説明

電子回路基板

【課題】
基板に混在して実装されたアナログ回路及びデジタル回路の動作の安定化を図る。
【解決手段】
アナログ回路に接続された第1のグランドラインとデジタル回路に接続された第2のグランドラインとの間に上記各グランドライン間の電位差を抑制する第1のダイオード及び第2のダイオードを接続する。第1のダイオード及び第2のダイオードは、各グランドラインの間に互いに極性が逆向きになるように接続される。この第1のダイオード及び第2のダイオードにより、アナログ回路のグランドラインとデジタル回路のグランドラインとの電位差を各ダイオードの順方向の電圧降下までに抑制されることで、基板に混在して実装されたアナログ回路及びデジタル回路の動作を安定させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アナログ回路及びデジタル回路が混在する電子回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
アナログ信号を処理するアナログ回路とデジタル信号を処理するデジタル回路が混在する電子回路基板は様々な分野で利用されている。例えば、電気自動車の駆動機構用の電動機に駆動パルスを供給するインバータにおいては、バッテリの時間的な出力変動にリアルタイムに追従しつつ電動機に供給する駆動パルスのオンパルス幅を制御するために、アナログ回路とデジタル回路を用いて次のような処理が行われる。
【0003】
まず、インバータは、バッテリの出力の監視結果であるアナログ信号をA/D変換器によりデジタル信号に変換する。続いてインバータは、このデジタル信号をもとに電動機に供給する駆動パルスのオンパルス幅をデジタルシグナルプロセッサにて演算する。そしてインバータは、その演算結果のデジタル信号をD/A変換器によりアナログ信号に変換し、外部の駆動パルス生成部に出力する。これにより、バッテリの出力が低下した場合には、その低下分に応じて駆動パルスのオンパルス幅を拡げ、逆にバッテリの出力が上昇した場合には、その上昇分に応じて駆動パルスのオンパルス幅を狭めることによって、バッテリの時間的な出力変動による電動機の駆動への影響を軽減している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−25263号公報(段落0035、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようにアナログ回路及びデジタル回路が混在する電子回路基板では、周辺回路との間でのレイアウト的な制約から、アナログ回路のグランドラインとデジタル回路のグランドラインとを完全に分離することは困難である。アナログ回路のグランドラインとデジタル回路のグランドラインとが分離されていない場合、アナログ回路からの信号がグランドラインを通るときに発生する微弱な電圧がデジタル回路にとってのノイズとなり得る。逆も同様であり、デジタル回路からの信号がグランドラインを通るときに発生する微弱な電圧がアナログ回路にとってのノイズとなり得る。これにより、アナログ回路及びデジタル回路の双方とも動作が不安定になるおそれがあった。同様に、インバータにおいてもバッテリの時間的な出力変動に追従した制御を良好に行うことが困難になるという問題があった。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、アナログ回路の基準電位とデジタル回路の基準電位との差を抑制して各回路をより安定に動作させることのできる電子回路基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係る電子回路基板は、アナログ信号を処理するアナログ回路と、前記アナログ回路に接続された第1のグランドラインと、デジタル信号を処理するデジタル回路と、前記デジタル回路に接続され、前記第1のグランドラインと独立して設けられた第2のグランドラインと、前記第1のグランドラインと前記第2のグランドラインとの電位差を抑制するように前記第1のグランドラインと前記第2のグランドラインとの間に互いに極性が逆向きに接続された第1のダイオード及び第2のダイオードのペアを有する。
【0008】
本発明では、アナログ回路に接続された第1のグランドラインの電位とデジタル回路に接続された第2のグランドラインの電位との差を、それぞれのグランドライン間に接続された第1のダイオード及び第2のダイオードによって抑制することができる。つまり、アナログ回路に接続された第1のグランドラインの電位がデジタル回路に接続された第2のグランドラインの電位より高い場合には第1のダイオードにより、各グランドライン間の電位差を最大でも第1のダイオードの順方向の電圧降下に抑制できる。同様にアナログ回路に接続された第1のグランドラインの電位がデジタル回路に接続された第2のグランドラインの電位より低い場合には、第2のダイオードにより、各グランドライン間の電位差を最大でも第2のダイオードの順方向の電圧降下に抑制できる。したがって、順方向の電圧降下の十分小さいダイオードを用いることで、各グランドライン間の電位差をアナログ回路及びデジタル回路の動作に問題無い程度とすることができ、アナログ回路及びデジタル回路の動作を安定させることができる。
【0009】
上記アナログ回路及び上記デジタル回路を有する電子回路を複数有し、上記互いに極性が逆向きに接続された第1のダイオード及び第2のダイオードのペアを複数有し、個々の上記ペアが個々の上記電子回路の近傍に設けられるようにしてもよい。これにより、例えばそれぞれの第1のグランドラインと第2のグランドラインとが接続されている接続点より遠い箇所では、それぞれのペアのない場合には急峻なノイズの影響で大きなグランドの電圧変動があり得るが、本発明によれば、個々の上記ペアが個々の上記電子回路の近傍に設けられるので、それぞれの第1のグランドラインと第2のグランドラインとの間の電位差を抑制できる。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によれば、互いに接続されたアナログ回路とデジタル回路それぞれのグラントライン間の電位差を抑制して上記各回路の動作の安定化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る電子回路基板を示すブロック図である。
【図2】本発明に係る他の電子回路基板を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
<第1の実施の形態>
図1は本発明の一実施形態に係る電子回路基板を示すブロック図である。
【0013】
電子回路基板1は、アナログ回路11、第1のグランドライン12、デジタル回路13、第2のグランドライン14、電位差抑制回路15、第1のグランド16,第2のグランド17、及びこれを実装する基板18等で構成される。
【0014】
アナログ回路11は第1のグランドライン12と接続され、デジタル回路13は第2のグランドライン14と接続されている。第1のグランドライン12及び第2のグランドライン14はそれぞれ基板18上に設けられたパターンであり、基板18に独立して設けられた第1のグランド16,第2のグランド17にそれぞれ個別に接続されている。
【0015】
電位差抑制回路15は、アナログ回路11の第1のグランドライン12の電位(基準電位)とデジタル回路13の第2のグランドライン14の電位(基準電位)との電位差を抑制する回路である。この電位差抑制回路15は、2つのダイオード151,152で構成されている。各ダイオード151,152はそれぞれアナログ回路11の第1のグランドライン12とデジタル回路13の第2のグランドライン14との間に互いに極性が逆向きに接続されている。
【0016】
ダイオード151,152には、例えばショットキーダイオード、ツェナーダイオード等、所定の順電圧降下(V)を有するダイオードが用いられる。
【0017】
以上のように構成された電子回路基板1では、電位差抑制回路15によって、アナログ回路11の第1のグランドライン12の電位とデジタル回路13の第2のグランドライン14の電位との差をダイオード151及びダイオード152それぞれの順方向の電圧降下(V)にまで抑制することができる。これにより順方向の電圧降下(V)の十分小さいダイオード151及びダイオード152を用いることで、アナログ回路11及びデジタル回路13の双方とも他方のグランドラインからのノイズによる影響を回避することができ、動作を安定させることができる。
【0018】
<第2の実施の形態>
【0019】
次に、本発明に係る第2の実施形態について図面を用いて説明する。
【0020】
本実施形態は、電気自動車の駆動機構に用いられる電動機に駆動パルスを供給するインバータを制御するコントローラ用の電子回路基板に本発明を適用したものである。
【0021】
図2は本実施形態の電子回路基板を示すブロック図である。
同図に示すように、本実施形態の電子回路基板2は、入力部21、A/D変換器22、第1のグランドライン23、第2のグランドライン24、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)25、D/A変換器26、第3のグランドライン27、第4のグランドライン28、出力部29、第1の電位差抑制回路30,第2の電位差抑制回路31、信号ライン32,33,34,35、第1のグランド36,第2のグランド37,第3のグランド38,第4のグランド39、及びこれを実装する基板40等で構成される。
【0022】
入力部21は、図示しないバッテリの出力を示すアナログ信号を外部よりとりこみ、信号ライン32を通じてA/D変換器22に出力する。A/D変換器22は、信号ライン32を通じて入力部21より入力されたバッテリ出力のアナログ信号をデジタル信号に変換し、信号ライン33を通じてデジタルシグナルプロセッサ25に出力する。デジタルシグナルプロセッサ25は、信号ライン33を通じてA/D変換器22より入力されたバッテリ出力のデジタル信号に基づき所定の演算処理を実行し、演算結果を信号ライン34を通じてD/A変換器26に出力する。ここで、所定の演算処理とは、例えば、バッテリ出力のデジタル信号をもとに電動機に供給する駆動パルスのオンパルス幅を演算する処理等である。D/A変換器26は、信号ライン34を通じてデジタルシグナルプロセッサ25より入力された駆動パルスオンパルス幅のデジタル信号をアナログ信号に変換し、信号ライン35を通じて出力部29に出力する。出力部29は、信号ライン35を通じてD/A変換器26から入力された駆動パルスオンパルス幅のアナログ信号を電子回路基板2の外部に出力する。
【0023】
A/D変換器22には、アナログ信号を処理するアナログ回路221とデジタル信号を処理するデジタル回路222とが混在する。アナログ回路221は第1のグランドライン23と接続され、デジタル回路222は第2のグランドライン24と接続されている。第1のグランドライン23及び第2のグランドライン24はそれぞれ、基板40上に独立して設けられたパターンであり、基板40に独立して設けられた第1のグランド36及び第2のグランド37に個別に接続されている。
【0024】
一方、D/A変換器26内にもデジタル信号を処理するデジタル回路261とアナログ信号を処理するアナログ回路262とが混在する。デジタル回路261は第3のグランドライン27と接続され、アナログ回路262は第4のグランドライン28と接続されている。第3のグランドライン27及び第4のグランドライン28はそれぞれ基板40上に独立して設けられたパターンであり、基板40に独立して設けられた第3のグランド38及び第4のグランド39に個別に接続されている。
【0025】
第1の電位差抑制回路30は、第1のグランドライン23の電位(アナログ回路221の基準電位)と第2のグランドライン24の電位(デジタル回路222の基準電位)との電位差を抑制する回路である。この第1の電位差抑制回路30は、2つのダイオード301,302で構成されている。各ダイオード301,302はそれぞれ第1のグランドライン23と第2のグランドライン24との間に互いに極性が逆向きに接続されている。電子回路であるダイオード301,302のペアはA/D変換器22の近傍に設けられている。
【0026】
一方、第2の電位差抑制回路31は、第3のグランドライン27の電位(デジタル回路261の基準電位)と第4のグランドライン28の電位(アナログ回路262の基準電位)との電位差を抑制する回路である。この第2の電位差抑制回路31は、2つのダイオード311,312で構成されている。各ダイオード311,312はそれぞれ第3のグランドライン27と第4のグランドライン28との間に互いに逆向きに接続されている。電子回路であるダイオード311,312のペアはD/A変換器26の近傍に設けられている。つまり、個々のペアが個々の電子回路の近傍に設けられている。
【0027】
以上のように構成された電子回路基板2では、第1の電位差抑制回路30によって、A/D変換器22内のアナログ回路221に接続された第1のグランドライン23の電位とA/D変換器22内のデジタル回路222に接続された第2のグランドライン24の電位との差をダイオード301及びダイオード302の順方向の電圧降下(V)にまで抑制することができる。これにより順方向の電圧降下(V)の十分小さいダイオード301及びダイオード302を用いることで、A/D変換器22内のアナログ回路221及びデジタル回路222の双方とも他方のグランドライン23,24からのノイズによる影響を回避することができ、A/D変換器22の動作を安定させることができる。
【0028】
同様に、第2の電位差抑制回路31によって、D/A変換器26内のデジタル回路261に接続された第3のグランドライン27の電位とD/A変換器26内のアナログ回路262に接続された第4のグランドライン28の電位との差をダイオード311及びダイオード312の順方向の電圧降下(V)にまで抑制することができる。これにより順方向の電圧降下(V)の十分小さいダイオード311及びダイオード312を用いることで、D/A変換器26内のデジタル回路261及びアナログ回路262の双方とも他方のグランドライン27,28からのノイズによる影響を回避することができ、D/A変換器26の動作を安定させることができる。
【0029】
本実施形態では、電子回路基板2が大きくA/D変換器22やD/A変換器26が入り組んで実装されている。このような場合には、例えば第1のグランドライン23、第2のグランドライン24とが接続されている接続点から遠い箇所では、各ダイオード301,302のない場合には急峻なノイズの影響で大きなグランドの電圧変動があり得る。仮に、この接続点から遠い箇所でも第1のグランドライン23、第2のグランドライン24とを接続すると、グランド間がループすることになり、A/D変換器22に悪影響を及ぼす。しかし、本実施形態によれば、この接続点から遠いA/D変換器22の近傍にダイオード301,302が設けられているので、第1のグランドライン23と第2のグランドライン24との間の電位差を抑制できる。同様に、ダイオード311,312はD/A変換器26の近傍に設けられているので、第3のグランドライン27及び第4のグランドライン28についても電位差を抑制できる。
【0030】
本発明に係る実施形態は、以上説明した実施形態に限定されず、他の種々の実施形態が考えられる。
【0031】
上記実施形態では、電位差抑制回路15,30,31としてダイオードを用いる例を示したが、ダイオードに代えてトランジスタを用いて電位差抑制回路15,30,31を構成することも可能である。
【0032】
また、第2の実施形態では、電気自動車の駆動機構用の電動機に供給する駆動パルスを生成するインバータ用のコントローラの電子回路基板に本発明を適用した場合を説明したが、本発明は、アナログ回路とデジタル回路とが実装されたものであれば、その他の様々な構成の電子回路基板に適用できる。
【符号の説明】
【0033】
1,2…電子回路基板
11,221,262…アナログ回路
12,23…第1のグランドライン
13,222,261…デジタル回路
14,24…第2のグランドライン
15,30,31…電位差抑制回路
16…第1のグランド
17…第2のグランド
18,40…基板
27…第3のグランドライン(第2のグランドライン)
28…第4のグランドライン(第1のグランドライン)
151,152,301,302,311,312…ダイオード(第1のダイオード、第2のダイオード)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナログ信号を処理するアナログ回路と、
前記アナログ回路に接続された第1のグランドラインと、
デジタル信号を処理するデジタル回路と、
前記デジタル回路に接続され、前記第1のグランドラインと独立して設けられた第2のグランドラインと、
前記第1のグランドラインと前記第2のグランドラインとの電位差を抑制するように前記第1のグランドラインと前記第2のグランドラインとの間に互いに極性が逆向きに接続された第1のダイオード及び第2のダイオードのペアを有する
電子回路基板。
【請求項2】
請求項1に記載の電子回路基板であって、
前記アナログ回路及び前記デジタル回路を有する電子回路を複数有し、
前記互いに極性が逆向きに接続された第1のダイオード及び第2のダイオードのペアを複数有し、
個々の前記ペアが個々の前記電子回路の近傍に設けられる
電子回路基板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−216708(P2011−216708A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84201(P2010−84201)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000002059)シンフォニアテクノロジー株式会社 (1,111)
【Fターム(参考)】