説明

X線分析方法及び装置

【課題】本発明はX線分析方法及び装置に関し、ステージ走査でも良好なドリフト補正を行うことができるX線分析方法及び装置を提供する。
【解決手段】試料上の面分析領域の内部を複数のブロックに分けて、ブロック内での各ラインのステージ走査に基づく特性X線の測定が第1ブロックから各ブロック毎に順次行うようにされており、各ブロックにおいて最初に走査が行われるラインについてのステージ走査の開始前に、試料の電子線走査画像を取得し、第2ブロック以降における特性X線の測定開始時においては、当該ブロックにおいて取得された電子線走査画像と、その直前のブロックにおいて取得された電子線走査画像との照合を行って、ステージのドリフト量を求め、該ドリフト量に基づいて電子線のビームシフトを行うことにより、試料上での電子線の照射位置を補正してから当該ブロック内での特性X線測定を開始するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はX線分析方法及び装置に関し、更に詳しくはステージ走査を行う面分析の場合でも正確なドリフト補正を行うことができるX線分析方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料に電子線を照射して、試料より発生する特性X線やオージェ電子などのエネルギースペクトルを計測することにより、試料の元素組成を分析する電子線分析装置、例えばEPMA(X線マイクロアナライザ)が知られている。この種の装置の場合、電子線を走査して面分析を行う場合、分析中に周辺の像(例えば2次電子像や反射電子像)を収集し、画像処理を用いてドリフト量を見積り、イメージシフトを用いてドリフト補正をすることが行われる。ステージを走査することにより面分析する場合は、ステージの送り精度に依存した結果になる。
【0003】
従来のこの種の装置としては、検出効率が高い2次電子或いは透過電子等の位置検出手段により試料変位量を計測して特性X線或いはオージェ電子による分析を行う位置を補正する技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−172492号公報(段落0005〜0012、図1、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した従来の技術では、電子線を走査して面分析を行う場合に用いられるドリフト補正をステージ走査による面分析時にそのまま適用しても、ステージが移動しているためドリフト補正の効果はない。仮に、同じステージ座標に移動して実施しても、ステージの移動再現性に依存する結果になるため、正確なドリフト補正が行えないという問題があった。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、ステージ走査を行う面分析の場合でも正確なドリフト補正を行うことができるX線分析方法及び装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の問題を解決するために、本発明は以下に示すような構成をとっている。
【0008】
(1)請求項1記載の発明は、ステージに載置された試料に電子線を照射して試料から発生する特性X線を検出すると共に、ステージ走査を行うことにより、試料の面分析を行うX線分析方法において、試料上の面分析領域の内部を複数のブロックに分けて、ブロック内での各ラインのステージ走査に基づく特性X線の測定が第1ブロックから各ブロック毎に順次行うようにされており、各ブロックにおいて最初に走査が行われるラインについてのステージ走査の開始前に、試料の電子線走査画像を取得し、第2ブロック以降における特性X線の測定開始時においては、当該ブロックにおいて取得された電子線走査画像と、その直前のブロックにおいて取得された電子線走査画像との照合を行って、ステージのドリフト量を求め、該ドリフト量に基づいて電子線のビームシフトを行うことにより、試料上での電子線の照射位置を補正してから当該ブロック内での特性X線測定を開始することを特徴とする。
【0009】
(2)請求項2記載の発明は、ステージに載置された試料に電子線を照射して試料から発生する特性X線を検出すると共に、ステージ走査を行うことにより、試料の面分析を行うX線分析方法において、試料上の面分析領域の内部を複数の仕切りに分け、且つ各仕切りの内部を第1ブロックから始まる複数のブロックに分けて、ブロック内での各ラインのステージ走査に基づく特性X線の測定が、各仕切り内において第1ブロックから各ブロック毎に順次行うようにされており、各ブロックにおいて最初に走査が行われるラインについてのステージ走査の開始前に試料の電子線走査画像を取得し、同一の仕切り内での第2ブロック以降における特性X線の測定開始時においては、当該ブロックにおいて取得された電子線走査画像と、当該仕切り内での第1のブロックにおいて取得された電子線走査画像との照合を行って、ステージのドリフト量を求め、該ドリフト量に基づいて電子線のビームシフトを行うことにより、試料上での電子線の照射位置を補正してから当該ブロック内での特性X線測定を開始することを特徴とする。
【0010】
(3)請求項3記載の発明は、次の仕切りの第1ブロックにおける特性X線の測定開始時においては、当該ブロックにおいて取得された電子線走査画像と、その一つ手前の仕切りの最後のブロックにおいて取得された電子線走査画像との照合を行って、ステージのドリフト量を求め、該ドリフト量に基づいて電子線のビームシフトを行うことにより、試料上での電子線の照射位置を補正してから当該第1ブロック内での特性X線測定を開始することを特徴とする。
【0011】
(4)請求項4記載の発明は、ステージに載置された試料に電子線を照射して試料から発生する特性X線を検出すると共に、ステージ走査を行うことにより、試料の面分析を行うX線分析装置において、試料上の面分析領域の内部を複数のブロックに分けて、ブロック内での各ラインのステージ走査に基づく特性X線の測定が第1ブロックから各ブロック毎に順次行うようにされており、各ブロックにおいて最初に走査が行われるラインについてのステージ走査の開始前に、試料の電子線走査画像を取得し、第2ブロック以降における特性X線の測定開始時においては、当該ブロックにおいて取得された電子線走査画像と、その直前のブロックにおいて取得された電子線走査画像との照合を行って、ステージのドリフト量を求め、該ドリフト量に基づいて電子線のビームシフトを行うことにより、試料上での電子線の照射位置を補正してから当該ブロック内での特性X線測定を開始することを特徴とする。
【0012】
(5)請求項5記載の発明は、ステージに載置された試料に電子線を照射して試料から発生する特性X線を検出すると共に、ステージ走査を行うことにより、試料の面分析を行うX線分析装置において、試料上の面分析領域の内部を複数の仕切りに分け、且つ各仕切りの内部を第1ブロックから始まる複数のブロックに分けて、ブロック内での各ラインのステージ走査に基づく特性X線の測定が、各仕切り内において第1ブロックから各ブロック毎に順次行うようにされており、各ブロックにおいて最初に走査が行われるラインについてのステージ走査の開始前に試料の電子線走査画像を取得し、同一の仕切り内での第2ブロック以降における特性X線の測定開始時においては、当該ブロックにおいて取得された電子線走査画像と、当該仕切り内での第1のブロックにおいて取得された電子線走査画像との照合を行って、ステージのドリフト量を求め、該ドリフト量に基づいて電子線のビームシフトを行うことにより、試料上での電子線の照射位置を補正してから当該ブロック内での特性X線測定を開始することを特徴とする。
【0013】
(6)請求項6記載の発明は、次の仕切りの第1ブロックにおける特性X線の測定開始時においては、当該ブロックにおいて取得された電子線走査画像と、その一つ手前の仕切りの最後のブロックにおいて取得された電子線走査画像との照合を行って、ステージのドリフト量を求め、該ドリフト量に基づいて電子線のビームシフトを行うことにより、試料上での電子線の照射位置を補正してから当該第1ブロック内での特性X線測定を開始することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明は以下に示すような効果を奏する。
【0015】
(1)請求項1記載の発明によれば、ステージの移動によって電子線EBがそれぞれのブロックの最初のラインに位置した際に試料から取得される電子線走査画像を得て、当該電子線走査画像と、電子線EBがその前のブロックの最初のラインに位置する際に取得された電子線走査画像とのズレ量を求め、該ズレ量に基いて次のステージ走査時におけるラインスキャンを電子線シフトにより補正するようにしたので、ステージ走査を行う面分析の場合でも正確なドリフト補正を行うことができる。
【0016】
(2)請求項2記載の発明によれば、前記ズレ量を求める操作を、複数の仕切り毎に行ない、当該仕切り内のずれ量補正は、各ブロックの電子線走査画像と1番目のブロックの電子線走査画像との差分をとるようにしたので、誤差の積算が行われる不具合を解消することができる。
【0017】
(3)請求項3記載の発明によれば、次の仕切りの第1ブロックにおける特性X線の測定開始時においては、当該ブロックにおいて取得された電子線走査画像と、その一つ手前の仕切りの最後のブロックにおいて取得された電子線走査画像との照合を行うようにしているので、各仕切り間でのドリフト補正を繋がりのあるものとして実行するので、面分析領域の全体にわたって、好ましいドリフト補正を行うことができる。
【0018】
(4)請求項4記載の発明によれば、ステージの移動によって電子線EBがそれぞれのブロックの最初のラインに位置した際に試料から取得される電子線走査画像を得て、当該電子線走査画像と、電子線EBがその前のブロックの最初のラインに位置する際に取得された電子線走査画像とのズレ量を求め、該ズレ量に基いて次のステージ走査時におけるラインスキャンを電子線シフトにより補正するようにしたので、ステージ走査を行う面分析の場合でも正確なドリフト補正を行うことができる。
【0019】
(5)請求項5記載の発明によれば、前記ズレ量を求める操作を、複数の仕切り毎に行ない、当該仕切り内のずれ量補正は、各ブロックの電子線走査画像と1番目のブロックの電子線走査画像との差分をとるようにしたので、誤差の積算が行われる不具合を解消することができる。
【0020】
(6)請求項6記載の発明によれば、次の仕切りの第1ブロックにおける特性X線の測定開始時においては、当該ブロックにおいて取得された電子線走査画像と、その一つ手前の仕切りの最後のブロックにおいて取得された電子線走査画像との照合を行うようにしているので、各仕切り間でのドリフト補正を繋がりのあるものとして実行するので、面分析領域の全体にわたって、好ましいドリフト補正を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施例を示す構成図である。
【図2】試料の走査方向の説明図である。
【図3】第1の実施例を説明するための図である。
【図4】本発明の第1の実施例の動作を示すフローチャートである。
【図5】第2の実施例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施例について、詳細に説明する。図1は本発明の一実施例を示す構成図である。図において、100は電子線を照射する電子線装置である。101は電子線が照射される試料が載置される試料室である。電子線装置100において、1は電子線EBを放出する電子銃である。電子銃1から放出された電子線EBは、図示しない光学系により集束され、試料室101内に配置された試料3に照射される。この時、電子線EBは、試料3上で電子プローブとして集束されている。
【0023】
試料3は試料ステージ2上に載置される。この試料ステージ2はステージ駆動機構9によりX,Y,Z方向に3次元の移動が可能なようになっている。試料3に電子線EBが照射されると、該試料3からは2次電子や反射電子(以下単に2次電子と略す)、特性X線が発生する。2次電子は、2次電子検出器20により検出され、画像処理部21に送られる。
【0024】
該画像処理部21では、2次電子検出器20で検出された信号を増幅し、A/D変換器によりデジタルデータに変換し、所定の画像処理を行う。画像処理が行なわれた2次電子像は、CPU110に送られ、メモリ111に記憶される。ここで、CPU110は装置全体の動作を制御するものであり、例えばパソコン等が用いられる。メモリ111に記憶された2次電子像は、読み出されて表示部112に表示される。
【0025】
一方、試料3から発生した特性X線4は分光器5に入り、試料3を構成する元素に応じて分光される。この分光器5により分光された特性X線4の元素毎のスペクトルは、X線検出器24に入って元素毎に検出される。各元素毎の成分はそれぞれカウンタ6に入って、スペクトル強度に応じたパルス数に変換される。カウンタ6の出力は、X線画像処理部7に入り、X線強度に応じたX線分析画像に変換され、CPU110に入力される。CPU110は入力されたX線分析画像をメモリ111に記憶する。このX線分析画像は必要に応じてメモリ111から読み出され、表示部112に表示される。113はCPU110に各種情報を設定するための操作部である。該操作部113としては、例えばキーボードやマウスが用いられる。
【0026】
CPU110はステージ位置制御部10とステージ走査部11を制御し、ステージ2を移動させると共に、X線分析画像を得る時のステージ走査を行う。ここで、ステージ走査とはビームは固定で、ステージをライン毎に動かすスキャンをいう。例えば1ライン分のX方向のステージスキャンが終了したら、ステージを+Y方向又は−Y方向に微小距離だけ動かし、次のラインをX方向にステージスキャンし、X方向へのスキャンが終了したら、またステージを+Y方向又は−Y方向に微小距離だけ動かし、次のラインをX方向にステージスキャンするという走査を繰り返すこととなる。
【0027】
また、ビーム位置制御部13を駆動して図示しない電子レンズによりビーム位置制御を行うと共に、ビームスキャン部14を制御して図示しない偏向器により電子線EBのスキャンを行うこともできる。ビーム位置制御部13とビームスキャン部14により、試料3上を電子線EBが走査することになる。
【0028】
図2は試料の走査方向の説明図である。図1と同一のものは、同一の符号を付して示す。図において、電子線EB又は試料3が2次元的に走査された時、分析領域46は小さな格子に分割される。一つの格子の大きさは分析領域の大きさと分割数に従って決まる。小さく分割された各格子位置(x,y)47は、分析領域における相対的な座標位置に対応している。試料3から放出されるX線は分光器5で分光され、X線検出器44で検出される。2次電子、反射電子等は電子検出器20で検出される。
【0029】
図中の分析領域に示した矢印は試料ステージ2の移動方向に対応している。試料ステージ2はX方向には図の+方向に移動するが、当該+X方向への移動後、Y方向には−Y方向に移動され、その移動した位置から再度試料ステージ2が+X方向に移動する。
【0030】
図3は本発明の第1の実施例を説明するための図である。試料上での複数の走査ラインに対応した試料ステージ2の移動方向は、+X方向と−Y方向になる。図に示す分析領域は、一例として100ラインの走査ライン数があり、10ラインずつブロック化されている。ブロック数Nは右の方から左方向にN1,N2,…N10の10個のブロックに分かれている。図のA1〜A10は、ステージの移動によって、電子線EBがそれぞれのブロックの最初のラインに位置した際に取得される電子線画像(電子線走査画像)である。この電子線画像は、電子線EB自体の試料上での2次元走査によって得られる。
【0031】
先ず電子線画像1を取得する。ここで取得される電子線画像は2次電子像のことである。電子線画像1を取得したらステージ走査を行う。ステージ走査の向きは図の+X方向になる。ステージ走査をnライン(ここでは10ライン)行なって1ブロック内でのX線分析画像を得る。
【0032】
ここで、上記X線分析画像を得るための最初のX方向の走査を行う前に、試料3上を電子線EBにより2次元走査してこれに基づく2次電子像(電子線画像A1)を得る。この時は、電子線EBで試料3を2次元方向に走査し、その時に該試料3から発生する2次電子を2次電子検出器20(図1参照)で検出し、画像処理部21で画像処理した後、1枚の2次電子線画像をCPU110によりメモリ111に記憶させる。
【0033】
このようにして2次電子線画像を得たら、+X方向及びその後の−Y方向でのステージ走査によりnライン分のX線分析画像を得る。得られたX線分析画像はX線画像処理部7からCPU110に入力され、メモリ111に記憶される。これにより、第1ブロック内でのステージ走査が終了する。
【0034】
以上の処理が終了したら、第2ブロック内でのステージ走査に移行し、電子線が11ライン目に位置した状態で試料3上をスキャンして2次電子線画像(電子線画像A2)を得る。CPU110は、メモリ111に記憶されている電子線画像A1を読み出して両画像の照合を行ない、該電子線画像A2とのズレ量を測定する処理を行う。このズレ量を求める処理としては例えばFFT(高速フーリエ変換)が適当である。FFTを行うと2枚の画像(電子線画像A1と電子線画像A2)の差分と方向が求まる。CPU110はこのようにして2枚の画像の座標の差分を得る。
【0035】
差分が得られたら、CPU110は第2ブロック内でのX線分析画像取得のための試料3のステージ走査を行うが、先の電子線画像A1と電子線画像A2の位置がずれているので、そのずれ量に応じて、電子線EBを偏向器によりシフトさせて固定し、これによる位置ずれ補正を行った後に試料3のステージ走査を行なう。これにより第2ブロック内でのX線分析画像を得る。本発明によれば、X線方向のステージスキャンを行うに際し、偏向器2による電子線シフトを行った後にX線分析画像を得るので、ステージ走査を行う面分析の場合でも正確なドリフト補正を行うことができる。
【0036】
図4は本発明の第1の実施例の動作を示すフローチャートである。システムとしては、図1記載のものを用いる。動作の主体はCPU110である。先ず初期条件を設定する(S1)。ここで、nは1つのブロック内でのスキャンする回数で固定、Nは全ブロック数、k=1である。このnとkとNの値は操作部113から入力する。上述の例では、nは10であり、Nも10となる。入力されたnとkとNの値はメモリ111に記憶される。
【0037】
次にCPU110はk番目のブロック内での分析のスタートを行う(S2)。最初はk=1なので、1番目のブロックの分析のスタートを行うことになる。
【0038】
先ず、k番目のブロック(この時点では1番目のブロック)における2次電子画像Akを取得する(S3)。ここで、2次電子画像Akは、k番目のブロック内での最初の走査ラインである「(k−1)n+1」ライン目の走査ラインのステージスキャンを行なう前に取得される電子線走査画像である。
【0039】
最初は1ライン目で画像A1を取得することになる。取得された2次電子画像はCPU110を介してメモリ111に記憶される。次に、k=1であるかどうかチェックする(S4)。最初はk=1であるので、ステップS7にスキップし、第1ブロックとして、「(k−1)n+1」ライン目(=1ライン目)から順次nライン分のX線分析をステージ走査により行う。ステージ走査は、図3で説明した手順で行なわれる。
【0040】
k=1である第1ブロック内でのnライン分のX線分析が終了すると(S8)、k=N(本例では、k=10)であるか否かの判定が行われる(S9)。この時点ではk=1であり、k=Nではないので、kに+1が加算されてk=2となり(S10)、ステップS2に移行する。次に、k=2である第2ブロック内での分析が開始され(S2)、画像A2の取得が行われる(S3)。
【0041】
そして、ステップS4の判断工程においては、k=1ではないと判定され、次のステップS5において電子線画像AkとAk−1との照合と2つの電子線画像のずれ量の算出を行う(S5)。ここで、k=2の場合には、画像A2と画像A1との照合が行われる。次に算出したずれ量に基づいてビームシフトによる電子プローブ位置の修正を行う(S6)。
【0042】
ステップS5,S6について詳しく説明する。2次電子画像Akとその直前に取得した2次電子画像Ak−1との相関をとり、双方の画像の位置ずれを算出する。具体的には取得した2次電子線画像Akと、メモリ111に記憶されているその一つ手前の2次電子線画像Ak−1を読み出して、両画像の照合を行ない、双方の画像において重複する部分における位置ずれを算出するためにFFT(高速フーリエ変換)を行う。この結果、2次電子画像AkとAk−1の画像のずれ量と方向が求まる。k=2である第2ブロックでは、A2とA1との画像のずれ量と方向が決まることなる。求まったら、k番目のブロック(第2ブロック)内でのn行のX線分析を行うための電子プローブ(試料上で集束された電子線)の位置の修正を行う。具体的には、算出した補正量で偏向器により電子線をシフトさせて、これによりドリフト量を補正することになる。その後ステップS7に移行する。
【0043】
次に、CPU110はステージ走査による「(k−1)n+1」ライン目からnライン分のX線分析を実施する(S7)。この時のステージ走査は、CPU110がステージ2をX線方向に走査し、そのラインの走査が終了したら、ステージ2をY方向に微小量移動させ、同様にステージ2をX線方向に走査することで行う。この時、試料3から発生した特性X線4は分光器5で分光され、X線検出器44で検出し、元素毎のX線の強度をカウンタ6でカウントした後、X線画像処理部7で処理され、CPU110に入力される。CPU110は、入力されたX線分析画像をメモリ111に記憶させる。
【0044】
次に、ステップS8に移行してCPU110はnライン分の実施が行われたかどうかチェックする(S8)。nライン分の実施が行われていない場合にはステップS7に戻りX線分析を続行する。nライン分の実施が行われている場合には、CPU110はNブロック分実施されたかどうかチェックする(S9)。即ち、k=N(本例ではk=10)であるかどうかチェックする。この一連の動作においては、k=Nかどうかを判定することで、全てのブロックであるNブロック分実施されているかどうかを判断することができる。総ブロック数(全ブロック数)であるNは前述したように予め操作部113からCPU110に設定しておく。Nブロック分実施していない場合には、更にk=k+1の演算をして(S10)、ステップS2に戻る。この結果、次のk番目のブロック(第3ブロック)内での分析をスタートさせる。その後、上述の各ステップが繰り返されて、Nブロック分実施している場合には、処理を終了する。
【0045】
第1の実施例によれば、ステージの移動によって電子線EBがそれぞれのブロックの最初のラインに位置した際に試料から取得される電子線走査画像を得て、当該電子線走査画像と、電子線EBがその前のブロックの最初のラインに位置する際に取得された電子線走査画像とのズレ量を求め、該ズレ量に基いて次のステージ走査時におけるラインスキャンを電子線シフトにより補正するようにしたので、ステージ走査を行う面分析の場合でも正確なドリフト補正を行うことができる。
【0046】
次に、本発明の第2の実施例について説明する。第2の実施例では、分析領域内部が複数の仕切りに分けられており、各仕切りの内部には複数のブロックが設定されている。第1の実施例では、電子線シフトによるドリフト補正を、隣り合うブロックにおける電子線走査画像AkとAk−1との照合に基づいて行なっていたのに対して、実施例2では、当該仕切り内の該当ブロックにおける電子線走査画像と同一仕切り内での1番目のブロックにおける電子線走査画像との照合に基づいて行なうようにしたものである。このようにすることにより、ドリフト量の積算が行われることを防止することができる。
【0047】
図5は第2の実施例を説明するための図である。一例として分析領域は図に示すように、Z1〜Z4までの仕切りにより区切られている。仕切りZ1は第1ブロックN1〜N4までのブロックで構成され、仕切りZ2は第1ブロックN1〜N4までのブロックで構成されている。残りの仕切りZ3からZ4についても同様である。各ブロックNi(i=1〜4)はライン数10ラインで構成されているものとする。
【0048】
A1は仕切りZ1内の第1ブロックN1の第1ライン目に対応して取得された電子線画像(電子線走査画像)、A4は仕切りZ1内の最後のブロックである第4ブロックN4の第1ライン目に対応して取得された電子線画像である。同様にA5は仕切りZ2内の第1ブロックN1の第1ライン目に対応して取得された電子線画像、A8は仕切りZ2内の最後のブロックである第4ブロックN4の第1ライン目に対応して取得された電子線画像である。この関係は残りの仕切りZ3、Z4についても同様である。このように構成された実施例について図5を参照しながら、第2の実施例の動作を説明する。
【0049】
仕切りZ1の第1ブロックN1目でブロックN1の電子線画像A1を取得する。取得した画像はメモリ111に格納される。その後、当該第1ブロックN1内で1ライン目から10ライン分(nライン分)のX線分析の実施をステージ走査により行う。次に、同一仕切りZ1の第2ブロックN2の分析に移る。この時、第2ブロックN2内の1ライン目で電子線画像A2を取得する。CPU110は、メモリ111に記憶されている電子線画像A1を読み出し、電子線画像A2とを比較し、電子線画像A2とA1との照合を行ない、ずれ量を算出する。ずれ量が算出されたら、CPU110はビームシフトによる電子プローブ位置の修正を行い、当該第2ブロックN2内での最初の走査ライン(1ライン目)である11ライン目から10ライン分のX線分析の実施をステージ走査により行う。
【0050】
次に、当該仕切りZ1の第3ブロックN3内の分析に移る。この時、第3ブロックN3内の1ライン目で電子線画像A3を取得する。CPU110は、メモリ111に記憶されている電子線画像A1を読み出し、電子線画像A3とを比較し、電子線画像A3とA1との照合を行ない、ずれ量を算出する。ずれ量が算出されたら、CPU110はビームシフトによる電子プローブ位置の修正を行い、当該ブロックN3内での最初の走査ラインである21ライン目から10ライン分のX線分析の実施をステージ走査により行う。
【0051】
次に、当該仕切りZ1の第4ブロックN4内の分析に移る。この時、第4ブロックN4の1ライン目で電子線画像A4を取得する。CPU110は、メモリ111に記憶されている電子線画像A1を読み出し、電子線画像A4とを比較し、電子線画像A4とA1との照合を行ない、ずれ量を算出する。ずれ量が算出されたら、CPU110はビームシフトによる電子プローブ位置の修正を行い、当該第4ブロックN4内での最初の走査ラインである31ライン目から10ライン分のX線分析の実施をステージ走査により行う。
【0052】
このように第2の実施例では、同一の仕切りZ1内においては、基準となる電子線画像としてA1を用いているので、残りのA2〜A4の電子線画像も電子線画像A1との照合を行うことになり、当該仕切りZ1内においてドリフト誤差の積算が行われることはなくなる。
【0053】
次に、仕切りZ2内での分析について説明する。仕切りZ2の中の第1ブロックN1のX線分析画像を得る場合、CPU110は、メモリ111に記憶されているその前の仕切りZ1の最後の電子線画像A4を読み出してきて、仕切りZ2の中の第1ブロックN1の1ライン目で取得した電子線画像A5との照合を行う。そして照合の結果に基づくドリフト補正を行い、仕切りZ2内の第1ブロックN1のX線分析画像を得る。
【0054】
仕切りZ2内の残りの第2〜4ブロックN2〜N4についてX線分析画像を得る場合は、電子線画像の照合を行う時の基準画像として仕切りZ2内のブロックN1の電子線画像A5を用いて、それぞれ電子プローブ位置の修正を行なって、同様にX線分析を実行し、X線分析画像を得る。
【0055】
同様にして、仕切りZ3内のブロックN1のX線分析画像を得る時には、CPU110は、メモリ111に記憶されているその前の仕切りZ2の最後の電子線画像A8を読み出してきて、仕切りZ3の中の第1ブロックN1の1ライン目で取得した電子線画像A9との照合を行う。そして照合の結果に基づくドリフト補正を行い、仕切りZ3内のブロックN1のX線分析画像を得る。
【0056】
仕切りZ3内の残りの第2〜4ブロックN2〜N4についてX線分析画像を得る場合は、電子線画像の照合を行う時の基準画像として仕切りZ3内のブロックN1の電子線画像A9を用いる。
【0057】
同様にして、仕切りZ4内の第1ブロックN1のX線分析画像を得る時には、CPU110は、メモリ111に記憶されているその前の仕切りZ3の最後のブロックの電子線画像A12を読み出してきて、仕切りZ4の中の第1ブロックN1の1ライン目で取得した電子線画像A13との照合を行う。そして照合の結果に基づくドリフト補正を行い、仕切りZ4内の第1ブロックN1のX線分析画像を得る。
【0058】
仕切りZ4内の残りの第2〜4ブロックN2〜N4についてX線分析画像を得る場合は、電子線画像の照合を行う時の基準画像として仕切りZ4内のブロックN1の電子線画像A13を用いる。
【0059】
上述の実施例では、実施例1の場合は、ブロック数N=10、ブロック内のライン数10ラインの場合を例にとったがこれに限るものではなく、任意の数のブロック数と、ブロック内のライン数を決めることができる。
【0060】
また、実施例2の場合は、仕切り数Z1〜Z4、各仕切り内のブロック数N=4、各ブロックのライン数が10の場合について説明したが、これに限るものではなく、任意の数の仕切り数、各仕切り内のブロック数、各ブロック内のライン数を決めることができる。
【0061】
なお、電子線画像として、2次電子像を用いていたが、反射電子像を用いてもよい。
【0062】
このように、本発明によれば、新しい仕切りに処理が移動する時には、その前の仕切りの最後のブロックで取得した電子線画像Ai(i=4,8,12)を用いて次の仕切りの第1のブロックN1で取得した電子線画像Aj(j=5,9,13)との間で照合を行うようにしているので、各仕切り間でのドリフト補正を繋がりのあるものとして実行することができ、面分析領域の全体にわたって、好ましいドリフト補正を行うことができる。
【0063】
このように、本発明によれば、ステージを駆動するステージ走査の場合でも、電子線をシフトさせることによりドリフト補正を実施することができ、実用上の効果が大きい。
【符号の説明】
【0064】
1 電子銃
2 ステージ
3 試料
4 特性X線
5 分光器
6 カウンタ
7 X線画像処理部
9 ステージ移動機構
10 ステージ位置制御部
11 ステージ走査部
13 ビーム位置制御部
14 ビームスキャン部
21 画像処理部
110 CPU
111 メモリ
112 表示部
113 操作部
EB 電子線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステージに載置された試料に電子線を照射して試料から発生する特性X線を検出すると共に、ステージ走査を行うことにより、試料の面分析を行うX線分析方法において、
試料上の面分析領域の内部を複数のブロックに分けて、ブロック内での各ラインのステージ走査に基づく特性X線の測定が第1ブロックから各ブロック毎に順次行うようにされており、
各ブロックにおいて最初に走査が行われるラインについてのステージ走査の開始前に、試料の電子線走査画像を取得し、
第2ブロック以降における特性X線の測定開始時においては、当該ブロックにおいて取得された電子線走査画像と、その直前のブロックにおいて取得された電子線走査画像との照合を行って、ステージのドリフト量を求め、
該ドリフト量に基づいて電子線のビームシフトを行うことにより、試料上での電子線の照射位置を補正してから当該ブロック内での特性X線測定を開始することを特徴とするX線分析方法。
【請求項2】
ステージに載置された試料に電子線を照射して試料から発生する特性X線を検出すると共に、ステージ走査を行うことにより、試料の面分析を行うX線分析方法において、
試料上の面分析領域の内部を複数の仕切りに分け、且つ各仕切りの内部を第1ブロックから始まる複数のブロックに分けて、ブロック内での各ラインのステージ走査に基づく特性X線の測定が、各仕切り内において第1ブロックから各ブロック毎に順次行うようにされており、
各ブロックにおいて最初に走査が行われるラインについてのステージ走査の開始前に試料の電子線走査画像を取得し、
同一の仕切り内での第2ブロック以降における特性X線の測定開始時においては、当該ブロックにおいて取得された電子線走査画像と、当該仕切り内での第1のブロックにおいて取得された電子線走査画像との照合を行って、ステージのドリフト量を求め、
該ドリフト量に基づいて電子線のビームシフトを行うことにより、試料上での電子線の照射位置を補正してから当該ブロック内での特性X線測定を開始することを特徴とするX線分析方法。
【請求項3】
次の仕切りの第1ブロックにおける特性X線の測定開始時においては、当該ブロックにおいて取得された電子線走査画像と、その一つ手前の仕切りの最後のブロックにおいて取得された電子線走査画像との照合を行って、ステージのドリフト量を求め、
該ドリフト量に基づいて電子線のビームシフトを行うことにより、試料上での電子線の照射位置を補正してから当該第1ブロック内での特性X線測定を開始することを特徴とする請求項2記載のX線分析方法。
【請求項4】
ステージに載置された試料に電子線を照射して試料から発生する特性X線を検出すると共に、ステージ走査を行うことにより、試料の面分析を行うX線分析装置において、
試料上の面分析領域の内部を複数のブロックに分けて、ブロック内での各ラインのステージ走査に基づく特性X線の測定が第1ブロックから各ブロック毎に順次行うようにされており、
各ブロックにおいて最初に走査が行われるラインについてのステージ走査の開始前に、試料の電子線走査画像を取得し、
第2ブロック以降における特性X線の測定開始時においては、当該ブロックにおいて取得された電子線走査画像と、その直前のブロックにおいて取得された電子線走査画像との照合を行って、ステージのドリフト量を求め、
該ドリフト量に基づいて電子線のビームシフトを行うことにより、試料上での電子線の照射位置を補正してから当該ブロック内での特性X線測定を開始することを特徴とするX線分析装置。
【請求項5】
ステージに載置された試料に電子線を照射して試料から発生する特性X線を検出すると共に、ステージ走査を行うことにより、試料の面分析を行うX線分析装置において、
試料上の面分析領域の内部を複数の仕切りに分け、且つ各仕切りの内部を第1ブロックから始まる複数のブロックに分けて、ブロック内での各ラインのステージ走査に基づく特性X線の測定が、各仕切り内において第1ブロックから各ブロック毎に順次行うようにされており、
各ブロックにおいて最初に走査が行われるラインについてのステージ走査の開始前に試料の電子線走査画像を取得し、
同一の仕切り内での第2ブロック以降における特性X線の測定開始時においては、当該ブロックにおいて取得された電子線走査画像と、当該仕切り内での第1のブロックにおいて取得された電子線走査画像との照合を行って、ステージのドリフト量を求め、
該ドリフト量に基づいて電子線のビームシフトを行うことにより、試料上での電子線の照射位置を補正してから当該ブロック内での特性X線測定を開始することを特徴とするX線分析装置。
【請求項6】
次の仕切りの第1ブロックにおける特性X線の測定開始時においては、当該ブロックにおいて取得された電子線走査画像と、その一つ手前の仕切りの最後のブロックにおいて取得された電子線走査画像との照合を行って、ステージのドリフト量を求め、
該ドリフト量に基づいて電子線のビームシフトを行うことにより、試料上での電子線の照射位置を補正してから当該第1ブロック内での特性X線測定を開始することを特徴とする請求項5記載のX線分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−78234(P2012−78234A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224592(P2010−224592)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】