説明

風力発電装置及びその運転制御方法

【課題】騒音やバードストライクや軸受の摩擦熱への対策を施した風力発電装置及びその運転制御方法を提供する。
【解決手段】風力発電装置1は、メインシャフト8に従動して駆動する容量可変型の油圧ポンプ12と、発電機20に接続された容量可変型の油圧モータ14と、油圧ポンプ12と油圧モータ14との間に設けられた高圧油流路16及び低圧油流路18を有する。運転モード選択手段38は、通常運転モードと、該通常運転モードよりも、メインシャフト8の定格回転数の設定値が低く、油圧ポンプ12の定格押しのけ容積の設定値及び前記高圧油流路の定格圧力の設定値の少なくとも一方が大きく、かつ、発電機20の定格出力が通常運転モードと同等である低回転速度運転モードとを環境条件に応じて切り替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ポンプ及び油圧モータを組み合わせた油圧トランスミッションを介して、ロータの回転を発電機に伝達する風力発電装置及びその運転制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境の保全の観点から、再生可能エネルギーの一つである風力を利用した風力発電装置やの普及が進んでいる。
【0003】
風力発電装置は、風の運動エネルギーをロータの回転エネルギーに変換し、さらにロータの回転エネルギーを発電機によって電力に変換する。一般的な風力発電装置では、ロータの回転数は数rpm〜数十rpm程度であるのに対し、発電機の定格回転数は通常1500rpm又は1800rpmであるから、ロータと発電機との間に機械式(ギヤ式)の増速機が設けられている。すなわち、ロータの回転数は、増速機で発電機の定格回転数まで増速された後、発電機に入力される。
なお、「定格」とは、意図した最大効率が得られる運転条件を意味し、速度、圧力、流量、押しのけ容積や出力等の接頭辞として用いられる。運転中の短期間において定格条件を超えてもよいが、定格条件を超えるのは数分以下であり且つ間欠的であることが一般的である。
【0004】
ここで、近年、発電効率の向上を目的とした風力発電装置の大型化が進むにつれ、増速機の重量及びコストが増加する傾向にある。このため、機械式の増速機に替えて、可変容量型の油圧ポンプ及び油圧モータを組み合わせた油圧トランスミッションを採用した風力発電装置が注目を浴びている。
【0005】
例えば、特許文献1には、ロータの回転により駆動される油圧ポンプと、発電機に接続された油圧モータとを組み合わせた油圧トランスミッションを用いた風力発電装置が記載されている。この風力発電装置の油圧トランスミッションでは、油圧ポンプ及び油圧モータは、高圧リザーバ及び低圧リザーバを介して互いに接続されている。これにより、ロータの回転エネルギーが、油圧トランスミッションを介して発電機に伝わるようになっている。なお、油圧ポンプは、複数組のピストン及びシリンダと、シリンダ内でピストンを周期的に摺動させるカムとで構成されている。
【0006】
また特許文献2には、ロータの回転により駆動される油圧ポンプと、発電機に接続された油圧モータと、油圧ポンプ及び油圧モータの間に設けられた作動油流路とからなる油圧トランスミッションを用いた風力発電装置が記載されている。この風力発電装置の油圧トランスミッションでは、複数組のピストン及びシリンダと、シリンダ内でピストンを周期的に摺動させるカムと、ピストンの往復運動のタイミングに合わせて開閉される高圧弁及び低圧弁とで油圧ポンプが構成されている。そして、上死点近傍でピストンをラッチすることで、シリンダとピストンで囲まれる作動室(ワーキングチャンバ)を非作動状態として、油圧ポンプの押しのけ容積を変化させるようになっている。
【0007】
また可変容量型の油圧ポンプ及び油圧モータを用いたものではないが、特許文献3には、油圧ポンプから油圧モータに供給される作動油の圧力を調節して、発電機の回転数を一定に維持するようにした風力発電装置が記載されている。この風力発電装置では、油圧ポンプの吐出側が、高圧タンクとしてのタワー内部空間を介して油圧モータの吸込側と接続されており、油圧ポンプの吸込側が、タワー下部に設けた低圧タンクを介して油圧モータの吐出側と接続されている。そして、高圧タンクと油圧モータとの間には比例弁が設けられており、この比例弁によって油圧モータに供給する作動油の圧力を調節できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許出願公開第2010/0032959号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2010/0040470号明細書
【特許文献3】米国特許第7436086号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、風力発電装置は、発電効率向上のため大型化が進む傾向にあり、ブレードの先端周速度は今後ますます大きくなる。そして、ブレードの先端周速度が大きくなると、騒音(ブレードの風切り音)や、野鳥がブレードにぶつかるバードストライクが問題になりうる。また、ロータの回転数が高いと、軸受の摩擦熱による温度上昇の問題も無視できなくなる。ところが、特許文献1〜3には、騒音やバードストライクや軸受の摩擦熱への対策が何ら開示されていない。
【0010】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、騒音やバードストライクや軸受の摩擦熱への対策を施した風力発電装置及びその運転制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る風力発電装置は、ハブと、前記ハブに連結されたメインシャフトと、前記メインシャフトから伝わる回転エネルギーを電力に変換する発電機と、前記メインシャフトに従動して駆動する可変容量型の油圧ポンプと、前記発電機に接続された可変容量型の油圧モータと、前記油圧ポンプの吐出側および前記油圧モータの吸込側の間に介在された高圧油流路と、前記油圧ポンプの吸込側および前記油圧モータの吐出側の間に介在された低圧油流路と、前記油圧ポンプの押しのけ容積を調節するポンプ制御部および前記油圧モータの押しのけ容積を調節するモータ制御部とを有する制御ユニットと、通常運転モードと、該通常運転モードよりも、前記メインシャフトの定格回転数の設定値が低い低回転速度運転モードとを切り替える運転モード選択手段とを備えることを特徴とする。
【0012】
この風力発電装置によれば、運転モード選択手段によって、通常運転モード又はメインシャフトの定格回転数の低い低回転速度運転モードを選択するようにしたので、騒音やバードストライクや軸受の摩擦熱への対策が必要である場合には低回転速度運転モードを選択して、騒音やバードストライクや軸受の摩擦熱の問題に対応できる。
【0013】
上記風力発電装置において、前記低回転速度運転モードは、前記通常運転モードよりも、前記油圧ポンプの定格押しのけ容積の設定値及び前記高圧油流路の定格圧力の設定値の少なくとも一方が大きくてもよい。また、前記低回転速度運転モードは、前記発電機の定格出力が前記通常運転モードと同等であってもよい。また、前記運転モード選択手段は、環境条件に応じて前記通常運転モード又は前記低回転速度運転モードを選択してもよい。
このように、通常運転モードよりも油圧ポンプの定格押しのけ容積の設定値及び高圧油流路の定格圧力の設定値の少なくとも一方が大きく、発電機の定格出力が通常運転モードと同等である低回転速度運転モードを用いれば、低回転速度運転モードは、通常運転モードに比べてメインシャフトの定格回転数の設定値が低いものの、通常運転モードと同等の発電機の定格出力を得ることができる。よって、このような低回転速度運転モードの採用により、発電機の定格出力を減ずることなく、メインシャフトの定格回転数を低くすることができる。
【0014】
なお、本明細書において、「環境条件」とは、騒音やバードストライクや軸受の摩擦熱への対策の必要性に影響を与える、風力発電装置を取りまく時間的・地理的な条件をいう。例えば、騒音が規制される夜間等の所定の時間帯にあるか、風力発電装置の設置場所が渡り鳥の飛来ルート上であるか、メインシャフトを支持する軸受の温度が許容範囲に収まっているか等が環境条件に含まれる。
【0015】
上記風力発電装置において、前記ポンプ制御部は、前記運転モード選択手段によって前記通常運転モード及び前記低回転速度運転モードのいずれが選択される場合であっても、前記メインシャフトの回転数が定格回転数以下のときに、パワー係数が最大となる前記油圧ポンプの目標トルクを求め、該目標トルク及び前記高圧油流路における作動油の圧力から前記油圧ポンプの押しのけ容積Dを決定することが好ましい。
【0016】
このように、いずれの運転モードが選択される場合であっても、メインシャフトの回転数が定格回転数以下のとき、ポンプ制御部によって、パワー係数が最大となる油圧ポンプの目標トルクを求め、該目標トルク及び高圧油流路における作動油の圧力から油圧ポンプの押しのけ容積Dを決定し、油圧ポンプの制御を行うことで、発電効率を向上させることができる。
【0017】
この場合、上記風力発電装置は、前記メインシャフトの回転数を計測する回転数計をさらに備え、前記ポンプ制御部は、前記回転数計により計測された前記メインシャフトの回転数に基づいて、パワー係数が最大となる前記目標トルクを求めてもよい。
【0018】
あるいは、上記風力発電装置は、風速を計測する風速計をさらに備え、前記ポンプ制御部は、前記風速計により計測された風速から、パワー係数が最大となる前記目標トルクを求めてもよい。
【0019】
また、上記風力発電装置において、前記モータ制御部は、前記押しのけ容積Dから求めた前記油圧ポンプの吐出量Qに基づいて前記発電機の回転数が一定になるように前記油圧モータの押しのけ容積Dを決定することが好ましい。
【0020】
これにより、油圧ポンプの目標トルクが変わっても、発電機の回転数を一定に維持できる。よって、発電機において周波数が一定の電力を発生させることができる。
【0021】
この場合、前記油圧ポンプ及び前記油圧モータは、それぞれ、シリンダおよび該シリンダ内を摺動するピストンにより囲まれる複数の油圧室と、前記ピストンに係合するカム曲面を有するカムと、各油圧室及び前記高圧油流路の間の連通路を開閉する高圧弁と、各油圧室及び前記低圧油流路の間の連通路を開閉する低圧弁とを含み、前記ポンプ制御部は、前記油圧ポンプのピストンがカムによって下死点から上死点を経て再び下死点に戻るサイクルの間、前記油圧ポンプの高圧弁を閉じて低圧弁を開いたままの状態を維持する非作動油圧室の前記油圧ポンプの全油圧室に対する割合を変化させて、前記油圧ポンプの押しのけ容積Dを調節し、前記モータ制御部は、前記油圧モータのピストンがカムによって下死点から上死点を経て再び下死点に戻るサイクルの間、前記油圧モータの高圧弁を閉じて低圧弁を開いたままの状態を維持する非作動油圧室の前記油圧モータの全油圧室に対する割合を変化させて、前記油圧モータの押しのけ容積Dを調節することが好ましい。
【0022】
油圧ポンプ及び油圧モータの油圧室の状態(非作動状態又は作動状態)は、ピストンの上下動のサイクルごとに選択できるから、全油圧室に対する非作動油圧室の割合を変更することで、油圧ポンプ及び油圧モータの押しのけ容積を迅速に変化させることができる。
【0023】
また、前記油圧ポンプのカムは、前記メインシャフトの外周に環状に設けられ、複数の凹部及び凸部が交互に並んだ波状のカム曲面を有するリングカムであり、前記油圧モータのカムは偏心カムであることが好ましい。
【0024】
典型的な風力発電装置では、ロータの回転数が数rpm〜数十rpm程度であるのに対し、発電機の定格回転数が1500rpm又は1800rpmである。この場合、油圧ポンプ及び油圧モータを組み合わせた油圧トランスミッションにおいて、ロータの回転数を100倍程度増速して発電機に伝達する必要がある。ここで、油圧トランスミッションの増速比は、油圧ポンプの押しのけ容積Dの油圧モータの押しのけ容積Dに対する比で定まるから、油圧ポンプの押しのけ容積Dを油圧モータの押しのけ容積Dの100倍程度に設定しなければならない。しかし、油圧ポンプの押しのけ容積Dは、シリンダ一個当たりの容積を大きくしたり、シリンダの個数を増やすことで、増大させることができるが、油圧ポンプの大型化を招く。
そこで、油圧ポンプのカムを、複数の凹部及び凸部が交互に並んだ波状のカム曲面を有するリングカムとすることで、メインシャフトが一回転する間に油圧ポンプの各ピストンを何度も上下動させて、油圧ポンプを大型化することなく、油圧ポンプの押しのけ容積Dを増大させることができる。一方、油圧モータのカムを、油圧モータの出力軸の軸中心から偏心して設けられた偏心カムとすることで、油圧ポンプに比べて油圧モータの押しのけ容積Dが小さくなり、高い増速比の油圧トランスミッションを実現できる。
【0025】
上記風力発電装置は、前記ハブに取り付けられたブレードのピッチ角を調節するピッチ駆動機構をさらに備え、前記制御ユニットは、前記発電機の出力が定格出力に達したとき、前記発電機の定格出力が維持されるように前記ピッチ駆動機構を制御することが好ましい。
【0026】
これにより、定格風速以上かつカットアウト風速未満の風を受けて発電を行う定格運転時において、一定の出力(定格出力)の電力を発電機から得ることができる。
なお、定格風速とは、発電機から定格出力を得るために必要な風速であり、カットアウト風速とは、風力発電装置の安全を確保するために発電を停止する風速である。例えば、定格風速を約10m/sとし、カットアウト風速を25m/s程度に設定してもよい。
【0027】
本発明に係る風力発電装置の運転制御方法は、ハブと、前記ハブに連結されたメインシャフトと、前記メインシャフトから伝わる回転エネルギーを電力に変換する発電機と、前記メインシャフトに従動して駆動する可変容量型の油圧ポンプと、前記発電機に接続された可変容量型の油圧モータと、前記油圧ポンプの吐出側および前記油圧モータの吸込側の間に介在された高圧油流路と、前記油圧ポンプの吸込側および前記油圧モータの吐出側の間に介在された低圧油流路とを備える風力発電装置の運転制御方法であって、通常運転モードと、該通常運転モードよりも、前記メインシャフトの定格回転数の設定値が低い低回転速度運転モードとを選択するモード選択ステップと、
前記モード選択ステップにおいて選択された運転モードに基づいて、前記油圧ポンプおよび前記油圧モータの押しのけ容積を調節する押しのけ容積調節ステップとを備えることを特徴とする。
【0028】
この風力発電装置の運転制御方法によれば、通常運転モード又はメインシャフトの定格回転数の低い低回転速度運転モードを選択するようにしたので、騒音やバードストライクや軸受の摩擦熱への対策が必要である場合には低回転速度運転モードを選択して、騒音やバードストライクや軸受の摩擦熱の問題に対応できる。
【0029】
上記風力発電装置の運転制御方法において、前記低回転速度運転モードは、前記通常運転モードよりも、前記油圧ポンプの定格押しのけ容積の設定値及び前記高圧油流路の定格圧力の設定値の少なくとも一方が大きくてもよい。また、前記低回転速度運転モードは、前記発電機の定格出力が前記通常運転モードと同等であってもよい。また、前記モード選択ステップでは、環境条件に応じて前記通常運転モード又は前記低回転速度運転モードを選択してもよい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、通常運転モード又はメインシャフトの定格回転数の低い低回転速度運転モードを選択するようにしたので、騒音やバードストライクや軸受の摩擦熱への対策が必要である場合には低回転速度運転モードを選択して、騒音やバードストライクや軸受の摩擦熱の問題に対応できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】風力発電装置の構成例を示す図である。
【図2】ピッチ駆動機構の構成を示す図である。
【図3】油圧ポンプの具体的な構成を示す図である。
【図4】油圧モータの具体的な構成を示す図である。
【図5】風力発電装置の運転制御方法を示すフローチャートである。
【図6】発電機出力とメインシャフトの回転数とに関する通常運転モードと低回転速度運転モードとの比較結果を示すグラフである。
【図7】発電機出力とパワー係数Cpとに関する通常運転モードと低回転速度運転モードとの比較結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、添付図面に従って本発明の実施形態について説明する。ただし、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特定的な記載がない限り本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0033】
まず、本実施形態に係る風力発電装置の全体構成について説明する。なお、ここでは、風力発電装置の一例としていわゆる3枚プロペラ型のものを説明するが、本実施形態は、この例に限定されず、種々の形式の風力発電装置に適用できる。
【0034】
図1は、風力発電装置の構成例を示す図である。図2は、風力発電装置のピッチ駆動機構の構成を示す図である。
【0035】
図1に示すように、風力発電装置1は、主として、風を受けて回転するロータ2と、ロータ2の回転を増速する油圧トランスミッション10と、電力を発生させる発電機20と、ナセル22と、ナセル22を支持するタワー24と、風力発電装置1の各部を制御する制御ユニット30とを備える。
【0036】
ロータ2は、ブレード4が取り付けられたハブ6にメインシャフト8が連結された構成を有する。すなわち、3枚のブレード4がハブ6を中心として放射状に延びており、それぞれのブレード4が、メインシャフト8と連結されたハブ6に取り付けられている。これにより、ブレード4が受けた風の力によってロータ2全体が回転し、メインシャフト8を介して油圧トランスミッション10に回転が入力される。なお、メインシャフト8の回転数は、回転数計26によって計測されて、制御ユニット30による制御に用いられる。
【0037】
ハブ6内には、図2に示すピッチ駆動機構40が収納されている。ピッチ駆動機構40は、油圧シリンダ42、サーボバルブ44、油圧源46及びアキュムレータ48とにより構成される。サーボバルブ44は、ピッチ制御部36による制御下で、ブレード4のピッチ角が所望の値となるように、油圧源46により生成された高圧油およびアキュムレータ48に蓄えられた高圧油の油圧シリンダ42への供給量を調節する。
【0038】
図1に示す油圧トランスミッション10は、メインシャフト8に従動して駆動する容量可変型の油圧ポンプ12と、発電機20に接続された容量可変型の油圧モータ14と、油圧ポンプ12と油圧モータ14との間に設けられた高圧油流路16及び低圧油流路18を有する。
【0039】
油圧ポンプ12の吐出側は、高圧油流路16によって油圧モータ14の吸込側に接続されており、油圧ポンプ12の吸込側は、低圧油流路18によって油圧モータ14の吐出側に接続されている。油圧ポンプ12から吐出された作動油(高圧油)は、高圧油流路16を介して油圧モータ14に流入し、油圧モータ14を駆動する。油圧モータ14で仕事を行った作動油(低圧油)は、低圧油流路18を介して油圧ポンプ12に流入して、油圧ポンプ12で昇圧された後、再び高圧油流路16を介して油圧モータ14に流入する。油圧ポンプ12及び油圧モータ14の具体的な構成については、後述する。
なお、高圧油流路16の圧力は、圧力センサー28によって計測されて、制御ユニット30による制御に用いられる。
【0040】
発電機20は、油圧モータ14の出力軸15に連結されており、油圧モータ14から入力されるトルクによって発電を行う。発電機20は、公知の同期発電機又は誘導発電機を用いることができる。なかでも、発電機20を電力系統に連系する場合、発電機20として同期発電機を用いることが好ましい。風力発電装置1では油圧トランスミッション10の制御によって発電機20の回転数を一定に維持できるため、発電機20として同期発電機を用いて、トランスを介して同期発電機20から電力系統に電力を直接供給することができ(ACリンク方式)、可変速運転を実現するための高価なインバータが不要になるからである。
【0041】
ナセル22は、ロータ2のハブ6を回転自在に支持するとともに、その内部に油圧トランスミッション10や発電機20等の各種機器を収納している。なお、ナセル22をタワー24に回転自在に支持し、ヨーモータ(不図示)を用いて、風向きに応じてナセル22を旋回させるようにしてもよい。
【0042】
制御ユニット30は、油圧ポンプ12を制御するポンプ制御部32と、油圧モータ14を制御するモータ制御部34と、風力発電装置1の運転モードを選択する運転モード選択手段38とを有する。
制御ユニット30の一つ以上のコンポーネント32〜38は、ナセル22の内部又は外部の異なる場所に存在し、制御ユニット30が分散型の制御システムを構築していてもよい。
【0043】
ポンプ制御部32は、メインシャフト8の回転数が定格回転数以下であるとき、パワー係数が最大となる油圧ポンプ12の目標トルクを求め、該目標トルク及び高圧油流路16内の圧力から油圧ポンプ12の押しのけ容積Dを決定する。一方、モータ制御部34は、油圧ポンプ12の押しのけ容積Dから求めた油圧ポンプ12の吐出量Qに基づいて発電機20の回転数が一定になるように油圧モータ14の押しのけ容積Dを決定する。
【0044】
ピッチ制御部36は、発電機20の出力が定格出力に達したとき、発電機20の定格出力が維持されるようにピッチ駆動機構40のサーボバルブ44を制御して、ブレード4のピッチ角をフェザー側に変化させる。これにより、定格風速以上かつカットアウト風速未満の風を受けて発電を行う定格運転時において、一定の出力(定格出力)の電力を発電機20から得ることができる。なお、定格風速とは、発電機20から定格出力を得るために必要な風速であり、カットアウト風速とは、風力発電装置1の安全を確保するために発電を停止する風速である。例えば、定格風速を約10m/sとし、カットアウト風速を25m/s程度に設定してもよい。
【0045】
運転モード選択手段38は、環境条件に応じて、通常運転モード及び低回転速度運転モードのいずれか一方を選択する。低回転速度運転モードは、通常運転モードに比べて、メインシャフト8の定格回転数の設定値が低く、油圧ポンプ12の定格押しのけ容積の設定値が大きい。一方、低回転速度運転モードにおける発電機20の定格出力は、同運転モードにおけるメインシャフト8の回転数が低い分だけ油圧ポンプ12の定格押しのけ容積が大きいため、通常運転モードと同等である。よって、いずれの運転モードを選択しても、定格運転時に発電機20から得られる電力の大きさは同等である。
【0046】
環境条件としては、騒音が規制される夜間等の所定の時間帯にあるか、風力発電装置1の設置場所が渡り鳥の飛来ルート上であるか、メインシャフト8を支持する軸受の温度が許容範囲に収まっているか等が挙げられる。
すなわち、運転モード選択手段38は、騒音が規制される夜間等の所定の時間帯である場合や、風力発電装置の設置場所が渡り鳥の飛来ルート上にあり且つ渡り鳥が飛来する季節である場合や、メインシャフト8を支持する軸受の温度が許容範囲を超えた場合に、低回転速度運転モードを選択する。
【0047】
次に、風力発電装置1の油圧ポンプ12及び油圧モータ14の具体的な構成について説明する。図3は、油圧ポンプ12の構成例を示す図である。図4は、油圧モータ14の構成例を示す図である。
【0048】
油圧ポンプ12は、図3に示すように、シリンダ50及びピストン52により形成される複数の油圧室53と、ピストン52に係合するカム曲面を有するカム54と、各油圧室53に対して設けられる高圧弁56および低圧弁58とにより構成される。
【0049】
ピストン52は、カム54のカム曲線に合わせてピストン52をスムーズに作動させる観点から、シリンダ50内を摺動するピストン本体部52Aと、該ピストン本体部52Aに取り付けられ、カム54のカム曲面に係合するピストンローラー又はピストンシューとで構成することが好ましい。なお図3には、ピストン52がピストン本体部52Aとピストンローラー52Bとからなる例を示した。
【0050】
カム54は、カム取付台55を介して、メインシャフト8の外周面に取り付けられている。カム54は、メインシャフト8が一回転する間に、油圧ポンプ12の各ピストン52を何度も上下動させて大きなトルクを得る観点から、複数の凹部54A及び凸部54Bがメインシャフト8の周りに交互に並んだ波状のカム曲面を有するリングカムであることが好ましい。
【0051】
高圧弁56は、各油圧室53と高圧油流路16との間の高圧連通路57に設けられる。一方、低圧弁58は、各油圧室53と低圧油流路18との間の低圧連通路59に設けられる。高圧弁56及び低圧弁58は、ポンプ制御部32によって開閉タイミングが制御される。
【0052】
ポンプ制御部32は、油圧室53のうち、高圧油流路16に高圧油を吐出しない非作動室については、ピストン52が下死点から上死点を経て再び下死点に戻るサイクルの間、高圧弁56を閉じて低圧弁58を開いたままの状態を維持する。一方、油圧室53のうち、高圧油流路16に高圧油を吐出する作動室については、ピストン52が下死点から上死点に向かうポンプ工程に高圧弁56が開かれて低圧弁58が閉じられ、ピストン52が上死点から下死点に向かう吸入工程に高圧弁56が閉じられて低圧弁58が開かれる。
ポンプ制御部32は、全油圧室53に対する非作動室の割合を変化させて、油圧ポンプ12の押しのけ容積Dを調節する。
【0053】
なお、ここでは、高圧弁56及び低圧弁58の両方がポンプ制御部32によって開閉制御される例を説明したが、高圧油流路16に向かう作動油の流れのみを許容する逆止弁で高圧弁56を構成してもよい。この場合、油圧ポンプ12のピストン52が下死点から上死点に向かう間に、油圧室53内の作動油が圧縮されて、油圧室53内の圧力が高圧油流路16内の圧力よりも高くなると自動的に高圧弁56が開くので、高圧弁56の制御を積極的に行う必要がない。
【0054】
油圧モータ14は、図4に示すように、シリンダ60及びピストン62により形成される複数の油圧室63と、ピストン62に係合するカム曲面を有するカム64と、各油圧室63に対して設けられた高圧弁66および低圧弁68とにより構成される。
【0055】
ピストン62は、ピストン62の上下動をカム64の回転運動にスムーズに変換する観点から、シリンダ60内を摺動するピストン本体部62Aと、該ピストン本体部62Aに取り付けられ、カム64のカム曲面に係合するピストンローラー又はピストンシューとで構成することが好ましい。なお図4には、ピストン62がピストン本体部62Aとピストンローラー62Bとからなる例を示した。
【0056】
カム64は、発電機20に接続される油圧モータ14の出力軸(クランクシャフト)15の軸中心Oから偏心して設けられた偏心カムである。ピストン62が上下動を一回行う間に、カム64及びカム64が取り付けられた出力軸15は一回転するようになっている。
このように、油圧ポンプ12のカム54を上記リングカムとする一方で、油圧モータ14のカム64を偏心カムとすることで、油圧ポンプ12に比べて油圧モータ14の押しのけ容積が小さくなり、高い増速比の油圧トランスミッション10を実現できる。
【0057】
高圧弁66は、各油圧室63と高圧油流路16との間の高圧連通路67に設けられる。一方、低圧弁68は、各油圧室63と低圧油流路18との間の低圧連通路69に設けられる。高圧弁66及び低圧弁68は、モータ制御部34によって開閉タイミングが制御される。
【0058】
モータ制御部34は、油圧室63のうち、高圧油流路16から高圧油を受け取らない非作動室について、ピストン62が下死点から上死点を経て再び下死点に戻るサイクルの間、高圧弁66を閉じて低圧弁68を開いたままの状態を維持する。一方、油圧室63のうち、高圧油流路16から高圧油を受け取る作動室については、ピストン62が上死点から下死点に向かうモータ工程に高圧弁66が開かれて低圧弁68が閉じられ、ピストン62が下死点から上死点に向かう排出工程に高圧弁66が閉じられて低圧弁68が開かれる。
モータ制御部34は、全油圧室63に対する非作動室の割合を変化させて、油圧モータ14の押しのけ容積Dを調節する。
【0059】
次に、制御ユニット30による風力発電装置1の運転制御方法について説明する。図5は、風力発電装置1の運転制御方法を示すフローチャートである。
【0060】
最初に、図5に示すように、運転モード選択手段38によって、環境条件に応じて、通常運転モード及び低回転速度運転モードのいずれか一方が選択される(ステップS2)。例えば、運転モード選択手段38は、騒音が規制される夜間等の所定の時間帯である場合や、風力発電装置の設置場所が渡り鳥の飛来ルート上にあり且つ渡り鳥が飛来する季節である場合や、メインシャフト8を支持する軸受の温度が許容範囲を超えた場合に、低回転速度運転モードを選択し、それ以外の場合に通常運転モードを選択する。
【0061】
ステップS4では、いずれの運転モードが選択されたのか判断される。そして、通常運転モードが選択されている場合には、ステップS10〜S30の通常運転制御を行う。一方、低回転速度運転モードが選択されている場合には、ステップS40〜S68の低回転速度運転制御を行う。
【0062】
[通常運転制御について]
通常運転制御では、まず、発電機20の出力が定格出力に達したかが判断される(ステップS10)。発電機20の出力が既に定格出力に達している場合、ステップS12において、ピッチ駆動機構40のサーボバルブ44がピッチ制御部36によって制御され、発電機20の出力が定格出力となるようにブレード4のピッチ角が調節される。そして、ステップS14において、発電機20の出力と定格出力との偏差が許容範囲内であるか判断され、この偏差が許容範囲内でなければ、ステップS12に戻って再びブレード4のピッチ角が調節される。
【0063】
一方、発電機20の出力が定格出力に達していない場合(ステップS10のNO判定)、ステップS16に進み、回転数計26によってメインシャフト8の回転数nが計測される。この回転数nに基づいて、パワー係数Cpが最大となる油圧ポンプ12の目標トルクTp_targetがポンプ制御部32によって決定される(ステップS18)。例えば、メインシャフト8の回転数と油圧ポンプ12の目標トルクとの関係が予め設定されたテーブルを用いて、回転数計26によって計測されたメインシャフト8の回転数nに対応する油圧ポンプ12の目標トルクTp_targetを決定してもよい。
また、ステップS20において、高圧油流路16内の圧力Pが圧力センサー28によって計測される。
【0064】
この後、ステップS22において、油圧ポンプ12の目標トルクTp_target及び高圧油流路16内の圧力Pから、下記式(1)に従って、油圧ポンプ12の押しのけ容積Dがポンプ制御部32によって決定される。
(数1)
押しのけ容積D=目標トルクTp_target/圧力P (1)
【0065】
ステップS22において油圧ポンプ12の押しのけ容積を決定した後、下記式(2)に従って、ステップS24に進んで、押しのけ容積Dから油圧ポンプ12の吐出量Qがポンプ制御部32によって求められる。
(数2)
吐出量Q=押しのけ容積D×回転数n (2)
【0066】
続いて、ステップS26において、発電機20の回転数が一定に維持されるように油圧モータ14の押しのけ容積Dがモータ制御部34によって決定される。すなわち、モータ制御部34は、下記式(3)により、発電機20の回転数が所定の値(例えば、1500rpm又は1800rpm)になるように油圧モータ14の押しのけ容積Dを決定する。
(数3)
押しのけ容積D=吐出量Q/発電機20の回転数n (3)
【0067】
この後、ステップS28において、ポンプ制御部32は、下記式(4)に従って、油圧ポンプ12の押しのけ容積がDになるように油圧ポンプ12の作動室の数を変化させる。
(数4)
押しのけ容積D=m×V×Fdp (4)
(ただし、mはカム54の凹凸の個数であり、Vは全シリンダ50の合計容積であり、Fdpは全油圧室53に対する作動室の割合である。)
同様に、ステップS30において、モータ制御部34は、下記式(5)に従って、油圧モータ14の押しのけ容積がDになるように油圧モータ14の作動室の数を変化させる。
(数5)
押しのけ容積D=V×Fdm (5)
(ただし、Vは全シリンダ60の合計容積であり、Fdmは全油圧室63に対する作動室の割合である。)
【0068】
このように、通常運転モードでは、ステップS18,S22及びS28において、ポンプ制御部32によって、パワー係数Cpが最大となる油圧ポンプ12の目標トルクTp_targetを求め、該目標トルクTp_target及び高圧油流路16における圧力Pから油圧ポンプ12の押しのけ容積Dを決定し、油圧ポンプ12の制御を行うことで、発電効率を向上させることができる。
また、通常運転モードでは、ステップS26及びS30において、モータ制御部34によって、油圧ポンプ12の吐出量Qに基づいて発電機20の回転数が一定になるように油圧モータ14の押しのけ容積Dを決定し、油圧モータ14の制御を行うことで、油圧ポンプ12の目標トルクTp_targetが変わっても、発電機20の回転数を一定に維持できる。よって、発電機20において周波数が一定の電力を発生させることができる。
【0069】
[低回転速度運転制御について]
低回転速度運転制御では、まず、発電機20の出力が定格出力に達したかが判断される(ステップS40)。発電機20の出力が定格出力に達している場合、ステップS42において、ピッチ駆動機構40のサーボバルブ44がピッチ制御部36によって制御され、発電機20の出力が定格出力となるようにブレード4のピッチ角が調節される。そして、ステップS44において、発電機20の出力と定格出力との偏差が許容範囲内であるか判断され、この偏差が許容範囲内でなければ、ステップS42に戻って再びブレード4のピッチ角が調節される。
【0070】
一方、発電機20の出力が定格出力に達していない場合(ステップS40のNO判定)、回転数計26によってメインシャフト8の回転数nが計測され(ステップS46)、メインシャフト8の回転数nが定格回転数n2(<n1)に達したか否かが判断される(ステップS48)。ただし、n1は通常運転モードにおけるメインシャフト8の定格回転数であり、n2は低回転速度運転モードにおけるメインシャフト8の定格回転数である。
【0071】
ステップS48においてメインシャフト8の回転数nが定格回転数n2以下であると判定されると、ステップS50に進んで、ステップS46で計測したメインシャフト8の回転数nに基づいて、パワー係数Cpが最大となる油圧ポンプ12の目標トルクTp_targetがポンプ制御部32によって決定される。
この後、ステップS52〜S62において、ポンプ制御部32によって、目標トルクTp_target及び高圧油流路16における圧力Pから油圧ポンプ12の押しのけ容積Dを決定し、油圧ポンプ12の制御を行うとともに、モータ制御部34によって、油圧ポンプ12の吐出量Qに基づいて発電機20の回転数が一定になるように油圧モータ14の押しのけ容積Dを決定し、油圧モータ14の制御を行う。なお、ステップS52〜S62は、上記通常運転制御におけるステップS20〜S30と共通するから、ここではその詳細説明を省略する。
【0072】
これに対し、ステップS48においてメインシャフト8の回転数nが定格回転数n2に達した(定格回転数n2を超えた)と判定されると、ステップS64に進んで、メインシャフト8の回転数nが定格回転数n2になるように油圧ポンプ12の作動室の数をポンプ制御部32によって調節する。具体的には、油圧ポンプ12の作動室の数を増やして、油圧ポンプ12を駆動するのに必要なトルクを増大させて、メインシャフト8の回転数nを定格回転数n2まで低減する。
【0073】
この後、回転数計26によってメインシャフト8の回転数nを再度計測し(ステップS66)、メインシャフト8の回転数nと定格回転数n2との偏差が許容範囲内であるか判定される(ステップS68)。そして、メインシャフト8の回転数nと定格回転数n2との偏差が許容範囲内でなければ、ステップS64に戻って、油圧ポンプ12の作動室の数がポンプ制御部32によって再び調節される。
【0074】
このように、通常運転モードの場合と同様に、低回転速度運転モードにおいても、メインシャフト8の回転数nが定格回転数n2以下であれば、ステップS50,S54及びS60において、ポンプ制御部32によって、パワー係数Cpが最大となる油圧ポンプ12の目標トルクTp_targetを求め、該目標トルクTp_target及び高圧油流路16における圧力Pから油圧ポンプ12の押しのけ容積Dを決定し、油圧ポンプ12の制御を行うので、発電効率を向上させることができる。
また、ステップS58及びS62において、モータ制御部34によって、油圧ポンプ12の吐出量Qに基づいて発電機20の回転数が一定になるように油圧モータ14の押しのけ容積Dを決定し、油圧モータ14の制御を行うことで、油圧ポンプ12の目標トルクTp_targetが変わっても、発電機20の回転数を一定に維持できる。
【0075】
また、低回転速度運転モードでは、メインシャフト8の回転数nが定格回転数n2を超えた場合には、ステップS64において油圧ポンプ12の作動室の数を増やすことによって、通常運転モードにおけるメインシャフト8の定格回転数n1よりも低い定格回転数n2にメインシャフト8の回転数を維持できる。
【0076】
[実施例]
上述の運転制御方法についてシミュレーションを行った。計算条件は、通常運転モードにおけるメインシャフト8の定格回転数n1を12rpm(ブレード4の先端周速度が79m/s)、低回転速度運転モードにおけるメインシャフト8の定格回転数n2を10.5rpm(ブレード4の先端周速度が69m/s)、発電機20の定格出力を3.5MW、カットイン風速を3.5m/sとした。
【0077】
図6は、発電機20の出力とメインシャフト8の回転数とに関する通常運転モードと低回転速度運転モードとの比較結果を示すグラフである。図7は、発電機20の出力とパワー係数Cpとに関する通常運転モードと低回転速度運転モードとの比較結果を示すグラフである。
【0078】
図6から分かるように、風速が約8.7m/s以下の場合、通常運転モードと低回転速度運転モードとに違いはない。いずれの運転モードであっても、パワー係数Cpが最大かつ発電機20の回転数が一定となるように油圧トランスミッション10の制御(図5のステップS16〜S30及びステップS50〜S62)が行われる。このため、風速の増大とともに発電機20の出力が大きくなっていく様子、および、風速の増大とともにメインシャフト8の回転数が上昇する様子は、両運転モードで共通する。
しかし、風速が8.7m/s付近になると、低回転速度運転モードにおけるメインシャフト8の回転数が定格回転数n2(10.5rpm)に達するので、これ以降、両運転モードの発電機20の出力に若干の差異が生ずる。これは、通常運転モードでは、パワー係数Cpが最大かつ発電機20の回転数が一定となる油圧トランスミッション10の制御が引き続き行われるのに対し、低回転速度運転モードでは、メインシャフト8の回転数を一定に維持するために油圧ポンプ12のトルクを大きくする制御(図5のステップS64〜S68)が行われるからである。
そして、風速が10.5m/s付近になると、両運転モードにおける発電機20の出力が定格出力(3.5MW)に達するので、いずれの運転モードであっても、ブレード4のピッチ角を変化させて発電機20の出力を定格出力に維持する制御(図5のステップS12〜S14及びステップS42〜S44)が行われる。このため、いずれの運転モードにおいても、発電機20の出力は定格出力になっている。
【0079】
図7から分かるように、風速がカットイン風速(3.5m/s)を超えると、両運転モードともに、パワー係数Cpが急激に立ち上がって最大になる。この傾向は、低回転速度運転モードにおけるメインシャフト8の回転数が定格回転数n2(10.5rpm)に達する風速8.7m/s付近まで続く。
風速が8.5m/s付近になると、パワー係数Cpが最大かつ発電機20の回転数が一定となる油圧トランスミッション10の制御(図5のステップS16〜S30)が引き続き行われるのに対し、低回転速度運転モードでは、メインシャフト8の回転数を一定に維持するために油圧ポンプ12のトルクを大きくする制御(図5のステップS64〜S68)が行われるので、両運転モードのパワー係数に若干の差異が生ずる。
両運転モードにおける発電機20の出力が定格出力(3.5MW)に達する風速10.5m/s付近になると、両運転モードともに、ブレード4のピッチ角を変化させて発電機20の出力を定格出力に維持する制御(図5のステップS12〜S14及びステップS42〜S44)が行われ、風の一部を逃すため、パワー係数Cpは減少する。
【0080】
このように、上述の運転制御方法によれば、通常運転モードから低回転速度運転モードに切り替えることで、風速約8.7〜10.5m/sにおいて若干の発電機20の出力の低下およびパワー係数Cpの低下が生ずるものの、殆どの風速域において発電効率を損なうことなく、定格回転数を12rpm(先端周速度79m/s)から10.5rpm(先端周速度69m/s)に低減できることが明らかになった。
【0081】
以上説明したように、上述の実施形態では、運転モード選択手段38によって、環境条件に応じて通常運転モード又はメインシャフトの定格回転数の低い低回転速度運転モードを選択するようにしたので、騒音やバードストライクや軸受の摩擦熱への対策が必要である場合には低回転速度運転モードを選択して、騒音やバードストライクや軸受の摩擦熱の問題に対応できる。
また、低回転速度運転モードは、通常運転モードに比べて、メインシャフト8の定格回転数の設定値が低いものの、油圧ポンプ12の定格押しのけ容積の設定値が大きいので、通常運転モードと同等の発電機20の定格出力を得ることができる。よって、低回転速度運転モードの採用により、発電機20の定格出力を減ずることなく、メインシャフト8の定格回転数を低くすることができる。
【0082】
以上、本発明の実施形態の一例について詳細に説明したが、本発明はこれに限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはいうまでもない。
【0083】
例えば、上述とは別の実施形態では、(高圧油流路16の定格圧力又は油圧ポンプ12の定格押しのけ容積に起因する)油圧ポンプ12の定格トルクは低回転速度運転モードと通常運転モードとで同等であってもよい。この場合、低回転速度運転モードの定格回転数よりも高い回転数において((それを超えるといずれにせよトルクTp_target及びパワー係数Cpが低減される)通常運転モードの定格回転数よりも低い回転数において)、ブレード4のピッチ角を調節してトルクTp_target及びパワー係数Cpを減少させる。このように、上述とは別の実施形態では、風力発電装置の定格出力は、通常運転モードよりも低回転速度運転モードの方が小さくなってもよい。
【0084】
例えば、上述の実施形態では、回転数計26で計測したメインシャフト8の回転数nに基づいて、パワー係数が最大となる油圧ポンプ12の目標トルクを求める例について説明したが、風速計で計測した風速Vに基づいて油圧ポンプ12の目標トルクを求めてもよい。この場合、各風力発電装置1に対して一つずつ風速計を設けてもよいし(例えば、ナセル22に風速計を取り付けてもよい)、複数の風力発電装置1で一つの風速計を共用してもよい。
【0085】
また、上述の実施形態では、全油圧室(53,63)に対する非作動室の割合を変化させて、油圧ポンプ12及び油圧モータ14の押しのけ容積を調節する例について説明したが、ピストンサイクル中に高圧弁(56,66)が開く時間を変化させて油圧ポンプ12又は油圧モータ14の押しのけ容積を調節してもよい。
【0086】
また、上述の実施形態では、低回転速度運転モードの油圧ポンプ12の定格押しのけ容積の設定値が大きい例について説明したが、低回転速度運転モードは、メインシャフト8の定格回転数の設定値が通常運転モードよりも低く、かつ、発電機20の定格出力が通常運転モードと同等であれば、この例に限定されない。
例えば、メインシャフト8の定格回転数の設定値が通常運転モードよりも低い分だけ、低回転速度運転モードにおける高圧油流路16の定格圧力の設定値を高くして(すなわち、メインシャフト8の定格回転数に反比例させて、高圧油流路16の定格圧力の設定値を高くする)、通常運転モードと同等の発電機20の定格出力を実現してもよい。あるいは、メインシャフト8の定格回転数の設定値が通常運転モードよりも低い分だけ、低回転速度運転モードにおける油圧ポンプ12の定格押しのけ容積の設定値及び高圧油流路16の定格圧力の設定値の両方を通常運転モードよりも大きくしてもよい。
【符号の説明】
【0087】
1 風力発電装置
2 ロータ
4 ブレード
6 ハブ
8 メインシャフト
10 油圧トランスミッション
12 油圧ポンプ
14 油圧モータ
15 出力軸
16 高圧油流路
18 低圧油流路
20 発電機
22 ナセル
24 タワー
26 回転数計
28 圧力センサー
30 制御ユニット
32 ポンプ制御部
34 モータ制御部
36 ピッチ制御部
38 運転モード選択手段
40 ピッチ駆動機構
42 油圧シリンダ
44 サーボバルブ
46 油圧源
48 アキュムレータ
50 シリンダ
52 ピストン
52A ピストン本体部
52B ピストンローラー
53 油圧室
54 カム
56 高圧弁
57 高圧連通路
58 低圧弁
59 低圧連通路
60 シリンダ
62 ピストン
62A ピストン本体部
62B ピストンローラー
63 油圧室
64 カム
66 高圧弁
67 高圧連通路
68 低圧弁
69 低圧連通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハブと、
前記ハブに連結されたメインシャフトと、
前記メインシャフトから伝わる回転エネルギーを電力に変換する発電機と、
前記メインシャフトに従動して駆動する可変容量型の油圧ポンプと、
前記発電機に接続された可変容量型の油圧モータと、
前記油圧ポンプの吐出側および前記油圧モータの吸込側の間に介在された高圧油流路と、
前記油圧ポンプの吸込側および前記油圧モータの吐出側の間に介在された低圧油流路と、
前記油圧ポンプの押しのけ容積を調節するポンプ制御部および前記油圧モータの押しのけ容積を調節するモータ制御部とを有する制御ユニットと、
通常運転モードと、該通常運転モードよりも、前記メインシャフトの定格回転数の設定値が低い低回転速度運転モードとを切り替える運転モード選択手段とを備えることを特徴とする風力発電装置。
【請求項2】
前記低回転速度運転モードは、前記通常運転モードよりも、前記油圧ポンプの定格押しのけ容積の設定値及び前記高圧油流路の定格圧力の設定値の少なくとも一方が大きいことを特徴とする請求項1に記載の風力発電装置。
【請求項3】
前記低回転速度運転モードは、前記発電機の定格出力が前記通常運転モードと同等であることを特徴とする請求項1に記載の風力発電装置。
【請求項4】
前記運転モード選択手段は、環境条件に応じて前記通常運転モード又は前記低回転速度運転モードを選択することを特徴とする請求項1に記載の風力発電装置。
【請求項5】
前記ポンプ制御部は、前記運転モード選択手段によって前記通常運転モード及び前記低回転速度運転モードのいずれが選択される場合であっても、前記メインシャフトの回転数が定格回転数以下のときに、パワー係数が最大となる前記油圧ポンプの目標トルクを求め、該目標トルク及び前記高圧油流路における作動油の圧力から前記油圧ポンプの押しのけ容積Dを決定することを特徴とする請求項1に記載の風力発電装置。
【請求項6】
前記メインシャフトの回転数を計測する回転数計をさらに備え、
前記ポンプ制御部は、前記回転数計により計測された前記メインシャフトの回転数に基づいて、パワー係数が最大となる前記目標トルクを求めることを特徴とする請求項5に記載の風力発電装置。
【請求項7】
風速を計測する風速計をさらに備え、
前記ポンプ制御部は、前記風速計により計測された風速から、パワー係数が最大となる前記目標トルクを求めることを特徴とする請求項5に記載の風力発電装置。
【請求項8】
前記モータ制御部は、前記押しのけ容積Dから求めた前記油圧ポンプの吐出量Qに基づいて前記発電機の回転数が一定になるように前記油圧モータの押しのけ容積Dを決定することを特徴とする請求項5に記載の風力発電装置。
【請求項9】
前記油圧ポンプ及び前記油圧モータは、それぞれ、シリンダおよび該シリンダ内を摺動するピストンにより囲まれる複数の油圧室と、前記ピストンに係合するカム曲面を有するカムと、各油圧室及び前記高圧油流路の間の連通路を開閉する高圧弁と、各油圧室及び前記低圧油流路の間の連通路を開閉する低圧弁とを含み、
前記ポンプ制御部は、前記油圧ポンプのピストンがカムによって下死点から上死点を経て再び下死点に戻るサイクルの間、前記油圧ポンプの高圧弁を閉じて低圧弁を開いたままの状態を維持する非作動油圧室の前記油圧ポンプの全油圧室に対する割合を変化させて、前記油圧ポンプの押しのけ容積Dを調節し、
前記モータ制御部は、前記油圧モータのピストンがカムによって下死点から上死点を経て再び下死点に戻るサイクルの間、前記油圧モータの高圧弁を閉じて低圧弁を開いたままの状態を維持する非作動油圧室の前記油圧モータの全油圧室に対する割合を変化させて、前記油圧モータの押しのけ容積Dを調節することを特徴とする請求項8に記載の風力発電装置。
【請求項10】
前記油圧ポンプのカムは、前記メインシャフトの外周に環状に設けられ、複数の凹部及び凸部が交互に並んだ波状のカム曲面を有するリングカムであり、
前記油圧モータのカムは偏心カムであることを特徴とする請求項9に記載の風力発電装置。
【請求項11】
前記ハブに取り付けられたブレードのピッチ角を調節するピッチ駆動機構をさらに備え、
前記制御ユニットは、前記発電機の出力が定格出力に達したとき、前記発電機の定格出力が維持されるように前記ピッチ駆動機構を制御することを特徴とする請求項1に記載の風力発電装置。
【請求項12】
ハブと、前記ハブに連結されたメインシャフトと、前記メインシャフトから伝わる回転エネルギーを電力に変換する発電機と、前記メインシャフトに従動して駆動する可変容量型の油圧ポンプと、前記発電機に接続された可変容量型の油圧モータと、前記油圧ポンプの吐出側および前記油圧モータの吸込側の間に介在された高圧油流路と、前記油圧ポンプの吸込側および前記油圧モータの吐出側の間に介在された低圧油流路とを備える風力発電装置の運転制御方法であって、
通常運転モードと、該通常運転モードよりも、前記メインシャフトの定格回転数の設定値が低い低回転速度運転モードとを選択するモード選択ステップと、
前記モード選択ステップにおいて選択された運転モードに基づいて、前記油圧ポンプおよび前記油圧モータの押しのけ容積を調節する押しのけ容積調節ステップとを備えることを特徴とする風力発電装置の運転制御方法。
【請求項13】
前記低回転速度運転モードは、前記通常運転モードよりも、前記油圧ポンプの定格押しのけ容積の設定値及び前記高圧油流路の定格圧力の設定値の少なくとも一方が大きいことを特徴とする請求項12に記載の風力発電装置の運転制御方法。
【請求項14】
前記低回転速度運転モードは、前記発電機の定格出力が前記通常運転モードと同等であることを特徴とする請求項12に記載の風力発電装置の運転制御方法。
【請求項15】
前記モード選択ステップでは、環境条件に応じて前記通常運転モード又は前記低回転速度運転モードを選択することを特徴とする請求項12に記載の風力発電装置の運転制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2013−509518(P2013−509518A)
【公表日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−548688(P2010−548688)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【国際出願番号】PCT/JP2010/006978
【国際公開番号】WO2012/073278
【国際公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】