説明

露光装置

【課題】 有機材料からなるプリント配線基板に特有な不均一でかつ比較的大きな変形を持つ基板に対しても、最適な位置合せが可能な露光装置を提供する。
【解決手段】
全体変倍ユニット2はxy方向同一の倍率でフォトマスク7のパターンを倍率Swで拡大縮小し、片変倍ユニット1は全体変倍ユニット2とは独立に任意の一方向ωで所定の倍率Soでフォトマスクパターンを伸縮させ、アライメントスコープ4は、マスクマーク70と基板マーク80の位置ズレαi、βiを検出する。位置ズレ信号αi、βiは、演算制御装置3に送られ、アライメントに必要なパラメータである片変倍倍率So、片変倍方向ωが計算され、更に全体変倍倍率Sw、基板の回転量θ、基板トランスレーションOx、Oy計算され、これに基づいて片変倍ユニット1、全体変倍ユニット2、露光ステージ6が制御され、アライメントが行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プリント配線基板用の露光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトレジストなどの感光材料を塗付した基板表面に所定のパターンを露光し、レジストを感光させて、その後エッチング工程により基板上にパターンを形成するフォトリソグラフィー法が半導体ウエハ、液晶基板などの分野では広く知られているが、近年の電子機器の高性能、多機能、小型化にともない、配線パターンが細線化しており、プリント配線基板のパターン形成にもこのフォトリソグラフィー法が用いられている。
プリント配線基板は、その基材(基板)が有機材料からなるため、半導体ウエハの基材であるシリコンや液晶基板の基材であるガラスと異なり、基材の伸縮量が大きく、またプリント配線基板のパターン配置によっては、銅箔の有無等によってその伸縮に大きな方向性を持つことがある。
また、上記パターン配線の微細化にともない、フォトマスクパターンと基板パターンとのアライメント精度もますます厳しい精度が要求されてきている。
このようなプリント配線基板に特有な基板の伸縮・変形を吸収して高精度なアライメントを実現するために、本出願人は特開2003−222795、特開2003−223003において、フォトマスクのパターンを光学的に全方向同一の伸縮量で倍率補正すると共に、これとは独立に任意方向に所定の伸縮量で倍率補正して基板上に露光する技術を提案済みである。
他方、半導体ウエハの投影露光装置では、例えば特開昭61−44429や特公平6−69017において、フォトマスクパターンと基板の位置ズレ検出データから最適なアライメントを行うための位置合せモデルと位置合せに用いるパラメータ、ならびに最適なアライメント解を導出する方法が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−222795
【特許文献2】特開2003−223003
【特許文献3】特開昭61−44429号
【特許文献4】特公平6−69017号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1及び2に示す技術においては、最適なアライメントを可能にする倍率補正量を決定するための明確な方法がなく、アライメント精度の向上に限界がある問題があった。
そのため、特許文献3及び4に開示されるような半導体ウエハ投影露光装置のためのアライメントモデル式を適用する方法も考えられるが、半導体ウエハの投影露光装置のアライメントモデル式は、基板伸縮の少ない半導体ウエハを想定して考えられているために、基板伸縮の大きく、また伸縮量が基板の方向性によって異なるプリント配線基板の露光には適用できない。
本発明は上記従来技術の問題を解決することを目的とする。
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は所定のパターンをプリント配線基板に露光する投影露光装置であって、所定のパターンを描いたフォトマスクと、前記フォトマスクのパターンを前記プリント配線基板に投影露光する投影露光手段と、前記フォトマスクに描かれた位置合わせ用のマスクマークと、前記プリント配線基板に設けられた位置合わせ用の基板マークと、前記フォトマスクとプリント配線基板との間に位置し、前記パターンを光軸中心を原点とするxy座標系において任意の一方向に任意の倍率で補正する光学系と、前記マスクマークと基板マークとのズレを検出する手段と、該検出したズレに基づいて、前記任意の一方向である片変倍方向ωと、前記任意の倍率である片変倍倍率Soとを決定する手段と、該決定する手段による決定に基づいて、該片変倍方向ωと片変倍倍率Soとを設定する手段と、を備え、前記決定する手段は、前記Soとωを係数として含む前記プリント配線基板の変形モデル関数を設定し、該関数に基づいて最小2乗法により前記Soとωとを求める、ことを特徴とする。
また、前記フォトマスクとプリント配線基板との間に位置し、前記パターンを光軸中心を原点とするxy座標系において全方向に同一の任意の倍率で補正する全体変倍光学系を更に備え、前記決定する手段は、前記Soとωに加えて、更に該全体変倍光学系により補正する前記任意の倍率である全体変倍倍率Swを係数として含む変形モデル関数を設定する、構成とすることも可能である。
ここで、投影レンズ光学系の光軸中心を原点とするx−y座標系において、任意の一方向に対してのみ所定のスケーリングで倍率補正を行うことを片変倍という。また、投影レンズ光学系の光軸中心を原点とするx−y座標系において、全方向に対して同一のスケーリングで倍率補正を行うことを全体変倍という。
更に、前記決定する手段は、プリント配線基板を回転させるローテーションθと、プリント配線基板をxy方向に平行移動させるトランスレーションOx、Oyを更に係数として含む変形モデル関数を設定する、ことも可能である。
前記関数としては、好適な実施形態では、下式が用いられる。
【0006】
【数2】

【0007】
ここでxi,yiはフォトマスクに配置されるマスクマークを含むパターンの補正前座標であり、Xi,Yi:フォトマスクに配置されるマスクマークを含むパターンの補正後座標である。これらxi,yi及びXi,Yiと前記検出する手段により検出されるマスクマークと基板マークとのズレαi、βiとは、次の式で表される。
【0008】
【数3】

【発明の効果】
【0009】
本発明の露光装置によれば、伸縮量が大きく且つ伸縮量が基板の方向性によって異なるプリント配線基板であっても、基板の伸縮特性に合致したアライメントが可能になり、高精度なアライメントを行える効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1において、露光ステージ6に載置されたプリント配線基板8上にフォトマスク7に描かれた所定のパターンを光源(図示せず)からの露光光により、片変倍ユニット1と全体変倍ユニット2と投影レンズ5を介して露光するように構成されている。フォトマスク7は、マスクステージ(図示せず)上にセットされている。
【0011】
フォトマスク7とプリント配線基板8にはそれぞれマスクマーク70と基板マーク80が形成されており、このマスクマーク70と基板マーク80をアライメントスコープ4を用いて撮像し、演算制御装置3によりステージ駆動装置60を制御し、露光ステージ6をxy方向及びθ方向に移動させてフォトマスク7とプリント配線基板8の位置合わせを行うように構成されている。即ち、投影レンズ5の光軸中心とフォトマスク7の中心が合致し、露光ステージ6のxy移動方向とフォトマスク7のパターンが合致するようにマスクアライメント動作が行われるように構成されている。
【0012】
演算制御装置3はこの露光装置の全体の制御を行っており、片変倍駆動装置10及び全体変倍駆動装置20の制御を行い、片変倍ユニット1及び全体変倍ユニット2の倍率調整を行うように構成されている。
【0013】
全体変倍ユニット2はxy方向同一の倍率でフォトマスク7のパターンを拡大縮小する構成になっており、全体変倍駆動装置20を介して演算制御装置3に制御され、所定の倍率でフォトマスク7のパターンを全方向同一に拡大縮小する。この倍率(スケーリング)をSwとする。
【0014】
片変倍ユニット1は全体変倍ユニット2とは独立に任意の一方向ωで所定の倍率(スケーリング)Soを用いて、フォトマスクパターンを伸縮させることが可能であり、片変倍駆動装置10を介して演算制御装置3により制御され、所定の方向ωに倍率Soでフォトマスク7のパターンを伸縮させてプリント配線基板8上に露光するように構成されている。
【0015】
アライメントスコープ4は、マスクマーク70と基板マーク80の位置ズレαi、βiを検出するためのものであり、マスクマーク70及び基板マーク80の数に対応した数設けられている。図1においては、簡単のためアライメントスコープ4を1個のみ図示しているが、マスクマーク70と基板マーク80は通常露光エリア内に複数個所に配置されており、その配置個数分だけアライメントスコープ4が存在する。
複数のアライメントスコープ4により検出されたマスクマーク70と基板マーク80の位置ズレ信号αi、βiは、演算制御装置3に送られ、アライメントに必要なパラメータが計算され、アライメントを行う各ユニットに伝達される。この演算処理と制御については後述する。
【0016】
露光ステージ6は、ステップ&リピート露光動作するための基板のステップ動作を行うと共に、アライメント動作時においては、プリント配線基板8のパターンの回転θとトランスレーション動作、即ちx方向及びy方向の平行移動を行わせる。この回転θはフォトマスク7とプリント配線基板8の回転方向のズレを解消するために行われ、またトランスレーションはフォトマスク7とプリント配線基板8の中心のズレを解消するために行われるものであり、シフト(オフセット量)を補正する動作である。このトランスレーションをOx、Oyとする。
以上の動作を行うために、露光ステージ6はステージ駆動装置60によりxy方向の平行移動及びθ方向の回動を行える構成を備えている。
【0017】
以上の構成により、複数のアライメントスコープ4によって検出されたフォトマスク7とプリント配線基板8の位置ズレ信号αi、βi、により、フォトマスク7とプリント配線基板8が最適な位置合せとなるよう、露光ステージ6と片変倍駆動装置10及び全体変倍駆動装置20の駆動制御量が算出され、これに基づいてアライメントが行われる。アライメント結果が所定の精度内になると、フォトマスク7上のパターンをプリント配線基板8上に投影レンズ5を介して転写し、露光動作が行われる。
【0018】
演算制御装置3におけるアライメントに必要なパラメータの演算処理を説明する。
まず全体変倍ユニット2のアライメントモデルを構築する。全体変倍ユニット2はフォトマスク7のパターンを全方向同一の倍率で拡大縮小する光学系であり、x方向とy方向共に同一のスケーリングとなるため、上記特許文献等に示す従来モデルのx方向のスケーリングSxとy方向のスケーリングSyは、Sx= Sy= Swとなる(図2の1)。
この時モデルは、式1のマトリックで表される。
【0019】
【数4】

・・・式1
【0020】
次に、片変倍ユニット1については、基板が任意の角度ωに変形したことを想定して片変倍倍率Soを適用する。モデルとしては、一度角度ω回転させて便宜的にx方向にのみ片変倍倍率Soを適用することを考える。その後、本来の任意角度ω方向のスケーリングに変換するために、再度角度ω回転させることにより、任意角度ω方向にのみ片変倍倍率Soを適用することが可能となる。最終のスケーリングイメージは、図2の3)で表される。
以上の操作をマトリックス形式のモデルで記述すると、式2となる。なお、便宜的にy方向にのみ片変倍倍率Soを適用することを考えても結果が同じになることは、マトリックの簡単な計算から容易にわかる。
【0021】
【数5】

・・・式2
【0022】
最後に、基板上のパターンのローテーションθ(図2の2)とトランスレーションOx、Oyは、半導体ウエハのアライメントモデルと同一であるため、従来技術のモデルをそのまま利用することができる。
【0023】
以上を総合すると、図1に示す実施例におけるアライメントモデル式は、式3で表すことが可能となる。
【数6】

・・・式3
【0024】
演算制御装置3は上記モデル式に、アライメントスコープ4で検出された、フォトマスク7とプリント配線基板8の各位置におけるマスクマーク70と基板マーク80のズレデータを適用して、最小2乗法を用いることで、アライメント合せに必要な各パラメータ: So、ω、Sw、θ、Ox、Oyを算出する。
【0025】
演算制御装置3はこの算出結果に基づいて片変倍駆動装置10、全体変倍駆動装置20、ステージ駆動装置60に指令を出し、片変倍ユニット1、全体変倍ユニット2、及び露光ステージ6駆動して、高精度なアライメントを実行する。
なお、式3で示すアライメントモデル式は、本発明の実施例に限定されることなく、片変倍ユニット1と全体変倍ユニット2と同等の機能を有し、かつ各ユニットが独立した構成となっていれば、他の実施例であっても適用可能である。
【0026】
図3に上記動作のフローチャートを示す。
アライメントスコープ4により複数のマスクマーク70と基板マーク80のズレ量を検出し(ステップS1)、該ズレ量が精度以内であるか否かチェックする(ステップS2)。精度以内であれば、露光を実行する(ステップS5)。
精度以内でない場合、検出したズレ量と上記したモデル式に基づいて、露光ステージ6のxy方向及び回転方向の補正量Ox、Oyとθを算出する。同時に、片変倍倍率So、片変倍方向ω、全体変倍倍率Swを算出し(ステップS3)、該算出結果に基づいて片変倍ユニット1、全体変倍ユニット2、露光ステージ6を制御する(ステップS4)。
再びアライメントスコープ4により複数のマスクマーク70と基板マーク80のズレ量を検出し(ステップS1)、該ズレ量が精度以内であれば、露光を実行する(ステップS5)。精度以内でない場合、精度以内になるまでステップS3、S4を繰り返す。
【0027】
上記式3の各パラメータSo、ω、Sw、θ、Ox、Oyを最小2乗法で解いた結果の式を、アライメントズレデータの関数として以下記述する。
【0028】
式3は次のように書き換えられる。
【数7】

θを1次近似すると、
【数8】

【0029】
ここで
【数9】

と置くと、(計測できない真の関係式)
【数10】

計測できるのは、計測等の誤差を含んだマスクマーク70と基板マーク80のズレ量αi、βiであり、次式で表せる。
【数11】

【0030】
【数12】

と置き換え、
【数13】

【0031】
最小2乗法を用いて、それぞれが0になるA、B、C、D、E、Fを求める。
【数14】

【0032】
式を整理すると以下の通りである。なお、Nはマスクマーク70(又は基板マーク80)のマーク個数である。
【数15】

【0033】
A、B、C、D、E、Fは上記定義の通りであるから、各パラメータSo、ω、Sw、θ、Ox、Oyを求める。
各パラメータをA、B、C、D、E、Fを用いて表すと次の通りである。
【0034】
【数16】

【0035】
ωについて
【数17】

【0036】
Sw、Soについて
【数18】

【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施形態を示す概略図。
【図2】本発明の一実施形態におけるアライメントモデルの各パラメータの説明図。
【図3】本発明の一実施形態の動作を示すフローチャート図。
【符号の説明】
【0038】
1:片変倍ユニット、2:全体変倍ユニット、3:演算制御装置、4:アライメントスコープ、5:投影レンズ、6:露光ステージ、7:フォトマスク、8:プリント配線基板、10:片変倍駆動装置、20:全体変倍駆動装置、60:ステージ駆動装置、70:マスクマーク、80:基板マーク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のパターンをプリント配線基板に露光する投影露光装置であって、
所定のパターンを描いたフォトマスクと、
前記フォトマスクのパターンを前記プリント配線基板に投影露光する投影露光手段と、
前記フォトマスクに描かれた位置合わせ用のマスクマークと、
前記プリント配線基板に設けられた位置合わせ用の基板マークと、
前記フォトマスクとプリント配線基板との間に位置し、前記パターンを光軸中心を原点とするxy座標系において任意の一方向に任意の倍率で補正する光学系と、
前記マスクマークと基板マークとのズレを検出する手段と、
該検出したズレに基づいて、前記任意の一方向である片変倍方向ωと、前記任意の倍率である片変倍倍率Soとを決定する手段と、
該決定する手段による決定に基づいて、該片変倍方向ωと片変倍倍率Soとを設定する手段と、を備え、
前記決定する手段は、前記Soとωを係数として含む前記プリント配線基板の変形モデル関数を設定し、該関数に基づいて最小2乗法により前記Soとωとを求める、
ことを特徴とする投影露光装置。
【請求項2】
前記フォトマスクとプリント配線基板との間に位置し、前記パターンを光軸中心を原点とするxy座標系において全方向に同一の任意の倍率で補正する全体変倍光学系を更に備え、
前記決定する手段は、前記Soとωに加えて、更に該全体変倍光学系により補正する前記任意の倍率である全体変倍倍率Swを係数として含む変形モデル関数を設定する、
請求項1の投影露光装置。
【請求項3】
前記決定する手段は、プリント配線基板を回転させるローテーションθと、プリント配線基板をxy方向に平行移動させるトランスレーションOx、Oyを更に係数として含む変形モデル関数を設定する、
請求項1又は2の投影露光装置。
【請求項4】
前記関数が、下式で表される請求項1又は2又は3の投影露光装置。
【数1】

但し:
xi,yi:フォトマスクに配置されるマスクマークを含むパターンの補正前座標、
Xi,Yi:フォトマスクに配置されるマスクマークを含むパターンの補正後座標

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−98467(P2009−98467A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−270770(P2007−270770)
【出願日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(300091670)株式会社アドテックエンジニアリング (23)
【Fターム(参考)】