靴用芯材
【課題】硬化作業に要する時間を短縮しつつ当該硬化に伴う品質のばらつきを低減し得る靴用芯材を提供する。
【解決手段】靴用芯材としての月形芯11を、タンニン鞣し革等からなる皮革12と木材パルプを抄造した原紙に樹脂を含浸してなる含浸紙13とを接着剤14で貼り合わせて構成したため、含浸紙13の厚さ分だけ皮革12の厚さを薄くすることが可能となり、この皮革12の厚さが薄くなった分、月形芯11を水に浸漬した後の乾燥に要する時間、つまり当該月形芯11の硬化作業に要する時間の短縮が図れる。また、この月形芯11の乾燥時には、皮革12が含浸紙13によって引っ張られて皮革12が大きく縮むおそれがないため、当該月形芯11の乾燥時における皮革12の縮み具合のばらつきが低減され、この結果、月形芯11の製品毎の品質の均一化にも供される。
【解決手段】靴用芯材としての月形芯11を、タンニン鞣し革等からなる皮革12と木材パルプを抄造した原紙に樹脂を含浸してなる含浸紙13とを接着剤14で貼り合わせて構成したため、含浸紙13の厚さ分だけ皮革12の厚さを薄くすることが可能となり、この皮革12の厚さが薄くなった分、月形芯11を水に浸漬した後の乾燥に要する時間、つまり当該月形芯11の硬化作業に要する時間の短縮が図れる。また、この月形芯11の乾燥時には、皮革12が含浸紙13によって引っ張られて皮革12が大きく縮むおそれがないため、当該月形芯11の乾燥時における皮革12の縮み具合のばらつきが低減され、この結果、月形芯11の製品毎の品質の均一化にも供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、革靴において靴後部の表革と裏革の間に介装されるいわゆる月形芯に適用される靴用芯材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この靴用芯材は、例えば、革靴の踵部における補強材として表革と裏革との間に介装されており、主として、牛の皮を鞣した滑革等の皮革加工材料のほか、ボール紙や合成樹脂等の合成材料によって構成されている。その中でも、踵部の見栄えや足に対するフィット感を良好なものとするには滑革が最良であるとされているが、この滑革は、弾力性に乏しく、また熱にも弱く、さらには踵を踏むと崩れて元に戻りにくい等の問題があった。
【0003】
そこで、かかる問題を解決すべく、出願人は以下の特許文献に示す主として靴の踵の部分の芯として使用する皮の鞣法を出願し、その出願は特許された。この特許に係る皮の鞣法につき概略を説明すれば、当該皮の鞣法は、抜毛した生皮を水洗して塵埃等の不純物を除去する第1の工程と、不純物を除去した生皮を酵素剤、脱脂剤等を溶かした水溶液の中に一定の時間浸漬する第2の工程と、酵素剤、脱脂剤等を溶かした水溶液の中から生皮を取り出し水洗することにより生皮に付着している酵素剤や脱脂剤等を除去する第3の工程と、酵素剤や脱脂剤等を除去した生皮を、防腐剤を溶かした水溶液の中に一定の時間浸漬する第4の工程と、防腐剤を溶かした水溶液の中にさらにクロームとタンニンを加えて生皮を一定の時間浸漬する第5の工程と、クロームとタンニンを加えた水溶液の中にさらに中和剤を加えて生皮を一定の時間浸漬する第6の工程と、生皮を水洗し、これを乾燥させる第7の工程と、からなるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第1052744号(特公昭55−45120号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の特許方法によって鞣された滑革であっても、革で作られる靴用芯材は、剛性が不十分であるため、製靴工場において、水に浸漬した後に乾燥させることにより、革を硬化させる必要がある(以下、「硬化作業」という。)。そして、かかる硬化作業は、製靴工場において、芯材を甲革に装着する前に、対象となる靴の木型を用いて行われるもので、具体的には、水に浸漬した芯材を木型に当てた状態で数日間乾燥させることによって当該芯材の硬化を行う。このように、一の芯材の硬化作業中は当該作業に用いている木型を他の芯材の硬化に使用することができず、靴の生産性を向上させることが困難であった。さらに、前記従来の靴用芯材は、生皮という天然素材のみからなるため、前記硬化に伴い発生する縮み具合にばらつきが生じやすく、製品の品質を均一にすることも困難であった。
【0006】
本発明は、かかる技術的課題に着目して案出されたものであり、硬化作業に要する時間を短縮しつつ当該硬化に伴う品質のばらつきを低減し得る靴用芯材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、木材パルプを抄造した原紙に樹脂を含浸してなる含浸紙と鞣し革とを接着剤を介して貼り合わせてなることを特徴としている。
【0008】
この発明によれば、含浸紙の厚さ分だけ鞣し革の厚さを薄くすることが可能となり、この鞣し革の厚さが薄くなった分、製靴工場における水に浸漬した後の当該芯材の乾燥に要する時間、つまり硬化作業に要する時間の短縮が図れる。これによって、1つの靴の製造に係る靴型(木型)の占有時間を短縮することが可能となる。
【0009】
また、鞣し革に含浸紙を貼り合わせたことにより、前記乾燥時には鞣し革が含浸紙に引っ張られるために大きく縮んでしまうおそれがなく、当該乾燥時における縮み具合のばらつきを低減することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の発明において、踵の側部を包囲するように、靴後部における表革と裏革との間に介装される靴用芯材であって、前記介装時において内側となる長手方向一端側が外側となる長手方向他端側よりも長く延出するように構成したことを特徴としている。
【0011】
この発明によれば、より大きな面積をもって足と対向可能な靴の内側(内方)に配置される長手方向一端側を、靴の外側(外方)に配置される長手方向他端側よりも長く延出形成したことで、靴内における足の移動をより制限することができる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、前記請求項2に記載の発明において、前記長手方向一端側を、踵から土踏まずよりも爪先側まで延出するように構成したことを特徴としている。
【0013】
この発明によれば、足の内側面について、少なくとも踵から土踏まずまでを包囲するようにしたため、靴内における足の移動をより効果的に規制することが可能となる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、前記請求項3に記載の発明において、前記長手方向他端側を、踵から土踏まずに対応する位置まで延出するように構成したことを特徴としている。
【0015】
この発明によれば、足の外側面に対しても、踵から土踏まずに相当する位置までを包囲するようにしたことで、靴の剛性が高くなり過ぎない限度において、靴内における足の移動を最大限に規制することが可能となる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、前記請求項1〜4に記載の発明において、前記長手方向両端部の辺を、靴後部側へ向かって下り傾斜状となるように形成したことを特徴としている。
【0017】
この発明によれば、両端部をかかる形状に形成した月形芯を用いることで、靴の成形作業時において足の土踏まず側の裏革に皺がよりにくくなる。
【0018】
請求項6に記載の発明は、前記請求項1〜5に記載の発明において、表裏両面にそれぞれ熱硬化性接着剤を塗布し、該接着剤を乾燥してなることを特徴としている。
【0019】
この発明によれば、芯材に予め接着剤を塗布させておくことで、製靴業者は、従来のような接着剤塗布作業を行わず、単にプレス機にかけて加熱成形作業を行うのみで、芯材を両革に固定することができる。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に記載の発明によれば、一つの芯材の製造に係る靴型の占有時間が短縮されることにより、靴の生産性の向上に供される。
【0021】
また、芯材の型成形時における縮み具合のばらつきが低減されることから、製品毎の品質をほぼ均一にすることも可能となる。
【0022】
請求項2に記載の発明によれば、芯材の長手方向一端側をのばした分だけ、該長手方向一端側によって靴内での足の移動をさらに制限することができる。これにより、当該靴内における足の移動によって起こる足の疲労の軽減に供される。
【0023】
請求項3に記載の発明によれば、靴内における足の移動がより効果的に規制されるため、当該靴内における足の移動によって起こる足の疲労を一層効果的に軽減することができる。
【0024】
請求項4に記載の発明によれば、靴内における足の移動が最大限に規制されるため、当該靴内における足の移動によって起こる足の疲労を最小限に抑えることができる。
【0025】
請求項5に記載の発明によれば、製靴作業における作業性の向上に供され、これによって製造コストの低廉化に寄与することができる。
【0026】
請求項6に記載の発明によれば、製靴作業を簡素化することが可能となり、当該製靴作業の作業性の向上が図れる。この結果、靴の製造コストの低廉化に供される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1実施形態に係る靴用芯材を靴内に装着した状態を示す斜視図である。
【図2】同実施形態に係る靴用芯材単体を示す斜視図である。
【図3】図2の展開図である。
【図4】図3のA−A線断面図である。
【図5】本発明の第1実施形態についての第1変形例に係る靴用芯材を靴内に装着した状態を示す斜視図である。
【図6】同変形例に係る靴用芯材単体を示す斜視図である。
【図7】図6の展開図である。
【図8】本発明の第1実施形態についての第2変形例に係る靴用芯材の特徴説明に供する図3のA−A線断面に相当する部分断面図である。
【図9】本発明の第2実施形態に係る靴用芯材を靴内に装着した状態を示す斜視図である。
【図10】同実施形態に係る靴用芯材単体を示す斜視図である。
【図11】図10の展開図である。
【図12】本発明の第3実施形態に係る靴用芯材を靴内に装着した状態を示す斜視図である。
【図13】同実施形態に係る靴用芯材単体を示す斜視図である。
【図14】図13の展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る靴用芯材の各実施形態を図面に基づいて詳述する。なお、各実施形態では、当該靴用芯材を紳士用革靴の踵部に補強材として用いられる月形芯に適用したものを示している。
【0029】
図1〜図4は本発明に係る靴用芯材の第1実施形態を示しており、この靴用芯材である月形芯11は、図1に示すように、靴1の踵1bの側部を包囲するように靴後部における表革2と裏革3との間に介装されるもので、その全体が図2に示すような前記踵1bの側部に沿うように湾曲形成されていて、図3に示すように、タンニン鞣し革等からなる皮革12とパルプ木材を抄造した原紙に樹脂を含浸してなる含浸紙13、を溶剤系の所定の接着剤14によって貼り合わせることにより構成されている。なお、本実施形態においては、図2に示すように、皮革12の内側面12aに含浸紙13を貼り付ける形態を例に説明するが、皮革12の外側面12bに含浸紙13を貼り付けることとしてもよい。
【0030】
ここで、前記月形芯11は、その厚さが約2.2mmに設定されていて、厚さ1.1mmずつにそれぞれ漉いた皮革12と含浸紙13とが貼り合わされている。これにより、本実施形態に係る月形芯1にあっては、厚さ2.2mmの皮革を単体で使用する従来の月形芯と比較して、皮革の重量が約半分となっており、また、含浸紙13は皮革に比べて十分軽量であるため、前記従来の月形芯よりも大幅な軽量化が図られている。
【0031】
そして、前記月形芯11は、図4に示すように、断面が先細り状となるように周縁部11a全体が漉き加工されていて、図3に示すように、含浸紙13の方が皮革12に比べて小さいものとなっている。さらに、この月形芯11は、その長手方向一端側15と他端側16の両端部15a,16aが、当該両端部15a,16aの辺15b,16bと、当該月形芯11の下側部である後記の長手方向他側部18の辺18aと、のなす角がそれぞれ鋭角となるよう、当該両端部15a,16aの辺15b,16bが靴後部側へ向かって上り傾斜状となるように形成されている。
【0032】
また、前記含浸紙13は、木材パルプ単独を抄造した原紙、木材パルプと皮屑とを混抄した原紙、又は木材パルプ、皮屑及び合成繊維を混抄した原紙を、いわゆるSBR系合成ラテックス又はアクリル系樹脂が配合された樹脂剤に浸漬(ディッピング)することで、かかる樹脂を前記原紙に含浸させ、これを乾燥したものである。なお、当該含浸紙13の成分比としては、木材パルプ85%〜60%に対し、上記樹脂15%〜40%となっている。
【0033】
ここで、前記皮屑は、靴や鞄その他の皮材料を素材とする分野において端材として廃棄されたものを利用したシェービング屑であり、このシェービング屑を粉砕機で粉砕して繊維状に解繊したもの(いわゆるコラーゲン繊維)である。なお、この皮屑の混抄率は、対木材パルプ比10%〜90%の範囲内であればいくらでもよいが、望ましくは、対木材パルプ比50%が良好である。
【0034】
また、前記合成繊維についても、前記皮屑と同様に、端材として廃棄されたものを裂断し解繊して使用する。なお、この合成繊維の混抄率については、対木材パルプ及び皮屑比15%を上限とし、望ましくは、対木材パルプ及び皮屑比5%〜8%が良好である。
【0035】
以下、前記月形芯11の製造方法について説明する。なお、当該月形芯11の製造は、第1工程である裁断工程と、第2工程である貼り合わせ工程と、第3工程である漉き工程と、第4工程である曲付け工程と、の4つの工程を経て行われる。
【0036】
まず、第1工程である裁断工程では、生皮を鞣して得られた皮革12と原紙に樹脂を含浸して得られた含浸紙13とをそれぞれ同一の抜き型をもってクリッカーと称される油圧式の裁断機(型抜き機)を用いて裁断(打ち抜き加工)を行う。ここで、この皮革12及び含浸紙13の裁断について個別具体的に説明すれば、まず、皮革12の裁断については、背中から半分に裁断されて厚さ1.1mmに漉き加工された皮革12を、前記クリッカーのテーブルに据え、傷のある部位を避けつつ月形芯11として使用可能な部位を見極めながら1枚ずつ打ち抜き加工する。そして、かかる打ち抜き加工した皮革12は、肩や腹などの部位によって相互に品質が異なることから、当該打ち抜き加工した皮革12を同じ品質のものについて仕分けを行う。一方、含浸紙13の裁断については、厚さ1.1mmの所定の大きさに規格化された原紙に前記樹脂を含浸した含浸紙13を5枚重ねて角を揃えた後、その一角をホチキス等で固定し、所定の間隔をもって抜き加工する。このように、皮革12の裁断においては1回の裁断につき1枚の皮革12が得られるのに対し、含浸紙13の裁断においては、1回の裁断につき5枚の含浸紙13が得られることとなり、さらには、当該含浸紙13の裁断においては、皮革12の裁断のように適当な部位の見極めや同じ品質のものに仕分けする作業等を行う必要がないことから、皮革12の裁断に比べて少なくとも5倍以上の効率で裁断を行うことができる。
【0037】
続いて、第2工程である貼り合わせ工程では、まず、前記裁断した含浸紙13を1枚ずつ取り、これをグラビアコーターと称される塗工機にかけることで、含浸紙13の皮革12との接合面である外側面13aに前記接着剤14を塗布する。そして、この接着剤14が塗布された含浸紙13の上に前記同じ大きさに裁断された皮革12を載置して貼り合わせる。かかる作業を繰り返し、含浸紙13に皮革12を重合したものを所定の枚数だけ重ねた後、これらをプレス機にかけて約1t/cm2の荷重をもって接着剤14が乾燥するまで加圧することにより、それぞれ皮革12と含浸紙13とを圧着させる。
【0038】
次に、第3工程である漉き工程では、まず、前記接着工程で貼り合わされた皮革12と含浸紙13との重合物を、バンドナイフと称される帯状の刃物を備えた漉き機(スライサ)にかけることにより、中央部に含浸紙13が残るように(図3参照)、該含浸紙13側の面の周縁部11aについて漉き加工を行うが、この際、当該重合物の長手方向の一端部15a及び他端部16aと、長手方向の一側部17及び他側部18と、をそれぞれ別々に4回に分けて漉き加工する。すなわち、第1漉き加工として、当該重合物の長手方向の一端部15aを漉き加工した後、第2漉き加工として、その反対側の他端部16aを漉き加工し、その後、第3漉き加工として、さらに当該重合物の上側部である長手方向一側部17を漉き加工した後、第4漉き加工として、最後に当該重合物の下側部である長手方向他側部18を漉き加工する。このように、長手方向の各端部15a,16aと長手方向の各側部17,18をそれぞれ分けて別々に漉き加工することで、皮革12の繊維を切らさず、当該皮革12を生かしたまま月形芯11を得ることが可能となり、これによって得られた月形芯11は、腰のある復元性に優れたものとなる。
【0039】
なお、前記各漉き加工を行うに際し、前記第1、第2の漉き加工においては、前記第3、第4漉き加工と比べて比較的漉き幅が大きいことから、前記バンドナイフを用いた比較的大型のスライサを使用する一方、前記第3、第4の漉き加工においては、前記第3、第4漉き加工と比べて漉き幅が比較的小さいことから、前記バンドナイフを用いた比較的小型のコバ漉き機と称されるスライサを使用する。
【0040】
最後に、第4工程である曲付け工程では、図3に示すような前記漉き加工が完了したものを、所定の成形機にセットされた一対の雄型と雌型との間に挟み込み、この成形機によって約1t/cm2の荷重をもって加圧することにより、当該漉き加工が完了したものを図2に示すような湾曲状態となるように曲付け加工(成形)して、これによって前記月形芯11が完成する。
【0041】
そして、この製品化された月形芯11は、その後、製靴工場にて、水に浸漬されて所定時間おかれた後に、つまり前記硬化作業後に、靴底1eが未装着のいわゆるアッパー1aに挿入され、該アッパー1aの表革2及び裏革3と月形芯11との間に所定の接着剤が塗布されることで、当該接着剤を介して表革2及び裏革3に接着固定されることとなる。
【0042】
以上のようにして得られた本実施形態に係る前記月形芯11によれば、含浸紙13の厚さ分だけ皮革12の厚さを薄くすることが可能となり、この皮革12の厚さが薄くなった分だけ、製靴工場にて当該月形芯11を水に浸漬した後の乾燥に要する時間、つまり当該月形芯11の硬化作業時間の短縮が図れる。これによって、1つの靴の製造に係る靴型の占有時間を短縮することが可能となり、靴の生産性の向上に供される。
【0043】
また、皮革12に含浸紙13を貼り合わせる構造としたことから、前記月形芯11の乾燥時には皮革12が含浸紙13に引っ張られることとなり、皮革12が大きく縮んでしまうおそれがない。換言すれば、前記月形芯1の乾燥時における皮革12の縮み具合のばらつきを低減することが可能となり、この結果、当該月形芯11の製品毎の品質をほぼ均一にすることも可能となる。
【0044】
図5〜図7は前記第1実施形態に係る月形芯11の第1変形例を示しており、前記第1実施形態に係る月形芯11の長手方向両端部15a,16aの形状を変更したものである。なお、本変形例に係る月形芯21についても、基本的な構成は前記第1実施形態に係る月形芯11と同様であるため、以下、説明の便宜上、前記第1実施形態に係る月形芯11と同じ構成については同一の符号を付してその説明を省略し、前記第1実施形態に係る月形芯11と異なる点についてのみ説明する。
【0045】
すなわち、本実施形態に係る月形芯21は、その長手方向一端側15と他端側16の両端部15a,16aにおいて、当該両端部15a,16aの辺15b,16bと長手方向の他側部18の辺18aとのなす角がそれぞれ鈍角となるように、当該両端部15a,16aの辺15b,16bが靴1の後部側へ向かって下り傾斜状となるように形成されている。
【0046】
このようにして構成された本実施形態に係る月形芯21によれば、その長手方向両端部15a,16aの辺15b,16bが靴後部側へ向かって下り傾斜状となるように形成されているために、裏革3の土踏まず1c側の部分に皺がよりにくくなる。これによって、製靴作業性の向上が図れ、靴の製造コストの低廉化に供される。
【0047】
図8は、前記第1実施形態に係る月形芯1の第2変形例を示している。なお、本変形例に係る月形芯21についても、基本的な構成は前記第1実施形態に係る月形芯11と同様であるため、以下、説明の便宜上、前記第1実施形態に係る月形芯11と同じ構成については同一の符号を付してその説明を省略し、前記第1実施形態に係る月形芯11と異なる点についてのみ説明する。
【0048】
すなわち、本変形例に係る月形芯31は、前記第1実施形態に係る月形芯11の表裏両面に予め熱硬化性の接着剤32,32が塗布され、かつ、乾燥されたものであって、該接着剤32,32をもって製靴工場において前記アッパー1aに接着される、製靴工場における接着剤塗布作業を不要とするものである。
【0049】
そして、本実施形態に係る月形芯31を製造するにあたっては、前記第1〜第4工程を経て得られた前記第1実施形態に係る月形芯11に対し、第5工程である接着剤塗布工程において、その表裏両面に接着剤32,32を塗布した後、これを乾燥させることにより、当該月形芯31の製造が完了する。なお、この製品化された月形芯31は、その後、製靴工場において、前記アッパー1aの表革2と裏革3との間に挿入され、当該アッパー1aが足形状の金型に被嵌されて約70〜90℃の温度によって加熱及び加圧されることにより、前記接着剤32,32を介して前記両革2,3に接着固定される。
【0050】
このように、本実施形態に係る前記月形芯31によれば、金型を用いて加熱及び加圧することにより成形されることから、前記第1実施形態に係る月形芯11のように、水に浸漬した後に靴型に当てて乾燥させる、といった煩わしい前記硬化作業を行う必要がない。このため、当該月形芯31の場合には、前記第1実施形態に係る月形芯11と比べて、さらに短時間で製靴作業を行うことができる。すなわち、靴型の使用効率を大幅に向上させることが可能となり、靴の生産性のさらなる向上に供される。
【0051】
また、従来では、後工程である製靴工場にて手作業で接着剤を塗布することにより前記アッパー1aとの接着を行っていたが、本変形例に係る月形芯31の場合には、接着剤32,32が予め塗布されているため、当該月形芯31をアッパー1aの表革2と裏革3との間に挿入してそのまま加熱成形機にかけて加熱及び加圧するのみでアッパー1aとの接着を行うことができる。すなわち、本変形例に係る月形芯31によれば、製靴工程における従来の手作業が機械化されることとなり、靴の生産性のより一層の向上に供されるといったメリットもある。
【0052】
図9〜図11は本発明に係る月形芯の第2実施形態を示しており、前記第1実施形態に係る月形芯11の形状を変更したものである。なお、本実施形態についても、基本的な構成は前記第1実施形態と同様であるため、説明の便宜上、前記第1実施形態と同じ構成については同一の符号を付してその説明を省略し、前記第1実施形態と異なる点についてのみ説明する。
【0053】
すなわち、本実施形態に係る月形芯41は、前記アッパー1aに装着された状態で、靴1の外側(外方)に配置される長手方向他端側16は、前記第1実施形態に係る月形芯11と同様、踵1b近傍のみを包囲する程度に比較的短く設定されているのに対して、靴1の内側(内方)に配置される長手方向一端側15は、踵1bから土踏まず1cよりも爪先1d側まで延出するように比較的長く設定されていて、当該長手方向一端側15が、前記他端側16よりも長くなるように構成されている。かかる構成から、足の内側については、踵1bの近傍のみならず、踵1bから土踏まず1cよりも爪先1d側までが月形芯41によって包囲されるようになっている。
【0054】
このようにして構成された本実施形態に係る月形芯41によれば、靴1の外側に配置される長手方向他端側16と比べてより大きな面積をもって足と対向可能な靴1の内側に配置される長手方向一端側15を、前記他端側16よりも長く延出するように形成したことで、靴内において、足の移動をより効果的に制限することが可能となる。この結果、当該靴内での足の移動によって起こる足の疲労を一層効果的に軽減することができる。
【0055】
図12〜図14は本発明に係る月形芯の第3実施形態を示しており、前記第2実施形態に係る月形芯41の形状を変更したものである。なお、本実施形態に係る月形芯51ついても、基本的な構成は前記第2実施形態に係る月形芯41と同様であるため、以下、説明の便宜上、前記第2実施形態に係る月形芯41と同じ構成については同一の符号を付してその説明を省略し、前記第2実施形態に係る月形芯41と異なる点についてのみ説明する。
【0056】
すなわち、本実施形態に係る月形芯51は、前記アッパー1aに装着された状態で、靴1の内側に配置される前記長手方向一端側15は、前記第2実施形態に係る月形芯41と同様、踵1bから土踏まず1cよりも爪先1d側まで延出するように構成されている一方、靴1の外側に配置される前記長手方向他端側16も、前記一端側15よりも約1〜2cm短くなる程度に、比較的長く延出するように構成されている。換言すれば、当該月形芯51によって、靴1を履いたときに、足の内側は、前記一端側15によって踵1bから土踏まず1cよりも爪先1d側までが包囲され、外側は、前記他端側16により踵1bから土踏まず1cに対応する位置近傍までが包囲されるようになっている。
【0057】
このようにして構成された本実施形態に係る月形芯51によれば、足の内側面のみならず、足の外側面に対しても、踵1bから土踏まず1cに対応する位置近傍までを包囲するようにしたことで、前記第2実施形態に係る月形芯41と比べて、靴内における足の移動をさらに制限することが可能となっている。一方、当該月形芯51の長手方向他端側16の延出を踵1bから土踏まず1cに対応する位置近傍までに留めたことで、靴1の剛性が必要以上に高まることによる履き心地の悪化を招来してしまうおそれもない。つまり、言い換えれば、当該月形芯51によれば、靴1の剛性が高くなり過ぎない限度において、靴内における足の移動を最大限に規制することが可能となる。この結果、当該靴内における足の移動によって起こる足の疲労を最小限に抑えることができる。
【0058】
本発明は前記各実施の形態の構成に限定されるものではなく、例えば本発明に係る靴用芯材を紳士用革靴以外の靴に適用してもよく、また、本発明に係る靴用芯材を月形芯としてではなく他の部位の補強材(芯材)として用いることも可能である。
【0059】
また、前記第1実施形態の第1、第2変形例については、前記第1実施形態のみならず、前記第2実施形態あるいは前記第3実施形態のいずれの実施形態と組み合わせてもよく、また、当該両変形例同士を組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0060】
1…靴
2…表革
3…裏革
11…月形芯(靴用芯材)
12…皮革(鞣し革)
13…含浸紙
14…接着剤
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、革靴において靴後部の表革と裏革の間に介装されるいわゆる月形芯に適用される靴用芯材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この靴用芯材は、例えば、革靴の踵部における補強材として表革と裏革との間に介装されており、主として、牛の皮を鞣した滑革等の皮革加工材料のほか、ボール紙や合成樹脂等の合成材料によって構成されている。その中でも、踵部の見栄えや足に対するフィット感を良好なものとするには滑革が最良であるとされているが、この滑革は、弾力性に乏しく、また熱にも弱く、さらには踵を踏むと崩れて元に戻りにくい等の問題があった。
【0003】
そこで、かかる問題を解決すべく、出願人は以下の特許文献に示す主として靴の踵の部分の芯として使用する皮の鞣法を出願し、その出願は特許された。この特許に係る皮の鞣法につき概略を説明すれば、当該皮の鞣法は、抜毛した生皮を水洗して塵埃等の不純物を除去する第1の工程と、不純物を除去した生皮を酵素剤、脱脂剤等を溶かした水溶液の中に一定の時間浸漬する第2の工程と、酵素剤、脱脂剤等を溶かした水溶液の中から生皮を取り出し水洗することにより生皮に付着している酵素剤や脱脂剤等を除去する第3の工程と、酵素剤や脱脂剤等を除去した生皮を、防腐剤を溶かした水溶液の中に一定の時間浸漬する第4の工程と、防腐剤を溶かした水溶液の中にさらにクロームとタンニンを加えて生皮を一定の時間浸漬する第5の工程と、クロームとタンニンを加えた水溶液の中にさらに中和剤を加えて生皮を一定の時間浸漬する第6の工程と、生皮を水洗し、これを乾燥させる第7の工程と、からなるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第1052744号(特公昭55−45120号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の特許方法によって鞣された滑革であっても、革で作られる靴用芯材は、剛性が不十分であるため、製靴工場において、水に浸漬した後に乾燥させることにより、革を硬化させる必要がある(以下、「硬化作業」という。)。そして、かかる硬化作業は、製靴工場において、芯材を甲革に装着する前に、対象となる靴の木型を用いて行われるもので、具体的には、水に浸漬した芯材を木型に当てた状態で数日間乾燥させることによって当該芯材の硬化を行う。このように、一の芯材の硬化作業中は当該作業に用いている木型を他の芯材の硬化に使用することができず、靴の生産性を向上させることが困難であった。さらに、前記従来の靴用芯材は、生皮という天然素材のみからなるため、前記硬化に伴い発生する縮み具合にばらつきが生じやすく、製品の品質を均一にすることも困難であった。
【0006】
本発明は、かかる技術的課題に着目して案出されたものであり、硬化作業に要する時間を短縮しつつ当該硬化に伴う品質のばらつきを低減し得る靴用芯材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、木材パルプを抄造した原紙に樹脂を含浸してなる含浸紙と鞣し革とを接着剤を介して貼り合わせてなることを特徴としている。
【0008】
この発明によれば、含浸紙の厚さ分だけ鞣し革の厚さを薄くすることが可能となり、この鞣し革の厚さが薄くなった分、製靴工場における水に浸漬した後の当該芯材の乾燥に要する時間、つまり硬化作業に要する時間の短縮が図れる。これによって、1つの靴の製造に係る靴型(木型)の占有時間を短縮することが可能となる。
【0009】
また、鞣し革に含浸紙を貼り合わせたことにより、前記乾燥時には鞣し革が含浸紙に引っ張られるために大きく縮んでしまうおそれがなく、当該乾燥時における縮み具合のばらつきを低減することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の発明において、踵の側部を包囲するように、靴後部における表革と裏革との間に介装される靴用芯材であって、前記介装時において内側となる長手方向一端側が外側となる長手方向他端側よりも長く延出するように構成したことを特徴としている。
【0011】
この発明によれば、より大きな面積をもって足と対向可能な靴の内側(内方)に配置される長手方向一端側を、靴の外側(外方)に配置される長手方向他端側よりも長く延出形成したことで、靴内における足の移動をより制限することができる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、前記請求項2に記載の発明において、前記長手方向一端側を、踵から土踏まずよりも爪先側まで延出するように構成したことを特徴としている。
【0013】
この発明によれば、足の内側面について、少なくとも踵から土踏まずまでを包囲するようにしたため、靴内における足の移動をより効果的に規制することが可能となる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、前記請求項3に記載の発明において、前記長手方向他端側を、踵から土踏まずに対応する位置まで延出するように構成したことを特徴としている。
【0015】
この発明によれば、足の外側面に対しても、踵から土踏まずに相当する位置までを包囲するようにしたことで、靴の剛性が高くなり過ぎない限度において、靴内における足の移動を最大限に規制することが可能となる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、前記請求項1〜4に記載の発明において、前記長手方向両端部の辺を、靴後部側へ向かって下り傾斜状となるように形成したことを特徴としている。
【0017】
この発明によれば、両端部をかかる形状に形成した月形芯を用いることで、靴の成形作業時において足の土踏まず側の裏革に皺がよりにくくなる。
【0018】
請求項6に記載の発明は、前記請求項1〜5に記載の発明において、表裏両面にそれぞれ熱硬化性接着剤を塗布し、該接着剤を乾燥してなることを特徴としている。
【0019】
この発明によれば、芯材に予め接着剤を塗布させておくことで、製靴業者は、従来のような接着剤塗布作業を行わず、単にプレス機にかけて加熱成形作業を行うのみで、芯材を両革に固定することができる。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に記載の発明によれば、一つの芯材の製造に係る靴型の占有時間が短縮されることにより、靴の生産性の向上に供される。
【0021】
また、芯材の型成形時における縮み具合のばらつきが低減されることから、製品毎の品質をほぼ均一にすることも可能となる。
【0022】
請求項2に記載の発明によれば、芯材の長手方向一端側をのばした分だけ、該長手方向一端側によって靴内での足の移動をさらに制限することができる。これにより、当該靴内における足の移動によって起こる足の疲労の軽減に供される。
【0023】
請求項3に記載の発明によれば、靴内における足の移動がより効果的に規制されるため、当該靴内における足の移動によって起こる足の疲労を一層効果的に軽減することができる。
【0024】
請求項4に記載の発明によれば、靴内における足の移動が最大限に規制されるため、当該靴内における足の移動によって起こる足の疲労を最小限に抑えることができる。
【0025】
請求項5に記載の発明によれば、製靴作業における作業性の向上に供され、これによって製造コストの低廉化に寄与することができる。
【0026】
請求項6に記載の発明によれば、製靴作業を簡素化することが可能となり、当該製靴作業の作業性の向上が図れる。この結果、靴の製造コストの低廉化に供される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1実施形態に係る靴用芯材を靴内に装着した状態を示す斜視図である。
【図2】同実施形態に係る靴用芯材単体を示す斜視図である。
【図3】図2の展開図である。
【図4】図3のA−A線断面図である。
【図5】本発明の第1実施形態についての第1変形例に係る靴用芯材を靴内に装着した状態を示す斜視図である。
【図6】同変形例に係る靴用芯材単体を示す斜視図である。
【図7】図6の展開図である。
【図8】本発明の第1実施形態についての第2変形例に係る靴用芯材の特徴説明に供する図3のA−A線断面に相当する部分断面図である。
【図9】本発明の第2実施形態に係る靴用芯材を靴内に装着した状態を示す斜視図である。
【図10】同実施形態に係る靴用芯材単体を示す斜視図である。
【図11】図10の展開図である。
【図12】本発明の第3実施形態に係る靴用芯材を靴内に装着した状態を示す斜視図である。
【図13】同実施形態に係る靴用芯材単体を示す斜視図である。
【図14】図13の展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る靴用芯材の各実施形態を図面に基づいて詳述する。なお、各実施形態では、当該靴用芯材を紳士用革靴の踵部に補強材として用いられる月形芯に適用したものを示している。
【0029】
図1〜図4は本発明に係る靴用芯材の第1実施形態を示しており、この靴用芯材である月形芯11は、図1に示すように、靴1の踵1bの側部を包囲するように靴後部における表革2と裏革3との間に介装されるもので、その全体が図2に示すような前記踵1bの側部に沿うように湾曲形成されていて、図3に示すように、タンニン鞣し革等からなる皮革12とパルプ木材を抄造した原紙に樹脂を含浸してなる含浸紙13、を溶剤系の所定の接着剤14によって貼り合わせることにより構成されている。なお、本実施形態においては、図2に示すように、皮革12の内側面12aに含浸紙13を貼り付ける形態を例に説明するが、皮革12の外側面12bに含浸紙13を貼り付けることとしてもよい。
【0030】
ここで、前記月形芯11は、その厚さが約2.2mmに設定されていて、厚さ1.1mmずつにそれぞれ漉いた皮革12と含浸紙13とが貼り合わされている。これにより、本実施形態に係る月形芯1にあっては、厚さ2.2mmの皮革を単体で使用する従来の月形芯と比較して、皮革の重量が約半分となっており、また、含浸紙13は皮革に比べて十分軽量であるため、前記従来の月形芯よりも大幅な軽量化が図られている。
【0031】
そして、前記月形芯11は、図4に示すように、断面が先細り状となるように周縁部11a全体が漉き加工されていて、図3に示すように、含浸紙13の方が皮革12に比べて小さいものとなっている。さらに、この月形芯11は、その長手方向一端側15と他端側16の両端部15a,16aが、当該両端部15a,16aの辺15b,16bと、当該月形芯11の下側部である後記の長手方向他側部18の辺18aと、のなす角がそれぞれ鋭角となるよう、当該両端部15a,16aの辺15b,16bが靴後部側へ向かって上り傾斜状となるように形成されている。
【0032】
また、前記含浸紙13は、木材パルプ単独を抄造した原紙、木材パルプと皮屑とを混抄した原紙、又は木材パルプ、皮屑及び合成繊維を混抄した原紙を、いわゆるSBR系合成ラテックス又はアクリル系樹脂が配合された樹脂剤に浸漬(ディッピング)することで、かかる樹脂を前記原紙に含浸させ、これを乾燥したものである。なお、当該含浸紙13の成分比としては、木材パルプ85%〜60%に対し、上記樹脂15%〜40%となっている。
【0033】
ここで、前記皮屑は、靴や鞄その他の皮材料を素材とする分野において端材として廃棄されたものを利用したシェービング屑であり、このシェービング屑を粉砕機で粉砕して繊維状に解繊したもの(いわゆるコラーゲン繊維)である。なお、この皮屑の混抄率は、対木材パルプ比10%〜90%の範囲内であればいくらでもよいが、望ましくは、対木材パルプ比50%が良好である。
【0034】
また、前記合成繊維についても、前記皮屑と同様に、端材として廃棄されたものを裂断し解繊して使用する。なお、この合成繊維の混抄率については、対木材パルプ及び皮屑比15%を上限とし、望ましくは、対木材パルプ及び皮屑比5%〜8%が良好である。
【0035】
以下、前記月形芯11の製造方法について説明する。なお、当該月形芯11の製造は、第1工程である裁断工程と、第2工程である貼り合わせ工程と、第3工程である漉き工程と、第4工程である曲付け工程と、の4つの工程を経て行われる。
【0036】
まず、第1工程である裁断工程では、生皮を鞣して得られた皮革12と原紙に樹脂を含浸して得られた含浸紙13とをそれぞれ同一の抜き型をもってクリッカーと称される油圧式の裁断機(型抜き機)を用いて裁断(打ち抜き加工)を行う。ここで、この皮革12及び含浸紙13の裁断について個別具体的に説明すれば、まず、皮革12の裁断については、背中から半分に裁断されて厚さ1.1mmに漉き加工された皮革12を、前記クリッカーのテーブルに据え、傷のある部位を避けつつ月形芯11として使用可能な部位を見極めながら1枚ずつ打ち抜き加工する。そして、かかる打ち抜き加工した皮革12は、肩や腹などの部位によって相互に品質が異なることから、当該打ち抜き加工した皮革12を同じ品質のものについて仕分けを行う。一方、含浸紙13の裁断については、厚さ1.1mmの所定の大きさに規格化された原紙に前記樹脂を含浸した含浸紙13を5枚重ねて角を揃えた後、その一角をホチキス等で固定し、所定の間隔をもって抜き加工する。このように、皮革12の裁断においては1回の裁断につき1枚の皮革12が得られるのに対し、含浸紙13の裁断においては、1回の裁断につき5枚の含浸紙13が得られることとなり、さらには、当該含浸紙13の裁断においては、皮革12の裁断のように適当な部位の見極めや同じ品質のものに仕分けする作業等を行う必要がないことから、皮革12の裁断に比べて少なくとも5倍以上の効率で裁断を行うことができる。
【0037】
続いて、第2工程である貼り合わせ工程では、まず、前記裁断した含浸紙13を1枚ずつ取り、これをグラビアコーターと称される塗工機にかけることで、含浸紙13の皮革12との接合面である外側面13aに前記接着剤14を塗布する。そして、この接着剤14が塗布された含浸紙13の上に前記同じ大きさに裁断された皮革12を載置して貼り合わせる。かかる作業を繰り返し、含浸紙13に皮革12を重合したものを所定の枚数だけ重ねた後、これらをプレス機にかけて約1t/cm2の荷重をもって接着剤14が乾燥するまで加圧することにより、それぞれ皮革12と含浸紙13とを圧着させる。
【0038】
次に、第3工程である漉き工程では、まず、前記接着工程で貼り合わされた皮革12と含浸紙13との重合物を、バンドナイフと称される帯状の刃物を備えた漉き機(スライサ)にかけることにより、中央部に含浸紙13が残るように(図3参照)、該含浸紙13側の面の周縁部11aについて漉き加工を行うが、この際、当該重合物の長手方向の一端部15a及び他端部16aと、長手方向の一側部17及び他側部18と、をそれぞれ別々に4回に分けて漉き加工する。すなわち、第1漉き加工として、当該重合物の長手方向の一端部15aを漉き加工した後、第2漉き加工として、その反対側の他端部16aを漉き加工し、その後、第3漉き加工として、さらに当該重合物の上側部である長手方向一側部17を漉き加工した後、第4漉き加工として、最後に当該重合物の下側部である長手方向他側部18を漉き加工する。このように、長手方向の各端部15a,16aと長手方向の各側部17,18をそれぞれ分けて別々に漉き加工することで、皮革12の繊維を切らさず、当該皮革12を生かしたまま月形芯11を得ることが可能となり、これによって得られた月形芯11は、腰のある復元性に優れたものとなる。
【0039】
なお、前記各漉き加工を行うに際し、前記第1、第2の漉き加工においては、前記第3、第4漉き加工と比べて比較的漉き幅が大きいことから、前記バンドナイフを用いた比較的大型のスライサを使用する一方、前記第3、第4の漉き加工においては、前記第3、第4漉き加工と比べて漉き幅が比較的小さいことから、前記バンドナイフを用いた比較的小型のコバ漉き機と称されるスライサを使用する。
【0040】
最後に、第4工程である曲付け工程では、図3に示すような前記漉き加工が完了したものを、所定の成形機にセットされた一対の雄型と雌型との間に挟み込み、この成形機によって約1t/cm2の荷重をもって加圧することにより、当該漉き加工が完了したものを図2に示すような湾曲状態となるように曲付け加工(成形)して、これによって前記月形芯11が完成する。
【0041】
そして、この製品化された月形芯11は、その後、製靴工場にて、水に浸漬されて所定時間おかれた後に、つまり前記硬化作業後に、靴底1eが未装着のいわゆるアッパー1aに挿入され、該アッパー1aの表革2及び裏革3と月形芯11との間に所定の接着剤が塗布されることで、当該接着剤を介して表革2及び裏革3に接着固定されることとなる。
【0042】
以上のようにして得られた本実施形態に係る前記月形芯11によれば、含浸紙13の厚さ分だけ皮革12の厚さを薄くすることが可能となり、この皮革12の厚さが薄くなった分だけ、製靴工場にて当該月形芯11を水に浸漬した後の乾燥に要する時間、つまり当該月形芯11の硬化作業時間の短縮が図れる。これによって、1つの靴の製造に係る靴型の占有時間を短縮することが可能となり、靴の生産性の向上に供される。
【0043】
また、皮革12に含浸紙13を貼り合わせる構造としたことから、前記月形芯11の乾燥時には皮革12が含浸紙13に引っ張られることとなり、皮革12が大きく縮んでしまうおそれがない。換言すれば、前記月形芯1の乾燥時における皮革12の縮み具合のばらつきを低減することが可能となり、この結果、当該月形芯11の製品毎の品質をほぼ均一にすることも可能となる。
【0044】
図5〜図7は前記第1実施形態に係る月形芯11の第1変形例を示しており、前記第1実施形態に係る月形芯11の長手方向両端部15a,16aの形状を変更したものである。なお、本変形例に係る月形芯21についても、基本的な構成は前記第1実施形態に係る月形芯11と同様であるため、以下、説明の便宜上、前記第1実施形態に係る月形芯11と同じ構成については同一の符号を付してその説明を省略し、前記第1実施形態に係る月形芯11と異なる点についてのみ説明する。
【0045】
すなわち、本実施形態に係る月形芯21は、その長手方向一端側15と他端側16の両端部15a,16aにおいて、当該両端部15a,16aの辺15b,16bと長手方向の他側部18の辺18aとのなす角がそれぞれ鈍角となるように、当該両端部15a,16aの辺15b,16bが靴1の後部側へ向かって下り傾斜状となるように形成されている。
【0046】
このようにして構成された本実施形態に係る月形芯21によれば、その長手方向両端部15a,16aの辺15b,16bが靴後部側へ向かって下り傾斜状となるように形成されているために、裏革3の土踏まず1c側の部分に皺がよりにくくなる。これによって、製靴作業性の向上が図れ、靴の製造コストの低廉化に供される。
【0047】
図8は、前記第1実施形態に係る月形芯1の第2変形例を示している。なお、本変形例に係る月形芯21についても、基本的な構成は前記第1実施形態に係る月形芯11と同様であるため、以下、説明の便宜上、前記第1実施形態に係る月形芯11と同じ構成については同一の符号を付してその説明を省略し、前記第1実施形態に係る月形芯11と異なる点についてのみ説明する。
【0048】
すなわち、本変形例に係る月形芯31は、前記第1実施形態に係る月形芯11の表裏両面に予め熱硬化性の接着剤32,32が塗布され、かつ、乾燥されたものであって、該接着剤32,32をもって製靴工場において前記アッパー1aに接着される、製靴工場における接着剤塗布作業を不要とするものである。
【0049】
そして、本実施形態に係る月形芯31を製造するにあたっては、前記第1〜第4工程を経て得られた前記第1実施形態に係る月形芯11に対し、第5工程である接着剤塗布工程において、その表裏両面に接着剤32,32を塗布した後、これを乾燥させることにより、当該月形芯31の製造が完了する。なお、この製品化された月形芯31は、その後、製靴工場において、前記アッパー1aの表革2と裏革3との間に挿入され、当該アッパー1aが足形状の金型に被嵌されて約70〜90℃の温度によって加熱及び加圧されることにより、前記接着剤32,32を介して前記両革2,3に接着固定される。
【0050】
このように、本実施形態に係る前記月形芯31によれば、金型を用いて加熱及び加圧することにより成形されることから、前記第1実施形態に係る月形芯11のように、水に浸漬した後に靴型に当てて乾燥させる、といった煩わしい前記硬化作業を行う必要がない。このため、当該月形芯31の場合には、前記第1実施形態に係る月形芯11と比べて、さらに短時間で製靴作業を行うことができる。すなわち、靴型の使用効率を大幅に向上させることが可能となり、靴の生産性のさらなる向上に供される。
【0051】
また、従来では、後工程である製靴工場にて手作業で接着剤を塗布することにより前記アッパー1aとの接着を行っていたが、本変形例に係る月形芯31の場合には、接着剤32,32が予め塗布されているため、当該月形芯31をアッパー1aの表革2と裏革3との間に挿入してそのまま加熱成形機にかけて加熱及び加圧するのみでアッパー1aとの接着を行うことができる。すなわち、本変形例に係る月形芯31によれば、製靴工程における従来の手作業が機械化されることとなり、靴の生産性のより一層の向上に供されるといったメリットもある。
【0052】
図9〜図11は本発明に係る月形芯の第2実施形態を示しており、前記第1実施形態に係る月形芯11の形状を変更したものである。なお、本実施形態についても、基本的な構成は前記第1実施形態と同様であるため、説明の便宜上、前記第1実施形態と同じ構成については同一の符号を付してその説明を省略し、前記第1実施形態と異なる点についてのみ説明する。
【0053】
すなわち、本実施形態に係る月形芯41は、前記アッパー1aに装着された状態で、靴1の外側(外方)に配置される長手方向他端側16は、前記第1実施形態に係る月形芯11と同様、踵1b近傍のみを包囲する程度に比較的短く設定されているのに対して、靴1の内側(内方)に配置される長手方向一端側15は、踵1bから土踏まず1cよりも爪先1d側まで延出するように比較的長く設定されていて、当該長手方向一端側15が、前記他端側16よりも長くなるように構成されている。かかる構成から、足の内側については、踵1bの近傍のみならず、踵1bから土踏まず1cよりも爪先1d側までが月形芯41によって包囲されるようになっている。
【0054】
このようにして構成された本実施形態に係る月形芯41によれば、靴1の外側に配置される長手方向他端側16と比べてより大きな面積をもって足と対向可能な靴1の内側に配置される長手方向一端側15を、前記他端側16よりも長く延出するように形成したことで、靴内において、足の移動をより効果的に制限することが可能となる。この結果、当該靴内での足の移動によって起こる足の疲労を一層効果的に軽減することができる。
【0055】
図12〜図14は本発明に係る月形芯の第3実施形態を示しており、前記第2実施形態に係る月形芯41の形状を変更したものである。なお、本実施形態に係る月形芯51ついても、基本的な構成は前記第2実施形態に係る月形芯41と同様であるため、以下、説明の便宜上、前記第2実施形態に係る月形芯41と同じ構成については同一の符号を付してその説明を省略し、前記第2実施形態に係る月形芯41と異なる点についてのみ説明する。
【0056】
すなわち、本実施形態に係る月形芯51は、前記アッパー1aに装着された状態で、靴1の内側に配置される前記長手方向一端側15は、前記第2実施形態に係る月形芯41と同様、踵1bから土踏まず1cよりも爪先1d側まで延出するように構成されている一方、靴1の外側に配置される前記長手方向他端側16も、前記一端側15よりも約1〜2cm短くなる程度に、比較的長く延出するように構成されている。換言すれば、当該月形芯51によって、靴1を履いたときに、足の内側は、前記一端側15によって踵1bから土踏まず1cよりも爪先1d側までが包囲され、外側は、前記他端側16により踵1bから土踏まず1cに対応する位置近傍までが包囲されるようになっている。
【0057】
このようにして構成された本実施形態に係る月形芯51によれば、足の内側面のみならず、足の外側面に対しても、踵1bから土踏まず1cに対応する位置近傍までを包囲するようにしたことで、前記第2実施形態に係る月形芯41と比べて、靴内における足の移動をさらに制限することが可能となっている。一方、当該月形芯51の長手方向他端側16の延出を踵1bから土踏まず1cに対応する位置近傍までに留めたことで、靴1の剛性が必要以上に高まることによる履き心地の悪化を招来してしまうおそれもない。つまり、言い換えれば、当該月形芯51によれば、靴1の剛性が高くなり過ぎない限度において、靴内における足の移動を最大限に規制することが可能となる。この結果、当該靴内における足の移動によって起こる足の疲労を最小限に抑えることができる。
【0058】
本発明は前記各実施の形態の構成に限定されるものではなく、例えば本発明に係る靴用芯材を紳士用革靴以外の靴に適用してもよく、また、本発明に係る靴用芯材を月形芯としてではなく他の部位の補強材(芯材)として用いることも可能である。
【0059】
また、前記第1実施形態の第1、第2変形例については、前記第1実施形態のみならず、前記第2実施形態あるいは前記第3実施形態のいずれの実施形態と組み合わせてもよく、また、当該両変形例同士を組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0060】
1…靴
2…表革
3…裏革
11…月形芯(靴用芯材)
12…皮革(鞣し革)
13…含浸紙
14…接着剤
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材パルプを抄造した原紙に樹脂を含浸してなる含浸紙と鞣し革とを接着剤を介して貼り合わせてなることを特徴とする靴用芯材。
【請求項2】
踵の側部を包囲するように、靴後部における表革と裏革との間に介装される靴用芯材であって、前記介装時において内側となる長手方向一端側が外側となる長手方向他端側よりも長く延出するように構成したことを特徴とする請求項1に記載の靴用芯材。
【請求項3】
前記長手方向一端側を、踵から土踏まずよりも爪先側まで延出するように構成したことを特徴とする請求項2に記載の靴用芯材。
【請求項4】
前記長手方向他端側を、踵から土踏まずに対応する位置まで延出するように構成したことを特徴とする請求項3に記載の靴用芯材。
【請求項5】
前記長手方向両端部の辺を、靴後部側へ向かって下り傾斜状となるように形成したことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の靴用芯材。
【請求項6】
表裏両面にそれぞれ熱硬化性接着剤を塗布し、該接着剤を乾燥してなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の靴用芯材。
【請求項1】
木材パルプを抄造した原紙に樹脂を含浸してなる含浸紙と鞣し革とを接着剤を介して貼り合わせてなることを特徴とする靴用芯材。
【請求項2】
踵の側部を包囲するように、靴後部における表革と裏革との間に介装される靴用芯材であって、前記介装時において内側となる長手方向一端側が外側となる長手方向他端側よりも長く延出するように構成したことを特徴とする請求項1に記載の靴用芯材。
【請求項3】
前記長手方向一端側を、踵から土踏まずよりも爪先側まで延出するように構成したことを特徴とする請求項2に記載の靴用芯材。
【請求項4】
前記長手方向他端側を、踵から土踏まずに対応する位置まで延出するように構成したことを特徴とする請求項3に記載の靴用芯材。
【請求項5】
前記長手方向両端部の辺を、靴後部側へ向かって下り傾斜状となるように形成したことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の靴用芯材。
【請求項6】
表裏両面にそれぞれ熱硬化性接着剤を塗布し、該接着剤を乾燥してなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の靴用芯材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−15823(P2011−15823A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162484(P2009−162484)
【出願日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(308023033)株式会社上沼 (4)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(308023033)株式会社上沼 (4)
【Fターム(参考)】
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