説明

エレベーター用巻上機及びエレベーター用巻上機の制動機構の補修方法

【課題】
冬季のように気温が低い環境においては電磁コイル自体の抵抗値が小さくなって電磁コイルへの電流が突入電流の様をなして電磁石部が大きな電磁力を発生するようになる。このため、可動鉄心が急速に電磁石の鉄心側に吸引され大きな音を発生するといった現象があった。
【解決手段】
ブレーキディスクに制動をかけるための可動鉄心を駆動する電磁コイルの一端に温度が上昇するにつれて抵抗値が減少する負の特性を有した抵抗器を設けることによって、エレベーターの運行開始時などの低温時には負の特性を有した抵抗器の抵抗値が大きいため電磁コイルに流れ込む電流は適正に制限されるようになるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーターシステム(以下では単にエレベーターと称する。)に使用されるエレベーター用巻上機に係り、特に巻上機の駆動力として電動機を使用するエレベーター用巻上機、及びエレベーター用巻上機の制動機構の補修方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、エレベーターはトラクション方式と呼ばれるものが多く普及している。このトラクション方式は乗りかごと釣り合い錘がメインロープによって懸架されており、巻上機でメインロープを巻き上げることにより乗りかごと釣り合い錘が逆方向に上下に昇降するものである。
そして、メインロープを巻き上げる巻上機の駆動には電動機が使用されているが、乗りかごを精度良く建築物の要求停止階に止め、且つその位置を保持するのには電動機自体の電気力の制御だけでなく制動機構を用いた電気−機械的な制御も必要である。
【0003】
上述した巻上機に取り付けられた制動機構は、大まかには巻上機を構成する電動機軸に固定したブレーキディスクと、このブレーキディスクを両側から挟みこんで制動をかける電磁式のブレーキライニングより構成されており、要求停止階に到達すると制動機構が作動してブレーキディスクとブレーキライニングの間の摩擦力によって巻上機の回転に制動がかけられ、乗りかごを建築物の要求停止階に止め、且つその位置を保持するものである。
通常では、乗りかごを停止してこの停止位置を保持する機能と、停電時等に乗りかごを減速して停止する機能を一個の制動機構で兼用しているものが主流であり、このような制動機構を備えたエレベーター用巻上機は特許文献1等で提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−124116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般にエレベーターを運行する場合には巻上機を構成する電動機自体の電気的な制御の他に上述した制動機構の制御を実行して乗りかごの運行動作を管理している。
具体的には、乗りかごを昇降させる時は巻上機の電動機が回転する直前或いは直後に電磁作動式ブレーキライニングでブレーキディスクを挟み込んで制動していた制動力を開放して電動機を回転できるようにし、逆に、乗りかごを停止させる時は電磁作動式ブレーキライニングでブレーキディスクを挟み込んで強制的に電動機の回転に制動をかけるようにするものである。
【0006】
ところで、この制動機構の電磁作動式ブレーキライニングは電磁コイル及び固定鉄心よりなる電磁石部と可動鉄心及びこの可動鉄心に取り付けられたブレーキライニング部とより構成されている。
そして、電磁石を構成する電磁コイルの給電回路では電磁コイル自体の抵抗値に依存した電流を流しているが、冬季のように気温が低い環境においては電磁コイル自体の抵抗値が小さくなって電磁コイルへの電流が突入電流の様をなして電磁石部が大きな電磁力を発生するようになる。このため、可動鉄心が急速に電磁石の鉄心側に吸引され大きな音を発生するといった現象があった。
【0007】
また、場合によっては、電動機を駆動する駆動信号の印加時期と制動機構による制動力の開放時の時期的な整合がとれずに、可動鉄心の急速な固定鉄心への移動によって早く制動力が開放されて微小時間であるが釣合錘が下降して利用者に違和感を与えるといった現象も想定される。
【0008】
本発明の目的は、巻上機の周囲温度が低い環境においても電磁石部が大きな電磁力を発生しないようにして、可動鉄心が急速に電磁石の鉄心側に吸引される現象を抑制することができるエレベーター用巻上機を提供することにある。
【0009】
また、本発明の他の目的は、既設のエレベーターにおいても電磁石部が大きな電磁力を発生しないようにして、可動鉄心が急速に電磁石の鉄心側に吸引される現象を抑制することができるエレベーター用巻上機の制動機構の補修方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の特徴は、ブレーキディスクに制動をかけるための可動鉄心を駆動する電磁コイルの一端に温度が上昇するにつれて抵抗値が減少する負の特性を有した抵抗器を設けることによって、エレベーターの運行開始時などの低温時には負の特性を有した抵抗器の抵抗値が大きいため電磁コイルに流れ込む電流は適正に制限されるようになるものである。
【発明の効果】
【0011】
巻上機の周囲温度が低い環境においても電磁石部が大きな電磁力を発生しないようにして、可動鉄心が急速に電磁石の鉄心側に吸引される現象を抑制できるので、突入電流の発生による可動鉄心が急速に電磁石の鉄心側に吸引され大きな音を発生するといった現象や、電動機を駆動する駆動信号の印加時期と制動機構による制動力の開放時期の時期的な整合がとれずに、可動鉄心の急速な固定鉄心への移動によって、早く制動力が開放されて微小時間であるが釣合錘が下降して利用者に違和感を与えるといったエレベーター用巻上機の制動機構に特有の課題を解決できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】昇降路内に収納された、エレベーターの構成を説明するための断面図である。
【図2】エレベーターに使用される巻上機の外観図である。
【図3】巻上機を構成する電動機に設けられた制動機構を示す断面図である。
【図4】本発明の一実施例になる巻上機の外部筐体に設けられた端子箱部分の断面図である。
【図5】は本発明で使用される温度依存性抵抗の温度と抵抗の特性図である。
【図6】本発明の一実施例になる端子箱の蓋をはずしたときの平面図である。
【図7】図7に示す端子箱の断面図である。
【図8】は本発明の一実施例になる制動機構の電磁コイルに直流電流を流すための給電回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面にしたがい本発明の一実施例になるエレベーター用巻上機について説明する。
図1は昇降路内に収納された、エレベーターの構成を説明するための断面図であり、参照番号10は建築物に設けられた昇降路であり内部にエレベーターが収納されている。
エレベーターは乗りかご11と釣合錘12及び巻上機13を主な構成要素とし、乗りかご11の下部にはプーリ14が取り付けられ、釣合錘12にはプーリ15が取り付けられ、巻上機13の回転軸(=電動機の回転軸)にはシーブ16が取り付けられている。
【0014】
ここで、巻上機13は昇降路10の最底部の床面に載置されているが、昇降路10の最頂部付近に固定した梁に取り付ける構成としても良い。
昇降路10の上部には梁17が固定され、この梁17に中間プーリ18A、18Bが取り付けられており、メインロープ19の巻き掛け方向を変えるようになっている。
メインロープ19は一端が昇降路10の上部壁面に取り付けられ、この一端から出発して釣合錘12のプーリ15、第1の中間プーリ18A、巻上機13のシーブ16、第2の中間プーリ18B及び乗りかご11のプーリ14を経て昇降路10の上部壁面にその他端が取り付けられている。
【0015】
このローピングは2対1ローピングと呼ばれ、動滑車の原理を利用して巻上機13の巻上力を低減しているものである。
釣合錘12の下部には釣合錘12の衝突による衝撃を緩衝する緩衝器191が設置されているが、乗りかご11の下部にも乗りかご11の衝突による衝撃を緩衝する緩衝器が設置されているものである。
【0016】
このような、エレベーターにおいては図示しない制御器によって運行指令が巻上機13の電動機や制動機構等に与えられ、この運行指令によって乗りかご11が建築物の所定の階層に向けて昇降動作するものである。
【0017】
そして、図1に示した巻上機13は図2に示すような外観を備えており、巻上機13は固定ベース20に取り付けられ、固定ベース20は昇降路10の床面に設置したピットベース上に固定されるものである。
巻上機13は内部に電動機が内蔵されており、一方にシーブ16が設けられ、他方に制動機構21が設けられている。
【0018】
シーブ16は電動機の回転軸の一端に同期して回転するように固定されており、制動機構21を構成するブレーキディスクも電動機の回転軸の他端に同期して回転するようにスプライン構造で固定されている。尚、ブレーキディスクは後述するが電動機の回転軸とスプライン結合されているので回転軸の軸方向に移動可能である。
【0019】
巻上機13の電動機を内蔵するように覆っている外部筐体22には端子箱23が一体的に鋳造で形成されており、この端子箱23には後で説明する温度依存性の抵抗器が内蔵されるものである。また、この端子箱23にはその開口部がゴム製のパッキングを介して蓋24で覆われボルト25で固定されている。
【0020】
図3は上記した制動機構21の断面を示すもので、制動機構21は大きく分けると回転軸30に軸方向にのみ移動可能に係合したブレーキディスク31と、この回転ディスク31を制動ばね(図示せず)のばね力によって固定プレート32側に押圧する可動鉄心33と、この可動鉄心33を吸着してブレーキディスク31の押圧を開放する電磁石34とより構成されている。
【0021】
ブレーキディスク31は、回転軸30上に固定されたスプラインハブ35の外周に軸方向にのみ移動可能に係合されている。スプラインハブ35は、外周に周方向に連続する複数の凹凸36が形成されており、これら凹凸36はスプラインハブ35の軸方向に長く平行に形成されている。
【0022】
ブレーキディスク31の内径側には、スプラインハブ35の外周形状と僅かに大きな相似の嵌合穴37が形成されており、これをスプラインハブ35に嵌合させることで、ブレーキディスク31は回転軸30上を軸方向には移動できるが、周方向には係合して回転軸30と共に回転することになる。
【0023】
電磁石34は固定部分、例えば巻上機13の電動機の固定側に支持される固定鉄心38と、この固定鉄心38に巻装された電磁コイル39とで構成されている。
固定鉄心38をボルト40によって電動機に固定することで電磁石34を巻上機13と一体化している。また、この固定鉄心38にはボルト41が固定部分とは反対側に突出するように固定されている。このボルト41には可動鉄心33が遊嵌され、さらに固定プレート32が電磁石34の磁極面と所定の間隔を持つように固定されている。そして、固定鉄心38には図示してないが制動ばねを収納するばね穴が設けられている。
【0024】
更に、固定プレート32と可動鉄心33にはブレーキディスク31を両側から挟むように夫々ブレーキライニング42、43が対向するように取付けられている。
【0025】
次に、このような構成の制動機構21の制動動作について説明すると、まず、乗りかご11を昇降できるように制動機構21を開放する開放動作は、図示しない制御器からの信号によって固定鉄心38に内蔵された電磁コイル39が通電されることで機能する。
電磁コイル39に通電されると固定鉄心38に電磁吸引力が発生し、この電磁吸引力が図示しない制動ばねの附勢力に打ち勝つと可動鉄心33が固定鉄心38に吸引され、可動鉄心33と固定プレート32の間にあるブレーキディスク31がブレーキライニング42、43の制動力から開放されて開放状態となる。
【0026】
すなわち、この状態で電動機の回転軸30は自由に回転できるため、シーブ16も自由に回転できメインロープ19を介してエレベーターの乗りかご11を所定の階層に昇降できるものである。
【0027】
一方、乗りかご11を所定の階層に停止させて停止位置を保持できるように制動機構21を動作させる制動動作は、図示しない制御器からの信号によって固定鉄心38に内蔵された電磁コイル39が遮電されることで機能する。これは、停電によって電力が供給されない状態で制動機能を確保するために遮電されることで制動がかかるようにしたものである。
電磁コイル39の通電が停止されると固定鉄心38に生じていた電磁吸引力が消滅し、図示しない制動ばねの附勢力によって可動鉄心33がブレーキディスク31側に押し出され、可動鉄心33と固定プレート32の間にあるブレーキディスク31がブレーキライニング42、43によって挟み込まれて制動力が発生して制動状態となる。
すなわち、この状態で電動機の回転軸30はその回転を拘束されるため、シーブ16の回転も同様に拘束されエレベーターの乗りかご11は所定の階層に停止及びその停止位置を保持されるものである。
【0028】
以上のような構成を有した巻上機の制動機構においては上述したように、電磁石34を構成する電磁コイル39の給電回路では電磁コイル39自体の抵抗値に依存した電流を流している。
【0029】
しかしながら、冬季のように気温が低い環境においては電磁コイル39自体の抵抗値が小さくなって電磁コイル39への電流が突入電流の様をなして電磁石部が大きな電磁力を発生するようになる。このため、可動鉄心33が急速に電磁石の固定鉄心38側に吸引されるといった現象があった。
このような課題を解決するため、本発明では次に述べるような新規な制動機構を備えた巻上機を提案するものである。
【0030】
図4において、巻上機13の電動機を覆っている外部筐体22には箱型の内部が中空になった長方形状の端子箱23が一体的に鋳造によって形成されており、この端子箱23には後述するような抵抗値が温度依存性を有する抵抗器が内蔵されている。
端子箱23の開口部は蓋24によって覆われ、蓋24と端子箱23はボルト25によって強固に固定されている。尚、この端子箱23の構成については後ほど詳細に説明する。
抵抗値が温度依存性を有する抵抗器は図5に示す特性のように温度変化に対して抵抗値が変化する特性を有しており、より具体的には温度が低いほど抵抗値が高い、言い換えると温度上昇に対して抵抗値が減少する負の特性を有している抵抗器であって、本実施例ではその一例としてNTC型のサーミスタを使用している。
【0031】
このサーミスタはニッケル、マンガン、コバルト、鉄などの酸化物を混合して焼結させることで得られ、またこのサーミスタは図5にあるように特性1や特性2などの種々の特性を獲得でき、製品仕様に適した特性が選ばれて使用されるものである。
図6及び図7は端子箱23の詳細を示す図であり、図6は端子箱23の蓋24を取り外して端子箱の開口側から見た状態を示し、図7は蓋24を被せて図6の断面を見た状態を示している。
端子箱23は有底の方形箱状の形態をとって内部に直方体状の中空部を形成しており、底部と反対側は開口して開放状態となっている。この開口は蓋24及びボルト25によって強固に塞がれている。そして、中空部に導線61やこの導線61を固定する取り付け端子等が収納されている。
【0032】
端子箱23の給電部60から直流電流は導線61で導かれて、第1取り付け端子台62の取り付け端子にねじ止めされた導線、更に第2取り付け端子台63の取り付け端子にねじ止めされた導線を経て電磁石34を構成する電磁コイル39に繋がれている。
尚、端子箱23から電磁コイル39に至る端子箱23の導線出口にはゴムブッシュ64が介装されて防水性を与えている。したがって、実際には端子箱23の中空部は蓋24に設けたパッキングやゴムブッシュ64によって水密が保たれている。
【0033】
この種の巻上機は建築物の昇降路の最底部にあるピットと呼ばれる部屋に配置されているので、大雨等による浸水や、地震による津波によってピット内が水没することが予想されるが、これに対して端子箱23が水密性を有しているので巻上機13の早急な修復が可能なようになっている。
【0034】
そして、本実施例では端子箱23の底部に上述した温度上昇に対して抵抗値が減少する負の特性を有する抵抗器65(本実施例ではNTC型のサーミスタを使用しているので、以下サーミスタという。)がねじ止め等によって取り付けられている。このサーミスタ65は電気回路的には電磁コイル39と端子箱23の給電部60の間に設けられた構成となっている。
【0035】
ところで、端子箱23の底部は外部筐体22を形成する壁部としても機能しているので、サーミスタ65をこの底部部分にねじ止め等によって設置することは巻上機13の電動機のコイルや、電磁コイル39で発生している実際の熱を感知することができ、電磁コイル39の温度に対応してサーミスタ65が正確な抵抗値変化を生じるという効果が期待できる。
【0036】
図8は制動機構21の電磁コイル39の給電回路の構成を示しており、制動機構21用の交流電源80はダイオードD1、ダイオードD2、ダイオードD3、ダイオードD4からなる全波整流ブリッジ81に接続されている。
ダイオードD1とダイオードD2の中間路は交流電源80の一方側に、ダイオードD3とダイオードD4の中間路は交流電源80の他方側に接続されている。また、この全波整流ブリッジ81の直流側には電磁コイル39が接続されている。
電磁コイル39の一端にはサーミスタ65が電磁コイル39と直列に接続されているが、これは上述したように端子箱23の中に収納されており、サーミスタ65は巻上機13の温度に依存して抵抗値が変わるので、給電部60を介して全波整流ブリッジ81の直流側から電磁コイル39に流れ込む電流が突入電流になるのを抑制する機能を有している。
【0037】
これらの給電回路系の抵抗値や電流値等の電気的な仕様は製造される製品に合わせて適宜決められており、もちろん、本実施例で使用されるサーミスタ65の特性も電磁コイル39が置かれる温度等の周囲環境に応じて決められるもので、例えば低温時と通常時で電磁コイル39に流れ込む電流が電磁コイル39の吸引力を極端に変動させないような特性に決められている。
【0038】
また、サーミスタ65の抵抗値特性はエレベーターの使用で想定される温度範囲、例えば、建築物が置かれている位置(都道府県の位置とか高度)や周囲環境(都市部とか郊外)も考慮して決められることが望ましい。
【0039】
従来の制動機構では、冬季のように気温が低い環境においては電磁コイル自体の抵抗値が小さくなって電磁コイルへ流れ込む電流が突入電流の様をなして電磁石部が大きな電磁力を発生するようになる。このため、可動鉄心が急速に電磁石の鉄心側に吸引され大きな音を発生するといった現象を生じたり、場合によっては、電動機を駆動する駆動信号の印加時期と制動機構による制動力の開放時期の時期的な整合がとれずに、可動鉄心の急速な固定鉄心への移動によって早く制動力が開放されて微小時間であるが釣合錘が下降して利用者に違和感を与えるといった現象も想定される。
【0040】
これに対して、本実施例では電磁コイル39と直列にサーミスタ65を設置したことによって、エレベーターの運行開始時などの低温時にはサーミスタ65の抵抗値が大きいため電磁コイル39に流れ込む電流は適正に制限されるので、結果として突入電流の発生による可動鉄心が急速に電磁石の鉄心側に吸引され大きな音を発生するといった現象や、電動機を駆動する駆動信号の印加時期と制動機構による制動力の開放時期の時期的な整合がとれずに、可動鉄心の急速な固定鉄心への移動によって、早く制動力が開放されて微小時間であるが釣合錘が下降して利用者に違和感を与えるといった現象を解決でき、エレベーター用巻上機の制動機構に特有の課題を解決できるものである。
【0041】
これまでに説明したエレベーター用巻上機は新たにエレベーターを設置する建築物に納入する場合における製品工場で製造するときの巻上機を説明したものであるが、本発明は既設のエレベーターにおいても同様の考え方で上記した課題を解決できるものである。
既設のエレベーターでは製造時の仕様によって、給電回路を含む制動機構を備えた巻上機の構成が定められているが、最近では利用者からエレベーターの乗りかごの円滑な運転や、エレベーターによる騒音発生の抑制が求められてきている。
したがって、これら既設のエレベーターにおいても当然のことながら、冬季のように気温が低い環境においては電磁コイル自体の抵抗値が小さくなって電磁コイルへの電流が突入電流の様をなして電磁石部が大きな電磁力を発生するようになる。
【0042】
このため、可動鉄心が急速に電磁石の鉄心側に吸引され大きな音を発生するといった現象が生じたり、電動機を駆動する駆動信号の印加時期と制動機構による制動力の開放時期の時期的な整合がとれずに、可動鉄心の急速な固定鉄心への移動によって早く制動力が開放されて微小時間であるが釣合錘が下降して利用者に違和感を与えるといった現象が課題となっている。
【0043】
このような課題を解決するには、上述した構成を採用した新品の巻上機と新たに置き換えるといった方法があるが、置き換えのための費用がかかることから既設のエレベーターをそのまま利用して上記の課題を解決することが建築物のオーナー等から要望されている。
【0044】
そこで、本発明においては巻上機13の端子箱23を利用してサーミスタ65を設けることで上述した課題を解決しようとするものである。以下、その具体的な方法を説明する。
まず、建築物のオーナー等から上述した課題を解決するための補修依頼を受けると、巻上機13の制動機構21の電磁コイル39の抵抗値特性を求める。
この抵抗値特性は想定される温度範囲(例えば、都道府県の位置とか高度等の建築物が置かれている位置や、都市部とか郊外の周囲環境によって決まる温度範囲)のものが求められるが、現実的な方法としては実際に抵抗値を測定して求めても良いし、計算によって求めても良いものである。
【0045】
次に、この電磁コイル39の抵抗値とサーミスタ65の抵抗値を合わせた抵抗値が温度変化によってもほぼ一定になるような特性のサーミスタ65を決定する。
つまり、電磁コイル39の抵抗値特性とサーミスタ65の抵抗値特性を合わせた合成抵抗値特性が温度変化によってもほぼ一定になるようにする。このようにすれば、電磁コイル39の電磁吸引力は温度に依存しないでほぼ一定の吸引力となる。
このサーミスタ65は必要な特性に近似した特性を有する市販のサーミスタを使用しても良いし、または専用のサーミスタとして新たにサーミスタの製造会社から得るようにしても良い。
【0046】
次に、このようにして得られたサーミスタ65を取り付ける場合は、巻上機13の端子箱23の蓋24を開き、給電部60と端子箱23の電磁コイル39側への端子箱出口の間の導線61を切断し、この切断部分にサーミスタ65を介装して再接続することによってサーミスタ65と電磁コイル39が導線61を介して直列に接続されることになる。
ここで導線61の切断とは、導線自体を切断してサーミスタ65を介して再接続する場合と、電磁コイル39側の導線61と直流側からの導線61をそれぞれ端子台でねじ止めし、この両端子台を更に接続導線で接続している構成のもので、この接続導線をサーミスタ65に置き換える場合も含んでおり、両方を含めて回路的な切断と表現する。
次に、サーミスタ65を端子箱23の底部にねじ止めして巻上機13の電動機のコイルや、電磁コイル39で発生している実際の熱を感知するようにする。
最後に、端子箱23に蓋24を被せてボルト25によって強固に固定することで水密を保つようにして作業を完了するものである。
【0047】
このように、巻上機13の端子箱23を利用してサーミスタ65を電磁コイル39と容易に接続できるため、既設のエレベーター用巻上機をそのまま利用して、可動鉄心が急速に電磁石の鉄心側に吸引され大きな音を発生するといった現象や、電動機を駆動する駆動信号の印加時期と制動機構による制動力の開放時期の時期的な整合がとれずに、可動鉄心の急速な固定鉄心への移動によって早く制動力が開放されて微小時間であるが釣合錘が下降して利用者に違和感を与えるといった現象を解決することができる。
【符号の説明】
【0048】
13…巻上機、21…制動機構、16…シーブ、22…外部筐体、23…端子箱、24…蓋、
30…回転軸、31…ブレーキディスク、32…固定プレート、33…可動鉄心、
34…電磁石、35…スプラインハブ、36…複数の凹凸、38…固定鉄心、39…電磁コイル、
42,43ブレーキライニング、60…給電部、61…導線、62…第1取り付け端子台、63…第2取り付け端子台、64…ゴムブッシュ、65…負の特性を有する抵抗器(本実施例ではNTC型のサーミスタ)、81…全波整流ブリッジ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベーターの乗りかごを昇降させるメインロープが巻き掛けられるシーブと、前記シーブを回転駆動する回転軸を有し外部筐体に内蔵された電動機と、前記シーブとは反対側で前記回転軸と共に回転するブレーキディスクと、前記ブレーキディスクに制動力を与える可動鉄心と、直流電流が流れ込む電磁コイル及び前記電磁コイルが巻装された固定鉄心よりなる前記可動鉄心を駆動する電磁石とを備えたエレベーター用巻上機において、
前記電磁コイルの一端に温度が上昇するにつれて抵抗値が減少する負の特性を有した抵抗器を設けたことを特徴とするエレベーター用巻上機。
【請求項2】
エレベーターの乗りかごを昇降させるメインロープが巻き掛けられるシーブと、前記シーブを回転駆動する回転軸を有し外部筐体に内蔵された電動機と、前記シーブとは反対側で前記回転軸と共に回転するブレーキディスクと、前記ブレーキディスクに制動力を与える可動鉄心と、直流電源から直流電流が流れ込む電磁コイル及び前記電磁コイルが巻装された固定鉄心よりなる前記可動鉄心を駆動する電磁石とを備えたエレベーター用巻上機において、
前記外部筐体に端子箱を設け、前記端子箱に前記電磁コイルからの導線と前記直流電源からの導線を引き込むと共に、両導線を温度が上昇するにつれて抵抗値が減少する負の特性を有した抵抗器を介して接続して前記端子箱の中に配置したことを特徴とするエレベーター用巻上機。
【請求項3】
請求項2に記載のエレベーター用巻上機において、前記端子箱は前記外部筐体と鋳造等によって一体に形成されていることを特徴とするエレベーター用巻上機。
【請求項4】
請求項3に記載のエレベーター用巻上機において、前記端子箱の底部は前記外部筐体の壁部を形成していることを特徴とするエレベーター用巻上機。
【請求項5】
請求項4に記載のエレベーター用巻上機において、前記端子箱の底部に前記温度が上昇するにつれて抵抗値が減少する負の特性を有した抵抗器が取り付けられていることを特徴とするエレベーター用巻上機。
【請求項6】
請求項2に記載のエレベーター用巻上機において、前記温度が上昇するにつれて抵抗値が減少する負の特性を有した抵抗器がNTC型のサーミスタであることを特徴とするエレベーター用巻上機。
【請求項7】
一端が昇降路に固定されたメインロープが通過するプーリを備え前記昇降路に沿って昇降する乗りかごと、他端が昇降路に固定されたメインロープが通過するプーリを備え前記昇降路に沿って昇降する釣り合い錘と、前記釣合い錘と前記乗りかごの間で前記メインロープが巻き掛けられたシーブと、前記シーブを回転駆動する回転軸を有し外部筐体に内蔵された電動機と、前記シーブとは反対側で前記回転軸と共に回転するブレーキディスクと、前記ブレーキディスクに制動力を与える可動鉄心と、直流電源から直流電流が流れ込む電磁コイル及び前記電磁コイルが巻装された固定鉄心よりなる前記可動鉄心を駆動する電磁石とを備えた巻上機とよりなる建築物に既設のエレベーターにおいて、
前記電磁コイルと前記直流電源を繋ぐ導線の一部を回路的に切断し、その切断部に温度が上昇するにつれて抵抗値が減少する負の特性を有した抵抗器を設けて前記電磁コイルと前記直流電源を繋ぐ導線を回路的に再接続することを特徴とするエレベーター用巻上機の制動機構の補修方法。
【請求項8】
一端が昇降路に固定されたメインロープが通過するプーリを備え前記昇降路に沿って昇降する乗りかごと、他端が昇降路に固定されたメインロープが通過するプーリを備え前記昇降路に沿って昇降する釣り合い錘と、前記釣合い錘と前記乗りかごの間で前記メインロープが巻き掛けられたシーブと、前記シーブを回転駆動する回転軸を有し外部筐体に内蔵された電動機と、前記シーブとは反対側で前記回転軸と共に回転するブレーキディスクと、前記ブレーキディスクに制動力を与える可動鉄心と、直流電源から直流電流が流れ込む電磁コイル及び前記電磁コイルが巻装された固定鉄心よりなる前記可動鉄心を駆動する電磁石と、前記外部筐体に設けられ前記電磁コイルからの導線と前記直流電源からの導線を引き込み接続した端子箱とを備えた巻上機とよりなる建築物に既設のエレベーターにおいて、
前記端子箱にある前記電磁コイルと前記直流電源を繋ぐ導線の一部を回路的に切断し、その切断部に温度が上昇するにつれて抵抗値が減少する負の特性を有した抵抗器を設けて前記電磁コイルと前記直流電源を繋ぐ導線を回路的に再接続して前記抵抗器を前記端子箱の底部に固定することを特徴とするエレベーター用巻上機の制動機構の補修方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−250811(P2012−250811A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124734(P2011−124734)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】