説明

電子写真感光体の製造方法

【課題】膜厚や膜特性の均一性に優れ、画像欠陥のない堆積膜を低コストで形成することができる堆積膜形方法を提供する。
【解決手段】少なくとも上部又は下部に補助基体を設けた円筒状基体の表面にシリコン原子を母材とする非晶質材料からなる機能性膜を形成する電子写真感光体の製造方法において、円筒状基体に補助基体を取り付けた状態で両者の表面を同一条件で連続して切削加工をおこなう工程と、前記円筒状基体に前記補助基体を取り付けた状態で機能性膜の形成をおこなう工程をおこなう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は円筒状基体表面にシリコン原子を母材とする非晶質材料で形成された機能性膜を形成する電子写真感光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、非単結晶材料で構成された半導体用の堆積膜が提案され、その中のいくつかは実用に付されている。例えば、水素およびハロゲン(例えばフッ素、塩素)の少なくとも一方で補償されたアモルファスシリコン(以下、“a−Si”とも略記する。)が電子写真感光体として用いられている。
この種の堆積膜を形成する際には、堆積膜の膜厚、膜特性の均一化が求められることが多い。特に、電子写真感光体は、均一性が画像特性に大きく影響を与えるため、大面積領域に均一な堆積膜を形成する技術が必要となる。
【0003】
例えば、プラズマCVDを用いて円筒状基体に堆積膜形成を行う電子写真感光体の製造方法においては、円筒状基体の端部と中央部とでは堆積される膜質及び膜厚が不均一となりやすい。このため、得られる画像には濃度ムラの如き画質低下現象を起こす場合があった。
こうした課題を克服する提案として、例えば、基体が放電強度の不均一な部分の影響を与えないように堆積膜を形成するために、基体に相接する補助基体を設けることを特徴とする堆積膜形成方法が提案されている。(特許文献1参照)
【0004】
特許文献1においては、基体端部で起きていた放電強度の不均一な部分を基体に影響が及ばない所まで遠ざけることで、安定した放電領域で基体上に堆積膜を形成させることができることが開示されている。その結果、基体全体にわたって均一な膜質、膜厚を得ることが可能となったことが開示されている。
また、別の提案として、基体表面にa−Si膜を生成させ、次いでこの被膜基板を所定の寸法に切断するa−Si感光体の製造方法が提案されている。(特許文献2参照)
特許文献2においては、感光体の両端部はそれ以外の成膜面に比べて定常的な成膜が行われないため、両端部をカットによって除去し、均質な成膜特性をもつ感光体が得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭61−53432公報
【特許文献2】特開昭63−73265公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、上記のような方策により堆積膜の均一化が図られてきた。しかし、近年その普及が目覚しいカラー電子写真装置においては、文字原稿のみならず、写真、絵、デザイン画のコピーも頻繁に成される。そのため、堆積膜の不均一性によって生じる画像濃度ムラは視覚的に判別しやすくなり、従来以上に堆積膜の均一性が求められる。
特許文献1によれば、これらの画像特性のある程度の改善は認められるものの、カラー電子写真装置においては更なる改善が必要となってきている。
例えば、上述した補助基体を用いる堆積膜形成方法においては、円筒状基体と補助基体との表面性の違いによる円筒状基体端部領域(円筒状基体端部から10cm程度の領域)での温度変化が生じる場合があった。これにより、端部領域では膜質の違いが生じ、結果として画像濃度ムラが生じてしまう場合があった。
【0007】
更に、「ポチ」と呼ばれる画像上に生じる白点状或いは黒点状の如き画像欠陥の低減も従来以上に求められる。
このような画像欠陥は、a−Si感光体においては、「球状突起」と呼ばれる堆積膜の異常成長部分が原因となって生じることが知られている。球状突起は、堆積膜形成前に基板上に付着したダスト、成膜途中に発生した膜剥がれ等が要因となる膜破片の如き異物を起源として堆積膜が異常成長したものである。そのため、堆積膜形成前の基板は厳密に洗浄され、クリーンルームの如きダスト管理された環境で堆積装置内に運搬することや、堆積膜形成中の膜剥がれを減少させることにより、基板にダストや膜破片の付着することを極力避けるようにしてきた。
【0008】
しかし従来は、補助基体表面や補助基体と円筒状基体との接合部分での僅かな段差部分からの微小な膜剥がれが発生してしまう場合があった。特許文献2においても、前述の画像特性のある程度の改善は認められるものの、同様に更なる改善が必要となる。例えば、膜形成後に円筒状に基体を切断する際に生じる基体のひずみにより、周方向での画像濃度の不均一が生じる場合があった。そのため、切断加工等に時間を要し生産性の改善が必要であった。
本発明は、上記のような従来技術に鑑みてなされたものであり、膜厚や膜特性の均一性に優れ、画像欠陥のない堆積膜を生産性に優れて低コストで形成することができる電子写真感光体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、円筒状基体の表面にシリコン原子を母材とする非晶質材料で形成された機能性膜を形成する電子写真感光体の製造方法において、円筒状基体に補助基体を取り付けた状態で両者の表面を同一条件で連続して切削加工をおこなう工程、前記円筒状基体に前記補助基体を取り付けた状態で機能性膜の形成を行う工程をおこなうことを特徴とする電子写真感光体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、補助基体表面と円筒状基体の表面性と外径差を容易に一定以内にすることができる。このため、両者の熱放射率が近づき、補助基体に接する円筒状基体の端部領域での温度分布が改善され、電子写真感光体の端部領域の特性や膜厚の均一化が促進され、電子写真感光体としての画像濃度ムラが改善される。
更に、補助基体表面と円筒状基体の外径差を一定以内にすることで両者を接合させたときに生じる位置ズレによる段差が減少する。そのため、成膜中に補助基体と円筒状基体の端部から発生する成膜中の膜剥がれが減少することで球状突起の発生数を減少させ、その結果、「ポチ」と呼ばれる、白点状又は黒点状の画像欠陥が大幅に減少する。
更には、こうした段差が起因となる成膜中の放電の乱れが減少し、均一な堆積膜が得られることとなる。その結果、電子写真感光体の端部領域での軸方向及び周方向の特性や膜厚の均一化が促進され、電子写真感光体としての画像濃度ムラが更に改善される。
更には、補助基体表面と円筒状基体の表面性と外径差を容易に一定以内にすることができるため、上記の効果が生産性に優れて低コストで実現出来る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る円筒状基体及び補助基体をヤトイに組み付ける方法を示した模式図
【図2】本発明に係る切削方法を示した模式図
【図3】本発明に係る円筒状基体及び補助基体の詳細な模式図
【図4】本発明に係る洗浄工程の模式図
【図5】本発明に係る円筒状基体及び補助基体をホルダーに組み付ける方法を示した模式図
【図6】本発明に係る電子写真感光体製造装置の模式図
【図7】本発明に係る円筒状基体及び補助基体の切削前後の表面を表した模式図
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、前述のカラー電子写真装置に用いる感光体の開発検討を行う過程において、
(1)画像濃度の僅かなムラが発生する
(2)画像欠陥(ポチ)が少数発生する
という2つの課題を検討した。
画像濃度ムラの原因は、感光体の電位特性のムラであり、特に感光体端部領域の電位の変化が主な要因であることが分かっていた。
本発明者らは、鋭意検討を繰り返し、感光体の端部領域での電位特性変化の原因の一つに成膜中の基板温度の違いがあることを突き止めた。さらに、この温度の違いは、補助基体と円筒状基体の表面性の違いにより引き起こしているのではないかと考えた。
【0013】
従来、補助基体は、表面に堆積した膜を例えばブラスト処理(砂やビーズ等の研磨剤を圧縮空気の力でたたきつけて表面を削る処理方法)により除去し、繰り返し使用していた。そのため、旋盤加工により精密に鏡面仕上げされた円筒状基体と表面性に大きな違いがある。このため、成膜中の補助基体と円筒状基体とでは温度が異なり、補助基体の接合部に近い円筒状基体の端部領域では温度の違いが生じ易いと推測している。
画像欠陥の原因は、基体に付着しているダスト等が要因となるものと、堆積膜形成中に膜剥がれなどにより発生した膜片が基体に付着することが要因となるものがあると推測している。後者の場合、補助基体からの僅かな膜剥がれが成膜中に起こるのが要因のひとつであると推測している。
堆積膜の密着性も、堆積膜が形成される基板の表面性に関係することがわかっている。鏡面仕上げされた円筒状基体は、堆積膜の密着性は良好であるが、上述した従来の補助基体は堆積膜形成後の表面を観察すると、部分的に堆積膜の剥がれが発生している場合があった。補助基体からの膜剥がれは成膜中に発生しており、その破片が円筒状基体に付着して球状突起が発生すると推測している。
【0014】
そこで、本発明者らは上述した2つの課題を解決するために補助基体を円筒状基体と同様の切削加工により表面を鏡面加工することにした。
しかしながら、画像濃度ムラ及び画像欠陥は改善したものの、まだ不十分なものであった。
そこで本発明者らは、成膜後の補助基体を詳しく観察し、以下のような見解を得た。
補助基体表面は円筒状基体と同様の鏡面加工切削を行うことで堆積膜の密着性は良好であったが、端部(上部又は下部)に僅かな膜剥がれがあることが確認できた。
このような補助基体端部の僅かな膜剥がれが存在すると、画像欠陥を完全に無くすことができない。こうした補助基体端部からの膜剥がれは、円筒状基体と補助基体の外径の僅かな違いや取り付けたときの位置ズレにより起こる僅かな段差が要因となっているのではないかと推測した。
【0015】
また、補助基体と円筒状基体を本発明の効果を得るレベルまで寸法を揃えるには旋盤の調整が困難で、手間と時間がかる作業となり、コストアップの要因となった。
上述のような補助基体と円筒状基体の僅かな段差は、プラズマ状態にも影響与えると考えられる。このため、円筒状基体端部付近のプラズマ状態が不均一となり、堆積膜の特性ムラを引き起こしているのではないかと推測している。
そこで、本発明者らは効率よく補助基体を円筒状基体と等しい外径で切削加工できないか鋭意検討した結果、円筒状基体に補助基体を取り付けた状態で両者の表面を同一条件で連続して切削加工を行うという本発明に至ったものである。
【0016】
本発明においては、補助基体と円筒状基体をあらかじめ取り付けた状態で切削加工を行うので、補助基体と円筒状基体は必然的に等しい外径と等しい表面性を得ることができる。また、同時に切削を行うため、切削工程が効率的となる。また、先述したような旋盤の調整等も必要が無く、簡単に短時間で表面性及び外径差を一定以内に加工が出来て生産性、コスト面で優れている。
更に、補助基体と円筒状基体をあらかじめ取り付けた状態なので、切削後の他の工程での位置ズレが起こりにくくなる。
【0017】
本発明の効果が得られる円筒状基体と補助基体の外径差の一定以内とは10μm、好ましくは5μm以下である。表面性の差に関しては、JIS B0601:2001で規定される算術平均高さ(Ra)で0.01μm以下、好ましくは0.005μm以下が必要である。また、本発明で表現している外径差及び表面性差の一定以内とは上述の数値範囲を示すものとする。
上述の外径差及び表面性差は、本発明においては全く問題なく得ることができるが、従来の補助基体と円筒状基体を別々に鏡面加工を行う場合、上述の範囲に設定することは旋盤の切削条件の調整が非常に困難である。
【0018】
本発明においては、補助基体と円筒状基体の取り付け方法として通常の嵌め合い加工、焼嵌め加工、ネジ止めが有効な手段である。特に、位置ズレを少なくする観点から、ネジ止め、焼嵌めによって補助基体と円筒状基体が動かないように固定させるような取り付け方法が好ましい。また、ネジ切りの加工コストを考慮すると焼嵌めのほうが好ましい。
本発明で言うところの「焼嵌め」とは嵌め合いにより部品を取り付けるための方法の一種である。以下、焼嵌めについて詳しく説明する。
図3に示すような嵌め合い形状において、円筒状基体101に補助基体102を取り付ける場合、Aの寸法をBの寸法よりも大きく加工しておく。次に、円筒状基体101を加熱して熱膨張によりBの寸法がAの寸法より大きくなった時点で補助基体102をはめ込み、その後に通常温度(室温)に戻すことで両者は取り付けられる。
【0019】
例えば、円筒状基体と補助基体の材質をアルミ合金(JIS:A5052)とし、外径84mm程度であれば補助基体102のAの寸法を0.05mm(50μm)程度円筒状基体101のBの寸法よりも大きくしておけば良い。円筒状基体101を温度50℃〜100℃に加熱すれば熱膨張によりBの寸法がAよりも大きくなり取り付けることができる。その後に円筒状基体101を室温に戻せば両者はしっかりと取り付けられた状態となる。
焼嵌めによる取り付けにより室温では両者は外れることなくしっかりと固定され、切削後の補助基体と円筒状基体の接合部の位置ズレが起こらないので、画像濃度ムラ、画像欠陥が更に改善するものとなる。
【0020】
更には、円筒状基体と補助基体を洗浄後、成膜装置内へ設置する投入工程においては、補助基体を円筒状基体へ取り付ける作業を行う必要が無くなるため、投入工程にて発生するダストが大幅に減少する。このため、ダスト起因の画像欠陥が減少する効果がある。
更に、本発明においては、上述の取り付け手段に加え、補助基体と円筒状基体の接合部分の外周面が概略同一面と成るように切削することがより好ましい。
【0021】
本発明で表現する概略同一面とは、図7(c)に示したような複数の接続物の接合部表面が連続的な状態の表面であることを表す。
本発明者らは、成膜後の補助基体と円筒状基体を更に詳しく観察したところ、両者の端部、特に面取り部分に膜剥がれが見られることを確認した。
通常、補助基体や円筒状基体等の金属製品の加工物は端部に面取り加工と呼ばれるバリ取り加工が施されている。こうした面取り部がある関係上、補助基体と円筒状基体の接合部は面取部分が合わさり、図7(b)に示すような溝形状となる。
【0022】
このような面取部分が合わさった溝形状部分が存在すると、異なる成長方向の堆積膜が存在する関係で応力緩和しにくくなり堆積膜が剥がれやすくなると考えられる。この結果、成膜中に膜剥がれが発生すると、画像欠陥の原因となりやすくなると考えられるので、溝形状部分が存在しないことが好ましい。
また、成膜面に溝形状部分が存在すると、上述の補助基体と円筒状基体の位置ズレがある場合と同様に、プラズマ状態にも影響与えると考えられる。このため、円筒状基体端部付近のプラズマ状態が不均一になり、堆積膜の特性ムラを引き起こす要因となるのではないかと推測している。
本発明において、上述の溝形状が無くなる状態、即ち図7(c)に示す状態となるまで切削することは更に有効な手段である。
以下、具体的な本発明の実施形態を、図を用いて説明する。
【0023】
(切削工程)
本発明における切削工程について説明する。本発明においては、円筒状基体に補助基体を取り付けた状態で両者の表面を同一条件で連続して切削加工を行う。
図1は、旋盤加工を実施するためのヤトイへの組み付けを示した模式図である。本発明では、円筒状基体と補助基体を同時に切削加工するため、(c)の状態に円筒状基体101と補助基体102をヤトイ103にセットする。
円筒状基体101と円筒状基体の両端にセットされた補助基体102(以下、「加工物」と記す)はヤトイ103の台座107と押さえ座104によって挟まれ、更に押さえネジ105によってヤトイ103に固定される。
図2は本発明の旋盤加工機を示した模式図である。以下、切削工程手順を説明する。
まず、旋盤加工機の回転機構(チャック)201に、加工物をセットしたヤトイ103の軸106をセットする。次いで、所定の回転数でヤトイ103を回転させながらバイト202を加工物に当て、切り込みながら矢印方向に移動させることで所定の外径に加工する。
【0024】
(円筒状基体と補助基体)
本発明では円筒状基体に補助基体をセットした状態で同時に表面加工を行うため、円筒状基体と補助基体を図3に示すような嵌め合い形状とすることは有効な手段である。
本発明における円筒状基体と補助基体には特に限定は無く、材質としては例えば、Al,Cr,Mo,Au,In,Nb,Te,V,Ti,Pt,Pd,Feの如き金属、およびこれらの合金、例えばステンレスが挙げられる。円筒状基体と補助基体の材質は必ずしも一致している必要はないが、切削後の表面性の同一性、熱膨張率の違いによる温度ムラの観点から同一材料であることがより好ましい。
特に本発明ではアルミニウムがa−Si膜の密着性も高く、コストも安く、切削性の観点からも好ましい材料として挙げることが出来る。
【0025】
(洗浄工程)
次いで、本発明の洗浄工程について説明する。
図4は円筒状基体、補助基体の脱脂洗浄を実施する洗浄装置を示した模式図である。
洗浄装置は、処理部410と基体搬送機構420よりなっている。処理部410は、投入台411、洗浄槽412、リンス槽413、乾燥槽414、搬出台415よりなっている。洗浄槽412、乾燥槽414とも液の温度を一定に保つための温度調節装置(図示せず)が付いている。搬送機構420は、搬送レール421と搬送アーム422よりなり、搬送アーム422は、レール421上を移動する移動機構423、円筒状基体及び/又は補助基体である被処理部材401を保持するチャッキング機構424及びチャッキング機構424を上下させるためのエアーシリンダー425よりなっている。
【0026】
例えば、切削後、投入台上411に置かれた被処理部材401は、搬送機構420により洗浄槽412の中に搬送される。洗浄槽412の中には界面活性剤を含有する純水416が入っている。この界面活性剤を含有する純水416の中で超音波処理されることにより表面に付着している塵、油脂の脱洗浄が行なわれる。
次に被処理部材401は、搬送機構420によりリンス槽413へ運ばれ、界面活性剤のリンスを行う。次に、被処理部材401は搬送機構420により温純水等による乾燥槽414へ移動され、所望の温度に保たれた温純水等にて昇降装置(図示せず)により引き上げ乾燥が行われる。温純水等は工業用導電率計(商品名:α900R/C、堀場製作所製)により純度が一定に制御される。乾燥工程の終了した被処理部材401は、搬送機構420により搬出台415に運ばれる。
本発明においては、円筒状基体に補助基体が取り付けられた状態で同時に洗浄することも好ましい手段である。
【0027】
(成膜工程)
次に、円筒状基体の表面にシリコン原子を母材とする非晶質材料からなる機能性膜を形成して、a−Si感光体を作製する成膜工程について詳述する。本発明においては、円筒状基体に補助基体を取り付けた状態で機能性膜の形成を行う。
図6は、本発明の電子写真感光体を作成するために供される、13.56MHzの高周波電源を用いたRFプラズマCVD法による堆積装置の一例を模式的に示した図である。
この装置は大別すると、堆積室601、堆積室内を減圧する為の排気装置608から構成されている。堆積室601の中には、基体加熱用ヒーター603、アースに接続されている基体受け台614、原料ガス導入管605が設置されている。又、堆積室の炉壁を兼ねる高周波印加電極606は導電性材料からなり、絶縁碍子613によって絶縁されている。高周波印加電極606にはマッチングボックス611を介して13.56MHzの高周波電源612が接続されている。
不図示の原料ガス供給装置のボンベは原料ガス導入バルブ609を介して堆積室601の中の原料ガス導入管605に接続されている。
【0028】
以下、成膜工程について具体的に説明する。
前述の切削工程により鏡面加工を施した円筒状基体602と補助基体607をホルダー604にセットし、基体加熱ヒーター603を包含するように基体受け台614に設置する。
次に、ガス供給装置内の排気を兼ねて、原料ガス導入バルブ609を開き、メインバルブ615を開いて堆積室601及び原料ガス導入管605を排気する。真空計610の読みが0.67Pa以下になった時点で加熱用の不活性ガス(例えばアルゴン)を原料ガス導入管605より堆積室601に導入する。そして、堆積室601の中が所望の圧力になるように加熱用ガスの流量および、メインバルブ615の開口あるいは排気装置608の排気速度を調整する。その後、不図示の温度コントローラーを作動させて円筒状基体602を基体加熱ヒーター603により加熱し、円筒状基体602の温度を200℃〜450℃の所望の温度に制御する。円筒状基体602が所望の温度に加熱されたところで、不活性ガスを徐々に止めると同時に、成膜用の原料ガス、例えばSiH、Si、CH、Cの如き材料ガスを、またB、PHの如きドーピングガスを不図示のミキシングパネルにより混合する。そして混合した材料ガスとドーピングガスを堆積室601の中に徐々に導入する。次に、不図示のマスフローコントローラーによって、各原料ガスが所望の流量になるように調整する。その際、堆積室601の中を0.1Paから数100Paの圧力に維持するよう真空計610を見ながらメインバルブ615の開口あるいは排気装置608の排気速度を調整する。
【0029】
以上の手順によって成膜準備を完了した後、円筒状基体602の上に光受容層の形成を行う。内圧が安定したのを確認後、高周波電源612を所望の電力に設定して高周波電力を高周波印加電極606に供給し高周波グロー放電を生起させる。このときマッチングボックス611を調整し、反射波が最小となるように調整し、高周波の入射電力から反射電力を差し引いた値を所望の値に調整する。この放電エネルギーによって堆積室601の中に導入された各原料ガスが分解され、円筒状基体602の上に所定の堆積膜が形成される。なお、膜形成を行っている間は円筒状基体602を駆動装置(不図示)によって所定の速度で回転させても良い。
以上で、堆積層の形成を終えるが、複数の堆積層(たとえば下部電荷注入阻止層と光導電層など)を形成する場合、再び上記の手順を繰り返してそれぞれの層を形成すれば良い。原料ガス流量や、圧力等を光導電層形成用の条件に一定の時間で変化させて、中間層の形成を行うこともできる。
すべての堆積膜形成が終わったのち、メインバルブ615を閉じ、堆積室601の中に不活性ガスを導入し大気圧に戻した後、円筒状基体602を取り出す。
【実施例】
【0030】
以下に、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
〔実施例1〕
アルミニウム製の外径84.5mm、長さ381mm、肉厚3mmの円筒状基体とアルミニウム製の外径84.5mm、長さ80mm、肉厚3mmの補助基体を先述の切削加工手順に従い鏡面加工をおこなった。なお、円筒状基体及び補助基体の端部の面取り寸法は45°×0.5mm(C0.5)とした。
なお、補助基体の外径は図3のC、長さはDの寸法とし、肉厚はD部分の肉厚とする。面取り寸法C0.5とは図3(丸点線囲みの拡大図)で示した角度θ=45°、E=0.5mmを表す。
【0031】
円筒状基体と補助基体は図1に示す用にヤトイにセットし、精密切削用のエアダンパー付旋盤(PNEUMO PRECISION INC.製)に、ダイヤモンドバイト(商品名:ミラクルバイト、東京ダイヤモンド製)を、シリンダー中心角に対して5゜の角のすくい角を得るようにセットした。次に、この旋盤の回転フランジに、ヤトイを真空チャックし、付設したノズルから白燈油噴霧、同じく付設した真空ノズルから切り粉の吸引を併用しつつ、周速1000m/min、送り速度0.01mm/Rの条件で外径が84.0mmとなるように鏡面切削をおこなった。
即ち、本実施例では鏡面加工の切り込み量は0.25mmとなるため、切削後の面取り寸法は45°×0.25mm(C0.25)であった。
本実施例では、円筒状基体と補助基体は図3に示す嵌め合い形状とし、図中のAの径寸法は図中Bの径寸法に対してマイナス20μmの嵌め合い公差とした。
【0032】
鏡面加工を終えた円筒状基体と補助基体は、図4に示した洗浄装置により、先述した手順により脱脂洗浄を行った。この時、本実施例においては、円筒状基体と補助基体は夫々別々で洗浄をおこなった。
脱脂洗浄を終えた円筒状基体と補助基体は、図5に示す成膜用ホルダーに図5の(c)に示す状態となるようにセットした後、図6に示す電子写真感光体の製造装置に設置した。先述した手順に従って、RFプラズマCVD法により表1に示す作製条件で10本の電子写真感光体を作製した。
【0033】
【表1】

【0034】
成膜終了後、補助基体の表面に堆積したa−Si膜の密着性を評価した。
また、作製した電子写真感光体をキヤノン社製iRC6800をマイナス帯電で画像部を露光するイメージ露光方法で露光部を現像する反転現像に改造した改造機に設置し、端部領域での帯電ムラ、周方向帯電ムラ、画像濃度ムラ、ポチ等の電子写真特性について評価をおこなった。
各項目は、以下の方法で作成した電子写真感光体10本全てについて評価をおこなった。
判定は10本の電子写真感光体の平均値を用いた。
【0035】
(補助基体密着性)
成膜後に取り出した補助基体に堆積したa−Si膜の密着性を観察した。
a−Si膜は成膜後に冷却して大気に接触させると剥がれることがあるが、本評価では、取り出し時の膜の状態を確認することで補助基体とa−Si膜の密着性の目安とした。
補助基体の端部の状態を光学顕微鏡(ユニオン光学(株)社製倒立金属顕微鏡)にて観察をおこなった。
評価は次の基準に従った。
A 膜剥がれは全くなく、密着性は非常に良好
B 僅かな膜剥がれが見られる
C 広い範囲に膜剥がれが見られる
【0036】
(端部領域帯電ムラ)
主帯電器の電流値を−1000μAの条件にして電子写真感光体を帯電した。この時、表面電位計により電子写真感光体の暗部表面電位を測定した。暗部表面電位は周方向の平均値とした。電子写真感光体の端部から10cmの領域について2cmおきに暗部表面電位を測定し、得られた各位置の値の最大値と最小値の電位差を求めた。電子写真感光体の両端部で暗部表面電位の電位差を求め、得られた2つの値の和を暗部表面電位の端部領域帯電ムラとした。
そして比較例1の電子写真感光体の帯電ムラを100%とした相対評価を行い、以下のように分類した。
A 80%未満
B 80%以上90%未満
C 90%以上110%未満
D 110%以上
【0037】
(周方向帯電ムラ)
端部領域帯電ムラと同様に電位表面電位計により電子写真感光体の暗部表面電位を測定した。電子写真感光体の端部から5cmの位置での暗部表面電位を測定し、周方向の電位の最大値と最小値の電位差を周方向帯電ムラとした。
そして比較例1の電子写真感光体の周方向帯電ムラを100%とした相対評価を行い、以下のように分類した。
A 80%未満
B 80%以上90%未満
C 90%以上110%未満
D 110%以上
【0038】
(画像濃度ムラ)
中間調チャートを原稿台に置き画像濃度が0.3となるように調整してA3用紙にシアン色でコピーし、得られたA3コピー画像の縦方向及び横方向夫々3cmおきに反射濃度計(マクベス社製RD914)で画像濃度を測定した。A3コピー画像の画像濃度の最大値と最小値の差を画像濃度ムラとした。
そして比較例1の電子写真感光体の画像濃度ムラを100%とした相対評価をおこない、以下のように分類した。
A 80%未満
B 80%以上90%未満
C 90%以上110%未満
D 110%以上
【0039】
(画像欠陥)
A3サイズの白原稿を原稿台に置きA3用紙にマゼンタ色、イエロー色、シアン色の3色で複写した。こうして得られた画像領域にある直径0.05mm以上画像欠陥(シアン色のポチ)の個数を数えた。
得られた結果は、比較例1での個数を100%とした場合の相対比較でランク付けをおこなった。
A 60%未満
B 60%以上90%未満
C 90%以上110%未満
D 110%以上
【0040】
(補助基体作成時間)
補助基体と円筒状基体の外径ならびに表面性を一定範囲以内とするために要する切削時間(旋盤の調整時間も含む)を調べた。補助基体は円筒状基体の外径の±5μm以内、表面粗さはJIS B0601:2001で規定される算術平均高さ(Ra)で±0.005μm以内となるように切削し、補助基体と円筒状基体を10セット切削するのに要する時間を調べた。比較例1の方法で作成した補助基体と円筒状基体10セットに要した切削時間を100%とした相対評価を行い、以下のように分類した。
A 50%未満
B 50%以上70%未満
C 70%以上90%未満
D 90%以上110%未満
E 110%以上
【0041】
〔比較例1〕
実施例1と同様の円筒状基体のみをヤトイにセットし実施例1と同じ外径になるように鏡面加工をおこなった。
本比較例では、アルミニウムよりなる直径84.5mm、長さ80mm、肉厚3mmの補助基体を、別途鏡面加工を実施した。この時、鏡面加工後補助基体の外径が円筒状基体の外径と一定以内になるように切削をおこなった。
洗浄工程及び成膜工程は実施例1と同様とした。
本比較例においても電子写真感光体を10本作成し、得られた電子写真感光体の評価は、実施例1と同様におこなった。
【0042】
〔実施例2〕
本実施例では、円筒状基体及び補助基体の面取り寸法を45°×0.2mm(C0.2)とした以外は実施例1と同様に図2に示した旋盤加工機を用い、円筒状基体と補助基体を外径84.0mmとなるように外周表面の鏡面加工をおこなった。
即ち、各素管の面取り寸法よりも切り込み寸法が大きいため、図7(b)に示す状態から点線部分まで切り込むこととなり、切削後は図7(c)に示すように円筒状基体101と補助基体102の接合部が概略同一面となった。
鏡面加工後は実施例1と同じ条件、手順にて電子写真感光体を作製した。
本実施例においても電子写真感光体を10本作成し、得られた電子写真感光体の評価は、実施例1と同様におこなった。
【0043】
〔実施例3〕
本実施例においても実施例1及び2と同様に、円筒状基体と補助基体は図3に示す嵌め合い形状とした。但し、本実施例においては、図中のAの径寸法は図中Bの径寸法に対してプラス50μmの嵌め合い公差(焼嵌め)とし、円筒状基体のみを加熱した状態で補助基体を円筒状基体の両端にはめ込んだ後、室温に戻した。
その後、実施例2と同様に切削加工をおこなった。なお、各素管の寸法及び面取り寸法、切り込み寸法は実施例2と同様な値にした。
鏡面加工後の円筒状基体及び補助基体ははめ込まれた状態のまま同時に図4に示した洗浄装置により、先述した手順により脱脂洗浄をおこなった。
【0044】
脱脂洗浄を終えた円筒状基体と補助基体は、はめ込まれたままの状態で実施例2と同様に図5(c)に示す状態となるようにセットし、実施例2と同じ条件、手順にて電子写真感光体を作製した。
なお、成膜終了後の円筒状基体及び補助基体は円筒状基体のみを加熱することで円筒状基体から補助基体を取り外した。
本実施例においても電子写真感光体を10本作成し、得られた電子写真感光体の評価は、実施例1と同様におこなった。
なお、補助基体作成時間には補助基体取外し時間も含めた。
【0045】
〔比較例2〕
本比較例ではアルミニウムよりなる外径84.5mm、長さ541mm、肉厚3mmの円筒状基体を用いた。この円筒状基体のみを実施例3と同様に鏡面加工をおこない、洗浄工程及び成膜工程も同様におこなった。本比較例では、円筒状基体の長さが実施例3に比べて160mm長かった。このため、補助基体は使用せずに全ての工程をおこない、成膜工程終了後、円筒状基体の両端を80mmずつ切断し、長さ381mmの電子写真感光体を作製した。なお、電子写真装置に搭載するためのフランジ用のインロー加工もおこなった。
本比較例においても電子写真感光体を10本作成し、得られた電子写真感光体の評価は、実施例1と同様におこなった。但し、補助基体が存在しないので、密着性の評価はおこなわなかった。また、補助基体作成時間には、成膜工程終了後の両端切断及びインロー加工に必要な時間を含めた。
比較例1、実施例1〜3、比較例2の結果を表2にまとめて示す。
【0046】
【表2】

【0047】
表2に示すように、実施例1については、補助基体作成時間が比較例1に比べ大幅に改善されている。
実施例2については、さらに補助基体の端部の密着性が改善し、画像欠陥が改善している。更に、端部領域帯電ムラ、周方向帯電ムラ、画像濃度ムラも改善している。
実施例3では全ての項目についてAランクとなり、実施例2に比べ端部の密着性、端部領域帯電ムラ、周方向帯電ムラ、画像濃度ムラ、画像欠陥が改善している。
なお、比較例2については、成膜後、感光体の両端を切断する際に、端部が僅かに変形したことによりムラは改善せずCランクであった。更に、成膜後の切断工程及びインロー作成工程に時間が長くかかってしまい、生産性と電子写真特性の両立という点で、各実施例より劣る結果であった。
【0048】
〔実施例4〕
本実施例では、円筒状基体に補助基体をねじ込み式で取り付けた後、実施例3と同様に切削加工をおこなった。なお、各素管の寸法及び面取り寸法、切り込み寸法は実施例3と同様とした。洗浄工程以降も実施例3と同様に行い、成膜終了後の円筒状基体から補助基体を取り外した。
得られた電子写真感光体の評価は、実施例1と同様におこなった。
結果は、実施例3と同様に良好な評価結果となった。
【符号の説明】
【0049】
101‥‥円筒状基体
102‥‥補助基体
201‥‥チャック
202‥‥バイト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも上部又は下部に補助基体を設けた円筒状基体の表面にシリコン原子を母材とする非晶質材料で形成された機能性膜を形成する電子写真感光体の製造方法において、
前記円筒状基体に前記補助基体を取り付けた状態で両者の表面を同一条件で連続して切削加工をおこなう工程と、
前記円筒状基体に前記補助基体を取り付けた状態で機能性膜の形成をおこなう工程をおこなうことを特徴とする電子写真感光体の製造方法。
【請求項2】
前記切削工程は、前記円筒状基体と前記補助基体の接合部の外周面が、概略同一面となるように加工をおこなうことを特徴とする請求項1に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項3】
前記円筒状基体と前記補助基体の取り付け方法は焼嵌め、又はねじ込みとすることを特徴とする請求項1又は2に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項4】
前記補助基体及び前記円筒状基体が同一材料からなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項5】
前記補助基体及び前記円筒状基体がアルミニウムで形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の電子写真感光体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−95502(P2011−95502A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249388(P2009−249388)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】