説明

非水電解液およびリチウム二次電池

【課題】 電池の過充電安全性と同時に、サイクル特性の向上や高温保存特性の向上、更にはガス発生による電池の膨れの抑制を実現したリチウム二次電池を提供する。
【解決手段】 環状カーボネート化合物、鎖状カーボネート化合物、そしてベンゼン環に一個もしくは二個のハロゲン原子が結合したシクロヘキシルベンゼン化合物を含有する非水溶媒に電解質が溶解されてなるリチウム二次電池用非水電解液であって、該非水溶媒中の環状カーボネート化合物と鎖状カーボネート化合物との容量比が20:80〜40:60の範囲内にあるか、あるいは少量の分枝アルキルベンゼン化合物を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池の過充電に対する安全性の改善と充放電の繰り返し実施における電池特性(サイクル特性)の低下防止、そして高温保存時の分解ガスの抑制などの電池特性に優れたリチウム二次電池を提供することができる非水電解液、およびリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
小型電子機器などの駆動用電源として広く使用されているリチウム二次電池としては、LiCoO2などのリチウム複合酸化物を正極とし、炭素材料またはリチウム金属を負極としたリチウム二次電池が一般的に使用されている。そして、それらのリチウム二次電池用の非水電解液の非水溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)などの環状カーボネート化合物及び/又はジメチルカーボネート(DMC)などの鎖状カーボネート化合物が一般的に使用されている。
【0003】
近年、高電圧、高エネルギー密度のリチウム二次電池が求められているが、電池性能と安全性との両方を向上させることが難しい。特に、高エネルギー密度の電池においては、従来よりも過充電安全性を向上させることが重要となる。また、サイクル特性や高温保存特性を維持することも難しく、さらにガス発生による電池の膨れなども発生しやすくなる。従って、近年のリチウム二次電池に対する要求を考慮すると、これまでに開発されているリチウム二次電池では、その電池特性は必ずしも満足できるものではない。このため、今後の高エネルギー密度に対する要求に対して、電池性能を維持しながら、安全性も向上させる優れた二次電池が必要となる。
【0004】
特許文献1には、リチウム二次電池用の非水電解液の非水溶媒に、ベンゼン環にフッ素原子が結合しているsec−アルキルベンゼンあるいはシクロアルキルベンゼンを含有させることによって、電池特性を低下させることなく、過充電の進行を停止する機能が向上し、安定性が優れた高エネルギー密度のリチウム二次電池が得られるとする発明が開示されている。なお、非水溶媒には、さらに公知の各種の非水溶媒が含有される旨の記載もある。そして、実施例では全て、環状カーボネートであるエチレンカーボネートと鎖状カーボネートであるジエチルカーボネートとが重量比で1:1で用いられ、また少量のビニレンカーボネートが添加されている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−317803号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載に従って作製した非水電解液を用いたリチウム二次電池では、過充電の進行を停止する機能の向上が見られるが、一方、繰り返し充放電を行なった後の放電特性(サイクル特性)は、充分満足できるレベルに達しないことが、本発明者の研究により判明した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、環状カーボネート化合物、鎖状カーボネート化合物、そしてベンゼン環に一個もしくは二個のハロゲン原子が結合しているシクロヘキシルベンゼン化合物を含有する非水溶媒に電解質が溶解されているリチウム二次電池用非水電解液において、該非水溶媒中の環状カーボネート化合物と鎖状カーボネート化合物との容量比が20:80〜40:60(前者:後者)の範囲内となるように、すなわち、鎖状カーボネートの含有量を環状カーボネートの含有量に比べて一定の範囲内で、重量比と容量比のいずれの基準でも多くするように混合比を調整することによって、リチウム二次電池は、過充電に対する安全性のみならず、繰り返し充放電を行なった後の放電特性も高いレベルに維持されることを見出した。
【0008】
本発明者はまた、環状カーボネート化合物、鎖状カーボネート化合物、そしてベンゼン環に一個もしくは二個のハロゲン原子が結合しているシクロヘキシルベンゼン化合物を含有する非水溶媒に電解質が溶解されているリチウム二次電池用非水電解液に、さらに0.01重量%〜3重量%程度の少量の分枝アルキルベンゼン化合物を含有させることによっても、リチウム二次電池は、過充電に対する安全性のみならず、繰り返し充放電を行なった後の放電特性も高いレベルに維持されることを見出した。
【0009】
従って、本発明は、環状カーボネート化合物、鎖状カーボネート化合物、そしてベンゼン環に一個もしくは二個のハロゲン原子が結合しているシクロヘキシルベンゼン化合物を含有する非水溶媒に電解質が溶解されているリチウム二次電池用非水電解液において、該非水溶媒中の環状カーボネート化合物と鎖状カーボネート化合物との容量比が20:80〜40:60の範囲内にあることを特徴とする非水電解液にある。
【0010】
本発明はまた、環状カーボネート化合物、鎖状カーボネート化合物、そしてベンゼン環に一個もしくは二個のハロゲン原子が結合しているシクロヘキシルベンゼン化合物を含有する非水溶媒に電解質が溶解されているリチウム二次電池用非水電解液において、該非水電解液が、さらに分枝アルキルベンゼン化合物を0.01重量%〜3重量%含有することを特徴とする非水電解液にもある。この本発明の非水電解液においても、非水溶媒中の環状カーボネート化合物と鎖状カーボネート化合物との容量比が20:80〜40:60の範囲内にあることが好ましい。
【0011】
本発明はまた、正極、負極、および上記の本発明の非水電解液からなるリチウム二次電池にもある。
【0012】
本発明はまた、正極、負極、および上記の本発明の非水電解液からなるリチウム二次電池を用い、充電終止電圧4.2V以上の充電条件にて繰り返し充放電を行なうことからなるリチウム二次電池の使用方法にもある。
【0013】
本発明において、ベンゼン環に一個もしくは二個のハロゲン原子が結合しているシクロヘキシルベンゼン化合物は、下記一般式(I)
【0014】
【化1】

【0015】
(式中、Xは、ハロゲン原子を示し、nは1または2である。ただし、ベンゼン環上の置換位置は任意である。)で表わすことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の非水電解液を用いることにより、電池の過充電安全性に優れ、またサイクル特性や高温保存特性に優れ、更にはガス発生による電池の膨れの抑制が可能な高エネルギーのリチウム二次電池を提供することができる。
【0017】
特に、本発明の非水電解液は、比較的低粘度となり、電池内に十分電解液が浸透しやすくなるところから、電池の過充電安全性が向上し、かつサイクル特性に優れたリチウム二次電池が提供できるものと考えられる。また、本発明の非水電解液は、浸透性に優れ、注液性に優れており、電池製造時の注液工程における時間短縮を図ることができる。本発明において特に、ベンゼン環に一個もしくは二個のハロゲン原子が結合しているシクロヘキシルベンゼン化合物と共に、分枝アルキルベンゼン化合物を少量含有させることにより、過充電安全性をさらに向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の非水電解液における好ましい態様を次に記載する。
【0019】
環状カーボネート化合物が、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ジメチルビニレンカーボネートおよびビニルエチレンカーボネートからなる群より選ばれる少なくとも二種の化合物を含む。
【0020】
環状カーボネート化合物が、ビニレンカーボネート、ジメチルビニレンカーボネートおよびビニルエチレンカーボネートからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物と、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートおよびブチレンカーボネートからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物とを含む。
【0021】
鎖状カーボネート化合物が、メチルエチルカーボネート、ジメチルカーボネートおよびジエチルカーボネートからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含む。
【0022】
ベンゼン環に一個もしくは二個のハロゲン原子が結合しているシクロヘキシルベンゼン化合物のハロゲン原子がフッ素原子である。
【0023】
ベンゼン環に一個もしくは二個のハロゲン原子が結合しているシクロヘキシルベンゼン化合物が、1−フルオロ−2−シクロヘキルベンゼン、1−フルオロ−3−シクロヘキシルベンゼン、1−フルオロ−4−シクロヘキシルベンゼン、もしくはそれらの化合物の二種以上の混合物である。
【0024】
25℃における動粘度が2.3×10-6〜3.6×10-62/sの範囲内にある。
【0025】
分枝アルキルベンゼン化合物が、イソプロピルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、tert−ブチルベンゼン、1,3−ジ−tert−ブチルベンゼン、tert−ペンチルベンゼン、4−tert−ブチルビフェニル、tert−ペンチルビフェニル、4−tert−ブチルジフェニルエーテルおよび4−tert−ペンチルジフェニルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物である。
【0026】
ベンゼン環に一個もしくは二個のハロゲン原子が結合しているシクロヘキシルベンゼン化合物に対する分枝アルキルベンゼン化合物の重量比が0.1〜1の範囲内にある。
【0027】
鎖状カーボネート化合物としては、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、メチルブチルカーボネート(MBC)、ジブチルカーボネート(DBC)などのアルキル基を有する鎖状カーボネート化合物が挙げられる。但し、アルキル基部分は、炭素原子数1〜6であるが、直鎖状または分枝状のいずれであっても構わない。
【0028】
非水電解液中に含まれる前記環状カーボネート化合物と鎖状カーボネート化合物との含有割合は、容量比として、20:80〜40:60とすることが好ましく、環状カーボネート化合物と鎖状カーボネート化合物との容量比が40:60以上の環状カーボネートの容量が過度に多い電解液組成の場合、円筒電池や角型電池のような高容量または高エネルギー密度の電池、とりわけ、電極材料層の密度が高い電極を用いた円筒電池や角型電池においては、高粘度の悪影響を受け、電池内に十分電解液が浸透し難いために、満足なサイクル維持率を発現することができない傾向がある。また、環状カーボネート化合物と鎖状カーボネート化合物との容量比が20:80以下の環状カーボネートの容量が過度に少ない電解液組成の場合、伝導度が低くなり、満足なサイクル維持率を発現することができなくなる傾向がある。従って、非水電解液中に含有される前記環状カーボネート化合物と前記鎖状カーボネート化合物との容量比は、20:80〜40:60、好ましくは20:80〜35:65とするのがよい。
【0029】
特に鎖状カーボネートのうち、粘度が低くなるようにジメチルカーボネートやメチルエチルカーボネートのようなメチル基を含有する鎖状カーボネートを使用することが好ましく、なかでも、粘度が低く、−20℃でも液体であり、沸点が100℃以上である非対称な鎖状カーボネートのメチルエチルカーボネートを使用することが好ましい。更には、鎖状カーボネートのうち、非対称な鎖状カーボネートであるメチルエチルカーボネートと、対称な鎖状カーボネートであるジメチルカーボネートおよび/またはジエチルカーボネートとの容量比を100:0〜51:49(特に、100:0〜70:30)の範囲の量として用いることが好ましい。
【0030】
本発明において、ベンゼン環に一個もしくは二個のハロゲン原子が結合しているシクロヘキシルベンゼン化合物が含有されている非水電解液において、該非水電解液中に少なくとも二種の環状カーボネート化合物および0.01重量%〜3重量%の分枝アルキルベンゼン化合物を含有させることが好ましくり、これらの相互作用により、電池の過充電安全性の向上と同時に、サイクル特性や高温保存特性の向上、更にはガス発生による電池の膨れの抑制などを実現する優れたリチウム二次電池を得ることができる。
【0031】
非水溶媒に電解質が溶解されている非水電解液に含有される前記一般式(I)で表される化合物において、Xはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子を示し、好ましくはフッ素原子、塩素原子であり、最も好ましくはフッ素原子である。
【0032】
前記一般式(I)で表される化合物の具体例としては、例えばXが一つの場合、1−フルオロ−2−シクロヘキシルベンゼン、1−フルオロ−3−シクロヘキシルベンゼン、1−フルオロ−4−シクロヘキシルベンゼン、1−クロロ−4−シクロヘキシルベンゼン、1−ブロモ−4−シクロヘキシルベンゼン、1−ヨード−4−シクロヘキシルベンゼンなどが挙げられる。また、Xが二つの場合、1,2−ジクロロ−3−シクロヘキシルベンゼン、1,3−ジブロモ−4−シクロヘキシルベンゼン、1,4−ジクロロ−2−シクロヘキシルベンゼン、1,2−ジフルオロ−4−シクロヘキシルベンゼン、1,3−ジフルオロ−5−シクロヘキシルベンゼンなどが挙げられ、特に1−フルオロ−4−シクロヘキシルベンゼン、1,2−ジフルオロ−4−シクロヘキシルベンゼンが好ましい。これらは、一種類だけ使用してもよく、二種類以上を組み合わせて使用しても良い。
【0033】
前記一般式(I)の化合物の含有量は、過度に多いと、電池性能が低下することがあり、また、過度に少ないと期待した十分な電池性能が得られないことがある。従って、非水電解液の重量に対して1重量%以上が好ましく、1.5重量%以上がより好ましく、2重量%以上が最も好ましく、また10重量%以下が好ましく、7重量%以下がより好ましく、5重量%以下が最も好ましい。
【0034】
前記一般式(I)と共に含有されることが好ましい分枝アルキルベンゼン化合物としては、ベンゼン、ビフェニル、ジフェニルエーテルなどのベンゼン環に分枝アルキル基が結合した化合物が好ましく、特にベンゼン環に分枝アルキル基が結合した化合物が最も好ましい。
【0035】
分枝アルキルベンゼン化合物の具体例として、イソプロピルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、tert−ブチルベンゼン、1,3−ジ−tert−ブチルベンゼン、tert−ペンチル(アミル)ベンゼン、4−tert−ブチルビフェニル、tert−ペンチル(アミル)ビフェニル、4−tert−ブチルジフェニルエーテル、そして4−tert−ペンチル(アミル)ジフェニルエーテルなどが挙げらる。特にシクロヘキシルベンゼン、tert−ブチルベンゼン、tert−ペンチル(アミル)ベンゼンが好ましい。これらは、一種類だけ使用してもよく、二種類以上を組み合わせて使用しても良い。
【0036】
分枝アルキルベンゼン化合物の含有量は、過度に多いと電池性能が低下することがあり、また、過度に少ないと期待した十分な電池性能が得られない。したがって、分枝アルキルベンゼン化合物の含有量は、非水電解液の重量に対して0.01重量%以上が好ましく、0.1重量%以上がより好ましく、0.5重量%以上が最も好ましく、また3重量%以下が好ましく、2.5重量%以下がより好ましく、2重量%以下が最も好ましい。この分枝アルキルベンゼン化合物の添加により、過充電時の安全性が向上する。
【0037】
非水溶媒注の前記一般式(I)の化合物に対する分枝アルキルベンゼン化合物の割合は、重量比で0.1以上が好ましく、0.2以上がより好ましく、0.25以上が最も好ましく、また、重量比で1以下が好ましく、0.8以下がより好ましく、0.75以下が最も好ましい。
【0038】
本発明の非水電解液中に含まれる環状カーボネート化合物としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ジメチルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネートから選ばれる少なくとも2種であることが好ましい。なかでも、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネートから選ばれる少なくとも二種がより好ましく、特に、エチレンカーボネートとビニレンカーボネートとが含有されていることが最も好ましい。
【0039】
非水電解液中に含有される環状カーボネート化合物の割合は、過度に多いと電池性能が低下することがあり、また、過度に少ないと期待した十分な電池性能が得られない。したがって、非水電解液中に含有される環状カーボネート化合物の割合は、20容量%以上が好ましく、25容量%以上がより好ましく、また、40容量%以下が好ましく、35容量%以下がより好ましい。
【0040】
なお、不飽和炭素−炭素結合を有する環状カーボネート化合物であるビニレンカーボネート、ジメチルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネートの非水溶媒中の含有量は、0.1容量%以上が好ましく、0.4容量%以上がより好ましく、0.8容量%以上が最も好ましく、また、8容量%以下が好ましく、4容量%以下がより好ましく、3容量%以下が最も好ましい。
【0041】
本発明で使用されるその他の非水溶媒としては、例えば、γ−ブチロラクトン(GBL)、γ−バレロラクトン、α−アンゲリカラクトンなどのラクトン化合物、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタンなどのエーテル化合物、アセトニトリル、アジポニトリルなどのニトリル化合物、プロピオン酸メチル、ピバリン酸メチル、ピバリン酸ブチル、ピバリン酸オクチル、シュウ酸ジメチル、シュウ酸エチルメチル、シュウ酸ジエチルの鎖状エステル化合物、ジメチルホルムアミドなどのアミド類、グリコールサルファイト、プロピレンサルファイト、グリコールサルフェート、プロピレンサルフェート、ジビニルスルホン、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、1,4−ブタンジオールジメタンスルホネートなどのS=O含有化合物などが挙げられる。
【0042】
各種非水溶媒の組み合わせとしては、例えば、環状カーボネート化合物と鎖状カーボネート化合物との組み合わせ、環状カーボネート化合物とラクトン化合物との組み合わせ、環状カーボネート化合物とラクトン化合物と鎖状エステル化合物との組み合わせ、環状カーボネート化合物と鎖状カーボネート化合物とラクトン化合物との組み合わせ、環状カーボネート化合物と鎖状カーボネート化合物とエーテル化合物の組み合わせ、環状カーボネート化合物と鎖状カーボネート化合物と鎖状エステル化合物との組み合わせなど種々の組み合わせが挙げられるが、環状カーボネート化合物と鎖状カーボネート化合物との組み合わせ、あるいは環状カーボネート化合物と鎖状カーボネート化合物と鎖状エステル化合物との組み合わせが好ましい。
【0043】
本発明の非水電解液で使用される電解質としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiN(SO2CF32、LiN(SO2252、LiC(SO2CF33、LiPF4(CF32、LiPF3(C253、LiPF3(CF33、LiPF3(iso−C373、LiPF5(iso−C37)などの鎖状のアルキル基を含有するリチウム塩や、(CF22(SO22NLi、(CF23(SO22NLiなどの環状のアルキレン鎖を含有するリチウム塩が挙げられる。これらの電解質は、一種類で使用してもよく、二種類以上組み合わせて使用してもよい。これら電解質塩の濃度は、非水溶媒中において、0.3M以上が好ましく、0.5M以上がより好ましく、0.7M以上が最も好ましく、また、2.5M以下が好ましく、1.5M以下がより好ましく、1.2M以下が最も好ましい。
【0044】
本発明の非水電解液は、例えば、環状カーボネート化合物と鎖状カーボネート化合物を含む非水溶媒を所定割合で混合し、これに前記の電解質を溶解し、前記一般式(I)で表される化合物と、所望により、分枝アルキルベンゼン化合物とを溶解することにより得られる。
【0045】
本発明の非水電解液の25℃における動粘度は、2.3×10-6〜3.6×10-62/sであることが好ましく、2.3×10-6〜3.2×10-62/sがより好ましく、2.0〜3.0×10-62/sが最も好ましい。動粘度、細管式粘度測定法により、キャノンフェンスケ粘度計を使用して測定することができる。
【0046】
本発明の非水電解液に、例えば、空気や二酸化炭素を含ませることにより、電解液の分解によるガス発生の抑制や、サイクル特性や保存特性などの電池性能をさらに向上させることができる。
【0047】
本発明において、非水電解液中に二酸化炭素または空気を含有(溶解)させる方法としては、(1)予め非水電解液を電池内に注液する前に空気または二酸化炭素含有ガスと接触させて含有させる方法、(2)注液後、電池封口前または後に空気または二酸化炭素含有ガスを電池内に含有させる方法などが挙げられ、またこれらを組み合わせて使用することもできる。空気や二酸化炭素含有ガスは、極力水分を含まないものが好ましく、露点−40℃以下であることが好ましく、露点−50℃以下であることが特に好ましい。
【0048】
本発明の非水電解液は、リチウム二次電池の構成部材として使用される。二次電池を構成する非水電解液以外の構成部材については特に限定されず、従来使用されている種々の構成部材を使用できる。
【0049】
例えば、正極活物質としてはコバルト、マンガン、ニッケルを含有するリチウムとの複合金属酸化物が使用される。これらの正極活物質は、一種類だけを選択して使用しても良いし、二種類以上を組み合わせて用いても良い。このような複合金属酸化物としては、例えば、LiCoO2、LiMn24、LiNiO2、LiCo1-xNix2(0.01<x<1)などが挙げられる。また、LiCoO2とLiMn24、LiCoO2とLiNiO2、LiMn24とLiNiO2のように適当に混ぜ合わせて使用しても良い。以上のように、正極活物質としては、LiCoO2、LiMn24、LiNiO2、のような充電終了後の開回路電圧がLi基準で4.3V以上を示すリチウム複合金属酸化物であり、正極材料として最も好ましくは、CoやNiを含有するリチウム複合金属酸化物を用いることであり、リチウム複合金属酸化物の一部が他元素で置換されていても良い。例えば、LiCoO2のCoの一部をSn、Mg、Fe、Ti、Al、Zr、Cr、V、Ga、Zn、Cuなどで置換されていても良い。
【0050】
正極の導電剤は、化学変化を起こさない電子伝導材料であれば何でも良い。例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛など)、人造黒鉛などのグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チェンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック類などが挙げられる。また、グラファイト類とカーボンブラック類を適宜混合して用いても良い。導電剤の正極合剤への添加量は、1〜10重量%が好ましく、特に、2〜5重量%が好ましい。
【0051】
正極は、正極活物質をアセチレンブラック、カーボンブラックなどの導電剤およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンとブタジエンの共重合体(SBR)、アクリロニトリルとブタジエンの共重合体(NBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)などの結着剤と混練して正極合剤とした後、この正極材料を集電体としてのアルミニウム箔やステンレス製のラス板に塗設して、50℃〜250℃程度の温度で2時間程度真空下で加熱処理することにより作製される。
【0052】
負極(負極活物質)としては、リチウムの吸蔵・放出が可能な材料が使用され、例えば、リチウム金属やリチウム合金、および炭素材料〔熱分解炭素類、コークス類、グラファイト類(人造黒鉛、天然黒鉛など)、有機高分子化合物燃焼体、炭素繊維〕、スズやスズ化合物、ケイ素やケイ素化合物が使用される。炭素材料においては、特に、格子面(002)の面間隔(d002)が0.340nm以下であることが好ましく、0.335〜0.340nmである黒鉛型結晶構造を有するグラファイト類を使用することがより好ましい。
【0053】
負極活物質は、一種類だけを選択して使用しても良いし、二種類以上を組み合わせて用いても良い。なお、炭素材料のような粉末材料はエチレンプロピレンジエンターポリマー(EPDM)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンとブタジエンの共重合体(SBR)、アクリロニトリルとブタジエンの共重合体(NBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)などの結着剤と混練して負極合剤として使用される。負極の製造方法は、特に限定されず、上記の正極の製造方法と同様な方法により製造することができる。
【0054】
リチウム二次電池の構造は特に限定されるものではなく、正極、負極および単層又は複層のセパレータを有するコイン型電池、さらに、正極、負極およびロール状のセパレータを有する円筒型電池や角型電池などが一例として挙げられる。なお、セパレータとしては公知のポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンの微多孔膜、織布、不織布などが使用される。また、電池用セパレータは単層多孔質フィルム及び積層多孔質フィルムのいずれの構成であっても良い。
【0055】
電池用セパレータは、製造条件によっても異なるが、透気度が50〜1000秒/100ccが好ましく、100〜800秒/100ccがより好ましく、300〜500秒/100ccが最も好ましい。透気度が高すぎるとリチウムイオン伝導性が低下するために電池用セパレータとしての機能が十分でなく、低すぎると機械的強度が低下するので上記範囲とするのが好ましい。また、空孔率は30〜60%が好ましく、35〜55%がより好ましく、40〜50%が最も好ましい。特に空孔率をこの範囲とすると、電池の容量特性が向上するので好ましい。さらに、電池用セパレータの厚みはできるだけ薄い方がエネルギー密度を高くできるため好ましいが、機械的強度、性能等の両面から5〜50μmが好ましく、10〜40μmがより好ましく、15〜25μmが最も好ましい。
【0056】
本発明においては、有効な添加剤の効果を得るためには、電極材料層の密度が重要である。特に、アルミニウム箔上に形成される正極合剤層の密度は3.2〜4.0g/cm3が好ましく、更に好ましくは3.3〜3.9g/cm3、最も好ましくは3.4〜3.8g/cm3である。正極合剤密度が4.0g/cm3を超えて大きくなると、実質上、作製が困難となる。一方、銅箔上に形成される負極合剤層の密度は1.3〜2.0g/cm3、更に好ましくは1.4〜1.9g/cm3、最も好ましくは1.5〜1.8g/cm3の間である。負極合剤層の密度が2.0g/cm3を超えて大きくなると、実質上、作製が困難となる。
【0057】
本発明における好適な前記正極の電極層の厚さ(集電体片面当たり)は、30〜120μm、好ましくは50〜100μmであり、前記負極の電極層の厚さ(集電体片面当たり)は、1〜100μm、好ましくは3〜70μmである。電極材料層の厚みが好適な前記範囲より薄いと、電極材料層での活物質量が低下するために電池容量が小さくなる。一方、その厚さが前記範囲より厚いと、サイクル特性やレート特性が低下する傾向がある。
【0058】
本発明のリチウム二次電池の構成は特に限定されるものではなく、正極、負極、多孔膜セパレータおよび電解液を有するコイン電池や円筒型電池、角型電池、積層型電池などが一例として挙げられる。中でも、円筒型電池、角型電池が好ましい。
【0059】
本発明のリチウム二次電池は、充電終止電圧が4.2Vより大きい場合にも、長期間にわたり優れたサイクル特性を有しており、特に充電終止電圧が4.3V以上のような場合にも優れたサイクル特性を有している。放電終止電圧は、2.5V以上とすることができ、さらに2.8V以上とすることができる。電流値については特に限定されるものではないが、通常0.1〜3Cの定電流放電で使用される。また、本発明のリチウム二次電池は、−40℃以上で充放電することができるが、好ましくは0℃以上である。また、100℃以下で充放電することができるが、好ましくは80℃以下である。
【0060】
本発明のリチウム二次電池の内圧上昇の対策として、封口板に安全弁を用いることができる。その他、電池缶やガスケットなどの部材に切り込みを入れる方法も利用することができる。この他、従来から知られている種々の安全素子(過電流防止素子として、ヒューズ、バイメタル、PTC素子の少なくとも一種)を備えつけていることが好ましい。
【0061】
本発明のリチウム二次電池は、必要に応じて複数本を直列および/または並列に組み電池パックに収納される。電池パックには、PTC素子、温度ヒューズ、ヒューズおよび/または電流遮断素子などの安全素子のほか、安全回路(各電池および/または組電池全体の電圧、温度、電流などをモニターし、電流を遮断する機能を有する回路)を設けても良い。
【0062】
本発明のリチウム二次電池が使用される機器としては、携帯電話、ノートパソコン、PDA、ビデオムービー、コンパクトカメラ、ヒゲソリ、電動工具、自動車などを挙げることができる。特に、充電電流が0.5A以上になる機器は、本発明のリチウム二次電池との組み合わせにより信頼性が向上するので好ましい。
【実施例】
【0063】
次に、実施例および比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。
【0064】
[実施例1]
〔非水電解液の調製〕
EC:ビニレンカーボネート(VC):MEC(容量比)=28:2:70の非水溶媒を調製し、これにLiPF6を1Mの濃度になるように溶解して非水電解液を調製した後、さらに1−フルオロ−4−シクロヘキシルベンゼン(F4CHB)を非水電解液に対して4重量%となるように加えた。この電解液の25℃における動粘度は、2.7×10-62/sであった。
【0065】
〔リチウム二次電池の作製および電池特性の測定〕
LiCoO2(正極活物質)を90重量%、アセチレンブラック(導電剤)を5重量%、ポリフッ化ビニリデン(結着剤)を5重量%の割合で混合し、これに1−メチル−2−ピロリドンを加えてスラリー状にしてアルミ箔上に塗布した。その後、これを乾燥し、加圧成形して正極を調製した。別に、格子面(002)の面間隔(d002)が0.335nmである黒鉛型結晶構造を有する人造黒鉛(負極活物質)を95重量%、ポリフッ化ビニリデン(結着剤)を5重量%の割合で混合し、これに1−メチル−2−ピロリドンを加えてスラリー状にして銅箔上に塗布した。その後、これを乾燥し、加圧成形して負極を調製した。
そして、ポリプロピレン微多孔性フィルムのセパレータ(厚さ20μm)を用い、上記の非水電解液を注入後、電池封口前に露点−60℃の二酸化炭素を電池内に含有させて18650サイズの円筒電池(直径18mm、高さ65mm)を作製した。電池には、圧力開放口および内部電流遮断装置(PTC素子)を設けた。この時、正極の電極密度は、3.5g/cm3であり、負極の電極密度は1.6g/cm3であった。正極の電極層の厚さ(集電体片面当たり)は70μmであり、負極の電極層の厚さ(集電体片面当たり)は60μmであった。
この18650電池を用いて、サイクル試験するために、高温(45℃)下、2.2A(1C)の定電流で4.3Vまで充電した後、終止電圧4.3Vとして定電圧下に合計3時間充電した。次に2.2A(1C)の定電流下、終止電圧3.0Vまで放電し充放電を繰り返した。200サイクル後の電池特性を測定したところ、初期放電容量を100%としたときの放電容量維持率は81.3%であった。この電池の電池特性を表1に示す。
【0066】
[実施例2]
EC:VC:MEC(容量比)=28:2:70の非水溶媒を調製し、これにLiPF6を1Mの濃度になるように溶解して非水電解液を調製した後、さらに1−フルオロ−4−シクロヘキシルベンゼンに代えて1−フルオロ−3−シクロヘキシルベンゼン(F3CHB)を非水電解液に対して4重量%となるように加えた。この電解液の25℃における動粘度は、2.7×10-62/sであった。この電解液を用いて実施例1と同様に円筒型電池を作製した。この電池の200サイクル後の放電容量維持率を表1に示す。
【0067】
[実施例3]
EC:VC:MEC(容量比)=28:2:70の非水溶媒を調製し、これにLiPF6を1Mの濃度になるように溶解して非水電解液を調製した後、さらに1−フルオロ−4−シクロヘキシルベンゼンに代えて1−フルオロ−2−シクロヘキシルベンゼン(F2CHB)を非水電解液に対して4重量%となるように加えた。この電解液の25℃における動粘度は、2.7×10-62/sであった。この電解液を用いて実施例1と同様に円筒型電池を作製した。この電池の200サイクル後の放電容量維持率を表1に示す。
【0068】
[実施例4]
EC:VC:MEC:DMC(容量比)=28:2:50:20の非水溶媒を調製し、これにLiPF6を1Mの濃度になるように溶解して非水電解液を調製した後、さらに1−フルオロ−4−シクロヘキシルベンゼン(F4CHB)を非水電解液に対して4重量%となるように加えた。この電解液の25℃における動粘度は、2.5×10-62/sであった。この電解液を用いて実施例1と同様に円筒型電池を作製した。この電池の200サイクル後の放電容量維持率を表1に示す。
【0069】
[実施例5]
EC:VC:DEC(容量比)=28:2:70の非水溶媒を調製し、これにLiPF6を1Mの濃度になるように溶解して非水電解液を調製した後、さらに1−フルオロ−4−シクロヘキシルベンゼン(F4CHB)を非水電解液に対して4重量%となるように加えた。この電解液の25℃における動粘度は、3.4×10-62/sであった。この電解液を用いて実施例1と同様に円筒型電池を作製した。この電池の200サイクル後の放電容量維持率を表1に示す。
【0070】
[比較例1]
環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との重量比が1:1となるようにEC:VC:DEC(容量比)=41:2:57の非水溶媒を調製し、これにLiPF6を1Mの濃度になるように溶解して非水電解液を調製した後、さらに1−フルオロ−4−シクロヘキシルベンゼン(F4CHB)を非水電解液に対して4重量%となるように加えた。この電解液の25℃における動粘度は、3.7×10-62/sであった。この電解液を用いて実施例1と同様に円筒型電池を作製した。この電池の200サイクル後の放電容量維持率を表1に示す。
【0071】
[比較例2]
EC:VC:DEC(容量比)=13:2:85の非水溶媒を調製し、これにLiPF6を1Mの濃度になるように溶解して非水電解液を調製した後、さらに1−フルオロ−4−シクロヘキシルベンゼン(F4CHB)を非水電解液に対して4重量%となるように加えた。この電解液の25℃における動粘度は、2.2×10-62/sであった。この電解液を用いて実施例1と同様に円筒型電池を作製した。この電池の200サイクル後の放電容量維持率を表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
[実施例6]
〔非水電解液の調製〕
EC:ビニレンカーボネート(VC):MEC(容量比)=28:2:70の非水溶媒を調製し、これにLiPF6を1Mの濃度になるように溶解して非水電解液を調製した後、さらに1−フルオロ−4−シクロヘキシルベンゼン(F4CHB)を非水電解液に対して2重量%、シクロヘキシルベンゼン(CHB)を1重量%となるように加えた。この電解液の25℃における動粘度は、2.7×10-62/sであった。
【0074】
〔リチウム二次電池の作製および電池特性の測定〕
LiCoO2(正極活物質)を90重量%、アセチレンブラック(導電剤)を5重量%、ポリフッ化ビニリデン(結着剤)を5重量%の割合で混合し、これに1−メチル−2−ピロリドンを加えてスラリー状にしてアルミ箔上に塗布した。その後、これを乾燥し、加圧成形して正極を調製した。別に、格子面(002)の面間隔(d002)が0.335nmである黒鉛型結晶構造を有する人造黒鉛(負極活物質)を95重量%、ポリフッ化ビニリデン(結着剤)を5重量%の割合で混合し、これに1−メチル−2−ピロリドンを加えてスラリー状にして銅箔上に塗布した。その後、これを乾燥し、加圧成形して負極を調製した。
そして、ポリプロピレン微多孔性フィルムのセパレータ(厚さ20μm)を用い、上記の非水電解液を注入後、電池封口前に露点−60℃の二酸化炭素を電池内に含有させて18650サイズの円筒電池(直径18mm、高さ65mm)を作製した。電池には、圧力開放口および内部電流遮断装置(PTC素子)を設けた。この時、正極の電極密度は、3.5g/cm3であり、負極の電極密度は1.6g/cm3であった。正極の電極層の厚さ(集電体片面当たり)は70μmであり、負極の電極層の厚さ(集電体片面当たり)は60μmであった。
この18650電池を用いて、サイクル試験するために、高温(45℃)下、2.2A(1C)の定電流で4.3Vまで充電した後、終止電圧4.3Vとして定電圧下に合計3時間充電した。次に2.2A(1C)の定電流下、終止電圧3.0Vまで放電し充放電を繰り返した。初期放電容量(mAh)は、1−フルオロ−4−シクロヘキシルベンゼンの如きシクロヘキシルベンゼン化合物を添加せず、その代わりにシクロヘキシルベンゼンを非水電解液に対して3重量%添加した1M LiPF6+EC/VC/MEC(容量比)=28/2/70を電解液として用いた場合(比較例1)と比較して同等であった。200サイクル後の電池特性を測定したところ、初期放電容量を100%としたときの放電容量維持率は82.1%であった。また、200サイクル後のガス発生量は、1−フルオロ−4−シクロヘキシルベンゼンを使用しない場合(比較例1)と比較して明らかに少ないことが分かった。さらに、サイクル試験を5回繰り返した18650電池を用いて、常温(20℃)下、4.2Vの満充電状態から2.2A(1C)の定電流で続けて充電することにより過充電試験を行い、電池の表面温度が120℃を越えないことを安全性の基準とした結果、電池の表面温度は120℃以下であった。18650電池の作製条件および電池特性を表2に示す。
【0075】
[実施例7]
1−フルオロ−4−シクロヘキシルベンゼンに代えて1,2−ジフルオロ−4−シクロヘキシルベンゼン(D4CHB)を非水電解液に対して、2重量%使用したほかは実施例6と同様に円筒型電池を作製した。得られた円筒型電池の200サイクル後の放電容量維持率を表2に示す。過充電試験では、電池の表面温度が120℃以下であった。
【0076】
[実施例8]
シクロヘキシルベンゼンに代えてtert−ペンチルベンゼン(TPB)を非水電解液に対して、1重量%使用したほかは実施例6と同様に円筒型電池を作製した。得られた円筒型電池の200サイクル後の放電容量維持率を表2に示す。過充電試験は、電池の表面温度が120℃以下であった。
【0077】
[実施例9]
シクロヘキシルベンゼンに代えてtert−ブチルベンゼン(TBB)を非水電解液に対して、1重量%使用したほかは実施例6と同様に円筒型電池を作製した。得られた円筒型電池の200サイクル後の放電容量維持率を表2に示す。過充電試験では、電池の表面温度が120℃以下であった。
【0078】
[実施例10]
1−フルオロ−4−シクロヘキシルベンゼンを非水電解液に対して、1.5重量%使用し、tert−ペンチルベンゼン(TPB)およびシクロヘキシルベンゼン(CHB)を非水電解液に対して、それぞれ1重量%、0.5重量%使用したほかは実施例6と同様に円筒型電池を作製した。得られた円筒型電池の200サイクル後の放電容量維持率を表2に示す。過充電試験では、電池の表面温度が120℃以下であった。
【0079】
[実施例11]
EC:VC:MEC:1,3−プロパンスルトン(PS)(容量比)=28:2:69:1の非水溶媒を調製し、これにLiPF6を1Mの濃度になるように溶解して非水電解液を調製した後、さらに1−フルオロ−3−シクロヘキシルベンゼン(F3CHB)およびシクロヘキシルベンゼン(CHB)を非水電解液に対して、それぞれ2重量%、1重量%使用したほかは実施例6と同様に円筒型電池を作製した。得られた円筒型電池の200サイクル後の放電容量維持率を表2に示す。過充電試験では、電池の表面温度が120℃以下であった。
【0080】
[実施例12]
EC:VC:MEC:シュウ酸エチルメチル(EMO)(容量比)=28:2:69:1の非水溶媒を調製し、これにLiPF6を1Mの濃度になるように溶解して非水電解液を調製した後、さらに1−フルオロ−2−シクロヘキシルベンゼン(F2CHB)およびシクロヘキシルベンゼン(CHB)を非水電解液に対して、それぞれ2重量%、1重量%使用したほかは実施例6と同様に円筒型電池を作製した。得られた円筒型電池の200サイクル後の放電容量維持率を表2に示す。過充電試験では、電池の表面温度が120℃以下であった。
【0081】
[比較例3]
1−フルオロ−4−シクロヘキシルベンゼンの如きシクロヘキシルベンゼン化合物を全く添加せず、シクロヘキシルベンゼン(CHB)を非水電解液に対して、3重量%使用したほかは実施例6と同様に円筒型電池を作製した。得られた円筒型電池の200サイクル後の放電容量維持率を表2に示す。過充電試験では、電池の表面温度が120℃以下であった。
【0082】
[比較例4]
1−フルオロ−4−シクロヘキシルベンゼンの如きシクロヘキシルベンゼン化合物を全く添加せず、シクロヘキシルベンゼンに代えてtert−ブチルベンゼン(TBB)を非水電解液に対して、3重量%使用したほかは実施例6と同様に円筒型電池を作製した。得られた円筒型電池の200サイクル後の放電容量維持率を表2に示す。過充電試験では、電池の表面温度が140℃を超え、tert−ブチルベンゼンを使用しない場合と同じように過充電防止効果はみられなかった。
【0083】
【表2】

注:比較例4では、過充電防止効果は見られていない。
【0084】
なお、本発明は記載の実施例に限定されず、発明の趣旨から容易に類推可能な様々な組み合わせが可能である。特に、上記実施例の溶媒の組み合わせは限定されるものではない。更には、上記実施例は円筒電池に関するものであるが、本発明は角型電池、コイン電池またはラミネート式電池にも適用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状カーボネート化合物、鎖状カーボネート化合物、そしてベンゼン環に一個もしくは二個のハロゲン原子が結合しているシクロヘキシルベンゼン化合物を含有する非水溶媒に電解質が溶解されてなるリチウム二次電池用非水電解液において、該非水溶媒中の環状カーボネート化合物と鎖状カーボネート化合物との容量比が20:80〜40:60の範囲内にあることを特徴とする非水電解液。
【請求項2】
環状カーボネート化合物が、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ジメチルビニレンカーボネートおよびビニルエチレンカーボネートからなる群より選ばれる少なくとも二種の化合物を含む請求項1に記載の非水電解液。
【請求項3】
環状カーボネート化合物が、ビニレンカーボネート、ジメチルビニレンカーボネートおよびビニルエチレンカーボネートからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物と、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートおよびブチレンカーボネートからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物とを含む請求項1に記載の非水電解液。
【請求項4】
鎖状カーボネート化合物が、メチルエチルカーボネート、ジメチルカーボネートおよびジエチルカーボネートからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含む請求項1に記載の非水電解液。
【請求項5】
ベンゼン環に一個もしくは二個のハロゲン原子が結合しているシクロヘキシルベンゼン化合物のハロゲン原子がフッ素原子である請求項1に記載の非水電解液。
【請求項6】
ベンゼン環に一個もしくは二個のハロゲン原子が結合しているシクロヘキシルベンゼン化合物が、1−フルオロ−2−シクロヘキルベンゼン、1−フルオロ−3−シクロヘキシルベンゼン、1−フルオロ−4−シクロヘキシルベンゼン、もしくはそれらの化合物の二種以上の混合物である請求項1に記載の非水電解液。
【請求項7】
25℃における動粘度が2.3×10-6〜3.6×10-62/sの範囲内にある請求項1に記載の非水電解液。
【請求項8】
環状カーボネート化合物、鎖状カーボネート化合物、そしてベンゼン環に一個もしくは二個のハロゲン原子が結合しているシクロヘキシルベンゼン化合物を含有する非水溶媒に電解質が溶解されてなるリチウム二次電池用非水電解液において、該非水電解液がさらに、分枝アルキルベンゼン化合物を0.01重量%〜3重量%含有することを特徴とする非水電解液。
【請求項9】
環状カーボネート化合物が、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ジメチルビニレンカーボネートおよびビニルエチレンカーボネートからなる群より選ばれる少なくとも二種の化合物を含む請求項8に記載の非水電解液。
【請求項10】
環状カーボネート化合物が、ビニレンカーボネート、ジメチルビニレンカーボネートおよびビニルエチレンカーボネートからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物と、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートおよびブチレンカーボネートからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物とを含む請求項8に記載の非水電解液。
【請求項11】
鎖状カーボネート化合物が、メチルエチルカーボネート、ジメチルカーボネートおよびジエチルカーボネートからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含む請求項8に記載の非水電解液。
【請求項12】
ベンゼン環に一個もしくは二個のハロゲン原子が結合しているシクロヘキシルベンゼン化合物のハロゲン原子がフッ素原子である請求項8に記載の非水電解液。
【請求項13】
ベンゼン環に一個もしくは二個のハロゲン原子が結合しているシクロヘキシルベンゼン化合物が、1−フルオロ−2−シクロヘキルベンゼン、1−フルオロ−3−シクロヘキシルベンゼン、1−フルオロ−4−シクロヘキシルベンゼン、もしくはそれらの化合物の二種以上の混合物である請求項8に記載の非水電解液。
【請求項14】
25℃における動粘度が、2.3×10-6〜3.6×10-62/sの範囲内にある請求項8に記載の非水電解液。
【請求項15】
環状カーボネート化合物と鎖状カーボネート化合物との容量比が20:80〜40:60の範囲内にある請求項8に記載の非水電解液。
【請求項16】
分枝アルキルベンゼン化合物が、イソプロピルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、tert−ブチルベンゼン、1,3−ジ−tert−ブチルベンゼン、tert−ペンチルベンゼン、4−tert−ブチルビフェニル、tert−ペンチルビフェニル、4−tert−ブチルジフェニルエーテルおよび4−tert−ペンチルジフェニルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物である請求項8に記載の非水電解液。
【請求項17】
ベンゼン環に一個もしくは二個のハロゲン原子が結合しているシクロヘキシルベンゼン化合物に対する分枝アルキルベンゼン化合物の重量比が0.1〜1の範囲内にある請求項8に記載の非水電解液。
【請求項18】
正極、負極、および請求項1に記載の非水電解液からなるリチウム二次電池。
【請求項19】
正極、負極、および請求項8に記載の非水電解液からなるリチウム二次電池。
【請求項20】
正極、負極、および請求項1に記載の非水電解液からなるリチウム二次電池を用い、充電終止電圧4.2V以上の充電条件にて繰り返し充放電を行なうことからなるリチウム二次電池の使用方法。
【請求項21】
正極、負極、および請求項8に記載の非水電解液からなるリチウム二次電池を用い、充電終止電圧4.2V以上の充電条件にて繰り返し充放電を行なうことからなるリチウム二次電池の使用方法。

【国際公開番号】WO2005/048391
【国際公開日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【発行日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515443(P2005−515443)
【国際出願番号】PCT/JP2004/016749
【国際出願日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】