カーボン被覆炭化アルミニウム及びその製造方法
【課題】炭化アルミニウムの水和反応が進まないように、炭素で被覆されたカーボン被覆炭化アルミニウム、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】炭化アルミニウム微粒子が、炭素で被覆されたことを特徴とするカーボン被覆炭化アルミニウムであり、また、金属アルミニウム粉末と炭素粉末とを用いて、所定の雰囲気下で加熱処理することで、炭化アルミニウム微粒子が、炭素で被覆されたカーボン被覆炭化アルミニウムを得ることを特徴とするカーボン被覆炭化アルミニウムの製造方法である。
【解決手段】炭化アルミニウム微粒子が、炭素で被覆されたことを特徴とするカーボン被覆炭化アルミニウムであり、また、金属アルミニウム粉末と炭素粉末とを用いて、所定の雰囲気下で加熱処理することで、炭化アルミニウム微粒子が、炭素で被覆されたカーボン被覆炭化アルミニウムを得ることを特徴とするカーボン被覆炭化アルミニウムの製造方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化アルミニウム微粒子が炭素で被覆されたカーボン被覆炭化アルミニウム、及びその製造方法に関し、詳しくは、大気中で炭化アルミニウムの水和反応が進まないように、炭素で被覆されたカーボン被覆炭化アルミニウム、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄の分野における混銑車、転炉、脱ガス装置、溶鋼鍋等をはじめ、鉄鋼連続鋳造用タンディッシュの浸漬ノズルや、ロングノズル等で使用される耐火物については、近年、鋼の高機能化の要請が著しく増加していることから、更なる耐食性の向上が望まれている。現在、高耐食性の耐火物に使用されている原料には、例えば、酸化物として、シリカ、ムライト、アルミナ、マグネシア、アルミナ−マグネシア、スピネル等があり、炭化物としては、炭化ケイ素(SiC)等があり、これらの酸化物や炭化物に鱗状黒鉛等を混ぜて得た炭素含有耐火物も使用されている。なかでも、炭素含有耐火物は、炭素による耐スラグ浸潤性や耐スポーリング性を有することから、広く使用されている。
【0003】
ところが、炭素含有耐火物は、高温での耐酸化性に弱点を有する炭素を含むことから、強い酸化性雰囲気下では溶損速度が増大する問題があり、例えば特許文献1や特許文献2にあるように、通常は、Al、Si、又はこれらの合金など、高温で炭素よりも酸素親和力が大きい金属粉末が酸化防止剤として添加される。
【0004】
この炭素含有耐火物に添加されるAlやAl合金について、MgO−C質れんがの場合を例にすると、これらの金属添加物は、加熱されると、炭化アルミニウム(Al4C3)を介して、アルミナ(Al2O3)に酸化され、更には、れんがの骨材と反応してスピネル(MgAl2O4)を生成し、れんが組織を強化することが知られている(例えば非特許文献1参照)。従って、本来はAlやAl合金に替えて、直接炭化アルミニウム(Al4C3)を酸化防止剤として添加する方が効率的であると考えられるが、Al4C3は吸湿性を有することから、ハンドリング時や混練、施工、乾燥時等に吸湿して水酸化物化し、不安定にしか存在し得ないため、酸化防止剤としての機能を発揮することはできず、今まで使用されてこなかった。また、別の報告によれば、炉を休止させた際、金属添加物由来のAl4C3が水和反応を起こし、再度加熱すると、体積膨張によってれんがの崩壊をもたらすおそれも指摘されている(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭54-163,913号公報
【特許文献2】特開昭57-27,970号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】内村良治、外5名,「転炉用耐火物の進歩」,川崎製鉄技報,川崎製鉄株式会社,vol.15,No.2,1983,p.48-49
【非特許文献2】「炭素含有耐火物」,2006年3月15日,岡山セラミック技術振興財団発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記で説明したように、炭化アルミニウム(Al4C3)自体は、炭素含有耐火物において酸化防止機能を有効に発現する。一方で、このAl4C3は導電性を示すため、例えば、通電抵抗加熱用発熱体とするような、導電性セラミックスとしての用途も考えられる。しかしながら、下記反応式に示すように、Al4C3は水に合うと室温でもすぐに反応する吸湿性を有することから、そのハンドリング性が大きな問題となり、また、耐火物の崩壊等を引き起こすおそれもあることから、これまでその利用は制限されていた。
Al4C3+12H2O→4Al(OH)3+3CH4
【0008】
そこで、本発明者等は、炭化アルミニウムの有用性を活かしながら、その吸湿性を封じる手段について鋭意検討した結果、驚くべきことには、特定の条件下で、金属アルミニウム原料と炭素原料とを加熱処理することで、炭素で被覆されたカーボン被覆炭化アルミニウムを得ることができ、得られたものは大気中での水和反応が抑制されることを見出したことから、本発明を完成するに至った。
【0009】
したがって、本発明の目的は、炭化アルミニウムの水和反応が進まないように、炭素で被覆されたカーボン被覆炭化アルミニウムを提供することにある。
【0010】
また、本発明の別の目的は、上記のようなカーボン被覆炭化アルミニウムを得ることができるカーボン被覆炭化アルミニウムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、炭化アルミニウム微粒子が、炭素で被覆されたことを特徴とするカーボン被覆炭化アルミニウムである。
【0012】
また、本発明は、金属アルミニウム原料と炭素原料とを、炭素源ガス雰囲気下、1100℃以上1800℃以下で加熱処理して、炭化アルミニウム微粒子が炭素で被覆されたカーボン被覆炭化アルミニウムを得ることを特徴とするカーボン被覆炭化アルミニウムの製造方法である。
【0013】
更に、本発明は、金属アルミニウム原料と炭素原料とを、不活性ガス雰囲気下、1100℃以上1800℃以下で一次加熱し、次いで、酸素源ガス雰囲気下、500℃以上800℃以下で二次加熱して、炭化アルミニウム微粒子が炭素で被覆されたカーボン被覆炭化アルミニウムを得ることを特徴とするカーボン被覆炭化アルミニウムの製造方法である。
【0014】
本発明のカーボン被覆炭化アルミニウムを得る際に用いる金属アルミニウム原料については、金属アルミニウム(Al)の純度が95質量%以上、好ましくは98質量%以上であるのが良い。純度が95質量%未満であると、炭化アルミニウム(Al4C3)の合成が、含有される不純物によって妨げられるおそれがある。また、金属アルミニウム原料は、好適には、粉末状の金属アルミニウムを用いるのが良く、好ましくは最大粒径250μm以下、より好ましくは最大粒径200μm以下の金属アルミニウム粉末を用いるのが良い。粉末状の金属アルミニウム原料を用いることで、炭素原料との反応が進み易くなる。一方で、粒径が250μmを超える大きさのものが含まれていると、後述するように、効率的にカーボン被覆炭化アルミニウムを得る目的から、金属アルミニウム原料と炭素原料とを混合粉砕して混合粉砕原料を得る際に、アルミニウムの延性によって粒径を減少させる効果が十分に得られない可能性がある。なお、最大粒径が250μm以下の金属アルミニウム粉末とするには、例えば、目開き250μmの篩を通過した篩下を用いるようにすればよい。
【0015】
炭素原料については、鱗状黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛質のものを使用しても良く、カーボンブラック、活性炭、ピッチ、コークス等の炭素質のものを使用しても良い。この炭素原料は、粉末状のものを用いるのが良く、好ましくは最大粒径200μm以下、より好ましくは最大粒径100μm以下の炭素粉末を用いるのが良い。粒径が200μmを超える大きさのものが含まれると、金属アルミニウム粉末の場合と同様に、混合粉砕原料を得る際に、炭素のクッション性により粒径を減少させる効果が十分に得られない可能性がある。なお、最大粒径が200μm以下の炭素粉末としては、金属アルミニウム粉末の場合と同様に、例えば、目開き200μmの篩を通過した篩下を用いるようにすればよい。
【0016】
また、炭素原料としては、加熱処理中に炭素質に変わるようなフェノール樹脂やエポキシ樹脂等の樹脂を用いることもできる。これらの樹脂のなかには、常温で液状のものも含まれるが、その場合には、金属アルミニウム原料に対して均質に存在し、両者の反応が促進される。なお、炭素原料として樹脂を使用する場合には、事前に、不活性雰囲気中にて1100℃以上で焼成し、残炭率を調べておくのが望ましい。例えばフェノール樹脂の場合、残炭率はおよそ60%であり、事前に調べた残炭率に基づき、金属アルミニウム原料との反応における物質収支を計算することができる。
【0017】
反応に用いる金属アルミニウム原料と炭素原料の割合については、炭化アルミニウムにおける理論比(化学量論係数)の前後となるようにするのが良い。すなわち、これら両者の原料に含まれる炭素(C)とアルミニウム(Al)のモル比(Al/C)が4/3となるのを目安にすればよく、本発明では、炭化アルミニウムを炭素で被覆することを目的とすることから、相対的に炭素(C)が若干多くなるようにし、好ましくは、モル比(Al/C)が4/4〜4/3の範囲となるようにするのが良い。理論当量比の4/3でも良いのは、加熱中、微少量のAlがCと反応する前に蒸発して反応領域外に飛散することがあるためである。なお、このモル比の範囲以外であっても、炭素で被覆された炭化アルミニウムが得られる上では、本発明から外れるものではない。
【0018】
本発明においては、金属アルミニウム原料と炭素原料とが、ともに粉末原料である場合には、予め、金属アルミニウム粉末と炭素粉末とを混合粉砕して、混合粉砕原料にした上で、加熱処理するようにするのが良い。これらの粉末原料を混合粉砕する混合粉砕処理については特に制限されないが、例えば、ボールミル、ヘンシエルミキサー、アトライター等の公知の混錬粉砕機を用いた処理を挙げることができ、好ましくはボールミルで30分以上、さらに好ましくは1時間程度をかけて、均質化が図られた混合粉砕原料を得るようにするのが良い。混合粉砕原料を用いることで、金属アルミニウム原料と炭素原料との反応が促進され、結果として、炭素で被覆された炭化アルミニウムを効率的に得ることができる。
【0019】
そして、本発明では、上記金属アルミニウム原料と炭素原料とを用いて、所定の雰囲気下で加熱処理することで、炭化アルミニウム微粒子が炭素で被覆されたカーボン被覆炭化アルミニウムを得る。この際、加熱処理の雰囲気により、少なくとも次のような2種類の方法で、カーボン被覆炭化アルミニウムを得ることができる。以下では、その2種類の方法について説明するが、本発明のカーボン被覆炭化アルミニウムは、これら以外の製造方法で得られたものであってもよい。
【0020】
先ず、第一の方法は、金属アルミニウム原料と炭素原料とを、炭素源ガス雰囲気下、1100℃以上1800℃以下で加熱処理して、炭化アルミニウム微粒子を炭素で被覆したカーボン被覆炭化アルミニウムを得る方法である。
【0021】
この第一の方法では、加熱処理の温度が1100℃未満であると、炭化アルミニウムの生成が一部確認できるものの、無定形に変化した金属アルミニウムや炭素がそのまま検出されて、炭素で被覆された炭化アルミニウムを殆ど得ることができない。また、加熱処理の温度が1800℃を超えると、Al4C3が昇華するため歩留まりが低下してしまう。加熱処理の時間については、原料の量や加熱温度によっても異なるが、例えば1100℃で1時間程度の加熱によって、炭素で被覆された炭化アルミニウムの生成を確認することができる。そのため、加熱処理の時間は、望ましくは3時間以上であるのが良く、4時間を超えるとその効果は飽和する。
【0022】
また、第一の方法における加熱処理の雰囲気については、炭素源として機能するものであって、金属アルミニウム原料と炭素原料との加熱処理により生成した炭化アルミニウム微粒子を被覆し、炭素被覆層を形成できるようなものであれば良く、例えば、COガスやCO2ガスのほか、炭化水素ガス、水生ガス等が挙げられる。なかでも、生成した炭化アルミニウムが酸化されないようにしながら、炭素で被覆していくのが好適であると考えられることから、好ましくは非酸化雰囲気であるのが良く、より好ましくはCOガス又はCO2ガス雰囲気であるのが良い。また、このような炭素源ガス雰囲気は、効率的にカーボン被覆炭化アルミニウムを形成できるようにするために、金属アルミニウム原料と炭素原料との反応系外から供給されるようにするのが好ましい。なお、炭素原料を金属アルミニウム原料に対して相対的に過剰にしておき、加熱処理により形成されたCOやCO2等の炭素源ガスを利用することも可能である。
【0023】
反応系外から炭素源ガスが供給されるようにする一例として、例えば、反応室内を、金属アルミニウム原料及び炭素原料が収容されて、炭化アルミニウム微粒子が生成する反応領域と、炭素源ガス雰囲気が形成される雰囲気形成領域とに区画すると共に、反応領域と雰囲気形成領域との間を結ぶガス流入経路を設けておくようにするのが良い。そして、反応室内が所定の温度になるように加熱処理して、反応領域内に炭化アルミニウム微粒子を生成させ、雰囲気形成領域から流入した炭素源ガスにより、この炭化アルミニウム微粒子を炭素で被覆するようにする。このように、予め、反応領域と雰囲気形成領域とを区画しておき、雰囲気形成領域から流入した炭素源ガスを利用して、反応領域内を炭素源ガス雰囲気にすることで、反応領域で炭化アルミニウムを生成しながら、効率的にカーボン被覆炭化アルミニウムを得ることができる。
【0024】
上記のようにしてカーボン被覆炭化アルミニウムを得るための具体的な装置構成例としては、例えば、開口部を有して金属アルミニウム原料及び炭素原料が収容される容器部と、この開口部に対応する蓋体とを備えた坩堝を用いて、この坩堝を反応室内に配置し、坩堝内部を反応領域とすると共に坩堝外部を雰囲気形成領域とし、尚且つ、坩堝外部から坩堝内部に炭素源ガスが流入可能となるように、上記坩堝がガス流入経路を備えるようにする。坩堝が備えるガス流入経路は、雰囲気形成領域で形成された炭素源ガスが、坩堝内部に流入可能となるものであれば良く、例えば、開口部を塞ぐ蓋体と容器部との間に形成される隙間を利用しても良く、或いは、蓋体や容器部の一部に貫通孔等を形成するようにしても良い。なお、坩堝の材質については、加熱処理の温度である1100℃以上の耐熱性を有するものであれば特に制限はなく、例えば、粘土質、ムライト質、アルミナ質、マグネシア質等の酸化物系のものや、炭素質、SiC質、Si3N4等の非酸化物系のものを使用することができる。また、反応室は、既製の反応炉を利用したり、耐火物からなる隔壁を使って反応室を形成するなど、特に制限はない。更に、加熱処理に必要な加熱手段については、例えば電気炉等の反応炉に備え付けのものを用いてもよく、或いは、隔壁等で反応室を形成した場合には、抵抗加熱方式や誘導加熱方式等による発熱体を隔壁の周りに配置して、反応室内が所定の温度になるように加熱するようにしてもよい。
【0025】
雰囲気形成領域を炭素源ガス雰囲気にする手段については、COガス、CO2ガス、炭化水素ガス、水生ガス等を充填し又は流通させるようにしても勿論良いが、例えば、坩堝と反応室との間に形成された坩堝外部の雰囲気形成領域に、炭素質又は黒鉛質の炭素粉末からなる炭素材料や、樹脂等の炭素材料を入れておき、反応室内を所定の温度で加熱処理することで、COガス、CO2ガス、炭化水素ガス等の炭素源ガス雰囲気が作り出されるようにするのが良い。このようにすれば、加熱処理によって反応領域内で炭化アルミニウムの生成が進むと共に、雰囲気形成領域で形成された炭素源ガスが炭化アルミニウムに析出して、効率的にカーボン被覆炭化アルミニウムを得ることができる。
【0026】
次に、第二の方法としては、金属アルミニウム原料と炭素原料とを、不活性ガス雰囲気下、1100℃以上1800℃以下で一次加熱し、次いで、酸素源ガス雰囲気下、500℃以上800℃以下で二次加熱して、炭化アルミニウム微粒子を炭素で被覆したカーボン被覆炭化アルミニウムを得る方法である。
【0027】
この第二の方法では、先ず、不活性ガス雰囲気下、1100℃以上1800℃以下の温度で一次加熱して、金属アルミニウム原料と炭素原料とから炭化アルミニウムを生成させる。この一次加熱の温度が1100℃未満であると、Alの一部が無定形の状態で残存してAl4C3の生成量が低下し、反対に1800℃を超えると、昇華反応が起こるため歩留まりが低下してしまう。不活性ガス雰囲気については、He、Ne、Ar等の希ガス類元素に属する元素のような化学的に不活性なガスを用いることができる。一次加熱の時間については、原料の量や加熱温度によっても異なるが、例えば1100℃で1時間程度の加熱により、炭化アルミニウムの生成を確認することができる。そのため、一次加熱の時間は、望ましくは1時間以上であるのが良く、4時間を超えるとその効果は飽和する。
【0028】
次いで、二次加熱では、酸素源ガス雰囲気下、500℃以上800℃以下の温度で加熱することにより、一次加熱で生成した炭化アルミニウムの一部を酸化させ、これによって発生したCOやCO2を炭素源としながら炭素を析出させて、カーボン被覆炭化アルミニウムを得るようにする。そのため、二次加熱の温度が500℃未満であると酸化が起こり難く、炭素で被覆することができない状態になり、反対に800℃を超えると、酸化による消耗が大きくなり過ぎてしまうおそれがある。また、酸素源ガス雰囲気については、O2やCO2を含有するガスのほか、COを含有するガス等を用いることができ、なかでも、反応性や安全性から好適にはO2を含有するガスを用いるのが良い。また、ガス中のO2やCO2の濃度は、高ければより反応が促進されるため好ましい。更に、二次加熱の時間は、原料の量や加熱温度によっても異なるが、例えば500℃で5分間程度の加熱により、炭素で被覆された炭化アルミニウムの生成を確認することができる。そのため、二次加熱の時間は、望ましくは5分以上であるのが良く、30分を超えると酸化が進行しすぎて、生成粒子の酸化防止効果が低下することから30分以下が好ましい。
【0029】
この第二の方法を用いた反応方法では、例えば、反応室内を、金属アルミニウム原料及び炭素原料が収容されて、炭化アルミニウム微粒子が生成する反応領域と、不活性ガス雰囲気が形成される雰囲気形成領域とに区画すると共に、反応領域と雰囲気形成領域との間を結ぶガス流入経路を設けておくようにするのが良い。そして、反応室内が所定の温度になるように一次加熱して、反応領域内に炭化アルミニウム微粒子を生成させ、次いで、雰囲気形成領域を酸素源ガス雰囲気にした上で、反応室内が所定の温度になるように二次加熱して、反応領域内に形成された炭化アルミニウム微粒子の一部を、雰囲気形成領域から流入した酸素源ガスで酸化して炭素源を生成させる。そして、この炭素源によって炭化アルミニウム微粒子を被覆し、カーボン被覆炭化アルミニウムを得るようにする。
【0030】
このようにして、第二の方法によりカーボン被覆炭化アルミニウムを得るための具体的な装置構成例としては、第一の方法で例示したようなものを用いることができる。
【0031】
上記のような第一の方法及び第二の方法による加熱処理後(第二の方法では二次加熱後)には、黒色を呈した反応物であって、炭化アルミニウム微粒子が炭素で被覆されたカーボン被覆炭化アルミニウムが得られる。加熱処理後の反応物の多くは塊状であり、これをそのまま、例えば炭素含有耐火物の原料に混ぜて、酸化防止剤として使用しても良く、或いは、解砕して粉末状のカーボン被覆炭化アルミニウムにして、酸化防止剤や導電性セラミックス等の材料として使用するようにしても良い。また、第一の方法の場合には、加熱処理後の塊状の反応物を解砕した後、これを再び、炭素源ガス雰囲気下、1100℃以上1800℃以下で加熱処理するようにしても良い。すなわち、解砕処理を介して、所定の加熱処理を2回以上繰り返すようにすることで、一部未反応の原料が残った場合でも、確実にこれを消費しながら反応を進めることができる。同じく、第二の方法の場合では、二次加熱後の塊状の反応物を解砕した後、これを再び、不活性ガス雰囲気下、1100℃以上1800℃以下で一次加熱し、次いで、酸素源ガス雰囲気下、500℃以上800℃以下で二次加熱するようにしても良い。このように、二次加熱後に行う解砕処理を介して、一次加熱及び二次加熱からなる加熱処理を2回以上繰り返すことで、確実に反応を進めることができる。
【0032】
本発明のカーボン被覆炭化アルミニウムは、上述したように、金属アルミニウム原料と炭素原料とから生成した炭化アルミニウムを、炭素が被覆して黒色を呈している。通常、炭化アルミニウムは黄色を呈しており、水に合うと室温でもすぐに分解してメタンを発生するが、本発明によって得られたカーボン被覆炭化アルミニウムは、大気中でも安定である。そして、このカーボン被覆炭化アルミニウムを透過型電子顕微鏡(TEM)で観察すると、1〜10μm程度の炭化アルミニウムの微粒子の周りを、炭素で被覆していることが確認できる。これを詳細に観察すると、炭化アルミニウム微粒子が、10〜40nm程度の中間層を介して、1〜10nm程度の炭素被覆層によって被覆されたものが確認できる。この中間層を分析すると、中間層がアルミニウム窒化物からなる場合と、アルミニウム酸化物からなる場合との少なくとも2種類が存在することが分った。いずれにしても、本発明のカーボン被覆炭化アルミニウムは、最表面が炭素によって覆われており、炭化アルミニウムが示す水和反応性は封じられて、大気中でも安定なものである。
【発明の効果】
【0033】
本発明のカーボン被覆炭化アルミニウムは大気中でも安定であるため、例えば、炭素含有耐火物における酸化防止剤や、導電性セラミックス等の材料など、炭化アルミニウムが備えた特性を十分活かしながら、幅広い分野で使用することができるようになる。また、大気中で安定であることから、その取引形態に制約がなく、新たな材料の開発や応用利用が期待でき、工業的な意義も大きい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、実施例1においてカーボン被覆炭化アルミニウムの製造に用いた反応装置の様子を示す断面模式図である。
【図2】図2の(A)は、実施例1で得た反応物の写真であり、図2の(B)は、比較例2で得た反応物の写真であり、これらのうち、(1)は加熱処理を1度実施したもの、(2)は加熱処理を2度実施したもの、(3)は2度目の加熱処理後に水中に24時間浸漬して乾燥させたものを、それぞれ示す。
【図3】図3は、実施例1で加熱処理を1度実施して得られた反応物の粉末X線回折の結果を示す。
【図4】図4は、実施例1で加熱処理を2度実施して得られた反応物の粉末X線回折の結果を示す。
【図5】図5は、実施例1で行った水和実験24時間経過後の反応物の粉末X線回折の結果を示す。
【図6】図6は、実施例及び比較例で得られた反応物を大気中で3日間放置した後の様子を示す写真であり、(A)は実施例1で得た反応物の場合、(B)は比較例2で得た反応物の場合である。
【図7】図7は、実施例1で加熱処理を2度実施して得られた反応物を水中に投下する水和実験の様子を示す写真である。
【図8】図8は、比較例2で加熱処理を1度実施して得られた反応物の粉末X線回折の結果を示す。
【図9】図9は、比較例2で加熱処理を2度実施して得られた反応物の粉末X線回折の結果を示す。
【図10】図10は、比較例2で行った水和実験24時間経過後の反応物の粉末X線回折の結果を示す。
【図11】図11は、実施例1で得られた反応物の粒子をTEM観察した写真である。
【図12】図12は、図11のTEM写真に示した(a)の箇所のEDS分析結果、及びラティスパターンである。
【図13】図13は、図11のTEM写真に示した(b)の箇所のEDS分析結果、及びラティスパターンである。
【図14】図14は、図11のTEM写真に示した(c)の箇所のEDS分析結果、及びラティスパターンである。
【図15】図15は、実施例1で得られた反応物の別の粒子をTEM観察した写真である。
【図16】図16は、図13のTEM写真に示した(a)の箇所のEDS分析結果、及びラティスパターンである。
【図17】図17は、図13のTEM写真に示した(b)の箇所のEDS分析結果、及びラティスパターンである。
【図18】図18は、図13のTEM写真に示した(c)の箇所のEDS分析結果、及びラティスパターンである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、実施例に基づき、本発明をより詳細に説明する。
【実施例】
【0036】
[実施例1]
(加熱処理1回目)
図1に示されるような反応装置Xを用いて、以下のようにして本発明に係るカーボン被覆炭化アルミニウムを製造した。
反応装置Xは、反応室1と、これに収容される坩堝3と、反応室1内を所定の温度に加熱することができる発熱体5とを備える。このうち、反応室1は、炭化珪素製の隔壁を使って作製され、17cm×28cm×15cmの容積を持ち、かつ、密閉状態に組み立てられた箱型反応室である。この箱型反応室1の中には、炭素材料として3900gの炭素粉末(コークス)2が入れられ、この炭素粉末2に埋まるようにして、箱型反応室1のなかに坩堝3が収容される。この坩堝3には、200gの混合粉砕原料4が入れられる。そして、箱型反応室1の外側を取り囲むように、シリコニット方式の発熱体5が配置される。
【0037】
上記の坩堝3は、高さ10cm、内径φ10cmの開口部を有した坩堝容器3aと、開口部に対応する坩堝蓋(蓋体)3bとを有しており、坩堝容器3aと坩堝蓋3bとは、いずれもアルミナ質からなる。また、開口部を塞ぐ坩堝蓋3bと坩堝容器3aとの間には、図示外のアルミナ製スペーサーを介して、1.6mm程度の隙間dが形成されるようになっている。また、坩堝3に入れた混合粉砕原料4は、目開き200μmの篩を通過した最大粒径が200μm以下の金属アルミニウム粉末(純度98質量%)と、目開き100μmの篩を通過した最大粒径が100μm以下の鱗状黒鉛とを、炭素(C)とアルミニウム(Al)のモル比(Al/C)が4/3となるように秤量し、ボールミル(アサヒ理化製作所社製AV-2型)で1時間混錬粉砕したものである。
【0038】
そして、発熱体5による加熱によって反応室1内を1100℃にして、坩堝3の内側を反応領域とすると共に、坩堝3の外側に雰囲気形成領域を形成して、3時間の加熱処理を行った。その後、反応室1内が室温になるまで24時間放置した後、反応室1から坩堝3を取り出して、外観が黒色の塊状の反応物218gを得た。次いで、この加熱処理後の反応物を、上記と同じボールミルで1時間粉砕し、目開き300μmの篩下の黒色粉末を回収した。図2の(A)−(1)に、篩下の回収物の写真を示す。なお、雰囲気形成領域は、炭素粉末2が加熱処理されて、COガスのほか、CO2ガスが形成される。
【0039】
また、上記で得られた篩下の回収物の一部を、粉末X線回折により分析した。測定にはマックサイエンス社製M18Xceを使用し、CuKα線を照射X線として、電圧40kV、電流200mA、走査範囲:2θ(回折角)=5〜95°、及び走査速度5°/minの各条件で分析を行った。その結果を図3に示す。図3の上段が回収物のX線回折結果である。図3の中段は、JCPDSカード(番号35-0799)のAl4C3(炭化アルミニウム)データを示し、下段は、JCPDSカード(番号26-1077)のC(炭素)データを示す。上段に示したX線回折結果から明らかなように、回収物には、Al4C3に対応するピークとCに対応するピークが含まれることが分った。更に、回収物の一部を別途大気中で3日間放置して水和反応の進行を確認したところ、図6(A)に示した写真のとおり、外観上黒色のままであり、重量の変化は約2%の増加にとどまった。この増加分は、大気中の水との反応と考えられるが、白色のAl(OH)3が生成する炭化アルミニウムの水和反応の進行は抑制されることが確認された。
【0040】
(加熱処理2回目)
次いで、反応室1に入れた炭素粉末2の全量を新しいものに交換した上で、上記で得られた篩下の回収物160gを再度坩堝3に入れて、先の場合と同様に、1100℃で3時間の加熱処理を行った。そして、反応室1内が室温になるまで24時間放置し、反応室1から坩堝3を取り出して、外観が黒色の粉末焼結体状の反応物162gを得た。このようにして2度目の加熱処理を行って得た反応物を、先の場合と同様にボールミルにて1時間粉砕し、目開き300μmの篩下の黒色粉末を回収した。図2の(A)−(2)に、篩下の回収物の写真を示す。
【0041】
また、2度目の加熱処理を行って得た篩下の回収物の一部を、先の場合と同様にして、粉末X線回折により分析した。その結果を図4に示す。図4の上段に示した結果から明らかなように、2回目の加熱処理後の粉末X線回折結果は、1回目の結果から殆んど変化はなく、Al4C3に対応するピークとCに対応するピークが含まれることが分った。なお、1回目の加熱処理を数回再現実験したところ、僅かながらAlに対応するピークが見られる場合があったが、それぞれに対して、2回目の加熱処理を行った結果では、Alに対応するピークは見られなかった。仮に、少量のAlが残存していたとしても、反応物全体としてはその影響は僅かであり、例えば耐火物の酸化防止剤として用いた場合に、その機能に問題は無いと考えられる。
【0042】
また、2度目の加熱処理を行って得た篩下の回収物3gを、90mlの水が入った100mlビーカーに入れて、水和実験を実施した。ちなみに、実験時の水温は約25℃である。回収物を投入した直後は、図7(1)に示すように、回収物は水面に浮いた状態であり、72時間経過後は、図7(2)に示すように、ほぼ全量がビーカーの底に沈んだ。仮に、水に投下した回収物が、未反応の鱗状黒鉛粒子により黒色化したものであったとすれば、水面に浮いた状態になるはずであるが、この水和実験では、72時間経過後に水面に浮いた黒鉛粒子は殆んど確認されなかった。また、72時間経過後に水底に沈んだ回収物は黒色のままであり、水和による白濁現象も認められなかった。水和実験の途中、24時間経過した時点で水底に沈んだ回収物を一部取り出し、ろ過した回収物を120℃で120分乾燥させたものを、先の場合と同様にして、粉末X線回折により分析した。その結果は図5に示すとおりであり、水中に浸漬した回収物であっても、Al4C3に対応するピークとCに対応するピークに変化は無かった。このことは、水和実験の結果と符合し、Al4C3の水和による分解は起きておらず、また、X線回折で確認された炭素(C)は、未反応の黒鉛粒子によるものでもないと考えられる。ちなみに、水和実験の途中、24時間経過後に取り出して乾燥させたものの写真は図2の(A)−(3)に示すとおりであり、加熱処理直後のものと同様に黒色を呈した粉末状のままであった。なお、図5のX線回折結果は、水和実験前のものと比べて、若干ブロードなピークになっているが、これは何らかの原因により、回収物が一部アモルファス化したことが推測される。
【0043】
更には、上記で水和実験を行ったAl4C3の構造解析を行うために、水和実験終了後の回収物を乾燥させ、そのうち微量の回収物(黒色粒子)を、コロジオン膜(マイクログリッド)の張った3mmφのCuメッシュ上に粉末振り掛け法によって付着させ、TEM観察用の試料片を作製した。この試料片を200kV−電界放出型透過電子顕微鏡(JEM-2100F:日本電子製)を用いて観察し、EDS分析(エネルギー分散型X線分光分析)により元素分析を行った。なお、EDS分析には、JED−2300T(日本電子製)を用いた。
【0044】
これらの分析の結果、回収物には、i)Al4C3の表面に、AlNを介してCが被覆している粒子と、ii)Al4C3の表面に、Al酸化物を介してCが被覆している粒子との2種類が存在していることが確認された。図11は、i)の粒子のTEM観察写真であり、これより、Al4C3粒子の表面に、厚さ15〜20nm程度のAlNを介して、厚さ10〜20nm程度の炭素被覆層が形成されていることが分かる。このことは、図12〜図14に示したEDS分析結果、及びラティスパターンから確認することができる。すなわち、図11のTEM写真に示した(a)、(b)、(c)の箇所を、それぞれプローブ径1nmでEDS分析及び電子線回折したところ、図12に示したように、(a)の箇所では、図に記載しているようにAl4C3結晶の電子線回折パターンが確認され、EDS分析での組成分析から結晶性のAl4C3であることが分かる。また、図13に示したように、(b)の箇所では、AlN結晶の電子線回折パターンが確認され、EDS分析での組成分析から結晶性のAlNであることが分る。更に、図14に示したように、(c)の箇所では、電子線回折パターンが確認され、EDS分析からC(グラファイト)であることが分った。
【0045】
また、図15はii)の粒子のTEM写真であり、これより、Al4C3粒子の表面に、厚さ10〜20nm程度のAl酸化物を介して、厚さ3〜10nm程度の炭素被覆層が形成されていることが分かる。このことは、図16〜図18に示したEDS分析結果、及びラティスパターンから確認することができる。すなわち、図15のTEM写真に示した(a)、(b)、(c)の箇所を、それぞれプローブ径1nmでEDS分析し、電子線回折したところ、図16に示したように、(a)の箇所では、図に記載しているようにAl4C3結晶の電子線回折パターンが確認され、EDS分析での組成分析から結晶性のAl4C3であることが分った。また、図17に示したように、(b)の箇所では、ハローパターンの電子線回折が得られ、EDS分析からアモルファスのAl酸化物であることが分った。更に、図18に示したように、(c)の箇所では、グラファイトの回折パターンが確認され、EDS分析からC(グラファイト)であることが分った。これら2種類の粒子に含まれる中間層(AlN、Al酸化物)の由来は、現時点で定かではないが、混合粉砕原料中に残存していた空気が、加熱処理で生成したAl4C3の表面に取り込まれたと考えられる。そして、この中間層の表面に、炭素源がグラフェン層のように積層して炭素被覆層を形成したと推測している。いずれにしても、この炭素被覆層の存在により、Al4C3の水和反応性が抑制されていることは確かである。
【0046】
以上説明したように、この実施例1により、炭化アルミニウムが炭素によって被覆されたカーボン被覆炭化アルミニウムが得られたことが分る。炭化アルミニウムと炭素被覆層との間には、その分析によってAlNやAl酸化物からなる中間層の存在も確認されるが、炭化アルミニウムの水和反応性が封じられるような炭素被覆層が形成されたものが、本発明のカーボン被覆炭化アルミニウムと言うことができる。また、一部に、鱗状黒鉛を核にしてAl4C3が形成され、これが炭素で被覆されたものも含まれていることも考えられるが、これについても同様に、本発明のカーボン被覆炭化アルミニウムと言うことができる。
【0047】
[実施例2]
目開き250μmの篩を通過した最大粒径が250μm以下の金属アルミニウム粉末(純度98質量%)と、目開き100μmの篩を通過した最大粒径が100μm以下の鱗状黒鉛とを、炭素(C)とアルミニウム(Al)のモル比(Al/C)が4/3となるように秤量し、ボールミルで1時間混錬粉砕した混合粉砕原料200gを、実施例1と同じ坩堝に入れた。そして、雰囲気制御が可能な電気炉(広築社製)に上記坩堝を収容し、この電気炉内を反応室として、流量10リットル/minでCOガスを供給しながら、坩堝の内部を反応領域とすると共に、坩堝3の外側を雰囲気形成領域として、1100℃で3時間の加熱処理を行った。
【0048】
加熱処理後、電気炉内が室温になるまで24時間放置し、電気炉から坩堝を取り出して、外観が黒色の塊状の反応物を212g得た。次いで、この反応物を実施例1と同様に、ボールミルにて1時間粉砕し、目開き300μmの篩下の黒色粉末を回収した。そして、この回収物の一部を、実施例1と同様に粉末X線回折で分析したところ、実施例1で得られた加熱処理1度の場合のX線回折結果と同じく、Al4C3に対応するピークとCに対応するピークが検出されると共に、Alのピークも確認され、未反応のAlが存在していることが分った。
【0049】
次いで、上記で得られた篩下の回収物160gを再度坩堝に入れ、先の場合と同様に、CO気流中で1100℃、3時間の加熱処理を行った。加熱処理後、電気炉内が室温になるまで24時間放置し、電気炉から坩堝を取り出して、外観が黒色の粉末焼結体状の反応物161gを得た。2度の加熱処理を行って得た反応物を、先の場合と同様にボールミルにて1時間粉砕し、目開き300μmの篩下の黒色粉末を回収した。そして、この回収物の一部を粉末X線回折で分析したところ、ピーク強度は若干弱まりながらもAlのピークは存在したが、Al4C3に対応するピークとCに対応するピークがそれぞれ確認された。
【0050】
[実施例3]
目開き250μmの篩を通過した最大粒径が250μm以下の金属アルミニウム粉末(純度98質量%)と、目開き100μmの篩を通過した最大粒径が100μm以下の鱗状黒鉛とを、炭素(C)とアルミニウム(Al)のモル比(Al/C)が4/3となるように秤量し、ボールミルで1時間混錬粉砕した混合粉砕原料100gを、実施例1と同じ坩堝に入れた。そして、雰囲気制御が可能な電気炉(広築社製)に上記坩堝を収容し、この電気炉内を反応室として、流量10リットル/minでCO2ガスを供給しながら、坩堝の内部を反応領域とすると共に、坩堝3の外側を雰囲気形成領域として、1100℃で3時間の加熱処理を行った。なお、この加熱処理により、雰囲気形成領域には、CO2ガスのほか、より安定なCOガスも形成される。
【0051】
加熱処理後、電気炉内が室温になるまで24時間放置し、電気炉から坩堝を取り出して、外観が黒色の塊状の反応物を117g得た。次いで、この反応物を実施例1と同様に、ボールミルにて1時間粉砕し、目開き300μmの篩下の黒色粉末を回収した。この回収物の一部を、実施例1と同様に、水が入った100mlビーカーに入れる水和実験を行ったが、24時間経過後も黒色粉末のままであり、炭化アルミニウムが炭素で被覆されたことが分った。
【0052】
[実施例4]
目開き200μmの篩を通過した最大粒径が200μm以下の金属アルミニウム粉末(純度98質量%)と、目開き200μmの篩を通過した最大粒径が200μm以下の鱗状黒鉛とを、炭素(C)とアルミニウム(Al)のモル比(Al/C)が4/3となるように秤量し、ボールミルで1時間混錬粉砕した混合粉砕原料200gを、実施例1と同じ坩堝に入れた。この坩堝を実施例1と同じ箱型反応室に入れ、炭素粉末2は一切入れずに密閉した。
【0053】
次いで、反応室1内をArガスで置換して坩堝3の外側にArガス雰囲気を形成し、更に、坩堝3の外側にArガスを流しながら1100℃で3時間の加熱処理(一次加熱)を行った。その後、Arガス雰囲気下で700℃まで炉冷し、Arガスの流入を止めた。次いで、坩堝3の外側の雰囲気形成領域が酸素ガス雰囲気になるように、酸素ガスを10L/min流しながら700℃で5分間の加熱処理(二次加熱)を行った。その後、雰囲気形成領域を再度Arガス雰囲気に置換し、反応室1内が室温になるまで24時間炉冷した。そして、反応室1から坩堝3を取り出して、外観が黒色の塊状の反応物211gを得た。
【0054】
実施例4に係る上記反応は、後述する比較例2と比べて、Arガス雰囲気下で700℃まで炉冷した上で、酸素ガス雰囲気下で700℃、5分間の二次加熱を行った点で異なるが、比較例2では黄色の反応物(Al4C3粒子)が得られたのに対し、この実施例4では黒色の反応物が生成した。この理由については、一次加熱で生成したAl4C3が、二次加熱の際の酸化ガス雰囲気により酸化されてAl2O3が生成すると同時に、反応系内にCOやCO2が存在するようになり、これらの炭素源に由来して、炭化アルミニウムが炭素で被覆したものと考えられる。すなわち、この実施例4では、混合粉砕原料に含まれた炭素の一部を炭素源としても利用できることを示している。
【0055】
[比較例1]
実施例1における箱型反応室1に炭素材料としての炭素粉末2を一切入れずに、坩堝3を収容し、坩堝3の外側が大気雰囲気のまま加熱されるようにした以外は実施例1と同様にして、1100℃で3時間の加熱処理を行った。
【0056】
加熱処理後、反応室内が室温になるまで24時間放置して、反応室1から坩堝3を取り出したところ、坩堝内の反応物は、坩堝容器に沿って外周部分が白色であり、中央部分は黄色を呈していた。それぞれの部分から反応物を回収して、実施例1と同様に粉末X線回折で分析したところ、外周部分の白色を呈した反応物はアルミナ(Al2O3)であり、中央部分の黄色を呈した反応物は、アルミナと炭化アルミニウムとから構成されていることが確認された。
【0057】
[比較例2]
混合粉砕原料に用いる鱗状黒鉛を、目開き200μmの篩を通過した最大粒径が200μm以下のものを使用し、また、実施例1における箱型反応室1に炭素材料としての炭素粉末2を一切入れずに坩堝3を収容した上で、箱型反応装置内をArガスで置換して、坩堝3の外側にAr雰囲気を形成して加熱するようにした以外は実施例1と同様にして、1100℃で3時間の加熱処理を行った。
【0058】
加熱処理後、反応室内が室温になるまで24時間放置した後、反応室1から坩堝3を取り出して、外観が黄色の粉末焼結体状の反応物205gを得た。次いで、この加熱処理後の反応物を実施例1と同様にボールミルで1時間粉砕し、目開き300μmの篩下の黄色粉末を回収した。図2の(B)−(1)に、篩下の回収物の写真を示す。また、この回収物の一部を、実施例1と同様にして粉末X線回折で分析したところ、図8に示すように、Cのデータの位置にわずかなピークを確認することができるが、殆んどがAl4C3に対応するピークであった。更に、回収物の一部を別途大気中で3日間放置して水和反応の進行を確認したところ、図6(B)に示した写真のとおり、その外観は白色化し、約40%の重量増加が確認された。これは、回収物が大気中の水分と反応して、下記式のように水酸化アルミニウムが生成したためと考えられる。
Al4C3+12H2O→4Al(OH)3+3CH4
【0059】
次いで、上記で得られた篩下の回収物160gを再度坩堝3に入れ、先の場合と同様にしてAr置換した後、1100℃で3時間の加熱処理を行った。そして、反応室内が室温になるまで24時間放置し、反応室1から坩堝3を取り出して、外観が黄色の粉末焼結体状の反応物160gを得た。この反応物を、先の場合と同様にボールミルにて1時間粉砕し、目開き300μmの篩下の黄色粉末を回収した。図2の(B)−(2)に篩下の回収物の写真を示すが、1度目の加熱処理後のものと比べて、鮮やかな黄色を呈していた。この回収物の一部を、先の場合と同様にして粉末X線回折で分析したところ、図9に示すように、Cのピークはほぼ確認できないレベルまで低減し、ほぼ全てがAl4C3に対応するピークであった。
【0060】
2度の加熱処理を行って得た篩下の回収物について、実施例1と同様に、水の入ったビーカーに入れる水和実験を実施した。24時間経過したところで回収し、ろ過した回収物を120℃で120分乾燥させたものを、先の場合と同様にして、粉末X線回折により分析した。その結果を図10に示す。図10の上段は水和実験後の回収物のX線回折結果であり、下段はJCPDSカード(番号20-0011)のAl(OH)3のデータである。これから明らかなように、水和実験24時間経過後は、Al4C3に対応するピークは全て消失し、代わりにAl(OH)3に対応するピークが確認された。
【0061】
以上の結果より、Arガスのような不活性雰囲気で加熱処理することで、坩堝内における反応領域での酸化を防止して、黄色のAl4C3を合成することは可能であったが、Al4C3の水和反応性を封じるような目的物を得ることはできなかった。
【0062】
[酸化試験]
上記実施例1で2度目の加熱処理を行って得た篩下の回収物(カーボン被覆炭化アルミニウム)と、上記比較例2で2度の加熱処理を行って得た篩下の回収物(炭化アルミニウム)との2種類について、それぞれ目開き45μmの篩の篩下を用いて、以下のようにして、酸化防止剤としての機能を評価するための酸化試験を行った。その際、比較対象として、炭素含有耐火物の酸化防止剤として一般的に使用されている市販のSiC粉末、及び市販の金属アルミニウム粉末を用意し、それぞれ目開き45μmの篩の篩下を準備した。
【0063】
そして、市販されている粒径70〜100μmの鱗状黒鉛粒子を用意し、この鱗状黒鉛粒子10gに対して、上記で準備した4種類の粉末を外掛けで1g添加して混合し、4種類の試験用試料を作成した。これらを、それぞれ直径3cmのアルミナ坩堝に入れ、その坩堝を大気下の炉内に入れて、昇温速度5℃/minで700℃に加熱してその温度で1時間保持した場合、昇温速度5℃/minで800℃に加熱してその温度で1時間保持した場合、及び、昇温速度5℃/minで1000℃に加熱してその温度で1時間保持した場合について、それぞれの炉冷後の質量を測定した。質量測定結果を表1に示す。なお、対照試験として、酸化防止剤を添加しないで鱗状黒鉛粒子11gをアルミナ坩堝に入れたものについても、それぞれ炉冷後の質量を測定した。
【0064】
【表1】
【0065】
上記試験結果より、いずれの温度で保持した場合においても、酸化防止剤を添加していないものが最軽量であり、残存質量から考察すれば、鱗状黒鉛粒子に対する酸化防止剤としての機能は、SiC粉末や金属アルミニウム粉末に比べて、実施例1の回収物と比較例2の回収物の方が優れていることが分った。このことは、実施例1の回収物と比較例2の回収物は、いずれも、酸化試験の保持温度である700℃〜1000℃の温度で連続的に大気中の酸素と暴露されると、それ自身が消耗するため、耐火物中に含まれる鱗状黒鉛の酸化損耗の絶対量を削減できることが予想される。そして、実施例1の回収物と比較例2の回収物とでは、比較例2の回収物の方が酸化防止剤としての機能は僅かに優れるが、前述したように、比較例2の回収物(炭化アルミニウム)は大気中での安定性に劣る欠点がある。これに対して、本発明に係る実施例1の回収物(カーボン被覆炭化アルミニウム)は大気中での安定性に優れており、市販の酸化防止剤を凌ぐ性能を備えることが確認された。その理由については、本発明のカーボン被覆炭化アルミニウムが、大気下で700℃以上の高温に暴露されると、表層面の炭素被覆層は先ず燃焼されて、次いで、核となるAl4C3との熱膨張差により、中間層のAlNやAl酸化物に微細なクラックが生じ、Al4C3粒子の少なくとも一部が露出して、これが鱗状黒鉛粒子に比べて選択的かつ優先的に酸化されることで、鱗状黒鉛粒子の酸化を抑制したものと推察される。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明で得られるカーボン被覆炭化アルミニウムは、水和反応性が封じられながらも、炭化アルミニウムが備えた特性を活用することができるため、例えば、炭素含有耐火物に添加する酸化防止剤として利用することができるほか、導電性を示す炭化アルミニウムの表面が良導電材料の炭素で被覆されていることから、例えば、通電抵抗加熱用発熱体や高温通電用部材のような、導電性セラミックスとしても利用することができ、更には、通電加熱ロール等への応用も可能である。
【符号の説明】
【0067】
1:反応装置
2:炭素粉末
3:坩堝
3a:坩堝容器
3b:坩堝蓋
4:混合粉砕原料
5:発熱体
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化アルミニウム微粒子が炭素で被覆されたカーボン被覆炭化アルミニウム、及びその製造方法に関し、詳しくは、大気中で炭化アルミニウムの水和反応が進まないように、炭素で被覆されたカーボン被覆炭化アルミニウム、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄の分野における混銑車、転炉、脱ガス装置、溶鋼鍋等をはじめ、鉄鋼連続鋳造用タンディッシュの浸漬ノズルや、ロングノズル等で使用される耐火物については、近年、鋼の高機能化の要請が著しく増加していることから、更なる耐食性の向上が望まれている。現在、高耐食性の耐火物に使用されている原料には、例えば、酸化物として、シリカ、ムライト、アルミナ、マグネシア、アルミナ−マグネシア、スピネル等があり、炭化物としては、炭化ケイ素(SiC)等があり、これらの酸化物や炭化物に鱗状黒鉛等を混ぜて得た炭素含有耐火物も使用されている。なかでも、炭素含有耐火物は、炭素による耐スラグ浸潤性や耐スポーリング性を有することから、広く使用されている。
【0003】
ところが、炭素含有耐火物は、高温での耐酸化性に弱点を有する炭素を含むことから、強い酸化性雰囲気下では溶損速度が増大する問題があり、例えば特許文献1や特許文献2にあるように、通常は、Al、Si、又はこれらの合金など、高温で炭素よりも酸素親和力が大きい金属粉末が酸化防止剤として添加される。
【0004】
この炭素含有耐火物に添加されるAlやAl合金について、MgO−C質れんがの場合を例にすると、これらの金属添加物は、加熱されると、炭化アルミニウム(Al4C3)を介して、アルミナ(Al2O3)に酸化され、更には、れんがの骨材と反応してスピネル(MgAl2O4)を生成し、れんが組織を強化することが知られている(例えば非特許文献1参照)。従って、本来はAlやAl合金に替えて、直接炭化アルミニウム(Al4C3)を酸化防止剤として添加する方が効率的であると考えられるが、Al4C3は吸湿性を有することから、ハンドリング時や混練、施工、乾燥時等に吸湿して水酸化物化し、不安定にしか存在し得ないため、酸化防止剤としての機能を発揮することはできず、今まで使用されてこなかった。また、別の報告によれば、炉を休止させた際、金属添加物由来のAl4C3が水和反応を起こし、再度加熱すると、体積膨張によってれんがの崩壊をもたらすおそれも指摘されている(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭54-163,913号公報
【特許文献2】特開昭57-27,970号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】内村良治、外5名,「転炉用耐火物の進歩」,川崎製鉄技報,川崎製鉄株式会社,vol.15,No.2,1983,p.48-49
【非特許文献2】「炭素含有耐火物」,2006年3月15日,岡山セラミック技術振興財団発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記で説明したように、炭化アルミニウム(Al4C3)自体は、炭素含有耐火物において酸化防止機能を有効に発現する。一方で、このAl4C3は導電性を示すため、例えば、通電抵抗加熱用発熱体とするような、導電性セラミックスとしての用途も考えられる。しかしながら、下記反応式に示すように、Al4C3は水に合うと室温でもすぐに反応する吸湿性を有することから、そのハンドリング性が大きな問題となり、また、耐火物の崩壊等を引き起こすおそれもあることから、これまでその利用は制限されていた。
Al4C3+12H2O→4Al(OH)3+3CH4
【0008】
そこで、本発明者等は、炭化アルミニウムの有用性を活かしながら、その吸湿性を封じる手段について鋭意検討した結果、驚くべきことには、特定の条件下で、金属アルミニウム原料と炭素原料とを加熱処理することで、炭素で被覆されたカーボン被覆炭化アルミニウムを得ることができ、得られたものは大気中での水和反応が抑制されることを見出したことから、本発明を完成するに至った。
【0009】
したがって、本発明の目的は、炭化アルミニウムの水和反応が進まないように、炭素で被覆されたカーボン被覆炭化アルミニウムを提供することにある。
【0010】
また、本発明の別の目的は、上記のようなカーボン被覆炭化アルミニウムを得ることができるカーボン被覆炭化アルミニウムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、炭化アルミニウム微粒子が、炭素で被覆されたことを特徴とするカーボン被覆炭化アルミニウムである。
【0012】
また、本発明は、金属アルミニウム原料と炭素原料とを、炭素源ガス雰囲気下、1100℃以上1800℃以下で加熱処理して、炭化アルミニウム微粒子が炭素で被覆されたカーボン被覆炭化アルミニウムを得ることを特徴とするカーボン被覆炭化アルミニウムの製造方法である。
【0013】
更に、本発明は、金属アルミニウム原料と炭素原料とを、不活性ガス雰囲気下、1100℃以上1800℃以下で一次加熱し、次いで、酸素源ガス雰囲気下、500℃以上800℃以下で二次加熱して、炭化アルミニウム微粒子が炭素で被覆されたカーボン被覆炭化アルミニウムを得ることを特徴とするカーボン被覆炭化アルミニウムの製造方法である。
【0014】
本発明のカーボン被覆炭化アルミニウムを得る際に用いる金属アルミニウム原料については、金属アルミニウム(Al)の純度が95質量%以上、好ましくは98質量%以上であるのが良い。純度が95質量%未満であると、炭化アルミニウム(Al4C3)の合成が、含有される不純物によって妨げられるおそれがある。また、金属アルミニウム原料は、好適には、粉末状の金属アルミニウムを用いるのが良く、好ましくは最大粒径250μm以下、より好ましくは最大粒径200μm以下の金属アルミニウム粉末を用いるのが良い。粉末状の金属アルミニウム原料を用いることで、炭素原料との反応が進み易くなる。一方で、粒径が250μmを超える大きさのものが含まれていると、後述するように、効率的にカーボン被覆炭化アルミニウムを得る目的から、金属アルミニウム原料と炭素原料とを混合粉砕して混合粉砕原料を得る際に、アルミニウムの延性によって粒径を減少させる効果が十分に得られない可能性がある。なお、最大粒径が250μm以下の金属アルミニウム粉末とするには、例えば、目開き250μmの篩を通過した篩下を用いるようにすればよい。
【0015】
炭素原料については、鱗状黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛質のものを使用しても良く、カーボンブラック、活性炭、ピッチ、コークス等の炭素質のものを使用しても良い。この炭素原料は、粉末状のものを用いるのが良く、好ましくは最大粒径200μm以下、より好ましくは最大粒径100μm以下の炭素粉末を用いるのが良い。粒径が200μmを超える大きさのものが含まれると、金属アルミニウム粉末の場合と同様に、混合粉砕原料を得る際に、炭素のクッション性により粒径を減少させる効果が十分に得られない可能性がある。なお、最大粒径が200μm以下の炭素粉末としては、金属アルミニウム粉末の場合と同様に、例えば、目開き200μmの篩を通過した篩下を用いるようにすればよい。
【0016】
また、炭素原料としては、加熱処理中に炭素質に変わるようなフェノール樹脂やエポキシ樹脂等の樹脂を用いることもできる。これらの樹脂のなかには、常温で液状のものも含まれるが、その場合には、金属アルミニウム原料に対して均質に存在し、両者の反応が促進される。なお、炭素原料として樹脂を使用する場合には、事前に、不活性雰囲気中にて1100℃以上で焼成し、残炭率を調べておくのが望ましい。例えばフェノール樹脂の場合、残炭率はおよそ60%であり、事前に調べた残炭率に基づき、金属アルミニウム原料との反応における物質収支を計算することができる。
【0017】
反応に用いる金属アルミニウム原料と炭素原料の割合については、炭化アルミニウムにおける理論比(化学量論係数)の前後となるようにするのが良い。すなわち、これら両者の原料に含まれる炭素(C)とアルミニウム(Al)のモル比(Al/C)が4/3となるのを目安にすればよく、本発明では、炭化アルミニウムを炭素で被覆することを目的とすることから、相対的に炭素(C)が若干多くなるようにし、好ましくは、モル比(Al/C)が4/4〜4/3の範囲となるようにするのが良い。理論当量比の4/3でも良いのは、加熱中、微少量のAlがCと反応する前に蒸発して反応領域外に飛散することがあるためである。なお、このモル比の範囲以外であっても、炭素で被覆された炭化アルミニウムが得られる上では、本発明から外れるものではない。
【0018】
本発明においては、金属アルミニウム原料と炭素原料とが、ともに粉末原料である場合には、予め、金属アルミニウム粉末と炭素粉末とを混合粉砕して、混合粉砕原料にした上で、加熱処理するようにするのが良い。これらの粉末原料を混合粉砕する混合粉砕処理については特に制限されないが、例えば、ボールミル、ヘンシエルミキサー、アトライター等の公知の混錬粉砕機を用いた処理を挙げることができ、好ましくはボールミルで30分以上、さらに好ましくは1時間程度をかけて、均質化が図られた混合粉砕原料を得るようにするのが良い。混合粉砕原料を用いることで、金属アルミニウム原料と炭素原料との反応が促進され、結果として、炭素で被覆された炭化アルミニウムを効率的に得ることができる。
【0019】
そして、本発明では、上記金属アルミニウム原料と炭素原料とを用いて、所定の雰囲気下で加熱処理することで、炭化アルミニウム微粒子が炭素で被覆されたカーボン被覆炭化アルミニウムを得る。この際、加熱処理の雰囲気により、少なくとも次のような2種類の方法で、カーボン被覆炭化アルミニウムを得ることができる。以下では、その2種類の方法について説明するが、本発明のカーボン被覆炭化アルミニウムは、これら以外の製造方法で得られたものであってもよい。
【0020】
先ず、第一の方法は、金属アルミニウム原料と炭素原料とを、炭素源ガス雰囲気下、1100℃以上1800℃以下で加熱処理して、炭化アルミニウム微粒子を炭素で被覆したカーボン被覆炭化アルミニウムを得る方法である。
【0021】
この第一の方法では、加熱処理の温度が1100℃未満であると、炭化アルミニウムの生成が一部確認できるものの、無定形に変化した金属アルミニウムや炭素がそのまま検出されて、炭素で被覆された炭化アルミニウムを殆ど得ることができない。また、加熱処理の温度が1800℃を超えると、Al4C3が昇華するため歩留まりが低下してしまう。加熱処理の時間については、原料の量や加熱温度によっても異なるが、例えば1100℃で1時間程度の加熱によって、炭素で被覆された炭化アルミニウムの生成を確認することができる。そのため、加熱処理の時間は、望ましくは3時間以上であるのが良く、4時間を超えるとその効果は飽和する。
【0022】
また、第一の方法における加熱処理の雰囲気については、炭素源として機能するものであって、金属アルミニウム原料と炭素原料との加熱処理により生成した炭化アルミニウム微粒子を被覆し、炭素被覆層を形成できるようなものであれば良く、例えば、COガスやCO2ガスのほか、炭化水素ガス、水生ガス等が挙げられる。なかでも、生成した炭化アルミニウムが酸化されないようにしながら、炭素で被覆していくのが好適であると考えられることから、好ましくは非酸化雰囲気であるのが良く、より好ましくはCOガス又はCO2ガス雰囲気であるのが良い。また、このような炭素源ガス雰囲気は、効率的にカーボン被覆炭化アルミニウムを形成できるようにするために、金属アルミニウム原料と炭素原料との反応系外から供給されるようにするのが好ましい。なお、炭素原料を金属アルミニウム原料に対して相対的に過剰にしておき、加熱処理により形成されたCOやCO2等の炭素源ガスを利用することも可能である。
【0023】
反応系外から炭素源ガスが供給されるようにする一例として、例えば、反応室内を、金属アルミニウム原料及び炭素原料が収容されて、炭化アルミニウム微粒子が生成する反応領域と、炭素源ガス雰囲気が形成される雰囲気形成領域とに区画すると共に、反応領域と雰囲気形成領域との間を結ぶガス流入経路を設けておくようにするのが良い。そして、反応室内が所定の温度になるように加熱処理して、反応領域内に炭化アルミニウム微粒子を生成させ、雰囲気形成領域から流入した炭素源ガスにより、この炭化アルミニウム微粒子を炭素で被覆するようにする。このように、予め、反応領域と雰囲気形成領域とを区画しておき、雰囲気形成領域から流入した炭素源ガスを利用して、反応領域内を炭素源ガス雰囲気にすることで、反応領域で炭化アルミニウムを生成しながら、効率的にカーボン被覆炭化アルミニウムを得ることができる。
【0024】
上記のようにしてカーボン被覆炭化アルミニウムを得るための具体的な装置構成例としては、例えば、開口部を有して金属アルミニウム原料及び炭素原料が収容される容器部と、この開口部に対応する蓋体とを備えた坩堝を用いて、この坩堝を反応室内に配置し、坩堝内部を反応領域とすると共に坩堝外部を雰囲気形成領域とし、尚且つ、坩堝外部から坩堝内部に炭素源ガスが流入可能となるように、上記坩堝がガス流入経路を備えるようにする。坩堝が備えるガス流入経路は、雰囲気形成領域で形成された炭素源ガスが、坩堝内部に流入可能となるものであれば良く、例えば、開口部を塞ぐ蓋体と容器部との間に形成される隙間を利用しても良く、或いは、蓋体や容器部の一部に貫通孔等を形成するようにしても良い。なお、坩堝の材質については、加熱処理の温度である1100℃以上の耐熱性を有するものであれば特に制限はなく、例えば、粘土質、ムライト質、アルミナ質、マグネシア質等の酸化物系のものや、炭素質、SiC質、Si3N4等の非酸化物系のものを使用することができる。また、反応室は、既製の反応炉を利用したり、耐火物からなる隔壁を使って反応室を形成するなど、特に制限はない。更に、加熱処理に必要な加熱手段については、例えば電気炉等の反応炉に備え付けのものを用いてもよく、或いは、隔壁等で反応室を形成した場合には、抵抗加熱方式や誘導加熱方式等による発熱体を隔壁の周りに配置して、反応室内が所定の温度になるように加熱するようにしてもよい。
【0025】
雰囲気形成領域を炭素源ガス雰囲気にする手段については、COガス、CO2ガス、炭化水素ガス、水生ガス等を充填し又は流通させるようにしても勿論良いが、例えば、坩堝と反応室との間に形成された坩堝外部の雰囲気形成領域に、炭素質又は黒鉛質の炭素粉末からなる炭素材料や、樹脂等の炭素材料を入れておき、反応室内を所定の温度で加熱処理することで、COガス、CO2ガス、炭化水素ガス等の炭素源ガス雰囲気が作り出されるようにするのが良い。このようにすれば、加熱処理によって反応領域内で炭化アルミニウムの生成が進むと共に、雰囲気形成領域で形成された炭素源ガスが炭化アルミニウムに析出して、効率的にカーボン被覆炭化アルミニウムを得ることができる。
【0026】
次に、第二の方法としては、金属アルミニウム原料と炭素原料とを、不活性ガス雰囲気下、1100℃以上1800℃以下で一次加熱し、次いで、酸素源ガス雰囲気下、500℃以上800℃以下で二次加熱して、炭化アルミニウム微粒子を炭素で被覆したカーボン被覆炭化アルミニウムを得る方法である。
【0027】
この第二の方法では、先ず、不活性ガス雰囲気下、1100℃以上1800℃以下の温度で一次加熱して、金属アルミニウム原料と炭素原料とから炭化アルミニウムを生成させる。この一次加熱の温度が1100℃未満であると、Alの一部が無定形の状態で残存してAl4C3の生成量が低下し、反対に1800℃を超えると、昇華反応が起こるため歩留まりが低下してしまう。不活性ガス雰囲気については、He、Ne、Ar等の希ガス類元素に属する元素のような化学的に不活性なガスを用いることができる。一次加熱の時間については、原料の量や加熱温度によっても異なるが、例えば1100℃で1時間程度の加熱により、炭化アルミニウムの生成を確認することができる。そのため、一次加熱の時間は、望ましくは1時間以上であるのが良く、4時間を超えるとその効果は飽和する。
【0028】
次いで、二次加熱では、酸素源ガス雰囲気下、500℃以上800℃以下の温度で加熱することにより、一次加熱で生成した炭化アルミニウムの一部を酸化させ、これによって発生したCOやCO2を炭素源としながら炭素を析出させて、カーボン被覆炭化アルミニウムを得るようにする。そのため、二次加熱の温度が500℃未満であると酸化が起こり難く、炭素で被覆することができない状態になり、反対に800℃を超えると、酸化による消耗が大きくなり過ぎてしまうおそれがある。また、酸素源ガス雰囲気については、O2やCO2を含有するガスのほか、COを含有するガス等を用いることができ、なかでも、反応性や安全性から好適にはO2を含有するガスを用いるのが良い。また、ガス中のO2やCO2の濃度は、高ければより反応が促進されるため好ましい。更に、二次加熱の時間は、原料の量や加熱温度によっても異なるが、例えば500℃で5分間程度の加熱により、炭素で被覆された炭化アルミニウムの生成を確認することができる。そのため、二次加熱の時間は、望ましくは5分以上であるのが良く、30分を超えると酸化が進行しすぎて、生成粒子の酸化防止効果が低下することから30分以下が好ましい。
【0029】
この第二の方法を用いた反応方法では、例えば、反応室内を、金属アルミニウム原料及び炭素原料が収容されて、炭化アルミニウム微粒子が生成する反応領域と、不活性ガス雰囲気が形成される雰囲気形成領域とに区画すると共に、反応領域と雰囲気形成領域との間を結ぶガス流入経路を設けておくようにするのが良い。そして、反応室内が所定の温度になるように一次加熱して、反応領域内に炭化アルミニウム微粒子を生成させ、次いで、雰囲気形成領域を酸素源ガス雰囲気にした上で、反応室内が所定の温度になるように二次加熱して、反応領域内に形成された炭化アルミニウム微粒子の一部を、雰囲気形成領域から流入した酸素源ガスで酸化して炭素源を生成させる。そして、この炭素源によって炭化アルミニウム微粒子を被覆し、カーボン被覆炭化アルミニウムを得るようにする。
【0030】
このようにして、第二の方法によりカーボン被覆炭化アルミニウムを得るための具体的な装置構成例としては、第一の方法で例示したようなものを用いることができる。
【0031】
上記のような第一の方法及び第二の方法による加熱処理後(第二の方法では二次加熱後)には、黒色を呈した反応物であって、炭化アルミニウム微粒子が炭素で被覆されたカーボン被覆炭化アルミニウムが得られる。加熱処理後の反応物の多くは塊状であり、これをそのまま、例えば炭素含有耐火物の原料に混ぜて、酸化防止剤として使用しても良く、或いは、解砕して粉末状のカーボン被覆炭化アルミニウムにして、酸化防止剤や導電性セラミックス等の材料として使用するようにしても良い。また、第一の方法の場合には、加熱処理後の塊状の反応物を解砕した後、これを再び、炭素源ガス雰囲気下、1100℃以上1800℃以下で加熱処理するようにしても良い。すなわち、解砕処理を介して、所定の加熱処理を2回以上繰り返すようにすることで、一部未反応の原料が残った場合でも、確実にこれを消費しながら反応を進めることができる。同じく、第二の方法の場合では、二次加熱後の塊状の反応物を解砕した後、これを再び、不活性ガス雰囲気下、1100℃以上1800℃以下で一次加熱し、次いで、酸素源ガス雰囲気下、500℃以上800℃以下で二次加熱するようにしても良い。このように、二次加熱後に行う解砕処理を介して、一次加熱及び二次加熱からなる加熱処理を2回以上繰り返すことで、確実に反応を進めることができる。
【0032】
本発明のカーボン被覆炭化アルミニウムは、上述したように、金属アルミニウム原料と炭素原料とから生成した炭化アルミニウムを、炭素が被覆して黒色を呈している。通常、炭化アルミニウムは黄色を呈しており、水に合うと室温でもすぐに分解してメタンを発生するが、本発明によって得られたカーボン被覆炭化アルミニウムは、大気中でも安定である。そして、このカーボン被覆炭化アルミニウムを透過型電子顕微鏡(TEM)で観察すると、1〜10μm程度の炭化アルミニウムの微粒子の周りを、炭素で被覆していることが確認できる。これを詳細に観察すると、炭化アルミニウム微粒子が、10〜40nm程度の中間層を介して、1〜10nm程度の炭素被覆層によって被覆されたものが確認できる。この中間層を分析すると、中間層がアルミニウム窒化物からなる場合と、アルミニウム酸化物からなる場合との少なくとも2種類が存在することが分った。いずれにしても、本発明のカーボン被覆炭化アルミニウムは、最表面が炭素によって覆われており、炭化アルミニウムが示す水和反応性は封じられて、大気中でも安定なものである。
【発明の効果】
【0033】
本発明のカーボン被覆炭化アルミニウムは大気中でも安定であるため、例えば、炭素含有耐火物における酸化防止剤や、導電性セラミックス等の材料など、炭化アルミニウムが備えた特性を十分活かしながら、幅広い分野で使用することができるようになる。また、大気中で安定であることから、その取引形態に制約がなく、新たな材料の開発や応用利用が期待でき、工業的な意義も大きい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、実施例1においてカーボン被覆炭化アルミニウムの製造に用いた反応装置の様子を示す断面模式図である。
【図2】図2の(A)は、実施例1で得た反応物の写真であり、図2の(B)は、比較例2で得た反応物の写真であり、これらのうち、(1)は加熱処理を1度実施したもの、(2)は加熱処理を2度実施したもの、(3)は2度目の加熱処理後に水中に24時間浸漬して乾燥させたものを、それぞれ示す。
【図3】図3は、実施例1で加熱処理を1度実施して得られた反応物の粉末X線回折の結果を示す。
【図4】図4は、実施例1で加熱処理を2度実施して得られた反応物の粉末X線回折の結果を示す。
【図5】図5は、実施例1で行った水和実験24時間経過後の反応物の粉末X線回折の結果を示す。
【図6】図6は、実施例及び比較例で得られた反応物を大気中で3日間放置した後の様子を示す写真であり、(A)は実施例1で得た反応物の場合、(B)は比較例2で得た反応物の場合である。
【図7】図7は、実施例1で加熱処理を2度実施して得られた反応物を水中に投下する水和実験の様子を示す写真である。
【図8】図8は、比較例2で加熱処理を1度実施して得られた反応物の粉末X線回折の結果を示す。
【図9】図9は、比較例2で加熱処理を2度実施して得られた反応物の粉末X線回折の結果を示す。
【図10】図10は、比較例2で行った水和実験24時間経過後の反応物の粉末X線回折の結果を示す。
【図11】図11は、実施例1で得られた反応物の粒子をTEM観察した写真である。
【図12】図12は、図11のTEM写真に示した(a)の箇所のEDS分析結果、及びラティスパターンである。
【図13】図13は、図11のTEM写真に示した(b)の箇所のEDS分析結果、及びラティスパターンである。
【図14】図14は、図11のTEM写真に示した(c)の箇所のEDS分析結果、及びラティスパターンである。
【図15】図15は、実施例1で得られた反応物の別の粒子をTEM観察した写真である。
【図16】図16は、図13のTEM写真に示した(a)の箇所のEDS分析結果、及びラティスパターンである。
【図17】図17は、図13のTEM写真に示した(b)の箇所のEDS分析結果、及びラティスパターンである。
【図18】図18は、図13のTEM写真に示した(c)の箇所のEDS分析結果、及びラティスパターンである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、実施例に基づき、本発明をより詳細に説明する。
【実施例】
【0036】
[実施例1]
(加熱処理1回目)
図1に示されるような反応装置Xを用いて、以下のようにして本発明に係るカーボン被覆炭化アルミニウムを製造した。
反応装置Xは、反応室1と、これに収容される坩堝3と、反応室1内を所定の温度に加熱することができる発熱体5とを備える。このうち、反応室1は、炭化珪素製の隔壁を使って作製され、17cm×28cm×15cmの容積を持ち、かつ、密閉状態に組み立てられた箱型反応室である。この箱型反応室1の中には、炭素材料として3900gの炭素粉末(コークス)2が入れられ、この炭素粉末2に埋まるようにして、箱型反応室1のなかに坩堝3が収容される。この坩堝3には、200gの混合粉砕原料4が入れられる。そして、箱型反応室1の外側を取り囲むように、シリコニット方式の発熱体5が配置される。
【0037】
上記の坩堝3は、高さ10cm、内径φ10cmの開口部を有した坩堝容器3aと、開口部に対応する坩堝蓋(蓋体)3bとを有しており、坩堝容器3aと坩堝蓋3bとは、いずれもアルミナ質からなる。また、開口部を塞ぐ坩堝蓋3bと坩堝容器3aとの間には、図示外のアルミナ製スペーサーを介して、1.6mm程度の隙間dが形成されるようになっている。また、坩堝3に入れた混合粉砕原料4は、目開き200μmの篩を通過した最大粒径が200μm以下の金属アルミニウム粉末(純度98質量%)と、目開き100μmの篩を通過した最大粒径が100μm以下の鱗状黒鉛とを、炭素(C)とアルミニウム(Al)のモル比(Al/C)が4/3となるように秤量し、ボールミル(アサヒ理化製作所社製AV-2型)で1時間混錬粉砕したものである。
【0038】
そして、発熱体5による加熱によって反応室1内を1100℃にして、坩堝3の内側を反応領域とすると共に、坩堝3の外側に雰囲気形成領域を形成して、3時間の加熱処理を行った。その後、反応室1内が室温になるまで24時間放置した後、反応室1から坩堝3を取り出して、外観が黒色の塊状の反応物218gを得た。次いで、この加熱処理後の反応物を、上記と同じボールミルで1時間粉砕し、目開き300μmの篩下の黒色粉末を回収した。図2の(A)−(1)に、篩下の回収物の写真を示す。なお、雰囲気形成領域は、炭素粉末2が加熱処理されて、COガスのほか、CO2ガスが形成される。
【0039】
また、上記で得られた篩下の回収物の一部を、粉末X線回折により分析した。測定にはマックサイエンス社製M18Xceを使用し、CuKα線を照射X線として、電圧40kV、電流200mA、走査範囲:2θ(回折角)=5〜95°、及び走査速度5°/minの各条件で分析を行った。その結果を図3に示す。図3の上段が回収物のX線回折結果である。図3の中段は、JCPDSカード(番号35-0799)のAl4C3(炭化アルミニウム)データを示し、下段は、JCPDSカード(番号26-1077)のC(炭素)データを示す。上段に示したX線回折結果から明らかなように、回収物には、Al4C3に対応するピークとCに対応するピークが含まれることが分った。更に、回収物の一部を別途大気中で3日間放置して水和反応の進行を確認したところ、図6(A)に示した写真のとおり、外観上黒色のままであり、重量の変化は約2%の増加にとどまった。この増加分は、大気中の水との反応と考えられるが、白色のAl(OH)3が生成する炭化アルミニウムの水和反応の進行は抑制されることが確認された。
【0040】
(加熱処理2回目)
次いで、反応室1に入れた炭素粉末2の全量を新しいものに交換した上で、上記で得られた篩下の回収物160gを再度坩堝3に入れて、先の場合と同様に、1100℃で3時間の加熱処理を行った。そして、反応室1内が室温になるまで24時間放置し、反応室1から坩堝3を取り出して、外観が黒色の粉末焼結体状の反応物162gを得た。このようにして2度目の加熱処理を行って得た反応物を、先の場合と同様にボールミルにて1時間粉砕し、目開き300μmの篩下の黒色粉末を回収した。図2の(A)−(2)に、篩下の回収物の写真を示す。
【0041】
また、2度目の加熱処理を行って得た篩下の回収物の一部を、先の場合と同様にして、粉末X線回折により分析した。その結果を図4に示す。図4の上段に示した結果から明らかなように、2回目の加熱処理後の粉末X線回折結果は、1回目の結果から殆んど変化はなく、Al4C3に対応するピークとCに対応するピークが含まれることが分った。なお、1回目の加熱処理を数回再現実験したところ、僅かながらAlに対応するピークが見られる場合があったが、それぞれに対して、2回目の加熱処理を行った結果では、Alに対応するピークは見られなかった。仮に、少量のAlが残存していたとしても、反応物全体としてはその影響は僅かであり、例えば耐火物の酸化防止剤として用いた場合に、その機能に問題は無いと考えられる。
【0042】
また、2度目の加熱処理を行って得た篩下の回収物3gを、90mlの水が入った100mlビーカーに入れて、水和実験を実施した。ちなみに、実験時の水温は約25℃である。回収物を投入した直後は、図7(1)に示すように、回収物は水面に浮いた状態であり、72時間経過後は、図7(2)に示すように、ほぼ全量がビーカーの底に沈んだ。仮に、水に投下した回収物が、未反応の鱗状黒鉛粒子により黒色化したものであったとすれば、水面に浮いた状態になるはずであるが、この水和実験では、72時間経過後に水面に浮いた黒鉛粒子は殆んど確認されなかった。また、72時間経過後に水底に沈んだ回収物は黒色のままであり、水和による白濁現象も認められなかった。水和実験の途中、24時間経過した時点で水底に沈んだ回収物を一部取り出し、ろ過した回収物を120℃で120分乾燥させたものを、先の場合と同様にして、粉末X線回折により分析した。その結果は図5に示すとおりであり、水中に浸漬した回収物であっても、Al4C3に対応するピークとCに対応するピークに変化は無かった。このことは、水和実験の結果と符合し、Al4C3の水和による分解は起きておらず、また、X線回折で確認された炭素(C)は、未反応の黒鉛粒子によるものでもないと考えられる。ちなみに、水和実験の途中、24時間経過後に取り出して乾燥させたものの写真は図2の(A)−(3)に示すとおりであり、加熱処理直後のものと同様に黒色を呈した粉末状のままであった。なお、図5のX線回折結果は、水和実験前のものと比べて、若干ブロードなピークになっているが、これは何らかの原因により、回収物が一部アモルファス化したことが推測される。
【0043】
更には、上記で水和実験を行ったAl4C3の構造解析を行うために、水和実験終了後の回収物を乾燥させ、そのうち微量の回収物(黒色粒子)を、コロジオン膜(マイクログリッド)の張った3mmφのCuメッシュ上に粉末振り掛け法によって付着させ、TEM観察用の試料片を作製した。この試料片を200kV−電界放出型透過電子顕微鏡(JEM-2100F:日本電子製)を用いて観察し、EDS分析(エネルギー分散型X線分光分析)により元素分析を行った。なお、EDS分析には、JED−2300T(日本電子製)を用いた。
【0044】
これらの分析の結果、回収物には、i)Al4C3の表面に、AlNを介してCが被覆している粒子と、ii)Al4C3の表面に、Al酸化物を介してCが被覆している粒子との2種類が存在していることが確認された。図11は、i)の粒子のTEM観察写真であり、これより、Al4C3粒子の表面に、厚さ15〜20nm程度のAlNを介して、厚さ10〜20nm程度の炭素被覆層が形成されていることが分かる。このことは、図12〜図14に示したEDS分析結果、及びラティスパターンから確認することができる。すなわち、図11のTEM写真に示した(a)、(b)、(c)の箇所を、それぞれプローブ径1nmでEDS分析及び電子線回折したところ、図12に示したように、(a)の箇所では、図に記載しているようにAl4C3結晶の電子線回折パターンが確認され、EDS分析での組成分析から結晶性のAl4C3であることが分かる。また、図13に示したように、(b)の箇所では、AlN結晶の電子線回折パターンが確認され、EDS分析での組成分析から結晶性のAlNであることが分る。更に、図14に示したように、(c)の箇所では、電子線回折パターンが確認され、EDS分析からC(グラファイト)であることが分った。
【0045】
また、図15はii)の粒子のTEM写真であり、これより、Al4C3粒子の表面に、厚さ10〜20nm程度のAl酸化物を介して、厚さ3〜10nm程度の炭素被覆層が形成されていることが分かる。このことは、図16〜図18に示したEDS分析結果、及びラティスパターンから確認することができる。すなわち、図15のTEM写真に示した(a)、(b)、(c)の箇所を、それぞれプローブ径1nmでEDS分析し、電子線回折したところ、図16に示したように、(a)の箇所では、図に記載しているようにAl4C3結晶の電子線回折パターンが確認され、EDS分析での組成分析から結晶性のAl4C3であることが分った。また、図17に示したように、(b)の箇所では、ハローパターンの電子線回折が得られ、EDS分析からアモルファスのAl酸化物であることが分った。更に、図18に示したように、(c)の箇所では、グラファイトの回折パターンが確認され、EDS分析からC(グラファイト)であることが分った。これら2種類の粒子に含まれる中間層(AlN、Al酸化物)の由来は、現時点で定かではないが、混合粉砕原料中に残存していた空気が、加熱処理で生成したAl4C3の表面に取り込まれたと考えられる。そして、この中間層の表面に、炭素源がグラフェン層のように積層して炭素被覆層を形成したと推測している。いずれにしても、この炭素被覆層の存在により、Al4C3の水和反応性が抑制されていることは確かである。
【0046】
以上説明したように、この実施例1により、炭化アルミニウムが炭素によって被覆されたカーボン被覆炭化アルミニウムが得られたことが分る。炭化アルミニウムと炭素被覆層との間には、その分析によってAlNやAl酸化物からなる中間層の存在も確認されるが、炭化アルミニウムの水和反応性が封じられるような炭素被覆層が形成されたものが、本発明のカーボン被覆炭化アルミニウムと言うことができる。また、一部に、鱗状黒鉛を核にしてAl4C3が形成され、これが炭素で被覆されたものも含まれていることも考えられるが、これについても同様に、本発明のカーボン被覆炭化アルミニウムと言うことができる。
【0047】
[実施例2]
目開き250μmの篩を通過した最大粒径が250μm以下の金属アルミニウム粉末(純度98質量%)と、目開き100μmの篩を通過した最大粒径が100μm以下の鱗状黒鉛とを、炭素(C)とアルミニウム(Al)のモル比(Al/C)が4/3となるように秤量し、ボールミルで1時間混錬粉砕した混合粉砕原料200gを、実施例1と同じ坩堝に入れた。そして、雰囲気制御が可能な電気炉(広築社製)に上記坩堝を収容し、この電気炉内を反応室として、流量10リットル/minでCOガスを供給しながら、坩堝の内部を反応領域とすると共に、坩堝3の外側を雰囲気形成領域として、1100℃で3時間の加熱処理を行った。
【0048】
加熱処理後、電気炉内が室温になるまで24時間放置し、電気炉から坩堝を取り出して、外観が黒色の塊状の反応物を212g得た。次いで、この反応物を実施例1と同様に、ボールミルにて1時間粉砕し、目開き300μmの篩下の黒色粉末を回収した。そして、この回収物の一部を、実施例1と同様に粉末X線回折で分析したところ、実施例1で得られた加熱処理1度の場合のX線回折結果と同じく、Al4C3に対応するピークとCに対応するピークが検出されると共に、Alのピークも確認され、未反応のAlが存在していることが分った。
【0049】
次いで、上記で得られた篩下の回収物160gを再度坩堝に入れ、先の場合と同様に、CO気流中で1100℃、3時間の加熱処理を行った。加熱処理後、電気炉内が室温になるまで24時間放置し、電気炉から坩堝を取り出して、外観が黒色の粉末焼結体状の反応物161gを得た。2度の加熱処理を行って得た反応物を、先の場合と同様にボールミルにて1時間粉砕し、目開き300μmの篩下の黒色粉末を回収した。そして、この回収物の一部を粉末X線回折で分析したところ、ピーク強度は若干弱まりながらもAlのピークは存在したが、Al4C3に対応するピークとCに対応するピークがそれぞれ確認された。
【0050】
[実施例3]
目開き250μmの篩を通過した最大粒径が250μm以下の金属アルミニウム粉末(純度98質量%)と、目開き100μmの篩を通過した最大粒径が100μm以下の鱗状黒鉛とを、炭素(C)とアルミニウム(Al)のモル比(Al/C)が4/3となるように秤量し、ボールミルで1時間混錬粉砕した混合粉砕原料100gを、実施例1と同じ坩堝に入れた。そして、雰囲気制御が可能な電気炉(広築社製)に上記坩堝を収容し、この電気炉内を反応室として、流量10リットル/minでCO2ガスを供給しながら、坩堝の内部を反応領域とすると共に、坩堝3の外側を雰囲気形成領域として、1100℃で3時間の加熱処理を行った。なお、この加熱処理により、雰囲気形成領域には、CO2ガスのほか、より安定なCOガスも形成される。
【0051】
加熱処理後、電気炉内が室温になるまで24時間放置し、電気炉から坩堝を取り出して、外観が黒色の塊状の反応物を117g得た。次いで、この反応物を実施例1と同様に、ボールミルにて1時間粉砕し、目開き300μmの篩下の黒色粉末を回収した。この回収物の一部を、実施例1と同様に、水が入った100mlビーカーに入れる水和実験を行ったが、24時間経過後も黒色粉末のままであり、炭化アルミニウムが炭素で被覆されたことが分った。
【0052】
[実施例4]
目開き200μmの篩を通過した最大粒径が200μm以下の金属アルミニウム粉末(純度98質量%)と、目開き200μmの篩を通過した最大粒径が200μm以下の鱗状黒鉛とを、炭素(C)とアルミニウム(Al)のモル比(Al/C)が4/3となるように秤量し、ボールミルで1時間混錬粉砕した混合粉砕原料200gを、実施例1と同じ坩堝に入れた。この坩堝を実施例1と同じ箱型反応室に入れ、炭素粉末2は一切入れずに密閉した。
【0053】
次いで、反応室1内をArガスで置換して坩堝3の外側にArガス雰囲気を形成し、更に、坩堝3の外側にArガスを流しながら1100℃で3時間の加熱処理(一次加熱)を行った。その後、Arガス雰囲気下で700℃まで炉冷し、Arガスの流入を止めた。次いで、坩堝3の外側の雰囲気形成領域が酸素ガス雰囲気になるように、酸素ガスを10L/min流しながら700℃で5分間の加熱処理(二次加熱)を行った。その後、雰囲気形成領域を再度Arガス雰囲気に置換し、反応室1内が室温になるまで24時間炉冷した。そして、反応室1から坩堝3を取り出して、外観が黒色の塊状の反応物211gを得た。
【0054】
実施例4に係る上記反応は、後述する比較例2と比べて、Arガス雰囲気下で700℃まで炉冷した上で、酸素ガス雰囲気下で700℃、5分間の二次加熱を行った点で異なるが、比較例2では黄色の反応物(Al4C3粒子)が得られたのに対し、この実施例4では黒色の反応物が生成した。この理由については、一次加熱で生成したAl4C3が、二次加熱の際の酸化ガス雰囲気により酸化されてAl2O3が生成すると同時に、反応系内にCOやCO2が存在するようになり、これらの炭素源に由来して、炭化アルミニウムが炭素で被覆したものと考えられる。すなわち、この実施例4では、混合粉砕原料に含まれた炭素の一部を炭素源としても利用できることを示している。
【0055】
[比較例1]
実施例1における箱型反応室1に炭素材料としての炭素粉末2を一切入れずに、坩堝3を収容し、坩堝3の外側が大気雰囲気のまま加熱されるようにした以外は実施例1と同様にして、1100℃で3時間の加熱処理を行った。
【0056】
加熱処理後、反応室内が室温になるまで24時間放置して、反応室1から坩堝3を取り出したところ、坩堝内の反応物は、坩堝容器に沿って外周部分が白色であり、中央部分は黄色を呈していた。それぞれの部分から反応物を回収して、実施例1と同様に粉末X線回折で分析したところ、外周部分の白色を呈した反応物はアルミナ(Al2O3)であり、中央部分の黄色を呈した反応物は、アルミナと炭化アルミニウムとから構成されていることが確認された。
【0057】
[比較例2]
混合粉砕原料に用いる鱗状黒鉛を、目開き200μmの篩を通過した最大粒径が200μm以下のものを使用し、また、実施例1における箱型反応室1に炭素材料としての炭素粉末2を一切入れずに坩堝3を収容した上で、箱型反応装置内をArガスで置換して、坩堝3の外側にAr雰囲気を形成して加熱するようにした以外は実施例1と同様にして、1100℃で3時間の加熱処理を行った。
【0058】
加熱処理後、反応室内が室温になるまで24時間放置した後、反応室1から坩堝3を取り出して、外観が黄色の粉末焼結体状の反応物205gを得た。次いで、この加熱処理後の反応物を実施例1と同様にボールミルで1時間粉砕し、目開き300μmの篩下の黄色粉末を回収した。図2の(B)−(1)に、篩下の回収物の写真を示す。また、この回収物の一部を、実施例1と同様にして粉末X線回折で分析したところ、図8に示すように、Cのデータの位置にわずかなピークを確認することができるが、殆んどがAl4C3に対応するピークであった。更に、回収物の一部を別途大気中で3日間放置して水和反応の進行を確認したところ、図6(B)に示した写真のとおり、その外観は白色化し、約40%の重量増加が確認された。これは、回収物が大気中の水分と反応して、下記式のように水酸化アルミニウムが生成したためと考えられる。
Al4C3+12H2O→4Al(OH)3+3CH4
【0059】
次いで、上記で得られた篩下の回収物160gを再度坩堝3に入れ、先の場合と同様にしてAr置換した後、1100℃で3時間の加熱処理を行った。そして、反応室内が室温になるまで24時間放置し、反応室1から坩堝3を取り出して、外観が黄色の粉末焼結体状の反応物160gを得た。この反応物を、先の場合と同様にボールミルにて1時間粉砕し、目開き300μmの篩下の黄色粉末を回収した。図2の(B)−(2)に篩下の回収物の写真を示すが、1度目の加熱処理後のものと比べて、鮮やかな黄色を呈していた。この回収物の一部を、先の場合と同様にして粉末X線回折で分析したところ、図9に示すように、Cのピークはほぼ確認できないレベルまで低減し、ほぼ全てがAl4C3に対応するピークであった。
【0060】
2度の加熱処理を行って得た篩下の回収物について、実施例1と同様に、水の入ったビーカーに入れる水和実験を実施した。24時間経過したところで回収し、ろ過した回収物を120℃で120分乾燥させたものを、先の場合と同様にして、粉末X線回折により分析した。その結果を図10に示す。図10の上段は水和実験後の回収物のX線回折結果であり、下段はJCPDSカード(番号20-0011)のAl(OH)3のデータである。これから明らかなように、水和実験24時間経過後は、Al4C3に対応するピークは全て消失し、代わりにAl(OH)3に対応するピークが確認された。
【0061】
以上の結果より、Arガスのような不活性雰囲気で加熱処理することで、坩堝内における反応領域での酸化を防止して、黄色のAl4C3を合成することは可能であったが、Al4C3の水和反応性を封じるような目的物を得ることはできなかった。
【0062】
[酸化試験]
上記実施例1で2度目の加熱処理を行って得た篩下の回収物(カーボン被覆炭化アルミニウム)と、上記比較例2で2度の加熱処理を行って得た篩下の回収物(炭化アルミニウム)との2種類について、それぞれ目開き45μmの篩の篩下を用いて、以下のようにして、酸化防止剤としての機能を評価するための酸化試験を行った。その際、比較対象として、炭素含有耐火物の酸化防止剤として一般的に使用されている市販のSiC粉末、及び市販の金属アルミニウム粉末を用意し、それぞれ目開き45μmの篩の篩下を準備した。
【0063】
そして、市販されている粒径70〜100μmの鱗状黒鉛粒子を用意し、この鱗状黒鉛粒子10gに対して、上記で準備した4種類の粉末を外掛けで1g添加して混合し、4種類の試験用試料を作成した。これらを、それぞれ直径3cmのアルミナ坩堝に入れ、その坩堝を大気下の炉内に入れて、昇温速度5℃/minで700℃に加熱してその温度で1時間保持した場合、昇温速度5℃/minで800℃に加熱してその温度で1時間保持した場合、及び、昇温速度5℃/minで1000℃に加熱してその温度で1時間保持した場合について、それぞれの炉冷後の質量を測定した。質量測定結果を表1に示す。なお、対照試験として、酸化防止剤を添加しないで鱗状黒鉛粒子11gをアルミナ坩堝に入れたものについても、それぞれ炉冷後の質量を測定した。
【0064】
【表1】
【0065】
上記試験結果より、いずれの温度で保持した場合においても、酸化防止剤を添加していないものが最軽量であり、残存質量から考察すれば、鱗状黒鉛粒子に対する酸化防止剤としての機能は、SiC粉末や金属アルミニウム粉末に比べて、実施例1の回収物と比較例2の回収物の方が優れていることが分った。このことは、実施例1の回収物と比較例2の回収物は、いずれも、酸化試験の保持温度である700℃〜1000℃の温度で連続的に大気中の酸素と暴露されると、それ自身が消耗するため、耐火物中に含まれる鱗状黒鉛の酸化損耗の絶対量を削減できることが予想される。そして、実施例1の回収物と比較例2の回収物とでは、比較例2の回収物の方が酸化防止剤としての機能は僅かに優れるが、前述したように、比較例2の回収物(炭化アルミニウム)は大気中での安定性に劣る欠点がある。これに対して、本発明に係る実施例1の回収物(カーボン被覆炭化アルミニウム)は大気中での安定性に優れており、市販の酸化防止剤を凌ぐ性能を備えることが確認された。その理由については、本発明のカーボン被覆炭化アルミニウムが、大気下で700℃以上の高温に暴露されると、表層面の炭素被覆層は先ず燃焼されて、次いで、核となるAl4C3との熱膨張差により、中間層のAlNやAl酸化物に微細なクラックが生じ、Al4C3粒子の少なくとも一部が露出して、これが鱗状黒鉛粒子に比べて選択的かつ優先的に酸化されることで、鱗状黒鉛粒子の酸化を抑制したものと推察される。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明で得られるカーボン被覆炭化アルミニウムは、水和反応性が封じられながらも、炭化アルミニウムが備えた特性を活用することができるため、例えば、炭素含有耐火物に添加する酸化防止剤として利用することができるほか、導電性を示す炭化アルミニウムの表面が良導電材料の炭素で被覆されていることから、例えば、通電抵抗加熱用発熱体や高温通電用部材のような、導電性セラミックスとしても利用することができ、更には、通電加熱ロール等への応用も可能である。
【符号の説明】
【0067】
1:反応装置
2:炭素粉末
3:坩堝
3a:坩堝容器
3b:坩堝蓋
4:混合粉砕原料
5:発熱体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化アルミニウム微粒子が、炭素で被覆されたことを特徴とするカーボン被覆炭化アルミニウム。
【請求項2】
炭化アルミニウム微粒子が、アルミニウム窒化物又はアルミニウム酸化物からなる中間層を介して、炭素で被覆されたことを特徴とする請求項1に記載のカーボン被覆炭化アルミニウム。
【請求項3】
炭素含有耐火物の原料に混ぜて、酸化防止剤として使用する請求項1又は2に記載のカーボン被覆炭化アルミニウム。
【請求項4】
金属アルミニウム原料と炭素原料とを、炭素源ガス雰囲気下、1100℃以上1800℃以下で加熱処理して、炭化アルミニウム微粒子が炭素で被覆されたカーボン被覆炭化アルミニウムを得ることを特徴とするカーボン被覆炭化アルミニウムの製造方法。
【請求項5】
反応室内を、金属アルミニウム原料及び炭素原料が収容されて、炭化アルミニウム微粒子が生成する反応領域と、炭素源ガス雰囲気が形成される雰囲気形成領域とに区画すると共に、反応領域と雰囲気形成領域との間を結ぶガス流入経路を設けておき、
反応室内が1100℃以上1800℃以下になるように加熱する加熱処理によって、反応領域内に炭化アルミニウム微粒子を生成させると共に、雰囲気形成領域から流入した炭素源ガスにより、該炭化アルミニウム微粒子を炭素で被覆する請求項4に記載のカーボン被覆炭化アルミニウムの製造方法。
【請求項6】
加熱処理の時間が1時間以上4時間以下である請求項4又は5に記載のカーボン被覆炭化アルミニウムの製造方法。
【請求項7】
加熱処理後に行う解砕処理を介して、加熱処理を2回以上繰り返す請求項4〜6のいずれかに記載のカーボン被覆炭化アルミニウムの製造方法。
【請求項8】
金属アルミニウム原料と炭素原料とを、不活性ガス雰囲気下、1100℃以上1800℃以下で一次加熱し、次いで、酸素源ガス雰囲気下、500℃以上800℃以下で二次加熱して、炭化アルミニウム微粒子が炭素で被覆されたカーボン被覆炭化アルミニウムを得ることを特徴とするカーボン被覆炭化アルミニウムの製造方法。
【請求項9】
反応室内を、金属アルミニウム原料及び炭素原料が収容されて、炭化アルミニウム微粒子が生成する反応領域と、不活性ガス雰囲気が形成される雰囲気形成領域とに区画すると共に、反応領域と雰囲気形成領域との間を結ぶガス流入経路を設けておき、
反応室内が1100℃以上1800℃以下になるように一次加熱して、反応領域内に炭化アルミニウム微粒子を生成させ、
次いで、雰囲気形成領域を酸素源ガス雰囲気にした上で、
反応室内が500℃以上800℃以下になるように二次加熱して、反応領域内に形成された炭化アルミニウム微粒子の一部を、雰囲気形成領域から流入した酸素源ガスで酸化して炭素源を生成させ、該炭素源による炭素で炭化アルミニウム微粒子を被覆する請求項8に記載のカーボン被覆炭化アルミニウムの製造方法。
【請求項10】
一次加熱の時間が1時間以上4時間以下であり、二次加熱の時間が5分間以上30分間以下である請求項8又は9に記載のカーボン被覆炭化アルミニウムの製造方法。
【請求項11】
二次加熱後に行う解砕処理を介して、一次加熱及び二次加熱からなる加熱処理を2回以上繰り返す請求項8〜10のいずれかに記載のカーボン被覆炭化アルミニウムの製造方法。
【請求項12】
金属アルミニウム原料が、最大粒径250μm以下の金属アルミニウム粉末である請求項4〜11のいずれかに記載のカーボン被覆炭化アルミニウムの製造方法。
【請求項13】
炭素原料が、最大粒径200μm以下の炭素粉末である請求項4〜11のいずれかに記載のカーボン被覆炭化アルミニウムの製造方法。
【請求項14】
金属アルミニウム原料に含まれるアルミニウム(Al)と、炭素原料に含まれる炭素(C)とのモル比(Al/C)が、4/4〜4/3の範囲である請求項4〜13のいずれかに記載のカーボン被覆炭化アルミニウムの製造方法。
【請求項1】
炭化アルミニウム微粒子が、炭素で被覆されたことを特徴とするカーボン被覆炭化アルミニウム。
【請求項2】
炭化アルミニウム微粒子が、アルミニウム窒化物又はアルミニウム酸化物からなる中間層を介して、炭素で被覆されたことを特徴とする請求項1に記載のカーボン被覆炭化アルミニウム。
【請求項3】
炭素含有耐火物の原料に混ぜて、酸化防止剤として使用する請求項1又は2に記載のカーボン被覆炭化アルミニウム。
【請求項4】
金属アルミニウム原料と炭素原料とを、炭素源ガス雰囲気下、1100℃以上1800℃以下で加熱処理して、炭化アルミニウム微粒子が炭素で被覆されたカーボン被覆炭化アルミニウムを得ることを特徴とするカーボン被覆炭化アルミニウムの製造方法。
【請求項5】
反応室内を、金属アルミニウム原料及び炭素原料が収容されて、炭化アルミニウム微粒子が生成する反応領域と、炭素源ガス雰囲気が形成される雰囲気形成領域とに区画すると共に、反応領域と雰囲気形成領域との間を結ぶガス流入経路を設けておき、
反応室内が1100℃以上1800℃以下になるように加熱する加熱処理によって、反応領域内に炭化アルミニウム微粒子を生成させると共に、雰囲気形成領域から流入した炭素源ガスにより、該炭化アルミニウム微粒子を炭素で被覆する請求項4に記載のカーボン被覆炭化アルミニウムの製造方法。
【請求項6】
加熱処理の時間が1時間以上4時間以下である請求項4又は5に記載のカーボン被覆炭化アルミニウムの製造方法。
【請求項7】
加熱処理後に行う解砕処理を介して、加熱処理を2回以上繰り返す請求項4〜6のいずれかに記載のカーボン被覆炭化アルミニウムの製造方法。
【請求項8】
金属アルミニウム原料と炭素原料とを、不活性ガス雰囲気下、1100℃以上1800℃以下で一次加熱し、次いで、酸素源ガス雰囲気下、500℃以上800℃以下で二次加熱して、炭化アルミニウム微粒子が炭素で被覆されたカーボン被覆炭化アルミニウムを得ることを特徴とするカーボン被覆炭化アルミニウムの製造方法。
【請求項9】
反応室内を、金属アルミニウム原料及び炭素原料が収容されて、炭化アルミニウム微粒子が生成する反応領域と、不活性ガス雰囲気が形成される雰囲気形成領域とに区画すると共に、反応領域と雰囲気形成領域との間を結ぶガス流入経路を設けておき、
反応室内が1100℃以上1800℃以下になるように一次加熱して、反応領域内に炭化アルミニウム微粒子を生成させ、
次いで、雰囲気形成領域を酸素源ガス雰囲気にした上で、
反応室内が500℃以上800℃以下になるように二次加熱して、反応領域内に形成された炭化アルミニウム微粒子の一部を、雰囲気形成領域から流入した酸素源ガスで酸化して炭素源を生成させ、該炭素源による炭素で炭化アルミニウム微粒子を被覆する請求項8に記載のカーボン被覆炭化アルミニウムの製造方法。
【請求項10】
一次加熱の時間が1時間以上4時間以下であり、二次加熱の時間が5分間以上30分間以下である請求項8又は9に記載のカーボン被覆炭化アルミニウムの製造方法。
【請求項11】
二次加熱後に行う解砕処理を介して、一次加熱及び二次加熱からなる加熱処理を2回以上繰り返す請求項8〜10のいずれかに記載のカーボン被覆炭化アルミニウムの製造方法。
【請求項12】
金属アルミニウム原料が、最大粒径250μm以下の金属アルミニウム粉末である請求項4〜11のいずれかに記載のカーボン被覆炭化アルミニウムの製造方法。
【請求項13】
炭素原料が、最大粒径200μm以下の炭素粉末である請求項4〜11のいずれかに記載のカーボン被覆炭化アルミニウムの製造方法。
【請求項14】
金属アルミニウム原料に含まれるアルミニウム(Al)と、炭素原料に含まれる炭素(C)とのモル比(Al/C)が、4/4〜4/3の範囲である請求項4〜13のいずれかに記載のカーボン被覆炭化アルミニウムの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図16】
【図17】
【図18】
【図11】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図16】
【図17】
【図18】
【図11】
【図15】
【公開番号】特開2011−98878(P2011−98878A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−88745(P2010−88745)
【出願日】平成22年4月7日(2010.4.7)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月7日(2010.4.7)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
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