説明

グラウト注入方法、接合構造、及び建物

【課題】プレキャストコンクリート部材の接合部における上目地にグラウトを充填する際に形成される空気溜まりを低減する又は無くす。
【解決手段】グラウト注入方法は、下目地形成工程と上目地形成工程とグラウト充填工程とを有している。グラウト充填工程では、下目地空間54へグラウトWを供給することによって、下目地空間54と貫通孔28と上目地空間56とにグラウトWを充填すると共に、空気抜き通路60を通じて上目地空間56の空気Qを排気する。よって、上目地空間56に形成される空気溜まりを低減する又は無くすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキャストコンクリート部材の接合部における目地へのグラウト注入方法、このグラウト注入方法を用いた接合構造、及びこの接合構造を有する建物に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート部材にプレキャストコンクリート部材を接合する場合、一般に、接合部の目地にグラウトを充填してコンクリート部材とプレキャストコンクリート部材との一体化を図る。
【0003】
図26に示すように、特許文献1の建物の柱梁接合構造体におけるグラウト注入方法では、下階のプレキャストコンクリート製柱500の柱頭部502に柱用スリーブ504が埋め込まれており、この柱用スリーブ504に上階のプレキャストコンクリート製柱500の柱用接続鉄筋506が挿入されている。そして、グラウトを柱用仕口部508の下目地510に供給することにより、このグラウトを下目地510、貫通孔512、上目地514の順に連続的に充填する。
【0004】
特許文献1のグラウト注入方法では、上目地514の平面形状が正方形であり且つ貫通孔512が上目地514の外周に沿って均等に配置されている場合においては、グラウトが貫通孔512から上目地514の平面中央部に向かって流れることにより、この上目地514の平面中央部に空気が集められる。よって、上目地514の平面中央部と連通するように排出管516を設けておけば、集められた空気は排出管516から排出されるので、上目地514に空気溜まりが形成されない。
【0005】
しかし、上目地514の平面形状が長方形等の扁平形状であったり、又は貫通孔512が上目地514の外周に沿って均等に配置されていなかったりする場合においては、上目地514の平面中央部以外の場所に空気が集まって空気溜まりを形成してしまうことが考えられる。
【0006】
すなわち、下目地から貫通孔を経由して上目地にグラウトを流れ込ませるグラウト注入方法においては、上目地の平面形状や貫通孔の配置によって、空気溜まりが形成されることが懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−144251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は係る事実を考慮し、プレキャストコンクリート部材の接合部における上目地にグラウトを充填する際に形成される空気溜まりを低減する又は無くすことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、貫通孔が形成されたプレキャストコンクリート製の中間部材をコンクリート製の下部材の上面に隙間をあけて載置し、該隙間の周囲をシール部材でシールして下目地空間を形成する下目地形成工程と、プレキャストコンクリート製の上部材を前記中間部材の上面に隙間をあけて載置すると共に、前記貫通孔を貫通する鉄筋を介して前記下部材と前記中間部材と前記上部材とを連結し、該隙間の周囲をシール部材でシールして上目地空間を形成する上目地形成工程と、前記下目地空間へグラウトを供給することによって前記下目地空間と前記貫通孔と前記上目地空間とに前記グラウトを充填すると共に、前記上目地空間に設けられた空気抜き通路を通じて前記上目地空間の内部の空気を前記シール部材の外側へ排気するグラウト充填工程と、を有する。
【0010】
請求項1に記載の発明では、グラウト注入方法は、下目地形成工程と上目地形成工程とグラウト充填工程とを有している。
【0011】
下目地形成工程では、コンクリート製の下部材の上面に隙間をあけてプレキャストコンクリート製の中間部材を載置する。そして、下部材の上面にあけられた隙間の周囲をシール部材でシールして下目地空間を形成する。中間部材には貫通孔が形成されている。
【0012】
上目地形成工程では、プレキャストコンクリート製の上部材を中間部材の上面に隙間をあけて載置する。そして、中間部材の上面にあけられた隙間の周囲をシール部材でシールして上目地空間を形成する。また、中間部材の上面に上部材を載置すると共に、貫通孔を貫通する鉄筋を介して下部材と中間部材と上部材とを連結する。
【0013】
グラウト充填工程では、下目地空間へグラウトを供給することによって、下目地空間と貫通孔と上目地空間とにグラウトを充填すると共に、空気抜き通路を通じて上目地空間の内部の空気をシール部材の外側へ排気する。空気抜き通路は、上目地空間に設けられている。
【0014】
ここで、上目地空間の平面形状が正方形であり且つ貫通孔が上目地空間の外周に沿って均等に配置されている場合においては、グラウトが上目地空間へ充填される際に、下目地空間に供給され貫通孔を介して上目地空間へ送り込まれるグラウトが貫通孔からほぼ均等に拡がり上目地空間の平面中央部に向かって流れる。これによって、上目地空間の平面中央部に空気が集められるので、上目地空間の平面中央部で連通するようにグラウト排出管を設けておけばグラウト排出管からグラウトと共に空気が排出されるので、上目地空間に空気溜まりが形成されない。
【0015】
しかし、上目地空間の平面形状が長方形等の扁平形状であったり、又は貫通孔が上目地空間の外周に沿って均等に配置されていなかったりする場合には、上目地空間の平面中央部で連通するようにグラウト排出管を設けておいても、上目地空間の平面中央部以外の場所に空気が集まって空気溜まりを形成してしまうことが考えられる。
【0016】
これに対して請求項1のグラウト注入方法では、空気抜き通路を通じて上目地空間の内部の空気をシール部材の外側へ排気するので、空気が集まる場所に吸気口が位置するように空気抜き通路を設けておけば、上目地空間の平面形状や貫通孔の配置に大きく影響されることなく、上目地空間に形成される空気溜まりを低減する又は無くすことができる。そして、これにより、上目地空間にグラウトを密実に充填することが可能になるので、中間部材と上部材とを確実に接合することができる。
【0017】
請求項2に記載の発明は、前記上部材を前記中間部材の上面に載置すると共に、前記上部材に設けられ該上部材の下面から突出する前記鉄筋を前記貫通孔へ貫通させて、前記下部材に形成された挿入孔へ挿入する。
【0018】
請求項2に記載の発明では、鉄筋は、上部材に設けられ上部材の下面から突出している。また、下部材には挿入孔が形成されている。そして、上部材を中間部材の上面に載置すると共に、上部材の下面から突出する鉄筋を中間部材の貫通孔へ貫通させて下部材の挿入孔へ挿入する。
【0019】
よって、上部材に設けられ下方に突出する鉄筋を中間部材の貫通孔に貫通させて下部材に設けられた挿入孔に挿入し、下部材と中間部材と上部材とを一体化する、所謂「逆挿し工法」に対して、請求項1と同様の効果を得ることができる。
【0020】
請求項3に記載の発明は、前記空気抜き通路は、前記上目地空間に設けられ排気口が前記シール部材の外側に位置する管材である。
【0021】
請求項3に記載の発明では、空気抜き通路は、上目地空間に設けられた管材である。管材の排気口は、シール部材の外側に位置している。
よって、上目地空間に管材を設けることにより、上部材や中間部材等に特別な加工を施すことなく空気抜き通路を設けることができる。
【0022】
請求項4に記載の発明は、前記管材は、前記シール部材に挟まれた外管に挿入されている。
【0023】
請求項4に記載の発明では、シール部材に挟まれた外管に空気抜き通路としての管材が挿入されているので、上目地空間へ充填したグラウトを硬化させる為に、シール部材を撤去させずに管材のみを撤去する(引き抜く)ことができる。
【0024】
請求項5に記載の発明は、前記空気抜き通路は、前記上部材の下面に形成され前記上目地空間の内部から外周部へ延びる溝である。
【0025】
請求項5に記載の発明では、空気抜き通路は、上部材の下面に形成された溝である。溝は、上目地空間の内部から外周部へ延びている。
よって、上目地空間の隙間の大きさ(高さ)に影響されずに、空気抜き通路の断面の大きさを設定することができる。また、上目地空間にグラウトを充填する際に、空気抜き通路の位置がずれてしまう心配がない。
【0026】
請求項6に記載の発明は、平面視にて、前記貫通孔の中心を四隅とする四辺形の中央に前記空気抜き通路の吸気口が位置する。
【0027】
請求項6に記載の発明では、平面視にて、貫通孔の中心を四隅とする四辺形の中央に空気抜き通路の吸気口を位置させることによって、上目地空間の空気が集まりやすい位置に吸気口を配置することができる。これにより、上目地空間に形成される空気溜まりを効率よく低減する又は無くすことができる。
【0028】
請求項7に記載の発明は、前記下部材及び前記上部材は柱であり、前記中間部材は梁が一体に設けられた柱梁接合部材である。
【0029】
請求項7に記載の発明では、下部材及び上部材を柱とし、中間部材を梁が一体に設けられた柱梁接合部材とした構成において、請求項1と同様の効果を得ることができる。
【0030】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜7の何れか1項に記載のグラウト注入方法により一体となった前記下部材、前記中間部材及び前記上部材を有する接合構造である。
【0031】
請求項8に記載の発明では、請求項1〜7の何れか1項に記載のグラウト注入方法により一体となった下部材、中間部材及び上部材を有する接合構造において、請求項1と同様の効果を得ることができる。
【0032】
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載の接合構造を有する建物である。
【0033】
請求項9に記載の発明では、請求項8に記載の接合構造を有する建物において、請求項1と同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明は上記構成としたので、プレキャストコンクリート部材の接合部における上目地にグラウトを充填する際に形成される空気溜まりを低減する又は無くすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る接合構造を示す斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る柱の接合方法を示す説明図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る梁の接合方法を示す説明図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る部材の設置高さ調整方法を示す説明図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る建物の施工方法を示す立面図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係る建物の施工方法を示す立面図である。
【図7】本発明の第1の実施形態に係るグラウト充填工程を示す説明図である。
【図8】本発明の第1の実施形態に係るグラウト充填工程を示す説明図である。
【図9】本発明の第1の実施形態に係る管材の固定方法を示す説明図である。
【図10】本発明の第1の実施形態に係る管材の吸気口の位置を設定する方法を示す説明図である。
【図11】本発明の第2の実施形態に係る溝の配置を示す平面図である。
【図12】本発明の第2の実施形態に係る溝を示す説明図である。
【図13】本発明の実施形態に係る下目地空間へのグラウト供給方法の変形例を示す説明図である。
【図14】本発明の実施形態に係る下目地空間へのグラウト供給方法の変形例を示す説明図である。
【図15】本発明の実施形態に係る下目地空間へのグラウト供給方法の変形例を示す説明図である。
【図16】本発明の実施形態に係る下目地空間へのグラウト供給方法の変形例を示す説明図である。
【図17】本発明の実施形態に係る下目地空間へのグラウト供給方法の変形例を示す説明図である。
【図18】本発明の実施形態に係る下目地空間へのグラウト供給方法の変形例を示す説明図である。
【図19】本発明の実施形態に係る下目地空間へのグラウト供給方法の変形例を示す説明図である。
【図20】本発明の実施形態に係るグラウト注入方法の応用例を示す説明図である。
【図21】本発明の実施形態に係るグラウト注入方法の応用例を示す説明図である。
【図22】本発明の実施形態に係るグラウト注入方法の応用例を示す説明図である。
【図23】本発明の実施形態に係る梁の接合方法の変形例を示す説明図である。
【図24】本発明の実施形態に係る梁の接合方法の変形例を示す説明図である。
【図25】本発明の実施形態に係る梁の接合方法の変形例を示す説明図である。
【図26】従来のグラウト注入方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、本発明の実施形態では、鉄筋コンクリートによって形成されたプレキャスト部材(下部材、中間部材及び上部材)を接合する例を示すが、本発明の実施形態は、鉄骨鉄筋コンクリートやプレストレストコンクリート等のコンクリートによって形成されたさまざまなプレキャスト部材の接合に適用することができる。
【0037】
まず、本発明の第1の実施形態について説明する。
【0038】
図1の斜視図に示すように、第1の実施形態の接合構造10は、下部材としての柱12と、中間部材としての柱梁接合部材14と、上部材としての柱16とを有している。また、柱梁接合部材14と、柱梁接合部材14の左右に一体に設けられた梁18、20とによって水平構造体22が構成されている。
【0039】
柱12、16、及び水平構造体22は、鉄筋コンクリートによって形成されたプレキャストコンクリート部材である。また、柱12、16、及び柱梁接合部材14の上下端面は、全て同一形状となっており、梁18、20の梁長方向にある辺が長辺となる長方形状を形成している。
【0040】
接合構造10は、柱12の上面に隙間をあけて水平構造体22(柱梁接合部材14)を載置し、柱梁接合部材14の上面に隙間をあけて柱16を載置した後に、後に説明するグラウト注入方法を用いて、柱12と水平構造体22(柱梁接合部材14)と柱16とを一体化することにより構築される。
【0041】
柱16には、柱16の下面から下方に突出する8本の柱鉄筋24が鉄筋として設けられている。また、図2(b)の正面図に示すように、柱16には、柱16の下面から側面へ貫通するグラウト排出孔26がL字状に形成されている。グラウト排出孔26の流入口64(下端部)は、柱16下面の略中央に位置している。
【0042】
図2(a)の正面図に示すように、水平構造体22の柱梁接合部材14には、柱鉄筋24が上下に貫通する貫通孔28が略鉛直に8つ形成されている。
【0043】
図1に示すように、梁18には、梁18の端面から突出する8本の梁鉄筋30が設けられ、梁20の端部には中空管32が8つ埋設されている。図3(a)の正面図に示すように、中空管32は、梁鉄筋30を捩じ込まずに挿入可能な差し込み式の機械式継手となっており、梁20に設けられた梁鉄筋30の右端部が挿入されている。
【0044】
梁20の端部側面には、中空管32の一端からグラウトを注入するためのグラウト注入孔34と、中空管32の他端からグラウトを排出するグラウト排出孔36とが形成されている。また、図2(a)に示すように、水平構造体22には、梁20の上面から柱梁接合部材14の下面へ貫通するグラウト供給孔38が形成されている。グラウト供給孔38の流出口100(下端部)は、柱梁接合部材14下面の略中央に位置している。
【0045】
図2(a)に示すように、柱12の上端部には中空管40が8つ埋設され、この中空管40の中空部が挿入孔となっている。中空管40は、柱鉄筋24を捩じ込まずに挿入可能な差し込み式の機械式継手となっており、柱12に設けられた柱鉄筋24の上端部が挿入されている。また、柱12に設けられた柱鉄筋24及び中空管40は、柱12の上端面から突出していない。
柱16の上端部は、柱12の上端部と同様の構成になっている。すなわち、柱16の上端部には、柱16に設けられた柱鉄筋24の上端部が挿入された中空管40が埋設されている。
【0046】
柱12の上端部には、中空管40の下端からグラウトを注入するためのグラウト注入孔42と、中空管40の上端からグラウトを排出するグラウト排出孔44とが形成されている。
【0047】
そして、図2(b)に示すように、柱梁接合部材14の上面に柱16を載置すると共に、柱16の下面から突出する柱鉄筋24を柱梁接合部材14の貫通孔28へ貫通させて柱12の中空管40の挿入孔へ挿入する。
【0048】
図4の拡大図に示すように、柱12、16、及び柱梁接合部材14の上面の四隅には雌ネジ46が形成されており、この雌ネジ46に捩じ込んだボルト48の捩じ込み量によって、水平構造体22(柱梁接合部材14)及び柱16の設置高さを調整することができる。
【0049】
グラウト排出孔26は、柱16に埋設されたシース管によって形成され、貫通孔28は、柱梁接合部材14に埋設されたシース管によって形成され、グラウト供給孔38は、柱梁接合部材14及び梁20に埋設されたシース管によって形成されている。すなわち、シース管の中空部が、グラウト排出孔26、貫通孔28、グラウト供給孔38となっている。シース管は、部材の端面から突出させないようにして埋設する。
【0050】
グラウト排出孔26、貫通孔28、グラウト供給孔38は、シース管の埋設以外の方法で形成してもよい。例えば、部材を形成するコンクリート中に埋設した円柱部材を、このコンクリートが硬化した後に取り除くことにより形成してもよいし、穿孔により形成してもよい。また、中空管32、40は、梁鉄筋30及び柱鉄筋24が挿入可能であり且つ梁鉄筋30同士及び柱鉄筋24同士を確実に接続できるものであればよい。
【0051】
次に、接合構造10を用いた建物の構築方法について、図5、6の立面図を用いて説明する。なお、説明の都合上、図の左側に配置される柱12、水平構造体22(柱梁接合部材14、梁18、20)、柱16、接合構造10を、柱12A、水平構造体22A(柱梁接合部材14A、梁18A、20A)、柱16A、接合構造10Aとし、図の中央に配置される柱12、水平構造体22(柱梁接合部材14、梁18、20)、柱16、接合構造10を、柱12B、水平構造体22B(柱梁接合部材14B、梁18B、20B)、柱16B、接合構造10Bとし、図の右側に配置される柱12、水平構造体22(柱梁接合部材14、梁18、20)、柱16、接合構造10を、柱12C、水平構造体22C(柱梁接合部材14C、梁18C、20C)、柱16C、接合構造10Cとする。
【0052】
まず、図5(a)に示すように、基礎スラブ50上に、柱12A〜12Cを設置する。
【0053】
次に、柱12Aの上面と柱梁接合部材14Aの下面との間に隙間を有するようにして、柱12Aの上面に水平構造体22A(柱梁接合部材14A)を載置し、図7(a)の正面図に示すように、この隙間の周囲をシール部材としてのエアーチューブ52でシールして下目地空間54を形成する(下目地形成工程)。柱12Aの上面と柱梁接合部材14Aの下面との間の隙間の大きさは、柱12Aの上面に設けられたボルト48の捩じ込み量によって調整する(図4を参照のこと)。
【0054】
次に、図5(b)に示すように、梁18Bの端面が梁20Aの端面と対向するように水平構造体22Bを横方向に移動させて梁20Aに梁18Bを接合すると共に、柱12Bの上面と柱梁接合部材14Bの下面との間に隙間を有するようにして柱12Bの上面に水平構造体22B(柱梁接合部材14B)を載置する。そして、柱12Aの上面に水平構造体22Aを載置したときと同様の方法で下目地形成工程を行う。
【0055】
図3(a)には、梁20に梁18が接合される直前の状態が示され、図3(b)の正面図には、梁20に梁18が接合された状態が示されている。図3(b)に示すように、梁20に梁18が接合された状態において、梁18の梁鉄筋30は、梁20の中空管32に挿入され、中空管32内に充填されて硬化したグラウトにより定着される。また、梁20の端面と梁18の端面との間に小さな隙間58を有するようにして、梁20に対して梁18を配置し、隙間58に充填したグラウトを硬化させることにより梁18と梁20との一体化を図っている。
【0056】
次に、図5(c)に示すように、図5(b)と同様の方法で、柱12Cの上面に水平構造体22C(柱梁接合部材14C)を載置し、下目地形成工程を行う。
【0057】
次に、図6(d)、及び図2(a)、(b)に示すように、柱梁接合部材14Aの上面と柱16Aの下面との間に隙間を有するようにして、柱16Aを柱梁接合部材14Aの上面に載置し、図7(a)、及び図7(a)のA−A矢視図である図8(a)に示すように、この隙間の周囲をシール部材としてのエアーチューブ52でシールして上目地空間56を形成する(上目地形成工程)。図2(a)には、柱16を柱梁接合部材14の上面に載置する直前の状態が示され、図2(b)には、柱16を柱梁接合部材14の上面に載置した状態が示されている。
【0058】
柱梁接合部材14の上面に柱16を載置するときに、柱16の下面から突出する柱鉄筋24は、柱梁接合部材14の貫通孔28を貫通して柱12に設けられた中空管40の挿入孔に挿入される。すなわち、中間部材としての柱梁接合部材14の上面に上部材としての柱16を載置すると共に、貫通孔28を貫通する鉄筋としての柱鉄筋24を介して柱12と柱梁接合部材14と柱16とを連結する。
中空管40の挿入孔に挿入された柱鉄筋24は、グラウト注入孔42から中空管40の中空部に充填したグラウトを硬化させることによって中空管40に定着する。
【0059】
図8(a)に示すように、エアーチューブ52により上目地空間56を形成する際に、上目地空間56に空気抜き通路としての管材60を3つ設ける。図9の拡大図に示すように、管材60は、柱16の下面に接触した状態でエアーチューブ52に挟み込まれることにより固定された外管62に挿入され、略水平に配置されている。
【0060】
管材60の排気口66は、エアーチューブ52の外側に位置させ、管材60の吸気口68は、上目地空間56の内部に位置させる。また、管材60の吸気口68は、上目地空間56の形状や貫通孔28の配置等を考慮し、後に説明するグラウト充填工程において上目地空間56にグラウトが充填された際に空気が集まると想定される場所に位置させる。なお、図8(a)〜(d)の中央には、平面視にて柱梁接合部材14の上面に投影したグラウト排出孔26の流入口64の位置が点線の円で示されている。
【0061】
例えば、図10(a)の平面図に示すように、平面視にて、対象とする貫通孔28の中心を四隅とする四辺形の対角線の交点70に管材60の吸気口68を位置させてもよい。すなわち、平面視にて、対象とする貫通孔28の中心を四隅とする四辺形の中央に管材60の吸気口68を位置させてもよい。また、例えば、図10(b)の平面図に示すように、平面視にて、対象とする貫通孔28の中心の全てから等しい距離にある点72に管材60の吸気口68を位置させてもよい。
【0062】
なお、このようにして管材60の吸気口68の位置を設定する際には、図10(c)の平面図に示すように、二段筋74以外の外周筋76が貫通している貫通孔28を対象とすればよい。
【0063】
次に、下目地空間54へグラウトを供給することによって、下目地空間54と貫通孔28と上目地空間56とにグラウトを充填すると共に、管材60を通じて上目地空間56の空気を排気する(グラウト充填工程)。
【0064】
ここで、グラウト充填工程について詳しく説明する。まず、図7(b)の正面図に示すように、グラウト供給孔38から下目地空間54へグラウトWを注入する。そして、グラウト供給孔38からのグラウトWの注入を続けることによって下目地空間54にグラウトWが充填され、図7(c)の正面図に示すように、グラウトWが貫通孔28を上昇する。
【0065】
さらに、グラウト供給孔38からのグラウトWの注入を続けることにより、貫通孔28を上昇したグラウトWは、図7(c)のB−B矢視図である図8(b)〜(d)に示すように、貫通孔28の上端部開口から溢れ出してほぼ均等に拡がる。図8(b)〜(d)は、時間の経過と共に上目地空間56内で拡がるグラウトWの状態の一例を模式的に描いたものである。図8(b)には初期の状態、図8(c)には中期の状態、図8(d)には後期の状態が描かれている。
【0066】
図8(c)に示すように、上目地空間56内の空気QはグラウトWに追い込まれるようにして管材60の吸気口68付近に集められ、図8(d)に示すように、管材60の吸気口68付近に空気溜まりが形成されるが、グラウト供給孔38からのグラウトWの注入を続けることにより、空気溜まりの空気Qは管材60を通って排気口66からエアーチューブ52の外側(上目地空間56の外部)へ排気される。これにより、上目地空間56に形成される空気溜まりを低減する又は無くすことができる。
【0067】
なお、管材60の排気口66から排気される空気Qが無くなって、管材60の排気口66からグラウトWのみが排出されるようになったときには、管材60の排気口66を塞いでグラウトWの排出ロスを減らすのが好ましい。
【0068】
そして、さらに、グラウト供給孔38からのグラウトWの注入を続けることにより、図7(d)の正面図に示すように、上目地空間56の全域にグラウトWが充填されてグラウト排出孔26からグラウトWが排出されるので、このグラウトWの排出を確認した後にグラウト供給孔38からのグラウトWの注入を停止する。
【0069】
このようにして、第1の実施形態のグラウト注入方法では、下目地形成工程、上目地形成工程、及びグラウト充填工程を行うことにより、下目地空間54、貫通孔28及び上目地空間56にグラウトWを充填することができる。そして、充填されたグラウトWを硬化させることにより、柱12Aと水平構造体22Aと柱16Aとが一体化され、接合構造10Aが構築される。
【0070】
次に、図6(e)、(f)に示すように、柱16B、16Cを、柱梁接合部材14B、14Cの上面に載置し、接合構造10Aと同様の方法で、接合構造10B、10Cを構築する。
【0071】
後は、階を上げながら図5(a)〜(c)、図6(d)〜(f)と同様の作業を繰り返して接合構造10を最上階まで積み上げることにより建物を構築する。なお、図6(f)の柱16A〜16Cの上端部の構成と、図5(a)の柱12A〜12Cの上端部の構成とは同じなので、図5(a)〜(c)と同様の方法で図6(f)の柱16A〜16Cの上面に次の水平構造体22A〜22Cを設置すればよい。この場合、柱16A〜16Cが、下部材となる。
【0072】
次に、本発明の第1の実施形態の作用及び効果について説明する。
【0073】
第1の実施形態のグラウト注入方法では、図7(a)〜(d)に示すように、下目地形成工程、上目地形成工程、及びグラウト充填工程を行うことによって、下目地空間54、貫通孔28及び上目地空間56にグラウトWを充填することができる。
【0074】
ここで、上目地空間56の平面形状が正方形であり且つ貫通孔28が上目地空間56の外周に沿って均等に配置されている場合においては、グラウトWが上目地空間56へ充填される際に、下目地空間54に供給され貫通孔28を介して上目地空間56へ送り込まれるグラウトWが貫通孔28からほぼ均等に拡がり上目地空間56の平面中央部に向かって流れる。これによって、上目地空間56の平面中央部に空気が集められるので、この平面中央部で連通するようにグラウト排出孔26を設けておけばグラウト排出孔26からグラウトWと共に空気が排出されるので、上目地空間56に空気溜まりが形成されない。
【0075】
しかし、上目地空間56の平面形状が長方形等の扁平形状であったり、又は貫通孔28が上目地空間56の外周に沿って均等に配置されていなかったりする場合には、上目地空間56の平面中央部で連通するようにグラウト排出孔26を設けておいても、上目地空間56の平面中央部以外の場所に空気が集まって空気溜まりを形成してしまうことが考えられる。
【0076】
これに対して第1の実施形態のグラウト注入方法では、空気が集まる場所に吸気口68が位置するように管材60を設けているので、上目地空間56の平面形状や貫通孔28の配置に大きく影響されることなく、管材60を通じ上目地空間56の内部の空気Qを排気口66からエアーチューブ52の外側(上目地空間56の外部)へ排気して上目地空間56に形成される空気溜まりを低減する又は無くすことができる。
そして、これにより、上目地空間56にグラウトWを密実に充填することが可能になるので、柱梁接合部材14と柱16とを確実に接合することができる。
【0077】
また、空気抜き通路を上目地空間56に設けられた管材60とすることにより、柱梁接合部材14や柱16等に特別な加工を施すことなく空気抜き通路を設けることができる。
【0078】
また、管材60は、エアーチューブ52に挟まれた外管62に挿入することによって上目地空間56に設けられているので、上目地空間56へ充填したグラウトWを硬化させる為に、エアーチューブ52を撤去させずに管材60のみを撤去する(引き抜く)ことができる。
【0079】
また、管材60は、平面視にて、貫通孔28の中心を四隅とする四辺形の中央に管材60の吸気口68が位置するように設けられているので、上目地空間56の空気が集まりやすい位置に吸気口68を配置することができる。これにより、上目地空間56に形成される空気溜まりを効率よく低減する又は無くすことができる。
【0080】
以上、本発明の第1の実施形態について説明した。
【0081】
なお、第1の実施形態では、柱12をプレキャストコンクリート部材とした例を示したが、柱12は現場打ちコンクリートによって形成してもよい。すなわち、第1の実施形態の下部材は、コンクリートによって形成された部材であればよい。
【0082】
また、第1の実施形態では、基礎スラブ50に3つの柱12A〜12Bを設置した例を示したが、建物の一層分を構築するのに必要なだけの柱12を設置し、それらの柱12に対して図5(a)〜(c)、図6(d)〜(f)の作業を行えばよい。
【0083】
また、第1の実施形態では、上目地空間56に3つの管材60を設けた例を示したが、管材60の配置や数は、グラウト充填工程において上目地空間56にグラウトが充填される際に空気が集まる場所を想定し、これに基づいて適宜決めればよい。空気が集まる場所の想定が難しい場合には、管材60の数を多くすればよい。その場合には、管材60から排出されるグラウトWのロスを考慮して管材60の配置や数を決める。
【0084】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
【0085】
第2の実施形態の説明において、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
【0086】
第2の実施形態では、図11の平面図、及び図12の拡大図に示すように、柱16の下面に空気抜き通路としての溝78が形成されている。溝78は、上目地空間56の内部から外周部へ延びている。図11には、平面視にて柱梁接合部材14の上面に投影した溝78の位置が点線の四角で示されている。
【0087】
溝78は、溝78の排気口130が柱16の下面縁部に位置するように形成する。また、溝78は、上目地空間56の形状や貫通孔28の配置等を考慮し、グラウト充填工程において上目地空間56にグラウトが充填された際に空気が集まると想定される場所に溝78の吸気口132が位置するように形成する。
【0088】
次に、本発明の第2の実施形態の作用及び効果について説明する。
【0089】
第2の実施形態のグラウト注入方法では、図11、12に示すように、第1の実施形態の管材60と同様の原理で、上目地空間56の平面形状や貫通孔28の配置に大きく影響されることなく、溝78を通じ上目地空間56の内部の空気Qを排気口130からエアーチューブ52の外側(上目地空間56の外部)へ排気して上目地空間56に形成される空気溜まりを低減する又は無くすことができる。
【0090】
また、上目地空間56の隙間の大きさ(高さ)に影響されずに、空気抜き通路の断面の大きさを設定することができる。また、上目地空間56にグラウトWを充填する際に、空気抜き通路の位置がずれてしまう心配がない。
【0091】
以上、本発明の第1及び第2の実施形態について説明した。
【0092】
なお、第1の実施形態では、グラウト供給孔38から下目地空間54へグラウトWを供給した例を示したが、他の方法を用いて下目地空間54へグラウトWを供給してもよい。例えば、図13〜18の正面図に示す方法によって、下目地空間54へグラウトWを供給してもよい。
【0093】
図13には、柱梁接合部材14の側面から下面へ貫通するように柱梁接合部材14に形成されたグラウト供給孔80から下目地空間54へグラウトWを供給する例が示されている。
【0094】
このようにすれば、図7(a)で示したグラウト供給孔38よりもグラウト供給孔の長さを短くでき、配管抵抗を小さくすることができるので、グラウト供給孔80にグラウトWを良好に流すことができる。
【0095】
図14には、柱16の側面から柱梁接合部材14の下面へ貫通するように、柱16と柱梁接合部材14とに設けられたグラウト供給管82によって形成されたグラウト供給孔から下目地空間54へグラウトWを供給する例が示されている。
【0096】
このようにすれば、図7(a)で示したグラウト供給孔38の注入口102よりも高い位置の注入口104からグラウトWを供給することができ、重力によりグラウトWの注入圧を高くすることができるので、吐出圧の小さいグラウトポンプを用いることができる、又はグラウトポンプが不要になる。
【0097】
図15には、柱16の上面から柱梁接合部材14の下面へ貫通するように、柱16と柱梁接合部材14とに設けられたグラウト供給管84によって形成されたグラウト供給孔から下目地空間54へグラウトWを供給する例が示されている。グラウト供給管84は、直管となっている。
【0098】
このようにすれば、図7(a)で示したグラウト供給孔38の注入口102よりも高い位置の注入口106からグラウトWを供給することができ、重力によりグラウトWの注入圧を高くすることができるので、吐出圧の小さいグラウトポンプを用いることができる、又はグラウトポンプが不要になる。また、グラウト供給管84は直管なので、配管抵抗を小さくすることができ、グラウト供給管84によって形成されるグラウト供給孔にグラウトWを良好に流すことができる。
【0099】
図16には、柱12の側面から上面へ貫通するように、柱12に形成されたグラウト供給孔86から下目地空間54へグラウトWを供給する例が示されている。このようにすれば、グラウトポンプを柱12の横に設置することができる。
【0100】
図17には、中空管40のグラウト注入孔42(図1、2(b)を参照のこと)から下目地空間54へグラウトWを供給する例が示されている。この場合には、下目地空間54へグラウトWを供給するグラウト注入孔42を有する中空管40に形成されているグラウト排出孔44を塞いでおく。このようにすれば、グラウト供給孔を設ける手間を省くことができる。なお、1つの中空管40から下目地空間54へグラウトWを供給してもよいし、複数の中空管40から下目地空間54へグラウトWを供給してもよい。例えば、全ての中空管40から下目地空間54へグラウトWを供給してもよい。
【0101】
図18には、梁20の上面から1つの貫通孔28の中間部へ貫通するように、水平構造体22に形成されたグラウト供給孔88から下目地空間54へグラウトWを供給する例が示されている。
【0102】
このようにすれば、貫通孔28をグラウト供給孔の一部として利用することができるので、グラウト供給孔を設ける手間を低減することができる。この場合、図19(b)、(c)の平面図に示すように、グラウト供給孔として用いる貫通孔96、98(シース管92、94)の大きさを、図19(a)の平面図に示す一般的な大きさの貫通孔28(シース管90)よりも大きくするのが好ましい。なお、一般的な大きさの貫通孔28とは、貫通される柱鉄筋24の外径に近い大きさの内径を有する貫通孔28を意味する。また、柱鉄筋24が貫通されない、グラウト供給孔としてのみ用いる貫通孔28を柱梁接合部材14に形成してもよい。
【0103】
また、第1の実施形態では、柱16の下面から突出する柱鉄筋24を柱12に設けられた中空管40の中空部に挿入した後に、中空管40の中空部にグラウトを充填して硬化させることによって中空管40に柱鉄筋24を定着した例を示したが、予め中空管40の中空部にグラウトWを充填しておき、このグラウトWが硬化する前に柱鉄筋24を中空管40の中空部に挿入するようにしてもよい。
【0104】
また、第1の実施形態では、上部材(柱16)に設けられ下方に突出する柱鉄筋24を中間部材(柱梁接合部材14)の貫通孔28に貫通させて下部材(柱12)に設けられた中空管40に接続し、下部材と中間部材と上部材とを一体化する、所謂「逆挿し工法」に対するグラウト注入方法について説明したが、第1及び第2の実施形態のグラウト注入方法は、中間部材の上面に上部材を載置すると共に、中間部材の貫通孔を貫通する鉄筋を介して下部材と中間部材と上部材とを連結する工法に対して適用することができる。
例えば、図20の正面図に示す、所謂「順挿し工法」や、図22の工法に対して第1及び第2の実施形態のグラウト注入方法を適用することができる。図21の正面図に示す方法は、下目地空間へグラウトを供給することにより上目地空間にグラウトを充填するものではないが、図20の変形例として紹介する。
【0105】
図20では、まず、下部材としての柱108の上面に中間部材としての柱梁接合部材14を載置すると共に、柱108に設けられて柱108の上面から上方へ突出する柱鉄筋24を柱梁接合部材14に形成された貫通孔28に貫通させる。
【0106】
次に、柱梁接合部材14の上面に上部材としての柱110を載置すると共に、柱108に設けられた柱鉄筋24の上端部を柱110の下端部に埋設された中空管40の挿入孔に挿入し、グラウトにより中空管40に柱鉄筋24の上端部を定着する。
【0107】
次に、第1の実施形態で示したのと同様の方法で、下目地空間54及び上目地空間56を形成し、上目地空間56に管材60(不図示)を設けた後に、グラウト充填工程を行う。
【0108】
図21では、まず、下部材としての柱108の上面に中間部材としての柱梁接合部材14を載置すると共に、柱108に設けられて柱108の上面から上方へ突出する柱鉄筋24を柱梁接合部材14に形成された貫通孔28に貫通させる。
【0109】
次に、第1の実施形態で示したのと同様の方法で下目地空間54を形成した後に、グラウト供給孔38から下目地空間54にグラウトWを供給することによって、下目地空間54及び貫通孔28にグラウトWを充填する。
【0110】
次に、柱梁接合部材14の上面に上部材としての柱110を載置すると共に、柱108に設けられた柱鉄筋24の上端部を柱110の下端部に埋設された中空管40の挿入孔に挿入し、グラウトによって中空管40に柱鉄筋24の上端部を定着する。
【0111】
次に、第1の実施形態で示したのと同様の方法で上目地空間56を形成し、この上目地空間56に管材60(不図示)を設けた後に、上目地空間56にグラウトWを供給する。 上目地空間56へのグラウトWの供給は、例えば、図21に示すように、中空管40のグラウト排出孔44から行ってもよい。この場合、上目地空間56へグラウトWを供給するグラウト排出孔44を有する中空管40に形成されているグラウト注入孔42は塞いでおく。
【0112】
図22では、まず、下部材としての柱134の上面に中間部材としての柱梁接合部材14を載置する。
【0113】
次に、柱梁接合部材14の貫通孔28に中継筋136を貫通させ、この中継筋136の下端部を柱134の上端部に埋設された中空管40の挿入孔に挿入する。そして、グラウトにより中空管40に中継筋136の下端部を定着する。
【0114】
次に、柱梁接合部材14の上面に上部材としての柱110を載置すると共に、中継筋136の上端部を柱110の下端部に埋設された中空管40の挿入孔に挿入し、グラウトにより中空管40に中継筋136の上端部を定着する。
【0115】
次に、第1の実施形態で示したのと同様の方法で、下目地空間54及び上目地空間56を形成し、上目地空間56に管材60(不図示)を設けた後に、グラウト充填工程を行う。
【0116】
また、第1の実施形態では、図3(a)、(b)に示した方法によって、梁20に梁18を接合した例を示したが、梁20に梁18を確実に接合できる方法であればよい。例えば、図23(a)、(b)、及び図25(a)、(b)に示す方法を用いてもよい。
図23(a)及び図25(a)には、梁20に梁18が接合される直前の状態が示され、図23(b)及び図25(b)には、梁20に梁18が接合された状態が示されている。
【0117】
図23(a)、(b)の接合方法は、まず、小さな隙間を有するように又は密着するようにして、梁18の端面を梁20の端面に対向させて梁18を配置する。
【0118】
次に、梁18の端部に埋設されたシース管116により形成された収容孔120から中空管124を引き出して、梁20の端部に埋設されたシース管118により形成された収容孔122に挿入する。このとき、梁18に設けられた梁鉄筋30の端部が中空管124に挿入されている状態で、梁20に設けられた梁鉄筋30の端部が中空管124に挿入され、梁18に設けられた梁鉄筋30と梁20に設けられた梁鉄筋30とが接合される。なお、図23(a)の状態で、梁鉄筋30、中空管124、及びシース管116、118は、梁18、20の端面から突出していない。
【0119】
次に、梁18の端面と梁20の端面との間に形成された隙間126、収容孔120、122、及び中空管124の中空部にグラウトを充填し硬化させて、梁20と梁18とを一体化する。
【0120】
このように、図23(a)、(b)の接合方法は、小さな隙間を有するように又は密着するようにして、梁20の端面に梁18の端面を対向させているので、梁18と梁20との接合部(梁18の端面と梁20の端面との間の空間)にコンクリートを後打ちする作業や、コンクリートを後打ちする為の型枠設置作業等の煩雑な作業を無くすことが可能となり、施工性の向上を図ることができる。
【0121】
また、この接合方法は、梁18(水平構造体22)の横方向への移動によって梁20に梁18を接合することができるし、梁18(水平構造体22)の上下方向への移動によっても梁20に梁18を接合することができる。
【0122】
ここで、例えば、図24の平面図に示すように、地点Kから半時計回り(矢印112の順)に水平構造体22、128を設置する作業と、地点Kから時計回り(矢印114の順)に水平構造体22、128を設置する作業とを並行して行うことにより建物を構築する場合には、最後に設置する水平構造体22(図24に点線で示した水平構造体22)を上下方向への移動によって設置し、これ以外の水平構造体22、128を横方向への移動によって設置することができる。
【0123】
図24の状況以外においても、既に設置された梁の間に水平構造体を設置しなければならない状況や、クレーンのブームの移動範囲が制約された状況等によって水平構造体を横方向に移動させることができない場合に有効である。
【0124】
図25(a)、(b)の接合方法は、梁18、20の端面から突出して設けられた梁鉄筋30の端部同士を中空管124で接続し、梁18と梁20との接合部(梁18の端面と梁20の端面との間の空間)にコンクリートVを後打ちし硬化させて、梁18と梁20とを一体化する。
【0125】
また、第1及び第2の実施形態では、下部材及び上部材を柱とし、中間部材を柱梁接合部材とした例を示したが、これに限らず、例えば、下部材及び上部材を壁とし、中間部材を梁又は床スラブとしてもよい。すなわち、下壁と上壁との間に梁が配置された接合構造や、下壁と上壁との間に床スラブが配置された接合構造に対して第1及び第2の実施形態を適用することができる。
【0126】
また、第1及び第2の実施形態では、柱梁接合部材14の上面の平面形状を長方形とした例を示したが、柱梁接合部材14の上面の平面形状は、三角形、正方形、長方形、台形、多角形、円形、楕円形等のさまざまな形状とすることができ、特に、長方形、楕円形、台形等の扁平形状に対して有効である。
【0127】
また、第1の実施形態では、グラウト供給孔38の流出口100(下端部)を、柱梁接合部材14下面の略中央に配置した例を示したが、流出口100は柱梁接合部材14下面のどの位置に配置してもよい。第1及び第2の実施形態では、管材60や溝78によって上目地空間56に形成する空気溜まりを低減することができるので、流出口100の配置によって上目地空間56に充填されるグラウトWの充填され方に違いを生じても大きな影響を受けることはない。
【0128】
また、第1及び第2の実施形態では、シール部材をエアーチューブ52とした例を示したが、隙間の周囲をシールして下目地空間54及び上目地空間56を形成できるものであればよく、例えば、固練りのモルタルを隙間に詰めてシールしてもよい。
【0129】
また、第1の実施形態では、対象とする貫通孔28の中心を四隅とする四辺形の中央に管材60の吸気口68を位置させる例を示したが、対象とする複数の貫通孔28の上端部開口からグラウトWが溢れ始めるタイミングが貫通孔28毎に異なる場合には、最も遅くグラウトWが溢れ出す貫通孔28寄りに管材60の吸気口68を配置するのが好ましい。この配置は、上端部開口からグラウトWが溢れ始める各貫通孔28のタイミングの時間差を考慮して適宜決めればよい。
【0130】
また、第1の実施形態では、空気抜き通路を管材60とし、第2の実施形態では、空気抜き通路を溝78とした例を示したが、上目地空間56の空気をシール部材の外側(上目地空間56の外部)へ排気可能なものであればよい。
【0131】
また、第1及び第2の実施形態では、説明の都合上、柱鉄筋24及び梁鉄筋30以外の鉄筋が省略されているが、柱12、16、及び水平構造体22には、せん断補強筋や二段筋等の鉄筋を必要に応じて適宜設ければよい。
【0132】
以上、本発明の第1及び第2の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものでなく、第1及び第2の実施形態を組み合わせて用いてもよいし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0133】
10 接合構造
12、108、134 柱(下部材)
14 柱梁接合部材(中間部材)
16、110 柱(上部材)
24 柱鉄筋(鉄筋)
28 貫通孔
52 エアーチューブ(シール部材)
54 下目地空間
56 上目地空間
60 管材(空気抜き通路)
62 外管
66、130 排気口
68、132 吸気口
70 交点(中央)
78 溝(空気抜き通路)
136 中継筋(鉄筋)
Q 空気
W グラウト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔が形成されたプレキャストコンクリート製の中間部材をコンクリート製の下部材の上面に隙間をあけて載置し、該隙間の周囲をシール部材でシールして下目地空間を形成する下目地形成工程と、
プレキャストコンクリート製の上部材を前記中間部材の上面に隙間をあけて載置すると共に、前記貫通孔を貫通する鉄筋を介して前記下部材と前記中間部材と前記上部材とを連結し、該隙間の周囲をシール部材でシールして上目地空間を形成する上目地形成工程と、
前記下目地空間へグラウトを供給することによって前記下目地空間と前記貫通孔と前記上目地空間とに前記グラウトを充填すると共に、前記上目地空間に設けられた空気抜き通路を通じて前記上目地空間の内部の空気を前記シール部材の外側へ排気するグラウト充填工程と、
を有するグラウト注入方法。
【請求項2】
前記上部材を前記中間部材の上面に載置すると共に、前記上部材に設けられ該上部材の下面から突出する前記鉄筋を前記貫通孔へ貫通させて、前記下部材に形成された挿入孔へ挿入する請求項1に記載のグラウト注入方法。
【請求項3】
前記空気抜き通路は、前記上目地空間に設けられ排気口が前記シール部材の外側に位置する管材である請求項1又は2に記載のグラウト注入方法。
【請求項4】
前記管材は、前記シール部材に挟まれた外管に挿入されている請求項3に記載のグラウト注入方法。
【請求項5】
前記空気抜き通路は、前記上部材の下面に形成され前記上目地空間の内部から外周部へ延びる溝である請求項1又は2に記載のグラウト注入方法。
【請求項6】
平面視にて、前記貫通孔の中心を四隅とする四辺形の中央に前記空気抜き通路の吸気口が位置する請求項1〜5の何れか1項に記載のグラウト注入方法。
【請求項7】
前記下部材及び前記上部材は柱であり、前記中間部材は梁が一体に設けられた柱梁接合部材である請求項1〜6の何れか1項に記載のグラウト注入方法。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか1項に記載のグラウト注入方法により一体となった前記下部材、前記中間部材及び前記上部材を有する接合構造。
【請求項9】
請求項8に記載の接合構造を有する建物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2011−169058(P2011−169058A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−35337(P2010−35337)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】