説明

ガス拡散電極基材の製造方法

【課題】
排水性が良好で高発電性能を発現し、なおかつ、電極基材表面からの炭素繊維の剥離が少なく短絡や反応ガスのクロスリークを抑制し、耐久性に優れる燃料電池ガス拡散電極基材を提供する。
【解決手段】
炭素繊維を抄紙してなる炭素繊維シートかに樹脂成分を含浸した後、炭素化してガス拡散電極基材を製造する方法において、前記炭素繊維100質量部に対する前記樹脂成分の配合量が20〜110質量部の範囲であって、なおかつ前記樹脂成分に対して界面活性剤0.05〜5質量部を添加することを特徴とするガス拡散電極基材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池、特に固体高分子型燃料電池のガス拡散層に好適に用いられるガス拡散電極基材の製造方法に関する。より詳しくは、排水性が良好で高発電性能を発現し、なおかつ、電極基材表面からの炭素繊維の剥離が少なく短絡や反応ガスのクロスリークを抑制し、耐久性に優れる燃料電池ガス拡散電極基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維を含むガス拡散電極基材(以降、電極基材と記載)は、導電性、熱伝導性に優れ、ガス拡散性に優れ、なおかつ、機械特性に優れることから、燃料電池のガス拡散層に広く用いられている。
【0003】
固体高分子型燃料電池は固体高分子電解質膜を2枚の電極基材で挟む構造であるため、電極基材表面から剥離した炭素繊維が固体高分子電解質膜へ突き刺さり、短絡や反応ガスのクロスリークの原因となりうるという問題があった。また、炭素繊維を結着する樹脂炭化物を増量すると炭素繊維の剥離は起こりにくくなるが、樹脂炭化物の増量により電極基材の空隙率が減少するため、発電反応による生成水が電極基材内部に詰り、発電性能が低下する(フラッディング)という問題があった。
【0004】
このような問題に対して、特許文献1〜3では、電極基材表面の結着が外れた炭素材料を気流で除去する方法、及び/又は刷毛で刷く方法が開示されている。これらの方法では電解質膜との接合時にかける圧力で剥離した炭素材料については除去できないという問題があった。
【0005】
特許文献4では電解質膜との接合前に電極基材を加圧することで、電解質膜との接合時に結着が外れやすい炭素材料を予め除去する方法が開示されている。この方法によれば電解質膜との接合時の圧力で剥離するような炭素材料についてもある程度、事前に除去可能であるが、製造工程を新たに追加する必要があるため電極基材製造工程が煩雑になるだけでなくコストアップの問題があった。また加圧により電極基材の強度が低下し、ハンドリング性が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−34295号公報
【特許文献2】特開2009−181738号公報
【特許文献3】特開2010−70433号公報
【特許文献4】特開2009−190951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、かかる従来技術の背景に鑑み、電極基材表面での炭素繊維の剥離が少なく、排水性に優れる燃料電池ガス拡散電極基材を、容易に、安定して製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するため、以下のいずれかの手段を採用する。
(1)炭素繊維を抄紙してなる炭素繊維シートに、炭素繊維100質量部に対して20〜110質量部の樹脂成分を含浸した後、炭素化してガス拡散電極基材を製造する方法であって、前記樹脂成分に、その100質量部に対して界面活性剤0.05〜5質量部を添加するガス拡散電極基材の製造方法。
(2)前記界面活性剤が、シリコーン化合物、フッ素化合物から選ばれる少なくとも1種である(1)記載のガス拡散電極基材の製造方法。
(3)前記樹脂成分に、さらに、その100質量部に対して、常圧における沸点が100〜200℃である液状化合物0.01〜10質量部を添加し、炭素繊維シートへの樹脂成分の含浸後に前記液状化合物の沸点以上に加熱する(1)または(2)に記載のガス拡散電極基材の製造方法。
(4)前記樹脂成分に、さらに、その100質量部に対して、分解温度が200℃以下の発泡剤0.01〜10質量部を添加し、炭素繊維シートへの樹脂成分の含浸後に前記発泡剤の分解温度以上に加熱する(1)〜(3)のいずれかに記載のガス拡散電極基材の製造方法。
(5)ガス拡散電極基材の基材密度が0.22〜0.33g/cmの範囲内である(1)〜(4)のいずれかに記載のガス拡散電極基材の製造方法。
【0009】
なお、本発明において、炭素繊維を抄紙したものを炭素繊維シート、炭素繊維シートに樹脂成分を含浸させたものを樹脂含浸炭素繊維シートという。また、樹脂含浸炭素繊維シートを加熱加圧処理して樹脂硬化したものを前駆体繊維シート、前駆体繊維シートを炭素化したものを電極基材という。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造法を用いることにより、排水性を高めるために電極基材全重量にしめる樹脂炭化物の存在割合を小さくしても、電極基材の両表面に樹脂炭化物が偏在するようになるため両表面から炭素繊維の剥離が起こりにくくなる。したがって、本発明により得られる電極基材を用いた燃料電池は、短絡や反応ガスのクロスリークが生じにくく、低温での発電性能が高い。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、高排水性と電極基材表面の炭素繊維剥離抑制とを両立する電極基材について鋭意検討した結果、炭素繊維シートに含浸される樹脂成分に界面活性剤を添加した樹脂成分を炭素繊維シートに含浸すると、樹脂成分がシートの内部よりも表面により多く存在するようになることに着目し、本発明に至ったものである。
【0012】
本発明では、ガス拡散電極基材を製造するに際し、炭素繊維を抄紙してなる炭素繊維シートを用いる。
【0013】
<炭素繊維シートの製造方法>
本発明で用いる炭素繊維シートは、通常、次のようにして得ることができる。本発明において、炭素繊維シートを得るためには、炭素繊維を液中に分散させて製造する湿式抄紙法や、空気中に分散させて製造する乾式抄糸法等が用いられる。なかでも、生産性が優れることから、湿式抄紙法が好ましく用いられる。
【0014】
本発明で用いる炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系、ピッチ系、レーヨン系等の炭素繊維が挙げられる。なかでも、機械的強度に優れ、しかも、適度な柔軟性を有するハンドリング性に優れた電極基材が得られることから、PAN系やピッチ系、特にPAN系の炭素繊維を用いるのが好ましい。
【0015】
用いる炭素繊維の平均繊維径(単繊維の平均繊維径)は、5〜20μmであることが好ましい。平均繊維径が5μm未満の場合、炭素繊維の種類等にもよるが、得られる電極基材の柔軟性が低下することがある。また、平均繊維径が20μmを超える場合、得られる電極基材の機械的強度が低下することがある。より好ましい平均繊維径の範囲は、6〜13μmであり、更に好ましい範囲は、6〜10μmである。
【0016】
ここで、炭素繊維の平均繊維径(単繊維の平均繊維径)は、走査型電子顕微鏡等の顕微鏡で、炭素繊維を1000倍以上に拡大して写真撮影を行い、無作為に異なる30本の単繊維を選び、その直径を計測し、その平均値を求めたものである。走査型電子顕微鏡としては、(株)日立製作所製S−4800、あるいはその同等品を用いることができる。
【0017】
抄紙に際して、炭素繊維は、通常、短繊維の状態となっている。本発明において、用いる炭素繊維の平均長さは、得られる電極基材が機械特性、導電性、熱伝導性の優れたものとなるという観点で、通常、4mm以上であることが必要である。平均長さが4mm未満であると、機械特性、導電性、熱伝導性が不十分となることが多い。一方、平均長さは20mm以下であることが好ましく、それが20mmより大きいと、抄紙の際の炭素繊維の分散性が低下し、均質な電極基材が得られにくい。かかる平均長さを有する炭素繊維は、連続した炭素繊維を所望の長さにカットする方法等により得られる。
【0018】
ここで、炭素繊維の平均長さは、走査型電子顕微鏡等の顕微鏡で、炭素繊維を50倍以上に拡大して写真撮影を行い、無作為に異なる30本の単繊維を選び、その長さを計測し、その平均値を求めたものである。走査型電子顕微鏡としては、(株)日立製作所製S−4800、あるいはその同等品を用いることができる。
【0019】
本発明において、得られる電極基材の排水性を向上し、水蒸気拡散性を抑制する目的で、炭素繊維に有機繊維を混合して抄紙しても良い。有機繊維としては、ポリエチレン繊維、ビニロン繊維、ポリアセタール繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、レーヨン繊維、アセテート繊維、セルロース繊維等を用いることができる。
【0020】
かかる有機繊維は、フィブリル状の有機繊維であることが好ましい。フィブリル状の有機繊維を混抄することにより、フィブリル状物のまわりに付着した樹脂成分が網状の炭化物として残り、フィブリル状の有機繊維由来の小さな細孔と炭素繊維由来の大きな細孔が形成されると考えられる。本発明で得られる電極基材においては、特に水蒸気拡散性が抑制される結果、高温での発電性能が向上する。フィブリル状の有機繊維としては、針葉樹、広葉樹等の木材由来のパルプ、わら、ケナフ等の非木材由来のパルプ、ポリエチレン等の合成繊維由来のパルプのような各種パルプが挙げられる。
【0021】
また、本発明において、炭素繊維シートの形態保持性、ハンドリング性を向上する目的で、炭素繊維シートにバインダーとして有機高分子を含むことができる。ここで、有機高分子としては、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリロニトリル、セルロース等を用いることができる。
【0022】
本発明における炭素繊維シートは、面内の導電性、熱伝導性を等方的に保つという目的で、炭素繊維が二次元平面内にランダムに分散したシート状であることが好ましい。
【0023】
<炭素繊維シートへの樹脂成分の含浸>
本発明では、前記したような炭素繊維シートに、樹脂成分を含浸して、樹脂含浸炭素繊維シートとなす。
【0024】
本発明において、炭素繊維シートに樹脂成分を含浸する方法として、樹脂成分を含む溶液中に炭素繊維シートを浸漬する方法、樹脂成分を含む溶液を炭素繊維シートに塗布する方法、樹脂成分からなるフィルムを炭素繊維シートに重ねて転写する方法等が用いられる。なかでも、生産性が優れることから、樹脂成分を含む溶液中に炭素繊維シートを浸漬する方法が好ましく用いられる。
【0025】
本発明に用いる樹脂成分は、焼成時に炭化して導電性の炭化物となるものが好ましい。樹脂成分には溶媒を必要に応じて添加しても良い。
【0026】
本発明において用いる樹脂成分は、その炭化収率が40質量%以上であることが好ましい。炭化収率が40質量%以上であると、得られる電極基材が機械特性、導電性、熱伝導性の優れたものとなり好ましい。
【0027】
本発明において、樹脂成分としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。なかでも、炭化収率が高いことから、フェノール樹脂が好ましく用いられる。
【0028】
本発明では、前記炭素繊維シートに、炭素繊維100質量部に対し樹脂成分を20〜110質量部の樹脂成分を含浸する必要があり、50〜100質量部含浸することが好ましく、70〜100質量部含浸することがより好ましい。樹脂成分の含浸量が20質量部以上であることにより、得られる電極基材が機械特性、導電性、熱伝導性の優れたものとなる。一方、樹脂成分の含浸量が110質量部以下であることにより、排水性が向上し、フラッディングが改善され、低温での発電性能が向上する。
【0029】
ここで、本発明では、含浸される樹脂成分に、界面活性剤を添加しておく必要がある。用いる界面活性剤は整泡作用を有するものが好ましい。炭素繊維シートに樹脂成分と界面活性剤を含ませる手法として、炭素繊維と界面活性剤および樹脂成分が分散したスラリーを湿式抄紙したり、炭素繊維シートを得た後に界面活性剤を付与してから樹脂成分の含浸を行なうことも考えられるが、前者の手法で樹脂成分を含む炭素繊維シートを製造しようとすると、抄紙などの工程でスラリーが泡立ち均一な炭素繊維シートが得られないし、後者の手法で樹脂成分を含む炭素繊維シートを製造しようとすると、炭素繊維表面の界面活性剤は樹脂成分の含浸工程で樹脂成分と十分に混ざり合わず、界面活性剤が炭素繊維表面に残り樹脂成分と炭素繊維との結着を阻害し、得られる電極基材は炭素繊維の剥離が起こりやすいものとなる。
【0030】
樹脂含浸工程において整泡作用を有する界面活性剤を樹脂成分に添加することで、樹脂含浸後の乾燥工程で溶媒もしくは微量水分の蒸発により樹脂成分中で発生する泡が安定化され膨張する。泡の膨張に伴い樹脂成分は、樹脂含浸炭素繊維シートの内部から両表面に移動し偏在していく。このため樹脂含浸炭素繊維シートの表面には樹脂成分が多く存在し、炭素化後でも電極基材の表面に樹脂炭化物が多く存在するようになり、炭素繊維が剥離しにくくなる。
【0031】
本発明において、界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤が使用でき、これらのうち、表面張力が低く整泡作用の強いシリコーン系界面活性剤が好ましい。シリコーン系界面活性剤としてはジメチルポリシロキサン、ポリエーテル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルボキシル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、メタクリル変性シリコーン、及びカルビノール変性シリコーン等の各種変性シリコーンのいずれの使用も可能であり、これらのうち、整泡作用の強いジメチルポリシロキサン及び、又はポリエーテル変性シリコーンの使用が特に好ましい。これらの界面活性剤は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0032】
樹脂成分への界面活性剤の添加量は、樹脂成分100質量部に対して界面活性剤0.05〜5質量部である必要があり、0.5〜3質量部であることが好ましい。界面活性剤の添加量が5質量部を越えると、樹脂含浸工程の樹脂槽での樹脂成分や樹脂溶液の泡立ちが著しくハンドリングが困難となる。一方、界面活性剤の添加量が0.05質量部未満であると、樹脂成分の発泡が不十分となり目的の構造とすることができなくなる。
【0033】
また、炭素繊維シートへの含浸後の樹脂成分の起泡を促進させるのに、樹脂成分に、100〜200℃の沸点を有する液状化合物、たとえば3−メトキシ−3−メチルブタノール、水等の極性プロトン性化合物、トルエンなどの無極性化合物、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等の極性非プロトン性化合物を樹脂含浸時に添加剤もしくは溶媒として用いて、炭素繊維シートへの樹脂成分の含浸後に前記液状化合物の沸点以上の温度に加熱するか、もしくは、樹脂成分に、アジド化合物等の無機化合物、ニ卜ロソ化合物、アゾ化合物、スルホニル化合物等の、分解温度が200℃以下の発泡剤を添加し、炭素繊維シートへの樹脂成分の含浸後に、その発泡剤の分解温度以上の温度に加熱するのが良い。沸点が100〜200℃である液状化合物や分解温度が200℃以下の発泡剤を加えることで、樹脂成分の起泡がより確実に起こる。なお、発泡剤とは、分解温度で分解し、気体を発生する化合物を意味する。添加する液状化合物の沸点や発泡剤の分解温度を100℃以上とすることで樹脂含浸の乾燥工程だけでなく、樹脂含浸炭素繊維シートの熱処理工程においても樹脂成分を発泡させることができる。また、樹脂成分の発泡は樹脂成分が硬化する前に行われる必要があるため、添加する液状化合物の沸点や発泡剤の分解温度は200℃以下とする。前記した液状化合物や発泡剤を用いる場合、それぞれの添加量は樹脂成分100質量部に対して0.1〜10質量部とする。かかる添加量が0.1質量部よりも少ない場合には起泡が不十分となり、10質量部を越えると起泡効果が飽和する。
【0034】
本発明において、電極基材の機械特性、導電性、熱伝導性を向上するという観点で、樹脂成分には炭素質粉末を添加することが好ましい。ここで、炭素質粉末としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、炭素繊維のミルドファイバー、黒鉛等を用いることができる。なかでも、機械特性、導電性、熱伝導性を向上し、樹脂成分の配合量を低減させられることから、黒鉛を用いることが好ましい。炭素質粉末を用いることにより、樹脂成分の配合量を低減することができ、排水性が向上し、フラッディングが改善され、低温での発電性能が向上する。黒鉛の種類としては、鱗片状黒鉛、土状黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛、球状黒鉛等が挙げられる。なかでも、機械特性、導電性、熱伝導性の向上効果が高いことから、鱗片状の黒鉛を用いることが好ましい。
【0035】
樹脂成分への炭素質粉末の添加量は、樹脂成分100質量部に対して炭素質粉末5〜20質量部であることが好ましく、5〜15質量部であることがより好ましく、5〜12質量部であることがさらに好ましい。炭素質粉末の添加量が5質量部以上であると、電極基材が機械特性、導電性、熱伝導性の優れたものとなり好ましい。一方、炭素質粉末の添加量が20質量部以下であると、電極基材の柔軟性が高くなり、製造性の優れたものとなり好ましい。
【0036】
本発明では、炭素繊維シートに樹脂成分を含浸する際、樹脂成分をそのまま使用することもできるし、必要に応じて、炭素繊維シートへの含浸性を高める目的で、各種溶媒と混合して樹脂溶液となして使用することもできる。ここで、溶媒としては、メタノール、エタノール、アセトン、イソプロピルアルコール等を用いることができる。
【0037】
樹脂成分は、25℃、0.1MPaの状態で液状であることが好ましい。また、樹脂成分に溶媒を添加して樹脂溶液となし、その樹脂溶液が、25℃、0.1MPaの状態で液状であるようにしてもよい。樹脂成分(溶媒を用いた場合には樹脂溶液)が液状であると炭素繊維シートへの含浸性が優れかつ電極基材が機械特性、導電性、熱伝導性に優れたものとなるだけでなく、樹脂成分の発泡が容易となり、樹脂炭化物が電極基材表面により偏在しやすくなるため炭素繊維の剥離がより起こりにくくなる。このことにより、本発明で得られる電極基材を用いた燃料電池は、短絡や反応ガスのクロスリークが生じにくく、耐久性が非常に高くなる。
【0038】
<樹脂含浸炭素繊維シートの炭素化>
本発明においては、前記したようにして得た樹脂含浸炭素繊維シートを炭素化して電極基材を製造する。樹脂含浸炭素繊維シートを形成した後、炭素化を行うに先立って、樹脂成分を増粘、部分的に架橋する目的で、樹脂含浸炭素繊維シートを熱処理することができる。
【0039】
本発明において、かかる熱処理の方法としては、熱風を吹き付ける方法、互いに平行に位置する一対の熱板を備えた間欠プレス装置を用いる方法、一対のエンドレスベルトを備えた連続式加熱プレス装置、あるいは、連続式ロールプレス装置を用いる方法をとることができる。
【0040】
本発明において、樹脂含浸炭素繊維シートを、必要に応じて熱処理を行った後、炭素化する。炭素化は、通常、不活性雰囲気下での焼成による。かかる焼成は、バッチ式の加熱炉を用いることもできるし、連続式の加熱炉を用いることもできる。また、不活性雰囲気は、炉内を窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスで満たすことにより得ることができる。
【0041】
本発明において、焼成の最高温度が1500〜3000℃の範囲内であることが好ましく、1700〜3000℃の範囲内であることがより好ましく、さらには、1900〜3000℃の範囲内であることが好ましい。最高温度が1500℃以上であると、樹脂成分の炭素化が進み、電極基材が導電性、熱伝導性の優れたものとなり好ましい。一方、最高温度が3000℃以下であると、加熱炉の運転コストが低くなるために好ましい。
【0042】
本発明において、焼成にあたっては、昇温速度が80〜5000℃/分の範囲内であることが好ましい。昇温速度が80℃以上であると、生産性が優れるために好ましい。一方、5000℃以下であると、樹脂成分の炭素化が緩やかに進み緻密な構造が形成されるため、電極基材が導電性、熱伝導性の優れたものとなり好ましい。
【0043】
<後加工>
電極基材には、排水性を向上する目的で、撥水加工が施されていることが好ましい。撥水加工は、炭素化後の電極基材に疎水性樹脂を塗布、熱処理することにより行うことができる。かかる疎水性樹脂としては、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂(PCTFE)、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレンとパーフルオロプロピルビニルエーテルの共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレンとエチレンの共重合体(ETFE)等のフッ素樹脂が挙げられる。かかる疎水性樹脂の塗布量は、塗布前の電極基材100質量部に対して1〜50質量部であることが好ましく、3〜40質量部であることがより好ましい。疎水性樹脂の塗布量が1質量部以上であると、電極基材が排水性に優れたものとなり好ましい。一方、50質量部以下であると、電極基材が導電性の優れたものとなり好ましい。
【0044】
本発明において、撥水加工を施した電極基材の少なくとも片面に、導電性を有する微小多孔層、いわゆる、マイクロポーラス・レイヤーを形成することが好ましい。微小多孔層を設けると、撥水加工した電極基材の表面凹凸が覆われ平滑となるため、膜−電極接合体を構成し、燃料電池を構成した際に、触媒層との間の電気抵抗を低減することができる。また、固体高分子電解質膜の損傷もより確実に防止することができる。微小多孔層は、撥水加工した電極基材の表面に、上述した撥水加工で用いた疎水性樹脂と、上述した炭素フィラーとの混合物を塗布することによって形成することができる。炭素フィラーとしてはカーボンブラックを用いるのが好ましい。本発明の微小多孔層において、炭素フィラー100質量部に対して、疎水性樹脂を1〜70質量部配合することが好ましく、5〜60質量部配合することがより好ましい。疎水性樹脂の配合量が1質量部以上であると、微小多孔層が機械強度の優れたものとなり好ましい。一方、70質量部以下であると、微小多孔層が導電性、熱伝導性の優れたものとなり好ましい。
【0045】
本発明で得られる電極基材を、両面に触媒層を有する固体高分子電解質膜の少なくとも片面に接合することで膜−電極接合体が構成される。なお、微小多孔層を備えた撥水加工した電極基材を用いる場合は、微小多孔層が触媒層と接するように、膜−電極接合体を構成することが好ましい。かかる膜−電極接合体の両側にガスケットを介してセパレータで挟んだものを複数個積層することによって固体高分子型燃料電池を構成することができる。触媒層は、固体高分子電解質と触媒担持炭素を含む層からなる。触媒としては、通常、白金が用いられる。アノード側に一酸化炭素を含む改質ガスが供給される燃料電池にあっては、アノード側の触媒としては白金およびルテニウムを用いるのが好ましい。固体高分子電解質は、プロトン伝導性、耐酸化性、耐熱性の高い、パーフルオロスルホン酸系の高分子材料を用いるのが好ましい。かかる燃料電池ユニットや燃料電池の構成自体は、よく知られているところである。
【0046】
このようにして得られる電極基材における炭素繊維の平均繊維径(単繊維の平均繊維径)や、炭素繊維の平均長さは、炭素繊維シートの製造に用いる炭素繊維のそれと大差はない。
【0047】
本発明で得られる電極基材は、その密度が0.22〜0.33g/cmの範囲内であることが好ましく、0.22〜0.30g/cmの範囲内であることがより好ましく、0.23〜0.27g/cmの範囲内であることがさらに好ましい。基材密度が0.22g/cm未満であると、80℃以上の比較的高い温度で作動させる場合、水蒸気拡散により電解質膜が乾燥し、プロトン伝導性が低下する結果、発電性能が低下する問題(ドライアップ)が起こることがあり、また、機械特性が不足し電極基材表面の炭素繊維が剥離して固体高分子電解質膜へ突き刺さり、短絡や反応ガスのクロスリーク量が増加する場合がある。加えて、導電性が不足し、高温、低温のいずれにおいても発電性能が低下しやすい。一方、基材密度が0.33g/cmより大きいと、70℃未満の比較的低い温度で作動させる場合、高電流密度領域において反応により発生する水が電極基材に充満し、燃料ガスの供給が不足する結果、発電性能が低下する問題(フラッディング)が起こることがある。電極基材の密度は、前記した製法において、炭素繊維シートにおける炭素繊維目付、炭素繊維に対する樹脂成分の含浸量、および、電極基材の厚さを制御することにより調整することができる。なかでも、炭素繊維シートにおける炭素繊維目付、炭素繊維に対する樹脂成分の含浸量を制御することが有効である。ここで、炭素繊維シートの炭素繊維目付を小さくすることにより低密度の基材が得られ、炭素繊維目付を大きくすることにより高密度の基材が得られる。また、炭素繊維に対する樹脂成分の含浸量を小さくすることにより低密度の基材が得られ、樹脂成分の含浸量を大きくすることにより高密度の基材が得られる。また、電極基材の厚さを大きくすることにより低密度の基材が得られ、厚さを小さくすることにより高密度の基材が得られる。本発明では、樹脂成分の含浸量を必要以上に大きくすることなく、電極基材表面での炭素繊維の剥離が少ない電極基材とすることができるので、電極基材表面での炭素繊維の剥離が少なくしつつ、高排水性を有する電極基材とすることができる。
【0048】
ここで、電極基材の密度は、電子天秤を用いて秤量した目付を、面圧0.15MPaで加圧した際の厚みで除して求めることができる。
【0049】
本発明において、得られる電極基材の厚さが100〜250μmの範囲内であることが好ましく、110〜240μmの範囲内であることがより好ましく、120〜230μmの範囲内であることが更に好ましい。厚さが100μm以上であると、機械特性が優れ、電解質膜、触媒層を強固に支えることができるため好ましい。厚さが250μm以下であると、排水のためのパスが短くなり、フラッディングが改善され、低温での発電性能が向上する。
【0050】
ここで、電極基材の厚さは、電極基材を、面圧0.15MPaで加圧した状態で、マイクロメーターで測定することにより求めることができる。
【0051】
本発明において、得られる電極基材の炭素繊維の目付が20〜40g/mの範囲内にあることが好ましく、25〜35g/mの範囲内にあることがより好ましい。炭素繊維の目付が20g/m以上であると、電極基材が機械特性、導電性、熱伝導性の優れたものとなり好ましい。40g/m以下であると、排水性が向上し、フラッディングが改善され、低温での発電性能が向上する。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により、本発明をより具体的に説明する。なお、本実施例における固体高分子型燃料電池の電池性能評価および剥離炭素繊維数は、次の方法を用いて測定した。
【0053】
<固体高分子型燃料電池の電池性能評価>
白金担持炭素(田中貴金属工業(株)製、白金担持量:50質量%)1.00g、精製水 1.00g、“Nafion” (登録商標)溶液(Aldrich社製 “Nafion” (登録商標)5.0質量%)8.00g、イソプロピルアルコール(ナカライテスク社製)18.00gを順に加えることにより、触媒液を作成した。
【0054】
次に7cm×7cmにカットした “ナフロン”(登録商標)PTFEテープ“TOMBO” (登録商標)No.9001(ニチアス(株)製)に、触媒液をスプレーで塗布し、室温で乾燥させ、白金量が0.3mg/cmの触媒層付きPTFEシートを作製した。続いて、10cm×10cmにカットした固体高分子電解質膜“Nafion”(登録商標)NR−211(DuPont社製)を2枚の触媒層付きPTFEシートで挟み、平板プレスで5MPaに加圧しながら130℃で5分間プレスし、固体高分子電解質膜に触媒層を転写した。プレス後、PTFEシートを剥がし、触媒層付き固体高分子電解質膜を作製した。
【0055】
次に、触媒層付き固体高分子電解質膜を、7cm×7cmにカットした2枚の電極基材で挟み、平板プレスで3MPaに加圧しながら130℃で5分間プレスし、膜−電極接合体を作製した。なお、電極基材は微小多孔層を有する面が触媒層側と接するように配置した。
【0056】
得られた膜−電極接合体を燃料電池評価用単セルに組み込み、電流密度を変化させた際の出力電圧を測定し、電流密度1.7A/cmでの出力電圧を求めた。ここで、セパレータとしては、溝幅1.5mm、溝深さ1.0mm、リブ幅1.1mmの一本流路のサーペンタイン型のものを用いた。また、アノード側には210kPaに加圧した水素を、カソード側には140kPaに加圧した空気を供給し、運転温度65℃で評価を行った。なお、水素、空気はともに70℃に設定した加湿ポットにより加湿を行った。また、水素、空気中の酸素の利用率はそれぞれ80%、67%とした。
【0057】
<電極基材の炭素繊維剥離評価>
粘着力が0.22N/cmの粘着テープとして、住友スリーエム株式会社製スコッチ(登録商標)印表面保護テープNo.332を用い、幅2cm、長さ5cmの前記粘着テープを、作業台の上に置いた電極基材の片側表面に貼り付け、24g/cmの面圧を10秒間かけた後に1cm/秒の速度で剥がすことにより、電極基材の表面の樹脂炭化物による結着が外れた炭素短繊維を採取した。電極基材への面圧の付与は、面圧が均一になるように発泡ポリエチレンシート等を緩衝材として間に挟んだ状態で、所定のおもりを置くことで行った。発泡ポリエチレンシートとしては、積水化成品工業株式会社製セキスイライトロン(登録商標)S#56を用いた。作業台としては、面圧付与の均一性の観点から、定盤を用いた。炭素短繊維を採取した粘着テープは、粘着面を向けてPPC用紙に貼り付けた後、光学顕微鏡で長さ1mm以上の炭素短繊維を数えることにより、単位面積あたりの剥離炭素繊維数を求めた。
【0058】
(実施例1)
東レ株式会社製ポリアクリロニトリル系炭素繊維“トレカ ”(登録商標)T300−6K(平均単繊維径:7μm、単繊維数:6,000本)を12mmの長さにカットし、水を抄造媒体として連続的に抄造し、さらにポリビニルアルコールの10重量%水系分散液に浸漬し、乾燥させて、炭素短繊維の目付が約30g/mの長尺の炭素繊維シートを得てロール状に巻き取った。ポリビニルアルコールの付着量は、炭素繊維シート100重量部に対して20重量部に相当する。
【0059】
フェノール樹脂100重量部に対して信越化学工業(株)製ポリエーテル変性シリコーンKF−352Aを1重量部添加し、ポリエーテル変性シリコーン添加フェノール樹脂と中越黒鉛工業所社製鱗片状黒鉛BF−5A(平均粒径5μm)およびメタノールを9:1:40の重量比で混合した分散液を用意した。9cm×15cmにカットした上記炭素短繊維シートに、炭素短繊維100重量部に対してフェノール樹脂が83重量部になるように、上記分散液を含浸し、100℃の温度で5分間乾燥することにより樹脂含浸炭素繊維シートを得た。フェノール樹脂には、レゾール型フェノール樹脂とノボラック型フェノール樹脂とを1:1の重量比で混合した樹脂を用いた。
【0060】
次に、樹脂含浸炭素繊維シートに平板プレスで加圧しながら、180℃で5分間加熱加圧処理を行った。なお、加圧の際に平板プレスにスペーサーを配置して、熱処理後の厚さが200μmになるように上下プレス面板の間隔を調整した。
【0061】
加熱圧縮処理をした上記樹脂含浸炭素繊維シートを前駆体繊維シートとする。前駆体繊維シートを加熱炉において、窒素ガス雰囲気下で昇温速度500℃/分で2400℃まで昇温後5分間保持し室温まで放冷することで、電極基材(後加工前電極基材)を得た。
【0062】
得られた電極基材をPTFE水系ディスパージョンに浸漬後引き上げて乾燥して、電極基材100重量部に対してPTFEを5重量部付着させて後、その片面に、カーボンブラックとPTFEとを重量比3:1で含む混合物をシートの単位面積あたり約2mg/cm塗布し、380℃で熱処理することによって微小多孔層を備える電極基材(後加工後電極基材)を得た。
【0063】
得られた後加工後電極基材を用いて電池性能評価を行ったところ出力電圧は0.55V(運転温度65℃、加湿温度70℃、電流密度1.7A/cm)であった。得られた後加工前電極基材を用いて炭素繊維剥離評価を行ったところ、4.8本/cmであった。表1に記載のように、実施例1は発電性能、炭素繊維の結着ともに良好であった。
【0064】
(実施例2)
フェノール樹脂100重量部に対して添加する信越化学工業(株)製ポリエーテル変性シリコーンKF−352Aを3重量部とした以外は実施例1と同様にして後加工前電極基材および後加工後電極基材を得た。
【0065】
得られた後加工後電極基材を用いて電池性能評価を行ったところ出力電圧は0.55V(運転温度65℃、加湿温度70℃、電流密度1.7A/cm)であった。得られた後加工前電極基材を用いて炭素繊維剥離評価を行ったところ、4.5本/cmであった。表1に記載のように、実施例2は発電性能、炭素繊維の結着ともに良好であった。
【0066】
(実施例3)
フェノール樹脂100重量部に対して添加する信越化学工業(株)製ポリエーテル変性シリコーンKF−352Aを0.1重量部とした以外は実施例1と同様にして後加工前電極基材および後加工後電極基材を得た。
【0067】
得られた後加工後電極基材を用いて電池性能評価を行ったところ出力電圧は0.54V(運転温度65℃、加湿温度70℃、電流密度1.7A/cm)であった。得られた後加工前電極基材を用いて炭素繊維剥離評価を行ったところ、4.9本/cmであった。表1に記載のように、実施例3の発電性能は良好で、炭素繊維の結着は比較的良好であった。
【0068】
(実施例4)
フェノール樹脂100重量部に対して信越化学工業(株)製ポリエーテル変性シリコーンKF−352Aを1重量部と東京化成工業(株)製3−メトキシ−3−メチルブタノールを3重量部添加した以外は実施例1と同様にして後加工前電極基材および後加工後電極基材を得た。
【0069】
得られた後加工後電極基材を用いて電池性能評価を行ったところ出力電圧は0.56V(運転温度65℃、加湿温度70℃、電流密度1.7A/cm)であった。得られた後加工前電極基材を用いて炭素繊維剥離評価を行ったところ、4.2本/cmであった。表1に記載のように、実施例4の発電性能は良好で、炭素繊維の結着は極めて良好であった。
【0070】
(実施例5)
フェノール樹脂100重量部に対して信越化学工業(株)製ポリエーテル変性シリコーンKF−352Aを1重量部と三協化成(株)製セルマイクANを3重量部添加した以外は実施例1と同様にして後加工前電極基材および後加工後電極基材を得た。
【0071】
得られた後加工後電極基材を用いて電池性能評価を行ったところ出力電圧は0.56V(運転温度65℃、加湿温度70℃、電流密度1.7A/cm)であった。得られた後加工前電極基材を用いて炭素繊維剥離評価を行ったところ、4.2本/cmであった。表1に記載のように、実施例5の発電性能は良好で、炭素繊維の結着は極めて良好であった。
【0072】
(実施例6)
フェノール樹脂100重量部に対する添加剤をポリエーテル変性シリコーンから東京化成工業(株)製ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1重量部に変更した以外は実施例1と同様にして後加工前電極基材および後加工後電極基材を得た。
【0073】
得られた後加工後電極基材を用いて電池性能評価を行ったところ出力電圧は0.54V(運転温度65℃、加湿温度70℃、電流密度1.7A/cm)であった。得られた後加工前電極基材を用いて炭素繊維剥離評価を行ったところ、5.3本/cmであった。表1に記載のように、実施例6の発電性能は良好で、炭素繊維の結着は比較的良好であった。
【0074】
(比較例1)
フェノール樹脂に対してポリエーテル変性シリコーンを添加しなかった以外は実施例1と同様にして後加工前電極基材および後加工後電極基材を得た。
【0075】
得られた後加工後電極基材を用いて電池性能評価を行ったところ出力電圧は0.54V(運転温度65℃、加湿温度70℃、電流密度1.7A/cm)であった。得られた後加工前電極基材を用いて炭素繊維剥離評価を行ったところ、7.2本/cmであった。表1に記載のように、比較例1の発電性能は良好であったが、炭素繊維の結着は不十分であった。
【0076】
(比較例2)
フェノール樹脂に対してポリエーテル変性シリコーンを添加せず、分散液のフェノール樹脂と中越黒鉛工業所社製鱗片状黒鉛BF−5A(平均粒径5μm)およびメタノールの重量比を9:5:40とし、炭素短繊維100重量部に対してフェノール樹脂が91重量部になるように分散液を含浸した以外は実施例1と同様にして後加工前電極基材および後加工後電極基材を得た。
【0077】
得られた後加工後電極基材を用いて電池性能評価を行ったところ出力電圧は0.49V(運転温度65℃、加湿温度70℃、電流密度1.7A/cm)であった。得られた後加工前電極基材を用いて炭素繊維剥離評価を行ったところ、3.8本/cmであった。表1に記載のように、比較例2の発電性能は不十分であったが、炭素繊維の結着は極めて良好であった。
【0078】
(比較例3)
分散液のフェノール樹脂と中越黒鉛工業所社製鱗片状黒鉛BF−5A(平均粒径5μm)およびメタノールの重量比を9:5:40とし、炭素短繊維100重量部に対してフェノール樹脂が130重量部になるように分散液を含浸した以外は実施例1と同様にして後加工前電極基材および後加工後電極基材を得た。
【0079】
得られた後加工後電極基材を用いて電池性能評価を行ったところ発電不可(運転温度65℃、加湿温度70℃、電流密度1.7A/cm)であった。得られた後加工前電極基材を用いて炭素繊維剥離評価を行ったところ、2.0本/cmであった。表1に記載のように、比較例3の発電性能は不十分であったが、炭素繊維の結着は極めて良好であった。
【0080】
(比較例4)
フェノール樹脂100重量部に対して添加する信越化学工業(株)製ポリエーテル変性シリコーンKF−352Aを0.01重量部とした以外は実施例1と同様にして後加工前電極基材および後加工後電極基材を得た。
【0081】
得られた後加工後電極基材を用いて電池性能評価を行ったところ0.54V(運転温度65℃、加湿温度70℃、電流密度1.7A/cm)であった。得られた後加工前電極基材を用いて炭素繊維剥離評価を行ったところ、7.2本/cmであった。表1に記載のように、比較例4の発電性能は良好であったが、炭素繊維の結着は不十分であった。
【0082】
以上の実施例および比較例について、電極基材の諸元、製造条件および評価結果のうち主要なものを、次の表1にまとめた。
【0083】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維を抄紙してなる炭素繊維シートに、炭素繊維100質量部に対して20〜110質量部の樹脂成分を含浸した後、炭素化してガス拡散電極基材を製造する方法であって、前記樹脂成分に、その100質量部に対して界面活性剤0.05〜5質量部を添加するガス拡散電極基材の製造方法。
【請求項2】
前記界面活性剤が、シリコーン化合物、フッ素化合物から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載のガス拡散電極基材の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂成分に、さらに、その100質量部に対して、常圧における沸点が100〜200℃である液状化合物0.01〜10質量部を添加し、炭素繊維シートへの樹脂成分の含浸後に前記液状化合物の沸点以上に加熱する請求項1または2に記載のガス拡散電極基材の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂成分に、さらに、その100質量部に対して、分解温度が200℃以下の発泡剤0.01〜10質量部を添加し、炭素繊維シートへの樹脂成分の含浸後に前記発泡剤の分解温度以上に加熱する請求項1〜3のいずれかに記載のガス拡散電極基材の製造方法。
【請求項5】
ガス拡散電極基材の基材密度が0.22〜0.33g/cmの範囲内である請求項1〜4のいずれかに記載のガス拡散電極基材の製造方法。

【公開番号】特開2013−4214(P2013−4214A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131740(P2011−131740)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】