電波吸収体
【課題】抵抗膜の表面抵抗率が長期間に亘ってほぼ一定し、初期の良好な電波吸収性能を長期間維持できる、耐久性に優れた電波吸収体を提供する。
【解決手段】抵抗膜3を誘電体層1の片面側に設けると共に、誘電体層1の反対面側に電波反射体2を設けた電波吸収体であって、抵抗膜3を水分を含む外気から封止した構成とする。抵抗膜3と外気中の水分(湿気)との接触が断たれて抵抗膜3の表面抵抗率がほぼ一定に保たれるため、表面抵抗率の変化(増加)による電波吸収性能の低下が防止され、長期間に亘って初期の良好な電波吸収性能が維持されるので耐久性及び信頼性が大幅に向上する。
【解決手段】抵抗膜3を誘電体層1の片面側に設けると共に、誘電体層1の反対面側に電波反射体2を設けた電波吸収体であって、抵抗膜3を水分を含む外気から封止した構成とする。抵抗膜3と外気中の水分(湿気)との接触が断たれて抵抗膜3の表面抵抗率がほぼ一定に保たれるため、表面抵抗率の変化(増加)による電波吸収性能の低下が防止され、長期間に亘って初期の良好な電波吸収性能が維持されるので耐久性及び信頼性が大幅に向上する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば高速道路のETC料金所などのITS分野で電波障害や誤動作をなくすために利用される電波吸収体、特に透視性を有する電波吸収体であって、良好な電波吸収性能を長期間維持できる耐久性に優れた電波吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
電波障害や誤動作をなくす透明な電波吸収体としては、透明なアクリル樹脂等からなる誘電体の片面に、ITO等の金属酸化物を蒸着して抵抗薄膜を形成した透明なPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム等を積層し、誘電体の反対面に光を透過する金属線格子、金属薄膜等の電波反射体を設けたものが知られている(特許文献1)。
【0003】
この電波吸収体は、ITO等の金属酸化物を蒸着して抵抗薄膜を形成しているため、良好な透明性を有している。けれども、ITO等を蒸着した抵抗薄膜は耐候性が悪く、ITO等を蒸着するPETフィルムも耐候性が悪いため、上記の電波吸収体を屋外で使用すると、短期間の内に抵抗薄膜やPETフィルムが劣化して、透明性が著しく悪化し、黄みを帯びるという問題があった。かかる問題は、耐候性の良いフィルムを使用すると多少は改善されるが、耐候性の良いアクリル等のフィルムはITOなどの蒸着が難しいため、蒸着の容易なPETフィルムを使用せざるを得ないのが実情である。
【0004】
そこで、本出願人は、上記の問題を解決すべく、極細導電繊維を含んだ透明な抵抗膜と光を透過する電波反射体との間に透明な誘電体層を備え、抵抗膜の外側に透明な保護層を備えた透明電波吸収体を提案した(特願2004−081939)。この透明電波吸収体は、極細導電繊維を含んだ抵抗膜がITO抵抗薄膜と遜色のない良好な透明性を有し、しかも、極細導電繊維を含んだ抵抗膜の基材を自由に選択できるため、耐候性の良好な基材を選択することで、ITO抵抗薄膜の基材に用いるPETに比べて耐候性を向上させることができ、短期間のうちに劣化して透明性の著しい低下を招く心配を解消できるものである。
【0005】
しかしながら、この透明電波吸収体は、抵抗膜の電気抵抗(表面抵抗率)が変化するため、長期間にわたって良好な電波吸収性能を維持することが難しいという問題があり、この問題は前記特許文献1の透明電波吸収体においても見られた。その原因は明らかでないが、空気中の水分(湿気)が大きく影響しているものと推測される。
【特許文献1】特開平5−335832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の問題に対処するためになされたもので、抵抗膜の電気抵抗(表面抵抗率)が長期間に亘ってほぼ一定し、初期の良好な電波吸収性能を長期間に亘って維持できる、耐久性に優れた電波吸収体を提供することを、解決課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明の電波吸収体は、抵抗膜を誘電体層の片面側に設けると共に、誘電体層の反対面側に電波反射体を設けた電波吸収体であって、抵抗膜を水分を含む外気から封止したことを特徴とするものである。
【0008】
本発明の電波吸収体においては、抵抗膜を誘電体層とその片面側に配置された表面被覆層との間に設けて抵抗膜の周囲に封止層を形成するか、或いは、抵抗膜を誘電体層の片面に設けて抵抗膜の表面と周囲に封止層を形成するか、或いは、抵抗膜を誘電体層の片面側に配置された表面被覆層の該誘電体層との対向面に設けて抵抗膜の表面と周囲に封止層を形成することにより、抵抗膜を水分を含む外気から封止することが好ましい。
【0009】
また、本発明の電波吸収体においては、抵抗膜を合成樹脂フィルムのいずれか片面に形成し、この抵抗膜形成フィルムの抵抗膜が誘電体層側となるように誘電体層の片側面側に設けると共に、抵抗膜の周囲に封止層を形成するか、或は、抵抗膜を合成樹脂フィルムのいずれか片面に形成して誘電体層とその片面側に配置された表面被覆層との間に設け、この抵抗膜形成フィルムの周囲に封止層を形成するか、或いは、抵抗膜を合成樹脂フィルムのいずれか片面に形成して誘電体層の片面側に設け、この抵抗膜形成フィルムの周囲と両面、又は、抵抗膜形成フィルムの周囲と抵抗膜の表面に封止層を形成することにより、抵抗膜を水分を含む外気から封止することも好ましい。
【0010】
そして、電波反射体の両側に設けられている誘電体層の電波反射体との反対面側に抵抗膜をそれぞれ設けていること、封止層がシリコーン系又はウレタン系の封止剤で形成したものであること、抵抗膜が極細導電繊維を含んだ膜であって極細導電繊維が凝集することなく分散して互いに接触していること、表面被覆層が紫外線吸収剤を含んだ合成樹脂板であること、抵抗膜、誘電体層、表面被覆層、封止層のいずれもが透視性を有すると共に電波反射体が光を透過して、透視性を有する電波吸収体であることが好ましい。
【0011】
ここで、「凝集することなく」とは、抵抗膜を顕微鏡で観察したとき平均径が0.5μm以上の凝集塊がないことを意味し、また、「接触」とは、極細導電繊維が現実に接触している場合と、極細導電繊維が導通可能な微小間隙をあけて接近している場合の双方を意味する。また、透視性とは光学特性であるヘーズが10%以下であることを意味する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電波吸収体のように抵抗膜が水分を含む外気から封止されていると、外気中の水分(湿気)との接触が断たれるため、後述の実験データで裏付けられるように、抵抗膜の表面抵抗率がほぼ一定に保たれる。従って、表面抵抗率の変化(増加・減少)による電波吸収性能の低下が防止され、長期間に亘って初期の良好な電波吸収性能を維持できるので、耐久性及び信頼性が大幅に向上する。
【0013】
特に、抵抗膜を誘電体層とその片面側に配置された表面被覆層との間に設けて抵抗膜の周囲に封止層を形成した電波吸収体は、誘電体層と表面被覆層と封止層によって抵抗膜の両面と周囲が確実に封止されて密封状態になるため、抵抗膜と外気中の水分との接触が確実に断たれ、水分との接触に起因する抵抗膜の表面抵抗率の変化(増加・減少)が防止されて耐久性及び信頼性が一層向上する。
【0014】
また、抵抗膜を誘電体層の片面に設けて抵抗膜の表面と周囲に封止層を形成した電波吸収体は、封止層によって抵抗膜の表面と周囲が確実に封止されると共に、誘電体層によって抵抗膜の裏面も確実に封止されて密封状態になるため、同様に抵抗膜の表面抵抗率の変化(増加・減少)が防止されて耐久性及び信頼性が一層向上する。
【0015】
また、抵抗膜を誘電体層の片面側に配置された表面被覆層の該誘電体層との対向面に設けて抵抗膜の表面と周囲に封止層を形成した電波吸収体は、封止層によって抵抗膜の表面と周囲が確実に封止されると共に、裏面被覆層によって抵抗膜の裏面も確実に封止されて密封状態になるため、同様に抵抗膜の表面抵抗率の変化(増加・減少)が防止されて耐久性及び信頼性が一層向上する。
【0016】
また、抵抗膜を合成樹脂フィルムのいずれか片面に形成し、この抵抗膜形成フィルムの抵抗膜が誘電体層側となるように誘電体層の片側面に設けて抵抗膜の周囲に封止層を形成した電波吸収体は、抵抗膜の表面が合成樹脂フィルムにより覆われて、誘電体層と封止層と共に抵抗膜を封止した状態にするので、同様に抵抗膜の表面抵抗率の変化(増加・減少)が防止されて耐久性及び信頼性が一層向上する。
【0017】
また、抵抗膜を合成樹脂フィルムのいずれか片面に形成して誘電体層とその片面側に配置された表面被覆層との間に設け、この抵抗膜形成フィルムの周囲に封止層を形成した電波吸収体は、誘電体層又は表面被覆層によって抵抗膜の表面が確実に封止され、合成樹脂フィルムと表面被覆層又は誘電体層とによって抵抗膜の裏面が二重に封止され、封止層によって抵抗膜の周囲が確実に封止されて密封状態になるため、抵抗膜と外気中の水分との接触が確実に断たれ、水分との接触に起因する抵抗膜の表面抵抗率の変化(増加・減少)が防止されて耐久性及び信頼性が一層向上する。
【0018】
また、抵抗膜を合成樹脂フィルムのいずれか片面に形成して誘電体層の片面側に設け、この抵抗膜形成フィルムの周囲と両面、又は、抵抗膜形成フィルムの周囲と抵抗膜の表面に封止層を形成した電波吸収体は、封止層によって抵抗膜の表面と周囲が確実に封止され、合成樹脂フィルム又は該フィルムと封止層によって抵抗膜の裏面が確実に封止されて密封状態となるため、同様に抵抗膜の表面抵抗率の変化(増加・減少)が防止されて耐久性及び信頼性が一層向上する。
【0019】
そして、本発明において、電波反射体の両側に設けられている誘電体層の片面側に抵抗膜をそれぞれ設けられていると、両側から伝播してくる電波を中央の電波反射体で反射して吸収することができ、電波反射体を共用できるので、安価な電波吸収体とすることができる。
【0020】
また、封止層がシリコーン系又はウレタン系の封止剤で形成された電波吸収体は、その優れた封止性能によって抵抗膜の表面抵抗率の変化(増加・減少)が確実に防止されるため、耐久性や信頼性が顕著に向上する。また、抵抗膜が極細導電繊維を含んだ膜であって、極細導電繊維が凝集することなく分散して互いに接触している電波吸収体は、この極細導電繊維が極めて細いものであるため抵抗膜が良好な透明性を有し、しかも、接触、導通に寄与する極細導電繊維の本数が相対的に多く接触頻度が高いため、その分だけ極細導電繊維の含有量を少なくしても所定の表面抵抗率を確保することが可能であり、極細導電繊維を減らせる分だけ抵抗膜の透明性を更に向上させることができる。
【0021】
そのため、抵抗膜、誘電体層、表面被覆層、封止層が透視性を有するものを選択使用すると共に電波反射体が光を透過するものを選択使用すると、透視性を有する電波吸収体とすることができる。このような透視性を有する電波吸収体は、これを通して向こう側を見ることもできるし、その周囲を明るくすることもできる。更に、表面被覆層が紫外線吸収剤を含んだ合成樹脂板である電波吸収体は、屋外で使用しても、この合成樹脂板によって抵抗膜や誘電体層が紫外線等から保護されるので耐候性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の具体的な実施形態を詳述する。
【0023】
図1は本発明の一実施形態に係る電波吸収体の断面図、図13の(a)(b)(c)は同電波吸収体の抵抗膜を示す概略断面図、図14は同抵抗膜のカーボンナノチューブを正面から見た分散状態を示す模式図である。
【0024】
この電波吸収体Aは、透視性の誘電体層1とその片面側(表面側:電波の入射する面側)に配置された透視性の表面被覆層4との間に透視性の抵抗膜3が設けられている。そして、この抵抗膜3の周囲には透視性或は透光性又は不透明な封止層6が形成され、この封止層6によって表面被覆層4と誘電体層1との周縁部同士が接合されている。また、誘電体層1の反対面側(裏面側)には光を透過する電波反射体2が設けられ、この電波反射体2の裏面側には透視性の裏面被覆層5が設けられ、これら誘電体層1と電波反射体2と裏面被覆層5とが接着剤などで一体化されている。
【0025】
この電波吸収体Aは、上記のように誘電体層1と表面被覆層4によって抵抗膜3の表裏両面が封止されると共に、封止層6によって抵抗膜3の周囲が封止されて密封状態になっているため、抵抗膜3は水分を含む外気から遮断され、外気中の水分との接触に起因する抵抗膜3の表面抵抗率の変化(増加・減少)が確実に防止される。そして、表面被覆層4、抵抗膜3、誘電体層1、裏面被覆層5がそれぞれ透視性を有し、電波反射体2が光を透過するので、これらが積層された電波吸収体Aは透視性を有するものとなる。
【0026】
上記の電波吸収体Aにおいて、表面被覆層4は、抵抗膜3の封止を確実にするために、抵抗膜3の周縁部を封止する封止層6で密着接合して誘電体層1と一体化することが必要であるが、電波反射体2や裏面被覆層5は誘電体層1の裏面側に単に重ねるだけでもよい。但し、この実施形態のように、誘電体層1と電波反射体2と裏面被覆層5とが接着剤などで一体化されていると、取扱性が向上するので好ましい。また、抵抗膜3を誘電体層1と表面被覆層4との間に設けるには、誘電体層1の片面(表面)に抵抗膜3を予め形成してその上に表面被覆層4を重ねる方法を採用してもよいし、表面被覆層4の誘電体層1との対向面に抵抗膜3を予め形成して誘電体層1の上に重ねる方法を採用してもよいし、或は、予め形成された抵抗膜3を誘電体層1と表面被覆層4との間に介在させる方法を採用してもよい。
【0027】
上記の誘電体層1は高誘電率の合成樹脂やガラスなどからなるものであって、この誘電体層1の厚さは、用途や実用強度を考慮して0.5〜15mmの範囲内で、λ/4電波吸収体理論(λ:誘電体層1内での電波の波長)に基づいて設計されている。二次曲げ加工性を考慮すると、ガラスよりも熱可塑性合成樹脂で誘電体層1を形成することが望ましく、更に、屋外で使用する際の耐熱性や透視性を考慮すると、融点や光線透過率が高いアクリル系樹脂(メチルメタクリレート等)、オレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー等)、ポリエステル系樹脂(ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート等)などで誘電体層1を形成することが望ましい。これらの中で、ポリカーボネート樹脂は機械的強度に優れ、全光線透過率が85%以上(厚さ3mm)、ヘーズが1.0%以下と透明性に優れているので、屋外で使用する透視性ないし透明な電波吸収体の誘電体層1としては特に好ましく用いられる。なお、ポリカーボネートはメチルメタクリレート樹脂に比べ多少耐候性に劣るが、紫外線吸収剤等を添加したり、表面被覆層4として後述する耐候性に優れた樹脂板を使用することによって、実用に十分な耐候性を付与できる。
【0028】
このような合成樹脂やガラスで作製された誘電体層1は、抵抗膜3の裏面を封止して裏面から水分を含んだ外気が浸透するのを阻止するという役目も果たしている。
【0029】
上記の電波反射体2は光を透過する導電材からなるものであって、例えば4〜250メッシュ程度の目を備えた導電メッシュ材や金属メッシュ材、或いは、金属金網や金属格子、或いは、開口率の大きいパンチングメタル、或いは、表面抵抗率が10Ω/□以下の透視性乃至透明な導電膜を形成した透明フィルムなどが好ましく使用される。
【0030】
上記の抵抗膜3は、周波数帯域1〜18GHzの電波吸収に適するように、自由空間の電波特性インピーダンスに合致する377Ω/□を目標値とする表面抵抗率を備えた透視性、好ましくは透明な薄膜であって、具体的には377±30Ω/□の表面抵抗率を備えたITO等の金属酸化物の蒸着膜や、極細導電繊維を含んだ同様の表面抵抗率を有する薄膜からなるものが好ましく用いられ、図1に示す実施形態の電波吸収体Aでは、後者の極細導電繊維を含んだ抵抗膜3が採用されている。
【0031】
この極細導電繊維を含んだ抵抗膜3は、極細導電繊維を分散させた塗液を塗布して形成した薄膜であって、極細導電繊維の含有量、塗膜厚み、分散状態などの諸条件を調節することにより、377±30Ω/□の表面抵抗率が得られるようにしたものである。この実施形態では、極細導電繊維としてカーボンナノチューブを使用し、カーボンナノチューブの目付け量が30〜450mg/m2、好ましくは30〜250mg/m2となるように、塗液のカーボンナノチューブの含有量や塗膜の厚みなどを調節して塗布することで、377±30Ω/□の表面抵抗率を備えた抵抗膜3を形成している。このような抵抗膜3は、カーボンナノチューブの目付け量(含有量、濃度)等に対応して抵抗膜3の表面抵抗率がほぼ定まり、表面抵抗率の大きいバラツキが生じにくい。尚、上記の目付け量は、抵抗膜3を電子顕微鏡で観察し、その平面面積に占めるカーボンナノチューブの面積割合を測定し、これに電子顕微鏡で観察した厚みとカーボンナノチューブの比重(グラファイトの文献値2.1〜2.3の平均値2.2を採用)を乗算して算出した値である。
【0032】
極細導電繊維としては、上記のカーボンナノチューブが最も好ましく用いられるが、その他の繊維であっても抵抗膜3の表面抵抗率を377±30Ω/□にすることができるものであれば制限なく使用可能である。例えば、カーボンナノホーン、カーボンナノワイヤー、カーボンナノファイバー、グラファイトフィブリルなどの極細長炭素繊維、白金、金、銀、ニッケル、シリコンなどの金属ナノチューブ、ナノワイヤーなどの極細長金属繊維、酸化亜鉛などの金属酸化物ナノチューブ、ナノワイヤーなどの極細長金属酸化物繊維などの、直径が0.3〜100nmで長さが0.1〜20μm、好ましくは0.1〜10μmのものが用いられる。
【0033】
抵抗膜3のカーボンナノチューブは凝集することなく分散して互いに接触しており、具体的にはカーボンナノチューブが1本ずつ分離した状態で、もしくは、複数本集まって束になったものが1束ずつ分離した状態で分散して互いに接触している。そして、抵抗膜3がカーボンナノチューブとバインダーからなるものであると、図13(a)に示すように、カーボンナノチューブ3aはバインダー3bの内部に上記の分散状態で3次元構造をなして分散して互いに接触しているか、或いは、図13(b)に示すように、カーボンナノチューブ3aの一部がバインダー3b中に入り込み他の部分がバインダー3bの表面から突出ないし露出して上記の分散状態で分散して互いに接触しているか、或いは、一部のカーボンナノチューブ3aが図13(a)のようにバインダー3bの内部に、他のカーボンナノチューブ3aが図13(b)のようにバインダー3bの表面から突出ないし露出して上記分散状態で3次元構造をなして分散して互いに接触している。また、抵抗膜3がバインダーを含まないと、図13(c)に示すように、カーボンナノチューブが上記分散状態で分散して互いに接触して、カーボンナノチューブの3次元構造の層となっている。
なお、上記バインダーとしては、透明な合成樹脂が透視性の抵抗膜3を得るうえで好ましい。
【0034】
これらのカーボンナノチューブ3aの正面から見た分散状態を模式的に示したものが図14であって、この図14から理解できるように、カーボンナノチューブ3aは多少曲がっているが、1本ずつ或いは1束ずつ分離し、互いに複雑に絡み合うことなく、即ち凝集することなく、単純に交差した状態で抵抗膜3の内部或いは表面に分散し、それぞれの交点で接触している。尚、カーボンナノチューブ3aは完全に1本ずつ或いは1束ずつ分離して分散している必要はなく、一部に絡み合った小さな凝集塊があってもよいが、既述したように「凝集することなく」とは長径と短径の平均値が0.5μm以上の凝集塊がないことを意味するものであるから、存在する凝集塊の平均径は0.5μm未満であることが必要である。
【0035】
このように、極細導電繊維であるカーボンナノチューブ3aが抵抗膜3内で多少曲がって1本ずつ或は1束ずつ分離して、互いに複雑に絡み合うことなく3次元構造をなして分散していると、抵抗膜3を曲げてもカーボンナノチューブ3aが伸びたりずれたりするだけであるのでお互いの接触が保たれる。そのため、この電波吸収体Aを曲げても表面抵抗率の増加が殆どなく、電波吸収性能を維持することができるので、湾曲した電波吸収体を作製できるし、施工現場で曲げて使用することもできる。
【0036】
カーボンナノチューブ3aは直径が0.3〜80nmと極めて細いため、これを前記の目付け量に相当する量だけ含んだ抵抗膜3は透視性が良好であるが、特に上記のような分散状態でカーボンナノチューブ3aが分散していると、凝集しないで接触、導通に寄与するカーボンナノチューブ3aの本数が相対的に増え、チューブ相互の接触頻度が高くなるため、その分だけカーボンナノチューブ3aの目付け量を少なくしても前記の表面抵抗率(377±30Ω/□)を確保できるようになり、このカーボンナノチューブ3aを少なくできる分だけ透視性を更に向上させることが可能となる。ちなみに、前記の目付け量に相当する量のカーボンナノチューブを含んだ377±30Ω/□の表面抵抗率を有する抵抗膜3の光線透過率(分光光度計による550nmの光の透過率)は、87%前後であり、それゆえ透視性の良い誘電体層1と透光量の多い電波反射体2を選択して電波吸収体を作製すれば、全光線透過率が40%以上、ヘーズが10%以下の透視性を有する電波吸収体を確実に得ることができる。より好ましくは全光線透過率が50%以上で、ヘーズは10%以下である。
【0037】
上記のカーボンナノチューブ3aには、中心軸線の周りに複数のカーボン壁を同心的に備えた多層カーボンナノチューブや、中心軸線の周りに単独のカーボン壁を備えた単層カーボンナノチューブがある。前者の多層カーボンナノチューブは、中心軸線の周りに直径が異なる複数の円筒状に閉じたカーボン壁を有する多層になって構成されたものと、渦巻き状に多層に形成されているものとがある。その中でも、好ましい多層カーボンナノチューブは、2〜30層、より好ましくは2〜15層重なったものが用いられる。そのような多層カーボンナノチューブを前記の分散状態で分散させると、既述したように光線透過率の良い抵抗膜3が形成される。多層カーボンナノチューブは1本ずつ分離した状態で分散しているものが殆どであるが、2層ないし3層カーボンナノチューブは、束になって分散している場合もある。
【0038】
一方、後者の単層カーボンナノチューブは、上記のようにカーボン壁が中心軸線の周りに円筒状に閉じた単層のチューブである。このような単層カーボンナノチューブは通常2本以上が集まって束になった状態で存在し、その束が1束ずつ分離して、束同士が複雑に絡み合うことなく凝集せずに単純に交差した状態で抵抗膜3の内部もしくは表面に分散され、それぞれの交点で接触している。そして、好ましくは10〜50本の単層カーボンナノチューブが集まって束になったものが用いられる。なお、1本ずつ分離した状態で分散している場合も当然本発明に含まれる。
【0039】
カーボンナノチューブの分散性を高めるためには、抵抗膜3中に分散剤を含有させることが望ましい。分散剤としては、酸性ポリマーのアルキルアンモニウム塩溶液、3級アミン修飾アクリル共重合物、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン共重合物などの高分子系分散剤やカップリング剤などが好ましく使用される。
【0040】
抵抗膜3は、バインダーのないカーボンナノチューブのみからなる薄膜であってもよいが、カーボンナノチューブの脱落防止性、表面抵抗率の安定性、透明性などのために、バインダーを使用することが好ましい。このバインダーとしては、熱可塑性樹脂、例えばポリ塩化ビニル、ポリメチルメタクリレート、ニトロセルロース、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、フッ化ビニリデンなどのフッ素樹脂などの透明な樹脂が使用され、また、熱や紫外線や電子線や放射線で硬化する硬化性樹脂、例えばメラミンアクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル変性シリケートなどのシリコーン樹脂などの透明な樹脂も使用される。なお、このバインダーとしては透光性樹脂を使用してもよく、このような樹脂を使用しても抵抗膜3を薄くすることで透視性を有する抵抗膜3とすることができる。また、このバインダーにはコロイダルシリカのような無機材を添加してもよく、その場合は表面硬度や耐摩耗性に優れた抵抗膜3が形成される。
【0041】
抵抗膜3の表面を覆う表面被覆層4は、誘電体層1と同様の透視性を有する合成樹脂やガラスなどからなる層であって、この表面被覆層4は、抵抗膜3の表面を水分を含む外気から封止する目的と、抵抗膜3や誘電体層1を直射日光による紫外線劣化から保護する目的で設けられたものである。さらに、合成樹脂からなる表面被覆層4であると、飛来物衝突による破損も防止することもできる。そのため、表面被覆層4の厚さは、1〜4mm程度の耐候性に優れた強度のある透視性を有するアクリル系樹脂板や、紫外線吸収剤を含有させて耐候性を高めた同程度の厚みを有する透視性を有するポリエステル系、オレフィン系等の合成樹脂板が好ましく使用される。特に、紫外線吸収剤を含有させたポリカーボネート樹脂は機械的強度に、優れ、耐候性や透明性も良好であるので、表面被覆層4として極めて好ましい。
【0042】
また、電波反射体2を覆う裏面被覆層5は、電波反射体2や誘電体層1や抵抗膜3を飛来物衝突による破損や直射日光による紫外線劣化から保護する目的で設けられたものであって、表面被覆層4と同様の樹脂板、即ち、厚さ1〜4mm程度の耐候性に優れた強度のある透視性を有するアクリル系樹脂板、紫外線吸収剤を含有させて耐候性を高めた同程度の厚みを有する透視性を有するポリエステル系、オレフィン系等の合成樹脂板、特に、紫外線吸収剤を含有させたポリカーボネート樹脂などが好ましく用いられる。
【0043】
抵抗膜3の周囲を封止する封止層6は、抵抗膜3に対する周囲からの外気中の水分の浸透を阻止して抵抗膜3の表面抵抗率の経時的な変化(増加・減少)を防止するものであって、例えば、ポリウレタン系、エチレン−酢酸ビニル共重合体系、エチレンモノカルボン酸ビニルエステル共重合体系、エチレン−アクリル酸ビニルエステル共重合体系などのホットメルトシートや、シリコーン系、エポキシ系、アクリル系、オルガノポリシロキサン系、カルバミン酸エステル系、ビニル系、加水分解性シリル基系、シリル化ウレタン系、ポリオキシアルキレン重合体系などの硬化型のシーリング剤や、樹脂を溶剤に溶かした合成樹脂塗液などの封止剤から形成されるものである。このうち、比較的穏やかな加熱条件で軟化溶融して粘着性ないし接着性を発現する封止性能に優れたポリウレタン系のホットメルトシートや、室温から100℃未満の温度域で粘着性ないし接着性を有し優れた封止性能を発揮するシリコーン系シーリング剤が特に好ましく使用される。これらの封止剤は無色透明のものを使用することが好ましいが、この実施形態の透視性電波吸収体Aのように抵抗膜3の周囲を封止する場合や、後述する図6の実施形態のように電波吸収体Fなどの周囲の端面を封止する場合は、不透明の封止剤を使用してもよい。
【0044】
また、上記の封止層6に用いられるホットメルトシート、シーリング剤、樹脂塗液などの封止剤は、表面被覆層4、抵抗膜3、誘電体層1、電波反射体2、裏面被覆層5を接合一体化する場合に接着剤としても使用される。この場合、これらの界面の全部を上記接着剤で接合一体化した電波吸収体は、それぞれの接合界面での光の散乱が少なくなり、電波吸収体の透視性を向上させ、優れた透視性を有する電波吸収体Aとすることができる。なお、表面被覆層4、誘電体層1、電波反射体2、裏面被覆層5とをボルトなどの固定具で固定することにより、これらの各層を一体化してもよい。
【0045】
以上のような電波吸収体Aは、例えば次の方法で製造することができる。先ず、カーボンナノチューブなどの極細導電繊維と、溶媒と、必要に応じて前記バインダーと、必要に応じて前記の分散剤とを充分混合して塗液を調製する。そして、前記の合成樹脂板等からなる誘電体層1の片面(表面)、又は、前記の合成樹脂板からなる表面被覆層4の誘電体層1との対向面に、その周縁部を除いて上記の塗液を塗布して表面抵抗率が377±30Ω/□の抵抗膜3を形成する。次いで、この抵抗膜3の周囲の誘電体層1又は表面被覆層4の周縁部表面に封止層6として幅狭のホットメルトシートを配置して、誘電体層1と表面被覆層4を重ねる一方、誘電体層1の反対面に電波反射体2を重ねて、その周縁部に接着剤として例えば上記のホットメルトシートを配置し、その上(裏面)に前記の合成樹脂板からなる裏面被覆層5を重ねる。そして、この積層物を上下の艶板で挟みながら加熱してホットメルトシートを軟化溶融させることにより、抵抗膜3の周囲を封止すると共に、抵抗膜3を覆う表面被覆層4と誘電体層1の周縁部同士を接合し、同時に誘電体層1の反対面に電波反射体2と裏面被覆層5を接合して、電波吸収体Aを製造する。このようにして得られる電波吸収体Aは、その全光線透過率を40%以上、ヘーズを10%以下にすることでき、良好な透視性(視認性)を有するものが得られる。
【0046】
なお、透視性を有さないが透光性を有する電波吸収体Aとしたい場合には、例えば、誘電体層1や表面被覆層4や裏面被覆層5として予め光拡散剤や充填剤を添加したものを用いたり、或いは、表面被覆層4や裏面被覆層5の外表面に微細な凹凸を形成したりてしてヘーズを高くすることで、非透視性で透光性の電波吸収体Aを簡単に得ることができる。更に、不透明の電波吸収体Aとしたい場合は、誘電体層1、表面被覆層4、裏面被覆層5とを形成する合成樹脂やガラスに顔料などの着色剤を添加することによって不透明としたり、或は電波反射体2に光を透過しない金属板などを使用したり、或は抵抗膜3にカーボンなどを添加して不透明にするなどにより、これらのいずれか或は全てを不透明にすることにより、簡単に得ることができる。
【0047】
また、封止層6を形成するものとしてシーリング剤や樹脂塗液の封止剤を用いる場合は、上記の導電膜3を形成した誘電体層1又は表面被覆層4の四周の周縁部にシーリング剤若しくは樹脂塗液を塗布して誘電体層1と表面被覆層4を重ね、これらの誘電体層1と表面被覆層4の周縁部の隙間をシーリング剤若しくは樹脂塗液で充填した後、これらを硬化して封止層6を形成し、この封止層6で上記周縁部を封止接合する。そして、これを反転させて誘電体層1の反対面に電波反射体2を重ね、接着剤として例えば上記のシーリング剤を電波反射体2の周縁部に塗布して、その上に裏面被覆層5を重ね、シーリング剤を硬化させて電波反射体2と裏面被覆層5を誘電体層1の裏面に接合一体化することにより、電波吸収体Aを製造する。
【0048】
この実施形態の透視性を有する電波吸収体Aのように、抵抗膜3が誘電体層1とその片面側の表面被覆層4との間に設けられ、抵抗膜3の周囲に封止層6が形成されていると、誘電体層1と表面被覆層4と封止層6によって抵抗膜3が完全に包囲され、抵抗膜3の両面及び周囲が確実に封止されて密封状態になり、抵抗膜3と外気中の湿気(水分)との接触が断たれるため、抵抗膜3の表面抵抗率がほぼ一定に保たれる。従って、抵抗膜3の表面抵抗率の変化による電波吸収性能の低下が防止され、長期間に亘って初期の良好な電波吸収性能が維持されるので、耐久性及び信頼性が大幅に向上する。しかも、この実施形態の電波吸収体Aは、抵抗膜3の中に、カーボンナノチューブが凝集することなく1本ずつ分離した状態で、もしくは、複数本集まって束になったものが1束ずつ分離した状態で、分散して互いに接触しているため、カーボンナノチューブの分散状態が極めて良好で相互の接触頻度が高く、少しの含有量で所定の表面抵抗率を確保できるため透視性が良い抵抗膜3となり、これを用いている電波吸収体Aは透視性が良好なものとなる。また、屋外で使用しても、表面被覆層4及び裏面被覆層5によって、抵抗膜3や誘電体層1や電波反射体2を紫外線劣化から保護することができる。さらに、合成樹脂製の表面被覆層4及び裏面被覆層5であると、飛来物よる破損を防止できる。
【0049】
図2は本発明の他の実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【0050】
この電波吸収体Bは、抵抗膜3を合成樹脂フィルム30のいずれか片面に形成して、この抵抗膜形成フィルム31を誘電体層1とその片面側(表面側)に配置された表面被覆層4との間に設け、この抵抗膜形成フィルム31の両面、即ち、抵抗膜3の表面及び合成樹脂フィルム30の反対面と、抵抗膜形成フィルム31の周囲に封止層6を形成した点で、前述した図1の透視性を有する電波吸収体Aと異なっている。
【0051】
この電波吸収体Bに使用する抵抗膜形成フィルム31は、誘電体層1と同様のアクリル系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂などからなる透視性、好ましくは透明な合成樹脂フィルム30の片面に抵抗膜3を形成したものであって、この抵抗膜3は前記と同様の377Ω/□の表面抵抗率を目標値とする透視性、好ましくは透明な薄膜であり、具体的には377±30Ω/□の表面抵抗率を備えたITO等の金属酸化物の蒸着膜や、前記の極細導電繊維を含んだ同様の表面抵抗率を有する塗膜からなるものである。この電波吸収体Bでは、抵抗膜3が誘電体層1側となるように抵抗膜形成フィルム31を誘電体層1と表面被覆層4の間に配設しているが、抵抗膜3が表面被覆層4側となるように配設しても勿論よい。
【0052】
この電波吸収体Bの他の構成は前記の電波吸収体Aと同様であるので、図2において同一部材に同一符号を付して説明を省略する。
【0053】
このような電波吸収体Bは、例えば次の方法で製造することができる。即ち、封止層6として前記のホットメルトシートの封止剤を使用し、誘電体層1の片面側(表面側)にホットメルトシートと、抵抗膜形成フィルム31と、ホットメルトシートと、表面被覆層4とをこの順に重ねる。そして、誘電体層1の反対面側に電波反射体2を重ねて、さらに接着剤として例えばホットメルトシートを配置し、その裏面に裏面被覆層5を重ねて、この積層物を上下の艶板で挟みながら加熱し、ホットメルトシートを軟化溶融させて接合一体化すると、透視性を有する電波吸収体Bが製造される。
【0054】
斯かる電波吸収体Bは、抵抗膜3の表面と周囲が封止層6で封止され、抵抗膜3の裏面が合成樹脂フィルム30と封止層6で二重に封止されて密閉状態となっているため、抵抗膜3と外気中の水分との接触が断たれて抵抗膜3の表面抵抗率がほぼ一定に保たれる。従って、抵抗膜3の表面抵抗率の変化による電波吸収性能の低下が防止され、長期間に亘って初期の良好な電波吸収性能が維持されるので、耐久性及び信頼性が大幅に向上する。特に、この電波吸収体Bのように抵抗膜形成フィルム31の両面と周囲が封止層6で覆われていると、周囲の封止層6にクラック等が生じて、万一、水分を含んだ外気が周囲の封止層6から侵入するようなことがあったとしても、抵抗膜形成フィルム31の両面を覆う封止層6によってそれ以上内部に浸透することが阻止され、抵抗膜3と外気中の水分との接触が断たれた状態を維持するので、耐久性及び信頼性が一層向上することになる。また、抵抗膜形成フィルム31の表裏面が封止層6を介して表面被覆層4と誘電体層1で被覆されているので、それらの界面が互いに密着して光散乱が少なくなるために透視性に優れ且つ光線透過率が向上する利点もある。
【0055】
なお、図2に示す実施形態の透視性電波吸収体Bでは、抵抗膜形成フィルム31の周囲と両面を封止層6で封止しているが、抵抗膜形成フィルム31の周囲と抵抗膜3の表面を封止層6で封止する構成としてもよい。このような構成の透視性電波吸収体も、抵抗膜3の表面と周囲が封止層6で封止されると共に、抵抗膜3の裏面が合成樹脂フィルム30で封止されて密封状態となるため、抵抗膜3と外気中の水分との接触が断たれて表面抵抗率がほぼ一定に保たれる。
【0056】
また、図2の電波吸収体Bにおいて、抵抗膜形成フィルム31の両面を覆う封止層6を省略して、誘電体層1と表面被覆層4とで抵抗膜形成フィルム31を直接挟み、抵抗膜形成フィルム31の周囲にのみ封止層6を設ける構成としてもよい。このような構成の透視性電波吸収体Bも、抵抗膜3の表面が誘電体層1(抵抗膜3が表面被覆層4側となるように抵抗膜形成フィルム31を設置する場合は表面被覆層4)によって封止され、抵抗膜3の裏面が合成樹脂フィルム30、更には表面被覆層4によって封止され、抵抗膜3の周囲が封止層6によって封止されて密封状態になっているので、同様に抵抗膜3と外気中の水分との接触が断たれて表面抵抗率がほぼ一定に保たれる。
【0057】
図3は本発明の更に他の実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【0058】
この電波吸収体Cは、誘電体層1の片面にその周縁部を除いて抵抗膜3を形成し、この抵抗膜3の表面と周囲に封止層6を形成している点で、前述の図1の透視性を有する電波吸収体Aと異なっている。その他の構成は前述の透視性電波吸収体Aと同様であるので、図3において同一部材に同一符号を付して説明を省略する。
【0059】
斯かる電波吸収体Cは、前述の電波吸収体Aを製造する際に、抵抗膜3と表面被覆層4との間、及び抵抗膜3の周囲にホットメルトシートの封止剤を配置したり、抵抗膜3の表面及び周囲にシーリング剤又は樹脂塗液などの封止剤を塗布或は充填したりして、抵抗膜3の表面及び周囲を封止する封止層6を更に形成することによって製造することができる。
【0060】
このような透視性を有する電波吸収体Cも、表面被覆層4と封止層6によって抵抗膜3の表面が封止されると共に封止層6により抵抗膜3の周囲が封止され、さらに、誘電体層1によって抵抗膜3の裏面が封止されて密封状態になるため、外気中の水分との接触が断たれ、抵抗膜3の表面抵抗率がほぼ一定に保たれるので、耐久性及び信頼性が向上する。そして、周囲の封止層6にクラック等が生じて、万一、水分を含んだ外気が周囲の封止層6から侵入するようなことがあったとしても、抵抗膜3の表面を覆う封止層6によってそれ以上内部に浸透することが阻止されるので、抵抗膜3の表面抵抗率はほぼ一定に保たれ、初期の電波吸収性能が維持される。また、抵抗膜3の表面が封止層6で被覆されていると、抵抗膜3と表面被覆層4との界面での光散乱が少なくなり透視性及び光線透過率が向上する利点もある。
【0061】
この図3に示す実施形態の透視性を有する電波吸収体Cでは、誘電体層1の片面に抵抗膜3を形成してその表面と周囲を封止層6で封止しているが、表面被覆層4の誘電体層1との対向面に抵抗膜3を形成してその表面と周囲を封止層6で封止する構成としてもよい。このような構成の透視性電波吸収体も、封止層6によって抵抗膜3の表面と周囲が封止されると共に、表面被覆層4によって抵抗膜3の裏面が封止されて密封状態となるため、同様に抵抗膜3と外気中の水分との接触が断たれて表面抵抗率がほぼ一定に保たれる。
【0062】
図4は本発明の更に他の実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【0063】
この電波吸収体Dは、誘電体層1の片面側(表面側)全体に抵抗膜3を形成して抵抗膜3の表面を封止層6で封止する点と、電波吸収体の側面全体に亘って形成した封止層6によって抵抗膜3の周囲を封止している点で、前述の図3に示す電波吸収体Cと異なっている。電波吸収体Dの側面全体を覆う封止層6としては、前述のホットメルトシート、シーリング剤、樹脂塗液などの封止剤が使用されるが、この中でも、電波吸収体Dの側面全体に塗布し易いシーリング剤又は樹脂塗液が好ましく用いられる。この電波吸収体Dは、側面全体に封止層6を形成するので、表面被覆層4、抵抗膜3の表面を覆う封止層6、抵抗膜3、誘電体層1、電波反射体2、裏面被覆層5を同一の形状及び大きさとして、側面全体が平坦面となるようにしてある。この電波吸収体Dの他の構成は、前述の図3の電波吸収体Cと同様であるので、図4において同一部材に同一符号を付して説明を省略する。
【0064】
このような透視性を有する電波吸収体Dは、前述の電波吸収体Cを製造する際に、誘電体層1、電波反射体2、表面被覆層4、裏面被覆層5、抵抗膜3の表面を覆う封止層形成用のホットメルトシートの封止剤をそれぞれ同一の形状及び大きさに揃え、誘電体層1の片面全体に抵抗膜3を形成すると共に、上記の各部材を積層一体化して電波吸収体の本体部分を作製し、その四周の側面全体に前記のシーリング剤等の封止剤を塗布、硬化させ、側面全体を覆う封止層6を形成することによって製造される。
【0065】
斯かる透視性電波吸収体Dも、抵抗膜3の表面と周囲が、該表面を覆う表面被覆層4及び封止層6と、電波吸収体側面の封止層6によって封止され、抵抗膜3の裏面が誘電体層1で封止されて密封状態となっているため、抵抗膜3と外気中の水分との接触が断たれて抵抗膜3の表面抵抗率がほぼ一定に保たれ、初期の電波吸収性能が維持されるので、耐久性及び信頼性が一層向上する。さらに、表面の封止層6により界面が互いに密着して光散乱が少なくなるために透視性に優れ且つ光線透過率が向上する利点もある。また、電波吸収体Dの各構成部材は側面の封止層6で接合一体化されるので、各構成部材を接着する必要がなくなり、製造が容易となる。
【0066】
なお、図4の電波吸収体Dでは、誘電体層1の片面(表面)全体に抵抗膜3を形成してその表面を封止層6で被覆しているが、表面被覆層4の誘電体層1との対向面全体に抵抗膜3を形成してその表面を封止層6で被覆する構成としてもよい。このような構成の電波吸収体も、抵抗膜3が封止層6と表面被覆層4で封止されて密封状態となるため、同様に抵抗膜3と外気中の水分との接触が断たれて表面抵抗値がほぼ一定に保たれる。
なお、抵抗膜3の表面を封止層6で封止する必要は必ずしもないが、透視性を向上させる点からは封止することが好ましい。
【0067】
図5は本発明の更に他の実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【0068】
この電波吸収体Eは、誘電体層1の大きさより小さな抵抗膜形成フィルム31を、抵抗膜3が表面被覆層4側となるように誘電体層1と表面被覆層4との間に介在させ、この抵抗膜形成フィルム31の表面と周囲(誘電体層1の周縁部表面)に封止層6を形成している点で、前述の図4に示す透視性電波吸収体Dと異なっている。その他の構成は透視性電波吸収体Dと同様であるので、図5において同一部材に同一符号を付して説明を省略する。
【0069】
このような透視性を有する電波吸収体Eは、前記の電波吸収体Dを製造する際に、誘電体層1の片面に抵抗膜3を形成することなく、予め作製していた抵抗膜形成フィルム31を誘電体層1の重ね合せるように変更するだけで、同様に製造することができる。
【0070】
斯かる透視性を有する電波吸収体Eも、前述の電波吸収体Dと同様の作用効果を奏するが、抵抗膜形成フィルム31の周囲がその周縁部に形成された封止層6と電波吸収体の側面全体に形成された封止層6によって二重に封止されているため、クラック等が発生することがあってもクラックが抵抗膜3まで達することが皆無に等しく、水分を含んだ外気の侵入が一層確実に阻止されるので、耐久性及び信頼性がより一層向上する。
【0071】
なお、図5の電波吸収体Eでは、誘電体層1の片面側(表面側)に抵抗膜形成フィルム31を重ね合せて封止層6を設けたが、表面被覆層4の下面に抵抗膜形成フィルム31のフィルムが重なるように重ね合せ、抵抗膜3と誘電体層1との間に封止層6を形成してもよい。このような構成の電波吸収体も、抵抗膜3が合成樹脂フィルム30と表面被覆層4で封止されて密封状態となるため、同様に抵抗膜3と外気中の水分との接触が断たれて表面抵抗値がほぼ一定に保たれる。また、表面の封止層6は必ずしも必要ではなく、省略することもできる。
【0072】
図6は本発明の更に他の実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【0073】
この電波吸収体Fは、誘電体層1の片面に形成した抵抗膜3を覆う封止層を省略し、誘電体層1の裏面の電波反射体2に接着剤層7を介して裏面被覆層5を積層一体化した点で、前述の図4に示す透視性電波吸収体Dと異なっている。接着剤層7としては、前記の封止層形成用のホットメルトシートやシーリング剤や樹脂塗液などの封止剤が使用されるが、透視性又は透明な公知の接着剤、或は透視性の両面粘着テープなども使用可能である。この電波吸収体Fの他の構成は前述の電波吸収体Dと同様であるので、図6において同一部材に同一符号を付して説明を省略する。
【0074】
このような透視性を有する電波吸収体Fは、前記の電波吸収体Dを製造する際に、誘電体層1の片面全体に形成した抵抗膜3の表面に封止層形成用のホットメルトシートを重ねることなく、電波反射体2の表面(下側表面)に接着剤層7となるホットメルトシートなどを介して裏面被覆層4を重ねるように変更するだけで、同様に製造することができる。なお、抵抗膜3は表面被覆層4に形成して誘電体層1と重ね合せてもよい。
【0075】
斯かる透視性を有する電波吸収体Fも、抵抗膜3の両面が誘電体層1と表面被覆層4で封止されると共に、抵抗膜3の周囲が電波吸収体側面の封止層6で封止されて密封状態になっているため、同様に抵抗膜3と外気中の水分との接触が断たれて表面抵抗率がほぼ一定に保たれる。そして、接着剤層7によって誘電体層1と電波反射体2と裏面被覆層5が接合一体化されているため、これらの接合強度も向上すると共に、接着剤層7により電波反射体2と誘電体層1及び裏面被覆層5とが密着して光散乱が少なくなり、透視性及び光線透過率が向上する。
【0076】
なお、上記の接着剤層7は、前述した電波吸収体A〜Eや後述する電波吸収体G〜Lにおいても、電波反射体2と裏面被覆膜5との間に設けても勿論よい。さらに、接着剤層7は、誘電体層1と電波反射体2の間、或は、電波反射体2と誘電体層1及び裏面被覆層5との間の両方に設けてもよい。さらに、接着剤層7は、電波反射体2の全面に設ける必要はなくて、その四周周囲に設けたり、線状に設けたりして、電波反射体2が剥離しないようにされていればよい。四周周囲に接着剤層7を設ける場合は、透視性を有さないものを使用しても、電波吸収体は透視性を有するものとすることができる。
【0077】
図7は本発明の更に他の実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【0078】
この電波吸収体Gは、抵抗膜3と表面被覆層4との間に空間8を形成している点、及び接着剤層を介在させていない点で、前述の図6に示す透視性電波吸収体Fと異なっている。空間8は空気層であり、抵抗膜3と表面被覆層4との周囲部分にスペーサ81を配置して一体化することで容易に形成することができる。該スペーサ81としては、厚みの厚いホットメルトシートを配置したり、シーリング剤や樹脂塗液を厚く塗布して形成したり、或は、他部材例えば合成樹脂シートやプレートなどを配置したりして、抵抗膜3と表面被覆層4との間を隔てて空間8が形成されている。
この透視性を有する電波吸収体Gの他の構成は前述の電波吸収体Fと同様であるので、図7において同一部材に同一符号を付して説明を省略する。
【0079】
この透視性を有する電波吸収体Gには、上記の如き空間8が形成されていて、当該空間8内の水分は抵抗膜3に浸透するかもしれないが、当該空間8は狭いので水分の量が少なくて、例え表面抵抗率が変化しても実質的な変化はない。そして、空間8は水分を含む外気から表面被覆層4、誘電体層1、封止層6にて封止してあり、外気の水分が空間8へ、延いては抵抗膜3へ浸透することはない。そのため表面抵抗率の変化を抑制することができる。なお、空間8内に乾燥剤などを内在させて湿気を取り除くこともできる。
【0080】
このような透視性を有する電波吸収体Gは、前記の図6に示す電波吸収体Fを製造する際に、誘電体層1の片面全体に形成した抵抗膜3の表面の周囲にスペーサ81を配置した後に表面被覆層4を重ね合わせることで、容易に製造することができる。なお、抵抗膜3を表面被覆層4の下面に形成し、この抵抗膜3と誘電体層1との間にスペーサ81を介在させてもよい。
【0081】
斯かる透視性を有する電波吸収体Gも、抵抗膜3の裏面が誘電体層1で封止され、表面が空間8を介して表面被覆層4で封止されると共に、抵抗膜3の周囲が電波吸収体側面の封止層6で封止されて密封状態になっているため、同様に抵抗膜3と外気中の水分との接触が断たれて表面抵抗率がほぼ一定に保たれる。そして、空間8も周囲の封止層6で封止されて外気と絶たれていて、外気中の水分が浸透することがないので、空間8が介在されていても、抵抗膜3の表面抵抗率は一定に保たれる。
【0082】
図8は本発明の更に他の実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【0083】
この電波吸収体Hは、誘電体層1の片面側(表面側)の周囲を除く表面に抵抗膜3を形成し、反対面側(裏面側)に電波反射体2を配置し、前記抵抗膜3の表面及び周囲を封止層6で封止したものである。
その他の電波吸収体Hを構成する誘電体層1、電波反射体2、抵抗膜3は、前記各実施形態で用いられたものが同様に使用されるので、説明を省略する。
【0084】
封止層6は、前記各実施形態で用いられるホットメルトシートやシーリング剤や樹脂塗液などの封止剤が用いられて、抵抗膜3の表面はもとより、抵抗膜3の周囲即ち誘電体層1の周囲表面(抵抗膜3が形成されていなくて、且つ抵抗膜3の周囲側端)にまで、ホットメルトシートを配置したり、シーリング剤や樹脂塗液を塗布・硬化させることで、表面及び周囲に封止層6が形成されたものである。
【0085】
斯かる透視性を有する電波吸収体Hも、抵抗膜3の表面と周囲が封止層6によって封止され、抵抗膜3の裏面が誘電体層1で封止されて密封状態となっているため、抵抗膜3と外気中の水分との接触が断たれて抵抗膜3の表面抵抗率がほぼ一定に保たれ、初期の電波吸収性能が維持されるので、耐久性及び信頼性が一層向上する。
【0086】
なお、この電波吸収体Hは、抵抗膜3の表面を封止層6のみで覆っているが、さらにこの封止層6の表面に他部材(例えば、合成樹脂シートなど)を積層したりして、表面の保護、防湿性を高めてもよい。さらに、電波反射体2の裏面にも他部材(例えば、合成樹脂シートなど)を積層して裏面の保護、脱落防止性を向上させてもよい。
【0087】
図9は本発明の更に他の実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【0088】
この電波吸収体Iは、誘電体層1の片面側(表面側)に抵抗膜形成フィルム31を、その抵抗膜3が誘電体層1側となるように配置し、反対面側(裏面側)に電波反射体2を配置し、電波吸収体の側面全体に封止層6を形成してなるもので、この封止層6で前記抵抗膜3の周囲を封止している。
その他の電波吸収体Iを構成する誘電体層1、電波反射体2、抵抗形成フィルム31、抵抗膜3には、前記各実施形態で用いられたものが同様に使用されるので、説明を省略する。
【0089】
この電波吸収体Iは、例えば、誘電体層1の片面側に、予め形成された抵抗膜形成フィルム31を、その抵抗膜3が誘電体層1側となるように配置すると共に、誘電体層1の反対面側に電波反射体2を配置し、これらの重ね合せ体の側面にホットメルトシート封止剤を融着させるか、或はシーリング剤や樹脂塗液などの封止剤を塗布、乾燥させることで封止層6を形成することで、製造することができる。
【0090】
斯かる透視性を有する電波吸収体Iも、抵抗膜3の表面は合成樹脂フィルム30で封止され、その周囲も封止層6によって封止され、抵抗膜3の裏面も誘電体層1で封止されて密封状態となっているため、抵抗膜3と外気中の水分との接触が断たれて抵抗膜3の表面抵抗率がほぼ一定に保たれ、初期の電波吸収性能が維持されるので、耐久性及び信頼性が一層向上する。
【0091】
なお、この電波吸収体Iも、前記電波吸収体Hと同様に、合成樹脂フィルム30の表面及び電波反射体2の裏面に他部材を積層して表裏両面の保護などを行わせても良い。
【0092】
図10は本発明の更に他の実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【0093】
この電波吸収体Jは、誘電体層1の片面側(表面側)に抵抗膜3と他の誘電体層11と抵抗膜3と表面被覆層4とをこの順で配置し、反対面側(裏面側)に電波反射体2と裏面被覆層5とを配置し、電波吸収体の側面全体に亘って形成した封止層6によって抵抗膜3の周囲を封止してなるものである。
この電波吸収体Jは、抵抗膜3を誘電体層11を介して2層構造とされている点で、前記実施形態の各電波吸収体とは異なっている。誘電体層11は誘電体層1と同様の樹脂やガラスよりなり、その厚さを0.1〜5mm程度のものが使用される。その他の電波吸収体Jを構成する誘電体層1、電波反射体2、抵抗膜3、表面被覆層4には、前記各実施形態で用いられたものが同様に使用されるので、説明を省略する。
【0094】
このような透視性を有する電波吸収体Jは、誘電体層1の表面に予め抵抗膜3を形成し、また表面被覆層4の裏面に抵抗膜3を形成しておき、抵抗膜付き誘電体層1と誘電体層11と抵抗膜付き表面被覆層4とを積層することで容易に製造できる。また、誘電体層11の表裏両面に抵抗膜3、3を形成しておき、誘電体層1と抵抗膜付き誘電体層11と表面被覆層4とを積層することによっても容易に製造できる。
【0095】
斯かる透視性を有する電波吸収体Jは、抵抗膜3の表面は誘電体層11或は表面被覆層4により封止され、抵抗膜3の裏面も誘電体層11或は誘電体層1で封止され、その周囲も封止層6によって封止されて密封状態となっているため、抵抗膜3、3と外気中の水分との接触が断たれて抵抗膜3、3の表面抵抗率がほぼ一定に保たれ、初期の電波吸収性能が維持されるので、耐久性及び信頼性が一層向上する。
更に、2層の抵抗膜3、3により、長期使用中に一方の抵抗膜3に万一不都合が生じて表面抵抗率が377±30Ω/□の範囲を超えたとしても、他方の抵抗膜3により表面抵抗率を上記範囲を維持できるので、この電波吸収体Jの電波吸収性能を長期間に渡って保つことができる。
さらに、2層の抵抗膜3、3により電波吸収性能(リターンロス)が発現する周波数帯域を広げることができる。
この電波吸収体Jにおいては、抵抗膜3を2層としたために透明性に若干劣り全光線透過率が30%以上の範囲となるが、ヘーズが10%以下の透視性を有する電波吸収体Jとなる。
【0096】
なお、図10においては、抵抗膜3を2層としたが、さらに多数の抵抗膜を設けてもよい。好ましい層数は2〜3層である。
また、他の実施形態である図1〜9、図11の電波吸収体の各抵抗膜3を複数にできることは言うまでもない。このことで、この電波吸収体Jと同様に、電波吸収性能の安定化と電波吸収性能が発現する周波数帯域の拡大の作用効果を奏することとなる。
【0097】
図11は本発明の更に他の実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【0098】
この電波吸収体Kは、電波反射体2の両側に誘電体層1、1が設けられ、この誘電体層1、1の電波反射体2との反対面側に抵抗膜3、3がそれぞれ設けられ、更に各抵抗膜3、3の表面に表面被覆層4、4を積層して7層構造にしてなるものである。そして、この7層構造体の周囲の側面全面が封止層6により封止されている。この電波吸収体Kは、接着剤層7を介在させていない点を除いて、その他の構成は前述の電波吸収体Fと同様であるので、図11において同一部材に同一符号を付して説明を省略する。
【0099】
このような透視性を有する電波吸収体Kは、表面被覆層4と抵抗膜3と誘電体層1と電波反射体2と誘電体層1と抵抗膜3と表面被覆層4とを重ね合せ、必要に応じて一体化し、その後、この重ね合せ構造体の四周周囲側面の全体に、前記のシーリング剤や樹脂塗液等の封止剤を塗布、硬化させて側面全体を覆う封止層6を形成することによって製造される。この際、抵抗膜3は単独で介在させてもよいし、表面被覆層4に形成されて介在してもよいし、或は誘電体層1に形成されて介在してもよい。なお、抵抗膜3として、抵抗膜形成フィルム31を使用してもよい。
【0100】
このような電波吸収体Kは、両側の表面被覆層4、4側から抵抗膜3、3及び誘電体層1、1を通って入射する電波を中央の電波反射体2で反射して吸収することができ、また、電波反射体2を共用できるので安価な電波吸収体とすることができる。しかし、抵抗膜3を両面に有するために透視性に若干劣り全光線透過率が30%以上の範囲となるが、ヘーズが10%以下の透視性を有する電波吸収体Kとなる。
斯かる電波吸収体Kも、各抵抗膜3、3の両面が誘電体層1と表面被覆膜4で封止されると共に、抵抗膜3の周囲が電波吸収体側面の封止層6で封止されて密封状態になっているため、同様に抵抗膜3と外気中の水分との接触が断たれて表面抵抗率がほぼ一定に保たれる。
【0101】
なお、この電波吸収体Kのように、他の実施形態である図1〜10に示す電波吸収体においても、電波反射体2の両側に誘電体層1、1を介して抵抗膜3、3をそれぞれ設け、この抵抗膜3、3の表裏両面と周囲を封止した電波吸収体とすることもできる。この構造とすることで、この電波吸収体Kと同様に、両側から入射する電波を中央の電波反射体2で反射して吸収することができる、という作用効果を奏することとなる。
【0102】
図12は本発明の更に他の実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【0103】
この電波吸収体Lは、誘電体層1の裏面の四周周囲端部にのみ接着剤層7を形成して誘電体層1と電波反射体2と裏面被覆層5とを接着一体化した点、及びコ字形の断面形状を有するアルミニウム等の金属製の枠体9を電波吸収体の周囲に取付けている点、この金属製枠体9の電波が入射する側の表面に電波吸収シート91が貼付されている点で、前述の図6に示す電波吸収体Fと異なるのみであり、他の構成は電波吸収体Fと同様であるから図12において同一部材に同一符号を付して説明を省略する。
【0104】
この電波吸収体Lに用いられる接着剤層7としては、前記のホットメルトシートやシーリング剤や樹脂塗液などの封止剤の他に、両面テープやウレタン系の接着剤などが好ましく用いられる。また、電波吸収シート91はフェライトなどの磁性材料を合成ゴムや合成樹脂に添加してシートに成形したものが好ましく用いられる。
【0105】
この透視性を有する電波吸収体Lは、前述した透視性の電波吸収体Fと同様の作用効果を奏することに加えて、周囲に金属製の枠体9が取付けられているため、この枠体9によって電波吸収体の周縁部が保護され、高速道路のETC料金所などへの取付作業もし易くなる利点がある。しかも、この枠体9によって裏面被覆層5、電波反射体2、誘電体層1、抵抗膜3、表面被覆層4の各部材が確実に一体化されるので、これらが使用中に分離する心配も解消される。さらに、電波吸収シート91により金属製枠体9に当たる電波も吸収されるので、この枠体9による電波吸収性能の悪化は防止できる。しかし、この電波吸収シート91は必ずしも必要ではない。
【0106】
図12においては、電波吸収体として図6のものを用いたが、その他の図1〜図11に記載の電波吸収体のいずれかが使用され、その周囲に金属製枠体が取付けられた枠付きの電波吸収体とすることができるのは、言うまでもない。
【0107】
次に、本発明の効果を確認するために行った実験について説明する。
【0108】
[実験1]
溶媒としてのメチルアルコール/水混合物(混合比3:1)中に、極細導電繊維である単層カーボンナノチューブ(文献Chmical Physics Letters、323(2000)P580−585に基づき合成したもの、直径1.3〜1.8μm)と分散剤としてのポリアルキレンエチレン−ポリオキシプロピレン共重合体を加えて均一に混合、分散させ、単層カーボンナノチューブを0.003質量%、分散剤を0.05質量%含む塗液を調整した。
【0109】
この塗液を、市販の厚さ100μmのポリメチルメタクリレートフィルム30の表面に、単層カーボンナノチューブの目付け量が約94mg/m2となるように塗布、乾燥して表面抵抗率が385Ω/□の透明な抵抗膜3をポリメチルメタクリレートフィルムの片面に備えた透明な抵抗膜形成フィルム31(図15(a)(b)参照)を作製した。そして、この抵抗膜形成フィルム31を100×110mmの大きさに切断し、その相対向する2辺に一対の帯状の銅箔の電極32(幅5mm,長さ150mm)を100mmの辺に沿って導電接着剤で接着して、抵抗膜3の大きさが100×100mmの電極付き抵抗膜形成フィルムを作製した。
【0110】
図15(a)(b)に示すように、この電極付き抵抗膜形成フィルムの上下両面に、ポリウレタンよりなる120mm角のホットメルトシート60、60(厚さ1mm)を重ね、更にその上下に133mm角のポリカーボネート板40、50(厚さ2mm)を重ねて、これを200mm角の艶板で上下から挟み、125℃で加熱することにより、ホットメルトシートを軟化溶融させて電極付き抵抗膜形成フィルム31の周囲及び上下両面をホットメルトシート60、60の封止層で封止すると共に、ポリカーボネート板40、50で被覆・封止した、実験1の表裏両面と周囲とが封止された抵抗膜を作製した。
この抵抗膜について、抵抗膜の表面抵抗率の経時的変化を室温23℃、湿度50%の恒温恒室の室内にて調べた。その結果を図16に示す。
【0111】
[実験2]
実験1で調製した塗液を、単層カーボンナノチューブの目付け量が約94mg/m2となるように、100×110mmの大きさのポリメチルメタクリレートフィルム(厚さ0.1mm)の片面に塗布、乾燥して、表面抵抗率が375Ω/□の透明な抵抗膜を形成し、この抵抗膜の上面に実験1で使用した銅箔の電極を接着して電極付き抵抗膜形成フィルムを作製した。
【0112】
この電極付き抵抗膜形成フィルムを、133mm角のポリカーボネート板(厚さ2mm)の上に市販のセロファンテープで固定した後、電極付き抵抗膜形成フィルムの周りに、高さが10mm、一辺の長さが120mmの方形枠をセロファンテープで作り、この方形枠で囲まれた電極付き抵抗膜形成フィルムの抵抗膜の上に、シリコーン系のポッティング用液状シーリング剤(GE東芝シリコーン(株)製のTSE3033)を滴下し、80℃で3時間硬化させて、電極付き導電膜形成フィルムの周囲と導電膜の上面を厚さ0.2mmの粘着性のあるゴム状のシリコーン系シーリング剤で封止した、表裏両面と周囲とが封止された実験2の抵抗膜を作製した。
この抵抗膜について、実験1と同様に、抵抗膜の表面抵抗率の経時的変化を調べた。その結果を図16に示す。
【0113】
[比較実験1]
比較のために、実験2で作製した電極付き抵抗膜形成フィルム(表面抵抗率375Ω/□)について、実験1と同様に、その抵抗膜の表面抵抗率の経時的変化を調べた。その結果を図16に示す。
【0114】
図16のグラフからわかるように、封止していない比較実験1の抵抗膜は、表面抵抗率が日数の経過にしたがって漸増し、5日経過で30Ω/□増加し、11日経過で50Ω/□増加し、20日経過で90Ω/□増加し、26日経過では110Ω/□も増加していていることがわかった。従って、この抵抗膜を用いた電波吸収体であれば、11日経過後には425Ω/□となり、これ以降には電波が吸収され難くなる。これに対して、抵抗膜の表面と周囲をホットメルトシートにて封止した実験1、抵抗膜の表面と周囲をシーリング剤にて封止した実験2の各抵抗膜は、日数が経過しても表面抵抗率が10Ω/□以下の範囲で増減していて変化が極めて少なく略一定していて、封止により表面抵抗率の変化(増加・減少)が確実に防止できていることがわかった。従って、表面抵抗率が変化しても361〜385Ω/□の範囲であり、この抵抗膜を用いた電波吸収体は長期間電波吸収機能を発揮することがわかる。
【0115】
[実験3]
実験1で調製した塗液を、片面を耐候処理した市販の厚さ2mmのポリカーボネート板の耐候処理を施していない面に、単層カーボンナノチューブの目付け量が約94mg/m2となるように塗布、乾燥して、表面抵抗値が382Ω/□の透明な抵抗膜を片面に備えた透明な表面被覆層用ポリカーボネート板を作製し、これを縦70mm×横80mmの大きさに切断して、その相対向する2辺(70cmの各辺)に一対の帯状の銅箔電極(幅5mm,長さ90mm)を導電接着剤で接着することにより、片面に抵抗膜を有する表面被覆層用電極付きポリカーボネート板を得た。
【0116】
この表面被覆層用電極付きポリカーボネート板の抵抗膜側に、誘電体層として市販の厚さ7mmのポリカーボネート板を縦70mm×横80mmの大きさに切断したものを重ねると共に、この誘電体層用ポリカーボネート板の反対側に、電波反射体として市販の導電メッシュを縦70mm×横80mmの大きさに切断したものと、裏面被覆層として耐候処理を施した市販の厚さ2mmのポリカーボネート板を縦70mm×横80mmの大きさに切断したものを重ねて、この積層体の周囲の側面全体を市販のシリコーン系シーリング剤(東レ・ダウコーニング(株)製のSE960)を塗布、乾燥して封止層6を形成することで封止し、さらに、アルミニウム製の枠体を四周に取付けて、透視性を備えた電波吸収体を作製した。
【0117】
この透視性電波吸収体について、超促進耐候試験機である岩崎電気株式会社製アイ スーパー UVテスター SUV−W151を用いて、温度63℃、湿度50%で6時間、及び、温度20℃、湿度95%で6時間を1サイクルとして繰り返し、抵抗膜3の表面抵抗率の経時的変化を調べた。その結果を図17に示す。
ただし、抵抗膜は、光によって表面抵抗率が変化する恐れがあるので、この光の影響を除外するために、表面被覆層4及び裏面被覆層5のポリカーボネート板の上にアルミニウムフィルムを重ね合せて光を遮断した。
【0118】
図17のグラフを見ると、サイクル数が増えても表面抵抗率がほぼ一定しており、経時的な表面抵抗率の増加が確実に防止されていることが分かる。このことから、抵抗膜の表裏にポリカーボネート製表面被覆層とポリカーボネート製誘電層を積層し、さらに誘電体層の下面に導電メッシュ製電波反射体とポリカーボネート製裏面被覆層を積層し、さらに、この積層体の周囲の側面全体をシリコーン系シーリング剤で封止層を形成した本発明の電波吸収体は、抵抗膜の表面抵抗率がほぼ一定しているので、初期の電波吸収性能を維持することがわかる。
【0119】
以上の実験結果から、本発明の電波吸収体は、抵抗膜を水分を含んだ外気から封止することで、抵抗膜の表面抵抗率の変化による電波吸収性能の低下が防止され、長期に亘って初期の良好な電波吸収性能を維持できることが裏付けられる。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】本発明の一実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【図2】本発明の他の実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【図3】本発明の更に他の実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【図4】本発明の更に他の実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【図5】本発明の更に他の実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【図6】本発明の更に他の実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【図7】本発明の更に他の実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【図8】本発明の更に他の実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【図9】本発明の更に他の実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【図10】本発明の更に他の実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【図11】本発明の更に他の実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【図12】本発明の更に他の実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【図13】(a)(b)(c)は抵抗膜の部分断面図である。
【図14】抵抗膜に含まれるカーボンナノチューブを正面から見た分散状態を示す模式図である。
【図15】(a)は実験用の電極付き抵抗膜形成フィルムの分解側面図であり、(b)は同電極付き抵抗膜形成フィルムの平面図である。
【図16】抵抗膜の表面抵抗率の変化と日数との関係を示すグラフである。
【図17】本発明の電波吸収体における抵抗膜の表面抵抗率の変化と超促進耐候試験のサイクル数との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0121】
1 誘電体層
2 電波反射体
3 抵抗膜
3a カーボンナノチューブ
3b バインダー
30 合成樹脂フィルム
31 抵抗膜形成フィルム
4 表面被覆層
5 裏面被覆層
6 封止層
7 接着剤層
8 金属の枠体
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば高速道路のETC料金所などのITS分野で電波障害や誤動作をなくすために利用される電波吸収体、特に透視性を有する電波吸収体であって、良好な電波吸収性能を長期間維持できる耐久性に優れた電波吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
電波障害や誤動作をなくす透明な電波吸収体としては、透明なアクリル樹脂等からなる誘電体の片面に、ITO等の金属酸化物を蒸着して抵抗薄膜を形成した透明なPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム等を積層し、誘電体の反対面に光を透過する金属線格子、金属薄膜等の電波反射体を設けたものが知られている(特許文献1)。
【0003】
この電波吸収体は、ITO等の金属酸化物を蒸着して抵抗薄膜を形成しているため、良好な透明性を有している。けれども、ITO等を蒸着した抵抗薄膜は耐候性が悪く、ITO等を蒸着するPETフィルムも耐候性が悪いため、上記の電波吸収体を屋外で使用すると、短期間の内に抵抗薄膜やPETフィルムが劣化して、透明性が著しく悪化し、黄みを帯びるという問題があった。かかる問題は、耐候性の良いフィルムを使用すると多少は改善されるが、耐候性の良いアクリル等のフィルムはITOなどの蒸着が難しいため、蒸着の容易なPETフィルムを使用せざるを得ないのが実情である。
【0004】
そこで、本出願人は、上記の問題を解決すべく、極細導電繊維を含んだ透明な抵抗膜と光を透過する電波反射体との間に透明な誘電体層を備え、抵抗膜の外側に透明な保護層を備えた透明電波吸収体を提案した(特願2004−081939)。この透明電波吸収体は、極細導電繊維を含んだ抵抗膜がITO抵抗薄膜と遜色のない良好な透明性を有し、しかも、極細導電繊維を含んだ抵抗膜の基材を自由に選択できるため、耐候性の良好な基材を選択することで、ITO抵抗薄膜の基材に用いるPETに比べて耐候性を向上させることができ、短期間のうちに劣化して透明性の著しい低下を招く心配を解消できるものである。
【0005】
しかしながら、この透明電波吸収体は、抵抗膜の電気抵抗(表面抵抗率)が変化するため、長期間にわたって良好な電波吸収性能を維持することが難しいという問題があり、この問題は前記特許文献1の透明電波吸収体においても見られた。その原因は明らかでないが、空気中の水分(湿気)が大きく影響しているものと推測される。
【特許文献1】特開平5−335832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の問題に対処するためになされたもので、抵抗膜の電気抵抗(表面抵抗率)が長期間に亘ってほぼ一定し、初期の良好な電波吸収性能を長期間に亘って維持できる、耐久性に優れた電波吸収体を提供することを、解決課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明の電波吸収体は、抵抗膜を誘電体層の片面側に設けると共に、誘電体層の反対面側に電波反射体を設けた電波吸収体であって、抵抗膜を水分を含む外気から封止したことを特徴とするものである。
【0008】
本発明の電波吸収体においては、抵抗膜を誘電体層とその片面側に配置された表面被覆層との間に設けて抵抗膜の周囲に封止層を形成するか、或いは、抵抗膜を誘電体層の片面に設けて抵抗膜の表面と周囲に封止層を形成するか、或いは、抵抗膜を誘電体層の片面側に配置された表面被覆層の該誘電体層との対向面に設けて抵抗膜の表面と周囲に封止層を形成することにより、抵抗膜を水分を含む外気から封止することが好ましい。
【0009】
また、本発明の電波吸収体においては、抵抗膜を合成樹脂フィルムのいずれか片面に形成し、この抵抗膜形成フィルムの抵抗膜が誘電体層側となるように誘電体層の片側面側に設けると共に、抵抗膜の周囲に封止層を形成するか、或は、抵抗膜を合成樹脂フィルムのいずれか片面に形成して誘電体層とその片面側に配置された表面被覆層との間に設け、この抵抗膜形成フィルムの周囲に封止層を形成するか、或いは、抵抗膜を合成樹脂フィルムのいずれか片面に形成して誘電体層の片面側に設け、この抵抗膜形成フィルムの周囲と両面、又は、抵抗膜形成フィルムの周囲と抵抗膜の表面に封止層を形成することにより、抵抗膜を水分を含む外気から封止することも好ましい。
【0010】
そして、電波反射体の両側に設けられている誘電体層の電波反射体との反対面側に抵抗膜をそれぞれ設けていること、封止層がシリコーン系又はウレタン系の封止剤で形成したものであること、抵抗膜が極細導電繊維を含んだ膜であって極細導電繊維が凝集することなく分散して互いに接触していること、表面被覆層が紫外線吸収剤を含んだ合成樹脂板であること、抵抗膜、誘電体層、表面被覆層、封止層のいずれもが透視性を有すると共に電波反射体が光を透過して、透視性を有する電波吸収体であることが好ましい。
【0011】
ここで、「凝集することなく」とは、抵抗膜を顕微鏡で観察したとき平均径が0.5μm以上の凝集塊がないことを意味し、また、「接触」とは、極細導電繊維が現実に接触している場合と、極細導電繊維が導通可能な微小間隙をあけて接近している場合の双方を意味する。また、透視性とは光学特性であるヘーズが10%以下であることを意味する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電波吸収体のように抵抗膜が水分を含む外気から封止されていると、外気中の水分(湿気)との接触が断たれるため、後述の実験データで裏付けられるように、抵抗膜の表面抵抗率がほぼ一定に保たれる。従って、表面抵抗率の変化(増加・減少)による電波吸収性能の低下が防止され、長期間に亘って初期の良好な電波吸収性能を維持できるので、耐久性及び信頼性が大幅に向上する。
【0013】
特に、抵抗膜を誘電体層とその片面側に配置された表面被覆層との間に設けて抵抗膜の周囲に封止層を形成した電波吸収体は、誘電体層と表面被覆層と封止層によって抵抗膜の両面と周囲が確実に封止されて密封状態になるため、抵抗膜と外気中の水分との接触が確実に断たれ、水分との接触に起因する抵抗膜の表面抵抗率の変化(増加・減少)が防止されて耐久性及び信頼性が一層向上する。
【0014】
また、抵抗膜を誘電体層の片面に設けて抵抗膜の表面と周囲に封止層を形成した電波吸収体は、封止層によって抵抗膜の表面と周囲が確実に封止されると共に、誘電体層によって抵抗膜の裏面も確実に封止されて密封状態になるため、同様に抵抗膜の表面抵抗率の変化(増加・減少)が防止されて耐久性及び信頼性が一層向上する。
【0015】
また、抵抗膜を誘電体層の片面側に配置された表面被覆層の該誘電体層との対向面に設けて抵抗膜の表面と周囲に封止層を形成した電波吸収体は、封止層によって抵抗膜の表面と周囲が確実に封止されると共に、裏面被覆層によって抵抗膜の裏面も確実に封止されて密封状態になるため、同様に抵抗膜の表面抵抗率の変化(増加・減少)が防止されて耐久性及び信頼性が一層向上する。
【0016】
また、抵抗膜を合成樹脂フィルムのいずれか片面に形成し、この抵抗膜形成フィルムの抵抗膜が誘電体層側となるように誘電体層の片側面に設けて抵抗膜の周囲に封止層を形成した電波吸収体は、抵抗膜の表面が合成樹脂フィルムにより覆われて、誘電体層と封止層と共に抵抗膜を封止した状態にするので、同様に抵抗膜の表面抵抗率の変化(増加・減少)が防止されて耐久性及び信頼性が一層向上する。
【0017】
また、抵抗膜を合成樹脂フィルムのいずれか片面に形成して誘電体層とその片面側に配置された表面被覆層との間に設け、この抵抗膜形成フィルムの周囲に封止層を形成した電波吸収体は、誘電体層又は表面被覆層によって抵抗膜の表面が確実に封止され、合成樹脂フィルムと表面被覆層又は誘電体層とによって抵抗膜の裏面が二重に封止され、封止層によって抵抗膜の周囲が確実に封止されて密封状態になるため、抵抗膜と外気中の水分との接触が確実に断たれ、水分との接触に起因する抵抗膜の表面抵抗率の変化(増加・減少)が防止されて耐久性及び信頼性が一層向上する。
【0018】
また、抵抗膜を合成樹脂フィルムのいずれか片面に形成して誘電体層の片面側に設け、この抵抗膜形成フィルムの周囲と両面、又は、抵抗膜形成フィルムの周囲と抵抗膜の表面に封止層を形成した電波吸収体は、封止層によって抵抗膜の表面と周囲が確実に封止され、合成樹脂フィルム又は該フィルムと封止層によって抵抗膜の裏面が確実に封止されて密封状態となるため、同様に抵抗膜の表面抵抗率の変化(増加・減少)が防止されて耐久性及び信頼性が一層向上する。
【0019】
そして、本発明において、電波反射体の両側に設けられている誘電体層の片面側に抵抗膜をそれぞれ設けられていると、両側から伝播してくる電波を中央の電波反射体で反射して吸収することができ、電波反射体を共用できるので、安価な電波吸収体とすることができる。
【0020】
また、封止層がシリコーン系又はウレタン系の封止剤で形成された電波吸収体は、その優れた封止性能によって抵抗膜の表面抵抗率の変化(増加・減少)が確実に防止されるため、耐久性や信頼性が顕著に向上する。また、抵抗膜が極細導電繊維を含んだ膜であって、極細導電繊維が凝集することなく分散して互いに接触している電波吸収体は、この極細導電繊維が極めて細いものであるため抵抗膜が良好な透明性を有し、しかも、接触、導通に寄与する極細導電繊維の本数が相対的に多く接触頻度が高いため、その分だけ極細導電繊維の含有量を少なくしても所定の表面抵抗率を確保することが可能であり、極細導電繊維を減らせる分だけ抵抗膜の透明性を更に向上させることができる。
【0021】
そのため、抵抗膜、誘電体層、表面被覆層、封止層が透視性を有するものを選択使用すると共に電波反射体が光を透過するものを選択使用すると、透視性を有する電波吸収体とすることができる。このような透視性を有する電波吸収体は、これを通して向こう側を見ることもできるし、その周囲を明るくすることもできる。更に、表面被覆層が紫外線吸収剤を含んだ合成樹脂板である電波吸収体は、屋外で使用しても、この合成樹脂板によって抵抗膜や誘電体層が紫外線等から保護されるので耐候性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の具体的な実施形態を詳述する。
【0023】
図1は本発明の一実施形態に係る電波吸収体の断面図、図13の(a)(b)(c)は同電波吸収体の抵抗膜を示す概略断面図、図14は同抵抗膜のカーボンナノチューブを正面から見た分散状態を示す模式図である。
【0024】
この電波吸収体Aは、透視性の誘電体層1とその片面側(表面側:電波の入射する面側)に配置された透視性の表面被覆層4との間に透視性の抵抗膜3が設けられている。そして、この抵抗膜3の周囲には透視性或は透光性又は不透明な封止層6が形成され、この封止層6によって表面被覆層4と誘電体層1との周縁部同士が接合されている。また、誘電体層1の反対面側(裏面側)には光を透過する電波反射体2が設けられ、この電波反射体2の裏面側には透視性の裏面被覆層5が設けられ、これら誘電体層1と電波反射体2と裏面被覆層5とが接着剤などで一体化されている。
【0025】
この電波吸収体Aは、上記のように誘電体層1と表面被覆層4によって抵抗膜3の表裏両面が封止されると共に、封止層6によって抵抗膜3の周囲が封止されて密封状態になっているため、抵抗膜3は水分を含む外気から遮断され、外気中の水分との接触に起因する抵抗膜3の表面抵抗率の変化(増加・減少)が確実に防止される。そして、表面被覆層4、抵抗膜3、誘電体層1、裏面被覆層5がそれぞれ透視性を有し、電波反射体2が光を透過するので、これらが積層された電波吸収体Aは透視性を有するものとなる。
【0026】
上記の電波吸収体Aにおいて、表面被覆層4は、抵抗膜3の封止を確実にするために、抵抗膜3の周縁部を封止する封止層6で密着接合して誘電体層1と一体化することが必要であるが、電波反射体2や裏面被覆層5は誘電体層1の裏面側に単に重ねるだけでもよい。但し、この実施形態のように、誘電体層1と電波反射体2と裏面被覆層5とが接着剤などで一体化されていると、取扱性が向上するので好ましい。また、抵抗膜3を誘電体層1と表面被覆層4との間に設けるには、誘電体層1の片面(表面)に抵抗膜3を予め形成してその上に表面被覆層4を重ねる方法を採用してもよいし、表面被覆層4の誘電体層1との対向面に抵抗膜3を予め形成して誘電体層1の上に重ねる方法を採用してもよいし、或は、予め形成された抵抗膜3を誘電体層1と表面被覆層4との間に介在させる方法を採用してもよい。
【0027】
上記の誘電体層1は高誘電率の合成樹脂やガラスなどからなるものであって、この誘電体層1の厚さは、用途や実用強度を考慮して0.5〜15mmの範囲内で、λ/4電波吸収体理論(λ:誘電体層1内での電波の波長)に基づいて設計されている。二次曲げ加工性を考慮すると、ガラスよりも熱可塑性合成樹脂で誘電体層1を形成することが望ましく、更に、屋外で使用する際の耐熱性や透視性を考慮すると、融点や光線透過率が高いアクリル系樹脂(メチルメタクリレート等)、オレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー等)、ポリエステル系樹脂(ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート等)などで誘電体層1を形成することが望ましい。これらの中で、ポリカーボネート樹脂は機械的強度に優れ、全光線透過率が85%以上(厚さ3mm)、ヘーズが1.0%以下と透明性に優れているので、屋外で使用する透視性ないし透明な電波吸収体の誘電体層1としては特に好ましく用いられる。なお、ポリカーボネートはメチルメタクリレート樹脂に比べ多少耐候性に劣るが、紫外線吸収剤等を添加したり、表面被覆層4として後述する耐候性に優れた樹脂板を使用することによって、実用に十分な耐候性を付与できる。
【0028】
このような合成樹脂やガラスで作製された誘電体層1は、抵抗膜3の裏面を封止して裏面から水分を含んだ外気が浸透するのを阻止するという役目も果たしている。
【0029】
上記の電波反射体2は光を透過する導電材からなるものであって、例えば4〜250メッシュ程度の目を備えた導電メッシュ材や金属メッシュ材、或いは、金属金網や金属格子、或いは、開口率の大きいパンチングメタル、或いは、表面抵抗率が10Ω/□以下の透視性乃至透明な導電膜を形成した透明フィルムなどが好ましく使用される。
【0030】
上記の抵抗膜3は、周波数帯域1〜18GHzの電波吸収に適するように、自由空間の電波特性インピーダンスに合致する377Ω/□を目標値とする表面抵抗率を備えた透視性、好ましくは透明な薄膜であって、具体的には377±30Ω/□の表面抵抗率を備えたITO等の金属酸化物の蒸着膜や、極細導電繊維を含んだ同様の表面抵抗率を有する薄膜からなるものが好ましく用いられ、図1に示す実施形態の電波吸収体Aでは、後者の極細導電繊維を含んだ抵抗膜3が採用されている。
【0031】
この極細導電繊維を含んだ抵抗膜3は、極細導電繊維を分散させた塗液を塗布して形成した薄膜であって、極細導電繊維の含有量、塗膜厚み、分散状態などの諸条件を調節することにより、377±30Ω/□の表面抵抗率が得られるようにしたものである。この実施形態では、極細導電繊維としてカーボンナノチューブを使用し、カーボンナノチューブの目付け量が30〜450mg/m2、好ましくは30〜250mg/m2となるように、塗液のカーボンナノチューブの含有量や塗膜の厚みなどを調節して塗布することで、377±30Ω/□の表面抵抗率を備えた抵抗膜3を形成している。このような抵抗膜3は、カーボンナノチューブの目付け量(含有量、濃度)等に対応して抵抗膜3の表面抵抗率がほぼ定まり、表面抵抗率の大きいバラツキが生じにくい。尚、上記の目付け量は、抵抗膜3を電子顕微鏡で観察し、その平面面積に占めるカーボンナノチューブの面積割合を測定し、これに電子顕微鏡で観察した厚みとカーボンナノチューブの比重(グラファイトの文献値2.1〜2.3の平均値2.2を採用)を乗算して算出した値である。
【0032】
極細導電繊維としては、上記のカーボンナノチューブが最も好ましく用いられるが、その他の繊維であっても抵抗膜3の表面抵抗率を377±30Ω/□にすることができるものであれば制限なく使用可能である。例えば、カーボンナノホーン、カーボンナノワイヤー、カーボンナノファイバー、グラファイトフィブリルなどの極細長炭素繊維、白金、金、銀、ニッケル、シリコンなどの金属ナノチューブ、ナノワイヤーなどの極細長金属繊維、酸化亜鉛などの金属酸化物ナノチューブ、ナノワイヤーなどの極細長金属酸化物繊維などの、直径が0.3〜100nmで長さが0.1〜20μm、好ましくは0.1〜10μmのものが用いられる。
【0033】
抵抗膜3のカーボンナノチューブは凝集することなく分散して互いに接触しており、具体的にはカーボンナノチューブが1本ずつ分離した状態で、もしくは、複数本集まって束になったものが1束ずつ分離した状態で分散して互いに接触している。そして、抵抗膜3がカーボンナノチューブとバインダーからなるものであると、図13(a)に示すように、カーボンナノチューブ3aはバインダー3bの内部に上記の分散状態で3次元構造をなして分散して互いに接触しているか、或いは、図13(b)に示すように、カーボンナノチューブ3aの一部がバインダー3b中に入り込み他の部分がバインダー3bの表面から突出ないし露出して上記の分散状態で分散して互いに接触しているか、或いは、一部のカーボンナノチューブ3aが図13(a)のようにバインダー3bの内部に、他のカーボンナノチューブ3aが図13(b)のようにバインダー3bの表面から突出ないし露出して上記分散状態で3次元構造をなして分散して互いに接触している。また、抵抗膜3がバインダーを含まないと、図13(c)に示すように、カーボンナノチューブが上記分散状態で分散して互いに接触して、カーボンナノチューブの3次元構造の層となっている。
なお、上記バインダーとしては、透明な合成樹脂が透視性の抵抗膜3を得るうえで好ましい。
【0034】
これらのカーボンナノチューブ3aの正面から見た分散状態を模式的に示したものが図14であって、この図14から理解できるように、カーボンナノチューブ3aは多少曲がっているが、1本ずつ或いは1束ずつ分離し、互いに複雑に絡み合うことなく、即ち凝集することなく、単純に交差した状態で抵抗膜3の内部或いは表面に分散し、それぞれの交点で接触している。尚、カーボンナノチューブ3aは完全に1本ずつ或いは1束ずつ分離して分散している必要はなく、一部に絡み合った小さな凝集塊があってもよいが、既述したように「凝集することなく」とは長径と短径の平均値が0.5μm以上の凝集塊がないことを意味するものであるから、存在する凝集塊の平均径は0.5μm未満であることが必要である。
【0035】
このように、極細導電繊維であるカーボンナノチューブ3aが抵抗膜3内で多少曲がって1本ずつ或は1束ずつ分離して、互いに複雑に絡み合うことなく3次元構造をなして分散していると、抵抗膜3を曲げてもカーボンナノチューブ3aが伸びたりずれたりするだけであるのでお互いの接触が保たれる。そのため、この電波吸収体Aを曲げても表面抵抗率の増加が殆どなく、電波吸収性能を維持することができるので、湾曲した電波吸収体を作製できるし、施工現場で曲げて使用することもできる。
【0036】
カーボンナノチューブ3aは直径が0.3〜80nmと極めて細いため、これを前記の目付け量に相当する量だけ含んだ抵抗膜3は透視性が良好であるが、特に上記のような分散状態でカーボンナノチューブ3aが分散していると、凝集しないで接触、導通に寄与するカーボンナノチューブ3aの本数が相対的に増え、チューブ相互の接触頻度が高くなるため、その分だけカーボンナノチューブ3aの目付け量を少なくしても前記の表面抵抗率(377±30Ω/□)を確保できるようになり、このカーボンナノチューブ3aを少なくできる分だけ透視性を更に向上させることが可能となる。ちなみに、前記の目付け量に相当する量のカーボンナノチューブを含んだ377±30Ω/□の表面抵抗率を有する抵抗膜3の光線透過率(分光光度計による550nmの光の透過率)は、87%前後であり、それゆえ透視性の良い誘電体層1と透光量の多い電波反射体2を選択して電波吸収体を作製すれば、全光線透過率が40%以上、ヘーズが10%以下の透視性を有する電波吸収体を確実に得ることができる。より好ましくは全光線透過率が50%以上で、ヘーズは10%以下である。
【0037】
上記のカーボンナノチューブ3aには、中心軸線の周りに複数のカーボン壁を同心的に備えた多層カーボンナノチューブや、中心軸線の周りに単独のカーボン壁を備えた単層カーボンナノチューブがある。前者の多層カーボンナノチューブは、中心軸線の周りに直径が異なる複数の円筒状に閉じたカーボン壁を有する多層になって構成されたものと、渦巻き状に多層に形成されているものとがある。その中でも、好ましい多層カーボンナノチューブは、2〜30層、より好ましくは2〜15層重なったものが用いられる。そのような多層カーボンナノチューブを前記の分散状態で分散させると、既述したように光線透過率の良い抵抗膜3が形成される。多層カーボンナノチューブは1本ずつ分離した状態で分散しているものが殆どであるが、2層ないし3層カーボンナノチューブは、束になって分散している場合もある。
【0038】
一方、後者の単層カーボンナノチューブは、上記のようにカーボン壁が中心軸線の周りに円筒状に閉じた単層のチューブである。このような単層カーボンナノチューブは通常2本以上が集まって束になった状態で存在し、その束が1束ずつ分離して、束同士が複雑に絡み合うことなく凝集せずに単純に交差した状態で抵抗膜3の内部もしくは表面に分散され、それぞれの交点で接触している。そして、好ましくは10〜50本の単層カーボンナノチューブが集まって束になったものが用いられる。なお、1本ずつ分離した状態で分散している場合も当然本発明に含まれる。
【0039】
カーボンナノチューブの分散性を高めるためには、抵抗膜3中に分散剤を含有させることが望ましい。分散剤としては、酸性ポリマーのアルキルアンモニウム塩溶液、3級アミン修飾アクリル共重合物、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン共重合物などの高分子系分散剤やカップリング剤などが好ましく使用される。
【0040】
抵抗膜3は、バインダーのないカーボンナノチューブのみからなる薄膜であってもよいが、カーボンナノチューブの脱落防止性、表面抵抗率の安定性、透明性などのために、バインダーを使用することが好ましい。このバインダーとしては、熱可塑性樹脂、例えばポリ塩化ビニル、ポリメチルメタクリレート、ニトロセルロース、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、フッ化ビニリデンなどのフッ素樹脂などの透明な樹脂が使用され、また、熱や紫外線や電子線や放射線で硬化する硬化性樹脂、例えばメラミンアクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル変性シリケートなどのシリコーン樹脂などの透明な樹脂も使用される。なお、このバインダーとしては透光性樹脂を使用してもよく、このような樹脂を使用しても抵抗膜3を薄くすることで透視性を有する抵抗膜3とすることができる。また、このバインダーにはコロイダルシリカのような無機材を添加してもよく、その場合は表面硬度や耐摩耗性に優れた抵抗膜3が形成される。
【0041】
抵抗膜3の表面を覆う表面被覆層4は、誘電体層1と同様の透視性を有する合成樹脂やガラスなどからなる層であって、この表面被覆層4は、抵抗膜3の表面を水分を含む外気から封止する目的と、抵抗膜3や誘電体層1を直射日光による紫外線劣化から保護する目的で設けられたものである。さらに、合成樹脂からなる表面被覆層4であると、飛来物衝突による破損も防止することもできる。そのため、表面被覆層4の厚さは、1〜4mm程度の耐候性に優れた強度のある透視性を有するアクリル系樹脂板や、紫外線吸収剤を含有させて耐候性を高めた同程度の厚みを有する透視性を有するポリエステル系、オレフィン系等の合成樹脂板が好ましく使用される。特に、紫外線吸収剤を含有させたポリカーボネート樹脂は機械的強度に、優れ、耐候性や透明性も良好であるので、表面被覆層4として極めて好ましい。
【0042】
また、電波反射体2を覆う裏面被覆層5は、電波反射体2や誘電体層1や抵抗膜3を飛来物衝突による破損や直射日光による紫外線劣化から保護する目的で設けられたものであって、表面被覆層4と同様の樹脂板、即ち、厚さ1〜4mm程度の耐候性に優れた強度のある透視性を有するアクリル系樹脂板、紫外線吸収剤を含有させて耐候性を高めた同程度の厚みを有する透視性を有するポリエステル系、オレフィン系等の合成樹脂板、特に、紫外線吸収剤を含有させたポリカーボネート樹脂などが好ましく用いられる。
【0043】
抵抗膜3の周囲を封止する封止層6は、抵抗膜3に対する周囲からの外気中の水分の浸透を阻止して抵抗膜3の表面抵抗率の経時的な変化(増加・減少)を防止するものであって、例えば、ポリウレタン系、エチレン−酢酸ビニル共重合体系、エチレンモノカルボン酸ビニルエステル共重合体系、エチレン−アクリル酸ビニルエステル共重合体系などのホットメルトシートや、シリコーン系、エポキシ系、アクリル系、オルガノポリシロキサン系、カルバミン酸エステル系、ビニル系、加水分解性シリル基系、シリル化ウレタン系、ポリオキシアルキレン重合体系などの硬化型のシーリング剤や、樹脂を溶剤に溶かした合成樹脂塗液などの封止剤から形成されるものである。このうち、比較的穏やかな加熱条件で軟化溶融して粘着性ないし接着性を発現する封止性能に優れたポリウレタン系のホットメルトシートや、室温から100℃未満の温度域で粘着性ないし接着性を有し優れた封止性能を発揮するシリコーン系シーリング剤が特に好ましく使用される。これらの封止剤は無色透明のものを使用することが好ましいが、この実施形態の透視性電波吸収体Aのように抵抗膜3の周囲を封止する場合や、後述する図6の実施形態のように電波吸収体Fなどの周囲の端面を封止する場合は、不透明の封止剤を使用してもよい。
【0044】
また、上記の封止層6に用いられるホットメルトシート、シーリング剤、樹脂塗液などの封止剤は、表面被覆層4、抵抗膜3、誘電体層1、電波反射体2、裏面被覆層5を接合一体化する場合に接着剤としても使用される。この場合、これらの界面の全部を上記接着剤で接合一体化した電波吸収体は、それぞれの接合界面での光の散乱が少なくなり、電波吸収体の透視性を向上させ、優れた透視性を有する電波吸収体Aとすることができる。なお、表面被覆層4、誘電体層1、電波反射体2、裏面被覆層5とをボルトなどの固定具で固定することにより、これらの各層を一体化してもよい。
【0045】
以上のような電波吸収体Aは、例えば次の方法で製造することができる。先ず、カーボンナノチューブなどの極細導電繊維と、溶媒と、必要に応じて前記バインダーと、必要に応じて前記の分散剤とを充分混合して塗液を調製する。そして、前記の合成樹脂板等からなる誘電体層1の片面(表面)、又は、前記の合成樹脂板からなる表面被覆層4の誘電体層1との対向面に、その周縁部を除いて上記の塗液を塗布して表面抵抗率が377±30Ω/□の抵抗膜3を形成する。次いで、この抵抗膜3の周囲の誘電体層1又は表面被覆層4の周縁部表面に封止層6として幅狭のホットメルトシートを配置して、誘電体層1と表面被覆層4を重ねる一方、誘電体層1の反対面に電波反射体2を重ねて、その周縁部に接着剤として例えば上記のホットメルトシートを配置し、その上(裏面)に前記の合成樹脂板からなる裏面被覆層5を重ねる。そして、この積層物を上下の艶板で挟みながら加熱してホットメルトシートを軟化溶融させることにより、抵抗膜3の周囲を封止すると共に、抵抗膜3を覆う表面被覆層4と誘電体層1の周縁部同士を接合し、同時に誘電体層1の反対面に電波反射体2と裏面被覆層5を接合して、電波吸収体Aを製造する。このようにして得られる電波吸収体Aは、その全光線透過率を40%以上、ヘーズを10%以下にすることでき、良好な透視性(視認性)を有するものが得られる。
【0046】
なお、透視性を有さないが透光性を有する電波吸収体Aとしたい場合には、例えば、誘電体層1や表面被覆層4や裏面被覆層5として予め光拡散剤や充填剤を添加したものを用いたり、或いは、表面被覆層4や裏面被覆層5の外表面に微細な凹凸を形成したりてしてヘーズを高くすることで、非透視性で透光性の電波吸収体Aを簡単に得ることができる。更に、不透明の電波吸収体Aとしたい場合は、誘電体層1、表面被覆層4、裏面被覆層5とを形成する合成樹脂やガラスに顔料などの着色剤を添加することによって不透明としたり、或は電波反射体2に光を透過しない金属板などを使用したり、或は抵抗膜3にカーボンなどを添加して不透明にするなどにより、これらのいずれか或は全てを不透明にすることにより、簡単に得ることができる。
【0047】
また、封止層6を形成するものとしてシーリング剤や樹脂塗液の封止剤を用いる場合は、上記の導電膜3を形成した誘電体層1又は表面被覆層4の四周の周縁部にシーリング剤若しくは樹脂塗液を塗布して誘電体層1と表面被覆層4を重ね、これらの誘電体層1と表面被覆層4の周縁部の隙間をシーリング剤若しくは樹脂塗液で充填した後、これらを硬化して封止層6を形成し、この封止層6で上記周縁部を封止接合する。そして、これを反転させて誘電体層1の反対面に電波反射体2を重ね、接着剤として例えば上記のシーリング剤を電波反射体2の周縁部に塗布して、その上に裏面被覆層5を重ね、シーリング剤を硬化させて電波反射体2と裏面被覆層5を誘電体層1の裏面に接合一体化することにより、電波吸収体Aを製造する。
【0048】
この実施形態の透視性を有する電波吸収体Aのように、抵抗膜3が誘電体層1とその片面側の表面被覆層4との間に設けられ、抵抗膜3の周囲に封止層6が形成されていると、誘電体層1と表面被覆層4と封止層6によって抵抗膜3が完全に包囲され、抵抗膜3の両面及び周囲が確実に封止されて密封状態になり、抵抗膜3と外気中の湿気(水分)との接触が断たれるため、抵抗膜3の表面抵抗率がほぼ一定に保たれる。従って、抵抗膜3の表面抵抗率の変化による電波吸収性能の低下が防止され、長期間に亘って初期の良好な電波吸収性能が維持されるので、耐久性及び信頼性が大幅に向上する。しかも、この実施形態の電波吸収体Aは、抵抗膜3の中に、カーボンナノチューブが凝集することなく1本ずつ分離した状態で、もしくは、複数本集まって束になったものが1束ずつ分離した状態で、分散して互いに接触しているため、カーボンナノチューブの分散状態が極めて良好で相互の接触頻度が高く、少しの含有量で所定の表面抵抗率を確保できるため透視性が良い抵抗膜3となり、これを用いている電波吸収体Aは透視性が良好なものとなる。また、屋外で使用しても、表面被覆層4及び裏面被覆層5によって、抵抗膜3や誘電体層1や電波反射体2を紫外線劣化から保護することができる。さらに、合成樹脂製の表面被覆層4及び裏面被覆層5であると、飛来物よる破損を防止できる。
【0049】
図2は本発明の他の実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【0050】
この電波吸収体Bは、抵抗膜3を合成樹脂フィルム30のいずれか片面に形成して、この抵抗膜形成フィルム31を誘電体層1とその片面側(表面側)に配置された表面被覆層4との間に設け、この抵抗膜形成フィルム31の両面、即ち、抵抗膜3の表面及び合成樹脂フィルム30の反対面と、抵抗膜形成フィルム31の周囲に封止層6を形成した点で、前述した図1の透視性を有する電波吸収体Aと異なっている。
【0051】
この電波吸収体Bに使用する抵抗膜形成フィルム31は、誘電体層1と同様のアクリル系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂などからなる透視性、好ましくは透明な合成樹脂フィルム30の片面に抵抗膜3を形成したものであって、この抵抗膜3は前記と同様の377Ω/□の表面抵抗率を目標値とする透視性、好ましくは透明な薄膜であり、具体的には377±30Ω/□の表面抵抗率を備えたITO等の金属酸化物の蒸着膜や、前記の極細導電繊維を含んだ同様の表面抵抗率を有する塗膜からなるものである。この電波吸収体Bでは、抵抗膜3が誘電体層1側となるように抵抗膜形成フィルム31を誘電体層1と表面被覆層4の間に配設しているが、抵抗膜3が表面被覆層4側となるように配設しても勿論よい。
【0052】
この電波吸収体Bの他の構成は前記の電波吸収体Aと同様であるので、図2において同一部材に同一符号を付して説明を省略する。
【0053】
このような電波吸収体Bは、例えば次の方法で製造することができる。即ち、封止層6として前記のホットメルトシートの封止剤を使用し、誘電体層1の片面側(表面側)にホットメルトシートと、抵抗膜形成フィルム31と、ホットメルトシートと、表面被覆層4とをこの順に重ねる。そして、誘電体層1の反対面側に電波反射体2を重ねて、さらに接着剤として例えばホットメルトシートを配置し、その裏面に裏面被覆層5を重ねて、この積層物を上下の艶板で挟みながら加熱し、ホットメルトシートを軟化溶融させて接合一体化すると、透視性を有する電波吸収体Bが製造される。
【0054】
斯かる電波吸収体Bは、抵抗膜3の表面と周囲が封止層6で封止され、抵抗膜3の裏面が合成樹脂フィルム30と封止層6で二重に封止されて密閉状態となっているため、抵抗膜3と外気中の水分との接触が断たれて抵抗膜3の表面抵抗率がほぼ一定に保たれる。従って、抵抗膜3の表面抵抗率の変化による電波吸収性能の低下が防止され、長期間に亘って初期の良好な電波吸収性能が維持されるので、耐久性及び信頼性が大幅に向上する。特に、この電波吸収体Bのように抵抗膜形成フィルム31の両面と周囲が封止層6で覆われていると、周囲の封止層6にクラック等が生じて、万一、水分を含んだ外気が周囲の封止層6から侵入するようなことがあったとしても、抵抗膜形成フィルム31の両面を覆う封止層6によってそれ以上内部に浸透することが阻止され、抵抗膜3と外気中の水分との接触が断たれた状態を維持するので、耐久性及び信頼性が一層向上することになる。また、抵抗膜形成フィルム31の表裏面が封止層6を介して表面被覆層4と誘電体層1で被覆されているので、それらの界面が互いに密着して光散乱が少なくなるために透視性に優れ且つ光線透過率が向上する利点もある。
【0055】
なお、図2に示す実施形態の透視性電波吸収体Bでは、抵抗膜形成フィルム31の周囲と両面を封止層6で封止しているが、抵抗膜形成フィルム31の周囲と抵抗膜3の表面を封止層6で封止する構成としてもよい。このような構成の透視性電波吸収体も、抵抗膜3の表面と周囲が封止層6で封止されると共に、抵抗膜3の裏面が合成樹脂フィルム30で封止されて密封状態となるため、抵抗膜3と外気中の水分との接触が断たれて表面抵抗率がほぼ一定に保たれる。
【0056】
また、図2の電波吸収体Bにおいて、抵抗膜形成フィルム31の両面を覆う封止層6を省略して、誘電体層1と表面被覆層4とで抵抗膜形成フィルム31を直接挟み、抵抗膜形成フィルム31の周囲にのみ封止層6を設ける構成としてもよい。このような構成の透視性電波吸収体Bも、抵抗膜3の表面が誘電体層1(抵抗膜3が表面被覆層4側となるように抵抗膜形成フィルム31を設置する場合は表面被覆層4)によって封止され、抵抗膜3の裏面が合成樹脂フィルム30、更には表面被覆層4によって封止され、抵抗膜3の周囲が封止層6によって封止されて密封状態になっているので、同様に抵抗膜3と外気中の水分との接触が断たれて表面抵抗率がほぼ一定に保たれる。
【0057】
図3は本発明の更に他の実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【0058】
この電波吸収体Cは、誘電体層1の片面にその周縁部を除いて抵抗膜3を形成し、この抵抗膜3の表面と周囲に封止層6を形成している点で、前述の図1の透視性を有する電波吸収体Aと異なっている。その他の構成は前述の透視性電波吸収体Aと同様であるので、図3において同一部材に同一符号を付して説明を省略する。
【0059】
斯かる電波吸収体Cは、前述の電波吸収体Aを製造する際に、抵抗膜3と表面被覆層4との間、及び抵抗膜3の周囲にホットメルトシートの封止剤を配置したり、抵抗膜3の表面及び周囲にシーリング剤又は樹脂塗液などの封止剤を塗布或は充填したりして、抵抗膜3の表面及び周囲を封止する封止層6を更に形成することによって製造することができる。
【0060】
このような透視性を有する電波吸収体Cも、表面被覆層4と封止層6によって抵抗膜3の表面が封止されると共に封止層6により抵抗膜3の周囲が封止され、さらに、誘電体層1によって抵抗膜3の裏面が封止されて密封状態になるため、外気中の水分との接触が断たれ、抵抗膜3の表面抵抗率がほぼ一定に保たれるので、耐久性及び信頼性が向上する。そして、周囲の封止層6にクラック等が生じて、万一、水分を含んだ外気が周囲の封止層6から侵入するようなことがあったとしても、抵抗膜3の表面を覆う封止層6によってそれ以上内部に浸透することが阻止されるので、抵抗膜3の表面抵抗率はほぼ一定に保たれ、初期の電波吸収性能が維持される。また、抵抗膜3の表面が封止層6で被覆されていると、抵抗膜3と表面被覆層4との界面での光散乱が少なくなり透視性及び光線透過率が向上する利点もある。
【0061】
この図3に示す実施形態の透視性を有する電波吸収体Cでは、誘電体層1の片面に抵抗膜3を形成してその表面と周囲を封止層6で封止しているが、表面被覆層4の誘電体層1との対向面に抵抗膜3を形成してその表面と周囲を封止層6で封止する構成としてもよい。このような構成の透視性電波吸収体も、封止層6によって抵抗膜3の表面と周囲が封止されると共に、表面被覆層4によって抵抗膜3の裏面が封止されて密封状態となるため、同様に抵抗膜3と外気中の水分との接触が断たれて表面抵抗率がほぼ一定に保たれる。
【0062】
図4は本発明の更に他の実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【0063】
この電波吸収体Dは、誘電体層1の片面側(表面側)全体に抵抗膜3を形成して抵抗膜3の表面を封止層6で封止する点と、電波吸収体の側面全体に亘って形成した封止層6によって抵抗膜3の周囲を封止している点で、前述の図3に示す電波吸収体Cと異なっている。電波吸収体Dの側面全体を覆う封止層6としては、前述のホットメルトシート、シーリング剤、樹脂塗液などの封止剤が使用されるが、この中でも、電波吸収体Dの側面全体に塗布し易いシーリング剤又は樹脂塗液が好ましく用いられる。この電波吸収体Dは、側面全体に封止層6を形成するので、表面被覆層4、抵抗膜3の表面を覆う封止層6、抵抗膜3、誘電体層1、電波反射体2、裏面被覆層5を同一の形状及び大きさとして、側面全体が平坦面となるようにしてある。この電波吸収体Dの他の構成は、前述の図3の電波吸収体Cと同様であるので、図4において同一部材に同一符号を付して説明を省略する。
【0064】
このような透視性を有する電波吸収体Dは、前述の電波吸収体Cを製造する際に、誘電体層1、電波反射体2、表面被覆層4、裏面被覆層5、抵抗膜3の表面を覆う封止層形成用のホットメルトシートの封止剤をそれぞれ同一の形状及び大きさに揃え、誘電体層1の片面全体に抵抗膜3を形成すると共に、上記の各部材を積層一体化して電波吸収体の本体部分を作製し、その四周の側面全体に前記のシーリング剤等の封止剤を塗布、硬化させ、側面全体を覆う封止層6を形成することによって製造される。
【0065】
斯かる透視性電波吸収体Dも、抵抗膜3の表面と周囲が、該表面を覆う表面被覆層4及び封止層6と、電波吸収体側面の封止層6によって封止され、抵抗膜3の裏面が誘電体層1で封止されて密封状態となっているため、抵抗膜3と外気中の水分との接触が断たれて抵抗膜3の表面抵抗率がほぼ一定に保たれ、初期の電波吸収性能が維持されるので、耐久性及び信頼性が一層向上する。さらに、表面の封止層6により界面が互いに密着して光散乱が少なくなるために透視性に優れ且つ光線透過率が向上する利点もある。また、電波吸収体Dの各構成部材は側面の封止層6で接合一体化されるので、各構成部材を接着する必要がなくなり、製造が容易となる。
【0066】
なお、図4の電波吸収体Dでは、誘電体層1の片面(表面)全体に抵抗膜3を形成してその表面を封止層6で被覆しているが、表面被覆層4の誘電体層1との対向面全体に抵抗膜3を形成してその表面を封止層6で被覆する構成としてもよい。このような構成の電波吸収体も、抵抗膜3が封止層6と表面被覆層4で封止されて密封状態となるため、同様に抵抗膜3と外気中の水分との接触が断たれて表面抵抗値がほぼ一定に保たれる。
なお、抵抗膜3の表面を封止層6で封止する必要は必ずしもないが、透視性を向上させる点からは封止することが好ましい。
【0067】
図5は本発明の更に他の実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【0068】
この電波吸収体Eは、誘電体層1の大きさより小さな抵抗膜形成フィルム31を、抵抗膜3が表面被覆層4側となるように誘電体層1と表面被覆層4との間に介在させ、この抵抗膜形成フィルム31の表面と周囲(誘電体層1の周縁部表面)に封止層6を形成している点で、前述の図4に示す透視性電波吸収体Dと異なっている。その他の構成は透視性電波吸収体Dと同様であるので、図5において同一部材に同一符号を付して説明を省略する。
【0069】
このような透視性を有する電波吸収体Eは、前記の電波吸収体Dを製造する際に、誘電体層1の片面に抵抗膜3を形成することなく、予め作製していた抵抗膜形成フィルム31を誘電体層1の重ね合せるように変更するだけで、同様に製造することができる。
【0070】
斯かる透視性を有する電波吸収体Eも、前述の電波吸収体Dと同様の作用効果を奏するが、抵抗膜形成フィルム31の周囲がその周縁部に形成された封止層6と電波吸収体の側面全体に形成された封止層6によって二重に封止されているため、クラック等が発生することがあってもクラックが抵抗膜3まで達することが皆無に等しく、水分を含んだ外気の侵入が一層確実に阻止されるので、耐久性及び信頼性がより一層向上する。
【0071】
なお、図5の電波吸収体Eでは、誘電体層1の片面側(表面側)に抵抗膜形成フィルム31を重ね合せて封止層6を設けたが、表面被覆層4の下面に抵抗膜形成フィルム31のフィルムが重なるように重ね合せ、抵抗膜3と誘電体層1との間に封止層6を形成してもよい。このような構成の電波吸収体も、抵抗膜3が合成樹脂フィルム30と表面被覆層4で封止されて密封状態となるため、同様に抵抗膜3と外気中の水分との接触が断たれて表面抵抗値がほぼ一定に保たれる。また、表面の封止層6は必ずしも必要ではなく、省略することもできる。
【0072】
図6は本発明の更に他の実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【0073】
この電波吸収体Fは、誘電体層1の片面に形成した抵抗膜3を覆う封止層を省略し、誘電体層1の裏面の電波反射体2に接着剤層7を介して裏面被覆層5を積層一体化した点で、前述の図4に示す透視性電波吸収体Dと異なっている。接着剤層7としては、前記の封止層形成用のホットメルトシートやシーリング剤や樹脂塗液などの封止剤が使用されるが、透視性又は透明な公知の接着剤、或は透視性の両面粘着テープなども使用可能である。この電波吸収体Fの他の構成は前述の電波吸収体Dと同様であるので、図6において同一部材に同一符号を付して説明を省略する。
【0074】
このような透視性を有する電波吸収体Fは、前記の電波吸収体Dを製造する際に、誘電体層1の片面全体に形成した抵抗膜3の表面に封止層形成用のホットメルトシートを重ねることなく、電波反射体2の表面(下側表面)に接着剤層7となるホットメルトシートなどを介して裏面被覆層4を重ねるように変更するだけで、同様に製造することができる。なお、抵抗膜3は表面被覆層4に形成して誘電体層1と重ね合せてもよい。
【0075】
斯かる透視性を有する電波吸収体Fも、抵抗膜3の両面が誘電体層1と表面被覆層4で封止されると共に、抵抗膜3の周囲が電波吸収体側面の封止層6で封止されて密封状態になっているため、同様に抵抗膜3と外気中の水分との接触が断たれて表面抵抗率がほぼ一定に保たれる。そして、接着剤層7によって誘電体層1と電波反射体2と裏面被覆層5が接合一体化されているため、これらの接合強度も向上すると共に、接着剤層7により電波反射体2と誘電体層1及び裏面被覆層5とが密着して光散乱が少なくなり、透視性及び光線透過率が向上する。
【0076】
なお、上記の接着剤層7は、前述した電波吸収体A〜Eや後述する電波吸収体G〜Lにおいても、電波反射体2と裏面被覆膜5との間に設けても勿論よい。さらに、接着剤層7は、誘電体層1と電波反射体2の間、或は、電波反射体2と誘電体層1及び裏面被覆層5との間の両方に設けてもよい。さらに、接着剤層7は、電波反射体2の全面に設ける必要はなくて、その四周周囲に設けたり、線状に設けたりして、電波反射体2が剥離しないようにされていればよい。四周周囲に接着剤層7を設ける場合は、透視性を有さないものを使用しても、電波吸収体は透視性を有するものとすることができる。
【0077】
図7は本発明の更に他の実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【0078】
この電波吸収体Gは、抵抗膜3と表面被覆層4との間に空間8を形成している点、及び接着剤層を介在させていない点で、前述の図6に示す透視性電波吸収体Fと異なっている。空間8は空気層であり、抵抗膜3と表面被覆層4との周囲部分にスペーサ81を配置して一体化することで容易に形成することができる。該スペーサ81としては、厚みの厚いホットメルトシートを配置したり、シーリング剤や樹脂塗液を厚く塗布して形成したり、或は、他部材例えば合成樹脂シートやプレートなどを配置したりして、抵抗膜3と表面被覆層4との間を隔てて空間8が形成されている。
この透視性を有する電波吸収体Gの他の構成は前述の電波吸収体Fと同様であるので、図7において同一部材に同一符号を付して説明を省略する。
【0079】
この透視性を有する電波吸収体Gには、上記の如き空間8が形成されていて、当該空間8内の水分は抵抗膜3に浸透するかもしれないが、当該空間8は狭いので水分の量が少なくて、例え表面抵抗率が変化しても実質的な変化はない。そして、空間8は水分を含む外気から表面被覆層4、誘電体層1、封止層6にて封止してあり、外気の水分が空間8へ、延いては抵抗膜3へ浸透することはない。そのため表面抵抗率の変化を抑制することができる。なお、空間8内に乾燥剤などを内在させて湿気を取り除くこともできる。
【0080】
このような透視性を有する電波吸収体Gは、前記の図6に示す電波吸収体Fを製造する際に、誘電体層1の片面全体に形成した抵抗膜3の表面の周囲にスペーサ81を配置した後に表面被覆層4を重ね合わせることで、容易に製造することができる。なお、抵抗膜3を表面被覆層4の下面に形成し、この抵抗膜3と誘電体層1との間にスペーサ81を介在させてもよい。
【0081】
斯かる透視性を有する電波吸収体Gも、抵抗膜3の裏面が誘電体層1で封止され、表面が空間8を介して表面被覆層4で封止されると共に、抵抗膜3の周囲が電波吸収体側面の封止層6で封止されて密封状態になっているため、同様に抵抗膜3と外気中の水分との接触が断たれて表面抵抗率がほぼ一定に保たれる。そして、空間8も周囲の封止層6で封止されて外気と絶たれていて、外気中の水分が浸透することがないので、空間8が介在されていても、抵抗膜3の表面抵抗率は一定に保たれる。
【0082】
図8は本発明の更に他の実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【0083】
この電波吸収体Hは、誘電体層1の片面側(表面側)の周囲を除く表面に抵抗膜3を形成し、反対面側(裏面側)に電波反射体2を配置し、前記抵抗膜3の表面及び周囲を封止層6で封止したものである。
その他の電波吸収体Hを構成する誘電体層1、電波反射体2、抵抗膜3は、前記各実施形態で用いられたものが同様に使用されるので、説明を省略する。
【0084】
封止層6は、前記各実施形態で用いられるホットメルトシートやシーリング剤や樹脂塗液などの封止剤が用いられて、抵抗膜3の表面はもとより、抵抗膜3の周囲即ち誘電体層1の周囲表面(抵抗膜3が形成されていなくて、且つ抵抗膜3の周囲側端)にまで、ホットメルトシートを配置したり、シーリング剤や樹脂塗液を塗布・硬化させることで、表面及び周囲に封止層6が形成されたものである。
【0085】
斯かる透視性を有する電波吸収体Hも、抵抗膜3の表面と周囲が封止層6によって封止され、抵抗膜3の裏面が誘電体層1で封止されて密封状態となっているため、抵抗膜3と外気中の水分との接触が断たれて抵抗膜3の表面抵抗率がほぼ一定に保たれ、初期の電波吸収性能が維持されるので、耐久性及び信頼性が一層向上する。
【0086】
なお、この電波吸収体Hは、抵抗膜3の表面を封止層6のみで覆っているが、さらにこの封止層6の表面に他部材(例えば、合成樹脂シートなど)を積層したりして、表面の保護、防湿性を高めてもよい。さらに、電波反射体2の裏面にも他部材(例えば、合成樹脂シートなど)を積層して裏面の保護、脱落防止性を向上させてもよい。
【0087】
図9は本発明の更に他の実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【0088】
この電波吸収体Iは、誘電体層1の片面側(表面側)に抵抗膜形成フィルム31を、その抵抗膜3が誘電体層1側となるように配置し、反対面側(裏面側)に電波反射体2を配置し、電波吸収体の側面全体に封止層6を形成してなるもので、この封止層6で前記抵抗膜3の周囲を封止している。
その他の電波吸収体Iを構成する誘電体層1、電波反射体2、抵抗形成フィルム31、抵抗膜3には、前記各実施形態で用いられたものが同様に使用されるので、説明を省略する。
【0089】
この電波吸収体Iは、例えば、誘電体層1の片面側に、予め形成された抵抗膜形成フィルム31を、その抵抗膜3が誘電体層1側となるように配置すると共に、誘電体層1の反対面側に電波反射体2を配置し、これらの重ね合せ体の側面にホットメルトシート封止剤を融着させるか、或はシーリング剤や樹脂塗液などの封止剤を塗布、乾燥させることで封止層6を形成することで、製造することができる。
【0090】
斯かる透視性を有する電波吸収体Iも、抵抗膜3の表面は合成樹脂フィルム30で封止され、その周囲も封止層6によって封止され、抵抗膜3の裏面も誘電体層1で封止されて密封状態となっているため、抵抗膜3と外気中の水分との接触が断たれて抵抗膜3の表面抵抗率がほぼ一定に保たれ、初期の電波吸収性能が維持されるので、耐久性及び信頼性が一層向上する。
【0091】
なお、この電波吸収体Iも、前記電波吸収体Hと同様に、合成樹脂フィルム30の表面及び電波反射体2の裏面に他部材を積層して表裏両面の保護などを行わせても良い。
【0092】
図10は本発明の更に他の実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【0093】
この電波吸収体Jは、誘電体層1の片面側(表面側)に抵抗膜3と他の誘電体層11と抵抗膜3と表面被覆層4とをこの順で配置し、反対面側(裏面側)に電波反射体2と裏面被覆層5とを配置し、電波吸収体の側面全体に亘って形成した封止層6によって抵抗膜3の周囲を封止してなるものである。
この電波吸収体Jは、抵抗膜3を誘電体層11を介して2層構造とされている点で、前記実施形態の各電波吸収体とは異なっている。誘電体層11は誘電体層1と同様の樹脂やガラスよりなり、その厚さを0.1〜5mm程度のものが使用される。その他の電波吸収体Jを構成する誘電体層1、電波反射体2、抵抗膜3、表面被覆層4には、前記各実施形態で用いられたものが同様に使用されるので、説明を省略する。
【0094】
このような透視性を有する電波吸収体Jは、誘電体層1の表面に予め抵抗膜3を形成し、また表面被覆層4の裏面に抵抗膜3を形成しておき、抵抗膜付き誘電体層1と誘電体層11と抵抗膜付き表面被覆層4とを積層することで容易に製造できる。また、誘電体層11の表裏両面に抵抗膜3、3を形成しておき、誘電体層1と抵抗膜付き誘電体層11と表面被覆層4とを積層することによっても容易に製造できる。
【0095】
斯かる透視性を有する電波吸収体Jは、抵抗膜3の表面は誘電体層11或は表面被覆層4により封止され、抵抗膜3の裏面も誘電体層11或は誘電体層1で封止され、その周囲も封止層6によって封止されて密封状態となっているため、抵抗膜3、3と外気中の水分との接触が断たれて抵抗膜3、3の表面抵抗率がほぼ一定に保たれ、初期の電波吸収性能が維持されるので、耐久性及び信頼性が一層向上する。
更に、2層の抵抗膜3、3により、長期使用中に一方の抵抗膜3に万一不都合が生じて表面抵抗率が377±30Ω/□の範囲を超えたとしても、他方の抵抗膜3により表面抵抗率を上記範囲を維持できるので、この電波吸収体Jの電波吸収性能を長期間に渡って保つことができる。
さらに、2層の抵抗膜3、3により電波吸収性能(リターンロス)が発現する周波数帯域を広げることができる。
この電波吸収体Jにおいては、抵抗膜3を2層としたために透明性に若干劣り全光線透過率が30%以上の範囲となるが、ヘーズが10%以下の透視性を有する電波吸収体Jとなる。
【0096】
なお、図10においては、抵抗膜3を2層としたが、さらに多数の抵抗膜を設けてもよい。好ましい層数は2〜3層である。
また、他の実施形態である図1〜9、図11の電波吸収体の各抵抗膜3を複数にできることは言うまでもない。このことで、この電波吸収体Jと同様に、電波吸収性能の安定化と電波吸収性能が発現する周波数帯域の拡大の作用効果を奏することとなる。
【0097】
図11は本発明の更に他の実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【0098】
この電波吸収体Kは、電波反射体2の両側に誘電体層1、1が設けられ、この誘電体層1、1の電波反射体2との反対面側に抵抗膜3、3がそれぞれ設けられ、更に各抵抗膜3、3の表面に表面被覆層4、4を積層して7層構造にしてなるものである。そして、この7層構造体の周囲の側面全面が封止層6により封止されている。この電波吸収体Kは、接着剤層7を介在させていない点を除いて、その他の構成は前述の電波吸収体Fと同様であるので、図11において同一部材に同一符号を付して説明を省略する。
【0099】
このような透視性を有する電波吸収体Kは、表面被覆層4と抵抗膜3と誘電体層1と電波反射体2と誘電体層1と抵抗膜3と表面被覆層4とを重ね合せ、必要に応じて一体化し、その後、この重ね合せ構造体の四周周囲側面の全体に、前記のシーリング剤や樹脂塗液等の封止剤を塗布、硬化させて側面全体を覆う封止層6を形成することによって製造される。この際、抵抗膜3は単独で介在させてもよいし、表面被覆層4に形成されて介在してもよいし、或は誘電体層1に形成されて介在してもよい。なお、抵抗膜3として、抵抗膜形成フィルム31を使用してもよい。
【0100】
このような電波吸収体Kは、両側の表面被覆層4、4側から抵抗膜3、3及び誘電体層1、1を通って入射する電波を中央の電波反射体2で反射して吸収することができ、また、電波反射体2を共用できるので安価な電波吸収体とすることができる。しかし、抵抗膜3を両面に有するために透視性に若干劣り全光線透過率が30%以上の範囲となるが、ヘーズが10%以下の透視性を有する電波吸収体Kとなる。
斯かる電波吸収体Kも、各抵抗膜3、3の両面が誘電体層1と表面被覆膜4で封止されると共に、抵抗膜3の周囲が電波吸収体側面の封止層6で封止されて密封状態になっているため、同様に抵抗膜3と外気中の水分との接触が断たれて表面抵抗率がほぼ一定に保たれる。
【0101】
なお、この電波吸収体Kのように、他の実施形態である図1〜10に示す電波吸収体においても、電波反射体2の両側に誘電体層1、1を介して抵抗膜3、3をそれぞれ設け、この抵抗膜3、3の表裏両面と周囲を封止した電波吸収体とすることもできる。この構造とすることで、この電波吸収体Kと同様に、両側から入射する電波を中央の電波反射体2で反射して吸収することができる、という作用効果を奏することとなる。
【0102】
図12は本発明の更に他の実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【0103】
この電波吸収体Lは、誘電体層1の裏面の四周周囲端部にのみ接着剤層7を形成して誘電体層1と電波反射体2と裏面被覆層5とを接着一体化した点、及びコ字形の断面形状を有するアルミニウム等の金属製の枠体9を電波吸収体の周囲に取付けている点、この金属製枠体9の電波が入射する側の表面に電波吸収シート91が貼付されている点で、前述の図6に示す電波吸収体Fと異なるのみであり、他の構成は電波吸収体Fと同様であるから図12において同一部材に同一符号を付して説明を省略する。
【0104】
この電波吸収体Lに用いられる接着剤層7としては、前記のホットメルトシートやシーリング剤や樹脂塗液などの封止剤の他に、両面テープやウレタン系の接着剤などが好ましく用いられる。また、電波吸収シート91はフェライトなどの磁性材料を合成ゴムや合成樹脂に添加してシートに成形したものが好ましく用いられる。
【0105】
この透視性を有する電波吸収体Lは、前述した透視性の電波吸収体Fと同様の作用効果を奏することに加えて、周囲に金属製の枠体9が取付けられているため、この枠体9によって電波吸収体の周縁部が保護され、高速道路のETC料金所などへの取付作業もし易くなる利点がある。しかも、この枠体9によって裏面被覆層5、電波反射体2、誘電体層1、抵抗膜3、表面被覆層4の各部材が確実に一体化されるので、これらが使用中に分離する心配も解消される。さらに、電波吸収シート91により金属製枠体9に当たる電波も吸収されるので、この枠体9による電波吸収性能の悪化は防止できる。しかし、この電波吸収シート91は必ずしも必要ではない。
【0106】
図12においては、電波吸収体として図6のものを用いたが、その他の図1〜図11に記載の電波吸収体のいずれかが使用され、その周囲に金属製枠体が取付けられた枠付きの電波吸収体とすることができるのは、言うまでもない。
【0107】
次に、本発明の効果を確認するために行った実験について説明する。
【0108】
[実験1]
溶媒としてのメチルアルコール/水混合物(混合比3:1)中に、極細導電繊維である単層カーボンナノチューブ(文献Chmical Physics Letters、323(2000)P580−585に基づき合成したもの、直径1.3〜1.8μm)と分散剤としてのポリアルキレンエチレン−ポリオキシプロピレン共重合体を加えて均一に混合、分散させ、単層カーボンナノチューブを0.003質量%、分散剤を0.05質量%含む塗液を調整した。
【0109】
この塗液を、市販の厚さ100μmのポリメチルメタクリレートフィルム30の表面に、単層カーボンナノチューブの目付け量が約94mg/m2となるように塗布、乾燥して表面抵抗率が385Ω/□の透明な抵抗膜3をポリメチルメタクリレートフィルムの片面に備えた透明な抵抗膜形成フィルム31(図15(a)(b)参照)を作製した。そして、この抵抗膜形成フィルム31を100×110mmの大きさに切断し、その相対向する2辺に一対の帯状の銅箔の電極32(幅5mm,長さ150mm)を100mmの辺に沿って導電接着剤で接着して、抵抗膜3の大きさが100×100mmの電極付き抵抗膜形成フィルムを作製した。
【0110】
図15(a)(b)に示すように、この電極付き抵抗膜形成フィルムの上下両面に、ポリウレタンよりなる120mm角のホットメルトシート60、60(厚さ1mm)を重ね、更にその上下に133mm角のポリカーボネート板40、50(厚さ2mm)を重ねて、これを200mm角の艶板で上下から挟み、125℃で加熱することにより、ホットメルトシートを軟化溶融させて電極付き抵抗膜形成フィルム31の周囲及び上下両面をホットメルトシート60、60の封止層で封止すると共に、ポリカーボネート板40、50で被覆・封止した、実験1の表裏両面と周囲とが封止された抵抗膜を作製した。
この抵抗膜について、抵抗膜の表面抵抗率の経時的変化を室温23℃、湿度50%の恒温恒室の室内にて調べた。その結果を図16に示す。
【0111】
[実験2]
実験1で調製した塗液を、単層カーボンナノチューブの目付け量が約94mg/m2となるように、100×110mmの大きさのポリメチルメタクリレートフィルム(厚さ0.1mm)の片面に塗布、乾燥して、表面抵抗率が375Ω/□の透明な抵抗膜を形成し、この抵抗膜の上面に実験1で使用した銅箔の電極を接着して電極付き抵抗膜形成フィルムを作製した。
【0112】
この電極付き抵抗膜形成フィルムを、133mm角のポリカーボネート板(厚さ2mm)の上に市販のセロファンテープで固定した後、電極付き抵抗膜形成フィルムの周りに、高さが10mm、一辺の長さが120mmの方形枠をセロファンテープで作り、この方形枠で囲まれた電極付き抵抗膜形成フィルムの抵抗膜の上に、シリコーン系のポッティング用液状シーリング剤(GE東芝シリコーン(株)製のTSE3033)を滴下し、80℃で3時間硬化させて、電極付き導電膜形成フィルムの周囲と導電膜の上面を厚さ0.2mmの粘着性のあるゴム状のシリコーン系シーリング剤で封止した、表裏両面と周囲とが封止された実験2の抵抗膜を作製した。
この抵抗膜について、実験1と同様に、抵抗膜の表面抵抗率の経時的変化を調べた。その結果を図16に示す。
【0113】
[比較実験1]
比較のために、実験2で作製した電極付き抵抗膜形成フィルム(表面抵抗率375Ω/□)について、実験1と同様に、その抵抗膜の表面抵抗率の経時的変化を調べた。その結果を図16に示す。
【0114】
図16のグラフからわかるように、封止していない比較実験1の抵抗膜は、表面抵抗率が日数の経過にしたがって漸増し、5日経過で30Ω/□増加し、11日経過で50Ω/□増加し、20日経過で90Ω/□増加し、26日経過では110Ω/□も増加していていることがわかった。従って、この抵抗膜を用いた電波吸収体であれば、11日経過後には425Ω/□となり、これ以降には電波が吸収され難くなる。これに対して、抵抗膜の表面と周囲をホットメルトシートにて封止した実験1、抵抗膜の表面と周囲をシーリング剤にて封止した実験2の各抵抗膜は、日数が経過しても表面抵抗率が10Ω/□以下の範囲で増減していて変化が極めて少なく略一定していて、封止により表面抵抗率の変化(増加・減少)が確実に防止できていることがわかった。従って、表面抵抗率が変化しても361〜385Ω/□の範囲であり、この抵抗膜を用いた電波吸収体は長期間電波吸収機能を発揮することがわかる。
【0115】
[実験3]
実験1で調製した塗液を、片面を耐候処理した市販の厚さ2mmのポリカーボネート板の耐候処理を施していない面に、単層カーボンナノチューブの目付け量が約94mg/m2となるように塗布、乾燥して、表面抵抗値が382Ω/□の透明な抵抗膜を片面に備えた透明な表面被覆層用ポリカーボネート板を作製し、これを縦70mm×横80mmの大きさに切断して、その相対向する2辺(70cmの各辺)に一対の帯状の銅箔電極(幅5mm,長さ90mm)を導電接着剤で接着することにより、片面に抵抗膜を有する表面被覆層用電極付きポリカーボネート板を得た。
【0116】
この表面被覆層用電極付きポリカーボネート板の抵抗膜側に、誘電体層として市販の厚さ7mmのポリカーボネート板を縦70mm×横80mmの大きさに切断したものを重ねると共に、この誘電体層用ポリカーボネート板の反対側に、電波反射体として市販の導電メッシュを縦70mm×横80mmの大きさに切断したものと、裏面被覆層として耐候処理を施した市販の厚さ2mmのポリカーボネート板を縦70mm×横80mmの大きさに切断したものを重ねて、この積層体の周囲の側面全体を市販のシリコーン系シーリング剤(東レ・ダウコーニング(株)製のSE960)を塗布、乾燥して封止層6を形成することで封止し、さらに、アルミニウム製の枠体を四周に取付けて、透視性を備えた電波吸収体を作製した。
【0117】
この透視性電波吸収体について、超促進耐候試験機である岩崎電気株式会社製アイ スーパー UVテスター SUV−W151を用いて、温度63℃、湿度50%で6時間、及び、温度20℃、湿度95%で6時間を1サイクルとして繰り返し、抵抗膜3の表面抵抗率の経時的変化を調べた。その結果を図17に示す。
ただし、抵抗膜は、光によって表面抵抗率が変化する恐れがあるので、この光の影響を除外するために、表面被覆層4及び裏面被覆層5のポリカーボネート板の上にアルミニウムフィルムを重ね合せて光を遮断した。
【0118】
図17のグラフを見ると、サイクル数が増えても表面抵抗率がほぼ一定しており、経時的な表面抵抗率の増加が確実に防止されていることが分かる。このことから、抵抗膜の表裏にポリカーボネート製表面被覆層とポリカーボネート製誘電層を積層し、さらに誘電体層の下面に導電メッシュ製電波反射体とポリカーボネート製裏面被覆層を積層し、さらに、この積層体の周囲の側面全体をシリコーン系シーリング剤で封止層を形成した本発明の電波吸収体は、抵抗膜の表面抵抗率がほぼ一定しているので、初期の電波吸収性能を維持することがわかる。
【0119】
以上の実験結果から、本発明の電波吸収体は、抵抗膜を水分を含んだ外気から封止することで、抵抗膜の表面抵抗率の変化による電波吸収性能の低下が防止され、長期に亘って初期の良好な電波吸収性能を維持できることが裏付けられる。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】本発明の一実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【図2】本発明の他の実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【図3】本発明の更に他の実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【図4】本発明の更に他の実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【図5】本発明の更に他の実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【図6】本発明の更に他の実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【図7】本発明の更に他の実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【図8】本発明の更に他の実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【図9】本発明の更に他の実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【図10】本発明の更に他の実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【図11】本発明の更に他の実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【図12】本発明の更に他の実施形態に係る電波吸収体の断面図である。
【図13】(a)(b)(c)は抵抗膜の部分断面図である。
【図14】抵抗膜に含まれるカーボンナノチューブを正面から見た分散状態を示す模式図である。
【図15】(a)は実験用の電極付き抵抗膜形成フィルムの分解側面図であり、(b)は同電極付き抵抗膜形成フィルムの平面図である。
【図16】抵抗膜の表面抵抗率の変化と日数との関係を示すグラフである。
【図17】本発明の電波吸収体における抵抗膜の表面抵抗率の変化と超促進耐候試験のサイクル数との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0121】
1 誘電体層
2 電波反射体
3 抵抗膜
3a カーボンナノチューブ
3b バインダー
30 合成樹脂フィルム
31 抵抗膜形成フィルム
4 表面被覆層
5 裏面被覆層
6 封止層
7 接着剤層
8 金属の枠体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抵抗膜を誘電体層の片面側に設けると共に、誘電体層の反対面側に電波反射体を設けた電波吸収体であって、抵抗膜を水分を含む外気から封止したことを特徴とする電波吸収体。
【請求項2】
抵抗膜を誘電体層とその片面側に配置された表面被覆層との間に設けると共に、抵抗膜の周囲に封止層を形成して、水分を含む外気から封止したことを特徴とする請求項1に記載の電波吸収体。
【請求項3】
抵抗膜を誘電体層の片面に設けると共に、抵抗膜の表面と周囲に封止層を形成して、水分を含む外気から封止したことを特徴とする請求項1に記載の電波吸収体。
【請求項4】
抵抗膜を誘電体層の片面側に配置された表面被覆層の該誘電体層との対向面に設けると共に、抵抗膜の表面と周囲に封止層を形成して、水分を含む外気から封止したことを特徴とする請求項1に記載の電波吸収体。
【請求項5】
抵抗膜を合成樹脂フィルムのいずれか片面に形成し、この抵抗膜形成フィルムの抵抗膜が誘電体層側となるように、誘電体層の片側面側に設けると共に、抵抗膜の周囲に封止層を形成して、水分を含む外気から封止したことを特徴とする請求項1に記載の電波吸収体。
【請求項6】
抵抗膜を合成樹脂フィルムのいずれか片面に形成して誘電体層とその片面側に配置された表面被覆層との間に設けると共に、この抵抗膜形成フィルムの周囲に封止層を形成して、水分を含む外気から封止したことを特徴とする請求項1に記載の電波吸収体。
【請求項7】
抵抗膜を合成樹脂フィルムのいずれか片面に形成して誘電体層の片面側に設けると共に、この抵抗膜形成フィルムの周囲と両面、又は、抵抗膜形成フィルムの周囲と抵抗膜の表面に封止層を形成して、水分を含む外気から封止したことを特徴とする請求項1に記載の電波吸収体。
【請求項8】
電波反射体の両側に設けられている誘電体層の電波反射体との反対面側に抵抗膜をそれぞれ設けたことを特徴とする請求項1に記載の電波吸収体。
【請求項9】
封止層がシリコーン系又はウレタン系の封止剤で形成したものであることを特徴とする請求項2ないし請求項7のいずれかに記載の電波吸収体。
【請求項10】
抵抗膜が極細導電繊維を含んだ膜であって、極細導電繊維が凝集することなく分散して互いに接触していることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の電波吸収体。
【請求項11】
表面被覆層が紫外線吸収剤を含んだ合成樹脂板であることを特徴とする請求項2、請求項4又は請求項6に記載の電波吸収体。
【請求項12】
抵抗膜、誘電体層、表面被覆層、封止層のいずれもが透視性を有すると共に電波反射体が光を透過して、透視性を有する電波吸収体となしたことを特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれかに記載の電波吸収体。
【請求項1】
抵抗膜を誘電体層の片面側に設けると共に、誘電体層の反対面側に電波反射体を設けた電波吸収体であって、抵抗膜を水分を含む外気から封止したことを特徴とする電波吸収体。
【請求項2】
抵抗膜を誘電体層とその片面側に配置された表面被覆層との間に設けると共に、抵抗膜の周囲に封止層を形成して、水分を含む外気から封止したことを特徴とする請求項1に記載の電波吸収体。
【請求項3】
抵抗膜を誘電体層の片面に設けると共に、抵抗膜の表面と周囲に封止層を形成して、水分を含む外気から封止したことを特徴とする請求項1に記載の電波吸収体。
【請求項4】
抵抗膜を誘電体層の片面側に配置された表面被覆層の該誘電体層との対向面に設けると共に、抵抗膜の表面と周囲に封止層を形成して、水分を含む外気から封止したことを特徴とする請求項1に記載の電波吸収体。
【請求項5】
抵抗膜を合成樹脂フィルムのいずれか片面に形成し、この抵抗膜形成フィルムの抵抗膜が誘電体層側となるように、誘電体層の片側面側に設けると共に、抵抗膜の周囲に封止層を形成して、水分を含む外気から封止したことを特徴とする請求項1に記載の電波吸収体。
【請求項6】
抵抗膜を合成樹脂フィルムのいずれか片面に形成して誘電体層とその片面側に配置された表面被覆層との間に設けると共に、この抵抗膜形成フィルムの周囲に封止層を形成して、水分を含む外気から封止したことを特徴とする請求項1に記載の電波吸収体。
【請求項7】
抵抗膜を合成樹脂フィルムのいずれか片面に形成して誘電体層の片面側に設けると共に、この抵抗膜形成フィルムの周囲と両面、又は、抵抗膜形成フィルムの周囲と抵抗膜の表面に封止層を形成して、水分を含む外気から封止したことを特徴とする請求項1に記載の電波吸収体。
【請求項8】
電波反射体の両側に設けられている誘電体層の電波反射体との反対面側に抵抗膜をそれぞれ設けたことを特徴とする請求項1に記載の電波吸収体。
【請求項9】
封止層がシリコーン系又はウレタン系の封止剤で形成したものであることを特徴とする請求項2ないし請求項7のいずれかに記載の電波吸収体。
【請求項10】
抵抗膜が極細導電繊維を含んだ膜であって、極細導電繊維が凝集することなく分散して互いに接触していることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の電波吸収体。
【請求項11】
表面被覆層が紫外線吸収剤を含んだ合成樹脂板であることを特徴とする請求項2、請求項4又は請求項6に記載の電波吸収体。
【請求項12】
抵抗膜、誘電体層、表面被覆層、封止層のいずれもが透視性を有すると共に電波反射体が光を透過して、透視性を有する電波吸収体となしたことを特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれかに記載の電波吸収体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2006−310353(P2006−310353A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−127671(P2005−127671)
【出願日】平成17年4月26日(2005.4.26)
【出願人】(000108719)タキロン株式会社 (421)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年4月26日(2005.4.26)
【出願人】(000108719)タキロン株式会社 (421)
【Fターム(参考)】
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