説明

クラッチ

【課題】外歯クラッチ体の外歯と内歯クラッチ体の内歯とが噛み合う形式のクラッチにおいて、噛み合う面積、所謂、クラッチの噛み合い確率を向上するクラッチを提供する。
【解決手段】外歯クラッチ体62の外歯62bと内歯クラッチ体63の内歯63bとが噛み合う形式のクラッチであって、内歯クラッチ体63の内歯63bは、略半円状に形成され、外歯クラッチ体62の外歯62bは、スプロケット形状に形成されるPTOクラッチ60である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方の軸と他方の軸との間で動力の断接を可能とするクラッチ、特に、噛み合い式クラッチ(ドッグクラッチ)の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、一方の軸と他方の軸との間で動力の断接を可能とするクラッチは公知となっている。クラッチには摩擦式や噛み合い式等の種類があり、さらに、噛み合い式には、爪式や歯車式等が知られている。このうち歯車式の場合、さらに、外歯クラッチ体と外歯クラッチ体の外歯同士が噛み合う形式と、外歯クラッチ体と内歯クラッチ体の内歯と外歯が噛み合う形式がある。
【0003】
内歯クラッチ体と外歯クラッチ体が噛み合う形式のクラッチは、例えば、特許文献1に示す技術が公知となっている。特許文献1のようなクラッチでは、噛み合い時において、内歯クラッチと外歯クラッチとを噛み合せた場合、内歯と外歯との噛み合い位置が限られてしまうため、噛み合い率が低くなっていた。つまり、外歯クラッチ体は、その端部外周面に所定のピッチ円に従って略インボリュート歯形の外歯が多数形成され、また、内歯クラッチ体は、外歯の上記所定のピッチ円と同一径のピッチ円上に中心位置を有する円形状の内歯が多数形成されているため、外歯と内歯との当接部は線接触となっていた。そのため、外歯と、内歯との噛み合っている部分の面積が小さく、当接部分における強度を高くする必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭63−132149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、外歯クラッチ体の外歯と内歯クラッチ体の内歯とが噛み合う形式のクラッチにおいて、噛み合う面積、所謂、クラッチの噛み合い確率を向上するクラッチを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0007】
即ち、第1の発明は、外歯クラッチ体の外歯と内歯クラッチ体の内歯とが噛み合う形式のクラッチにおいて、前記内歯クラッチ体の内歯は略半円状に形成され、前記外歯クラッチ体の外歯はスプロケット形状に形成されるものである。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、前記外歯の側面には、チャンファー状の面取り部が形成されるものである。
【0009】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記外歯における前記内歯に当接する部分を、前記内歯の円弧と略一致する曲率半径の円弧状に形成されるものである。
【0010】
第4の発明は、第1から第3のいずれか1つの発明のクラッチを具備する管理機である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0012】
第1の発明においては、外歯と内歯との噛合部分の噛み合わせ範囲を増やすことができる。このため、外歯クラッチ体と内歯クラッチ体との噛合部分での噛み合わせ確率が向上する。また、外歯と内歯の強度は、従来のクラッチよりも小さくて済むため、クラッチの小型化が可能となる。
【0013】
第2の発明においては、外歯クラッチ体と内歯クラッチ体との噛み合わせが合っていない場合でも、外歯クラッチ体または内歯クラッチ体のいずれか一方の位置を少しズラすだけで容易に噛み合わせを行うことができる。そのため、外歯クラッチ体と内歯クラッチ体とを噛み合わせるために特殊工具を用いる必要がない。
【0014】
第3の発明においては、外歯と内歯とが噛み合う時に、外歯と内歯を面接触させることができ、外歯クラッチ体と内歯クラッチ体の強度を充分に確保することができる。
【0015】
第4の発明においては、外歯クラッチ体と内歯クラッチ体との噛合部分での噛み合わせ確率を向上させることができるため、クラッチ操作手段によるクラッチの操作性を向上させることができる。また、本クラッチをPTOクラッチに適用することでエンジンからロータリ式耕耘装置への動力の伝達効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】管理機の全体的な構成を示す側面図。
【図2】管理機の全体的な構成を示す平面図。
【図3】ミッションケースおよびロータリケースの側面断面図。
【図4】ロータリケースおよびチェーンケースの背面断面図。
【図5】クラッチの分解側面図。
【図6】(a)外歯クラッチ体の側面図。(b)外歯クラッチ体の外歯の先端部における拡大側面図。(c)外歯クラッチ体の外歯の先端部における拡大平面図。(d)外歯クラッチ体の外歯の先端部における拡大正面図。
【図7】外歯クラッチ体の外歯および内歯クラッチ体の内歯を示す拡大側面図。
【図8】(a)クラッチ操作手段の非操作時の斜視図。(b)クラッチ操作手段の操作時の斜視図。
【図9】(a)クラッチ操作手段の非操作時における第一バネ近傍の断面図。(b)クラッチ操作手段の操作時における第一バネ近傍の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
まず、本発明のクラッチを具備した管理機1の全体構成について説明する。なお、以下では矢印A方向を前方向として前後左右上下方向を規定する。但し、本発明のクラッチはPTOクラッチ60として設けられるが、走行変速用やPTO変速用等に用いることも可能であり、また、管理機だけでなく、トラクタやコンバインや田植機等の作業車両の変速用や動力断接等に適用することができる。
【0018】
管理機1は、歩行型管理機であり、機体に装着した各種の作業装置によって、耕耘作業や中耕除草等の農作業を行うことを可能としたものである。本実施形態の管理機1には、作業装置の一例であるロータリ式耕耘装置40が装着される。
【0019】
図1および図2に示すように、管理機1は、エンジンフレーム11、エンジン12、伝動機構14、変速装置15、車輪30・30、ロータリ式耕耘装置40、および操作部材50等を具備する。
【0020】
管理機1の駆動源であるエンジン12は、エンジンフレーム11の前部に搭載される。変速装置15は、エンジン12の後方に配置される。そして、伝動機構14がエンジン12と変速装置15との間に設けられる。エンジン12の動力は、出力軸からプーリ14a・14b、ベルト14c、主クラッチ14d等により構成される伝動機構14を介して変速装置15の入力軸21に伝達される。変速装置15の入力軸21に伝達される動力は、左右一対の車輪30・30、およびロータリ式耕耘装置40の耕耘軸44に伝達可能とされる。なお、変速装置15の詳細については後述する。
【0021】
左右の車輪30・30は、それぞれ車軸31の左右端部に固定されて、ミッションケース20の下部の側方に配置される。左右の車輪30・30は、エンジン12からの動力を受けて回転駆動する。
【0022】
ロータリ式耕耘装置40は、左右の車輪30・30の後方に配置される。ロータリ式耕耘装置40は、ロータリケース43、耕耘軸44、耕耘カバー45等により構成される。耕耘軸44の外周面には複数の耕耘爪42・42・・・が植設される。複数の耕耘爪42・42・・・は、その上部を耕耘カバー45により被覆される。ロータリ式耕耘装置40は、エンジン12からの動力を受けることによって、耕耘爪42・42・・・を回転させ、圃場面を耕耘する。
【0023】
操作部材50はハンドル52、および各種の操作具を備える。操作部材50は、管理機1の機体(ミッションケース20)から後上方へ向かって突出され、ロータリ式耕耘装置40の上方に配置される。
【0024】
ハンドル52は、左ハンドル52Lと右ハンドル52Rとにより構成される。ハンドル52の基部52aは、ミッションケース20上に水平回動可能に設けられて、後上方へ向かって突出される。
【0025】
左ハンドル52Lは基部52aから左後上方に突出され、右ハンドル52Rは基部52aから右後上方に突出される。左ハンドル52Lと右ハンドル52Rは、操作部材50の側面視において互いに略重複した状態で斜め前後方向に延在され、操作部材50の平面視において互いの間の左右幅が後方へ向かうに従って広がるように配置される。つまり、左ハンドル52Lと右ハンドル52Rは、基部52aともに、操作部材50の平面視においてY字状をなすように配置される。左ハンドル52Lと右ハンドル52Rとの突出端は、左右方向に所定間隔をとって対向するように、ロータリ式耕耘装置40の後上方に配置される。
【0026】
左ハンドル52Lと右ハンドル52Rとの突出端には、それぞれ管理機1を操縦する際に作業者が手で握る部分である左グリップ53Lと右グリップ53Rが備えられる。
【0027】
左グリップ53Lの近傍には、主クラッチ操作手段としての主クラッチレバー55a、駐車ブレーキレバー55bが配置される。主クラッチレバー55aは、主クラッチ14dを入り切り操作する。
【0028】
右グリップ53Rの近傍には、ベースプレート56が配置される。ベースプレート56には、ハンドル52の高さを調節するためのハンドル調節レバー57、ワイヤ80およびシフタ操作部81を介してPTOクラッチ60(図4)の入り切り操作を行うクラッチ操作手段70、および非常停止ボタン59が配置される。
なお、主クラッチレバー55a、駐車ブレーキレバー55b、およびベースプレート56の位置はこれに限定するものではなく、左右のハンドル52L・52Rのうち、いずれか一方のハンドルに配置されていればよい。
【0029】
このような構成により、作業者は、ハンドル52の左右のグリップ53L・53Rを把持しながら、各グリップ53L・53R近傍のレバー等を操作が可能となっている。
【0030】
次に、エンジン12からの動力の伝達機構について説明する。
【0031】
図3に示すように、エンジン12からの動力は、ミッションケース20内に収納される変速装置15により変速されて車輪30・30に伝達される。また、エンジン12からの動力は、入力軸21からチェーンケース46内の伝動機構47を介してロータリケース43に伝達される。
【0032】
変速装置15においては、ミッションケース20の上部に入力軸21が左右方向に支持され、入力軸21の下部に走行側出力軸23が左右方向に支持される。入力軸21はミッションケース20より両側方に突出され、入力軸21の左端には前記プーリ14b(図1参照)が固設され、右端には出力スプロケット25が固設されている。また、変速装置15においては、入力軸21と走行側出力軸23との間に変速用の歯車が設けられる。さらに、変速装置15においては、走行側出力軸23と車軸31との間にチェン24が架設される。
【0033】
一方、図3および図4に示すように、伝動機構47においては、ロータリケース43より側方に突出したロータリPTO軸48の右端に入力スプロケット26が固設され、前記出力スプロケット25と該入力スプロケット26との間にチェン27が巻回される。伝動機構47は、チェーンケース46により覆われている。
【0034】
また、ロータリケース43の上部にはロータリPTO軸48が左右方向に横架される。そして、ロータリケース43内のロータリPTO軸48上にはPTOクラッチ60が設けられる。該PTOクラッチ60からの動力は、歯車、スプロケット28、チェン49等を介して耕耘軸44に伝達される。
【0035】
次にPTOクラッチ60について説明する。
【0036】
PTOクラッチ60は、ロータリPTO軸48に伝達されたエンジン12からの動力を断接するものである。なお、本実施形態では、PTOクラッチ60はロータリケース43に設けているが、ミッションケース20に設ける構成であってもよく、配置位置は限定するものではない。
【0037】
図4および図5に示すように、PTOクラッチ60は、ロータリPTO軸48と、外歯クラッチ体62と、内歯クラッチ体63と、シフタ操作部81とから構成される。
【0038】
外歯クラッチ体62は、ロータリPTO軸48上に左右摺動自在、かつ、相対回転不能にスプライン嵌合される。内歯クラッチ体63は、ロータリPTO軸48上に回転自在に遊嵌される。
【0039】
外歯クラッチ体62は、ボス部62aと、外歯62bとを備える。
【0040】
ボス部62aは、ロータリPTO軸48上に外嵌する部分であり、軸心部分の内周面にスプライン溝62cが軸心方向に形成される。
【0041】
図6(a)に示すように、外歯62bは、同形状でボス部62aの外周において放射状に等間隔で複数突出して、全体としてスプロケット状に形成される。図7に示すように、外歯62bの形状は、回転方向の面が側面視で内歯クラッチ体63の内歯63bの外形を形成する円弧と略同形状としている。即ち、外歯62bと内歯63bの歯の外形形状における曲率半径rを略同じとしている。
【0042】
また、図6(b)(c)(d)に示すように、外歯クラッチ体62の外歯62bの先端部には、右側面取り部62dと、左側面取り部62eと、中央面取り部62fと、先端上部面取り部62gと、先端下部面取り部62hとが設けられる。
右側面取り部62dは、外歯62bの先端部において図6(b)における図示右側の面が右斜め方向に切削されて形成される部分である。
左側面取り部62eは、外歯62bの先端部において図6(b)における図示左側の面が左斜め方向に切削されて形成される部分である。
中央面取り部62fは、外歯62bの先端部において図6(d)における図示上面が外歯62bの基端部から先端部へ切削されて形成される部分であり、右側面取り部62dと左側面取り部62eとの間に設けられる。
先端上部面取り部62gは、外歯62bの先端部において図6(d)における図示上面が下方向に切削されて形成される部分であり、中央面取り部62fの一端部に設けられる。
先端下部面取り部62hは、外歯62bの先端部において図6(d)における図示下面が上方向に切削されて形成される部分である。
【0043】
このように、右側面取り部62dと、左側面取り部62eと、中央面取り部62fと、先端上部面取り部62gと、先端下部面取り部62hとを設けることで、外歯クラッチ体62の外歯62bの先端部はチャンファー加工(面取り)されたチャンファー状の面取り部が形成され、外歯62bの先端部にチャンファー角が設けられる。但し、外歯クラッチ体62の製造方法は限定されず、鋳造等でも可能である。
【0044】
さらに、本実施形態では、図4に示すように、外歯62bは二列形成される。二列形成される外歯62bは、右側面取り部62d、左側面取り部62e等が形成される側の面と反対側の面を互いに対向させる。
外歯62bが二列形成されることにより生じる間隙には係合部62kが形成される。係合部62kには、シフタ操作部81を構成するシフタフォーク61が係合される。
【0045】
図4および図5に示すように、内歯クラッチ体63は、円盤体状として、歯部63aと、内歯63bと、軸孔63cとを備える。
【0046】
歯部63aは内歯クラッチ体63の円盤体の外周に形成され、歯車を構成する。歯部63aは中間軸35の歯車36と噛合され、中間軸35に動力を伝達可能とする。
内歯63bは、内歯クラッチ体63の軸心部の側面に形成した凹部63dにおける内周面に等間隔で側面視略半円状に形成される。
図7に示すように、内歯63bの円弧の曲率半径rは、前記外歯62bの回転方向側の円弧と一致させている。
内歯クラッチ体63の円盤体の側面には、略円筒状の凹部63dが穿設される。図5に示すように、凹部63dの中央には軸孔63cが形成される。軸孔63cは、ロータリPTO軸48(図4)上に回転自在に遊嵌する部分である。
【0047】
次に、外歯クラッチ体62と内歯クラッチ体63との関係について詳述する。
【0048】
図5に示すように、外歯クラッチ体62の中心から外歯62b最外端までの距離R3は、内歯クラッチ体63の中心から内歯63bの最底位置までの距離R1よりも短く、内歯クラッチ体63の中心から隣接する内歯63bの接続部63e(内周端)までの距離R2よりも長く構成される(R1>R3>R2)。外歯クラッチ体62の中心から隣接する外歯62bの接続部(谷底)までの距離R4はR2よりも短く構成される(R4<R2)。
【0049】
図7に示すように、外歯クラッチ体62における外歯62bの先端部の一側は、内歯クラッチ体63の内歯63bの回転方向後側に当接する。この時、外歯62bの先端部の一側は、内歯63bの回転方向後側と面接触する。
【0050】
このような構成において、外歯クラッチ体62と内歯クラッチ体63とをロータリPTO軸48上に外嵌し、外歯クラッチ体62を内歯クラッチ体63の凹部63d側に摺動して噛み合うことでPTOクラッチ60が「入」の状態となる。
【0051】
外歯クラッチ体62を摺動したときに、外歯62bと内歯63bとが一致している場合には、外歯クラッチ体62は内歯クラッチ体63にスムーズに嵌合される。
一方、外歯62bと内歯63bとがズレてる場合には、外歯62bは、内歯63bの接続部63eに当接するが、外歯62bの側面には、右側面取り部62dおよび左側面取り部62eが形成されているため、この右側面取り部62dおよび左側面取り部62eの斜面に沿って内歯クラッチ体63が回転することで、外歯クラッチ体62は、内歯クラッチ体63にスムーズに嵌合される。
【0052】
この外歯クラッチ体62を内歯クラッチ体63に嵌合させた状態で、エンジン12からの動力がロータリPTO軸48に伝えられると、外歯クラッチ体62が回転駆動され、外歯62bの外周面が内歯63bの内周面に当接して、内歯クラッチ体63に動力が伝達される。このとき、外歯62bの外周形状をなす円弧の曲率半径と、内歯63bの内周形状をなす円弧の曲率半径とが略同じ長さに構成さているため、外歯62bと内歯63bとは当接したときに略一致して面で当接することとなる。このため、一部に荷重がかかり変形したりすることなく、確実に動力の伝達が可能となる。
【0053】
以上のように、PTOクラッチ60は、外歯クラッチ体62の外歯62bと内歯クラッチ体63の内歯63bとが噛み合う形式のクラッチであって、内歯クラッチ体63の内歯63bは、略半円状に形成され、外歯クラッチ体62の外歯62bは、スプロケット形状に形成されるものである。
【0054】
このようにPTOクラッチ60を構成することで、外歯62bと内歯63bとの噛合部分の噛み合わせ範囲を増やすことができる。このため、外歯クラッチ体62と内歯クラッチ体63との噛合部分での噛み合わせ確率が向上する。また、外歯62bと内歯63bの強度は、従来のクラッチよりも小さくて済むため、クラッチの小型化が可能となる。
【0055】
また、PTOクラッチ60は、外歯62bの側面には、チャンファー状の右側面取り部62dおよび左側面取り部62eが形成されるものである。
【0056】
このようにPTOクラッチ60を構成することで、外歯クラッチ体62と内歯クラッチ体63との噛み合わせが合っていない場合でも、外歯クラッチ体62または内歯クラッチ体63のいずれか一方の位置を少しズラすだけで容易に噛み合わせを行うことができる。そのため、外歯クラッチ体62と内歯クラッチ体63とを噛み合わせるために特殊工具を用いる必要がない。
【0057】
さらに、PTOクラッチ60は、外歯62bにおける内歯63bに当接する部分を、内歯63bの円弧と略一致する曲率半径の円弧状に形成されるものである。
【0058】
このようにPTOクラッチ60を構成することで、外歯62bと内歯63bとが噛み合う時に、外歯62bと内歯63bを面接触させることができ、外歯クラッチ体62と内歯クラッチ体63の強度を充分に確保することができる。
【0059】
次に、シフタ操作部81について説明する。
【0060】
図4に示すように、シフタ操作部81は、ロータリケース43の上部に設けられている。シフタ操作部81は、PTOクラッチ60の外歯クラッチ体62を摺動させて入り切り操作するものである。シフタ操作部81は、シフタフォーク61と、シフタ軸83と、シフタアーム84と、を有する。
【0061】
シフタフォーク61の先端は前記外歯クラッチ体62の係合部62kに係合される。
シフタ軸83は、ロータリPTO軸48と平行にロータリケース43の上部に左右摺動可能に支持される。シフタ軸83の一側には、ロータリケース43内でシフタフォーク61が固定され、他側は、ロータリケース43より突出してシフタアーム84に連設されている。
シフタアーム84は、ロータリケース43の上部に固定したステーに回動自在に支持され、該シフタアーム84の一端にワイヤ80の一端が連結されている。該ワイヤ80の他端は右ハンドル52Rに設けたクラッチ操作手段70に連結される。
前記ワイヤ80は、図示しない付勢手段によりロータリPTO軸48上の外歯62bが、内歯63bとの係合を解除する方向に付勢されている。
【0062】
このような構成において、クラッチ操作手段70が「入」方向に操作されると、ワイヤ80が引っ張られ、シフタアーム84が回動されて、シフタ軸83が摺動される。このシフタ軸83の摺動により、シフタ軸83に固定したシフタフォーク61も摺動し、シフタフォーク61の先端に係合した外歯クラッチ体62の外歯62bが内歯クラッチ体63の内歯63bに係合し、エンジン12からの動力が耕耘軸44に伝達されるようになる。
【0063】
一方、クラッチ操作手段70が逆方向の「切」方向に操作されると、ワイヤ80は戻され、シフタアーム84が前記と逆方向に回動されて、シフタ軸83も逆方向に摺動され、シフタフォーク61の先端に係合した外歯クラッチ体62も逆方向に摺動して、外歯62bと内歯63bの係合が解除され、エンジン12からの動力が耕耘軸44に伝達されなくなる。
【0064】
このように、クラッチ操作手段70が操作されることにより、ワイヤ80、シフタ操作部81のシフタ軸83、およびシフタフォーク61が連動し、PTOクラッチ60の入り切り操作がなされる。
【0065】
次に、クラッチ操作手段70について説明する。
【0066】
クラッチ操作手段70は、PTOクラッチ60を操作するためのものである。図2に示すように、クラッチ操作手段70は、右ハンドル52Rの後部に設けられる。
【0067】
図8および図9に示すように、クラッチ操作手段70は、ロータリクラッチレバー71と、付勢部材72と、ワイヤ連結部材73等から構成される。
【0068】
ロータリクラッチレバー71は、右ハンドル52Rの右グリップ53Rの近傍に配置される。ロータリクラッチレバー71の基端部は、右ハンドル52Rに固定したベースプレート56に設けられる回動軸58に上下回動自在に支持される。該ロータリクラッチレバー71の長手方向中途部には、ピンを側方へ突出した係止部71aが設けられる。該係止部71aに付勢部材72を介してワイヤ80が連結される。
【0069】
付勢部材72は、第一バネ74と、該第一バネ74内に収納される第二バネ75と、から構成される。つまり、二重のバネにより構成している。
【0070】
第一バネ74は、コイルスプリングにより引っ張りバネで構成される。第一バネ74の一端はロータリクラッチレバー71の係止部71aに係止される。第一バネ74の内部に第二バネ75とガイド部材76とワイヤ80の一端が収納され、第一バネ74の他端からワイヤ80が延出されている。第一バネ74の一側(後側、図9における右側)は径が大きく、他側(前側、図9における左側)端部は徐々に径を小さくして略円錐状に構成し、他端の内径はワイヤ80を挿通できる程度としている。
【0071】
第二バネ75は、円筒状のコイルスプリングにより圧縮バネで構成される。該第二バネ75のバネ力は、第一バネ74のバネ力よりも小さく構成している。第一バネ74の一側において、第一バネ74が引っ張られた時の第一バネ74の内径は、第二バネ75が圧縮された時の第二バネ75の外径よりも大きく構成される(図9(b)参照)。そして、第二バネ75内に筒状のガイド部材76の他側が収納され、第二バネ75が非圧縮状態の時の第二バネ75の内径は、ガイド部材76の他側の外径よりも大きく構成される(図9(a)参照)。こうして、第二バネ75の一側端はガイド部材76の段差部に当接され、他側端は第一バネ74の他側内部に当接され、第二バネ75はガイド部材76を一側方向に付勢し、第二バネ75の他側内部に空間k(図9(a)参照)ができるようにして、第一バネ74とワイヤ80との間でがたが生じないようにしている。
【0072】
ガイド部材76は、段付の筒状に形成され、一側が他側よりも外径および内径を大きく構成している。他側のガイド部材76の外径は、前記第二バネ75が非圧縮状態の内径よりも小さく、他側のガイド部材76の内径は、ワイヤ80の外径よりも大きく構成して、ワイヤ80を挿通できるようにしている。
【0073】
一方、一側のガイド部材76の外径は、第二バネ75が圧縮された時の第二バネ75の内径よりも大きく、かつ、第一バネ74が引っ張られた時の第一バネ74の一側の内径よりも小さく構成される。こうして、ロータリクラッチレバー71が操作されて引っ張られた時に、第二バネ75の一側が、ガイド部材76の段差部に当接してガイド部材76から外れることがない。また、ガイド部材76が、第一バネ74内周に引っ掛かることなく第一バネ74内に収納される。
【0074】
また、一側のガイド部材76の内部にカシメ部材からなるワイヤ固定部材78を収納可能に構成している。つまり、一側のガイド部材76の内径は、筒状に構成したワイヤ固定部材78をワイヤ80の一端に外嵌してカシメた状態の外径よりも大きく構成している。こうして、ワイヤ80をガイド部材76内に挿通させて、ワイヤ80の一端にワイヤ固定部材78を固定し、ガイド部材76の一側内部に収納すると、ワイヤ固定部材78の一端はガイド部材76の内部の段差部に当接し、ガイド部材76およびワイヤ固定部材78は第二バネ75により一側方向に付勢される。このため、ワイヤ80を弛ませることなく取り付けることが可能となる。但し、ワイヤ固定部材78はカシメ部材に限定するものではなく、ボルトとナットにより構成して長さ調整可能に構成することもでき、限定するものではない。
【0075】
次に、クラッチ操作手段70の動作について説明する。
【0076】
図8(a)に示すように、ロータリクラッチレバー71が非操作時、つまり、「切」位置の時、第一バネ74は、縮小した状態となっており、ワイヤ80の弛み(がた)は第二バネ75により伸長方向に付勢されることで解消される。
【0077】
一方、図8(b)に示すように、ロータリクラッチレバー71を下方に回動操作すると、付勢部材72を介してワイヤ80が引っ張られ、図9(b)に示すように、第二バネ75が圧縮され、第一バネ74は引っ張られる。そして、付勢部材72は回動軸58より下方の位置となり、支点越えとなって「入」位置で保持される。
【0078】
以上のように、管理機1は、エンジン12からの動力をロータリ式耕耘装置40に対して伝達又は遮断可能なPTOクラッチ60を備える管理機1であって、PTOクラッチ60は、外歯クラッチ体62の外歯62bと内歯クラッチ体63の内歯63bとが噛み合う形式のクラッチであって、内歯クラッチ体63の内歯63bは、略半円状に形成され、外歯クラッチ体62の外歯62bは、スプロケット形状に形成されるものである。そして、外歯62bの側面には、チャンファー状の右側面取り部62dおよび左側面取り部62eが形成され、外歯62bにおける内歯63bに当接する部分を、内歯63bの円弧と略一致する曲率半径の円弧状に形成されるものである。
【0079】
このように管理機1を構成することで、外歯クラッチ体62と内歯クラッチ体63との噛合部分での噛み合わせ確率を向上させることができるため、ロータリクラッチレバー71(クラッチ操作手段)によるPTOクラッチ60の操作性を向上させることができる。また、外歯クラッチ体62および内歯クラッチ体63をPTOクラッチ60に適用することでエンジン12からロータリ式耕耘装置40への動力の伝達効率を向上させることができる。
【符号の説明】
【0080】
1 管理機
60 PTOクラッチ
62 外歯クラッチ体
62b 外歯
62d 右側面取り部
62e 左側面取り部
63 内歯クラッチ体
63b 内歯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外歯クラッチ体の外歯と内歯クラッチ体の内歯とが噛み合う形式のクラッチにおいて、
前記内歯クラッチ体の内歯は、略半円状に形成され、
前記外歯クラッチ体の外歯は、スプロケット形状に形成される、
ことを特徴とするクラッチ。
【請求項2】
前記外歯の側面には、チャンファー状の面取り部が形成されることを特徴とする請求項1に記載のクラッチ。
【請求項3】
前記外歯における前記内歯に当接する部分を、前記内歯の円弧と略一致する曲率半径の円弧状に形成されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のクラッチ。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のクラッチを具備する管理機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−2322(P2012−2322A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−139991(P2010−139991)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】