説明

アミノ酸変性シラン及びその製造方法

【課題】安全かつ安価な原料から高収率でアミノ酸変性シランを提供する。
【解決手段】一般式(1)で表されるアミノ酸変性シラン。


(X及びYはC1〜10の2価炭化水素基、Rは水素原子、C1〜30の1価アルキル基、C1〜30の1価フロロアルキル基、C6〜30の1価アリール基、及びC6〜30の1価アラルキル基から選択される基、R1は水素原子、C1〜10の1価炭化水素基、R2は水素原子、C1〜4の1価アルキル基、又は一般式(2)から選択される基、aは0〜3の整数、mは0〜4の整数、Zは一般式(2)で表される有機基。)


Zはピログルタミン酸誘導体より導入される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規アミノ酸変性シラン、及び該アミノ酸変性シランの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オルガノシラン化合物において、アミノ基、カルボキシル基の両方が1分子内に導入されている化合物として知られているのはポリペプチド含有シラン(特許文献1:特開平8−59424号公報)がある。また、アミノ酸変性シラン化合物としてはアミノ官能シランとα−アミノ酸−N−カルボン酸無水物を反応させることにより得られるアミノ酸基含有シラン(特許文献2:特開2002−146011号公報、特許文献3:特開2003−160663号公報)も知られている。ここで、特許文献1で示される化合物はポリペプチドをシランに連結させたものであり、モノマーのアミノ酸が連結したものではなく、また、エポキシ変性シランを使用するため、毒性の問題がある。特許文献2,3で示されるアミノ酸基含有シランはα−アミノ酸−N−カルボン酸無水物とアミノ変性シランによる生成物である。更に、α−アミノ酸−N−カルボン酸無水物は非常に高価な原料であり、市場で手に入り難い問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−59424号公報
【特許文献2】特開2002−146011号公報
【特許文献3】特開2003−160663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、安全性が高い原料から、簡便かつ高収率で製造できる新規アミノ酸変性シランが求められている。また、これまでアミノ変性シランとピログルタミン酸誘導体から合成されるアミノ酸変性シランは知られていない。
【0005】
本発明は、新規アミノ酸変性シランを提供することと、安全な原料から、簡便な方法で、高い収率にて新規アミノ酸変性シランを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、アミノ基含有シラン化合物とピログルタミン酸誘導体を反応させることで、副生成物がなく、高い収率でアミノ酸変性シランを製造し得ることを知見し、本発明をなすに至った。
【0007】
従って、本発明は、下記アミノ酸変性シラン、及び該アミノ酸変性シランの製造方法を提供する。
請求項1:
下記一般式(1)で表されるアミノ酸変性シラン。
【化1】


(一般式(1)中、X及びYはそれぞれ独立に、炭素数1〜10の2価の炭化水素基であり、Rは互いに独立に、水素原子、炭素数1〜30の1価のアルキル基、炭素数1〜30の1価のフロロアルキル基、炭素数6〜30の1価のアリール基、及び炭素数6〜30の1価のアラルキル基から選択される基であり、R1は互いに独立に、水素原子、炭素数1〜10の1価の炭化水素基であり、R2は水素原子、炭素数1〜4の1価のアルキル基、又は下記一般式(2)から選択される基であり、aは0〜3の整数であり、mは0〜4の整数であり、Zは下記一般式(2)で表される有機基を示す。)
【化2】


(一般式(2)中、R3は水素原子、炭素数1〜7の1価の炭化水素基、アルカリ金属、又はアルカリ土類金属であり、R4は互いに独立に、水素原子、ヒドロキシ基、又は炭素数1〜10の酸素原子、硫黄原子、もしくは窒素原子を含有してもよい1価の炭化水素基である。)
請求項2:
下記一般式(3)で表されるアミノ基が結合してなるアミノ変性シランと下記一般式(4)で表される化合物とを反応させる請求項1記載のアミノ酸変性シランの製造方法。
【化3】


(一般式(3)中、R、R1、X、Y、及びmは請求項1で定義したものと同じ意味を示し、R5は水素原子又は炭素数1〜4の1価の炭化水素基である。)
【化4】


(一般式(4)中、R3、R4は請求項1で定義したものと同じ意味を示す。)
請求項3:
一般式(4)で表される化合物がピログルタミン酸である請求項2記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の新規アミノ酸変性シランの製造方法は、アミノ変性シランとピログルタミン酸誘導体との反応なので、非常に安全かつ安価な原料から高収率でアミノ酸変性シランを得ることができる。得られるシランは、カルボキシル基とアミノ基を有し、非常に高い親水性を有しているため、シランカップリング剤、繊維処理剤、粉体処理剤、高分子変性剤等として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、下記一般式(1)で表されるアミノ酸変性シランである。
【化5】

【0010】
一般式(1)において、X及びYで示される炭素数1〜10の2価の炭化水素基としては、炭素数1〜10の直鎖又は分岐鎖の2価脂肪族炭化水素基又は炭素数6〜10の2価芳香族炭化水素基が好ましく、炭素数1〜10、更に2〜6のアルキレン基又はフェニレン基がより好ましく、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキサメチレン基、又はフェニレン基が更に好ましい。mは0〜4の整数を示すが、0〜3が好ましい。Rは互いに独立に、水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数1〜30のフロロアルキル基、炭素数6〜30のアリール基、及び炭素数7〜30のアラルキル基から選択される基であり、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数1〜30のフロロアルキル基、炭素数6〜30のアリール基、及び炭素数7〜30のアラルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ステアリル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基、トリフロロプロピル基、ヘプタデカフロロデシル基等のフロロアルキル基を挙げることができる。これらのうち、炭素原子数1〜15のアルキル基及びフェニル基が好ましく、より好ましくはメチル基である。R1は互いに独立に、水素原子、炭素数1〜10の1価の炭化水素基であり、炭素数1〜10の直鎖又は分岐鎖の1価飽和脂肪族炭化水素基又は炭素数6〜10の1価芳香族炭化水素基が好ましく、より好ましくは水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘプチル基、ヘキシル基等であり、更に好ましくはメチル基、エチル基である。R2は水素原子、炭素数1〜4の1価のアルキル基、又は下記一般式(2)から選択される基であり、好ましくは水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、一般式(2)で表される有機基である。Zは下記一般式(2)で表される有機基である。aは0〜3の整数であり、好ましくは0又は1である。mは0〜4の整数であり、好ましくは0又は1である。
【0011】
【化6】

【0012】
一般式(2)において、R3は水素原子又は炭素数1〜7の1価の炭化水素基、アルカリ金属、アルカリ土類金属を示すが、炭素数1〜7の1価の炭化水素基としては、炭素数1〜7の1価飽和炭化水素基が好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘプチル基、ヘキシル基、ヘプチル基等が挙げられる。アルカリ金属としてはリチウム、ナトリウム、カリウム等、アルカリ土類金属としてはベリリウム、マグネシウム、カルシウム等が挙げられる。R3は、水素原子、炭素数1〜7の直鎖又は分岐鎖の脂肪族飽和炭化水素基、アルカリ金属、アルカリ土類金属が好ましく、水素原子、メチル基、エチル基、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムがより好ましく、水素原子が更に好ましい。R4は互いに独立に、水素原子、ヒドロキシ基、又は炭素数1〜10の酸素原子、硫黄原子、もしくは窒素原子を含有してもよい1価の炭化水素基である。炭素数1〜10の酸素原子、硫黄原子、もしくは窒素原子を含有してもよい1価の炭化水素基としては、炭素数1〜10の直鎖又は分岐鎖の1価脂肪族炭化水素基又は炭素数6〜10の1価芳香族炭化水素基、酸素原子、硫黄原子、もしくは窒素原子を含有する炭素数1〜10の直鎖又は分岐鎖の1価脂肪族飽和炭化水素基又は酸素原子、硫黄原子、もしくは窒素原子を含有する炭素数6〜10の1価芳香族炭化水素基であり、好ましくは水素原子、ヒドロキシ基、メチル基、エチル基である。
【0013】
本発明は、下記一般式(3)で表されるアミノ基が結合してなるアミノ変性シランと下記一般式(4)で表される化合物とを反応させるアミノ酸変性シランの製造方法である。
【化7】

【0014】
一般式(3)中のR、R1、X、Y、mは上記に示した通りであり、R5は水素原子、炭素数1〜4の1価のアルキル基、又は下記一般式(2)から選択される基であり、好ましくは水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、一般式(2)で表される有機基である。より具体的には、3−アミノプロピルトリメチルシラン、3−アミノプロピルジメチルメトキシシラン、3−アミノプロピルジメトキシメチルシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルジメチルエトキシシラン、3−アミノプロピルジエトキシメチルシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノプロピル)トリメチルシラン、3−(2−アミノエチルアミノプロピル)ジメチルメトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノプロピル)ジメトキシメチルシラン、3−(2−アミノエチルアミノプロピル)トリメトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノプロピル)ジメチルエトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノプロピル)ジエトキシメチルシラン、3−(2−アミノエチルアミノプロピル)トリエトキシシラン、3−アミノプロピルジ(トリメチルシロキシ)メチルシラン、アミノメチルトリメチルシラン、2−アミノエチルアミノメチルトリメチルシラン等が挙げられる。
【0015】
一般式(4)中、R3、R4は上記に示した通りであり、一般式(4)で示される化合物のより好ましくは市場で手に入り易く、安価なピログルタミン酸、ピログルタミン酸ナトリウムである。更に好ましくはピログルタミン酸である。一般式(4)の化合物は不斉炭素を持っており、特に限定されないが、光学活性体、ラセミ体のいずれのものも使用し得る。
【0016】
本発明の一般式(3)で表されるアミノ基が結合してなるアミノ変性シランと一般式(4)で表される化合物は定量的に反応するが、使用割合は、シラン中のアミノ基1当量に対して一般式(4)で表される化合物を0.3〜1.5当量であり、好ましくは0.8〜1.1当量であり、より好ましくは1.0当量である。
【0017】
本発明のアミノ酸変性シラン製造の反応工程の反応温度としては0〜160℃であることが好ましい。高温で反応させた場合、副生物の生成により着色することがあるため、より好ましくは20〜80℃である。反応時間は特に限定されないが、1〜10時間が好ましく、より好ましくは3〜5時間である。
【0018】
本発明のアミノ酸変性シラン製造の反応工程は、無溶剤でも反応は進行するが、有機溶剤中で反応させてもよい。有機溶剤としては、特に限定されず、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド及びN−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶剤、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶剤が挙げられる。特にメタノール、エタノール、2−プロパノール、1−プロパノール、1−ブタノールが好ましい。本発明の反応は定量的に進行し、副生成物も実質的にないことから、精製作業は特に必要ない。反応溶剤中で反応後、そのまま保存することもできる。
【0019】
上記本発明の新規アミノ酸変性シランは、シランカップリング剤、繊維処理剤、粉体処理剤、高分子変性剤等として有用である。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例によって更に詳述するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0021】
実施例1
反応器に3−アミノプロピルトリメチルシラン200質量部、DL−ピログルタミン酸197質量部を入れ、100℃にて3時間撹拌した。
冷却した後、385質量部の白色固体を97%収率で得た。下記表1に示す13C−NMRの結果、及びIRスペクトル測定により1685cm-1(アミド結合由来)に吸収が見られたことから、この生成物が下記のアミノ酸変性シランであることを確認した。
【化8】

【0022】
【表1】

【0023】
実施例2
反応器に3−(2−アミノエチルアミノプロピル)ジエトキシメチルシラン170質量部、エタノール50質量部、L−ピログルタミン酸93質量部を30℃にて4時間撹拌した。
得られた反応混合物にエタノールを60質量部加え、無色透明の50質量%エタノール溶液を得た。下記表2に示す13C−NMRの結果(エタノールのピークは除く)、及びIRスペクトル測定により1687cm-1(アミド結合由来)に吸収が見られたことから、この生成物が下記のアミノ酸変性シランであることを確認した。
【化9】

【0024】
【表2】

【0025】
実施例3
反応器に3−アミノプロピルオクチルジエトシキシラン500質量部、DL−4,4−ジメチル−5−ピロリドン−2−カルボン酸エチル320質量部、エタノールを120質量部入れ、50℃にて3時間撹拌した。
得られた反応混合物にエタノールを426質量部加え、無色透明の60質量%エタノール溶液を得た。下記表3に示す13C−NMRの結果(エタノールピークを除く)、及びIRスペクトル測定により1685cm-1(アミド結合由来)に吸収が見られたことから、この生成物が下記のアミノ酸変性シランであることを確認した。
【化10】

【0026】
【表3】

【0027】
実施例4
反応器に3−(2−アミノエチルアミノプロピル)トリメトキシシラン60質量部、メタノール50質量部、DL−ピログルタミン酸ナトリウム81質量部を30℃にて4時間撹拌した。
得られた反応混合物にメタノールを60質量部加え、無色透明の30質量%メタノール溶液を得た。下記表4に示す13C−NMRの結果(メタノールのピークは除く)、及びIRスペクトル測定により1687cm-1(アミド結合由来)に吸収が見られたことから、この生成物が下記のアミノ酸変性シランであることを確認した。
【化11】

【0028】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるアミノ酸変性シラン。
【化1】


(一般式(1)中、X及びYはそれぞれ独立に、炭素数1〜10の2価の炭化水素基であり、Rは互いに独立に、水素原子、炭素数1〜30の1価のアルキル基、炭素数1〜30の1価のフロロアルキル基、炭素数6〜30の1価のアリール基、及び炭素数6〜30の1価のアラルキル基から選択される基であり、R1は互いに独立に、水素原子、炭素数1〜10の1価の炭化水素基であり、R2は水素原子、炭素数1〜4の1価のアルキル基、又は下記一般式(2)から選択される基であり、aは0〜3の整数であり、mは0〜4の整数であり、Zは下記一般式(2)で表される有機基を示す。)
【化2】


(一般式(2)中、R3は水素原子、炭素数1〜7の1価の炭化水素基、アルカリ金属、又はアルカリ土類金属であり、R4は互いに独立に、水素原子、ヒドロキシ基、又は炭素数1〜10の酸素原子、硫黄原子、もしくは窒素原子を含有してもよい1価の炭化水素基である。)
【請求項2】
下記一般式(3)で表されるアミノ基が結合してなるアミノ変性シランと下記一般式(4)で表される化合物とを反応させる請求項1記載のアミノ酸変性シランの製造方法。
【化3】


(一般式(3)中、R、R1、X、Y、及びmは請求項1で定義したものと同じ意味を示し、R5は水素原子又は炭素数1〜4の1価の炭化水素基である。)
【化4】


(一般式(4)中、R3、R4は請求項1で定義したものと同じ意味を示す。)
【請求項3】
一般式(4)で表される化合物がピログルタミン酸である請求項2記載の製造方法。

【公開番号】特開2011−121903(P2011−121903A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−281126(P2009−281126)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】