説明

エレクトロルミネッセンス素子

【課題】光共振構造を備えたエレクトロルミネッセンス素子において、高視野角における低視野角での色度に対する変化を抑制する。
【解決手段】エレクトロルミネッセンス素子において、発光領域15から発光された光を共振させるように、複数の層の積層面に平行に配置された2つの対向する反射鏡11、17からなる共振器19を有し、反射鏡11、17に垂直な光軸Aに対して30°超の傾きを有する高角度領域での共振器波長に対して散乱および/または吸収のピークを有する微粒子を共振器19の内部に備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界の印加により発光を生じる電界発光素子(エレクトロルミネッセンス素子)に関し、特に、発光の高効率化を図ったエレクトロルミネッセンス素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子やLED(発光ダイオード)、半導体レーザなどのエレクトロルミネッセンス素子(EL素子)は、基板上に電極層や発光層等が積層された構成をしており、一般に、発光層において発光した光を、透明電極を介して取り出している。その際、各層の屈折率の影響により、光取り出し側の層界面において臨界角以上で入射された光は、全反射して素子内に閉じ込められてしまい、外部に取り出すことができない。そのため、発光した光を高効率に取り出すことが難しく、ITO等の現在よく用いられている透明電極の屈折率の場合、その取り出し効率は20%程度であると言われている。
【0003】
有機EL素子において、発光効率の向上を図るために、マイクロキャビティ効果を利用する方法が知られている。非特許文献1には、有機EL素子において、マイクロキャビティ構造を適用することにより、指向性、利用効率(取り出し効率)を向上することができる旨の記載がある。
エレクトロルミネッセンス素子においてマイクロキャビティ効果を利用すると、素子表面に垂直な視野角0°(素子の正面)における輝度および色度を、向上させることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】"Sharply directed emission in organic electroluminescent diodes with an optical-microcavity structure" Applied Physics Letters,65(15), 1994年10月10日 p.1868-1870
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、マイクロキャビティ効果を利用すると、視野角が0°から大きくずれた広角側から観測した場合のスペクトルが、視野角0°から観測した場合のスペクトルと大きく変化し、色度が変化してしまうという問題がある。
EL素子をディスプレイ装置に適用するにあたっては、高視野角における色度のズレは好ましくなく、高視野角における色度のズレを抑えることが望まれる。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、マイクロキャビティによる正面輝度、色度の向上効果を維持しつつ、高視野角における色度のズレを抑制したEL素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のエレクトロルミネッセンス素子は、電極間に積層された複数の層の間に、前記電極間への電界の印加により発光する発光領域を備えてなるエレクトロルミネッセンス素子であって、
前記発光領域から発光された光を共振させるように、前記複数の層の積層面に平行に配置された2つの対向する反射鏡からなる共振器を有し、
前記反射鏡に垂直な光軸に対して30°超の傾きを有する高角度領域での共振器波長に対して散乱および/または吸収のピークを有する微粒子を前記共振器の内部に備えたことを特徴とするものである。
【0007】
ここで、エレクトロルミネッセンス素子は、電界印加により発光する素子の総称であり、有機EL素子、無機EL素子、発光ダイオード(LED)および半導体レーザ(LD)を含むものとする。
【0008】
ここで、散乱および/または吸収のピークとは、散乱のみを生じる微粒子の場合には、散乱スペクトルのピーク、吸収のみを生じる微粒子の場合には吸収スペクトルのピーク、散乱および吸収を生じる微粒子の場合には、散乱スペクトルと吸収スペクトルの和で示される消失スペクトルのピークを意味する。
【0009】
有機EL素子である場合には、前記複数の層は、それぞれ有機層から形成された、少なくとも電子輸送層、発光層、正孔輸送層からなることが望ましい。LEDあるいはLDである場合には、前記複数の層は、それぞれ半導体層からなる、少なくともp型クラッド層、活性層、n型クラッド層からなることが望ましい。
【0010】
本発明のEL素子においては、前記2つの対向する反射鏡の少なくとも一方が、前記電極の一方を兼ねるものであることが望ましい。しかしながら、2つの対向する反射鏡と、電極とはそれぞれ個別に設けられていてもよい。
【0011】
前記微粒子は、金属微粒子または誘電体微粒子などから構成することができる。
前記金属微粒子は、Au、Ag、Al、Pt、Cu、および、これらの金属を主成分とする合金からなる群から選ばれた少なくとも1つからなるものであることが好ましい。また、誘電体微粒子である場合には、比較的高屈折率のものが好ましく、TiO、SiOおよびZnSeからなる群から選ばれた少なくとも1つからなるものであることが好ましい。
【0012】
前記微粒子は、色素または量子ドットなどから構成することができる。色素または量子ドットは、所定の波長を吸収する吸収体であり、色素や量子ドットをバインダーに分散させることにより、可視光のうち特定の波長域を通過させ特定の波長域を阻止するカラーフィルタを構成することができる。すなわち、共振器を構成する層間あるいは層中にカラーフィルタを備える構成とすることができる。バインダーは、電子輸送層、発光層、正孔輸送層等を構成する有機層材料であってもよいし、他の有機物、樹脂、ガラス等からなるものであってもよい。
【0013】
前記2つの対向する反射鏡のそれぞれは、Al、Ag、Mg、Caおよびこれらの金属を主成分とする合金からなる群から選ばれた少なくとも1つからなるものであることが好ましい。
【0014】
なお本明細書において、「主成分」は、含量80質量%以上の成分と定義する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のエレクトロルミネッセンス素子は、素子内に共振器を形成しているので、発光の指向性を向上させることができ、発光増強を図ることができる。一方、共振器内部に、反射鏡に垂直な光軸に対して30°超の傾きを有する高角度領域での共振器波長に対して散乱および/または吸収のピークを有する微粒子を備えているので、30°より高視野角における正面色度からの色度の変化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態にかかるEL素子の構造を示す模式図
【図2】カラーフィルタの特性の一例を示す図
【図3】本発明の第2実施形態にかかるEL素子の構造を示す模式図
【図4】微粒子の消失スペクトルの一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0017】
図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。なお、各図においては視認しやすくするため、構成要素の縮尺は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0018】
<第1の実施形態のEL素子>
図1は、本発明の第1の実施形態のエレクトロルミネッセンス素子(EL素子)1の構造を模式的に示す図である。本実施形態のEL素子1は、各層が有機層から構成されてなる有機EL素子である。
【0019】
本実施形態の有機EL素子1は、ガラス等からなる透明基板10上に、第1の反射鏡11、カラーフィルタ12、透明材料からなる陰極13、電子輸送層14、発光層15、正孔輸送層16、半透過金属からなる陽極17がこの順に積層されてなるものである。
すなわち、2つの電極13および17間に少なくとも発光層を含む複数の層14〜16を備えた一般的な有機EL素子構成を備え、さらに、共振器を構成するための反射鏡11、およびカラーフィルタ12を備えている。
【0020】
発光層15は、陰極13、陽極17から注入された電子、正孔が再結合することにより発光を生じる発光領域であり、有機EL素子の発光層として適用可能なものであれば特に制限なく、所望の発光波長により材料を選択すればよい。
【0021】
陽極17は半透過金属から構成されて第2の反射鏡を兼ねるものであり、対向して配置されている第1の反射鏡11と共に共振器19を構成する。
電極13、17間に電界が印加されることにより、発光層15から生じる発光光は、2つの反射鏡11、17間で共振して、半透過電極である陽極(第2の反射鏡)17側から射出される。
【0022】
第2の反射鏡である半透過金属からなる陽極17の発光光に対する反射率は共振器19内に定在波が形成されるに十分なものであればよい。例えば、反射率は20〜60%程度とし、一方の第1の反射鏡の反射率は90%程度以上の高反射率とする。
第1および第2の反射鏡は、Al、Ag、Mg、Ca等の金属およびそれらを主成分とする合金、あるいは誘電体多層膜などにより構成することができる。金属により反射鏡を作製する場合には、その厚みにより反射率を制御することができる。
【0023】
共振器19において、マイクロキャビティ効果を奏するための共鳴条件(ファブリペローの共振条件)は下記式(1)で与えられる。
【数1】

(ここで、λは共鳴波長、θは反射鏡に垂直な光軸に対する傾き、niは共振器内の層iの屈折率、diは共振器内の層iの厚み、φおよびφはそれぞれ第1および第2の反射鏡の反射による位相差、mはキャビティ次数である。)
【0024】
マイクロキャビティの共振波長は上記式(1)に示されるように、共振器の反射鏡(反射面)に垂直な光軸Aからの傾きによって変化し、その共振波長は、傾きθが大きくなるほど短波長側にずれる。ここでは、素子正面、すなわち視野角0(θ=0)において所望の波長λが得られるように、各層は上記式を満たす屈折率および厚みを有するように設計されている。なお、共振器内に生じる定在波の腹の部分が発光層と一致するように設計されることが、発光効率向上の観点から好ましい。
【0025】
カラーフィルタ12は、反射鏡11、17に垂直な光軸Aに対して30°超の傾きを有する高視野角領域での共振器波長に吸収ピークを有するものであり、高視野角領域の共振器波長を、光軸Aからの傾きが30°以下の低視野角領域での共振波長よりも相対的に大きく吸収するものである。カラーフィルタ12は、バインダー内に所定の波長を吸収する微粒子12aが分散されてなるものである。微粒子12aはとしては、各種色素、量子ドットなどを用いることができる。バインダーとしては、有機物、樹脂、ガラス等を用いることができる。
【0026】
上述の式(1)から明らかなように、共振波長は光軸Aからの傾き(すなわち視野角)に依存して変化する。すなわち、素子正面では波長λを中心波長としたスペクトルが観察されるが、高視野角側ではこの波長λより中心波長が短波長であるスペクトルが観察され、一般には、高視野角側の色度は、正面における色度とは大きく異なるものとなる。
一方、マイクロキャビティの共振の強さは、フィネスと呼ばれる値によって定量化され、フィネスが大きいほど共振の効果が大きい。フィネスは、反射鏡の反射率が大きくなるほど、また、共振器内部での吸収および散乱損失が小さいほど大きくなる。
【0027】
本実施形態においては、カラーフィルタ12を備え、30°より高視野角における共振波長を大きく吸収させることができるので、正面での共振のフィネスの変化は抑えられ、正面における輝度・色度を保持したまま、高視野角におけるフィネスが低下して共振条件が弱まり、発光スペクトルの変化(色度の変化)を軽減することができる。
【0028】
図2に、カラーフィルタ12の理想的な屈折率の例を示す。図2において、左軸が屈折率の実部n、右軸が屈折率の虚部κを示している。図中破線で示す屈折率の虚部の項がカラーフィルタの吸収を表すパラメータである。すなわち、図2に示す例は、510nm以下の波長を吸収し、510nm超の波長のみを透過するフィルタである。現実のカラーフィルタは、この図2に示すほどの理想的な特性を示すものを作製するのは困難である。現実的には、高視野角30°〜80°での中心波長に対する吸収率が、視野角30°未満での中心波長に対する吸収率よりも高いものであればよい。より具体的には、視野角30°での中心波長に対する吸収率α2の、視野角0°での中心波長に対する吸収率α1に対する比が1より大きければよいが、好ましくは、5以上である。
【0029】
例えば、正面での共振波長=525nm、視野角30°での共振波長=510nm、視野角60°での共振波長=495nmである共振器を備えた素子に、図2に示すような510nm以下の波長を吸収することができるカラーフィルタが好適である。そのようなカラーフィルタは、適切な大きさ(例えば、3nm以下の粒径)のCdSe(セレン化カドミウム)微粒子をバインダー中に分散させることで作製することができる。
【0030】
上記実施形態のEL素子1は、基板10上に、第1の反射鏡11を蒸着形成し、反射鏡11上にカラーフィルタ12を形成し、ITO等の透明材料からなる陰極13、電子輸送層14、発光層15、正孔輸送層16、陽極17を順次蒸着形成することにより形成することができる。
上記実施形態において、陰極13、電子輸送層14、発光層15、正孔輸送層16、陽極17などの各層は、それぞれの機能を有する層として周知の種々の材料のなかから、適宜選択可能である。さらに、電子注入層、正孔注入層、正孔ブロック層、電子ブロック層、保護層などの層が備えられていてもよい。
【0031】
<第2の実施形態のEL素子>
図3は、本発明の第2の実施形態のエレクトロルミネセンス素子2の構造を模式的に示す図である。本実施形態のEL素子2も、各層が有機層から構成されてなる有機EL素子である。
【0032】
本実施形態の有機EL素子2は、ガラス等からなる透明基板20上に、半透過金属からなる陽極21、微粒子22を内包した正孔注入層23、正孔輸送層24、発光層25、電子輸送層26、電子注入層27および陰極28がこの順に積層されてなるものである。
本実施形態においては、陽極21および陰極28が、2つの対向する反射鏡を兼ねて共振器29を構成しており、両電極21、28間に電界が印加されることにより、発光層25から生じる発光光は、両電極(反射鏡)21、28間で共振して、半透過電極である陽極21側から射出される。
【0033】
各反射鏡の反射率、共振器の共振条件に基づく各層の屈折率、層厚等については、第1の実施形態と同様である。一方、カラーフィルタに代えて、正孔注入層23中に微粒子22を備える点で、第1の実施形態と異なる。
【0034】
微粒子22は、反射鏡21、28に垂直な光軸Aに対して30°超の傾きを有する高角度領域での共振器波長に散乱および/または吸収のピークを有するものである。微粒子22が、可視光において、散乱のみを生じる場合には、散乱スペクトルのピークが高視野角領域での共振器波長にあればよく、吸収のみを生じる場合には、吸収スペクトルのピークが高視野角領域での共振器波長にあればよく、散乱および吸収を生じる場合には、散乱スペクトルと吸収スペクトルの和で示される消失スペクトルのピークが高視野角領域での共振器波長にあればよい。
微粒子22は、Au、Ag、Al、Pt、Cuおよびそれらを主成分とする合金などからなる金属微粒子、もしくは、TiO、SiO、ZnSeなどの高屈折率誘電体からなる誘電体微粒子である。ここで、高屈折とは、その微粒子が分散されているバインダーの屈折率と比較して高い屈折率であることを意味するものである。
なお、微粒子22が金属微粒子である場合に、発光光により微粒子表面に生じるプラズモン共鳴による発光の増強が生じる程度に微粒子が発光層に近接して配置される構成(特願2009−082790号;本出願時において未公開)は本発明においては除外するものとする。ここで近接とは、微粒子と発光層との最短距離が概ね30nm以内であることをいう。
【0035】
例えば、金属微粒子は、一般に可視光域の波長に対し散乱および吸収を示し、30°から80°の高視野角領域での共振器波長の共振を抑制する作用を持たせることが可能である。散乱および吸収を示す微粒子については、散乱スペクトルと吸収スペクトルの和で示される消失(Extinction)スペクトルを用いて検討する必要があり、既述の通り、消失スペクトルのピークが光軸Aに対して30°超の傾きを有する高角度領域での共振器波長にあればよい。
【0036】
図4は、正孔注入層として用いられる2−TNATA−F4−TCNQ中おける粒径(直径)30nmのAg微粒子の消失スペクトルを、シミュレーションした結果である。
例えば、正面共振波長λ=525nm、視野角30°での共振波長λ30=510nmであるような素子構造を有するEL素子において、図4に示す消失スペクトルを有する微粒子を備えることにより、視野角30°より高視野角における共振を抑制することができ、第1の実施形態のカラーフィルタを備えた場合と同様の効果を得ることができる。
【0037】
なお、微粒子22の材料および微粒子の粒径(ここでは、粒子の最大長で定義する。)、微粒子形状等を調整することにより、散乱ピーク波長、吸収ピーク波長、消失ピーク波長等を調整することができる。金属微粒子の場合には、粒子径を大きくすることにより、散乱ピーク波長を長波長側にシフトさせることができる。また、ロッド状の金属微粒子を用いた場合には、短径と平行方向に振動する電場に対しては短波長側、長径と平行方向に振動する電場に対しては長波長側に、プラズモン共鳴波長をシフトさせることが出来る。誘電体微粒子の場合にも、金属微粒子と同様に散乱の共鳴波長の調整を行うことが可能である。
【0038】
なお、微粒子が散乱体である場合には、散乱による光取り出し効果により正面輝度を更に高めることができる。散乱は30°以上の角度での共振波長に対してのみ起こり、正面に放射された光は変化を受けない。そのため、30°以上の角度で放射されていた光の一部が散乱されて正面に再放射されることから、正面輝度を高めることになる。
【0039】
本実施形態のEL素子2の製造方法の例を簡単に説明する。
基板20上に蒸着により陰極21を形成し、正孔注入層23を一部蒸着し、金属微粒子22を構成する金属を極薄く(例えば、5nm程度)蒸着する。金属は非常に薄く蒸着させることにより、微粒子を形成することが知られている。その後、さらに正孔注入層23を蒸着形成し、正孔輸送層24、発光層25、電子輸送層26、電子注入層27、陰極28を順次蒸着形成する。
なお、高屈折率誘電体粒子を用いる場合、基板20上に蒸着により陰極21を形成し、正孔注入層23中に誘電体微粒子を分散させたものを有機溶媒に溶解させ、スピンコートを行い、その後、有機溶媒を揮発させればよい。
【0040】
上記実施形態において、陰極、電子注入層、電子輸送層、発光層、正孔輸送層、正孔注入層、陽極などの各層は、それぞれの機能を有する層として周知の種々の材料のなかから、適宜選択可能である。さらに、正孔ブロック層、電子ブロック層、保護層などの層が備えられていてもよい。
【0041】
また、上記各実施形態では、発光層を含む複数の層が有機化合物層からなる有機EL素子について説明したが、本発明のEL素子は、発光層を含む複数の層が無機化合物層である無機EL素子のほか、複数の半導体層からなる発光ダイオードおよび半導体レーザにも好適に適用することができる。
【実施例】
【0042】
<シミュレーション>
共振器内部にカラーフィルタを備えた第1の実施形態のEL素子1の構成の実施例1および比較例1について、特性マトリックス法によるシミュレーションを行い、色度の予測を行った。
【0043】
(実施例1)
実施例1として、図1に示したEL素子1の構成において、各層11〜17を以下の材料および厚みとした素子を想定した。
第1の反射鏡11は100nm厚みのAl、カラーフィルタ12は図2に示す特性を有する100nm厚みのカラーフィルタ、陰極13は70nm厚みのITO(酸化インジウムスズ)、電子輸送層14は30nm厚みの有機層、発光層15は30nm厚みのCBP−10%Ir(ppy)3、正孔輸送層16は35nm厚みの有機層、陽極17は20nm厚みのAgからなるものとした。いずれの有機層の屈折率も1.67程度と想定した。この構成では光軸A方向における共振波長λ=525nmである。
【0044】
(比較例1)
比較例1としては、上記実施例1の構成においてカラーフィルタ12の屈折率虚部を0として、フィルタ効果を備えない素子を備えない素子を想定した。
【0045】
上述の実施例1および比較例1について、特性マトリックス法によるシミュレーションを行い、異なる視野角から観測した際に得られるスペクトルをCIE色度座標に変換した結果を表1に示す。
【表1】

表1に示すように、実施例1は比較例1に比べて高視野角(30°、60°)から観測した際の、視野角0°(正面)から観測した色度に対する変化が小さいことが確認できた。
【0046】
<実験例>
共振器内部に微粒子を備えた第2の実施形態のEL素子2の構成の実施例2および比較例2を作製し、以下の実験を行った。
(実施例2)
透明基板20としてガラス基板を用い、ガラス基板上に、以下の順で蒸着を行い、実施例1の有機EL素子を作製した。
まず、ガラス基板上に陽極21としてAgを20nm蒸着した。その後、Ag上に2−TNATA(4,4,4,-トリス(2-ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン)と、F4−TCNQを、F4−TCNQが0.3%となるように100nm蒸着し、次に、Agを5nm蒸着し、さらに2−TNATA−F4−TCNQを、F4−TCNQが0.3%となるように80nm蒸着した。これにより、Agからなる金属微粒子22を内包する2−TNATA−F4−TCNQからなる正孔注入層23を形成することができた。さらに、正孔輸送層24として、NPD(N,N’−ジナフチル−N,N’−ジフェニル−〔1,1’−ビフェニル〕を10nm蒸着し、さらに、発光層25として、CBP−10%Ir(ppy)3を30nm、電子輸送層26として、Balqを40nm、電子注入層27として、LiFを1nm、陰極28として、Alを100nm順次蒸着した。最後にUV接着剤を用いて封止を行い、実施例2の有機EL素子を完成した。
【0047】
なお、2−TNATA−F4−TCNQの間に挿入した5nm蒸着したAg層をSEM(走査型電子顕微鏡)にて観測したところ、直径30nm程度の微粒子を形成していることを確認した。このような2−TNATA−F4−TCNQ中における30nmのAg微粒子の消失スペクトルをシュミレーションした結果は、図4に示した通りである。
【0048】
(比較例2)
比較例2として、上記実施例1の構成において、正孔注入層23中にAg粒子を備えていない有機EL素子を作製した。上記実施例の作製工程において、正孔注入層23中にAg5nmを蒸着する工程を省くことにより作製した。
【0049】
実施例2および比較例2について、異なる視野角からELスペクトルの測定を行った。測定は、電極間に直流電流を流し、視野角毎に輝度が1000cd/mになる条件で行った。得られたスペクトルをCIE色度座標に変換した結果を表2に示す。
【表2】

表2に示すように、実施例2は比較例2に比べて、特に高視野角60°から観測した際の、視野角0°(正面)から観測した色度に対する変化が小さいことが確認できた。
【符号の説明】
【0050】
1、2 エレクトロルミネッセンス素子
10、20 基板
11 反射鏡
12 カラーフィルタ
12a 微粒子
13、28 陰極
14、26 電子輸送層
15、25 発光層
16、24 正孔輸送層
17、21 陽極
19、29 共振器
22 微粒子
23 正孔注入層
27 電子注入層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極間に積層された複数の層の間に、前記電極間への電界の印加により発光する発光領域を備えてなるエレクトロルミネッセンス素子であって、
前記発光領域から発光された光を共振させるように、前記複数の層の積層面に平行に配置された2つの対向する反射鏡からなる共振器を有し、
前記反射鏡に垂直な光軸に対して30°超の傾きを有する高角度領域での共振器波長に対して散乱および/または吸収のピークを有する微粒子を前記共振器の内部に備えたことを特徴とするエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記複数の層が、それぞれ有機層から形成された、少なくとも電子輸送層、発光層および正孔輸送層からなることを特徴とする請求項1記載のエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記2つの対向する反射鏡の少なくとも一方が、前記電極の一方を兼ねるものであることを特徴とする請求項1または2記載のエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記微粒子が、金属微粒子であることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載のエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記金属微粒子が、Au、Ag、Al、Pt、Cu、および、これらの金属を主成分とする合金からなる群から選ばれた少なくとも1つからなるものであることを特徴とする請求項4記載のエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記微粒子が、誘電体微粒子であることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載のエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記誘電体微粒子が、TiO、SiOおよびZnSeからなる群から選ばれた少なくとも1つからなるものであることを特徴とする請求項6記載のエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記微粒子が、色素または量子ドットであることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載のエレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
前記2つの対向する反射鏡のそれぞれが、Al、Ag、Mg、Caおよびこれらの金属を主成分とする合金からなる群から選ばれた少なくとも1つからなるものであることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載のエレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−150821(P2011−150821A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9661(P2010−9661)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】