説明

電子写真感光体の製造方法

【課題】 膜厚や膜質の均一性に優れた堆積膜を形成することが可能な電子写真感光体の製造方法を提供する。
【解決手段】 円筒状基体を設置するとともに円筒状基体の長手方向端部側に補助基体を設置し、円筒状基体と補助基体との間の隙間を充填材で埋めた後、プラズマCVD法により該円筒状基体上に堆積膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマCVD法により円筒状基体上に堆積膜を形成する電子写真感光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真感光体は、一般的に、アルミニウムまたはその合金からなる導電性の円筒状基体上に、有機材料またはアモルファスシリコン(以下「a−Si」ともいう)などの無機材料からなる膜(堆積膜)が形成されて製造される。これらの中でも、a−Si(例えば水素原子やハロゲン原子(例えばフッ素原子や塩素原子)で補償されたa−Si)堆積膜が円筒状基体上に形成されてなる電子写真感光体(以下「a−Si感光体」ともいう)は、高性能かつ高耐久性であり、広く実用化されている。
【0003】
円筒状基体上にa−Si堆積膜を形成する方法としては、プラズマCVD法、すなわち、原料ガスを直流、高周波、マイクロ波グロー放電などによって分解し、堆積膜を形成する方法が実用化されている。
【0004】
この種の堆積膜をプラズマCVD法にて形成する際には、堆積膜の膜厚や膜質の均一化が求められることが多い。そのために、原料ガスの供給方法や排気方法を工夫したり、円筒状基体を回転させたり、プラズマを均一にする方策を採ったりすることが有効である。
【0005】
また、堆積膜を均一化する方法として、特許文献1には、プラズマCVD装置の反応容器内に円筒状基体を設置するとともに円筒状基体の長手方向端部側に補助基体を設置して、長手方向の均一化を図る方法が開示されている。また、特許文献2には、円筒状基体を長手方向に複数設置する際に円筒状基体同士を連結部材で連結させ、円筒状基体の横ズレを改善して軸方向の均一化を図る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭60−86276号公報
【特許文献2】特開2007−270221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、上記のような方策により堆積膜の均一化が図られてきた。
【0008】
しかしながら、近年、電子写真装置の画質に対する市場からの要求が高まってきており、印刷画質への対応も求められてきている。このため、従来は実用上問題なしとされた程度の堆積膜の不均一性でも、問題視されてくる可能性がある。
【0009】
このような課題に関して、従来技術では、堆積膜の均一性についてはまだ改良の必要性があるといえる。特に、円筒状基体の端部近傍における堆積膜のさらなる均一性向上が求められている。例えば、特許文献1および2に記載の方法では、円筒状基体、補助基体、スペーサーなどの金属製の部材を積み重ねているため、それぞれが完全には密着できず、周方向に部分的に隙間が生じてしまう。隙間があると、その部分にプラズマCVD法による放電が入り込み、プラズマ処理が不均一になったり、異常放電が発生したりする場合がある。このような事態が生じた場合、円筒状基体の端部近傍で堆積膜が不均一になり、画像むらや微小な画像欠陥の原因となる。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、膜厚や膜質の均一性に優れた堆積膜を形成することが可能な電子写真感光体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、円筒状基体を設置するとともに円筒状基体の長手方向端部側に補助基体を設置し、円筒状基体と補助基体との間の隙間を充填材で埋めた後、プラズマCVD法により円筒状基体上に堆積膜を形成する工程を有する電子写真感光体の製造方法である。
【0012】
また、本発明は、円筒状基体を長手方向に複数設置するとともに円筒状基体の長手方向端部側に補助基体を設置し、円筒状基体と補助基体との間の隙間および円筒状基体間の隙間を充填材で埋めた後、プラズマCVD法により円筒状基体上に堆積膜を形成する工程を有する電子写真感光体の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、円筒状基体上に堆積膜を形成する前に、円筒状基体と補助基体との間の隙間や円筒状基体間の隙間を充填材で埋めることで、円筒状基体の端部で周方向に生じるプラズマ処理の不均一や異常放電を抑制することができる。その結果、円筒状基体の端部近傍で、堆積膜の周方向の膜厚や膜質の均一性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】電子写真感光体用の円筒状基体の一例を模式的に示す図である。
【図2】a−Si感光体の層構成の一例を示す模式図である。
【図3】a−Si感光体を製造するための堆積膜形成装置の一例を模式的に示す断面図である。
【図4】ホルダーに2本の円筒状基体と上部補助基体を装着した状態を模式的に示した断面図である。
【図5】2本の円筒状基体の接続部を模式的に示した断面図である。
【図6】2本の円筒状基体の接続部の隙間を充填材で好適に埋めた状態の例を示す模式的な断面図である。
【図7】比較例の、2本の円筒状基体の接続部の状態を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、電子写真感光体用の円筒状基体の一例を模式的に示す図であり、図1(a)は断面図であり、図1(b)は上面図である。
【0016】
円筒状基体101の材質は、電気伝導率が良好であり、加工性や製造コストに優れるなどの理由で、アルミニウムまたは3000系、5000系、6000系などのアルミニウム合金が好適に用いられる。
【0017】
円筒状基体101の材料となる円筒状の管材の製造方法は、材質としてアルミニウムまたはアルミニウム合金を用いる場合、押し出し、引き抜き、矯正などの工程を経て製造された管材を所定の長さに切断する方法が一般的である。そして、高精度な円筒状基体が要求される場合は、円筒状の管材に対して、旋盤による両端および外周面の切削加工が好適に行われる。具体的には、両端の加工としては、長さ合わせ、面取り加工や、端部内面のインロー加工が挙げられる。また、外周面の加工は、外径寸法や表面粗さを所定の値にするために実施される。これらの加工により、円筒状基体101は、所定の精度の外周面102、端面103、面取り面104、インロー加工部105が形成される。
【0018】
このような円筒状基体101の外周面102(円筒状基体上)に、例えば、図2に示すa−Si堆積膜201を形成することにより、a−Si感光体を製造することができる。図2は、a−Si感光体の層構成の一例を示す模式図である。a−Si感光体は、円筒状基体101の外周面102に堆積膜201が設けられている。図2において、堆積膜201は、円筒状基体101側から順に、下部阻止層202、光導電層(感光層)203、表面層204で構成されている。
【0019】
次に、上記の層構成のa−Si感光体を製造するための装置について説明する。
【0020】
図3は、本発明の電子写真感光体を製造するための堆積膜形成装置の一例を模式的に示す断面図である。具体的には、13.56MHzの高周波電源を用いたRFプラズマCVD法による堆積膜形成装置300を模式的に示した断面図である。反応容器301は、円筒状のカソード電極302、絶縁碍子303、下部フランジ304、上部フランジ305および蓋306を有する。反応容器301には、排気管310および排気バルブ311を介して不図示の排気装置(真空ポンプ)が接続されており、反応容器301の内部が減圧可能となっている。その他に、反応容器301の下部には、受台308を回転可能にするモーター309および真空計312が取り付けられている。
【0021】
1本または複数の円筒状基体101(図3では2本)は、その長手方向端部側に上部補助基体319および下部補助基体を兼ねたホルダー318が設置された状態で、反応容器301の内部の受台308の上に載置(設置)される。さらに、反応容器301の内部には、ホルダー318を内部から加熱するヒーター307および原料ガス導入管313が設置されている。原料ガス導入管313は、円筒状基体101を取り囲むように複数本配設されており、その側面には、長手方向に沿って多数の細孔が設けられている。さらに、原料ガス導入管313には、原料ガス供給管314および原料ガス導入バルブ315を介して不図示の原料ガス供給装置が接続されている。また、カソード電極302は、マッチングボックス316を介して高周波電源317に接続されている。
【0022】
このような堆積膜形成装置300を用いて、円筒状基体101にa−Si堆積膜を形成する場合、図3に示すように、下部補助基体を兼ねたホルダー318に、円筒状基体101と上部補助基体319を装着する。以下、図4および図5を参照して、さらに詳しく説明する。
【0023】
図4は、ホルダー318に2本の円筒状基体101と上部補助基体319を装着した状態を模式的に示した断面図である。ホルダー318は下部補助基体を兼ねている。2本の円筒状基体101の接続部404および円筒状基体101と上部補助基体319の接続部403には、それぞれのインロー加工部105を利用してステンレス製のリング状部材401が配設されている。また、ホルダー318と円筒状基体101の接続部405に関しては、ホルダー318の形状を円筒状基体101のインロー加工部105と嵌合可能なようにしている。図4の構成では、2本の円筒状基体101、上部補助基体319およびホルダー318の下部補助基体部402のそれぞれの外周面が概略同一面になっている。
【0024】
図5は、2本の円筒状基体101の接続部404を模式的に示した断面図である。2本の円筒状基体101は、それぞれの端面103の全面が完全に密着しているわけではなく、周方向に部分的に隙間501が生じている。つまり、周方向で接続部404の状態が異なり、一部は接触しているが、一部は接触していないところがある。これは、円筒状基体101の加工精度や表面形状や、ホルダー318に装着する際の状況により発生し、さらに堆積膜形成装置300への搬送中や堆積膜形成中に受台308の回転による振動などでも発生する。同様に、円筒状基体101と上部補助基体319の接続部403やホルダー318と円筒状基体101の接続部405にも周方向に部分的に隙間が生じている。上部補助基体319やホルダー318は、堆積膜形成後、ブラスト処理やエッチング処理で表面に堆積した堆積膜を落として繰り返し使われることが多く、上部補助基体319やホルダー318は徐々に劣化し、変形する。そのため、接続部403や接続部405は、接続部404以上に大きな隙間が生じている場合が多い。
【0025】
本発明では、円筒状基体101上に堆積膜を形成する前、下部補助基体を兼ねたホルダー318に円筒状基体101および上部補助基体319を装着する際に、隙間501を充填材で埋める処理を行う
この処理に用いる充填材は、蒸発成分が堆積膜に取り込まれて堆積膜の特性に影響を与えないように、低蒸気圧の材料が好適である。また、高温になった場合に、垂れたり変質したりして充填効果が下がらないように耐熱性の高い材料が好適である。このような材料としては、例えば、接着剤、コーキング材、オイル、グリスなどが挙げられる。本発明で採用しているプラズマCVD法では、通常、減圧下で堆積膜の形成を行うことから、20℃での蒸気圧が1×10−4Pa以下であり、100℃での蒸気圧が1×10−1Pa以下である充填材、いわゆる真空用の材料が好適である。さらに作業性の点から、充填材で埋める処理が容易で、堆積膜形成後に充填材が容易に取り除けるものが好ましいため、いわゆる真空用グリスが好ましい。その中でも、フッ素原子を含有するフッ素系グリス、いわゆる高真空用グリスは、低蒸気圧で耐熱性が高く好適である。また、円筒状基体間や円筒状基体と補助基体間の周方向の電気抵抗を一様にするために、導電性を有する充填材や、非導電性の充填材に導電性材料を混ぜて導電性を持たせたものを用いてもよい。
【0026】
このような充填材を用いて、上記隙間を埋める処理を行うが、図6は、図5に示す接続部404の隙間を、充填材で好適に埋めた状態の例を示す模式的な断面図である。図6(a)は、隙間全体を充填材601で埋めた状態を示す。図6(b)は、面取り面104によって生じる外周面102からの凹部にも充填材601を埋め、外周面102と概略同一面とした状態を示す。さらに図6(c)は充填材601の量を多くして、外周面102よりはみ出した状態を示す。
【0027】
充填材で隙間を埋める方法は、円筒状基体101の端面103に充填材をあらかじめ塗布し、ホルダー318へ装着する際に押し付ける方法や、円筒状基体101をホルダー318に装着した後に、隙間へ充填材を注入する方法などがある。なお、充填材の量が多すぎて円筒状基体101の外周面102より大きくはみ出した場合、不要な分は、へらのごとき板状部材で掻き取ったり、有機溶剤を用いて拭き取ったりすればよい。
【0028】
円筒状基体101と上部補助基体319の接続部403やホルダー318と円筒状基体101の接続部405に生じる隙間を埋める処理も、2本の円筒状基体101の接続部404の隙間を埋める処理と同様である。
【0029】
円筒状基体と補助基体との間や円筒状基体間に隙間があると、堆積膜形成時のプラズマ処理中に、隙間に放電が入り込み、異常放電が発生する場合がある。上述のように、通常、隙間の間隔は円筒状基体の周方向に均一ではないため、円筒状基体の端部で周方向にプラズマ処理が不均一になって、円筒状基体の端部近傍で堆積膜の膜厚や膜質が不均一になり、画像むらの原因となる。また、堆積膜形成中に堆積膜の膜厚や膜質が不均一だと応力が集中して膜剥がれが生じたり、異常放電で膜剥がれが生じたりして、微小な画像欠陥の原因となる場合もある。本発明では、堆積膜形成前に、上記隙間を埋めることで、隙間に放電が入り込むことや異常放電が抑制され、円筒状基体の周方向でプラズマ処理が均一になって、円筒状基体の端部で、周方向の堆積膜の膜厚や膜質の均一性が向上する。
【0030】
上記隙間を埋める処理を行った円筒状基体101、上部補助基体319およびホルダー318を用い、堆積膜形成装置300を用いて、a−Si感光体を製造する一例を以下に示す。
【0031】
まず、反応容器301の蓋306を開け、円筒状基体101および上部補助基体319が装着されたホルダー318を反応容器301内部の受台308の上に載置して蓋306を閉める。
【0032】
次に、排気バルブ311を開いて反応容器301の内部を排気する。そして、真空計312の読みが1Pa以下になった時点で原料ガス導入バルブ315を開け、加熱用の不活性ガス(例えばアルゴンガス)を原料ガス導入管313より反応容器301の内部に導入する。反応容器301の内部が所定の圧力になるように加熱用の不活性ガスのガス流量および不図示の排気装置の排気速度を調整する。その後、不図示の温度コントローラーを作動させて円筒状基体101をヒーター307により加熱し、円筒状基体101の温度を所定の温度(例えば20℃〜350℃)に制御する。所定の温度に加熱されたところで、不活性ガスを徐々に止めると同時に、堆積膜形成用の原料ガスを原料ガス供給装置から不図示のミキシングパネルにより混合した後に反応容器301の内部に徐々に導入する。原料ガスとしては、例えば、SiH、Si、CH、C、NOなどの材料ガスや、B、PHなどのドーピングガスや、H、He、Arなどの希釈ガスが挙げられる。次に、不図示のマスフローコントローラーによって、原料ガスが所定の流量になるように調整する。その際、反応容器301の内部が例えば0.1Pa〜数100Paの圧力を維持するよう真空計312を見ながら不図示の排気装置の排気速度を調整する。
【0033】
以上の手順によって堆積膜形成準備を完了した後、円筒状基体101上に堆積膜の形成を行う。反応容器301の内部の圧力が安定したのを確認後、高周波電源317を所定の電力に設定して高周波電力をカソード電極302に供給し、高周波グロー放電を生起させる。このとき、反射波が最小となるようにマッチングボックス316を調整し、高周波の入射電力から反射電力を差し引いた値を所定の値に調整する。この放電エネルギーによって反応容器301の内部に導入された原料ガスが分解され、円筒状基体101上に堆積膜が形成される。なお、堆積膜の形成を行っている間は、モーター309を運転し、円筒状基体101を所定の速度(例えば1rpm)で回転させる。
【0034】
所定の膜厚の堆積膜が形成された後、高周波電力の供給を止め、原料ガス導入バルブ315を閉じて、反応容器301への原料ガスの流入を止め、反応容器301の内部を一旦高真空に排気して堆積膜の形成を終える。上記のような操作を繰り返し行うことによって、所定の層構成のa−Si堆積膜を形成することができる。
【0035】
円筒状基体上にa−Si堆積膜を形成した後、反応容器301の蓋306を開け、a−Si堆積膜が形成された円筒状基体101および上部補助基体319が装着されたホルダー318を反応容器301から取り出す。さらに、a−Si堆積膜が形成された円筒状基体101をホルダー318から取り外し、充填材を有機溶剤(例えば2−プロパノールやアセトン)を染み込ませた布で拭き取ってa−Si感光体が完成する。
【実施例】
【0036】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらにより何ら制限されるものではない。なお、以下の説明では、上述した実施形態において示したのと同じ部分に関しては、同じ符号を用いて説明する。
【0037】
以下の実施例および比較例では、円筒状基体101として、外径寸法80mm、内径寸法74mm、長さ358mmのアルミニウム合金製のものを用いた。なお、円筒状基体101の両端部には、インロー加工部105(両端に幅13mm、内径寸法75.7mm)、および面取り面104(C0.5mm)が形成されている。
【0038】
また、以下の実施例では、図4に示すように、円筒状基体101は長手方向に2本と、上部補助基体319をホルダー318に装着し、それぞれの接続部403、404、405の隙間を充填材で埋める処理を行ったが、代表して接続部404のみ記載する。
【0039】
〔実施例1〕
図6(a)に示すように、円筒状基体101間の隙間に充填材601を埋めた。なお、充填材601は、シリコーングリース(東レ・ダウ・コーニング・シリコーン社製の「H.V.G」(商品名))を用いた。
【0040】
そして、図3に示す堆積膜形成装置300を用いて、プラズマCVD法により、円筒状基体101上に表1に示す条件で下部阻止層、光導電層および表面層を形成し、図2に示す層構成のa−Si感光体を2本作製した。
【0041】
【表1】

【0042】
得られた2本のa−Si感光体に関して、堆積膜の均一性の評価として、「膜厚周むら」「Vd周むら」の評価を以下のように実施した。
【0043】
「膜厚周むら」の評価
膜厚計(フィッシャーインストルメンツ社、FISCHER SCOPE MMS(商品名))を用い、a−Si感光体の端部から30mmの位置において、周方向に9度間隔の40点の膜厚を計測し、その40点の最大値と最小値の差を求めた。a−Si感光体の両端部で同様に計測して最大値と最小値の差を求め、得られた値の大きい方の値を「膜厚周むら」とした。評価は、後述の比較例1で得られた結果を100としたときの、相対評価で行った。この評価結果は、数字が小さいほど良い。
【0044】
「Vd周むら」の評価
電子写真感光体の特性である「Vd周むら」の評価には、現像器の代わりに表面電位計を装着した複写機(キヤノン(株)製、iR5000(商品名)の改造機)を用いた。a−Si感光体の中央位置暗部電位が、450Vになるように帯電電流を調整し、a−Si感光体の端部から30mmの位置において、暗部電位の測定を行い、周方向測定値の最大値と最小値の差を求めた。a−Si感光体の両端部で同様に測定し、得られた値の大きい方の値を「Vd周むら」とした。評価は、比較例1で得られた結果を100としたときの、相対評価で行った。この評価結果も、数字が小さいほど良い。
【0045】
各評価結果のランク付け
前記各評価結果に対して、以下に示す基準でランク付けを行った。
A ・・・ 50未満
B ・・・ 50以上65未満
C ・・・ 65以上80未満
D ・・・ 80以上95未満
E ・・・ 95以上105未満(変化なし)
F ・・・ 105超
各評価結果を表2に示す。
【0046】
〔実施例2〕
図6(c)に示すように、円筒状基体101間の隙間を充填材601で埋め、さらに充填材601が円筒状基体101の外周面102より1mmはみ出す状態になるようにした。そして、それ以外は実施例1と同じとし、a−Si感光体を2本作製した。得られた2本のa−Si感光体に関して、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0047】
〔実施例3〕
図6(b)に示すように、円筒状基体101間の隙間を充填材601で埋め、さらに充填材601が円筒状基体101の外周面102と概略同一面の状態になるようにした。そして、それ以外は実施例1と同じとし、a−Si感光体を2本作製した。得られた2本のa−Si感光体に関して、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0048】
〔実施例4〕
実施例1において、充填材601をフッ素系グリスのデムナムグリース(ダイキン工業社製の「L−200」(商品名))に変更した。そして、それ以外は実施例1と同じとし、a−Si感光体を2本作製した。得られた2本のa−Si感光体に関して、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0049】
〔実施例5〕
実施例1において、充填材601をフッ素系グリスのフォンブリングリース(ソルベイソレクシス社製の「YVAC2」(商品名))に変更した。そして、それ以外は実施例1と同じとし、a−Si感光体を2本作製した。得られた2本のa−Si感光体に関して、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0050】
〔比較例1〕
実施例1において、接続部403、404、405の隙間を充填材で埋める処理を行わなかった。つまり、図5に示すような隙間501が充填材で埋まっていない状態である。そして、それ以外は実施例1と同じとし、a−Si感光体を2本作製した。得られた2本のa−Si感光体に関して、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0051】
〔比較例2〕
比較例1において、隙間に図7に示す形状のステンレス製のリング状部材701を挿入した。この場合、円筒状基体101の端面103とリング状部材701の間には、2個所の周方向に不均一な隙間702が存在する状態となる。そして、それ以外は実施例1と同じとし、a−Si感光体を2本作製した。得られた2本のa−Si感光体に関して、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
表2に示すように、周むらに関して、各実施例は各比較例に対して良化した。つまり、円筒状基体と補助基体の間の隙間を充填材で埋めることにより、また、円筒状基体をその長手方向に複数設置する場合は円筒状基体間の隙間も充填材で埋めることにより、円筒状基体の周方向でのプラズマ処理が均一になって、本発明の効果が得られることがわかる。
【0054】
実施例3のように、円筒状基体の外周面と充填材が概略同一面となる状態にすることで、さらに良化することがわかる。
【0055】
実施例2は、比較例1より良化するが、実施例1ほど良化していない。これは、円筒状基体の外周面から充填材がはみ出していることによる影響であると考えられる。したがって、充填材で隙間を埋めるのは、円筒状基体の外周面と概略同一面までがより効果が高いことがわかる。
【0056】
実施例4および5は、実施例1よりVd周むら良化していることから、フッ素原子を含有する充填材(高真空用グリス)はさらに効果的であることがわかる。これは、円筒状基体間および円筒状基体と補助基体の間の隙間の間隔は周方向に差があるため、その隙間を埋めるには充填材の量に差が出る。充填材が多い部分は、そこからの放出ガスも多くなると考えられるが、フッ素原子を含有する充填材は、低蒸気圧で耐熱性が高いことからその影響が少なくなっているのであると推察される。
【0057】
比較例2は比較例1よりも悪化した。比較例2は、円筒状基体と補助基体との間および円筒状基体間の横ズレを抑えるには効果があるが、隙間1箇所につき隙間の数が倍になった分、隙間が増えたため、端部の周むらに関しては逆効果となったと考えられる。以上より、本発明により、特に端部での膜厚や膜質の均一性に優れた堆積膜を形成することが可能である。
【符号の説明】
【0058】
101 円筒状基体
102 外周面
103 端面
104 面取り面
401 リング状部材
601 充填材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状基体を設置するとともに円筒状基体の長手方向端部側に補助基体を設置し、円筒状基体と補助基体との間の隙間を充填材で埋めた後、プラズマCVD法により円筒状基体上に堆積膜を形成する工程を有する電子写真感光体の製造方法。
【請求項2】
円筒状基体を長手方向に複数設置するとともに円筒状基体の長手方向端部側に補助基体を設置し、円筒状基体と補助基体との間の隙間および円筒状基体間の隙間を充填材で埋めた後、プラズマCVD法により円筒状基体上に堆積膜を形成する工程を有する電子写真感光体の製造方法。
【請求項3】
前記充填材の20℃での蒸気圧が1×10−4Pa以下であり、前記充填材の100℃での蒸気圧が1×10−1Pa以下である請求項1または2に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項4】
前記充填材がフッ素原子を含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の電子写真感光体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−123443(P2011−123443A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−283465(P2009−283465)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】