説明

エンジンの制御装置及び制御方法

【課題】 可変容量型ターボ過給式エンジンであって、可動部のスティックを防止するために可動ベーンの強制開閉駆動を実行するものにおいて、実際のエンジン運転状況に即した適切な強制駆動制御を実行できるようにする。
【解決手段】 可変容量機構の可動部付近に堆積したと推定される煤の量と、そこから焼落したと推定される煤の量とを、エンジン運転状態を表すパラメータ(エンジン回転速度等)の値に応じて予め決定し、メモリに記憶させる。そして実際のパラメータの値を検出し、その検出値に対応する推定堆積量Saと推定焼落量Sbとをメモリから決定する。これら推定堆積量と推定焼落量との差を求めることにより煤の推定残存量Knを決定し、この推定残存量Knに応じた時間だけ可動ベーンを強制的に開閉駆動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンジンの制御装置及び制御方法に係り、特に、可変容量型ターボチャージャを搭載したエンジンにおいて可変容量機構の可動部のスティック(固着)を防止するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、可変容量機構を有する可変容量型ターボチャージャを搭載したエンジンが知られている。可変容量機構は可動ベーンを含み、この可動ベーンを開閉することにより排気タービン内の流路の有効面積が増減される。可動ベーンは、排気ガスの流量が多量となる高回転高負荷領域では流路の有効面積が大きくなるよう開き側に制御され、これによりエンジンの過度の背圧上昇が抑制される。また、可動ベーンは、排気ガスの流量が少量である低回転低負荷領域では流路の有効面積が小さくなるよう閉じ側に制御され、これにより低回転低負荷領域でも十分な過給圧が得られるようになる。
【0003】
一方、エンジンの長期使用に際し、煤等が可変容量機構の可動部付近に堆積し、可動部がスティックして動かなくなる場合がある。このため、可動ベーンを所定のタイミングで強制的に開閉駆動し、煤等の堆積及び可動部のスティックを未然に防止することが知られている。特許文献1には、アイドルのような車両の走行に直接的に影響を与えないような運転領域において可動ベーンを強制的に開閉駆動することが開示されている。なお特許文献2には可変容量機構の異常を判定する方法が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2000−265846号公報
【特許文献2】特開平11−62604号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の如き煤等の堆積は、エンジンが低速低負荷で運転されているときに起こりやすい。車両用エンジンの場合だと、主に市街地等で低速走行を続ける車両に起こりやすく、渋滞、アイドリング駐車、暖機運転等、可動ベーンの開度が小開度に維持されるようなケースで起こりやすい。
【0006】
ところで、特許文献1のものでは、強制駆動される前の可動ベーンの使用頻度に着目しており、可動ベーンの使用頻度の低い領域に煤が溜まることを前提にして強制駆動制御がなされている。即ち、通常のエンジン運転時に可動ベーンが開き側にて頻繁に使用された場合、閉じ側に煤が堆積すると仮定し、可動ベーンが閉じ側のみで強制的に開閉駆動される。逆に、可動ベーンが閉じ側にて頻繁に使用された場合、開き側に煤が堆積すると仮定し、可動ベーンが開き側のみで強制的に開閉駆動される。このように強制駆動時の可動ベーンの開閉ストロークが中立〜全開又は全閉〜中立の範囲に設定される(特許文献1の図7の実施例参照)。
【0007】
しかし、そもそも可動ベーンが開き側にて頻繁に使用されるときとは、エンジンが主に高回転高負荷領域で運転されるときである。このときは高温且つ高流量の排気ガスが可変容量機構の可動部付近に供給されるので、煤は堆積しないか、又は堆積した煤は焼落すると考えられる。特許文献1のものでは、このような焼落は考慮されておらず、焼落と無関係に制御がなされてしまい、過剰な制御となるおそれがある。高速運転を多用する車両に対しても、その後アイドルになれば無駄に強制駆動が働いてしまう。
【0008】
また、特許文献1のものでは、可動ベーンの開閉ストロークを中立〜全開と全閉〜中立とから一方を選択できるのみであり、開閉駆動の回数を強制駆動前の運転状態に応じて変えることはできない。従って、多種多様な使われ方をする多くの車両に対して同一の強制駆動制御の設定を行おうとした場合、最も煤が溜まりやすい低速運転を多用する車両に開閉駆動回数を合わせざるを得ず、高速運転を多用する車両に対しては過剰な回数の開閉駆動が行われてしまう欠点がある。
【0009】
そこで、本発明は、前述の如き煤の堆積と焼落という事実に新たに着目して創案されたものであり、その目的は、実際のエンジン運転状況に即した適切な可動ベーンの強制駆動制御を実行することができるエンジンの制御装置及び制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様によれば、可動ベーンを含む可変容量機構を有するターボチャージャを備えたエンジンの制御装置において、エンジン運転状態を表すパラメータの値に応じて予め定められ、前記可変容量機構の可動部付近に堆積したと推定される煤の量を記憶する第1の記憶手段と、前記パラメータの値に応じて予め定められ、前記可動部付近から焼落したと推定される煤の量を記憶する第2の記憶手段と、実際の前記パラメータの値を検出する検出手段と、前記検出されたパラメータの値に対応する煤の推定堆積量と推定焼落量とを前記第1の記憶手段と前記第2の記憶手段とから決定する第1の決定手段と、前記決定された推定堆積量と推定焼落量との差を求めることにより煤の推定残存量を決定する第2の決定手段と、前記決定された推定残存量に応じて前記可動ベーンを強制的に開閉駆動する駆動手段とを備えたことを特徴とするエンジンの制御装置が提供される。
【0011】
好ましくは、前記パラメータが、エンジン回転速度、エンジン負荷、及びエンジン温度のうちの少なくとも一つからなる。
【0012】
前記パラメータがエンジン回転速度からなる場合、好ましくは、前記推定堆積量は前記エンジン回転速度が高いほど小さな値であり、前記推定焼落量は前記エンジン回転速度が高いほど大きな値である。
【0013】
前記パラメータがエンジン負荷からなる場合、好ましくは、前記推定堆積量は前記エンジン負荷が高いほど小さな値であり、前記推定焼落量は前記エンジン負荷が高いほど大きな値である。
【0014】
前記パラメータがエンジン温度からなる場合、好ましくは、前記推定堆積量は前記エンジン温度が高いほど小さな値であり、前記推定焼落量は前記エンジン温度が高いほど大きな値である。
【0015】
好ましくは、前記推定残存量を所定のしきい値と比較する比較手段がさらに備えられ、前記推定残存量が前記しきい値を上回ったとき、前記駆動手段が前記推定残存量に応じた時間だけ前記可動ベーンを強制駆動する。
【0016】
好ましくは、前記駆動手段が、前記可動ベーンを開方向と閉方向とに少なくとも1回ずつ作動させるパターンを1回の駆動として前記可動ベーンの強制駆動を実行する。
【0017】
好ましくは、前記推定堆積量と前記推定焼落量と前記推定残存量とが前記強制駆動の回数の単位を有する。
【0018】
好ましくは、前記駆動手段が、前記可動ベーンの目標開度を決定する第3の決定手段を備え、この決定された目標開度は、時間軸に対する矩形波になまし処理を行った後の波形に沿った値である。
【0019】
好ましくは、前記駆動手段が、エンジン運転状態がアイドル領域にあるときに強制駆動を実行する。
【0020】
本発明の第2の態様によれば、可動ベーンを含む可変容量機構を有するターボチャージャを備えたエンジンの制御方法において、エンジン運転状態を表すパラメータの値に応じて、前記可変容量機構の可動部付近に堆積したと推定される煤の量を予め定めるステップと、前記パラメータの値に応じて、前記可動部付近から焼落したと推定される煤の量を予め定めるステップと、これら煤の推定堆積量と推定焼落量とをそれぞれ前記パラメータの値に関連づけて記憶手段に記憶させるステップとを備えることを特徴とするエンジンの制御方法が提供される。
【0021】
好ましくは、実際の前記パラメータの値を検出するステップと、前記検出されたパラメータの値に対応する煤の推定堆積量と推定焼落量とを前記記憶手段から決定するステップと、前記決定された推定堆積量と推定焼落量とに基づいて煤の推定残存量を決定するステップと、前記決定された推定残存量に応じた時間だけ前記可動ベーンを強制的に開閉駆動するステップとがさらに備えられる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、実際のエンジン運転状況に即した適切な可動ベーンの強制駆動制御を実行することができるという優れた効果が発揮される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の好適実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0024】
図1に本実施形態に係るエンジンの制御装置を示す。本実施形態においてエンジン1は可変容量型ターボチャージャ2を備えた車両用ディーゼルエンジンであって、電子制御ユニット(以下ECUという)3により制御される。またエンジン1は多気筒エンジンであり(1気筒のみ図示)、コモンレール式燃料噴射装置4を備えている。
【0025】
エンジン1は複数のシリンダ5を備え、各シリンダ5内にはそれぞれピストン6が配置される。各ピストン6はコンロッド7を介してクランクシャフトに連結される。クランクシャフトにはシグナルロータ9が取り付けられ、シグナルロータ9の外周面には等位相間隔で突起10が設けられる。この突起10に対向してクランク角センサ11が固設され、クランク角センサ11は突起10の通過毎にパルス信号をECU3に出力する。ECU3はこのパルス信号に基づいてクランクシャフトの位相即ちクランク角θcrを検知すると共に、エンジン回転速度NEを演算する。
【0026】
ピストン6の頂部には凹状のピストン燃焼室12が区画形成される。このピストン燃焼室12と、ピストン6の頂面と、シリンダ5と、シリンダヘッド13とにより、当該気筒の燃焼室14が区画形成される。燃焼室14には吸気通路15および排気通路16が開口され、これら吸気通路15および排気通路16は吸気弁17および排気弁18によりそれぞれ開閉される。
【0027】
コモンレール式燃料噴射装置4は、燃料タンク19から燃料を吸入して高圧状態で吐出する高圧サプライポンプ20と、高圧サプライポンプ20からの燃料吐出量を制御すべく高圧サプライポンプ20への燃料吸入量を制御するための調量弁21と、高圧サプライポンプ20から吐出された燃料を高圧状態で貯留するコモンレール22と、シリンダヘッド13に取り付けられコモンレール22から燃料が常時供給されるインジェクタ23とを備える。高圧サプライポンプ20はエンジン1により駆動される。
【0028】
インジェクタ23には電磁アクチュエータ24が設けられ、この電磁アクチュエータ24がECU3によりON/OFFされることでインジェクタ23の燃料噴射/停止が制御される。インジェクタ23の下端に設けられた複数の噴孔が燃焼室14内のシリンダ軸心付近に配置され、燃料噴射時には各噴孔からピストン燃焼室12内に放射状に燃料が噴射される。
【0029】
コモンレール22に設けられたコモンレール圧センサ25の出力信号がECU3に送られ、コモンレール内の燃料圧力即ちコモンレール圧が検知される。また、調量弁21の開度がECU3により制御され、これにより高圧サプライポンプ20からコモンレール22への燃料供給量が制御され、コモンレール圧が制御される。ECU3は、現在のエンジン運転状態に応じた目標コモンレール圧を算出し、コモンレール圧センサ25によって検出された実際のコモンレール圧が目標コモンレール圧に近づくよう調量弁21の開度を制御する。これによりコモンレール圧のフィードバック制御が実行される。
【0030】
ターボチャージャ2は、排気通路16に設けられた排気タービン26と、吸気通路15に設けられたコンプレッサ27と、これら排気タービン26とコンプレッサ27とを連結するタービンシャフト28とを有し、排気タービン26に供給された排気ガスで排気タービン26を駆動し、これによってコンプレッサ27を駆動し、コンプレッサ27により吸気圧力をエンジン運転状態に適した過給圧に高めるようになっている。
【0031】
排気通路16には排気タービン26をバイパスするバイパス通路29が設けられ、バイパス通路29にはウェイストゲートバルブ30が設けられる。ウェイストゲートバルブ30は過給圧が所定値を越えた場合に開弁され、排気タービン26の過回転を防止する。ウェイストゲートバルブ30にはアクチュエータ31が連結され、アクチュエータ31がECU3に制御されることによりウェイストゲートバルブ30の開閉が制御される。
【0032】
ターボチャージャ2の排気タービン26には、その容量或いは流路の有効面積を可変にするための可変容量機構32が設けられる。図2にも示されるように、可変容量機構32は、複数の可動ベーン33と、これら可動ベーン33を同時に開閉すべく可動ベーン33に接続される開閉機構34と、開閉機構34に開閉駆動力を与えるべく開閉機構34に接続されるアクチュエータ35とを含む。
【0033】
本実施形態において、可動ベーン33は、排気タービン26のタービンホイール36の直前上流側に位置され、タービンホイール36に与える排気ガスの出口であるノズル37を区画する。そしてそのベーン角度の変更によりノズル37の向きと大きさ(面積)とが変更される。ECU3は、通常、エンジン運転状態に応じた可動ベーンの目標開度を決定し、この目標開度の値に応じてアクチュエータ35を制御し、実際の可動ベーンの開度を目標開度に一致させるように制御を行う。エンジン運転状態が低回転低負荷のときには、ノズル面積が小さくなるよう可動ベーン33が閉じ側に制御され、逆に、エンジン運転状態が高回転高負荷のときには、ノズル面積が大きくなるよう可動ベーン33が開き側に制御される。
【0034】
ECU3には、アクセルペダル38の踏み込み量即ちアクセル開度θthを検知するためのアクセル開度センサ39が接続される。ECU3は、アクセル開度θthに基づいて現在のエンジン負荷を決定する。ECU3には、エンジン温度としてのエンジン水温Twを検出するための水温センサ50と、制御装置全体への通電/非通電を切り替えるためのキースイッチ51とが接続される。
【0035】
ECU3は、エンジン運転状態に基づいて燃料の噴射量と噴射時期とを制御する。即ち、ECU3は、主に、エンジン回転速度NEとアクセル開度θthとから燃料の目標噴射量Qtarと目標噴射時期Ttarとを演算決定し、これら目標噴射量Qtarと目標噴射時期Ttarとに実際の噴射量と噴射時期とが一致するよう、インジェクタ23の電磁アクチュエータ24をON/OFF制御する。
【0036】
図2に示すように、可変容量機構32の開閉機構34は、タービンハウジングに固定されて排気ガスの流路の一部をなす環状プレート40と、流路外に位置され環状プレート40より大径の環状に形成される駆動リング41と、駆動リング41に係合されて駆動リング41を矢示の如く回転方向に駆動する駆動アーム42とを備える。環状プレート40には複数のベーン駆動軸43が回転可能に挿通支持され、ベーン駆動軸43の先端に可動ベーン33が固定して取り付けられる。これによりベーン駆動軸43が回転されるとこれに伴って可動ベーン33が回転し、開閉するようになる。このとき可動ベーン33は紙面厚さ方向手前側と奥側とで流路内壁上を摺動するか、又は流路内壁との間に小隙間を形成する。
【0037】
ベーン駆動軸43と駆動リング41とはY字状の複数のアーム部材44で連結される。アーム部材44の基端部44aはそれぞれベーン駆動軸43に固定される。一方、駆動リング41には複数のピン45が固設されており、アーム部材44の二股部44bがピン45を挟むことでピン45と係合する。駆動リング41が矢示の如くタービン中心周りに回転されると、全てのピン45が同時に回転し、全てのアーム部材44をベーン駆動軸43の中心周りに回転駆動する。これにより、全てのベーン駆動軸43と可動ベーン33とが、ベーン駆動軸43の中心周りに回転駆動され、可動ベーン33の開度ないし角度が一斉に変更される。
【0038】
駆動リング41の回転は、アクチュエータ35により駆動アーム42を駆動することで行われる。駆動アーム42の先端がY字状に形成され、駆動リング41に固設されたピン46にこれを挟んで係合する。駆動アーム42の基端はアクチュエータ35に連結される。駆動リング41の回転角即ち可動ベーン33の開度を所定範囲に制限するため、駆動リング41の複数の切り欠き47の内側に、タービンハウジング等の固定側に固定された複数のストッパピン48がそれぞれ配置される。
【0039】
ところで、車両が市街地等で低速走行を続ける場合等、可動ベーン33が比較的小さな開度に維持されるような場合、排気ガス中の煤等が可変容量機構32の可動部付近に堆積し、可動ベーン33がスティックする異常が発生する場合がある。このようなスティックを生じさせるような煤の堆積箇所としては、可動ベーン33と排気ガス流路内壁との間の摺動部又は小隙間、及びベーン駆動軸43とこれが挿通支持される環状プレート40の挿通穴との間が代表的である。このようなスティック異常が発生すると、可動ベーン33を所望の開度に制御することができなくなるおそれがある。
【0040】
そこで、これを予め防止するため、適当なタイミングで可動ベーン33を、通常の制御から外れて、強制的に開閉することが望ましい。こうすれば可動部付近への煤の堆積自体を未然に防止することができ、また、煤が堆積した場合でも固着に至る前に煤を振り払って除去することが可能となる。
【0041】
以下、本実施形態に係る可動ベーンの強制開閉駆動の制御について説明する。
【0042】
まず、図3により可動ベーン33の開閉駆動の概略を説明する。図中、横軸は時間、縦軸は可動ベーン33の開度である。図から理解されるように、可動ベーンが開方向、閉方向、開方向・・・という具合に動作される。可動ベーンは、Xで示される矩形波のように瞬時的に全開、全閉とされてもよいが、これだとエンジン運転状態が急激に変化し好ましくないので、本実施形態ではY[n」で示されるなまされた矩形波の如く緩やかに開方向、閉方向に動作される。この点については後に詳しく説明する。開閉駆動は全閉付近の開度と全開付近の開度との間で行われるが、開度範囲の設定は必要に応じて任意に行うことができる。
【0043】
別の観点から言えば、図3はECU3が決定する可動ベーン33の目標開度の変化を示したものである。この目標開度に実際の開度が一致するよう可動ベーンが制御される。横軸は時間、縦軸はECU3から出力される目標開度信号の値Y[n]で、つまり本実施形態の制御では、所定の値を持つ目標開度信号が一定の時間周期でECU3からアクチュエータ35に出力される。目標開度の0〜100の値に対応して可動ベーンが全閉〜全開になる。そして目標開度の値に対応した大きさの電圧又は電流がECU3からアクチュエータ35に出力され、アクチュエータ35ひいては可動ベーン33の位置が制御される。
【0044】
横軸のY[1],Y[2]・・・は、各制御回n=1,2・・・において目標開度Y[1],Y[2]・・・が出力されるタイミングを示し、その目標開度の値はY[1]=30,Y[2]=51・・・である。Y[1]〜Y[22]の出力により1回の強制駆動が終了し、この1回の強制駆動の間に可動ベーンは1回ずつ開方向及び閉方向に動作される。図は約2回程度の強制駆動を行う例を示し、Y[1]〜Y[22]の出力が約2回程度繰り返されている。
【0045】
次に、可変容量機構の可動部付近における煤の推定残存量の算出方法を説明する。この算出は図4に示される推定残存量算出ルーチンをECU3が所定のサンプル時間(例えば1分)毎に実行することによりなされる。
【0046】
本ルーチンはエンジンのキースイッチ51がドライバによりONされたのと同時に開始する。ECU3は、最初のステップ101で、前回の推定残存量Kn-1をロードする。後に明らかとなるが、前回の推定残存量Kn-1とは、ECU3内の書き込み可能なメモリ(EEPROM等)に記憶された値で、イグニッションキーONの後の最初の実行時は以前キースイッチOFFのときに記憶された値となる。エンジンが通常に運転されている最中は1回前(つまり1分前)の制御時に記憶された値となる。
【0047】
次にECU3は、ステップ102において、煤の推定堆積量Saを図7及び図9に示す推定堆積量算出用マップM1により決定する。このマップM1はECU3内の書き込み不可能なメモリ(ROM等)に記憶される。図7に示されるように、マップM1には、エンジン運転状態を表すパラメータの値に応じて予め定められた煤の推定堆積量Saが記憶されている。このパラメータは、本実施形態の場合、エンジン回転速度NE、エンジン負荷L及びエンジン水温Twであり、これら3者の値に対応した1つの推定堆積量Saが決定される。推定堆積量Saは、あるエンジン運転状態において前記サンプル時間(1分)の間に通常可動部付近に堆積されると推定される煤の量であり、その値は実機試験等に基づいて決定される。
【0048】
図9は当該マップM1をより具体的に示す。これから理解されるように、推定堆積量Saの値は、エンジン回転速度NEが高いほど小さな値であり、エンジン負荷Lが高いほど小さな値である。また本実施形態では推定堆積量Saの値が強制駆動の回数を単位として設定される(即ち、cc等の一般的な量の単位ではない)。例えば図示されるような推定堆積量Sa=20とは、強制駆動を20回実行すると可動部付近から払い落とされるような煤の量を意味する。
【0049】
本実施形態においてマップM1は所定の水温範囲毎に複数設けられる。本実施形態では、水温Twが第1しきい値Tw1以下の場合(Tw≦Tw1)と、水温Twが第1しきい値Tw1より大きく第2しきい値Tw2以下の場合(Tw1<Tw≦Tw2)と、水温Twが第2しきい値Tw2より大きく第3しきい値Tw3以下の場合(Tw2<Tw≦Tw3)とで、3つのマップM1が予め作成されECUに記憶される。本実施形態ではTw1=0℃、Tw2=50℃、Tw3=100℃である。図から理解されるように、推定堆積量Saの値はエンジン水温Twが高いほど小さな値である。
【0050】
図4に戻って、ECU3は、次のステップ103において、煤の推定焼落量Sbを図8及び図10に示す推定焼落量算出用マップM2により決定する。このマップM2も前述のマップM1と同様に、ECU3内の書き込み不可能なメモリ(ROM等)に記憶され、パラメータ(エンジン回転速度NE、エンジン負荷L及びエンジン水温Tw)の値に応じて予め定められた煤の推定焼落量Sbが記憶されている。推定焼落量Sbは、あるエンジン運転状態において前記サンプル時間(1分)の間に通常可動部付近から焼落されると推定される煤の量であり、その値は実機試験等に基づいて決定される。また推定焼落量Sbの値が強制駆動の回数を単位として設定され、マップM2は前記同様の水温範囲毎に3つ設けられる。
【0051】
図8及び図10に示すように、マップM2は、その入力値がマップM1と異なり、マップM1とは逆の関係となっている。図から理解されるように、マップM2には0又は負の値が入力されている。これは、後に理解されるが、推定堆積量Saからの減算を行うためであり、実質的にはマップM2の入力値の絶対値に意味がある。このマップM2の入力値の絶対値は、エンジン回転速度NEが高いほど大きな値であり、エンジン負荷Lが高いほど大きな値であり、エンジン水温Twが高いほど大きな値である。
【0052】
このように本発明は、エンジン回転速度が高い程、またエンジン負荷が高い程、またエンジン水温が高い程、煤の堆積量は少なく、煤の焼落量は多いという考え方に基づく。エンジン回転速度及びエンジン負荷が高い程、高温高流量の排気ガスが可変容量機構の可動部に吹き付けられるので煤の堆積は少なく、煤はより多く焼落すると考えられ、また、そのようなエンジン運転状態のときには低回転低負荷側のときよりも可動ベーンが頻繁に動作されていると考えられるので、煤は堆積せず、また堆積した煤も振り落とされると考えられる。さらに、エンジン水温が高い程、排気ガスが高温になるので、煤が可動部付近に付着しづらく、堆積は少ないと考えられる。
【0053】
逆に、エンジン回転速度が低い程、またエンジン負荷が低い程、またエンジン水温が低い程、煤の堆積量は多く、煤の焼落量は少ないと考えられる。そこでこれら堆積量と焼落量との差を求めて残存量を決定し、この残存量に対応した時間即ち回数だけ強制駆動を実行すれば、適度で且つ必要十分の強制駆動を達成することができる。
【0054】
図4に戻って、ECU3は、ステップ104において、演算式
Kn=Kn-1+Sa+Sb
から今回の煤の推定残存量Knを決定する。マップM2から求められた推定焼落量Sbが負の符号をもつので推定焼落量Sbは推定堆積量Saに加算されるが、実質的には推定堆積量Saから推定焼落量Sbが減算されているに等しい。この差に前回の煤の推定残存量Kn-1が加算され、合計の推定残存量Knが累積的に計算される。このように決定された今回の推定残存量Knは、ECU3内の書き込み可能なメモリに更新保存される。
【0055】
この後、ECU3は、ステップ105において、前回の推定残存量Kn-1を今回の推定残存量Knに等しいとしてECU3内の書き込み可能なメモリに更新保存する。そして次にステップ106において、キースイッチ51がドライバによりOFFされたか否かを判断する。通常の運転が継続されているときはOFFされないので、このときはステップ101に戻って、前記サンプル時間経過後、ステップ101〜104を再度実行する。このようなステップ101〜104を繰り返すループが前記サンプル時間毎に実行され、推定残存量Knがサンプル時間毎に更新される。
【0056】
一方、ステップ106において、エンジン停止に伴いキースイッチ51がOFFされている場合、本ルーチンを終了する。
【0057】
次に、強制駆動実行の判定方法を説明する。この判定は、強制駆動を行うべきタイミングであるかどうかを判断するためのもので、図5に示される強制駆動実行判定ルーチンをECU3が所定のサンプル時間(例えば1分)毎に実行することによりなされる。
【0058】
本ルーチンも前記同様、エンジンのキースイッチ51がドライバによりONされたのと同時に開始する。ECU3は、最初のステップ201で、現在のエンジン制御モードがアイドルモードであるか否かを判断する。エンジン制御モードがアイドルモードであるときとは、エンジン運転状態がアイドル領域にあるときであり、具体的には、(1)検出された実際のエンジン回転速度NEが所定のアイドル回転速度(例えば500rpm)に近い値で、且つ(2)検出されたアクセル開度θthがゼロ(即ち、アクセルペダル38の踏込み量がゼロ)のときである。
【0059】
エンジン制御モードがアイドルモードであるとき、制御ルーチンはステップ202に進み、図4のステップ104で決定された推定残存量Knが所定のしきい値(強制駆動実行判定しきい値)Ksと比較される。本実施形態ではKs=3である。推定残存量Knがしきい値Ksより大きい場合、制御ルーチンはステップ203に進み、ここで可動ベーンの強制駆動が実行される。この実行は、図6に示される強制駆動実行ルーチンが実行されることにより行われる。
【0060】
次に制御ルーチンはステップ204に進み、ここで前回の推定残存量Kn-1が0とされてECU3内のメモリに保存される。これは、強制駆動実行により煤は除去されたと考えられ、図4のステップ104で実行される計算で前回の推定残存量Kn-1を0とする必要があるからである。
【0061】
この後制御ルーチンはステップ205に進み、キースイッチ51がOFFされたか否かが判断される。通常の運転が継続されているときはOFFされないので、ステップ201に戻る。そしてサンプル時間経過後の次回の制御はステップ201から開始する。一方、今回の制御において、エンジン制御モードがアイドルモードでないとき(ステップ201でNo)、又は推定残存量Knがしきい値Ks以下のとき(ステップ202でNo)も、ステップ201に戻り、次回の制御がステップ201から開始する。このように、強制駆動実行判定がサンプル時間毎に繰り返し行われ、その中から必要に応じて可動ベーンの強制駆動が実行される。
【0062】
ステップ204において、キースイッチ51がOFFの場合、強制駆動実行判定ルーチンを終了する。
【0063】
次に、可動ベーンの強制駆動の実行方法を説明する。この実行は、図6に示される強制駆動実行ルーチンをECU3が所定の時間周期で実行することによりなされる。
【0064】
本ルーチンは、ステップ301〜310から構成され、変数を初期化するステップ(ステップ301,302)と、可動ベーンを開方向に動作させるステップ(ステップ303〜305)と、可動ベーンを閉方向に動作させるステップ(ステップ303、304、306〜308)と、強制駆動回数をカウントするステップ(ステップ309、310)とに大別される。
【0065】
まず、ステップ301では、駆動回数カウンタNがN=0に初期化される。次いで、ステップ302では、制御回nと、開作動カウンタTopと、閉作動カウンタTclとがそれぞれ0に初期化され、可動ベーンの基本目標開度Xの初期値が100に設定され、可動ベーンのなまし後目標開度Y[n]の初期値Y[0]が0に設定される。
【0066】
開作動カウンタTopとは、各制御回において可動ベーンが開方向に作動されている間に1ずつ増加されるカウンタである(ステップ305参照)。また閉作動カウンタTclとは、各制御回において可動ベーンが閉方向に作動されている間に1ずつ増加されるカウンタである(ステップ308参照)。可動ベーンの基本目標開度Xは、図3に示されるように矩形波に沿った値であり、可動ベーンが開方向に作動されるときは全開相当の100の値をとるが、可動ベーンが閉方向に作動されるときは全閉相当の0の値をとる(ステップ306参照)。可動ベーンのなまし後目標開度Y[n]は、図3に示されるように、基本目標開度Xの矩形波になまし処理を行って得られる波形に沿った値であり、可動ベーンを駆動するアクチュエータ35への出力信号の値である。
【0067】
次に、ステップ303では、制御回nの値を1だけ増加し(n=0+1=1)、次式により可動ベーンのなまし後目標開度Y[n]を決定する。
【0068】
Y[n]=Ka*Y[n−1]+(1−Ka)*X
そして決定されたなまし後目標開度Y[n]に応じた駆動信号をアクチュエータ35に出力する。なお、この式はデジタルローパスフィルターの式である。
【0069】
Kaは所定のなまし係数で、0〜1の値をとることができる。Ka=0のときY[n]はXに一致される。Kaが1に近づく程なまし度合いが大きくなり、つまり、Xを入力とした場合、Kaが1に近づく程出力が遅れて出てくるようになる。本実施形態ではKa=0.7とされる。
【0070】
次に、ステップ304では、開作動カウンタTopの値が所定のしきい値(開作動しきい値)Ktopと比較される。この開作動しきい値Ktopは、可動ベーンを開方向に作動させ続ける時間ないし回数を規定するための値で、本実施形態ではKtop=10(回)とされる。本ステップで開作動カウンタTopがしきい値Ktop以下の場合はステップ305に進み、開作動カウンタTopがしきい値Ktopより大きい場合はステップ306に進む。
【0071】
ステップ305では、開作動カウンタTopの値が1だけ増加される。そして制御ルーチンはステップ303に戻る。
【0072】
ステップ306では、基本目標開度Xの値が0に変更される。そして次のステップ307で、閉作動カウンタTclの値が所定のしきい値(閉作動しきい値)Ktclと比較される。この閉作動しきい値Ktclも開作動しきい値Ktopと同様、可動ベーンを閉方向に作動させ続ける時間を規定するための値で、本実施形態ではKtcl=10(回)とされる。本ステップで閉作動カウンタTclがしきい値Ktcl以下の場合はステップ308に進み、閉作動カウンタTclがしきい値Ktclより大きい場合はステップ309に進む。
【0073】
ステップ308では、閉作動カウンタTclの値が1だけ増加される。そして制御ルーチンはステップ303に戻る。
【0074】
ステップ309では、駆動回数カウンタNの値が、図4に示されるステップ104で決定保存された推定残存量Knと比較される。そして駆動回数カウンタNの値が推定残存量Kn以下の場合はステップ310に進み、駆動回数カウンタNの値が推定残存量Knより大きい場合は本ルーチンを終了する。
【0075】
ステップ310では、駆動回数カウンタNの値が1だけ増加される。そして制御ルーチンはステップ302に戻る。
【0076】
以下、図4〜図6に示された各制御ルーチンに基づく可動ベーンの強制開閉駆動制御について説明する。
【0077】
エンジン運転中、図4に示される推定残存量算出ルーチンにより、所定のサンプル時間(本実施形態では1分)毎に、推定残存量Knが算出される(ステップ104)。そしてこの推定残存量Knが、図5に示される強制駆動実行判定ルーチンにより、所定のサンプル時間(本実施形態では1分)毎に、所定のしきい値Ksと比較され(ステップ202)、推定残存量Knがしきい値Ksを上回ったとき強制駆動が実行され(ステップ203)、図6に示される強制駆動実行ルーチンが実行される。本実施形態ではKs=3であり、よって推定残存量Knが4以上に達したとき強制駆動が実行される。以下においてKn=4の場合を説明する。
【0078】
図5のステップ201に関連して説明されたように、強制駆動はエンジン運転状態がアイドル領域にあるときのみ実行される。これは、車両が運転走行されるような状況下でエンジン運転状態がアイドル領域外にあるときに強制駆動が実行されると、過給圧をエンジン運転状態に適した所望の圧力に制御するのが困難となり、車両の運転に支障をきたす可能性があるからである。アイドル領域では、通常車両が積極的に運転されていないか又は停止していると考えられ、よってこの場合に強制駆動が実行されても何等不都合はないと考えられる。
【0079】
また、エンジン運転状態がアイドル領域にあるときに、可動ベーンが図3のXで示される如く急激に大きく強制駆動されると、排気ガスに悪影響を及ぼす可能性があると共に、エンジン音質が急激に変化しドライバに違和感を与えてしまう。また回転変動による振動発生も懸念される。よって本実施形態では、図6のステップ303でなまし処理を行い、図3のY[n]で示される如く可動ベーンを比較的緩やかに強制駆動するようにしている。
【0080】
さて、図6に示されるルーチンの実行に関し、本ルーチンの実行開始直後の最初の制御回では、ステップ303においてn=0+1=1(回目)であり、Y[1]=0.7*0+(1−0.7)*100=30である(図3参照)。そしてこのY[1]=30が可動ベーン駆動用アクチュエータ35に出力され、この値に応じた開度に可動ベーンが制御される。
【0081】
次のステップ304において、Ktopは予め10に設定されており、Topはこの時点ではまだ初期値0であるので、判定はNoとなり、ステップ305に進んでTopの値が1だけ増加され、Top=1とされる。この後、所定のクランク角周期を経て次の制御タイミングが到来したら、再度ステップ303が実行され、n=2、Y[2]=0.7*30+(1−0.7)*100=51となり(図3参照)、Y[2]=51が可動ベーン駆動用アクチュエータ35に出力される。次のステップ304において、この時点でTopは1であり、判定は依然Noであり、ステップ305に進んでTopの値が1だけ足されてTop=2になる。
【0082】
このように、開方向の強制駆動が1回終了する毎にTopが1だけ増加され、Topの値がKtopの値を上回るまで、つまりTop=11になるまで、開方向の強制駆動が継続される。3〜11回目の制御において、Y[3]=66、Y[4]=76、Y[5]=83、Y[6]=88、Y[7]=92、Y[8]=94、Y[9]=96、Y[10]=97、Y[11]=98であり、これら各値が各制御タイミングにおいてそれぞれ出力される(図3参照)。そして11回目の出力を終えた後にステップ304に到達すると判定はYesとなり、ステップ306つまり閉方向の制御に移行する。
【0083】
ステップ306ではXの値が0に変更される。そして次のステップ307において、Ktcl=10であり、Tclはこの時点ではまだ初期値0であるので、判定はNoとなり、ステップ308に進んでTclの値が1に変更される。この後、次の制御タイミングが到来したら、再度ステップ303が実行され、n=12、Y[12]=0.7*98+(1−0.7)*0=69となり(図3参照)、Y[12]=69が可動ベーン駆動用アクチュエータ35に出力される。次のステップ304ではTop=11が維持されているので、判定はYesであり、ステップ306に進む。
【0084】
ステップ306で再度X=0とされた後ステップ307に進む。この時点でTcl=1であり、Ktcl=10を越えないので、判定はNoとなり、ステップ308に進んでTcl=1+1=2とされる。この後、次の制御タイミングが到来したら、再度ステップ303が実行され、n=13、Y[13]=0.7*69+(1−0.7)*0=48となり(図3参照)、Y[13]=48が可動ベーン駆動用アクチュエータ35に出力される。次のステップ304では依然Top=11が維持されているので、判定はYesであり、ステップ306に進む。
【0085】
このように、閉方向の強制駆動が1回終了する毎にTclが1だけ増加され、Tclの値がKtclの値を上回るまで、つまりTcl=11になるまで、閉方向の強制駆動が継続される。14〜22回目の制御において、Y[14]=34、Y[15]=24、Y[16]=17、Y[17]=12、Y[18]=8、Y[19]=6、Y[20]=4、Y[21]=3、Y[22]=2がそれぞれ出力される(図3参照)。そして22回目の出力を終えた後にステップ307に到達すると判定はYesとなり、ステップ309に移行する。
【0086】
ステップ309では、駆動回数カウンタの値Nが推定残存量の値Kn=4と比較される。この時点では依然としてステップ301の初期値N=0が維持されているので、判定はNoであり、ステップ310に進み、駆動回数カウンタが1だけ増加されてN=1とされる。これは、Y[1]〜Y[22]を出力することからなる1回目の強制駆動が終了したことを意味する。この後制御ルーチンはステップ302に戻り、前述したようなY[1]〜Y[22]の出力が再度実行される。
【0087】
2回目の強制駆動のY[22]の出力が終了した後、ステップ309に到達した場合、N=1であるので判定はNoである。よってステップ310に進み、N=1+1=2とされ(つまり2回目の強制駆動が終了)、ステップ302に進んで3回目の強制駆動が開始される。
【0088】
このような強制駆動が計5回繰り返される。即ち、5回目の強制駆動のY[22]の出力が終了した後、ステップ309に到達すると、N=5、Kn=4であるので判定はYesとなる。これによって本ルーチンは終了し、可動ベーンの強制駆動制御が終了する。
【0089】
以上説明したように、本発明によれば、エンジン運転状態に応じた煤の堆積量と焼落量とが考慮されている。この点、煤の焼落を考慮していない特許文献1のものとは明らかに相違する。そしてこれらの値に基づいて煤の残存量がエンジン運転中に計算され、煤の残存量が一定以上になった場合だけ、可動ベーンの強制駆動が実行される。従って、無駄に強制駆動を実行することがなく、適切なタイミングで強制駆動を実行することができる。また、煤の残存量が多い程、多くの回数(即ち長時間)、強制駆動を実行することができ、煤の残存量に応じた必要十分な回数(即ち時間)の強制駆動を実行することができる。従って本発明によれば、適切で効率的な強制駆動制御が実現される。
【0090】
また、煤の推定堆積量が、比較的煤の溜まりやすいエンジン運転領域(低回転低負荷領域)にて多く設定され、逆に煤の推定焼落量が、比較的煤の溜まりにくいエンジン運転領域(高回転高負荷領域)にて多く設定されているので、実際のエンジンの運転状況に即した推定残存量が得られ、適切な強制駆動の実行に著しく寄与できる。即ち、市街地等で低速走行を続ける車両のように、エンジンが低速低負荷で運転されているケースが多い場合、比較的短時間で推定残存量Knがしきい値Ksを越えるので、比較的短い時間間隔で強制駆動を実行できる。逆に、主に高速走行を行う車両のように、エンジンが高速高負荷で運転されるケースが多い場合、推定残存量Knがしきい値Ksを越えづらくなり、比較的長い時間間隔で強制駆動を実行できる。こうしてもエンジンが高速高負荷の場合には高温高流量の排気ガスが可変容量機構の可動部付近に当たるので、煤は堆積しづらく又は焼落しやすく、強制駆動の頻度を落としても問題はない。
【0091】
特に本発明によれば、多種多様な使われ方をする多くの車両に対して個々に適切な強制駆動を実行することができる。即ち、低速低負荷運転が多用されるエンジンでは、前記サンプル時間(本実施形態では1分)の間に残存する煤の量は多くなる傾向があるが、本発明ではこのとき強制駆動の頻度(タイミング)及び回数を増加することができる。逆に、高速高負荷運転が多用されるエンジンでは、前記サンプル時間の間に残存する煤の量は少なくなる傾向があるが、本発明ではこのとき強制駆動の頻度及び回数を減少することができる。
【0092】
強制駆動は、車両の走行に影響を与えないようにアイドル領域で実行される。このときなまし処理後の波形に沿うように、比較的緩やかにベーン開度が変化される。従って、強制駆動時における排気ガスへの極力少なくすることができると共に、エンジン音質の急変を防止しドライバへの違和感を極力少なくすることができる。
【0093】
本発明の実施形態は、前記実施形態以外にも様々なものが考えられる。
【0094】
前記実施形態における各数値及び単位は例示であり、必要に応じて任意の数値及び単位を選択することができる。推定堆積量と推定焼落量とは、前記実施形態では図7〜図10に示されるマップを用いて算出されるが、計算式から算出されても良い。推定堆積量と推定焼落量と推定残存量との単位は、前記実施形態では強制駆動の回数であったが、通常の量の単位(例えばcc等)としても良い。また、回数の単位を時間の単位に変更することもでき、時間の単位をクランク角の単位に変更することもでき、逆も可能である。
【0095】
エンジン運転状態を表すパラメータは、前記実施形態ではエンジン回転速度、エンジン負荷及びエンジン温度の3つであった。しかしながら、煤の堆積と焼落とに関係しそうなあらゆる1以上のパラメータを採用することができる。例えば前記3つのパラメータのうち1つ又は2つのみを用いても良いし、吸気温度、過給圧等の他のパラメータを用いることもできる。エンジン負荷として、前記実施形態ではアクセル開度を用いたが、要求トルクや目標燃料噴射量を用いても良い。エンジン温度として油温を用いることもできる。
【0096】
前記実施形態における可動ベーン駆動用アクチュエータ35として様々なものが考えられる。例えば、エンジンによって駆動されるポンプで正若しくは負の空気圧、又は油圧を発生させ、これら空気圧又は油圧を駆動源として作動するものが考えられる。この他、電動アクチュエータも考えられ、これを用いると、ポンプを駆動できないエンジン停止中も、電動で可動ベーンを駆動することができ、エンジンの運転に影響を及ぼさないエンジン停止時にも可動ベーンの強制駆動が実行可能となる。
【0097】
前記実施形態においては、可動ベーンを開方向と閉方向とに1回ずつ作動させるパターンを1回の駆動として可動ベーンの強制駆動を実行した。しかしながら、このような強制駆動のパターンは様々なものが採用可能である。少なくは、開方向に1回のみ、或いは閉方向に1回のみの作動をもって1回の駆動としてもよい。或いは逆に、開方向及び/又は閉方向の作動回数を増やしても良い。開方向と閉方向との作動を2回以上ずつ交互に繰り返すパターンを1回の駆動としてもよい。
【0098】
前記実施形態では、1回の駆動が完全な往復パターンではない(即ち、開始時の開度(Y[1])と終了時の開度(Y[22])とが異なる)。しかしながら、完全な往復パターンとすることも可能である。例えばサイン波の如きパターンが可能である。前記実施形態ではなまされた波形(Y[n])に沿うような作動であったが、矩形波(X)に沿うような作動とすることもできる。
【0099】
また、可動ベーンの開閉ストロークの範囲も様々なものが考えられる。前記実施形態では全開付近と全閉付近との間をストロークさせたが、完全な全開と全閉との間、全閉と中間開度との間など、様々な範囲を選択することができる。
【0100】
ターボチャージャの可変容量機構も前記実施形態のもの以外にあらゆるタイプのものが適用可能である。またエンジンもディーゼルエンジンに限られず、車両用にも限られない。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明の実施形態に係るエンジンの制御装置を示すシステム図である。
【図2】可変容量機構を示す概略図である。
【図3】強制駆動制御時の可動ベーンの開度変化を示すグラフである。
【図4】強制駆動回数算出ルーチンを示すフローチャートである。
【図5】強制駆動実行判定ルーチンを示すフローチャートである。
【図6】強制駆動実行ルーチンを示すフローチャートである。
【図7】推定堆積量算出マップである。
【図8】推定焼落量算出マップである。
【図9】図7の推定堆積量算出マップをより具体的に描いた図である。
【図10】図8の推定焼落量算出マップをより具体的に描いた図である。
【符号の説明】
【0102】
1 エンジン
2 ターボチャージャ
3 電子制御ユニット(ECU)
11 クランク角センサ
32 可変容量機構
33 可動ベーン
34 開閉機構
35 アクチュエータ
39 アクセル開度センサ
50 水温センサ
Sa 推定堆積量
Sb 推定焼落量
Kn 推定残存量
Ks 強制駆動実行判定しきい値
Y[n] 可動ベーンの目標開度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動ベーンを含む可変容量機構を有するターボチャージャを備えたエンジンの制御装置において、
エンジン運転状態を表すパラメータの値に応じて予め定められ、前記可変容量機構の可動部付近に堆積したと推定される煤の量を記憶する第1の記憶手段と、
前記パラメータの値に応じて予め定められ、前記可動部付近から焼落したと推定される煤の量を記憶する第2の記憶手段と、
実際の前記パラメータの値を検出する検出手段と、
前記検出されたパラメータの値に対応する煤の推定堆積量と推定焼落量とを前記第1の記憶手段と前記第2の記憶手段とから決定する第1の決定手段と、
前記決定された推定堆積量と推定焼落量との差を求めることにより煤の推定残存量を決定する第2の決定手段と、
前記決定された推定残存量に応じて前記可動ベーンを強制的に開閉駆動する駆動手段と を備えたことを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項2】
前記パラメータが、エンジン回転速度、エンジン負荷、及びエンジン温度のうちの少なくとも一つからなる請求項1記載のエンジンの制御装置。
【請求項3】
前記パラメータがエンジン回転速度からなり、前記推定堆積量は前記エンジン回転速度が高いほど小さな値であり、前記推定焼落量は前記エンジン回転速度が高いほど大きな値である請求項1記載のエンジンの制御装置。
【請求項4】
前記パラメータがエンジン負荷からなり、前記推定堆積量は前記エンジン負荷が高いほど小さな値であり、前記推定焼落量は前記エンジン負荷が高いほど大きな値である請求項1記載のエンジンの制御装置。
【請求項5】
前記パラメータがエンジン温度からなり、前記推定堆積量は前記エンジン温度が高いほど小さな値であり、前記推定焼落量は前記エンジン温度が高いほど大きな値である請求項1記載のエンジンの制御装置。
【請求項6】
前記推定残存量を所定のしきい値と比較する比較手段をさらに備え、前記推定残存量が前記しきい値を上回ったとき、前記駆動手段が前記推定残存量に応じた時間だけ前記可動ベーンを強制駆動する請求項1乃至5いずれかに記載のエンジンの制御装置。
【請求項7】
前記駆動手段が、前記可動ベーンを開方向と閉方向とに少なくとも1回ずつ作動させるパターンを1回の駆動として前記可動ベーンの強制駆動を実行する請求項1乃至6いずれかに記載のエンジンの制御装置。
【請求項8】
前記推定堆積量と前記推定焼落量と前記推定残存量とが前記強制駆動の回数の単位を有する請求項7記載のエンジンの制御装置。
【請求項9】
前記駆動手段が、前記可動ベーンの目標開度を決定する第3の決定手段を備え、この決定された目標開度は、時間軸に対する矩形波になまし処理を行った後の波形に沿った値である請求項1乃至8いずれかに記載のエンジンの制御装置。
【請求項10】
前記駆動手段が、エンジン運転状態がアイドル領域にあるときに強制駆動を実行する請求項1乃至9いずれかに記載のエンジンの制御装置。
【請求項11】
可動ベーンを含む可変容量機構を有するターボチャージャを備えたエンジンの制御方法において、
エンジン運転状態を表すパラメータの値に応じて、前記可変容量機構の可動部付近に堆積したと推定される煤の量を予め定めるステップと、
前記パラメータの値に応じて、前記可動部付近から焼落したと推定される煤の量を予め定めるステップと、
これら煤の推定堆積量と推定焼落量とをそれぞれ前記パラメータの値に関連づけて記憶手段に記憶させるステップと
を備えることを特徴とするエンジンの制御方法。
【請求項12】
実際の前記パラメータの値を検出するステップと、
前記検出されたパラメータの値に対応する煤の推定堆積量と推定焼落量とを前記記憶手段から決定するステップと、
前記決定された推定堆積量と推定焼落量とに基づいて煤の推定残存量を決定するステップと、
前記決定された推定残存量に応じた時間だけ前記可動ベーンを強制的に開閉駆動するステップと
をさらに備えた請求項11記載のエンジンの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−105017(P2006−105017A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−292427(P2004−292427)
【出願日】平成16年10月5日(2004.10.5)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】