説明

非接触電力伝送回路

【課題】非接触電力伝送回路の送電側発振周波数、送電側共振周波数、受電側共振周波数の関係を明確にし、最適な伝送効率を得るとともに、設計における時間短縮を目的とする。
【解決手段】送電側10の他励式または自励式のスイッチング回路2と送電コイルLpから電磁誘導により受電側30の受電コイルLsに非接触で電力伝送する非接触電力伝送回路において、スイッチング回路2と、スイッチング回路を駆動する制御IC3と、送電コイルLpと直列に接続したLC直列共振回路または送電コイルLpと並列に接続したLC並列共振回路と、受電コイルLsと並列に接続したLC並列共振回路からなり、制御IC3の発振周波数(Fosc)と送電側10のLC直列共振回路またはLC並列共振回路の共振周波数(Fpr)と受電側30のLC並列共振回路の共振周波数(Fsr)の関係が Fpr<Fosc<Fsr であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触電力伝送回路に関し、送電側のスイッチング発振周波数、送電側LC共振周波数、受電側LC共振周波数の関係を明確し、必要な特性を容易に得られる設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の非接触電力伝送回路は、DC低入力において、無接点で高効率の非接触電力伝送回路に共振型フルブリッジ回路方式が一般的に用いられている。
【0003】
共振型フルブリッジ回路方式は、制御IC等の発振周波数によりスイッチング回路を駆動(他励式)する、即ち、発振周波数はスイッチング回路のスイッチング周波数となる。送電側では、スイッチング回路を駆動する制御ICの発振周波数と、LC直列共振回路またはLC並列共振回路による送電側共振周波数がある。受電側では、LC並列共振回路による受電側共振周波数がある。特許文献1、2には、送電側LC共振周波数と受電側LC共振周波数を同じにすることにより、共振点で最大電力が伝送されることが記載されている。このことから、この3つの周波数(発振周波数、送電側LC共振周波数、受電側LC共振周波数)が同じ周波数近辺の時に最適な特性が得られると考えられていた。
【0004】
しかし、この3つの周波数を同じにした時の出力特性(出力電圧/出力電流)を確認してみると、図2の出力特性(a)に示すように、必要とする特性が得られなかった。また、3つの共振点から外れると急激に出力電圧が下がり、不安定な状態となり、安定した出力特性が得られなかった。さらにまた、現状で必要な出力特性を得ようとすると、その都度、送電側発振周波数、送電側共振周波数となるインダクタンス値(L)またはコンデンサの容量値(C)、および、受電側共振周波数となるインダクタンス値(L)またはコンデンサの容量値(C)を選定していた。このため、設計に多大な時間を要していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001―103685号公報
【特許文献2】特表平8−502640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題に鑑み、非接触電力伝送回路の送電側発振周波数、送電側LC共振周波数、受電側LC共振周波数の関係を明確にし、最適な伝送効率を得るとともに、設計における時間短縮を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決する手段として、送電側の他励式または自励式のスイッチング回路と送電コイルから電磁誘導により受電側の受電コイルに非接触で電力伝送する非接触電力伝送回路において、スイッチング回路と、スイッチング回路を駆動する制御ICと、送電コイルと直列に接続したLC直列共振回路または送電コイルと並列に接続したLC並列共振回路と、受電コイルと並列に接続したLC並列共振回路からなる。
該制御ICの発振周波数(Fosc)と該送電側のLC直列共振回路またはLC並列共振回路の共振周波数(Fpr)と該受電側のLC並列共振回路の共振周波数(Fsr)の関係が Fpr<Fosc<Fsr であることを特徴とする。
そして、前記制御ICの発振周波数(Fosc)と前記送電側のLC直列共振回路またはLC並列共振回路の共振周波数(Fpr)との差の比率が15〜35%以内であり、かつ、前記受電側のLC並列共振回路の共振周波数(Fsr)と前記スイッチング回路のスイッチング周波数(Fosc)との差の比率が15〜35%以内であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、送電側の他励式または自励式のスイッチング回路と送電コイルから電磁誘導により受電側の受電コイルに非接触で電力伝送する非接触電力伝送回路において、スイッチング回路と、スイッチング回路を駆動する制御ICと、送電コイルと直列に接続したLC直列共振回路または送電コイルと並列に接続したLC並列共振回路と、受電コイルと並列に接続したLC並列共振回路からなり、制御ICの発振周波数(Fosc)と送電側のLC直列共振回路またはLC並列共振回路の共振周波数(Fpr)と受電側のLC並列共振回路の共振周波数(Fsr)の関係を Fpr<Fosc<Fsr と、することにより、非接触電力伝送回路に最適な伝送効率を得ることができ、設計における時間短縮を可能にできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本願発明に用いた非接触電力伝送回路。
【図2】従来の出力電圧/出力電流特性を示す。
【図3】実験例における出力電圧/出力電流特性を示す。
【図4】他の実験例における出力電圧/出力電流特性を示す。
【図5】(100*(Fosc−Fpr)/Fosc)及び(100*(Fsr−Fosc)/Fosc)を10%〜40%に対する効率(%)を示す。
【図6】(100*(Fosc−Fpr)/Fosc)=10%〜40%と(100*(Fsr−Fosc)/Fosc)=40%〜10%に対する効率(%)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
送電側の他励式または自励式のスイッチング回路と送電コイルから電磁誘導により受電側の受電コイルに非接触で電力伝送する非接触電力伝送回路において、スイッチング回路と、スイッチング回路を駆動する制御ICと、送電コイルと直列に接続したLC直列共振回路または送電コイルと並列に接続したLC並列共振回路と、受電コイルと並列に接続したLC並列共振回路からなり、制御ICの発振周波数(Fosc)と送電側のLC直列共振回路またはLC並列共振回路の共振周波数(Fpr)と受電側のLC並列共振回路の共振周波数(Fsr)の関係を Fpr<Fosc<Fsr とすることにより、非接触電力伝送回路に最適な伝送効率を得ることができ、設計における時間短縮を可能にできる。。
そして、前記制御ICの発振周波数(Fosc)と前記送電側のLC直列共振回路またはLC並列共振回路の共振周波数(Fpr)との差の比率が15〜35%以内であり、かつ、前記受電側のLC並列共振回路の共振周波数(Fsr)と前記スイッチング回路のスイッチング周波数(Fosc)との差の比率が15〜35%以内であることを特徴とする。
【実施例】
【0011】
図1は、非接触電力伝送回路に他励式スイッチング回路としてフルブリッジ回路を用いた非接触電力伝送回路図を示す。
【0012】
図1に示すように、送電側回路10において、1は入力となる直流電源、2はスイッチング回路を形成するフルブリッジ回路、Q1〜Q4はフルブリッジ回路を構成するスイッチング素子、Lpは送電コイル、Cpは送電コイルLpと直列共振回路を形成する共振コンデンサ、3はフルブリッジ回路のスイッチングを制御する制御IC、で構成されている。そして、受電側回路30において、Lsは送電コイルLpから電磁誘導作用で電力を非接触で受電する受電コイル、Csは受電コイルLsと並列共振回路を形成する共振コンデンサ、31は整流平滑回路、の構成である。
【0013】
実験例として、送電側10は送電コイルLpと共振コンデンサCpを直列に接続した直列共振回路とし、受電側30は受電コイルLsと共振コンデンサLsを並列に接続した並列共振回路とした。ここで、送電側10の送電コイルLpと受電側30の受電コイルLsの間隔(ギャップ)は一般的な3mm〜6mm程度とする。また、本回路において、送電側の共振回路に送電コイルと直列に接続した直列共振回路を用いたが送電コイルと並列に接続した並列共振回路を用いてもよい。
【0014】
そして、送電側回路10は、フルブリッジ回路2をスイッチングするスイッチング周波数は制御ICの発振周波数Foscで制御される。LC直列共振回路の共振周波数は、Fpr=1/(2π√(L1×C1))であり、受電側のLC並列共振回路の共振周波数は、Fsr=1/(2π√(L2×C2))で計算される。
【0015】
図1の回路における出力特性を図2に示す。図2の出力電圧/出力電流における出力特性aは、送電側の直列共振回路および受電側の並列共振回路を入れた時の出力特性で、発振周波数、送電側共振周波数、受電側共振周波数を同じにしたときの出力特性である。そして、出力特性bは、送電側の直列共振回路および受電側の並列共振回路を入れないときの出力特性を示す。
【0016】
図2の出力電圧/出力電流に示すように、発振周波数(Fosc)と送電側共振周波数(Fpr)と受電側共振周波数(Fsr)を一致させたときの出力特性(b)は送電側の直列共振回路および受電側の並列共振回路を入れないときの出力特性(a)と比較し、同じ電流であっても出力電圧(共振点Aにより)が高くなる傾向にある。この特性は、一般の電源として必要な出力とはならず、このまま使用することができない。そのため、送電側共振周波数及び受電側共振周波数を個々に調整する必要があった。さらに、調整のバランスが悪いと効率が悪化する場合も有り、設計の難易度が高く、時間を要していた。
【0017】
次に、図3、図4の出力電圧/出力電流から、本発明の実施例であるLC共振回路を用いた設計例を具体的な共振周波数を用いて説明する。ここで、斜線部分は非接触電力伝送回路において必要とする出力特性Xを示す。
【0018】
図3、図4における出力特性は、制御ICの発振周波数(Fosc)を120KHz に固定した時の条件で説明する。
ここで、出力特性(c)は、送電側直列共振周波数(Fpr)=Fosc−30KHz=90KHz、受電側共振周波数(Fsr)=Fosc+30KHz=150KHzに設定したときの出力特性を示す。このときの出力特性は、必要とする出力特性Xを満足する。
【0019】
次に、送電側共振周波数(Fpr)=Fosc−20KHz=100KHz、受電側共振周波数(Fsr)=Fosc+40KHz=160KHz に設定したときの出力特性(d)を示す。この時の出力特性(d)は必要とする出力特性Xを満足することができない。これは、送電側共振周波数(Fpr)が必要とする出力特性Xより高くなるため、送電側共振コンデンサCpの容量値が小さくなり、特性インピーダンス(Zpr)が大きくなる。また、受電側共振周波数(Fsr)は必要とする出力特性Xより高くなるため、受電側共振コンデンサCrの容量値も小さくなり、特性インピーダンス(Zsr)も大きくなる。よって、送電側の電圧が大きくなり受電側の電流が小さくなる。
【0020】
次に、送電側共振周波数(Fpr)=Fosc−40KHz=80KHz、受電側共振周波数(Fsr)=Fosc+20KHz=140KHz に設定したときの出力特性(e)を示す。この時の出力特性(e)は必要とする出力特性Xを満足することができない。これは、送電側共振周波数(Fpr)が必要とする出力特性Xより低くなるため、送電側共振コンデンサCpの容量値が大きくなり、特性インピーダンス(Zpr)が小さくなる。また、受電側共振周波数(Fsr)は必要とする出力特性Xより低くなるため、受電側共振コンデンサCrの容量値も大きくなり、特性インピーダンス(Zsr)も小さくなる。よって、送電側の電圧が低くなり受電側の電流が大きくなる。
【0021】
次に図4の出力特性について説明する。図4においても必要とする出力特性Xを斜線部で示す。また、図3で示した最適条件の出力特性(c)も記載した。
送電側共振周波数(Fpr)=Fosc−20KHz=100KHz、受電側共振周波数(Fsr)=Fosc+20KHz=140KHz に設定したときの出力特性(f)を示す。この時の出力特性(f)は必要とする出力特性Xを満足することができない。これは、送電側共振周波数(Fpr)が必要とする出力特性Xより高くなるため、送電側共振コンデンサCpの容量値が小さくなり、特性インピーダンス(Zpr)が大きくなる。また、受電側共振周波数(Fsr)は必要とする出力特性Xより低くなるため、受電側共振コンデンサCrの容量値も大きくなり、特性インピーダンス(Zsr)も小さくなる。よって、送電側の電圧が大きくなり受電側の電流が小さくなる。しかし、電力制限により送電側の電圧が高いため受電側の電流がさほど大きくならない。
【0022】
次に、送電側共振周波数(Fpr)=Fosc−40KHz=80KHz、受電側共振周波数(sr)=Fosc+40KHz=160KHz に設定したときの出力特性(g)を示す。この時の出力特性(g)は必要とする出力特性Xを満足することができない。これは、送電側共振周波数Fprが必要とする出力特性Xより低くなるため、送電側共振コンデンサCpの容量値が大きくなり、特性インピーダンス(Zpr)が小さくなる。また、受電側共振周波数(Fsr)は必要とする出力特性Xより高くなるため、受電側共振コンデンサCrの容量値も小さくなり、特性インピーダンス(Zsr)も大きくなる。よって、送電側の電圧が低くなり受電側の電流が大きくなる。しかし、電力制限により送電側の電圧が低いため受電側の電流がさほど小さくならない。
【0023】
上記の結果より、発振周波数(Fosc)=120KHz−25%=90KHz、(Fosc)=120KHz+25%=150KHzの時の出力特性がベストと考えられる。
【0024】
図5は、発振周波数(Fosc)、送電側共振周波数(Fpr)、受電側共振周波数(Fsr)との関係において、Fosc−Fpr≒Fsr−Fosc の条件における、発振周波数と送電側共振周波数との差の比率(100*(Fosc−Fpr)/Fosc)、および、受電側共振周波数と発振周波数との差の比率(100*(Fsr−Fosc)/Fosc)、をずらしたときの効率特性を示したものである。図5からわかるように、25%の時の効率が最大となることがわかる。好ましくは、(100*(Fosc−Fpr)/Fosc)及び(100*(Fsr−Fosc)/Fosc)を15%〜35%以内とすることが安定した効率を得ることができる。
【0025】
図6は、発振周波数(Fosc)と送電側共振周波数(Fpr)と受電側共振周波数(Fsr)の関係において、(100*(Fosc−Fpr)/Fosc)+(100*(Fsr−Fosc)/Fosc)≒50% の条件において、発振周波数と送電側共振周波数の差の比率(100*(Fosc−Fpr)/Fosc)、および、受電側共振周波数と発振周波数との差の比率(100*(Fsr−Fosc)/Fosc)、をずらしたときの効率特性を示したものである。図6からわかるように、(100*(Fosc−Fpr)/Fosc)=(100*(Fsr−Fosc)/Fosc)=25% の時の効率が最大となることがわかる。このことから、好ましくは、(100*(Fosc−Fpr)/Fosc)を15%〜35%に、及び、(100*(Fsr−Fosc)/Fosc)を35%〜15%以内とすることが安定した効率を得ることができる。
【0026】
上記実施例では、送電側がLC直列共振回路を用いたがLC並列共振回路を用いてもよい。また、送電側のフルブリッジ回路を用いて示したが、ハーフブリッジ回路、プッシュプル回路を用いてもよい。さらに、発振周波数と共振周波数との差の比率が15%〜35%以内であれば、自励方式の回路、RCC共振回路、ロイヤー共振回路、コレクタ同調回路(ハートレー回路)を用いてもよい。さらにまた、受電側の整流回路はブリッジ回路で示したが半波整流回路を用いてもよい。
【符号の説明】
【0027】
10 送電側回路
1 直流入力
2 フルブリッジ回路
3 制御IC
Lp 送電側コイル
Cp、Cs 共振コンデンサ
Q1〜Q4 スイッチング素子
30 受電側回路
Ls 受電側コイル
31 整流平滑回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送電側の他励式または自励式のスイッチング回路と送電コイルから電磁誘導により受電側の受電コイルに非接触で電力伝送する非接触電力伝送回路において、
該スイッチング回路と、該スイッチング回路を駆動する制御ICと、該送電コイルと直列に接続したLC直列共振回路または送電コイルと並列に接続したLC並列共振回路と、該受電コイルと並列に接続したLC並列共振回路からなり、
該制御ICの発振周波数(Fosc)と該送電側のLC直列共振回路またはLC並列共振回路の共振周波数(Fpr)と該受電側のLC並列共振回路の共振周波数(Fsr)の関係が Fpr<Fosc<Fsr であることを特徴とする非接触電力伝送回路。
【請求項2】
前記制御ICの発振周波数(Fosc)と前記送電側のLC直列共振回路またはLC並列共振回路の共振周波数(Fpr)との差の比率が15〜35%以内であり、かつ、前記受電側のLC並列共振回路の共振周波数(Fsr)と前記スイッチング回路のスイッチング周波数(Fosc)との差の比率が15〜35%以内であることを特徴とする請求項1記載の非接触電力伝送回路。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−200571(P2010−200571A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−45477(P2009−45477)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000003089)東光株式会社 (243)
【Fターム(参考)】