説明

コンバインの刈取装置

【課題】刈取作業中に走行を停止した場合の再発進の際に、刈取部の起動の遅れを招くことなく、車速対応の刈取り動作を確保することができるコンバインの刈取装置を提供する。
【解決手段】コンバインの刈取装置は、刈取部(3)、その無段変速部(23b)、その制御軸を調節する制御部(32)、刈脱レバー(33)、車速センサ(34)等から構成され、上記制御部(32)は、刈脱レバー(33)のオン操作によって無段変速部(23b)がエンジン動力を受ける場合に、同無段変速部(23b)の変速出力が実質的に停止される制御軸の中立幅の中央となる中立角度位置からの角度範囲について、車速センサ(34)による走行車速に応じた角度位置に制御軸を駆動するとともに、車速センサ(34)の信号による走行停止の検出により、中立角度位置の近傍に設定した所定の停止角度位置に制御軸を駆動制御するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速部を備えて刈取動作速度を無段階に変速調節可能なコンバインの刈取装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の例の如く、刈取部の動作速度調節用の無段変速部を備え、この無段変速部を制御部により、走行車速と連動して動作速度を調節可能なコンバインの刈取装置が知られている。
詳細には、刈脱クラッチの操作レバーがオンの場合は、制御部により、主変速レバーの操作によるコンバインの機体走行と連動して刈取部を動作制御することにより車速に対応した刈取り動作が可能とな。この場合において、走行用の無段変速部の出力開始位置より中立位置側に刈取部の無段変速部の出力開始位置を設定することにより、主変速レバーを中立位置に戻すした時に刈取用の無段変速部も中立位置に戻るようにして機体走行と刈取り動作を連動して停止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3756140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、刈取作業中に走行を停止すると、連動的に刈取部も停止することから、次の発進の際に刈取部の起動が遅れ、この刈取部が前進することによって穀稈が刈取られずに押し倒されるという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、刈取作業中に走行を停止した場合の再発進の際に、刈取部の起動の遅れを招くことなく、車速対応の刈取り動作を確保することができるコンバインの刈取装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、機体の前部に設けられて圃場から穀稈を刈取る刈取部(3)と、この刈取部(3)にエンジン動力を停止速に及ぶ範囲で無段階に変速伝動する無段変速部(23b)と、この無段変速部(23b)をその制御軸の回動角調節によって変速伝動制御する制御部(32)とからなるコンバインの刈取装置において、上記無段変速部(23b)に受けるエンジン動力をオン・オフする刈脱レバー(33)と、機体の走行車速を検出する車速センサ(34)とを設けるとともに、上記制御部(32)は、刈脱レバー(33)のオン操作によって無段変速部(23b)がエンジン動力を受ける場合に、同無段変速部(23b)の変速出力が実質的に停止される制御軸の中立幅の中央となる中立角度位置からの角度範囲について、車速センサ(34)による走行車速に応じた角度位置に制御軸を駆動するとともに、車速センサ(34)の検出信号による走行停止の検出により、中立角度位置の近傍に設定した所定の停止角度位置に制御軸を駆動制御することを特徴とする。
【0007】
上記刈取装置は、刈脱レバー(33)がオン位置の場合について、制御部(32)が、走行車速に応じて無段変速部(23b)の制御軸の角度位置を制御することから、この無段変速部(23b)を介して刈取部(3)の動作速度が走行車速と連動して刈取り動作し、また、機体走行停止の際は、中立角度位置の近傍に設定した所定の停止角度位置に制御軸が制御されることから、次の走行開始の際は、無段変速部(23b)が中立角度位置より変速出力域の側の停止角度位置から刈取部(3)を動作させる。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1の構成において、前記制御部(32)は、刈脱レバー(33)がオフ位置の場合に、制御軸を中立角度位置に回動制御することを特徴とする。
上記刈脱レバー(33)がオフ位置の場合は、制御部(32)により、無段変速部(23b)の制御軸が中立角度位置に位置付けられる。
【発明の効果】
【0009】
請求項1のコンバインの刈取装置は、刈脱レバー(33)がオン位置の場合について、制御部(32)が走行車速に応じて無段変速部(23b)の制御軸の角度位置を制御することにより、この無段変速部(23b)を介して刈取部(3)の停止を含む動作速度が走行車速と連動することから、安定した刈取走行が可能となり、また機体走行停止の検出により、中立角度位置の近傍に設定した所定の停止角度位置に制御軸が制御されることから、次の走行開始の際は、無段変速部(23b)が中立角度位置より早い立ち上がりにより、刈取部(3)の起動の遅れによる穀稈の押し倒しを招くことなく、刈取部(3)の連動刈取が確保される。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1の効果に加え、刈脱レバー(33)がオフ位置の場合の中立角度位置への制御軸の制御により、次のオン操作の際における刈取部(3)の安定停止が確保される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】コンバインの側面図
【図2】図1のコンバインの機体正面図
【図3】コンバインの伝動系展開図
【図4】刈取部の伝動系展開図
【図5】刈取装置の制御システム構成図
【図6】刈取動作制御のフローチャート
【図7】コンバインの斜視図(a)およびステレオカメラの拡大図(b)
【図8】刈取部の高さを制御のシステム構成図
【図9】農業機械用操作支援システム構成図
【図10】操作支援情報通信システムの制御フローチャート
【図11】使用条件設定システムの制御フローチャート
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1、図2は、それぞれ、本発明の適用対象の作業車両であるコンバインの側面図および正面図である。
コンバインの機体は、矩形に枠組みした機体フレーム1を左右のクローラ式の走行部2によって支持し、機体前部で穀稈を刈取る刈取部3を支持アーム3aによって昇降自在に設け、この刈取部3から穀稈をうける脱穀部4とその穀粒を収容する穀粒貯留部5を左右に並べて搭載し、穀粒貯留部5の前側で刈取部3に臨む位置に操縦部6を構成する。
【0013】
刈取部3は、穀稈を案内する分草杆11、倒伏穀稈を引き起こす引起部12、穀稈の株元を切断する切断部13、穀稈を脱穀部4側に送る搬送部14等の機器を備え、支持アーム3aに内設の伝動軸によって走行車速と対応する回転動力を受ける。脱穀部4は後部に排ワラ部4aを、穀粒貯留部5には、穀粒排出用の排出オーガ部5a等の機器を備える。
【0014】
操縦部6には、走行部2によって機体の前後進と車速を調節するための主変速レバー6a、走行部2による機体旋回と刈取部3の昇降を調節するためのパワステレバー6b、刈取部3と脱穀部4を稼動させる刈脱レバー等の操作具を備える。
【0015】
図3は、コンバインの伝動系展開図である。
エンジン21の出力は、オーガ穀粒貯留部5、走行変速伝動部22、刈脱変速伝動部23に分岐伝動される。走行変速伝動部22は、主変速レバー6aによって走行動力を無段変速するHSTと略称される走行用無段変速部22aを一体に備えて走行部2を駆動する。刈脱変速伝動部23の入力側には、刈脱レバーによってオン・オフ動作するベルトテンション式の刈脱クラッチ23aを備えて脱穀部4を駆動するとともに、刈取部3の動作速度調節用のHSTと略称される無段変速部23bを一体に備えて機体フレーム1に軸支した刈取入力軸23cを介して刈取部3に伝動する。
【0016】
また、脱穀部4には、刈脱変速伝動部23の脱穀カウンタ軸23dから処理胴軸T1、扱胴軸T2、排ワラ穂先駆動軸T3に伝動するほか、脱穀カウンタ軸23dの出力を分岐して、トウミ軸T4、1番ヨウコク駆動軸T5、2NDファン軸T6、2番ヨウコク駆動軸T7、排塵駆動軸T8に伝動し、この排塵駆動軸T8から、排塵ファン軸T9、脱穀チェン軸T10、揺動カウンタ軸T11、揺動駆動軸T12に伝動するほか、排ワラ部4aの排藁拡散用の主軸T13、ローター軸T14、拡散カウンタ軸T15、拡散軸T16に伝動する。
【0017】
刈取部3には、図4の展開図に示すように、刈取入力軸23cと連結して支持アーム3aに内設の伝動軸3bを介して刈取用の無段変速部23bによる無段変速動力を供給し、この無段変速動力を刈取部3の各機器、すなわち、刈取り条数分の引起部12、全幅に及ぶ切断部13、穀稈の株元と穂先のそれぞれの搬送経路についての搬送部14に無段変速動力を伝動する伝動系を構成する。
【0018】
刈取装置は、図5のシステム構成図に示すように、刈取部3の制御のために刈取用の無段変速部23bの制御軸であるトラニオン軸の回動角度を制御する増減速リレー31および、この増減速リレー31を制御する制御部32を設けて条件に応じて刈取部3を制御可能に構成する。この制御部32にはトラニオン軸の制御位置を検出するポジションセンサ31a等の信号を入力するほか、刈脱レバー33のオン・オフ信号、車速センサ34による走行速度、刈取回転センサ35による刈取部3の動作速度を入力し、これらの入力情報に応じて刈取用の無段変速部23bを制御する。
【0019】
また、トラニオン軸の回動範囲内には、無段変速部23bの変速出力が実質的に停止される中立幅を有し、この中立幅の中央角度位置を変速出力が安定停止される中立角度位置とし、この中立角度位置からの角度範囲について、制御部32がトラニオン軸の回動角を制御することにより、刈取部3の動作停止から高速動作まで、条件に応じて無段階の動作制御が可能に構成する。
【0020】
具体的な刈取部3の動作制御は、図6のフローチャートに示すように、刈脱レバーの「入」の当否を判定する処理ステップ1(以下において、S1の如く略記する。)により、該当する場合については、機体走行の停止であることを車速信号によって判定(S2)し、走行中の判定がされた時は、無段変速部23bのトラニオン軸の角度位置を車速に応じた角度位置に制御する速度制御モードを設け(S3a、S3b)て車速に応じた刈取動作に制御する。
【0021】
上記速度制御モードの制御により、刈取部3は、刈脱レバーがオン位置の場合について、制御部32が走行車速に応じて無段変速部23bの制御軸の角度位置を制御することにより、この無段変速部23bを介して刈取部の停止を含む動作速度が走行車速と連動することから、安定した刈取走行が可能となる。
【0022】
また、走行停止の判定がされた時は、変速出力が実質的に停止される中立幅の端部位置に相当する角度位置として中立角度位置の近傍に設定した所定の停止角度位置(中立角度位置+α)にトラニオン軸を制御する第1の刈取停止モードを設け(S4a、S4b)ることによって刈取部3を実質的に停止するように制御する。
【0023】
上記第1の刈取停止モードの制御により、刈取部3は、機体走行停止の検出により、中立角度位置の近傍に設定した所定の停止角度位置にトラニオン軸が制御されることから、次の走行開始の際は、無段変速部23bが中立角度位置より早く立ち上がり、刈取部3の起動の遅れによる穀稈の押し倒しを招くことなく、連動刈取が確保される。
【0024】
一方、刈脱レバーの「入」に該当しない場合、すなわち、刈脱レバーがオフ位置の場合は、トラニオン軸を中立角度位置に制御して刈取部3を安定停止させる第2の刈取停止モードを設け(S5a、S5b)ることにより、次のオン操作の際における刈取部3の安定停止が確保される。
【0025】
このように、刈取装置は、刈取部3に上記制御部32を備えて構成することにより、走行中の車速対応の刈取り動作のみならず、刈取作業中に走行を停止した場合の再発進の際においても刈取部3のレスポンスが確保されるので、刈取部3の起動の遅れを招くことなく、車速対応の刈取り動作によって安定した刈取作業が可能となる。
【0026】
上記制御構成の中立幅による停止角度位置(中立角度位置+α)において、回転センサ35により刈取部3の回転動作が検出された場合は、中立幅をマイナス補正して次回制御から新たな停止角度位置(中立角度位置+α)に変更することにより、再発進時のレスポンスを維持しつつ、刈取部3の停止を確保することができる。また、中立幅の変更が、マイコンチェッカやモニタによって調整できるように構成することによっても、同様の効果を得ることができる。
【0027】
次に、刈取部3の刈り高さの制御について説明する。
図7(a)のコンバインの斜視図に示すように、オーガ5aの先端部にステレオカメラ41を取付け、その拡大図(b)に示すように、ステレオカメラ41の左右の撮像部41a,41aにより、刈取走行の際に、既刈側の分草杆11についてその先端部対地高さを検出して設定高さになるように、図8のシステム構成図に示すように、画像処理部41bの情報と刈取ポジションセンサ3cに基づき、制御部Cが上昇・下降ソレノイド43を動作させて刈取部3の高さを制御することにより、オーガ5aの制御と刈取部3の高さ制御を共通のカメラ41によって低コストでおこなうことができる。
【0028】
また、上記共用のステレオカメラ41で刈取方向の作物の有無を検出し、作物が無い場合において、刈取前部に設けた穀稈センサが作物なしを検出したタイミングで刈取部3を所定の高さまで上昇させるオートリフト制御を構成することにより、オートリフト制御を共通のカメラ41によって低コストでおこなうことができる。
【0029】
さらに、上記共用のステレオカメラ41で既刈部の未刈側端部切株を検出し、この切株に既刈側の分草杆11の先端が追従するように左右のサイドクラッチのソレノイドを動作させて方向制御出力することができ、また、上記ステレオカメラ41で刈取部3の前方の穀稈までの距離を測定して穀稈が倒伏状態として判定された場合に、走行用無段変速部22aにより車速を一定以下に落とすとともに、刈取用無段変速部23bにより刈取搬送速を所定の倒伏速度に切替える倒伏制御を行うことができる。
【0030】
次に、コンバイン等の農業機械における携帯端末による情報通信システムについて説明する。
図9のシステム構成図に示すように、、無線通信機能を有して携帯電話51との通信が可能なコントローラ52を本機側に備え、このコントローラ52に通信情報設定部53を設け、この通信情報設定部53を介して作業者が必要とする情報を携帯電話51の画面に表示(音声機能も可)する操作支援情報通信システムを構成する。
【0031】
詳細には、操作支援情報通信システムは、図10の制御フローチャートに示すように、携帯電話51との接続完了により、本機側に備えたコントローラ52の通信情報設定部53に、操作手順、運転状況などの作業者が必要とする情報を設定(S11)した上で送信(S12)し、これを接続オフまでの間について行う。
【0032】
上記情報通信システムにより、携帯電話51側の表示機能、音声機能を利用して操作支援ができるので、本機側モニタを廃止することができ、また、本機側の運転状況などを携帯電話51から販売会社等に送信することにより、メンテナンス性の向上やトラブルの早期解決を図ることができる。
【0033】
また、別の情報通信システムの構成例として、共用の移動農機について個人の機械設定条件に切替えを行うために、携帯電話に応じた個人の機械設定条件を記憶させておき、携帯電話からの識別情報によってその個人に応じた機械設定を行う移動農機の使用条件設定システムを構成する。
【0034】
詳細には、使用条件設定システムは、図11の制御フローチャートに示すように、個人情報が入力された場合に、当該個人についての情報検索を行い(S21)、一致した場合にはその機械条件の設定を行う(S22,S23)ことにより、携帯電話51等の個人端末の操作によって機械条件を特定の個人用設定に変更することができる。
【0035】
上記構成の使用条件設定システムは、ブルーツース等の近距離用の簡易な情報通信システムによって構成することができるほか、自動制御内容や設定条件等の個人差を有する移動農機の各種の設定事項が、コントローラと携帯電話の通信によって作業者を判定し、予め設定された機械条件に自動調整されることから、共同使用による場合の機械の操作性を向上することができる。また、短期間の季節作業のために1年ぶりに農機を稼働させる場合や、高齢者や婦女子等において前回の設定を忘れた場合にあっても、容易に前回の設定の再現が可能となる。
【符号の説明】
【0036】
2 走行部
3 刈取部
3a 支持アーム
3b 伝動軸
6 操縦部
6a 主変速レバー
22a 走行用無段変速部
23a 刈脱クラッチ
23 刈脱変速伝動部
23b 刈取用無段変速部
32 制御部
33 刈脱レバー
34 車速センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体の前部に設けられて圃場から穀稈を刈取る刈取部(3)と、この刈取部(3)にエンジン動力を停止速に及ぶ範囲で無段階に変速伝動する無段変速部(23b)と、この無段変速部(23b)をその制御軸の回動角調節によって変速伝動制御する制御部(32)とからなるコンバインの刈取装置において、
上記無段変速部(23b)に受けるエンジン動力をオン・オフする刈脱レバー(33)と、機体の走行車速を検出する車速センサ(34)とを設けるとともに、上記制御部(32)は、刈脱レバー(33)のオン操作によって無段変速部(23b)がエンジン動力を受ける場合に、同無段変速部(23b)の変速出力が実質的に停止される制御軸の中立幅の中央となる中立角度位置からの角度範囲について、車速センサ(34)による走行車速に応じた角度位置に制御軸を駆動するとともに、車速センサ(34)の検出信号による走行停止の検出により、中立角度位置の近傍に設定した所定の停止角度位置に制御軸を駆動制御することを特徴とするコンバインの刈取装置。
【請求項2】
前記制御部(32)は、刈脱レバー(33)がオフ位置の場合に、制御軸を中立角度位置に回動制御することを特徴とする請求項1記載のコンバインの刈取装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−87510(P2011−87510A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−243310(P2009−243310)
【出願日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】