説明

電動機のステータ固定構造

【課題】ステータからハウジングに伝達する振動を小さくして騒音を低減することのできる電動機のステータ固定構造を提供する。
【解決手段】ステータコア34の外周面とハウジング10の内周面との間に充填された樹脂製の固定部材36により、ハウジング10にステータコア34を固定したので、ステータコア34の変形から生じる振動を固定部材36によって減衰することができ、ステータ32からハウジング10に伝達する振動を小さくして騒音を低減することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外周面側に永久磁石を有するロータと、ロータの外周面側に設けられ、電磁石を有するステータとを備えたインナーロータ型の電動機のステータ固定構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の電動機のステータ固定構造としては、ステータコア及びステータコアに取付けられたコイルを合成樹脂で覆い、剛性を高くすることによって変形量を小さくしたステータを、ハウジング内に圧入して固定するようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−52679号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の電動機のステータ固定構造では、ステータをハウジング内に圧入して固定しているため、電動機の運転によって発生するステータの振動が直接ハウジングに伝わるとともに、ステータの剛性を高くすることによってハウジングに伝わる振動を小さくしても、ステータの振動周波数が高くなるため、高周波振動がハウジングに伝わることによって、人にとって不快な高音域の音が騒音として発生するという問題点があった。
【0004】
また、密閉型の電動圧縮機の場合には、ステータコア、冷媒を圧縮する圧縮部及びステータコアを保持する部材がそれぞれ異なる振動周波数で振動するため、各振動周波数の最小公倍数となる振動周波数の高次振動が騒音として発生するという問題点があった。
【0005】
本発明は前記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ステータからハウジングに伝達する振動を小さくして騒音を低減することのできる電動機のステータ固定構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は前記目的を達成するために、コイルが設けられたステータをハウジングの内部に固定する電動機のステータ固定構造において、前記ステータの外周面とハウジングの内周面との間に充填された振動減衰性を有する合成樹脂製の固定部材により、ハウジングにステータを固定している。
【0007】
これにより、ステータの外周面とハウジングの内周面との間に充填された合成樹脂製の固定部材によって、ステータの振動が固定部材によって減衰される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ステータの振動を固定部材によって減衰することができ、ステータからハウジングに伝達する振動を小さくして騒音を低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1乃至図4は本発明の第1の実施形態を示すもので、図1は図2のA−A′断面図、図2は圧縮機の平面断面図、図3は図2のB−B′断面図、図4は固定部材の充填方法を示す圧縮機の要部側面断面図である。
【0010】
図1は、本発明の電動機を備えた密閉型の圧縮機であり、縦長形状のハウジング10と、ハウジング10内の上部に設けられ、吸入した冷媒を圧縮する圧縮部20と、ハウジング10内の圧縮部20の下方に設けられ、圧縮部20を駆動させる電動機30とを備えている。また、この圧縮機は、ハイドロフルオロカーボンまたは二酸化炭素が冷媒として用いられる。
【0011】
ハウジング10は、上下に延びる円筒状に形成され、その上端開口及び下端開口が半球形状のキャップ11によって閉鎖されている。
【0012】
圧縮部20は、互いに上下に対向するように設けられ、それぞれ対向する面側に渦巻体が設けられた固定スクロール部材21と可動スクロール部材22とを有している。圧縮部20は、固定スクロール部材21に対して可動スクロール部材22を自転することなく旋回させることにより、各渦巻体の間で図示しない吸入口から吸入した冷媒を圧縮し、図示しない吐出口から吐出するようになっている。また、可動スクロール部材22の渦巻体の反対面には、上下方向に延びる駆動シャフト23が連結され、駆動シャフト23の回転により可動スクロール部材22が旋回するようになっている。
【0013】
電動機30は、駆動シャフト23に設けられた永久磁石からなるロータ31と、ロータ31を囲むように設けられ、ハウジング10に固定されたステータ32とを有している。
【0014】
ステータ32は、複数の電磁鋼板33をハウジング10の中心軸方向に積層することにより設けられたステータコア34と、ステータコア34に巻き付けられたコイル35とを有している。ステータ32は、ハウジング10内のステータ32の取付位置において、射出成型により成型される樹脂製の固定部材36によって外部が覆われ、ハウジング10内で固定されるようになっている。固定部材36は、液晶ポリエステル樹脂(LCP)からなり、液晶ポリエステル樹脂(LCP)は高弾性率及び高振動減衰特性を有する熱可塑性樹脂である。
【0015】
ステータコア34は、内周部に周方向に亘って複数のティース34a(ここでは6個)が設けられ、各ティース34a毎にコイル35を巻き付ける集中巻が施されている。また、ステータコア34は、外周部が正多角形状(ここでは正6角形状)に形成され、各頂点が接触部34bとしてハウジング10の内周面に接触するようになっている。即ち、ハウジング10の内周面に各接触部34bが接触することにより、ハウジング10に対してステータ32の径方向の位置決めがされるようになっている。更に、ステータコア34の外周面とハウジング10の内周面との隙間には、射出成型によって固定部材36が充填されるようになっている。
【0016】
ハウジング10内にステータ32を固定する方法としては、まず、ハウジング10の上下両端を開放した状態で、ハウジング10内にステータ32を挿入し、ステータ32の上下両側に金型37を配置する。この状態で、金型37内に加熱することにより溶解した固定部材36を射出し、固定部材36を冷却して固化させることにより、ハウジング10内にステータ32を固定する。
【0017】
以上のように構成された電動機のステータ固定構造において、電動機30を駆動させると、ロータ31とステータ32との間に生じる磁力によってステータ32は繰り返し変形して振動を発生させる。しかし、ステータ32からハウジング10に伝わる振動は、固定部材36としての液晶ポリエステル樹脂(LCP)の振動減衰特性によって低減され、ハウジング10の振動を低減することが可能となる。
【0018】
このように、本実施形態の電動機のステータ固定構造によれば、ステータコア34の外周面とハウジング10の内周面との間に充填された樹脂製の固定部材36により、ハウジング10に対してステータコア34を固定したので、ステータコア34の変形から生じる振動を固定部材36によって減衰することができ、ステータ32からハウジング10に伝達する振動を小さくして騒音を低減することが可能となる。
【0019】
また、固定部材36を、液晶ポリエステル樹脂によって形成したので、他の樹脂材料と比較して高い振動減衰特性によってステータコア34の振動を減衰させることができ、ステータ32からハウジング10に伝達する振動を更に小さくして騒音を低減することが可能となる。
【0020】
また、ステータコア34の外周面の一部に、ハウジング10の内周面に接触する接触部34bを設けたので、ハウジング10内のステータコア34の固定位置においてステータコア34を位置決めすることができ、ハウジング10に対するステータコア34の組付け精度を向上させることが可能となる。
【0021】
また、ハウジング10に対してステータ32を組付けた状態で射出成型によって固定部材36を成型したので、ステータコア34の外周面とハウジング10の内周面との間に確実に固定部材36を充填することができ、ハウジング10に対してステータコア34を強固に固定することが可能となる。
【0022】
図5及び図6は本発明の第2の実施形態を示すもので、図5は圧縮機の平面断面図、図6は図5のC−C′断面図である。尚、前記第1の実施形態と同様の構成部分には同一の符号を付して示す。
【0023】
この電動機のステータコア34は、前記第1の実施形態と同様に外周部を正多角形状に形成することにより接触部34bを有する電磁鋼板33と、外周部に接触部34bを有しない電磁鋼板33aとを互いに一枚ずつまたは複数枚ずつ交互に積層したものであり、ハウジング10の中心軸方向に間隔をおいて並ぶ各接触部34bの間に固定部材36としての液晶ポリエステル樹脂(LCP)が充填されるようになっている。これにより、固定部材36に対してステータコア34をより強固に固定することが可能となる。
【0024】
このように、本実施形態の電動機のステータ固定構造によれば、前記接触部34bを、ハウジング10の中心軸方向に沿って互いに間隔をおいて並ぶように複数設けたので、ハウジング10の中心軸方向に間隔をおいて並ぶ各接触部34bの間に固定部材36を充填することができ、固定部材36に対してステータコア34をより強固に固定することが可能となる。
【0025】
図7及び図8は本発明の第3の実施形態を示すもので、図7は圧縮機の平面断面図、図8は図7のD−D′断面図である。尚、前記第1及び第2の実施形態と同様の構成部分には同一の符号を付して示す。
【0026】
この電動機のステータコア34は、外周部が真円形状に形成され、外周部に沿ってハウジング10の内周面に接触する接触部34cを有する電磁鋼板33bと、外周部に接触部を有しない真円形状の電磁鋼板33cとを積層したものであり、電磁鋼板33cの外周部とハウジング10の内周面との間に固定部材36としての液晶ポリエステル樹脂(LCP)が充填されるようになっている。これにより、ステータコア34は、電磁鋼板33bによってハウジング10に位置決めされる。また、ステータコア34は、電磁鋼板33cの外周部とハウジング10の内周面との間に固定部材36が充填されることにより、ハウジング10内に固定される。
【0027】
このように、本実施形態の電動機のステータ固定構造によれば、ステータコア34を構成する一部の電磁鋼板33bに周方向に沿ってハウジング10の内周面に接触する接触部34cを設けたので、ハウジング10内のステータコア34の固定位置においてステータコア34を位置決めすることができ、ハウジング10に対するステータコア34の組付け精度を向上させることが可能となる。
【0028】
図9は本発明の第4の実施形態を示すもので、圧縮機の平面断面図である。尚、前記第1乃至第3の実施形態と同様の構成部分には同一の符号を付して示す。
【0029】
この電動機のステータコア34は、前記第3の実施形態の電磁鋼板33bの代わりに、外周部に沿って互いに間隔をおいて設けられ、ハウジング10の内周面に接触する複数の接触部34dを有する電磁鋼板33dを設けたものであり、各接触部34dの間に固定部材36としての液晶ポリエステル樹脂(LCP)が充填されるようになっている。これにより、固定部材36に対してステータコア34をより強固に固定することが可能となる。
【0030】
このように、本実施形態の電動機のステータ固定構造によれば、ステータコア34を構成する一部の電磁鋼板33dに、外周部の周方向に沿って互いに間隔をおいて設けられ、ハウジング10の内周面に接触するように複数設けたので、ステータコア34の外周部の周方向に間隔をおいて並ぶ各接触部34dの間に固定部材36を充填することができ、固定部材36に対してステータコア34をより強固に固定することが可能となる。
【0031】
図10及び図11は本発明の第5の実施形態を示すもので、図10は圧縮機の平面断面図、図11は図10のE−E′断面図である。尚、前記第1乃至第4の実施形態と同様の構成部分には同一の符号を付して示す。
【0032】
この電動機のステータ32は、前記第1の実施形態のステータコア34を周方向に分割するように設けられ、複数のステータコア34eをハウジング10の内周面に周方向に配置することにより設けられている。また、各ステータコア34eのティース34aとコイル35との間には、ステータコア34eとコイル35とを絶縁する液晶ポリエステル樹脂(LCP)からなるボビン38が設けられている。ボビン38は、固定部材36を射出成型によって成型する際に、融解した固定部材36の温度で融解するため、ステータコア34eにコイル35を確実に固定することが可能となる。また、ボビン38は、固定部材36と同一の部材であるため、圧縮機の運転時の温度変化によって固定部材36が剥離することはない。ボビン38は、固定部材36と同一の液晶ポリエステル樹脂(LCP)以外に、固定部材36と同一の線膨張係数を有し、固定部材36を成型する際の融解した固定部材36の温度よりも低い融点の部材を用いることが可能となる。
【0033】
このように、本実施形態の電動機のステータ固定構造によれば、ステータ32を、互いに周方向に配置された複数のステータコア34eから構成したので、各ステータコア34e毎にコイル35を巻き付けることができ、コイル35の占積率を向上させることが可能となる。
【0034】
また、ボビン38を固定部材36と同一の部材から形成したので、固定部材36を成型する際に、融解した固定部材36の温度で融解させることができ、ステータコア34eにコイル35を確実に固定することが可能となる。また、固定部材36とボビン38は同一の線膨張係数を有しているため、圧縮機の運転時の温度変化によってボビン38から固定部材36が剥離することはない。
【0035】
尚、前記第1乃至第5の実施形態では、接触部34b,34c,34dをステータコア34,34e側に設けたものを示したが、図12に示すように、ハウジング10側にステータコア34,34eと接触する接触部34fを設けるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す圧縮機の側面断面図
【図2】圧縮機の平面断面図
【図3】図2のB−B′断面図
【図4】固定部材の充填方法を示す圧縮機の要部側面断面図
【図5】本発明の第2の実施形態を示す圧縮機の平面断面図
【図6】図5のC−C′断面図
【図7】本発明の第3の実施形態を示す圧縮機の平面断面図
【図8】図7のD−D′断面図
【図9】本発明の第4の実施形態を示す圧縮機の平面断面図
【図10】本発明の第5の実施形態を示す圧縮機の平面断面図
【図11】図10のE−E′断面図
【図12】その他の例を示す圧縮機の平面断面図
【符号の説明】
【0037】
10…ハウジング、30…電動機、32…ステータ、33,33a,33b,33c,33d…電磁鋼板、34…ステータコア、34a…ティース、34b,34c,34d…接触部、34e…ステータコア、34f…接触部、35…コイル、36…固定部材、37…金型、38…ボビン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルが設けられたステータをハウジングの内部に固定する電動機のステータ固定構造において、
前記ステータの外周面とハウジングの内周面との間に充填された振動減衰性を有する合成樹脂製の固定部材により、ハウジングにステータを固定した
ことを特徴とする電動機のステータ固定構造。
【請求項2】
前記固定部材を、液晶ポリエステル樹脂によって形成した
ことを特徴とする請求項1記載の電動機のステータ固定構造。
【請求項3】
前記ステータの外周面とハウジングの内周面との間に、ステータの外周面とハウジングの内周面とが周方向一部で接触する接触部を設けた
ことを特徴とする請求項1または2記載の電動機のステータ固定構造。
【請求項4】
前記接触部を、円筒状のハウジングの中心軸方向に沿って形成した
ことを特徴とする請求項3記載の電動機のステータ固定構造。
【請求項5】
前記接触部を、ハウジングの中心軸方向に沿って互いに間隔をおいて並ぶように複数設けた
ことを特徴とする請求項4記載の電動機のステータ固定構造。
【請求項6】
前記接触部を、ステータの外周面の周方向に沿って形成した
ことを特徴とする請求項3記載の電動機のステータ固定構造。
【請求項7】
前記接触部を、ステータの外周面の周方向に沿って互いに間隔をおいて並ぶように複数設けた
ことを特徴とする請求項6記載の電動機のステータ固定構造。
【請求項8】
前記接触部をステータ側に設けた
ことを特徴とする請求項3乃至7の何れか一項に記載の電動機のステータ固定構造。
【請求項9】
前記接触部をハウジング側に設けた
ことを特徴とする請求項3乃至7の何れか一項に記載の電動機のステータ固定構造。
【請求項10】
前記ステータとして、集中巻方式のステータを用いた
ことを特徴とする請求項1乃至9の何れか一項に記載の電動機のステータ固定構造。
【請求項11】
前記ステータを、互いに周方向に配置された複数のステータコアから構成した
ことを特徴とする請求項1乃至10の何れか一項に記載の電動機のステータ固定構造。
【請求項12】
前記各ステータコアとコイルとの間に合成樹脂製のボビンを設けた
ことを特徴とする請求項11記載の電動機のステータ固定構造。
【請求項13】
前記ボビンを、固定部材の線膨張係数と同一の線膨張係数を有する部材から形成した
ことを特徴とする請求項12記載の電動機のステータ固定構造。
【請求項14】
前記ボビンを、固定部材と同一の材質からなる部材から形成した
ことを特徴とする請求項12記載の電動機のステータ固定構造。
【請求項15】
前記ボビンを、固定部材を成型する際の融解した固定部材の温度よりも低い融点を有する部材から形成した
ことを特徴とする請求項12記載の電動機のステータ固定構造。
【請求項16】
前記固定部材を、ハウジングに対してステータを組付けた状態で射出成型によって成型した
ことを特徴とする請求項1乃至15の何れか一項に記載の電動機のステータ固定構造。
【請求項17】
ハイドロフルオロカーボンまたは二酸化炭素を冷媒として用いる密閉型の電動圧縮機に用いた
ことを特徴とする請求項1乃至16の何れか一項に記載の電動機のステータ固定構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−318924(P2007−318924A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−146280(P2006−146280)
【出願日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(000001845)サンデン株式会社 (1,791)
【出願人】(000100872)アイチエレック株式会社 (58)
【Fターム(参考)】