説明

露光装置

【課題】露光時に基板をフォトマスクに対して近接・離反させる距離を短くし、露光処理精度および作業速度を向上させる。
【解決手段】露光装置は、フォトマスク1の周縁1aに引張力を加えるために該周縁1aに取り付けられるアクチュエータ2を含む。アクチュエータ2は、エアシリンダ装置13の作動により、フォトマスク1に平行な基板16の搬送経路Tから遠ざかる位置へと傾動可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム状フォトマスクに描かれたパターン(例えば電気回路)を、フォトマスクに近接または密着させた基板上に転写するための露光装置に関する。
【0002】
さらに詳細に言えば、フォトマスクの周縁に引張力を加えるために該周縁に取り付けられるアクチュエータを含み、該引張力によってフォトマスク内に張力を生じさせて該フォトマスクに描かれた位置合わせ用マークを含むパターンの寸法および形状を任意に変形させ、それによって該フォトマスクと基板との間の位置合わせ精度を高めるようにした露光装置に関する。
【背景技術】
【0003】
露光においては、フォトマスクと基板との間の適正な位置合わせが重要である。そのため、双方に複数の位置合わせ用マークが設けられている。しかしながら加工誤差、熱変形等の理由により、双方の位置合わせ用マークをすべての箇所で一致させることは難しい。そこで、フォトマスクの周縁に引張力を加えてフォトマスク内に張力を生じさせ、フォトマスクに描かれた位置合わせ用マークを含むパターンの寸法および形状を任意に変形させることにより、フォトマスクの位置合わせ用マークと基板の位置合わせ用マークとをすべての位置で精度良く合わせるようにしている。
【0004】
フォトマスクの周縁を引っ張るためのアクチュエータとしては、典型的にはエアシリンダ装置等が用いられ、フォトマスクの周縁に形成した孔にエアシリンダ装置のロッド先端のフックを係合させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3402681号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
露光処理されるべき基板は、フォトマスクに平行な搬送経路を通って、フォトマスクに対向する位置へと運ばれる。それから基板は露光処理のためにフォトマスクに近接または密着する位置へと移動される。露光処理後、基板はフォトマスクから離反され、再び搬送経路の位置まで戻る。基板の搬送経路とフォトマスクとの間隔が小さいほど、基板をフォトマスクに対して近接・離反させる距離が短くてすみ、それにより露光処理精度や作業速度を向上させることができる。
【0007】
しかしながら、エアシリンダ装置のシリンダ部の一部や、フォトマスクの周縁における孔を貫通するロッド先端のフックは、基板に対向するフォトマスクの表面により画定される面よりも前方(基板側)に突出している。したがって、基板の搬送経路をフォトマスクの表面近くの位置に設定することができなかった。
【0008】
また、帯状基板を露光する場合、帯状基板の搬送経路とフォトマスクとの間の距離が大きいと、露光処理のために帯状基板をフォトマスクに対して近接・離反させるときに帯状基板にかかる張力の変化が大きくなり、露光処理精度に悪影響を与えていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明によれば、
フィルム状フォトマスクに描かれたパターンを、該フォトマスクに近接または密着させた基板上に転写するための露光装置であって、前記フォトマスクの周縁に引張力を加えるために該周縁に取り付けられるアクチュエータを含み、該引張力によって前記フォトマスク内に張力を生じさせて該フォトマスクに描かれた位置合わせ用マークを含む前記パターンの寸法および形状を任意に変形させ、それによって該フォトマスクと前記基板との間の位置合わせ精度を高めるようにした露光装置において、
前記アクチュエータが、前記フォトマスクに平行な前記基板の搬送経路から遠ざかる位置へと傾動可能である、露光装置が提供される。
【0010】
前記アクチュエータは、その構成要素のいずれもが、前記基板に対向する前記フォトマスクの表面により画定される面よりも後方に位置付けられるように、傾動可能とされることが好ましい。
【0011】
矩形をした前記フィルムマスクの4辺のうち、少なくとも前記基板の前記搬送経路に直交する方向に延びる2辺の縁に取り付けられた前記アクチュエータが、前記基板の前記搬送経路から遠ざかる位置に傾動可能とすることができる。
【0012】
矩形をした前記フィルムマスクの4辺すべての縁に取り付けられた前記アクチュエータが、前記基板の前記搬送経路から遠ざかる位置に傾動可能としてもよい。
【0013】
前記フォトマスクの周縁に沿って延びる回転軸を有するローラをさらに含み、前記アクチュエータが傾動すると、前記フォトマスクの周縁のうち前記ローラよりも外方にある部分が、前記基板に対向する前記フォトマスクの表面により画定される面の後方へと傾斜するようにし、傾動した前記アクチュエータが、傾斜した前記フォトマスクの周縁部分に該傾斜の方向に沿って引張力を加えるようにすることができる。
【0014】
前記ローラを軸方向に沿って複数に分割してもよい。
【0015】
前記複数に分割されたローラが、前記回転軸上を軸方向に移動可能となるようにしてもよい。
【0016】
前記アクチュエータは、前記フォトマスクの着脱時には、周縁を含む該フォトマスク全体を平面状に維持可能な姿勢をとることができるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、基板をフォトマスクに対向する位置へと搬送する際に、邪魔になるアクチュエータが基板の搬送経路から遠ざかる位置へと傾動することができるので、基板の搬送経路をフォトマスクの表面に近い位置に設定することができる。その結果、基板をフォトマスクに対して近接・離反させる距離が短くてすみ、それにより露光処理精度や作業速度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施態様による露光装置の側面図であり、アクチュエータはフォトマスクを平面状に維持している。
【図2】図1に示す露光装置の底面図。
【図3】図1と同様の図であるが、アクチュエータが傾動している状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1および図2に示すように、フォトマスク1の周縁1aには、エアシリンダ装置が用いられたアクチュエータ2が複数配置されている。アクチュエータ2は、シリンダ部3とロッド4とを備え、ロッド4の先端はフック5を形成している。
【0020】
フォトマスク1の周縁1aには複数の長孔6が形成されており、アクチュエータ2のロッド4のフック5は、長孔6内に係合することができる。
【0021】
矩形をしたフォトマスク1の4辺の各々に配置された複数のアクチュエータ2は、これらのアクチュエータ2のロッド4を横切る方向に延びる単一のベース7に取り付けられている。ベース7の両端には内方に延びるアーム8が備えられている。一対のアーム8の先端は、フォトマスクフレーム9の軸受け部材10に両端を支持された回転軸11に回転可能に取り付けられている。また、回転軸11には、一対のアーム8間に延びるローラ12が回転可能に装架されている。
【0022】
ベース7の両端には、フォトマスクフレーム9にシリンダ部を取り付けられたエアシリンダ装置13のロッド14の先端が取り付けられている。エアシリンダ装置13のロッド14を短縮させると、図3に示すように、ベース7が回転軸11を中心に回動するとともに、ベース7に取り付けられた複数のアクチュエータ2が同時に傾動する。
【0023】
図1の状態と図3の状態とを比較する。図1の状態では、フォトマスク1の周縁1aはアクチュエータ2によって軽く引っ張られており、フォトマスク1全体は周縁1aに至るまで平面状に維持されている。フォトマスクフレーム9に取り付けられた透明なガラス板15が、パターン領域におけるフォトマスク1の平面性保持に役立っている。アクチュエータ2による引張力を解除することにより、フォトマスク1は着脱可能になる。フォトマスク1の着脱は、アクチュエータ2がこの姿勢の状態のときに行う。
【0024】
図1に示すアクチュエータ2は、基板16に対向するフォトマスク1の表面1bと平行な方向に沿って、フォトマスク1の周縁1aに引張力を加える姿勢をとっているため、シリンダ部3の一部とフック5の一部とが、フォトマスク1の表面1bにより画定される面Pよりも基板側(前方)に突出している。そのため、基板支持部材17に載せられた基板16の搬送経路Tは、面Pから大きく離れた位置に設定せざるを得ない。すると、基板16は、露光処理ごとに搬送経路Tと面Pとの間の大きな距離を基板支持部材17とともに往復しなければならない。これは、露光処理精度や作業処理速度の低下を招く原因となる。
【0025】
これに対して図3の状態では、エアシリンダ装置13を作動させることにより、アクチュエータ2は基板16の搬送経路Tから遠ざかる位置へと傾動している。それによって、基板16の搬送経路Tは、図1の場合と比べて、面Pに近く設定することができる。図3では、アクチュエータ2の構成要素のいずれもが面Pよりも後方に位置付けられている。したがって基板16の搬送経路Tを、面Pに最大限近づいた位置に設定することができる。しかしながら、搬送経路Tを図1の場合と比べて面Pに近づけることができるのであれば、アクチュエータ2の一部が面Pよりも前方(基板16側)に残る程度の傾動であっても、一定の効果が与えられるというべきである。基板16の搬送経路Tを面Pに近づけて設定することにより、露光処理のために基板支持部材17が基板16をフォトマスク1に対して近接・離反させる距離が短くてすみ、それにより露光処理精度や作業速度を向上させることができる。
【0026】
アクチュエータ2を傾動させるのは、フォトマスク1の表面1b近くに設定された搬送経路Tを移動する基板16の邪魔にならないようにするためである。したがって、傾動するアクチュエータ2は、基板16の搬送経路Tに直交する方向に延びる2辺の縁に取り付けられたアクチュエータ2だけでもよい。しかしながら、矩形のフィルムマスク1の4辺すべての縁に取り付けられたアクチュエータ2を傾動するようにした露光装置もまた、本発明の範囲に含まれる。
【0027】
フォトマスク1の周縁1aに沿って延びている回転可能なローラ12は、傾動したアクチュエータ2がフォトマスク1の周縁1aを引っ張る動作を円滑に行わせる。アクチュエータ2が傾動すると、フォトマスク1の周縁1aのうちローラ12よりも外方にある部分が面Pよりも後方へと傾斜する。この傾斜した周縁部分に対してアクチュエータ2は該傾斜の方向に沿って引張力を加える。回転可能なローラ12は、この引張力をフォトマスク1全体に滑らかに伝達する。
【0028】
フォトマスク1の周縁1aに設けられた複数のアクチュエータ2は、各辺ごとに個別に作動可能であるばかりでなく、1辺における複数のアクチュエータ2を個々に又はグループごとに作動させることもできる。この場合、図示例では一体に形成されているローラ12を、軸方向に沿って複数に分割してもよい。個別に作動するアクチュエータ2に対応するそれぞれの分割ローラが個別に回転することにより、引張力は、より円滑にフォトマスク1全体に伝達される。
【0029】
さらに、分割されたローラが回転軸11上を軸方向に沿って移動可能としてもよい。こうすることにより、アクチュエータ2が個別に与える引張力が、より忠実にフォトマスク1全体に伝達される。複数に分割したロール間に、中間軸受けを設けるようにしてよもよい。
【0030】
図示実施態様では、アクチュエータ2の傾動中心軸とローラ12の回転中心軸とが、共通の回転軸11によって与えられている。しかしながら、アクチュエータ2の傾動中心軸を回転軸11とは異なる位置に設定してもよい。
【0031】
なお、上記実施態様では、アクチュエータ2としてエアシリンダ装置を用いたものを示したが、他の形式のアクチュエータとして、ベローズ、ダイアフラム、モータ、圧電素子などを用いたものを使用することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 フォトマスク、1a フォトマスクの周縁、1b フォトマスクの表面、2 アクチュエータ(エアシリンダ装置)、3 シリンダ部、4 ロッド、5 フック、6 長孔、7 ベース、8 アーム、9 フォトマスクフレーム、10 軸受け部材、11 回転軸、12 ローラ、13 エアシリンダ装置、14 ロッド、15 ガラス板、16 基板、17 基板支持部材、P フォトマスクの表面により画定される面、T 基板の搬送経路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム状フォトマスクに描かれたパターンを、該フォトマスクに近接または密着させた基板上に転写するための露光装置であって、前記フォトマスクの周縁に引張力を加えるために該周縁に取り付けられるアクチュエータを含み、該引張力によって前記フォトマスク内に張力を生じさせて該フォトマスクに描かれた位置合わせ用マークを含む前記パターンの寸法および形状を任意に変形させ、それによって該フォトマスクと前記基板との間の位置合わせ精度を高めるようにした露光装置において、
前記アクチュエータが、前記フォトマスクに平行な前記基板の搬送経路から遠ざかる位置へと傾動可能である、露光装置。
【請求項2】
前記アクチュエータが、その構成要素のいずれもが、前記基板に対向する前記フォトマスクの表面により画定される面よりも後方に位置付けられるように、傾動可能である、請求項1に記載の露光装置。
【請求項3】
矩形をした前記フィルムマスクの4辺のうち、少なくとも前記基板の前記搬送経路に直交する方向に延びる2辺の縁に取り付けられた前記アクチュエータが、前記基板の前記搬送経路から遠ざかる位置に傾動可能である、請求項1または2に記載の露光装置。
【請求項4】
矩形をした前記フィルムマスクの4辺すべての縁に取り付けられた前記アクチュエータが、前記基板の前記搬送経路から遠ざかる位置に傾動可能である、請求項3に記載の露光装置。
【請求項5】
前記フォトマスクの周縁に沿って延びる回転軸を有するローラをさらに含み、前記アクチュエータが傾動すると、前記フォトマスクの周縁のうち前記ローラよりも外方にある部分が、前記基板に対向する前記フォトマスクの表面により画定される面の後方へと傾斜するようになされており、傾動した前記アクチュエータは、傾斜した前記フォトマスクの周縁部分に該傾斜の方向に沿って引張力を加えるようになされている、請求項1ないし4のいずれかに記載の露光装置。
【請求項6】
前記ローラが軸方向に沿って複数に分割されている、請求項5に記載の露光装置。
【請求項7】
前記複数に分割されたローラが前記回転軸上を軸方向に移動可能となされている、請求項6に記載の露光装置。
【請求項8】
前記アクチュエータは、前記フォトマスクの着脱時には、周縁を含む該フォトマスク全体を平面状に維持可能な姿勢をとることができる、請求項1ないし7のいずれかに記載の露光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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