説明

音場生成装置、音場生成システム、及び音場生成方法

【課題】様々な環境においても音場を適切に生成することができる音場生成装置、音場生成システム、及び音場生成方法を提供する。
【解決手段】本発明にかかる音場生成装置2は、2チャンネル以上の音声を出力するスピーカを有し、スピーカから出力された音を反射させて聴取者60に音を伝達させる反射部40に向けて音響信号を出力するスピーカ部30と、スピーカ部30より出力され反射部40により反射されて聴取者60に到達した音響信号の音像が聴取者60の位置において仮想音源として定位されている音声信号が入力され、入力された音声信号に対して反射部により反射されて聴取者60に到達した音響信号の各チャンネル間におけるクロストークが聴取者60の位置においてキャンセルされるように演算処理を行うクロストークキャンセル部20と、を備えるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音場生成装置、音場生成システム、及び音場生成方法に関し、特に詳しくは2チャンネル以上のスピーカを用いて音場を生成する音場生成装置、音場生成システム、及び音場生成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、フロント部に搭乗するリスナーに対して、ステレオ再生するための車載スピーカシステムが開示されている。この車載スピーカシステムでは、インストルメンタルパネルに左右1対のスピーカを設けている。そして、スピーカからの再生音が、フロントガラスに反射して、運転席又は助手席のリスナーに到達している。右のスピーカからの再生音は、助手席のリスナーに届いており、左のスピーカからの再生音は、運転席のリスナーに届いている。入力信号がそのままスピーカから出力されるため、従来のステレオ音場のように聴取者前方の音場は再現できるが、聴取者後方の音像定位は再現できない。
【0003】
特許文献2には、バイノーラル録音されたバイノーラル信号を変換する信号変換装置が開示されている。特許文献2では、再生音場内で生じるべきクロストークを打ち消すように、バイノーラル信号を変形バイノーラル信号に変換している。そして、変形バイノーラル信号が複数個のスピーカに与えられている。また、特許文献3ではステレオダイポール方式で再生する再生システムが開示されている。特許文献3の再生システムでは、ラウドスピーカ対の見開き角度を6〜20度の範囲に定めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−328483号公報
【特許文献2】特開昭52−40101号公報
【特許文献3】特表2000−529106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献3の方法では、自動車の車内等の環境に適用することができないという問題がある。例えば、ステレオダイポール方式を用いた場合、耳元に向けてスピーカを設置しても、ハンドルによる遮蔽やサイドガラスによる反射の影響が発生する。特に、自動車の車内は左右非対称な環境であり、例えば聴取者が運転者の場合、運転者から右側のサイドガラスまでの距離は、左側のサイドガラスまでの距離に比べて短くなる。よって、運転手の右耳に対して右側のサイドガラスによる反射の影響が大きく出てしまい左右の反射が不均一になってしまう。さらに、聴取者に直接音を届けるためにダッシュボード上にスピーカを配置することは、運転者の視野を妨げることになってしまうため、ダッシュボード上に、スピーカを配置することは適切ではない。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、様々な環境においても音場を適切に生成することができる音場生成装置、音場生成システム、及び音場生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る音場生成装置は、2チャンネル以上の音声を出力するスピーカを有し、前記スピーカから出力された音を反射させて聴取者に音を伝達させる反射部に向けて音響信号を出力するスピーカ部と、前記スピーカ部より出力され前記反射部により反射されて前記聴取者に到達した音響信号の音像が前記聴取者の位置において仮想音源として定位されている音声信号が入力され、前記入力された音声信号に対して前記反射部により反射されて前記聴取者に到達した音響信号の各チャンネル間におけるクロストークが前記聴取者の位置においてキャンセルされるように演算処理を行うクロストークキャンセル部と、を備えることを特徴とするものである。この構成を有することによって、様々な環境においても音場を適切に生成することができる。
上記の音場生成装置において、前記クロストークキャンセル部に入力される音声信号に対して、前記聴取者に到達した音響信号の音像が前記聴取者の位置において仮想音源となるように音像の定位を加えるための音像定位演算部を、さらに備えていてもよい。
上記の音場生成装置において、前記聴取者に聴取させる音声信号をささやき声に変換するささやき声変換部をさらに備え、前記音像定位演算部は、前記スピーカ部より出力され前記反射部により反射されて前記聴取者に到達した前記ささやき声に変換された音響信号の音像が、前記聴取者の少なくとも一方の耳元に仮想音源として定位するように演算を行うようにしてもよい。
上記の音場生成装置において、クロストークキャンセル演算部が、反射部による反射を考慮した伝達関数を用いて、クロストークをキャンセルする演算を行っていてもよい。こうすることで、クロストークを確実にキャンセルすることができ、より適切に音場を生成することができる。
上記の音場生成装置が、前記スピーカ部と前記反射部の間に、前記スピーカから出力された音響信号を集束するレンズ部を、さらに備えていてもよい。これにより、聴取者の耳までの伝達経路において、反射の影響を低減することができる。よって、より適切に音場を生成することができる。
上記の音場生成装置において、前記クロストークキャンセル演算部は、前記反射部の反射面形状に対応した演算を行うことを特徴としてもよい。
上記の音場生成装置において、前記スピーカと、前記反射部が一体となって形成されていてもよい。
上記の音場生成装置において、前記反射部の反射面の角度、又は前記スピーカの角度の少なくとも一方が可変であってもよい。
上記の音場生成装置において、前記反射部の反射面の角度、又は前記スピーカの角度の少なくとも一方を変えることで、前記聴取者を切り替えてもよい。これにより、簡便に聴取者を切り替えることができる。
上記の音場生成装置が、入力信号に対して、音像の定位を加えるための音像定位演算部を、さらに備えていてもよい。
上記の音場生成装置において、前記入力された音声信号が、バイノーラル記録されたバイノーラル信号であることを特徴としてもよい。
本発明の一態様にかかる音場生成システムは、上記の音場生成装置と、前記スピーカ部からの音を前記聴取者に向けて反射する反射部と、を備えたものである。この構成を有することによって、様々な環境においても音場を適切に生成することができる。
上記の音場生成システムにおいて、前記反射部が、自動車の車体もしくは、車載機器であってもよい。
上記の音場生成システムにおいて、前記反射部が、自動車のフロントガラス、サイドガラス、及びルーフガラスの少なくとも一つとしてもよい。この構成を有することによって、遮蔽物等が存在する自動車内であっても、音場を適切に生成することができる。
上記の音場生成システムにおいて、前記2チャンネル以上のスピーカの内、1つのスピーカが、前記フロントガラスに向けて、音響信号を出力し、他のスピーカが前記サイドガラスに向けて音響信号を出力するようにしてもよい。
本発明の一態様に係る音場生成方法は、音像が定位された音響信号をスピーカから出力した場合に生じる音のクロストークをキャンセルする処理を行うステップと、スピーカ部に設けられた2チャンネル以上の音声を出力するスピーカから、前記クロストークがキャンセルされた音響信号を反射部に向けて出力するステップと、前記反射部が前記聴取者に向けて音響信号を反射して、前記聴取者に対して音場を生成するステップと、を備えるものである。
【発明の効果】
【0008】
以上のように、本発明によれば、様々な環境においても適切な音場を生成することができる音場生成装置、音場生成システム、及び音場生成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態1にかかる音場生成システムの構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態1にかかる音場生成システムの全体構成を示す図である。
【図3】音像定位演算部を示すブロック図である。
【図4】クロストークキャンセル演算部を示す図である。
【図5】実施の形態1の設置例1を示す上面図である。
【図6】実施の形態1の設置例1を示す側面図である。
【図7】実施の形態1の設置例2を示す上面図である。
【図8】実施の形態1の設置例3を示す上面図である。
【図9】実施の形態1の設置例4を示す上面図である。
【図10】実施の形態1の設置例5を示す上面図である。
【図11】実施の形態1の設置例6を示す上面図である。
【図12】実施の形態1の設置例7に用いられる左スピーカと左反射部を示す斜視図である。
【図13】実施の形態1の設置例7を示す上面図である。
【図14】実施の形態1の設置例8に用いられるスピーカ部と反射部を示す斜視図である。
【図15】実施の形態1の設置例8を示す上面図である。
【図16】実施の形態1の設置例9を示す上面図である。
【図17】実施の形態1の設置例9を示す側面図である。
【図18】本発明の実施の形態2にかかる音場生成システムの構成を示すブロック図である。
【図19】本発明の実施の形態2にかかる音場生成システムの全体構成を示す図である。
【図20】ダミーヘッドを用いてバイノーラル録音を行う収録現場を模式的に示す図である。
【図21】本発明の実施の形態3かかる音場生成システムのスピーカユニット部の構成を示すブロック図である。
【図22】スピーカユニット部の構成例を示す斜視図である。
【図23】スピーカユニット部の構成例を示す斜視図である。
【図24】スピーカユニット部の構成例を示す斜視図である。
【図25】スピーカユニット部にて、音響信号を反射する様子を示す図である。
【図26】スピーカユニット部の設置例を示す側面図である。
【図27】本発明の実施の形態4にかかる音場生成システムの構成を示すブロック図である。
【図28】本発明の実施の形態4にかかる音場生成システムの全体構成を示す図である。
【図29】本発明の実施の形態5にかかる音場生成システムの構成を示すブロック図である。
【図30】本発明の実施の形態5にかかる音場生成システムの全体構成を示す図である。
【図31】レンズ部が設けられたスピーカユニット部を示すブロック図である。
【図32】スピーカの非対称配置を示す上面図である。
【図33】スピーカの非対称配置を示す側面図である。
【図34】本発明の実施の形態6にかかる音場生成システムの構成を示すブロック図である。
【図35】本発明の実施の形態6にかかる音場生成システムの全体構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。図1は、本実施の形態1に係る音場生成システムの構成を示すブロック図である。図2は音場生成システムの全体構成を模式的に示す図である。音場生成システム1は、音像定位演算部10、クロストークキャンセル演算部20、スピーカ部30、反射部40と、を有している。音像定位演算部10、クロストークキャンセル演算部20、スピーカ部30、が音場生成装置2を構成する。本実施の形態では、音場生成システム1におけるスピーカ部30は、近接配置された2つのスピーカを有している。すなわち、スピーカ部30は、左スピーカ31と右スピーカ32とを有している。
【0011】
音声信号である入力信号p(t)が音像定位演算部10に入力される。本実施の形態では、入力信号p(t)がモノラル信号であるとして、説明する。入力信号p(t)は、CD(Compact Disc)やDVD(Digital Versatile Disc)やMP3プレイヤ等を再生することによって、音場生成装置2に入力される。音像定位演算部10は、入力信号p(t)に対して、聴取者60の聴取位置において仮想音源p'(t)を適切に定位させるための演算処理を行った左耳用のステレオ信号Lsと、右耳用のステレオ信号Rsとを得ることができる。すなわち、2チャンネルのステレオ信号Ls、Rsが生成される。なお、本実施形態では、2チャンネルの音声を出力する音場生成システムに付いて説明するが、チャンネル数は、2チャンネル以上であってもよい。
【0012】
クロストークキャンセル演算部20は、入力された音声信号に基づくステレオ信号Ls、Rsに対して、クロストークキャンセル処理を行う。これにより、聴取者60の耳元においてクロストークがキャンセルされた音声信号としてのスピーカ信号Lsp、Rspを得ることができる。すなわち、左スピーカ31から放出された音による右耳62への影響と、右スピーカ32から放出された音による左耳61への影響を低減することができる。実際にスピーカ部30から音響信号を出力した時のクロストークをキャンセルさせ、音場を介して左耳61に届く音響信号をステレオ信号Lsと同一の音響信号となるような処理を行い、音場を介して右耳62に届く音響信号をステレオ信号Rsと同一の音響信号となるような処理を行う。
【0013】
音像定位演算部10およびクロストークキャンセル演算部20は、例えばDSP(Digital Signal Processor)によるFIR(Finite Impulse Response)フィルタ処理等により構成される。
【0014】
スピーカ部30は、ステレオスピーカであり、左スピーカ31と右スピーカ32を有している。スピーカ部30は、聴取者60に対して音像が定位され、クロストークがキャンセンされたスピーカ信号Lsp、Rspに基づいて、音響信号を放射する。すなわち、左スピーカ31はスピーカ信号Lspに基づく音響信号を出力し、右スピーカ32はスピーカ信号Rspに基づく音響信号を出力する。スピーカ信号Lspには、右スピーカ32からの音が左耳61に影響するのをキャンセルするためのキャンセル成分が含まれている、スピーカ信号Rspには、左スピーカ31からの音が右耳62に影響するのをキャンセルするためのキャンセル成分が含まれている。
【0015】
反射部40は、スピーカ部30の音響放出面に対向配置されている。左スピーカ31と、右スピーカ32は、反射部40に向けて、スピーカ信号Lsp、Rspに応じた音響信号を出力する。反射部40は、左反射部41と右反射部42を有している。左反射部41は、左スピーカ31から放射された音響信号を、聴取者60の左耳61に向けて反射する。右反射部42は、右スピーカ32から出力された音響信号を、聴取者60の右耳62に向けて反射する。なお、左反射部41と右反射部42として、音響信号出力環境中の壁面や窓ガラス等を利用することができる。また、左反射部41と右反射部42がスピーカ部30に設けられていても良い。
【0016】
上記のように、左スピーカ31から出力された音響信号のうちのステレオ信号Lsの成分が、右耳62に影響しないよう、クロストークがキャンセルされている。同様に、右スピーカ32から出力された音響信号のうちのステレオ信号Rsの成分が、左耳61に影響しないよう、クロストークがキャンセルされている。よって、聴取者60の左耳61、右耳62に届く信号Le、Reは、クロストークがキャンセルされた状態となる。従って、仮想的な聴取者80の位置における音場と同様の音場を生成することができる。
【0017】
本実施形態では、上記のように音場を生成している。音像定位演算部10で聴取者の位置で音像が定位されるように演算されているため、聴取者60に適切な仮想音源を定位させることができる。さらに、クロストークがキャンセルされているため、聴取者60は仮想音源からステレオ信号Rsおよびステレオ信号Lsが出力されているような聴取が可能となる。これにより、聴取者60は立体感のある音場を聴取することができる。また、スピーカ部30からの音が反射部40を介して、聴取者60に到達している。左スピーカ31と右スピーカ32を反射部40に向けて配置することで、左スピーカ31と右スピーカ32からの直接音が聴取者60に届かないようにしている。例えば、左スピーカ31から出力された音響信号が直接左耳61に到達することを防ぐことができる。反射部40を介せず聴取者60に到達する直接音と、反射部40を介して聴取者60に到達する反射音が混在することによる音場の乱れを低減することができる。
【0018】
次に、音像定位演算部10における処理について説明する。図3は、音像定位演算部10における処理を模式的に示す図である。音像定位演算部10に入力されたモノラル信号である入力信号p(t)を音像定位演算部10によりたたみ込み演算することによって、音像を定位させることができる。具体的には、音像定位演算部10は、たたみ込み演算部11、12を有している。たたみ込み演算部11が、入力信号p(t)と伝達関数bl(t)のたたみ込み演算を行うことで、ステレオ信号Lsを得ることができる。同様に、たたみ込み演算部12が、入力信号p(t)と伝達関数br(t)とのたたみ込み演算を行うことで、ステレオ信号Rsを得ることができる。具体的には、Ls(t)=p(t)*bl(t)、Rs(t)=p(t)*br(t)となっている。bl(t)、及びbr(t)は、再生する音像の位置に応じて、設定されている。音像定位演算部10で算出されたステレオ信号Ls、Rsには、音像の位置に応じて、時間差、音量差等が与えられている。
【0019】
次に、クロストークキャンセル演算部20における処理について、図4を用いて説明する。クロストークキャンセル演算部20におけるクロストークキャンセル処理は、例えば、特開昭52−40101号公報に記載のクロストークキャンセル処理等を用いる。図2に示すように、左スピーカ31から左耳61への伝達関数(伝達特性)をa11とし、左スピーカ31から右耳62への伝達関数をa21とし、右スピーカ32から左耳61への伝達関数をa12とし、右スピーカ32から右耳62への伝達関数をa22としている。このように、伝達関数a11、a12、a21、a22は、左右のスピーカから左右の耳への伝送特性を示すフィルタ係数となる。左スピーカ31に対する左耳61の位置に応じて、伝達関数a11が設定され、左スピーカ31に対する右耳62の位置に応じて、伝達関数a21が設定される。同様に、右スピーカ32に対する左耳61の位置に応じて、伝達関数a12が設定され、右スピーカ32に対する右耳62の位置に応じて、伝達関数a22が設定される。伝達関数a11、a12、a21、a22は、例えば、周波数の関数となっている。
【0020】
クロストークキャンセル演算部20は、左スピーカ31から右耳62への回り込みと、右スピーカ32から左耳61への回り込みをキャンセルするような、伝達関数a11、a12、a21、a22を設定する。伝達関数a11、a12、a21、a22としては、反射部40で反射された影響が考慮されている。すなわち、反射部40で反射された音の、他方の耳に回り込む影響がキャンセルされるように、伝達関数が設定されている。
【0021】
クロストークキャンセル演算部20には、フィルタ21、22と、遅延器23、24と、反転器25、26と、加算器27、28が設けられている。ここで、フィルタ21、22と遅延器23、24は以下のようなフィルタ係数を有している。
【0022】
フィルタ21:a11/(a11・a22−a12・a21)
フィルタ22:a22/(a11・a22−a12・a21)
遅延器23:a12/a11
遅延器24:a21/a22
【0023】
従って、スピーカ信号Lsp、Rspは以下の通りとなる。
Lsp=(Ls・a11−Rs・a21)/(a11・a22−a12・a21)
Rsp=(Rs・a22−Ls・a12)/(a11・a22−a12・a21)
【0024】
クロストークキャンセル演算部20は、伝達関数を用いて、ステレオ信号Ls、Rsからクロストークがキャンセルされたスピーカ信号Lsp、Rspを算出している。このように、クロストークキャンセル演算部20は、音像が定位されたスピーカ信号Ls、Rsをスピーカ部30から出力した場合に生じる音のクロストークをキャンセルする処理を行う。
【0025】
以下、上記の音場生成システム1を設置した設置例について説明する。以下の設置例では、自動車100の車内が音場生成システム1の設置環境となっている。なお、音場生成システム1における反射部40は、自動車100の車内の車体もしくは、車体に取り付ける車載機器であって、反射が可能な面を持つ物体である。車体であれば、フロントガラス、サイドガラス、ルーフガラス、ダッシュボード、ルームミラー等であってもよく、車載機器であれば、カーナビゲーション、ドライブレコーダ等であっても良い。また、以下の複数の設置例の説明において共通する内容については、適宜省略して説明を行う。
【0026】
設置例1.
上記の音場生成システム1の設置例1について、図5および図6に基づき説明する。図5は音場生成システム1を設置した状態を示す図であり、自動車100の主要部を上から見た図である。図5において、紙面の上側が自動車100の前方となっている。図6は、スピーカ部30と反射部40の配置を示す図であり、設置状態を側面から見た図である。図6において、紙面の左側が自動車100の前方となっている。自動車100には、フロントガラス101、右サイドガラス102、左サイドガラス103、運転席106が設けられている。なお、図5、6では、自動車100の一部の構成について、省略している。
【0027】
本設置例1では、左スピーカ31と右スピーカ32がダッシュボード109に埋め込まれた状態で設置され、左スピーカ31と右スピーカ32が左右に並んで設置されている。また、自動車100のフロントガラス101が反射部40となっており、左スピーカ31と右スピーカ32が反射部40としてのフロントガラス101に向けて、音響信号を放射している。そして、反射部40で反射した音響信号が、運転席106に搭乗した聴取者60に到達する。このような設置形態とすることで、スピーカ部30から出力された音響信号の直接音によるハンドル105などの遮蔽物の影響や、他の反射音による右サイドガラス102や左サイドガラス103による影響を防ぐことができる。また、スピーカの設置により運転者の視界が遮られることが無い。
【0028】
また、図6に示すように、スピーカ部30の配置方向は、スピーカ部30からの音響信号の出力方向を上方に向けて配置することが好ましい。例えば、スピーカ部30からの音響信号の出力方向を鉛直上方にするとともに、フロントガラス101が鉛直方向から45度傾斜している箇所の直下にスピーカ部30を配置する。こうすることで、反射部40で反射した音響信号は、水平方向に伝播して聴取者60に到達する。さらに、音響信号が反射部40に入射する位置をハンドル105よりも高くすることで、ハンドル105による音の遮蔽や反射を防ぐことができる。よって、聴取者60に対し適切な音像を生成することができる。スピーカ部30の形態としては、ヘッドアップディスプレイユニットの一部として設置することも可能である。なお、反射部40の反射面の傾斜角度やスピーカ部30からの音響信号の出力方向は、特に限定されるものではない。また、反射部40の反射面は平面でもよく、曲面であってもよい。なお、音像定位演算部10及びクロストークキャンセル演算部20は、反射部の反射面形状に対応した演算を行うことが好ましい。
【0029】
このように設置することで、反射部40によって反射して聴取者60に達する音響信号は、ハンドル105などの遮蔽物の影響を受けずに聴取者60に届く。さらに、スピーカ部30から反射部40で反射した音が聴取者60に届くため、他の余計な反射音が混在することにより、音場が乱れるのを防ぐことができる。よって、聴取者60の位置において適切な音場を生成することができる。なお、聴取者60は、運転手に限らず助手席等に搭乗した同乗者であってもよい。
【0030】
さらに、ダミーヘッドを用いて、反射部40の影響を考慮した伝達関数を測定することも可能である。実際に音場生成システム1を設置する環境あるいは略同一の環境において、聴取者60が着座した場合の頭部位置にダミーヘッドを配置する。そして、左スピーカ31と右スピーカ32のそれぞれに対して、インパルス応答を測定する。すなわち、左右の耳にマイクが設けられたダミーヘッドを運転席106に配置した状態で、左スピーカ31からインパルス信号を出力すると、左反射部41で反射されたインパルス信号がダミーヘッドの左右のマイクに到達する。同様に、右スピーカ32についても左右のマイクでインパルス応答を測定する。このように、マイクで取得された信号によって音場生成環境に応じた伝達関数を求めることができる。
【0031】
このようにすることで、反射部40による反射を考慮した伝達関数を求めることができ、この伝達関数を用いることで、クロストークを確実にキャンセルすることできる。このため、より適切な音場を生成することができる。自動車100の車内では、音を吸収する吸音面と音を反射する反射面が混在しているが、本設置例のように反射部40を経由して音響信号を聴取者60の耳に届けることで、音場生成空間の他の反射の影響を低減することができる。よって、様々な環境においても、適切な音場を生成することができる。
【0032】
設置例2.
次に、設置例2について図7を用いて説明する。図7は音場生成システム1を設置した状態を示す図であり、自動車100を上から見た図である。なお、設置例2において、設置例1と同様の構成については適宜説明を省略する。設置例2では、左スピーカ31と右スピーカ32が、ダッシュボード109に左右に並んで設置されている。右サイドガラス102と左サイドガラス103をそれぞれ右反射部42、左反射部41としている。たとえば、右スピーカ32は、右サイドガラス102に向けて音響信号を出力することにより、右反射部42である右サイドガラス102は、右スピーカ32からの音響信号を、運転席106に搭乗した聴取者60の右耳62に向けて反射する。左スピーカ31は、左サイドガラス103に向けて音響信号を出力することにより、左反射部41である左サイドガラス103は、左スピーカ31からの音響信号を、聴取者60の左耳61に向けて反射する。このような設置例とすることで、上記の各設置例と同様の効果を得ることができる。
【0033】
設置例3.
次に、設置例3について図8を用いて説明する。図8は音場生成システム1を設置した状態を示す図であり、自動車100を上から見た図である。なお、設置例3において、上記設置例と同様の構成については適宜説明を省略する。自動車100の天井には、サンルーフとなるルーフガラス104が設けられている。ルーフガラス104は、運転席106の直上に設けられている。設置例3では、このルーフガラス104を反射部40としている。たとえば、左スピーカ31と右スピーカ32が、ダッシュボード109に、左右に並んで設置されており、左スピーカ31、右スピーカ32は、ルーフガラス104に向けて音響信号を出力することにより、反射部40であるルーフガラス104は、左スピーカ31、右スピーカ32からの音響信号を、運転席106に搭乗した聴取者60の左耳61、右耳62に向けて反射する。このような設置例とすることで、上記の各設置例と同様の効果を得ることができる。
【0034】
設置例4.
次に、設置例4について図9を用いて説明する。図9は音場生成システム1を設置した状態を示す図であり、自動車100を上から見た図である。なお、設置例4において、上記設置例と同様の構成については適宜説明を省略する。自動車100の天井には、サンルーフとなるルーフガラス104が設けられている。設置例1〜3では、運転席106に搭乗した運転手が聴取者60となっていたが、本設置例4では、後部座席107に搭乗した同乗者が聴取者60となっている。設置例4では、ルーフガラス104を反射部40としている。たとえば、左スピーカ31と右スピーカ32が、ダッシュボード109に左右に並んで設置されており、左スピーカ31、右スピーカ32は、ルーフガラス104に向けて音響信号を出力する。反射部40であるルーフガラス104は、左スピーカ31、右スピーカ32からの音響信号を、聴取者60の左耳61、右耳62に向けて反射する。このような設置例とすることで、上記の各設置例と同様の効果を得ることができる。
【0035】
設置例5.
次に、設置例5について図10を用いて説明する。図10は音場生成システム1を設置した状態を示す図であり、自動車100を上から見た図である。なお、設置例5において、上記設置例と同様の構成については適宜説明を省略する。本設置例5では、設置例1〜3と同様に、運転席106に搭乗した運転手が聴取者60となっている。設置例5では、左スピーカ31と右スピーカ32がダッシュボード109に左右に並んで設置されており、フロントガラス101と右サイドガラス102を反射部40としている。左スピーカ31は、フロントガラス101に向けて音響信号を出力することにより、反射部40であるフロントガラス101は、左スピーカ31からの音響信号を、聴取者60の左耳61に向けて反射する。右スピーカ32は、右サイドガラス102に向けて音響信号を出力することにより、反射部40である右サイドガラス102は、右スピーカ32からの音響信号を、運転席106に搭乗した聴取者60の右耳62に向けて反射する。このような設置例とすることで、上記の各設置例と同様の効果を得ることができる。
【0036】
本設置例では、一方の耳(ここでは左耳61)に関してはフロントガラス101を反射部40とし、他方の耳(ここでは右耳62)に関してはサイドガラスを反射部40としている。特に、サイドガラスに近い方の耳(右耳62)では、サイドガラスを反射部40とし、サイドガラスに遠い方の耳(左耳61)では、フロントガラス101を反射部とするようにすることが好ましい。これにより、直接音の影響を低減することができる。もちろん、左ハンドル車の場合は左右が逆となる。すなわち、左ハンドル車の場合、左サイドガラス103を左反射部41とし、フロントガラス101を右反射部42とする。あるいは、助手席に搭乗する同乗者を聴取者60とする場合、左サイドガラス103を左反射部41とし、フロントガラス101を右反射部42とする。もちろん、一方の耳に関しては、設置例3で示したように、フロントガラス101の代わりにルーフガラスを反射部40としてもよい。
【0037】
設置例6.
次に、設置例6について図11を用いて説明する。図11は音場生成システム1を設置した状態を示す図であり、自動車100を上から見た図である。なお、設置例6において、設置例1と同様の構成については適宜説明を省略する。設置例6では、左スピーカ31と右スピーカ32が、ダッシュボード109に前後に並んで設置されている。具体例としては、左スピーカ31が前側、すなわちダッシュボード109の奥側に配置され、右スピーカ32が後側、すなわちダッシュボード109の手前側に配置されており、右サイドガラス102を反射部40としている。右スピーカ32は、右サイドガラス102に向けて音響信号を出力することにより、右反射部42である右サイドガラス102は、右スピーカ32からの音響信号を、運転席106に搭乗した聴取者60の右耳62に向けて反射する。左スピーカ31は、右サイドガラス102に向けて音響信号を出力することにより、左反射部41である右サイドガラス102は、左スピーカ31からの音響信号を、聴取者60の左耳61に向けて反射する。このような設置例とすることで、上記の各設置例と同様の効果を得ることができる。
【0038】
設置例7.
次に、設置例7について図12及び図13を用いて説明する。図12は、左スピーカ31と左反射部41とを示す斜視図である。図13は音場生成システム1を設置した状態を示す図であり、自動車100を上から見た図である。本設置例7では、自動車100の各種ガラスを反射部40として利用しておらず、ダッシュボード109に反射部40を別途設置している。反射部40は、図12に示すように左反射部41の反射面の角度が可変となっており、左反射部41の取り付け角度を調整することで、左スピーカ31から出力された音響信号の反射方向を変更することができる。また、右反射部42についても同様に反射面の角度を可変としている。
【0039】
設置例7では、スピーカ部30と反射部40が図13に示すようにダッシュボード109に設置されている。左反射部41は、左スピーカ31の前方に配置され、右反射部42は、右スピーカ32の前方に配置されているとともに、左反射部41と右反射部42の反射角度が可変となっている。図13に示す例では、聴取者60は助手席108に搭乗した同乗者としている。なお、左反射部41と右反射部42の反射角度は、一体的に可変としてもよいが、より適切な音場を生成するためには、独立して可変とすることが好ましい。また、上下方向、左右方向、前後方向の全てにおいて、反射角度を可変としてもよく、任意の方向のみにおいて可変としても良い。
【0040】
本設置例においては、反射部40の反射角度を調整することで、聴取者60を切り替えることができる。すなわち、図13では、聴取者60が助手席108に搭乗した同乗者となっているが、図13に示す状態からスピーカ部30の反射角度を変更することにより、反射音が運転席106の運転者に届くようにすることができる。反射角度の調整は、モータ等の駆動機構を用いて自動で行うことができる。この場合、それぞれの聴取者60に適した反射角度を予め設定しておき、聴取者60を切り替える際にモータ等を駆動させ、予め設定された反射角度にすればよい。もちろん、反射部40の反射角度を搭乗者が手動で変更しても良い。このようにすることで、搭乗者に応じて、反射角度を調整することができるため、個々の聴取者60に対して、より適切な音場生成が可能となる。また、反射部40の反射面は、平面であっても良く、曲面であっても良い。
【0041】
このような設置例とすることで、ハンドル105などの遮蔽物の影響を低減することができ、スピーカ部30からの直接音が聴取者60に届くのを防ぐことができるため、反射部40で反射せずに聴取者60に届く直接音と反射部40で反射して聴取者60に届く反射音が混在することにより、音場が乱れるのを防ぐことができる。よって、音場を適切に生成することができる。また、聴取者60を切り替えることができる。さらに、聴取者60に対して、適切な音場を生成することができる。
【0042】
設置例8.
次に、設置例8について図14を用いて説明する。図14は音場生成システム1を設置した左スピーカ31、右スピーカ32、左反射部41、及び右反射部42を示す図である。本設置例では、左スピーカ31、右スピーカ32、左反射部41、及び右反射部42が、ダッシュボード109に埋め込まれている。すなわち、ダッシュボード109には、2つの埋め込みが設けられ、一方の埋め込みに、左スピーカ31と左反射部41とが一体的に配置され、他方の埋め込みに右スピーカ32と右反射部42とが一体的に配置される。よって、ダッシュボード109に設けられた埋め込み部分の壁が、左反射部41、及び右反射部42として機能する。換言すると、本設置例では、反射部40として、フロントガラス101、右サイドガラス102、左サイドガラス103、及びルーフガラス104を用いていない。このようにすることで、音場生成装置2を容易に設置することができる。もちろん、1つの埋め込みに、左スピーカ31、右スピーカ32、左反射部41、及び右反射部42を全て配置しても良い。
【0043】
さらに、本設置例8では、助手席の同乗者を聴取者60とするため、左スピーカ31、右スピーカ32の向きを可変にしている。すなわち、聴取者60を運転手から同乗者に切り替える際、左スピーカ31と右スピーカ32の出力方向を変化させている。こうすることで、左スピーカ31に対する音響放射面の向きを変更することによって、反射部40の反射面に対する放射角度を調整することができ、設置例7と同様の効果を得ることができる。もちろん、左スピーカ31と右スピーカ32だけではなく、左反射部41と右反射部42の向きをさらに可変にしても良い。すなわち、スピーカ部30と反射部40の少なくとも一方の向きを可変にすれば、聴取者60を切り替えることができる。
【0044】
図14に示す構成を自動車100に配置した状態を図15に示す。図15は音場生成システム1を設置した状態を示す図であり、自動車100を上から見た図である。図15に示すように、スピーカ部30の設置角度が可変となっている。これにより、左スピーカ31と右スピーカ32の音響放射面に対する角度を変えることができる。すなわち、左スピーカ31と右スピーカ32との取り付け角度を調整することで、左スピーカ31、右スピーカ32からの音響信号の出力方向を変更することができ、音響信号が反射部40を介して到達する到達位置を変更することができる。なお、左スピーカ31と右スピーカ32の音響放射面の角度は、独立して調整できるようにしてもよい。
【0045】
設置例9.
次に、設置例9について図16を用いて説明する。図16は音場生成システム1を設置した左スピーカ31、右スピーカ32、カーナビゲーション本体110および、カーナビゲーション表示面111を示す図である。本設置例では、左スピーカ31、右スピーカ32、カーナビゲーション本体110が、ダッシュボード109に埋め込まれている。すなわち、ダッシュボード109には、3つの埋め込みが設けられ、1つはカーナビゲーション本体110を埋め込むために使用され、残り2つは、カーナビゲーション表示面111の後方に存在しており、左スピーカ31と右スピーカ32を埋め込むために使用される。そして、左スピーカ31の音響信号をカーナビゲーション表示面111を反射面として、聴取者60の左耳61に向けて反射する。同様に、右スピーカ32の音響信号をカーナビゲーション表示面111を反射面として、聴取者60の右耳62に向けて反射する。このような設置例とすることで、上記の設置例と同様の効果を得ることができる。
【0046】
また、図17に示すように、カーナビゲーション表示面111の後方に位置するスペースにスピーカ部30が埋め込まれている。スピーカ部30は、カーナビゲーション表示面111を反射面として、スピーカ部30から出力した音響信号が聴取者60に届くようなスピーカ角度を有して設置される。
【0047】
実施の形態2.
本実施の形態では、入力信号として、バイノーラル録音された音源に基づくステレオ信号Ls、Rsを用いている。実施の形態2にかかる音場生成システム1は、図18、及び図19に示すような構成となる。実施の形態1の構成に比べて、音像定位演算部10が省略されている。換言すると、クロストークキャンセル演算部20には音像が定位されたステレオ信号Ls、Rsが直接入力される。図20に示すような収録現場において、実音源P(t)からの音響信号をダミーヘッド70に設けられた左耳71と右耳72のマイク73で録音する。こうすることで、実音源P(t)からダミーヘッド70までの伝達関数が加わったステレオ信号Ls、Rsを得ることができる。このため、ダミーヘッド70に対する実音源P(t)74の位置が仮想音源p'(t)として音像が定位される。従って、実音源P(t)74がいずれの位置にあっても、その位置に対応する仮想音源p'(t)として聴取者60に対し、音像を定位させることができる。なお、その他の処理及び設置例については、実施の形態1と同様であるため説明を省略する。このような構成であっても、上記の各実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0048】
実施の形態3.
本実施の形態に係る音場生成システム1では、スピーカ部30と反射部40とが一体となっている。従って、図21に示すように、スピーカ部30と反射部40とが一体となったスピーカユニット部90が設けられる。なお、図21は、音場生成装置1の一部の構成を示すブロック部である。具体的には、左スピーカ31と左反射部41が一体となった左スピーカユニットと、右スピーカ32と右反射部42が一体となった右スピーカユニットとが設けられている。左スピーカユニットと右スピーカユニットは、同様の構成を有している。また、本実施の形態では、反射部40は、音場生成装置の一部となる。その他の構成については、実施の形態1、2と同様であるため、説明を省略する。
【0049】
このスピーカユニット部90に設けられた一方のスピーカユニットの構成について、図22〜図25を用いて説明する。図22、23は、左スピーカユニット91の構成を示す斜視図であり、図24は、左反射部41の角度を変える構成の別の一例を示す斜視図である。図25は、左スピーカ31の角度を変える様子を模式的に示す図である。なお、左スピーカユニットと右スピーカユニットは、同様の構成を有しているため、右スピーカユニットに関する説明に付いては省略する。
【0050】
図22、図23に示すように、左スピーカユニット91は、箱形のケース93の中に左スピーカ31が収納されており、ケース93の蓋94が左反射部41となっている。すなわち、左スピーカ31から上方に出力された音響信号が斜めに配置された蓋94に入射すると、蓋94が音響信号を聴取者60に向けて反射する。さらに、蓋94は開閉角度を変えることができるように設けられているため、蓋94の角度を変えることで、反射方向を変えることができる。さらには、図25に示すように、左スピーカユニット91自体の左反射部41に対する設置角度を回転させることができ、設置例7、8と同様に、聴取者60を運転手から助手席の同乗者に切り替えることができる。あるいは、聴取者60を運転手から後部座席の同乗者に切り替えても良い。
【0051】
さらに他の例としては、図24に示すように、左スピーカ31の周りに溝95を設け、この溝95の周りを左反射部41である蓋94が回転するようにしても同様の効果を得ることができる。本実施の形態に示すように、反射部40及びスピーカ部30の少なくとも一方の角度を変えることにより、例えば、左反射部41、右反射部42の反射面に対する左スピーカ31、右スピーカ32の相対角度を可変とすることで、設置例7、8と同様の効果を得ることができる。
【0052】
また、上記各実施の形態においては、実際の音場生成環境に応じて測定した伝達関数を用いても良い。この場合、実際の音場生成システム1を設置する音場生成環境、あるいは同じ音場生成環境において、伝達関数を設定する。音場生成環境が自動車100の車内の場合、自動車100の車内に音場生成システム1を設置する。そして、反射部40の反射面の角度や、スピーカ部30の音響放出面の角度に応じた伝達関数を設定する。例えば、図26に示すように、自動車100の運転席にダミーヘッド70を配置し、インパルス応答測定等を行って、図4等で示した伝達関数a11、a12、a21、a22を求める。これにより、ダミーヘッドを用いて測定した位置に聴取者60が着座するため、より適切に音場を生成することが可能となる。もちろん、スピーカ部30の音響放射面の角度や反射部40の反射面の向きに応じて、伝達関数を変更してもよい。また、聴取者60を切り替える場合、使用する伝達関数を変えることで、より適切に音場を生成することができる。
【0053】
実施の形態4.
本実施の形態にかかる音場生成システムについて、図27及び図28を用いて説明する。図27は、音場生成システム1におけるフローを示すブロック図である。図28は、音場生成システム1の全体構成を模式的に示す図である。本実施の形態では、実施の形態1の構成に加えてレンズ部50が設けられている。レンズ部50は、スピーカ部30から出力された音響信号を集束するための音響レンズであり、レンズ部50で集束された音響信号は、反射部40で反射される。なお、レンズ部50以外の構成については上記の実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0054】
レンズ部50は、図28に示すように、左レンズ51と右レンズ52とを有している。左スピーカ31から出力された音響信号は、左レンズ51に到達し、左レンズ51は、左スピーカ31からの音響信号を左反射部41の反射面に集束させる。そして、左反射部41で反射した音響信号が、聴取者60の左耳61に届く。右スピーカ32から出力された音響信号は、右レンズ52に到達し、右レンズ52は、右スピーカ32からの音響信号を右反射部42の反射面に集束させる。そして、右反射部42で反射した音響信号が、聴取者60の右耳62に届く。なお、左レンズ51と右レンズ52に用いる音響レンズとしては、例えば、特開平5−344580号公報に記載のもの等を用いることができる。このような音響レンズを反射部40とスピーカ部30の間に配置することで、反射部40以外での反射を防ぐことができ、より適切な音場生成を行うことができる。
【0055】
実施の形態5.
本実施の形態にかかる音場生成システム、及び音場生成方法について、図29、及び図30を用いて説明する。図29は、音場生成システムにおけるフローを示すブロック図である。図30は、音場生成システムの全体構成を模式的に示す図である。本実施の形態では、実施の形態2の構成に加えて、レンズ部50が設けられている。レンズ部50は、実施の形態4のレンズ部50と同様であり、スピーカ部30から出力された音響信号を集束する。そして、レンズ部50で集束された音響信号は、反射部40で反射される。なお、レンズ部50以外の構成については、上記の実施形態2、4と同様であるため、説明を省略する。このような構成であっても、実施の形態4と同様の効果を得ることができる。
【0056】
なお、実施の形態4、5において、レンズ部50をスピーカ部30、及び反射部40と一体的に形成しても良い。すなわち、図31に示すように、レンズ部50、スピーカ部30、及び反射部40を一体的に形成することで、スピーカユニット部90とすることができる。もちろん、左右のスピーカユニットを別々としても良い。この場合、例えば、図22、図23で示したような左スピーカユニット91において、左スピーカ31と左反射部41との間に音響レンズを配置して、左レンズ51とする。こうすることで、左レンズ51、左スピーカ31、及び左反射部41が一体となった左スピーカユニット91を形成することができる。そして、この左スピーカユニット91をダッシュボード109等に配置する。もちろん、右スピーカユニットも同様の構成とすることができる。
【0057】
なお、反射部40に応じて、スピーカの設置位置を非対称としても良い。すなわち、聴取者60から見て、各チャンネルのスピーカが、正面でかつ左右対称である必要はなく、一方のチャンネルのスピーカに対して前後左右にずれた位置に他方のチャンネルのスピーカを置いても良い。例えば、図32に示すように、左右非対称な位置に左スピーカ31と右スピーカ32とを配置することができる。ここで、聴取者60の中心を通る左右方向の中心線を中心線Sとすると、中心線Sから右スピーカ32までの見開き角θ1が、中心線Sから左スピーカ31までの見開き角θ2よりも小さくなっている。換言すると中心線Sまでの距離が左右のスピーカで異なっている。さらに、前後方向においても、聴取者60から左スピーカ31までの距離が、聴取者60から右スピーカ32までの距離よりも大きくなっている。
【0058】
あるいは、図33に示すように、上下方向の位置が異なっていても良い。上下方向、左右方向、及び前後方向の少なくとも一つにおいて、聴取者60の左耳61から左スピーカ31までの距離と、聴取者60の右耳62から右スピーカ32までの距離が異なっていればよい。
【0059】
なお、上記の説明では、音場生成システム1を車載装置とし、音場生成システム1が設置された音場生成環境を、自動車100の車内とする例に付いて説明したが、設置場所はこれに限られるものではない。また、音場生成システム1における反射部40は、自動車100の車内の車体もしくは、車載機器以外であってもよい。
また、オートバイや自転車等のフードを反射部とした音場生成環境とすることも可能である。さらには、閉鎖空間である音場生成環境に、音場生成システム1を搭載することが好ましい。例えば、ショベルカーなどの重機における運転室や操作室、パチンコ店などの遊技場における遊技機など、騒音が大きい音場生成環境に設置することで、例えば、騒音の大きい環境であっても危険な方向から警告音を聴取者の耳元に到達させることができる。さらには、アミューズメントパークのアトラクション用の乗物に搭載しても良い。こうすることで、より臨場感のある音場の生成が可能となる。
【0060】
また、上記の説明では、2チャンネルのスピーカにより音場を生成したが、3チャンネル以上のスピーカで、音場を生成してもよい。また、全てのチャンネルのスピーカからの音響信号を反射部で反射させる必要はなく、一部のチャンネルのスピーカからの音響信号は、反射部40を経由せずに、聴取者60に直接届けてもよい。さらには、各スピーカに指向性スピーカを用いることで、反射部40以外への反射をさらに防ぐことができる。
【0061】
また、上記の説明に含まれないが必要な構成要素は、適宜含まれてもよい。例えば、クロストークキャンセル部20とスピーカ部30との間には、音声信号を増幅する増幅部やスピーカ部30から出力される音響信号の音量を調整する音量調整部、同様に音響信号の音質を調整する音質調整部が含まれていてもよい。
また、反射部40またはスピーカ部30の動作による聴取者の切り替えは、聴取者による操作に基づき切り替え動作が行われる形態に限らず、着座センサ等による聴取者の検出に基づき切り替えられてもよい。
さらには、聴取者の位置に応じて、反射部40として用いるガラス面を適宜変更可能としてもよい。
【0062】
実施の形態6.
本実施の形態6に係る音場生成システム3について、図34、図35を用いて説明する。図34は、本実施の形態6に係る音場生成システム3の構成を示すブロック図である。図35は、音場生成システム3の全体構成を模式的に示す図である。実施の形態1の構成に比べて、ささやき声変換部70が追加されている。ささやき声変換部70は、通常の音声をささやき声に変換する。具体的には、有声音である通常音声を、無声音化するが、この方法として、特開昭58−168098号の雑音波形と周期的な音源波形の振幅を制御する方法や、特開2008−139573号の線形予測法を用いて声道の伝達関数を求め、原音波形から減算した残差信号との振幅比を用いて白色雑音に乗算する方法、特開2006−234969号のフォルマント成分を除去する方法、他にも混合正規分布モデル(GMM:Gaussian Mixture Model)に基づいて、スペクトル系列等の特徴量を変換する特徴量変換法(例えば、A. Kain and M.W.Macon," Spectral voice conversion for text-to-speechsynthesis" Proc.ICASSP,pp.285-288, Seattle, U.S.A. May,1998.参照)で実現でき、あらゆる公知の手法を用いることが可能である。
【0063】
ささやき声に変換された音声信号は音像定位演算部10に入力され、畳み込み演算が行われる。本実施例では聴取者の右耳元に提供するため、たたみ込み演算部11の伝達関数bl(t)及び、たたみ込み演算部12の伝達関数br(t)は、実頭やダミーヘッドの右耳元に音源を置いた場合の伝達関数を用いるが、より簡単な演算処理にするため、たたみ込み演算部11の伝達関数bl(t)を、以下の式(1)の通り設定してもよい。
bl(t)=0 ・・・ 式(1)
たたみ込み演算部12の伝達関数br(t)を、以下の式(2)の通り設定してもよい。
br(t)=A(t=t) Aは定数(振幅)、tはt≧0の所定値
br(t)=0(t≠t) ・・・ 式(2)
なお、左耳元に提供する場合、上記の伝達関数の値が左右で逆となる。
クロストークキャンセル演算以降の手順は実施の形態1と同様である。
【0064】
本実施例では、音声をささやき声にし、耳元に定位するようにしたので音声が聴取者の耳元に聞こえ、ロードノイズやカーステレオのような周囲から聞こえる音が存在していても、明瞭度良く音声を聞くことができる。また、ささやき声は無声音のため高域の周波数が多く含まれている。聴取者以外の者(例えば、聴取者が運転手の場合、助手席に座っている者)にとっては、再生しているスピーカ部との距離が遠いため、ロードノイズやカーステレオの音にマスキングされ、聞こえにくい。したがって聴取者に必要な音声を聴取者のみに提供できる、という効果がある。
【0065】
なお、本実施例では、ささやき声変換した後に音像定位演算を行っているが、音像定位演算後の音声信号Ls,Rsをささやき声変換部に入力しても同じ効果が得られることは言うまでもない。例えば通常音声であらかじめ仮想音源として耳元に定位されている音声信号(バイノーラル信号)をささやき声変換部でささやき声に変換すれば、耳元にささやき声が提供され、より聞きやすくなる。
【符号の説明】
【0066】
1 音場生成システム
2 音場生成装置
3 音場生成システム
10 音像定位演算部
11 たたみ込み演算部
12 たたみ込み演算部
20 クロストークキャンセル演算部
30 スピーカ部
31 左スピーカ
32 右スピーカ
40 反射部
41 左反射部
42 右反射部
50 レンズ部
51 左レンズ
52 右レンズ
60 聴取者
61 左耳
62 右耳
70 ささやき声変換部
80 仮想聴取者
90 スピーカユニット部
91 左スピーカユニット
92 右スピーカユニット
93 ケース
94 蓋
95 溝
100 自動車
101 フロントガラス
102 右サイドガラス
103 左サイドガラス
104 ルーフガラス
105 ハンドル
106 運転席
107 後部座席
108 助手席
109 ダッシュボード
110 カーナビゲーション本体
111 カーナビゲーション表示面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2チャンネル以上の音声を出力するスピーカを有し、前記スピーカから出力された音を反射させて聴取者に音を伝達させる反射部に向けて音響信号を出力するスピーカ部と、
前記スピーカ部より出力され前記反射部により反射されて前記聴取者に到達した音響信号の音像が前記聴取者の位置において仮想音源として定位されている音声信号が入力され、前記入力された音声信号に対して前記反射部により反射されて前記聴取者に到達した音響信号の各チャンネル間におけるクロストークが前記聴取者の位置においてキャンセルされるように演算処理を行うクロストークキャンセル部と、
を備えることを特徴とする音場生成装置。
【請求項2】
前記クロストークキャンセル部に入力される音声信号に対して、前記聴取者に到達した音響信号の音像が前記聴取者の位置において仮想音源となるように音像の定位を加えるための音像定位演算部を、さらに備える請求項1に記載の音場生成装置。
【請求項3】
前記聴取者に聴取させる音声信号をささやき声に変換するささやき声変換部をさらに備え、
前記音像定位演算部は、前記スピーカ部より出力され前記反射部により反射されて前記聴取者に到達した前記ささやき声に変換された音響信号の音像が、前記聴取者の少なくとも一方の耳元に仮想音源として定位するように演算を行うことを特徴とする、請求項2に記載の音場生成装置。
【請求項4】
前記クロストークキャンセル演算部が、前記反射部による反射を考慮した伝達関数を用いて、クロストークをキャンセルする演算を行っている請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の音場生成装置。
【請求項5】
前記スピーカ部と前記反射部の間に、前記スピーカから出力された音響信号を集束するレンズ部を、さらに備える請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の音場生成装置。
【請求項6】
前記クロストークキャンセル演算部は、前記反射部の反射面形状に対応した演算を行うことを特徴とする、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の音場生成装置。
【請求項7】
前記スピーカと、前記反射部が一体となって形成されている請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の音場生成装置。
【請求項8】
前記反射部の反射面の角度、又は前記スピーカの角度の少なくとも一方が可変であることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の音場生成装置。
【請求項9】
前記反射部の反射面の角度、又は前記スピーカの角度の少なくとも一方を変えることで、前記聴取者を切り替える請求項8に記載の音場生成装置。
【請求項10】
前記入力された音声信号が、バイノーラル記録されたバイノーラル信号であることを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の音場生成装置。
【請求項11】
請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載の音場生成装置と、
前記スピーカ部からの音を前記聴取者に向けて反射する反射部と、を備えた音場生成システム。
【請求項12】
前記反射部が、自動車の車体もしくは、車載機器であることを特徴とする請求項11に記載の音場生成システム。
【請求項13】
前記反射部が、自動車のフロントガラス、サイドガラス、及びルーフガラスの少なくとも一つである請求項11に記載の音場生成システム。
【請求項14】
前記2チャンネル以上のスピーカの内、1つのスピーカが、前記フロントガラスに向けて、音響信号を出力し、他のスピーカが前記サイドガラスに向けて音響信号を出力する請求項13に記載の音場生成システム。
【請求項15】
2チャンネル以上の音声を出力するスピーカを有するスピーカ部より出力され反射部により反射されて聴取者に到達した音響信号の音像が前記聴取者の位置において仮想音源として定位されている音声信号を入力するステップと、
前記入力された音声信号に対して前記反射部により反射されて前記聴取者に到達した音響信号の各チャンネル間におけるクロストークが前記聴取者の位置においてキャンセルされるように演算処理を行うステップと、
前記スピーカ部から出力された音を反射させて聴取者に音を伝達させる反射部に向けて音響信号を出力するステップと、
を備えることを特徴とする音場生成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【公開番号】特開2012−231448(P2012−231448A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−14952(P2012−14952)
【出願日】平成24年1月27日(2012.1.27)
【出願人】(308036402)株式会社JVCケンウッド (1,152)
【Fターム(参考)】