説明

駆動装置および振動体

【課題】小型化を図るに際して、駆動力の低下を抑制することが可能な駆動装置を提供する。
【解決手段】駆動装置1Aは、被駆動体に駆動力を伝達するチップ部材13と、互いに所定の角度を有する状態でチップ部材13にそれぞれその一端側が接合される複数の圧電素子(変位素子)11,12と、複数の圧電素子11,12の各他端側に接合されるベース部材14と、複数の変位素子11,12の少なくとも1つに駆動信号を付与することによってチップ部材13に楕円振動を励起する制御回路80とを備える。ベース部材14は、接合部C1で圧電素子11と接合され且つ接合部C2で圧電素子12と接合されるとともに、接合部C1と接合部C2との間においてチップ部材13側に張り出すように屈曲する屈曲部分を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動装置および当該駆動装置に用いられる振動体に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電素子などに交流電圧を供給することによって振動体を振動させ、当該振動体との接触および離反を繰り返すことによって被駆動体を摩擦力で駆動する駆動装置が存在する(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2000−358387号公報
【特許文献2】特開2004−274916号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような駆動装置においては、例えば、図33に示すような参考例1に係る振動体10Zが用いられ得る。なお、図33の振動体10Zは、上記特許文献2の振動体に若干の変更を加えたものに相当する。
【0005】
この振動体10Zは、略直角に交差する2つの圧電素子(変位素子)11,12と、当該2つの圧電素子11,12の交差端側に接合されるチップ部材13と、当該2つの圧電素子の他端側に接合されるベース部材14(詳細には14Z)とを有している。2つの圧電素子11,12に対して位相の異なる高周波信号がそれぞれ印加されることによって、チップ部材13に楕円振動が発生し、この楕円振動に基づく駆動力が被駆動体30に伝達される。
【0006】
ところで、上記のような駆動装置においては、その振動体の小型化を図ることが好ましい。
【0007】
図34は、参考例2に係る振動体10Yを示す図である。振動体10Yは、振動体10Z(図33)のベース部材14Zの高さを低減することによって小型化されたものである。この振動体10Yは、振動体10Zとほぼ同様の構成を有するが、ベース部材14Zの代わりにベース部材14Yを有する点で振動体10Zと相違する。ベース部材14Yの基準高さh1は、ベース部材14Zの基準高さh0に比べて低減されている。
【0008】
しかしながら、このようにベース部材の高さを低減することのみによって振動体の小型化を図ると、駆動力が低下し、その駆動状態が不安定になるという問題が発生する。なお、このような駆動力の低下現象等については、後に詳述する。
【0009】
そこで、この発明の課題は、振動体の小型化を図るに際して、振動体の駆動力の低下を抑制することが可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく、請求項1の発明は、楕円振動を用いて被駆動体を駆動する駆動装置であって、被駆動体に駆動力を伝達するチップ部材と、互いに所定の角度を有する状態で前記チップ部材にそれぞれその一端側が接合される複数の変位素子と、前記複数の変位素子の各他端側に接合されるベース部材と、前記複数の変位素子の少なくとも1つに駆動信号を付与することによって前記チップ部材に楕円振動を励起する制御手段とを備え、前記複数の変位素子は、第1の変位素子と第2の変位素子とを有し、前記ベース部材は、第1の接合部で前記第1の変位素子と接合され且つ第2の接合部で前記第2の変位素子と接合されるとともに、前記第1の接合部と前記第2の接合部との間において前記チップ部材側に張り出すように屈曲する屈曲部分を有することを特徴とする。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1の発明に係る駆動装置において、前記屈曲部分は、前記チップ部材側に凸のV字状あるいは前記チップ部材側に凸のU字状に形成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項3の発明は、楕円振動を用いて被駆動体を駆動する駆動装置であって、被駆動体に駆動力を伝達するチップ部材と、互いに所定の角度を有する状態で前記チップ部材にそれぞれその一端側が接合される複数の変位素子と、前記複数の変位素子の各他端側に接合されるベース部材と、前記複数の変位素子の少なくとも1つに駆動信号を付与することによって前記チップ部材に楕円振動を励起する制御手段とを備え、前記複数の変位素子は、第1の変位素子と第2の変位素子とを有し、前記ベース部材は、第1の接合部で前記第1の変位素子と接合され且つ第2の接合部で前記第2の変位素子と接合されるとともに、前記第1の接合部と前記第2の接合部との間において、前記チップ部材側に突出する突出部分と、その剛性が局所的に低減された低剛性部分とを有することを特徴とする。
【0013】
請求項4の発明は、請求項3の発明に係る駆動装置において、前記低剛性部分は、スリットを設けることによって構成されることを特徴とする。
【0014】
請求項5の発明は、請求項1ないし請求項4のいずれかの発明に係る駆動装置において、前記ベース部材の材料は、タングステンカーバイト系超硬合金、タングステン、またはタングステン合金を含むことを特徴とする。
【0015】
請求項6の発明は、楕円振動を用いて被駆動体を駆動する駆動装置における駆動源として用いられる振動体であって、被駆動体に駆動力を伝達するチップ部材と、互いに所定の角度を有する状態で前記チップ部材にそれぞれその一端側が接合される複数の変位素子と、前記複数の変位素子の各他端側に接合されるベース部材とを備え、前記複数の変位素子は、前記チップ部材に楕円振動を励起することが可能であり、第1の変位素子と第2の変位素子とを有し、前記ベース部材は、第1の接合部で前記第1の変位素子と接合され且つ第2の接合部で前記第2の変位素子と接合されるとともに、前記第1の接合部と前記第2の接合部との間において前記チップ部材側に張り出すように屈曲する屈曲部分を有することを特徴とする。
【0016】
請求項7の発明は、請求項6の発明に係る振動体において、前記屈曲部分は、前記チップ部材側に凸のV字状あるいは前記チップ部材側に凸のU字状に形成されていることを特徴とする。
【0017】
請求項8の発明は、楕円振動を用いて被駆動体を駆動する駆動装置における駆動源として用いられる振動体であって、被駆動体に駆動力を伝達するチップ部材と、互いに所定の角度を有する状態で前記チップ部材にそれぞれその一端側が接合される複数の変位素子と、前記複数の変位素子の各他端側に接合されるベース部材とを備え、前記複数の変位素子は、前記チップ部材に楕円振動を励起することが可能であり、第1の変位素子と第2の変位素子とを有し、前記ベース部材は、第1の接合部で前記第1の変位素子と接合され且つ第2の接合部で前記第2の変位素子と接合されるとともに、前記第1の接合部と前記第2の接合部との間において、前記チップ部材側に突出する突出部分と、その剛性が局所的に低減された低剛性部分とを有することを特徴とする。
【0018】
請求項9の発明は、請求項8の発明に係る振動体において、前記低剛性部分は、スリットを設けることによって構成されることを特徴とする。
【0019】
請求項10の発明は、請求項6ないし請求項9のいずれかの発明に係る振動体において、前記ベース部材の材料は、タングステンカーバイト系超硬合金、タングステン、またはタングステン合金を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
請求項1から請求項10に記載の発明によれば、振動体の駆動力の低下を抑制もしくは回避し、安定的な駆動状態を得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0022】
<A.第1実施形態>
<A1.構成概要>
<全体構成>
図1は、本発明の第1実施形態に係る駆動装置(振動アクチュエータ)1Aの構成を示す図である。図2は、当該振動アクチュエータ1Aに用いられる振動体10(詳細には振動体10A)の正面図であり、図3は当該振動体10Aの側面図である。なお、これらの図においては、適宜XYZ直交座標系を用いて方向等を表現するものとする。
【0023】
図1に示すように、振動アクチュエータ1Aは、駆動源である振動体10Aと、振動体10Aにより駆動される1つの被駆動体(移動体)30と、加圧部材40と、規制部材60(60a,60b)と、制御回路80とを備えている。加圧部材40は、振動体10Aを加圧方向(図のZ方向)において被駆動体30に向けて押し付けるための部材(弾性部材)であり、振動体10AのZ方向下側に設けられている。また、規制部材60は、駆動反力等による振動体10AのX方向への移動を規制する役割を果たす。
【0024】
この駆動装置1Aは、複数の変位素子(ここでは圧電素子11,12)に交流電圧を供給することによって振動体10Aに楕円振動を励起し、当該振動体10Aとの接触および離反を繰り返すことによって被駆動体30を摩擦力等を用いて駆動する装置である。
【0025】
<振動体>
図2に示すように、振動体10Aは、2つの圧電素子11,12を用いたトラス型の振動発生体として構成される。具体的には、振動体10Aは、2つの圧電素子(変位素子)11,12と、チップ部材13と、ベース部材14(詳細にはベース部材14A)とを備えている。振動体10Aは、高周波電圧(高周波信号)の印加に応じて振動する。
【0026】
細長形状を有する2つの圧電素子11,12は略直角に交差して配置される。当該2つの圧電素子11,12の各一端側(交差側端部)はチップ部材13に接合されており、これら圧電素子11,12の各他端側はベース部材14Aに接合されている。詳細には、接合部C1においてベース部材14と圧電素子11とが接合されており、接合部C2においてベース部材14と圧電素子12とが接合されている。
【0027】
チップ部材13は、安定して高い摩擦係数を得ることができるとともに高い耐摩耗性を得ることができる材料(例えば、超硬合金や、アルミナ、ジルコニアなどのセラミックス)で形成されることが好ましい。ベース部材14Aは、大きな比重を有する材料(例えば、WC(タングステンカーバイド)系の超硬合金(換言すれば、タングステンカーバイドを主成分とする超硬合金)、タングステン、あるいはタングステン合金などの金属材料)で形成されることが好ましい。また、圧電素子11,12と各部材13,14とは、接着剤を用いて接合されている。接着剤としては、接着強度に優れたエポキシ系樹脂の接着剤を用いることが好ましい。
【0028】
圧電素子11は、積層型圧電素子であり、圧電特性を有する複数のセラミック薄板と電極とを交互に積層した構造を有している。圧電素子11は、印加電圧の変更に応じて積層方向に伸縮する変位素子である。圧電素子12も圧電素子11と同様の構成を備えており、印加電圧の変更に応じて積層方向に伸縮する。具体的には、所定の符号の電圧を圧電素子11に印加すると圧電素子11は伸び、逆符号の電圧を圧電素子11に印加すると圧電素子11は縮む。そして、交流電圧を印加すれば、圧電素子11は当該交流電圧の周期に応じて伸縮を繰り返すことになる。圧電素子12についても同様である。このような交流電圧を印加することによって、圧電素子11および/または圧電素子12を振動させることができる。
【0029】
このように、交流電圧を印加することによって、圧電素子11,12を振動させることができる。そして、次述するように、印加電圧を制御することによれば、チップ部材13を楕円軌道(円軌道を含む)または直線軌道を描くように移動させることができる。なお、共振現象を用いることによって、圧電素子11,12の振幅は数倍から数十倍に増幅され、振動体10Aは比較的大きく振動する。
【0030】
図4は、振動体10Aによる駆動動作を示す図である。図4に示すように、振動体10Aの圧電素子11,12に対する駆動交流電圧における駆動周波数を同一にするとともに、その位相差を制御することによって、チップ部材13の移動動作を制御することができる。なお、図4(a)〜(c)のそれぞれにおける矢印は、微小振動の振動状態を概念的に表している。
【0031】
たとえば、2つの圧電素子11,12に対して、同一周波数且つ同一位相の高周波交流電圧を付与することによれば、圧電素子11,12は常に同一の向きに振動し、図4(a)に示すように、チップ部材13が上下方向に駆動される。なお、その周波数を共振周波数に合わせることで、2つの圧電素子11,12が同位相で伸縮する振動モード(以下、「同相モード」とも称する)が励起できる。その概念図を図5に示す。
【0032】
また、2つの圧電素子11,12に対して、同一周波数且つ「逆位相」の高周波交流電圧を付与することによれば、圧電素子11,12は常に逆向きに振動し、図4(c)に示すように、チップ部材13が左右方向に駆動される。なお、その周波数を共振周波数に合わせることで、2つの圧電素子11,12が逆位相で伸縮する振動モード(以下、「逆相モード」とも称する)が励起できる。その概念図を図6に示す。
【0033】
これら同相モード、逆相モードの共振周波数を一致させることで、両モードが同時に励起され、2つの圧電素子11,12に対して、90度(deg)の位相差を有する共振周波数の高周波交流電圧を付与することによれば、図4(b)に示すように、チップ部材13は楕円軌道を描くように駆動される。また、両駆動電圧の位相差を様々な値に変更することによって、楕円軌道の形状を変更することが可能である。
【0034】
振動体10Aは、このような楕円軌道を含む面(振動面とも称する)における振動動作を用いて、被駆動体30を駆動する。具体的には、後述するように、チップ部材13が被駆動体30(図1)に適宜に押し付けられることによって、チップ部材13の楕円運動が被駆動体30の直線運動に変換され、被駆動体30が駆動される。
【0035】
なお、ここでは2つの圧電素子11,12の両方に駆動信号を付与する駆動方式、詳細には2つの圧電素子11,12に印加する駆動交流電圧の位相差を制御して振動体10Aを駆動する駆動方式(以下、「位相差駆動方式」とも称する)を例示している。ただし、本発明はこれに限定されず、複数の圧電素子(変位素子)の少なくとも1つに駆動信号を付与することによってチップ部材に楕円振動が励起されればよい。例えば、1つの圧電素子にのみ駆動信号を付与する駆動方式(以下、「単相駆動方式」とも称する)によって、振動体10Aを振動させるようにしてもよい。「単相駆動方式」は、同位相モードにおける共振周波数と逆相モードにおける共振周波数とに所定の差を設けた上で、2つの圧電素子11,12のうちの一方の圧電素子(例えば圧電素子11)にのみ駆動信号を印加することによって振動体10Aを駆動する方式である。この単相駆動方式については後述する。
【0036】
<被駆動体>
図1に示されるように、被駆動体30は、振動体10Aに接触する部材であり、振動体10A(詳細にはチップ部材13)からの駆動力が直接的に伝達される部材である。具体的には、被駆動体30は、振動体10Aの振動動作に応じて振動体10Aとの接触(衝突)および振動体10Aからの離反を繰り返しつつ振動体10Aとの間に生じる摩擦力によって駆動される。換言すれば、振動体10Aは、被駆動体30の表面において摩擦接触を伴う微小移動動作を繰り返すことによって、被駆動体30を駆動することになる。
【0037】
被駆動体30は、たとえば、金属(ステンレスあるいはアルミニウム等)で形成される。また、チップ部材13との接触による摩耗を防ぐため、被駆動体30の表面には表面硬化処理が施されることが好ましい。たとえば、被駆動体30としては、ステンレスなどの鉄系材料に対して焼き入れ処理ないし窒化処理等を施したものが用いられる。あるいは、アルミニウムにアルマイト処理を施したもの、ないし、金属表面にセラミックなどによる耐摩耗性のコーティング処理を施したものを被駆動体30として用いるようにしてもよい。また、被駆動体30は、金属以外の材料、たとえばセラミック(アルミナセラミックあるいはジルコニアセラミック等)で形成されてもよい。セラミックを用いれば、軽量化を図ることができるとともに、高い剛性および高い耐摩耗性を得ることができる。
【0038】
被駆動体30は、リニアガイド70によって支持されており、図の左右方向においてスムーズに直線運動することができる。
【0039】
<加圧部材>
また、振動体10Aに対して被駆動体30とは反対側に加圧部材40が設けられている。加圧部材40は、2つの規制部材60a,60bの間に架け渡されており、その両端においてそれぞれ規制部材60a,60bに固定されている。また、加圧部材40は、その2カ所において逆U字に曲げ加工されており、当該2つの逆U字部分PUにおいて振動体10Aのベース部材14Aに接触している。加圧部材40は弾性部材として機能し、振動体10Aを+Z方向に付勢する役割を果たす。加圧部材40によるこの付勢力によって、振動体10Aは被駆動体30に所定の力で押しつけられている。なお、振動体10Aの振動周期は加圧部材40の伸縮動作が追従できない程に短い(すなわち非常に高い周波数である)ため、振動体10Aのチップ部材13は、加圧部材40の付勢力に抗して、被駆動体30に対して接触と離反とを繰り返すことができる。したがって、上述のような駆動動作を行うことが可能である。
【0040】
<制御回路>
制御回路80は、MPUなどによって構成された電気回路である。制御回路80は、圧電素子11,12に対する駆動信号を制御することによって、チップ部材13の振動を制御する。
【0041】
<A2.駆動原理>
ここで、図7等を参照しながら、振動体10による駆動原理についてさらに説明する。図7は、当該駆動原理について説明する図である。図7においては、振動体10は簡略化して示されている。
【0042】
図7に示すように、理想状態においては、まず、チップ部材13が楕円軌道PBの上側に存在する場合には、振動体10のチップ部材13が被駆動体30に摩擦接触した状態で接触開始位置から接触終了位置まで(図の右側から左側へと)移動することによって、所定方向DX(図において左向き)の駆動力がチップ部材13から被駆動体30へと伝達される(図7(a))。そして、チップ部材13が楕円軌道PBの下側に存在する場合には(図7(b))、チップ部材13が被駆動体30から離れた状態で図の左側から右側へと移動した後、接触開始位置側へと復帰して再び被駆動体30への接触状態に復帰する(図7(c))。以降同様の動作を繰り返すことによって、被駆動体30がチップ部材13と被駆動体30との間に生じる摩擦力によって所定方向DX(X方向)に駆動される。すなわち、被駆動体30は、振動体10の振動動作に応じて振動体10との接触および振動体10からの離反を繰り返しつつ、振動体10との間に生じる摩擦力によって駆動される。
【0043】
このような駆動状態においては、被駆動体30の速度は、楕円軌道における方向T(上述の加圧方向に垂直な方向に相当)の速度に依拠して決定される。したがって、楕円軌道(楕円軌跡)の方向Tの径Rtが大きいほど、被駆動体30の速度が大きくなる。また、被駆動体30の駆動力は、基本的には、方向N(上述の加圧方向に相当)においてチップ部材13に加わる垂直抗力と、チップ部材13の被駆動体30に対する接触点における摩擦係数との積に依拠して決定される。
【0044】
被駆動体30の駆動状態は、楕円軌道(楕円軌跡)の方向Nの径Rnにも依拠する。上記においては考慮していなかったが、実際には被駆動体30等に弾性変形が発生し、これに起因して駆動状態が不安定になることがある。具体的には、径Rnが小さすぎる場合には、被駆動体30および/またはチップ部材13等の弾性変形によって、チップ部材13と被駆動体30とが常時接触した不安定な駆動状態になることがある。
【0045】
図8は、不安定な駆動状態の一例を示す図である。ここでは、被駆動体30に弾性変形が発生している場合を想定する。
【0046】
図8に示すように、チップ部材13が楕円軌道PBの下側に存在する場合(図8(b))にも、被駆動体30の弾性変形に起因してチップ部材13が被駆動体30から離れることができない状態になっている。そのため、被駆動体30の目標駆動方向とは逆向きの力がチップ部材13から被駆動体30に伝達されることになる。この力が制動力として作用し、ブレーキがかかった状態になるため、被駆動体30は十分な駆動力を得ることができず、速度が低下することになる。
【0047】
上記のような不都合が生じないようにして駆動状態を安定させるためには、楕円軌道の方向Nにおける径Rnを所定値以上の値にすることが好ましい。すなわち、径Rnは大きいことが好ましい。
【0048】
図9は、2つの振動体10Z,10Y(図33および図34参照)をそれぞれ用いて同様の駆動を行った場合における両振動体10Z,10Yの各楕円軌道ELz,ELyを比較する図である。
【0049】
図9からも判るように、振動体10Yの楕円軌道ELyは、振動体10Zの楕円軌道ELzに比べて、その(方向Nにおける)径Rnが小さくなっている。
【0050】
上述のように、十分な駆動力を確保するためには、チップ部材13の楕円振動の所定方向Nにおける径Rnが大きいことが好ましい。しかしながら、振動体10Yにおいては、振動体10Zに比べて楕円振動における径Rnが低減している。振動体10Yにおける駆動力低下の問題は、このような径Rnの低減に起因するものであると考えられる。
【0051】
<A3.ベース部材の構成>
<参考例に係る振動体の解析結果>
上述のように、参考例1の振動体10Z(図33参照)におけるベース部材14の高さを単に低減して小型化した参考例2の振動体10Y(図34参照)は、チップ部材13の径Rnが小さくなり、駆動力が低下するという問題を有している。
【0052】
そこで、当該問題の解決策を探求するため、本願の発明者らは、参考例1に係る振動体10Zにおいて、ベース部材14Zの重量または弾性率が変化するときに、チップ部材13の方向Nにおけるチップ変位がどのように変化するかを有限要素法を用いて解析した。具体的には、圧電構造解析シミュレータを用いて、圧電素子11,12、チップ部材13およびベース部材14Zの特性を考慮した解析を行った。また、解析の容易化のため、同相モードの振動状態における径Rnを求めている。
【0053】
図10および図11は、その解析結果を示す図である。図10は、ベース部材14Zの重量(ベース重量とも称する)とチップ部材13の方向Nにおける変位(チップ変位とも称する)との関係を示しており、図11は、ベース部材14Zの弾性率(ベース弾性率とも称する)とチップ部材13の方向Nにおける変位との関係を示している。なお、解析においては、便宜上、ベース部材14Zの密度(比重)を変化させることによってベース部材14Zの重量を変化させ、ベース部材14Zのヤング率を変化させることによってベース部材14Zの弾性率を変化させている。
【0054】
まず、図10のグラフを参照すると、ベース重量が大きくなるにつれて、チップ変位が大きくなっていることが判る。
【0055】
図12は、振動体10をさらに簡略化したモデルを示す図である。ここでは、振動体10の構成を、弾性体(バネ)の一端側にチップ部材13が設けられ且つ他端側にベース部材14Z(14)が設けられる構成に簡略化して模式化している。
【0056】
同位相モードで共振する際の振動の節の位置Qは、チップ部材13の質量m1とベース部材14の質量m2との大小関係に応じて移動する。詳細には、当該節の位置Qは、ベース部材14の質量m2が大きくなるほど、ベース部材14寄りに(図12の右側へと)移動する。
【0057】
ここで、ベース部材14の質量が異なる2つの振動体において、その総振幅(具体的には、図12において節より左側の振幅SW1と節より右側の振幅SW2との和)が同一であると仮定する。このとき、比較的重いベース部材14を有する振動体の方が、他方の振動体(比較的軽いベース部材14を有する振動体)に比べて、節の位置Qがさらにベース部材14側に存在し、節より左側の振幅SW1が大きくなり、チップ変位が大きくなる。比較的大きな重量を有するベース部材14を用いる方が、チップ変位が比較的大きくなるのは、以上のような理由によるものと考えられる。
【0058】
また、図11のグラフを参照すると、ベース弾性率が小さくなるにつれて、チップ変位が大きくなっていることが判る。
【0059】
図13および図14は、それぞれ、ベース部材14の弾性率を変更したときの同相モードにおける振動状態を示す図である。図13は、ベース部材14(14Z)が比較的小さな弾性率(低弾性率)を有する場合を示し、図14は、ベース部材14(14Z)が比較的大きな弾性率(高弾性率)を有する場合を示している。なお、図13および図14は、いずれも、同相モードにおける各圧電素子11,12の伸長時の状態を示している。
【0060】
図13および図14を相互に比較すると判るように、高弾性率のベース部材14を有する振動体(図14)は、低弾性率のベース部材を有する振動体(図13)に比べて、矢印AR1向きの曲げ変形が比較的大きく生じている。なお、矢印AR1向きの曲げ変形は、各圧電素子11,12の伸縮方向に垂直な方向への曲げ変形であって、内側方向への曲げ変形(あるいは、圧電素子11,12およびベース部材14で囲まれる空間側への曲げ変形)であるとも表現される。
【0061】
そのため、圧電素子11,12の伸長時において、チップ部材13の+N方向への伸びは、上記の曲げ変形によって比較的大きく減殺され、方向Nにおけるチップ変位は比較的小さくなる。
【0062】
逆に、低弾性率のベース部材を有する振動体(図13)は、高弾性率のベース部材を有する振動体(図14)に比べて、矢印AR1の向きの曲げ変形が比較的小さくなる。そのため、圧電素子11,12の伸長時において、方向Nにおけるチップ部材13の変位は比較的大きくなる。
【0063】
以上のように、低弾性率のベース部材14を用いる場合に比較的大きなチップ変位を得ることが可能である。
【0064】
このように、ベース部材としては、その重量が大きいものであることが好ましく、その剛性が低いものであることが好ましいものと考えられる。
【0065】
<本実施形態に係る振動体の解析結果>
本発明に係る振動体10A等は、このような解析結果をも考慮して本願発明者らによって案出されたものである。
【0066】
具体的には、本発明に係る振動体10Aのベース部材14Aは、図2のような形状を有している。詳細には、ベース部材14Aは、V字状(逆V字状)の屈曲部分BD、換言すれば、チップ部材13側に凸の屈曲部分BDを有している。この屈曲部分BDは、圧電素子11と圧電素子12とに挟まれる空間において、ベース部材14Aの(加圧方向Nにおける)基準高さh1に対応する位置よりもチップ部材13側に張り出すように屈曲している。このベース部材14Aは、所定の幅を有する略棒状部材が、接合部C1と接合部C2との間で屈曲されたような形状を有しているものとも表現される。なお、ここではベース部材14Aの材料として、WC(タングステンカーバイド)系超硬合金を用いている。また、ベース部材14Aの加圧方向における基準高さh1は、参考例2に係るベース部材14Yの基準高さh1(図34参照)と同じである。
【0067】
さて、図15は、振動体10Aを位相差駆動(位相差=90度)したときの楕円軌道ELa(実線)を示す図である。図15には、参考例1,2に係る振動体10Z,10Yについて、同様の楕円軌道ELz,ELy(破線)も併せて示されている。また、図16および図17は、有限要素法による振動体10Aの解析結果を示す図である。図16は、同相モードにおける振動体10Aの変形状態を示す図であり、図17は、逆相モードにおける振動体10Aの変形状態を示す図である。
【0068】
図15に示されるように、本願発明に係る振動体10Aは、参考例1,2に係る振動体10Z,10Yのいずれに比べても、方向Nにおける径Rnが大きくなっており、駆動力の低下が抑制(ここではさらに駆動力が向上)され安定的な駆動状態を実現できることが判る。すなわち、振動体10Aによれば、振動体10Zに比べてベース部材の高さを低減して小型化を図るとともに、安定的な駆動状態をも実現することが可能である。
【0069】
ここで、この現象をさらに検討するため、ベース部材14における屈曲部分の有無が振動体10Aと相違する振動体との比較を行う。具体的には、参考例2に係る振動体10Y(図34)を、振動体10A(図2)の比較の対象とする。ただし、必要に応じて、参考例2に係る振動体10Yをより簡略化した参考例3に係る振動体10X(図18)をも比較の対象とする。なお、振動体10Xのベース部材14Xは、接合部C1と接合部C2との間において略一定高さh1の棒状部分SDを有しており、ベース部材14Xの高さh1とベース部材14Aの高さh1とは同一である。ベース部材14Xは、その上側に切り欠き部分を有しない点で、ベース部材14Yと相違する。
【0070】
屈曲部分を有するベース部材14A(図2)は、屈曲部分を有しないベース部材14Y(図34)に比べて、約1.2倍の重量を有している。また、ベース部材14Aは、ベース部材14Z(図33)と比べても約1.1倍の重量を有している。振動体10Zを用いた上記の解析結果を考慮すると、このようなベース重量の増大が径Rnの増大に寄与していると考えられる。
【0071】
また、振動体10Aは、チップ部材13側に張り出した屈曲部分BDを有しており、圧電素子11,12の振動に応じて、屈曲部分BD(逆V字部分)の屈曲度合いが変化するように(換言すれば当該逆V字部分が開閉するように)揺動する。この場合、振動体10Aのベース部材14Aは、屈曲部分を有しないベース部材14Xに比べて、ベース部材の実質的な腕長さが大きくなるため、その剛性が小さくなると考えられる。また、振動体10Yのベース部材14Yは、切り欠き部の存在によって振動体10Xのベース部材14Xよりも低剛性になっているため、ベース部材14Aとベース部材14Yとの剛性比較は容易ではない。ただし、図16を参照すると、振動体10Aにおける圧電素子11,12の矢印AR1の向きの曲げ変形は比較的小さくなっている。これは、図13と図14との比較検討結果(上述)を考慮すると、低剛性(低弾性率)に起因する状況であるものと推定される。振動体10Zを用いた上記の解析結果を考慮すると、このようなベース剛性の低下が径Rnの増大に寄与していると考えられる。なお、仮にベース剛性の低下が生じていないとしても、上述のベース重量の増大あるいは次述する接合点の後退量の減少等によって、径Rnの低下抑制(ないし径Rnの増大)が達成されるものと考えられる。
【0072】
また、図19は振動体10Y(または振動体10X)を簡略化して示す図であり、図20は本実施形態に係る振動体10Aを簡略化して示す図である。図19および図20は、同相モードの伸長時における各振動体10Y,10Aの変形の様子を示している。これらの図を参照しながら、各振動体10Y,10Aの同相モードの伸長時における接合点C2の後退量BAについて考察する。
【0073】
図19に示すように、振動体10Yのベース部材14の(圧電素子12との)接合部C2は、同相モードの伸長時にベース部材14が弓形(ゆみなり)に変形することに応じて、圧電素子11,12の伸縮方向(ひいてはチップ部材13の変位方向)において矢印AR2の向きに比較的大きく後退する。
【0074】
これに対して、図20に示すように、振動体10Aの接合部C2も、同相モードの伸長時において、圧電素子11,12の伸縮方向において矢印AR2の向きに後退する(矢印AW1参照)。ただし、振動体10Aにおいては、同相モードの伸長時に、屈曲部分BDがそのV字頂点部分を中心としてその屈曲角度をさらに小さくするように変形することに応じて、当該接合部C2は接合部C1側へも移動する(矢印AW2参照)。
【0075】
このため、ベース部材14Aの(圧電素子12との)接合部C2は圧電素子12の伸縮方向において矢印AR2の向きに若干後退するとしても、接合部C2のその後退量BAは図19の場合に比べて小さくなる。したがって、方向Nにおけるチップ変位が接合部C2の後退に起因して低下することを抑制することが可能である。
【0076】
振動体10Aにおける径Rnの大径化は、上述したような要因によって招来されるものと考察される。
【0077】
以上のように、上記の振動体10Aを用いることによれば、図15に示されるような振動特性を得ることが可能である。すなわち、方向Nにおける径Rnを大きくして駆動力の低下を抑制(理想的には駆動力低下を回避)し、安定的な駆動状態を得ることが可能である。
【0078】
また、ベース部材14の屈曲部分BDは、接合部C1と接合部C2との間において、チップ部材13側に(図の上向きに)張り出しているので、他の向き(例えば、図の下向きに或いは横向き)に張り出す場合に比べて、小型化を図ることができる。
【0079】
また、ベース部材14の材料は、比較的比重の大きいもの(例えば、タングステンカーバイト系超硬合金、タングステン、またはタングステン合金等)であることが好ましく、特に、チップ部材13の材料よりも比重が大きいことが好ましい。これによれば、ベース重量を増大させて、より安定的な駆動状態を実現することができる。
【0080】
<B.第2実施形態>
第2実施形態に係る振動アクチュエータ1Bは、第1実施形態と同様の構成を備える。ただし、振動体10(10B)、特にベース部材14(14B)において、第1実施形態と相違する。以下では、第2実施形態に係る振動アクチュエータ1Bについて、第1実施形態に係る振動アクチュエータ1Aとの相違点を中心に説明する。
【0081】
図21は、第2実施形態に係る振動体10Bの構成を示す正面図である。振動体10Bは、ベース部材14Aではなくベース部材14Bを有する点で、第1実施形態の振動体10Aと相違する。
【0082】
ベース部材14Bは、その一端側の接合部C1で圧電素子11と接合され且つ他端側の別の接合部C2で圧電素子12と接合される。また、ベース部材14Bは、接合部C1と接合部C2との間において、チップ部材13側に突出する突出部分PJと、局所的に剛性が低くなっている部分(以下、「局所的低剛性部分」とも称する)LEとを有している。ここでは、局所的低剛性部分LEは、スリットSL(切り欠き部)を設けた部分においてベース部材14Bの高さ(図21の上下方向の長さ)を局所的に低減させることによって構成されている。この局所的低剛性部分LEは、ベース部材14BのZ方向の大きさ(高さないし幅とも称する)が局所的に狭くなっているので、「狭幅部」とも称される。
【0083】
このようなベース部材14Bを用いることによって、振動体10Bの小型化を図ることができる。なお、ベース部材14Bの加圧方向における基準高さh1は、参考例2に係るベース部材14Yの基準高さh1(図34参照)と同じである。
【0084】
図22は、振動体10Bを位相差駆動(位相差=90度)したときの楕円軌道ELb(実線)を示す図である。図22には、参考例1および参考例2に係る振動体10Z,10Yについて同様の楕円軌道ELz,ELy(破線)が併せて示されている。また、図23および図24は、有限要素法による振動体10Bの解析結果を示す図である。図23は、同相モードにおける振動体10Bの変形状態を示しており、図24は、逆相モードにおける振動体10Bの変形状態を示している。
【0085】
図22に示すように、本願発明に係る振動体10Bは、参考例1,2に係る振動体10Z,10Yのいずれに比べても、方向Nにおける径Rnが大きくなっており、駆動力が低下することなく安定的な駆動状態になることが判る。
【0086】
このように径Rnが大きくなるのは、ベース重量の増大およびベース弾性率の低減が主要因であるものと考えられる。
【0087】
例えば、ベース部材14Bにおいては、突出部分PJが設けられているため、ベース重量は比較的大きい。具体的には、ベース部材14の突出部分PJの有無が相違する2種類の振動体(振動体10B(図21参照)および振動体10X(図18参照))を想定し、両者を比較すると、図21の振動体10Bのベース重量は、そのベース部材14Xが突出部分PJを有しない振動体10X(図18参照)のベース重量に比べて大きい。
【0088】
また、ベース部材14Bにおいては、突出部分PJの一部を切り欠いて構成されるスリットSLが設けられており、当該スリットによる切り欠き後の残部(狭幅部)は、局所的低剛性部分LEとなっている。詳細には、スリットSLは、ベース部材14の基準高さh1よりも残部の高さh2が小さくなる程の深さを有しており、当該残部(狭幅部)における局所的な強度が低下している。この状況は、ベース弾性率が低減されていることに相当する。
【0089】
以上のように、振動体10Bを用いて振動アクチュエータ1Bを構成することによれば、小型化を図るに際して、駆動力の低下を抑制(理想的には駆動力低下を回避)し、安定的な駆動状態を得ることが可能である。
【0090】
<C.変形例>
以上、この発明の実施の形態について説明したが、この発明は上記説明した内容のものに限定されるものではない。
【0091】
<スリットの位置>
たとえば、上記第2実施形態においては、スリットSLが突出部分PJの凸部側に設けられる場合を例示したが、これに限定されず、図25に示すように、ベース部材(14C)において、突出部分PJの凸部側の反対側にスリットSLを設けるようにしてもよい。このような振動体10Cを用いる場合においても、ベース重量の増大およびベース弾性率の低減によって径Rnを大きくすることが可能である。
【0092】
<複数スリット>
また、スリットSLの数は1つに限定されず、図26に示すようにベース部材(14D)に複数のスリットSLを設けた振動体10Dを用いるようにしてもよい。
【0093】
<W字型、U字形>
また、上記第1実施形態においては、逆V字形のベース部材14Aが用いられたがこれに限定されない。例えば、図27に示すように、振動体10(10E)において、逆W字型(M字形)の屈曲部分BMを設けたベース部材14Eを用いるようにしてもよい。あるいは、図28に示すように、振動体10(10F)において、逆U字形の屈曲部分BUを有するベース部材14Fを用いるようにしてもよい。
【0094】
<自走式>
また、上記各実施形態等においては、被駆動体30が移動する場合を例示したが、これに限定されない。例えば、図29に示すように、被駆動体30を駆動する場合において、その駆動力による相対移動によって振動体10A側が移動する自走式の駆動装置(1G)であってもよい。
【0095】
駆動装置1Gは、第1実施形態と同様に振動体10Aと加圧部材40と2つの規制部材60と被駆動体30とを備えるとともに、さらに、台板90と2つのガイドローラ75とを備えている。台板90には2つのガイドローラ75と2つの規制部材60とが固定されている。各ガイドローラ75は被駆動体30の側面上を回転しながら移動することが可能なように台板90に軸支されている。また、各規制部材60は、台板90に固定されている。
【0096】
振動体10Aは、その左右両側にそれぞれ規制部材60が配置された状態で、当該規制部材60に固定された加圧部材40によって、被駆動体30に押し付けられている。このため、被駆動体30は、2つのガイドローラ75と振動体10Aとによって3点で支持された状態となっている。
【0097】
また、この駆動装置1Gにおいては、棒状の被駆動体30の両端が固定部(筐体等)95に固定されているので、当該被駆動体30は移動できない。一方、台板90は固定部95に固定されていない。そのため、振動体10Aの振動によって、チップ部材13から被駆動体30へと駆動力が伝達されると、被駆動体30と振動体10Aとの間にX方向の相対運動が生じ、台板90等を含む振動体10A側が被駆動体30に対して移動することになる。
【0098】
<単相駆動方式>
また、上述したように、振動体10Aの駆動方式として、「単相駆動方式」を用いてもよい。
【0099】
ここで、「単相駆動方式」における駆動原理について説明する。
【0100】
図30は、振動体10Aによる駆動動作のモデルを示す図である。図30に示すように、振動体10Aの圧電素子11,12のうちの一方(ここでは圧電素子11)に、駆動信号(交流電圧)を付与する。このような駆動信号が付与されると、その大きさが変化する駆動力Fが振動体10Aに作用する。このような駆動力Fが振動体10Aに作用すると、以下に示す共振現象によって振幅を数倍から数十倍に増幅しながら、チップ部材には比較的大きな楕円振動が励起される。
【0101】
ここで、この駆動信号付与による駆動力Fが、図30の方向N(上述の加圧方向に相当)と当該方向Nに直交する方向Tとに分離されて作用するものと考え、方向Nにおける振動系(第1振動系とも称する)と方向Tにおける振動系(第2振動系とも称する)との両振動系における振動状態を考察する。第1振動系および第2振動系は、それぞれ、バネ、マス(重り)、ダンパで構成される1自由度の振動モデルで表現される。なお、ここでは、簡単化のため、ベース部材14Aは固定されており変形しないものとする。
【0102】
また、第1振動系のみによる振動状態は、2つの圧電素子11,12が同位相で伸縮する同相モード(図5参照)に対応付けて表現される。また、第2振動系のみによる振動状態は、2つの圧電素子11,12が逆位相で伸縮する逆相モード(図6参照)に対応付けて表現される。同相モードは、チップ部材13が方向Nにおいて単振動する振動モードであり、逆相モードはチップ部材13が方向Tにおいて単振動する振動モードである。
【0103】
図31および図32は、一方の圧電素子に付与される駆動信号の周波数(駆動周波数)と、各振動系(第1振動系および第2振動系)における振動状態との関係を示す図である。図31は振幅の周波数特性を示す図であり、図32は位相遅れの周波数特性を示す図である。図31においては、駆動周波数fと第1振動系の振幅との関係を示す曲線LA1と、駆動周波数fと第2振動系の振幅との関係を示す曲線LA2とが示されている。図32においては、駆動周波数fと第1振動系の位相遅れとの関係を示す曲線LP1と、駆動周波数fと第2振動系の位相遅れとの関係を示す曲線LP2と、駆動周波数fと両振動系の位相遅れの差との関係を示す曲線LP3(端的に言えば、曲線LP1,LP2の差を示す曲線)とが示されている。
【0104】
図31および図32に示すように、第1振動系および第2振動系の振動は、それぞれ、駆動周波数fに応じて変化する。具体的には、各振動系の振幅は、駆動周波数fが増大していくにつれて、増大していき、特定の周波数(「共振周波数」とも称する)のときに最大となり、その後減少していく。また、各振動系の位相遅れは、駆動周波数fが増大していくにつれて増大していく。
【0105】
ここで、振動体10Aにおいては、第1振動系におけるパラメータ(弾性係数、質量、減衰係数に関するパラメータ)と第2振動系におけるパラメータ(弾性係数、質量、減衰係数に関するパラメータ)とは若干相違するように構成されている。
【0106】
このため、図31に示すように、第1振動系における共振周波数f1と第2振動系における共振周波数f2とは互いに異なっている。具体的には、駆動周波数fが値f1のときに第1振動系の振幅が最大となり、駆動周波数fが値f2(>f1)のときに第2振動系の振幅が最大となる。また、図32に示すように、両振動系における位相遅れの度合いも異なっている。具体的には、各周波数において、第1振動系における位相遅れは第2振動系における位相遅れよりも大きくなっている。なお、ここでは、値f1が値f2よりも小さい場合を例示しているが、逆に値f1が値f2よりも大きくなることもある。
【0107】
振動体10Aにおける振動状態は、上記の第1振動系における振動と第2振動系における振動との合成振動として表現され、チップ部材13は、楕円運動する。このような楕円運動におけるチップ部材13の軌跡(楕円軌跡)の形状は、駆動周波数に応じて変化する。
【0108】
例えば、周波数f3の駆動信号が付与されたときには、図4(b)のような振動状態が発生する。より詳細には、図31に示すように第1振動系の振幅と第2振動系の振幅とが同じ大きさを有しているため、方向Tと方向Nとの振幅が同じになるような楕円軌跡(円軌跡とも表現される)を描くようにチップ部材13が振動する。また、図32の曲線LP1,LP2に示すように第1振動系よりも第2振動系の方が位相遅れが小さく、図32の曲線LP3に示すように、両振動系の位相遅れの差は90度である。そのため、まず方向T(+T)の変位が励起され、それに引き続いて位相が90度遅れて方向N(+N)の変位が励起されるため、反時計回りの振動が励起される。
【0109】
また、周波数f3よりも小さな周波数を有する駆動信号が付与されたときには、第1振動系の振幅が第2振動系の振幅よりも大きい(図31参照)ため、方向Nの振幅が方向Tの振幅よりも大きくなるような楕円軌跡を描くようにチップ部材13が振動する。
【0110】
一方、周波数f3よりも大きな周波数を有する駆動信号が付与されたときには、第2振動系の振幅が第1振動系の振幅よりも大きい(図31参照)ため、方向Tの振幅が方向Nの振幅よりも大きくなるような楕円軌跡を描くようにチップ部材13が振動する。
【0111】
また、圧電素子12を駆動することで、楕円運動の回転方向が逆転(時計回り)し、駆動方向を切り換えることができる。
【0112】
以上のような単相駆動方式を用いて、振動体10Aを振動させるようにしてもよい。
【0113】
<その他>
上記各実施形態においては、2つの圧電素子11,12は略直角に交差して配置されているが、これに限定されない。具体的には、2つの圧電素子11,12は、所定の角度を有する状態(非平行状態)で配置されていればよい。
【0114】
また、上記各実施形態においては、ベース部材14の材料として、比重が高いWC系超硬合金を用いる場合を例示しているが、これに限定されない。例えば、比重が高く且つ弾性率が低い、タングステンあるいはタングステン合金(バインダー相をニッケル、銅および鉄等で構成したタングステン基焼結体)を用いるようにしてもよい。これによれば、より大きな効果を得ることができる。
【0115】
また、上記第2実施形態においては、切り欠き部としてスリットを用いることによって局所的低剛性部分ELを実現する場合を例示したが、これに限定されず、別の形状(例えば半円状)の切り欠き部を用いて局所的低剛性部分を実現するようにしても良い。ただし、開口幅の比較的大きな形状を有する切り欠き部よりも、開口幅の比較的小さな形状(例えばスリット)を有する切り欠き部を用いることが好ましい。これによれば、切り欠き部の存在に伴うベース重量の低減を最小限に止めつつ弾性率を低下させることが可能であるので、より安定的な駆動状態を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】第1実施形態に係る駆動装置(振動アクチュエータ)の概略構成を示す図である。
【図2】第1実施形態に係る振動体の正面図である。
【図3】第1実施形態に係る振動体の側面図である。
【図4】振動体による駆動動作を示す図である。
【図5】同相モードを表す概念図である。
【図6】逆相モードを表す概念図である。
【図7】振動体による駆動原理を示す図である(安定駆動状態)。
【図8】振動体による駆動原理を示す図である(不安定駆動状態)。
【図9】参考例1,2に係る振動体の楕円軌道を示す図である。
【図10】ベース重量とチップ変位との関係を示す図である。
【図11】ベース弾性率とチップ変位との関係を示す図である。
【図12】振動体を簡易化したモデルを示す図である。
【図13】低弾性率を有する振動体の同相モードにおける振動状態を示す図である。
【図14】高弾性率を有する振動体の同相モードにおける振動状態を示す図である。
【図15】第1実施形態に係る振動体の楕円軌道を示す図である。
【図16】第1実施形態に係る振動体の変形状態(同相モード)を示す図である。
【図17】第1実施形態に係る振動体の変形状態(逆相モード)を示す図である。
【図18】参考例3に係る振動体を示す図である。
【図19】参考例2,3に係る振動体を簡略化して示す図である。
【図20】本実施形態に係る振動体を簡略化して示す図である。
【図21】第2実施形態に係る振動体の構成を示す図である。
【図22】第2実施形態に係る振動体の楕円軌道を示す図である。
【図23】第2実施形態に係る振動体の変形状態(同相モード)を示す図である。
【図24】第2実施形態に係る振動体の変形状態(逆相モード)を示す図である。
【図25】変形例に係る振動体を示す図である。
【図26】別の変形例に係る振動体を示す図である。
【図27】別の変形例に係る振動体を示す図である。
【図28】別の変形例に係る振動体を示す図である。
【図29】別の変形例に係る振動体を示す図である。
【図30】駆動動作モデルを示す図である。
【図31】振幅の周波数特性を示す図である。
【図32】位相遅れの周波数特性を示す図である。
【図33】参考例1に係る振動体を示す図である。
【図34】参考例2に係る振動体を示す図である。
【符号の説明】
【0117】
1A,1B,1G 振動アクチュエータ(駆動装置)
10,10A〜10F,10X〜10Z 振動体
11,12 圧電素子(変位素子)
13 チップ部材
14,14A〜14F,14X〜14Z ベース部材
30 被駆動体
40 加圧部材
60,60a,60b 規制部材
70 リニアガイド
75 ガイドローラ
90 台板
BD,BM,BU 屈曲部分
ELa,ELb,ELy,ELz,PB 楕円軌道
LE 局所的低剛性部分
SL スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
楕円振動を用いて被駆動体を駆動する駆動装置であって、
被駆動体に駆動力を伝達するチップ部材と、
互いに所定の角度を有する状態で前記チップ部材にそれぞれその一端側が接合される複数の変位素子と、
前記複数の変位素子の各他端側に接合されるベース部材と、
前記複数の変位素子の少なくとも1つに駆動信号を付与することによって前記チップ部材に楕円振動を励起する制御手段と、
を備え、
前記複数の変位素子は、第1の変位素子と第2の変位素子とを有し、
前記ベース部材は、第1の接合部で前記第1の変位素子と接合され且つ第2の接合部で前記第2の変位素子と接合されるとともに、前記第1の接合部と前記第2の接合部との間において前記チップ部材側に張り出すように屈曲する屈曲部分を有することを特徴とする駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の駆動装置において、
前記屈曲部分は、前記チップ部材側に凸のV字状あるいは前記チップ部材側に凸のU字状に形成されていることを特徴とする駆動装置。
【請求項3】
楕円振動を用いて被駆動体を駆動する駆動装置であって、
被駆動体に駆動力を伝達するチップ部材と、
互いに所定の角度を有する状態で前記チップ部材にそれぞれその一端側が接合される複数の変位素子と、
前記複数の変位素子の各他端側に接合されるベース部材と、
前記複数の変位素子の少なくとも1つに駆動信号を付与することによって前記チップ部材に楕円振動を励起する制御手段と、
を備え、
前記複数の変位素子は、第1の変位素子と第2の変位素子とを有し、
前記ベース部材は、第1の接合部で前記第1の変位素子と接合され且つ第2の接合部で前記第2の変位素子と接合されるとともに、前記第1の接合部と前記第2の接合部との間において、前記チップ部材側に突出する突出部分と、その剛性が局所的に低減された低剛性部分とを有することを特徴とする駆動装置。
【請求項4】
請求項3に記載の駆動装置において、
前記低剛性部分は、スリットを設けることによって構成されることを特徴とする駆動装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の駆動装置において、
前記ベース部材の材料は、タングステンカーバイト系超硬合金、タングステン、またはタングステン合金を含むことを特徴とする駆動装置。
【請求項6】
楕円振動を用いて被駆動体を駆動する駆動装置における駆動源として用いられる振動体であって、
被駆動体に駆動力を伝達するチップ部材と、
互いに所定の角度を有する状態で前記チップ部材にそれぞれその一端側が接合される複数の変位素子と、
前記複数の変位素子の各他端側に接合されるベース部材と、
を備え、
前記複数の変位素子は、前記チップ部材に楕円振動を励起することが可能であり、第1の変位素子と第2の変位素子とを有し、
前記ベース部材は、第1の接合部で前記第1の変位素子と接合され且つ第2の接合部で前記第2の変位素子と接合されるとともに、前記第1の接合部と前記第2の接合部との間において前記チップ部材側に張り出すように屈曲する屈曲部分を有することを特徴とする振動体。
【請求項7】
請求項6に記載の振動体において、
前記屈曲部分は、前記チップ部材側に凸のV字状あるいは前記チップ部材側に凸のU字状に形成されていることを特徴とする振動体。
【請求項8】
楕円振動を用いて被駆動体を駆動する駆動装置における駆動源として用いられる振動体であって、
被駆動体に駆動力を伝達するチップ部材と、
互いに所定の角度を有する状態で前記チップ部材にそれぞれその一端側が接合される複数の変位素子と、
前記複数の変位素子の各他端側に接合されるベース部材と、
を備え、
前記複数の変位素子は、前記チップ部材に楕円振動を励起することが可能であり、第1の変位素子と第2の変位素子とを有し、
前記ベース部材は、第1の接合部で前記第1の変位素子と接合され且つ第2の接合部で前記第2の変位素子と接合されるとともに、前記第1の接合部と前記第2の接合部との間において、前記チップ部材側に突出する突出部分と、その剛性が局所的に低減された低剛性部分とを有することを特徴とする振動体。
【請求項9】
請求項8に記載の振動体において、
前記低剛性部分は、スリットを設けることによって構成されることを特徴とする振動体。
【請求項10】
請求項6ないし請求項9のいずれかに記載の振動体において、
前記ベース部材の材料は、タングステンカーバイト系超硬合金、タングステン、またはタングステン合金を含むことを特徴とする振動体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【公開番号】特開2007−236138(P2007−236138A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−56349(P2006−56349)
【出願日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】