説明

非球体細胞の生死活性判定方法及び判定装置

【課題】 細胞を損傷することなく、単一細胞の生死を複数同時に生死判定する方法及び装置。
【解決手段】 底面と上面とが対向する透明電極で構成されたセル中の非球体細胞懸濁液に、初期周波数を印加する工程と、周波数を、判定周波数まで上昇させる工程と、前記判定周波数における非球体細胞の生死を判定する工程とを含む非球体細胞の生死活性判定方法、及びこれに用いる非球体細胞の生死活性判定装置1であって、セル2と、交流発振器3と、観察装置4と、画像表示装置5と、画像処理装置6とを備える装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非球体細胞の生死活性の判定方法及び判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物細胞を含む非球体細胞の生死状態の把握は、食品製造から医薬品製造の発酵プロセスまで非常に重要である。最も精度が高い測定方法は染色法やコロニー計数法であるが、染色法は生細胞への損傷があり、またコロニー計数法では生育するまで長い時間を必要とする。
【0003】
関連特許として短時間で非浸襲な電気的手法が出願されており、例えば交流電界中での誘電泳動法による生死細胞の選別や、交流インピータンス法による細胞のインピータンスや誘電率を測定する方法がある。ただし、これらは細胞集団としての生細胞量が測定できるだけで、単一の細胞の生死判定が困難である。
【0004】
交流電界中での分裂酵母菌の生死細胞の配向方向が印加周波数によって変化することは実験的また理論的に報告されているが、生死判定法としては用いられていない。これは従来の電極位置では直近の細胞により細胞の配向方向が定まらないことや数珠状に繋がるため、互いの細胞によって電界が歪められるためである。
【0005】
平板ガラス上に対に設置された金属電極間で、交流電界中の分裂酵母菌の生細胞と死細胞の配向が転換する周波数が異なることが見出され、冷蔵保存された細胞の転換周波数が低下していくことから、細胞集団としての生存率低下が示唆されている(非特許文献1)。
【0006】
交流電界中の大腸菌は生細胞のみ配向するため、細胞をITO透明電極で挟み込み、一定周波数で印加しその配向をレーザー光の拡散で測定することで生細胞が含まれているかを検出するという技術が知られている(非特許文献2)。しかし、この技術においては特殊な電界をかける必要があった。
【0007】
交流電界中の誘電体粒子の配向を吸光度変化量として測定する市販装置が知られている(非特許文献3)。この装置は、集団としての大腸菌の生存細胞の変化を捉えるものである。しかし、この装置においては、吸光度を測定するためサンプル量が1mL必要であった。また、配向感度が十分でなく、吸光度変化量が少ないという問題もあった。
【0008】
透明電極上で培養した動物細胞に対してインピータンス変化を測定し、集団としての細胞活性変化を捉える技術が知られている(特許文献1、特許文献2)。これらの従来技術においては、電気的な測定を行っており、単一細胞での生死判定はできなかった。また、透明電極は形態変化を観察するためだけで、活性測定時には透明である必要はない。
【0009】
交流電界印加による誘電泳動を利用して生菌のみを濃縮し、濃縮された細胞集団のインピータンスを測定することで生菌量を測定する技術が知られている(特許文献3)。この技術は、電気的な測定によるものであり、単一細胞での生死判定はできなかった。
【0010】
一定周波数の交流電界印加による誘電泳動を利用して生死細胞を分離し、透明電極を使用することで泳動中の生細胞をカウントすることによって生死判定を行う技術が知られている(特許文献4)。この方法は、泳動による生死細胞の分離が必要であった。
【0011】
微小孔の空いた板に捕捉した単一細胞に対して、流れる電流値(つまり抵抗値)から細胞の生死判定を行う技術が知られている(特許文献5)。かかる方法では、複数個の細胞の同時測定は難しく、また電極構造が比較的複雑であった。
【0012】
細胞の正確な生死判定は染色法である。しかし、結果として生細胞も染色され死滅する。また非浸襲な電気的測定法では、細胞集団としての生細胞量が測定できるが、単一細胞を複数同時に生死判定することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平7−184686号公報
【特許文献2】特開2009−229308号公報
【特許文献3】特許3869687号公報
【特許文献4】特開2009−14342号公報
【特許文献5】特表2005−517458号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Orientation and characteristic movement of yeast cells induced by homogeneous electric field, JJAP, 36, 396-402, 1997
【非特許文献2】Optical detection of asymmetric bacteria utilizing electro orientation, Optics Express, 14, 9780-9785, 2006
【非特許文献3】A new electro-optical approach to rapid assay of cell viability, Biosensors & Bioelectronics, 23, 583-587, 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものである。すなわち、従来方法の欠点を克服し、細胞を損傷することなく、単一細胞の生死を複数同時に生死判定する方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を達成するため鋭意検討を行った結果、透明電極で構成されたセルに電界を生じさせ、細胞の配向を観察することで、生細胞と死細胞とを判定することができることを発見し、本発明を完成するに至った。
【0017】
従って、本発明は、一実施の形態によれば、非球体細胞の生死活性判定方法であって、底面と上面とが対向する透明電極で構成されたセル中の非球体細胞懸濁液に、初期周波数を印加する工程と、周波数を、判定周波数まで上昇させる工程と、前記判定周波数における非球体細胞の生死を判定する工程とを含む。
【0018】
第1実施形態によれば、前記非球体細胞の生死活性判定方法において、前記生死を判定する工程が、前記判定周波数における非球体細胞の投影画像を取得する工程と、前記取得した前記投影画像を二値化し、投影面積を得る工程と、前記投影面積に基づいて、負の配向を示す細胞と、正の配向を示す細胞とを定量化する工程とを含むことが好ましい。
【0019】
第2実施形態によれば、前記非球体細胞の生死活性判定方法において、前記生死を判定する工程が、前記判定周波数における非球体細胞の投影画像を取得する工程と、前記取得した前記投影画像から、負の配向を示す細胞と、正の配向を示す細胞との細胞数を得る工程と、前記細胞数から負の配向を示す細胞と、正の配向を示す細胞とを定量化する工程とを含むことが好ましい。
【0020】
第3実施形態によれば、前記非球体細胞の生死活性判定方法において、前記生死を判定する工程が、前記初期周波数から判定周波数まで周波数を上昇させながら、非球体細胞懸濁液の光透過率を測定する工程と、負の配向を示す細胞と、正の配向を示す細胞との割合を算出する工程とを含むことが好ましい。
【0021】
本発明において、「負の配向」とは、非球体細胞の長軸が、電界方向に対して垂直になる配向をいい、本明細書においては、転倒した状態ともいう。また、「正の配向」とは、非球体細胞の長軸が、電界方向に対して平行になる配向をいい、本明細書においては、直立した状態ともいう。また、「判定周波数」とは、生細胞が正の配向を示し、死細胞が負の配向を示す周波数をいう。「初期周波数」とは、周波数をスキャンする際の出発値とする周波数であって生死細胞を正の配向にする周波数である。判定周波数よりも低周波数側の周波数をいう。
【0022】
前記各実施形態に係る方法において、前記初期周波数が50k〜1MHzであり、あるいは初期周波数が100〜500kHzであり、前記判定周波数が3〜20MHzであることが好ましい。
【0023】
前記各実施形態に係る方法において、前記非球体細胞が、分裂酵母菌であり、前記判定周波数が3〜9MHzであることが好ましい。
【0024】
第1、及び第3実施形態においては、前記非球体細胞懸濁液が、1x10〜5x10cells/cmの細胞濃度を有することが好ましい。
【0025】
第2実施形態においては、前記非球体細胞懸濁液が、1x10〜1x10cells/cmの細胞濃度を有することが好ましい。
【0026】
前記各実施形態に係る方法において、前記非球体細胞懸濁液が、12mS/m以下の外部電導率を有することが好ましい。前記非球体細胞懸濁液が、0.01〜3.5mS/mの外部電導率を有することがさらに好ましい。
【0027】
前記各実施形態に係る方法において、前記非球体細胞が、酵母菌または桿菌であることが好ましい。
【0028】
前記各実施形態に係る方法において、前記非球体細胞が、乳酸桿菌、大腸菌であることが好ましい。
【0029】
前記底面の透明電極と前記上面の透明電極との電極間距離が、1〜300μmであり、あるいは、50〜200μmであり、前記セル中の非球体細胞懸濁液が、1〜5μLであることが好ましい。
【0030】
本発明は、別の局面によれば、非球体細胞の生死活性判定装置であって、底面と上面とが対向する透明電極で構成されたセルと、前記セルに所定範囲の周波数を印加する交流発振器と、前記セル中の細胞の投影画像を取得する観察装置と、前記観察装置が取得した前記投影画像を表示する画像表示装置と、前記投影画像をデータ処理して負の配向を示す細胞と、正の配向を示す細胞とを定量化する画像処理装置とを備える。
【0031】
本発明は、また別の局面によれば、非球体細胞の生死活性判定装置であって、底面と上面とが対向する透明電極で構成されたセルと、前記セルに所定範囲の周波数を印加する交流発振器と、光源と分光器とを含む光透過率測定装置であって、前記セル中の非球体細胞懸濁液の光透過率を測定するための光透過率測定装置とを備える。
【0032】
前記非球体細胞の生死活性判定装置において、前記底面の透明電極と前記上面の透明電極との電極間距離が、1〜300μmであり、あるいは、50〜200μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0033】
本発明にかかる、非球体細胞の生死判定装置及び方法によれば、細胞懸濁液を透明電極で挟み込み交流電界中の周波数を変化させることで、生死細胞の配向方向を容易に同定でき、染色することなく迅速に単一細胞の生死判定を行うことが可能となった。本発明の方法及び装置によれば、検量線等を用いることなく、単一細胞を複数同時に生死判定が可能となる。また、周波数をスキャンすることによって、複数の細胞に対応可能である。さらには、従来の方法のように、染色する必要がなく、生細胞への損傷が無いという利点がある。さらに、本発明の装置によれば、電極構造が非常にシンプルであり、メンテナンスが容易であるという利点がある。さらに、光透過率の測定による生死判定装置及び方法によれば、比較的小型の装置により、より簡便に、かつ迅速に、細胞の生死を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態に係る、非球体細胞の生死判定装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る、非球体細胞の生死判定装置のセル及びセル中の細胞の構成を概念的に示す図であって、図2(A)は観察装置が取得した画像に対応する、セル底面下方からの非球体細胞の投影画像の概念図であり、図2(B)は、セルの断面を表す概念図である。
【図3】生細胞と、死細胞とのそれぞれについて、印加周波数に対する配向変化を示すグラフである。
【図4】印加周波数の切り替え時間(sec)に対する配向変化への影響を示すグラフである。
【図5】細胞濃度(cells/cm)に対する配向変化への影響を示すグラフである。
【図6】電極間隔(μm)に対する配向変化への影響を示すグラフである。
【図7】外部電導率(mS/m)に対する配向変化への影響を示すグラフである。
【図8】印加周波数15MHzでの、死細胞調整サンプルの配向を示す、顕微鏡写真である。
【図9】印加周波数15MHzでの、生細胞調整サンプルの配向を示す、顕微鏡写真である。
【図10】印加周波数15MHzでの、蛍光染色した生死混合細胞調整サンプルの配向を示す、顕微鏡写真である(カラー画像を手続補足書にて提出)。
【図11】印加周波数400kHzでの、蛍光染色した生死混合細胞調整サンプルの配向を示す、顕微鏡写真である(カラー画像を手続補足書にて提出)。
【図12】印加周波数40MHzでの、蛍光染色した生死混合細胞調整サンプルの配向を示す、顕微鏡写真である(カラー画像を手続補足書にて提出)。
【図13】本発明の別の実施形態に係る、非球体細胞の生死判定装置の構成を示す図である。
【図14】電極間隔と懸濁液滴下量を変化させた場合の、印加周波数に対する電圧を示すグラフである。
【図15】細胞数カウントによる印加周波数に対する細胞の直立割合を示すグラフである。
【図16】印加周波数に対する印加電圧を変化させたときの生細胞の直立割合を示すグラフである。
【図17】印加周波数に対する印加電圧を変化させたときの死細胞の直立割合を示すグラフである。
【図18】蛍光染色法による生存率と配向法による直立割合との相関を示すグラフである。
【図19】印加周波数500kHzでの、定常期における生細胞調整サンプルの配向を示す、顕微鏡写真である。
【図20】印加周波数5MHzでの、定常期における死細胞調整サンプルの配向を示す、顕微鏡写真である。
【図21】印加周波数1MHzでの、正の配向にある大腸菌の生死混合細胞調整サンプルの顕微鏡写真である。
【図22】印加周波数50MHzでの、正負の配向にある大腸菌の生死混合細胞調整サンプルの顕微鏡写真である。
【図23】分裂酵母菌の印加周波数に対する透過率変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に、本発明を図面を参照して詳細に説明する。以下の説明は、本発明を限定するものではない。
【0036】
本発明の第1実施形態による、非球体細胞の生死判定装置を図1に示す。非球体細胞の生死判定装置1は、セル2と、交流発振器3と、観察装置4と、画像表示装置5と、画像処理装置6とから構成される。
【0037】
セル2と、交流発振器3とは接続されており、交流発振器3は、セル2内のサンプルに所定範囲の周波数を印加することができるように構成される。セル2は、一対の透明電極を備え、一方の透明電極が底面に、他方の透明電極が上面に位置するように配置される。図2は、セル2、交流発振器3、観察装置4の装置構成を概念的に示す。図2(B)は、転換周波数より高い周波数において、セルを電界方向に垂直な方向からみたセル断面の概念図である。上面を構成する透明電極21aと、底面を構成する透明電極21bとの間に、生死判定対象となる細胞23、24を含む細胞懸濁液22が挟まれた状態になっている。透明電極21a、21bは、それぞれ、交流発振器3に接続される。そして、観察装置4が、透明電極21bの下方からセル内を観察できるように構成される。
【0038】
観察装置4には、観察した画像を表示する画像表示装置5が接続される。画像表示装置5には、画像処理装置6が接続され、表示した画像をデータとして処理することができるように構成される。
【0039】
非球体細胞の生死判定装置を構成する各部分についてさらに説明する。
【0040】
セル2は、判定対象となる非球体細胞を含む細胞懸濁液を注入し、細胞懸濁液に所定の範囲の周波数を印加するための部材である。このようなセル2は、2枚の対向する透明電極のあいだに、所望の厚さのスペーサを挟み、サンプル溶液を注入することにより作製することができる。セル2は、2枚の透明電極の一方が底面に、他方が上面になるように配置する。
【0041】
透明電極としては、ガラス基板上のITO、FTO等の導電性薄膜を用いることができるが、これらには限定されない。一例として、液晶ディスプレイ用の透明電極等を用いることができる。またその他の例として、金や白金を10〜100nm程度の薄膜に蒸着したガラス基板やプラスチック基板も導電性と透明性を有しており、用いることができる。ガラス基板上のITOからなる透明電極を用いる場合には、ガラス基板の厚さは、0.12〜1.5mmとすることができるが、この範囲には限定されない。また、ITOの膜の厚さは、50nm〜400nm程度のものを用いることができるが、この範囲には限定されない。
【0042】
スペーサは、絶縁性であり、細胞懸濁液に対して不活性な部材であればよく、例えば、シリコンゴム、硬質ゴム、プラスチック等の樹脂を用いることができるが、これらには限定されない。スペーサの厚さは、1〜300μmとすることが好ましく、50〜100μm、あるいは、50〜200μmとすることがさらに好ましい。スペーサは、透明電極間の距離を決定し、すなわち、電界の強度を決定するためである。ただし、上記値は一般的な厚さであって、スペーサの厚さは、判定対象とする非球体細胞の長軸の長さをも考慮して決定することが好ましい。すなわち、スペーサの厚さは、非球体細胞の長軸の長さの3倍〜30倍程度とすることができるが、この範囲には限定されない。非球体細胞が配向することができる厚さを確保するためである。
【0043】
セル2は、サンプル溶液を挟み込むだけのものであってもよく、密閉系としてもよい。セル2の大きさは、特には限定されないが、典型的な観察装置4である顕微鏡に設置して、観察することができる大きさとすることが好ましい。概ね、観察部分として、直径10mm以内程度とすることができる。
【0044】
交流発振器3は所定の範囲の周波数を印加することができ、段階的に変化させることができるものであればよい。具体的には、100kHz〜20MHz程度の範囲の周波数を印加することができるものであればよく、市販の交流発振器であってよい。ただし、内部抵抗が50Ω〜75Ωで、10Vp−pの出力が可能なものが好ましい。また、交流発振器3には、増幅器を接続することもできる。かかる構成により、電圧を増幅することもできる。交流発振器3の出力波形は、正弦波に限らず、方形波や三角波などとすることもできる。
【0045】
観察装置4は、セル中の非球体細胞の投影画像を取得するために用いる装置である。観察装置4は、典型的には顕微鏡のレンズである。顕微鏡としては、倒立型顕微鏡、正立型顕微鏡、実体顕微鏡等を用いることができる。倒立型顕微鏡を用いる場合には、セルの底面から細胞投影画像を取得する。いっぽう、図示はしていないが、正立型顕微鏡を用いる場合には、セルの上面から、細胞投影画像を取得することもできる。より鮮明な投影図を得るために、倒立型顕微鏡を用いることが好ましい。
【0046】
顕微鏡のレンズは、好ましくは、200〜700個程度の非球体細胞をカメラ撮影視野に入れることができる倍率のレンズである。具体的には、4〜100倍の解像度を有する対物レンズを用いることが好ましく、10〜40倍とすることがさらに好ましい。後述する画像処理装置において、必要な精度の画像データを取得できるようにするためである。なお、レンズの倍率は、使用するセルの透明電極を構成するガラス基板の厚さとの関係によっても、当業者が適宜、決定することができる。
【0047】
観察装置4は、顕微鏡のほかに、画像を記録するためのカメラを備えてもよい。この記録用顕微鏡カメラは、カラーである必要はないが、画素数は100万画素以上のものとすることが好ましい。顕微鏡は、熱線吸収フィルタ付きとすることが好ましい。光源ランプからの熱線によるサンプルの温度上昇を防ぐためである。
【0048】
画像表示装置5は、観察装置4で取得した画像を表示するものであって、典型的にはコンピュータのモニタ等である。画像を表示するだけでなく、データとして保存する機能を備えるものであってもよい。
【0049】
画像処理装置6は、画像表示装置5で表示した画像を、解析し、生死細胞の判定を行うものである。画像処理装置6は、細胞が投影された画像を二値化し、生細胞と死細胞とを定量化するものである。定量化は、例えば、各非球体細胞の投影面積を求めるものであってもよく、細胞の長軸の長さと、短軸の長さを求めるものであってもよい。投影面積を得る場合には、直立転倒に関係なくすべての投影面積の合計を算出し、生細胞と死細胞とを定量する。具体的には、画像処理装置6は、上記機能を実行するソフトウエアを搭載したコンピュータであってもよい。このようなソフトウエアは、市販のものであってもよく、適宜作成したものであってもよい。市販のソフトウエアとしては、Molecular Devices社製のMetaMorph等が挙げられるが、これには限定されない。画像処理装置6は、さらに、二値化したデータを、グラフ等に表示する機能を有するものであってもよい。
【0050】
上記生死判定装置1は、任意選択的に、生死判定結果や、判定に用いた画像をプリントアウトするためのプリンタ等をさらに備えても良い。また、判定した結果をリアルタイムにオンラインでアナログ電気信号又はデジタルデータ信号として出力する機能を備えても良い。このような機能は、データロガーなどのアナログ・デジタル変換器によって実現することができる。
【0051】
上記生死判定装置1によれば、判定周波数における細胞の配向を画像データとして処理し、定量的に細胞の生死を判定することができる。
【0052】
次に、本発明の一実施形態に係る、非球体細胞の生死判定方法について説明する。本実施形態にかかる非球体細胞の生死判定方法は、上記生死判定装置1を用いて行うことができる。本実施形態にかかる生死判定方法は、底面と上面とが対向する透明電極で構成されたセル中の非球体細胞懸濁液に、初期周波数を印加する工程と、周波数を、判定周波数まで上昇させる工程と、前記判定周波数における非球体細胞の投影画像を取得する工程と、取得した前記投影画像を二値化する工程と、負の配向を示す細胞と、正の配向を示す細胞とを定量化する工程とを含む。
【0053】
上記生死判定方法の各工程を行う前段階として、判定対象となる非球体細胞試料の調製を行う。非球体細胞は、交流周波数を印加した際に、セル中で、正の配向を示すか、負の配向を示すか、画像処理により判別できるものであればよい。このような判定が可能な非球体細胞としては、細胞の短軸と長軸との比が、概ね、1.5以上のものが好ましい。非球体微生物細胞の具体例として、主に酵母菌ではSchizosaccharomyces属酵母、Candida属酵母、Pichia属酵母、Rhodotorula属酵母など、また酵母菌以外にも桿菌(大腸菌、乳酸桿菌など)などが挙げられるが、これらには限定されない。細菌以外の非球体細胞の例としては、赤血球、藻類、単細胞生物(ミドリムシ、ゾウリムシなど)が挙げられるが、これらには限定されない。また出芽酵母菌でも出芽状態であれば、配向観察の対象とすることができる。なお、細胞を培養すると、対数増殖期を経て定常期へと増殖が進むが、特に分裂酵母の定常期においては、長軸の長さが短くなる傾向にある。すなわち、定常期においては、負の配向を示す細胞と、正の配向を示す細胞とが、投影画像上、区別しにくくなることが想定される。しかし、分裂酵母の定常期における細胞の長短軸比は1.9なので、生死を判定することができる。
【0054】
非球体細胞の由来は問わないが、例えば、抗生物質やワクチン、バイオ燃料、あるいは食品の製造工程に用いる非球体微生物細胞であってよい。その場合は、製造工程のバッジやラインから、サンプリングすることにより、非球体細胞を採取することができる。一例として、微生物発酵のリアルタイムセンサーとして用いる場合には、接続したチューブなどを通して外部に連続的に循環させることにより非球体微生物細胞を採取することができる。あるいは、微生物以外の非球体細胞は、ヒトやその他の哺乳動物から採取した血液由来の細胞であってもよい。
【0055】
採取した非球体細胞は、例えば遠心分離機やフィルタ等を用いて、低電導率溶液や非電解質溶液などで洗浄することにより、前処理を行う。これは電解質成分が多く残ると電極間に十分な電界が形成されず、配向現象が生じ難くなるためである。
【0056】
前処理をした細胞は、細胞懸濁液として調製するために用いる。細胞懸濁液は、非電解質の糖類溶液で懸濁し、電解質を極力含まないことが好ましい。これは細胞の浸透圧を調整して細胞の死滅を防ぐためと、なるべく電気二重層の形成を防ぎ電極間の十分な電界形成を維持し、細胞の分極を誘導するためである。非電解質の糖アルコール溶液としては、ソルビトール溶液、マンニトール溶液、グリセロール溶液、糖溶液としてもスクロースなどを用いることができるが、これらには限定されない。あるいは、細胞懸濁液を、培養液を直接、超純水やイオン交換水で希釈することで調製し、非電解質の糖アルコール等を含まない態様とすることもできる。この態様によれば、低電導率溶液や非電解質溶液などで非球体細胞を洗浄するといった前処理を省くことができ、洗浄によるタイムラグを短縮することができる。よって、細胞懸濁液を培養槽からの送液などによってセルに直接供給することが可能になり、迅速な測定や、連続式の測定ができる。
【0057】
細胞懸濁液において、細胞は、1x10〜5x10cells/cmの濃度であることが好ましく、2x10〜3x10cells/cmとすることがさらに好ましい。ここで、本発明において用いられる、上記細胞濃度単位について、定義と測定方法を挙げて詳細に説明する。本発明における細胞濃度とは、セルに細胞懸濁液を注入し、電圧等をかけることなく静置して底面に沈降させた際に、底面1cmあたりに存在する細胞の数である。測定方法としては、注入後、沈降が完了した約3分以後に、細胞が沈降した底面を撮像する。そして、当該画像を解析し、予め作成した検量線に基づいて、細胞濃度(cells/cm)を決定することができる。また直接画像解析により細胞数をカウントすることで細胞濃度を決定することもできる。
【0058】
本発明においては、通常、細胞濃度単位として用いられるcells/mlではなく、cells/cmを単位として、細胞濃度を規定する。このような細胞濃度単位を用いるのは、本発明において、細胞懸濁液中の細胞を、二次元の面上で配向させ、面に垂直な方向から、細胞の配向を観察するためである。上記濃度範囲とするのは、濃度が高すぎると、複数の細胞が重なり合い、正負の配向変化を観察することが困難になり、生死の判定を正確に行うことが難しくなる場合があるためである。
【0059】
次に、細胞懸濁液の糖溶液の濃度は、判定対象となる細胞の等張液となるように決定することが好ましい。低張液や高張液では、細胞に浸透圧ストレスを与えるため、菌株の種類によっては死滅させることがあるためである。一例として、酵母細胞を判定対象とする場合には、酵母細胞の等張液である約0.6mol/Lとすることが好ましい。また、細胞懸濁液において、電導率は、12mS/m以下とすることができる。特に、非電解質を使用しない場合には、培養液を直接超純水やイオン交換水などで50倍以上に薄め、導電率が、3mS/m以下となるようにすることが好ましい。
【0060】
このようにして調製した細胞懸濁液の試料溶液は、セルのサイズにもよるが、1〜10μl程度を採取して、セルに注入することができる。サンプルの量は、2〜5μlとすることがさらに好ましい。高周波数側での電圧の低下を緩和し、周波数に依存せず、電極間の電圧を一定に保ち易くするためである。このような少ない量のサンプルで生死判定を正確に行うことができる。注入後、セルを静置することにより、細胞を、底面の透明電極上に沈降させる。1〜3分以上静置することで沈降させることができる。沈降の完了は、顕微鏡等の観察装置で行うことができる。
【0061】
沈降が完了した後、非球体細胞懸濁液に、初期周波数を印加する工程を行う。かかる工程は、図1に参照する装置1において、交流発振器3を作動させることにより行うことができる。初期周波数は、判定周波数よりも小さい周波数とし、好ましくは、50kHz〜1MHzの間で選択される。細胞の直立率が最も高い範囲だからである。このとき、電圧は、1〜5Vで出力することが好ましい。なお、出力電圧は、発振器の出力電圧をプログラミングすることにより計測制御し、一定の値に保持することが好ましい。このような制御を行わないと、高周波数側で電圧が低下する問題が起こるためである。高周波数側での電圧の低下は、生細胞が転倒しはじめる周波数が低下し判定周波数と重なるという問題を招く場合がある。前述の装置1においては、透明電極が底面及び上面に位置するようにセル2を配置する(図2参照)。また、透明電極間の距離は、1〜300μmとすることが好ましく、50〜200μmとすることがさらに好ましい。上記サンプル容量とも関連して、かかる電極間距離とすることで、周波数に依存せず、電極間の電圧を一定に保つことができるためである。
【0062】
セルの対向する透明電極間に初期周波数を印加することにより、電極間には、一方から他方へ向かう均一交流電界が形成され、その結果、非球体細胞が配向する。初期周波数においては、生細胞は直立する。いっぽう、死細胞は転倒したものと直立したものが存在する場合がある。すなわち、生細胞と死細胞との配向が明確に区別できない状態となる。これを観察したとき、顕微鏡画像においては、点状の投影と、棒状の投影が混合した画像が得られる。図2(A)及び図2(B)に模式的に示す細胞24が、正の配向を示す細胞である。ただし、生死に関係なく、初期周波数を印加しても直立しない細胞がごくわずかに混入している場合もあり、このような細胞は、後述の画像処理工程において、判定対象から除外することができる。
【0063】
次に、周波数を、判定周波数まで上昇させる工程を行う。周波数の上昇は、生死判定装置1においては、交流発振器3を、図示しない制御装置にて制御することができる。周波数の切り替えは、一定時間間隔で、非連続的な周波数で行うことが望ましい。非連続的に周波数を変化させることにより、その一定時間印加された周波数での細胞の正と負の配向状態が安定し、記録を容易にすることができるためである。切り替えの時間間隔は、5〜60秒とすることが好ましく、10〜15秒とすることがさらに好ましい。これにより全体の周波数スキャンの時間を短くすることができる。周波数は、400kHzから40MHzの範囲をなるべく対数的に均等にスキャンするため、一例として、400kHz〜3MHzの間は200kHz間隔、3〜20MHzの間は1MHz間隔、20〜40MHzの間は2MHz間隔とすることができる。しかしながら、スキャンする周波数範囲や判定対象サンプルによって、さらに周波数間隔を密にして変化させることが好ましい場合もある。あるいは、さらに周波数間隔を大きくして変化させることが好ましい場合もある。
【0064】
判定周波数は、2〜20MHzとすることが好ましい。特に、細胞が、分裂酵母菌であるときの判定周波数は、3〜9MHzとすることが最も好ましい。死細胞では10MHz以上で再び正の配向を示すことが知られているので、この範囲の周波数においては、死細胞と生細胞とが、異なる配向を示し、死細胞と生細胞との判別が可能だからである。
【0065】
周波数を、判定周波数まで上昇させる工程を実施するあいだに、生細胞と死細胞は、異なる配向を示すようになる。死細胞は、初期周波数において直立している場合であっても、初期周波数から判定周波数のあいだの、一定範囲の周波数において転倒する。すなわち、負の配向を示すようになる。このような周波数を、転換周波数という。転換周波数は、諸条件によって異なるが、死細胞は概ね0.8〜6MHzあるいは1〜6MHzのあいだである。初期周波数において既に転倒している死細胞もあり、このような死細胞は転換周波数においてもなお、転倒したままである。一方、生細胞の転換周波数は概ね20〜38MHzのあいだであり、初期周波数から、死細胞の転換周波数、判定周波数に至っても転倒することはなく、直立したままである。すなわち、正の配向を示したままである。
【0066】
判定周波数における非球体細胞の投影画像を取得する工程では、観察装置4を用いて、非球体細胞の投影画像を取得する。かかる工程は、好ましくは、セルの下方から、観察装置4である顕微鏡の対物レンズで拡大した細胞の投影画像を、カメラ等で撮像することにより行なうことができる。顕微鏡での観察は、細胞サイズにもよるが4〜100倍に拡大することが好ましく、酵母菌の場合は10〜40倍に拡大することがさらに好ましい。画像の取得は、判定周波数を印加したままの状態で行なう。得られた投影画像は、任意選択的にデータとして保存されてもよい。
【0067】
判定周波数を細胞懸濁液に印加した状況において、顕微鏡4で投影画像を観察すると、死細胞は棒状に投影される。一方、生細胞は点状のままである。図2(B)を参照すると、細胞懸濁液においては、生細胞と死細胞が混在して底面を構成する透明電極21b上に沈降している。そして、死細胞23は転倒し、生細胞24は直立している。図2(A)は、セルの透明電極21b下方から観察した場合の概念図である。観察装置4である顕微鏡が取得する画像を示す概念図ともいえる。顕微鏡等の観察装置4が取得する画像は、底面を構成する透明電極21bを介した、配向した細胞の投影画像である。死細胞は、棒状で比較的面積の大きい塊として投影される。生細胞は点状で、死細胞と比べて面積が小さく投影される。
【0068】
判定周波数における、非球体細胞の生死の判定は、簡易的には、観察装置4である顕微鏡が取得した投影画像から、目視で行うこともできる。本実施形態においては、生死の判定は、画像処理により行う。具体的には、取得した前記投影画像を二値化する工程と、負の配向を示す細胞と、正の配向を示す細胞とを定量化する工程とにより行うことができる。
【0069】
取得した画像は、画像解析ソフトウエアを用いて処理する。具体的には、取得した非球体細胞の投影画像を二値化し、投影面積を算出する。投影面積のみならず、非球体細胞の長軸平均や、短軸平均を算出してもよい。これにより、定量的な測定が可能になる。なお、投影画像を取得する工程から定量化する工程は、一回のみならず、複数の異なる箇所につき行って、最終的に、得られた複数の値を平均することが好ましい。画像の観察箇所によっては細胞数にばらつきがあり、合計細胞投影面積等も変化するおそれがあるためである。
【0070】
上記第1実施形態による生死判定装置1を用いて行う、第2実施形態による非球体細胞の生死判定方法についてさらに説明する。かかる非球体細胞の生死判定方法は、底面と上面とが対向する透明電極で構成されたセル中の非球体細胞懸濁液に、初期周波数を印加する工程と、周波数を、判定周波数まで上昇させる工程と、前記判定周波数における非球体細胞の投影画像を取得する工程と、前記取得した前記投影画像から、負の配向を示す細胞と、正の配向を示す細胞との細胞数を得る工程と、負の配向を示す細胞と、正の配向を示す細胞とを定量する工程とを含む。
【0071】
判定周波数における非球体細胞の投影画像を取得する工程までは、第1実施形態による方法と同様に行うことができる。本実施形態では、投影画像から直接、直立状態の生細胞の数と転倒状態の死細胞の数とを得て、生存率を計算することができる。
【0072】
上記方法と異なる点としては、測定対象となる細胞懸濁液の濃度が挙げられる。細胞濃度は、1×10〜1×10cells/cmとすることが好ましく、5×10〜9×10cells/cmとすることがさらに好ましい。細胞濃度が濃いと、細胞同士が接触し、単一細胞の標準的投影面積よりもかなり大きくなり、一細胞として認識することができないため、後述する画像処理による計数の結果が不正確になる場合があるためである。投影画像の一画面に細胞数が100個以下となるように調節することが最も好ましい。
【0073】
負の配向を示す細胞と、正の配向を示す細胞との細胞数を得る工程は、特定の画像処理ソフトを使用して実施することができる。具体的には、Molecular Devices社製の、MetaMorphといった画像解析ソフトの形態解析機能(IMA:Integrated Morphometry Analysis)を用い、二値化された画像データより、転倒している細胞と直立している細胞とでは、投影面積及び投影画像における細胞の形状、例えば投影されて円形や楕円形に見える細胞の径が異なることを利用し、個々の細胞の直立転倒状態の違いを、一細胞当たりの投影面積範囲及び直径範囲に基づいて区別し、それぞれの細胞数を得ることができる。
【0074】
負の配向を示す細胞と、正の配向を示す細胞との細胞数が得られたら、簡単な計算により負の配向を示す細胞と、正の配向を示す細胞とを定量することができる。具体的には、細胞生存率を算出することができる。生存率算出は、直立細胞数/(直立細胞数+転倒細胞数)の式に従って行うことができる。
【0075】
図2に示す生死判定装置1を用いた非球体細胞の生死判定方法、及びその変形形態による非球体細胞の生死判定方法によれば、非球体細胞の生死を定量的に判定することが可能になる。さらには、生死細胞の判定や定量化のみならず、対数増殖期から定常期の増殖細胞を経時的に観測し、判別するなどといった、さらなる応用も可能になる。
【0076】
次に、本発明の第3実施形態による、非球体細胞の生死判定装置を図13に示す。非球体細胞の生死判定装置10は、セル2と、交流発振器3と、光源7と、分光器8と、演算処理装置9とから構成される。
【0077】
セル2の構成と、交流発振器3、及びセル2内の細胞懸濁液22については、第1実施形態において説明したのと同様である。本実施形態においては、光源7と、分光器8とを用い、セルの光透過率を測定することで、細胞の生死状態を判別することを特徴とする。ここでは、顕微鏡などの観察装置を使用することなく、また画像処理の必要もないことが大きな利点であり、特徴である。
【0078】
光源7は、タングステンハロゲンランプ、LED光源等を使用することができ、可視-近赤外(360−2500nm)を用いることができる。光源7には、光源接続光ファイバケーブル7aが接続される。光源接続光ファイバケーブル7aの光源7と逆側の先端は、コリメーティングレンズ7bを接続し、セル2の底面21bに設置される。そして、光ファイバケーブル7aが、セル2中の細胞懸濁液22に光を向けることができるように構成される。光ファイバケーブル7aとセル2の底面21bとは、接していても良く、10cm程度の距離を離して設置してもよい。
【0079】
一方、分光器8は、高S/N(2500:1)の大飽和電荷量仕様選択型分光器を用いることができる。分光器8にも、分光器接続光ファイバケーブル8aが接続される。分光器接続光ファイバケーブル8aの分光器8と逆側の先端は、コリメーティングレンズ8bを接続し、セル2の上面21aに設置される。そして、光ファイバケーブル7aからの光を受け取ることができるように構成される。光ファイバケーブル8aとセル2の上面21aとは、接していても良く、10cm程度の距離を離して設置してもよい。なお、本実施の形態においては、光源7がセル底面側に、分光器8がセル上面側に設けられた形態を図示したが、光源と分光器の位置は逆であってもよい。すなわち、光源7がセル上面側に、分光器8がセル底面側に設けられてもよい。
【0080】
任意選択的に設けられても良い演算処理装置9は、分光器8で得られた光透過率を計算し、細胞の生存割合等を算出することができる。演算処理装置9は、通常の演算処理ができるコンピュータ等であってよい。
【0081】
次に、本実施形態を、非球体細胞の生死判定方法の観点から説明する。本実施形態にかかる非球体細胞の生死判定方法は、上記生死判定装置10を用いて行うことができる。本実施形態にかかる生死判定方法は、底面21bと上面21aとが対向する透明電極で構成されたセル2中の非球体細胞懸濁液22に、初期周波数を印加する工程と、周波数を、判定周波数まで上昇させる工程と、前記初期周波数から判定周波数まで周波数を上昇させながら、非球体細胞懸濁液の光透過率を測定する工程と、負の配向を示す細胞と、正の配向を示す細胞とを定量化する工程とを含む。
【0082】
サンプルとなる細胞懸濁液22の調製は、図2に示す生死判定装置1を用いた実施形態と概ね同様に行うことができる。細胞濃度については、1×10〜5×10cells/cmとすることが好ましく、2×10〜3×10cells/cmとすることがさらに好ましい。細胞同士の間隔を狭めることで、光透過率の変化量を大きく取れることから、生細胞と死細胞の定量をより正確に行うためである。
【0083】
初期周波数を印加する工程、周波数を、判定周波数まで上昇させる工程についても、図2に示す生死判定装置1を用いた実施形態と同様に行うことができる。
【0084】
非球体細胞の光透過率を測定する工程では、光源7から発された光の、波長600〜660nmでの透過率を分光器8で測定する。測定は、初期周波数から判定周波数にわたってスキャンして行う。波長600nmでの透過率を測定する理由は、一般的に微生物の増殖過程を測定するときは、この波長での濁度変化が用いられるためである。
【0085】
負の配向を示す細胞と、正の配向を示す細胞とを定量化する工程では、得られた光透過率の値を負の配向を示す細胞と、正の配向を示す細胞との割合に変換し、細胞の生存率等を算出する。正確な算出には予め検量線を作成して生存率を算出することができる。また、簡便的には、精度は落ちるが周波数印加前の光透過率を基準として、判定周波数での透過率の増加分から生存率を換算するといった方法でも生存率を算出することができる。
【0086】
本実施形態による生死判定装置10及び生死判定方法によれば、顕微鏡観察や画像処理を用いることなく、簡便に生存率測定を行うことができる。よって、安価で小型な装置を実現しうることから、高い利用性が見込まれる。
【0087】
以下に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0088】
(1)非球体微生物細胞の調製
ここで使用する細胞は分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)で、長軸が約10μm、短軸が約4μmの円柱状であった。この分裂酵母菌を天然YE培地(0.5% 酵母エキス,3% グルコース)でOD600=0.3まで30℃、80rpmで振盪培養(パーソナル11EX、タイテック社)した。培養後、4000rpm、4℃、5分間の条件で遠心分離器(KUBOTA1900、久保田製作所)を用いて非電解質で等張液の0.6Mソルビトールで洗浄し、再懸濁して細胞濃度を調整した。
【0089】
ここでは調製後の細胞懸濁液を生細胞のサンプルとした。ただし、培養中死滅した死細胞も含まれている場合があった。死細胞のサンプル調製は、生細胞として調製した細胞懸濁液を、80℃で10分間の熱処理によって全て死滅させることにより行った。生死細胞の混合液は、上述の生細胞のサンプルと死細胞のサンプルとを等量混合して調製した。
【0090】
(2)実験システム(電極構造)
25×75mmで、厚さ680μmのITO(インジウム−酸化スズ)透明電極2枚の間に絶縁スペーサを挟み込み、この隙間に調製した細胞懸濁液10μlを注入した。実験システムの構成は、概ね、図2に示すとおりである。
【0091】
(3)実験システム(交流電界印加、観察記録)
透明電極が底面と上面になるように、セルを倒立型顕微鏡(IX−71、オリンパス社)に設置し、3分間静置して、細胞を底面側の透明電極上に沈降させた。交流発振器(KSG4300、菊水電子工業)を自作のソフトウエアによって制御し、プログラムによって、初期周波数を400kHzとした。そこから40MHzまで一定間隔で周波数を上げていくことで細胞の配向変化をカメラ(CoolSNAP HQ2、Photometrics社)を通してパソコンで画像を記録した。発振器の電圧は、10Vp−pで出力したが、周波数によって変化した。
【0092】
(4)実験システム(画像処理)
一定時間ごとに記録した画像は、市販の画像解析ソフトウエア(MetaMorph、Molecular Devices社製)を用いて二値化処理し、細胞の投影面積を合計して算出した。
【0093】
(5)結果
(5−1)周波数帯域の検討
上記(1)にしたがって調製した生細胞サンプルと、死細胞サンプルのそれぞれを、電極間隔が100μmになるように絶縁スペーサを挟み込んだセルに注入し、細胞濃度が、3×10cells/cmとなるようにした。それぞれのサンプルは、外部電導率を1mS/mとした。まず、400kHzの初期周波数を与え、40MHzまで周波数を上昇させた。切替え時間は15秒間隔とし、切替え周波数は、400kHz〜3MHzの間は200kHz間隔、3〜20MHzの間は1MHz間隔、20〜40MHzの間は2MHz間隔とした。図3に、周波数(Hz)に対する、細胞投影面積(μm)のグラフを示す。直立した細胞(正の配向)は投影面積が小さく、転倒した細胞(負の配向)は投影面積が大きくなるため、図3のように細胞の配向現象を定量的に測定することが出来た。
【0094】
生細胞サンプル、死細胞サンプル共に、10kHzの周波数を印加した場合、配向現象は観察されないが、100kHz以上では直立した状態(正の配向)が観察された。低周波400kHzで直立している細胞は、周波数を高くしていくと、死細胞(dead)は低周波数側である数MHzから、生細胞(living)は高周波数側である数十MHzから転倒しはじめた(図3)。これらの転換周波数は他の様々な条件によって変化した。
【0095】
次に、上記と同様にして、細胞濃度が、3×10cells/cmの生死細胞混合サンプルを調製した。電極間距離、スキャン周波数はそのままで、周波数の切り替え時間間隔のみを5秒から60秒の間で変化させて、周波数と投影面積との関係をグラフにした(図4)。周波数を変化させるときは一定間隔で段階的に切り換えたが、図4に示すようにその時間間隔を5秒から60秒の範囲で変えても転換周波数には大きく影響しなかった。ただし印加周波数を高周波側から低周波側に逆に変化させたときは、細胞が負の配向から正の配向へ変化することを捉えることは困難であった。この場合、周波数切り換えの時間間隔を長くすれば、生細胞の配向変化は辛うじてみることができたが、転換する周波数範囲は低い方へシフトした。これらは直立している細胞を転倒させることは容易であるが、逆に直立させることは困難であるといえる。
【0096】
(5−2)細胞濃度の検討
細胞の配向変化を観察する上で細胞濃度は非常に重要な因子である。極度に細胞濃度が高い場合は、細胞が重なり合うため正負の配向変化を観察することは困難であることが理論的にも予測される。上記と同様にして、外部電導率が1mS/mの生死細胞混合サンプルを調製した。上記同様、電極間隔を100μmとし、400kHzの初期周波数を与え、40MHzまで上昇させた。切替えの時間間隔は15秒、周波数間隔は、(1)と同様とした。図示はしないが、実際、生細胞では細胞濃度が1×10cells/cm以上で10〜40MHzと広い範囲で正負の配向が混在して観察され、正確な配向現象を捉えることは出来なかった。
【0097】
図5に、1.1×10cells/cm〜4.3×10cells/cmの濃度範囲における、周波数と、生死細胞混合サンプル中の細胞の配向との関係を示す。4×10cells/cm以下の細胞濃度では、生細胞で大きな変化はみられなかった。死細胞では、細胞濃度が低くなるほど、転換周波数が3.5MHzから1.5MHzに大きく下降する現象がみられた。これは細胞濃度が高いとお互いの細胞同士の反発力が作用して直立し易い状態になっていると考えられる。
【0098】
(5−3)電界強度(電極間隔)の検討
電界強度は細胞の誘電分極に大きく関わり配向力が変化する。そこで電界強度の影響を調べるため、30〜300μmのスペーサを用いて電極間隔を変えた。ただし本発明の生死判定装置では印加電圧の大きさは使用した周波数に依存して、5〜9Vp−pで変化したので電界強度もそれに対応して変化した。電極間が20μm以下では細胞の動きが制限されるため配向現象を観察することは出来なかったので30μm以上の電極間に調整した。さらに電極間が大きくなると沈殿する細胞数が増えるので、沈殿した細胞濃度を、3×10cells/cmと、一定の濃度の生死細胞混合サンプルを調製し、実験を行った。外部電導率は、上記と同じく1mS/mとし、400kHzの初期周波数を与え、40MHzまで上昇させた。切替えの時間間隔は15秒、周波数間隔は、(5−1)と同様とした。
【0099】
図6に各電極間距離における、周波数と、生死細胞混合サンプル中の細胞の配向との関係を示す。生細胞の転換周波数は大きく変化しないが、死細胞は電界強度が高いほど、すなわち電極間距離が短いほど、転換周波数は1.5MHzから5.5MHzに上昇した。電界強度により配向力が強くなるため直立し易いためと考えられる。
【0100】
(5−4)外部電導率の検討
外部溶液の電導率もまた細胞の誘電分極に大きく作用し配向力に影響する。外部電導率はソルビトール溶液に添加するKClの量を変化させることにより、1〜56mS/mの間で調整した。細胞濃度が3×10cells/cmの生死細胞混合サンプルとし、電極間距離は100μm、400kHzの初期周波数を与え、40MHzまで上昇させた。切替えの時間間隔は15秒、周波数間隔は、(5−1)と同様とした。
【0101】
図7に各外部電導率における、周波数と、生死細胞混合サンプル中の細胞の配向との関係を示す。死細胞に注目すると、外部電導率を12mS/mに高くすると転換周波数は大きく上昇し、6MHzとなった。また39mS/m以上ではもはや直立せず全て転倒した。生細胞に注目すると、転換周波数もわずかに上昇するが、39mS/mでは直立率は70%程度で、180mS/m以上では生細胞も直立することはなく全て転倒した。外部電導率が12mS/m以下と低い場合は生細胞の直立率は、ほぼ100%であるが、それ以上の外部電導率だと高くなるに従い配向力は弱くなり直立率は徐々に低下していった。
【0102】
(5−5)好適な配向条件
交流電界中の配向現象を用いて顕微鏡下で個々の細胞の生死判定をするためには、生細胞のみを直立(正の配向)させ、死細胞を転倒(負の配向)させることで見分けることが可能となる。そのための配向条件として上記の結果を考慮すると、対象が酵母細胞の場合には、細胞濃度3×10cells/cm、電極間隔100μm、電圧5〜10Vp−p、外部電導率1mS/m以下で、判定周波数3〜20MHzの範囲にすると、生細胞のみ直立するため、個々の生死細胞を判定することが可能であった。ただし諸条件によって死細胞の転換周波数が変化し易いことを考慮すると、15MHz前後の周波数を印加することが好ましい。
【0103】
15MHzの周波数を印加したときの死細胞サンプルを図8に、生細胞サンプルを図9に示す。いずれも、細胞濃度が3×10cells/cm、外部電導率1mS/m、電極間隔100μm、切替え時間15秒の条件である。図8、図9を参照すると、生細胞サンプルでは直立しない細胞が見られたが、死細胞のみの条件では直立する細胞は観察されなかった。
【0104】
(5−6)染色法との比較
一般に細胞の生死を判定する定義は難しいが、ここでは生死混合サンプルをSYTO9とPropidium iodide(PI)で蛍光染色することで生死判定する方法と比較した。生死の判定は、生死細胞混合サンプルについて行った。細胞濃度が3×10
cells/cm、外部電導率1mS/mとなるよう、生死細胞混合サンプルを調製し、電極間隔100μmのセルに注入した。400kHzの初期周波数から判定周波数15MHzまで、周波数を上昇させた。切替えの時間間隔は15秒、周波数間隔は、(5−1)と同様とした。細胞の染色は、市販の生死測定キット(LIVE/DEAD BacLight Bacterial Viability Kits、invitrogen社)中の蛍光色素SYTO9とPIを用いて行った。蛍光観察は、倒立型蛍光顕微鏡(IX−71、オリンパス社)を用いて、青(480nm)の励起光を照射して緑(540nm)と赤色(570nm以上)の蛍光を観察した。
【0105】
図10に、15MHzにおける、生死細胞混合サンプルの蛍光染色した投影画像を示す。15MHzでは直立した細胞は全て生細胞であることがSYTO9の染色(緑色)から確認できた。転倒した細胞は、ほとんどが死細胞であることがPI染色(黄色)から確認できた。ただし、このとき数%の転倒した細胞でも生細胞としての染色を示した。なお、出願人は、図10のカラー画像を手続補足書により別途提出している。
【0106】
参考例として、同様のサンプルを、周波数400kHz、及び40MHzにおいて蛍光染色した。周波数400kHzの場合は、初期周波数も400kHzとした。周波数40MHzの場合は、初期周波数は、400kHzであった。
【0107】
図11に、400kHzにおける、生死細胞混合サンプルの蛍光染色した投影画像を、図12は、40MHzにおける、生死細胞混合サンプルの蛍光染色した投影画像を示す。周波数400kHzの印加では直立している細胞の中にPI染色された死細胞(黄色)も含まれているのが観察された。いっぽう、40MHzでは、ほとんどの生死細胞は転倒しているが、わずかな生細胞が直立したままの状態が観察された。なお、出願人は、図11、図12のカラー画像を手続補足書により別途提出している。この蛍光染色法も、細胞の生死の定義によっては細胞の生死状態を完全に示しているとはいえない場合がある。しかし、本願発明に係る方法は、少なくとも蛍光染色法と同様の意義で、細胞の生死状態を判定することができることがわかった。
【実施例2】
【0108】
(1)電極配置による電気的特性変化
電極間隔と懸濁液容量を変化させ、電気的特性変化を測定した。電極間距離は、50μm、100μm、200μmの間で、細胞懸濁液の滴下量は、1μL、1.5μL、3μL、6μL、10μLの間で変化させた。発振器の出力を2Vにして電極間にかかる電圧をオシロスコープで測定した。なお、実施例2では、細胞懸濁液は、細胞培養までは実施例1と同様の条件で行い、ソルビトールでの洗浄を行う替わりに、超純水(電導率0.01mS/m)のみで細胞を洗浄し、再懸濁した。電極間距離、細胞懸濁液の滴下量以外は、実施例1の(2)、(3)と同様の実験システムで試験を行った。結果を図14に示す。図14のグラフで示されるように、キャパシタンスが小さくなる条件では高周波での電圧低下が少なくなった。ただし配向観察時における細胞の沈降時間、懸濁液の蒸発なども考慮すると電極間は100μm、滴下量は3μL、とするのがもっとも好ましいことが示された。
【0109】
しかし、この条件でも高周波での電圧低下は生じるので、プログラム作成ソフト(LabVIEW2010SP1)で計測制御ソフトを作成し、オシロスコープ(Tektronix TDS2022B)で測定した電圧値から補正して電極間に一定の電圧が印加されるように発振器(TEXIO FGX−295)の出力を制御した。これにより50kHzから50MHzまでほぼ一定の電圧を印加することができた(図14の黒丸表示のグラフ、correction)。このプログラムでの切り替え周波数は対数的に等間隔に出力した。
【0110】
ITO電極を2枚向き合わせた状態にして交流を印加すると電気的特性としてコンデンサーとなる。つまり、リアクタンスの影響により高周波では電極間にかかる電圧が低下する。それを防ぐためにはできるだけキャパシタンスを小さくした方が高周波まで一定の電圧を印加することができることが、この実験により明らかになった。電極間のキャパシタンスは、電極間隔と懸濁液との接触面積に依存するため、電極間が広く接触面積が小さい(つまり滴下量が少ない)条件にするとキャパシタンスは小さくなった。
【0111】
(2)印加周波数の検討
次に、印加周波数の検討を再度行った。細胞懸濁液は、上記実施例2の(1)と同様に調製し、電極間距離は100μm、細胞懸濁液の滴下量は、3μLとした。また、電圧の印加は、上記実施例2(1)の方法に従って2V一定の値となるようにした。細胞の直立割合は、下記(3)に示す方法で算出した。
【0112】
図15は印加周波数に対する細胞の直立割合を示す。個々の細胞の生死を判定するには、生細胞のみが直立し死細胞が転倒している状態を生じさせる3〜20MHzの範囲を判定周波数とすればよいことが分かった。図16は、印加周波数に対する印加電圧を変化させたときの生細胞の直立割合を示すグラフであり、図17は、印加周波数に対する印加電圧を変化させたときの死細胞の直立割合を示すグラフである。これらのグラフから50kHz〜1MHzでは約1V(10kV/m)で直立割合は十分に高く飽和になるが、5MHz以上では電圧を上げても生細胞の直立割合は低周波側よりも低いままであることがわかった。図15では高周波まで生細胞の直立割合が高い状態を維持しているが、これは一旦直立状態になると電圧が0.2V以下にならないか、転換周波数を超えない限り転倒し難いためである。5MHzの判定周波数を最初に印加しても死細胞は電圧を上げても直立しないが生細胞も十分に直立しないため正確な判定ではない。そのため最初に低周波側(100k〜1MHz)の周波数で印加し死細胞も一部直立するが生細胞を十分に直立させた後、5MHzの判定周波数に切り替えて死細胞のみを転倒させることでより正確な判定が可能になった。ただし、判定周波数でも直立したままの死細胞がまれに存在するが、このときは電圧を5Vまで上げることで完全に転倒させることができた。
【0113】
(3)細胞数からの生存率算出
上記判定周波数において生細胞のみが直立することを利用し、細胞の直立転倒状態の割合をカウントすることで検量線を作成することなく、生存率を算出した。細胞のカウントは画像解析ソフト(Molecular Devices社製 MetaMorph)の形態解析機能(IMA:Integrated Morphometry Analysis)を用い、二値化された画像データより個々の細胞の直立転倒状態の違いによる一細胞当たりの投影面積範囲及び直径範囲に基づいて区別し、それぞれの細胞数をカウントした。1画面中(1.5×10−3cm)に記録する細胞は100個以下(7×10cells/cm)にすることで良好な結果が得られた。これは、より正確にカウントするため細胞接触による投影面積増加による誤認を避けることができたためである。
【0114】
図15は、印加周波数に対する直立した細胞の割合を示したものである。実施例1における、1画面中の全細胞の投影面積から算出したものよりも、より正確に細胞の配向状態を読み取ることができた。このとき、生細胞の直立割合は特に高く再現性も良いことがわかった。判定周波数を用いた生存率算出は直立細胞数/(直立細胞数+転倒細胞数)と定義することができた。本実施例による生細胞のみ直立する判定周波数での直立割合と、蛍光染色法で判定した生存率は非常に高い相関(r=0.99)を示したので、蛍光染色法の代替として十分に使用することが可能であった。蛍光染色法による生存率と配向法による直立割合の相関グラフを図18に示す。このとき異なる3箇所の観察箇所において測定したものの平均を取った。
【0115】
(4)懸濁液の外部電導率
実施例1では培養した培地のままでは懸濁液の電導率が高いため配向が起こらず、浸透圧調整を兼ねた非電解質のソルビトールで洗浄および再懸濁し導電率を低くすることによって直立する細胞を得ていた。実施例2では、ソルビトールを使用せず、超純水(電導率0.01mS/m)又はイオン交換水(0.1mS/m)のみで細胞を洗浄、再懸濁することでも配向が観察され転換周波数及び生死判定への影響もないことが確認できた。
【0116】
懸濁液の電導率が高すぎると、生細胞であっても直立割合が低くなるため、判定周波数を印加しても正確な生死判定は行うことは難しい。本実施例では、実施例1で詳述した条件の培養液を超純水で50倍以上希釈し、電導率を約3mS/m前後まで低下させた。その結果、生細胞の直立割合も十分に高く生死判定に使えた。実施例1のように導電率を上げていくと死細胞の転換周波数が上昇するが、培地の希釈が50倍以上であれば3MHzでほぼ転倒したので、判定周波数は5〜10MHzの範囲で問題なかった。これにより培養槽からチューブ等で連続送液し希釈することで、ほぼリアルタイムに生死状態を計測することが可能となる。
【0117】
(5)増殖期
分裂酵母菌は定常期になると長軸が短くなり長短の比が約1.9となることが知られている。このような長短軸の比が小さくなる条件下であっても、図19(直立、あるいは正の配向)、図20(転倒、あるいは負の配向)のように顕微鏡下でも直立転倒状態を区別することができた。そして、上記実施例2(3)の生存率算出方法を用いて、直立転倒細胞率を算出することができた。形状が変化しても転換周波数は大きく変わることはなく、判定周波数に影響しなかった。また判定周波数での直立転倒細胞は蛍光色素による判定とほぼ一致していることが確認できた。これにより培養中の増殖期の細胞状態を連続してモニタリング測定できることがわかった。
【0118】
(6)他の微生物種における検討
原核生物である大腸菌(JM109)でもITO電極間での配向により直立転倒状態の細胞を観察することができた。図21に、直立状態(正の配向)にある大腸菌の生死混合サンプルの顕微鏡写真(100倍)を、図22に、直立状態と転倒状態(負の配向)にある大腸菌の生死混合サンプルの顕微鏡写真(100倍)を示す。分裂酵母菌と比較すると、細胞サイズが小さく、顕微鏡の観察には100倍の対物レンズを使用する必要があった。また電極間に浮遊するためピントが合わせにくいため全体の定量化は難しいが、生死細胞により転換周波数が異なり5MHz付近の判定周波数を印加すると個々の細胞の配向方向によって判定することが可能であった。またLactobacillus caseiなどの乳酸桿菌でも同様にITO電極間での配向現象が観察できた。
【0119】
大腸菌のサンプル調製について説明する。ここで使用した大腸菌(Escherichia coli)JM109は、長軸が約5μm、短軸が約1μmの桿菌であった。この大腸菌をLB培地(1% トリプトン、0.5% 酵母エキス、1% 塩化ナトリウム)でOD600=1.5〜2.0まで37℃、80rpmで振盪培養(パーソナル11EX、タイテック社)した。培養後、7000rpm、4℃、5分間の条件で遠心分離器(KUBOTA1900、久保田製作所)を用いて超純水で洗浄し、培養した培地と等量の超純水で再懸濁した。
【0120】
(7)光透過率測定
透過率を測定するシステムは、図13に示す構成のものを用いた。光源部としてはタングステンハロゲンランプ(Ocean Optics LS−1)、検出部は分光器(Ocean Optics S1024DW)を用い、波長600nmでの透過率変化を測定した。光源部7に接続した光ファイバーケーブル7aを、透明電極の底面21bに、検出部8に接続した光ファイバーケーブル8aを、透明電極の上面21aに設置した。交流電圧を印加するシステムは実施例2(1)で用いたものと同じとした。ここでは、細胞懸濁液として、実施例2(1)の条件で調製したものを用いた。
【0121】
印加周波数に対する透過率変化を、図23に示す。この結果は、実施例2(2)で測定した分裂酵母細胞の直立割合(図15)の傾向と良く一致し、転換周波数近傍で透過率の大きな変化が測定された。分裂酵母が直立したときには光が当たる面積が小さくなり透過率が上がり、転倒したときは面積が大きくなり光が遮られて透過率が低下した。このように透過率変化により容易に配向方向を検出でき、二値化などのデータ処理が不要でより迅速に細胞状態を測定することができ、顕微鏡を用いたシステムよりも安価で小型な装置とすることができた。
【0122】
一方、大腸菌などの小さな細胞は浮遊しており、光の散乱によって逆に直立状態のとき透過率は低下し、転倒状態のときは透過率が上昇したが、生死細胞によって透過率に違いが生じており同様に生存率の測定に使用することができた。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明に係る非球体細胞の生死判定装置及び方法は、食品製造から医薬品製造の発酵プロセスや薬物応答における、細胞の生死を測定する装置及び方法として有用である。
【符号の説明】
【0124】
1 非球体細胞の生死判定装置
2 セル
21a 上面を構成する透明電極
21b 底面を構成する透明電極
22 細胞懸濁液
23 死細胞
24 生細胞
3 交流発振器
4 観察装置
5 画像表示装置
6 画像処理装置
7 光源
7a 光源接続光ファイバーケーブル
7b コリメーティングレンズ
8 分光器
8a 分光器接続光ファイバーケーブル
8b コリメーティングレンズ
9 演算処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底面と上面とが対向する透明電極で構成されたセル中の非球体細胞懸濁液に、初期周波数を印加する工程と、
周波数を、判定周波数まで上昇させる工程と、
前記判定周波数における非球体細胞の生死を判定する工程と
を含む非球体細胞の生死活性判定方法。
【請求項2】
前記生死を判定する工程が、
前記判定周波数における非球体細胞の投影画像を取得する工程と、
前記取得した前記投影画像を二値化し、投影面積を得る工程と、
前記投影面積に基づいて、負の配向を示す細胞と、正の配向を示す細胞とを定量化する工程と
を含む、請求項1に記載の非球体細胞の生死活性判定方法。
【請求項3】
前記生死を判定する工程が、
前記判定周波数における非球体細胞の投影画像を取得する工程と、
前記取得した前記投影画像から、負の配向を示す細胞と、正の配向を示す細胞との細胞数を得る工程と、
前記細胞数から負の配向を示す細胞と、正の配向を示す細胞とを定量化する工程と
を含む、請求項1に記載の非球体細胞の生死活性判定方法。
【請求項4】
前記生死を判定する工程が、
前記初期周波数から判定周波数まで周波数を上昇させながら、非球体細胞懸濁液の光透過率を測定する工程と、
負の配向を示す細胞と、正の配向を示す細胞との割合を算出する工程と
を含む、請求項1に記載の非球体細胞の生死活性判定方法。
【請求項5】
前記初期周波数が100k〜1MHzであり、前記判定周波数が2〜20MHzである、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記非球体細胞が、酵母菌であり、前記判定周波数が3〜9MHzである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記非球体細胞懸濁液が、1x10〜5x10cells/cmの細胞濃度を有する、請求項2または4に記載の方法。
【請求項8】
前記非球体細胞懸濁液が、1x10〜1x10cells/cmの細胞濃度を有する、請求項3に記載の方法。
【請求項9】
前記非球体細胞懸濁液が、12mS/m以下の外部電導率を有する、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記非球体細胞懸濁液が、0.01〜3.5mS/mの外部電導率を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記非球体細胞が、酵母菌または桿菌である、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記非球体細胞が、乳酸桿菌、大腸菌である、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記底面の透明電極と前記上面の透明電極との電極間距離が、50〜200μmであり、前記セル中の非球体細胞懸濁液が、1〜5μLである、請求項1〜12にのいずれかに記載の方法。
【請求項14】
底面と上面とが対向する透明電極で構成されたセルと、
前記セルに所定範囲の周波数を印加する交流発振器と、
前記セル中の細胞の投影画像を取得する観察装置と、
前記観察装置が取得した前記投影画像を表示する画像表示装置と、
前記投影画像を二値化して、負の配向を示す細胞と、正の配向を示す細胞とを定量化する画像処理装置と
を備える非球体細胞の生死活性判定装置。
【請求項15】
底面と上面とが対向する透明電極で構成されたセルと、
前記セルに所定範囲の周波数を印加する交流発振器と、
光源と、分光器とを含む光透過率測定装置であって、前記セル中の非球体細胞懸濁液の光透過率を測定するための光透過率測定装置と
を備える非球体細胞の生死活性判定装置。
【請求項16】
前記底面の透明電極と前記上面の透明電極との電極間距離が、50〜200μmである、請求項14または15に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図23】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2012−143231(P2012−143231A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−281386(P2011−281386)
【出願日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【出願人】(305060567)国立大学法人富山大学 (194)
【Fターム(参考)】