説明

電池特性模擬装置

【課題】模擬する電池の電圧−電流特性テーブルを記憶し、この特性テーブルに基づいて指定された電圧あるいは電流を出力する電池特性模擬装置は、電池の電圧−電流特性を模擬することはできるが、電池の発熱を模擬してその評価を行うことはできなかった。本発明は、電池の発熱を模擬して評価することができる電池特性模擬装置を提供することを目的とする。
【解決手段】模擬する電池とほぼ同じ形状、熱容量を具備したヒータを電子機器に配置し、模擬する電池の損失電力量を消費するようにこのヒータを制御するようにした。模擬する電池とほぼ同じ形状、熱容量を有しているので、ヒータの発熱量、温度上昇も模擬する電池とほぼ同じになる。そのため、電池の発熱による影響、例えば電池周辺の部品の温度上昇を評価することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池特性を模擬する電池特性模擬装置に関し、特に電池の発熱による温度上昇の評価を行うことができる電池特性模擬装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ノートパソコンや携帯電話等電池を搭載した電子機器が多用されるようになった。電池は電池毎にその特性が異なるので、用いる電池に応じた特性を有する模擬装置を用いて、電子機器を試験しなければならない。
【0003】
特許文献1には、電池を用いた電子機器の試験を行うときに用いる電池特性模擬装置の発明が記載されている。以下、図3を用いてこの発明の概要を説明する。
【0004】
図3において、10は電池特性模擬装置であり、記憶部11、模擬信号生成部12、特性データ取得部13、電圧電流測定部14、電圧電流発生部15で構成される。この電池特性模擬装置10は電池20の特性を取得し、この取得した特性に基づいて電子機器21に電力を供給する。
【0005】
次に、この電池特性模擬装置10の動作を説明する。最初に、特性データ取得部13により、模擬する電池20の特性を測定する。特性データ取得部13は接続された電池20の電圧電流特性を測定し、テーブル形式に変換して記憶部11に格納する。
【0006】
電池20の電圧−電流特性を測定するときは、電池20が電池特性模擬装置10に接続される。電流値を変えて測定する場合は、特性データ取得部13は電圧電流発生部15に電池20から吸い込む電流値を指示する。電圧電流発生部15は電池20から指示された電流を吸い込む。電圧電流測定部14はこのときの電池20の出力電圧を測定し、特性データ取得部13に出力する。
【0007】
特性データ取得部13は吸い込む電流値を変化させ、電圧電流測定部14はこのときの電池20の出力電圧を測定する。特性データ取得部13は電流値と測定した出力電圧をテーブル形式に変換して、記憶部11に格納する。
【0008】
電圧値を変えて測定することも同様にして行なうことができる。電圧電流発生部15は電池20の出力電圧が指示された値になるようにし、電圧電流測定部14はこのときの電池20の出力電流を測定する。特性データ取得部13は電圧値と測定した出力電流をテーブル形式に変換して、記憶部11に格納する。
【0009】
次に、電池20が取り外され、電池特性模擬装置10には電子機器21が接続される。電池特性模擬装置10は、電池20を模擬した電力を電子機器21に供給する。
【0010】
電圧電流発生部15を電流出力モードで動かすときは、模擬信号生成部12は電子機器21に出力する電流値を電圧電流発生部15に指示する。電圧電流発生部15は、指示された電流を電子機器21に流す。
【0011】
電子機器21に印加される電圧は電圧電流測定部14で測定され、この測定値は模擬信号生成部12に出力される。模擬信号生成部12は記憶部11に格納された電池20の特性テーブルを参照し、電子機器21に印加された電流、電圧値から電池20の特性に合致した電流を検索し、この検索した電流値を電圧電流発生部15に指示する。合致した電流値が特性テーブルにないときは、補間によって電流値を算出する。
【0012】
電圧電流発生部15は指示された電流を電子機器21に出力し、電圧電流測定部14はこのときの電圧を測定する。模擬信号生成部12は電流、電圧値と記憶部11に格納されたテーブルから新たな電流値を算出する。この操作を繰り返すことにより、電池20を模擬した電圧を電子機器21に供給することができる。
【0013】
電圧電流発生部15を電圧出力モードで動かすときも同じである。模擬信号生成部12は電子機器21に出力する電圧を指示し、電圧電流発生部15は指示された電圧を出力する。電圧電流測定部14はこのときに電子機器21に流れる電流を測定し、模擬信号生成部12に出力する。
【0014】
模擬信号生成部12は、記憶部11に格納された特性データを参照し、新たな電圧値を電圧電流発生部15に指示する。この操作を繰り返すことにより、電池20を模擬した電力を電子機器21に供給することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2008−76204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、このような電池特性模擬装置は、電池の電圧電流特性を模擬することはできるが、電池内部の発熱の影響を模擬することができないという課題があった。電池には内部抵抗があるので、電池が電流を出力するとこの内部抵抗のために発熱する。しかし、図3の電池特性模擬装置10は、電子機器に電池が内蔵されたときに、電池の温度がどの程度上昇するかを模擬することはできなかった。
【0017】
また、多くの2次電池には温度センサが内蔵されているが、この温度センサの出力を模擬することができないという課題もあった。
【0018】
本発明の目的は、電池の発熱に起因する温度上昇を模擬し、評価することができる電池特性模擬装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項1記載の発明は、
電池駆動の電子機器で用いられる電池を模擬する電池特性模擬装置において、
模擬する電池とほぼ同じ形状および熱容量を有し、前記電子機器内に配置されるヒータと、
前記ヒータに流す電流を制御して、模擬する電池の損失電力量に相当する電力を消費させるヒータ駆動部と、
を具備したものである。用いる電池の発熱による影響を評価することができる。
請求項2記載の発明は、
電池駆動の電子機器で用いられる電池を模擬する電池特性模擬装置において、
模擬する電池とほぼ同じ形状および熱容量を有し、前記電子機器内に配置されるヒータと、
模擬する電池の損失電力量が入力され、前記ヒータに流す電流を制御して、入力された損失電力量に相当する電力を消費させるヒータ駆動部と、
模擬する電池の特性データが格納される記憶部と、
前記記憶部に格納された特性データを参照し、出力する電圧あるいは電流値を指示すると共に、前記ヒータ駆動部に模擬する電池の損失電力量を出力する模擬信号生成部と、
前記模擬信号生成部の出力が入力され、指示された電圧あるいは電流を発生し、前記電子機器に出力する電圧電流発生部と、
前記電子機器の電流あるいは電圧を測定し、測定値を前記模擬信号生成部に出力する電圧電流測定部と、
とを具備したものである。電池の発熱による影響の他に、電池の電圧−電流特性を模擬することができる。
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、
模擬する電池の特性データを取得する特性データ取得部を具備したものである。電池の特性データを取得することができるので、特性がわからない電池をも模擬できる。
請求項4記載の発明は、請求項1乃至請求項3いずれかに記載の発明において、
前記ヒータに温度センサを内蔵したものである。2次電池等に内蔵されている温度センサを模擬することができる。
請求項5記載の発明は、請求項1乃至請求項4いずれかに記載の発明において、
前記ヒータに、模擬する電池に配置されている電極と同じ形状の電極を配置したものである。前記ヒータを電池の代わりに電子機器に挿入するだけで動作させることができる。
請求項6記載の発明は、請求項1乃至請求項5いずれかに記載の発明において、
前記模擬する電池は2次電池であることを特徴としたものである。電子機器に多用されている2次電池を模擬することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば以下のような効果がある。
請求項1、2、3、4、5、および6の発明によれば、模擬する電池と同じ形状、熱容量を有するヒータを模擬する電池を用いる電子機器に配置し、模擬する電池と同じ損失電力量を消費するように、このヒータを制御するようにした。
【0021】
ヒータは模擬する電池とほぼ同じ形状、熱容量を有しているので、模擬する電池と同程度に発熱し、同じように温度が上昇する。このため、電池の温度上昇に起因する影響を模擬することができる。例えば、電池の発熱によって電池周辺の部品の温度がどの程度上昇するかを評価することができるという効果がある。
【0022】
また、電池の電圧−電流特性を模擬する電池特性模擬装置にこの発明を適用することにより、電池の電圧−電流特性の評価に加えて、発熱の影響をも評価することができるという効果もある。
【0023】
また、ヒータに温度センサを内蔵することによって、2次電池などに内蔵されている温度センサを模擬することができるという効果もある。
【0024】
さらに、模擬する電池と同じ電極をヒータに配置することより、ヒータを電子機器に挿入するだけで、他に配線を行わなくても電池を模擬した試験を行うことができるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施例を示した構成図である。
【図2】ヒータの一実施例を示した構成図である。
【図3】従来の電池特性模擬装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下本発明を、図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明に係る電池特性模擬装置の一実施例を示した構成図である。なお、図3と同じ要素には同一符号を付し、説明を省略する。
【0027】
図1において、30は電池特性模擬装置であり、模擬する電池の特性を表すテーブルが格納された記憶部11、電池を模擬する信号を出力する模擬信号生成部31、電子機器21に指示された電圧あるいは電流を出力する電圧電流発生部15、電子機器21に流れ込む電流、あるいは印加される電圧を測定する電圧電流測定部14、およびヒータ駆動部32で構成される。
【0028】
40はヒータであり、模擬する電池と同じ形状、および熱容量を具備している。このヒータ40は、電子機器21の電池が入る位置に配置される。41は温度センサであり、ヒータ40の内部に配置される。
【0029】
温度センサ41は、模擬する電池に内蔵されている温度センサと同じ特性を有するものを用いる。また、その出力端子は、電子機器21が内蔵している温度センサ接続端子に接続される。ヒータ40にはヒータ駆動部32から電流が供給される。ヒータ駆動部32は、模擬信号生成部31が出力する制御信号に基づいてヒータ40に流す電流値を決定する。
【0030】
次に、この実施例の動作を説明する。模擬信号生成部31は電圧電流発生部15に出力する電圧、あるいは電流値を指示し、電圧電流発生部15は指示された電圧、あるいは電流を電子機器21に出力する。電子機器21に流れる電流、あるいは印加される電圧は電圧電流測定部14で測定され、模擬信号生成部31に出力される。
【0031】
模擬信号生成部31は、記憶部11に格納された模擬する電池の特性テーブルを参照し、電圧電流発生部15に指示する電圧、あるいは電流を変化させる。この操作を繰り返すことにより、電子機器21に内蔵される2次電池の電圧電流特性を模擬することができる。この動作は、図3の電池特性模擬装置10と同じである。
【0032】
模擬信号生成部31は、電圧電流発生部15に指示する電流値、あるいは電圧電流測定部14が測定した電流値から、電子機器21に内蔵される2次電池の損失電力量PLOSSを演算し、この損失電力量PLOSSを制御信号としてヒータ駆動部32に出力する。
【0033】
なお、電池特性模擬装置30は電子機器21に内蔵する電池を模擬しているので、電圧電流発生部15に指示する電流値、あるいは電圧電流測定部14が測定した電流値は電池の出力電流にほぼ等しい。
【0034】
電子機器21に内蔵される電池の内部抵抗をR、電圧電流発生部15に指示する電流値あるいは電圧電流測定部14が測定した電流値をIとすると、損失電力量PLOSSは下記(1)式になる。
損失電力量PLOSS=R×I ・・・・・・ (1)
【0035】
この損失電力量PLOSSは、制御信号としてヒータ駆動部32に出力される。ヒータ駆動部32は、ヒータ40の消費電力がこの損失電力量PLOSSになるように、ヒータ40に流れる電流値を制御する。
【0036】
ヒータ40は、模擬する電池と同じ形状、および熱容量を有しており、かつ模擬する電池が搭載される位置に配置されるので、その温度上昇も模擬する電池とほぼ同じになる。従って、電池の温度上昇による影響を評価することができる。例えば、電池周辺の電子部品の温度がどの程度上昇するかを評価することができる。
【0037】
また、ヒータ40には模擬する電池に内蔵されている温度センサと同じ特性を有する温度センサ41が内蔵されているので、電池に内蔵されている温度センサを模擬することができる。この温度センサ41の出力端子は電子機器21の出力端子に接続されているので、電池の温度が上昇したときの電子機器21の動作をチェック、評価することもできる。
【0038】
図2に、ヒータの実施例を示す。図2において、50はヒータであり、模擬する電池と同じ形状、および熱容量を有している。51は電極であり、模擬する電池と同じ形状、個数を有し、同じ位置に配置されている。41はヒータ50に内蔵される温度センサである。
【0039】
ヒータ50から電子機器21へは、電極51を経由して電力が供給される。また、温度センサ41は電極51を経由して電子機器21と接続される。このようにすることにより、ヒータ50を電子機器21にはめ込むだけで試験を行うことができる。
【0040】
なお、図1実施例の電池特性模擬装置は、電池の特性を測定する特性データ取得部13を内蔵していないが、内蔵するようにしてもよい。
【0041】
また、図1実施例では模擬する電池の特性に合致した電圧、電流を供給する電池特性模擬試験装置にヒータ駆動部32を内蔵して電池の温度上昇を評価できるようにしたが、電圧、電流を供給する機能はなくてもよい。この場合、電子機器21に供給する電流を入力するようにすればよい。
【0042】
また、本実施例ではヒータに温度センサを内蔵するようにしたが、温度センサを内蔵しない電池を模擬するときは、温度センサを用いないようにすることもできる。このようにすると、構成を簡単にすることができる。
【0043】
また、模擬する電池は1次電池でもよく、また充電が可能な2次電池でもよい。
【0044】
さらに、ヒータの形状、熱容量は、模擬する電池のそれと全く同じである必要はない。試験に支障のない範囲で異なっていてもよい。
【符号の説明】
【0045】
11 記憶部
14 電圧電流測定部
15 電圧電流発生部
21 電子機器
30 電池特性模擬装置
31 模擬信号生成部
32 ヒータ駆動部
40、50 ヒータ
41 温度センサ
51 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池駆動の電子機器で用いられる電池を模擬する電池特性模擬装置において、
模擬する電池とほぼ同じ形状および熱容量を有し、前記電子機器内に配置されるヒータと、
前記ヒータに流す電流を制御して、模擬する電池の損失電力量に相当する電力を消費させるヒータ駆動部と、
を具備したことを特徴とする電池特性模擬装置。
【請求項2】
電池駆動の電子機器で用いられる電池を模擬する電池特性模擬装置において、
模擬する電池とほぼ同じ形状および熱容量を有し、前記電子機器内に配置されるヒータと、
模擬する電池の損失電力量が入力され、前記ヒータに流す電流を制御して、入力された損失電力量に相当する電力を消費させるヒータ駆動部と、
模擬する電池の特性データが格納される記憶部と、
前記記憶部に格納された特性データを参照し、出力する電圧あるいは電流値を指示すると共に、前記ヒータ駆動部に模擬する電池の損失電力量を出力する模擬信号生成部と、
前記模擬信号生成部の出力が入力され、指示された電圧あるいは電流を発生し、前記電子機器に出力する電圧電流発生部と、
前記電子機器の電流あるいは電圧を測定し、測定値を前記模擬信号生成部に出力する電圧電流測定部と、
とを具備したことを特徴とする電池特性模擬装置。
【請求項3】
模擬する電池の特性データを取得する特性データ取得部を具備したことを特徴とする請求項2記載の電池特性模擬装置。
【請求項4】
前記ヒータに温度センサが内蔵されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3いずれかに記載の電池特性模擬装置。
【請求項5】
前記ヒータには模擬する電池に配置されている電極と同じ形状の電極が配置されることを特徴とする請求項1乃至請求項4いずれかに記載の電池特性模擬装置。
【請求項6】
前記模擬する電池は2次電池であることを特徴とする請求項1乃至請求項5いずれかに記載の電池特性模擬装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−38928(P2011−38928A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−187405(P2009−187405)
【出願日】平成21年8月12日(2009.8.12)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】