説明

養魚用固形飼料

【課題】少量の油脂含量でも沈降性に優れ、水面での浮遊時間を短くした養魚用固形飼料を提供する。
【解決手段】飼料成分と共に液油を含有する養魚用固形飼料であって、構成脂肪酸が不飽和脂肪酸で親水基がグリセリン又はその誘導体である乳化剤を含み、液油に対する乳化剤の割合は0.1〜10重量%であり、乳化剤を含有する液油の飼料中の割合は10重量%未満である養魚用固形飼料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は養魚用固形飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
養魚用飼料としては、魚の養殖が始められた当初、日本でマイワシ等が豊富に取れていたことから、イワシ、アジ、サバ等の生餌が与えられていたが、漁獲量の減少、養殖魚の品質向上、環境への影響などの理由から、生餌に代わって、生餌と粉末飼料(マッシュ)等を配合して加工されたモイストペレット(MP)が登場した。更に、最近では、より保管が容易で且つ品質の安定性を目的とし、魚粉、グルテン、澱粉などの主成分から水分を殆ど乾燥させたドライペレット(DP)に移行しつつある。ドライペレットの中でもエクストルーダーを使用して造粒したものはエクストルーデッドペレット(EP)と呼ばれている。このように、養魚用固形飼料(以下「ペレット」と称することがある)として、モイストペレット、ドライペレット、エクストルーデッドペレットが存在する。
【0003】
養魚の成長期には、体のサイズや成長促進の面から、サイズが小さく油脂含量の多いペレットが選択されることが多いが、ハマチやタイ等の成魚、エビ、カニ等の甲殻類では、ある程度大きなペレットで且つ油脂含量が少ないものが求められる傾向がある。このようにサイズが大きくて油脂含量が少ないと、ペレット内部の空隙の割合が多くなるため、水面に浮遊し続け、沈降し難いという問題が発生する。沈降しないペレットは、波により流され、海鳥などの餌となり、目的の養魚の給餌が不可能となる。
【0004】
養魚用飼料の沈降性を上げる方法として、ドライペレットに対し、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステルの群から選らばれ且つHLBが12以上または8以下である界面活性剤を添加する方法が提案されている(特許文献1)。しかしながら、ここに提案されている界面活性剤(乳化剤)の全てが有効ではなく、例えば、ショ糖ステアリン酸エステルやポリグリセリンステアリン酸エステルのような乳化剤では、油の固化を促進させてしまう可能性があり、ペレット内部に空気が入った状態で周りの油が固まると、内部に空気を抱き込んだままの、いわゆる浮き袋状態になってしまうことにより、沈降性が悪くなってしまう懸念が考えられる。
【特許文献1】特開平4−27351号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、少量の油脂含量でも沈降性に優れ、水面での浮遊時間を短くした養魚用固形飼料を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明の要旨は、飼料成分と共に液油を含有する養魚用固形飼料であって、構成脂肪酸が不飽和脂肪酸で親水基がグリセリン又はその誘導体である乳化剤を含み、液油に対する乳化剤の割合は0.1〜10重量%であり、乳化剤を含有する液油の飼料中の割合は10重量%未満であることを特徴とする養魚用固形飼料に存する。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、液油の含有量の少ないものにおいても、沈降性に優れた養魚用固形飼料を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
(ペレット製法及び成分)
養魚用固形飼料としては、通常、多孔質のドライペレットを使用する。斯かるドライペレットは、一軸エクストルーダー又は二軸もしくは三軸以上の多軸エクストルーダーを使用し、これに魚粉、デンプン、ビタミン類、ミネラル類、油脂、水などを供給し、造粒、乾燥して製造される。一般的なペレットの成分は、魚粉、肉粉、脱脂粉乳、オキアミミール、イカミール等のタンパク質、油粕、穀類、デンプン、グルテンミール等の植物原料、ビタミン類、ミネラル類などの粉末状成分である。割合としては、一般に、動物性原料、植物性原料が主成分で約70重量%とされ、その他穀類や動物性油脂などが配合される場合が多い。本発明の養魚用固形飼料のペレットの性状は、特に限定されないが、ドライペレットが好適であり、エクストルーデッドペレットがより好適である。
【0010】
(ペレット形状・サイズ)
ペレットの形状は、特に限定されないが、エクストルーダーで製造される円柱形状が一般的である。また、大きさについても、特に限定されず、対象とする養魚の種類や大きさによって、直径2〜4mmの小さいものから直径20〜25mmの大きいものまで任意に選択できる。
【0011】
(液油の種類)
本発明の養魚用固形飼料に含まれる液油の含有量は10重量%未満であるが、液油の種類としては、タラ肝油、スケソウダラ肝油、イワシ油、ニシン油などの魚油、その他の植物油など、一般的に使用されているものを使用することが出来る。
【0012】
(乳化剤の種類)
本発明で使用する乳化剤は、構成脂肪酸が不飽和脂肪酸で親水基がグリセリン又はその誘導体である。グリセリンの平均重合度としては2〜12が好適である。乳化剤のHLBは、液油と均一に混合できるという観点から、通常11以下、好ましくは2〜9、更に好ましくは4〜9である。乳化剤のエステル化率は、通常20%以上、好ましくは20〜50%である。
【0013】
(HLB及びエステル化率の定義)
HLB値及びエステル化率一般的には下記の計算式で表される。
【0014】
【数1】

【0015】
(乳化剤添加量)
養魚用固形飼料中の乳化剤と液油の割合は、液油に対する乳化剤の量として0.1〜10重量%、好ましくは0.3〜5重量%である。液油に乳化剤を添加する方法としては、通常50℃以上に加温した油に乳化剤を添加して混合する方法を採用する。温度は添加する乳化剤の融点異常の温度とするのが好ましい。乳化剤の添加量が少なすぎる場合は本発明の効果が期待できず、多すぎるとコスト面で現実的ではない。
【0016】
(液油の添加方法)
乳化剤を含む液油をペレットに含有させる方法として、通常、常圧または減圧下で、液油にペレットを浸漬する方法、常圧または減圧下に置かれたペレットに液油をスプレーする方法などが挙げられる。前者は多くの油脂をペレットに含有させたい場合、後者は油脂分が少ない場合に使用される。また、単に含有させる方法としては、ペレット製造時に油を直接練りこむ方法も可能である。
【0017】
具体的には、油を染み込ませる際の温度は、油が液状になる温度以上であればよいが、通常20℃以上、好ましくは50℃以上である。圧力は、常圧でもよいが、油の含有量を増やす場合は減圧条件下が好ましい。減圧度は−500mmHg以下であればよいが、好ましくは−100mmHg以下である。減圧→常圧→減圧→常圧を繰り返して油を染み込ませる方法も採用できる。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例において使用した乳化剤を表1に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
実施例1〜4及び比較例1〜2:
液油(イワシ油)に対して表1に示す上記乳化剤を1重量%加え溶解する。市販の円柱状ペレット(直径約2mm、高さ4〜8mm、油含有量1重量%以下)をプラスチック容器に入れ、60℃、減圧条件下で乳化剤を含む液油をペレットの表面が隠れるまで加え、100mmHg以下の減圧条件下で1分間静置し、ペレットに液油を含有させた。得られたペレットは常温下でろ紙(No.5C)上に約2時間静置し、表面の油を吸収させた。その後、ろ紙からプラスチック容器に移し、常温下で一昼夜静置後試験に供した。
【0021】
<沈降性向上効果の評価>
上記の方法で調整したペレット10粒を一粒ずつ水面に静かに乗せ、乗せた時点から水面から落ち始めるまでの時間を計測した。本試験に供した水は、海水モデルとして、試薬NaCl(和光純薬製)を水に対し3.5重量%加え、試験の前に約8〜13℃まで冷やしたものを使用した。これは冬場の海を想定したものである。各区10粒ずつ計測し、その上下の値を省いた残りの8粒の平均値を算出。結果は乳化剤無添加区の沈降までの時間を100とし、相対的な値により沈降性を評価した
【0022】
【表2】

【0023】
表2から明らかなように、本発明によれば、油含有量が少なくても、また、冬場液油が固化し易い寒冷時でも、沈降性が向上した養魚用固形飼料ペレットを得ることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飼料成分と共に液油を含有する養魚用固形飼料であって、構成脂肪酸が不飽和脂肪酸で親水基がグリセリン又はその誘導体である乳化剤を含み、液油に対する乳化剤の割合は0.1〜10重量%であり、乳化剤を含有する液油の飼料中の割合は10重量%未満であることを特徴とする養魚用固形飼料。
【請求項2】
乳化剤のHLBが11以下である請求項1に記載の養魚用固形飼料。
【請求項3】
乳化剤のエステル化率が20%以上である請求項1又は2に記載の養魚用固形飼料。
【請求項4】
飼料成分が、魚粉、グルテン、澱粉の群から選ばれる1種以上である請求項1〜3の何れかに記載の養魚用固形飼料。
【請求項5】
固形飼料がドライペレットである請求項1〜4の何れかに記載の養魚用固形飼料。
【請求項6】
ドライペレットがエクストルーデッドペレットである請求項5に記載の養魚用固形飼料。

【公開番号】特開2009−189244(P2009−189244A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−28371(P2008−28371)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【出願人】(593204214)三菱化学フーズ株式会社 (45)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】