説明

2次電池用負極、電極用銅箔、2次電池および2次電池用負極の製造方法

【課題】電子機器や産業機器、自動車などに搭載される、充放電可能な2次電池と、これに適した負極電極、並びに負極集電体を提供する。
【解決手段】粗面を有する銅箔を用いた集電体基材の片面または両面に、シリコン系活物質皮膜が形成されている、非水溶媒電解液2次電池用負極であって、前記シリコン系活物質皮膜の厚さは0.5μm以上6μm以下であり、前記シリコン系活物質皮膜表面の表面粗さRz(JIS B0601−1994 十点平均粗さ)が2μm以上20μm以下であり、前記シリコン系活物質皮膜表面の(SJIS B0601−1994 局部山頂の平均間隔)の3点平均値が0.005mm以上0.014mm以下であり、前記シリコン系活物質皮膜表面の(SmJIS B0601−1994 凹凸の平均間隔)の3点平均値が0.015mm以上0.040mm以下であることを特徴とする、非水溶媒電解液2次電池用負極である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2次電池に関し、特に非水溶媒電解液を用いるリチウムイオン2次電池と、これに用いられる負極電極とその製造方法、および負極用銅箔に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器のモバイル化と高機能化に伴い、駆動電源である2次電池は最重要部品のひとつになっている。特に、リチウム(Li)イオン2次電池は、用いられる正極活物質と負極活物質の高い電圧から得られるエネルギー密度の高さから、従来のNiCd電池やNi水素電池に替わり、2次電池の主流の位置を占めるに至っている。しかしながら、現在のLiイオン電池に標準的に用いられるコバルト酸リチウム(LiCoO)系正極活物質と黒鉛主体のカーボン系負極活物質の組み合わせによるLiイオン2次電池は、昨今の高機能高負荷電子部品の消費電力量を充分に供給することができず、携帯電源としては要求性能を満たすことができなくなっている。正極活物質の理論電気化学比容量は、一般に小さく、将来実用化を目指す物質にしても現在のカーボン系負極活物質の理論比容量よりも小さい値に止まる。
また、年々性能を向上させてきたカーボン系負極も理論比容量の限界に近付きつつあり、現用の正負活物質系統の組み合わせではもはや大きな電池容量の向上は見込めなくなっている。そのため、今後の更なる電子機器の高機能化と長時間携帯化の要求や、電動工具、無停電電源、蓄電装置などの産業用途、並びに電気自動車用途への搭載には限界がある。
【0003】
このような状況で、現状より飛躍的に電気容量を増加させることができる方法として、カーボン(C)系負極活物質に替わる金属系負極活物質の適用検討が行われている。これは現行のC系負極の数倍から十倍の理論比容量を有する、ゲルマニウム(Ge)やスズ(Sn)、シリコン(Si)系物質を負極活物質に用いるものであり、特にSiは、実用化が難しいとされる金属Liに匹敵する比容量を有するので、検討の中心となっている。ところで、2次電池に要求される基本性能は、充電により保持できる電気容量が大きいことと、充電と放電を繰り返す使用サイクルによっても、この電気容量の大きさをできるだけ維持できることである。初めの充電容量が大きくとも、充放電の繰り返しによって、充電できる容量や放電可能な容量がすぐに小さくなっては短寿命であり、2次電池として用いる価値は小さい。ところが、Siをはじめとする金属系負極ではいずれも充放電サイクル寿命が短いことが問題となっている。この原因に集電体と活物質との密着性の小さいことが挙げられ、これに対する対策として、集電体表面の形状を規定することや、集電体成分が活物質皮膜に拡散または合金化した構成が用いられている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−319408号公報
【特許文献2】特許3935067号公報
【特許文献3】特許3733069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜3に記載の発明においては、なお充放電サイクル特性の改善は不充分で実用化の目途は立っていない。また、基材集電体と金属系皮膜の拡散合金相はLiイオン電池において充電容量には寄与せず、せっかくの高比容量活物質の特性が低下するという欠点もあった。
【0006】
本発明は、Liイオン2次電池などに用いられようと検討されている、負極集電体上にSiなどの負極活物質を直接的に形成した負極電極と、これらを用いた2次電池に関し、充放電で高容量が得られ、しかもその繰り返しサイクルによっても容量の低下を従来よりも抑制できる負極電極と2次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは従来知見に捉われず、特にLiイオン電池用負極の充放電のサイクル数と容量、および負極材料構成形態について鋭意検討した結果、従来の集電体表面形状の知見(例えば、特許文献3参照)だけではサイクル特性が改善されない場合が多く、集電体表面に形成した活物質表面の形状が、大きくサイクル特性に影響することを見出した。所定のSi系負極活物質を有し、所定の表面形状を有する負極を用いることで、本来有する高い充放電容量が確実に得られる。また、集電体と活物質との良好な密着性のもとに、その負極表面形状から確保できる、Liイオンの活物質への挿入脱離可能な無数のミクロサイトにより、充放電サイクル寿命も長く維持され得る。本発明は、この知見に基づき成すに至ったものである。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)粗面を有する銅箔を用いた集電体基材の片面または両面に、シリコン系活物質皮膜が形成されている、非水溶媒電解液2次電池用負極であって、前記シリコン系活物質皮膜の厚さは0.5μm以上6μm以下であり、前記シリコン系活物質皮膜表面の表面粗さRz(JIS B0601−1994 十点平均粗さ)が2μm以上20μm以下であり、前記シリコン系活物質皮膜表面のS(JIS B0601−1994 局部山頂の平均間隔)の3点平均値が0.005mm以上0.014mm以下であり、前記シリコン系活物質皮膜表面のSm(JIS B0601−1994 凹凸の平均間隔)の3点平均値が0.015mm以上0.040mm以下であることを特徴とする、非水溶媒電解液2次電池用負極。
(2)前記集電体基材は、少なくとも活物質皮膜形成面が非平滑面または非光沢面であり、前記集電体基材の活物質皮膜形成面の表面粗さRz(JIS B0601−1994 十点平均粗さ)が2μm以上20μm以下であり、前記集電体基材の活物質皮膜形成面のS(JIS B0601−1994 局部山頂の平均間隔)が0.004mm以上0.015mm以下であり、前記集電体基材の活物質皮膜形成面のSm(JIS B0601−1994 凹凸の平均間隔)が0.015mm以上0.035mm以下であることを特徴とする、(1)記載の2次電池用負極。
(3)前記集電体基材と前記シリコン系活物質皮膜との間、または前記シリコン系活物質皮膜の上層の少なくとも一方に、リンまたはボロンを含有するシリコン層が1層以上形成されていることを特徴とする、(1)または(2)に記載の2次電池用負極。
(4)前記シリコン系活物質皮膜は、リンを含み、前記活物質皮膜全体に対するリン含有量が0.1原子%以上30原子%以下であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の二次電池用負極。
(5)前記シリコン系活物質皮膜は、さらに酸素を含み、前記活物質皮膜全体に対する酸素含有量が1原子%以上50原子%以下であることを特徴とする(4)に記載の2次電池用負極、
(6)前記集電体基材の活物質皮膜形成面上に、ニッケルを0.01〜0.5g/m含有する層または亜鉛を0.001〜0.1g/m含有する層の少なくとも一方が形成された耐熱性層または耐熱性バリア皮膜を有することを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の二次電池用負極。
(7)さらに前記耐熱性層の上層に防錆層および/またはシランカップリング処理層が形成されていることを特徴とする、(6)に記載の2次電池用負極。
(8)前記耐熱性層における前記亜鉛が単層亜鉛として存在することを特徴とする、(6)または(7)に記載の2次電池用負極。
(9)前記耐熱性層における前記亜鉛が前記集電体基材またはニッケル層に拡散していることを特徴とする、(6)または(7)に記載の2次電池用負極。
(10)(1)〜(9)のいずれか1項に記載の2次電池用負極に用いられ、日本工業規格で規定される表面粗さRz(JIS B0601−1994 十点平均粗さ)が2μm以上20μm以下の粗面またはこれと同等の粗面を有することを特徴とする電極用銅箔。
(11)(1)〜(9)のいずれかに記載の負極を用いたことを特徴とする非水溶媒電解液を用いた2次電池。
(12)前記非水溶媒電解液が、フッ素を含む非水溶媒を含有することを特徴とする(11)に記載の2次電池。
(13)粗面を有する銅箔を用いた集電体基材の片面または両面に、CVD(化学的気相成長)法またはEB(電子ビーム)蒸着法によって、シリコン系活物質皮膜を形成する工程を備え、前記シリコン系活物質皮膜の厚さを0.5μm以上6μm以下とし、前記シリコン系活物質皮膜表面の表面粗さRz(JIS B0601−1994 十点平均粗さ)を2μm以上20μm以下とし、前記シリコン系活物質皮膜表面のS(JIS B0601−1994 局部山頂の平均間隔)の3点平均値を0.005mm以上0.014mm以下とし、前記シリコン系活物質皮膜表面のSm(JIS B0601−1994 凹凸の平均間隔)の3点平均値を0.015mm以上0.040mm以下とすることを特徴とする、非水溶媒電解液2次電池用負極の製造方法。
(14)前記CVD法において、さらにフォスフィンガスを連続供給し、シリコン系活物質皮膜を形成する前記工程において、リンを含有するシリコン系活物質皮膜を形成することを特徴とする(13)に記載の2次電池用負極の製造方法。
(15)シリコン系活物質皮膜を形成する前記工程の後、大気酸化または熱処理により前記シリコン系活物質皮膜に酸素を導入する工程をさらに具備することを特徴とする(13)または(14)に記載の2次電池用負極の製造方法。
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の2次電池用負極は、銅箔を用いた集電体基材表面に形成するシリコン系活物質皮膜の厚さを規定し、その皮膜を形成した集電体基材表面の粗さ特性値を規定しているので、充放電時のLiイオンと活物質との反応サイトが確保される微細表面形状を有するため、障害無くLiイオンの挿入脱離が行われる。その結果、充放電の繰り返しによる長いサイクルを経ても、容量の低下割合が従来に比べて少ないという効果が得られる。活物質皮膜にはシリコンを含むので、高容量を有する。
また、CVD法や電子ビーム蒸着法によるシリコン系皮膜を用いるので、粗面にもかかわらず、均一均質な活物質皮膜を工業上経済的に形成することができる。また、シリコン系活物質皮膜の上層または下層に、リンまたはボロンを含有する層を形成すると、活物質の導電性が向上し、充放電に際してのLiイオンの合金化と脱離の移動が助けられ、特に高レートでの充放電に際して効果があると考えられる。シリコン系活物質皮膜にリンを含むと導電性が向上しLiイオンの挿入脱離がし易く、またさらに酸素を含有するとLiイオンの挿入脱離による体積変化を緩和するので、充放電サイクル寿命が向上する。
また、集電体を構成する銅箔上に、耐熱性と防錆能を有する層と、さらにシランカップリング処理層を形成すると、活物質形成までの経時劣化や製膜時高温の耐熱性を保持し、形成活物質皮膜と集電体表面との密着性が向上する。また、集電体成分の銅がシリコン系活物質皮膜へ拡散することを抑止するので、活物質と銅の拡散合金化による充放電容量の低下を防止し、本来有するシリコンの高い比容量を得ることができる。これら前記の負極を用いた2次電池は、高容量で長寿命を得ることができ、さらに用いる電解液の非水溶媒にフッ素を含有する電解液を用いると、充放電繰り返しによっても容量低下のより少ない2次電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の2次電池用負極の第1の実施態様を示す拡大模式断面図である。
【図2】本発明の2次電池用負極の第2の実施態様を示す拡大模式断面図である。
【図3】本発明の2次電池用負極の第3の実施態様を示す拡大模式断面図である。
【図4】本発明の2次電池用負極の第4の実施態様を示す拡大模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の2次電池用負極電極に用いられる集電体の基材(集電体基材)には銅箔が用いられる。充放電時にLiイオンの挿入脱離によって活物質が体積膨張収縮するので、180℃の高温時引張試験において破断に至る伸び率が3%以上有する銅箔を用いることが好ましく、充放電による伸縮に追従できる意味で、より好適には破断に至る伸び率が5%以上の銅箔を用いる。
さらには、集電体基材に使用する銅箔の引っ張り強度が300MPa〜1000MPa(1GPa)の範囲にあることが望ましい。シリコンなどの高容量が得られる活物質は、リチウムイオンとの合金化によって、2〜4倍の体積膨張を生じる。そのため、充電時の合金化では、集電体基材と活物質皮膜の界面において、活物質の体積膨張により銅箔を伸ばす応力や歪みが生じる。一方で、放電時の脱合金化では、銅箔を縮める応力や歪みが生じる。銅箔の強度が小さい場合には、この充放電繰り返しサイクルにより、銅箔にシワを生じ、ひどい場合には銅箔が破断する。つまり、サイクル寿命が小さくなる。一方、銅箔の強度が1GPaを超える場合には、銅箔が硬くなり過ぎ、かえって膨張収縮に追従できる伸び率が小さくなってしまう。
また、集電体基材に用いられる銅箔については、表面が平滑ではなく、また光沢を有さず、少なくとも活物質を形成する表面が粗面を呈する銅箔のみを用いる。これらの粗面は、銅箔の片面に形成されていても、両面に形成されていてもよい。銅箔には、電解銅箔と圧延銅箔の2種類があり、圧延銅箔の場合にはそれ自体は両面光沢を有する平滑箔に相当するので、少なくとも活物質を形成する面には、例えば、エッチングやめっき等による粗面化処理が必要である。電解銅箔の両面光沢箔の場合にも同様である。
圧延銅箔は、例えば、純銅材料を溶解鋳造し、得られる鋳塊を、常法により、順に、熱間圧延、冷間圧延、均質化処理、および脱脂する工程により、所定の箔厚に製造することができる。電解銅箔は、プリント回路用銅箔原箔を銅箔の基材とすることができ、ステンレス製やチタン製の回転ドラムを硫酸と銅イオンを主体とする酸性電解液中にその一部を浸漬還元電解することにより電着される銅箔を連続的に剥離、巻き取ることにより製造される。所定箔厚は電解電流とドラム回転速度の設定により得られる。電解銅箔の場合には電着面側(回転ドラム面側)は常に光沢平滑面であるが、電解液面側は粗面の場合と光沢平滑面の場合といずれの場合もある。粗面の場合にはそのまま本発明にも用いることが可能であり、比較的好適に活物質形成面に用いることができる。いずれの銅箔も、その両面に活物質形成する場合には、少なくとも片面の粗面化処理が必要になる。前記の粗面化処理のうち、エッチングでは塩素イオン含有電解液による交流エッチング、めっきではプリント回路用銅箔において従来用いられている硫酸銅系電解液による限界電流密度前後の電流密度を用いた電解銅めっきにより微小銅粒子を生成電着させる粗化処理を用いることができる。本発明の2次電池用負極の集電体に用いられる微細な表面形状を有する銅箔表面を得るには、特に後者が有効である。硫酸と銅を主成分とする水溶液において、通常の銅めっき液より銅濃度を低めに抑えた電解液に浸漬し、室温域で高めの電流密度にてカソード電解を行うことにより、微小銅粒子が銅箔表面上に還元生成、及び処理時間に応じて成長する(いわゆる、焼けめっき)。次いで、直ちに一般的な銅めっき、高めの銅濃度を有する硫酸銅系電解液を加温した一般的な低めか中程度の電流密度にて電解めっきを行い、直前の生成銅粒子を銅箔表面に固着電着させる。以上の2段階の電解処理における、銅濃度や成分、液温、および電流密度と電解時間等を調整することにより、微細表面形状を有する集電体用の銅箔を製造することができる。
【0012】
本発明負極において集電体銅箔上に形成される活物質は、シリコンを主体とする物質で構成され、少なくともシリコンを含むシリコン系活物質皮膜である。大面積製膜が経済的に可能な各種のCVD(化学的気相成長)法やEB(電子ビーム)蒸着法により均一で均質な皮膜を集電体表面上に形成することができる。前記の集電体粗面上に0.5μm〜6μm(単位面積あたりの質量で1〜14g/m)の厚さが形成され、皮膜形成後の表面粗さRz(JIS B0601−1994に示される十点平均粗さ)が2〜20μmを示し、粗面の局部山頂の間隔S(JIS B0601−1994)の3点平均値が0.005〜0.014mmであり、かつ、粗面凹凸の平均間隔Sm(JIS B0601−1994)の3点平均値が0.015〜0.040mmを有する粗面形状であることを必要とする。このような表面形状を有するシリコン系活物質皮膜を0.5〜6μm厚さに形成すると、本発明の効果が基本的に得られる。微細均一な凹凸粗面形状を有する活物質皮膜表面を維持しているので、Liイオンとの充放電の合金化・脱合金化反応に際して、大きな実表面積で反応することができ、充放電の繰り返しによっても大きな比容量の低下が少ないので、本発明の負極や負極集電体を用いた2次電池は、長期に亘って使用することができる。ここで、Rzの上限を20μmと規定するのは、活物質自体が小さな皮膜厚さで高容量を有するにもかかわらず、余りに大きな凹凸の高さを有する負極になれば、薄膜電極としての効果がなくなるためである。大きな凹凸は、大きな凹凸を有する負極電極自体の性能を落とすものではないが、2次電池の最終形態である円筒型や角型、或いはモジュール製品の場合には、全体の総容量が小さくなってしまう可能性があり、薄膜負極の効果を確保するために上限厚さを制限する必要がある。
【0013】
前記のシリコン系活物質皮膜を形成したのちの表面粗さを得るために、或いは本発明に適した2次電池用負極を得るために、集電体表面が少なくとも活物質を形成する表面の表面粗さRzが2〜20μmであり、前記の粗面の局部山頂の間隔Sが0.004〜0.015mmの間隔を有し、かつ粗面凹凸の平均間隔Smが0.015〜0.035mmを示す表面形状を有する集電体銅箔を用いることができる。その表面は粗面形状であり、平滑ではなく光沢も有しない。このような銅箔を用い、表面に前記の厚さのシリコン系活物質を形成することで本発明の負極が得られるが、集電体表面粗さと形成するシリコン系活物質皮膜の厚さの関係を考慮する必要がある。すなわち、小さな表面粗さを有する集電体銅箔表面に余りに厚い活物質皮膜を形成すると、銅箔粗面を平滑化することに繋がるので、形成後の表面粗さが小さくなることがあり注意を要する。厚めの皮膜を必要とする用途には、表面粗さの大きめの銅箔を集電体に用いる必要がある。しかしながら、Rzの上限を、前記同様薄膜電極としての目的から膜厚制限を設ける必要があり、活物質皮膜形成後と同じ20μm以下にする必要がある。他方、形成する皮膜厚さは、2次電池における実容量仕様を考慮しても決められる。薄過ぎては容量が小さ過ぎて現実的でなく、また厚過ぎると集電体粗面が平滑化されてしまい、充放電サイクル寿命が低下してしまう。無停電電源やエンジン始動補助電源、ハイブリッド自動車などの高出力用途2次電池に適用可能である下限として、0.5μm程度、また高エネルギーを必要とする高容量タイプ用途にも充分な実容量仕様を満たす、6μm程度が上限厚さとすることができる。従って、前記の形成活物質表面の表面粗さの範囲が得られるように、用いる集電体銅箔表面粗さと形成活物質皮膜厚さを考慮することにより設計される。
【0014】
本発明において、集電体銅箔上に直接的に形成される、シリコンを主体とする負極活物質皮膜は次のように形成される。ひとつの製膜方法にCVD(化学的気相成長)法が挙げられる。例えば、プラズマCVD(PECVD、特にはVHF使用)や触媒CVD(Cat−CVD,ホットワイヤCVD)が好適に用いられるほか、今後期待されるLPCVDや大気圧プラズマCVDを用いることも将来可能と思われる。また、蒸着法を用いることも可能であり、特には大面積製膜が可能な電子ビーム(EB)蒸着法が経済的であり好適である。主にCVD系製膜法に拠ったシリコン製膜層には水素化シリコンが含まれ、シリコン基の1または2の結合手に水素が結合したSiHまたはSiHが主に含まれ、その結合濃度は概略0.1〜12原子%程度であり、水素濃度として0.1原子%以上含まれる。製膜方法により、またその製膜条件、例えば、製膜温度とシリコン原料によって含有割合は相違し、主に基材集電体銅箔の保持温度とシリコン原料によって制御することができる。特に、PE−またはCat−の各CVD法においては、主原料のモノシランガスの供給量や、加えることができる水素ガスの供給割合によっても制御することができる。水素化シリコン、シリコンへの水素基の導入によって、シリコン単体の場合に比較して、柔軟性に優れる構造となり、負極活物質であるシリコンが、充電時にLiイオンを受け入れ合金化する際の体積膨張に対して、シリコン系皮膜自体が割れや欠陥を生じてイオンの移動や導電経路が断たれたり、その一部が集電体から脱離したりするのを抑止することができるようになる。さらに、水素化シリコンは、シリコン系皮膜に不可避的に存在する未結合手(ダングリングボンド)の欠陥を水素終端しているので、不安定なシリコン欠陥の減少に繋がり、前記の導電経路に欠陥が生じるのを抑止する。シリコン系活物質はシリコンを主体とし、前記の水素のほか不可避的に含まれる物質から成り、特に何らかの特性向上効果を生ずる場合のほかは、原則として合金化成分など他の元素は含まないことが望ましい。
【0015】
本発明においては、さらにシリコン系活物質皮膜の下層または上層の少なくとも一方に、リンまたはボロンを含有する層を形成すると、シリコン自体の乏しい導電性が向上し、充電時のLiイオンのシリコンとの合金化、および放電時のLiイオンの脱離時の層内外への移動を容易にする。特に、シリコン系皮膜の下層にリンを形成し、かつ上層にボロンを形成すると、充電時Liイオンのシリコン系皮膜への侵入合金化が充分に行われる。また、シリコン系皮膜下層にボロンを形成し、かつ上層にリンを形成した構成は、充電後にシリコン系皮膜と合金化して存在するLiイオンを、放電時のLiイオンのシリコン系皮膜からの脱合金化による放出を容易にし、放出できずシリコン系皮膜内に残存して、充電しながら放電できない電気量の損失、不可逆容量を生ずるのを抑止する。シリコン系皮膜自体の導電性を規定するものではないが、瞬時に高出力放電を必要とする用途や高速充電時などの高レート条件を考慮すると、10−2S/cm以上の導電性を有することが望ましい。シリコン系皮膜自体にリンやボロンをドープして導電性を上げることも可能である。リンやボロンをドープしたシリコン系皮膜、及び上層にリンまたはボロンを形成したシリコン系皮膜は、シリコンの酸化膜生成を抑制するので、酸素とLiイオンの結合による不可逆容量の増加、すなわち充放電容量低下を防ぐことができる。
【0016】
他方、リンをドープしたシリコン系皮膜に酸素を含有させると、初期の充放電効率は低下するものの、充放電繰り返しのサイクル寿命が向上する。前記のリンの効果に加え、酸素の導入またはシリコンの酸化によって、充放電時リチウムの合金化、脱合金化による体積変化が抑制される効果と推定される。シリコン系皮膜全体に対するリンの含有量は0.1原子%以上30原子%以下が望ましく、好ましくは0.5原子%以上10原子%以下である。リンが0.1原子%未満では導電性向上やLiイオンのシリコン中への侵入、脱離への効果発現が小さく、30原子%を超えるとシリコンに対して過剰な導入量となり過ぎて、リン自体のLiイオンとの挿入脱離まで生じることもあり、却って挿入脱離に障害を生ずるようになる。
シリコン系皮膜全体に対する酸素の含有量は1原子%以上50原子%以下が好ましく、充放電効率とサイクル性能やリン濃度との関係から選択される。1原子%未満ではLiイオンの挿入脱離による体積変化抑制効果が認められず、50原子%を超える導入濃度では、シリコン量に対して過剰となり過ぎて、活物質の厚さや体積増大、充放電容量が小さくなったり、或いは酸素とLiイオンとの結合量増加による初期不可逆容量が大きくなって、正極とのバランスが崩れて、二次電池とすることができない。
【0017】
シリコンにリンをドープするには例えばフォスフィンガスなどを、ボロンをドープする場合にはジボランなどの原料ガスを、前記のモノシランガスなどのシリコン原料ガスや水素の供給量を基準に、含有濃度に応じて同様に連続供給させながら製膜することができる。
【0018】
また、前記のシリコン系皮膜、或いはリンやボロンを含有するシリコン系皮膜を、大気酸化や酸素量を制御した雰囲気中で熱処理することにより酸素をシリコン系皮膜に導入させることができる。酸素量と熱処理温度、処理時間は含有させたい酸素濃度に拠る。
また、他の酸素を導入したシリコン系皮膜の製膜方法として、スパッタリングや酸素を導入した真空蒸着などに拠ることもできる。Siをターゲットとするスパッタリング装置や蒸着装置を用いて、製膜領域の雰囲気をアルゴン(Ar)と酸素(O)のガス濃度により調整制御することにより、所望の酸素量を含有する反応性スパッタリングSi膜や蒸着膜を形成することができる。さらには、SiOを直接ターゲットとするスパッタリングや蒸着によって、酸素含有割合を制御したSi膜を製膜することも可能である。この場合には、SiOと共にSi単体やSiOのターゲットも酸素濃度制御のために用いることができる。また、前記の製膜領域における雰囲気の酸素ガス濃度制御を併用することで、さらに微量の酸素濃度含有Si製膜制御が可能となる。
【0019】
本発明負極において、シリコン系活物質皮膜の下層、または集電体銅箔粗面上に、耐熱性を有し、かつ防錆、並びにシランカップリングの各処理層を形成すると、活物質形成までの経時劣化や製膜時高温の耐熱性を保持し、活物質皮膜と集電体表面との密着性が向上する。また、集電体成分の銅と活物質の拡散合金化を抑制するので、これによる充放電容量の低下を防止することができる。
【0020】
当該耐熱性層は、集電体基材の成分である銅と負極活物質であるシリコンが相互に混じり合うことを抑制する、両者の間に形成される少なくとも1層の皮膜であり、銅箔表面を覆う。好適には、銅箔表面上に少なくともニッケルを含有する耐熱皮膜が形成される。自身拡散せず、物理的遮蔽層として機能するニッケルを含有する層を形成することで、シリコン系皮膜製膜時の高温暴露や長期経時における、集電体基材の成分である銅の活物質中への拡散を抑制する耐熱性が達成される。前記の耐熱性層がニッケルを含む量が0.01〜0.2g/mであることが望ましく、少なくては耐熱性に劣り、多過ぎては集電体の銅箔表面の粗面形状を平滑化してしまい、活物質との密着性を却って低下させてしまうためである。また、銅箔粗面上か、または前記ニッケルの上層に、少なくとも亜鉛を形成する方法も好適である。亜鉛は、銅箔面上層に拡散しているか、または亜鉛単層で銅箔面上またはニッケル皮膜上に存在している。亜鉛は極めて容易に銅に拡散合金化し、またはニッケル上に存在し、銅やニッケルの酸化、特に高温酸化を防止する耐熱性を付与することができる。その総量は少な過ぎては前記の効果が小さく、多過ぎては銅やニッケルの集電性を低下させたり、上層皮膜との間に濃化して却って密着性を低下させる場合があり、好適には0.003〜0.05g/mの範囲である。亜鉛は前記のように銅やニッケルへの拡散や表層への存在によって耐熱性を付与するが、亜鉛が多過ぎると、上層活物質層への亜鉛自身の拡散もあるので、考慮が必要である。また、亜鉛形成後にニッケルを含む層を形成する組み合わせも好適である。なお、ニッケルと亜鉛の形成方法は、湿式法や乾式法などの各種の成形方法を用いることが可能であるが、経済性と均一均質皮膜が電解条件によって容易に得られるため、公知の硫酸浴等を用いた電気めっき法が推奨できる。
また、本発明において、耐熱性層に代えて、耐熱性バリア皮膜を使用してもよい。耐熱性バリア皮膜は、ニッケルを0.01〜0.5g/m含有する層または亜鉛を0.001〜0.1g/m含有する層の少なくとも一方を有する。
【0021】
耐熱性バリア皮膜は、銅箔表面を覆い、集電体銅箔上に形成するシリコン製膜時の高温や、2次電池として使用される間の環境温度と長期経時に対しても、集電体成分の銅のシリコン活物質中への拡散合金化を抑止または防止する皮膜と定義できる。銅の拡散を抑え、或る程度汎用的な耐熱性元素としては、亜鉛やニッケル、コバルト、スズなどがある。スズのようなリチウムと合金化する元素を用いる場合には、それ自体が活物質として機能するので注意が必要になり、銅とも容易に拡散化合物を形成していく。当該耐熱性バリア皮膜は、少なくともニッケル主体または亜鉛主体の層から構成される層である。耐熱性バリア皮膜として、集電体基材成分である銅の活物質皮膜への拡散を防止する機能目的の場合には、銅箔上に亜鉛を形成し、その後にニッケル層を形成することが望ましい。これにより形成された亜鉛自体の活物質皮膜への拡散も抑えることができる。コバルトは、本発明におけるニッケルと同様の合目的機能特性を有するが、ニッケルよりさらに高コストになり、経済性に劣る懸念がある。
【0022】
さらに、前記の耐熱性バリア皮膜の好適な例としては、銅箔表面上に少なくとも亜鉛が形成され、銅箔面上層に拡散しているか、または亜鉛単層で銅箔面上に存在している。亜鉛は極めて容易に銅に拡散し、銅の酸化、特に高温酸化を防止する耐熱性を付与することができる。その総量は少な過ぎては前記の効果が小さく、多過ぎては銅の集電性を低下させたり、上層皮膜との間に濃化して却って密着性を低下させたりする場合があり、0.001〜0.1g/mの範囲に形成した方が望ましく、さらに好適には0.003〜0.07g/mの範囲である。さらに、亜鉛の上層にはニッケルを含有する耐熱皮膜が形成された構成が良好である。亜鉛は前記のように銅への拡散によって耐熱性を付与するが、その形成量が小さい場合には、上層の活物質層への銅および亜鉛自身の拡散防止の点で不充分であり、大きい場合には活物質層への拡散を生じて、充放電容量の低下を招く場合がある。また、自身は拡散し難い物理的バリア皮膜として機能するニッケルやコバルトなどの含有層を形成すると、集電体成分の銅などを活物質中へ拡散させない耐熱バリア性が向上する。例えば、前記の耐熱性バリア皮膜は、ニッケルの含有量が0.01〜0.5g/mであることが望ましく、少なくてはバリア性に劣り、厚過ぎては集電体銅箔表面の粗面形状を平滑化してしまい、活物質との密着性を低下させてしまうほか、皮膜割れを生じる可能性もあり、この場合には導電性と集電性を劣化させサイクル寿命を短くする。さらに、亜鉛とニッケル等の適度な形成量の組み合わせを用いることができる。なお、亜鉛とニッケル皮膜の形成方法は、前記耐熱性層同様に、公知の硫酸浴等を用いた電気めっき法が推奨できる。
【0023】
前記の耐熱性層上、前記の耐熱性バリア皮膜上か、または集電体銅箔粗面上に形成される防錆処理層は、有機皮膜や無機皮膜誘電体によるパッシベーション機能を有する薄層が用いられる。防錆層は、集電体銅箔製造から活物質皮膜形成までの間の、銅箔の環境劣化を防止すると共に、活物質製膜時における耐熱性にも資する。有機皮膜としては、伸銅品や圧延銅箔などに用いられるトリアゾール類のベンゾトリアゾールやトリルトリアゾールのほか、チアゾール類、イミダゾール類、メルカプタン類、トリエタノールアミン類、などの水溶液またはアルコール含有溶媒に浸漬して得られる形成有機薄層が好適である。無機皮膜としては、クロム酸塩や重クロム酸塩の水溶液に浸漬、または電解処理によるクロメート薄層が好適に用いられ、有機薄層と異なり耐熱性も良好である。
【0024】
さらに、前記の防錆処理層上か、または耐熱性層上、或いは集電体粗面上に、シランカップリング処理層を形成すると、耐熱性処理層や集電体とシリコン系活物質皮膜との密着性と耐食性が向上する。シランカップリング処理は、一般に、シランカップリング剤を溶解した水溶液に、前記の耐熱性や防錆の処理層を形成した集電体用銅箔を浸漬して行われる。シランカップリング剤は、その化学構造置換基から耐熱性や防錆層に応じて好適なものを選択する。特には、クリロキシ系やエポキシ系などのシランカップリング剤が推奨される。
【0025】
以上の本発明における負極、または集電体を用いた負極で構成される2次電池は、容量が高く、充放電の繰り返しサイクルによっても充放電容量が低下しない特性が得られる。2次電池を構成する非水溶媒を用いる電解液に、フッ素を含有する非水溶媒を用いるか添加すると、さらに充放電による繰り返しを経ても容量が低下しない期間が延びて長寿命となる。フッ素含有溶媒は、充電時のLiイオンとの合金化によるシリコン系皮膜の体積膨張を緩和するので、充放電による容量低下を抑制することができる。フッ素含有非水溶媒にはフッ素化エチレンカーボネートやフッ素化鎖状カーボネートなどを用いることができる。フッ素化エチレンカーボネートにはモノ−テトラ−フルオロエチレンカーボネート(4−フルオロ−1、3−ジオキソラン−2−オン、FEC)が、フッ素化鎖状カーボネートにはメチル2,2,2−トリフルオロエチルカーボネート、エチル2,2,2−トリフルオロエチルカーボネートなどがあり、これらを単一または複数併用して電解液に添加して用いることができる。フッ素基は、シリコンと結合し易く強固でもあるので、Liイオンとの充電合金化による膨張の際にも皮膜を安定化させ膨張の抑制に寄与することができるとみられる。このように、本発明による負極、負極集電体、並びに非水溶媒電解液2次電池は、長期間に亘ってモバイル電子機器の駆動電源や電動工具ほかの産業用途に、或いは高エネルギーを必要とする電気自動車用途などに用いることができる。
【0026】
以下に本発明の2次電池用負極の好ましい実施態様を、図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、これらの実施態様に限定されるものではない。
【0027】
図1は、本発明負極の第1の実施態様を示す拡大模式断面図である。
集電体銅箔原箔1の山状粗面を、新たに粗面化処理をすることなくそのまま集電体基材として用いる。この表面に耐熱性層と防錆処理層またはシランカップリング処理層2を形成したのち、シリコン系活物質皮膜3が設けられている。
【0028】
図2は、本発明負極の第2の実施態様を示す拡大模式断面図である。
集電体銅箔原箔1の山状粗面に、さらに微細銅粒子4による粗面化処理を施したものを集電体基材として用いる。この表面に耐熱性層と防錆処理層またはシランカップリング処理層2を形成したのち、シリコン系活物質皮膜3が設けられている。
【0029】
図3は、本発明負極の第3の実施態様を示す拡大模式断面図である。
集電体銅箔原箔5の両面平滑または光沢の片方の面に、さらに微細銅粒子4による粗面化処理を施したものを集電体基材として用いる。この表面に耐熱性層と防錆処理層またはシランカップリング処理層2を形成したのち、シリコン系活物質皮膜3が設けられている。
【0030】
図4は、本発明負極の第4の実施態様を示す拡大模式断面図である。
集電体銅箔原箔5の両面平滑または光沢の両方の面に、さらに微細銅粒子4による粗面化処理を施したものを集電体基材として用いる。この両方の粗面化表面に耐熱性層と防錆処理層またはシランカップリング処理層2をそれぞれ形成したのち、それぞれの面にシリコン系活物質皮膜3が設けられており、図3の片面皮膜構成を両面に構成した形態である。なお、図3、図4では、微細銅粒子4は一層のみ積層して描かれているが、実際に粗面化処理を施すと、微細銅粒子4は複数層に積層することが多い。
【0031】
図1、図2、図3、および図4に示した本発明の2次電池用負極は、集電体基材を構成する所定の粗面を有する銅箔上に、耐熱性層と防錆処理層またはシランカップリング処理層を設けたのちに、シリコン系活物質皮膜を形成しているので、集電体基材中の銅成分が活物質に拡散合金化することなく良好な密着性を有するので、本来シリコンが有する高い容量を充放電に際して得ることができる。
【実施例】
【0032】
実施例1〜35、および比較例1〜8
以下に、本発明を実施例により詳細に説明する。本実施例では図1〜3に説明した片面皮膜構成の本発明例を示すが、これらに限定されることはなく、例えば、片面の皮膜形成処理を両面に施した、図4の両面皮膜形成形態においても同様に実施することができる。
【0033】
(1)実施例と比較例の試料作製
まず、試験評価用の本発明によるシリコン系負極試料と、これに用いる負極集電体、および比較に用いるシリコン系負極試料を以下のように作製した。
集電体銅箔に用いる銅箔原箔(表面処理していない銅箔基体)には、各種厚みの圧延銅箔(日本製箔製)と電解銅箔(古河電工製)を用いた。圧延箔原箔は両面光沢タイプ12μmを、電解箔原箔は両面光沢タイプの12μm、並びに片面光沢タイプ12μmと18μmを使用した。これらの原箔の表面を粗面化する場合には、プリント回路用途銅箔において公知の硫酸銅系水溶液を用いた銅めっきである(a)銅微粒子成長めっき(限界電流密度以上か、それに近い高電流密度で行う、いわゆる焼けめっき)と(b)通常の銅平滑状めっき(付与微粒子が脱落しないように限界電流密度未満で行う、一般の銅めっき)、による粗化処理を行った。また、耐熱性層を設ける処理として、(c)公知の硫酸ニッケル系めっき液を用いたニッケルめっき、または(d)公知の硫酸亜鉛系めっき液による亜鉛めっきを実施した。さらに、防錆処理には(e)ベンゾトリアゾール水溶液への浸漬か、(f)三酸化クロム水溶液中での電解を用い、密着向上処理には(g)シランカップリング剤水溶液への浸漬処理とした。これらの銅箔を集電体として用いるため、シリコン系活物質を製膜する前に3ヶ月間室内保管をした。なお、これら集電体用銅箔の180℃に5分間保持しての伸び率をテンシロン試験機による引張試験にて測定し、表面粗さ(Rz、S、Sm)をJIS B0601(1994年版)に従った触針式粗さ試験機(小坂研究所製)にて測定した。耐熱性層のニッケルと亜鉛量は、単位面積当たりの試料表面皮膜を溶解した水溶液をICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析することにより測定した。シリコン系活物質皮膜の製膜を、下記(h)〜(l)の方法により実施し、実施例1〜35、比較例1〜8とした。シリコンの製膜は、予め求めた製膜速度に基づいた製膜厚さと製膜時間の関係から各試料に付き、所定時間製膜を行い、製膜後にサンプル断面のSEM(走査型電子顕微鏡)像観察から確認を行った。また、シリコンの製膜前後での単位面積当たりの質量測定から、負極活物質であるシリコン製膜量を求めた。そして、製膜したシリコン系皮膜をFT−IR(フーリエ変換赤外分光光度計)を用いた分析から、水素の結合状態分析を行った。さらに、製膜後のシリコン系活物質表面の表面粗さ(Rz、S、Sm)を、前記同様に触針式粗さ試験機にて測定した。以上の、各試料に用いた集電体銅箔の仕様を表1に、また製膜前の室内保管後の外観異常と製膜仕様を表2に、それぞれ後掲した。実施例19の基材を用いて、下記(h)のリンドープシリコン製膜条件により製膜厚さを変えた実施例36〜39を作製したのち、下記(m)の方法により酸素を導入した。後掲の試験評価結果と共に表4に示した。シリコン系活物質へ含有させたリンや酸素は前記のICP分析に拠った。
【0034】
(a)粗化処理の焼けめっき:銅30g/dm、硫酸150g/dmを主成分とする電解液中で、加温することなく、電流密度10〜20A/dmの範囲において、電解時間と共に適宜選択し、予め決定した所定の表面形状を得る条件によりカソード電解した。
【0035】
(b)粗化処理の平滑状銅めっき:銅70g/dm、硫酸100g/dmを主成分とし液温40℃に保った電解液中で、電流密度5〜10A/dmの範囲において、予め(a)の条件と共に決定した所定の表面形状を得る電解時間と共に適宜選択した条件によりカソード電解した。
【0036】
(c)ニッケルめっき液:硫酸ニッケル(6水和物)160g/dm、ホウ酸30g/dm、1A/dm、の条件にて形成量に応じた時間を選定してカソード電解した。
【0037】
(d)亜鉛めっき:亜鉛10g/dm、pH12、0.1A/dm、の条件にてめっき量に応じためっき時間を適宜選択してカソード電解を行った。
【0038】
(e)防錆処理1:1重量%ベンゾトリアゾール水溶液への浸漬
(f)防錆処理2:70g/dm三酸化クロム水溶液、pH12、1C/dm、カソード電解
(g)シランカップリング処理:クリロキシ系シランカップリング剤(信越化学製)4g/dm水溶液への浸漬
【0039】
(h)シリコン製膜法1、及びシリコンへのリンまたはボロンドープ方法:Cat−CVD装置(アネルバ社製、放電周波数13.56〜40MHz)により、モノシランガス20sccm(Standard cc/min.:標準条件体積流量)、集電体温度250℃、タングステン線触媒体温度1800℃、を基本条件として、製膜厚さに応じて適宜製膜時間を選択した。リンをドープしながら製膜する場合にはフォスフィンガス10sccmを、またボロンをドープする場合にはジボランガスを、それぞれモノシランガスと同時に供給しながら製膜した。またシリコン系皮膜の上層または下層に、リンまたはボロンを含有する層を形成する場合には、前記のリンまたはボロンをドープする製膜方法に拠って製膜した。さらに、試料によっては水素ガスをシランガスと同量程度供給して製膜した。

(i)シリコン製膜法2:シャワーヘッド構造のプラズマ電極を備えた平行平板型CVD(PECVD)装置(放電周波数60MHz)により、水素希釈10%のモノシランガス100sccm供給流量、集電体温度200℃、にて製膜した。
(j)シリコン製膜法3:電子ビーム(EB)ガンとシリコン蒸発源を備えた蒸着装置(アルバック社製)により、高純度シリコン原料をEBにより200W加熱昇華させて集電体上に堆積させた。
(k)シリコン製膜法4:高純度シリコン原料、スパッタカソードを備えたスパッタリング装置(アルバック社製)により、アルゴンガス(スパッタガス)80sccm、高周波出力1kWにて集電体上に付着形成させた。
(l)シリコン製膜法5:高純度シリコン原料、抵抗加熱源を備えた真空蒸着装置(アルバック社製)により、原料を抵抗加熱溶融揮発させて製膜させた。
【0040】
(m)酸化処理:大気中100℃にて加熱処理を導入酸素濃度に応じて所定時間実施した。
【0041】
(2)試料の試験評価
次に、前記のように作製した、本発明によるシリコン系負極試料、および比較に用いるシリコン系負極試料の試験評価を、次のように実施した。
前記の負極試料を20mm径に打ち抜き、これを試験極とし、リチウム箔を対極と参照極に用いた3極式セルを、非水溶媒電解液に、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)を3:7の容量比の溶媒に、1Mの六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を溶解させた電解液を用いて、湿度7%以下の乾燥雰囲気25℃に密閉セルとして組み立てた。但し、一部の実施例では、フッ素をその化学構造に含む非水溶媒である、フルオロエチレンカーボネート(FEC)とメチルトリフルオロエチルカーボネート(MFEC)を1:3の容量比を有する溶媒を用いた。初回充電処理は、0.1Cレート定電流で、リチウムの酸化還元電位を基準として+0.02Vの電位まで行い、このとき得られた初回充電容量を各試料に付き試験測定し、活物質シリコンの単位質量当たりに換算した。これに続く、初回放電処理には、0.1Cレート定電流で、前記の同じリチウム電位基準に対して1.5Vまで放電させ、同様にその初回放電容量をそれぞれに付き測定し、シリコン単位質量当たりに換算した。また、先に測定しておいたシリコン活物質の製膜質量と放電電流量から、初回の実放電容量値を求めた。初回充放電処理終了後に、充放電レートを0.2Cとして、前記の初回充放電処理の各終了電位まで、充放電を繰り返すサイクルを50回実施した。50サイクル終了時の放電容量をそれぞれの試料に付き求め、単位質量当たりに換算した。以上の、初回の充放電容量と実放電容量値、並びに50サイクル後の放電容量値を、各試料について表3に示した。実施例18、19、36〜39のサンプルについては、充電容量を1000mAh/gに規制して、前記同様に放電させる容量規制による充放電サイクル試験を1千サイクル実施して、表4に示した。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

【0045】
【表4】

【0046】
以上の試料作製と試験評価から、以下のことがわかる。
各試料の初回充電容量、放電容量、並びに50サイクル後の放電容量を比較すると、実施例による試料の充放電特性が良好であることがわかる。例えば、圧延銅箔を用いた実施例1と比較例1では、表面粗さRzが1.8μmと小さい比較例では密着性に劣り、活物質の充放電繰り返しの体積膨張収縮による集電性等の劣化を生じたものとみられ、50サイクル後の容量が600mAh/gを割る結果になっている。他方、同じ両面光沢箔の電解箔を用いたRz2.2μmの実施例2の場合には、50サイクル後も1000mAh/g以上となっている。
【0047】
耐熱性層として少なくとも一部に形成したニッケル層と亜鉛層の形成量と評価については、主に実施例3〜14の比較から判明する。いずれの皮膜も形成しない実施例14では、集電体成分の銅が活物質皮膜に拡散合金化し、初回の充放電容量が2000mAh/g程度の他と比較すると低い値であり、50サイクル後の容量も700mAh/gを割っている。ニッケル単層の場合、実施例10の0.008g/mでは銅の少量拡散が残り、実施例11の0.012g/mでは起こっていないので、0.01g/m以上を形成すると良い。厚く形成し過ぎると皮膜割れを生じる可能性があり、実施例12〜13ではサイクルを重ねると容量低下も示しているので、上限は0.2g/m以下が好ましい。0.003g/m以上の亜鉛層と組み合わせる場合には、0.01g/m以下のニッケル量でもよく、実施例8〜9の比較からわかる。また、実施例4〜7にみられるように、亜鉛量が多い場合には、亜鉛の拡散による活物質容量低下する傾向も認められるので、2層形成のニッケル量は0.01g/m以上が望ましい。また、0.03g/m程度に亜鉛量を高めた単層皮膜も有効であるが、過ぎると容量低下を示すので0.05g/m程度を上限とした方が良い。
【0048】
次に、防錆処理とシランカップリング処理の効果について、実施例15〜17、およびこれら以外の例との比較から判明する。いずれも行わない実施例15では製膜までの室内保管で錆が発生し、充放電特性も劣っている。他方、防錆処理だけを実施した実施例16は良好な充放電特性を示し、密着向上処理だけを施した実施例17は初回充放電容量が低めで、斑点変色も発生したが、サイクル終了後には700mAh/g以上の容量を有した。製膜までに長期在庫の可能性のある場合に備え、防錆処理またはシランカップリング処理も実施する方が好ましい。また、実施例1の有機系誘電体皮膜であるベンゾトリアゾールによる防錆処理も、クロメート処理層と同様に防錆効果を示し充放電特性も良好であった。
【0049】
シリコン系活物質の皮膜形成量については、比較例2の薄過ぎる場合には、単位質量当たりの充放電特性値として問題なくとも、一般的に機器に必要な電気量の絶対値である実容量には小さ過ぎる例であり、例えば、電子機器において必要な約5mAhの6分の1程度の容量に止まり、さらには不可逆容量によると推定するサイクル後の放電容量の低下もみられる。また、本発明において活物質皮膜を6μmに上限を設定するのは、比較例3に示す6.5μmの厚過ぎる製膜仕様において、表面粗さの小さめの集電体を用いる場合には、その表面粗さをさらに小さくし、また特定する微細表面形状を平坦化することから、充放電サイクル特性を劣化させるためである。実施例18の5.6μm厚さでは700mAh/g近くあり、6μmを越えた前記の例より2倍以上優れるためでもある。
【0050】
シリコン系皮膜を形成したのちの表面形状と評価について示す。表面粗さSとSmの下限について、前記の比較例1と実施例2から、前記のRzと共に、Sが0.005以上、Smが0.015以上であると、50回繰り返し後の容量が1000mAh/gを越えており、良好である。また、上限については、比較例4〜5と実施例19〜20、および実施例32と実施例34、の比較から良否を評価することができる。Rzが2を越え、Sが0.014を示す実施例32以外の例の中で、Smが0.040以下である実施例19と実施例34のみが50サイクル後に1000mAh/gを越える高い容量を保持した。Smが0.040以下でもSが0.014を僅かに超える実施例32は1000mAh/gを少し下回る容量を示した。他の通常の耐熱成層と防錆層等を有し、前記のSとSmの範囲内を示す例でも同様に1000mAh/gを越える、繰り返し充放電後の容量を示している。従って、良好な充放電容量を得るためのシリコン系皮膜形成後の負極表面形状は、Rzが2μm以上で、かつ、Sが0.005から0.014の範囲にあり、かつ、Smが0.015から0.040を示す形状が優れるとみられる。
【0051】
シリコン系皮膜を形成する前の集電体銅箔表面の形状を示す粗さは、下限については、前記の比較例1と実施例2から判明する。Rz、S、Sm共に、小さ過ぎては前記のシリコン系皮膜形成後の所定の粗さを下回ってしまうためである。上限も、前記の比較例4〜5と実施例19〜20、および実施例32と実施例34、から、大き過ぎてはシリコン系皮膜を形成後に前記の所定の粗さを超える場合が多くなるためであり、Sは0.015以下、Smは0.035以下が望ましい。但し、粗面形状によっては、或いはシリコン系皮膜形成条件によっては、集電体表面の粗さパラメータが規定外でも、皮膜形成後に所定範囲内を示せば、良好な充放電特性を示す。実施例34がその例であり、集電体表面Sが0.018の高い値を示すが、皮膜形成後の表面SとSm共に規定内を示し、50サイクル後の放電容量も良好であった。これは山型形状の均一な粗面形状を示す集電体表面が本発明負極製法に適するためと考えられる。
【0052】
次に、シリコン系活物質皮膜の製膜法に付き、実施例21〜23と比較例6〜7を比較すると、2μmを製膜するに要した時間が、Cat−CVDとPECVD、EB蒸着による場合が比較的短く、スパッタリングと抵抗加熱源によった蒸着法では2時間を大きく越える長時間を要した。集電体銅箔の大面積製膜用途には、前3者の製膜方法が望ましい。また、後2者のサイクル終了後の放電容量は劣っている。低い皮膜密着性や、基材加熱はないにもかかわらず、長時間製膜による輻射熱による劣化の影響と考えられる。
【0053】
実施例24〜26のシリコン系活物質皮膜の下層または上層に、リンまたはボロンを含有したシリコン層を形成した実施例からは、これらを形成しない他の実施例に比べても、優れた充放電特性が得られた。特に、下層にリンを上層にボロンを含有した層を形成した実施例26では、非フッ素含有非水溶媒電解液を用いた試験の中では最も良い結果を示した。電界ドリフト効果によるLiイオンと電子の移動が促進されて、2次電池に付随する不可逆容量が低下したものと考えられる。
【0054】
実施例27〜28のシリコンにリンまたはボロンをドープした例でも、ドープしない他の実施例と同様に良好な充放電特性を示し、50サイクル後の容量では比較的優れた容量を残存した。
【0055】
実施例29〜31には、集電体銅箔の機械的特性である、180℃における高温伸び率の値と充放電特性を知ることができ、伸び率が3%を示す実施例29ではサイクル試験終了後に1000mAh/gを維持したが、伸び率が3%を下回る実施例31では低めの容量を示し、この場合には充放電の繰り返しによるシリコン系皮膜の体積膨張収縮によって集電体と活物質皮膜との界面密着性が劣化を生じた結果、集電性と皮膜導電性が劣化した箇所が多く生じたと考えられる。伸び率が5%以上を示す実施例30では他の実施例と同程度のサイクル特性を示した。
【0056】
実施例29〜35の集電体銅箔には、プリント回路用途汎用箔でもある片面光沢箔を用い、このうち実施例32と34ではその粗面側に粗化処理を行った箔にシリコン系皮膜を形成した。いずれも問題ない充放電特性を示した。
【0057】
実施例35には、3極セル試験の電解液にフッ素を含有する非水溶媒を含む実施例を挙げた。これによれば、初回充放電容量も高く、50サイクル試験後の放電容量は最も高く残存する結果を示した。フッ素を含有しない従来タイプ非水溶媒に比較して、Liイオンとシリコンの合金化と脱合金化による、充放電の際の体積膨張収縮の体積変化が少なく、活物質と集電体との密着性と集電性、並びに活物質皮膜内の導電性の劣化が抑制される効果と考えられる。
【0058】
比較例8では、粗化処理を実施しない両面光沢箔原箔そのままの光沢面に、直接シリコンを製膜しようとしたところ、部分的な皮膜剥離を生じたので、電池用負極試料として試験評価に供することができなかった。
【0059】
さらに、表4の容量規制サイクル試験結果に示したように、実施例18、19のPドープも酸素含有もない条件より、実施例36,37のPドープSiの方が1千サイクル後の充放電容量が大きく、Pドープかつ酸素原子を所定濃度導入した実施例38〜39は、いずれも1000mAh/g保持して良好である。すなわち、Pドープをし、さらに酸素を含有するシリコン系皮膜が、充放電サイクル特性が良好であることが判る。
【0060】
以上に説明したように、本発明に示した所定のシリコン系皮膜を所定の集電体銅箔に形成した負極電極は、非水溶媒を電解液に用いるリチウムイオン2次電池をはじめとする充放電可能な2次電池において、優れた充放電特性を示す負極として用いることができる。従来の電子機器用途をはじめ、今後実用化が始まる産業用途や自動車用途の2次電池に、従来にない高エネルギーや高出力を示す特性を付与することができる。しかも、既に量産されている銅箔を集電体として用いることが可能な上、直接的に大面積製膜可能な方法で活物質を形成することができるので、経済的にも有利な条件で産業上利用可能になる。
【符号の説明】
【0061】
1 集電体銅箔原箔(山状粗面を有する原箔)
2 耐熱性層と防錆処理層またはシランカップリング処理層
3 シリコン系活物質皮膜
4 粗化処理により粗面化した銅系微細粒子
5 集電体銅箔原箔(両面平滑箔または光沢箔)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗面を有する銅箔を用いた集電体基材の片面または両面に、シリコン系活物質皮膜が形成されている、非水溶媒電解液2次電池用負極であって、
前記シリコン系活物質皮膜の厚さは0.5μm以上6μm以下であり、
前記シリコン系活物質皮膜表面の表面粗さRz(JIS B0601−1994 十点平均粗さ)が2μm以上20μm以下であり、
前記シリコン系活物質皮膜表面のS(JIS B0601−1994 局部山頂の平均間隔)の3点平均値が0.005mm以上0.014mm以下であり、
前記シリコン系活物質皮膜表面のSm(JIS B0601−1994 凹凸の平均間隔)の3点平均値が0.015mm以上0.040mm以下であることを特徴とする、非水溶媒電解液2次電池用負極。
【請求項2】
前記集電体基材は、少なくとも活物質皮膜形成面が非平滑面または非光沢面であり、
前記集電体基材の活物質皮膜形成面の表面粗さRz(JIS B0601−1994 十点平均粗さ)が2μm以上20μm以下であり、
前記集電体基材の活物質皮膜形成面のS(JIS B0601−1994 局部山頂の平均間隔)が0.004mm以上0.015mm以下であり、
前記集電体基材の活物質皮膜形成面のSm(JIS B0601−1994 凹凸の平均間隔)が0.015mm以上0.035mm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の2次電池用負極。
【請求項3】
前記集電体基材と前記シリコン系活物質皮膜との間、または前記シリコン系活物質皮膜の上層の少なくとも一方に、
リンまたはボロンを含有するシリコン層が1層以上形成されていることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の2次電池用負極。
【請求項4】
前記シリコン系活物質皮膜は、リンを含み、
前記活物質皮膜全体に対するリン含有量が0.1原子%以上30原子%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の二次電池用負極。
【請求項5】
前記シリコン系活物質皮膜は、さらに酸素を含み、
前記活物質皮膜全体に対する酸素含有量が1原子%以上50原子%以下であることを特徴とする請求項4に記載の2次電池用負極。
【請求項6】
前記集電体基材の活物質皮膜形成面上に、ニッケルを0.01〜0.5g/m含有する層または亜鉛を0.001〜0.1g/m含有する層の少なくとも一方が形成された耐熱性層または耐熱性バリア皮膜を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の二次電池用負極。
【請求項7】
さらに前記耐熱性層の上層に防錆層および/またはシランカップリング処理層が形成されていることを特徴とする、請求項6に記載の2次電池用負極。
【請求項8】
前記耐熱性層における前記亜鉛が単層亜鉛として存在することを特徴とする、請求項6または請求項7に記載の2次電池用負極。
【請求項9】
前記耐熱性層における前記亜鉛が前記集電体基材またはニッケル層に拡散していることを特徴とする、請求項6または請求項7に記載の2次電池用負極。
【請求項10】
請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の2次電池用負極に用いられ、日本工業規格で規定される表面粗さRz(JIS B0601−1994 十点平均粗さ)が2μm以上20μm以下の粗面またはこれと同等の粗面を有することを特徴とする電極用銅箔。
【請求項11】
請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の負極を用いたことを特徴とする非水溶媒電解液を用いた2次電池。
【請求項12】
前記非水溶媒電解液が、フッ素を含む非水溶媒を含有することを特徴とする請求項11に記載の2次電池。
【請求項13】
粗面を有する銅箔を用いた集電体基材の片面または両面に、CVD(化学的気相成長)法またはEB(電子ビーム)蒸着法によって、シリコン系活物質皮膜を形成する工程を備え、
前記シリコン系活物質皮膜の厚さを0.5μm以上6μm以下とし、
前記シリコン系活物質皮膜表面の表面粗さRz(JIS B0601−1994 十点平均粗さ)を2μm以上20μm以下とし、
前記シリコン系活物質皮膜表面のS(JIS B0601−1994 局部山頂の平均間隔)の3点平均値を0.005mm以上0.014mm以下とし、
前記シリコン系活物質皮膜表面のSm(JIS B0601−1994 凹凸の平均間隔)の3点平均値を0.015mm以上0.040mm以下とすることを特徴とする、非水溶媒電解液2次電池用負極の製造方法。
【請求項14】
前記CVD法において、さらにフォスフィンガスを連続供給し、
シリコン系活物質皮膜を形成する前記工程において、リンを含有するシリコン系活物質皮膜を形成することを特徴とする請求項13に記載の2次電池用負極の製造方法。
【請求項15】
シリコン系活物質皮膜を形成する前記工程の後、大気酸化または熱処理により前記シリコン系活物質皮膜に酸素を導入する工程をさらに具備することを特徴とする請求項13または14に記載の2次電池用負極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−282958(P2010−282958A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108211(P2010−108211)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(000005382)古河電池株式会社 (314)
【Fターム(参考)】