2段スクロール圧縮機
【課題】外側圧縮部と内側圧縮部が配置されている2段スクロール圧縮機において圧力損出を低減する。
【解決手段】一平面上に固定スクロール(52)と旋回スクロール(54)を有するスクロール型圧縮機であって、前記固定スクロール(52)に、前記固定スクロール(52)のラップ部を連結するランド部(53)を設けることにより、外周側圧縮部(55A)と内周側圧縮部(55B)が形成された2段スクロール型圧縮機において、外周側固定ラップ部(52A、56)と前記外周側旋回ラップ部(54A)を、第1圧縮室(21A−1)と第2圧縮室(21A−2)の2室が形成された後、前記旋回スクロール(54)の旋回運動につれて前記2室は合流するように構成し、さらに、前記2室の合流時の圧力が等しくなるように構成したことを特徴とする。
【解決手段】一平面上に固定スクロール(52)と旋回スクロール(54)を有するスクロール型圧縮機であって、前記固定スクロール(52)に、前記固定スクロール(52)のラップ部を連結するランド部(53)を設けることにより、外周側圧縮部(55A)と内周側圧縮部(55B)が形成された2段スクロール型圧縮機において、外周側固定ラップ部(52A、56)と前記外周側旋回ラップ部(54A)を、第1圧縮室(21A−1)と第2圧縮室(21A−2)の2室が形成された後、前記旋回スクロール(54)の旋回運動につれて前記2室は合流するように構成し、さらに、前記2室の合流時の圧力が等しくなるように構成したことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同一平面において、外側圧縮部と内側圧縮部が配置されている2段スクロール圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、特許文献1に開示された2段圧縮式のスクロール型圧縮機が知られている。図1は、特許文献1に開示された2段圧縮式のスクロール型圧縮機の説明図である。これは、1台のスクロール型圧縮機51の圧縮部を2段に分け、固定スクロール52には圧縮部を2段に区画するランド部53を設け、固定スクロール52の外周側のラップ部52Aと旋回スクロール54の外周側のラップ部54Aとによって低圧段の圧縮部55Aを構成し、固定スクロール52の内周側のラップ部52Bと旋回スクロール54の内周側のラップ部54Bとによって高圧段の圧縮部55Bを構成する。連通路24を用いてこれらの圧縮部55A、55Bが直列接続されると共に、高圧段の圧縮部55Bの吐出側にタンク27が接続されている。吸入口8から低圧段の圧縮部55Aに吸入され、連通路24を経て、高圧段の圧縮部55Bに導入され、吐出口9から吐出される。
【0003】
この従来技術では、低圧段の圧縮部を構成する2つの圧縮室から吐出する冷媒の圧力が、それぞれ異なるため、低圧段の圧縮部の圧縮室の一方の圧縮室が、過圧縮されてしまい、効率が低下するということがわかってきた。すなわち、外側の低圧段の圧縮部は、固定スクロールのラップが2巻き数あって、低圧段の圧縮部の圧縮室は2つ存在することになる。圧縮が進行して、一方の圧縮室と他方の圧縮室が合流する直前においては、それぞれが圧力の異なる圧縮室となっているため、合流時に圧力損失が発生してしまい問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−332556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題に鑑み、外側圧縮部と内側圧縮部が配置されている2段スクロール圧縮機において、外側圧縮部の2つの圧縮室の合流時の圧力を等しくした2段スクロール圧縮機を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、一平面上に固定スクロール(52)と旋回スクロール(54)を有するスクロール型圧縮機であって、前記固定スクロール(52)に、前記固定スクロール(52)のラップ部を連結するランド部(53)を設けることにより、外周側圧縮部(55A)と内周側圧縮部(55B)が形成された2段スクロール型圧縮機において、前記外周側圧縮部(55A)は、前記固定スクロール(52)の外周側固定ラップ部(52A、56)と、前記旋回スクロール(54)の外周側旋回ラップ部(54A)を具備し、外周側固定ラップ部(52A、56)と前記外周側旋回ラップ部(54A)を、第1圧縮室(21A−1)と第2圧縮室(21A−2)の2室が形成された後、前記旋回スクロール(54)の旋回運動につれて前記2室は合流するように構成し、さらに、前記2室の合流時の圧力が等しくなるように構成した2段スクロール型圧縮機である。
【0007】
これにより、合流時において発生していた圧力損失を避けることができ、圧縮機の効率をあげることができる。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記外周側旋回ラップ部(54A)の巻き数が減少するように一部削除して、前記第1圧縮室(21A−1)の圧縮開始位相を遅らせて、前記2室の合流時の圧力を等しくさせたことを特徴とする。請求項1の発明と同様な効果をあげることができる。
【0009】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記外周側旋回ラップ部(54A)の前記巻き数を、1以下としたことを特徴とする。請求項1の発明と同様な効果をあげることができるともに、2室の合流時期を早めることができる。
【0010】
請求項4の発明は、請求項1の発明において、前記外周側固定ラップ部(52A)の歯側面を削ることにより、前記2室の合流時の圧力を等しくさせたことを特徴とする。請求項1の発明と同様な効果をあげることができる。
【0011】
請求項5の発明は、請求項1の発明において、前記外周側固定ラップ部(52A)又は前記外周側旋回ラップ部(54A)の歯側面に沿って溝を設置したことより、前記2室の合流時の圧力を等しくさせたことを特徴とする。請求項1の発明と同様な効果をあげることができる。
【0012】
請求項6の発明は、請求項1の発明において、前記外周側旋回ラップ部(54A)の巻き数を少なくする手段、前記外周側固定ラップ部(52A)の歯側面を削る手段、前記外周側固定ラップ部(52A)又は前記外周側旋回ラップ部(54A)の歯側面に沿って溝を設置する手段のいずれか2つ、又は、3つの手段を組み合わせて、前記2室の合流時の圧力を等しくさせたことを特徴とする。
【0013】
請求項7の発明は、請求項1から6のいずれか1項記載の発明において、前記外周側圧縮部(55A)は、第1圧縮室(21A−1)と第2圧縮室(21A−2)の2室が形成された直後に、前記2室は合流するように構成したことを特徴とする。これにより、合流時の圧力調整が簡単になり、請求項1の発明と同様な効果をあげることができる。
【0014】
請求項8の発明は、請求項1から7のいずれか1項記載の発明において、冷媒圧縮機として使用される2段スクロール型圧縮機である。
【0015】
請求項9の発明は、請求項8の発明において、前記外周側圧縮部(55A)と前記内周側圧縮部(55B)とを連通する連通路(24)に、中間圧冷媒をインジェクションすることを特徴とする。
【0016】
なお、上記に付した符号は、後述する実施形態に記載の具体的実施態様との対応関係を示す一例である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】特許文献1に開示された2段圧縮式のスクロール型圧縮機の説明図である。
【図2】基礎技術の2段圧縮式のスクロール型圧縮機の説明図である。
【図3】基礎技術において、45度ごとの外周側圧縮部の第1、第2圧縮室の変化を示す説明図である。
【図4】基礎技術において、45度ごとの内周側圧縮部の圧縮室の変化を示す説明図である。
【図5】(a)は、基礎技術における外周側圧縮部における、駆動シャフト回転角と第1圧縮室と第2圧縮室の圧力の関係を示す説明図であり、(b)は、本発明の一実施形態の駆動シャフト回転角と第1圧縮室と第2圧縮室の圧力の関係を示す説明図である。
【図6】基礎技術における外周側圧縮部における、駆動シャフト回転角に対する、低段(第1圧縮室第2圧縮室)と高段圧縮部の、容積又は圧力の関係を示すグラフである。
【図7】本発明の一実施形態の固定スクロールと旋回スクロールを示す断面図である。
【図8】(a)〜(h)は、本発明の一実施形態における、45度毎の外周側圧縮部の圧縮室を示す説明図である。
【図9】(a)〜(h)は、本発明の一実施形態における、45度毎の内周側圧縮部の圧縮室を示す説明図である。
【図10】本発明の一実施形態における、駆動シャフト回転角に対する、低段、高段圧縮部の容積、又は、圧力の関係を示すグラフである。
【図11】外周側旋回ラップ部の巻き数を少なくし、第1圧縮室の圧縮開始位相を遅らせて、2室の合流時の圧力を等しくさせる手段の説明図であり、(a)は、ラップ部を削る前の状態であり、(b)は、ラップ部を削ったことにより第1圧縮室の圧縮開始位相が遅れることを説明する説明図である。
【図12】外周側固定ラップ部の歯側面を削ることにより、室の合流時の圧力を等しくさせる手段の説明図である。
【図13】ラップ部の歯側面を削る前の状態であり、(b)は、ラップ部を削ったことにより圧縮室の圧縮開始位相が遅れることを説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、最初に本発明の基礎となった基礎技術を説明するとともに、その後に本発明の一実施形態を説明する。各実施態様について、同一構成の部分には、同一の符号を付してその説明を省略する。従来技術に対する各実施態様の同一構成の部分には、同様に同一の符号を付してその説明を省略する。本発明の各実施形態が、本発明の基礎となった基礎技術に対しても同一構成の部分には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0019】
まず、本発明の基礎となった基礎技術について説明する。この基礎技術は、基本的には特許文献1の従来技術と同じ技術である。図2は、基礎技術の2段圧縮式のスクロール型圧縮機の説明図である。基礎技術の旋回スクロール54の外周側旋回ラップ部54Aは、特許文献1の従来技術と同様に、2巻数程度存在する。
【0020】
特許文献1の従来技術と同様に、スクロール型圧縮機の同一平面上の圧縮部を2段に分け、固定スクロール52には圧縮部を2段に区画するランド部53を設け、固定スクロール52の外周側固定ラップ部52Aと旋回スクロール54の外周側旋回ラップ部54Aとによって外周側圧縮部55A(低圧段)を構成し、固定スクロール52の内周側固定ラップ部52Bと旋回スクロール54の内周側旋回ラップ部54Bとによって内周側圧縮部55B(高圧段)を構成する。連通路24(図示せず)を用いてこれらの圧縮部55A、55Bが直列接続される。吸入口8から外周側圧縮部55Aに吸入され、中間吐出口32、連通路24、中間吸入口33を経て、内周側圧縮部55Bに導入され、吐出口9から吐出される。
【0021】
この形式の2段スクロール型圧縮機は、固定スクロール52には圧縮部を2段に区画するランド部53が設けられている。図2を参照して、ランド部53から連結して延長している4枚の固定スクロールのラップ部について説明しておく。図2のaから、外周側固定ラップ部52Aが延長しており、図2のbからは中間ラップ56Bが延長し、図2のdに接続している。中間ラップ56の内周歯面は、内周側圧縮部55Bを構成し、外周歯面は、外周側圧縮部55Aを構成する。図2のcから、内周側固定ラップ部52Bが延長している。固定スクロール52中間部において、2層のラップ部を連結するランド部53を設けると、必然的に渦巻きの外側と内側に圧縮部が2つに分離されることになる。
【0022】
ここで、符号のA、Bは、それぞれ、外周側、内周側を表す。中間ラップ56は、外周側圧縮部55Aと内周側圧縮部55Bの双方に含まれるので、外周側固定ラップ部でもあり、内周側固定ラップでもある。
旋回スクロールのラップ形状は、通常はインボリュート曲線で形成されるが、固定スクロールのラップ形状は、旋回スクロールのラップの旋回運動に伴う軌跡の包絡線として与えられる。このため、都合によって部分的に削るなどの加工を施すことが可能である。
【0023】
次に、基礎技術の圧縮工程を説明する。図3は、基礎技術において、45度ごとの第1、第2外周側圧縮部の圧縮室の変化を示す説明図である。図4は、基礎技術において、45度ごとの内周側圧縮部の圧縮室の変化を示す説明図である。
(1)外周側圧縮部の圧縮室の変化
図3の315度の状態から0度の状態に移って、吸入口8から吸入された被圧縮流体は、第1圧縮室21A−1と第2圧縮室21A−2に閉じ込められて圧縮が開始される。図3の45度の状態から270度の状態まで、第1圧縮室21A−1と第2圧縮室21A−2の2つの圧縮室に分かれて圧縮が進行する。図3の315度の状態は、第1圧縮室21A−1と第2圧縮室21A−2とが合流する直前の状態である。図3の315度の第1圧縮室21A−1と第2圧縮室21A−2の圧縮室の形状は、大きく異なっている点に注目すべきである。
合流後、1つになった圧縮室で圧縮が進行して、135度の前あたりから内周側圧縮部へ、外周側圧縮部(低圧圧縮)で圧縮された被圧縮流体が、中間吐出口32、中間吸入口33を経て送り込まれる。
【0024】
(2)内周側圧縮部の圧縮室の変化
図4の315度の状態から0度の状態にかけて、内周側圧縮部の外側の第1段目の圧縮室(第1段目と第2段目にそれぞれ2室ずつ圧縮室が存在している)が2室形成されて、図4の315度の状態まで、2つの圧縮室に分かれて圧縮が進行する。これら2つの圧縮室は、点対称に形成されている点に注目すべきである。図4の0度の状態では、中心部の吐出口9においても、対称な2つの第2段目の圧縮室が形成されている。その後、対称に形成された第2段目の圧縮室は合流して、1つの圧縮室となって、高圧となった被圧縮流体を吐出口9から外部に吐出する。
【0025】
図5(a)は、基礎技術における外周側圧縮部における、駆動シャフト回転角と第1圧縮室と第2圧縮室の圧力の関係を示す説明図であり、(b)は、本発明の一実施形態の駆動シャフト回転角と第1圧縮室と第2圧縮室の圧力の関係を示す説明図である。図6は、基礎技術における外周側圧縮部における、駆動シャフト回転角に対する、低段(第1圧縮室第2圧縮室)と高段圧縮部の、容積又は圧力の関係を示すグラフである。駆動シャフトとは、旋回スクロールをクランク部を介して公転運動させる駆動シャフトのことである。
【0026】
基礎技術における外周側圧縮部の第1圧縮室と第2圧縮室の圧力は、図5の模式的に示したグラフや、精緻なシュミレーションに基づく図6のように変化する。図5(a)や図6のア、イに示すように合流前には、第1圧縮室と第2圧縮室の圧力差が発生している。これは、図3の315度の第1圧縮室21A−1と第2圧縮室21A−2の圧縮室の形状は、大きく異なっていることからも推測できる。
基礎技術においては圧縮が進行して、第1圧縮室21A−1と第2圧縮室21A−2が合流する直前においては、それぞれが圧力の異なる圧縮室となっているため、合流時に圧力損失が発生することとなる。一方、内周側圧縮部の圧縮室においては、図4で見てきたように、2つの圧縮室がほぼ点対称に形成されているので、合流時には問題が生じない。
【0027】
このような基礎技術の問題点に対して、本発明においては、図5(b)に模式的に示すように、外周側固定ラップ部52A、56と外周側旋回ラップ部54Aを、第1圧縮室21A−1と第2圧縮室21A−2の2室が形成された後、旋回スクロール54の旋回運動につれて2室は合流するように構成し、さらに、2室の合流時の圧力が等しくなるように構成したものである。
【0028】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態を説明する。
図7は、本発明の一実施形態の固定スクロールと旋回スクロールを示す断面図である。図8(a)〜(h)は、本発明の一実施形態における、45度毎の外周側圧縮部の圧縮室を示す説明図である。図9(a)〜(h)は、本発明の一実施形態における、45度毎の内周側圧縮部の圧縮室を示す説明図である。
【0029】
本発明の一実施形態も基礎技術と同様な構成であるが、基礎技術の旋回スクロール54の外周側旋回ラップ部54Aは、2巻数程度存在したが、本発明の一実施形態では、1巻数程度となっている。本質的な差異については後述する。
図7に示すように、本発明の一実施形態も基礎技術と同様に、スクロール型圧縮機の同一平面上の圧縮部を2段に分け、固定スクロール52には圧縮部を2段に区画するランド部53を設け、固定スクロール52の外周側固定ラップ部52A(中間ラップ56を含む)と、旋回スクロール54の外周側旋回ラップ部54Aとによって、外周側圧縮部55A(低圧段)を構成し、固定スクロール52の内周側固定ラップ部52B(中間ラップ56を含む)と、旋回スクロール54の内周側旋回ラップ部54Bとによって、内周側圧縮部55B(高圧段)を構成する。冷媒などの被圧縮流体(ガス)は、外部から吸入口8を通って外周側圧縮部55Aに吸入され、外周側圧縮部55Aで圧縮後、ガスは中間吐出口32から吐出する。その後、インジェクションガスと合流して中間圧となり、中間吸入口33を経て、内周側圧縮部55Bに導入される。内周側圧縮部55Bで圧縮された後、高圧となって吐出口9から吐出される。
【0030】
上記説明では、車両用の空調装置などのヒートポンプシステムにおいて、圧縮機への中間圧冷媒の流入を伴う2段圧縮サイクルで説明したが、これに限定されるものではなく、中間圧冷媒の流入を行わない場合の2段圧縮に適用しても良い。その他、本発明を、車両用以外の家電製品等の圧縮機に適用しても良い。
さらに、上記説明では、外周側圧縮部55Aを低圧段として、内周側圧縮部55Bを高圧段としたが、これと逆に設定しても良い。この場合でも同様に、外周側圧縮部55Aに、第1圧縮室(21A−1)と第2圧縮室(21A−2)の2室が形成され、前記2室の合流時の圧力が等しくなるように構成する。
【0031】
本発明の一実施形態の作動を、外周側圧縮部55A(低段圧縮)と内周側圧縮部55B(高段圧縮)に分けて説明する。図8は、外周側圧縮部55Aの2つの圧縮室の変化を説明しており、図9は、内周側圧縮部55Bの2つの圧縮室の変化を説明している。図10は、本発明の一実施形態における、駆動シャフト回転角に対する、低段、高段圧縮部の、容積又は圧力の関係を示すグラフである。まず、図8を参照して、外周側圧縮部の圧縮室の変化(低段圧縮)を説明してから、図9の内周側圧縮部の圧縮室の変化(高段圧縮)を説明する。
【0032】
外周側圧縮部については、図8(f)の225度を少し過ぎたあたりで、新たな低段側の圧縮サイクルが開始される。図8(g)の270度では、第1圧縮室(21A−1)と第2圧縮室(21A−2)の2室が形成され、図8(h)の315度に至るまでには、瞬間的に合流して1室となる。2室の合流時には、両室の圧力が等しくなるように構成されている。図5(b)に示すように、両室の圧力が等しくなるように構成されているので、合流時に基礎技術や、従来技術において発生していた圧力損失を避けることができ、圧縮機の効率をあげることができる。図10を参照すると、2室の合流時に、図6にみられるような第1圧縮室と第2圧縮室の圧力差は消失している。両室の圧力が等しくなるように構成する手段については、後述する。
【0033】
合流後、図8(h)から(f)へと、外周側圧縮部における圧縮プロセスが、図10の「低段」に見られるように進行して、外周側圧縮部から内周側圧縮部へ、中間吐出口32を通じて低圧ガスが吐出されて、高段側の圧縮サイクルが開始される。図9(a)の「0度(吐出完了)」は、高段側の吐出が完了して、新たな高段側の圧縮サイクルが開始することを表している。図10の「高段」においても、高段圧縮が0度、又は、360度で開始されている。図9に見られるように、2つの圧縮室は、点対称に形成されている。図9(a)の0度の状態では、対称な2つの圧縮室が形成されている。その後、対称に形成された2つの圧縮室は合流して、1つの圧縮室となって、高圧となった被圧縮流体は、中心部にある吐出口9から外部に吐出する。図10に示すように、2つの圧縮室はほぼ点対称に形成されるので、合流時の2つの圧縮室の圧力差は顕在化しない。
【0034】
次に、外周側圧縮部において第1圧縮室21A−1と第2圧縮室21A−2の2室の圧力が等しくなるように構成する手段について述べる。
【0035】
図11は、外周側旋回ラップ部の巻き数を少なくし、第1圧縮室の圧縮開始位相を遅らせて、2室の合流時の圧力を等しくさせる手段の説明図であり、(a)は、ラップ部を削る前の状態であり、(b)は、ラップ部を削ったことにより第1圧縮室の圧縮開始位相が遅れることを説明する説明図である。図11の(a)と(b)を比較してみると、(a)の270度の外周側旋回ラップ部54Aの巻き終わり端部を削って、(b)の270度のように、第1圧縮室21A−1の形成を遅らせている。一例として、このようにすれば、第1圧縮室の圧縮開始位相を遅らせて、2室の合流時の圧力を等しく調整することができる。(なお、図11(a)は、図8の(g)、(h)と同じである。本来、図8の(g)、(h)は、2室の合流時の圧力を等しくさせたものなので、さらに削ることはあり得ないが、2室の合流時の圧力を等しくさせる手段の説明のために、あえて使用したものである。)
多くの場合、外周側旋回ラップ部54Aの巻き数を、約1〜0.5とすると、2室の合流時の圧力を等しくさせることができる。
【0036】
図12は、外周側固定ラップ部の歯側面を削ることにより、室の合流時の圧力を等しくさせる手段の説明図である。図13(a)は、ラップ部の歯側面を削る前の状態であり、(b)は、ラップ部を削ったことにより圧縮室の圧縮開始位相が遅れることを説明する説明図である。この場合は、第2圧縮室21A−2の形成を遅らせることができる。また、ラップ部を削る代わりに、ラップの歯側面に沿って溝を設けても同じような効果を得ることができる。
【0037】
このように、外周側旋回ラップ部54Aの巻き数を少なくする手段や、外周側固定ラップ部52Aの歯側面を削る手段や、外周側固定ラップ部52A又は外周側旋回ラップ部54Aの歯側面に沿って溝を設置する手段によって、あるいは、これらいずれか2つ、又は、3つの手段を組み合わせて、2室の合流時の圧力を等しくさせることができる。
【0038】
これらの手段により2室の合流時の圧力を等しくさせる場合には、2室の合流時の圧力を等しくなるように、スクロール圧縮機の設計時に、削る量などを調整する。圧縮室の容積変化がわかれば理論的な圧力変化も求めることができるので、シミュレーションなどを活用して、合流時の圧力が等しくなるように調整することができる。
【0039】
本発明の別の実施形態として、次のような変形形態が考えられる。外周側圧縮部55Aは、第1圧縮室21A−1と第2圧縮室21A−2の2室が形成された直後に、2室が合流するように構成すると良い。この場合には、第1圧縮室21A−1と第2圧縮室21A−2の2室の圧力が上がる前に合流するので、2室の合流時の圧力差をなくすことができる。これにより、2室の合流時の圧力調整が容易になる。なお、直後とは、概ね20度位の駆動シャフトの回転角範囲を指している。
【符号の説明】
【0040】
21A−1 第1圧縮室
21A−2 第2圧縮室
52 固定スクロール
52A 外周側固定ラップ部
52B 内周側固定ラップ部
53 ランド部
54 旋回スクロール
54A 外周側旋回ラップ部
54B 内周側旋回ラップ部
55A 外周側圧縮部
55B 内周側圧縮部
56 中間ラップ
【技術分野】
【0001】
本発明は、同一平面において、外側圧縮部と内側圧縮部が配置されている2段スクロール圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、特許文献1に開示された2段圧縮式のスクロール型圧縮機が知られている。図1は、特許文献1に開示された2段圧縮式のスクロール型圧縮機の説明図である。これは、1台のスクロール型圧縮機51の圧縮部を2段に分け、固定スクロール52には圧縮部を2段に区画するランド部53を設け、固定スクロール52の外周側のラップ部52Aと旋回スクロール54の外周側のラップ部54Aとによって低圧段の圧縮部55Aを構成し、固定スクロール52の内周側のラップ部52Bと旋回スクロール54の内周側のラップ部54Bとによって高圧段の圧縮部55Bを構成する。連通路24を用いてこれらの圧縮部55A、55Bが直列接続されると共に、高圧段の圧縮部55Bの吐出側にタンク27が接続されている。吸入口8から低圧段の圧縮部55Aに吸入され、連通路24を経て、高圧段の圧縮部55Bに導入され、吐出口9から吐出される。
【0003】
この従来技術では、低圧段の圧縮部を構成する2つの圧縮室から吐出する冷媒の圧力が、それぞれ異なるため、低圧段の圧縮部の圧縮室の一方の圧縮室が、過圧縮されてしまい、効率が低下するということがわかってきた。すなわち、外側の低圧段の圧縮部は、固定スクロールのラップが2巻き数あって、低圧段の圧縮部の圧縮室は2つ存在することになる。圧縮が進行して、一方の圧縮室と他方の圧縮室が合流する直前においては、それぞれが圧力の異なる圧縮室となっているため、合流時に圧力損失が発生してしまい問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−332556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題に鑑み、外側圧縮部と内側圧縮部が配置されている2段スクロール圧縮機において、外側圧縮部の2つの圧縮室の合流時の圧力を等しくした2段スクロール圧縮機を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、一平面上に固定スクロール(52)と旋回スクロール(54)を有するスクロール型圧縮機であって、前記固定スクロール(52)に、前記固定スクロール(52)のラップ部を連結するランド部(53)を設けることにより、外周側圧縮部(55A)と内周側圧縮部(55B)が形成された2段スクロール型圧縮機において、前記外周側圧縮部(55A)は、前記固定スクロール(52)の外周側固定ラップ部(52A、56)と、前記旋回スクロール(54)の外周側旋回ラップ部(54A)を具備し、外周側固定ラップ部(52A、56)と前記外周側旋回ラップ部(54A)を、第1圧縮室(21A−1)と第2圧縮室(21A−2)の2室が形成された後、前記旋回スクロール(54)の旋回運動につれて前記2室は合流するように構成し、さらに、前記2室の合流時の圧力が等しくなるように構成した2段スクロール型圧縮機である。
【0007】
これにより、合流時において発生していた圧力損失を避けることができ、圧縮機の効率をあげることができる。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記外周側旋回ラップ部(54A)の巻き数が減少するように一部削除して、前記第1圧縮室(21A−1)の圧縮開始位相を遅らせて、前記2室の合流時の圧力を等しくさせたことを特徴とする。請求項1の発明と同様な効果をあげることができる。
【0009】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記外周側旋回ラップ部(54A)の前記巻き数を、1以下としたことを特徴とする。請求項1の発明と同様な効果をあげることができるともに、2室の合流時期を早めることができる。
【0010】
請求項4の発明は、請求項1の発明において、前記外周側固定ラップ部(52A)の歯側面を削ることにより、前記2室の合流時の圧力を等しくさせたことを特徴とする。請求項1の発明と同様な効果をあげることができる。
【0011】
請求項5の発明は、請求項1の発明において、前記外周側固定ラップ部(52A)又は前記外周側旋回ラップ部(54A)の歯側面に沿って溝を設置したことより、前記2室の合流時の圧力を等しくさせたことを特徴とする。請求項1の発明と同様な効果をあげることができる。
【0012】
請求項6の発明は、請求項1の発明において、前記外周側旋回ラップ部(54A)の巻き数を少なくする手段、前記外周側固定ラップ部(52A)の歯側面を削る手段、前記外周側固定ラップ部(52A)又は前記外周側旋回ラップ部(54A)の歯側面に沿って溝を設置する手段のいずれか2つ、又は、3つの手段を組み合わせて、前記2室の合流時の圧力を等しくさせたことを特徴とする。
【0013】
請求項7の発明は、請求項1から6のいずれか1項記載の発明において、前記外周側圧縮部(55A)は、第1圧縮室(21A−1)と第2圧縮室(21A−2)の2室が形成された直後に、前記2室は合流するように構成したことを特徴とする。これにより、合流時の圧力調整が簡単になり、請求項1の発明と同様な効果をあげることができる。
【0014】
請求項8の発明は、請求項1から7のいずれか1項記載の発明において、冷媒圧縮機として使用される2段スクロール型圧縮機である。
【0015】
請求項9の発明は、請求項8の発明において、前記外周側圧縮部(55A)と前記内周側圧縮部(55B)とを連通する連通路(24)に、中間圧冷媒をインジェクションすることを特徴とする。
【0016】
なお、上記に付した符号は、後述する実施形態に記載の具体的実施態様との対応関係を示す一例である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】特許文献1に開示された2段圧縮式のスクロール型圧縮機の説明図である。
【図2】基礎技術の2段圧縮式のスクロール型圧縮機の説明図である。
【図3】基礎技術において、45度ごとの外周側圧縮部の第1、第2圧縮室の変化を示す説明図である。
【図4】基礎技術において、45度ごとの内周側圧縮部の圧縮室の変化を示す説明図である。
【図5】(a)は、基礎技術における外周側圧縮部における、駆動シャフト回転角と第1圧縮室と第2圧縮室の圧力の関係を示す説明図であり、(b)は、本発明の一実施形態の駆動シャフト回転角と第1圧縮室と第2圧縮室の圧力の関係を示す説明図である。
【図6】基礎技術における外周側圧縮部における、駆動シャフト回転角に対する、低段(第1圧縮室第2圧縮室)と高段圧縮部の、容積又は圧力の関係を示すグラフである。
【図7】本発明の一実施形態の固定スクロールと旋回スクロールを示す断面図である。
【図8】(a)〜(h)は、本発明の一実施形態における、45度毎の外周側圧縮部の圧縮室を示す説明図である。
【図9】(a)〜(h)は、本発明の一実施形態における、45度毎の内周側圧縮部の圧縮室を示す説明図である。
【図10】本発明の一実施形態における、駆動シャフト回転角に対する、低段、高段圧縮部の容積、又は、圧力の関係を示すグラフである。
【図11】外周側旋回ラップ部の巻き数を少なくし、第1圧縮室の圧縮開始位相を遅らせて、2室の合流時の圧力を等しくさせる手段の説明図であり、(a)は、ラップ部を削る前の状態であり、(b)は、ラップ部を削ったことにより第1圧縮室の圧縮開始位相が遅れることを説明する説明図である。
【図12】外周側固定ラップ部の歯側面を削ることにより、室の合流時の圧力を等しくさせる手段の説明図である。
【図13】ラップ部の歯側面を削る前の状態であり、(b)は、ラップ部を削ったことにより圧縮室の圧縮開始位相が遅れることを説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、最初に本発明の基礎となった基礎技術を説明するとともに、その後に本発明の一実施形態を説明する。各実施態様について、同一構成の部分には、同一の符号を付してその説明を省略する。従来技術に対する各実施態様の同一構成の部分には、同様に同一の符号を付してその説明を省略する。本発明の各実施形態が、本発明の基礎となった基礎技術に対しても同一構成の部分には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0019】
まず、本発明の基礎となった基礎技術について説明する。この基礎技術は、基本的には特許文献1の従来技術と同じ技術である。図2は、基礎技術の2段圧縮式のスクロール型圧縮機の説明図である。基礎技術の旋回スクロール54の外周側旋回ラップ部54Aは、特許文献1の従来技術と同様に、2巻数程度存在する。
【0020】
特許文献1の従来技術と同様に、スクロール型圧縮機の同一平面上の圧縮部を2段に分け、固定スクロール52には圧縮部を2段に区画するランド部53を設け、固定スクロール52の外周側固定ラップ部52Aと旋回スクロール54の外周側旋回ラップ部54Aとによって外周側圧縮部55A(低圧段)を構成し、固定スクロール52の内周側固定ラップ部52Bと旋回スクロール54の内周側旋回ラップ部54Bとによって内周側圧縮部55B(高圧段)を構成する。連通路24(図示せず)を用いてこれらの圧縮部55A、55Bが直列接続される。吸入口8から外周側圧縮部55Aに吸入され、中間吐出口32、連通路24、中間吸入口33を経て、内周側圧縮部55Bに導入され、吐出口9から吐出される。
【0021】
この形式の2段スクロール型圧縮機は、固定スクロール52には圧縮部を2段に区画するランド部53が設けられている。図2を参照して、ランド部53から連結して延長している4枚の固定スクロールのラップ部について説明しておく。図2のaから、外周側固定ラップ部52Aが延長しており、図2のbからは中間ラップ56Bが延長し、図2のdに接続している。中間ラップ56の内周歯面は、内周側圧縮部55Bを構成し、外周歯面は、外周側圧縮部55Aを構成する。図2のcから、内周側固定ラップ部52Bが延長している。固定スクロール52中間部において、2層のラップ部を連結するランド部53を設けると、必然的に渦巻きの外側と内側に圧縮部が2つに分離されることになる。
【0022】
ここで、符号のA、Bは、それぞれ、外周側、内周側を表す。中間ラップ56は、外周側圧縮部55Aと内周側圧縮部55Bの双方に含まれるので、外周側固定ラップ部でもあり、内周側固定ラップでもある。
旋回スクロールのラップ形状は、通常はインボリュート曲線で形成されるが、固定スクロールのラップ形状は、旋回スクロールのラップの旋回運動に伴う軌跡の包絡線として与えられる。このため、都合によって部分的に削るなどの加工を施すことが可能である。
【0023】
次に、基礎技術の圧縮工程を説明する。図3は、基礎技術において、45度ごとの第1、第2外周側圧縮部の圧縮室の変化を示す説明図である。図4は、基礎技術において、45度ごとの内周側圧縮部の圧縮室の変化を示す説明図である。
(1)外周側圧縮部の圧縮室の変化
図3の315度の状態から0度の状態に移って、吸入口8から吸入された被圧縮流体は、第1圧縮室21A−1と第2圧縮室21A−2に閉じ込められて圧縮が開始される。図3の45度の状態から270度の状態まで、第1圧縮室21A−1と第2圧縮室21A−2の2つの圧縮室に分かれて圧縮が進行する。図3の315度の状態は、第1圧縮室21A−1と第2圧縮室21A−2とが合流する直前の状態である。図3の315度の第1圧縮室21A−1と第2圧縮室21A−2の圧縮室の形状は、大きく異なっている点に注目すべきである。
合流後、1つになった圧縮室で圧縮が進行して、135度の前あたりから内周側圧縮部へ、外周側圧縮部(低圧圧縮)で圧縮された被圧縮流体が、中間吐出口32、中間吸入口33を経て送り込まれる。
【0024】
(2)内周側圧縮部の圧縮室の変化
図4の315度の状態から0度の状態にかけて、内周側圧縮部の外側の第1段目の圧縮室(第1段目と第2段目にそれぞれ2室ずつ圧縮室が存在している)が2室形成されて、図4の315度の状態まで、2つの圧縮室に分かれて圧縮が進行する。これら2つの圧縮室は、点対称に形成されている点に注目すべきである。図4の0度の状態では、中心部の吐出口9においても、対称な2つの第2段目の圧縮室が形成されている。その後、対称に形成された第2段目の圧縮室は合流して、1つの圧縮室となって、高圧となった被圧縮流体を吐出口9から外部に吐出する。
【0025】
図5(a)は、基礎技術における外周側圧縮部における、駆動シャフト回転角と第1圧縮室と第2圧縮室の圧力の関係を示す説明図であり、(b)は、本発明の一実施形態の駆動シャフト回転角と第1圧縮室と第2圧縮室の圧力の関係を示す説明図である。図6は、基礎技術における外周側圧縮部における、駆動シャフト回転角に対する、低段(第1圧縮室第2圧縮室)と高段圧縮部の、容積又は圧力の関係を示すグラフである。駆動シャフトとは、旋回スクロールをクランク部を介して公転運動させる駆動シャフトのことである。
【0026】
基礎技術における外周側圧縮部の第1圧縮室と第2圧縮室の圧力は、図5の模式的に示したグラフや、精緻なシュミレーションに基づく図6のように変化する。図5(a)や図6のア、イに示すように合流前には、第1圧縮室と第2圧縮室の圧力差が発生している。これは、図3の315度の第1圧縮室21A−1と第2圧縮室21A−2の圧縮室の形状は、大きく異なっていることからも推測できる。
基礎技術においては圧縮が進行して、第1圧縮室21A−1と第2圧縮室21A−2が合流する直前においては、それぞれが圧力の異なる圧縮室となっているため、合流時に圧力損失が発生することとなる。一方、内周側圧縮部の圧縮室においては、図4で見てきたように、2つの圧縮室がほぼ点対称に形成されているので、合流時には問題が生じない。
【0027】
このような基礎技術の問題点に対して、本発明においては、図5(b)に模式的に示すように、外周側固定ラップ部52A、56と外周側旋回ラップ部54Aを、第1圧縮室21A−1と第2圧縮室21A−2の2室が形成された後、旋回スクロール54の旋回運動につれて2室は合流するように構成し、さらに、2室の合流時の圧力が等しくなるように構成したものである。
【0028】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態を説明する。
図7は、本発明の一実施形態の固定スクロールと旋回スクロールを示す断面図である。図8(a)〜(h)は、本発明の一実施形態における、45度毎の外周側圧縮部の圧縮室を示す説明図である。図9(a)〜(h)は、本発明の一実施形態における、45度毎の内周側圧縮部の圧縮室を示す説明図である。
【0029】
本発明の一実施形態も基礎技術と同様な構成であるが、基礎技術の旋回スクロール54の外周側旋回ラップ部54Aは、2巻数程度存在したが、本発明の一実施形態では、1巻数程度となっている。本質的な差異については後述する。
図7に示すように、本発明の一実施形態も基礎技術と同様に、スクロール型圧縮機の同一平面上の圧縮部を2段に分け、固定スクロール52には圧縮部を2段に区画するランド部53を設け、固定スクロール52の外周側固定ラップ部52A(中間ラップ56を含む)と、旋回スクロール54の外周側旋回ラップ部54Aとによって、外周側圧縮部55A(低圧段)を構成し、固定スクロール52の内周側固定ラップ部52B(中間ラップ56を含む)と、旋回スクロール54の内周側旋回ラップ部54Bとによって、内周側圧縮部55B(高圧段)を構成する。冷媒などの被圧縮流体(ガス)は、外部から吸入口8を通って外周側圧縮部55Aに吸入され、外周側圧縮部55Aで圧縮後、ガスは中間吐出口32から吐出する。その後、インジェクションガスと合流して中間圧となり、中間吸入口33を経て、内周側圧縮部55Bに導入される。内周側圧縮部55Bで圧縮された後、高圧となって吐出口9から吐出される。
【0030】
上記説明では、車両用の空調装置などのヒートポンプシステムにおいて、圧縮機への中間圧冷媒の流入を伴う2段圧縮サイクルで説明したが、これに限定されるものではなく、中間圧冷媒の流入を行わない場合の2段圧縮に適用しても良い。その他、本発明を、車両用以外の家電製品等の圧縮機に適用しても良い。
さらに、上記説明では、外周側圧縮部55Aを低圧段として、内周側圧縮部55Bを高圧段としたが、これと逆に設定しても良い。この場合でも同様に、外周側圧縮部55Aに、第1圧縮室(21A−1)と第2圧縮室(21A−2)の2室が形成され、前記2室の合流時の圧力が等しくなるように構成する。
【0031】
本発明の一実施形態の作動を、外周側圧縮部55A(低段圧縮)と内周側圧縮部55B(高段圧縮)に分けて説明する。図8は、外周側圧縮部55Aの2つの圧縮室の変化を説明しており、図9は、内周側圧縮部55Bの2つの圧縮室の変化を説明している。図10は、本発明の一実施形態における、駆動シャフト回転角に対する、低段、高段圧縮部の、容積又は圧力の関係を示すグラフである。まず、図8を参照して、外周側圧縮部の圧縮室の変化(低段圧縮)を説明してから、図9の内周側圧縮部の圧縮室の変化(高段圧縮)を説明する。
【0032】
外周側圧縮部については、図8(f)の225度を少し過ぎたあたりで、新たな低段側の圧縮サイクルが開始される。図8(g)の270度では、第1圧縮室(21A−1)と第2圧縮室(21A−2)の2室が形成され、図8(h)の315度に至るまでには、瞬間的に合流して1室となる。2室の合流時には、両室の圧力が等しくなるように構成されている。図5(b)に示すように、両室の圧力が等しくなるように構成されているので、合流時に基礎技術や、従来技術において発生していた圧力損失を避けることができ、圧縮機の効率をあげることができる。図10を参照すると、2室の合流時に、図6にみられるような第1圧縮室と第2圧縮室の圧力差は消失している。両室の圧力が等しくなるように構成する手段については、後述する。
【0033】
合流後、図8(h)から(f)へと、外周側圧縮部における圧縮プロセスが、図10の「低段」に見られるように進行して、外周側圧縮部から内周側圧縮部へ、中間吐出口32を通じて低圧ガスが吐出されて、高段側の圧縮サイクルが開始される。図9(a)の「0度(吐出完了)」は、高段側の吐出が完了して、新たな高段側の圧縮サイクルが開始することを表している。図10の「高段」においても、高段圧縮が0度、又は、360度で開始されている。図9に見られるように、2つの圧縮室は、点対称に形成されている。図9(a)の0度の状態では、対称な2つの圧縮室が形成されている。その後、対称に形成された2つの圧縮室は合流して、1つの圧縮室となって、高圧となった被圧縮流体は、中心部にある吐出口9から外部に吐出する。図10に示すように、2つの圧縮室はほぼ点対称に形成されるので、合流時の2つの圧縮室の圧力差は顕在化しない。
【0034】
次に、外周側圧縮部において第1圧縮室21A−1と第2圧縮室21A−2の2室の圧力が等しくなるように構成する手段について述べる。
【0035】
図11は、外周側旋回ラップ部の巻き数を少なくし、第1圧縮室の圧縮開始位相を遅らせて、2室の合流時の圧力を等しくさせる手段の説明図であり、(a)は、ラップ部を削る前の状態であり、(b)は、ラップ部を削ったことにより第1圧縮室の圧縮開始位相が遅れることを説明する説明図である。図11の(a)と(b)を比較してみると、(a)の270度の外周側旋回ラップ部54Aの巻き終わり端部を削って、(b)の270度のように、第1圧縮室21A−1の形成を遅らせている。一例として、このようにすれば、第1圧縮室の圧縮開始位相を遅らせて、2室の合流時の圧力を等しく調整することができる。(なお、図11(a)は、図8の(g)、(h)と同じである。本来、図8の(g)、(h)は、2室の合流時の圧力を等しくさせたものなので、さらに削ることはあり得ないが、2室の合流時の圧力を等しくさせる手段の説明のために、あえて使用したものである。)
多くの場合、外周側旋回ラップ部54Aの巻き数を、約1〜0.5とすると、2室の合流時の圧力を等しくさせることができる。
【0036】
図12は、外周側固定ラップ部の歯側面を削ることにより、室の合流時の圧力を等しくさせる手段の説明図である。図13(a)は、ラップ部の歯側面を削る前の状態であり、(b)は、ラップ部を削ったことにより圧縮室の圧縮開始位相が遅れることを説明する説明図である。この場合は、第2圧縮室21A−2の形成を遅らせることができる。また、ラップ部を削る代わりに、ラップの歯側面に沿って溝を設けても同じような効果を得ることができる。
【0037】
このように、外周側旋回ラップ部54Aの巻き数を少なくする手段や、外周側固定ラップ部52Aの歯側面を削る手段や、外周側固定ラップ部52A又は外周側旋回ラップ部54Aの歯側面に沿って溝を設置する手段によって、あるいは、これらいずれか2つ、又は、3つの手段を組み合わせて、2室の合流時の圧力を等しくさせることができる。
【0038】
これらの手段により2室の合流時の圧力を等しくさせる場合には、2室の合流時の圧力を等しくなるように、スクロール圧縮機の設計時に、削る量などを調整する。圧縮室の容積変化がわかれば理論的な圧力変化も求めることができるので、シミュレーションなどを活用して、合流時の圧力が等しくなるように調整することができる。
【0039】
本発明の別の実施形態として、次のような変形形態が考えられる。外周側圧縮部55Aは、第1圧縮室21A−1と第2圧縮室21A−2の2室が形成された直後に、2室が合流するように構成すると良い。この場合には、第1圧縮室21A−1と第2圧縮室21A−2の2室の圧力が上がる前に合流するので、2室の合流時の圧力差をなくすことができる。これにより、2室の合流時の圧力調整が容易になる。なお、直後とは、概ね20度位の駆動シャフトの回転角範囲を指している。
【符号の説明】
【0040】
21A−1 第1圧縮室
21A−2 第2圧縮室
52 固定スクロール
52A 外周側固定ラップ部
52B 内周側固定ラップ部
53 ランド部
54 旋回スクロール
54A 外周側旋回ラップ部
54B 内周側旋回ラップ部
55A 外周側圧縮部
55B 内周側圧縮部
56 中間ラップ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一平面上に固定スクロール(52)と旋回スクロール(54)を有するスクロール型圧縮機であって、前記固定スクロール(52)に、前記固定スクロール(52)のラップ部を連結するランド部(53)を設けることにより、外周側圧縮部(55A)と内周側圧縮部(55B)が形成された2段スクロール型圧縮機において、
前記外周側圧縮部(55A)は、前記固定スクロール(52)の外周側固定ラップ部(52A、56)と、前記旋回スクロール(54)の外周側旋回ラップ部(54A)を具備し、
外周側固定ラップ部(52A、56)と前記外周側旋回ラップ部(54A)を、第1圧縮室(21A−1)と第2圧縮室(21A−2)の2室が形成された後、前記旋回スクロール(54)の旋回運動につれて前記2室は合流するように構成し、さらに、前記2室の合流時の圧力が等しくなるように構成した2段スクロール型圧縮機。
【請求項2】
前記外周側旋回ラップ部(54A)の巻き数が減少するように一部削除して、前記第1圧縮室(21A−1)の圧縮開始位相を遅らせて、前記2室の合流時の圧力を等しくさせたことを特徴とする請求項1に記載の2段スクロール型圧縮機。
【請求項3】
前記外周側旋回ラップ部(54A)の前記巻き数を、1以下としたことを特徴とする請求項2に記載の2段スクロール型圧縮機。
【請求項4】
前記外周側固定ラップ部(52A)の歯側面を削ることにより、前記2室の合流時の圧力を等しくさせたことを特徴とする請求項1に記載の2段スクロール型圧縮機。
【請求項5】
前記外周側固定ラップ部(52A)又は前記外周側旋回ラップ部(54A)の歯側面に沿って溝を設置したことより、前記2室の合流時の圧力を等しくさせたことを特徴とする請求項1に記載の2段スクロール型圧縮機。
【請求項6】
前記外周側旋回ラップ部(54A)の巻き数を少なくする手段、前記外周側固定ラップ部(52A)の歯側面を削る手段、前記外周側固定ラップ部(52A)又は前記外周側旋回ラップ部(54A)の歯側面に沿って溝を設置する手段のいずれか2つ、又は、3つの手段を組み合わせて、前記2室の合流時の圧力を等しくさせたことを特徴とする請求項1に記載の2段スクロール型圧縮機。
【請求項7】
前記外周側圧縮部(55A)は、第1圧縮室(21A−1)と第2圧縮室(21A−2)の2室が形成された直後に、前記2室は合流するように構成したことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の2段スクロール型圧縮機。
【請求項8】
冷媒圧縮機として使用される請求項1から7のいずれか1項に記載の2段スクロール型圧縮機。
【請求項9】
前記外周側圧縮部(55A)と前記内周側圧縮部(55B)とを連通する連通路(24)に、中間圧冷媒をインジェクションすることを特徴とする請求項8に記載の2段スクロール型圧縮機。
【請求項1】
一平面上に固定スクロール(52)と旋回スクロール(54)を有するスクロール型圧縮機であって、前記固定スクロール(52)に、前記固定スクロール(52)のラップ部を連結するランド部(53)を設けることにより、外周側圧縮部(55A)と内周側圧縮部(55B)が形成された2段スクロール型圧縮機において、
前記外周側圧縮部(55A)は、前記固定スクロール(52)の外周側固定ラップ部(52A、56)と、前記旋回スクロール(54)の外周側旋回ラップ部(54A)を具備し、
外周側固定ラップ部(52A、56)と前記外周側旋回ラップ部(54A)を、第1圧縮室(21A−1)と第2圧縮室(21A−2)の2室が形成された後、前記旋回スクロール(54)の旋回運動につれて前記2室は合流するように構成し、さらに、前記2室の合流時の圧力が等しくなるように構成した2段スクロール型圧縮機。
【請求項2】
前記外周側旋回ラップ部(54A)の巻き数が減少するように一部削除して、前記第1圧縮室(21A−1)の圧縮開始位相を遅らせて、前記2室の合流時の圧力を等しくさせたことを特徴とする請求項1に記載の2段スクロール型圧縮機。
【請求項3】
前記外周側旋回ラップ部(54A)の前記巻き数を、1以下としたことを特徴とする請求項2に記載の2段スクロール型圧縮機。
【請求項4】
前記外周側固定ラップ部(52A)の歯側面を削ることにより、前記2室の合流時の圧力を等しくさせたことを特徴とする請求項1に記載の2段スクロール型圧縮機。
【請求項5】
前記外周側固定ラップ部(52A)又は前記外周側旋回ラップ部(54A)の歯側面に沿って溝を設置したことより、前記2室の合流時の圧力を等しくさせたことを特徴とする請求項1に記載の2段スクロール型圧縮機。
【請求項6】
前記外周側旋回ラップ部(54A)の巻き数を少なくする手段、前記外周側固定ラップ部(52A)の歯側面を削る手段、前記外周側固定ラップ部(52A)又は前記外周側旋回ラップ部(54A)の歯側面に沿って溝を設置する手段のいずれか2つ、又は、3つの手段を組み合わせて、前記2室の合流時の圧力を等しくさせたことを特徴とする請求項1に記載の2段スクロール型圧縮機。
【請求項7】
前記外周側圧縮部(55A)は、第1圧縮室(21A−1)と第2圧縮室(21A−2)の2室が形成された直後に、前記2室は合流するように構成したことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の2段スクロール型圧縮機。
【請求項8】
冷媒圧縮機として使用される請求項1から7のいずれか1項に記載の2段スクロール型圧縮機。
【請求項9】
前記外周側圧縮部(55A)と前記内周側圧縮部(55B)とを連通する連通路(24)に、中間圧冷媒をインジェクションすることを特徴とする請求項8に記載の2段スクロール型圧縮機。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図6】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図6】
【公開番号】特開2013−19274(P2013−19274A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150855(P2011−150855)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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