説明

ガス供給システム

【課題】ガス導管に接続した供給設備から供給される燃料用ガスの成分比を監視することにより、燃料用ガスの成分によるガス消費機器への影響を抑制する。
【解決手段】燃料用ガスの供給設備1bをガス導管3に接続する接続用管路5に遮断弁12を設けるとともに、接続用管路3を通過する燃料用ガスの成分を監視する成分監視装置11を設ける。ガス導管3にはガスエンジン4が接続され、成分監視装置11とネットワークNTを介して接続された総合制御装置22は、成分監視装置11により検出した燃料用ガスの成分比からガスエンジン4にノッキングを生じさせる程度の評価値であるノッキング指標を求め、ノッキング指標が規定の遮断用閾値に対してガスエンジン4のノッキングを増加させる範囲であるときに遮断弁12を閉じさせる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、あらかじめ燃料用ガスの供給に用いられているガス導管に供給設備を接続して燃料用ガスを供給するガス供給システムに関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、燃料用ガスを供給するガス事業の自由化に伴って、一般ガス事業者(ガス会社)が敷設したガス導管に、他のガス事業者による燃料用ガスの供給設備を接続することが可能になっている。このようなガス事業者には、供給設備からの燃料用ガスの物性(特性)に関する規制がある。つまり、供給設備からの燃料用ガスについて、標準熱量、ウォッベ指数、燃焼速度が許容範囲内であれば、ガス導管に供給設備を接続してもよいことになっている。
【0003】すなわち、図3に示すように、一般ガス事業者(ガス会社)が燃料用ガス(以下、単に「ガス」という)を供給するために供給設備1aと需要家2aとを結ぶように敷設したガス導管3に、他のガス事業者がガスの供給設備1bを接続することが可能になっている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上述したガスの物性に関する規制は、ガスを通常に燃焼させるガス消費機器について安全使用が可能であることを目的として設定されているが、最近ではガスを燃料として駆動されるガスエンジンのようなガス消費機器も普及してきている。ガスエンジンは自家発電設備や冷暖房装置の駆動源として用いられる。ガスエンジンではガスが上述した規制による許容範囲を満たす場合でも、成分比によって効率が低下したりノッキングが生じたりすることがある。ガスエンジンにおいてノッキングが生じるとガスエンジンが振動するから、ピストンの欠損や破損のような故障の原因になる。つまり、ガスエンジンにおいてノッキングが生じるとガスエンジンの寿命が短くなる。
【0005】一方、ガスの供給設備を持つガス事業者では、LPGの成分を調整することによって上述の条件を満たすガスを生成する場合があり、このようなガスは通常に燃焼させる場合には用いることができても、ガスエンジンには適さない場合がある。
【0006】いま、図3のように、ガス導管3を通して供給設備1aからガスの供給を受ける需要家2aの一部はガスエンジン4を用い、供給設備1bはガス導管3を通して需要家2bにガスを供給する契約があるものとする。図示例では供給設備1bと需要家2bとの間のガス導管3にはガスエンジン4を備える需要家2aがあり、仮に供給設備1bからガス導管3に供給されるガスの成分比がガスエンジン4にとって適正ではないときには、ガス導管3の上で供給設備1bの下流側に存在するガスエンジン4がノッキングにより故障する可能性が高くなる。
【0007】本発明は上記事由に鑑みて為されたものであり、その目的は、ガス導管に接続した供給設備から供給される燃料用ガスの成分比を監視することにより、燃料用ガスの成分によるガス消費機器への影響を抑制したガス供給システムを提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】請求項1の発明は、燃料用ガスの供給設備をガス導管に接続する接続用管路に設けた遮断弁と、接続用管路を通過する燃料用ガスの成分を監視する成分監視装置と、燃料用ガスの成分の異常を成分監視装置が検出したときに遮断弁を閉じさせる制御装置とを備えるものである。
【0009】請求項2の発明は、請求項1の発明において、ガスエンジンの燃料に用いる燃料用ガスが前記ガス導管を用いて供給され、前記制御装置が、成分監視装置により検出した燃料用ガスの成分比からガスエンジンにノッキングを生じさせる程度の評価値であるノッキング指標を求める指標演算手段と、ノッキング指標を規定の遮断用閾値と比較する比較手段とを備え、ノッキング指標が前記遮断用閾値に対してガスエンジンのノッキングを増加させる範囲であるときに燃料用ガスの成分の異常と判断して前記制御装置が前記遮断弁を閉じさせるものである。
【0010】請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記遮断用閾値に対してノッキングを減少させる範囲で警告用閾値が設定され、ノッキング指標が警告用閾値と遮断用閾値との間の範囲であるときに警報を報知する発報手段が前記制御装置に設けられているものである。
【0011】請求項4の発明は、請求項2または請求項3の発明において、接続用管路からガス導管に流入する燃料用ガスがガスエンジンに及ぼす影響度を評価する影響度判定手段と、前記ガスエンジンを遠方制御する遠方制御装置とが前記制御装置に設けられ、前記制御装置が前記遮断弁を閉じたときに影響度判定手段により求めた影響度が規定の基準値を越えるガスエンジンについては、遠方制御装置から運転の停止を指示するものである。
【0012】請求項5の発明は、請求項4の発明において、前記制御装置が前記遮断弁を閉じたときに影響度判定手段により求めた影響度が基準値以下のガスエンジンについては、ノッキングを生じないように遠方制御装置によりプラグ点火のタイミングを制御するものである。
【0013】
【発明の実施の形態】本実施形態では、図1に示すように、供給設備1bとガス導管3とが接続用管路5を介して接続され、従来構成と同様に、ガス導管3からガスの供給を受けている需要家2a,2bのうち一般ガス事業者(つまり、供給設備1aを運営するガス事業者)と契約している需要家2aの一部はガスエンジン4を用いたガス消費機器を用いているものとする。
【0014】接続用管路5には供給設備1bからガス導管3に供給するガスの成分比を監視する成分監視装置11が設けられる。成分監視装置11は、たとえばガスクロマトグラフィ技術を利用したものであり、成分監視装置11では一定時間毎(たとえば、5分毎)に供給設備1bからのガスをサンプリングする。成分監視装置11からガス導管3と接続用管路5との接続点に至る経路には遠隔制御される遮断弁12が配置され、遮断弁12の下流側には流量計13が配置される。流量計13は接続用管路5からガス導管3に流入するガスの供給量を計測するものである。
【0015】成分監視装置11にはコンピュータ装置を用いた個別制御装置21が接続され、成分監視装置11および個別制御装置21はネットワークNTを介してコンピュータ装置からなる総合制御装置22に接続されている。成分監視装置11ではガスに含まれるエタン、プロパン、ブタン、水素、二酸化炭素の5種類の成分の成分比を分析し、個別制御装置21に設けた指標演算手段21aにおいて以下の演算を行うことによって、ノッキング指標KIを求める。すなわち、ガスに含まれるエタン、プロパン、ブタン、水素、二酸化炭素の体積百分率[vol%]をそれぞれ[C2 H6 ]、[C3 H8 ]、[C4 H10]、[H2 ]、[CO2 ]とすれば、ノッキング指標KIはたとえば次式で定義することができる。ノッキング指標KIについては別の定義式も考えられるが、次式で定義するときには、KI>6.0になると、ガスエンジンにノッキングが生じることが知られている。また、一般ガス事業者においては5.68≦KI≦5.91の範囲に保たれるようにガスの成分比が調整されている。
KI=0.25[C2 H6 ]+0.47[C3 H8 ]+1.00[C4 H10]+0.12[H2 ]−0.02[CO2 ]そこで、個別制御装置21にはノッキング指標KIを閾値と比較する比較手段21bが設けられ、比較手段21bではノッキング指標KIが遮断用閾値として設定された6.0を越えるか、警告用閾値である5.9と遮断用閾値との間の範囲であるか、警告用閾値以下であるかを判断する。この判断結果は、ネットワークNTを介して総合制御装置22に通知され、総合制御装置22では個別制御装置21からの通知内容に応じて後述する制御を行う。
【0016】一方、ガス導管3からガスが供給されるガスエンジン4にはネットワークNTを介して遠方制御装置23が接続されており、遠方制御装置23ではガスエンジン4の運転状況を監視するとともに、ガスエンジン4に対して運転・停止の指示やガスエンジン4のプラグ点火のタイミングの制御が可能になっている。遠方制御装置23は総合制御装置22とネットワークNTを介して接続されている。総合制御装置22はネットワークNTを通して遮断弁12を制御可能であり、また流量計13により検出される流量も総合制御装置22で監視可能になっている。ここに、個別制御装置21は供給設備1bを保有するガス事業者が管理しており、総合制御装置22および遠方制御装置23はガス導管3を敷設した一般ガス事業者が管理している。また、個別制御装置21および総合制御装置22は制御装置として機能する。
【0017】以下に図2を用いて本実施形態の動作を説明する。上述したように成分監視装置11において成分が分析されると(S1)、ノッキング指標KIが警告用閾値を超えるか否かが比較手段21bにおいて判定され(S2)、警告用閾値以下であれば遮断弁12を開放した状態に保つ。一方、警告用閾値を越えていると個別制御装置21および総合制御装置22に設けた発報手段21c,22cにより警報を報知する(S3)。警告用閾値はガスエンジン4にただちにノッキングを生じるほどではないが、ガスの成分比が望ましい状態から逸脱している範囲を規定するように設定されており、発報手段21c,22cの発報により供給設備1bから供給されるガスに成分調整が必要であることが報知される。
【0018】ノッキング指標KIが警告用閾値を越え、さらに遮断用閾値を越えるときには(S4)、遮断弁12をただちに遮断する(S5)。また、このとき同時に、ガス導管3に接続されているガスエンジン4の動作への影響度を総合制御装置22に設けた影響度判定手段22bにより評価して影響度を数値として算出する(S6)。影響度判定手段22bでは、接続用管路5のガス導管3への接続位置、ガスの成分比、流量計13で検出される流量、各ガスエンジン4の配置、各ガスエンジン4の運転状況などをパラメータとして、各ガスエンジン4でノッキングが発生する可能性を推定する。
【0019】つまり、接続用管路5の接続位置から遠いガスエンジン4では、成分比の異なるガスが接続用管路5からガス導管3に流入しても大きな影響はなく、ノッキングが生じる可能性は少ないが、接続位置に近いガスエンジン4は影響度が大きいと考えられる。また、接続用管路5からガス導管3に流入するガスの流量が少なければ、成分比の相違によって影響を受けるガスエンジン4の台数は少ないと考えられる。あるいはまた、ガスエンジン4が運転されていなければ、成分比の異なるガスがガス導管3に流入しても影響がない。影響度判定手段22bでは、上述のような各種条件を考慮してガスエンジン4ごとに影響度を評価する。影響度はファジー演算などを用いて数値化され、影響度が規定の閾値を越えるガスエンジン4については(S7)、ノッキングを生じる可能性があるものとして総合制御装置22から停止を指示する(S8)。また、影響度が比較的小さい(影響度が規定の閾値以下の)ガスエンジン4については(S7)、総合制御装置22からプラグ点火のタイミングの調整を指示することによってノッキングを回避させる(S9)。一方、影響度がさらに小さい(影響度が実質的に影響のないことを示す閾値以下の)ガスエンジン4については、通常通りの運転を継続させる。その後、成分監視装置11において監視されている成分比が正常に戻れば(S10)、総合制御装置22では遮断弁12を開放させるとともに、各ガスエンジン4も通常の運転状態に復帰させる(S11)。
【0020】
【発明の効果】請求項1の発明は、燃料用ガスの供給設備をガス導管に接続する接続用管路に設けた遮断弁と、接続用管路を通過する燃料用ガスの成分を監視する成分監視装置と、燃料用ガスの成分の異常を成分監視装置が検出したときに遮断弁を閉じさせる制御装置とを備えるものであり、ガス導管に接続された燃料用ガスの供給設備からガス導管に流入する燃料用ガスの成分に異常があれば、遮断弁を閉じることによって供給設備からの燃料用ガスの流入を遮断するから、ガス導管を通して供給される燃料用ガスに成分が異常である燃料用ガスが混入する可能性が低減され、異常な成分比がガス導管に流入することによるガス消費機器の障害を防止することができる。
【0021】請求項2の発明は、請求項1の発明において、ガスエンジンの燃料に用いる燃料用ガスが前記ガス導管を用いて供給され、前記制御装置が、成分監視装置により検出した燃料用ガスの成分比からガスエンジンにノッキングを生じさせる程度の評価値であるノッキング指標を求める指標演算手段と、ノッキング指標を規定の遮断用閾値と比較する比較手段とを備え、ノッキング指標が前記遮断用閾値に対してガスエンジンのノッキングを増加させる範囲であるときに燃料用ガスの成分の異常と判断して前記制御装置が前記遮断弁を閉じさせるものであり、ガスエンジンにノッキングが生じる可能性があるか否かの評価基準として、供給設備からガス導管に流入する燃料用ガスの成分比に基づいて求めたノッキング指標を用い、ノッキング指標によりガスエンジンにノッキングが生じる可能性があると判断される燃料用ガスがガス導管に流入するのを防止しているから、ガスエンジンにノッキングが生じてガスエンジンが故障する可能性が低減される。
【0022】請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記遮断用閾値に対してノッキングを減少させる範囲で警告用閾値が設定され、ノッキング指標が警告用閾値と遮断用閾値との間の範囲であるときに警報を報知する発報手段が前記制御装置に設けられているものであり、ガスエンジンにノッキングが生じる可能性のある成分比に近付くと警報を報知することによって供給設備による成分の調整を促すことができ、成分比が異常であるような燃料用ガスがガス導管に流入する可能性をさらに低減することができる。
【0023】請求項4の発明は、請求項2または請求項3の発明において、接続用管路からガス導管に流入する燃料用ガスがガスエンジンに及ぼす影響度を評価する影響度判定手段と、前記ガスエンジンを遠方制御する遠方制御装置とが前記制御装置に設けられ、前記制御装置が前記遮断弁を閉じたときに影響度判定手段により求めた影響度が規定の基準値を越えるガスエンジンについては、遠方制御装置から運転の停止を指示するものであり、供給装置から成分比が異常な燃料用ガスがガス導管に流入したとしても、その影響を強く受けると考えられるガスエンジンについては運転を停止させることによって、ガスエンジンにノッキングが生じることによる故障を未然に防止することができる。
【0024】請求項5の発明は、請求項4の発明において、前記制御装置が前記遮断弁を閉じたときに影響度判定手段により求めた影響度が基準値以下のガスエンジンについては、ノッキングを生じないように遠方制御装置によりプラグ点火のタイミングを制御するものであり、供給装置から成分比が異常な燃料用ガスがガス導管に流入したときに、影響度が比較的小さく運転を停止しなくてもプラグ点火のタイミングの調整でノッキングを防止することが可能なガスエンジンについては、ガスエンジンのプラグ点火のタイミング調整によって対応し、ガスエンジンの停止に伴って需要家に不都合が生じるのを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態を示す概略構成図である。
【図2】同上の動作説明図である。
【図3】従来例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
1a,1b 供給設備
2a,2b 需要家
3 ガス導管
5 接続用管路
11 成分監視装置
12 遮断弁
21 個別制御装置
21a 指標演算手段
21b 比較手段
21c 発報手段
22 総合制御装置
22b 影響度判定手段
22c 発報手段
23 遠方制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】 燃料用ガスの供給設備をガス導管に接続する接続用管路に設けた遮断弁と、接続用管路を通過する燃料用ガスの成分を監視する成分監視装置と、燃料用ガスの成分の異常を成分監視装置が検出したときに遮断弁を閉じさせる制御装置とを備えることを特徴とするガス供給システム。
【請求項2】 ガスエンジンの燃料に用いる燃料用ガスが前記ガス導管を用いて供給され、前記制御装置が、成分監視装置により検出した燃料用ガスの成分比からガスエンジンにノッキングを生じさせる程度の評価値であるノッキング指標を求める指標演算手段と、ノッキング指標を規定の遮断用閾値と比較する比較手段とを備え、ノッキング指標が前記遮断用閾値に対してガスエンジンのノッキングを増加させる範囲であるときに燃料用ガスの成分の異常と判断して前記制御装置が前記遮断弁を閉じさせることを特徴とする請求項1記載のガス供給システム。
【請求項3】 前記遮断用閾値に対してノッキングを減少させる範囲で警告用閾値が設定され、ノッキング指標が警告用閾値と遮断用閾値との間の範囲であるときに警報を報知する発報手段が前記制御装置に設けられていることを特徴とする請求項2記載のガス供給システム。
【請求項4】 接続用管路からガス導管に流入する燃料用ガスがガスエンジンに及ぼす影響度を評価する影響度判定手段と、前記ガスエンジンを遠方制御する遠方制御装置とが前記制御装置に設けられ、前記制御装置が前記遮断弁を閉じたときに影響度判定手段により求めた影響度が規定の基準値を越えるガスエンジンについては、遠方制御装置から運転の停止を指示することを特徴とする請求項2または請求項3記載のガス供給システム。
【請求項5】 前記制御装置が前記遮断弁を閉じたときに影響度判定手段により求めた影響度が基準値以下のガスエンジンについては、ノッキングを生じないように遠方制御装置によりプラグ点火のタイミングを制御することを特徴とする請求項4記載のガス供給システム。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2002−285901(P2002−285901A)
【公開日】平成14年10月3日(2002.10.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−90126(P2001−90126)
【出願日】平成13年3月27日(2001.3.27)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】