説明

靴底滑り調整具

【課題】簡便に装着でき、装着の際、靴の外観形状に影響が無く、かつ、靴底に装着後の影響が残り難い、靴底滑り調整具を提供する。
【解決手段】通常使われている練習靴に装着する靴底滑り調整具2であり、靴1のアウトソール5に装着する。この靴底滑り調整具2は、二層構造をなす。二層は、床材に対し易滑性の材質でできたシート4とアウトソール5に着脱自在に装着が可能な接着手段3を有する事を特徴とする。上層は、着脱可能な接着手段3である。接着手段3はアウトソールから易滑性のシート4がはがれないよう貼付量が調整できる。下層は、接地面に対し易滑性の素材のシート4である。シート4は、大きさを自由に調整でき、アウトソール全体に貼り付ける事も、任意の特定部分に貼り付けることも可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、様々な運動および競技の基礎練習の際、足回りのトレーニング効果を高めるため、あるいは、競技または試合の際に競技能力が向上することを目的にアウトソールに装着する滑り調整具に関する。
【背景技術】
【0002】
靴は、安全に立ち、歩行できるよう作られる。そのためアウトソールは基本的に滑らないようにグリップが効く設計がされ発展してきた。
【0003】
アウトソールの発達で安全かつ楽な歩行が出来るようになった一方で、人が自ら踏ん張って立つという力の低下を招いてきた。
【0004】
基礎的な足回りの筋力低下は、健康に存える生命力の低下を招き、かつ、あらゆる競技能力に直接的に関係する。
【0005】
それを解決すべく、トレーニング器具など、今までに様々な物が開発されてきたが、単価が著しく高価であったり、装置が大きかったり、装着が面倒であったりするものであった。
【0006】
器具が高価であると購入者が限定され、装着に手間がかかり面倒であると、実際の使用頻度が低くなる可能性が高い。また、装置器具が大きかったり重かったりすると、設置や実際の使用に支障を来たす。このように従来のトレーニング器具は一般の普及が難しかった。
【0007】
そこで、比較的安価で取り扱いが楽な器具として、足元をわざと不安定にする事、すなわち、滑る状態で訓練を行なう事で筋力を高める意図のトレーニング器具が開発された。
現在までに、滑る性質で足回りの鍛錬効果のある器具として開発された物は、特許文献1に示した、靴の内部において互いに滑りやすい性質を持つ上下2枚の素材の一部を張り合わせた筋力改善靴底がある。
【0008】
また、特許文献2のノンフロン型シリコン滑走剤を薄く吹き着けた板上で、底がフェルトの履物で、足を開閉、前後左右の滑走、腰と足の反捻を四方を側板で囲んだ板面上でスライディング運動することにより下肢筋肉の強化維持に効果があるスライディングボードと呼ばれるものも開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】登録実用新案第3153269号
【特許文献2】登録実用新案第3135823号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1の筋力改善靴底について。
靴の内部において滑るのであり、足が滑る量(距離)が制約されるのは明白である。
また、足指と中足骨周囲の筋およびアキレス腱の活性強化と全身緊張による運動量の増加が目的で、下肢全体の筋力強化を目的としておらず、体幹筋力や姿勢保持力への効果も意図されていない。
【0011】
特許文献1によれば、筋力改善が目的の中底が滑る靴を新たに制作しなければならず、提供価格が高くなる可能性がある。また、その靴は訓練専用となる。
もしくは、通常の靴に後入れ式の中敷であると、靴の中の形状は靴毎に違っているため、それぞれの靴にぴったりはまりこむ形に整えるのが手間である。
【0012】
また、特許文献1は、靴を履いている間はずっと滑るということが起き続けるので、滑りを止める際には、そのつど靴を履き替えるか、脱いで中敷を出すという事をしなければならず手間であるという問題があった。
【0013】
上記特許文献1であると、靴内部で特定部分だけ滑る状態を作る事が容易ではない。
【0014】
次に、特許文献2のスライディングボードについて。
上記考案は、ボードの上で滑走動作をするものであって、足を床面から持ち上げる事を意図していない。滑走動作に制限されるため、訓練効果の及ぶ筋肉群が限定される可能性が大きい。
【0015】
滑り板の上でしか滑りという状況が起きないので、運動範囲が限られ、動きも限定される。
【0016】
また、特許文献2のように滑り板の器具であると、器具を持ち歩くのに困難があるため、ボードの置いてある場所でしかトレーニングできない。また、靴に装着する事に比べると大きさがあるので、保管に場所をとるうえ、器具の重量もあるので移動も気軽には出来ないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、靴(1)のアウトソール(5)に装着する二層構造を成す滑り調整具(2)であって、下層は接地面に対し易滑性のシート(4)で、上層はアウトソール(5)に着脱自在に装着が可能な接着手段(3)を持つ靴底滑り調整具である。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、通常使用している運動靴のアウトソールに装着する靴底滑り調整具であることを特徴とする。また、使用範囲や動きに何らの制限を受けない。
【0019】
上層は、着脱可能な接着手段(3)である。
接着手段(3)はアウトソール(5)から易滑素材のシート(4)がはがれないよう貼付量が調整できる。
【0020】
下層は、接地面に対し易滑性を有する素材のシート(4)である。
易滑素材のシート(4)は、大きさを自由に調整できる。
アウトソール全体に貼り付ける事(図3)も、アウトソールの特定部分に貼り付けること(図4)も可能である。
【0021】
本発明は、アウトソール全体に貼り付け筋力トレーニングを行うことができるだけでなく、アウトソールの特定部分に貼り付け、以下のような目的のトレーニングをすることができる。
【0022】
アウトソールの特定部分に装着する例として、(1)立ち癖や歩き癖の矯正(2)ランニングフォームの矯正や上達(3)競技能力の向上、などがあげられる。
【0023】
以上説明したように、本発明は滑るという状態で足回りの筋力強化を図ろうとする際、新たな装置器具の設置を必要とせず、通常の運動靴に着脱可能に装着でき、またその使用目的は、筋力トレーニングに限らず汎用性がある。
【0024】
本発明は、アウトソールに着脱可能な接着手段によって装着するため、練習が終われば、靴を脱ぐことなくそのままはがす事ができ、非常に簡単である。更に、アウトソールにはがし跡の影響が残りにくい接着手段である。
現在使っている靴に簡便に装着でき安価である。
【0025】
本発明によれば、部分的な装着も可能であり、滑り部分とグリップ部分のように、アウトソールの滑り状態を適宜調整する事も可能で、使い勝手の良いものである。
【0026】
靴そのものの改良が不要である。また、市販されている素材で作製できるため、新たに製品を開発する必要が無く、安価に提供できる。
【0027】
本発明は、難しい手順を踏まずに作る事が出来る。次に、本発明である靴底滑り調整具を、靴に装着し使用する例について説明する。
【0028】
アウトソール全体に装着する ケース1−1
本発明を、一般的な人の筋力トレーニングに用いる。
本発明をアウトソール全体に装着すると足元が滑るため、踏ん張って立つことを自然に行なう。このため、特別な指導や激しい運動をしなくともしっかり立つための足回り筋力が自然につく。
使用が簡便で、日頃運動不足の人でも使用できる。
【0029】
アウトソール全体に装着する ケース1−2
本発明を装着し、筋力トレーニングなど日ごろの基礎練習をする。
足元が滑る状態でトレーニング動作をすると、姿勢を安定させ踏ん張ろうとするため下腿、大腿、腰周りあるいは体幹の筋力が複合的に向上することが期待できるので、ダンベルなど重量の有るウエイトを持たなくても効果が望める。
装置器具を用いた場合と同等の基礎トレーニングが手軽にできる。
【0030】
アウトソール全体に装着する ケース1−3
基礎的競技能力のアップの為に用いる。
例えば、ボクシングや空手などの足運びは、蹴り出しではなく、床への踏み込みによる押し出しによって成されるのが重要であるが、この床への踏み込みという感覚は慣れない人には分かりづらい。
そこで、本発明を装着し足運びの練習を行なう。蹴り出てしまうと、足が滑るので体が前のめってバランスが崩れる。床を踏ん張って押し込むと、体勢が崩れず前進できる事が実感できる。
足運びの技術習得が早くなることが期待できる。
【0031】
アウトソールの特定部分に装着する ケース2−1
競技能力向上に用いる。
ボクシングを例としてあげる。
ボクシングでは、足の踏ん張りが非常に重要であるので、アウトソールはグリップが効いていた方が楽である。が、同時にストレートパンチを打つ時、あるいはすばやい移動をなす際は、アウトソールが適度に滑る必要がある。
通常のボクシングシューズはアウトソールが均一な素材で出来ているため、ある時はグリップが効く、別の時は滑るという事は不可能である。
本発明を、アウトソールの滑りが起きて欲しい部分に装着する。
装着した部分のみ滑りや足の回転が起しやすくなり、グリップと滑りの両方が発揮され、動きが楽になり、競技能力、パフォーマンスを上げられる。
【0032】
アウトソールの特定部分に装着する ケース2−2
足の使い癖の矯正に用いる
(1)ランニングの際つま先から入る癖を矯正したい場合、足先に滑り調整具を装着し軽いランニングを行なう。足先から入ると滑るので体勢が崩れる、このことにより矯正できる。
(2)かかと立ちの癖を直したい場合は、かかと部分に装着する。かかとで強く立つと体勢が崩れるので、立ち方に注意が促される。
このように、気になる部位に装着することにより癖がはっきり意識でき、矯正への動機付けが強まる。
【0033】
また、しばらく立っていると姿勢が崩れやすい人は、足腰の筋力不足、姿勢の崩れが想定されるので、本発明をアウトソールの全部に装着し室内歩行すれば、踏ん張って歩くようになり、両足でバランスよく立つという感覚が実感しやすいと想定される。
【0034】
以上述べてきたように、空手、柔道、ボクシング、相撲などの格闘技だけでなく、ハンマー投げのように足の踏ん張りが重要な競技、その他様々な競技の基礎練習および競技能力の向上、あるいは日常の足癖の矯正に使用可能である。
このほか、室内太極拳などのように滑り足が重要な競技では、有用性が高い。
【0035】
いずれの場合も、練習課題を終了したら、アウトソールから本発明を剥がし取ることができ、べたつきが残らないので、次の練習にすぐ移ることが出来る。
【0036】
その他の用途として、本発明の滑り調整具を屋外で使用する場合は、アウトソールの磨耗を回避できるので、アウトソール磨耗防止具としても利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明を装着した靴の概観図。
【図2】本発明のアウトソール全体に貼るシートを作成する際の図。
【図3】本発明をアウトソール全体に装着する場合の図。
【図4】本発明をアウトソールの部分に装着する場合の図
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明の実施例を図を用いて説明する。
【実施例】
【0039】
図1は、本発明をアウトソール(5)全体に装着した場合の側面の概観図である。
アウトソール(5)とは、靴裏の地面との接地面をさす。
【0040】
図2は、本発明を靴(1)の裏側全体に貼る場合のシート(4)の作り方である。
それぞれの靴(1)の形状に合わせた形取りが出来るよう、易滑素材は、標準的な成人日本人の靴が余裕を持って乗る程度の大きさの長方形をなす。
この上に靴(1)を置き、靴(1)の外周を筆記具でなぞれば、靴の形状を簡単に模る事ができ靴に合った易滑のシート(4)が簡単に作製できる。
【0041】
図3は、全体にシート(4)を貼り付ける場合の説明図である。
図2によって作製したシート(4)に接着手段(3)をシート(4)の縁を残しやや内側に、全体もしくは全周囲、あるいは周囲の部分にのせ、アウトソール(5)に押し付けるようにして貼り付ける。
図3は、シート(4)の縁をやや残し全周囲ではなく部分に接着手段を施した場合を現している。
接着手段(3)はシート(4)がアウトソール(5)から脱落せずなおかつ使用者にとって使い勝手が良いように、貼付粋と量が適宜調整可能である。
【0042】
図4は、特定部分に貼り付ける場合の図である。
アウトソール(5)の全体では無く、部分的に滑る状態を作りたいときは、易滑素材を使用者が望む大きさに切り取りシート(4)を作製する。シート(4)の縁を少し残して接着手段(3)を乗せ、アウトソール(5)の滑りを起したい特定部分に押し付けるように接着する。
【0043】
本発明による易滑素材のシート(4)は、フェルト、圧縮フェルト、バックスキン、鹿皮などで、材質、素材の厚み等、使用者の望む滑り具合でシートを選択できる。
滑り具合は、使用者の踏ん張りの強さ、またシートと床など接地面との摩擦係数により変化するので、素材を適宜選択できるのは有益である。
【0044】
本発明による接着手段(3)は、練りゴムである。
接着手段(3)は、シートの全体もしくはシート周囲に層状に貼付し、アウトソール(5)に押し付けるように貼り付ける。その際、装着している間に接着手段(3)がシート(4)からはみ出ないよう縁を残しやや内側に接着手段を施す。また、アウトソール側に練りゴムを貼り付けてシート(4)を圧着しても接着可能である。
そのまま装着しておく事もできるが、トレーニングが終了したら練りゴムごとシートを剥がし取る事ができる。
【0045】
本発明の使用例について以下に述べる。
ボクシングクラブにおいて、以下の通りの使用結果を得た。
【0046】
ケース1 フットワーク(足運び)の練習
ボクシングのフットワークは、床への押し込みで前進する。
「足を床に押し込むようにして前に行く」という口頭指導では技術会得が難しい人が、靴裏全部に装着して練習した。
2mm厚のフェルトと、5mm厚のフェルトの二つの例を実施した。
結果、どちらの例においても、床を押すという感覚が良く理解できて、習得が早くなった。厚さによっての違いはここでは発生しなかった。
但し、個人差がおきやすい使い心地において、厚さや素材の種類を好みで選ぶ事が出来るのが利点であろう。
実際の着用者の感想は、踏ん張って立つという意味が実感でき、足を蹴りだすと滑ってしまうので、蹴りだしと押し出しの違いが良く分かるというものであった。
【0047】
ケース2 上級者
アマチュア公式戦全国大会出場経験者及びボクシング歴10年の練習生に部分装着使用をした。
1mm厚の圧縮フェルトと1.5mm厚のフェルトの場合で実施した。
利き腕側の足の拇指丘部分に装着し、いつもどおり実戦の練習をした。
結果、どちらの例においても、ストレートパンチが非常に打ちやすくなったという感想を得た。
使用感において二つは差が無かったが、長期間使用するという耐久性においては圧縮フェルトが勝るかもしれない。
【0048】
練りゴム以外の接着手段で実施したが、両面テープは貼り後のべたつきが強く残り、通常の使用に差し支える。
入れ歯安定剤は、ねじれの力に弱く本発明の接着手段に使用できなった。
粘着性のある熱可塑性エラストマーも接着力が弱く、捻れなどの外力にも耐性が無く、使用に適さなかった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、滑るという状態で筋力トレーニングを行う際、特別な装置器具を必要とせず、かつ簡便に使用でき、しかも安価に提供できる靴底滑り調整具である。
【0050】
足回りの筋力強化だけでなく、競技能力向上を目的とした使用や日常の足の使い癖あるいは立ち癖および姿勢の矯正にも使用でき、汎用性が高い。
【符号の説明】
【0051】
1 靴
2 滑り調整具
3 接着手段
4 シート
5 アウトソール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
靴(1)のアウトソール(5)に装着する二層構造を成す滑り調整具(2)であって、下層は接地面に対し易滑性のシート(4)で、上層はアウトソール(5)に着脱自在に装着が可能な接着手段(3)を持つ靴底滑り調整具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−229804(P2011−229804A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−104755(P2010−104755)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(710004204)
【Fターム(参考)】