説明

しいたけの栽培方法

【課題】最初から菌床の上面だけではなく側面上部も露出させて、1世代完了するまで栽培期間中は、輪ゴムを緩めて栽培袋を順次下げる作業を廃止し、これに掛かる手間を省いて作業性を向上させ、しかもボリュウムのある高品質のしいたけを多量に収穫することができるしいたけの栽培方法を提供するものである。
【解決手段】栽培袋1の内部に培地2を形成し、この培地2に菌床3を形成した、しいたけ菌床栽培の培養工程において、原基が形成される前後の期間内に、栽培袋1の上部を取除いて、培地1の菌床上面3aから培地1の高さの50〜60%の範囲で、菌床3の上面3aおよび側面上部3bを最初から露出させて、菌床に散水して湿度を保持しながら、菌床上面3aおよび上部側面3bからしいたけを発生させ、1世代完了するまで栽培期間中、栽培袋1の上部の高さを保持したまま発生させるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、菌床の上面と上部側面から高品質のしいたけを継続的に発生させるしいたけの栽培方法の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年,しいたけの栽培は、プラスチック製栽培袋の内部にオガクズなどを入れて培地を形成し、この培地にしいたけ菌を接種して菌床を形成する栽培方法が普及してきている。従来行なわれている栽培方法のうち、しいたけ菌栽培の培養完了後の発生工程において、栽培袋の上部を取除いて菌床の上面のみを露出させ、ここからしいたけを発生させる上面栽培方法がある。
【0003】
この方法は、図4(A)に示すようにプラスチック製栽培袋1の内部に培地2を形成し、この培地2の上面にしいたけ菌を接種して培養し菌床3を形成し、しいたけ菌床栽培の培養完了後の発生工程において、図4(B)に示すように栽培袋1の上部を取除いて菌床3の上面のみを露出させ、その他の部分は菌床側面及び底面部分との間の隙間4に水5を注水することで菌床2の側面と底面を浸漬した状態にして、しいたけ6の側面と底面からの発生を抑制し、図4(C)に示すように菌床2の上面からのみ発生させるしいたけ菌床の発生方法が提案されている(特許文献1)。
【0004】
この方法では、菌床3の上面のみを露出させ、ここからしいたけ6を発生させるが、しいたけ6は菌床3の栽培袋1との境界の周縁部分に多数発生する傾向がある。しかしながらこの方法では菌床3の周縁部分が栽培袋1で押え付けられているため、発生したしいたけ6が互に干渉して生長が妨げられ、しかも水5に浸された状態となっているので菌床3が腐り易く短命であり、不良品が多くなって収率が低下する問題があった。また栽培面積が菌床3の上面に限定されているので、栽培期間全体の収穫量も少ない欠点があった。
【0005】
このため本発明者は、従来の上面栽培方法の欠点を改善するため、培地に菌床を形成したしいたけ菌床栽培の培養工程において、原基が形成される前後の期間内に、栽培袋の上部を取除いて、菌床の上面および側面上部を露出させてから、菌床に散水して、菌床の下部側と栽培袋で覆われた隙間を飽水状態に保持して、菌床上面および上部側面からしいたけを発生させ、菌床の上面および側面上部を、栽培期間の間に菌床の上面から培地の高さの15〜50%の範囲で順次、側面の露出面積を拡大させながら栽培するしいたけの栽培方法を開発した(特許文献2)。
【0006】
この開発した方法によれば、菌床の上面から菌床の高さの15〜50%の範囲で、栽培期間の間に菌床の上面から側面上部の露出面積を順次拡大させながら栽培するので、新たに露出させた部分が活性化して、しいたけの発生を促進させることができる。また菌床の上面および側面上部を露出させることにより栽培面積が2倍以上に拡大し、最もしいたけが発生し易い、菌床の上面周縁や側面上部からの生長を促進してボリュウムのある高品質のしいたけを多量に収穫することができた。
【0007】
しかしながら、栽培期間中に、栽培袋の上部位置を下げて、その周囲を輪ゴムで止めて露出面積を順次拡大させながら栽培するので、この輪ゴムを緩めて栽培袋を下げる作業を何回も繰り返し行なわなければならず、大量のきのこを栽培している農家では膨大な手間が掛かっていた。また初期段階において菌床の大部分が水に浸っているので酸素が供給されず、、菌床母体のきのこを発生する力を十分に発揮できない問題があった。
【特許文献1】特開平10−271913
【特許文献2】特開2007−151423
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記問題を改善し、最初から菌床の上面だけではなく側面上部も露出させて、1世代完了するまでの栽培期間中は、輪ゴムを緩めて栽培袋を順次下げる作業を廃止し、これに掛かる手間を省いて作業性を向上させ、しかも1世代中、菌床の高さの半分以上は常に空気に触れて健全化が計れるので、ボリュウムのある高品質のしいたけを多量に収穫することができるしいたけの栽培方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1記載のしいたけの栽培方法は、栽培袋の内部に培地を形成し、この培地に菌床を形成した、しいたけ菌床栽培の培養工程において、原基が形成される前後の期間内に、栽培袋の上部を取除いて、菌床の上面から菌床の高さの50〜60%の範囲で、菌床の上面および側面上部を最初から露出させて、菌床に散水して湿度を保持しながら、菌床上面および上部側面からしいたけを発生させ、1世代完了するまで栽培期間中、栽培袋の上部の高さを保持したまま発生させることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の請求項2記載のしいたけの栽培方法は、請求項1において、栽培袋の上部を取除いて、菌床の上面および側面上部を最初から露出させる範囲を、菌床の上面から菌床の高さの52〜55%の範囲にしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る請求項1記載のしいたけの栽培方法によれば、菌床の上面から菌床の高さの50〜60%の範囲で、菌床の上面および側面上部を露出させることにより菌床に空気を十分に触れさせると共に、栽培面積が上面栽培方法に比べて3倍以上に拡大し、しかも、しいたけは上面の周縁部分に多数発生する傾向があるが、この部分は露出した状態となって互いに干渉せずに生長しボリュウムのある高品質のしいたけを栽培することができる。
【0012】
また栽培袋を切り離したままで、従来のように輪ゴムを使用したり、輪ゴムを緩めて栽培袋を下げる作業を繰り返す必要がないので、労力は3分の1に低減し、生産コストを大幅に低減することができる。
【0013】
また請求項2記載のしいたけの栽培方法によれば、栽培期間中、露出させる菌床の上面および側面上部を、上面から菌床の高さの52〜55%の範囲にして栽培することにより、しいたけの発生を更に促進させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下本発明の実施の一形態を図1ないし図3を参照して詳細に説明する。先ず図1(A)に示すように、フィルター7を上部に形成したプラスチック製栽培袋1の内部にオガクズを詰めて培地2を形成し、この培地2の上面にしいたけ菌を接種してから密閉して培養し、菌床3を形成する。この菌床栽培の培養完了後の、菌床3に原基が形成される前後の間の期間内に、図1(B)に示すように、栽培袋1の上部をカットして取除く。カットして菌床3の上面3aと側面上部3bを露出させた状態で、図2に示すように、栽培袋1のカットした上部の近傍に輪ゴム8を掛けて先端下側に折返して側面に固定する。
【0015】
この菌床3の側面上部3bを露出させる範囲hは、菌床3の高さをHとすると、上面から高さHの50〜60%露出させる。このように、菌床3の上面3aと、側面上部3bとを露出させた状態で、栽培袋1を図3に示すように3〜5cmの間隔Dで栽培棚10に設置する。この後、図2に示すようにシャワー9で散水すると、露出した菌床3の上面3aと側面上部3bから水5が内部にしみ込んで、菌床3の側面下部3cと栽培袋1との間の隙間4に水5が満たされた飽水状態にして、側面下部3cが水5と接触した状態となって、この部分からのしいたけ6の発生を防止することができる。
【0016】
このように、菌床3の上面3aと、側面上部3bとを露出させることにより上面栽培に比べて栽培面積が3倍以上に拡大し、しかも、しいたけ6は上面3aの周縁部分に多数発生する傾向があり、この部分は露出した状態となって空気にも触れているので互いに干渉せずに生長し、図1(C)に示すように、ボリュウムのある高品質のしいたけ6を栽培することができる。
【0017】
本発明においては、栽培袋1の上部をカットして菌床3の側面上部3bの露出させる範囲hを菌床3の高さHの50〜60%の範囲に規定したのは、50%未満では、発生面積が少なくなり、また60%を超える広い範囲を露出させると、菌床3の側面上部が乾燥し易い上、側面上部3bから発生したしいたけ6と、隣接する栽培袋1の側面上部3bから発生したしいたけ6とが干渉する恐れがあるからである。
【0018】
また本発明では、側面上部3bの露出させる範囲hを、最初から菌床3の高さHの50〜60%露出させ、1番発生のしいたけ6を収穫した後、菌床3を逆さまにして栽培袋1内の汚れた水5を排水して空気に触れさせて活力を付けてから元に戻して、再びシャワー9から散水して水分を含浸させる。このように菌床3を十分に空気に触れさせた状態で、水分を与えて適切な湿度と温度管理を行なうことにより活性化した上面3aと側面上部3bから再びしいたけ6が発生してくる。
【0019】
このように栽培袋1の位置を順次下げることなく、最初から下げた状態のまま、適切な湿度と温度管理を行なうことにより、栽培期間中、1世代の収穫が完了するまで栽培袋の高さを調整する必要がないので、従来に比べて大幅に作業性を向上させることができる。
【0020】
なお本発明では、栽培袋1の設置間隔Dは3〜5cmの範囲が好ましく、3cm未満では隣接する菌床3の側面上部3bから発生したしいたけ6が干渉する恐れがあり、また5cmを超えて設置すると栽培室の収容密度が低下するからである。
【実施例】
【0021】
次に本発明の実施例を説明する。四角筒状のプラスチック製栽培袋1にオガクズを詰めて縦19.5cm、横12.5cm、高さHが16.5cmで重さ約3Kgのブロック状の培地2を形成し、この培地2の上面にしいたけ菌を接種してから密閉して培養し、菌床3を形成する。この菌床栽培の培養完了後の、菌床3に原基が形成される直前に、栽培袋1の上部をカットして取除く。
【0022】
カットした栽培袋1の上部の近傍に輪ゴム8を掛けて先端を下側に折返して、菌床3の側面上部3bを上面から8.5cm露出させる。このように形成した10個の栽培袋1を栽培棚10の上に4cm間隔で設置してからシャワー9で散水して、露出した菌床3の上面3aと側面上部3bから水5を内部にしみ込ませ、菌床3の側面下部3cと栽培袋1との間の隙間に水5が満たされた状態にする。以後、散水や温度、換気の管理を行なって、しいたけ6の発生を促進させる。
【0023】
このようにして1番のしいたけ6の収穫は11月10日に行ない、菌床3の上面3aと側面上部3bから発生したしいたけ6はボリュムのあるものが多数生長した。1番のしいたけ6を収穫した後、菌床3を逆さまにして栽培袋1内の汚れた水5を排水して空気に触れさせてから元に戻して、再びシャワー9から散水して水分を含浸させる。以後、湿度を調整しながら発生管理を行ない、繰り返し収穫を行なって、最後のしいたけ6は翌年5月15日に収穫した。
【0024】
このように本発明方法により10個の菌床3から収穫した1世代のしいたけ6の全重量を測定し、その平均個重と、このうち優良品と、廃棄した不良品の重量についても測定した。また比較のために従来の上面3aのみを露出させる上面栽培方法で栽培したしいたけ6についても同様に測定して、その結果を表1に併記した。
【0025】
【表1】




【0026】
上表の結果から、本発明方法によれば、優良品収穫量の割合が従来の上面のみ露出させて発生する方法に比べて28%も向上し、また不良品収穫量の割合も2分の1に低減させることができ、売上高も向上した。また従来の栽培袋1を順次下げる方法では、菌床5万個当たり、栽培袋1を順次下げる作業を1個の栽培袋について3回程度、3人で行なっていたが、本発明方法により全く不要となり、最初の切り取り作業を1人で行なうだけで良くなり、人件費は3分の1になり生産コストを大幅に低減させることができた。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明方法によるしいたけの栽培方法を順次示す説明図である。
【図2】菌床の上面と、側面上部とを露出させて散水している状態を示す栽培袋の断面図である。
【図3】栽培袋を、間隔をおいて並べて設置した状態を示す正面図である。
【図4】従来方法による菌床の上面のみを露出させるしいたけの栽培方法を順次示す説明図である。
【符号の説明】
【0028】
1 栽培袋
2 培地
3 菌床
3a 上面
3b 側面上部
3c 側面下部
4 隙間
5 水
6 しいたけ
7 フィルター
8 輪ゴム
9 シャワー
10 栽培棚


【特許請求の範囲】
【請求項1】
栽培袋の内部に培地を形成し、この培地に菌床を形成した、しいたけ菌床栽培の培養工程において、原基が形成される前後の期間内に、栽培袋の上部を取除いて、菌床の上面から菌床の高さの50〜60%の範囲で、菌床の上面および側面上部を最初から露出させて、菌床に散水して湿度を保持しながら、菌床上面および上部側面からしいたけを発生させ、1世代完了するまで栽培期間中、栽培袋の上部の高さを保持したまま発生させることを特徴とするしいたけの栽培方法。
【請求項2】
栽培袋の上部を取除いて、菌床の上面および側面上部を最初から露出させる範囲を、菌床の上面から菌床の高さの52〜55%の範囲にしたことを特徴とする請求項1記載のしいたけの栽培方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−296888(P2009−296888A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−151174(P2008−151174)
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【出願人】(505444776)
【Fターム(参考)】