説明

アウトサイド型メカニカルシール

【課題】フラッシング流体によるシール部の冷却が十分に行えるようにして、クエンチングを必要とせず構造の簡素化やコストダウンが可能となるように、改善されたアウトサイド型メカニカルシールを提供する。
【解決手段】弾性機構5で回転密封環2を静止密封環4に押付けてシール部Sを形成し、シール対象流体eのシール部Sの径内側から径外側への移動をシールする回転式のアウトサイド型メカニカルシールにおいて、回転軸1にシール外嵌されるスプリングリテーナ8に弾性機構5を介して回転密封環2をシール支持させ、スプリングリテーナ8から静止密封環4と回転軸1との間の環状空間部Kに延設されるバッフル筒7を設け、回転軸1とバッフル筒7との間の内側環状空間部siとバッフル筒7と静止密封環4との間の外側環状空間部soとが、軸心P方向でシール部Sに対応する位置にてバッフル筒7に形成される短絡路15で連通される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプ、攪拌機等の回転機器に装備されるメカニカルシールに係り、詳しくは、アウトサイド型のメカニカルシールに関する。
【背景技術】
【0002】
メカニカルシールには大別してインサイド型とアウトサイド型とがある。インサイド型メカニカルシールとは、シール対象流体(被密封流体)がシール部(摺動面)の外径側から内径側へ侵入しようとする構造のものであり、一例として特許文献1にて開示されるシールが知られている。これは、漏洩方向がシール部の遠心力に対して相反する方向となるので、後述のアウトサイド型のものに比べて密封条件は極めて有利であり、最も多く用いられる構造のメカニカルシールである。
【0003】
一方、アウトサイド型メカニカルシールとは、前述のインサイド型のものと逆方向にシールするものであって、シール対象流体がシール部の内径側から外径側へ侵入しようとする構造のものであり、一例として特許文献2にて開示されるシールが知られている。漏洩方向がシール部の遠心力と同方向になるので、密封条件はインサイド型に比べて不利である。しかしながら、メカニカルシールの構成部品の殆どがスタフィンボックス外にあって、シール対象流体に接する部分が少なく、高価な材料を使うことなく腐食性の強い流体のシールに好適であるとともに、保守・点検が容易であるという利点がある。
【0004】
従来のアウトサイド型メカニカルシールにおけるシール部の冷却について考えてみる。図5には、回転密封環2が弾性機構5によって静止密封環4に押圧付勢される構造、即ち回転式アウトサイド型メカニカルシールBoが示されている。この場合、フラッシング流体fによってシール部Sの冷却を行う構造としても、図5に太線の矢印で示すように、フラッシング流体fは主に静止密封環4の背面側を流れるだけであり、静止密封環4と回転軸1との隙間、即ち極狭い環状空間部(符記省略)を通ってシール部Sにまで流れ着くことはあまり期待できない。従って、フラッシング流体fによる冷却はあまり効果がなく、シール部Sの摺動による発熱によりその近傍の流体温度が上昇して冷却不足が生じ、シール部Sの潤滑不良や面荒れ、ひいては漏れ易くなるという不都合を招くおそれがある。
【0005】
従って、冷却不足が懸念されるときには、シール部をその外部(径外側で大気側)から別途の冷却用流体を供給する(クエンチング)システムが必要になり、その場合は、補助シールとしてグランドパッキン、オイルシール等を設ける必要もある。さらに、補助シールの摺動部の摩耗を低減させるために、金属部のセラミックコートといった硬化処理が必要となる場合もあり、冷却システム全体として構造の複雑化やコストアップが避けられない。また、メンテナンス箇所や頻度も増える。
【0006】
図6には、静止密封環4が弾性機構25によって回転密封環2に押圧付勢される構造、即ち静止式アウトサイド型メカニカルシールBiの従来例が示されている。この構造でも、前述の回転式のものと同様にフラッシング流体fは、ホルダ23及び静止密封環4と回転軸1との間の狭い環状空間部Kを通ってその奥に入り込んで良く流れることは期待できず、フランシング流体fによるシール部Sの冷却が困難であり、よって、シール部Sの冷却不足によるトラブルが懸念され易い。従って、この場合でもクエンチングが必要であり、外部冷却システム、及びグランドパッキンやオイルシール等の補助シールを設けることによる前記不都合(構造の複雑化、コストアップ等)が生じる。
【0007】
尚、図5に示す従来の回転式アウトサイド型メカニカルシールBoにおける各部の符号は、図1,2に示す実施例1の回転式アウトサイド型メカニカルシールAの符号を援用しており、図6に示す静止式アウトサイド型メカニカルシールBiにおける各部の符号は、図3,4に示す実施例2の静止式アウトサイド型メカニカルシールAの符号を援用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−250306号公報
【特許文献2】特開平11−336912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、さらなる構造工夫により、フラッシング流体によるシール部の冷却が十分に行えるようにして、クエンチングを必要とせず構造の簡素化やコストダウンが可能となるように、改善されたアウトサイド型メカニカルシールを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、回転軸1に対して回転不能で、かつ、前記回転軸1の軸心P方向に移動可能に支持される回転密封環2と、シールハウジング3に対して回転不能に支持される静止密封環4と、前記回転密封環2を前記静止密封環4に押付けてシール部Sを形成するための弾性機構5とを有して、シール対象流体eの前記シール部Sの径内側から径外側への移動をシールするように構成されているアウトサイド型メカニカルシールにおいて、
前記回転軸1にシール状態で外嵌支持されるスプリングリテーナ8を設け、前記スプリングリテーナ8に前記弾性機構5を介して前記回転密封環2をシール状態で支持させることにより、前記回転密封環2が前記回転軸1に対して回転不能で、かつ、前記回転軸の軸心方向に移動可能に支持されるとともに、
前記スプリングリテーナ8から前記静止密封環4と前記回転軸1との間の環状空間部Kに延設されるバッフル筒7を設け、前記回転軸1と前記バッフル筒7との間の内側環状空間部siと前記バッフル筒7と前記静止密封環4との間の外側環状空間部soとが、前記軸心P方向で前記シール部Sに対応する位置にて前記バッフル筒7に形成される短絡路15によって連通される構成とされていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項2に係る発明は、回転軸1と一体回転する回転密封環2と、シールハウジング3に対して回転不能で、かつ、前記回転軸1の軸心P方向に移動可能に支持される静止密封環4と、前記静止密封環4を前記回転密封環2に押付けてシール部Sを形成するための弾性機構25とを有して、シール対象流体eの前記シール部Sの径内側から径外側への移動をシールするように構成されているアウトサイド型メカニカルシールにおいて、
前記回転軸1にシール状態で外嵌支持されるドライブリング28を設けて、前記ドライブリング28に前記回転密封環2をシール状態で支持させることにより、前記回転密封環2が前記回転軸1に一体回転状態で嵌装されるとともに、
前記ドライブリング28から前記静止密封環4と前記回転軸1との間の環状空間部Kに延設されるバッフル筒32を設け、前記回転軸1と前記バッフル筒32との間の内側環状空間部siと前記バッフル筒32と前記静止密封環4との間の外側環状空間部soとが、前記軸心P方向で前記シール部Sに対応する位置にて前記バッフル筒32に形成される短絡路33によって連通される構成とされていることを特徴とするものである。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載のアウトサイド型メカニカルシールにおいて、前記環状空間部Kに供給されてくるフラッシング流体fが、前記内側環状空間部siから前記短絡路15,33を通って前記外側環状空間部soに流れるように構成するとともに、前記短絡路15,33から前記外側環状空間部soに出るフラッシング流体fが前記シール部Sに向かうこととなるように前記短絡路15,33の向きが設定されていることを特徴とするものである。
【0013】
請求項4に係る発明は、請求項1又は2に記載のアウトサイド型メカニカルシールにおいて、前記環状空間部Kに供給されてくるフラッシング流体fが、前記内側環状空間部siから前記短絡路15,33を通って前記外側環状空間部soに流れるように構成するとともに、前記短絡路15,33から前記外側環状空間部soに出るフラッシング流体fを前記シール部Sに案内するガイド部gが前記回転密封環2又は前記静止密封環4に形成されていることを特徴とするものである。
【0014】
請求項5に係る発明は、請求項1〜4の何れか一項に記載のアウトサイド型メカニカルシールにおいて、前記短絡路15,33が、前記バッフル筒7,32を径方向に貫通する孔の複数によって構成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、位置固定の静止密封環と回転軸との間にバッフル筒を設けて環状空間部を内側環状空間部と外側環状空間部とに区切り、かつ、それら各空間部における軸心方向でシール部に対応する位置において連通させる短絡路を設ける工夫により、フラッシング流体が循環移動してシール部の径内側部位においてもよく流れるようになり、シール部の冷却及び潤滑作用が従来に比べて明らかに促進されるようになる。つまり、従来では単一空間であった環状空間部に往路と復路とが備わる状態になり、流体の循環効率が明確に向上するようになる。その結果、回転密封環を静止密封環に押付ける回転式のアウトサイド型メカニカルシールにおいて、フラッシング流体によるシール部の冷却が十分に行えるようにして、クエンチングを必要とせず構造の簡素化やコストダウンが可能となるように改善することができた。
【0016】
請求項2の発明によれば、移動可能な静止密封環と回転軸との間にバッフル筒を設けて環状空間部を内側環状空間部と外側環状空間部とに区切り、かつ、それら各空間部における軸心方向でシール部に対応する位置において連通させる短絡路を設ける工夫により、フラッシング流体が循環移動してシール部の径内側部位においてもよく流れるようになり、シール部の冷却及び潤滑作用が従来に比べて明らかに促進されるようになる。つまり、従来では単一空間であった環状空間部に往路と復路とが備わる状態になり、流体の循環効率が明確に向上するようになる。その結果、静止密封環を回転密封環に押付ける静止式のアウトサイド型メカニカルシールにおいて、フラッシング流体によるシール部の冷却が十分に行えるようにして、クエンチングを必要とせず構造の簡素化やコストダウンが可能となるように改善することができた。
【0017】
請求項3の発明によれば、短絡路から外側環状空間部に出るフラッシング流体がシール部に向かうこととなるように短絡路の向きが設定されているから、フラッシング流体がさらにシール部によく供給されるようになって、シール部の冷却及び潤滑の促進され具合がもっと良くなり、請求項1又は2の発明によるいずれかの前記効果が強化されるという利点がある。
【0018】
請求項4の発明によれば、回転密封環又は静止密封環に、短絡路から外側環状空間部に出るフラッシング流体をシール部に案内するガイド部が形成されているから、フラッシング流体がさらにシール部によく供給されるようになって、シール部の冷却及び潤滑の促進され具合がもっと良くなり、請求項1又は2の発明によるいずれかの前記効果が強化されるという利点がある。
【0019】
請求項5の発明によれば、短絡路を複数の短絡孔で形成してあるから、内側環状空間部から外側環状空間部に向かうフラッシング流体の流速を増すことが可能になる。故に、短絡路の形状工夫によってもシール部の冷却及び潤滑を促進させることが可能になり、請求項1〜4の発明によるいずれかの前記効果が強化される利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】回転式アウトサイド型メカニカルシールの構造を示す断面図(実施例1)
【図2】図1のシール部付近の拡大断面図
【図3】静止式アウトサイド型メカニカルシールの構造を示す断面図(実施例2)
【図4】図3のシール部付近の拡大断面図
【図5】従来の回転式アウトサイド型メカニカルシールを示す断面図
【図6】従来の静止式アウトサイド型メカニカルシールを示す断面図
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明によるアウトサイド型メカニカルシールの実施の形態を、図面を参照しながら説明する。尚、実施例1は回転式で、実施例2は静止式のアウトサイド型メカニカルシールをそれぞれ説明している。
【0022】
〔実施例1〕
図1に実施例1によるアウトサイド型メカニカルシールAが示されている。これは、回転軸1に対して回転不能で、かつ、回転軸1の軸心P方向に移動可能に支持される回転密封環2と、シールハウジング3に対して回転不能に支持される静止密封環4と、回転密封環2を静止密封環4に押付けてシール部Sを形成するための弾性機構5とを有して、シール対象流体eのシール部Sの径内側から径外側への移動をシールする回転式のアウトサイド型メカニカルシールAに構成されている。
【0023】
回転軸1を囲繞するように配置されるシールハウジング3の内周面側には、軸心P方向視で円環状を為す静止密封環4が、一対のOリング6,6を用いてのシール状態で、かつ、軸心P方向に移動不能、かつ、軸心P回りの回動が規制される状態で嵌装されている。静止密封環4は、回転密封環2と接触すべく軸心Pに直交するシール面4a、軸心Pと平行な内周面4b、及び軸心Pに対して傾斜したテーパ内周面4c等を有して回転軸1の径外側に間隔を空けて配備されている。
【0024】
回転軸1にシール状態で外嵌支持されるスプリングリテーナ8が装備され、スプリングリテーナ8に弾性機構5を介して回転密封環2がシール状態で支持されることにより、回転密封環2が回転軸1に対して回転不能で、かつ、軸心P方向に移動可能に支持されている。スプリングリテーナ8は、Oリング9を介することで回転軸1にシール外嵌され、軸心Pに直交する方向の軸ボルト10の締付けにより回転軸1と一体回転する状態に固定支持される。
【0025】
スプリングリテーナ8の中段外周面8aには、螺着ピン11により軸心P回りに相対回動不能で、かつ、複数のコイルばね(弾性機構の一例)5によって静止密封環4の存在側(図1における右側)に弾性付勢されるドライブカラー12が外嵌されている。そして、そのドライブカラー12に螺装されるトルクピン13によって、軸心P回りに相対回動不能に回転密封環2が内嵌されており、静止密封環2とスプリングリテーナ8とはOリング14でシールされている。従って、回転密封環2は回転軸1と一体回転しながらも、複数のコイルばね5によって静止密封環4に押圧付勢される構成となっている。
【0026】
複数のコイルばね5により、回転密封環2のシール面2aと静止密封環4のシール面4aとが軸心P方向に互いに当接及び押圧付勢され、それによってシール部Sが形成される。この円環状のシール部Sを有するアウトサイド型メカニカルシールAにより、シール対象液eが存在するプロセス側と、ハウジング3の外部である大気側とをシールすることが可能に構成されいる。尚、図1において、xはコイルばね5及びトルクピン13の軸心、yは螺着ピン11の軸心である。
【0027】
さて、図1に示すように、スプリングリテーナ8には、これの静止密封環存在側の端から静止密封環4と回転軸1との間の環状空間部Kに延設されるバッフル筒7が一体形成されている。しかして、回転軸1とバッフル筒7との間の内側環状空間部siとバッフル筒7と静止密封環4との間の外側環状空間部soとが、軸心P方向でシール部Sに対応する位置にてバッフル筒7に形成される複数の短絡路15によって連通されるように構成されている。短絡路15は、バッフル筒7を径方向に貫通する孔の複数によって構成されている。
【0028】
静止密封環4のシール面4aの内径は、回転密封環2のシール面2aの内径よりも若干小さいので、径内側からシール部Sに向けて効果的にフラッシング液(フラッシング流体の一例)fを及ばすには、軸心Pに直交する角度よりも、回転密封環側に若干寄った位置から各シール面4a,2aの接触部に向かう斜め経路で供給させるのが良い。これには、短絡路15の軸心15aの向きを、径外側ほど静止密封環存在側(図1の紙面右側)によるように傾斜させることである。このようにすれば、短絡路15から放たれるフラッシング液fはシール部Sの内径側端に十分に供給されるようになり、効果的に冷却や潤滑を行えるものとなる。
【0029】
即ち、ハウジング3に形成されている供給路16から供給されてくるフラッシング液fは、図1に太線の矢印で示されるように、内側環状空間部siにその環状入口17から入り、その内奥に位置する短絡路15を通って外側環状空間部soの内奥端部に入る。その際、短絡路15は角度が付いた傾斜孔であるので、例えば図2に示すように、軸心Pに直交する向きを持つ孔(図示省略)から出る場合(仮想線による矢印イを参照)に比べて、傾斜した方向(矢印ロを参照)に出る本発明のものでは、より効果的にフラッシング液fがシール部Sの内径側端に供給されるようにできる。
【0030】
つまり、環状空間部(「シール対象流体用空間部」の一例)K、より具体的には内側環状空間部siに、フラッシング液fの給排部である環状入口17を設け、供給されてくるフラッシング液fが内側環状空間部siから短絡路15を通って外側環状空間部soに流れるように構成するとともに、短絡路15から外側環状空間部soに出るフラッシング液fがシール部Sに向かうこととなるように短絡路15の向きが設定されている。
【0031】
このように、静止密封環4と回転軸1との間にバッフル筒7を設けて環状空間部Kを内側環状空間部siと外側環状空間部soとに区切り、かつ、それら各空間部si,soの内奥部どうしを連通させる短絡路15を設ける構成によって、フラッシング液fが循環移動してシール部Sの径内側部位においてもよく流れるようになり、シール部Sの冷却及び潤滑作用が促進されるようになる。単に環状空間部があるだけの従来構造のものでは、その環状空間部がシール対象流体の存在空間の末端に位置してフラッシング流体の流れがあまりなく、シール部の内側において淀んでいて冷却及び潤滑作用が発揮され難いものであったから、本発明によりシール部Sの冷却性能も潤滑性能も大きく改善されている。
【0032】
尚、フラッシング液fはシール対象流体eそのものでも良く、或はシール対象流体eに悪影響を及ぼさない専用の液であっても良い。また、図示は省略するが、シール部Sの径内側箇所へより勢い良くフラッシング液fが流れるようにすべく、供給路16から出るフラッシング液fを環状入口17に誘導案内するガイド部材を設ける構成としても良い。
【0033】
〔実施例2〕
実施例2によるアウトサイド型メカニカルシールAは、図3に示すように、回転軸1と一体回転する回転密封環2と、シールハウジング3に対して回転不能で、かつ、回転軸1の軸心P方向に移動可能に支持される静止密封環4と、静止密封環4を回転密封環2に押付けてシール部Sを形成するための弾性機構25とを有して、シール対象流体eのシール部Sの径内側から径外側への移動をシールする静止式のものに構成されている。
【0034】
シールハウジング3の軸心P方向の端面3Aには、軸心P方向寸法に比べて径寸法の大きい扁平円環状を呈するスプリングリテーナ21がOリング22を介してのシール状態でボルト止め連結されている。このスプリングリテーナ21には、これの螺装される軸ピン24と軸心Pに沿う姿勢で配備される複数のコイルばね(弾性機構の一例)25とにより、軸心P回りの相対回動が不能で、かつ、軸心P方向で回転密封環側に押圧付勢される状態でホルダ23が内嵌されている。
【0035】
そして、そのホルダ23に静止密封環4が内嵌支持されることにより、シールハウジング3に対して回転不能で、かつ、回転軸1の軸心P方向に移動可能に支持され、かつ、弾性機構5によって静止密封環4を回転密封環2に押付けてシール部Sが形成される構成とされている。尚、26はスプリングリテーナ21とホルダ23とをシールするためのOリングである。
【0036】
回転軸1には、Oリング27を介してのシール状態で外嵌支持されるドライブリング28が設けられ、ドライブリング28に回転密封環2をOリング31によるシール状態で支持させることにより、回転密封環2が回転軸1に一体回転状態で嵌装される構成とされている。ドライブリング28は、軸ボルト29の締付けによって回転軸1に固定支持され、ドライブリング28に、これに螺着されるトルクピン30を介して回転密封環2が嵌装されている。
【0037】
ドライブリング28から静止密封環4と回転軸1との間の環状空間部Kに延設されるバッフル筒32を設け、回転軸1とバッフル筒32との間の内側環状空間部siとバッフル筒32と静止密封環4との間の外側環状空間部soとが、軸心P方向でシール部Sに対応する位置にてバッフル筒32に形成される短絡路33によって連通されている。短絡路33は、バッフル筒32に貫通形成される複数の短絡孔33で構成されている。これにより、実施例1の場合と同様に、
【0038】
図4に示すように、静止密封環4のシール面4aの内径は、回転密封環2のシール面2aのものよりも大径であり、かつ、シール面4aに径内側に続く裾拡がり状の湾曲裾野面4d(ガイド部gの一例)が形成されている。従って、軸心33aが径外側ほど軸心P方向で静止密封環側に寄る状態に傾きが付けられた傾斜孔である短絡孔33から径外側に移動するフラッシング液fは、その一部はホルダ側に流れるとともに、一部は湾曲裾野面4dに沿って移動してシール部Sの内径側端に供給されるようになる。つまり、短絡孔33から出るフラッシング液fをシール部Sに導くガイド面として湾曲裾野面4dが機能している。
【0039】
実施例2による静止式アウトサイド型メカニカルシールAにおいても、静止密封環4と回転軸1との間にバッフル筒7を設けて環状空間部Kを内側環状空間部siと外側環状空間部soとに区切り、かつ、それら各空間部si,soの内奥部どうしを連通させる短絡路33を設ける構成により、フラッシング液fが循環移動してシール部Sの径内側部位においてもよく流れるようになり、シール部Sの冷却及び潤滑作用が促進されるようになる。単に環状空間部があるだけの従来構造のものでは、その環状空間部がシール対象流体の存在空間の末端に位置してフラッシング流体の流れがあまりなく、シール部の内側において淀んでいて冷却及び潤滑作用が発揮され難いものであったから、本発明によりシール部Sの冷却性能も潤滑性能も大きく改善されている。
【符号の説明】
【0040】
1 回転軸
2 回転密封環
3 シールハウジング
4 静止密封環
5 弾性機構
7 バッフル筒
8 スプリングリテーナ
15 短絡路
25 弾性機構
28 ドライブリング
32 バッフル筒
33 短絡路
K 環状空間部
P 軸心
S シール部
e シール対象流体
f フラッシング流体
g ガイド部
si 内側環状空間部
so 外側環状空間部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に対して回転不能で、かつ、前記回転軸の軸心方向に移動可能に支持される回転密封環と、シールハウジングに対して回転不能に支持される静止密封環と、前記回転密封環を前記静止密封環に押付けてシール部を形成するための弾性機構とを有して、シール対象流体の前記シール部の径内側から径外側への移動をシールするように構成されているアウトサイド型メカニカルシールであって、
前記回転軸にシール状態で外嵌支持されるスプリングリテーナを設け、前記スプリングリテーナに前記弾性機構を介して前記回転密封環をシール状態で支持させることにより、前記回転密封環が前記回転軸に対して回転不能で、かつ、前記回転軸の軸心方向に移動可能に支持されるとともに、
前記スプリングリテーナから前記静止密封環と前記回転軸との間の環状空間部に延設されるバッフル筒を設け、前記回転軸と前記バッフル筒との間の内側環状空間部と前記バッフル筒と前記静止密封環との間の外側環状空間部とが、前記軸心方向で前記シール部に対応する位置にて前記バッフル筒に形成される短絡路によって連通される構成とされているアウトサイド型メカニカルシール。
【請求項2】
回転軸と一体回転する回転密封環と、シールハウジングに対して回転不能で、かつ、前記回転軸の軸心方向に移動可能に支持される静止密封環と、前記静止密封環を前記回転密封環に押付けてシール部を形成するための弾性機構とを有して、シール対象流体の前記シール部の径内側から径外側への移動をシールするように構成されているアウトサイド型メカニカルシールであって、
前記回転軸にシール状態で外嵌支持されるドライブリングを設けて、前記ドライブリングに前記回転密封環をシール状態で支持させることにより、前記回転密封環が前記回転軸に一体回転状態で嵌装されるとともに、
前記ドライブリングから前記静止密封環と前記回転軸との間の環状空間部に延設されるバッフル筒を設け、前記回転軸と前記バッフル筒との間の内側環状空間部と前記バッフル筒と前記静止密封環との間の外側環状空間部とが、前記軸心方向で前記シール部に対応する位置にて前記バッフル筒に形成される短絡路によって連通される構成とされているアウトサイド型メカニカルシール。
【請求項3】
前記環状空間部に供給されてくるフラッシング流体が、前記内側環状空間部から前記短絡路を通って前記外側環状空間部に流れるように構成するとともに、前記短絡路から前記外側環状空間部に出るフラッシング流体が前記シール部に向かうこととなるように前記短絡路の向きが設定されている請求項1又は2に記載のアウトサイド型メカニカルシール。
【請求項4】
前記環状空間部に供給されてくるフラッシング流体が、前記内側環状空間部から前記短絡路を通って前記外側環状空間部に流れるように構成するとともに、前記短絡路から前記外側環状空間部に出るフラッシング流体を前記シール部に案内するガイド部が前記回転密封環又は前記静止密封環に形成されている請求項1又は2に記載のアウトサイド型メカニカルシール。
【請求項5】
前記短絡路が、前記バッフル筒を径方向に貫通する孔の複数によって構成されている請求項1〜3の何れか一項に記載のアウトサイド型メカニカルシール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−27227(P2011−27227A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−175678(P2009−175678)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(000229737)日本ピラー工業株式会社 (337)
【Fターム(参考)】