説明

電気掃除機

【課題】整流子電動機の異常火花発生時の保護をできるだけ早期且つ安価に実現することのできる電気掃除機を提供すること。
【解決手段】整流子モータが接続された電気回路上における電流の所定時間ごとの変化幅を検出し(S1〜S3),その検出された電流の変化幅の予め設定された所定回数のうち,前記整流子モータで異常火花が発生していることを検知するべく予め設定された上限閾値以上に達した回数が予め設定された異常回数であることを条件に(S4のYes側),前記整流子モータを停止させる(S5)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,固定子(ブラシ)及び整流子(回転子)を有する整流子電動機(モータ)を用いる電気掃除機に関し,特に,その整流子電動機における異常火花発生時に該整流子電動機の保護を図るための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から,電気掃除機で塵埃を吸い込むために用いられる電動送風機に,固定子(ブラシ)及び整流子(回転子)を有する整流子モータが用いられている(例えば,特許文献1,2参照)。この整流子モータでは,通電された固定子に整流子が摺接して回転するときに火花が発生することがある(以下,「異常火花」という)。そして,整流子モータにおいて異常火花が発生すると,該整流子モータ内の温度が異常に上昇するため,該整流子モータの焼損や固定子などの構成部品の摩耗などが懸念される。
一方,例えば特許文献1,2には,整流子モータの温度が予め設定された異常温度に達したときに該整流子モータへの通電を遮断する保護スイッチ(以下,「温度ヒューズ」という)を設けておくことで,該整流子モータの保護を図ることが開示されている。
【特許文献1】特開平8−168212号公報
【特許文献2】特開2002−199661号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら,前記特許文献1,2に開示されているように温度ヒューズを用いて整流子モータの異常火花発生時の保護を図る構成では,整流子モータの温度が温度ヒューズの設定温度に達するまで,該整流子モータにおける異常火花の発生を検知することができない。そのため,例えば異常火花が断続的に発生する場合など,整流子モータの温度上昇が緩やかである場合は,その異常火花の発生の検知が遅れることがあり,該整流子モータの保護を早期に図ることができないという問題がある。また,温度ヒューズは一般的に高価であるため,該温度ヒューズを用いる構成では電気掃除機のコストが高くなるという問題もある。特に,温度ヒューズの溶断によって整流子モータの電気回路を遮断する構成では,温度ヒューズが溶断される度に温度ヒューズを交換する必要があり,場合によっては整流子モータ全体を交換する必要も生じる。
従って,本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり,その目的とするところは,整流子電動機の異常火花発生時の保護をできるだけ早期且つ安価に実現することのできる電気掃除機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために本発明は,固定子及び該固定子に摺接して回転する整流子を有する整流子電動機に給電して該整流子電動機に連結された送風ファンを回転させることにより塵埃を吸い込む電気掃除機に適用されるものであって,前記整流子電動機が接続された電気回路上における電流の所定時間ごとの変化幅を検出し,その検出された電流の変化幅が,予め設定された上限閾値以上に達したことを条件に前記整流子電動機を停止させ或いは前記整流子電動機に印加される電流を制限することを特徴とする電気掃除機として構成される。具体的に,前記上限閾値は,前記整流子電動機で異常火花が発生していることを検知するべく予め設定されたものである。
本発明に係る電気掃除機では,前記整流子電動機の異常火花発生を検知するための値を前記上限閾値として設定しておくことで,該整流子電動機の異常火花の発生を従来のように温度ヒューズを用いる場合よりも早期に検知することができる。そして,その検知を条件に前記整流子電動機を停止させ或いは前記整流子電動機に印加される電流を制限することで,該整流子電動機の保護を早期に図ることができる。これにより,前記整流子電動機の長寿命化を図ることができ,ひいては該整流子電動機を有する電気掃除機の長寿命化を実現することができる。しかも,一般的な電気掃除機は,前記整流子電動機を制御するために該整流子電動機の電流を検知する機能を有している。従って,その機能を利用することで,従来のように温度ヒューズを設ける構成に比べて安価な構成によって前記整流子電動機の異常火花発生時の保護を図ることができる。
なお,本発明は,前記整流子電動機の異常火花発生時に該整流子電動機の電気回路上における電流の変化幅が,それ以外の状況における変化幅に比べて顕著に大きくなることを見出した結果に基づいてなされたものである。なお,通常動作時における電流の変化幅との顕著な差については,後段の実施の形態で述べることにする。
また,前記整流子電動機を停止させ或いは前記整流子電動機に印加される電流を制限するための条件は,予め設定された所定回数の電流の変化幅のうち,前記上限閾値以上に達した回数が予め設定された異常回数以上であることとすることが考えられる。これにより,電流の変化幅が何らかの原因によって瞬時的に前記上限閾値以上に達した場合に,そのことを前記整流子電動機で異常火花が発生していること等と誤検知することを防止することができ,不要な処置を防止することができる。
【0005】
ところで,前記整流子電動機が接続された電気回路上における電流の所定時間ごとの変化幅は,前記整流子電動機に直列接続された変圧器(トランス)で変圧された後の出力電圧値に基づいて検出することが考えられる。これにより,前記整流子電動機が接続された電気回路上における過電流などの影響を受けない前記変圧器の出力側の制御回路において前記整流子電動機の異常火花発生の有無を検知することができる。
ここで,前記整流子電動機が,所定の電源からの交流電力の給電によって作動するものである場合には,該所定の電源から前記整流子電動機に給電される交流電力の1サイクル毎の実効電流値を検出し,前記所定時間ごとに検出された複数サイクルの実効電流値の最大値及び最小値の差分電流値を電流の変化幅として検出することが考えられる。例えば,前記所定の電源が周波数60Hzの交流電源である場合には,1秒間に発生する60サイクルの実効電流値の最大値及び最小値の差が前記変化幅として検出される。
【0006】
また,前記整流子電動機が接続された電気回路上の電流の変化幅が前記上限閾値以上に達したことに応じて,前記整流子電動機で異常火花が発生していることを当該電気掃除機の使用者に報知する構成が望ましい。これにより,使用者は,前記電気掃除機において前記整流子電動機で異常火花が発生していることを知得して,メンテナンスの依頼などの対処を行うことができる。
さらに,前記整流子電動機が接続された電気回路上の電流の変化幅が前記上限閾値以上に達したことを条件に前記整流子電動機が停止された場合には,その後,予め設定された特定操作が行われるまでの間は,該整流子電動機の再始動を制限することが望ましい。これにより,前記整流子電動機で異常火花が発生する可能性が高い状況で,該整流子電動機の再始動が行われることが防止される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば,前記整流子電動機の異常火花発生を検知するための値を前記上限閾値として設定しておくことで,該整流子電動機の異常火花の発生を従来のように温度ヒューズを用いる場合よりも早期に検知することができる。そして,その検知を条件に前記整流子電動機を停止させ或いは前記整流子電動機に印加される電流を制限することで,該整流子電動機の保護を早期に図ることができる。これにより,前記整流子電動機の長寿命化を図ることができ,ひいては該整流子電動機を有する電気掃除機の長寿命化を実現することができる。しかも,従来のように温度ヒューズを設ける構成に比べて安価な構成によって前記整流子電動機の異常火花発生時の保護を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下添付図面を参照しながら,本発明の実施の形態について説明し,本発明の理解に供する。尚,以下の実施の形態は,本発明を具体化した一例であって,本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
ここに,図1は本発明の実施の形態に係る電気掃除機Xの外観図,図2は本発明の実施の形態に係る電気掃除機Xに設けられた整流子モータ11が接続されたモータ駆動回路Yの回路図,図3及び図4は本発明の実施の形態に係る電気掃除機Xにおける整流子モータ11の電流値Pd及びその変化幅Peの測定結果の一例を示す図,図5は本発明の実施の形態に係る電気掃除機Xにおいて実行される異常火花防止処理の手順の一例を示すフローチャートである。
まず,図1を用いて,本発明の実施の形態に係る電気掃除機Xの概略構成について説明する。
図1に示すように,前記電気掃除機Xは,掃除機本体部1,吸気口部2,接続管3,接続ホース4及び操作ハンドル5などを備えて概略構成されている。なお,前記操作ハンドル5には,ユーザが前記電気掃除機Xの稼働の有無や運転モード(弱,中,強など)の選択操作などを行うための操作スイッチが設けられている。また,その操作スイッチの近傍には,前記電気掃除機Xの現在の状態を表示するLEDなどの表示部も設けられており,ユーザは,該表示部を参照することで前記電気掃除機Xの状態を確認することができる。
【0009】
前記掃除機本体部1は,該掃除機本体部1の前端に接続された前記接続ホース4と,該接続ホース4に接続された前記接続管3とを介して前記吸気口部2に接続されている。
また,前記掃除機本体部1には,送風ファン及び該送風ファンに連結された整流子モータ11(図2参照)を有する電動送風機(不図示)や,前記電動送風機(不図示)の整流子モータ11を制御するモータ制御回路Y,集塵された塵埃を収容する集塵室(不図示)などが内蔵されている。前記電気掃除機Xでは,前記電動送風機(不図示)の整流子モータ11に給電することによって,不図示の送風ファンが回転駆動され,床面の塵埃が前記吸気口部3から前記接続管3及び前記接続ホース4を通じて前記集塵室(不図示)に吸い込まれる。
前記整流子モータ11は,通電される固定子(ブラシ)及び該固定子に摺接して回転する整流子(回転子)を有する整流子電動機の一例である。この整流子モータ11では,固定子及び整流子の間で異常に大きな火花が発生することがある(以下,「異常火花」という)。そのため,従来の電動送風機には,その異常火花による過熱を検知してモータを停止させる温度ヒューズが設けられていた(例えば,特許文献1,2参照)。
しかし,本発明の実施の形態に係る電気掃除機Xは,後述の異常火花検知処理(図5のフローチャート参照)を実行することで,前記電動送風機(不図示)の整流子モータ11における異常火花の発生を検知することができるため,温度ヒューズの設置を省略することができる。なお,前記電動送風機(不図示)のその他の構造については,従来と異なるところがないため,ここでは説明を省略する。
【0010】
次に,図2を用いて,前記モータ駆動回路Yの概略構成について説明する。
図2に示すように,前記モータ駆動回路Yは,商用交流電源10(所定の電源の一例)に接続される整流子モータ11,トライアック12,電流ヒューズ13,及びカレントトランス14(変圧器の一例)を有している。また,前記カレントトランス14の二次側には,電圧検知回路15及び制御回路16が接続されている。
前記商用交流電源10は,例えば周波数が60Hz,100Vの交流電力を供給するものである。なお,前記電気掃除機Xでは,不図示の電源コードが前記商用交流電源10に接続されることにより,該商用交流電源10が前記モータ駆動回路Yに接続される。そして,前記整流子モータ11は,前記商用交流電源10からの交流電力の給電によって作動する。なお,ここでは,前記整流子モータ11が交流電力によって作動するものである場合を例に挙げて説明するが,本発明は直流電力で作動される整流子モータを用いる場合にも同様に適用することが可能である。
前記トライアック12は,前記制御回路16によって制御されることにより,前記商用交流電源10から前記整流子モータ11への供給電力を制御する双方向サイリスタである。具体的に,前記トライアック12は,前記商用交流電源10から前記整流子モータ11への通電を遮断し,或いは前記商用交流電源10から前記整流子モータ11に供給される電流を制限するものである。なお,前記整流子モータ11への通電の有無や,電流の制限を行うための電子部品はこれに限られず,例えばリレー(継電器)やトランジスタなどの各種の電子部品を採用し得る。
前記電流ヒューズ13は,前記モータ駆動回路Y上において過電流が発生したときに,該モータ駆動回路Yを遮断することにより,該モータ駆動回路Y上の電子部品を保護するためのものである。
【0011】
また,前記カレントトランス14は,一次側に供給される電圧を所定の変圧比で変圧して二次側に出力するものである。前記カレントトランス14の一次側は,前記モータ駆動回路Yに接続されており,二次側は前記電圧検知回路15及び前記制御回路16に接続されている。
前記電圧検知回路15は,前記カレントトランス14の二次側に誘起される電流を電圧に変換して前記制御回路16に入力するものである。
前記制御回路16は,CPUやRAM,ROMなどの制御機器を有するものであって,前記電圧検知回路15から入力された電圧値に基づいて前記カレントトランス14の一次側の電流値,即ち前記モータ駆動回路Y上で前記整流子モータ11に流れる電流値を検出する。なお,前記制御回路16は,当該電気掃除機Xを統括的に制御するメイン制御部(不図示)に含まれた一つの機能,或いは前記整流子モータ11の制御用に前記メイン制御部(不図示)とは別に設けられたASIC等の集積回路であってもよい。
【0012】
ところで,前記カレントトランス14及び前記電圧検知回路15は,前記整流子モータ11に流れる電流値を検出するために従来から電気掃除機に搭載されているものであって,従来の電気掃除機では,その検出された電流値に基づいて,例えば前記整流子モータ11の回転数制御を行っていた。
一方,本発明の実施の形態に係る前記電気掃除機Xは,前記制御回路16によって,後述の異常火花検知処理(図5のフローチャート参照)が実行されることにより,前記整流子モータ11に流れる電流に基づいて,該整流子モータ11における異常火花の発生を検知する。具体的に,後述の異常火花検知処理(図5のフローチャート参照)では,前記整流子モータ11に流れる電流の1秒間の変化幅が予め設定された上限閾値K以上に達したことを条件に前記整流子モータ11における異常火花の発生を検知する。この上限閾値Kは,前記電気掃除機Xにおける前記整流子モータ11における異常火花の発生を検知するべく予め設定されるものであって,その値は,例えば事前の実験結果に基づいて他の状況と混同しないような値に定められる。
【0013】
ここで,図3及び図4を用いて,前記上限閾値Kの設定方法の一例について説明する。ここに,図3は前記整流子モータ11の負荷を変動させたときの電流変化の測定結果,図4は前記整流子モータ11で異常火花が発生しているときの電流変化の測定結果を示している。
なお,図3,4中のPdは,前記モータ駆動回路Y上において前記整流子モータ11に流れる0.1秒ごとの実効電流値を示しており,Peは,前記電流値Pdの1秒あたりの変化幅を示している。具体的に,前記変化幅Peは,1秒間に検出される10の前記電流値Pdのうちの最大値と最小値と差分値である。ここに,前記電流値Pd及び前記変化幅Peは,前記制御回路16が,前記モータ駆動回路Y上における電流値及び該電流値の1秒ごとの変化幅の大きさを判断するための指標として,前記電圧検知回路15から前記制御回路16に入力された電圧値に所定の演算を施すことによって得られた指標値である。なお,前記所定の演算の内容は,前記カレントトランス14の変圧比や前記電圧検知回路15の電子部品のパラメータなどによって予め定められるものである。
また,前記制御回路16は,前記電気掃除機Xの運転モードが「強」に設定されたときから,前記変化幅Peの値の検出を開始している。従って,前記電気掃除機Xの運転モードが「弱」や「中」に設定されている場合には,前記変化幅Peは検出されていない(変化幅Pe=0である,図3のt1以前及び図4のt11以前)。
【0014】
まず,図3を用いて,前記整流子モータ11で異常火花が発生していない場合について説明する。図3に示すように,前記電気掃除機Xの運転モードが「弱」から「中」,そして「強」に切り換えられると,該電気掃除機Xでは前記整流子モータ11の電流値Pdが一時的に急上昇するが,その後,前記電流値Pdは「10000」程度で安定する(図3のt1〜t2)。このとき,前記変化幅Peは,ごく小さな値で推移している。
そして,前記吸気口部2の開口を塞ぎ(図3のt2),その後,その開口を急に開放する(図3のt3)。前記吸気口部2の開口を塞いでいる間(図3のt2〜t3)は,前記整流子モータ11の負荷が高くなり前記電流値Pdが上昇し,前記変化幅Peが少し大きくなる。一方,前記吸気口部2の開口を急に開放すると(図3のt3〜t4),前記電流値Pdが急激に上昇して前記変化幅Peが「4200」程度まで急増する。その後,前記電流値Pdが急激に低下して前記変化幅Peが「6000」程度に達する。
次に,前記吸気口部2の開口の密閉,開放を繰り返し実行する(図3のt4〜t5)。このとき,前記電流値Pdは上昇,低下を繰り返すことになり,前記変化幅Peは通常時(図3のt1〜t2)よりも大きい「100〜4000」程度で推移する(図3のt4〜t5)。
即ち,前記電気掃除機Xでは,前記吸気口部2の開口を塞いだ後,急に開放したときに,前記変化幅Peが一時的に「6000」まで達するが,それ以外の状況では,前記変化幅Peは,「4000」以下で推移している。
【0015】
続いて,図4を用いて,前記整流子モータ11で異常火花が発生した場合について説明する。図4に示すように,前記電気掃除機Xの運転モードが「弱」から「中」,そして「強」に切り換えられると,異常火花が発生していない場合(図3)と同様に,該電気掃除機Xでは前記整流子モータ11の電流値Pdが一時的に急上昇する。
その後,前記整流子モータ11で異常火花が発生すると,前記電流値Pdの急激な変動が繰り返される。そのため,前記変化幅Peは,前記整流子モータ11で異常火花が発生していない場合に比べて大きくなり,「4000」を超える状態で推移する。
このように,前記整流子モータ11で異常火花が発生していない場合と,異常火花が発生している場合とでは,前記変化幅Peが大きく異なることを見出すことができた。そこで,本実施の形態では,前記整流子モータ11で異常火花が発生していることを検知するための上限閾値Kを「5000」に設定する(図3,4参照)。この「5000」という値は,前記整流子モータ11における異常火花の発生の早期検知と誤検知の防止との均衡を図って設定したものである。なお,ここでは,上限閾値Kを,前記整流子モータ11で異常火花が発生していない場合には到達する可能性が低い「5000」という値に設定する場合を例に挙げて説明するが,これに限られるものではなく,前記整流子モータ11における異常火花の発生の有無を判断し得るものであればよい。
【0016】
以下,図5のフローチャートを参照しつつ,前記電気掃除機Xにおいて前記制御回路16によって所定の制御プログラムに従って実行される異常火花検知処理の手順の一例について説明する。なお,図中のS1,S2,…は処理手順(ステップ)の番号を表している。
当該異常火花検知処理は,前記電気掃除機Xが稼働されて前記整流子モータ11が作動しているときであって,該電気掃除機Xの運転モードが「強」である場合に実行される。従って,前述したように,前記電気掃除機Xの運転モードが「弱」や「中」に設定されている場合には,前記変化幅Peは検出されず0である(図4のt11以前)。これは,前記電気掃除機Xの運転モードが「強」であり前記整流子モータ11の回転数が高い場合には,該整流子モータ11で異常火花が発生する可能性が高く,「弱」や「中」であり前記整流子モータ11の回転数が低い場合には,その可能性が低いことを考慮している。もちろん,運転モードにかかわらず,前記整流子モータ11が作動しているときには常に当該異常火花検知処理を実行してもよい。
当該異常火花検知処理では,前記制御回路16は,まずステップS1〜S3において,前記モータ駆動回路Yにおいて前記整流子モータ11に流れる電流の1秒ごとの変化幅ΔIを検出するための処理を実行する。ここに,かかる処理を実行するときの前記制御回路16が電流変化幅検出手段に相当する。なお,本実施の形態では,前記整流子モータ11に流れる電流の変化幅に基づいて該整流子モータ11の異常火花の発生の有無を判断する場合を例に挙げて説明するが,前記整流子モータ11に供給される電力の変化幅に基づいて判断してもかまわない。
【0017】
(ステップS1〜S3)
具体的に,ステップS1では,前記制御回路16によって,1秒(所定時間の一例)の間に0.1秒間隔で10回,前記整流子モータ11に流れる実効電流値が検出される。前述したように,前記整流子モータ11に流れる実効電流値の検出は,前記カレントトランス14で変圧された後,前記電圧検知回路15から出力された電圧値に基づいて行われる。
そして,前記制御回路16は,前記ステップS1で検出された実効電流値のうちの最大電流値Imaxと,最小電流値Iminとの差分値を算出するための演算を行い(Imax−Imin),その差分値を変化幅ΔIn(n:検出回数)として内部メモリに記憶する(ステップS2)。なお,検知回数nは,当該異常火花検知処理の開始時に前記制御回路16によって「1」に初期設定されものであって,前記ステップS1が実行される度に1ずつ増加される(S3)。
ここで,本実施の形態では,当該異常火花検知処理において1秒間に0.1秒間隔で10回,実行電流値を検出しているが,これに限られるものではない。例えば,前記商用交流電源10から前記整流子モータ11に給電される交流電力の1サイクル毎の実効電流値を検出することが考えられる。この場合には,1秒間に検出された複数サイクルの実効電流値の最大値及び最小値の差分電流値を電流の変化幅ΔInとして検出すればよい。例えば,本実施の形態では,前記商用交流電源10は,周波数が60Hzの交流電力を給電するものであるため,1秒間に発生する60サイクルの実効電流値の最大値及び最小値の差が前記変化幅ΔInとして算出される。
【0018】
(ステップS4)
次に,ステップS4において,前記制御回路16は,過去10回(所定回数の一例)の変化幅ΔIn〜ΔIn-10のうち,予め設定された前記上限閾値K以上に達したものが3つ(異常回数の一例)以上あるか否かを判断する。
ここで,前記上限閾値K以上に達したものが3つ以上あると判断された場合には(S4のYes側),前記整流子モータ11において異常火花が発生していると判断されて,処理はステップS5に移行する。なお,前記上限閾値K以上に達したものが3未満であると判断された場合には(S4のNo側),処理は前記ステップS1に戻る。
【0019】
前述したように,前記上限閾値Kは,前記整流子モータ11において異常火花が発生していることを検知するための指標となる値であって,予め行われた実験結果に基づいて設定されたものである。そして,本実施の形態では,前記上限閾値Kは「5000」に設定されている(図3,4参照)。従って,図4に示す測定例では,過去10回(図4におけるt21〜t22の10秒間)の前記変化幅Peが3回以上,「5000」に達した時点(図4におけるt22)において,前記整流子モータ11において異常火花が発生していることが検知されることになる。一方,図3に示す測定例では,前記変化幅Peが瞬時的に「5000」を超える状況もあるが,過去10回の前記変化幅Peが3回以上,「5000」に達することがないため,前記整流子モータ11における異常火花の発生が検知されることはない。
このように,当該異常火花検知処理では,過去10回分の前記変化幅ΔIn〜ΔIn-10のうち,前記上限閾値K以上に達したものが3つ以上あることを条件に異常火花の発生を検知するように処理しているため,前記変化幅ΔInが瞬時的に上昇した場合に異常火花の発生を誤検知することを防止することができ,後述のステップS5以降の処置の不要な実行を防止することができる。但し,これに限られず,例えば,前記上限閾値Kを,前記整流子モータ11で異常火花が発生していない場合には到達することがないと考えられる「7000」や「8000」などの大きな値に設定しておき,一度でもその値を超えた場合に,異常火花の発生を検知することも他の実施例として考えられる。
【0020】
(ステップS5)
前記ステップS4において,前記整流子モータ11において異常火花が発生していることが検知されると(S4のYes側),続くステップS5〜S7では,該異常火花の発生に対する処置が実行される。
まず,ステップS5では,前記制御回路16によって前記トライアック12が制御されることにより,前記モータ駆動回路Yが遮断され,前記商用交流電源10から前記整流子モータ11への給電が遮断されることにより,該整流子モータ11の作動が停止される。ここに,かかる処理を実行するときの前記制御回路16が異常対応処置手段に相当する。
これにより,前記整流子モータ11における異常火花の発生による過熱を防止することができ,該整流子モータ11における固定子などの内部部品の摩耗や該整流子モータ11の焼損などを防止することができ,長寿命化を図ることができる。また,従来のように温度ヒューズを用いるものではないため,該温度ヒューズを削減して低コスト化を図ることができる。さらに,前記温度ヒューズでは,前記整流子モータ11が過熱されるまで該整流子モータ11を停止させることができないが,当該異常火花検知処理では,前記整流子モータ11で異常火花が発生し始めたときに早期にそのことを検知することができ,前記整流子モータ11が過熱されるまでの間に該整流子モータ11を停止させることが可能である。
なお,ここでは異常火花の発生に対する処置の一例として,前記整流子モータ11を停止させることを挙げているが,前記整流子モータ11に印加される電流を制限することも他の実施例として考えられる。これは,前記整流子モータ11に印加する電流を制限することで,前記異常火花の解消を図ることができる場合もあるからである。
【0021】
(ステップS6)
次に,ステップS6では,前記制御回路16によって,前記整流子モータ11において異常火花が発生している旨を,前記電気掃除機Xの使用者に対して報知するための処理が実行される。なお,このときの報知は,例えば前記操作ハンドル5の表示部(不図示)のLED表示や,不図示のスピーカからの音声出力やブザー出力などによって行われる。ここに,係る報知処理を実行するときの前記制御回路16が異常火花発生報知手段に相当する。
これにより,当該電気掃除機Xの使用者は,前記整流子モータ11における異常火花の発生を知得することができ,該電気掃除機Xのメンテナンス依頼などの対処を行うことができる。
【0022】
(ステップS7)
ところで,異常火花が発生して前記ステップS5において前記整流子モータ11が停止された後,すぐに該整流子モータ11を再始動すると,再度,前記整流子モータ11において異常火花が発生する可能性が高い。
そこで,前記制御回路16は,ステップS7において,前記特定操作が行われたか否かを判断しており,該特定操作がなされるまでの間,処理を待機させている(S7のNo側)。これにより,当該異常火花検知処理では,前記ステップS5で前記整流子モータ11が停止された後,予め設定された特定操作がなされるまでの間,該整流子モータ11の再始動が制限される。ここに,かかる制限処理を実行するときの前記制御回路16が再始動制限手段に相当する。
ここで,前記特定操作は,前記電気掃除機Xの電源コードの抜き差しであることが一例として考えられる。この場合,前記制御回路16は,前記電気掃除機Xの電源コードの抜き差しが行われて該電気掃除機Xの動作が一度リセットされるまでの間,前記整流子モータ11の再始動を制限するように処理することになる。また,その他,前記特定操作は,例えば所定ボタンの長押しや,強制解除用のボタンの押下などの操作であってもよい。
このように,前記電気掃除機Xでは,一度異常火花の発生が検知されて前記整流子モータ11が停止された後,異常火花が発生する可能性が高い状態での前記整流子モータ11の再始動が制限されるため,該整流子モータ11の焼損や該整流子モータ11の固定子などの内部部品の摩耗をできる限り防止して長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態に係る電気掃除機の外観図。
【図2】本発明の実施の形態に係る電気掃除機に設けられた整流子モータが接続されたモータ駆動回路の回路図。
【図3】本発明の実施の形態に係る電気掃除機における整流子モータの負荷を変動させたときの電流値及びその変化幅の測定結果の一例を示す図。
【図4】本発明の実施の形態に係る電気掃除機における整流子モータの異常火花が発生したときの電流値及びその変化幅の測定結果の一例を示す図。
【図5】本発明の実施の形態に係る電気掃除機において実行される異常火花防止処理の手順の一例を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0024】
1…掃除機本体部
2…吸気口部
3…接続管
4…接続ホース
5…操作ハンドル
11…整流子モータ(整流子電動機の一例)
12…トライアック
13…電流ヒューズ
14…カレントトランス(変圧器の一例)
15…電圧検知回路
16…制御回路
S1,S2,,,…処理手順(ステップ)番号
X…電気掃除機
Y…モータ駆動回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子及び該固定子に摺接して回転する整流子を有する整流子電動機に給電して該整流子電動機に連結された送風ファンを回転させることにより塵埃を吸い込む電気掃除機であって,
前記整流子電動機が接続された電気回路上における電流の所定時間ごとの変化幅を検出する電流変化幅検出手段と,
前記電流変化幅検出手段により検出された電流の変化幅が,予め設定された上限閾値以上に達したことを条件に前記整流子電動機を停止させ或いは前記整流子電動機に印加される電流を制限する異常対応処置手段と,
を備えてなることを特徴とする電気掃除機。
【請求項2】
前記上限閾値が,前記整流子電動機で異常火花が発生していることを検知するべく予め設定されたものである請求項1に記載の電気掃除機。
【請求項3】
前記異常対応処置手段が,前記電流変化幅検出手段により検出された予め設定された所定回数の電流の変化幅のうち,前記上限閾値以上に達した回数が,予め設定された異常回数以上であることを条件に前記整流子電動機を停止させ或いは前記整流子電動機に印加される電流を制限するものである請求項1又は2のいずれかに記載の電気掃除機。
【請求項4】
前記電流変化幅検出手段が,前記整流子電動機に直列接続された変圧器で変圧された後の出力電圧値に基づいて,該整流子電動機が接続された電気回路上における電流の所定時間ごとの変化幅を検出するものである請求項1〜3のいずれかに記載の電気掃除機。
【請求項5】
前記整流子電動機が,所定の電源からの交流電力の給電によって作動するものであって,
前記電流変化量検出手段が,前記所定の電源から前記整流子電動機に給電される交流電力の1サイクル毎の実効電流値を検出し,前記所定時間ごとに検出された複数サイクルの実効電流値の最大値及び最小値の差分電流値を電流の変化幅として検出するものである請求項1〜4のいずれかに記載の電気掃除機。
【請求項6】
前記電流変化幅検出手段により検出された電流の変化幅が前記上限閾値以上に達したことに応じて,前記整流子電動機で異常火花が発生していることを当該電気掃除機の使用者に報知する異常火花発生報知手段を更に備えてなる請求項2〜5のいずれかに記載の電気掃除機。
【請求項7】
前記異常対応処置手段により前記整流子電動機が停止された後,予め設定された特定操作が行われるまでの間,該整流子電動機の再始動を制限する再始動制限手段を更に備えてなる請求項1〜6のいずれかに記載の電気掃除機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−38853(P2009−38853A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−198728(P2007−198728)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】