説明

アルミニウムケイ素炭化物粉末およびその製造方法

【課題】
AlSiCは高い耐酸化性、高温機械特性を持つが、結晶性の高い粒子の合成は難しい。
これは、従来、主に固相原料を混合したのちに熱処理を行っていたため、原料粉末を均一に混合することが難しく、生成反応として固相反応を主としているため反応の進行が遅く、結晶性の高いAlSiCを得ることが難しかった。
本発明は、このような従来得られなかった結晶性の良いAlSiCを得ると同時に、その製造技術を確立することを課題とする。
【解決手段】
発明1のアルミニウムケイ素炭化物粉末は、その結晶構造が六方晶であり、粒子の形状が六角板状であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、六方晶系の結晶構造を持つアルミニウムケイ素炭化物粉末とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムケイ素炭化物(AlSiC)は融点が約2037℃と高く、カーボンと比較して耐酸化性に優れることから、高温・構造材料としての応用が期待されている。また、カーボン/カーボン複合材料や耐火物に添加することにより耐酸化性や機械特性の向上も期待されている。
AlSiCは、従来、金属アルミニウム、ケイ素、カーボン粉末の混合物の熱処理(非特許文献1)、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、グラファイトの混合物の熱炭素還元反応(非特許文献2)、アルミニウム炭化物、Al、炭化ケイ素、SiCの混合物の熱処理(非特許文献1、3、4)、金属アルミニウム、ケイ素、カーボン、カオリンの混合物の熱炭素還元反応(非特許文献5)、モンモリロナイト、ポリアクリロニトリルの熱炭素還元反応(非特許文献6)により合成、が試みられているが、最終生成物に得られたAlSiCの粒子形状は不定形であり、理論上、六方晶系特有の形状とされる、六角板状の結晶性の高い粒子は得られていない。
【非特許文献1】Journal of Materials Science 37 335−342 (2002)
【非特許文献2】Journal of the Ceramic Society of Japan、115[11]761−766(2007)
【非特許文献3】Journal of Materials Science 15 575−580 (1980)
【非特許文献4】Journal of the American Ceramic Society、79[1] 275−278(1996)
【非特許文献5】Journal of the American Ceramic Society、86[6] 1028−1030(2003)
【非特許文献6】Journal of the American Ceramic Society、71[7] C−325−C−327(1988)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
AlSiCは高い耐酸化性、高温機械特性を持つが、結晶性の高い粒子の合成は難しい。
これは、従来、主に固相原料を混合したのちに熱処理を行っていたため、原料粉末を均一に混合することが難しく、生成反応として固相反応を主としているため反応の進行が遅く、結晶性の高いAlSiCを得ることが難しかった。
本発明は、このような従来得られなかった結晶性の良いAlSiCを得ると同時に、その製造技術を確立することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明1のアルミニウムケイ素炭化物粉末は、その結晶構造が六方晶であり、粒子の形状が六角板状であることを特徴とする。
【0005】
発明2は、発明1のアルミニウムケイ素炭化物粉末において、C軸に垂直方向に選択的に成長して六角板状となっていることを特徴とする。
【0006】
発明3は、発明1又は2のアルミニウムケイ素炭化物粉末の製造方法であって、アルミニウム源と炭素源とケイ素源とからなる原料粉末を、真空あるいは不活性雰囲気中で熱処理して、アルミニウムケイ素炭化物とすることを特徴とする。
【0007】
発明4は、発明3のアルミニウムケイ素炭化物粉末の製造方法において、アルミニウム源として水酸化アルミニウムを用いることを特徴とする。
【0008】
発明5は、発明3又は4のアルミニウムケイ素炭化物粉末の製造方法において、熱処理前に混合粉末を加圧成形により成形体を作製した後、熱処理することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明者は上記課題を解決するため、種々の原料を用いてAl−Si−C系化合物粉末の合成を行った結果、六角板状で結晶性の良いAlSiC粉末を合成するに至った。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において、アルミニウム源としてアルミニウム、あるいはアルミニウム化合物、炭素源として炭素あるいは熱処理することにより炭素となる化合物、ケイ素源としてケイ素、あるいはケイ素化合物を原料として用いる。混合する割合は、AlSiC組成であるが、熱処理中の反応により気相成分が発生するため、混合する際、より均一に混合を行うためには、アルミニウム源、炭素源、ケイ素源のうち少なくとも1種類は、液相であることが望ましい。これらをビーカー中でマグネチックスターラーを用いたり、ボールミル、遊星ミル等を用いたりして十分に混合する。得られた混合物を十分に乾燥した後、アルゴン気流中、約1000℃まで熱分解処理する。この処理により、1000℃までの処理で発生する気相成分をさせ、より高温での熱処理で不純物の混入を防ぐ。
このようにして得られたものを、カーボン製のルツボ中で、真空あるいはアルゴン等の不活性ガス中で1800℃(50℃単位、以下同じ)から1900℃で加熱する。中間生成物のAl4O4Cが約1850℃で溶融し始めるため、1900℃よりも高温での加熱は、Al4SiC4の生成には不利である。反応時間はAlSiCの生成を十分進め、粒成長させるためには長時間が望ましいが、粉末の焼結性の点からは、粒子径は小さい方が望ましく、熱処理時間は短い方がよい。
反応を十分進めるためには、ホットプレス法を用いたり、ルツボに充填する前に加圧法による予備成形を行うこともある。この方法により、六角板状の結晶性の良いAlSiC粒子が得られる。
なお、その後、必要に応じ、残留炭素分を取り除く処理を行うことも可能である。
【実施例1】
【0011】
水酸化アルミニウム、シリカ、フェノール樹脂を、モル比でAl(OH):SiO:C=4:1:12となるように、エタノールを分散媒として、プラスチック製のポット中、炭化ケイ素製のボールを用いて24時間ボールミル混合した。得られた混合物を乾燥後、架橋反応を進めるため、真空乾燥機中100℃で12時間、熱処理を行った。
得られたゲル状物質を石英の反応管内でアルゴン気流中、1000℃で1/2時間、熱分解処理した。熱分解後の粉末を、カーボンルツボ中、真空あるいはアルゴン気流中、1800℃、1900℃で3時間熱処理した。
得られた粉末を粉末X回折法により分析した結果(図1参照)、AlSiCが主たる結晶相として確認された。(101)に起因する2θ=31.810度付近のピーク高さをI31.810、(0010)に起因する2θ=41.658度付近のピーク高さをI41.685とすると、ICDDカード35−1072ではI41.685/I31.810=0.7で、I31.810>I41.685あるが、本結果では、I31.810<I41.685であり、C軸に垂直な方向への結晶性が高いことが示唆される。また、走査型電子顕微鏡を用いて粒子を観察した結果(図2参照)、六角板状の粒子が多数確認された。これは、六方晶系であるAlSiCの自形が顕著に現れたものであり、粉末X線回折の結果からもわかるように、結晶性の高いAlSiCが得られた。(表1、No.2,3)
結晶性が高いと、
六角板状の結晶がより平になるように成長する。結晶性が高くなる指標としてI41.685/I31.810値を算定して比較した。
【実施例2】
【0012】
水酸化アルミニウム、シリカ、フェノール樹脂を、モル比でAl(OH):SiO:C=4:1:12となるように、エタノールを分散媒として、プラスチック製のポット中、炭化ケイ素製のボールを用いて24時間ボールミル混合した。得られた混合物を乾燥後、架橋反応を進めるため、真空乾燥機中100℃で12時間、熱処理を行った。得られたゲル状物質を石英の反応管内でアルゴン気流中、1000℃で30分間、熱分解処理した。熱分解後の粉末を加圧成形により予備成形し、カーボンルツボ中、真空あるいはアルゴン気流中、1800℃で3時間熱処理した。得られた粉末を粉末X回折法により分析した結果(図3参照)、AlSiCが主たる結晶相として確認された。I31.810<I41.685であった。走査型電子顕微鏡を用いて粒子を観察した結果(図4参照)、六角板状の粒子が多数確認された。700℃で12時間、大気雰囲気にて、熱処理を行うことで、残留炭素分を取り除くことが可能である。
【0013】
特に、予備成形体を、カーボンダイス中、アルゴン気流中、1800℃で3時間、ホットプレス法により熱処理し、得られた粉末から炭素分を取り除くため700℃で12時間、大気雰囲気にて熱処理を行うと、得られた粉末は、粉末X回折法により分析した結果(図5参照)、AlSiCのみが結晶相として確認された。I31.810<I41.685であった。走査型電子顕微鏡を用いて粒子を観察した結果(図6参照)、六角板状の粒子が確認された。(表1、No.4,5)
なお、前記アルゴン気流中に代わり真空にて熱処理することによっても同様な結果を得られるものと考えられる。
【実施例3】
【0014】
水酸化アルミニウム、シリカ、フェノール樹脂を、モル比でAl(OH):SiO:C=4:1:6〜10となるように、エタノールを分散媒として、プラスチック製のポット中、炭化ケイ素製のボールを用いて24時間ボールミル混合した。得られた混合物を乾燥後、架橋反応を進めるため、真空乾燥機中100℃で12時間、熱処理を行った。得られたゲル状物質を石英の反応管内でアルゴン気流中、1000℃で1/2時間、熱分解処理した。熱分解後の粉末を加圧成形により予備成形し、カーボンルツボ中、真空あるいはアルゴン気流中、1750℃で3時間熱処理した。得られた粉末を粉末X回折法により分析した結果(図7参照)、AlSiCが主たる結晶相として確認された。特に、フェノール樹脂のモル比が8の場合、AlSiC単相が得られた。I31.810とI41.685の比は、6〜10のときはI31.810<I41.685だった。走査型電子顕微鏡を用いて粒子を観察した結果(図8参照)、6〜10のときは六角板状の粒子が多数確認された。(表1、No.7〜9)
【実施例4】
【0015】
水酸化アルミニウム、シリカ、フェノール樹脂を、モル比でAl(OH):SiO:C=4:0.94〜0.76:8となるように、エタノールを分散媒として、プラスチック製のポット中、炭化ケイ素製のボールを用いて24時間ボールミル混合した。得られた混合物を乾燥後、架橋反応を進めるため、真空乾燥機中100℃で12時間、熱処理を行った。得られたゲル状物質を石英の反応管内でアルゴン気流中、1000℃で1/2時間、熱分解処理した。熱分解後の粉末を加圧成形により予備成形し、カーボンルツボ中、真空あるいはアルゴン気流中、1750℃で3時間熱処理した。得られた粉末を粉末X回折法により分析した結果(図9参照)、AlSiCが主たる結晶相として確認された。特に、シリカのモル比が0.82の場合、AlSiC単相が得られた。I31.810とI41.685の比は、いずれの場合もI31.810<I41.685だった。(表1、No.10〜14)
【比較例1】
【0016】
水酸化アルミニウム、シリカ、フェノール樹脂を、モル比でAl(OH):SiO:C=4:1:12のとなるように、エタノールを分散媒として、プラスチック製のポット中、炭化ケイ素製のボールを用いて24時間ボールミル混合した。得られた混合物を乾燥後、架橋反応を進めるため、真空乾燥機中100℃で12時間、熱処理を行った。得られたゲル状物質を石英の反応管内でアルゴン気流中、1000℃で30分間、熱分解処理した。熱分解後の粉末を、カーボンルツボ中、真空あるいはアルゴン気流中、1700℃で3時間熱処理した。得られた粉末を粉末X回折法により分析した結果(図10参照)、Alが主たる結晶相として確認された。AlSiCも結晶相として確認されたが、第2相に留まった。走査型電子顕微鏡を用いて粒子を観察した結果(図11参照)、観察される粒子は不定形であり、六角板状の粒子は確認されなかった。これは、AlSiCは生成しているものの、結晶性が低いためと考察される。(表1、No.1)本比較例では1700℃での熱処理時間は3時間であるが、熱処理時間を長くすることにより、AlSiCの生成反応を進め、結晶性の高いAlSiC粒子を得ることは可能である。
【比較例2】
【0017】
水酸化アルミニウム、シリカ、フェノール樹脂を、モル比でAl(OH):SiO:C=4:1:12となるように、エタノールを分散媒として、プラスチック製のポット中、炭化ケイ素製のボールを用いて24時間ボールミル混合した。得られた混合物を乾燥後、架橋反応を進めるため、真空乾燥機中100℃で12時間、熱処理を行った。得られたゲル状物質を石英の反応管内でアルゴン気流中、1000℃で1/2時間、熱分解処理した。熱分解後の粉末を加圧成形により予備成形し、カーボンルツボ中、真空あるいはアルゴン気流中、1750℃で3時間熱処理した。得られた粉末を粉末X回折法により分析した結果(図12参照)、AlSiCが主たる結晶相として確認された。I31.810とI41.685の比は、I31.810>I41.685であった。走査型電子顕微鏡を用いて粒子を観察した結果(図13参照)、粒子は不定形であった。これは、炭素が過剰に存在すると、AlSiCの粒成長が抑制されるためと考えられる。(表1、No.6)
【0018】
【表1】

【産業上の利用の可能性】
【0019】
本発明は、融点が高く、カーボンと比較して高い耐酸化性をもつ、AlSiCの結晶性の高い粒子、およびその製造方法に関するものであり、このようにして得られた粒子は、高温・構造用の複合材料、耐火物の分散粒子として好適である。また、AlSiCの高純度焼結体用の原料粒子として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1の粒子の粉末X回折法による分析結果
【図2】実施例1の粒子の走査型電子顕微鏡による観察結果
【図3】実施例2の粒子の粉末X回折法による分析結果
【図4】実施例2の粒子の走査型電子顕微鏡による観察結果
【図5】実施例2の別例の粒子の粉末X回折法による分析結果
【図6】実施例2の別例の粒子の走査型電子顕微鏡による観察結果
【図7】実施例3の粒子の粉末X回折法による分析結果
【図8】実施例3の粒子の走査型電子顕微鏡による観察結果
【図9】実施例4の粒子の粉末X回折法による分析結果
【図10】比較例1の粒子の粉末X回折法による分析結果
【図11】比較例1の粒子の走査型電子顕微鏡による観察結果
【図12】比較例2の粒子の粉末X回折法による分析結果
【図13】比較例2の粒子の走査型電子顕微鏡による観察結果

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al、C、Siからなるアルミニウムケイ素炭化物粉末であって、その結晶構造が六方晶であり、粒子の形状が六角板状であることを特徴とするアルミニウムケイ素炭化物粉末
【請求項2】
C軸に垂直方向に選択的に成長して六角板状となっていることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウムケイ素炭化物粉末
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアルミニウムケイ素炭化物粉末の製造方法であって、アルミニウム源と炭素源とケイ素源とからなる原料粉末を、真空あるいは不活性雰囲気中で熱処理して、アルミニウムケイ素炭化物とすることを特徴とするアルミニウムケイ素炭化物粉末の製造方法
【請求項4】
請求項3のアルミニウムケイ素炭化物粉末の製造方法において、アルミニウム源として水酸化アルミニウムを用いることを特徴とする製造方法。
【請求項5】
請求項3又は4に記載のアルミニウムケイ素炭化物粉末の製造方法において、熱処理前に混合粉末を加圧成形により成形体を作製した後、熱処理することを特徴とする製造方法

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−286675(P2009−286675A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−143492(P2008−143492)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年12月2日〜5日 日本学術振興会主催の「2ND INTERNATIONAL SYMPOSIUM ON SiAIONS AND NON−OXIDES」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年3月20日 社団法人日本セラミックス協会発行の「2008年年会講演予稿集」に発表
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】