説明

静電チャックの搬送保管方法

【課題】静電チャックの吸着面への水分の付着を防止し、吸着力等の特性を劣化させない搬送保管方法を提供する。
【解決手段】内蔵した電極と、静電気力により基板を吸着する吸着面とを備えた静電チャックを不活性ガスを封入した密閉容器内において搬送したり保管したりすることを特徴とする静電チャックの搬送保管方法であって、密閉容器内に封入される不活性ガスは純度が99.5%以上であり、かつ含有水分が10mg/m以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造装置や液晶パネルをはじめとするフラットパネルディスプレイ製造装置などに使用される静電チャックのようにSi基板、ガラス基板などを固定する静電チャックの搬送、保管方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置に組み込まれている静電チャックはSiウエハ等の基板を静電気力で吸着させるものであり、その構造は静電気を発生させるための電極を内蔵し、吸着面に絶縁層を配するものである。この静電チャックの搬送保管方法としてポリエチレン等の袋内に梱包し、周囲を緩衝材で保護する方法もしくは袋内を真空状態にして梱包する方法のように従来のセラミックス部品において行われていた搬送保管方法が採用されていた(例えば特許文献1)。これらの搬送保管方法は主に静電チャックを外的な衝撃から保護することと、吸着面への汚染物質の付着を防止することを目的として行われてきた。
【0003】
【特許文献1】特開平11−152107号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
静電チャックは吸着面に絶縁層を配しており、それによりSiウエハーやガラス基板等を静電気力により吸着させてエッチングや成膜等の処理工程に供される。この静電チャックが使用されるエッチングや成膜工程は、腐食性ガス雰囲気や高温で行われることが多いため、たとえ吸着面に汚染物質が付着しても予備運転時に飛散除去されて静電チャックの特性が影響を受けることはなかった。
【0005】
しかしながら近年これらのプロセスは低温化していることに加え、プロセスの高度化、高集積化に伴って、吸着特性の管理等の要求が厳しくなっていることから、吸着面に汚染物質が付着した場合に、予備運転をしても汚染物質が除去されず、しかも、わずかな吸着力の低下等の特性劣化が問題として顕在化してきた。また、いったん汚染物質が吸着面に付着して、吸着力の低下等の特性劣化したものは、加熱処理や洗浄処理が必要となるため、特性の回復に非常に手間がかかるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明者らが、汚染物質と吸着力との関係について検討した結果、吸着面に付着する水分が大きく影響していることが判明した。吸着面に水のような導電物質が付着すると絶縁性が悪くなり、静電チャックの吸着力が低下する。特に双極型の静電チャックではプラス部とマイナス部の絶縁が十分とれず、表面電位が低下し、吸着力が発生しない場合もあった。付着する水分は主に大気中から取り込まれるものであり、大気中に放置した状態では容易に水分が吸着してしまう。従来の搬送方法では大気などの外環境からの影響を考慮した梱包手段はされておらず、搬送中に水分が吸着し、吸着力の低下など静電チャックの特性を劣化させる問題があった。また、真空梱包においても、水分の付着をも考慮したものでなかったため、構造的に排気が十分に行われず、水分が残留する場合がある。このとき残存分子が少ない分、水分や有機物などの付着が大気圧下以上に起こりやすくなり、それらが吸着して同様の特性劣化を起こすことがあった。
【0007】
本発明は上記したような従来技術の問題点に鑑みなされたものであり、静電チャックの吸着力等の特性を劣化させない静電チャックの搬送保管方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、これらの問題点を解決するため、高純度の不活性ガスで静電チャックを封入し、外部からの水分の吸着による特性の変化をおこさない搬送保管方法を見出した。すなわち、本発明は、内蔵した電極と、静電気力により基板を吸着する吸着面とを備えた静電チャックを不活性ガスを封入した密閉容器内において搬送したり保管したりすることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明は内蔵した電極と、静電気力により基板を吸着する吸着面とを備えた静電チャックを含有水分が10mg/m以下の密閉雰囲気内において搬送したり保管したりすることを特徴とするものである。
【0010】
静電チャックは内蔵した電極に高電圧を印加してクーロン力もしくはジョンソンラーベック力によりウエハー等の基板を吸着面に吸着させる。そのため、表面に水のような導電物質が付着すると、表面に電位が発生せず吸着力が低下する状態になる。したがって、温度、湿度が管理されたクリーンルーム内で保管したとしても水分が付着し、静電チャックの吸着力の低下が発生する。まして温度・湿度管理がなされていないクリーンルーム外での保管や搬送では、大気中からの水分の付着が発生し、静電チャックの吸着力が低下したり、結露により吸着面にしみができたりするなど特性の劣化が著しい。本発明では、不活性ガスを封入した密閉容器内で静電チャックを保管、搬送するので上記のような問題は発生しない。
【0011】
不活性ガスとしてはアルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、窒素を用いることができるが、取扱いやコストの点で、窒素またはアルゴンが好ましい。酸素のような活性ガスでは吸着面の素材と反応して搬送中に化学変化を起こす可能性が考えられる。また不活性ガスがこれらの混合ガス、特に窒素とアルゴンの混合ガスでも良い。
【0012】
不活性ガスからなる密閉雰囲気の含有水分は10mg/m以下であることが好ましい。含有水分が10mg/mより大きい場合は、吸着力の低下を起こすが、10mg/m以下であれば、特性劣化は生じない。ただし不活性ガスの含有水分は、高いほど特性劣化は生じにくく、5mg/m以下がより望ましい。
【0013】
不活性ガスの純度は99.5%以上が好ましい。ガスの純度が99.5%より低い場合、不純物に含まれる水分や有機物の影響を受けることがあるが、99.5%以上であれば、不純物の影響による静電チャックの特性劣化は生じない。ただし不活性ガスの純度は高い程よく、99.9%以上がより望ましい。そのため封入する不活性ガスは液体窒素など高純度のガスを封入するのがより好ましいが、半導体用ガス等のボンベから供給されるガスでも上記条件を満たしていれば問題ない。
【0014】
密閉容器としては、Oリングを組み込んだアクリル板を容器形状にくみ上げたもの、もしくは透湿度性の低いガスバリア袋を用いることができる。接着材によって接合した容器では密閉度が低く、不活性ガスで封入しても大気中の水分が混入してしまう場合がある。また、通常市販されているポリエチレンやナイロン系の袋では透湿度性が高く、同様に大気中の水分が混入してしまう。そのため透湿度性の低いガスバリア袋を用いることが望ましい。ただし、水分の混入を防ぐことができれば良いので、これらの容器に限定されるものではない。また容器内部にシリカゲルなどの吸湿材を入れるとより効果的である。
【0015】
従来の袋内を真空状態にする方法は、真空度を十分に高めることができないため水分が残留したり、透湿性を考慮した袋を用いていなかったため水分が混入したりという問題があった。真空状態で残存する水分子は微量であるが、袋内に存在する水分子以外の分子も少ないため、障害物が少なく、水分子の静電チャック吸着面への付着が大気圧下以上に起こりやすくなる。したがって、真空状態よりも不活性ガスの封入が望ましい。また、容器である袋が内容物の静電チャックに強く密着するため、袋が破けたり、静電チャックに組み付けた電極等の部品が破損したりすることがあったが、本発明においてはそのような問題は生じない。
【0016】
本発明の静電チャックの吸着面は、Al、SiまたはAlNを主成分とするセラミックスからなる。これらのセラミックスは基板の処理温度において好適な体積抵抗率を有し、耐食性が要求されるエッチングや成膜等のプロセス環境下での使用に好適である。ただし、これらのセラミックスは、静電チャックの絶縁層の表面に形成された吸着面を構成するものであり、静電チャックの絶縁層以外の基台等を構成する部材はAl、SiまたはAlNを主成分とするセラミックスであっても良いし、その他のセラミックス、金属、金属とセラミックスの複合材量等であっても良い。吸着面のセラミックスの製造方法としては、常圧、ホットプレスのような焼結法の他、溶射、CVD等の種々の方法が採用できる。
【発明の効果】
【0017】
このように本発明によれば、静電チャックを不活性ガスで封入した密閉容器内において搬送保管することにより、吸着面への水分の付着を防止し、静電チャックの吸着力を低下させることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施例を比較例とともに具体的に挙げ、本発明をより詳細に説明する。
静電チャックは以下に説明する公知のホットプレス法により作製した。市販のAlN粉末に希土類酸化物の焼結助剤を添加してなる混合粉末を、100kg/cm(=9.8MPa)で一軸加圧し、φ200mm×10mmの盤状の第1の成形体とし、次に、第1の成形体の上に双極型電極を配置し、その上に前記した混合粉末を充填し第2の成形体とした。焼成温度;1900℃、焼成時間;2時間、プレス圧;100kg/cmの条件でホットプレス焼結を行うことで、φ200mm×15mmの盤状のセラミックスからなる静電チャック用部材を得た。第1および第2の成形体は、それぞれ絶縁層、基台を形成し、基台と絶縁層との間に電極が埋設内臓された積層構造となっている。その後、吸着面等の平面研削加工等を行って所望の形状とした。純水を用いて洗浄し、150℃で乾燥した後、湿度20%以下の環境で吸着力を測定した(放置前吸着力)。吸着力の測定は静電チャック吸着面にSiウエハーをのせ、圧力ゲージを用いた引っ張り試験で測定した。
【0019】
次に、所定の純度および含有水分の窒素ガスまたはアルゴンガスをガスボンベから供給し、密閉容器であるガスバリア袋(三菱ガス化学社製、透湿度1.8g/m・day)とアクリル容器(250×250×H50mm、厚さ10mm、枠状側面部はバルク材からの削り出しで作製し、上下面は板材とOリングを組み込んでネジとめを行った)に静電チャックを入れて封入した。それぞれ容器外の環境の相対湿度が70〜85%の状態で1日および10日放置した後、放置前吸着力と同様の方法で放置後吸着力を測定した(実施例1〜8)。表1に結果を示す。
【0020】
【表1】

本発明の範囲内である実施例において、吸着力は1日および10日放置しても低下は見られなかった。
【0021】
実施例と同様に静電チャックを作製し、静電チャックについて封入するガスの純度および含有水分を変えたもの、および容器を市販されているポリエチレン袋(透湿度19g/m・day)としたものそれぞれについて、実施例と同様、外環境の相対湿度が70〜85%の状態で放置した後、吸着力を測定した(比較例1〜6)。放置前と放置後の吸着力の結果を表2に示す。
【0022】
【表2】

本発明の範囲外である比較例のうち、透湿度の高いポリエチレン袋を使用した比較例6では、吸着力が放置前の30%以下に低下した。また、不活性ガスの含有水分が高く、純度も低い比較例1〜5でも、吸着力は著しく低下した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内蔵した電極と、静電気力により基板を吸着する吸着面とを備えた静電チャックを不活性ガスを封入した密閉容器内において搬送したり保管したりすることを特徴とする静電チャックの搬送保管方法。
【請求項2】
内蔵した電極と、静電気力により基板を吸着する吸着面とを備えた静電チャックを含有水分が10mg/m以下の密閉雰囲気内において搬送したり保管したりすることを特徴とする静電チャックの搬送保管方法。
【請求項3】
前記不活性ガスは純度が99.5%以上であり、かつ含有水分が10mg/m以下であることを特徴とする請求項1記載の静電チャックの搬送保管方法
【請求項4】
前記静電チャックは、吸着面がAl、SiまたはAlNを主成分とするセラミックスであることを特徴とする請求項1〜3記載のセラミックス部材の搬送保管方法。

【公開番号】特開2008−62986(P2008−62986A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−244941(P2006−244941)
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】