説明

非水電解液二次電池およびその製造方法

【課題】皮膜形成による効果を確実に発現することができる非水電解液二次電池を提供することである。
【解決手段】本発明にかかる非水電解液二次電池は、正極と負極と非水電解液とを備える。負極はリチウムビスオキサレートボレートに由来する皮膜を有する。このリチウムビスオキサレートボレートに由来する皮膜は、ホウ素元素を含む皮膜とシュウ酸イオンを含む皮膜とを有する。そして、リチウムビスオキサレートボレートに由来する皮膜におけるホウ素元素のシュウ酸イオンに対する比率が5以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非水電解液二次電池および非水電解液二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解液二次電池の一つにリチウム二次電池がある。リチウム二次電池は、リチウムイオンを吸蔵・放出する正極および負極の間を、非水電解液中のリチウムイオンが移動することで充放電可能な二次電池である。
【0003】
特許文献1には、保存特性や出力特性等の電池特性が優れた非水電解液二次電池に関する技術が開示されている。特許文献1に開示されている非水電解液二次電池は、正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、非水電解液とを備える。そして、非水電解液として、オキサラト錯体をアニオンとするリチウム塩およびアセトニトリルを含有し、アセトニトリルの含有量は、オキサラト錯体をアニオンとするリチウム塩の含有量に対して0.6質量%〜1.0質量%である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−34893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非水電解液二次電池は、高温環境下で使用した場合など、使用する環境によっては電池特性が低下するという問題がある。つまり、非水電解液二次電池は、使用する環境の影響を受けて電池の容量維持率が低下したり、また電極の内部抵抗が増加したりするという問題がある。
【0006】
上記問題を解決するために特許文献1では、リチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)を非水電解液に添加し、LiBOBに由来する皮膜を負極に形成している。また、特許文献1では非水電解液に添加するLiBOBの添加量について規定している。しかしながら、負極に形成されるLiBOBに由来する皮膜の状態は皮膜生成条件等により変化する。よって、LiBOBの添加量を規定したとしても、形成される皮膜の状態により、皮膜形成による効果は変化してしまう。
【0007】
上記課題に鑑み本発明の目的は、皮膜形成による効果を確実に発現することができる非水電解液二次電池および非水電解液二次電池の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる非水電解液二次電池は、正極と負極と非水電解液とを備える非水電解液二次電池であって、前記負極はリチウムビスオキサレートボレートに由来する皮膜を有し、当該皮膜はホウ素元素とシュウ酸イオンとを含み、前記ホウ素元素の前記シュウ酸イオンに対する比率が5以上である。
【0009】
本発明にかかる非水電解液二次電池において、前記ホウ素元素の前記シュウ酸イオンに対する比率を5.9以上としてもよい。
【0010】
本発明にかかる非水電解液二次電池において、前記ホウ素元素の前記シュウ酸イオンに対する比率を7.1以上としてもよい。
【0011】
本発明にかかる非水電解液二次電池において、前記ホウ素元素の前記シュウ酸イオンに対する比率を10以上としてもよい。
【0012】
本発明にかかる非水電解液二次電池において、前記ホウ素元素の前記シュウ酸イオンに対する比率を13.4以上としてもよい。
【0013】
本発明にかかる非水電解液二次電池において、前記非水電解液はジフルオロリン酸リチウムを含んでいてもよい。
【0014】
本発明にかかる非水電解液二次電池の製造方法は、正極と負極と非水電解液とを備える非水電解液二次電池の製造方法であって、前記非水電解液にリチウムビスオキサレートボレートを添加し、前記非水電解液二次電池を充電および放電するコンディショニング処理を実施して前記負極に前記リチウムビスオキサレートボレートに由来する皮膜を形成する際、前記皮膜に含まれるホウ素元素の前記皮膜に含まれるシュウ酸イオンに対する比率を5以上とする。
【0015】
本発明にかかる非水電解液二次電池の製造方法において、前記コンディショニング処理は、前記非水電解液二次電池を第1の充電状態まで充電した後、前記非水電解液二次電池を第2の充電状態まで放電する処理を繰り返す処理を含み、前記第1の充電状態と前記第2の充電状態の幅は20%以上50%以下としてもよい。
【0016】
本発明にかかる非水電解液二次電池の製造方法において、前記第1の充電状態と前記第2の充電状態の幅を30%以上50%以下としてもよい。
【0017】
本発明にかかる非水電解液二次電池の製造方法において、前記第1の充電状態と前記第2の充電状態の幅を40%としてもよい。
【0018】
本発明にかかる非水電解液二次電池の製造方法において、前記非水電解液におけるリチウムビスオキサレートボレートの濃度が0.1mol/kg以下となるように、前記非水電解液にリチウムビスオキサレートボレートを添加してもよい。
【0019】
本発明にかかる非水電解液二次電池の製造方法において、前記非水電解液におけるリチウムビスオキサレートボレートの濃度が0.025mol/kg以下となるように、前記非水電解液にリチウムビスオキサレートボレートを添加してもよい。
【0020】
本発明にかかる非水電解液二次電池の製造方法において、前記非水電解液はジフルオロリン酸リチウムを含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、皮膜形成による効果を確実に発現することができる非水電解液二次電池および非水電解液二次電池の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】非水電解液二次電池のコンディショニング条件、皮膜組成、および電池特性の関係を示す表である。
【図2】ホウ素元素とシュウ酸イオンの比率と、電池特性(IV抵抗値、容量維持率)との関係を示すグラフである。
【図3】非水電解液二次電池のコンディショニング条件、皮膜組成、および電池特性の関係を示す表である。
【図4】ホウ素元素とシュウ酸イオンの比率と、電池特性(IV抵抗値、容量維持率)との関係を示すグラフである。
【図5】非水電解液二次電池のコンディショニング条件、皮膜組成、および電池特性の関係を示す表である。
【図6】コンディショニング処理時におけるSOC幅と、IV抵抗値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本実施の形態にかかる非水電解液二次電池(以下、リチウム二次電池)は、正極と、負極と、非水電解液とを少なくとも備える。
【0024】
<正極>
正極は正極活物質を有する。正極活物質は、リチウムを吸蔵・放出可能な材料であり、例えばコバルト酸リチウム(LiCoO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)等を用いることができる。また、LiCoO、LiMn、LiNiOを任意の割合で混合した材料を用いてもよい。例えば、これらの材料を等しい割合で混合したLiNi1/3Co1/3Mn1/3を用いることができる。
【0025】
また、正極は、導電材を含んでいてもよい。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、黒鉛(グラファイト)を用いることができる。
【0026】
本実施の形態にかかるリチウム二次電池の正極は、例えば、正極活物質と、導電材と、溶媒と、結着剤(バインダー)とを混練し、混練後の正極合剤を正極集電体に塗布して乾燥することによって作製することができる。ここで、溶媒としては、例えばNMP(N−メチル−2−ピロリドン)溶液を用いることができる。また、バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等を用いることができる。また、正極集電体として、アルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金を用いることができる。
【0027】
<負極>
負極活物質は、リチウムを吸蔵・放出可能な材料であり、例えば、黒鉛(グラファイト)等からなる粉末状の炭素材料を用いることができる。そして、正極と同様に、負極活物質と、溶媒と、バインダーとを混練し、混練後の負極合剤を負極集電体に塗布して乾燥することによって負極を作製することができる。ここで、負極集電体として、例えば銅やニッケルあるいはそれらの合金を用いることができる。
【0028】
<非水電解液>
非水電解液は、非水溶媒に支持塩が含有された組成物である。ここで、非水溶媒としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等からなる群から選択された一種または二種以上の材料を用いることができる。また、支持塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、LiCSO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiI等から選択される一種または二種以上のリチウム化合物(リチウム塩)を用いることができる。また、本実施の形態にかかるリチウム二次電池では、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO)を非水電解液に添加してもよい。
【0029】
更に、本実施の形態にかかるリチウム二次電池では、非水電解液にリチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)を添加する。例えば、非水電解液におけるLiBOBの濃度が0.1mol/kg以下となるように、非水電解液にLiBOBを添加する。このとき、非水電解液におけるLiBOBの濃度が0.025mol/kg以下となるように非水電解液にLiBOBを添加してもよい。
【0030】
<セパレータ>
また、本実施の形態にかかるリチウム二次電池は、セパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、多孔性ポリエチレン膜、多孔性ポリオレフィン膜、および多孔性ポリ塩化ビニル膜等の多孔性ポリマー膜、又は、リチウムイオンもしくはイオン導電性ポリマー電解質膜を、単独、又は組み合わせて使用することができる。
【0031】
<リチウム二次電池>
以下、捲回電極体を備えるリチウム二次電池を例にして説明する。本実施の形態にかかるリチウム二次電池は、長尺状の正極シート(正極)と長尺状の負極シート(負極)とが長尺状のセパレータを介して扁平に捲回された形態の電極体(捲回電極体)が、非水電解液とともに、当該捲回電極体を収容し得る形状の容器に収容されている。
【0032】
容器は、上端が開放された扁平な直方体状の容器本体と、その開口部を塞ぐ蓋体とを備える。容器を構成する材料としては、アルミニウム、スチール等の金属材料が好ましい。あるいは、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリイミド樹脂等の樹脂材料を成形した容器であってもよい。容器の上面(つまり、蓋体)には、捲回電極体の正極と電気的に接続される正極端子および捲回電極体の負極と電気的に接続される負極端子が設けられている。容器の内部には、扁平形状の捲回電極体が非水電解液と共に収容されている。
【0033】
正極シートは、箔状の正極集電体の両面に正極活物質を含む正極合剤層が保持された構造を有している。負極シートも正極シートと同様に、箔状の負極集電体の両面に負極活物質を含む負極合剤層が保持された構造を有している。捲回電極体を作製する際は、正極シートおよび負極シートを、セパレータを介して積層する。そして、このように重ね合わせた積層体を捲回し、得られた捲回体を側面方向から押しつぶして扁平状の捲回電極体を作製する。
【0034】
そして、捲回電極体の両端部の正極シートおよび負極シートが露出した部分(正極合剤層および負極合剤層がない部分)に、正極リード端子および負極リード端子をそれぞれ設け、上述の正極端子および負極端子とそれぞれ電気的に接続する。このようにして作製した捲回電極体を容器本体に収容し、容器本体内に非水電解液を注液する。そして、蓋体を用いて容器本体の開口部を封止することにより、本実施形態にかかるリチウム二次電池を作製することができる。
【0035】
<コンディショニング処理>
上記の方法で作製したリチウム二次電池にコンディショニング処理を実施する。コンディショニング処理は、リチウム二次電池の充電および放電を所定の回数繰り返すことで実施することができる。コンディショニング処理の一例を以下に示す。
【0036】
まず、60℃の温度環境下において1Cの充電レートで4.1Vまで定電流定電圧で充電して、充電状態をSOC(State of Charge)100%とする。次に、60℃の温度環境下において1Cの放電レートで3.0Vまで定電流定電圧放電して、充電状態をSOC0%とする。その後、60℃の温度環境下において1Cの充電レートで所定のSOC幅で充放電を所定の時間繰り返す。コンディショニング処理の時間は、例えば7日間とすることができる。
【0037】
SOC幅は、例えばSOC50%を中心としたSOCの幅である。例えば、SOC幅が20%の場合は、まず充電状態をSOC100%とした後、充電状態をSOC0%とする。その後、SOC60%(第1の充電状態)まで充電した後、SOC40%(第2の充電状態)まで放電する処理を所定の時間繰り返す(つまり、SOC40%とSOC60%との間(SOC幅20%)で充放電を繰り返す)。ここで、SOC幅(第1の充電状態と第2の充電状態の幅)は、例えば20%以上50%以下、より好ましくは30%以上50%以下、更に好ましくは40%とすることができる。
【0038】
なお、コンディショニング処理の条件は上記に示した条件に限定されることはなく、充電レート、放電レート、充放電の設定電圧、コンディショニング処理の時間、およびSOC幅は任意に設定することができる。本実施の形態にかかるリチウム二次電池では、コンディショニング処理を実施することにより、負極表面にリチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)に由来する皮膜を形成することができる。このLiBOB由来の皮膜は、コンディショニング処理を実施した際、非水電解液に添加されたLiBOBが負極表面で還元分解されることで形成される。
【0039】
<リチウム二次電池の評価>
本実施の形態にかかるリチウム二次電池では、負極に形成されたLiBOBに由来する皮膜におけるホウ素元素のシュウ酸イオンに対する比率を調べることで、リチウム二次電池を評価することができる。LiBOBに由来する皮膜のホウ素元素の量は、例えばICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析法を用いて調べることができる。また、LiBOBに由来する皮膜のシュウ酸イオンの量は、例えばイオンクロマトグラフを用いて調べることができる。
【0040】
本実施の形態にかかるリチウム二次電池では、皮膜に含まれるホウ素元素のシュウ酸イオンに対する比率(ホウ素元素量/シュウ酸イオン量)を5以上とする。このように、ホウ素元素のシュウ酸イオンに対する比率を5以上とすることで、リチウム二次電池の電池特性を向上させることができる。更に、ホウ素元素のシュウ酸イオンに対する比率を5.9以上、より好ましくは7.1以上、より好ましくは10以上、より好ましくは13.4以上とすることで、リチウム二次電池の電池特性をより向上させることができる。
【0041】
例えば、ホウ素元素のシュウ酸イオンに対する比率が5以上である皮膜を負極に形成するためには、高温条件下(60℃)でのコンディショニング処理において、充放電を繰り返す際のSOC幅を20%以上とする。なお、ホウ素元素のシュウ酸イオンに対する比率が5以上である皮膜を負極に形成するためのコンディショニング条件は、上記のコンディショニング条件に限定されることはなく、これ以外の任意のコンディショニング条件を用いてもよい。
【0042】
リチウム二次電池は、高温環境下で使用した場合など、使用する環境によっては電池特性が低下するという問題があった。つまり、リチウム二次電池は、使用する環境の影響を受けて電池の容量維持率が低下したり、また電極の内部抵抗が増加したりするという問題があった。
【0043】
この問題を解決するために特許文献1では、リチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)を非水電解液に添加し、LiBOBに由来する皮膜を負極に形成している。また、特許文献1では非水電解液に添加するLiBOBの添加量について規定している。しかしながら、負極に形成されるLiBOBに由来する皮膜の状態は皮膜生成条件等により変化する。よって、LiBOBの添加量を規定したとしても、形成される皮膜の状態により、皮膜形成による効果は変化してしまう。このため、非水電解液にLiBOBを添加したとしても、場合によっては皮膜形成による電池特性向上の効果が発現しないおそれもある。
【0044】
リチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)は、ホウ素を中心としたオキサラト錯体による4配位構造であり、下記に示す反応によりホウ素を含む皮膜が形成されると考えられる。このとき、シュウ酸イオンC2−を含む皮膜も生成される。ホウ素を含む皮膜は電池特性(容量維持率)を向上させる効果があるが、シュウ酸イオンC2−を含む皮膜は高抵抗の皮膜であり、電極の内部抵抗の増加の原因となり、電池特性を劣化させる場合がある。よって、非水電解液にLiBOBを添加したとしても、場合によっては皮膜形成による電池特性向上の効果が発現しないおそれもある。
【0045】
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【0046】
本実施の形態にかかるリチウム二次電池では、非水電解液にLiBOBを添加すると共に、負極表面に形成されるLiBOBに由来する皮膜に含まれるホウ素元素のシュウ酸イオンに対する比率を5以上とすることで、電池特性を向上させることができる。すなわち、皮膜に含まれるホウ素元素のシュウ酸イオンに対する比率を適正化することで、ホウ素を含む皮膜を用いて容量維持率を向上させつつ、シュウ酸イオンを含む皮膜に起因する負極の内部抵抗の増加を抑制することができ、電池特性を向上させることができる。
【0047】
シュウ酸イオンを含む皮膜は熱を加えることで分解が促進され、炭酸ガスとして負極皮膜から除去することができる。よって、高温条件下で放置するコンディショニング処理を実施することでシュウ酸イオンを含む皮膜を除去することができる。しかし、高温条件下で放置するコンディショニング処理のみでは、LiBOBに由来する皮膜の上に更に電解液に由来する皮膜が形成されるため、シュウ酸イオンの脱離が阻害され、シュウ酸イオンが十分に減少しない。そこで、本実施の形態にかかるリチウム二次電池では、高温条件下でのコンディショニング処理において、所定のSOC幅で充放電を繰り返す処理を実施している。このような処理を実施することで、コンディショニング処理時に負極活物質の体積を変化させることができ、電解液に由来する皮膜に亀裂を形成することがでる。そして、この亀裂を通して、シュウ酸イオンの分解により生成される炭酸ガスを放出することができるので、シュウ酸イオンの脱離が促進され、より低抵抗な皮膜を負極に形成することができると考えられる。
【0048】
以上で説明した本実施の形態にかかる発明により、皮膜形成による効果を確実に発現することができる非水電解液二次電池および非水電解液二次電池の製造方法を提供することができる。
【実施例】
【0049】
次に、本発明の実施例について説明する。
<正極の作製>
正極活物質としてLiNi1/3Co1/3Mn1/3を、導電材としてアセチレンブラック(AB)を、バインダーとしてPVDFを、それぞれの質量比が90:8:2となるように調整した。そして、調整したこれらの材料をNMP(N−メチル−2−ピロリドン)溶液と混合して混練した。そして、混練後の正極合剤を厚さ15μmの長尺状のアルミニウム箔(正極集電体)の両面に帯状に塗布して乾燥することにより、正極集電体の両面に正極合剤層が設けられた正極シートを作製した。正極合剤の塗布量は、両面合わせて約12mg/cm(固形分基準)となるように調節した。乾燥後、正極合剤層の密度が約2.2g/cmとなるようにプレスした。
【0050】
<負極の作製>
負極活物質としての天然黒鉛粉末と、SBRと、CMCとを、これらの材料の質量比が98:1:1となるように水に分散させて負極合剤を調製した。この負極合剤を厚さ10μmの長尺状の銅箔(負極集電体)の両面に塗布して乾燥することにより、負極集電体の両面に負極合剤層が設けられた負極シートを作製した。負極合剤の塗布量は、両面合わせて約7.5mg/cm(固形分基準)となるように調節した。乾燥後、負極合剤層の密度が約1.1g/cmとなるようにプレスした。
【0051】
<リチウム二次電池>
上記のようにして作製した正極シートおよび負極シートを2枚のセパレータ(多孔質ポリエチレン製の単層構造のものを使用した。)を介して積層して捲回し、その捲回体を側面方向から押しつぶして扁平状の捲回電極体を作製した。この捲回電極体を非水電解液とともに箱型の電池容器に収容し、電池容器の開口部を気密に封口した。
【0052】
非水電解液としては、ECとEMCとDMCとを1:1:1の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPFを1.0mol/Lの濃度で含有させ、更にジフルオロリン酸リチウム(LiPO)を0.025mol/kgの濃度で添加したものを使用した。また、非水電解液におけるLiBOB濃度が0.025mol/kgまたは0.1mol/kgとなるようにLiBOBを添加した。このようにしてリチウム二次電池を組み立てた。
【0053】
<コンディショニング処理>
上記のようにして組み立てたリチウム二次電池に、コンディショニング処理を実施した。まず、60℃の温度環境下において所定の充電レートで4.1Vまで定電流定電圧で充電して、充電状態をSOC100%とした。その後、60℃の温度環境下において所定の放電レートで3.0Vまで定電流定電圧放電して、充電状態をSOC0%とした。更に、60℃の温度環境下において所定の充電レートでSOC50%まで充電し、SOC50%を中心として所定のSOC幅(20%、30%、40%、50%、60%)で7日間、充放電を繰り返した。上記の所定の充放電レートは、ΔSOCが20%の場合は1C、ΔSOCが30%の場合は1.5C、ΔSOCが40%の場合は2C、ΔSOCが50%の場合は2.5C、ΔSOCが60%の場合は3Cとした。
【0054】
<ホウ素元素とシュウ酸イオンの比率の測定>
コンディショニング処理後、負極に形成されたLiBOBに由来する皮膜におけるホウ素元素のシュウ酸イオンに対する比率を調べた。ホウ素元素の量は、ICP発光分光分析法を用いて調べた。また、シュウ酸イオンの量は、イオンクロマトグラフを用いて調べた。
【0055】
<IV抵抗値の測定>
コンディショニング処理後、各リチウム二次電池について内部抵抗値(初期抵抗値)を測定した。内部抵抗値の測定は、各リチウム二次電池をSOC50%の状態に調整し、−10℃の温度環境下において、1A、2A、4A、8A、12Aの電流を流して10秒後の電池電圧を測定した。そして、各リチウム二次電池に流した電流と電圧とを直線近似し、その傾きから内部抵抗値(IV抵抗値)を求めた。
【0056】
<容量維持率の測定>
また、上記のようにして作製したリチウム二次電池に対して保存耐久試験を実施し、容量維持率を測定した。保存耐久試験は、コンディショニング処理後のリチウム二次電池をSOC80%の充電状態に調整し、その後、60℃の環境下で1ヶ月間放置することで実施した。また、容量維持率の測定は次のようにして実施した。
【0057】
保存耐久試験前の放電容量を放電容量A、保存耐久試験後の放電容量を放電容量Bとして、下記の式を用いて容量維持率を求めた。
容量維持率(%)=(放電容量B/放電容量A)×100
なお、放電容量Aおよび放電容量Bは、次のようにして算出した。まず、25℃の温度環境下で、各リチウム二次電池について4Aの定電流で、電池電圧が上限電圧値4.2Vから下限電圧値3.0Vに至るまで放電を行なった。このときの放電容量(Ah)から容量維持率を算出した。
【0058】
<試験結果1>
まず、非水電解液におけるLiBOBの濃度が0.025mol/kgの場合の試験結果を示す。図1は、上記のようにして作製したリチウム二次電池のコンディショニング条件、皮膜組成、および電池特性の関係を示す表である。また、図2は、ホウ素元素とシュウ酸イオンの比率と、電池特性(IV抵抗値、容量維持率)との関係を示すグラフである。
【0059】
図1の表に示すように、サンプルNo.1ではSOC幅(ΔSOC)20%でコンディショニング処理を実施し、サンプルNo.2ではSOC幅30%でコンディショニング処理を実施し、サンプルNo.3ではSOC幅40%でコンディショニング処理を実施し、サンプルNo.4ではSOC幅50%でコンディショニング処理を実施した。また、サンプルNo.5ではコンディショニング処理を実施しなかった。また、サンプルNo.6では、60℃の温度環境下において1Cの充電レートで4.1Vまで定電流定電圧で充電し、その後、7日間、60℃の温度環境下で放置することでコンディショニング処理を実施した。
【0060】
図2のグラフに示すように、容量維持率はホウ素元素とシュウ酸イオンの比率(B/C2−)に依存することなく、ほぼ一定となった。つまり、図1の表に示すように、ホウ素元素の量は各サンプルにおいてほぼ一定であるため、各サンプルの負極にはホウ素を含む安定な皮膜が形成され、負極表面での溶媒分解が抑制されて、各サンプルにおいて容量維持率が向上したと考えられる。
【0061】
一方、IV抵抗値は、ホウ素元素とシュウ酸イオンの比率(B/C2−)が5よりも小さくなると増加することがわかった。つまり、図1の表に示すように、ホウ素元素とシュウ酸イオンの比率(B/C2−)が5よりも小さい場合(サンプルNo.5、No.6)は、シュウ酸イオンが多いためIV抵抗値が増加した。よって、IV抵抗値を小さくするためには、ホウ素元素とシュウ酸イオンの比率(B/C2−)を5以上とする必要があることがわかった。また、ホウ素元素とシュウ酸イオンの比率(B/C2−)を5.9以上、10以上、13.4以上とすることで、更にIV抵抗値を小さくすることができた。
【0062】
以上で説明したように、ホウ素元素とシュウ酸イオンの比率(B/C2−)を5以上とすることで、ホウ素を含む皮膜を用いて容量維持率を向上させつつ、シュウ酸イオンを含む皮膜に起因する負極の内部抵抗の増加を抑制することができた。
【0063】
<試験結果2>
次に、非水電解液におけるLiBOBの濃度が0.1mol/kgの場合の試験結果を示す。図3は、上記のようにして作製したリチウム二次電池のコンディショニング条件、皮膜組成、および電池特性の関係を示す表である。また、図4は、ホウ素元素とシュウ酸イオンの比率と、電池特性(IV抵抗値、容量維持率)との関係を示すグラフである。
【0064】
図3の表に示すように、サンプルNo.7ではSOC幅20%でコンディショニング処理を実施し、サンプルNo.8ではSOC幅30%でコンディショニング処理を実施し、サンプルNo.9ではSOC幅40%でコンディショニング処理を実施した。また、サンプルNo.10ではコンディショニング処理を実施しなかった。また、サンプルNo.11では、60℃の温度環境下において1Cの充電レートで4.1Vまで定電流定電圧で充電し、その後、7日間、60℃の温度環境下で放置することでコンディショニング処理を実施した。
【0065】
図4のグラフに示すように、容量維持率はホウ素元素とシュウ酸イオンの比率(B/C2−)に依存することなく、ほぼ一定となった。つまり、図3の表に示すように、ホウ素元素の量は各サンプルにおいてほぼ一定であるため、各サンプルの負極にはホウ素を含む安定な皮膜が形成され、負極表面での溶媒分解が抑制されて、各サンプルにおいて容量維持率が向上したと考えられる。
【0066】
一方、IV抵抗値は、ホウ素元素とシュウ酸イオンの比率(B/C2−)が5よりも小さくなると増加することがわかった。つまり、図3の表に示すように、ホウ素元素とシュウ酸イオンの比率(B/C2−)が5よりも小さい場合(サンプルNo.10、No.11)は、シュウ酸イオンが多いためIV抵抗値が増加した。よって、IV抵抗値を小さくするためには、ホウ素元素とシュウ酸イオンの比率(B/C2−)を5以上とする必要があることがわかった。
【0067】
以上で説明したように、ホウ素元素とシュウ酸イオンの比率(B/C2−)を5以上とすることで、ホウ素を含む皮膜を用いて容量維持率を向上させつつ、シュウ酸イオンを含む皮膜に起因する負極の内部抵抗の増加を抑制することができた。
【0068】
また、試験結果1と試験結果2とを比べると、LiBOBの濃度が0.1mol/kgの場合は、LiBOBの濃度が0.025mol/kgの場合と比べて、容量維持率およびIV抵抗値が全体的に高くなった。これは、LiBOBの濃度が高い場合は負極に形成されるLiBOBに由来する皮膜(ホウ素を含む皮膜およびシュウ酸イオンを含む皮膜)の量が増加するためであると考えられる。
【0069】
<SOC幅の適正範囲>
図5は、上記のようにして作製したリチウム二次電池のコンディショニング条件、皮膜組成、および電池特性の関係を示す表である。また、図6は、コンディショニング処理時におけるSOC幅と、IV抵抗値との関係を示すグラフである。図5、図6に示す試験結果は、非水電解液におけるLiBOBの濃度が0.025mol/kgの場合の試験結果である。
【0070】
図5の表に示すように、サンプルNo.1ではSOC幅20%でコンディショニング処理を実施し、サンプルNo.2ではSOC幅30%でコンディショニング処理を実施し、サンプルNo.3ではSOC幅40%でコンディショニング処理を実施し、サンプルNo.4ではSOC幅50%でコンディショニング処理を実施し、サンプルNo.12ではSOC幅60%でコンディショニング処理を実施した。また、サンプルNo.6では、60℃の温度環境下において1Cの充電レートで4.1Vまで定電流定電圧で充電し、その後、7日間、60℃の温度環境下で放置することでコンディショニング処理を実施した。
【0071】
図6のグラフに示すように、SOC幅が0%の場合と60%の場合は、IV抵抗値が大きくなった。一方、SOC幅が20%以上50%以下の範囲では、IV抵抗値が比較的小さい値となった。SOC幅が20%以上50%以下の範囲では、IV抵抗値が更に小さい値となり、SOC幅が40%のときにIV抵抗値が最も小さくなった。
【0072】
よって、図5、図6に示す結果から、SOC幅の適正範囲は20%以上50%以下であることがわかった。つまり、SOC幅を20%以上50%以下とすることで、コンディショニング処理時に負極活物質の体積を変化させることができ、電解液に由来する皮膜に亀裂を形成することがでると考えられる。そして、この亀裂を通して、シュウ酸イオンの分解により生成される炭酸ガスを放出することができるので、シュウ酸イオンの脱離が促進され、より低抵抗なLiBOBに由来する皮膜を形成することができると考えられる。一方、SOC幅が大きすぎる場合(SOC幅60%)は、正極が高電位にさらされるため正極の抵抗値が増加し、逆にIV抵抗値が増加したと考えられる。
【0073】
以上、本発明を上記実施形態および実施例に即して説明したが、上記実施形態および実施例の構成にのみ限定されるものではなく、本願特許請求の範囲の請求項の発明の範囲内で当業者であればなし得る各種変形、修正、組み合わせを含むことは勿論である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極と非水電解液とを備える非水電解液二次電池であって、
前記負極はリチウムビスオキサレートボレートに由来する皮膜を有し、当該皮膜はホウ素元素とシュウ酸イオンとを含み、前記ホウ素元素の前記シュウ酸イオンに対する比率が5以上である、
非水電解液二次電池。
【請求項2】
前記ホウ素元素の前記シュウ酸イオンに対する比率が5.9以上である、請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項3】
前記ホウ素元素の前記シュウ酸イオンに対する比率が7.1以上である、請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項4】
前記ホウ素元素の前記シュウ酸イオンに対する比率が10以上である、請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項5】
前記ホウ素元素の前記シュウ酸イオンに対する比率が13.4以上である、請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項6】
前記非水電解液はジフルオロリン酸リチウムを含む、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の非水電解液二次電池。
【請求項7】
正極と負極と非水電解液とを備える非水電解液二次電池の製造方法であって、
前記非水電解液にリチウムビスオキサレートボレートを添加し、
前記非水電解液二次電池を充電および放電するコンディショニング処理を実施して前記負極に前記リチウムビスオキサレートボレートに由来する皮膜を形成する際、前記皮膜に含まれるホウ素元素の前記皮膜に含まれるシュウ酸イオンに対する比率を5以上とする、
非水電解液二次電池の製造方法。
【請求項8】
前記コンディショニング処理は、前記非水電解液二次電池を第1の充電状態まで充電した後、前記非水電解液二次電池を第2の充電状態まで放電する処理を繰り返す処理を含み、前記第1の充電状態と前記第2の充電状態の幅は20%以上50%以下である、請求項7に記載の非水電解液二次電池の製造方法。
【請求項9】
前記第1の充電状態と前記第2の充電状態の幅は30%以上50%以下である、請求項8に記載の非水電解液二次電池の製造方法。
【請求項10】
前記第1の充電状態と前記第2の充電状態の幅は40%である、請求項8に記載の非水電解液二次電池の製造方法。
【請求項11】
前記非水電解液におけるリチウムビスオキサレートボレートの濃度が0.1mol/kg以下となるように、前記非水電解液にリチウムビスオキサレートボレートを添加する、請求項7乃至10のいずれか一項に記載の非水電解液二次電池の製造方法。
【請求項12】
前記非水電解液におけるリチウムビスオキサレートボレートの濃度が0.025mol/kg以下となるように、前記非水電解液にリチウムビスオキサレートボレートを添加する、請求項7乃至10のいずれか一項に記載の非水電解液二次電池の製造方法。
【請求項13】
前記非水電解液はジフルオロリン酸リチウムを含む、請求項7乃至12のいずれか一項に記載の非水電解液二次電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−110022(P2013−110022A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255282(P2011−255282)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】