻線をロータの外側に配列した構成やステータ巻線の外側にロータを配列した構成が用いられることになる。
【0016】
従って、電動モータ73の出力軸及びその軸受けの外側周囲のスペースには、巻線端部が張出す構造となる。その結果、電動モータ73を用いた場合には、油圧モータを用いていたときのような十分なスペースを有する空気室を、減速機構74の上部に形成しておくことが難しくなる。
【0017】
また、高速回転する電動モータ73を用いた場合には、電動モータ73の回転に伴って生じる潤滑油の油面は、すり鉢形状の急峻な形状となる。
即ち、油圧モータ73が駆動されて図示せぬ遊星歯車減速機構の各歯車が回転すると、油圧モータ73の出力軸に取付けられた図示せぬ太陽歯車を浸していた潤滑油や同太陽歯車に噛合して自転及び公転運動を行う図示せぬ遊星歯車を浸していた潤滑油は、太陽歯車や遊星歯車からの遠心力の作用を受けて、減速機構74におけるハウジングの内壁側に偏ることになる。これにより、潤滑油の油面は減速機構74のハウジング内部においてすり鉢形状となる。特に、電動モータ73が高速回転する場合には、ハウジング内部に形成されるすり鉢形状の油面は、急峻な形状となる。
【0018】
油面がすり鉢形状となっている状態では、潤滑油の油圧が上昇し、空気室側は圧力が低下する。このことにより、すり鉢形状の中心部は負圧となる。電動モータ73のシャフトにはオイルシールが設けられており、中心部が負圧となるとこのオイルシールが空気室側に吸引され、オイルシールを痛めることになり、電動モータ73側においてオイル漏れが生じてしまう。
【0019】
この現象を防ぐためには、電動モータ73の出力軸の長さを伸ばして、伸ばして形成した空気室のスペースを大きく構成して、すり鉢形状となったときの圧力差が低減できるスペースを空気室に確保しておくことが考えられる。しかし、このように空気室のスペースを大きく構成すると、無駄に大きなハウジングを有する結果となり、電動旋回装置によって大きな場積が占有されてしまうことになる。
【0020】
更に、旋回装置の電動モータ化に当たっては、一般に減速機構に追加の減速手段を組み合わせた構成としたり、減速機構における減速比を大きくとった構成とすることで、高速回転する電動モータを用いることが望ましい構成となっている。
【0021】
しかし、高速回転する電動モータを用いるために、追加の減速手段を組み合わせたりした構成を採用すると、減速機構の軸方向へのサイズアップが避けられなくなる。減速機構の軸方向への更なる大型化は、旋回装置の電動モータ化に当たって、旋回装置を搭載する上での大きな制約となっていた。
【0022】
本願発明では、上述したような従来の問題点を解決し、空気室を形成するために減速機構の軸方向へのサイズアップを行わず、潤滑油の動的な油面状態がすり鉢形状となった状態での潤滑油と空気室との圧力差を許容し、しかも、エネルギーの消費を抑えて旋回装置を停止した後に再起動を行うときにすり鉢形状の油面状態に立ち戻り易くできる電動旋回装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本願発明の課題は請求項1〜5に記載された各発明により達成することができる。
即ち、本願発明では、電動モータを駆動源として旋回式作業機械の上部旋回体を旋回させる電動旋回装置において、上部に配した前記電動モータからの回転を減速する減速機と、前記減速機内の潤滑油室に潤滑油を供給する第1連通路と、前記潤滑油室上部と連通する第2連通路と、を備え、
前記第1連通路が、前記第2連通路の配設位置よりも下方に配設され、前記第1連通路と前記第2連通路とが、前記電動旋回装置の外部に配設したバッファタンクに接続されてなり、前記バッファタンクから前記第1連通路を流通して前記潤滑油室内に戻る潤滑油の流量が、流量規制されてなることを最も主要な特徴となしている。
【0024】
また、本願発明では上述した発明において、第1連通路に絞り部が配設された構成及び第2連通路を流通してバッファタンクから潤滑油室内に戻る潤滑油の流量が、流量規制されている構成を特定したことを主要な特徴となしている。
更に、本願発明では上述した発明において、絞り部の配設部位及び第2連通路にバッファタンク側への流通を許容する方向制御弁を配設した構成を特定したことを主要な特徴となしている。
【0025】
更にまた、本願発明では上述した発明において、絞り部の配設部位及び絞り部を配設した連通路と第2連通路との配置関係を特定したことを主要な特徴となしている。
また、本願発明では上述した発明において、絞り部の配設部位及び第2連通路とバッファタンクとの接続構成を特定したことを主要な特徴となしている。
【発明の効果】
【0026】
本願発明では、減速機の潤滑油室内における上部部位に空気室のスペースを大きく構成することなしに、潤滑油室内の上部部位を電動旋回装置の外部に配設したバッファタンクと連通させた構成とすることで、バッファタンクを空気室として使用することができる。
【0027】
しかも、第1連通路の配設位置を第2連通路の配設位置よりも下方に配設するとともに、バッファタンクから第1連通路を流通して潤滑油室内に戻る潤滑油の流量を、流量規制している。
【0028】
この構成によって、電動モータによる減速歯車の回転に伴って油面がすり鉢状に変化しても、すり鉢状の頂部側における潤滑油は適宜、第2連通路を介してバッファタンク内に逃がすことにより、すり鉢形状となった状態での潤滑油と空気室との圧力差を低減することができる。しかも、減速歯車が安定的に定速回転しているときには、減速機上部の空気室に形成される油面の形状としては、一定形状のすり鉢状に保っておくことができる。
【0029】
そして、すり鉢状となった油圧の状態を一定に保つため、減速機の潤滑油室上部における空気室から排出しておかなければならない潤滑油は、第2連通路を通ってバッファタンク内に逃がしておくことができる。
【0030】
電動旋回装置によって旋回動作を行わせているときにバッファタンク内に逃がした潤滑油は、旋回動作の停止時には絞り部を介して流量が規制されている第1連通路から潤滑油室内へ徐々に戻すことができる。
【0031】
第2連通路の構成としては、旋回動作の停止時にバッファタンク内に逃がした潤滑油が、第2連通路を流通して減速機の潤滑油室内に戻ってしまうのを禁止する構成としておくことや、第2連通路を流通して減速機の潤滑油室内に戻らせることができる構成であったとても、第2連通路を流通する流量を規制できるように構成しておくことができる。
【0032】
これによって、電動旋回装置による旋回動作を停止させた直後に、旋回動作を再開させる場合であっても、減速機の潤滑油室内に溜まっている潤滑油の容量としては、減速歯車の回転によって形成される油面の動的変化形状を略一定に維持しておくのに必要な容量にしておくことができる。旋回動作を停止させている間では、第1連通路や第2連通路を通って、バッファタンク内から潤滑油は減速機の潤滑油室内に戻されることになるが、第1連通路や第2連通路を流通する流量は規制されているので、減速機の潤滑油室内での潤滑油の油面上昇はゆっくりとしたものになる。
【0033】
このように、旋回動作を停止させた直後に旋回動作が行われて減速歯車が回転し始めたとしても、潤滑油による減速歯車の回転に対する攪拌抵抗は低減され、減速歯車の回転が所望の回転数にまで上昇する時間を短縮することができる。しかも、減速歯車の回転を所望の回転数にまで上昇させるのに要する電動モータの消費エネルギーも低減させることができる。このように、電動旋回装置におけるエネルギー効率を大いに高めておくことできる。
【0034】
更に、バッファタンクを電動旋回装置の外部に配設しておくことができ、しかも、減速機の上部には大容量の空気室を形成しておかなくてすむので、旋回式作業機械への電動旋回装置の搭載性を向上させ、しかも、簡単な構成によって、潤滑油の油面における動的変化を許容しておくことができる。また、ハウジングの内壁側に偏ってすり鉢状となった潤滑油の油面内を減速歯車が通過することができるので、常に減速歯車に対して潤滑油を供給しておくことができ、電動旋回装置としての耐久性を向上させることができる。
【0035】
第1連通路を流通する潤滑油の流量規制を行う絞り部は、第1連通路に配設しておくことも、あるいは、第1連通路及び第2連通路をバッファタンクに接続する第3連通路における第2連通路との接続部よりも上方部位に配設しておくこともできる。
【0036】
絞り部を第1連通路に配設しておいた場合には、前記第2連通路にバッファタンク側への潤滑油の流通を許容する方向制御弁を配設しておいた構成にしたり、第2連通路をバッファタンク内の上部空気層と接続させた構成としておくことができる。
この構成では、バッファタンク内に逃がした潤滑油は旋回動作の停止時には、第2連通路を通らずに第1連通路から減速機の潤滑油室内に戻されることになる。
【0037】
また、絞り部を第2連通路との接続部よりも上位にある第3連通路の部位に設けた場合には、旋回動作の停止時にバッファタンク内に逃がしておいた潤滑油を、第1連通路及び第2連通路を通って潤滑油室内に戻すことができる。しかし、第3連通路に配設した絞り部によって第1連通路及び第2連通路を通る潤滑油の流量を規制しておくことができるので、減速機内における潤滑油の油面上昇速度はゆるやかなものになることができる。
【0038】
バッファタンクの容量としては、所望の容量となるように構成しておくことができ、少なくとも潤滑油の油面における動的変化を許容できる容量として構成しておくことができる。しかも、バッファタンクを電動旋回装置の外部に配設しておくことができるので、上部旋回体内での配置構成に対する設計の自由度を大幅に向上させることができる。また、バッファタンクとしては、潤滑油の注油管、潤滑油の油面レベルを検出する検油管としての機能を兼用させておくこともできる。
【0039】
また、バッファタンクは必ずしもタンク形状のものでなくとも、所望の容量を確保することが出来るものであれば、パイプ状部材のような簡便なものでも同様の機能を果たすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本発明の好適な実施の形態について、添付図面に基づいて以下において具体的に説明する。本願発明の電動旋回装置の構成としては、以下で説明する形状、配置構成以外にも本願発明の課題を解決することができる形状、配置構成であれば、それらの形状、配置構成を採用することができるものである。
【0041】
また、以下の説明では、上部旋回体を下部走向体に搭載した例を用いて説明を行うが、上部旋回体は固定された下部フレーム等に対して旋回動を行う構成としておくこともできる。このため、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではなく、多様な変更が可能である。
【実施例1】
【0042】
図1は、本発明の実施形態に係わる電動旋回装置の縦断面図である。図1に示すように、電動モータ5は、図示せぬ旋回制御装置からの制御によって、所定の電力が供給されて回転駆動する。電動モータ5は、従来の油圧モータとほぼ同じ大きさのものを用いているが、従来の油圧モータとは異なる大きさのものを用いることもできる。従来の油圧モータよりも大きな場積を占める電動モータを用いた場合には、電動旋回装置4を配設するのに必要な場積が大きくなってしまい、逆に従来の油圧モータよりも小さな場積を占める電動モータを用いた場合には、電動モータの出力トルクが小さくなってしまう問題が発生する。このため、電動モータ5としては、従来の油圧モータとほぼ同じ大きさのものを用いておくことが望ましい構成となる。
【0043】
また、電動モータ5は、従来の油圧モータに相当する出力トルクを生じさせるために、油圧モータに比べて高速回転型の電動モータを用いている。電動モータ5の下部側には、モータ駆動軸5aの回転を減速する減速機10が設けられている。減速機10は、三段階の減速機として構成されている。三段階の減速機としては、電動モータ5からの回転を最初に減速する第一減速機11、第一減速機11で減速した回転を更に減速する第二減速機12、及び第二減速機12で減速した回転を更にもう一度減速して出力ピニオン14を回転させる第三減速機13から構成されている。そして、第一減速機11と第二減速機12との間には、メカニカルブレーキ15が配設されている。
【0044】
電動旋回装置4は上部旋回体2に固定され、スイングサークル3は下部走向体1に固定されている。また、上部旋回体2にはスイングサークル3に対して外接して相対回転できるように同芯円状の外輪8(左側断面の図示は省略)が固定されている。外輪8とスイングサークル3との間で相対回転が行えるように、外輪8とスイングサークル3との間にはベアリング8aが介在されている。
【0045】
そして、第三減速機13からの出力で回転される出力ピニオン14は、下部走向体1に設けたスイングサークル3に形成された内歯に噛合しており、出力ピニオン14が回転することによって、上部旋回体2は下部走向体1に対して旋回動することができる。
【0046】
次に減速機10の構成及びメカニカルブレーキ15の構成について説明するが、減速機10としては三段階の減速機に限定されるものではなく、一段階の減速機を含む適宜の段数を備えた減速機を用いることができる。また、遊星歯車機構以外の減速機を用いることもできる。メカニカルブレーキ15の構成としては、以下で説明するブレーキ機構に限定されるものではなく、周知のブレーキ機構を用いることができる。また、ブレーキ機構を配設する部位としては、第一減速機11と第二減速機12との間の部位に限定されるものではない。
【0047】
減速機10及びメカニカルブレーキ15は、上武旋回体2に固定された円筒状のケーシング7内に収納されている。ケーシング7は、上方から順に、内部に第一減速機11が配設される第1ケーシング7aと、内部にメカニカルブレーキ15が配設されるブレーキケーシング7bと、内部に第二減速機12及び第三減速機13の一部が配設される第2ケーシング7cと、内部に第三減速機13の残りの部分が配設される第3ケーシング7dとから構成されている。各ケーシング7a〜7dは、例えばボルト等の固定手段により隣接するケーシング同士が固定されている。
【0048】
第1ケーシング7aの上端部には、電動モータ5が固定されており、第3ケーシング7dの下端部は、上部旋回体2に固定されている。図示例では、電動モータ5は、水冷ジャケット19内に配設されている。
【0049】
第一減速機11は、モータ駆動軸5aに設けた第一太陽歯車11aの回転を減速して、駆動トルクを増大させて第一駆動軸11fから出力させる構成となっている。第一太陽歯車11aの回転は、第一太陽歯車11aと第1ケーシング7aの内周面に形成した第一リング歯車11eとに噛合している第一遊星歯車11bに伝えられる。第一太陽歯車11aからの回転によって、第一遊星歯車11bは自転するとともに第一太陽歯車11aの外周を公転する。
【0050】
第一遊星歯車11bの公転運動は、第一遊星歯車11bを回転自在に支障している第一キャリア11dの回転として取り出すことができる。第一キャリア11dの回転速度は、第一太陽歯車11aの外周を公転する第一遊星歯車11bの公転速度となり、第一太陽歯車11aの回転速度よりも減速される。そして、第一キャリア11dの回転は、第一キャリア11dとスプライン結合している第一駆動軸11fに伝えられる。
【0051】
第二減速機12は、第一駆動軸11fに設けた第二太陽歯車12aの回転を減速して、駆動トルクを増大させ、第二駆動軸12fから出力させる構成となっている。第二太陽歯車12aの回転は、第二太陽歯車12aと第2ケーシング7cの内周面に形成した第二リング歯車12eとに噛合している第二遊星歯車12bに伝えられる。第二太陽歯車12aからの回転によって、第二遊星歯車12bは自転するとともに第二太陽歯車12aの外周を公転する。
【0052】
第二遊星歯車12bの公転運動は、第二遊星歯車12bを回転自在に支障している第二キャリア12dの回転として取り出すことができる。第二キャリア12dの回転速度は、第二太陽歯車12aの外周を公転する第二遊星歯車12bの公転速度となり、第二太陽歯車12aの回転速度よりも減速される。そして、第二キャリア12dの回転は、第二キャリア12dにスプライン結合している第二駆動軸12fに伝えられる。
【0053】
第三減速機13は、第二駆動軸12fに設けた第三太陽歯車13aの回転を減速して、駆動トルクを増大させて第三駆動軸13fから出力させる構成となっている。第三太陽歯車13aの回転は、第三太陽歯車13aと第2ケーシング7cの内周面に形成した第三リング歯車13eとに噛合している第三遊星歯車13bに伝えられる。第三太陽歯車13aからの回転によって、第三遊星歯車13bは自転するとともに第三太陽歯車13aの外周を公転する。
【0054】
第三遊星歯車13bの公転運動は、第三遊星歯車13bを回転自在に支障している第三キャリア13dの回転として取り出すことができる。第三キャリア13dの回転速度は、第三太陽歯車13aの外周を公転する第三遊星歯車13bの公転速度となり、第三太陽歯車13aの回転速度よりも減速される。そして、第三キャリア13dの回転は、第三キャリア13dにスプライン結合している第三駆動軸13fに伝えられる。第三駆動軸13fの回転は、出力ピニオン14を回転させる駆動力として用いられることになる。
【0055】
このように高速回転していた電動モータ5の回転は、減速機10によって減速されて、高出力トルクの状態となって出力ピニオン14を回転させることができる。また、第一太陽歯車11a〜第三太陽歯車13aの構成及び出力ピニオン14の構成としては、それぞれモータ駆動軸5aの先端部、第一駆動軸11fの先端部、第二駆動軸12fの先端部、第三駆動軸13fの先端部を歯車形状に加工して、それぞれの軸5a、11f、12f、13fと一体に形成しておくこともできる。また、それぞれの軸5a、11f、12f、13fに対して回転不可の状態で嵌合させた構成としておくこともできる。
【0056】
メカニカルブレーキ15は、第一減速機11と第二減速機12との間に配設され、第一減速機11の出力軸である第一駆動軸11fの回転を制動する構成となっている。即ち、メカニカルブレーキ15は、第一駆動軸11fに接合されたブレーキディスク15bを、ブレーキパッド15を介して昇降動制御されるブレーキピストン16で挟圧保持したり挟圧保持を解除したりすることができる構成となっている。この構成により、第一駆動軸11fの回転に対して制動を加えたり、制動の解除を行うことができる。
【0057】
ブレーキディスク15bは、第一駆動軸11fにスプライン接合やセレーション接合などによって接合されたブレーキ連結部15aの外周部に設けられている。ブレーキパッド15cは、ブレーキディスク15bの上下両面に対向する位置に一対設けられている。一対のブレーキパッド15cのうちでブレーキディスク15bの下方側の面に対向して設けられるブレーキパッド15cは、ブレーキケーシング7bのパッド固定部に固定されており、ブレーキディスク15bの上方側の面に対向して設けられるブレーキパッド15cは、ブレーキピストン16の下端部に取り付けられている。
【0058】
ブレーキピストン16は、略環状に形成され、ブレーキケーシング7bの段差部分に対向した形状の段差部分を備えている。そして、ブレーキケーシング7bの段差部分とブレーキピストン16の段差部分とによって油圧室17が形成されている。また、ブレーキピストン16は、上部に設けたバネ18によって下方への付勢力が与えられている。尚、図2〜図5には、油圧室17を拡大した概略図を示している。
【0059】
油圧室17に対して圧油の給排を行うことで、ブレーキピストン16の上下方向への摺動を制御することができる。油圧室17への圧油の給排は、ブレーキケーシング7bに形成した油圧ポート17aから行うことができる。油圧室17に圧油が供給されると、ブレーキピストン16はバネ18を圧縮しながら上方側に押し上げられる。これにより、ブレーキピストン16によるブレーキディスク15bの挟圧保持状態が解除され、第一駆動軸11fの回転は制動されない状態となる。
【0060】
油圧室17から圧油が排出されると、ブレーキピストン16はバネ18の付勢力によって下方側に押し下げられる。これにより、ブレーキディスク15bはブレーキピストン16によって挟圧保持され、第一駆動軸11fの回転は制動されることになる。
【0061】
尚、本実施例において、1枚のブレーキディスク15bを用いた例を説明したが、この構成に限定されるものではなく、複数枚のブレーキディスクを用いた構成や他の周知の構成によるブレーキ機構を採用しても良い。また、ブレーキディスク15bを用いる場合に、ブレーキパッド15cをブレーキディスク15b側に設けた構成とすることもできる。
【0062】
第一減速機11と電動モータ5との間には、即ち、潤滑油室24内の上部には上部空間29が形成されている。上部空間29は空気室として利用することができるものであるが、第一太陽歯車11aや第一遊星歯車11bの回転によって引き起こされる遠心力で、後述にて説明する図4に示すように潤滑油が第1ケーシング7aの内周面側に偏ってすり鉢形状の形成を許容しておくのには、上部空間29のスペースは小さなものとなっている。上部空間29のスペースを大きく構成することができないのは、電動モータ5の上端部の高さ位置を高くしないで、電動モータ5のステータ巻線における巻線端部を第一減速機11と電動モータ5との間に収納させているためであって、上部空間29のスペースは小さく構成せざるを得なくなっている。
【0063】
本実施例では、前記遠心力によるすり鉢形状の油面形状の成形を許容するため、第一減速機11と電動モータ5との間に連通路30が形成されている。即ち、潤滑油室24内の上部空間29(以下では、空気室29という。)は、連通路30と連通している。連通路30は、後述する第2連通路22の一部として構成されており、第2連通路22は電動旋回装置4の外部に配設したバッファタンク25に連通している。尚、図1では、第2連通路22は紙面に対して垂直方向に形成されている。
【0064】
本発明に係わるバッファタンク25、第2連通路22等の構成については、電動旋回装置4の要部縦断面図を示す図2〜図6を用いて説明する。図2、図4、図6は、電動旋回装置の要部縦断面図を示しており、図3、図5は図2におけるA−A断面図である。
【0065】
図2には、電動モータ5が停止しているときの潤滑油の油面レベルの状態、あるいは、メカニカルブレーキ15が第一駆動軸11fを制動しているときの潤滑油の油面レベルの状態を示している。図2〜図6においては、潤滑油を破線状の横線で示している。
【0066】
図2に示すように、バッファタンク25は第3連通路23を介して第2連通路22と第1連通路21とに接続している。第1連通路21は減速機10に対して潤滑油を供給する管として構成されており、第1連通路21の配設位置は、第2連通路22よりも下方の位置に配設している。
また、第1連通路21を介して減速機10の潤滑油室24に対して潤滑油を供給するときの空気抜きとして、連通路30に連通した連通路32が形成されており、連通路32は空気抜きプラグによって閉塞させておくことができる。
【0067】
図3に示すように連通路30は、空気室29側に連通する内側環状路30a、第1ケーシング7aに形成した第2連通路22に連通する外側環状路30c、及び内側環状路30aと外側環状路30cとを連通させる放射方向の連結路30bを備えた構成となっている。また、連結路30bは、空気抜き用の連通路32とも連通している。
【0068】
内側環状路30aと外側環状路30cの構成としては、環状の流路に限定されるものではなく、例えば、独立した半円弧状の流路として構成しておくこともできる。この場合、内側の2つの半円弧状の流路は、それぞれ空気室29を介して連通した構成とし、内側の2つの半円弧状の流路にそれぞれ連通している外側の2つの半円弧状の流路は、それぞれ第2連通路22、連通路32と連通した構成としておくこともできる。
【0069】
第2連通路22には、チェック弁33が設けられている。チェック弁33は、空気室29側からバッファタンク25側への潤滑油の流れを許容し、バッファタンク25側から空気室29側への潤滑油の流れを遮断する機能を備えている。また、第3連通路23と第2連通路22との接続部よりも下方側にある第3連通路23の部位には、絞り34が設けられている。絞り34は、第1連通路21に設けておくこともできる。絞り34の絞り量としては、予め実験等によって設定しておくことができる。
【0070】
この構成により、潤滑油室24の上部空間である空気室29を拡大したと同様の機能を奏することができる。図示例では、第3連通路23は、第1ケーシング7a及びブレーキケーシング7bに外付けされた部材内に形成されている。しかし、連通路23としては、第1ケーシング7aやブレーキケーシング7bに外付けされる部材内に形成しておく代わりに、直接、第1連通路21、第2連通路22と接続した油路管として構成しておくこともできる。
【0071】
図2に示す構成例では、説明を行い易くするためにバッファタンク25の上部を開口させた構成を示しているが、バッファタンク25内に塵埃、雨水等が入り込まないように、図1に示すようにバッファタンク25の上部開口を塞いだ構成としておくことが望ましい。バッファタンク25を潤滑油の供給用のタンクとして兼用させる構成とする場合には、図1に示すように注油口を兼ねたブリーザキャップ27をバッファタンク25の天井側に設けておくことができる。ブリーザキャップ27を設けておくことによって、バッファタンク25内の内圧は大気圧相当に管理しておくことができる。
【0072】
バッファタンク25は電動旋回装置4の外部に配設されているので、所望の容積を有するバッファタンク25の形状を任意の形状として構成しておくことができる。バッファタンク25の底面位置としては、第2連通路22の配設高さ位置以上の高さ位置としておくことが望ましい。
【0073】
また、図示せぬ検油棒をバッファタンク25に設けておくこともできる。バッファタンク25に検油棒を設けておく場合には、第3連通路23を検油管として利用し、検油棒の先端部位が少なくとも第3連通路23内で後述する初期油面レベルLs位置よりも下方まで到達できるように構成しておくことが必要である。
【0074】
電動旋回装置4の停止時等における初期油面レベルLsとなるように、バッファタンク25に設けた注油口から潤滑油を供給し、バッファタンク25、第3連通路23を介して第1連通路21から減速機10の潤滑油室24内に供給することができる。このとき、図1に示した空気抜きプラグ31を外して、潤滑油室24内に潤滑油が入り易くしておくことができる。注油口をバッファタンク25に設けた例を説明したが、注油口をバッファタンク25とは別体に構成しておくこともできる。
【0075】
そして、減速機10内に溜めておく潤滑油の油面レベルとしては、第一遊星歯車11bの底面に浸かっている油面レベルを下限油面レベルLoとし、第一遊星歯車11bの上面に浸かっている油面レベルを上限油面レベルLmとして、初期油面レベルLsを上限油面レベルLmと下限油面レベルLoとの間における油面レベルとして、各種電動旋回装置に対応させて予め設定しておくことができる。
【0076】
図4は、第一太陽歯車11aの回転、第一遊星歯車11bの公転に伴って、潤滑油が供回り回転を誘起され潤滑油が第1ケーシング7aの内周面側に偏って、油面がすり鉢形状に形成された状態を示している。すり鉢形状が急峻な形状となったときに、空気室29の高さ位置を越えた潤滑油は、連通路30、第2連通路22、第3連通路23を通ってバッファタンク25内に導入されて、退避させておくことができる。
【0077】
図5に示すように、第1ケーシング7aの内周面側に偏ってすり鉢形状に形成された潤滑油は、内側環状路30aから連通路30内に流入し、連結路30b及び外側環状路30cを通って、第1ケーシング7aに形成した第2連通路22内に流入することになる。図5では、潤滑油の流れを矢印で示している。内側環状路30a及び外側環状路30cにおける潤滑油の流れが、反時計回り方向となっている例を示しているが、潤滑油の流れ方向は、第一太陽歯車11a及び第一遊星歯車の回転方向、公転方向によって決まるものであって、潤滑油の流れとしては、反時計回り方向の流れに限定されるものではない。
【0078】
第2連通路22内に流入した潤滑油は、図4に示すようにチェック弁33を通り、第3連通路23からバッファタンク25内に排出される。このとき、第一遊星歯車11bはすり鉢形状となった潤滑油中を通ることができるので、第一遊星歯車11bの歯面には潤滑油膜を常に形成しておくことができる。これによって、潤滑油膜を形成した第一遊星歯車11bに噛合している第一太陽歯車11aの歯面に対しても、潤滑油を供給しておくことができる。
【0079】
電動旋回装置4による旋回動作が停止して、第一太陽歯車11aの回転が停止した場合には、図6で示すようにバッファタンク25内に排出された潤滑油は、第3連通路23に設けた絞り34によって流量が規制されながら、第1流通路21から減速機10内に戻っていくことになる。このとき、減速機10内に戻っていく潤滑油の流量は、絞り34によって規制されているので、減速機10内における油面の上昇速度はゆっくりとしたものになる。
【0080】
また、連通路30とチェック弁33との間には、取り残された潤滑油が残ることになるが、第3連通路23内における油面レベルが第2連通路22よりも低い位置になると、連通路30とチェック弁33との間に取り残されていた潤滑油も、チェック弁33を通って第3連通路23内に流入することができる。
【0081】
この状態から、電動旋回装置4による旋回動作が再開されれば、減速機10の潤滑油室24内における油面状態としては、直ちにすり鉢形状の状態に戻すことができ、電動旋回装置4による旋回動作を迅速に所望の速度で行わせることができる。電動旋回装置4による旋回動作が開始されなければ、バッファタンク25内に逃げていた潤滑油は、絞り34で流量が調整されながら徐々に減速機10内に戻されていくことになる。
【実施例2】
【0082】
図7を用いて本発明に係わる他の電動旋回装置について説明する。図7は、他の電動旋回装置の要部を示した概略縦断面図である。図7で示す実施例2では、絞り34を第3連通路23における第2連通路22との接続部よりも上方に配設した構成に特徴を有している。また、絞り34を第3連通路23に配設したことに伴って、実施例1では第2連通路22に配設していたチェック弁33を、第2実施例では設けていない。他の構成は、実施例1における構成と同様の構成を備えることができる。そのため、実施例1と同様の構成については、実施例1において用いた部材符号と同じ部材符号を用いることでその説明を省略する。
【0083】
図7は、電動旋回装置4による旋回動作が停止して、連通路30にあった潤滑油が空気室29側に戻っている状態を示している。このとき、減速機10内の潤滑油の一部は、電動旋回装置4による旋回動作中に伴って油面がすり鉢状の形状となっていたため、バッファタンク25内に排出されたままの状態である。このため、減速機10内における潤滑油の油面レベルとしては、初期油面レベルLsよりも低い位置にある。
【0084】
この状態から、電動旋回装置4による旋回動作が開始されれば、減速機10の潤滑油室24内における油面状態としては、直ちにすり鉢形状の状態に戻ることができ、電動旋回装置4による旋回動作を迅速に所望の速度で行わせることができる。電動旋回装置4による旋回動作が開始されなければ、バッファタンク25内に逃げていた潤滑油は、絞り34で流量が調整されながら徐々に潤滑油室24内に戻されることになる。
【0085】
連通路30の高さ位置は、潤滑油室24内における潤滑油の油面レベルよりも高い位置に構成されているので、最初のうちはバッファタンク25から戻される潤滑油の一部によって、図7のように第2連通路22内に充満している状態となる。しかし、第3連通路23内における油面レベルが、第2連通路22の配設位置よりも下がると、第2連通路22内に充満していた潤滑油は、第3連通路23内に流れ込むことになる。
【0086】
このとき、第3連通路23内における油面レベルが、第2連通路22の配設位置よりも下がると、第2連通路22を空気通路として使用することができるようになり、減速機10の潤滑油室24内における潤滑油の油面レベルを初期油面レベルLsに戻す速度を速めることができる。
【実施例3】
【0087】
図8、図9を用いて本発明に係わる別の電動旋回装置について説明する。図8は、別の電動旋回装置の要部を示した概略縦断面図であり、図9は、電動旋回装置4の外部におけるバッファタンク25及び第2連通路22の配置構成を示した図である。図8、図9で示す実施例3では、第2連通路22をバッファタンク25における上部空気層と連通するように配設した構成となっている。また、第3連通路23には第2連通路22は接続されずに第1連通路21が接続した構成となっている。
【0088】
他の構成は、実施例1における構成と同様の構成を備えることができる。そのため、実施例1と同様の構成については、実施例1において用いた部材符号と同じ部材符号を用いることでその説明を省略する。
【0089】
図8に示すように、潤滑油室24内の上部における空気室29は、第2連通路22を介してバッファタンク25内における上部空気層に連通させておくことができる。このことは、図9に示すように、第2連通路22を電動旋回装置4の外部に配設した管路のように配置しておくことができる。尚、図8は、減速機10内の潤滑油の油面レベルが初期油面レベルLs状態のときの様子を示している。
【0090】
このように、第2連通路22は、バッファタンク25内における上部空気層に連通した構成となっているので、電動旋回装置4による旋回動作に伴って、空気室29で潤滑油の油面がすり鉢形状に形成されていったとしても、すり鉢形状が急峻な形状となったときに、空気室29の高さ位置を越えた潤滑油は、第2連通路22を通ってバッファタンク25の上部からバッファタンク25内に排出することができる。
【0091】
電動旋回装置4による旋回動作が停止すると、バッファタンク25内に排出されていた潤滑油は、第3連通路23に配設した絞り34を介して、第1連通油路21から減速機10内に戻されることになる。しかも、第1連通油路21を通って減速機10内に戻される潤滑油は、絞り34によって流量が調整されているので、減速機10内における油面レベルを徐々に上昇させながら戻されることになる。
【0092】
このように本発明では、バッファタンク25内に排出されていた潤滑油は、第1連通油路21を通って減速機10の潤滑油室24内に徐々に戻されていくので、減速機10内に溜まっている潤滑油の容量としては、減速歯車の回転によってすり鉢状に油面を形成しやすい容量から徐々に増量されていくことになる。このため、電動旋回装置4による旋回動作が直ぐに再開された場合には、油面形状を減速歯車の回転によってすり鉢状に形成しやすくなっているので、減速歯車の回転が所望の回転数にまで上昇する時間を短縮することができる。しかも、減速歯車の回転を所望の回転数にまで上昇させるのに要する電動モータの消費エネルギーも低減させることができるので、電動旋回装置におけるエネルギー効率を大いに高めておくことできる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本願発明は、本願発明の技術思想を適用することができる装置等に対しては、本願発明の技術思想を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】電動旋回装置の全体構成図である。(実施例1)
【図2】電動旋回装置の要部を拡大して示した概略図である。(実施例1)
【図3】図2のA−A断面図である。(実施例1)
【図4】潤滑油の油面状態を説明する図である。(実施例1)
【図5】図2のA−A断面図における潤滑油の流動方向を説明する図である。(実施例1)
【図6】バッファタンク内に潤滑油が導入された状態を説明する図である。(実施例1)
【図7】連通路に係わる他の構成を拡大して示した概略図である。(実施例2)
【図8】連通路に係わる別の構成を拡大して示した概略図である。(実施例3)
【図9】電動旋回装置の外部における連通路の配置を示した側面図である。(実施例3)
【図10】減速機付き油圧モータ装置の全体図である。(従来例1)
【図11】電動モータを用いた作業機の全体構成図である。(従来例2)
【符号の説明】
【0095】
1・・・下部走向体、
2・・・上部旋回体、
3・・・スイングサークル、
4・・・電動旋回装置、
5・・・電動モータ、
7・・・ケーシング、
10・・・減速機、
11・・・第一減速機、
12・・・第2減速機、
13・・・第三減速機、
14・・・出力ピニオン、
15・・・メカニカルブレーキ、
21・・・第1連通路、
22・・・第2連通路、
23・・・第3連通路、
24・・・潤滑油室、
25・・・バッファタンク、
29・・・空気室、
30・・・連通路、
30a・・・内側環状路、
30b・・・連結路、
30c・・・外側環状路、
33・・・チェック弁、
34・・・絞り、
50・・・油圧モータ装置、
51・・・油圧モータ部、
52・・・減速機部、
53、54・・・遊星歯車減速機構、
58・・・メカニカルブレーキ、
59・・・出力ピニオン、
60・・・リング歯車、
62・・・上部旋回体、
63・・・空気室、
71・・・下部走向体、
72・・・上部旋回体、
73・・・電動モータ、
74・・・減速機構、
75・・・旋回駆動機構、
Lm・・・上限油面レベル、
Ls・・・初期油面レベル、
Lo・・・下限油面レベル。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータを駆動源として旋回式作業機械の上部旋回体を旋回させる電動旋回装置において、
上部に配した前記電動モータからの回転を減速する減速機と、
前記減速機内の潤滑油室に潤滑油を供給する第1連通路と、
前記潤滑油室上部と連通する第2連通路と、
を備え、
前記第1連通路が、前記第2連通路の配設位置よりも下方に配設され、
前記第1連通路と前記第2連通路とが、前記電動旋回装置の外部に配設したバッファタンクに接続されてなり、
前記バッファタンクから前記第1連通路を流通して前記潤滑油室内に戻る潤滑油の流量が、流量規制されてなることを特徴とする電動旋回装置。
【請求項2】
絞り部が、前記第1連通路に配設されてなり、
前記バッファタンクから前記第2連通路を流通して前記潤滑油室内に戻る潤滑油の流量が、流量規制されてなることを特徴とする請求項1記載の電動旋回装置。
【請求項3】
絞り部が、前記第1連通路に配設されてなり、
前記バッファタンク側への潤滑油の流通を許容する方向制御弁が、前記第2連通路に配設されてなることを特徴とする請求項1記載の電動旋回装置。
【請求項4】
前記第1連通路及び前記第2連通路が、第3連通路を介して前記バッファタンクに接続されてなり、
絞り部が、前記第3連通路における前記第2連通路との接続部よりも上方部位に配設されてなることを特徴とする請求項1記載の電動旋回装置。
【請求項5】
絞り部が、前記第1連通路に配設されてなり、
前記第2連通路が、前記バッファタンク内の上部空気層と接続されてなることを特徴とする請求項1記載の電動旋回装置。
【請求項1】
電動モータを駆動源として旋回式作業機械の上部旋回体を旋回させる電動旋回装置において、
上部に配した前記電動モータからの回転を減速する減速機と、
前記減速機内の潤滑油室に潤滑油を供給する第1連通路と、
前記潤滑油室上部と連通する第2連通路と、
を備え、
前記第1連通路が、前記第2連通路の配設位置よりも下方に配設され、
前記第1連通路と前記第2連通路とが、前記電動旋回装置の外部に配設したバッファタンクに接続されてなり、
前記バッファタンクから前記第1連通路を流通して前記潤滑油室内に戻る潤滑油の流量が、流量規制されてなることを特徴とする電動旋回装置。
【請求項2】
絞り部が、前記第1連通路に配設されてなり、
前記バッファタンクから前記第2連通路を流通して前記潤滑油室内に戻る潤滑油の流量が、流量規制されてなることを特徴とする請求項1記載の電動旋回装置。
【請求項3】
絞り部が、前記第1連通路に配設されてなり、
前記バッファタンク側への潤滑油の流通を許容する方向制御弁が、前記第2連通路に配設されてなることを特徴とする請求項1記載の電動旋回装置。
【請求項4】
前記第1連通路及び前記第2連通路が、第3連通路を介して前記バッファタンクに接続されてなり、
絞り部が、前記第3連通路における前記第2連通路との接続部よりも上方部位に配設されてなることを特徴とする請求項1記載の電動旋回装置。
【請求項5】
絞り部が、前記第1連通路に配設されてなり、
前記第2連通路が、前記バッファタンク内の上部空気層と接続されてなることを特徴とする請求項1記載の電動旋回装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−232270(P2008−232270A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−72801(P2007−72801)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】
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