説明

キレート化アルキリデンリガンドを備えたルテニウムベースのカルベン触媒の製造方法

本発明は、ルテニウム−アルキリデン錯体を、オレフィン誘導体と、リガンド(すなわち、ホスフィンまたはアミン)スカベンジャーとして作用するポリマー担持カチオン樹脂(PSR)を存在させて、反応させることにより、交差メタセシス反応において、キレート化アルキリデンリガンドを備えたルテニウムベースのカルベン触媒(いわゆる「ホベイダタイプの触媒」)を製造する方法に関する。好ましくは、ペンタ配位ルテニウムベンジリデンまたはインデリデンカルベン錯体を用いる。ポリマー担持カチオン交換樹脂(PSR)は、酸性樹脂(スルホン酸またはカルボン酸基を含む)またはカルボン酸塩化物(−COCl)基または塩化スルホニル(−SOCl)基を含有する樹脂であってよい。この方法は、汎用的で、環境にやさしく、高い収率が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタセシス用のルテニウム−ベースの触媒の製造、特に、キレート化アルキリデンリガンド(いわゆる「ホベイダタイプ」の触媒)を含むRuベースのメタセシス触媒の合成に関する。触媒製造方法は、リガンドスカベンジャーとして作用するポリマー担持カチオン樹脂を存在させた、交差メタセシス反応に基づくものである。本発明の方法は、簡単で、直接的で、環境にやさしく、高い収率が得られる。
【背景技術】
【0002】
オレフィンメタセシスは、基本的な触媒反応であり、炭素−炭素結合を形成し、分子を構築する最も汎用的なやり方の一つである。閉環メタセシス(RCM)、開環メタセシス重合(ROMP)、交差メタセシス(CM)およびこれらの組み合わせ等の様々なメタセシス反応経路が知られている。ここ数年、オレフィンメタセシスは、有機合成およびポリマー化学において、炭素−炭素結合の形成に広く用いられる方法になってきている。SchrockとGrubbsによる明確に定義されたルテニウムベースのカルベン触媒の開発が、メタセシスの分野において、特に、工業用途について急成長につながっている。
【0003】
グラブスタイプの「第1世代」の触媒、構造(PCyClRu=CHPhを有する2つのトリシクロヘキシルホスフィンリガンドを備えたルテニウムベンジリデン錯体(スキーム1、触媒1a参照、は、有機合成に広く用いられる第1のメタセシス触媒の一つであった。これに、より活性な「第2世代」の類似体が続いた。「飽和」SIMes(=1,3−ジメシチル−イミダゾリジン−2−イリデン)等のN−複素環カルベン(NHC)リガンドが、1つのトリシクロヘキシルホスフィン(PCy)リガンドに置き換わったものである(触媒1b)。
【0004】
最近、いわゆる「ホベイダタイプ」の触媒が、重要性を増している。Hoveydaらは、アルキリデン(カルベン)部分に接続されたベンジリデン−エーテルフラグメントに基づく潜在的メタセシス触媒を開示した(非特許文献1)および国際公開第02/14376 A2号パンフレット参照。これらのタイプのRu触媒は、キレート化アルキリデンリガンド(典型的に、アルコキシベンジリデンリガンド)およびPCyリガンド(第1世代、触媒3a)か、NHCリガンド(第2世代、触媒3b)のいずれかを含む。環状ベンジリデン部分およびキレート化供与体基は、さらに置換されていてよい。
【0005】
明確に定義されたルテニウム触媒の開発は、オレフィンメタセシスを、炭素−炭素二重結合を形成するための効率的かつ信頼性のあるツールとさせている。グラブスタイプの触媒1aおよび1bは、合成化学において様々な用途が見出されており、ルテニウムインデリデンタイプの触媒2aおよび2bは、優れた変形例であることが証明されている。ホベイダタイプの触媒3aおよびそのホスフィンフリーのコンジナー3bは、触媒1および2に比べて、様々なメタセシス反応において改善された活性を示し、さらなる触媒開発の基準とされている。
【化1】

【0006】
Ruインデリデン触媒2cは、近頃、D.Burtscher,C.Lexerら(非特許文献2)に記載された。ここ数年、アリール橋かけ基に官能性置換基を備えたホベイダタイプの触媒が開発されている(触媒3c参照)。一例として、O含有側鎖にケト基を含む触媒3dは、特許文献1に記載されている。
【0007】
ホベイダタイプの触媒は、メタセシス反応においてより広い適用側面を示し、ある用途においては、触媒充填をかなり減じることができる。場合によっては、これらの化合物は、潜在的触媒種を形成することができ、部分的に再生可能と報告されている。そのため、このタイプの触媒は、商業用途にとって重要である。従って、工業規模で経済的な製造のできる適切な触媒製造プロセスが必要とされている。
【0008】
ホベイダタイプの触媒の一般的な製造ルートは、タイプXRu=CHPh(式中、Lは、中性2−電子供与体であり、Lは、好ましくは、タイプPPhまたはPCyのホスフィン)のルテニウムカルベン錯体を出発錯体として用いることに基づく。これらの化合物は、追加の供与体基を含む好適なスチレニルエーテル前駆体リガンドと反応する。新たなカルベン結合が、交差メタセシス反応(「CM」)により生成され、一方、1つのホスフィンリガンドは、スチレニルエーテルリガンドの供与体基で置換されて、キレート化環錯体を形成する。
【0009】
より具体的には、ホベイダタイプの触媒3aおよび3bは、通常、塩化銅(I)(CuCl)を存在させた、1a/bまたは2a/bと2−イソプロポキシスチレンの反応から製造される。この反応において、CuClは、ホスフィンスカベンジャーとして作用し、反応をκ−(C,O)−キレートの閉鎖へとシフトする。残念なことに、CuClは、大気中酸素の存在により容易に酸化され、メタセシス触媒の製造中および長期貯蔵中の取扱いを複雑にさせている。また、過剰のCuClの適用は、カラムクロマトグラフィーを用いて定量的に保持できないため、特定の検査を必要とする。代替の手順が文献には報告されているが、これらの方法は、多数の準備工程および/またはポストエンドカラムクロマトグラフィーを必要とする。
【0010】
S.Gessler,S.RandlおよびS.Blechert(非特許文献3)には、触媒3aから出発するとき、SIMesによるPCyの交換に基づく触媒3bの製造の2工程手順が報告されている。生成物は、クロマトグラフィーにより、75%の全収率で精製された。多数の工程が含まれるため、この経路は、商業的に実行可能でない。
【0011】
A.Fuerstner,P.W.DaviesおよびC.W.Lehmann(非特許文献4)には、フェニルアセチレン誘導体でのエンインメタセシスによる標準的なメタセシス触媒から誘導された二座ルテニウムビニルカルベン触媒の製造が報告されている。
【0012】
M.Bieniek,A.Michrowska,L.GulajskiおよびK.Grela(非特許文献5)には、メタセシス交換反応を用いた、ニトロ置換ホベイダタイプの触媒3cの2工程製造方法が記載されている。
【0013】
S.Blechertら(非特許文献6)には、フェニルエーテルでの交差メタセシスによる触媒3b製造のための前駆体としてのSIMes−およびPPh−置換Ru−インデニリデン錯体の使用が報告されている。生成物は、カラムクロマトグラフィーにより精製された。40%の収率が報告され、このように、この方法は経済的とは思われない。
【0014】
M.Barbasieviczら(非特許文献7)には、グラブスタイプの触媒1b(SIMes)(PCy)ClRu=CHPhから出発し、Cu(I)Clをホスフィンスカベンジャーとして用いるキレート化ルテニウムキノリンおよびキノキサリン錯体の合成が報告されている。
【0015】
特許文献2には、Ruインデリデンカルベン錯体およびオレフィンを用いた交差メタセシス反応によるルテニウムベースのオレフィンメタセシス触媒の製造が記載されている。キレート化アルキリデンを含むホベイダタイプの触媒は開示されていない。
【0016】
特許文献3および特許文献4は、オレフィンメタセシス触媒の製造のためのキレート化カルベンリガンド前駆体に関する。塩化銅(I)を用いずに、ホベイダタイプの触媒を製造する方法が開示されている。有機酸、鉱酸(HCl等)、温和な酸化剤(漂白剤等)またはさらに水が用いられる。ガス状HClを用いるときは、触媒3bについて82%の収率が報告されている。さらに、沈殿、分離および精製工程がこれらの方法においては必要とされる。その上、過剰の酸は除去できないため、反応混合物中に残る。
【0017】
まとめると、当分野におけるかなりの調査にも関わらず、ホベイダタイプのメタセシス触媒の製造方法には尚様々な欠点がある。グラブスタイプの触媒1aおよび1bから出発する合成経路は、通常、遊離錯体の製造のためのジアゾ試薬(例えば、ジアゾアルケン)等、有害な化学物質を用いる。さらに、沈殿、分離および精製工程(カラムクロマトグラフィー等)が、これらの方法に必要とされる。最後に、得られる生成物の収率および純度を改善する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】国際公開第2008/034552号
【特許文献2】国際公開第2004/112951号
【特許文献3】米国特許第7,026,495号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2009/0088581号明細書
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】S.B.Garber,J.S.Kingsbury,B.L.Gray,A.H.Hoveyda,J.Amer.Chem.Soc.2000,122,8168−8179
【非特許文献2】J. of Polymer Science,Part A:Polymer Chemistry 2008,Vol.46,4630−4635参照
【非特許文献3】Tetrahedron Letters2000,41,9973−9976
【非特許文献4】Organometallics2005,24,4065−4071
【非特許文献5】Organometallics2007,26,1096−1099
【非特許文献6】Synlett2001,3,430−432
【非特許文献7】Organometallics2006,25(15),3599−3604
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
従って、本発明の目的は、キレート化アルキリデンリガンドを備えたルテニウムベースのカルベン触媒(「ホベイダタイプ」の触媒)を製造する改善された方法を提供することである。新たな方法は、ホスフィンスカベンジャーとしてCuClを用いてはならず、時間のかかる分離および/または精製工程は必要としてはならない。さらに、この方法は、高収率および高生成物純度(すなわち、ホスフィンリガンド、ホスフィンオキシドまたはCuイオンの残渣なし)でルテニウムカルベン触媒を提供するものでなければならない。最後に、この方法は、清浄かつ簡便で、容易に拡張可能で、環境にやさしく、安価で、商業的な工業規模に適用可能なものでなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、請求項1および続く従属項による方法を提供することにより、この目的に取り組むものである。
【0022】
本発明によれば、
ルテニウム−アルキリデン錯体を、オレフィン誘導体と、式(1)
【化2】


(式中、
−Lは、中性2−電子供与体リガンドであり、
−Lは、中性ホスフィンまたはアミンリガンドであり、
−XおよびXは、互いに独立して、無機または有機アニオンリガンド、例えば、ハロゲン化物アニオン、擬ハロゲン化物アニオン、水酸化物、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩またはカルボン酸塩であり、
−YおよびYは、互いに独立して、水素、C−C−アルキル、C−C−アルケニル、C−C−アルキニル、C−C−アルキルチオ、フェニル、アリール、アリールチオ、C−C−アルキルスルホニルまたはC−C−アルキルスルフィニルであり、あるいはYおよびYは、併せて、式
【化3】


(前記式中、Rは、水素または置換または非置換フェニル基である)
によるインデニリデンタイプの環を形成し、
−RおよびRは、互いに独立して、水素、C−C10−アルキル、C−C10−アルケニル、C−C10−アルキニル、フェニルまたはアリール基(任意選択的に置換することができる)であり、
−a、b、cおよびdは、互いに独立して、a、b、cまたはdのそれぞれが互いに環を形成することができるという条件で、水素、C−C10−アルキル、C−C10−アルコキシ、C−C10−アルキルチオ、C−C10−シラニル、C−C10−シリルオキシ、C−C10−アルケニル、C−C10−アルキニル、C−C14−アリール、C−C14−アリールオキシ、C−C14−複素環、C−C14−複素環アリール、フェニル、フルオロ(−F)、クロロ(−Cl)、ブロモ(−Br)、ヨード(−I)、トリフルオロメチル(−CF)、ニトロ(−NO)、スルフィニル、スルホニル、ホルミル、C−C10−カルボニル、C−C10−エステル、C−C10−アミノカルボニル、C−C10−アルキルアミド、C−C10−スルフォンアミド、C−C10−ウラミドまたはC−C10−アミノスルホニルであり、
−Zは、酸素(O)または硫黄(S)などのヘテロ供与体原子またはスルフィニル(>S=O)などのヘテロ供与体原子を含む基であり、
−Rおよび/またはZが、dと共に環を形成してよいという条件で、Rは、置換または非置換炭化水素基、例えば、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アルキルアミノ、アルキルチオ、置換または非置換ケト基、例えば、−C(R−CO−C(R、置換または非置換エステル基、例えば、−C(R−CO−O(R)(式中、前記基中のRは、水素またはC−C10−アルキルであり、Rは、水素、C−C10−アルキル、C−C10−フルオロアルキル、C−C10−アルキルアミノ、C−C10−アルキルアンモニウムまたはC−C10−アルケニルであり、Rは、C−C10−アルキル、C−C10−フルオロアルキル、C−C10−アルキルアミノ、C−C10−アルキルアンモニウムまたはC−C10−アルケニルである)であり、
−PSRは、ポリマー担持カチオン交換樹脂であり、
−PSR−Lは、ポリマー担持カチオン交換樹脂のリガンドL付加物である)
によるポリマー担持カチオン交換樹脂(以降、「PSR」と省略する)を存在させた、交差メタセシス反応により反応させることにより、キレート化アルキリデンリガンドを備えたルテニウムベースのカルベン触媒を製造する。
【0023】
本発明の方法の好ましい実施形態において、キレート化アルキリデンリガンドを備えたルテニウムベースのカルベン触媒は、ルテニウム−アルキリデン錯体をオレフィン誘導体と、ポリマー担持カチオン交換樹脂(「PSR」)を存在させた交差メタセシス反応により反応させることにより製造され、
−Lは、ホスフィンリガンド、例えば、トリシクロヘキシルホスフィン、トリフェニルホスフィン、シクロヘキシル−フォバン(=9−シクロヘキシル−9−ホスファビシクロノナン)、イソブチル−フォバン(=9−イソブチル−9−ホスファビシクロノナン)あるいは飽和または不飽和N−複素環カルベン(NHC)リガンド、例えば、IMes(=1,3−ジメシチル−イミダゾル−2−イリデン)またはSIMes(=1,3−ジメシチル−イミダゾリジン−2−イリデン)であり、
−Lは、ホスフィンリガンド、例えば、トリシクロヘキシルホスフィン、トリフェニルホスフィン、シクロヘキシル−フォバンまたはイソブチルフォバンあるいはアミンリガンド、例えば、ピリジン、3−ブロモ−ピリジン、4−メチルピリジン、キノリンまたはピペリジンであり、
−XおよびXは、互いに独立して、塩化物(Cl)、臭化物(Br)、ヨウ化物(I)、シアン化物(CN)または酢酸(AcO)リガンドであり、
−YおよびYは、互いに独立して、水素、C−C−アルキル、C−C−アルケニル、フェニル、アリール、アリールチオであり、またはYおよびYは併せて、インデリデンタイプの環を形成し、Rは、置換または非置換フェニル基であり、
−RおよびRは、互いに独立して、水素、C−C10−アルキル、C−C10−アルケニル、フェニルまたはアリール基であり、
−a、b、cおよびdは、互いに独立して、水素、フェニル、フルオロ(−F)、クロロ(−Cl)、ニトロ(−NO)、トリフルオロメチル(−CF)、アセタミド(−N(H)−CO−CH)、トリフルオロアセタミド(−N(H)−CO−CF)、ジフルオロクロロアセタミド(−N(H)−CO−CClF)、ペンタフルオロベンズアミド(−N(H)−CO−C)、p−ニトロ−ベンズアミド(−N(H)−CO−C−NO)、ジメチルアミドスルホニル(−SO−N(CH)、エチルスルホニル(−SO−C)、エチルエステル(−O−CO−C)またはホルミル(−CHO)であり、
−Zは、酸素(O)または硫黄(S)等のヘテロ供与体であり、
−Rは、置換または非置換アルキル基、例えば、−CHまたは−CH(CH、置換または非置換ケト基、例えば、−CH−CO−CH、−CH−CO−C、−CH(CH)−CO−CHまたは−CH(CH)−CO−C、置換または置換エステル基、例えば、−CH−CO−O−CH、−CH−CO−O−C、−CH(CH)−CO−O−CHまたは−CH(CH)−CO−O−Cあるいは−CH(CH)−CO−O−C−N(CH等のエステル基を含有するアミノ基であり、
−PSRは、ポリマー担持カチオン交換樹脂であり、
−PSR−Lは、ポリマー担持カチオン交換樹脂のリガンドL付加物である。
【0024】
本方法は、反応混合物から、ポリマー担持カチオン交換樹脂(=PSR−L)のリガンドL付加物を除去する工程をさらに含んでいてよい。
【0025】
本方法は、好適な有機溶剤中で実施される。反応後、溶剤を反応混合物から除去し(例えば、真空中での蒸発により)、非極性炭化水素溶剤中の残りの残渣を懸濁し、沈殿した生成物を分離する(例えば、ろ過により)工程をさらに含んでいてよい。さらに、本方法は、当業者に周知された追加の生成物精製および乾燥工程をさらに含んでいてよい。本発明の方法により、概して、>90%の範囲の非常に良好な収率が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】様々な量のアンバーリスト15−A樹脂を存在させた、40℃でのジクロロメタン(DCM)(cRu=0.01M)中でのルテニウムインデリデン錯体2aからホベイダタイプの触媒3aの反応の進行を、選択した時間の間隔で、粗反応混合物の31P NMR分析により簡便にモニターした結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
主な利点として、本発明の方法は、Cu(I)Clの使用を排除するものである。この化合物は、ホスフィンスカベンジャーとして広く用いられており、溶液中のリガンドL(好ましくは、ホスフィンまたはアミンリガンド)の遊離濃度を下げることにより、Ruアルキリデン出発錯体の変換を促進し、リガンドLのターゲットルテニウム触媒への配位を防ぐ。CuClの適用を避けるには、従って、効率的なリガンド(特に、ホスフィンまたはアミン)スカベンジング試薬が求められる。
【0028】
A.FalchiおよびM.Taddei(Organic Letters 2000,2,3429−3431参照)は、アルコール、チオール、ホスフィンおよびホスフィンオキシドのための水溶性ポリマー担持スカベンジャーとしてのPEG−ジクロロトリアジンの使用を報告した。ホスフィンスカベンジャーとしてのその活性は、検査におけるその成果のある適用から明らかであったが、スカベンジャーポリマーの製造のための追加の工程が必要性なことからその適用性が制限される。
【0029】
一方、ポリマー担持カチオン交換樹脂(PSR)を、酸性形態で、「フィッツナー−モファット」酸化後、反応混合物から第三級アミンの除去のために適用した。その後、樹脂の除去により、対応のケトンが高収率で単離できる(D.L.Flynn,J.Z.Crich,R.V.Devraj,S.L.Hockerman,J.J.Parlow,M.S.SouthおよびS.Woodard,Journal of the American Chemical Society 1997,119,4874−4881参照)。
【0030】
さらに、ポリマー担持カチオン交換樹脂は、石油化学用途において液体の高級オレフィンから微量のホスフィンの除去に用いられる(欧州特許第271143B1号明細書参照)。本明細書において、ポリマー担持カチオン交換樹脂(PSR)は反応相手として作用しない。
【0031】
意外にも、本発明者らは、好適なポリマー担持樹脂、特に、ポリマー担持カチオン交換樹脂(以降、「PSR」と略す)が、式(1)による反応においてリガンドLの除去に有効に用いられることを見出した。
【0032】
好ましくは、ポリマー担持カチオン交換樹脂は、スルホン酸基(−SOH)等の酸性基を含む。このPSRタイプの一例はAMBERLYST 15A(Rohm and Haas CoまたはAldrich Chemicalsより入手可能)である。この材料は、巨大網状球状ビーズとして入手可能なスルホン酸基を備えた強酸性の架橋ポリスチレン−ジビニルベンゼン−ポリマーである。同様の製品が、他の供給業者により販売されている。
【0033】
さらに、他の酸性基を備えたポリマー担持樹脂(PSR)、例えば、カルボン酸基(−COOH)またはリン酸基を用いてよい。好適なポリマー担持カルボン酸の例は、Varian Polymer Laboratories(Darmstadt,Germany)より入手可能な「PL−Mal樹脂」および「PL−MeMal樹脂」である。
【0034】
さらに、酸塩化物基を備えたポリマー担持樹脂(PSR)、例えば、ポリマー担持塩化スルホニル(−SOCl)、ポリマー担持アセチル塩化物(−COCl)またはポリマー担持トシル塩化物を本発明の方法に用いてよい。好適なポリマー担持スルホニル塩化物樹脂の一例は、Varian Polymer Laboratories(Darmstadt,Germany)より入手可能な「PL−SOCl樹脂」である。同様の製品が、他の供給業者により製造されている。
【0035】
少なくとも化学量論で添加すると、PSR化合物は、反応をκ−(C,O)−キレートの閉鎖の方向へシフトするため、収率の大幅な改善につながる。このように、安定な中間生成物または遷移化合物は、反応中に形成されない。従って、本発明の方法は、高純度の触媒および>90%の範囲の収率につながる。
【0036】
反応後、PSR−L付加物は、反応混合物から容易に除去される。不均一系であるため、酸性化合物は残らない。リガンド付加物(PSR−L)は、使用後、直接再活性化でき、貴重なLリガンド、例えば、高価なホスフィンリガンドが回収される。イオン交換樹脂の再生のための標準的な操作手順を用いてよい(酸洗浄等)。従って、本発明の方法は、経済的、持続的かつ環境にやさしい。
【0037】
出発Ru(II)−アルキリデン錯体に関して添加されるポリマー担持カチオン交換樹脂(PSR)の量は、1〜15当量の範囲、好ましくは、2〜10当量の範囲、特に好ましくは、4〜8当量の範囲である。4〜8当量のPSRを用いると、プロセス中、1時間未満という非常に短い反応時間が得られるため、特に有利であることが分かった(比較例参照)。
【0038】
概して、タイプ(L)(L)XRu=CYのRu(II)−アルキリデン錯体を本発明の方法において出発化合物として用いる。好ましくは、5配位ルテニウムベンジリデンまたはインデリデンカルベン錯体を用いる。インデリデン錯体が特に好ましい。本明細書において、リガンドLは、概して、中性2−電子供与体リガンド、好ましくは、ホスフィンリガンドあるいは飽和または不飽和N−複素環カルベン(NHC)リガンドである。好適なNHCリガンド(「N−複素環カルベン」リガンド)の例は、飽和SIMes(=1,3−ジメシチル−イミダゾリジン−2−イリデン)、飽和SIPr(=1,3−ビス−(2,6−ジイソプロピルフェニル)−イミダゾリジン−2−イリデン)または不飽和IMes(=1,3−ジメシチル−イミダゾール−2−イリデン)である。
【0039】
およびXは、互いに独立して、無機または有機アニオン(すなわち、負に帯電した)リガンド、例えば、ハロゲン化物アニオン、擬ハロゲン化物アニオン、水酸化物、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩またはカルボン酸塩である。好適なアニオンリガンドXの例はハロゲン化物であり、Clが最も好ましい。
【0040】
キレート化アルキリデンリガンドの前駆体(本明細書において「オレフィン誘導体」と呼ばれる)は以下の一般式
【化4】


を有する。
【0041】
この式中、置換基R、R、R、a、b、c、dおよびヘテロ供与体原子Zは、上記した意味を有する。
【0042】
通常、前駆体リガンドは、文献から公知の標準的な手順により調製してよく、または様々な供給業者から商業的に入手してよい。本発明の方法に好適なオレフィン誘導体の例は、(E/Z)−1−イソプロポキシ−2−(1−プロペニル)−ベンゼン(「イソプロポキシスチレン」)、(E/Z)−1−[2−(1−プロペン−1−イル)−フェノキシ]−2−プロパノン)、2−イソプロポキシ−4−ニトロ−スチレンまたは2−イソプロポキシ−3−ビニルビフェニルである。さらなる好適なオレフィン誘導体は、3−(2−プロプ−1−エンイル)フェノキシ)−ブタン−2−オンである。
【0043】
出発Ru(II)−アルキリデン錯体は、適切な溶剤に溶解し、リガンド前駆体(オレフィン誘導体)を添加する。オレフィンリガンド前駆体対Ru出発錯体のモル比は、1〜1.5当量の範囲、好ましくは1〜1.2当量の範囲である。ただし、これより多い量または少ない量を添加してよい。
【0044】
様々な有機溶剤を本発明の製造方法に用いてよい。好ましくは、方法は、塩素化炭化水素溶剤、例えば、ジクロロメタン(DCM)、クロロホルムまたは1,2−ジクロロエタン(DCE)、あるいは環状エーテル、例えば、テトラヒドロフラン(THF)またはジオキサンで実施する。しかしながら、芳香族炭化水素溶剤、例えば、ベンゼンまたはトルエン、同じくエステルおよび挙げた溶剤の混合物を用いてよい。
【0045】
反応温度は、0℃〜120℃の範囲、好ましくは、20℃〜100℃の範囲である。好適な反応時間は、オレフィン誘導体のタイプおよび用いるPSRの量に応じて異なる。典型的に、反応時間は、0.5〜4時間の範囲、好ましくは、0.5〜2時間の範囲である。
【0046】
一定の時間、反応混合物を攪拌した後、反応PSR材料(=付加物PSR−L)を標準的な分離プロセス、例えば、ろ過(例えば、ろ紙、ガラスフリット、綿栓)および/またはデカンテーション、遠心分離またはフィルタドライヤーにより除去する。その後、溶剤を、例えば、真空中蒸発により、減少または除去する。その後、残った残渣を、好適な非極性炭化水素溶剤(例えば、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタンおよび/またはシクロヘキサンまたはこれらの混合物)中で懸濁すると、触媒生成物が沈殿する。作製する触媒生成物に応じて、低脂肪族アルコール(例えば、メタノール)を、懸濁のための溶剤として用いてもよい。
【0047】
沈殿物の分離後(例えば、ろ過により)、最終生成物を乾燥してよい(真空または乾燥オーブン等で)。追加の洗浄および/または乾燥工程を行ってよい。得られる触媒生成物が高純度であるため、さらなる精製工程は基本的に必要ない。しかしながら、必要であれば、カラムクロマトグラフィー(LC、HPLC等)または再結晶化等の追加の精製工程を行ってよい。
【0048】
既述のとおり、本発明の方法は、高収率の生成物につながる(通常、>90%の範囲)。典型的に、本方法により得られるRu触媒生成物のCu含量は、10ppm未満、好ましくは、5ppm未満である(ICPにより測定。ICP=誘導結合プラズマ)。
【0049】
本発明による製造方法は、非常に汎用的で、触媒の工業的な大規模生成に有用で、様々なRuベースのホベイダタイプの触媒の製造に適用することができる。これらの触媒生成物は、様々なメタセシス反応、例えば、環閉メタセシス(RCM)、環開メタセシス重合(ROMP)、交差メタセシス(CM)、非環式ジエン−メタセシス−重合(ADMET)および/またはこれらの組み合わせに利用できる。
【0050】
以下の実施例は、本発明をさらに説明するものであるが、保護の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0051】
実施例1
2aからのホベイダタイプの触媒3aの製造
火炎乾燥したシュレンク反応フラスコに、攪拌バーを入れ、Ar雰囲気下に置く。923mgの[ジクロロ−(3−フェニル−1H−インデン−1−イリデン)−ビス−(トリシクロヘキシルホスフィン)−ルテニウム(II)]2a(1.0ミリモル、Umicore AG&Co KG,Hanau)、173mg2−イソプロポキシスチレン(1.05ミリモル、1.05当量、Aldrich)および乾燥形態にある1026mgのアンバーリスト15−A樹脂(4.0ミリモル、4当量、Rohm and Haas Co.,Philadelphia,USA)を、反応フラスコに入れ、25mLのジクロロメタン(DCM)を添加する。反応物を40℃で75分間攪拌すると、溶液は赤色から褐色に変色した。その後、反応混合物を、綿栓を備えたパスツールピペットに送り、アンバーリスト樹脂を除去する。全揮発物の蒸発、20mLのn−ヘキサン中の残渣の懸濁ならびに続く真空中での沈殿物のろ過および乾燥により、548mgの所望の化合物3a(収率:91%)が得られた。
【0052】
実施例2
2bからのホベイダタイプの触媒3bの製造
火炎乾燥したシュレンク反応フラスコに、攪拌バーを入れ、Ar雰囲気下に置く。949mgの[ジクロロ−(3−フェニル−1H−インデン−1−イリデン)−(1,3−ジメシチル−4,5−ジヒドロ−イミダゾル−2−イリデン)−(トリシクロヘキシルホスフィン)−ルテニウム(II)]2b(1.0ミリモル、Umicore AG&Co KG,Hanau)、173mgの2−イソプロポキシスチレン(1.05ミリモル、1.05当量)および乾燥形態にある1026mgのアンバーリスト15−A樹脂(4.0ミリモル、4当量)を、反応フラスコに入れた。25mLのTHFを添加する。反応物を68℃で1時間攪拌すると、その間に反応混合物は赤色から緑色に変色する。その後、反応混合物を、綿栓を備えたパスツールピペットに送り、アンバーリスト樹脂を除去する。全揮発物の蒸発、20mLのn−ヘキサン中の残渣の懸濁ならびに続く真空中での沈殿物のろ過および乾燥により、576mgの所望の化合物が、空気中で安定な緑色の生成物として(収率:94%)得られた。乾燥した緑がかったの粉末のHおよび13C NMRスペクトルデータは、文献の報告に一致するものだった。
【0053】
実施例3
1bからのホベイダタイプの触媒3bの製造
火炎乾燥したシュレンク反応フラスコに、攪拌バーを入れ、Ar雰囲気下に置く。849mgの1b(1.00ミリモル)、173mgの2−イソプロポキシスチレン(1.05ミリモル、1.05当量)および乾燥形態にある1026mgのアンバーリスト15−A樹脂(4.00ミリモル、4当量)を、反応フラスコに入れた。25mLのTHFを添加する。反応物を40℃で1.5時間攪拌した。その間に反応混合物は桃色から緑色に変色する。その後、反応混合物を、綿栓を備えたパスツールピペットに送り、ポリスチレンスルホン酸樹脂を除去する。全揮発物の蒸発、20mLのヘキサン中の懸濁ならびに続く真空中でのろ過および乾燥により、所望の化合物3bが、空気中で安定な緑色の生成物として得られた。Hおよび13C NMR分析は、文献にあるものと一致する。
【0054】
実施例4
2bからのホベイダタイプの触媒3cの製造
火炎乾燥したシュレンク反応フラスコに、攪拌バーを入れ、Ar雰囲気下に置く。475mgのジクロロ−(3−フェニル−1H−インデン−1−イリデン)−(1,3−ジメシチル−4,5−ジヒドロ−イミダゾル−2−イリデン)−(トリシクロヘキシルホスフィン)−ルテニウム(II)]2b(0.50ミリモル、1.00当量、Umicore AG&Co KG,Hanau)、117mgの2−イソプロポキシ−4−ニトロ−スチレン(0.52ミリモル、1.05当量)および500.7mgのアンバーリスト15−A樹脂(2.0ミリモル、4.00当量)を添加する。15mLの無水THFを添加し、混合物を70℃で攪拌する。反応を、反応混合物の31P NMR分光法により毎時間モニターする。
【0055】
2時間以内に、出発化合物のシグナルは完全に消え、反応混合物は、赤色から緑色に変色する。この時点で、反応混合物を室温まで冷やし、綿栓を備えたパスツールピペットでポリマー樹脂をろ過する。ろ液を真空で濃縮し、10mLのn−ヘキサンに懸濁する。生成物をガラスフリットでろ過する。さらに、ろ液を真空で濃縮し、n−ヘキサンに懸濁し、P4ガラスフリットで緑色の生成物としてろ過する。緑色の生成物を完全に洗浄し(3×5mLのn−ペンタン)、その後、緑色の生成物を乾燥すると、458mgの所望の化合物3c(91%)が得られる。
【0056】
実施例5
2bからのホベイダタイプの触媒3dの製造
火炎乾燥したシュレンク反応フラスコに、攪拌バーを入れ、Ar雰囲気下に置く。475mgの[ジクロロ−(3−フェニル−1H−インデン−1−イリデン)−(1,3−ジメシチル−4,5−ジヒドロ−イミダゾル−2−イリデン)−(トリシクロヘキシルホスフィン)−ルテニウム(II)]2b(0.50ミリモル、1.00当量、Umicore AG&Co KG,Hanau)、100mgの3−(2−プロプ−1−エンイル)フェノキシ)−ブタン−2−オン(0.52ミリモル、1.05当量)および500mgのポリマー担持アンバーリスト15−A樹脂(2.0ミリモル、4.00当量)を添加する。15mLの無水THFを添加し、混合物を70℃で攪拌する。反応を、反応混合物の31P NMR分光法により毎時間モニターする。
【0057】
還流4時間以内に、反応混合物は、赤色から深緑色に変わる。還流4時間後の反応混合物からの31P NMR分光法では、出発化合物からのシグナルは明らかではない。この時点で、反応混合物を室温まで冷やし、綿栓を備えたパスツールピペットでポリマー樹脂をろ過する。ろ液を真空で濃縮し、10mLのn−ヘキサンに懸濁する。生成物をガラスフリットでろ過する。さらに、ろ液を真空で濃縮し、n−ヘキサンに懸濁し、P4ガラスフリットで緑色の生成物としてろ過する。緑色の生成物を完全に洗浄し(3×5mLのn−ペンタン)、その後、緑色の生成物を乾燥すると、所望の化合物3dが非常に良い収率で得られる。
【0058】
実施例6
2cからのホベイダタイプの触媒3bの製造
火炎乾燥したシュレンク反応アスクに、攪拌バーを入れ、Ar雰囲気下に置く。748mgの[ジクロロ−(3−フェニル−1H−インデン−1−イリデン)−(1,3−ジメシチル−4,5−ジヒドロ−イミダゾル−2−イリデン)−(ピリジン)−ルテニウム(II)]2c(1.00ミリモル、Umicore AG&Co KG,Hanau)、173mgの2−イソプロポキシスチレン(1.05ミリモル、1.05当量)および1026mgのアンバーリスト15−A樹脂(4.00ミリモル、4当量)を、反応アスクに入れ、25mLのTHFを添加する。反応混合物を40℃で1時間攪拌すると、その間に反応混合物は赤色から緑色に変わる。その後、反応混合物を、綿栓を備えたパスツールピペットに送り、ポリスチレンスルホン酸樹脂を除去する。全揮発物の蒸発、20mLのn−ヘキサン中の懸濁ならびに続く真空中でのろ過および乾燥により、578mgの所望の化合物3bが、空気中で安定な緑色の生成物として(収率:94%)得られた。Hおよび13C NMR分析は、文献の報告に一致する。
【0059】
比較例
比較例において、ポリマー担持イオン交換樹脂(この場合はアンバーリスト15−A)のイン・サイチュでのホスフィンスカベンジャー試薬としての可能性を調べた。比較の目的で、PSR材料を添加しない反応も実施する。
【0060】
ルテニウムインデリデン錯体2aと、1.05当量の2−イソプロポキシスチレンの反応時のホベイダタイプの触媒3aの合成への反応を実施した。様々な量のアンバーリスト15−A樹脂を存在させた、40℃でのジクロロメタン(DCM)(cRu=0.01M)中での2aから3aの反応の進行を、選択した時間の間隔で、粗反応混合物の31P NMR分析により簡便にモニターした。結果を図1に示す。そこには、ポリマー担持スルホン酸樹脂(PSR)濃度および時間の関数としてのジクロロメタン還流におけるルテニウムインデリデン触媒2aからホベイダタイプの触媒3aへの変換が記録されている。図1には、反応の進行に対するPSRの影響が明らかに示されている。アンバーリスト15−A樹脂がないと、2時間後、僅か23%の出発材料しか消費されていない。ホスフィンスカベンジング剤がないために、ホベイダタイプの触媒3aは、そのビスホスフィン付加物3a・PCy(δ36.3ppm、31P NMRによりモニターされる)として存在する。アンバーリスト15−Aの量が、1または2当量に増えると、反応速度の僅かな改善が観察される。しかしながら、4〜8当量のPSRを適用すると、1時間以内に、錯体2aから3aへのクリーンな変換がなされる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルテニウム−アルキリデン錯体を、オレフィン誘導体と、式(1)
【化1】


(式中、
−Lは、中性2−電子供与体リガンドであり、
−Lは、中性アミンまたはホスフィンリガンドであり、
−XおよびXは、互いに独立して、無機または有機アニオンリガンド、例えば、ハロゲン化物アニオン、擬ハロゲン化物アニオン、水酸化物、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩またはカルボン酸塩であり、
−YおよびYは、互いに独立して、水素、C−C−アルキル、C−C−アルケニル、C−C−アルキニル、C−C−アルキルチオ、フェニル、アリール、アリールチオ、C−C−アルキルスルホニルまたはC−C−アルキルスルフィニルであり、あるいはYおよびYは、併せて、式
【化2】


(前記式中、Rは、水素または置換または非置換フェニル基である)
によるインデニリデンタイプの環を形成し、
−RおよびRは、互いに独立して、水素、C−C10−アルキル、C−C10−アルケニル、C−C10−アルキニル、フェニルまたはアリール基(任意選択的に置換することができる)であり、
−a、b、cおよびdは、互いに独立して、a、b、cまたはdのそれぞれが互いに環を形成することができるという条件で、水素、C−C10−アルキル、C−C10−アルコキシ、C−C10−アルキルチオ、C−C10−シラニル、C−C10−シリルオキシ、C−C10−アルケニル、C−C10−アルキニル、C−C14−アリール、C−C14−アリールオキシ、C−C14−複素環、C−C14−複素環アリール、フェニル、フルオロ(−F)、クロロ(−Cl)、ブロモ(−Br)、ヨード(−I)、トリフルオロメチル(−CF)、ニトロ(−NO)、スルフィニル、スルホニル、ホルミル、C−C10−カルボニル、C−C10−エステル、C−C10−アミノカルボニル、C−C10−アルキルアミド、C−C10−スルフォンアミド、C−C10−ウラミド、C−C10−アミノスルホニルおよびイオン基、例えば、−[CPFまたは−[N(CCHClであり、
−Zは、酸素(O)または硫黄(S)などのヘテロ供与体原子またはスルフィニル(>S=O)などのヘテロ供与体原子を含む基であり、
−Rおよび/またはZが、dと共に環を形成してよいという条件で、Rは、置換または非置換炭化水素基、例えば、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アルキルアミノ、アルキルチオ、置換または非置換ケト基、例えば、−C(R−CO−C(R、置換または非置換エステル基、例えば、−C(R−CO−O(R)(式中、前記基中のRは、水素またはC−C10−アルキルであり、Rは、水素、C−C10−アルキル、C−C10−フルオロアルキル、C−C10−アルキルアミノ、C−C10−アルキルアンモニウムまたはC−C10−アルケニルであり、Rは、C−C10−アルキル、C−C10−フルオロアルキル、C−C10−アルキルアミノ、C−C10−アルキルアンモニウムまたはC−C10−アルケニルである)であり、
−PSRは、ポリマー担持カチオン交換樹脂であり、
−PSR−Lは、ポリマー担持カチオン交換樹脂のリガンドL付加物である)
によるポリマー担持カチオン交換樹脂(PSR)を存在させた、交差メタセシス反応において反応させることにより、キレート化アルキリデンリガンドを備えたルテニウムベースのカルベン触媒を製造する方法。
【請求項2】
リガンドLの前記ポリマー担持カチオン交換樹脂の前記付加物(PSR−L)の前記反応混合物からの分離をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ルテニウム−アルキリデン錯体が、ルテニウム−インデリデン錯体であり、式中、YおよびYは、併せて、前記インデリデンタイプの環を形成する請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ルテニウム−アルキリデン錯体が、ルテニウム−ベンジリデン錯体である請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリマー担持カチオン交換樹脂(PSR)が酸性樹脂であり、スルホン酸(−SOH)またはカルボン酸(−COOH)基を含む請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ポリマー担持カチオン交換樹脂(PSR)が、塩化スルホニル(−SOCl)基またはカルボン酸塩化物(−COCl)基を含む請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ポリマー担持カチオン交換樹脂(PSR)が、2〜15当量の範囲、好ましくは、2〜10当量の範囲(出発Ruアルキリデン錯体を基準として)で添加される請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記オレフィン誘導体が、1〜1.5当量の範囲、好ましくは、1〜1.2当量の範囲(出発Ruアルキリデン錯体を基準として)で添加される請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記オレフィン誘導体が、(E/Z)−1−イソプロポキシ−2−(1−プロペニル)−ベンゼン(=「イソプロポキシスチレン」)、(E/Z)−1−[2−(1−プロペン−1−イル)−フェノキシ]−2−プロパノン)、2−イソプロポキシ−4−ニトロ−スチレンまたは2−イソプロポキシ−3−ビニル−ビフェニルの群から選択される請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記反応が、塩素化炭化水素、芳香族炭化水素、環状エーテル、エステルまたはこれらの混合物の群から選択される有機溶媒中で実施される請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記反応温度が、20〜120℃の範囲、好ましくは、20〜100℃の範囲である請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記反応時間が、0.5〜4時間の範囲、好ましくは、0.5〜2時間の範囲である請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
−反応後、前記溶剤を、前記反応混合物から除去する工程と、
−残渣を非極性炭化水素溶剤に懸濁する工程と、
−前記沈殿触媒生成物を分離する工程と
をさらに含む請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記沈殿触媒生成物を乾燥する工程をさらに含む請求項13に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2013−517931(P2013−517931A)
【公表日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−550363(P2012−550363)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【国際出願番号】PCT/EP2011/000300
【国際公開番号】WO2011/091980
【国際公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(501399500)ユミコア・アクチエンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト (139)
【氏名又は名称原語表記】Umicore AG & Co.KG
【住所又は居所原語表記】Rodenbacher Chaussee 4,D−63457 Hanau,Germany
【出願人】(512197629)ヘント ユニバーシティー (2)
【Fターム(参考)】