説明

アルミナ質焼結体

【課題】低誘電正接で、かつ高強度のアルミナ質焼結体を提供する。
【解決手段】1〜10MHzにおける誘電正接が10×10−4以下、3点曲げ強度が400MPa以上であって、SiOを0.08〜0.8質量%含み、かつ実質的にコーディエライト相を含まないことを特徴とするアルミナ質焼結体。XRDピーク強度により算出される結晶配向度O:I300/(I300+I104)のうち、鋳込み成形の着肉方向に垂直な面41の結晶配向度O1と、鋳込み成形の着肉方向に平行な面42の結晶配向度O2との差:O2−O1が、0.12〜0.18である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミナ質焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミナ質焼結体は、機械的強度、耐熱性及び耐食性等に優れること、また誘電正接(tanδ)が低いことから、マイクロ波や高周波を受けるような回路基板や半導体製造装置に用いられている。
【0003】
ただし、アルミナ質焼結体の誘電正接を低く抑えるには、低アルカリの高純度原料を用いる必要があったためコスト高が問題であった。そこで、本出願人は、アルカリを含んでいても誘電正接が低いアルミナ質焼結体を提案した(特許文献1参照)。
【0004】
この技術は、アルミナ質焼結体中にSiOとMgOを合計量で0.2〜1.0wt%、重量比(SiO/MgO)で2〜4含み、そのSiOとMgOから生成されるコーディエライト相を0.3〜1.4wt%含むものである。これによれば、大幅なコスト上昇を伴う低アルカリ化しなくとも、低誘電正接のアルミナ質焼結体を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−120461号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、誘電正接は低いものの機械的強度が十分でないために部材によっては、適用できない場合があった。
【0007】
本発明は、これらの問題に鑑みてなされたものであり、低誘電正接であって、かつ高強度のアルミナ質焼結体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するため1〜10MHzにおける誘電正接が10×10−4以下、3点曲げ強度が400MPa以上であって、SiOを0.08〜0.8質量%含み、かつ実質的にコーディエライト相を含まないことを特徴とするアルミナ質焼結体を提供する。SiOを所定量含み、かつ実質的にコーディエライト相を含まない構成とすることで低誘電正接、かつ高強度のアルミナ質焼結体とすることができる。
【0009】
また、本発明のアルミナ質焼結体は、吸水性材料の底部と非吸水性材料の側壁部とを備える成形型に原料粉末を分散させたスラリーを注型し、前記吸水性材料の吸水とともに原料粉末を着肉させてなる鋳込み成形体を焼結してなる。このような成形方法を用いることにより、低誘電正接かつ高強度を発現し得る微構造を形成することができる。
【0010】
さらに本発明のアルミナ質焼結体は、XRDピーク強度により算出される結晶配向度:I300/(I300+I104)のうち、鋳込み成形の着肉方向に垂直な面の結晶配向度O1と、鋳込み成形の着肉方向に平行な面の結晶配向度O2との差:O2−O1が、0.12〜0.18である。本発明によれば、コーディエライト相を含ませなくとも誘電正接を低減することができ、かつ曲げ強度の低下が抑えられて高強度のアルミナ質焼結体を提供できる。
【発明の効果】
【0011】
低誘電正接で、かつ高強度のアルミナ質焼結体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】アルミナ質焼結体のXRDチャートの一例である。
【図2】I300とI104を抜き出して示した図である。
【図3】本発明の鋳込み成形方法を示した概略断面図である。
【図4】本発明のアルミナ質焼結体の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のアルミナ質焼結体について、より詳細に説明する。
【0014】
本発明のアルミナ質焼結体は、鋳込み成形体を焼結してなる。特に本発明では、着肉方向を一定にした鋳込み成形方法が好適である。原料粉末を一定方向に着肉させて成形することで結晶配向に異方性が生じ、誘電正接を低減することができる。
【0015】
結晶配向の異方性、すなわち結晶配向度Oは、(300)面、及び(104)面のXRDピーク強度をそれぞれ、I300、I104と表し、I300/(I300+I104)の式により算出される。本発明のアルミナ質焼結体において(300)面はc軸に平行な面として最も大きなピーク強度を示し、(104)面は、a軸またはb軸に平行な面として最も大きなピーク強度を示す。本発明では、この両者の関係を結晶配向度Oとして評価した。
【0016】
図1に本発明のアルミナ質焼結体のXRD測定により得られるチャート例を示す。このようなチャートから(104)面と(300)面のピークを抜き出して示したものが図2である。それぞれの面についてピーク強度I300及びI104を求めた後、結晶配向度I300/(I300+I104)を算出することができる。
【0017】
図1の(a)は、アルミナ質焼結体について鋳込み成形の着肉方向に垂直な面のXRD測定により得られたチャートであり、図1の(b)は、同じアルミナ質焼結体について鋳込み成形の着肉方向に平行な面のXRD測定により得られたチャートである。各チャートで(104)面と(300)面のピーク強度比が異なっているのが分かる。
【0018】
本発明のアルミナ質焼結体では、鋳込み成形の着肉方向に垂直な面の結晶配向度O1と、鋳込み成形の着肉方向に平行な面の結晶配向度O2とに所定の差を有している。すなわち、差O2−O1を0.12〜0.18とすることで誘電正接を低く抑えられ、かつ高強度を示すことが分かった。この理由は定かではないが、このような結晶配向によりコーディエライト相等の他の結晶相やガラス相が生じ難くなるとともに、一定方向に着肉させることによって高強度を示す微構造が得られるためと考えられる。
【0019】
図3は、本発明に用いる鋳込み成形法を示したものである。吸水性材料の底部31と非吸水性材料の側壁部32とを備える成形型30に原料粉末を分散させたスラリー35を注型し、前記吸水性材料の吸水とともに原料粉末を着肉させる鋳込み成形方法を用いることにより、図中に矢印で示したように着肉方向を一定とすることができる。
【0020】
このような鋳込み成形方法により得られた成形体36を焼成することにより、アルミナ質焼結体が得られる。図4にアルミナ質焼結体の模式図を示す。XRDの測定は、図4のアルミナ質焼結体中に矢印で示した鋳込み成形の着肉方向に垂直な面41及び鋳込み成形の着肉方向に平行な面42について行い。面41のXRDピーク強度による結晶配向度O1と、面42のXRDピーク強度による結晶配向度O2とを求め、その差:O2−O1を算出する。
【0021】
表1に着肉方向に垂直な面と着肉方向に平行な面のXRD測定によって得られたピーク強度の一例を示す。これによれば、本発明のアルミナ質焼結体は、JCPDSカードのピーク強度と比べて、着肉方向に垂直な面では(104)面のピーク強度が小さく、着肉方向に平行な面では、(300)面のピーク強度が大きくなっていることがわかる。この例では、O1が0.28、O2が0.45となりO2−O1は0.17となる。本発明は、この点に着目し結晶配向度O2とO1の差を所定範囲にすることよって誘電正接を低く抑えられ、かつ強度を高められることを見出し発明に至ったものである。
【0022】
【表1】

【0023】
本発明のアルミナ質焼結体は1〜10MHzにおける誘電正接が10×10−4以下である。上記のように結晶配向を調整すれば、コーディエライト相を実質的に含まないアルミナ質焼結体が得られ、低誘電正接化できる。
【0024】
本発明のアルミナ質焼結体は、SiOを0.08〜0.8質量%含む。ただし、上記のように焼結体には、コーディエライト相は、実質的に含まれない。これは、XRDにおいてコーディエライトの結晶ピークが検出されないことを示す。SiOを上記範囲で含み、さらに結晶配向度Oについて、鋳込み成形時の着肉方向による配向度の差を生じさせることで低誘電正接であって、高強度のアルミナ質焼結体とすることができる。
【0025】
また、本発明のアルミナ質焼結体は、3点曲げ強度(JISR1601)が400MPa以上である。これは、鋳込み成形において一定方向に着肉させることによって着肉方向による配向度の差として現れる独特の微構造が形成され、他の結晶相やガラス相を含まないためと思われる。
【0026】
アルミナ質焼結体の平均結晶粒径は20μm以下であることが好ましい。低誘電正接と高強度とを両立させるためには、著しい粒成長は好ましくない。2〜15μmとすることがより好ましい。
【0027】
また、アルミナ質焼結体の焼結体密度は3.93g/cm以上とすることが好ましい。
低誘電正接かつ高強度の特性を得るには、上記焼結体密度であることが好ましい。
【0028】
アルカリ金属の含有量は、酸化物換算で0.2wt%以下であることが好ましい。本発明では、このような範囲でアルカリ金属が含まれていても低誘電正接とすることができる。より好ましい範囲は、0.1wt%以下である。
【0029】
次に、本発明のアルミナ質焼結体の製造方法について説明する。
【0030】
アルミナ粉末は高純度のものを用いることが望ましい。その純度は、好ましくは99%以上、より好ましくは99.9%以上の用いることが望ましい。アルミナ粉末の平均粒径は0.5μm以下であるものを用いることが好ましい。さらに好ましい範囲は0.1〜0.5μmである。なお、アルミナ粉末には0.01〜0.1wt%のMgが含まれて良い。
【0031】
添加するSiOとしては、SiO粉末、シリカゾル、シリカゲル、ケイ素ハロゲン化物、ケイ素のアルコキシド、水ガラスなどが挙げられる。粉末で添加する場合は、平均粒径が0.5μm以下のものを用いることが好ましく、0.1μm以下がより好ましい。なかでもシリカゾルは本発明の鋳込み成形に適用するうえで好ましい。
【0032】
原料粉末のスラリーを作製して、鋳込み成形に供する。スラリーの溶媒は水、アルコール等、公知のものが使用できる。成形に用いられるバインダーも特に限定されず、ポリビニルアルコールやアクリルエマルジョン等公知のものが使用でき、分散剤についてもポリカルボン酸系等の一般的な材料を適用できる。原料粉末の混合は、攪拌混合やボール混合などスラリーを用いた方法を採用できる。
【0033】
鋳込み成形は、吸水性材料からなる底部31、及び非吸水性材料からなる側壁部32を備える成形型30に原料粉末を分散させたスラリー35を注型し、前記吸水性材料の吸水とともに原料粉末を着肉させる方法を用いることが好ましい(図3)。この方法によれば、着肉方向を一定にできるので着肉方向による配向度の差を生じさせることができる。なお、「底部」は、必ずしも低い位置にあることを意味するものではなく、着肉方向について奥底部であることを意味する。また、底部と側壁部との位置関係は、図3のように一定方向に着肉し得る構成であれば良い。
【0034】
鋳込み成形体の密度は、焼結体密度に対して65%まで高めることが好ましい。本発明の酸化アルミニウム焼結体では、3.93g/cm以上の焼結体が得られることから、バインダーを含まない脱脂体において少なくとも2.57g/cmの密度とすることが好ましい。
【0035】
焼結は、大気、真空または不活性ガス等の種々の雰囲気中で、常圧で焼結することができる。なかでも常圧の大気雰囲気が最も好適である。
【0036】
焼成温度は、例えば1300〜1700℃の範囲とすることができる。焼結体の平均結晶粒径が20μm以下となり、十分に緻密化する温度であれば良い。
【0037】
以下、実施例を示して説明する。
【0038】
[原料の調整]
平均粒径0.5μm、純度99.8%のアルミナ粉末(Mgを酸化物換算で0.05wt%含む)および平均粒径0.02μm、純度99.9%のシリカゾルを原料粉末とし、アルミナ粉末とシリカゾルを所定の割合で調整し、さらにバインダー、分散剤およびイオン交換水を加えてで樹脂ポットに入れ混合した。混合媒体として、任意量のΦ10のアルミナボールを用い、18時間混合してスラリーを得た。なお、本発明では、レーザー回折式粒度分布測定によるメジアン径(D50)をもって原料粉末の平均粒径とする。
【0039】
[鋳込み成形]
図3に示したような、箱型の成形型30を用い、底部31の着肉面が水平になるように成形型を水平な場所に設置して成形を行った。成形型は石こうからなる吸水性材料の底部31と硬質プラスチックからなる非吸水性材料の側壁部32および底部の下面を支える底板34とからなり、側壁部32と底板34の連結部等はスラリーが漏れないように接着されている。真空吸引のための溝33が底部31に形成されており、溝33はそれぞれ真空源(図示しない)に連結されている。
【0040】
スラリーを成形型に注型し、真空吸引した。成形体を採取するのに十分な着肉厚さに到達したところで着肉層上にある余剰スラリーを排出し、成形体36を得た。この成形体36を常圧大気中、昇温速度50℃/hrで1600℃まで加熱し、3時間保持した後、自然冷却して焼結体を得た。
【0041】
なお、比較のため同じ原料を用いてCIP成形したもの(作製No.7)及び、上下側面が石膏への着肉によって成形される通常の鋳込み成形したもの(作製No.8)の焼結体も作製し評価した。
【0042】
[評価]
得られたアルミナ質焼結体について、各種の測定を行った。焼結密度は、アルキメデス法により測定した。SiO含有量及びアルカリ金属含有量は、ICP−MSによって行った。3点曲げ強度はJISR1601に従って測定した。XRDは鏡面研磨した焼結体表面を用い、リガク社製X線回折装置MultiFlexを使用し、CuKα線源、加速電圧40kV、40mAで測定した。誘電正接は、目黒電波測器社製Qメータを用いて測定した。平均粒子径は焼結体表面を鏡面研磨後、研磨面を熱腐食し結晶粒界を析出させたあとにSEM観察を行って、インターセプト法から求めた。なお、焼結密度はすべて、3.93g/cm以上であり、平均粒子径は10μm以下であった。また、アルカリ金属の含有量は、いずれも酸化物換算で0.2wt%以下であった。
【0043】
XRDの測定は、図4のアルミナ質焼結体中に矢印で示した鋳込み成形の着肉方向に垂直な面41及び鋳込み成形の着肉方向に平行な面42について行い。面41のXRDピーク強度による結晶配向度O1と、面42のXRDピーク強度による結晶配向度O2とを求め、その差:O2−O1を算出した。CIP成形及び通常の鋳込み成形を用いた焼結体については、任意の互いに垂直な2面をO1及びO2として算出した。結果を表1に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
鋳込み成形の着肉方向に垂直な面の結晶配向度O1と、鋳込み成形の着肉方向に平行な面の結晶配向度O2との差:O2−O1が、0.12〜0.18である作製No.2〜5は、誘電正接が低く曲げ強度も400MPa以上であった。
【0046】
一方、O2−O1が、上記範囲外であった作製No.1及び作製No.6は、誘電正接は大きくなった。作製No.6では、曲げ強度が低下した。なお、作製No.1〜5のアルミナ質焼結体では、コーディエライト相は検出されなかった。
【0047】
また、CIP成形及び通常の鋳込み成形を用いた作製No.7及び作製No.8では、O2とO1にほとんど差がみられなかった。CIP成形を用いた作製No.7では、低誘電正接であったが、曲げ強度は低下した。通常の鋳込み成形を用いた作製No.8では、誘電正接は大きくなり、曲げ強度も低下した。また、これらのアルミナ質焼結体では、コーディエライト相が検出された。
【符号の説明】
【0048】
30 成形型
31 底部
32 側壁部
35 スラリー
36 成形体
41 鋳込み成形の着肉方向に垂直な面
42 鋳込み成形の着肉方向に平行な面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1〜10MHzにおける誘電正接が10×10−4以下、3点曲げ強度が400MPa以上であって、
SiOを0.08〜0.8質量%含み、かつ実質的にコーディエライト相を含まないことを特徴とするアルミナ質焼結体。
【請求項2】
鋳込み成形体を焼結して得られ、
前記鋳込み成形体は、吸水性材料の底部と非吸水性材料の側壁部とを備える成形型に原料粉末を分散させたスラリーを注型し、前記吸水性材料の吸水とともに原料粉末を着肉させてなる請求項1記載のアルミナ質焼結体。
【請求項3】
XRDピーク強度により算出される結晶配向度O:I300/(I300+I104)のうち、
鋳込み成形の着肉方向に垂直な面の結晶配向度O1と、
鋳込み成形の着肉方向に平行な面の結晶配向度O2との差:O2−O1が、
0.12〜0.18である請求項1または2に記載のアルミナ質焼結体。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【公開番号】特開2011−213542(P2011−213542A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83314(P2010−83314)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(391005824)株式会社日本セラテック (200)
【Fターム(参考)】