説明

コレステロールペレット固形製剤を用いたLHRHaの埋め込み投与によるマハタ親魚の成熟・排卵誘導法

【課題】本発明は、マハタ親魚の成熟・排卵誘導ホルモン剤にLHRHaを採用し、また、その持続性を高め、徐放投与を可能にする手法を用いることで、安定的かつ効率的な採卵方法を提供する。
【解決手段】合成黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRHa:des-Gly10,[D-Ala6]-LHRH ethylamide)の徐放投与を可能にする固形製剤にコレステロールペレットを使用し、LHRHaの投与量は20〜100μg/kg BWとし、マハタ親魚は人為的環境下で養殖した養成親魚を用い、その卵巣卵の卵径が420〜550μmの個体を使用し、ホルモン処理後の採卵は人工授精により行うことにより、マハタ親魚から安定的かつ効率的に良質な受精卵を得ることを可能にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マハタ親魚からのホルモン処理採卵において、安定的かつ効率的に種苗生産用の良質な受精卵を得ることを目的とした新規の成熟・排卵誘導方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでのマハタを対象にしたホルモン投与による成熟・排卵誘導では、HCG(ヒト胎盤性生殖腺刺激ホルモン)溶液やSP(シロザケ脳下垂体)溶液およびHCG・SP混合液の注射投与が主に行われ、種苗生産用の受精卵を得ていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、HCG溶液、SP溶液およびHCG・SP混合液の注射を行っても、安定的かつ効率的に良質な受精卵を得ることは難しく、たとえ良質な受精卵を得たとしてもその再現性が低かった。
【0004】
一般に魚類へのホルモン剤の水溶液による注射法では、その体内濃度は吸収後急速に増加するものの、その後は速やかに分解されるため、ホルモンの持続効果が短い。マハタでは、ホルモン処理後42-48時間経過しないと排卵しないが、それまでの間、ホルモンの処理効果が持続する手法を用いることで、採卵成績が向上する可能性がある。
【0005】
一方、近年では、魚類の成熟・排卵促進に合成黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRHa:des-Gly10,[D-Ala6]-LHRH ethylamide)が使用されはじめ、その成熟・排卵誘導効果が高いことが明らかとなってきている。
【0006】
そこで、本発明は、マハタ親魚の成熟・排卵誘導ホルモン剤にLHRHaを採用し、また、その持続性を高め、徐放投与を可能にする手法を用いることで、安定的かつ効率的な採卵方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、発明者らは、LHRHaの徐放性製剤として、コレステロールペレットを作製し、マハタ親魚に対するその成熟・排卵誘導効果を各種試験により、明らかとした結果、本発明のコレステロールペレット固形製剤を用いたLHRHaの埋め込み投与によるマハタ親魚の成熟・排卵誘導法を見出すに至った。
【0008】
請求項1の発明は、合成黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRHa:des-Gly10,[D-Ala6]-LHRH ethylamide)の徐放投与を可能にする固形製剤にコレステロールペレットを使用し、LHRHaの投与量は20〜100μg/kg BWとし、マハタ親魚は人為的環境下で養殖した養成親魚を用い、その卵巣卵の卵径が420〜550μmの個体を使用し、ホルモン処理後の採卵は人工授精により行うことにより、マハタ親魚から安定的かつ効率的に良質な受精卵を得ることを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1において、LHRHaコレステロールペレットは、円柱状に成型したものである。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1において、LHRHaコレステロールペレットは、1個あたりLHRHaを50〜400μg含むものである。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1において、LHRHaコレステロールペレットは、マハタ親魚の筋肉内または腹腔内に埋め込むことを特徴とする。
【0012】
請求項5の発明は、請求項1において、LHRHaコレステロールペレットのマハタ親魚への埋め込み回数は1回である。
【0013】
請求項6の発明は、請求項1において、マハタ親魚は、当該産卵期において、自然環境下で未だ排卵していない個体を用いる。
【0014】
請求項7の発明は、請求項1において、マハタ親魚は、成熟・排卵誘導が可能な5歳魚以上かつ体重2 kg以上の個体を用いる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のコレステロールペレット固形製剤を用いたLHRHaの埋め込み投与によるマハタ親魚の成熟・排卵誘導法によれば、これまで良質な受精卵の確保が困難であったマハタにおいて、従来法(HCG・SP混合液等の注射法)と比較して、より安定的に種苗生産用の受精卵が確保できるという有利な効果を奏する。
【0016】
また、本発明のコレステロールペレット固形製剤を用いたLHRHaの埋め込み投与によるマハタ親魚の成熟・排卵誘導法によれば、安定的な種苗生産用受精卵の確保が可能となることから、ふ化から稚魚にかけて生産を行う仔稚魚飼育において、より計画的かつ安定的な生産を可能にするという有利な効果を奏する。
【0017】
また、本発明のコレステロールペレット固形製剤を用いたLHRHaの埋め込み投与によるマハタ親魚の成熟・排卵誘導法によれば、マハタ親魚からの再現性の高い採卵が可能となることから、高額なマハタ親魚の効率的な利用,使用親魚数の低減およびそれに伴う経費の削減が図れるという有利な効果を奏する。
【0018】
また、本発明のコレステロールペレット固形製剤を用いたLHRHaの埋め込み投与によるマハタ親魚の成熟・排卵誘導法によれば、安定的かつ効率的に良質な受精卵を得ることが可能となることから、それに伴うマハタ人工種苗の大量生産が実現し、養殖生産用のマハタ種苗を切望している魚類養殖業の発展が期待されるという有利な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のマハタ親魚の成熟・排卵誘導法では、LHRHaの徐放投与を可能にするコレステロールペレット固形製剤を作製し、使用する。
【0020】
LHRHaコレステロールペレット固形製剤の作製方法(図1)は、LHRHaを50%エチルアルコールに溶解した後、その溶液をコレステロールパウダーに添加し、ガラス棒等でペースト状になるまで混合させ、全体を均一化させる。
【0021】
ペースト状になったLHRHaコレステロールを真空デシケーター等に収容し、十分に乾燥させる。
【0022】
乾燥させたLHRHaコレステロールパウダーに湯煎等で溶解したカカオバターを添加、混合し、全体を均一化させる。
【0023】
バインダーの役目をするカカオバターが添加されたLHRHaコレステロールパウダーは、30mgずつ秤量し、ペレット作製器の穴内に入れ、その後ステンレス棒等で圧縮し、ペレット状にする。
【0024】
完成したLHRHaコレステロールペレット固形製剤は、直ちに使用することも可能だが、-20℃以下の冷凍庫にて保存しておくことも可能である。
【0025】
LHRHaコレステロールペレット固形製剤の大きさや形状は、種々のものが考えられるが、特に2×6mm程度の円柱状に成型したものが良い。LHRHaコレステロールペレットは、マハタ親魚の体内に埋め込むことになるが、ペレットのサイズが大きすぎると親魚に多大なストレスを与えることとなる。形状は、円柱状にすると、ペレット投与器に装填しやすく、取り扱いも容易で作業性も向上し、作業時間も短縮化できる。
【0026】
また、LHRHaコレステロールペレット固形製剤の1個あたりのLHRHa含有量は、マハタ親魚に使用する場合、50〜400μg が考えられるが、その中でも100〜200μgが良い。仮にLHRHaのマハタ親魚への投与量を50μg/kg BWとすると、親魚の体重が6 kgの場合はLHRHaが300μg必要となる。ペレット1個あたりのLHRHa含有量が100μgの場合は3個、200μgの場合は1.5個埋め込むこととなる。また、仮に、ペレット1個あたりのLHRHa含有量を10μgと少なくした場合には、埋め込み個数が30個となり、親魚へのストレスが大きくなる。逆に、ペレット1個あたりのLHRHa含有量を600μgと多くした場合には、埋め込み個数が0.5個となり、固形製剤の取り扱いや埋め込み作業が困難となる。もちろん、LHRHaがペレットから溶出する条件も極端に変わり、期待した徐放量、徐放期間が実現しない可能性がある。
【0027】
LHRHaコレステロールペレット固形製剤の埋め込み投与には、内径2mm、外径3mmのPFAチューブと外径2mmのステンレス丸棒で作製したペレット投与器(図2)を使用すると良い。
【0028】
ペレット投与器には、事前にペレットを1個入り、1.5個入り、2個入りと準備しておくことが可能で、マハタ親魚の魚体重により、臨機応変にペレットの必要個数に応じて投与することが可能となる。例えば、マハタ親魚へのLHRHa投与量を50μg/kg BWとすると、親魚の体重が6 kgの場合は、LHRHaが300μg必要となる。ペレット1個あたりのLHRHa含有量が200μgの場合はペレットを1.5個装填したペレット投与器を使用し、埋め込めば良い。また、別の親魚の体重が4 kgの場合は、LHRHaが200μg必要となり、ペレットを1個装填したペレット投与器を使用し、埋め込めばよい。事前に各種個数のペレット投与器を準備しておくことで、迅速なLHRHaの埋め込み投与が可能となり、マハタ親魚へ与えるストレスも最小限に抑えることができる。
【0029】
LHRHaコレステロールペレット固形製剤の埋め込み投与部分は、マハタ親魚の筋肉内および腹腔内が考えられるが、特に背筋部の肉厚な部分に皮下1〜2cm程度の深さで実施するのが良い(図3)。
【0030】
LHRHaコレステロールペレット固形製剤の埋め込み投与の際は、まず、マハタ親魚を麻酔後、埋め込み投与予定部分にメスで5mm程度の切れ込みを入れ、ペレット投与器を挿入する。ペレット投与器先端が皮下2cm程度に達したら、ペレット投与器のステンレス棒を押し込み、ペレットを筋肉内に埋め込む。その後、ペレット投与器は速やかに引き抜く。
【0031】
LHRHaコレステロールペレット固形製剤は、腹腔内にも埋め込み投与可能だが、作業に熟練を要し、作業者が未熟な場合は、内臓等を傷つける可能性がある。したがって、よりマハタ親魚へのストレスを軽減し、迅速に埋め込み投与作業を行うためには、その投与部分は、魚体背筋部の肉厚な部分が適していると考えられる。
【0032】
LHRHaコレステロールペレット固形製剤のマハタ親魚への埋め込み回数は1回で十分である。コレステロールペレットからLHRHaが高いレベルで溶出し続ける期間は、概ね5日間であるが、マハタ親魚がLHRHaの埋め込み投与により排卵するまでの時間は42〜48時間であるので、1回の埋め込み投与で十分だと考えられる。仮に、1回の埋め込み投与で親魚の排卵が行われなかった場合は、親魚の成熟状態が未熟であった可能性が高い。
【0033】
コレステロールペレット固形製剤を用いたLHRHaの埋め込み投与によるマハタ親魚の成熟・排卵誘導において、マハタ親魚へのLHRHa投与量は、20〜100μg/kg BWが考えられるが、その中でも50μg/kg BWで、安定的かつ効率的に成熟・排卵が誘導でき、良質な受精卵が得られる。平成13,14年5〜6月の産卵期には、合計59個体のマハタ親魚を用い、LHRHa投与量を50μg/kg BWとしたLHRHaコレステロールペレット固形製剤の埋め込み投与により、44個体で成熟・排卵を誘導でき、合計3,573万粒の浮上卵を得た。マハタ親魚1個体から得られた浮上卵量は81.2万粒で、平均受精率も80%以上と良質な受精卵を得ることができた。
【0034】
採卵に使用する親魚は、天然由来および養殖由来が考えられるが、安定的かつ効率的に良質な受精卵を得たい場合は、人為的環境下で養殖した養成親魚を使用する方が良い。
【0035】
自然界に生息するマハタの親魚は貴重で、生息数も少ない。また、産卵期に漁獲できたとしても、その卵巣卵の成熟状態は様々であり、かつ漁獲によるスレやストレス等の悪影響により、それらの個体から良質な受精卵を得ることは非常に困難である。
【0036】
一方、養殖された養成親魚は、人為的環境下に慣れ、人のハンドリングにも慣れていることから、卵巣卵の成熟状態も個体間で同調性が高く、ある程度のストレスにも強い。これらのことから、養成親魚を使用した方が、採卵用として適した個体を多数確保でき、良質な受精卵を得ることができる。
【0037】
コレステロールペレット固形製剤を用いたLHRHaの埋め込み投与によるマハタ親魚の成熟・排卵誘導において、LHRHaの埋め込み投与時の親魚は、卵巣卵の卵径が420〜550μmの個体で排卵誘導が可能だが、その中でも卵巣卵の卵径が460〜520μmの個体を使用する方が良い。
【0038】
卵巣卵の卵径が420μm未満の個体は、LHRHaの埋め込み投与で成熟・排卵が誘導されない未熟な個体で、また420〜460μmの個体は、まだすべての卵がホルモンに対する感受性を持っていないため、成熟・排卵卵数が少ない個体である。
【0039】
一方、卵巣卵の卵径が550μm以上の個体は、卵巣卵の中に退行卵や排卵卵が多く見られることから、良質な受精卵を得ることが期待できない個体で、また520〜550μmの個体は、卵巣卵の中に退行卵や排卵卵が一部見られ、卵質が悪くなりつつある個体である。これらのことから、採卵に使用する親魚は卵巣卵の卵径が460〜520μmの個体を選定して用いることが望ましい。
【0040】
マハタ親魚は、人為的環境下において、自然に成熟が進み、6月の産卵後期になると、卵巣卵の一部が排卵した状態となる。このような産卵後期に見られる一部排卵個体では、仮にLHRHaの埋め込み投与を行ったとしても、得られる卵の卵質が安定しない。安定的かつ効率的に良質な受精卵を得たい場合には、当該産卵期において、産卵前期の自然環境下で未だ排卵していない個体を選定して用いることが望ましい。
【0041】
マハタ親魚の年齢と体重は、雌個体の卵巣が発達する5歳以上、魚体重は2 kg以上が良い。その中でも、個体間の成熟が同調し、卵量も多く確保することができる7〜10歳かつ4〜6 kgの個体を選定して用いることが望ましい。
【0042】
また、コレステロールペレット固形製剤を用いたLHRHaの埋め込み投与によるマハタ親魚の成熟・排卵誘導において、LHRHaの埋め込み投与後の採卵は人工授精により行う必要がある。マハタ親魚は、人為的環境下では産卵行動を行わず、仮に雌個体が放卵した場合にも卵は受精しない。水槽内において、完全に自然環境を再現できれば、自然産卵を誘発させることも不可能ではないかもしれないが、現在の親魚養成技術では困難である。これらのことから、マハタ親魚から受精卵を得る場合は、各種ホルモン処理技術を駆使して、人工授精により採卵を行う必要がある。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は、下記実施例に限定して解釈される意図ではない。
【0044】
実施例1
マハタ親魚の成熟・排卵誘導法において、LHRHaの徐放投与を可能にするコレステロールペレット固形製剤の具体的な作製法を次に示す。
【0045】
1粒あたりLHRHaを100μg含むコレステロールペレット固形製剤を作製する場合、まず、LHRHa 2.5 mgを50%エチルアルコール1mlに溶解した後、その溶液をコレステロールパウダー625 mgに添加し、ガラス棒等でペースト状になるまで混合させ、全体を均一化させる。ペースト状になったLHRHaコレステロールを真空デシケーター等に収容し、十分に乾燥させる。
【0046】
乾燥させたLHRHaコレステロールパウダーに湯煎等で溶解したカカオバター125 mgを添加、混合し、全体を均一化させる。カカオバターが添加されたLHRHaコレステロールパウダーは、30mgずつ秤量し、ペレット作製器の穴内に入れ、その後ステンレス棒等で圧縮し、ペレット状にする。このようにして作製したLHRHaコレステロールペレット固形製剤(100 μg/pellet)は、約20個完成する。
【0047】
また、1粒あたりLHRHaを200μg含むコレステロールペレット固形製剤を作製する場合は、前出作製方法の中で、LHRHaの添加量を5 mgとすれば良い。このようにして作製したLHRHaコレステロールペレット固形製剤(100μg/pellet)も約20個完成する。
【0048】
実施例2
コレステロールペレット固形製剤を用いたLHRHaの埋め込み投与によるマハタ親魚の成熟・排卵誘導において、LHRHaの埋め込み投与時の卵径が親魚の排卵個体率、卵量および卵質に及ぼす影響を調べた。
【0049】
供試魚には、人為的環境下で養殖した養成7歳魚(体重:4.1〜5.8 kg)を106個体使用し、麻酔を施し、カニューラにより卵巣卵を採取し大型卵30個の卵径を測定した。卵径を測定した結果、卵径が520μm以上の個体が8尾、500〜520μmの個体が14尾、480〜500μmの個体が33尾、460〜480μmの個体が17尾、440〜460μmの個体が18尾、420〜440μmの個体が7尾、420μm以下の個体が9尾であった。これらのマハタ親魚106個体に対して、背筋部にLHRHa(50μg/kg BW)コレステロールペレット固形製剤を埋め込み投与した。
【0050】
排卵の確認は、LHRHa埋め込み投与後42時間目に供試魚を麻酔した後、腹部の触診により行った。排卵確認後、腹部の圧迫により卵を搾出した。得られた卵は、1個体の搾出卵につき雄2尾から採取した精液を用い、直ちに乾導法による人工授精を行った。
【0051】
人工授精により得られた卵は洗卵した後、容積法(2,200粒/ml)により浮上卵と沈下卵を計数し、浮上卵率を算出した。受精率は、浮上卵約100粒のうち発生が進んでいる個体の割合で算出した。
【0052】
図4にLHRHa埋め込み投与時の卵径と42時間後の卵径との関係を示す。卵径420μm以下の個体では、LHRHa埋め込み投与後42時間を経過しても卵径は大きくならず、排卵が誘導されなかった。一方、卵径が420μm以上の個体では、卵径が520μm以上の個体が8尾中6尾、500〜520μmの個体が14尾中13尾、480〜500μmの個体が33尾中28尾、460〜480μmの個体が17尾中13尾、440〜460μmの個体が18尾中13尾、420〜440μmの個体が7尾中3尾で、42時間経過後の卵径が大きくなり、排卵を誘導することができた。特に、卵径が440μm以上の個体で親魚の排卵個体率が高く、LHRHa埋め込み投与による成熟・排卵誘導効果が高かった。
【0053】
図5にLHRHa埋め込み投与時の卵径と採卵量との関係を示す。浮上卵量と沈下卵量を合計した採卵量は、520μm以上の個体で65万粒、500〜520μmの個体で87万粒、480〜500μmの個体で96万粒、460〜480μmの個体で110万粒、440〜460μmの個体で53万粒、420〜440μmの個体で56万粒であった。特に卵径が460〜520μmの個体で採卵量が多かった。
【0054】
図6にLHRHa埋め込み投与時の卵径と排卵個体率、浮上卵率および受精率との関係を示す。卵径420〜520μmの個体で、浮上卵率および受精率に大きな差は認められなかったものの、排卵個体率は、卵径が440μm以上の個体で高かった。
【0055】
これらの結果から総合的に考慮すると、コレステロールペレット固形製剤を用いたLHRHaの埋め込み投与によるマハタ親魚の成熟・排卵誘導において、LHRHaの埋め込み投与時の卵径が460〜520μmの個体で、採卵成績が良く、安定的かつ効率的に良質な受精卵が得られることが明らかとなった。
【0056】
実施例3
コレステロールペレット固形製剤を用いたLHRHaの埋め込み投与によるマハタ親魚の成熟・排卵誘導において、従来使用されていたHCG注射投与法と本法とのマハタ親魚における成熟・排卵誘導効果を比較、調査した。
【0057】
比較採卵試験に使用したホルモン剤は、HCG(ヒト胎盤性生殖腺刺激ホルモン)とLHRHa(合成黄体形成ホルモン放出ホルモン)の2種類である。
【0058】
ホルモン剤の投与方法について、HCGは、0.6% NaCl溶液で溶解し、供試魚への注入量が0.2 ml/kgとなるように調整した。HCGの投与は親魚を麻酔した後、背筋部に注射器を用いて投与する注射法で行った。一方、LHRHaは、ペレット1個につきLHRHaを100μg/kg含む長さ6 mm、直径2 mmの円柱状のコレステロールペレット固形製剤を作製した。LHRHaコレステロ−ルペレットは、親魚を麻酔後、メスで背筋部表皮に切れ込みを入れ、ペレット埋め込み器を用いて背筋部筋肉中に埋め込み投与を行った。
【0059】
ホルモン剤の投与量は、HCG注射法ではHCG 500 IU/kg、LHRHa埋め込み投与法ではLHRHa 50μg/kgとした。
【0060】
排卵の確認は、HCGおよびLHRHa投与から42時間後に腹部の触診を行い、排卵が確認された個体については、腹部の圧迫による卵の搾出を行い、直ちに乾導法により人工授精を行った。
【0061】
人工授精により得られた卵は、浮上卵と沈下卵に分離して容積法(2,200粒/ml)により、浮上卵率、浮上卵量を算出した。また、受精率は、浮上卵約100粒のうち発生が進んでいる個体の割合で算出した。
【0062】
図7にLHRHaコレステロールペレット固形製剤の埋め込み投与およびHCG注射投与による成熟・排卵誘導結果を示す。LHRHa埋め込み投与では、親魚14尾のうち10尾が排卵し、排卵個体率は71.4%、浮上卵率は72.6%、浮上卵量は97.2万粒および受精率は83.5%であった。一方、HCG注射投与では、親魚13尾のうち8尾が排卵し、排卵個体率は61.5%、浮上卵率は72.5%、浮上卵量は46.4万粒および受精率は61.7%であった。
【0063】
これらの結果から総合的に考慮すると、マハタ親魚の成熟・排卵誘導においは、HCG注射投与法よりもLHRHaコレステロールペレット埋め込み投与法の方が採卵成績が良く、安定的かつ効率的に良質な受精卵が得られることが明らかとなった。
【0064】
実施例4
産卵前期の自然環境下で未だ排卵していないマハタ親魚(以下未排卵個体)および産卵後期にすでに一部排卵が起こっているマハタ親魚(一部排卵固体)を用いて、コレステロールペレット固形製剤を用いたLHRHaの埋め込み投与を行い、その成熟・排卵誘導効果を比較、調査した。
【0065】
LHRHaの埋め込み投与では、ペレット1個につきLHRHaを100μg/kg含む長さ6 mm、直径2 mmの円柱状のコレステロールペレット固形製剤を作製し、LHRHa 50μg/kgの投与量で、背筋部筋肉中に埋め込んだ。
【0066】
排卵の確認は、LHRHaコレステロールペレット固形製剤の埋め込み投与から42時間後に腹部の触診を行い、排卵が確認された個体については、腹部の圧迫による卵の搾出を行い、直ちに乾導法により人工授精を行った。
【0067】
人工授精により得られた卵は、浮上卵と沈下卵に分離して容積法(2,200粒/ml)により、浮上卵率、浮上卵量を算出した。また、受精率は、浮上卵約100粒のうち発生が進んでいる個体の割合で算出した。
【0068】
図8にマハタ親魚の未排卵個体および一部排卵個体を用いたLHRHaコレステロールペレット固形製剤の埋め込み投与による成熟・排卵誘導結果を示す。未排卵固体を用いた成熟・排卵誘導では、親魚9尾のうち9尾すべての個体が排卵し、排卵個体率は100%、浮上卵率は72.6%、浮上卵量は36.5万粒および受精率は68.8%であった。一方、一部排卵個体を用いた成熟・排卵誘導では、親魚8尾のうち6尾が排卵し、排卵個体率は75%、浮上卵率は70.0%、浮上卵量は30.0万粒および受精率は45.9%であった。
【0069】
これらの結果から総合的に考慮すると、マハタ親魚の成熟・排卵誘導においは、産卵後期に自然環境下ですでに一部排卵が起こっている親魚よりも、産卵前期の未だ排卵していない親魚を選定し、LHRHaコレステロールペレット埋め込み投与を行う方が採卵成績が良く、安定的かつ効率的に良質な受精卵が得られることが明らかとなった。
【0070】
実施例5
LHRHaコレステロールペレット固形製剤の埋め込み投与による成熟・排卵誘導におけるマハタ親魚の体重と採卵量との関係を調査した。
【0071】
マハタ親魚は、人為的環境下で養殖した養成親魚を用い、体重2〜7 kgの個体を合計61尾使用した。
【0072】
LHRHaの埋め込み投与では、ペレット1個につきLHRHaを100μg/kg含む長さ6 mm、直径2 mmの円柱状のコレステロールペレット固形製剤を作製し、LHRHa 50μg/kgの投与量で、背筋部筋肉中に埋め込んだ。
【0073】
排卵の確認は、LHRHaコレステロールペレット固形製剤の埋め込み投与から42時間後に腹部の触診を行い、排卵が確認された個体については、腹部の圧迫による卵の搾出を行い、直ちに乾導法により人工授精を行った。人工授精により得られた卵は、容積法(2,200粒/ml)により、採卵量を算出した。
【0074】
図9にLHRHaコレステロールペレット固形製剤の埋め込み投与による成熟・排卵誘導におけるマハタ親魚の体重と採卵量との関係を示す。LHRHaコレステロールペレット固形製剤の埋め込み投与により、体重2 kg以上の親魚は排卵が誘導され、採卵することができた。採卵量は親魚の体重が重いほど多かった。しかしながら、マハタは雌性先熟で雌雄同体性であり、体重が6 kg以上となると雄の比率が高くなり、雌親魚の確保が困難となった。
【0075】
これらの結果から総合的に考慮すると、マハタ親魚のLHRHaコレステロールペレット固形製剤の埋め込み投与による成熟・排卵誘導においては、親魚の体重が2 kg以上の親魚で排卵誘導が可能だが、採卵量および雌親魚の選定の面からは体重4〜6kgの個体を用いた方が、安定的かつ効率的に良質な受精卵が得られることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、マハタ親魚からの採卵技術の高度化および本種の人工種苗の安定生産を可能とし、水産業における増養殖分野(養殖業および栽培漁業)において、貢献度が極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】LHRHaコレステロールペレット固形製剤の作製方法を示す図である。
【図2】LHRHaの徐放投与を可能にするコレステロールペレット固形製剤と埋め込み投与器を示す図である。
【図3】マハタの採卵用親魚およびLHRHaコレステロールペレット固形製剤の埋め込み状況を示す図である。
【図4】LHRHaコレステロールペレット固形製剤の埋め込み投与時の卵径と42時間後の卵径との関係を示す図である。
【図5】LHRHaコレステロールペレット固形製剤の埋め込み投与時の卵径と採卵量との関係を示す図である。
【図6】LHRHaコレステロールペレット固形製剤の埋め込み投与時の卵径と排卵個体率、浮上卵率および受精率との関係を示す図である。
【図7】LHRHaコレステロールペレット固形製剤の埋め込み投与およびHCG注射投与による成熟・排卵誘導効果を示す図である。
【図8】マハタ親魚の未排卵固体および一部排卵固体を用いたLHRHaコレステロールペレット固形製剤の埋め込み投与による成熟・排卵誘導効果を示す図である。
【図9】LHRHaコレステロールペレット固形製剤の埋め込み投与による成熟・排卵誘導におけるマハタ親魚の体重と採卵量との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRHa:des-Gly10,[D-Ala6]-LHRH ethylamide)の徐放投与を可能にする固形製剤にコレステロールペレットを使用し、LHRHaの投与量は20〜100μg/kg BWとし、マハタ親魚は人為的環境下で養殖した養成親魚を用い、その卵巣卵の卵径が420〜550μmの個体を使用し、ホルモン処理後の採卵は人工授精により行うことにより、マハタ親魚から安定的かつ効率的に良質な受精卵を得ることを特徴としたコレステロールペレット固形製剤を用いたLHRHaの埋め込み投与によるマハタ親魚の成熟・排卵誘導法。
【請求項2】
LHRHaコレステロールペレットは、円柱状に成型したものである請求項1記載のコレステロールペレット固形製剤を用いたLHRHaの埋め込み投与によるマハタ親魚の成熟・排卵誘導法。
【請求項3】
LHRHaコレステロールペレットは、1個あたりLHRHaを50〜400μg含むものである請求項1記載のコレステロールペレット固形製剤を用いたLHRHaの埋め込み投与によるマハタ親魚の成熟・排卵誘導法。
【請求項4】
LHRHaコレステロールペレットは、マハタ親魚の筋肉内または腹腔内に埋め込むことを特徴とした請求項1記載のコレステロールペレット固形製剤を用いたLHRHaの埋め込み投与によるマハタ親魚の成熟・排卵誘導法。
【請求項5】
LHRHaコレステロールペレットのマハタ親魚への埋め込み回数は1回である請求項1記載のコレステロールペレット固形製剤を用いたLHRHaの埋め込み投与によるマハタ親魚の成熟・排卵誘導法。
【請求項6】
マハタ親魚は、当該産卵期において、自然環境下で未だ排卵していない個体を用いる請求項1記載のコレステロールペレット固形製剤を用いたLHRHaの埋め込み投与によるマハタ親魚の成熟・排卵誘導法。
【請求項7】
マハタ親魚は、成熟・排卵誘導が可能な5歳魚以上かつ体重2 kg以上の個体を用いる請求項1記載のコレステロールペレット固形製剤を用いたLHRHaの埋め込み投与によるマハタ親魚の成熟・排卵誘導法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−254433(P2007−254433A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−84326(P2006−84326)
【出願日】平成18年3月25日(2006.3.25)
【出願人】(000214191)長崎県 (106)
【Fターム(参考)】