説明

高周波用誘電体材料

【課題】高い比誘電率と、高いQ値、ゼロに近いTCF特性を有し、かつAgやCuと同時焼成可能な高周波用誘電体材料の提供。
【解決手段】CaO:1モル、Nb:(1−α×β)/3モル、ZnO:(1−α)/3モル、TiO:γモル、LiO:α×(1−β)/6モル(但し、0.65≦α≦0.75、0.09≦β≦0.15、0.066≦α×β≦0.100、0.15≦γ≦0.35)の割合からなる主構成材料と、前記主構成材料100重量部に対し、さらにCu、B、Li、Bi、Vの酸化物およびそれらの混合物からなる群より選ばれてなる焼結助剤1〜5重量部、とを含んでなることを特徴とする、高周波用誘電体材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波用誘電体材料に関し、特に、低温焼成が可能で比誘電率が高く、高周波帯における信号の損失が少ない上に共振周波数の温度係数がゼロに近い高周波用誘電体材料に関する。
【背景技術】
【0002】
コンデンサや抵抗、配線を内部に形成した、いわゆる積層セラミックス部品/基板の分野においては、従来、主として95%以上のアルミナとシリカ、アルカリ土類酸化物等からなるセラミックス材料である高周波用誘電体材料が用いられてきた。このような高周波用誘電体材料は、千数百度の焼成温度が必要なので、内部導体としては、タングステンやモリブデンといった高融点を有する材料が用いられていた。
【0003】
しかし、近年、マイクロ波やミリ波領域の信号を低損失で流す技術需要が高まり、タングステンやモリブデンに較べて電気抵抗の小さなAgやCu等が内部導体として用いられるようになってきている。一般に、内部導体を同時焼成する高周波用誘電体材料においては、内部導体材料の融点より低い温度で焼結する高周波用誘電体材料を用いる必要があり、AgやCu等は、タングステンやモリブデンに較べて低融点を有するため、タングステンやモリブデンを内部導体とする場合よりも低い温度で焼結する高周波用誘電体材料を用いる必要がある。例えば、Agを内部導体として同時に焼成する場合には、Agの融点である962℃より充分低い温度、例えば900℃程度で焼成可能な高周波用誘電体材料を用いる必要がある。このようなセラミックスは、低温同時焼成積層セラミックス(LTCC:Low Temperature Co-fired Ceramics)と呼称されており、近年、種々の組成系が提案されている。
【0004】
従来、低温同時焼成積層セラミックスのうち、比誘電率(εともいう)及び品質係数(Q値ともいい、誘電損失角tanδの逆数である)が高く、共振周波数の温度係数(TCF、またはτf、単に温度係数と言うこともある)がゼロに近い材料として、BiNbOに焼結助剤としてVを加えた系などが提案されている。この系の場合、比誘電率で45前後、Q値で4000前後、TCFで−10〜+40ppm/℃の高周波(ギガヘルツ帯)特性が得られている。また、特開2000−44341号公報(特許文献1)にあるように、45mol%ZnNb+55mol%TiO+数%の焼結助剤で比誘電率が42、Q値が4000〜20000、TCFが−1〜+12ppm/℃(6GHz付近における値)である材料も得られている。
【0005】
これらの材料にあっては、高周波用誘電体材料を予め焼成した後にAgペーストを印刷して焼付ける製造方法を採用すれば、問題なく誘電体/絶縁体としての機能を発揮する。ところが、高周波用誘電体材料と内部導体との同時焼成、例えば、これらの高周波用誘電体材料でシートを作製し、Agペーストで細い配線を印刷して積層し、高周波用誘電体材料とAgとを同時に焼成すると、Agがセラミックスの成分と反応したり、セラミックス成分中を異常に早い速度で拡散したりしてAgが散逸し、設計通りの配線が形成されないという問題点があった。Agの散逸が実質上見られない材料系についても様々な研究がなされているが、高い比誘電率とGHz領域で1000を超えるQ値、ゼロに近いTCF特性を有しながら900℃以下で焼成可能な材料の報告は見当たらない。
【特許文献1】特開2000−44341号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、高い比誘電率と、高いQ値、ゼロに近いTCF特性を有し、かつAgやCuと同時焼成可能な高周波用誘電体材料を提供すること、より具体的には、45を超えるような高い比誘電率とGHz領域で1000を超えるQ値、ゼロに近いTCF特性を有し、かつ、900℃以下で焼成が可能であり、問題となるような量のAgの散逸が実質的に発生しない高周波用誘電体材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的を達成するために、本発明の高周波用誘電体材料は、
CaO: 1モル、
Nb: (1−α×β)/3モル、
ZnO: (1−α)/3モル、
TiO: γモル、
LiO: α×(1−β)/6モル
(但し、0.65≦α≦0.75、0.09≦β≦0.15、0.066≦α×β≦0.100、0.15≦γ≦0.35)の割合からなる主構成材料と、
前記主構成材料100重量部に対し、さらにCu、B、Li、Bi、Vの酸化物およびそれらの混合物からなる群より選ばれてなる焼結助剤1〜5重量部、
とを含んでなることを特徴とする。
【0008】
本発明の高周波用誘電体材料は、好ましくは、前記焼結助剤として、少なくともBおよびLiの酸化物を含んでなるものとする。
【0009】
本発明の高周波用誘電体材料の製造方法は、
CaO: 1モル、
Nb: (1−α×β)/3モル、
ZnO: (1−α)/3モル、
TiO: γモル、
LiO: α×(1−β)/6モル
(但し、0.65≦α≦0.75、0.09≦β≦0.15、0.066≦α×β≦0.100、0.15≦γ≦0.35)の割合からなる主構成材料を混合する工程、
前記混合済みの主構成材料を、800〜1100℃の温度で仮焼する工程、
前記主構成材料を粉砕しつつ、前記主構成材料100重量部に対し、Cu、B、Li、Bi、Vの単体ないし化合物およびそれらの混合物からなる群より選ばれてなる焼結助剤1〜5重量部を混合する工程、
前記主構成材料と前記焼結助剤の混合物を成形する工程、
前記主構成材料と前記焼結助剤の混合物の成形体を850〜900℃で焼成する工程、
を含んでなる方法である。
【0010】
本発明の別の態様の高周波用誘電体材料の製造方法は、
CaO: 1モル、
Nb: (1−α×β)/3モル、
ZnO: (1−α)/3モル、
TiO: γモル、
LiO: α×(1−β)/6モル
(但し、0.65≦α≦0.75、0.09≦β≦0.15、0.066≦α×β≦0.100、0.15≦γ≦0.35)の割合からなる主構成材料を混合する工程、
前記混合済みの主構成材料を、800〜1100℃の温度で1次仮焼する工程、
前記主構成材料100重量部に対し、Cu、B、Li、Bi、Vの単体ないし化合物およびそれらの混合物からなる群より選ばれてなる焼結助剤1〜5重量部を混合する工程、
前記混合済みの主構成材料および焼結助剤を、800〜1100℃の温度で2次仮焼する工程、
前記2次仮焼後の前記主構成材料と前記焼結助剤の混合物を粉砕する工程、
前記主構成材料と前記焼結助剤の混合物を成形する工程、
前記主構成材料と前記焼結助剤の混合物の成形体を850〜900℃で焼成する工程、
を含んでなる方法である。
【0011】
本発明の高周波用誘電体材料の製造方法は、好ましくは、前記焼結助剤として、少なくともBおよびLiの単体ないし化合物を含んでなる方法である。
【0012】
本発明の高周波用誘電体材料の製造方法は、好ましくは、前記主構成材料と前記焼結助剤の混合物の成形後に、前記成形体にAgまたはCu導体を形成し、その後焼成を行う方法である。
【発明の効果】
【0013】
このような本発明の高周波用誘電体材料により、AgやCuからなる導体と同時に焼成が可能であり、同時焼成しても実質的にAg等との反応や拡散による散逸が見られず、45を超える比誘電率とGHz帯で1000を超えるQ値、ゼロに近いTCF特性が得られるため、GHz帯を超える高周波で用いられる低温焼成積層セラミックス部品・基板用材料用高周波用誘電体材料が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明の実施形態について説明する。
【0015】
(混合比)
主構成材料の混合比
本発明の誘電体材料においては、主構成材料の混合比は、1モルのCaOに対する比率をα、βおよびγを用いて表現している。すなわち、主構成材料の混合比は、1モルのCaOに対し、Nb量が(1−α×β)/3モル、ZnO量が(1−α)/3モル、TiO量がγモル、LiO量がα×(1−β)/6モルであり、ここで、α、βおよびγは、0.65≦α≦0.75、0.09≦β≦0.15、0.066≦α×β≦0.100、0.15≦γ≦0.35の関係を有するものとする。
【0016】
前記αが小さい場合には比誘電率が低下する。前記αが大きい場合にはQ値が低下し、特に0.75より大きいと誘電体材料のQ値が1000以下となる。そこで、αは、0.65〜0.75とする。
【0017】
また、前記βが小さい場合には比誘電率が低下する。前記βが大きい場合には、TCF値がプラス側に大きく外れて絶対値が大きくなってしまう。そこで、βは、0.09〜0.15とする。
【0018】
さらに、α、β各々は上記の範囲内であっても、前記αとβとの積が小さい場合には、比誘電率が低下する。前記αとβとの積が大きい場合にはTCF値がプラス側に大きく外れて絶対値が大きくなってしまう。そこで、α×βは、0.066〜0.100とする。
【0019】
加えて、前記γが小さい場合には比誘電率が低下し(45に満たなくなり)、TCF値が大きくマイナス側に外れて絶対値が大きくなる。前記γが大きい場合にはQ値が低下し、TCF値がプラス側に大きく外れて絶対値が大きくなる。そこで、γは、0.15〜0.35とする。
【0020】
焼結助剤の混合比
本発明の誘電体材料においては、低温焼成による焼結を可能とするため、焼結助剤を添加する。Ag導体との同時焼成を実現するためには、900℃以下の温度で焼結することが望ましい。焼結助剤の量が少ない場合には低温焼成による焼結・緻密化が困難となり、焼結助剤の量が多い場合には、誘電体材料の特性値が悪化する。そこで、本発明においては、前記主構成材料100重量部に対し、焼結助剤としてCu、B、Li、Bi、Vの酸化物のうち1種また2種以上を、それぞれ、CuO、B、LiO、Bi、Vに換算して、合計で外割1重量部以上5重量部以下の量で含むものとする。
【0021】
(原料)
主構成材料の原料
本発明の誘電体材料においては、主構成材料であるCaO、Nb、ZnO、TiO、およびLiO、については、一般的な工業用原料である酸化物、炭酸塩、水酸化物等を用いることができる。このうちCaO源およびLiO源については、炭酸塩が原料保存中の経時変化が少ないため好ましい。Nb、ZnO、およびTiOについては、安価に入手できる酸化物であってもよい。
【0022】
焼結助剤の原料
本発明の誘電体材料においては、焼結助剤であるCu、B、Li、Bi、およびVについては、助剤成分の添加時には必ずしも酸化物である必要はなく、大気中における焼成後に、単独又は本発明の主構成材料との反応等で酸化物となるものであればよい。このような化合物としては、例えばLiでは、LiOやLiCO、LiOHが挙げられ、Bでは、酸化ホウ素Bやホウ酸HBO、六方晶窒化ホウ素h−BN、炭化ホウ素BCなどが挙げられる。h−BNの場合には、単独では850℃では酸化しにくいが、本発明の主構成材料と混合して850℃以上に加熱すると酸化物となり焼結助剤として機能する。
【0023】
焼結助剤としてLiを用いるときは、Li単独では焼結性向上効果があまりないが、他の焼結助剤例えばBと組み合わせると、十分な焼結性が得られ好ましい。他方、焼結助剤としてBを用いるときも、B単独では焼結性向上効果が高いとまでは言えないが、他の焼結助剤例えばLiと組み合わせると、十分な焼結性が得られ好ましい。
【0024】
なお、焼結助剤としてのLi量は、焼結後の誘電体材料からは、例えば主構成材料の組成から計算したα、βの値に基づきα×(1−β)/6を計算し、全体のLi量からこの量を差し引くことによって求めることもできる。
【0025】
(製造方法)
本発明の誘電体材料は、少なくとも主構成材料と焼結助剤を混合し成形して焼結することにより製造することができる。この際、適当な製造段階において、必要に応じ仮焼工程や粉砕工程を設けることもできる。
【0026】
具体的な本発明の誘電体材料の製造方法としては、例えば以下のような方法が挙げられるが、これに限定されるわけではない。
(1)順に、主構成材料の原料を混合する工程、仮焼工程、焼結助剤を混合しつつ粉砕する工程、成形工程、焼成工程を行う製造方法。
(2)順に、主構成材料の原料を混合する工程、仮焼工程、焼結助剤を混合する工程、2次仮焼工程、粉砕工程、成形工程、焼成工程を行う製造方法。
(3)順に、全成分の原料を混合する工程、仮焼工程、粉砕工程、成形工程、焼成工程を行う製造方法。
(4)順に、全成分の原料を混合する工程、成形工程、焼成工程を行う製造方法(仮焼なし)。
【0027】
このうち、予め主構成材料のみを混合、乾燥、仮焼し、その後焼結助剤を混合する方法(上記(1)および(2))は、主構成材料を1000〜1100℃程度の高温で仮焼することにより結晶性に優れた単一相とすることができ、その後焼結助剤を添加して低温で緻密化させることにより、高く安定な誘電体特性を容易に得ることができる点で好ましい。
【0028】
さらにこのうち(1)については、(2)と比べて工程は簡便ではあるが、焼結助剤の種類によっては、焼結助剤を混合しつつ粉砕する工程において、原料がスライム状となって成形困難となることがあるので、成型方法の限定や成形性確保の手段が必要になることがある。例えば、B源としてBやHBOを用いた場合、これがバインダ用の高分子ポリマーと重合してスライム状となりやすい。
【0029】
また、(2)については、(1)と比べて工程が増加するが、焼結助剤成分がある程度主構成材料と反応した状態になるので、焼結助剤の種類を問わず成形困難な状態が回避できる点で好ましい。
【0030】
(3)については、焼結助剤が混合されている状態で、仮焼を行うことになる。仮焼を例えば850℃以上の温度で行うと、仮焼後に硬くなり粉砕が困難になるため、その後の成形・焼成後の緻密性の確保が難しくなり、緻密化確保の手段が必要になることがある。他方、仮焼を例えば850℃以下の温度で行うと、優れた結晶性が得られにくく、高特性の誘電体を得られにくい。もっとも、工程が短く、焼結助剤の種類を問わず成形困難な状態が回避できる点では好ましい。
【0031】
(4)については、緻密で均一な高特性の誘電体は得られにくいものの、工程が一番短く簡便な点では好ましい。
【0032】
ここで、焼結助剤の少なくとも一部にLiを用いる場合には、主構成材料のみで仮焼した後に焼結助剤を混合する方法(上記(1)または(2)の方法)を採用すると、予め主構成材料と焼結助剤とを混合し、その後焼成する場合に比べ十分な焼結が容易となり好ましい。
【0033】
主構成材料同士の混合、あるいは主構成材料と焼結助剤との混合にあたっては、十分に混合できる限り、どのような方法を用いてもよい。また、仮焼後等の粉砕を兼ねてもよい。混合および/または粉砕に際しては、典型的には、ボールミル混合によることができ、また、ビーズミルやカウンタージェットミル等、従来公知の方法を用いることもできる。
【0034】
上記混合が湿式であった場合には、得られた混合物を乾燥させる。乾燥手段は特に限定されないが、一般的な乾燥手段、例えばスプレードライヤ、ロータリーエバポレータ等によって乾燥することができる。このうち、スプレードライヤを用いた場合は、より均質な原料粉末が得られるため好ましい。なお、混合や粉砕の溶媒として水を用い、かつ焼結助剤として水溶性の材料、例えばホウ酸(HBO)や炭酸リチウム(LiCO)などを用いた場合には、これら焼結助剤が水に溶解するのでフィルタプレスなどのように溶媒を系外に分離・排出する乾燥手段を用いないことが好ましい。また、溶媒として低級アルコールを用いた場合、リチウムやホウ素は加熱によりアルコールと反応してアルコキシドを形成し、溶媒乾燥時に溶媒とともに系外へ蒸発し、設計した添加量に満たなくなる場合があるので、このような組み合わせを回避することが好ましい。
【0035】
仮焼を行う場合には、好ましくは、800℃〜1100℃程度の温度で1〜4時間程度仮焼する。仮焼により、成分の均一性が向上し、また、収縮率の制御が可能となる点で好ましい。仮焼方法は、特に限定されないが、例えばアルミナ製の匣鉢等を用い、大気中で電気炉やガス炉にて仮焼を行うことができる。仮焼温度が800℃程度以下の場合には、原料によっては、原料同士の反応が少なかったり未分解の炭酸塩原料が残ったりして焼結後の緻密化が困難となり、所望の特性を得られなくなる場合がある。一方、仮焼温度が1100℃を超える場合には、仮焼後粉末が固くなり粉砕性が悪くなる場合がある。もっとも、(特に、原料が酸化物だけで構成されている場合等には)原料混合物を仮焼無しで成形し焼成してもよい。
【0036】
成形の方法は、特に限定されないが、セラミックス材料たる高周波用誘電体材料における一般的な成形手段、例えばドクターブレード法やスロットダイ法などによるシート成形法、その他公知の成型法を用いることができる。
【0037】
焼成に際しては、成形体に印刷し積層後同時に焼成する内装導体としてAgを用いる場合、焼成温度は高周波用誘電体材料の原料粉末が焼結する温度以上で、Agの融点以下とすることができ、典型的な焼成温度は、850〜900℃である。焼成雰囲気は、原料中に酸化物になるために酸素を必要とする化合物(例えばBNやBC等)がある場合は、大気等の酸素を含有する雰囲気とする。ここで、本発明の誘電体と同時に焼成されるAgペーストは特に限定されず、一般的な市販品を用いることができる。
【0038】
なお、導体としてAgの代わりにCuを用いた場合でもAgの場合と同様の効果を有する。Cuを導体として用いる場合は、焼成雰囲気を弱還元性雰囲気(N+H等)または不活性(中性)雰囲気(ArやNなど)にすることが好ましい。有機バインダを多く含む形態での焼成には、上記雰囲気ガスに水蒸気(露点で40℃〜60℃程度)を含ませれば脱バインダし易くなり好ましい。Cuを導体として用いる場合は、助剤成分としてBNやBCなど酸化物になるために酸素を必要とする化合物は焼結助剤として使用しないことが好ましい。
【0039】
(焼成体)
本発明の誘電体は、850〜900℃で焼成された場合、典型的には、主構成材料から構成される主たる結晶相は斜方晶ペロブスカイト型構造であり、CaNbOのXRDチャート(ICDDデータベースカード番号47−1668)と相似のチャートを示す。但し、hklで101面に相当する格子面間隔による回折ピークを与えるd値は上記カードの記載データよりわずかに大きく、202面、040面、123面のそれはカードのデータより小さい。121面のそれはほぼカードの数値と近しい。その他に若干の同定できない相を含むこともあるがいずれも少なく、ほぼ単一の相より構成されていると考えられる。
【0040】
図1に、本発明の誘電体のX線回折チャートの例を示す。この図1は、α=0.70、β=0.13、γ=0.27にした主構成材料を用い、この主構成材料に対し0.8重量部のBと1.7重量部のCuOを添加して、870℃×2hr焼成して得た本発明の誘電体材料を試料とし、リガク社の粉末X線回折計MiniFlex(X線管球のターゲット:Cu)によって測定されたX線回折チャートである。縦軸はシンチレーションカウンタにて測定された回折線の強さ(cps)であり、横軸はゴニオメータの角度(2θ /deg)である。なお、α、βとγの値によって主構成材料の結晶の単位格子の大きさがわずかに変化するため、チャート上の各ピークの位置は若干変化することになるが、ペロブスカイト型の結晶構造であることに変化はないので相似的な位置関係(チャートの形)に変化はない。
【0041】
図2は、本発明の誘電体材料を円盤状に一軸加圧した成形体(焼成前)表面にAgペーストを印刷し同時焼成した後の基板上に形成された微細なパターンの写真である。詳細には、α=0.70、β=0.13、γ=0.27で表される主構成材料100重量部に対し助剤としてB 1.1重量部+LiO 1.0重量部添加した、本発明の誘電体材料の焼成前の成形体上に、Agペースト(昭栄化学工業社製ML−4062)を印刷・乾燥した後870℃×2hrの条件で焼成した試料の表面を、実体顕微鏡にて撮影したものである。
【0042】
図3は、従来の誘電体材料を円盤状に一軸加圧した成形体(焼成前)表面にAgペーストを印刷し同時焼成した後の基板上に形成された微細なパターンの写真である。詳細には、45mol%ZnNb+55mol%TiOを主構成材料とし、主構成材料100重量部に対し助剤としてBを1.5重量部、CuOを2.0重量部添加した、従来の(特開2000−44341号公報)誘電体材料の焼成前の成形体上にAgペースト(昭栄化学工業社製ML−4062)を印刷・乾燥した後870℃×2hrの条件で焼成した試料の表面を、実体顕微鏡にて撮影したものである。
【0043】
本発明によって、典型的には比誘電率が45〜55、Q値が1000〜3000、TCFが−20〜+20の高周波用誘電体を得ることができる。
【実施例】
【0044】
(実施例・比較例第1群)
原料として炭酸カルシウム、五酸化ニオブ、炭酸リチウム、酸化亜鉛、酸化チタンの高純度微粉末を準備し、「CaO:1モルに対し、Nb:(1−α×β)/3モル、ZnO:(1−α)/3モル、TiO:γモル、LiO:α×(1−β)/6モル」の組成になるよう、表1に示すα、β、γに従って秤量した。各組成とも合計で55gとなるよう計算して秤量し、約1kgのジルコニア製ボール(φ3mm)及び150ccのイオン交換水とともに500ccのポリ容器に入れ、分速60回転にて16時間混合した。混合終了後、テフロンコートされたステンレスバットにスラリーを移し、130℃に保った恒温槽中で乾燥させた。乾燥後、乾燥物をアルミナ製乳鉢にて解砕し、目開き約100μmのナイロンメッシュで整粒してアルミナ製匣鉢に詰め、電気炉にて大気中1000℃−2時間の仮焼を行なった。仮焼後の粉末100重量部に第2酸化銅(CuO)を外割1.5重量部、酸化ホウ素(B)を外割1.2重量部となるよう加え、前記混合時と同じ条件で16時間粉砕し乾燥した。これにPVAとDBPを加え、ナイロンメッシュを通して造粒した。
【0045】
これを金型を用いて約φ20mm×9mmの寸法に成形し、アルミナ製セッターに載せて870℃−2時間の焼成を行なった。ネットワークアナライザを用い、摂動法により約3GHzでの比誘電率、tanδ及び共振周波数を測定した。測定は25℃と85℃の温度で行ない、共振周波数の変化量を共振周波数及び温度差(60℃)で除して共振周波数の温度係数TCFを求め、tanδからQ値を求めた。また、成形体表面にAgペーストを印刷して上述条件にて焼成し、光学顕微鏡にてAg導体の散逸状態を観察した。結果を表1に示す。
【表1】

【0046】
(実施例・比較例第2群)
実施例・比較例第1群と同じ原料粉末を用い、α=0.700、β=0.120、γ=0.27の組成で合計55gとなるよう各原料を秤量し、実施例・比較例第1群と同じ方法・条件で仮焼まで行なった。仮焼後の粉末に表2に示す割合(主構成材料100重量部に対する重量部であり、それぞれB、LiO、CuO、V、Biに換算した量で記載)で焼結助剤を加え、あとは実施例・比較例第1群と同様に粉砕、乾燥、造粒、成形し、表2に示す最高温度で2時間焼成した後に特性を測定した。結果を表2に示す。表2は酸化物の形態の式と、添加する時に実際に用いた化合物の式を併記してある。
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の高周波用誘電体材料のX線回折チャートである
【図2】本発明の誘電体材料を円盤状に一軸加圧した成形体(焼成前)表面にAgペーストを印刷し、同時焼成した後の基板上に形成された微細なパターンの写真である。
【図3】従来の誘電体材料を円盤状に一軸加圧した成形体(焼成前)表面にAgペーストを印刷し、同時焼成した後の基板上に形成された微細なパターンの写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CaO: 1モル、
Nb: (1−α×β)/3モル、
ZnO: (1−α)/3モル、
TiO: γモル、
LiO: α×(1−β)/6モル
(但し、0.65≦α≦0.75、0.09≦β≦0.15、0.066≦α×β≦0.100、0.15≦γ≦0.35)の割合からなる主構成材料と、
前記主構成材料100重量部に対し、さらにCu、B、Li、Bi、Vの酸化物およびそれらの混合物からなる群より選ばれてなる焼結助剤1〜5重量部、
とを含んでなることを特徴とする、高周波用誘電体材料。
【請求項2】
前記焼結助剤として、少なくともBおよびLiの酸化物を含んでなる、請求項1に記載の高周波用誘電体材料。
【請求項3】
CaO: 1モル、
Nb: (1−α×β)/3モル、
ZnO: (1−α)/3モル、
TiO: γモル、
LiO: α×(1−β)/6モル
(但し、0.65≦α≦0.75、0.09≦β≦0.15、0.066≦α×β≦0.100、0.15≦γ≦0.35)の割合からなる主構成材料を混合する工程、
前記混合済みの主構成材料を、800〜1100℃の温度で仮焼する工程、
前記主構成材料を粉砕しつつ、前記主構成材料100重量部に対し、Cu、B、Li、Bi、Vの単体ないし化合物およびそれらの混合物からなる群より選ばれてなる焼結助剤1〜5重量部を混合する工程、
前記主構成材料と前記焼結助剤の混合物を成形する工程、
前記主構成材料と前記焼結助剤の混合物の成形体を850〜900℃で焼成する工程、
を含んでなる、高周波用誘電体材料の製造方法。
【請求項4】
CaO: 1モル、
Nb: (1−α×β)/3モル、
ZnO: (1−α)/3モル、
TiO: γモル、
LiO: α×(1−β)/6モル
(但し、0.65≦α≦0.75、0.09≦β≦0.15、0.066≦α×β≦0.100、0.15≦γ≦0.35)の割合からなる主構成材料を混合する工程、
前記混合済みの主構成材料を、800〜1100℃の温度で1次仮焼する工程、
前記主構成材料100重量部に対し、Cu、B、Li、Bi、Vの単体ないし化合物およびそれらの混合物からなる群より選ばれてなる焼結助剤1〜5重量部を混合する工程、
前記混合済みの主構成材料および焼結助剤を、800〜1100℃の温度で2次仮焼する工程、
前記2次仮焼後の前記主構成材料と前記焼結助剤の混合物を粉砕する工程、
前記主構成材料と前記焼結助剤の混合物を成形する工程、
前記主構成材料と前記焼結助剤の混合物の成形体を850〜900℃で焼成する工程、
を含んでなる、高周波用誘電体材料の製造方法。
【請求項5】
前記焼結助剤として、少なくともBおよびLiの単体ないし化合物を含んでなる、請求項3または4に記載の高周波用誘電体材料の製造方法。
【請求項6】
前記主構成材料と前記焼結助剤の混合物の成形後に、前記成形体にAgまたはCu導体を形成し、その後焼成を行う、請求項3または4に記載の高周波用誘電体材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−284290(P2007−284290A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−113046(P2006−113046)
【出願日】平成18年4月17日(2006.4.17)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000006758)株式会社ヨコオ (158)
【Fターム(参考)】