説明

エアバッグ及びエアバッグ装置

【課題】エアバッグ容積を徒に大きくすることなく、斜め衝突事故時に乗員頭部がピラーに衝突することを防止することができるエアバッグ及びエアバッグ装置を提供する。
【解決手段】運転席用エアバッグ装置のエアバッグ10は、運転席乗員の前方においてステアリングホイール2を覆うように膨張するエアバッグ本体12と、該エアバッグ本体12の左側の上部から上方へ延出してAピラー1を覆う上方延出部14とを有している。エアバッグ装置は、ステアリングホイール2を回転させても姿勢を変えないようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車等に設置されるエアバッグ及びエアバッグ装置に係り、特に乗員の頭部がピラーに当ることを防止するよう構成したエアバッグ及びエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の運転席、助手席あるいは後席の乗員を車両衝突時に保護するエアバッグは周知である。このエアバッグの容積を大きくすると、乗員の頭部及び上半身の殆どすべてを受け止めることが可能となるが、インフレータとしてガス発生容量の大きいものを用いることが必要となる。
【0003】
乗員頭部がピラーに当ることを防止し、且つエアバッグ容積を小さくするように改良するよう試みた助手席用エアバッグとして、米国特許第4,474,390号に記載のものがある。第6図は同号のエアバッグを示すものであり、自動車1のインストルメントパネル2にエアバッグ装置が設けられ、エアバッグ3が該インストルメントパネル2と助手席との間に上下方向に展開されている。
【0004】
エアバッグ3のフロント面は助手席乗員に対面し、車両衝突時に助手席乗員を受け止める乗員衝突面として機能している。エアバッグ3のリヤ面にはガス流入口4が設けられている。
【0005】
このエアバッグ3は、上部から下部になるほど幅(自動車1の車体左右方向におけるエアバッグの幅)が小さくなる台形形状となっているので、下部の容積は小さい。このエアバッグ3の上部のサイド6は、自動車1が斜め衝突した時にフロントピラー7に対し助手席乗員が直接的に当ることを防止している。
【特許文献1】米国特許第4,474,390号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記米国特許第4,474,390号のエアバッグは、上部が側方に張り出しているため、斜め衝突事故時に乗員が斜め前方へ且つ上方へ伸び上がるように移動したときには、乗員の頭部がエアバッグの側方張出部を乗り越えてピラーに当るおそれがある。これを防止するために、エアバッグの上下左右方向長さを長大としたものでは、エアバッグの容積が過大となってしまう。
【0007】
本発明は、エアバッグ容積を徒に大きくすることなく、斜め衝突事故時に乗員頭部がピラーに衝突することを防止することができるエアバッグ及びエアバッグ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明(請求項1)のエアバッグは、車両の座席の前方に設けられるエアバッグ装置のエアバッグにおいて、乗員の前方に膨張するエアバッグ本体と、該エアバッグ本体の左又は右の上部から上方に延出した上方延出部とを有することを特徴とするものである。
【0009】
請求項2のエアバッグは、請求項1において、該エアバッグ本体からの該上方延出部の膨張時におけるステアリングカラム軸心線方向と平行方向の延出長さLが50〜400mmであることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3のエアバッグは、請求項1又は2において、該上方延出部の膨張時における厚みを規制する手段を有することを特徴とするものである。
【0011】
請求項4のエアバッグは、請求項1ないし3のいずれか1項において、該エアバッグは前席用であり、エアバッグの膨張時に上方延出部が車両後方に傾斜するように構成されていることを特徴とするものである。
【0012】
請求項5のエアバッグは、請求項4において、上方延出部の乗員側とエアバッグ本体の乗員側とをテザーベルトで結ぶことによりエアバッグの膨張時に上方延出部が車両後方に傾斜するように構成したことを特徴とするものである。
【0013】
請求項6のエアバッグ装置は、エアバッグ及び該エアバッグ膨張用のインフレータを有するエアバッグ装置において、該エアバッグは請求項1ないし5のいずれか1項に記載のエアバッグであることを特徴とするものである。
【0014】
請求項7のエアバッグ装置は、請求項6において、該エアバッグ装置は運転席用エアバッグ装置であり、ステアリングホイールが回転しても姿勢が不変となるように設置されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明(請求項1,6)のエアバッグ及びエアバッグ装置にあっては、エアバッグ本体の左又は右の上部から上方へ上方延出部が延出している。エアバッグ膨張時にはこの上方延出部がピラーに沿って上方に延在して該ピラーを覆うので、乗員が斜め前方上方へ移動しても乗員頭部のピラーへの衝突が防止される。
【0016】
特に、請求項2のように上方延出部の膨張時におけるステアリングカラム軸心線方向と平行方向の延出長さLを50〜400mm以上とすることにより、乗員頭部のピラーへの衝突を極めて十分に防止することができる。
【0017】
請求項3のように、上方延出部の膨張時の厚みを規制すると、その分だけエアバッグの容積を小さくすることができる。また、上方延出部が乗員に対面して偏平状又はそれに近い形状をとるようになり、上方延出部を幅広に膨張させることが可能となる。これにより、ピラーが上方延出部で幅広く覆われるようになる。
【0018】
なお、自動車のAピラーは通常、後方へ傾いている。従って、前席用のエアバッグの場合、請求項4の通り、膨張時に上方延出部が車両後方に傾斜するにように構成することが好ましい。
【0019】
請求項5のように、上方延出部の乗員側とエアバッグ本体の乗員側とをテザーベルトで連結することにより、上方延出部を後方へ傾けて膨張させることが可能となる。
【0020】
請求項7のように運転席用エアバッグ装置として適用する場合には、ステアリングホイールを回してもエアバッグ装置の姿勢が不変となるように構成する。これにより、自動車がカーブを走行中に衝突した場合であっても、上方延出部は確実にAピラーに沿って膨張するようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0022】
第1図は実施の形態に係るエアバッグの膨張時の斜視図、第2図(a)はこのエアバッグの第1室膨張時を示す縦断面図、第2図(b)はこのエアバッグの第2室膨張時を示す縦断面図、第3図はこのエアバッグの平面図、第4図はエアバッグ膨張時の車両室内の側面図、第5図は上方延出部が乗員頭部を受け止めたときの斜視図である。
【0023】
この実施の形態では、エアバッグ10は、自動車の運転席用エアバッグ装置に搭載される運転席用エアバッグである。運転席用エアバッグ装置は、このエアバッグ10と、エアバッグ10が取り付けられるリテーナ(図示略)と、エアバッグ10を膨張させるガス発生器(図示略)と、折り畳まれたエアバッグ10を覆うモジュールカバー(図示略)とを備えている。この運転席用エアバッグ装置は、ステアリングホイール2の中央部2aの乗員側に配置される。
【0024】
なお、この実施の形態では、自動車の前列左側の席が運転席となっており、この運転席の左斜め前方にAピラー1が配設されている。このAピラー1は、第4図に示すように、車両後方へ向って傾斜している。
【0025】
エアバッグ10は、運転席乗員の前方においてステアリングホイール2を覆うように膨張するエアバッグ本体12と、該エアバッグ本体12の左側の上部から上方へ延出してAピラー1を覆う上方延出部14とを有しているこの上方延出部14の膨張時におけるステアリングカラム軸心線方向と平行方向の延出長さLは、50〜400mm、特に150〜400mm、とりわけ200〜400mmであることが好ましい。
【0026】
第3図に示すように、該エアバッグ本体12は、その側周部がステアリングホイール2の外周よりもさらに側方(放射方向)まで張り出すように膨張する。なお、この実施の形態では、膨張状態における該エアバッグ本体12の左右両側部のステアリングホイール外周からの張り出し量は、上端部及び下端部のステアリングホイール外周からの張り出し量よりも抑えられている。
【0027】
この実施の形態では、エアバッグ10は、エアバッグ本体12乗員側面及び上方延出部14の乗員側面を一連に構成するフロントメインパネル16と、エアバッグ本体12のステアリング側面及び上方延出部14のステアリング側面を一連に構成するリヤパネル18と、エアバッグ本体12の上部乗員側に配置された上部パネル20とを縫い合わせてなるものである。
【0028】
該フロントメインパネル16とリヤパネル20とは略同形状のパネルであり、周縁部同士が糸等よりなるシーム(図示略)によって結合されている。上部パネル20は、エアバッグ本体12の上部において該フロントメインパネル16の乗員側に重ね合わされ、周縁部がシーム22によって該フロントメインパネル16に結合されている。
【0029】
これらのパネル16,18,20により、エアバッグ本体12の内部は、第1室12aと第2室12bとに区画されている。該第1室12aは、パネル16,18によって囲まれた室であり、第2室12bは、パネル16,20によって囲まれた室である。
【0030】
エアバッグ本体12のステアリング側の中央付近には、ガス発生器からのガスを受け入れるガス導入口(図示略)が設けられている。このガス導入口は、第1室12a内に臨んでいる。
【0031】
第2室12bの左右両側には、第1室12aと該第2室12bとを連通する連通口24(第2図(a),(b))が設けられている。また、第2室12bの左右方向中央付近には、膨張した第2室12bが乗員を受け止めたときに該第2室12b内のガスを第1室12aに流出させるベントホール26が設けられている。また、図示はしないが、このエアバッグ本体12には、該第1室12a内のガスを外部に流出させるためのベントホールが設けられている。
【0032】
なお、この実施の形態では、エアバッグ本体12の上部においてフロントメインパネル16とリヤパネル18とが互いにテザーベルト28によって連結されている。これにより、膨張時における第1室12aの上部の厚みが規制されている。
【0033】
また、この実施の形態では、上方延出部14の内部においても、該フロントメインパネル16とリヤパネル18とはテザーベルト(図示略)によって連結されている。この実施の形態では、上方延出部14の延出方向の途中の2箇所にテザーベルトが設けられている。第3図の符号30は、この上方延出部14内のテザーベルトの一端をフロントメインパネル16に縫合したシームを示している。このテザーベルトにより、上方延出部14は、膨張したときに左右方向に幅広に偏平した形状となる。
【0034】
この実施の形態では、上方延出部14が膨張時に車両後方に傾斜するように、該上方延出部14の乗員側とエアバッグ本体12の乗員側とをテザーベルト32によって連結している。符号34(第5図)は、このテザーベルト32の両端をそれぞれフロントパネル16に結合したシームを示している。
【0035】
このエアバッグ10は、前記ガス導入口の周縁部がリテーナに連結される。また、ガス発生器がこのガス導入口を介してエアバッグ10内にガス供給可能にリテーナに取り付けられる。そして、エアバッグ10が折り畳まれ、このエアバッグ10を覆うようにモジュールカバーが装着されることにより、エアバッグ装置が構成される。
【0036】
この実施の形態では、ステアリングホイール2の中央部2aに、該ステアリングホイール2を回転させても姿勢を変えない取付ベース(図示略)が設けられている。この取付ベースの構成は特に限定されるものではない。例えば、該取付ベースをステアリングホイール2に対し非連結とし、連結部材を介して該取付ベースをステアリングコラムハウジングなどの非回転部材に連結した構成であってもよく、他の構成であってもよい。
【0037】
エアバッグ装置は、この取付ベースに取り付けられており、ステアリングホイール2を回転させても姿勢を変えないようになっている。
【0038】
このように構成された運転席用エアバッグ装置を搭載した自動車が衝突した場合、ガス発生器がガス噴出作動してエアバッグ10内にガスが供給される。エアバッグ10は、このガスにより膨張を開始し、前記モジュールカバーを押し開いて運転席乗員の前方に膨らみ出す。
【0039】
この実施の形態では、ガス発生器からのガスは第1室12a内に導入されるため、エアバッグ10は、第2図(a)に示すように、まずエアバッグ本体12の中央部から下部にかけて大きく膨張する。なお、該第1室12aの内容積はエアバッグ10全体の容積に比べて小さく、且つ第1室12aの上部はテザーベルト28によって乗員側への膨張が規制されているので、このエアバッグ本体12の中央部から下部にかけての膨張はきわめて素早いものとなる。このため、運転席乗員の胸部ないし腹部が早期にエアバッグ10(エアバッグ本体12)によって受け止められるようになる。
【0040】
この第1室12a内のガスが、エアバッグ本体12の左側の上部に達して上方延出部14内に流入すると共に、各連通口24を通って該第2室12b内に流入することにより、エアバッグ本体12の上部と上方延出部14もそれぞれ膨張する。該上方延出部14は、エアバッグ本体12の左側の上部からAピラー1に沿うようにして上方へ向って突出状に膨らみ出し、該Aピラー1を覆う。
【0041】
なお、この実施の形態では、該上方延出部14はテザーベルトによって厚みが規制されているため、この上方延出部14の膨張も素早いものとなる。また、この際、上方延出部14は、テザーベルト34に引っ張られて車両後方へ傾斜するように膨張するので、該上方延出部14がスムーズにAピラー1を覆うようになる。
【0042】
乗員頭部がほぼ前方へ直進した場合には、この膨張したエアバッグ本体12の上部(第2室12a)によって受け止められ、ステアリングホイール2等の座席前方部材への乗員頭部の衝突が防止される。
【0043】
また、乗員頭部が左斜め前方上方へ移動した場合でも、膨張した上方延出部14がAピラー1を覆っているので、乗員頭部がこの上方延出部14によって受け止められ、該Aピラー1への乗員頭部の衝突が防止される。
【0044】
なお、この実施の形態では、上方延出部12の膨張時におけるステアリングカラム軸心線方向と平行方向の延出長さLを50mm以上とすることにより、乗員頭部のAピラー1への衝突を十分に防止することができ、また、400mm以下とすることにより、ルーフ部分との干渉を抑制することができる。
【0045】
また、この実施の形態では、上方延出部14はテザーベルトによって膨張時の厚みが規制されているので、上方延出部14が乗員に対面して偏平状又はそれに近い形状をとるようになる。これにより、上方延出部14が幅広に膨張し、Aピラー1が上方延出部14で幅広く覆われるようになる。
【0046】
この実施の形態では、ステアリングホイール2を回してもエアバッグ装置の姿勢が不変となるよう構成されているので、自動車がカーブを走行中に衝突した場合であっても、上方延出部14は確実にAピラー1に沿って膨張するようになる。
【0047】
上記実施の形態は本発明の一例であり、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。
【0048】
例えば、上記の実施の形態では、座席の左前方にピラーが配設されているために、エアバッグ本体の左側の上部に上方延出部が設けられているが、当該座席の右前方にピラーが配設されている場合には、エアバッグ本体の右側の上部に上方延出部が設けられる。
【0049】
上記の実施の形態は、運転席用エアバッグ装置への本発明の適用例を示すものであるが、本発明は、助手席用として、あるいは該運転席及び助手席よりも後ろの列の座席用としても適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】実施の形態に係るエアバッグの膨張時の斜視図である。
【図2】エアバッグの膨張時の態様を示す縦断面図である。
【図3】エアバッグの平面図である。
【図4】エアバッグ膨張時の車両室内の側面図である。
【図5】上方延出部が乗員頭部を受け止めたときの斜視図である。
【図6】従来例の説明図である。
【符号の説明】
【0051】
1 Aピラー
2 ステアリングホイール
2a ステアリングホイールの中央部
10 エアバッグ
12 エアバッグ本体
12a 第1室
12b 第2室
14 上方延出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の座席の前方に設けられるエアバッグ装置のエアバッグにおいて、
乗員の前方に膨張するエアバッグ本体と、
該エアバッグ本体の左又は右の上部から上方に延出した上方延出部と
を有することを特徴とするエアバッグ。
【請求項2】
請求項1において、該エアバッグ本体からの該上方延出部の膨張時におけるステアリングカラム軸心線方向と平行方向の延出長さLが50〜400mmであることを特徴とするエアバッグ。
【請求項3】
請求項1又は2において、該上方延出部の膨張時における厚みを規制する手段を有することを特徴とするエアバッグ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、該エアバッグは前席用であり、
エアバッグの膨張時に上方延出部が車両後方に傾斜するように構成されていることを特徴とするエアバッグ。
【請求項5】
請求項4において、上方延出部の乗員側とエアバッグ本体の乗員側とをテザーベルトで結ぶことにより、エアバッグの膨張時に上方延出部が車両後方に傾斜するように構成したことを特徴とするエアバッグ。
【請求項6】
エアバッグ及び該エアバッグ膨張用のインフレータを有するエアバッグ装置において、
該エアバッグは請求項1ないし5のいずれか1項に記載のエアバッグであることを特徴とするエアバッグ装置。
【請求項7】
請求項6において、該エアバッグ装置は運転席用エアバッグ装置であり、ステアリングホイールが回転しても姿勢が不変となるように設置されていることを特徴とするエアバッグ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−205830(P2006−205830A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−18538(P2005−18538)
【出願日】平成17年1月26日(2005.1.26)
【出願人】(000108591)TKJ株式会社 (111)
【Fターム(参考)】