説明

3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンハイドロラーゼ、5−デオキシ−D−グルクロン酸及びその製造方法、並びに5−デオキシ−D−グルクロン酸由来のγ−ラクトンの製造方法

【課題】 3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンハイドロラーゼ、5−デオキシ−D−グルクロン酸及びその製造方法、並びに5−デオキシ−D−グルクロン酸由来のγ−ラクトンの製造方法を提供する。
【解決手段】 3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンを、3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンハイドロラーゼにより加水分解して5−デオキシ−D−グルクロン酸を製造することとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンハイドロラーゼ、新規物質5−デオキシ−D−グルクロン酸及びその製造方法、並びに5−デオキシ−D−グルクロン酸由来のγ−ラクトンの製造方法に関する。すなわち、本発明は、配列番号1で示されるタンパク質の3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンに対するハイドロラーゼとしての新規な作用に基づくものであり、5−デオキシ−D−グルクロン酸由来のγ−ラクトンの中間体である新規物質5−デオキシ−D−グルクロン酸に関する。
【背景技術】
【0002】
バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)168株の全塩基配列が公開され、この中のイノシトール代謝オペロン内には10種類のオープンリーディングフレーム(ORF)が存在することが判明している。例えば、2−ケト−ミオ−イノシトールデヒドラターゼ(EC.4.2.1.44)は、このオペロン内に存在するiolE遺伝子産物に相当する。2−ケト−ミオ−イノシトールデヒドラターゼ(EC.4.2.1.44)は、1966年、Bermanら(非特許文献1参照)によって、アエロバクターエアロゲネス(Aerobacter aerogenes)から20倍に精製されている酵素と同一の作用を有する酵素と推定されている。その作用としては、2−ケト−ミオ−イノシトールに作用し、脱水反応により、3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンを与えることが実証されている。
【0003】
脱水反応により得られた3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンは、代謝を受けてグルクロン酸類縁体に変換されると推測されていた。しかしながら、3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンから変換される物質の詳細はこれまで解明されておらず、代謝経路の詳細も不明であった。
【0004】
一方、γ−ラクトンは、抗腫瘍活性、抗ウィルス活性等を有するスチルラクトン化合物〔例えばゴニオフフロン[下記(V)]等〕の構造単位を有しており、この構造単位を有
した合成中間体として期待されている物質である。
【化1】

【0005】
γ−ラクトンの有機合成例として、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4等の方法が知られている。
【0006】
しかしながら、上記の文献記載の方法は、γ−ラクトン〔下式(IV)〕を、グルクロノラクトン(脱水グルコン酸)から、保護、脱保護、還元剤を用いた還元等の4工程で製造するものであり、工業的に有利な方法ではなかった。
【化2】

【0007】
【非特許文献1】Journal of Biological Chemistry, Berman,T. et al、1966年、241巻、800頁
【非特許文献2】Chemische Berichte, Hans Paulsen et al、1966年、99巻、908頁
【非特許文献3】Journal of Organic Chemistry,Xiang−Hui Yi et al、1998年、63巻、7472頁
【非特許文献4】Journal of the Indian Institute of Science, Mereyala,H.B. et al、2001年、81巻、453頁
【非特許文献5】Journal of Biological Chemistry, Anderson,W. et al、1971年、246巻、5653頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものである。
前記したように、イノシトール代謝オペロン内には少なくとも10種類のORFが存在する。そのうち、iolE遺伝子産物に相当する2−ケト−ミオ−イノシトールデヒドラターゼは、2−ケト−ミオ−イノシトールに作用し、3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンを与える。なお、2−ケト−ミオ−イノシトールは、安価な原料であるミオ−イノシトールから微生物変換により定量的に得られる。
本発明者らは、上記オペロン内に存在する上記iolE遺伝子産物とは別異のiolD遺伝子産物が、上記3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンに対し、ハイドロラーゼとしてその代謝に直接かかわっているという知見を得た。
本発明は、かかる知見に基づき、γ−ラクトンの前駆物質として、新規物質として、5−デオキシ−D−グルクロン酸を提供することを目的とするものであり、さらに、その製造方法、並びにγ−ラクトンの新規な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は鋭意検討を重ねた結果、既述したように、iolD遺伝子産物が3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンに対してハイドロラーゼとして作用する酵素タンパク質であることを見出した。さらにこの酵素の加水分解反応により3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンから生成される物質は、2−デオキシ−5−ケト−グルコン酸ではなく、その異性体である新規物質5−デオキシ−D−グルクロン酸であることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、その一つの側面で、下記化学式で示される3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオン(I)から、5−デオキシ−D−グ
ルクロン酸(II)への加水分解反応を触媒する、3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンハイドロラーゼである。
【化3】

【0011】
また、本発明は、その一つの側面で、下記の化学式:

【化4】

で表される、5−デオキシ−D−グルクロン酸、又はその金属塩である。
【0012】
また、本発明は別の側面で5−デオキシ−D−グルクロン酸の製造方法であり、
下記の化学式:

【化5】

で表される、3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンを、3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンハイドロラーゼを作用させることにより、水溶液中で加水分解して5−デオキシ−D−グルクロン酸(I)を得ることを特徴とする。
ここで、本発明に係る5−デオキシ−D−グルクロン酸の製造方法は、別の形態で、2−ケト−ミオ−イノシトールに、2−ケト−ミオ−イノシトールデヒドラターゼと、3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンハイドロラーゼとを同時に作用させて5−デオキシ−D−グルクロン酸を製造することを特徴とする。
【0013】
さらに、本発明は、γ−ラクトンの製造方法に係るものであり、該製造方法は、新規物質5−デオキシ−D−グルクロン酸を、酸触媒存在下、脱水反応を行ない、5−デオキシ−D−グルクロン酸由来のγ−ラクトンに変換させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、安価なミオ−イノシトールから定量的に製造される2−ケト−ミオ−イノシトールを原料にして、新規物質5−デオキシ−D−グルクロン酸、及び5−デオキシ−D−グルクロン酸由来のγ−ラクトンを製造することができる。この新規物質は、医農薬合成中間体として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンを、3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンハイドロラーゼにより加水分解して5−デオキシ−D−グルクロン酸を製造する方法。
既述したように、本発明では、iolD遺伝子産物が持つ、3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンに対するハイドロラーゼとしての作用を活用している。
3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンハイドロラーゼは、バチルス・ズブチリス168株から、それをコードするDNAにより遺伝子工学的手法を経て調製することができる。すなわち、該DNAの菌体への導入により細菌形質転換体を作製し、その細菌形質転換体を培養し、その培養された菌体、又は、培養液から、既知の酵素分離法により目的とする酵素を回収することができる。
【0016】
このような3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンハイドロラーゼを製造する方法においては、iolD遺伝子のDNAの導入で形質転換された細菌、特に大腸菌を、既知の細菌培養用液体培地中で30℃〜40℃の培養温度で培養したものを用いることが好適である。
得られた培養液からは、培養された形質転換菌の菌体をろ過又は遠心分離法により分離できる。分離されたペレット状の菌体を水で洗浄後、遠心分離し、洗浄菌体を得ることができる。
この洗浄菌体を例えば、0.6%トライトンX−100を含む100mMトリスバッファー(pH7.5)に懸濁させ、超音波によって菌体を破砕する。
菌体の破砕後、遠心分離し、上清にある酵素抽出液を得る。
その後、酵素抽出液に、例えば、50%になるように硫酸アンモニウムを加えて、タンパク質を塩析させる。
このようにして調製したタンパク溶液をさらに遠心分離し、タンパク質沈殿として目的の酵素を得る。これを例えば、100mMトリスバッファー(pH7.5)、又は、50%グリセロール溶液として保存できる。
【0017】
また、菌体から酵素抽出液に硫酸アンモニウムを加えてタンパク質を析出させる前記した方法の他に、酵素抽出液から目的の酵素を回収する方法としては、酵素抽出液をイオン交換樹脂に吸着後、塩濃度による直線濃度勾配を利用したカラムクロマトグラフィーにかけて分離して精製する方法を用いることもできる。また、その他、ゲルろ過カラムによる分子量分画によって精製することもできる。
【0018】
またさらに、別の方法として、用いた菌体から培養液に分泌させる場合には、上記の形質転換細菌の培養液から目的の酵素を回収するためには、培養液から培養細胞の菌体を分離した後に、得られた培養液上清を濃縮し、その濃縮液から、硫安分画によって目的の酵素を回収し、さらに、精製するといったステップにより目的とする酵素を得ることができる。
【0019】
このようにして得られた、3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンハイドロラーゼは、これを3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンに作用させると、5−デオキシ−D−グルクロン酸に変換できることから、新規物質5−デオキシ−D−グルクロン酸の製造が可能になる。
【0020】
すなわち、本発明では、3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンを含有する水溶液中で、3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンハイドロラーゼにより加水分解して5−デオキシ−D−グルクロン酸へ変換させ、これを精製し、単離することにより、新規物質である5−デオキシ−D−グルクロン酸を得ることができる。
【0021】
本発明に使用する3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンの水溶液は後述する2−ケト−ミオ−イノシトールデヒドラターゼを2−ケト−ミオ−イノシトールに作用させて得られた3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンを使用することができる。3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンは反応開始時の濃度が1%〜15%、好ましくは10%であるのが望ましい。
【0022】
上記3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンハイドロラーゼは、配列番号1のアミノ酸配列からなるものが使用できるほか、イノシトールを代謝する能力を持つ菌に存在する、同様な作用を有する酵素であれば使用することができる。すなわち、3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンハイドロラーゼは、上記アミノ酸配列からなるものの他、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ該アミノ酸配列のタンパク質と同じ活性を有するタンパク質であってもよい。
【0023】
この3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオン水溶液に作用させる3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンハイドロラーゼは、単離された3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンハイドロラーゼであることもでき、又は、これを含む粗酵素液であってもよい。
【0024】
さらに、使用される3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンハイドロラーゼは、固定化酵素としても使用可能である。酵素固定化法としては、ゲル抱埋法、イオン交換樹脂吸着法等、既知の酵素固定化法が適用できる。
【0025】
補酵素としてチアミンピロリン酸を用いることが好適であるが、酵素調製時に培地から得られるため、特に添加する必要はない。もっとも添加する場合、0.001〜1mMが好ましく、さらに好ましくは、0.01mMである。
【0026】
使用される3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオン溶液のpHは、3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンハイドロラーゼの至適pHであるpH7〜pH9、好ましくはpH7.5〜pH8.5に調整するのが好ましい。また、反応により、カルボン酸が生じ、pHは低下していくため、pHスタット等のpH制御装置を用いて、反応pHを維持しながら反応させることが好ましい。pHの維持に使用されるアルカリ水溶液としては、NaOH水溶液、KOH水溶液、アンモニア水溶液、トリメチルアミン水溶液、水酸化バリウム水溶液等を例示することができる。また、反応温度は、20℃〜50℃、好ましくは30℃である。
【0027】
反応終了後、可溶性酵素を使用した場合は、限外ろ過等により、高分子量の酵素を回収できる。固定化された酵素を使用した場合、反応溶液を遠心分離、あるいはろ過することによって、固定化酵素を回収することができる。またさらに、回収する必要がない場合、加熱による変性沈殿後、遠心分離により酵素を除去することができる。
【0028】
このようにして酵素を除いた後の残液である反応溶液は、生成した5−デオキシ−D−グルクロン酸を含んでいる。次に、この溶液から、5−デオキシ−D−グルクロン酸を精製するには、イオン交換樹脂による精製の他、溶媒抽出法が使用できる。イオン交換樹脂を用いる場合、得られた溶液は強塩基性イオン交換樹脂カラムを通過させ、5−デオキシ−D−グルクロン酸をイオン交換樹脂に吸着させた後、水でイオン交換樹脂を洗浄し、鉱酸、あるいは酢酸やギ酸等の有機酸によって、カラムから溶出させることができる他、NaCl等の塩によってもカラムから溶出させることができる。カラムから溶出する溶液は、分画し、不要な酸や、塩を含まない画分を集めて、濃縮し、5−デオキシ−D−グルクロン酸を得ることができる。
【0029】
溶媒抽出法の場合、得られた溶液を鉱酸でpH2〜3に調整し、この溶液を濃縮する。濃縮後、メタノールを加えて、5−デオキシ−D−グルクロン酸をメタノール層に溶解させることができる。次にメタノール溶液を濃縮し、5−デオキシ−D−グルクロン酸を得ることができる。
【0030】
2−ケト−ミオ−イノシトールに、2−ケト−ミオ−イノシトールデヒドラターゼと、3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンハイドロラーゼの2つの酵素を作用させて、5−デオキシ−D−グルクロン酸を製造する方法
さらに、本発明者らは、本発明で反応の原料として使用する3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンは、2−ケト−ミオ−イノシトールに2−ケト−ミオ−イノシトールデヒドラターゼを作用させて変換させることができる。したがって、同一溶液中に、2−ケト−ミオ−イノシトールデヒドラターゼと、3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンハイドロラーゼが共存する場合、2−ケト−ミオ−イノシトールは、3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンを経由して、5−デオキシ−D−グルクロン酸まで反応させることができる。本発明にはこのような製造方法も含む。
【0031】
したがって、本発明においては、5−デオキシ−D−グルクロン酸は、2−ケト−ミオ−イノシトールに、2−ケト−ミオ−イノシトールデヒドラターゼと、3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンハイドロラーゼの2つの酵素を作用させて、5−デオキシ−D−グルクロン酸へ変換させ、これを精製し、単離して得ることができる。
【0032】
このように両酵素を用いて、得られる5−デオキシ−D−グルクロン酸を含有する反応溶液からの5−デオキシ−D−グルクロン酸の精製は、前述と同様の要領で実施できる。
【0033】
2−ケト−ミオ−イノシトールの水溶液は、ミオ−イノシトールから微生物的変換により生成した2−ケト−ミオ−イノシトールの水溶液、あるいは、ミオ−イノシトールを酸化白金により酸化した2−ケト−ミオ−イノシトールの水溶液であることができる。2−ケト−ミオ−イノシトールの水溶液は、反応開始時の2−ケト−ミオ−イノシトール濃度が1%〜15%、好ましくは15%である。
【0034】
2−ケト−ミオ−イノシトールに作用させる、2−ケト−ミオ−イノシトールデヒドラターゼは、前述したバチルス・ズブチリス168株から、iolE遺伝子をコードするDNAを遺伝子工学的手法により作成し、該DNAの導入により細菌形質転換体を作り、その細菌形質転換体を培養し、その培養された菌体から、又は、培養液から、既知の酵素分離法により回収することができる。
【0035】
2−ケト−ミオ−イノシトールデヒドラターゼと、3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンハイドロラーゼの2つの酵素は、単離された2−ケト−ミオ−イノシトールデヒドラターゼと、3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンハイドロラーゼであることもでき、又はこれらを含む粗酵素液であることもできる。
【0036】
さらに、使用される2−ケト−ミオ−イノシトールデヒドラターゼと、3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンハイドロラーゼの2つの酵素は、固定化酵素としても使用可能である。酵素固定化法としては、ゲル抱埋法、イオン交換樹脂吸着法等、既知の酵素固定化法が適用できる。
【0037】
補酵素としてチアミンピロリン酸を用いることが好適である、酵素調製時に培地から得られるため、特に添加する必要はない。添加する場合の濃度は、好ましくは0.001〜1mM、さらに好ましくは0.01mMである。
【0038】
使用される2−ケト−ミオ−イノシトール水溶液のpHは、2−ケト−ミオ−イノシトールデヒドラターゼと、3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンハイドロラーゼの至適pHが一致するため、pH7〜pH9、好ましくはpH7.5〜pH8.5に調整するのが好ましい。また、反応により、カルボン酸が生じ、pHは低下していくため、pHスタット等のpH制御装置を用いて、反応pHを維持しながら反応させることが好ましい。pHの維持に使用されるアルカリ水溶液としては、NaOH水溶液、KOH水溶液、アンモニア水溶液、トリメチルアミン水溶液、水酸化バリウム水溶液等を例示することができる。また、反応温度は、20℃〜50℃、好ましくは30℃である。
【0039】
5−デオキシ−D−グルクロン酸由来のγ−ラクトンの製造方法
このようにして製造された5−デオキシ−D−グルクロン酸は、次に酸触媒存在下に、有機化学的な脱水反応により、容易にγ−ラクトンに変換することができる。
【0040】
すなわち、5−デオキシ−D−グルクロン酸を酸触媒存在下、脱水反応を行ない、5−デオキシ−D−グルクロン酸由来のγ−ラクトンに変換させ、これを精製し、単離することからなる5−デオキシ−D−グルクロン酸由来のγ−ラクトンを製造することも本発明の概念に含まれる。
【0041】
本発明に係るγ−ラクトンの製造方法に使用する5−デオキシ−D−グルクロン酸は、遊離の酸、又は金属塩であっても使用できるが、好ましくは、遊離の酸の状態である。また、完全に水分が除去されず、結晶化していない状態の物であっても使用することができる。
【0042】
5−デオキシ−D−グルクロン酸をγ−ラクトンに変換させるために使用される酸触媒は、酸であれば特に限定されない。例えば、硫酸、塩酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、リン酸、p−トルエンスルホン酸等を例示することができる。酸触媒の量は反応系の酸の規定度が0.01N〜10N、好ましくは1N〜3Nである。
【0043】
使用される溶媒は、水、及び、アルコール類が使用でき、さらに好ましくは、水である。
【0044】
γ−ラクトンの生成反応は、加熱することによって反応が促進されるため、加熱するのが好ましく、また、均一な熱で反応させるため攪拌を必要とする。加熱温度は、反応が進めば、特に限定されないが、水を溶媒とする場合、好ましくは、30℃〜100℃、また、反応時間を長く取るのであれば、30℃〜50℃でも反応させることができる。
【0045】
反応後の溶液からの5−デオキシ−D−グルクロン酸由来のγ−ラクトンの精製は、溶媒を留去した後、水に溶解し、強酸性又は弱酸性陽イオン交換樹脂(H+タイプ)を通過させた後、強塩基性又は弱塩基性陰イオン交換樹脂(OH-タイプ)を通過させることで、不要なイオン性物質を除去し、さらに活性炭カラムを通過させることで、脱色し、精製することができる。最後に通過溶液を濃縮することで5−デオキシ−D−グルクロン酸由来のγ−ラクトンを単離することができる。
【0046】
その他、5−デオキシ−D−グルクロン酸とそのγ−ラクトンは大きく極性に差があるため、酢酸エチル等の有機溶媒抽出によっても、精製することができる。
【0047】
このように、本発明は、3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオン又はその前駆物質から、炭素−炭素開裂を伴う加水分解反応を触媒するハイドロラーゼ(新規に見い出された活性)により新規物質5−デオキシ−D−グルクロン酸を得ることができる。
【0048】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【実施例1】
【0049】
3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンハイドロラーゼ遺伝子の発現
(a)バチルス・ズブチリスのゲノムDNAの調製
LBフラスコ培地100ml(1%バクト-トリプトン、0.5%酵母エキス、1%NaCl、pH7.0)にLBスラント培地(1%バクト-トリプトン、0.5%酵母エキス、1%NaCl、pH7.0、1.5%寒天)で培養したバチルス・ズブチリス168株を一白金耳接種し、4時間、36℃で好気的に培養し、これを集菌した。この菌体ペレットに、15mlのSaline−EDTA溶液(0.15M NaCl、0.1M EDTA、pH8.0)とリゾチーム50mgを加えて懸濁し、37℃、2時間作用させた。処理後、この溶液に25%SDS溶液を0.5ml加えて完全に溶菌させ、フェノールを3ml加えて、タンパク質を変性させた後に、遠心分離し、上清を取り出し、この溶液に20mlの2−プロパノールを加えて、粗ゲノムDNAを析出させた。析出した粗ゲノムDNAを遠心分離し、沈殿させ、上清を取り除いた後、減圧下で乾燥させた。乾燥した粗ゲノムDNAは、さらに3mlTE液(10mM Tris−HCl、1mM EDTA、pH8.0)に溶解後、0.01mgのRNAaseを加え、36℃、2時間反応させ、RNAを分解させた。さらに、0.01mgのプロテイナーゼKを加えて、36℃、2時間反応させ、タンパク質を分解させた。次に、1mlのフェノール−クロロホルム(1:1)混液を加えて、ゆっくりと攪拌し、RNAaseと、プロテイナーゼKを変性させ、遠心分離し、2相に分離した内の水相である上層を取り出し、これに3M酢酸Na溶液を0.3ml加えて、pH5.2に調整した。これに3mlの2−プロパノールを加えて、ゲノムDNAを析出させた。析出したゲノムDNAを遠心分離し、沈殿させ、上清を取り除いた後、減圧下で乾燥させた。乾燥したゲノムDNAは、3mlTE液に溶解させ、これに1mlのフェノール−クロロホルム(1:1)混液を加える操作から、3mlTE液に溶解させる過程までを、再度繰り返して、遠心分離を行い、同様にpH5.2にて、上清に等量の2−プロパノールを加えて、バチルス・ズブチリスのゲノムDNA溶液を調製した。このようにして得られたゲノムDNAをPCR反応のための鋳型DNA溶液とした。
【0050】
(b)3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンハイドロラーゼ配列のクローニング
バチルス・ズブチリス由来3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンハイドロラーゼ遺伝子配列(iolD遺伝子配列)のクローニング、かつ、リコンビナント酵素として発現させるために、以下の配列を有するプライマーを用いて、PCR反応を行った。
配列3:iolD-F 5'-ccggaattcaaagatcgagtaaaggtggg-3'
配列4:iolD-R 5'-cgcggatcctttcatttttgcccatctatgg-3'
PCR反応は宝酒造社のEx taq反応用液を使用し、組成はTakara ExTaq Buffer×10倍液 5μl、dNTP mixture 4μl、鋳型DNA 30ng、10μM プライマー溶液 各1μl、Takara ExTaq 0.5μlを50μlになるように水を加え、30μlのミネラルオイルを重層し、調製した。反応条件は、PCR増幅装置(ASTEC社 PC−700)を用い、変性を94℃30秒、アニーリングを50℃1分、伸長を72℃2分、の3段階の反応を30回繰返し行った。上記のPCR反応によって、約2kbpの大きさのDNA断片が増幅した。
反応後、重層したミネラルオイルを0.3mlのヘキサンで抽出し、ヘキサン層を除去する操作を3回繰返し、1分間減圧することで、ミネラルオイルを除去した。この様にして得られた反応液50μlからジーンクリーン(Bio101社製)を用いてPCR断片を精製した。すなわち、キット添付のNaI溶液を300μl加えて混合し、10μlガラスビーズ溶液を加えて混合し、4℃、15分静置した後に、遠心分離し、DNA断片の吸着したガラスビーズを沈殿させ、上清を除去した。さらに、キット添付のNew wash溶液500μlを加えて、ガラスビーズを懸濁させ、遠心分離し、上清を除去した。このNew wash溶液による洗浄操作は3回繰り返した。次に、ガラスビーズを減圧下で乾燥させ、乾燥後、15μlの滅菌水を加えて、懸濁し、55℃で、15分加温した後、遠心分離を行い、DNA断片を含む上清12μlを得た。
【0051】
(c)3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンハイドロラーゼの発現ベクターの調製
精製されたDNA断片を発現ベクターに組み込む操作は以下のように行った。すなわち、DNA断片溶液10μlに、発現用プラスミド(pUC18)を0.5μg、宝酒造社の制限酵素EcoRIとBamHIを各1μl、宝酒造社の制限酵素用緩衝液K buffer×10倍液 2μlを加え、20μlになるように滅菌水を加え、混合した。この反応液を36℃、2時間反応した。
制限酵素反応後、ジーンクリーンを用いて、DNA断片と発現ベクターを単離し、これらをライゲーションさせた。すなわち、制限酵素反応液20μlにキット添付のNaI溶液を300μl加えて混合し、10μlガラスビーズ溶液を加えて混合し、4℃、15分静置した後に、遠心分離し、DNA断片と発現ベクターの吸着したガラスビーズを沈殿させ、上清を除去した。さらに、キット添付のNew wash溶液500μlを加えて、ガラスビーズを懸濁させ、遠心分離し、上清を除去した。このNew wash溶液による洗浄操作は3回繰り返した。次に、ガラスビーズを減圧下で乾燥させ、乾燥後、15μlの滅菌水を加えて、懸濁し、55℃で、15分加温した後、遠心分離を行い、DNA断片と発現ベクターを含む上清12μlを得た。この操作により、制限酵素によって生じた約50bp以下の小さなDNA断片は取り除かれ、目的とするDNA断片と、発現ベクターが得られた。
このようにして調製した溶液10μlにTakara Ligation kit−I溶液(宝酒造社)を10μl加え、16℃、1時間反応させた。この溶液を、コンピテントセル(宝酒造社JM109)に形質転換させた。すなわち、4℃で解凍したコンピテントセル溶液60μlにライゲーション反応溶液を5μl加え、混合し、0℃30分後、42℃45秒、0℃2分の処理を行い、これに500μlSOC溶液(2%バクト-トリプトン、0.5%酵母エキス、10mM NaCl、20mMグルコース、10mM MgSO4、10mM MgCl2)を加えて、36℃で1時間回復培養させ、この培養液100μlを、50μg/mlアンピシリン、40μg/ml X−Gal(5−Bromo−4−chloro−3−indolyl−β−D−galactopyranoside)、1mM IPTG(イソプロピルチオガラクトピラノシド)を含むLB寒天培地(1%バクトトリプトン、0.5%酵母エキス、1%NaCl、pH7.0、1.5%寒天)に塗布した。さらに37℃、16時間培養した。この培養により白色に発色したコロニーとして前記のプラスミドの導入で形質転換された大腸菌が得られるため、これを選択した。こうして分離した形質転換大腸菌コロニーをアンピシリン(50μg/ml)を含むLB液体培地で培養した。増殖した形質転換大腸菌の菌体からプラスミド精製キット(QIA filter Plasmid Midi Kit, QIAGEN社)によりプラスミドDNAの分離及び精製を行った。こうして得られたプラスミドDNAは、目的とする3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンハイドロラーゼに相当する約2kbpのDNA断片を有することが確認された。
【0052】
(d)3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンハイドロラーゼの発現
コロニーとして単離した菌株を50μg/mlアンピシリンを含む100mlLB培地(1%バクトトリプトン、0.5%酵母エキス、1%NaCl、pH7.0)に移植し、36℃7時間培養し、この培養液に200mMイソプロピルチオガラクトピラノシド溶液を0.3ml加え、さらに36℃3時間培養した。培養終了後、遠心分離により、菌体を集め、これを生理食塩水で1回洗浄した。さらに、洗浄菌体を0.6%トライトンX100溶液3mlに懸濁し4℃で超音波により菌を破砕した。この溶液を遠心分離し、上清の酵素溶液2.8mlを取り出し、上清に1.2g硫安を加え、4℃でタンパク質を塩析させた。塩析したタンパク質を遠心分離で集め、上清を除去し、この沈殿物を2.5mlの20mMトリス緩衝液 pH7.0に溶解させ、再度遠心分離を行い、上清を20mMトリス緩衝液 pH7.0で平衡化したSephadex G−25カラム(14ml)にアプライし、20mMトリス緩衝液 pH7.0で溶出させ、脱塩を行なった。この操作により、3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンハイドロラーゼの粗酵素液3.5mlを得た。
3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンハイドロラーゼ活性の測定は、粗酵素液100μl、0.1%3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオン100μl、1Mトリス緩衝液 pH8.0 50μlからなる組成に水を加えて1mlになるように調製した後、この基本反応液をUV測定用装置にセットし、27℃における260nmの吸収の減少を測定した。
【0053】
さらに、上記の基本反応液の組成の内、1Mトリス緩衝液 pH8.0 50μlに代えて、pH4.0、5.0、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0の1Mリン酸緩衝液50μl、pH7.0、8.5、9.0の1Mトリス緩衝液50μl、あるいは、pH8.0、9.0、10.0、11.0の1M炭酸緩衝液50μlを用いて、変換活性を測定したところ、pH7.5〜8.5に最大活性を有していたことから、本酵素の至適pHはpH7.5〜8.5であることが判った。
【実施例2】
【0054】
3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンハイドロラーゼを作用させて得られる生成物の単離と、構造確認
上記実施例1で得られた粗酵素液3.0ml、5%3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオン溶液10mlを混和し、水を15mlになるように加え、pH8.0に調製し、反応溶液のpHが低下しないように1N NaOH水溶液を用いて、pHを随時pH8.0に調整しながら、27℃、16時間反応させた。得られた酵素反応液を塩酸でpH3.0に調整し、80℃で10分間加温し、不溶化したタンパク質を遠心分離により沈殿させた。上清を、濃縮乾固し、これにメタノール150mlを加え、固体からメタノール抽出物を得ることができた。さらにメタノール抽出物を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル60ml、溶離液組成 酢酸エチル:メタノール=1:1)により、不要な塩と、色素成分を除去し、目的物を含む溶出画分を濃縮すると、白色固体が得られた。この白色固体を水に溶解し、NaOH水溶液を用いて、pH7.5に調整し、さらに濃縮すると、濃縮中に白色結晶220mgが得られた。この白色物質のNMR測定すると、本物質は、5−デオキシ−D−グルクロン酸Na塩であることが判明した。また、5−デオキシ−D−グルクロン酸Na塩は、水溶液中ではフラノースであり、β:α=1:0.85の比率であった。
βアノマー 1H-NMR(300MHz,D2O)δ2.69(2H,m),δ4.13(1H,t),δ4.28(1H,dd),δ4.62(1H,dt),δ5.43(1H,d,J=4.2Hz)
αアノマー 1H-NMR(300MHz,D2O)δ2.56(2H,m),δ4.11(1H,t),δ4.19(1H,dd),δ4.58(1H,dt),δ5.20(1H,d)
【実施例3】
【0055】
2−ケト−ミオ−イノシトールから5−デオキシ−D−グルクロン酸への1バッチ変換
2−ケト−ミオ−イノシトールから5−デオキシ−D−グルクロン酸への1バッチ変換は、2−ケト−ミオ−イノシトールデヒドラターゼと、3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンハイドロラーゼを共役させた反応により、行なうことができる。
はじめに、2−ケト−ミオ−イノシトールデヒドラターゼの調製は以下のように行なった
【0056】
(a)2−ケト−ミオ−イノシトールデヒドラターゼ配列のクローニング
バチルス・ズブチリス由来2−ケト−ミオ−イノシトールデヒドラターゼ配列(iolE遺伝子配列)のクローニング、かつ、リコンビナント酵素として発現させるために、以下の配列を有するプライマーを用いて、PCR反応を行った。
配列5:iolE-F 5'-ccggaattctctgcgaagcagtattagag-3'
配列6:iolE-R 5'-cgcggatccccattggtattgcccatatg-3'
PCR反応はアニーリングを52℃1分、伸長を72℃1分にした以外は、実施例1と同様の操作を行なった。結果として、このPCR反応によって、約0.9kbpの大きさのDNA断片が増幅した。反応後、実施例1と同様の操作で、PCR断片の精製を行い、DNA断片を含む上清12μlを得た。
【0057】
(b)2−ケト−ミオ−イノシトールデヒドラターゼの発現ベクターの調製
精製されたDNA断片を発現ベクターに組み込む操作は、実施例1と制限酵素サイトが一致するので、同様の操作を行ない、2−ケト−ミオ−イノシトールデヒドラターゼの発現ベクターを有する大腸菌株を得て、形質転換大腸菌の菌体からプラスミド精製キット(QIA filter Plasmid Midi Kit, QIAGEN社)によりプラスミドDNAの分離及び精製を行った。こうして得られたプラスミドDNAは、目的とする2−ケト−ミオ−イノシトールデヒドラターゼに相当する約0.9kbpのDNA断片を有することが確認された。
【0058】
(c)2−ケト−ミオ−イノシトールデヒドラターゼの発現
コロニーとして単離した菌株を50μg/mlアンピシリンを含む100mlLB培地(1%バクトトリプトン、0.5%酵母エキス、1%NaCl、pH7.0)に移植し、36℃で7時間培養し、この培養液に200mMイソプロピルチオガラクトピラノシド溶液を0.3ml加え、さらに36℃3時間培養した。培養終了後、遠心分離により、菌体を集め、これを生理食塩水で1回洗浄した。さらに、洗浄菌体を0.6%トライトンX100溶液3mlに懸濁し4℃で超音波により菌を破砕した。この溶液を遠心分離し、上清の酵素溶液2.8mlを取り出し、上清に1.2g硫安を加え、4℃でタンパク質を塩析させた。塩析したタンパク質を遠心分離で集め、上清を除去し、この沈殿物を2.5mlの20mMトリス緩衝液 pH7.0に溶解させ、再度遠心分離を行い、上清を20mMトリス緩衝液 pH7.0で平衡化したSephadex G−25カラム(14ml)にアプライし、20mMトリス緩衝液 pH7.0で溶出させ、脱塩を行なった。この操作により、2−ケト−ミオ−イノシトールデヒドラターゼの粗酵素液3.5mlを得た。
【0059】
上記(a)〜(c)の操作で得られた2−ケト−ミオ−イノシトールデヒドラターゼ粗酵素液と、実施例1の方法により得られた3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンハイドロラーゼの酵素液を用いて、共役反応を行なった。
【0060】
2−ケト−ミオ−イノシトールデヒドラターゼ粗酵素液3.0ml、3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンハイドロラーゼ粗酵素液3.0ml、5%2−ケト−ミオ−イノシトール溶液10ml、1mM CoCl2溶液 750μlを混和し、水を20mlになるように加え、pH8.0に調製し、反応溶液のpHが低下しないように1NのNaOH水溶液を用いて、pHを随時pH8.0に調整しながら、27℃、24時間反応させた。得られた酵素反応液を塩酸でpH3.0に調整し、80℃で10分間加温し、不溶化したタンパク質を遠心分離により沈殿させた。上清を、濃縮乾固し、これにメタノール200mlを加え、固体からメタノール抽出物を得ることができた。さらにメタノール抽出物を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル90ml、溶離液組成 酢酸エチル:メタノール=1:1)により、不要な塩と、色素成分を除去し、目的物を含む溶出画分を濃縮すると、白色固体が得られた。この白色固体を水に溶解し、NaOH水溶液を用いて、pH7.5に調整し、さらに濃縮すると、濃縮中に5−デオキシ−D−グルクロン酸 Na塩250mgが得られた。
【実施例4】
【0061】
5−デオキシ−D−グルクロン酸からの5−デオキシ−D−グルクロン酸由来のγ−ラクトンの製造と単離
実施例3の途中に生成する中和する前の白色固体は5−デオキシ−D−グルクロン酸であり、本物質を出発原料とした。5−デオキシ−D−グルクロン酸 100mgを水1.0mlに溶解し、これに攪拌しながら、濃硫酸20μlを加えて、攪拌下、50℃で反応させた。16時間後、反応液は5−デオキシ−D−グルクロン酸由来のγ−ラクトンが不溶物として壁面に生じた状態であった。反応停止は、反応溶液を室温まで冷却後、これに30%水酸化バリウム懸濁液をpH8になるように加えた(約60μl)。その後、反応停止した溶液をろ過し、ろ液を濃縮乾固した。濃縮物に酢酸エチル3mlを加えて攪拌し、再度、ろ過を行ない、残った固体を酢酸エチルで洗浄し、酢酸エチル溶液を得た。次に、最初のろ液と、洗浄液を一緒にし、この溶液を濃縮し、粗5−デオキシ−D−グルクロン酸由来のγ−ラクトンを得た。さらに、この物質を少量の酢酸エチルに溶解し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル30ml、溶離液組成 酢酸エチル)により、分画し、目的物を含む溶出画分を濃縮すると、白色固体31mgが得られた。この白色固体のNMR測定により、本物質は、5−デオキシ−D−グルクロン酸由来のγ−ラクトンであることが判明した。また、5−デオキシ−D−グルクロン酸由来のγ−ラクトンは、水溶液中ではフラノースであり、β:α=0.26:1の比率であった。
βアノマー 1H-NMR (300MHz, D2O) δ2.77 (1H, dd)、δ3.06 (1H, dd)、δ4.44(1H, d)、δ5.12 (1H, dd)、δ5.26(1H, dt)、δ5.56(1H, d)
αアノマー 1H-NMR (300MHz, D2O) δ2.79(1H, dd)、δ3.11 (1H, dd)、δ4.43(1H, d)、δ5.10 (1H, dd)、δ5.23(1H, dt)、δ5.47(1H, d)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式で示される3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオン(I)から、5−デオキシ−D−グルクロン酸(II)への加水分解反応を触媒する、3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンハイドロラーゼ。
【化1】

【請求項2】
配列番号1のアミノ酸配列、又は該アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列からなり、3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンに対するハイドロラーゼ活性を有する請求項1に記載の3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンハイドロラーゼ。
【請求項3】
下記の化学式:
【化2】


で表される、5−デオキシ−D−グルクロン酸、又はその金属塩。
【請求項4】
下記の化学式:
【化3】


で表される、3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンを、3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンハイドロラーゼにより反応溶液中で加水分解して5−デオキシ−D−グルクロン酸を得ることを特徴とする5−デオキシ−D−グルクロン酸の製造方法。
【請求項5】
反応溶液中で2−ケト−ミオ−イノシトールに、2−ケト−ミオ−イノシトールデヒドラターゼと、3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンハイドロラーゼとを同時に作用させ、5−デオキシ−D−グルクロン酸を得ることを特徴とする5−デオキシ−D−グルクロン酸の製造方法。
【請求項6】
上記3D−(3,5/4)−トリハイドロキシシクロヘキサン−1,2−ジオンハイドロラーゼが配列番号1のアミノ酸配列からなることを特徴とする、請求項4又は5に記載の5−デオキシ−D−グルクロン酸の製造方法。
【請求項7】
上記反応溶液のpHをpH7〜9に維持するためにアルカリ液を添加することを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の5−デオキシ−D−グルクロン酸の製造方法。
【請求項8】
上記反応溶液のpHをpH7.5〜8.5に維持するためにアルカリ液を添加することを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の5−デオキシ−D−グルクロン酸の製造方法。
【請求項9】
5−デオキシ−D−グルクロン酸を、酸触媒存在下、脱水反応させ、5−デオキシ−D−グルクロン酸由来のγ−ラクトン〔下式(IV)〕に変換させることを特徴とする、5−デオキシ−D−グルクロン酸由来のγ−ラクトンの製造方法。
【化4】


【公開番号】特開2007−236264(P2007−236264A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−62466(P2006−62466)
【出願日】平成18年3月8日(2006.3.8)
【出願人】(000242002)北興化学工業株式会社 (182)
【Fターム(参考)】