説明

電動義手

【課題】作動音を低減して静粛性を高めつつ、軽量化を図ることのできる電動義手を提供する。
【解決手段】義手本体10に支持された第1指部35及び第2指部42を回動させる駆動源として、高分子材料により形成され、電圧印加に応じて弾性変形し、電圧印加の停止に応じて元の形状に復元することにより直線往復運動する高分子アクチュエータ50を用いる。上記直線往復運動を回動運動に変換して各指部35,42に伝達する動力伝達部60を設ける。高分子アクチュエータ50から動力伝達部60を経て両指部35,42に至る動力伝達経路に、両指部35,42を含む複数のレバーを有するリンク機構70を設ける。これらのレバーの少なくとも1つを、支点、力点及び作用点を有するてことして機能させる。そして、力点を通じてレバーに入力される変位量を増幅して、作用点から出力させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通電により作動する駆動源を用いて複数の指部を開閉駆動するようにした電動義手に関するものである。
【背景技術】
【0002】
義手として、義手本体にそれぞれ回動可能に支持された複数の指部を、駆動源により開閉駆動するようにした電動義手が種々開発されている。駆動源としては通電により作動するものが一般的である。例えば、特許文献1には、駆動源として小型の電動モータを用いた例が記載されている。また、特許文献2には、駆動源として電磁アクチュエータを用いた例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−305069号公報
【特許文献2】特開平11−56885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、電動モータを駆動源とする特許文献1では、減速のために複数のギヤが用いられるため、電動モータの回転に伴いギヤ間の噛合い部分で異音が発生し、静粛性の点で改良の余地がある。
【0005】
また、特許文献1及び特許文献2では、電動モータ及び電磁アクチュエータのいずれも大部分が金属によって形成されていることから、駆動源の重量が電動義手全体の重量に占める割合が大きく、このことが電動義手の軽量化の阻害要因となっている。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、作動音を低減して静粛性を高めつつ、軽量化を図ることのできる電動義手を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、義手本体にそれぞれ回動可能に支持されたレバーからなる複数の指部と、高分子材料により形成されて前記義手本体に取付けられ、電圧印加に応じて弾性変形し、電圧印加の停止に応じて元の形状に復元することにより直線往復運動する高分子アクチュエータと、前記高分子アクチュエータ及び前記各指部間に設けられ、前記高分子アクチュエータの前記直線往復運動を回動運動に変換して前記各指部に伝達し、同指部を回動させる動力伝達部とを備え、前記高分子アクチュエータから前記動力伝達部を経て前記各指部に至る動力伝達経路には、前記各指部を含む複数のレバーを有するリンク機構が設けられており、前記リンク機構の少なくとも1つの前記レバーは、支点、力点及び作用点を有するてこを構成しており、前記リンク機構は、前記力点を通じて前記レバーに入力される変位量を増幅して、前記作用点から出力するものであることを要旨とする。
【0008】
上記の構成によれば、高分子材料からなる高分子アクチュエータは、電圧印加に応じて弾性変形し、電圧印加の停止に応じて元の形状に復元することにより直線往復運動する。この直線往復運動は、動力伝達部によって回動運動に変換される。運動形態の変換の際、リンク機構では、レバーの少なくとも1つが「てこ(梃子)」として機能する。すなわち、リンク機構では、力点を通じてレバーに入力される変位量が増幅されて、作用点から出力される。その結果、高分子アクチュエータの直線往復運動に伴う変位量が、指部の開閉に伴う変位量よりも少なくても、上記リンク機構での増幅により各指部が開閉し、把持対象物の把持及び開放が行なわれる。
【0009】
ところで、上記各指部を回動駆動する駆動源として用いられる高分子アクチュエータは、高分子材料によって形成されているため、金属によって形成された駆動源、例えば、電動モータや電磁アクチュエータよりも軽量である。そのため、電動義手全体も軽量となる。
【0010】
また、駆動源として電動モータが用いられた場合には、その電動モータの回転を減速して各指部に伝達するために複数のギヤが必要となる。請求項1に記載の発明では、駆動源として、直線往復運動する高分子アクチュエータが用いられ、その直線往復運動を回動運動に変換するのにリンク機構が用いられているため、上記のようなギヤは不要である。複数のギヤが用いられた場合には、ギヤ同士の噛合い部分で音が発生するが、リンク機構の場合にはこのような噛合いがないため、噛合いに起因する音の発生は起こらない。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記リンク機構は、前記てこを構成する前記レバーを複数有していることを要旨とする。
上記の構成によれば、リンク機構の複数のレバーが「てこ(梃子)」として機能する。てこを構成するレバーでは、それぞれ力点を通じて入力される変位量が増幅されて作用点から出力される。この変位量の入力及び出力が複数回行なわれることで、増幅率が大きくなって、変位量がより多く増幅される。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記高分子アクチュエータは、弾性を有する絶縁性高分子材料により形成された誘電体層と、弾性を有する導電性高分子材料により形成されて前記誘電体層を両側から挟む一対の電極とを備え、前記両電極間への電圧印加に応じ、前記誘電体層をその面に沿う方向へ伸長させ、前記電圧印加の停止に応じ、前記誘電体層を収縮させて元の形状に復元させることにより直線往復運動するものであることを要旨とする。
【0013】
上記の構成によれば、一対の電極間に電圧が印加されると、一方の電極がプラスの電荷を帯び、他方の電極がマイナスの電荷を帯びる。ここで、各電極に電荷が所定量蓄積されるまでは電流が流れるが、電荷が所定量蓄積されると電流はほとんど流れなくなる。そのため、高分子アクチュエータの直線往復運動のために消費される電力は少なくてすむ。
【0014】
両電極が上記のように電荷を帯びると、プラスの電荷とマイナスの電荷とが互いに引きつけ合う力(クーロン力)が両電極に作用し、誘電体層が両電極によって両側から押圧される。誘電体層は弾性を有する絶縁性高分子材料によって形成されているため、上記のように両電極によって両側から押圧されると、自身の面に沿う方向に伸長する。電極も弾性を有する導電性高分子材料によって形成されているため、上記誘電体層に追従して伸長する。
【0015】
両電極間への上記電圧印加が停止されると、各電極に蓄積されていた電荷が放出(放電)される。この放電により、各電極が帯びている電荷が少なくなり、上記クーロン力が小さくなる。その結果、誘電体層は、自身の弾性復元力により、同誘電体層の面に沿う方向に収縮する。弾性を有する電極もまた誘電体層に追従して収縮する。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記高分子アクチュエータの主要部をなすアクチュエータ本体は、前記誘電体層及び前記両電極が中心軸線の周りで渦巻き状に巻かれることにより円筒状に形成されており、前記両電極間への電圧印加に応じ前記中心軸線に沿って伸長し、電圧印加の停止に応じ前記中心軸線に沿って収縮して元の形状に復元するものであることを要旨とする。
【0017】
上記の構成によれば、高分子アクチュエータは、誘電体層及びその両側の電極が渦巻き状に巻かれることにより、コンパクトな形態(円筒状)となり、義手本体への搭載性が向上する。
【0018】
円筒状をなすアクチュエータ本体は、両電極間への電圧印加に応じ、誘電体層の面に沿う方向のうち中心軸線CLに沿う方向(アクチュエータ本体の長さ方向)へ伸長する。アクチュエータ本体は、両電極間への上記電圧印加の停止に応じ、上記中心軸線CLに沿う方向(長さ方向)に収縮して元の形状に復元する。
【0019】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、前記義手本体には、前記リンク機構に連結された可動部材が、前記アクチュエータ本体の伸縮方向に沿って移動可能に設けられており、前記アクチュエータ本体の前記中心軸線に沿う方向についての一端は固定端として前記義手本体に移動不能に固定され、他端は可動端として前記可動部材に取付けられていることを要旨とする。
【0020】
上記の構成によれば、両電極間に電圧が印加されると、アクチュエータ本体は、中心軸線に沿う方向についての一端である固定端から、他端である可動端が遠ざかるように伸長する。これに伴い、可動端に取付けられた可動部材がアクチュエータ本体の伸長方向前側(可動端が固定端から遠ざかる側)へ移動する。このときの可動部材の変位がリンク機構に伝達される。
【0021】
また、上記電圧印加が停止されると、アクチュエータ本体は上記可動端が固定端に近付くように収縮する。これに伴い、上記可動部材がアクチュエータ本体の収縮方向前側(可動端が固定端に近付く側)へ移動する。このときの可動部材の変位がリンク機構に伝達される。
【0022】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、前記アクチュエータ本体は複数本用いられ、伸縮方向を揃えた状態で配置されており、前記アクチュエータ本体毎の前記可動端は共通の前記可動部材に取付けられていることを要旨とする。
【0023】
上記の構成によれば、各アクチュエータ本体から出力される力が小さいと、可動部材に加わる力が小さい。しかし、請求項6に記載の発明によるように、複数本のアクチュエータ本体が伸縮方向を揃えた状態で配置され、各々の可動端が共通の可動部材に取付けられることで、同可動部材に大きな力が加えられる。その結果、可動部材を通じリンク機構に大きな力が伝達され、把持対象物が指部によって強い力で把持される。
【0024】
請求項7に記載の発明は、請求項5又は6に記載の発明において、前記義手本体には、前記可動部材が前記アクチュエータ本体の前記伸縮方向へ移動するのを案内するガイド部が設けられていることを要旨とする。
【0025】
上記の構成によれば、アクチュエータ本体が伸縮すると、それに伴い可動部材が移動する。この際、可動部材はガイド部により、アクチュエータ本体の伸縮方向へ移動することを案内される。そのため、上記のように移動する可動部材を通じ、アクチュエータ本体の伸縮(直線往復運動)がリンク機構に対し、ロスの少ない状態で伝達される。
【0026】
請求項8に記載の発明は、請求項5〜7のいずれか1つに記載の発明において、前記リンク機構は、前記てこを構成する前記レバーと前記可動部材との間に配置され、かつ前記アクチュエータ本体の伸縮に伴い、その伸縮方向に変位する駆動レバーを備えることを要旨とする。
【0027】
上記の構成によれば、アクチュエータ本体が伸縮すると、それに伴い可動部材が変位し、その変位がリンク機構に伝達される。リンク機構では、てこを構成するレバーと可動部材との間に配置された駆動レバーが、アクチュエータ本体の伸縮方向に変位する。そのため、上記のように変位する駆動レバーを通じ、アクチュエータ本体の伸縮(直線往復運動)がリンク機構に対し、ロスの少ない状態で伝達される。
【0028】
請求項9に記載の発明は、請求項1〜8のいずれか1つに記載の発明において、前記義手本体、前記各指部及び前記動力伝達部は、それぞれ高分子材料により形成されていることを要旨とする。
【0029】
上記の構成によれば、それぞれ高分子材料によって形成された義手本体、各指部及び動力伝達部は重量が軽い。従って、上記義手本体、各指部及び動力伝達部を構成部材とする電動義手は、これらの少なくとも1つの構成部材が金属によって形成されたものよりも軽量となる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の電動義手によれば、電圧印加に応じて弾性変形し、電圧印加の停止に応じて元の形状に復元することにより直線往復運動する高分子アクチュエータを用い、その直線往復運動に伴う変位量を増幅して複数の指部に伝達し、同指部を回動(開閉)させるようにしたため、作動音を低減して静粛性を高めつつ、軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明を具体化した一実施形態における電動義手の全体構成を示す斜視図。
【図2】図1の電動義手から高分子アクチュエータが取り外された状態を示す斜視図。
【図3】一実施形態の電動義手における高分子アクチュエータを示す図であり、(A)は電圧印加の停止に応じ収縮した高分子アクチュエータの断面構造を概念的に示す断面図、(B)は電圧印加に応じ伸長した高分子アクチュエータの断面構造を概念的に示す断面図、(C)は展開させられた状態の高分子アクチュエータの構造を概念的に示す斜視図。
【図4】一実施形態における電動義手の平断面図。
【図5】一実施形態における電動義手の底断面図。
【図6】一実施形態の電動義手において、両指部が開かれたときの調整板部及び動力伝達部の概略構成を示す模式図。
【図7】一実施形態の電動義手において、両指部が閉じられたときの調整板部及び動力伝達部の概略構成を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を具体化した一実施形態について、図面を参照して説明する。
図1及び図2に示すように、本実施形態の電動義手は、大きくは義手本体10、複数の指部、高分子アクチュエータ50及び動力伝達部60からなる。電動義手を構成する上記部材のうち、義手本体10、各指部及び動力伝達部60は、それぞれ高分子材料、例えばエンジニアリングプラスチック等の強度の高い合成樹脂によって形成されている。
【0033】
次に、電動義手の各構成部材について説明する。
<義手本体10>
義手本体10は、電動義手の骨格部分をなすものである。ここで、電動義手において、人の手首に相当する箇所に向かう方向を「後方」とし、指先に相当する箇所に向かう方向を「前方」とすると、義手本体10は前後方向に細長い形状をなしている。義手本体10は、後面が開放された収容部11を有している。収容部11の後面の開放部分は、人の手の手首に相当する箇所である後壁部12によって塞がれている。後壁部12は板状をなし、前後方向に対し直交しており、義手本体10の後部の複数箇所に対し、ボルト13及びナット14によって締結されている。後壁部12の複数箇所(本実施形態では9箇所)には、シャフト支持孔15が前後に貫通されている。
【0034】
義手本体10は、収容部11の側方に一対の対向壁部16,17を有している。一方(図1及び図2の各右方)の対向壁部16は、人の手の甲(手を握ると外側になる、手首から指のつけ根までの面)に相当する箇所である。他方(図2の左方)の対向壁部17は、手の平(手首から指の付け根までの、手を握ったときに内側になる面)に相当する箇所である。
【0035】
義手本体10は、収容部11の前方に前壁部18を有している。前壁部18において、上記シャフト支持孔15の前方となる複数箇所には、シャフト支持孔(図示略)が前後に貫通されている。前壁部18は板状をなし、前後方向に対し直交している。前壁部18の前側であって、同前壁部18に近接した箇所には蓋部19が配置されており、上記前壁部18のシャフト支持孔がこの蓋部19によって覆い隠されている。蓋部19は、前壁部18の複数箇所に対し、ボルト21及びナット(図示略)によって締結されている。
【0036】
義手本体10は、上記前壁部18に近接する箇所に一対の支持壁部23を有している。両支持壁部23は、一定の間隙をおいて互いに離間している。
収容部11内には、後述するリンク機構70の連結される可動部材24が、前後方向へ移動可能に配設されている。可動部材24は、前後方向へ延びるスライド板部25と、スライド板部25の後端から同スライド板部25に直交する方向(図1及び図2の上方)へ延びる可動壁部26と、前後方向へ延び、かつスライド板部25に対し前後方向への位置調整可能に設けられた調整板部28とを備えている。可動壁部26は、上記後壁部12の前方に近接した箇所に位置している。可動壁部26において、上記前壁部18及び後壁部12の各シャフト支持孔15に対応する複数箇所には、同シャフト支持孔15よりも大径の取付孔27が前後に貫通されている。
【0037】
各対向壁部16,17には、前後方向へ延びるガイド溝29Aを有するガイド部29が形成されており、これらのガイド溝29Aに上記スライド板部25の両側部が前後方向へのスライド可能に係合されている。
【0038】
図2及び図5に示すように、調整板部28には、それぞれ前後方向に延びる一対の調整孔31が形成されている。そして、スライド板部25に移動不能に挿通され、かつ各調整孔31に移動可能に挿通されたボルト32と、同ボルト32に螺合されたナット33とによって調整板部28がスライド板部25に締結されている。各調整孔31におけるボルト32の前後位置を調整することで、スライド板部25に対する調整板部28の前後位置調整が可能となっている。
【0039】
<指部>
図4及び図5に示すように、複数の指部は、本実施形態では第1指部35及び第2指部42からなる。第1指部35は、人の手の人差し指、中指等に相当するものであり、その前端は指先36を構成している。第1指部35は、両支持壁部23間であって、対向壁部16寄りの箇所に設けられた回動中心軸37により回動可能に支持されている。第1指部35において回動中心軸37よりも後側には、後部ほど第2指部42に近付くように、前後方向に対し傾斜して延びる長孔38があけられている(図4参照)。また、第1指部35において、上記回動中心軸37よりも前側、かつ第2指部42側には、連結軸39が設けられている。
【0040】
第2指部42は、人の手の親指に相当するものであり、その前端は指先43を構成している。第2指部42は、両支持壁部23間であって、対向壁部17寄りの箇所に設けられた回動中心軸44により回動可能に支持されている。第2指部42において、上記回動中心軸44よりも後側、かつ第1指部35側には、連結軸45が設けられている。
【0041】
<高分子アクチュエータ50>
高分子アクチュエータ50は、高分子材料により形成され、かつ電圧印加に応じて弾性変形し、電圧印加の停止に応じて元の形状に復元することにより直線往復運動するアクチュエータであり、人の手における筋肉に相当するものである。
【0042】
高分子アクチュエータ50としては、誘電方式と呼ばれるものと、イオン方式と呼ばれるものとがあるが、本実施形態では、変位、発生力等の点で誘電方式の高分子アクチュエータが採用されている。
【0043】
図3(C)は、誘電方式の高分子アクチュエータ50を、平面状に展開させた状態で示している。この図3(C)に示すように、高分子アクチュエータ50は、弾性を有する絶縁性高分子材料によって形成された誘電体層51と、弾性を有する導電性高分子材料により形成されて誘電体層51を両側から挟む一対の電極52,53とを備えている。
【0044】
誘電体層51は、架橋点の動く高分子化合物(高分子ゲル等)、例えばポリロタキサンによって形成されている。
両電極52,53は、汎用ゴム等によって形成されている。一方の電極52は電源54のプラス極に接続され、他方の電極53はスイッチ55を介し電源54のマイナス極に接続されている。
【0045】
高分子アクチュエータ50は、両電極52,53間への電圧印加に応じ、誘電体層51をその面に沿う方向へ伸長させ、電圧印加の停止に応じ、誘電体層51を収縮させて元の形状に復元させることにより直線往復運動するものである。
【0046】
高分子アクチュエータ50の主要部をなすアクチュエータ本体56は、図3(A),(B)に示すように、誘電体層51及びその両側の電極52,53が、中心軸線CLの周りで渦巻き状に巻かれることにより、両端が開口された円筒状に形成されている。このように、アクチュエータ本体56はコンパクトな形態を採っており、義手本体10への搭載性のよいものとなっている。
【0047】
また、アクチュエータ本体56は、図3(B)に示すように、両電極52,53間への電圧印加により、誘電体層51の面に沿う方向のうち中心軸線CLに沿う方向(アクチュエータ本体56の長さ方向)に伸長し、図3(A)に示すように、電圧印加の停止により、上記中心軸線CLに沿う方向(長さ方向)に収縮して元の形状に復元する。
【0048】
なお、アクチュエータ本体56の伸縮に伴う高分子アクチュエータ50の変位量は、両指部35,42の開閉に伴う変位量に比べ少ないが、図3(A),(B)では、説明の便宜上、アクチュエータ本体56の伸縮の状態が誇張して図示されている。
【0049】
上記アクチュエータ本体56の中心軸線CLに沿う方向についての両方の開口には、円筒状のパイプ57がそれぞれ挿入されて固定されている。アクチュエータ本体56内において、上記両パイプ57間にはコイルばね58が圧縮された状態で配置されている。このコイルばね58は、両パイプ57を、互いに遠ざける方向(図3(A),(B)の各左右方向)へ付勢している。このコイルばね58の付勢力は、両パイプ57を通じてアクチュエータ本体56に伝わる。従って、アクチュエータ本体56は、その中心軸線CLに沿う方向に伸びるように付勢されていることになる。このような構成を採っているのは、誘電体層51を面に沿う方向へ伸長させる際に、中心軸線CLを中心とする渦に沿う方向へ伸長するのを極力抑えることにより、中心軸線CLに沿う方向へのアクチュエータ本体56の変位量を可能な限り大きくするためである。
【0050】
図1に示すように、本実施形態では、上記の構成を有する高分子アクチュエータ50が複数本用いられている。これらの高分子アクチュエータ50のアクチュエータ本体56は、伸縮方向を前後方向に揃えた状態で配置されている。すなわち、本実施形態では、高分子アクチュエータ50毎のアクチュエータ本体56の伸縮方向と、前後方向とが合致している。
【0051】
図1及び図3に示すように、上記高分子アクチュエータ50毎のアクチュエータ本体56、アクチュエータ本体56毎のパイプ57、及びアクチュエータ本体56毎のコイルばね58には、前後方向へ延びるシャフト59が挿通されている。シャフト59毎の前端部は前側のパイプ57から前方へ露出し、前壁部18のシャフト支持孔に挿通されて固定されている。シャフト59毎の後端部は後側のパイプ57から後方へ露出し、後壁部12のシャフト支持孔15に挿通されて固定されている。各アクチュエータ本体56の前端は、固定端56Aとして前壁部18に固定されており、義手本体10に対し移動不能である。各アクチュエータ本体56の後端部は、可動端56Bとして可動壁部26に取付けられている。
【0052】
<動力伝達部60>
動力伝達部60は、各アクチュエータ本体56(可動部材24)及び各指部35,42(回動中心軸37,44)間に設けられ、各アクチュエータ本体56(可動部材24)の直線往復運動を回動運動に変換して各指部35,42に伝達し、同指部35,42を回動(開閉)させるためのものである。
【0053】
図6は、指部35,42が開かれたときの可動部材24の調整板部28及び動力伝達部60の概略構成を示している。図7は、指部35,42が閉じられたときの可動部材24の調整板部28及び動力伝達部60の概略構成を示している。これらの図6及び図7に示すように、動力伝達部60は複数のレバーを備えている。複数のレバーは、1本の駆動レバー61と、前後一対の従動レバー62,63とからなる。
【0054】
後側の従動レバー63は、後側ほど第2指部42に近付くように、前後方向に対し傾斜した状態で配置されている。後側の従動レバー63は、その後端部に設けられた回動中心軸64により、義手本体10の底壁部20に回動可能に支持されている。後側の従動レバー63の前端部には軸65が設けられており、この軸65が、上記第1指部35の長孔38に対し、その長孔38の延びる方向への移動可能に係合されている。
【0055】
前記調整板部28の前端部には連結軸30が設けられている(図2参照)。また、後側の従動レバー63において、上記連結軸30の前方となる箇所(軸65と回動中心軸64との間)には、連結軸66が設けられている。そして、前後方向に延びる駆動レバー61が、上記両連結軸30,66において、調整板部28及び後側の従動レバー63に連結されている。
【0056】
前側の従動レバー62は、後側ほど第2指部42に近付くように傾斜した状態で配置されている。前側の従動レバー62の前端部は上記第1指部35の連結軸39に連結され、後端部は第2指部42の連結軸45に連結されている。
【0057】
動力伝達部60における上記複数本のレバー(駆動レバー61、従動レバー62,63)に、上述した第1指部35及び第2指部42がレバーとして加わることで、リンク機構70が構成されている。両指部35,42を含む複数のレバーを有する上記リンク機構70は、高分子アクチュエータ50から動力伝達部60を経て両指部35,42に至る動力伝達経路に設けられている。
【0058】
図6に示すように、後側の従動レバー63は、連結軸66を力点とし、回動中心軸64を支点とし、軸65を作用点とする「てこ(梃子)」を構成している。この後側の従動レバー63において、力点(連結軸66)及び支点(回動中心軸64)間の長さL1は、力点(連結軸66)及び作用点(軸65)間の長さL2よりも短く設定されている。
【0059】
レバーとして機能する第1指部35は、軸65を力点とし、回動中心軸37を支点とし、指先36を作用点とする「てこ(梃子)」を構成している。この第1指部35において、力点(軸65)及び支点(回動中心軸37)間の長さL3は、支点(回動中心軸37)及び作用点(指先36)間の長さL4よりも短く設定されている。
【0060】
従って、高分子アクチュエータ50の伸縮(変位)は、可動部材24を介して駆動レバー61に入力されて第1指部35の指先36から出力されるまでの間に、てこ(梃子)を構成する2つのレバー(従動レバー63、第1指部35)を経ることとなる。
【0061】
レバーとして機能する第2指部42は、連結軸45を力点とし、回動中心軸44を支点とし、指先43を作用点とする「てこ(梃子)」を構成している。この第2指部42において、力点(連結軸45)及び支点(回動中心軸44)間の長さL5は、支点(回動中心軸44)及び作用点(指先43)間の長さL6よりも短く設定されている。
【0062】
従って、高分子アクチュエータ50の伸縮(変位)は、可動部材24を介して駆動レバー61に入力されて第2指部42の指先43から出力されるまでの間に、てこ(梃子)を構成する2つのレバー(従動レバー63、第2指部42)を経ることとなる。
【0063】
上記のようにして本実施形態の電動義手が構成されている。次に、この電動義手の作用について説明する。
図1、図3(A),(C)及び図6は、スイッチ55(図3(C))が開かれてアクチュエータ本体56の両電極52,53間への電圧印加が停止されているときの電動義手の状態を示している。この状態では、高分子アクチュエータ50では、放電(電荷の放出)により、両電極52,53に電荷が蓄積されておらず、アクチュエータ本体56が収縮している(図3(A))。アクチュエータ本体56の前端は固定端56Aとして、義手本体10の前壁部18に固定されているため、その前後位置を変えない。これに対し、アクチュエータ本体56の後端は可動端56Bとされていて、可動壁部26に取付けられているにすぎず、義手本体10に固定されていない。アクチュエータ本体56の後端は、可動範囲の最も前側の箇所に位置している。アクチュエータ本体56の可動端56B(後端)に取付けられ、かつ前後方向への移動を許容された可動部材24は、可動範囲の最も前側の箇所に位置している。駆動レバー61と後側の従動レバー63とを連結する連結軸66は、回動中心軸64よりも前方に位置している。後側の従動レバー63は、前後方向に対し比較的小さな角度で傾斜している。軸65は、長孔38の前端に位置している。第1指部35の指先36は、第2指部42の指先43から最も遠く離れた箇所に位置している。これに伴い、第1指部35の連結軸39は、可動範囲の最も前側の箇所に位置している。第2指部42の連結軸45が可動範囲の最も前側の箇所に位置している。第2指部42の指先43は、第1指部35の指先36から最も遠く離れた箇所に位置している。その結果、両指部35,42の指先36,43は、互いに大きく離れている。
【0064】
上記の状態から、電動義手によって把持対象物(図示略)を把持する場合には、上記スイッチ55(図3(C))が閉じられる。アクチュエータ本体56の両電極52,53間に電圧が印加される。一方の電極52がプラスの電荷を帯び、他方の電極53がマイナスの電荷を帯びる。
【0065】
ここで、各電極52,53に電荷が所定量蓄積されるまでは電流が流れるが、電荷が所定量蓄積されると電流はほとんど流れなくなる。ほとんど流れなくなるというのは、電化が所定量蓄積された後に放電が少なからず生ずるため、その放電により減少した電荷を補うための電流は流れるという意味である。
【0066】
両電極52,53が上記のように電荷を帯びると、プラスの電荷とマイナスの電荷とが互いに引きつけ合う力(クーロン力)が両電極52,53に作用し、誘電体層51が両側から押圧されて、その面に沿う方向に伸長する。電極52,53も弾性を有する導電性高分子材料によって形成されているため、上記誘電体層51に追従して伸長する。
【0067】
誘電体層51及びその両側の電極52,53が中心軸線CLの周りで渦巻き状に巻かれることにより円筒状に形成されたアクチュエータ本体56は、誘電体層51の面に沿う方向のうち中心軸線CLに沿う方向(長さ方向)に伸長する。
【0068】
この伸長の際には、アクチュエータ本体56の固定端56A(前端)が、義手本体10の前壁部18に固定されているのに対し、可動端56Bは義手本体10に固定されていない。そのため、アクチュエータ本体56は、固定端56Aから可動端56Bが遠ざかる方向である後方へ伸長する。これに伴い、可動端56Bが取付けられた可動部材24は、アクチュエータ本体56の伸長方向(後方)へ移動する。
【0069】
この際、可動部材24のスライド板部25はガイド部29により、アクチュエータ本体56の伸長方向(後方)へ移動することを案内される(図2参照)。上記のように移動する可動部材24を通じ、高分子アクチュエータ50の伸長に伴う変位量がリンク機構70に対し、ロスの少ない状態で伝達される。
【0070】
また、可動部材24(調整板部28)の上記移動に伴い、駆動レバー61が前後方向(アクチュエータ本体56の伸長方向)に延びる姿勢を維持しながら後方へ引っ張られる。この際の引っ張り力が連結軸66を通じて後側の従動レバー63に伝達されることで、同従動レバー63が回動中心軸64を支点として図6の反時計回り方向へ回動する。この回動により、後側の従動レバー63の前後方向に対しなす角度が大きくなる。軸65が、回動中心軸37の後方で、第2指部42から遠ざかる側へ移動する。この際、軸65が長孔38の延びる方向に沿って、同長孔38の後端まで移動することで、駆動レバー61が前後方向に延びる姿勢を維持する。
【0071】
後側の従動レバー63の上記回動が軸65を通じて第1指部35に伝達され、同第1指部35が回動中心軸37を支点として、図6の時計回り方向へ回動する。この回動により、図7に示すように、第1指部35の指先36が第2指部42の指先43に近付く。また、第1指部35の上記回動により連結軸39が第2指部42側へ移動し、同連結軸39に連結された前側の従動レバー62が第2指部42側へ移動する。この前側の従動レバー62の移動が、連結軸45を介して第2指部42の後端に伝達され、同第2指部42が回動中心軸44を支点として図6の反時計回り方向へ回動する。この回動により、図7に示すように、第2指部42の指先43が第1指部35の指先36に近付き、両指先43,36間で把持対象物が把持される。
【0072】
これに対し、上記の状態からスイッチ55(図3(C))が再び開かれると、アクチュエータ本体56の両電極52,53間への電圧印加が停止される。この停止により、両電極52,53に蓄積されていた電荷が放出(放電)される。この放電により、両電極52,53が帯びている電荷が少なくなり、上記クーロン力が小さくなる。その結果、誘電体層51は、自身の弾性復元力により、同誘電体層51の面に沿う方向に収縮する。
【0073】
誘電体層51及び両電極52,53が渦巻き状に巻かれることにより円筒状に形成されたアクチュエータ本体56は、誘電体層51の面に沿う方向のうち同アクチュエータ本体56の中心軸線CLに沿う方向(長さ方向)に収縮する(図3(A))。
【0074】
弾性を有する導電性高分子材料によって形成されている電極52,53は、上記誘電体層51に追従して、中心軸線CLに沿う方向に収縮する。
この収縮の際には、アクチュエータ本体56は、可動端56Bが固定端56Aに近付く方向である前方へ収縮する。これに伴い可動部材24は、アクチュエータ本体56の収縮方向(前方)へ移動する。
【0075】
この際、可動部材24のスライド板部25はガイド部29により、アクチュエータ本体56の収縮方向(前方)へ移動することを案内される。上記のように移動する可動部材24を通じ、高分子アクチュエータ50の収縮に伴う変位量がリンク機構70に対し、ロスの少ない状態で伝達される。
【0076】
また、可動部材24(調整板部28)の上記変位に伴い、駆動レバー61が前方へ押圧される。この際の押圧力が連結軸66を通じて後側の従動レバー63に伝達されることで、同従動レバー63が回動中心軸64を支点として図7の時計回り方向へ回動する。この回動により、後側の従動レバー63の前後方向に対しなす角度が小さくなる。軸65が、回動中心軸37の後方で、第2指部42に近付く側へ移動する。この際、軸65が長孔38の延びる方向に沿って前端まで移動することで、駆動レバー61が前後方向に延びる姿勢を維持する。
【0077】
後側の従動レバー63の上記回動が軸65を通じて第1指部35に伝達され、同第1指部35が回動中心軸37を支点として、図7の反時計回り方向へ回動する。この回動により、図6に示すように、第1指部35の指先36が、第2指部42の指先43から遠ざかる。また、第1指部35の上記回動により、連結軸39が第2指部42から遠ざかる側へ移動し、同連結軸39に連結された前側の従動レバー62が第1指部35側へ移動する。この前側の従動レバー62の移動が、連結軸45を介して第2指部42の後端に伝達され、同第2指部42が回動中心軸44を支点として図7の時計回り方向へ回動する。この回動により、図6に示すように、第2指部42の指先43が第1指部35の指先36から遠ざかり、両指先43,36間での把持対象物の把持が解除される(把持対象物が開放される)。
【0078】
上記のようにして、アクチュエータ本体56の伸縮(直線往復運動)が動力伝達部60によって回動運動に変換されて、第1指部35及び第2指部42に伝達される。この動力伝達部60による動力の変換及び伝達の際、リンク機構70では、後側の従動レバー63、レバーとしての第1指部35、及びレバーとしての第2指部42が、それぞれ「てこ(梃子)」として機能する。
【0079】
すなわち、図6に示すように、後側の従動レバー63によって構成されるてこ(梃子)では、連結軸66が力点とされ、回動中心軸64が支点とされ、軸65が作用点とされる。この後側の従動レバー63では、力点(連結軸66)及び支点(回動中心軸64)間の長さL1が、力点(連結軸66)及び作用点(軸65)間の長さL2よりも短い。このことから、リンク機構70では、力点(連結軸66)を通じて後側の従動レバー63に入力される駆動レバー61の変位量が、(L2/L1)倍増幅されて、作用点(軸65)から出力される。
【0080】
また、第1指部35によって構成されるてこ(梃子)では、軸65が力点とされ、回動中心軸37が支点とされ、指先36が作用点とされる。この第1指部35において、力点(軸65)及び支点(回動中心軸37)間の長さL3が、支点(回動中心軸37)及び作用点(指先36)間の長さL4よりも短い。このことから、リンク機構70では、力点(軸65)を通じて第1指部35(レバー)に入力される従動レバー63の変位量が、(L4/L3)倍増幅されて、作用点(指先36)から出力される。
【0081】
従って、高分子アクチュエータ50の伸縮(直線往復運動)が、可動部材24を介してリンク機構70(駆動レバー61)に入力されて第1指部35の作用点(指先36)から出力されるまでの間に、その伸縮(直線往復運動)に伴う変位量が2度増幅される。この場合、変位量は、(L2/L1)・(L4/L3)倍増幅されることとなる。
【0082】
さらに、第2指部42によって構成されるてこ(梃子)では、連結軸45が力点とされ、回動中心軸44が支点とされ、指先43が作用点とされる。この第2指部42において、力点(連結軸45)及び支点(回動中心軸44)間の長さL5が、支点(回動中心軸44)及び作用点(指先43)間の長さL6よりも短い。このことから、リンク機構70では、力点(連結軸45)を通じて第2指部42(レバー)に入力される前側の従動レバー62の変位量(第1指部35の回動に伴う連結軸39の変位量と等しい)が、(L6/L5)倍増幅されて、作用点(指先43)から出力される。
【0083】
従って、高分子アクチュエータ50の伸縮(直線往復運動)が、可動部材24を介してリンク機構70(駆動レバー61)に入力されて第2指部42の作用点(指先43)から出力されるまでの間に、その伸縮(直線往復運動)に伴う変位量が2度増幅される。この場合、変位量は、(L2/L1)・(L6/L5)倍増幅されることとなる。
【0084】
その結果、アクチュエータ本体56の伸縮に伴う変位量が、両指部35,42の開閉に伴う変位量に比べて少ないものの、上記リンク機構70で増幅が行なわれることにより、各指部35,42が大きく回動し(開閉し)、把持対象物の把持及び開放が好適に行なわれる。
【0085】
ここで、各アクチュエータ本体56が伸長するときに発生する力が小さいと、可動部材24に加わる力が小さい。しかし、本実施形態では、高分子アクチュエータ50が複数本用いられ、それらのアクチュエータ本体56が伸縮方向を揃えた状態で配置されていて、アクチュエータ本体56毎の可動端56B(後端)が共通の可動部材24(可動壁部26)に取付けられているため、可動壁部26を介して可動部材24に大きな力が加えられる。リンク機構70を介して第1指部35及び第2指部42に加わる力が大きくなり、把持対象物が大きな力で把持される。
【0086】
ところで、上記第1指部35及び第2指部42をそれぞれ回動駆動する駆動源として用いられる高分子アクチュエータ50は高分子材料(誘電体層51:絶縁性高分子材料、電極52,53:導電性高分子材料)によって形成されているため、金属によって形成された駆動源、例えば、電動モータや電磁アクチュエータよりも軽量である。そのため、電動義手全体も軽量となる。
【0087】
また、駆動源として電動モータが用いられた場合には、その電動モータの回転を減速して各指部35,42に伝達するために複数のギヤが必要となる。この点、本実施形態では、駆動源として、伸縮(直線往復運動)する高分子アクチュエータ50が用いられ、その伸縮(直線往復運動)を回動運動に変換するのにリンク機構70が用いられているため、上記のようなギヤは不要である。複数のギヤが用いられた場合には、電動モータの回転に伴い、ギヤ同士の噛合い部分で音が発生するが、リンク機構70の場合にはこのような噛合いがないため、噛合いに起因する音の発生は起こらない。
【0088】
以上詳述した本実施形態によれば、次の効果が得られる。
(1)義手本体10に支持された一対の指部(第1指部35、第2指部42)を回動させる駆動源として、高分子材料により形成され、かつ電圧印加に応じて弾性変形し、電圧印加の停止に応じて元の形状に復元することにより直線往復運動する高分子アクチュエータ50を用いる。高分子アクチュエータ50の直線往復運動を回動運動に変換して各指部35,42に伝達する動力伝達部60を設ける。高分子アクチュエータ50から動力伝達部60を経て両指部35,42に至る動力伝達経路に、両指部35,42を含む複数のレバーを有するリンク機構70を設ける。これらのレバーの少なくとも1つ(従動レバー63、第1指部35、第2指部42)を、支点、力点及び作用点を有するてこ(梃子)として機能させる。そして、力点を通じてレバー(従動レバー63、第1指部35、第2指部42)に入力される変位量を増幅して、作用点から出力させるようにしている(図6)。
【0089】
そのため、電動モータを駆動源とする従来の電動義手に必要な、複数のギヤを用いた減速機構を不要にし、構造を簡素にすることができる。これに伴い、電動義手のメンテナンスの容易化を図ることができる。
【0090】
また、駆動源として電動モータを用いた場合とは異なり、ギヤ同士の噛合いに起因する音の発生をなくして作動音を低減し、静粛性を高めることができる。
さらに、駆動源として、高分子材料からなる高分子アクチュエータ50を用いたことにより、電動義手全体の軽量化を図ることができる。
【0091】
(2)リンク機構70における複数のレバー(従動レバー63、第1指部35、第2指部42)を「てこ(梃子)」として機能させるようにしている(図6)。
そのため、てこ(梃子)を構成するレバー(従動レバー63、第1指部35、第2指部42)毎に、力点を通じて入力される変位量を増幅して作用点から出力させることで、大きな増幅率で変位量を増幅することができる。高分子アクチュエータ50の伸縮に伴う変位量が少なくても、各指部35,42を多く回動させて、開閉させることができる。
【0092】
(3)高分子アクチュエータ50として、弾性を有する絶縁性高分子材料により形成された誘電体層51と、弾性を有する導電性高分子材料により形成されて誘電体層51を両側から挟む一対の電極52,53とを備えるものを用いている(図3(C))。
【0093】
そのため、両電極52,53間への電圧印加により、誘電体層51をその面に沿う方向へ伸長させ、電圧印加の停止に応じ、誘電体層51を前記面に沿う方向へ収縮させて元の形状に復元させることができ、上記(1),(2)の効果を得ることができる。
【0094】
また、各電極52,53に電荷が所定量蓄積されるまでは電流が流れるが、電荷が所定量蓄積されると電流はほとんど流れなくなるため、高分子アクチュエータ50の作動(伸縮)のために消費される電力が少なくてすむ。その結果、電源54として、容量の少ないバッテリを使用することができ、利便性が向上する。
【0095】
(4)誘電体層51及び両電極52,53を、中心軸線CLの周りに渦巻き状に巻くことにより、高分子アクチュエータ50の主要部をなすアクチュエータ本体56を円筒状に形成している(図3(A),(B))。
【0096】
そのため、アクチュエータ本体56をコンパクトな形態(円筒状)とし、義手本体10への搭載性を向上させることができる(図1)。
また、電圧印加により、アクチュエータ本体56を、誘電体層51の面に沿う方向のうち中心軸線CLに沿う方向(アクチュエータ本体56の長さ方向)へ伸長させることができる(図3(B))。上記電圧印加の停止に応じ、アクチュエータ本体56を上記中心軸線CLに沿う方向に収縮させることができる(図3(A))。
【0097】
(5)リンク機構70に連結される可動部材24を、義手本体10に対しアクチュエータ本体56の伸縮方向への移動可能に設ける。アクチュエータ本体56の長さ方向についての一端(前端)を固定端56Aとして義手本体10に移動不能に固定し、他端(後端)を可動端56Bとして可動部材24(可動壁部26)に取付けている(図1、図2)。
【0098】
そのため、固定端56A(前端)から可動端56B(後端)が遠ざかるようにアクチュエータ本体56を伸長させ、アクチュエータ本体56の可動端56B(後端)に取付けられた可動部材24を、同アクチュエータ本体56の伸長方向前側(可動端56Bが固定端56Aから遠ざかる側)へ移動させることができる。このときの可動部材24の変位をリンク機構70(駆動レバー61)に伝達することができる。
【0099】
(6)複数本のアクチュエータ本体56を伸縮方向の揃えられた状態で配置し、アクチュエータ本体56毎の可動端56B(後端)を共通の可動部材24(可動壁部26)に取付けている(図1)。
【0100】
そのため、各高分子アクチュエータ50から出力される力が小さくても、可動部材24に大きな力を加えることができる。可動部材24を通じリンク機構70に大きな力を伝達し、把持対象物を指部35,42によって強い力で把持することができる。
【0101】
(7)義手本体10における対向壁部16,17にガイド溝29Aを有するガイド部29をそれぞれ設け、各ガイド溝29Aに可動部材24のスライド板部25の両側部をスライド可能に係合している(図2)。
【0102】
そのため、可動部材24がアクチュエータ本体56の伸縮方向へ移動するのをガイド部29によって案内することができる。その結果、上記のように移動する可動部材24を通じ、アクチュエータ本体56の伸縮(直線往復運動)をリンク機構70に対し、ロスの少ない状態で伝達することができる。
【0103】
(8)リンク機構70の一部を、てこ(梃子)を構成する後側の従動レバー63と可動部材24の調整板部28との間に配置され、かつアクチュエータ本体56の伸縮に伴い、その伸縮方向に変位する駆動レバー61によって構成している(図6)。
【0104】
そのため、アクチュエータ本体56の伸縮方向へ変位する駆動レバー61を通じ、同アクチュエータ本体56の伸縮(直線往復運動)をリンク機構70に対し、ロスの少ない状態で伝達することができる。
【0105】
(9)電動義手の構成部材である義手本体10、各指部35,42及び動力伝達部60のそれぞれを高分子材料(強度の高い合成樹脂)によって形成している。
そのため、上記義手本体10、各指部35,42及び動力伝達部60の各々の重量を軽くし、これらの少なくとも1つの構成部材が金属によって形成されたものよりも電動義手を軽量にすることができる。
【0106】
(10)高分子アクチュエータ50を柔軟な高分子材料(誘電体層51:弾性を有する絶縁性高分子材料、電極52,53:弾性を有する導電性高分子材料)によって形成している(図3(C))。
【0107】
そのため、両指部35,42に対し、これらを開閉させようとする力が外部から加わっても、アクチュエータ本体56を伸縮させることで、その力を吸収することができる。
なお、本発明は次に示す別の実施形態に具体化することができる。
【0108】
<指部について>
・複数の指部35,42の数が3以上に変更されてもよい。
<高分子アクチュエータについて>
・上述した誘電方式の高分子アクチュエータ50に代え、イオン方式の高分子アクチュエータが用いられてもよい。
【0109】
イオン方式の高分子アクチュエータは、イオン交換樹脂と電極との接合体からなる。このタイプの高分子アクチュエータとしては、フッ素系イオン交換樹脂膜の両面に、金、白金等の貴金属によって形成された電極を、無電解メッキにより接合したものが代表的である。この高分子アクチュエータでは、電極間に数ボルトの電圧が印加されることで、イオン交換樹脂の内部でイオンの移動が起こり(陽イオンが陰極側へ移動し)、このイオンの移動により、高分子アクチュエータの表裏で膨潤に差が生じて、同高分子アクチュエータが弾性変形する。電圧印加が停止されると、弾性復元力により高分子アクチュエータは元の形状に復元する。これらの弾性変形及び復元により、高分子アクチュエータを直線往復運動させる。
【0110】
<動力伝達部60について>
・動力伝達部60の構成を変更することで、上記実施形態とは逆に、高分子アクチュエータ50のアクチュエータ本体56が伸長するときに第1指部35及び第2指部42を開く側へ回動させ、同アクチュエータ本体56が収縮するときに両指部35,42を閉じる側へ回動させるようにしてもよい。
【0111】
<リンク機構70について>
・リンク機構70を構成する複数のレバー(第1指部35及び第2指部42を含む)のうち、てこ(梃子)として機能させるものの数が、上記実施形態とは異なる数に変更されてもよい。この数の最小値は「1」である。また、てこ(梃子)として機能させるレバーの数は3以上であってもよい。
【0112】
てこ(梃子)を構成するレバーでは、それぞれ力点を通じて入力される変位量が増幅されて作用点から出力される。てこ(梃子)として機能させるレバーの数を3以上とすることで、変位量の入力及び出力をそれぞれ3回以上行なわせ、増幅率を上記実施形態よりも大きくする(変位量をより多く増幅する)ことが可能となる。
【0113】
ただし、てこ(梃子)を構成するレバーの数が多くなるに従い、それらの占める設置スペースが大きくなる。また、レバー間では摺動抵抗が生ずるが、レバーの数が多くなるに従い摺動抵抗の発生箇所も増え、電動義手全体で発生する摺動抵抗が大きくなる。そのため、これらの変位量の増幅率、設置スペース及び摺動抵抗についてそれぞれの得失を考慮してレバーの数を設定することが望ましい。
【0114】
<第1指部35及び第2指部42が閉じる(把持対象物を把持する)力について>
・この力は、次の要素を調整することで変更可能である。
(i)アクチュエータ本体56毎の電極52,53に印加する電圧。この電圧が高くなるに従い、上記力が増大する。
【0115】
(ii)アクチュエータ本体56の直径。この直径が大きくなるに従い、上記力が増大する。
(iii )伸縮動作する高分子アクチュエータ50の本数。この本数が多くなるに従い、上記力が増大する。
【0116】
この場合、電動義手に装着される高分子アクチュエータ50の本数が変更されてもよいし、電圧印加の対象となる高分子アクチュエータ50の本数が状況に応じて、制御により、又は操作により変更されてもよい。
【符号の説明】
【0117】
10…義手本体、24…可動部材、29…ガイド部、35…第1指部(指部)、42…第2指部(指部)、50…高分子アクチュエータ、51…誘電体層、52,53…電極、56…アクチュエータ本体、56A…固定端、56B…可動端、60…動力伝達部、61…駆動レバー、70…リンク機構、CL…中心軸線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
義手本体にそれぞれ回動可能に支持されたレバーからなる複数の指部と、
高分子材料により形成されて前記義手本体に取付けられ、電圧印加に応じて弾性変形し、電圧印加の停止に応じて元の形状に復元することにより直線往復運動する高分子アクチュエータと、
前記高分子アクチュエータ及び前記各指部間に設けられ、前記高分子アクチュエータの前記直線往復運動を回動運動に変換して前記各指部に伝達し、同指部を回動させる動力伝達部と
を備え、
前記高分子アクチュエータから前記動力伝達部を経て前記各指部に至る動力伝達経路には、前記各指部を含む複数のレバーを有するリンク機構が設けられており、前記リンク機構の少なくとも1つの前記レバーは、支点、力点及び作用点を有するてこを構成しており、前記リンク機構は、前記力点を通じて前記レバーに入力される変位量を増幅して、前記作用点から出力するものであることを特徴とする電動義手。
【請求項2】
前記リンク機構は、前記てこを構成する前記レバーを複数有している請求項1に記載の電動義手。
【請求項3】
前記高分子アクチュエータは、弾性を有する絶縁性高分子材料により形成された誘電体層と、弾性を有する導電性高分子材料により形成されて前記誘電体層を両側から挟む一対の電極とを備え、前記両電極間への電圧印加に応じ、前記誘電体層をその面に沿う方向へ伸長させ、前記電圧印加の停止に応じ、前記誘電体層を収縮させて元の形状に復元させることにより直線往復運動するものである請求項1又は2に記載の電動義手。
【請求項4】
前記高分子アクチュエータの主要部をなすアクチュエータ本体は、前記誘電体層及び前記両電極が中心軸線の周りで渦巻き状に巻かれることにより円筒状に形成されており、前記両電極間への電圧印加に応じ前記中心軸線に沿って伸長し、電圧印加の停止に応じ前記中心軸線に沿って収縮して元の形状に復元するものである請求項3に記載の電動義手。
【請求項5】
前記義手本体には、前記リンク機構に連結された可動部材が、前記アクチュエータ本体の伸縮方向に沿って移動可能に設けられており、
前記アクチュエータ本体の前記中心軸線に沿う方向についての一端は固定端として前記義手本体に移動不能に固定され、他端は可動端として前記可動部材に取付けられている請求項4に記載の電動義手。
【請求項6】
前記アクチュエータ本体は複数本用いられ、伸縮方向を揃えた状態で配置されており、
前記アクチュエータ本体毎の前記可動端は共通の前記可動部材に取付けられている請求項5に記載の電動義手。
【請求項7】
前記義手本体には、前記可動部材が前記アクチュエータ本体の前記伸縮方向へ移動するのを案内するガイド部が設けられている請求項5又は6に記載の電動義手。
【請求項8】
前記リンク機構は、前記てこを構成する前記レバーと前記可動部材との間に配置され、かつ前記アクチュエータ本体の伸縮に伴い、その伸縮方向に変位する駆動レバーを備える請求項5〜7のいずれか1つに記載の電動義手。
【請求項9】
前記義手本体、前記各指部及び前記動力伝達部は、それぞれ高分子材料により形成されている請求項1〜8のいずれか1つに記載の電動義手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−85579(P2013−85579A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226058(P2011−226058)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】