説明

電動発電機およびその組立て方法

【課題】ハイブリッド自動車の電動発電機が収容されるステータハウジングの組立て工程では、回転子と固定子との機械的間隙を細かく調整する作業が必要であり、この作業はその作業時間にしばしばバラツキが発生する。これによりベルトコンベア上の流れ作業を阻害することがあった。
【解決手段】ステータハウジングを前後に二分割して、その前要素5aをあらかじめ内燃機関のブロックに取付ける。一方、その後要素5bにフライホイールを組み付ける工程を動力ユニットを組立てる工程とは別に前もって実行する。そして、所定の治具によりその間隙調整状態を保持した状態でベルトコンベアに供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関動力と電気動力を併用するハイブリッド自動車に利用する。本発明は、内燃機関のフライホイール・ハウジング内の空間に電動発電機を収容する形態のハイブリッド自動車に利用する。とくにその電動発電機の組立て工程およびその作業手順の合理化に関する。
【背景技術】
【0002】
本願出願人は、内燃機関の出力軸に電動発電機を固定的に装着した基本構造のハイブリッド動力装置を製造し、この動力装置を装備したハイブリッド自動車を販売している。この形態の装置は(図3を参照して)、内燃機関(1)と、その出力動力を車軸に駆動動力として伝達する変速機(2)との間に電動発電機2およびクラッチ(3)を設けた構造である。この電動発電機2は交流多相回転機であり、ステータハウジングの内側に設けた固定子と、さらにその内側に設けられ内燃機関の出力軸に連結された回転子とを備えた構造である。そしてこの固定子に(図外の)電源装置から多相の交流電流を供給し、その交流電流の回転位相(すなわち周波数)を制御装置によりコンピュータ制御する。その回転位相の回転速度が電動発電機(2)の電機子の機械的回転速度より大きいときに、この電動発電機(2)は電動機として作用し、内燃機関の出力動力に加速力を与える。その供給電流の回転位相の回転速度が電動発電機(2)の機械的回転速度より小さいときには、この電動発電機(2)は発電機として作用して、変速機(4)およびクラッチ(3)から伝達される回転力に制動力として作用する。これにより走行中の車両は制動状態となり、この電動発電機の発電作用により生じる電流は電池を充電するための電流として利用される。
【0003】
なお上記括弧内の数字は添付図面の参照数字である。これは説明を理解しやすいように付記するものであり、添付図面は本発明実施例装置の図面であるから、あとから説明するように従来例構造とは違いがある。以下の説明においても同様である。
【0004】
【特許文献1】特開平8−33262
【特許文献2】特開2002−165420
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来構造の車両は、その機械的および電気的な性能は優れているが、製造工程において、とくに内燃機関および電動発電機を含む動力ユニットの製造工程において、流れ作業が滞る原因となることがあった。すなわち大型車両では、ハイブリッド自動車については専用の動力ユニットの製造ラインを設けるほどの生産量はないから、一般車両用の動力ユニット製造ラインを利用して、一般車両のユニットが流れる中に特別仕様品として混在させて製造されている。この場合に、電動発電機の軸合わせのための作業工数にしばしばバラツキが生じて、一つのタクト時間内に適正な軸合わせが完了しないことがある。その場合には、半製品である動力ユニットを製造ラインからいったん外して、特別の追加作業を実行することになるなど、効率的な流れ作業を阻害する原因となることがあった。
【0006】
この基本的な原因は、電動発電機の電気的な作用を効率化するために、(図1を参照して)固定子(6)と回転子(13)との間隙(G)を可能な限り小さく設定しなければならないことにある。これは原理的な要因である。この間隙を大きくすれば機械的な製造ばらつきを吸収することが可能であろうが、電磁的な性能の上からこれは原理的に望ましいことではない。さらに具体的には固定子(6)はステータハウジング(5)の内側に組み付けられる部材であり、回転子(13)はフライホイール(12)の外周に取付けられる部材である。そして固定子(6)も回転子(13)も個別の部品として製造されている限り、その形状にはある程度のサイズの許容値が設定されている。従来からも、ステータハウジング(5)の内側に設置される固定子(6)について、その径方向の位置をこまかく調整することができるように、外側から調整できる調整ねじ(7)を設けて、ある程度の形状ばらつきに対応することができるようになっている。従来工程ではこの調整ねじ(7)の操作を動力ユニットの製造工程の中で実行していた。
【0007】
本発明はこれを改良するものであって、回転子(13)またはフライホイール(12)と、固定子(6)との間の位置調整の操作を流れ作業となる動力ユニット(内燃機関、電動発電機、およびフライホイールを含むユニットをいう)の製造工程では行う必要のない、装置および組立て方法を提供することを目的とする。本発明は、回転子(13)またはフライホイール(12)の固定子(6)に対する位置調整を動力ユニット製造の流れ作業の中で実行することがなく、この位置調整の作業の遅延が他の工程の作業進行を遅延させる原因とならない装置または組立て方法を提供することを目的とする。本発明はこの位置調整を動力ユニットが流れ作業を伴う製造工程に供給される前に実行することが可能であり、動力ユニット製造組立ての流れ作業には実質的に位置調整が完了した形態で組立て対象物を供給し、その製造工程の流れを阻害することのない装置および方法を提供することを目的とする。本発明は、前記位置調整を動力ユニットの製造工程に入る前に実質的に完了し、調整が実行された部材をその調整状態を維持したまま、流れ作業を伴う製造工程に運搬し供給するための治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、フライホイール(12)に装着された電動発電機の回転子(13)と、この回転子(13)と対向する固定子(6)との相対位置関係をあらかじめ適正に調整してから、補助治具(17)を利用してこの位置関係を維持した状態で動力ユニットの製造工程に持ち込むことを最大の特徴とする。さらに詳しくは、ステータハウジング(5)をクランク軸(11)に垂直な平面で前要素(5a)と後要素(5b)の二つに分割する。そして、この前要素(5a)にクランク軸(11)が貫通するようにしてエンジン(1)のブロックに取付ける。一方その後要素(5b)については、その内側にあらかじめ固定子(6)を取付け、さらに治具(17)およびボルト(15および16)を利用してフライホイール(12)をこの後要素(5b)の内側に、上記固定子(6)の間に保持させる。この段階で調整ねじ(7)を操作して、フライホイール(12)および回転子(13)と固定子(6)との相対位置を適正に調整する。調整の済んだ後要素(5b)およびフライホイール(12)からなるユニットを動力ユニットの製造組立て工程に供給する。
【0009】
この手順改良により、動力ユニットの製造組立て工程の流れ作業の中で、調整ねじ(7)を操作して回転子(13)の固定子(6)に対する位置関係の調整をあらためて行う必要がなくなるから、この位置関係の調整が手間どり、製造過程にあるユニットを流れ作業から一時的に取り除くなどの操作を行う必要がなくなる。
【0010】
すなわち本発明の第一の観点は組立て方法の発明であり、内燃機関(1)のブロックにクランク軸(11)がその中心孔を貫通するようにステータハウジング(5)の前要素(5a)を取付ける第一の工程と、前記ステータハウジングの後要素(5b)の内壁に前記電動発電機の固定子(6)を取付ける第二の工程と、その第二の工程で取付けられた前記固定子(6)の内側にフライホイール(12)を配置し、そのフライホイール(12)の前記固定子(6)に対する相対位置を補助治具(17)により固定する第三の工程と、この補助治具(17)によりステータハウジングの後要素(5b)に固定されている前記フライホイール(12)を前記前要素(5a)を貫通するクランク軸(11)に取付けるとともに前記後要素(5b)を前記前要素(5a)に取付ける第四の工程と、前記補助治具(17)をステータハウジングの後要素(5b)およびフライホイール(12)から撤去する第五の工程とを含むことを特徴とする。
【0011】
さらに本発明は、前記第二および第三の工程は、前記第一、第四および第五の工程を行う工場とは別の工場で行うように設定することができる。
【0012】
本発明の第二の観点は補助治具(17)の発明であり、一つの剛体により形成され、この剛体に電動発電機のステータハウジング後端に接続するためのボルト(16)が挿通される複数の孔が形成され、さらに前記ステータハウジングの内側に配置されたフライホイール(12)を適正位置に保持するためのボルト(15)が挿通される複数の孔が形成されたことを特徴とする。
【0013】
さらに本発明の第三の観点は電動発電機の発明であり、内燃機関(1)のクランク軸(11)に固着されたフライホイール(12)と、このフライホイール(12)に固着された回転子(13)と、前記フライホイール(12)および前記回転子(13)をその内側に収容し前記内燃機関(1)のブロックに固着されたステータハウジング(5)と、このステータハウジング(5)の内側に前記回転子(13)に対して所定の間隔で対向するように配置された固定子(6)とを備えた電動発電機において、前記ステータハウジング(5)は前記回転子(13)の回転軸に垂直な仮想面(平面でなくともよい)で前要素(5a)および後要素(5b)を含む二以上の要素に分割可能な構造であり、前記固定子(6)は前記後要素(5b)に取付けられ、この後要素(5b)が前記内燃機関(1)のブロックに前記前要素(5a)を介して取付けられたことを特徴とする。
【0014】
前記ステータハウジングの後要素(5b)のクラッチ側(図の右側)に補助治具(17)を取付けるための複数のボルト孔(16′)が形成され、前記フライホイール(12)のクラッチ側にこのフライホイール(12)を前記補助治具(17)に保持するために利用されたボルト孔(15′)が形成された構成とすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、動力ユニットの組立て工程、または車両の組立て工程など、ベルトコンベアを利用した流れ作業の中で、電動発電機の中心軸出しなどの細かい作業や、作業時間にばらつきが生じる可能性のある作業を実行することがなくなり、電動発電機の組立てが他の作業の効率的な実行を阻害することはなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図3は大型車両用動力ユニットの側面図である。この装置は内燃機関1、電動発電機2、クラッチ3および変速機4が一つの軸に沿って配列されている。この基本構成はすでに広く知られているが、簡単にこれを説明すると、この装置は内燃機関1の出力軸とクラッチ3との間に、電動発電機2を介在させた構造である。この電動発電機3は円周状に配置された固定子の内側に、内燃機関1の回転軸に直結された回転子を備え、その回転軸は一端が内燃機関1の出力回転軸に連結され、他端がクラッチの入力側回転軸に連結されている。この回転軸には電動発電機2の回転子が装着されている。この電動発電機2の固定子には、図外のインバータ装置から多相交流電流が供給される。この多相交流は電動発電機2の軸まわりに回転磁界を発生させる。この回転磁界の回転速度はその多相交流の周波数に比例する。そしてその多相交流の周波数はこの図外の電気装置により、内燃機関1の回転速度を入力情報として、内燃機関1の回転速度に等しく、あるいは内燃機関1の回転速度より早く、または遅くなるように制御される。
【0017】
すなわちその回転磁界の回転速度が回転子の物理的な回転速度より大きくなるように制御されると、電動発電機2は電動機として作用し、内燃機関1の回転を補助加速する状態になる。回転磁界の回転速度が回転子の物理的な回転速度より小さく制御されると、電動発電機2は発電機として作用する。その発電機の出力に負荷が接続されると内燃機関1の回転を制動する状態になる。
【0018】
ここで本発明の特徴はこの電動発電機2の機械的構造の改良およびその組立て手順の改良にある。
【0019】
図1は内燃機関1のクランク軸11に電動発電機2が連結された状態の構造図である。電動発電機2は内燃機関1のフライホイール12の外周に取付けられた回転子13と、内燃機関1のブロックに固定的に取付けられたステータハウジング5の内側に設けられた固定子6との間に生じる磁気作用により作動する。固定子6は図示されていないリード線により電気的な制御装置(インバータ)に接続される。
【0020】
ここで本発明の問題とするところは、この回転子13と固定子6との間の間隙Gにある。この間隙Gは電動発電機2を効率的に運転するために可能な限り小さいことが望ましい。このために、回転子13が装着されたフライホイール12をクランク軸11に取付けた後に、固定子6のステータハウジング5に対する位置をわずかに調整することができるように調整ねじ7が設けられている。そしてステータハウジング5の周囲に設けてあるこの調整ねじ7を間隙Gが規定以下になり、しかも円周に沿って均一になるように調整しなければならない。すなわち従来例工法では、ベルトコンベアの上で、電動発電機2の組立てに伴いこの間隙調整を行うことが必要であった。この間隙Gがベルトコンベアが所定区間を移動する規定時間内に規定の範囲に調整できないときには、装置をベルトコンベアからいったん降ろして、さらに細かく調整することが必要であった。
【0021】
本発明では、このような作業を回避するために、ステータハウジング5をその軸に垂直な面で、前要素5aおよび後要素5bに分割した。そしてベルトコンベア上における組立て作業の前に、この後要素5bの内側にフライホイール12および回転子13を装着し、その精密な位置調整を行うようにその作業手順を変更した。
【0022】
すなわち図2を参照して、斜線を付して示すような補助治具17を用意し、この補助治具17をステータハウジングの後要素5bの端面にボルト16を用いて取付けるとともに、ボルト15およびそのボルト15に挿通された円筒形状のセパレータを用いて、フライホイール12をこの補助治具17に取付ける。そして調整ねじ7によりその間隙Gを規定値に調整する。この状態でこのフライホイール12およびステータハウジングの後要素5bをベルトコンベア上に供給する。そうするとベルトコンベア上での組立て作業は、図1に戻って、フライホイール12を固定ピン14を用いてクランク軸11に取付けるとともに、ステータハウジング5の後要素5bをすでに内燃機関1のブロックに取付けられている前要素5aに組み付け、図2で説明した補助治具17を取り除くことにより完了する。この作業には位置合わせや間隙調整などの細かい作業が含まれない。したがって、ベルトコンベア上での作業が規定時間内に終了できないようなことはほとんどなくなる。
【0023】
さらにこの図2に示すような補助治具を利用することにより、図2にその断面構造を示すステータハウジングの後要素5bの組立てを動力ユニットの組立てを行う工程とは別の工程で行い、図2にその断面構造を示す形態で動力ユニットの組立て工程に供給するように製造工程を構成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明により、図2に例示する間隙Gの調整を動力ユニットの組立てを行う工場とは別の工場で実行し、補助治具17を装着した状態でトラック輸送し、これを動力ユニットの製造ラインに供給する形態をとることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明実施例組立て手順を説明する断面図(組立て完了後)。
【図2】本発明実施例組立て手順を説明する断面図(製造ラインへ搬入する形態)。
【図3】本発明を実施した動力ユニットの側面図。
【符号の説明】
【0026】
1 内燃機関
2 電動発電機
3 クラッチ
4 変速機
5 ステータハウジング
5a 前要素
5b 後要素
6 固定子
7 調整ねじ
8 ボルト
9 ボルト
11 クランク軸
12 フライホイール
13 回転子
14 固定ピン
14′ ピン孔
15 ボルト
15′ ボルト孔
16 ボルト
16′ ボルト孔
17 補助治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関(1)のブロックにクランク軸(11)がその中心孔を貫通するようにステータハウジング(5)の前要素(5a)を取付ける第一の工程と、
前記ステータハウジングの後要素(5b)の内壁に前記電動発電機の固定子(6)を取付ける第二の工程と、
その第二の工程で取付けられた前記固定子(6)の内側にフライホイール(12)を配置し、そのフライホイール(12)の前記固定子(6)に対する相対位置を補助治具(17)により固定する第三の工程と、
この補助治具(17)によりステータハウジングの後要素(5b)に固定されている前記フライホイール(12)を前記前要素(5a)を貫通するクランク軸(11)に取付けるとともに前記後要素(5b)を前記前要素(5a)に取付ける第四の工程と、
前記補助治具(17)をステータハウジングの後要素(5b)およびフライホイール(12)から撤去する第五の工程と
を含むことを特徴とする電動発電機の組立て方法。
【請求項2】
前記第二および第三の工程は、前記第一、第四および第五の工程を行う工場とは別の工場で行う請求項1記載の電動発電機の組立て方法。
【請求項3】
一つの剛体により形成され、この剛体に電動発電機のステータハウジング後端に接続するためのボルト(16)が挿通される複数の孔が形成され、さらに前記ステータハウジングの内側に配置されたフライホイール(12)を適正位置に保持するためのボルト(15)が挿通される複数の孔が形成された電動発電機ユニットの搬送用補助治具。
【請求項4】
内燃機関(1)のクランク軸(11)に固着されたフライホイール(12)と、
このフライホイール(12)に固着された回転子(13)と、
前記フライホイール(12)および前記回転子(13)をその内側に収容し前記内燃機関(1)のブロックに固着されたステータハウジング(5)と、
このステータハウジング(5)の内側に前記回転子(13)に対して所定の間隔で対向するように配置された固定子(6)と
を備えた電動発電機において、
前記ステータハウジング(5)は前記回転子(13)の回転軸に垂直な仮想面(平面でなくともよい)で前要素(5a)および後要素(5b)を含む二以上の要素に分割可能な構造であり、
前記固定子(6)は前記後要素(5b)に取付けられ、
この後要素(5b)が前記内燃機関(1)のブロックに前記前要素(5a)を介して取付けられた
ことを特徴とする電動発電機。
【請求項5】
前記ステータハウジングの後要素(5b)のクラッチ側(図の右側)に補助治具(17)を取付けるための複数のタップ孔(16′)が形成され、前記フライホイール(12)のクラッチ側にこのフライホイール(12)を前記補助治具(17)に保持するために利用されたタップ孔(15′)が形成された請求項4記載の電動発電機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−174752(P2007−174752A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−366158(P2005−366158)
【出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】